(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
B60K11/04 K ZHV
(21)【出願番号】P 2020206175
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 広幸
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-306047(JP,A)
【文献】特開2012-126350(JP,A)
【文献】特開2008-126912(JP,A)
【文献】特開2018-103800(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1216872(EP,A1)
【文献】独国特許出願公開第102008033898(DE,A1)
【文献】特開2012-35719(JP,A)
【文献】特開平4-63774(JP,A)
【文献】特開2009-6777(JP,A)
【文献】特開2020-59383(JP,A)
【文献】特開2007-186047(JP,A)
【文献】特開2007-91062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/00- 15/10
B62D 17/00- 25/08
B62D 25/14- 29/04
B60R 19/18
B60R 19/22
B60R 19/48
B60R 19/52
B60Q 5/00
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部の構造であって、
前記前部には、エンジンコンパートメントが設けられ、
前記エンジンコンパートメントの前端には、前記車両の前面衝突時に前記エンジンコンパートメント内を保護するためのフロントクロスメンバが車幅方向に延びて設けられ、
前記フロントクロスメンバの後側には、前記エンジンコンパートメント内に収容されている熱源を冷却する冷却系のラジエータが配置され、
前記ラジエータの前側には、前記ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを防止するためのラジエータシールが配置されており、
前記ラジエータシールは、
前記フロントクロスメンバの前側に回り込んで前記フロントクロスメンバの上下に跨がる側部を車幅方向に間隔を空けて左右に有するとともに、
前記フロントクロスメンバを前側から包むように、左右の前記側部に架け渡される中間部を有している、車両前部構造。
【請求項2】
車両の前部の構造であって、
前記前部には、エンジンコンパートメントが設けられ、
前記エンジンコンパートメントの前端には、前記車両の前面衝突時に前記エンジンコンパートメント内を保護するためのフロントクロスメンバが車幅方向に延びて設けられ、
前記フロントクロスメンバの後側には、前記エンジンコンパートメント内に収容されている熱源を冷却する冷却系のラジエータが配置され、
前記ラジエータの前側には、前記ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを防止するためのラジエータシールが配置され、
前記フロントクロスメンバの上側かつ前記ラジエータの前側には、ホーンが配置されており、
前記ラジエータシールは、
前記フロントクロスメンバの前側に回り込んで前記フロントクロスメンバの上下に跨がる側部と、
前記側部から前記ホーンに向けて延びるカバー部と、を一体に有している、車両前部構造。
【請求項3】
前記車両のフロントバンパには、外気を取り込むためのバンパグリルが前記ラジエータと前後方向に対向する位置に設けられており、
前記バンパグリルには、外気を前記フロントクロスメンバの下側に導く導風部が形成されている、請求項1または2に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、エンジンを搭載した車両には、エンジンを冷却する冷却系が設けられている。冷却系では、エンジンとラジエータとの間で冷却水が循環し、冷却水とエンジンとの間での熱交換によりエンジンが冷却され、冷却水とラジエータとの間での熱交換によりエンジンから受熱した冷却水が冷却される。
【0003】
ラジエータは、エンジンコンパートメントの前部であって、車両のフロントバンパに嵌められたバンパグリルに後側から対向する位置に配置される。ラジエータの後側には、ラジエータファンがラジエータの前側からラジエータのフィン間を通して外気を取り込むように配置され、ラジエータファンの後側に、エンジンが配置される。かかる配置では、ラジエータとバンパグリルとの間に隙間が空いていると、車両の停止時や低車速での走行時に、ラジエータおよびエンジンで加熱された熱気がその隙間からラジエータの前側に回り込み、ラジエータの冷却能力が低下する。
【0004】
そこで、エンジン側からラジエータの前側への熱気の回り込みを防止するため、ラジエータとバンパグリルとの間の隙間を埋めるように、樹脂製のラジエータシールがラジエータの上辺、左辺および右辺に沿わせて配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ラジエータとバンパグリルとの間には、フロントクロスメンバやホーンなどの部材が設けられており、ラジエータシールを設定しても、それらの周囲に生じる隙間からラジエータの前側に熱気が回り込むおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを良好に防止できる、車両前部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係る車両前部構造は、車両の前部の構造であって、前部には、エンジンコンパートメントが設けられ、エンジンコンパートメントの前端には、車両の前面衝突時にエンジンコンパートメント内を保護するためのフロントクロスメンバが車幅方向に延びて設けられ、フロントクロスメンバの後側には、エンジンコンパートメント内に配置される熱源を冷却する冷却系のラジエータが配置され、ラジエータの前側には、ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを防止するためのラジエータシールが配置されており、ラジエータシールは、フロントクロスメンバの前側に回り込んでフロントクロスメンバの上下に跨がる側部を車幅方向に間隔を空けて左右に有するとともに、フロントクロスメンバを前側から包むように、左右の側部に架け渡される中間部を有している。
【0009】
この構成によれば、エンジンコンパートメントの前端には、車両の前面衝突時にエンジンコンパートメント内を保護するためのフロントクロスメンバが車幅方向に延びて設けられている。エンジンコンパートメント内には、熱源が収容されており、その熱源を冷却する冷却系のラジエータは、フロントクロスメンバの後側に配置されている。ラジエータの前側には、ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを防止するためのラジエータシールが設けられている。
【0010】
ところが、ラジエータシールが設けられていても、その構成によっては、熱気がフロントクロスメンバに沿ってラジエータの前側に流れ込むおそれがある。
【0011】
たとえば、フロントクロスメンバの車幅方向の両端部の前側には、車両の前面衝突時にフロントバンパが受ける衝撃を変形により吸収するバンパリーンフォースメントが設定される場合がある。その場合、ラジエータシールは、フロントクロスメンバおよびバンパリーンフォースメントの前側に回り込ませて、バンパグリルに当接した状態に設けられる。バンパリーンフォースメントは、フロントバンパが受ける衝撃による変形が容易なように、フロントクロスメンバとの間に隙間を空けて設けられ、また、適所に開口(穴)が開けられている。そのため、フロントクロスメンバとバンパリーンフォースメントとの隙間が車幅方向の外側に開放されていると、ラジエータの後側の熱気がフロントクロスメンバとバンパリーンフォースメントとの隙間に車幅方向の外側から入り、その隙間を通過またはバンパリーンフォースメントの開口を通してラジエータの前側に流れ込むおそれがある。
【0012】
そこで、ラジエータシールは、フロントクロスメンバの前側に回り込んでフロントクロスメンバの上下に跨がる側部を車幅方向に間隔を空けて左右に有するとともに、フロントクロスメンバを前側から包むように、左右の側部に架け渡される中間部を有している。これにより、ロントクロスメンバとバンパリーンフォースメントとの隙間に車幅方向の外側から熱気が入っても、その隙間から熱気が抜けない。よって、ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを良好に防止することができる。
【0013】
また、フロントクロスメンバがラジエータシールの中間部により前側から覆い隠されるので、外気をラジエータに向けて導入するグリル(たとえば、フロントバンパに設けられるバンパグリル)にフロントクロスメンバの目隠しとなるリブを設ける必要をなくすことができる。その結果、グリルの意匠の自由度が増すので、車両の意匠性(デザイン)の向上を図ることができる。
【0014】
本発明の他の局面に係る車両前部構造は、車両の前部の構造であって、前部には、エンジンコンパートメントが設けられ、エンジンコンパートメントの前端には、車両の前面衝突時にエンジンコンパートメント内を保護するためのフロントクロスメンバが車幅方向に延びて設けられ、フロントクロスメンバの後側には、エンジンコンパートメント内に配置される熱源を冷却する冷却系のラジエータが配置され、ラジエータの前側には、ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを防止するためのラジエータシールが配置され、フロントクロスメンバの上側かつラジエータの前側には、ホーンが配置されており、ラジエータシールは、フロントクロスメンバの前側に回り込んでフロントクロスメンバの上下に跨がる側部と、側部からホーンに向けて延びるカバー部とを一体に有している。
【0015】
この構成によれば、エンジンコンパートメントの前端には、車両の前面衝突時にエンジンコンパートメント内を保護するためのフロントクロスメンバが車幅方向に延びて設けられている。エンジンコンパートメント内には、熱源が収容されており、その熱源を冷却する冷却系のラジエータは、フロントクロスメンバの後側に配置されている。ラジエータの前側には、ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを防止するためのラジエータシールが設けられている。
【0016】
フロントクロスメンバの上側かつラジエータの前側にホーンが配置される構成では、たとえば、グリルやフロントバンパの開口部から鋏などの切断具が差し込まれて、ホーンから延びるリード線が切断具で切断されることを防止するため、リード線を前側から隠すように保護カバーが設定される。この保護カバーの構成によっては、ラジエータの後側の熱気が保護カバーの車幅方向の外側に回り、熱気が保護カバーとラジエータとの隙間にその外側から流れ込むおそれがある。
【0017】
そこで、ラジエータシールは、フロントクロスメンバの前側に回り込んでフロントクロスメンバの上下に跨がる側部と、側部からホーンに向けて延びるカバー部とを一体に有している。これにより、カバー部とラジエータとの間に車幅方向の外側から熱気が流れ込むことを防止できる。よって、ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを良好に防止することができる。
【0018】
しかも、ホーンのリード線が前側からラジエータシールのカバー部に覆われるので、リード線が切断されることを防止できる。たとえば、車両の盗難目的でドアが不正に解錠されたときなどに、ホーンを大音量で吹鳴させることにより警報を発する盗難防止装置が車両に採用されている場合、その不正行為が行われる前にホーンのリード線が切断されてホーンが無力化されることを防止できる。
【0019】
また、ラジエータシールにカバー部を設けたことにより、ラジエータシールとホーンのリード線を保護する保護カバーが不要になり、部品点数を削減することができる。
【0020】
車両のフロントバンパには、外気風を取り込むためのバンパグリルがラジエータと前後方向に対向する位置に設けられており、バンパグリルには、外気風をフロントクロスメンバの下側に導く導風部が形成されていてもよい。
【0021】
この構成では、バンパグリルからラジエータ側に取り込まれる外気風がフロントクロスメンバの上下両側に拡散するので、バンパグリルとラジエータとの間での外気風の圧力損失を低減でき、バンパグリルからの外気風の流入量を増やすことができる。その結果、ラジエータの冷却性能が向上し、ラジエータを含む冷却系により熱源を良好に冷却することができる。
【0022】
また、ラジエータシールの側部が車幅方向に間隔を空けて左右に設けられ、ラジエータシールがフロントクロスメンバを前側から包むように左右の側部に架け渡される中間部を有している構成では、バンパグリルが中間部の上側に向けて延びるリブを有し、そのリブと中間部の上端との間に所定の間隔が空けられて、リブと中間部の上端との間が導風部とされてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ラジエータの後側から前側への熱気の回り込みを良好に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】車両の熱交換系の構成を図解的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る車両前部構造を前側から見た斜視図である。
【
図4】車両前部構造の一部を後側から見た斜視図であり、ラジエータおよびラジエータファンの図示が省略されている。
【
図5】車両前部構造の一部を後側から見た斜視図であり、ラジエータ、ラジエータファン、フロントクロスメンバ、バンパリーンフォースメントおよびホーンの図示が省略されている。
【
図7】
図6に示される切断面線A-Aにおける車両の前端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0026】
<ハイブリッド車両の熱交換系>
図1は、車両1の熱交換系の構成を図解的に示す図である。
【0027】
車両1の前部には、エンジンコンパートメント2が設けられている。車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車であり、エンジンコンパートメント2内には、エンジン11およびモータ付トランスアクスル(T/A)13が収容されている。シリーズ方式のハイブリッドシステムでは、エンジン11の動力が発電用のモータで電力に変換され、その電力で駆動用のモータ(MG)12が駆動される。
【0028】
モータ付トランスアクスル13は、駆動用のモータ12を遊星歯車機構およびデファレンシャルギヤとともにケース内に収容しており、モータ12の動力を動力が遊星歯車機構およびデファレンシャルギヤを介して駆動輪に伝達する。モータ付トランスアクスル13には、ケース内で使用されるオイルを冷却(または加温)するためのオイルクーラ(O/C)14が設けられている。
【0029】
また、エンジンコンパートメント2内には、モータ12を駆動するためのインバータなどを内蔵するPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)15が収容されている。
【0030】
エンジンコンパートメント2内には、エンジン11を冷却するエンジン冷却系16と、モータ付トランスアクスル13およびPCU15を冷却するHV冷却系17とが設けられている。
【0031】
エンジン11には、ウォータジャケットが形成されている。ウォータジャケットは、冷却水が流通する流路であり、冷却水のウォータジャケット入口21およびウォータジャケット出口22を有している。
【0032】
エンジン冷却系16には、ウォータポンプ(W/P)23、ラジエータ24およびサーモスタットバルブ25が含まれる。
【0033】
ウォータポンプ23は、たとえば、電動式のウォータポンプであるが、エンジン11の動力により駆動される機械式のウォータポンプであってもよい。
【0034】
ラジエータ24は、ラジエータ入口26およびラジエータ出口27を有している。ラジエータ24内には、ラジエータ流路が形成されており、ラジエータ入口26とラジエータ出口27とは、そのラジエータ流路を介して互いに連通している。
【0035】
ウォータジャケットのウォータジャケット入口21には、流入路31の一端が接続されている。流入路31の他端は、サーモスタットバルブ25に接続されている。ウォータポンプ23は、流入路31の途中部に介装されており、ウォータポンプ23が駆動されると、流入路31を冷却水がサーモスタットバルブ25側からエンジン11側に向けて流れる。一方、ウォータジャケット出口22には、流出路32の一端が接続されている。流出路32は、第1分岐路33と第2分岐路34とに分岐している。第1分岐路33は、ラジエータ24のラジエータ入口26に接続されている。ラジエータ24のラジエータ出口27には、接続路35の一端が接続されている。接続路35の他端は、サーモスタットバルブ25に接続されている。第2分岐路34は、ヒータコア36を経由して、サーモスタットバルブ25に接続されている。
【0036】
サーモスタットバルブ25は、冷却水の温度が所定温度以下のときに、ラジエータ24からウォータポンプ23に向かう冷却水の流通を阻止する。これにより、冷却水の温度が所定温度以下のときには、流出路32を流れる冷却水は、ラジエータ24を流通せずに、第2分岐路34を流れて、エンジン11とヒータコア36との間で循環する。冷却水がヒータコア36を流通することにより、冷却水とヒータコア36との間で熱交換が行われて、ヒータコア36が昇温する。
【0037】
冷却水の温度が所定温度を上回ると、サーモスタットバルブ25がラジエータ24からウォータポンプ23に向かう冷却水の流通を許容する。これにより、流出路32を流れる冷却水が第1分岐路33および第2分岐路34に分岐して流れ、ラジエータ24とヒータコア36との両方を流通する。冷却水がラジエータ24を流通することにより、冷却水とラジエータ24との間で熱交換が行われて、冷却水がラジエータ24に放熱して降温する。
【0038】
HV冷却系17には、ウォータポンプ(W/P)41およびラジエータ42が含まれる。
【0039】
ウォータポンプ41は、電動式のウォータポンプである。
【0040】
ラジエータ42は、ラジエータ入口43およびラジエータ出口44を有している。ラジエータ42内には、ラジエータ流路が形成されており、ラジエータ入口43とラジエータ出口44とは、ラジエータ流路を介して互いに連通している。
【0041】
HV冷却系17では、ウォータポンプ41の作動により、冷却水が循環路45を循環する。循環路45は、一端がラジエータ42のラジエータ入口43に接続され、その途中部がPCU15およびモータ付トランスアクスル13のオイルクーラ14を経由して、他端がラジエータ42のラジエータ出口44に接続されている。ウォータポンプ41は、循環路45におけるPCU15を経由する部分とラジエータ42のラジエータ入口43との間に介装されている。
【0042】
ウォータポンプ41が駆動されると、冷却水が循環路45を流通する。冷却水は、循環路45からラジエータ42のラジエータ入口43を介してラジエータ42内に流入し、ラジエータ42内を冷却水がラジエータ入口43からラジエータ出口44に向けて流通して、ラジエータ出口44から循環路45に流出する。ラジエータ42のラジエータ出口44から循環路45に流出する冷却水は、PCU15およびモータ付トランスアクスル13のオイルクーラ14をこの順に経由し、PCU15およびオイルクーラ14との間で熱交換を行う。この熱交換により、オイルクーラ14およびPCU15が冷却され、冷却水が昇温する。また、冷却水がラジエータ42を流通することにより、冷却水とラジエータ42との間で熱交換が行われて、冷却水がラジエータ42に放熱して降温する。
【0043】
<エンジンコンパートメントの前端部の構造>
図2は、エンジンコンパートメント2の前端部の構造を前側から見た斜視図である。
図3は、エンジンコンパートメント2の前端部の構造を後側から見た斜視図である。
【0044】
エンジンコンパートメント2の前端部には、金属製のラジエータサポート51が設けられている。ラジエータサポート51は、前後方向に見た形状が四角枠状であり、車両1の車体に固定されている。ラジエータサポート51の内側には、エンジン冷却系16のラジエータ24とHV冷却系17のラジエータ42とが左右に並べて配置されている。ラジエータ24,42は、ラジエータサポート51に取り付けられて支持されている。エンジン冷却系16のラジエータ24の前側には、車両1に搭載されている空調用冷凍サイクル回路に含まれるコンデンサ52が配置されている。
【0045】
また、ラジエータサポート51の前側には、車両1の前面衝突時にエンジンコンパートメント2内を保護するためのフロントクロスメンバ53が設けられている。フロントクロスメンバ53は、金属製であり、ラジエータサポート51の上下方向の中央部の前側で車幅方向(左右方向)に延び、車幅方向の両端部がラジエータサポート51の外側で、車両1の前後方向に延びる左右のサイドメンバ(図示せず)に固定されている。
【0046】
車両1の最前部には、樹脂製のフロントバンパ54が設けられている。フロントバンパ54には、ラジエータ24,42が後側から前後方向に対向する位置に開口が形成され、その開口には、樹脂製のバンパグリル55が嵌められている。
【0047】
また、フロントクロスメンバ53の両端部の前側には、
図2に示されるように、車両1の前面衝突時にフロントバンパ54が受ける衝撃を変形により吸収するバンパリーンフォースメント56が設定されている。バンパリーンフォースメント56は、フロントバンパ54に対して前側に膨出する形状をなし、フロントバンパ54が受ける衝撃による変形が容易なように、フロントクロスメンバ53との間に隙間を空けて設けられ、また、適所に開口(穴)57が開けられている。
【0048】
HV冷却系17のラジエータ42の後側には、
図3に示されるように、ラジエータファン58が配置されている。ラジエータファン58の駆動時には、外気がバンパグリル55を通してエンジンコンパートメント2内に風となって取り込まれ、その外気風がラジエータ42のフィン間を通過することにより、ラジエータ42が冷却されて、ラジエータ42とラジエータ42内のラジエータ流路を流れる冷却水との間での熱交換が促進される。車両1の走行時は、ラジエータファン58が駆動されていなくても、走行風がラジエータ42のフィン間を通過することにより、ラジエータ42が冷却されて、ラジエータ42とラジエータ42内のラジエータ流路を流れる冷却水との間での熱交換が促進される。
【0049】
なお、
図3では、エンジン冷却系16のラジエータ24とともに図示が省略されているが、ラジエータ24の後側にも、ラジエータファン59(
図1参照)が配置されている。
【0050】
エンジン冷却系16のラジエータ24の前側には、
図2に示されるように、ラジエータ42の後側から前側への熱気の回り込みを防止するためのエンジンラジエータシール61が設けられている。エンジンラジエータシール61は、ラジエータ24の上辺に沿わせて配置されるアッパシール62と、ラジエータ24の左辺に沿わせて配置される左サイドシール63と、ラジエータ24の右辺に沿わせて配置される右サイドシール64とを含む。アッパシール62、左サイドシール63および右サイドシール64は、樹脂からなり、それぞれ独立して形成されて、ラジエータ24に固定されている。
【0051】
左サイドシール63の上端部および下端部は、ラジエータ42の前面に当接している。左サイドシール63の上端部と下端部との間の中央部は、左側のバンパリーンフォースメント56の前側に回り込んで、バンパリーンフォースメント56の前面にクッション材65を挟んで当接している。右サイドシール64は、上端部および下端部がラジエータ42の前面に当接し、上端部と下端部との間の中央部がフロントクロスメンバ53の前側に回り込んでいる。
【0052】
また、アッパシール62、左サイドシール63および右サイドシール64の各前面には、クッション材66,67,68が貼り付けられている。アッパシール62、左サイドシール63および右サイドシール64は、それぞれクッション材66,67,68を挟んで、バンパグリル55に当接している。なお、フロントバンパ54およびバンパグリル55の形状などによっては、アッパシール62、左サイドシール63および右サイドシール64は、それぞれクッション材66,67,68を挟んで、フロントバンパ54に当接していてもよいし、フロントバンパ54およびバンパグリル55に当接していてもよい。
【0053】
クッション材65~68は、たとえば、ウレタンスポンジからなる。
【0054】
図4は、エンジンコンパートメント2の前端部の構造の一部を後側から見た斜視図である。
図4では、HV冷却系17のラジエータ42およびラジエータファン58などの図示が省略されている。
【0055】
HV冷却系17のラジエータ42の前側には、ラジエータ42の後側から前側への熱気の回り込みを防止するためのHVラジエータシール71が設けられている。HVラジエータシール71は、樹脂からなる一体成形品であり、左側部72、右側部73、上部74、中間部75およびカバー部76を一体に有している。
【0056】
左側部72は、ラジエータ42の左辺に沿って延びている。左側部72の上端部および下端部は、ラジエータ42の前面に当接している。左側部72の上端部と下端部との間の中央部は、布団とクロスメンバ53の前側に回り込んでいる。
【0057】
右側部73は、ラジエータ42の右辺に沿って延びている。右側部73の上端部および下端部は、ラジエータ42の前面に当接している。右側部73の上端部と下端部との間の中央部は、右側のバンパリーンフォースメント56の前側に回り込んでいる。
【0058】
上部74は、左側部72の上端部と右側部73の上端部とに架け渡され、ラジエータ42の上辺に沿って延びている。
【0059】
中間部75は、左側部72の上下方向の中央部と右側部73の上下方向の中央部とに架け渡されて、フロントクロスメンバ53の前側をフロントクロスメンバ53に沿って延びている。中間部75は、フロントクロスメンバ53を前側から包むように設けられ、フロントクロスメンバ53の上面、下面および前面を覆っている。
【0060】
ラジエータ42右上角部の前側、言い換えれば、フロントクロスメンバ53の上側かつラジエータ42の前側の位置には、
図2に示されるように、ホーン77が設けられている。ホーン77は、ラジエータサポート51に取り付けられたブラケットに支持されている。カバー部76は、右側部73および中間部75からホーン77に向けて延び、ラジエータ42とカバー部76との間にも外気風が入るように、ラジエータ42の前面から離間している。また、カバー部76が設けられているので、ホーン77から延びるリード線(図示せず)がカバー部76の後側に隠れる。
【0061】
HVラジエータシール71の前面には、クッション材81,82,83が貼り付けられている。クッション材81~83は、それぞれHVラジエータシール71の左側部72、右側部73および上部74に沿わせて配置されている。HVラジエータシール71は、クッション材81~83を挟んで、バンパグリル55に当接している。なお、フロントバンパ54およびバンパグリル55の形状などによっては、HVラジエータシール71は、クッション材81~83を挟んで、フロントバンパ54に当接していてもよいし、フロントバンパ54およびバンパグリル55に当接していてもよい
【0062】
図5は、エンジンコンパートメント2の前端部の構造の一部を後側から見た斜視図である。
図5では、HV冷却系17のラジエータ42、ラジエータファン58、フロントクロスメンバ53、バンパリーンフォースメント56およびホーン77の図示が省略されている。
【0063】
HVラジエータシール71の後面(裏面)には、クッション材84,85がそれぞれ左側部72および右側部73に沿わせて貼り付けられている。HVラジエータシール71は、クッション材84を挟んでバンパリーンフォースメント56に当接し、クッション材85を挟んでフロントクロスメンバ53に当接している。
【0064】
また、HVラジエータシール71の中間部75の後面には、クッション材86が上下に延びるように貼り付けられている。クッション材86は、フロントクロスメンバ53と右側のバンパリーンフォースメント56の左端縁との間に生じる隙間を左側から塞ぐ位置に配置されて、フロントクロスメンバ53に当接している。
【0065】
クッション材81~86は、たとえば、ウレタンスポンジからなる。
【0066】
図6は、車両1の前端部の一部を示す正面図である。
図7は、
図6に示される切断面線A-Aにおける車両1の前端部の断面図である。
【0067】
バンパグリル55は、樹脂からなる一体成形品である。バンパグリル55には、帯状のメンバ隠しバー91が形成されている。メンバ隠しバー91は、フロントクロスメンバ53を前側から隠すように、フロントクロスメンバ53に対して前側から前後方向に対向する位置で車幅方向に延びている。メンバ隠しバー91とHVラジエータシール71の中間部75との間には、空間92が生じている。
【0068】
また、バンパグリル55には、メンバ隠しバー91の上端から後側に向けて延出する上リブ93と、メンバ隠しバー91の下端から後側に向けて延出する下リブ94とが形成されている。上リブ93は、下リブ94よりも短く、上リブ93とHVラジエータシール71の中間部75の前上端との間には、下リブ94と中間部75の前下端との間の隙間95よりも大きな隙間96が生じている。
【0069】
<作用効果>
以上のように、エンジンコンパートメント2の前端には、車両1の前面衝突時にエンジンコンパートメント2内を保護するためのフロントクロスメンバ53が車幅方向に延びて設けられている。エンジンコンパートメント2内には、熱源となるエンジン11およびPCU15が収容されており、PCU15を冷却するHV冷却系17のラジエータ42は、フロントクロスメンバ53の後側に配置されている。ラジエータ42の前側には、ラジエータ42の後側から前側への熱気の回り込みを防止するためのHVラジエータシール71が設けられている。
【0070】
フロントクロスメンバ53の車幅方向の両端部の前側には、車両1の前面衝突時にフロントバンパ54が受ける衝撃を変形により吸収するバンパリーンフォースメント56が設定されている。バンパリーンフォースメント56は、フロントバンパ54が受ける衝撃による変形が容易なように、フロントクロスメンバ53との間に隙間を空けて設けられ、また、適所に開口57が開けられている。そのため、フロントクロスメンバ53とバンパリーンフォースメント56との隙間が車幅方向の外側に開放されていると、ラジエータ42の後側の熱気がフロントクロスメンバ53とバンパリーンフォースメント56との隙間に車幅方向の外側から入り、その隙間を通過またはバンパリーンフォースメント56の開口57を通してラジエータ42の前側に流れ込むおそれがある。
【0071】
そこで、HVラジエータシール71は、フロントクロスメンバ53の前側に回り込んでフロントクロスメンバ53の上下に跨がる左側部72および右側部73を車幅方向に間隔を空けて左右に有するとともに、フロントクロスメンバ53を前側から包むように、左側部72と右側部73とに架け渡される中間部75を有している。また、中間部75の後面にクッション材86が設けられ、そのクッション材86により、フロントクロスメンバ53と右側のバンパリーンフォースメント56の左端縁との間に生じる隙間が塞がれている。これにより、フロントクロスメンバ53とバンパリーンフォースメント56との隙間に車幅方向の外側(右側)から熱気が入っても、その隙間から熱気が抜けない。よって、ラジエータ42の後側から前側への熱気の回り込みを良好に防止することができる。
【0072】
フロントクロスメンバ53の上側かつラジエータ42の前側の位置には、ホーン77が配置されている。HVラジエータシール71は、右側部73および中間部75からホーン77に向けて延びるカバー部76を有している。これにより、カバー部76とラジエータ42との間に車幅方向の外側から熱気が流れ込むことを防止できる。よって、ラジエータ42の後側から前側への熱気の回り込みを一層良好に防止することができる。
【0073】
しかも、ホーン77のリード線が前側からHVラジエータシール71のカバー部76に隠されるので、バンパグリル55から差し込まれる鋏などの切断具でリード線が切断されることを防止できる。たとえば、車両1の盗難目的でドアが不正に解錠されたときなどに、ホーン77を大音量で吹鳴させることにより警報を発する盗難防止装置が車両1に採用されている場合、その不正行為が行われる前にホーン77のリード線が切断されてホーン77が無力化されることを防止できる。
【0074】
また、HVラジエータシール71にカバー部76を設けたことにより、HVラジエータシール71とホーン77のリード線を保護する保護カバーが不要になり、部品点数を削減することができる。
【0075】
バンパグリル55には、フロントクロスメンバ53に対して前側から前後方向に対向する位置で車幅方向に延びる帯状のメンバ隠しバー91が形成されている。また、バンパグリル55には、メンバ隠しバー91の上端から後側に向けて延出する上リブ93と、メンバ隠しバー91の下端から後側に向けて延出する下リブ94とが形成されている。フロントクロスメンバ53がHVラジエータシール71の中間部75により前側から覆い隠されるので、フロントクロスメンバ53の目隠しのために、上リブ93を長く延出させる必要がない。これにより、バンパグリル55の意匠の自由度が増すので、車両1の意匠性(デザイン)の向上を図ることができる。
【0076】
また、上リブ93が下リブ94よりも短く延出することにより、上リブ93とHVラジエータシール71の中間部75の前上端との間に、下リブ94と中間部75の前下端との間の隙間95よりも大きな隙間96が生じている。この隙間96は、バンパグリル55から取り込まれる外気風をフロントクロスメンバ53の下側に導く導風部として機能する。すなわち、バンパグリル55におけるメンバ隠しバー91の上側の部分から取り込まれる外気風は、その一部が隙間96から空間92に流れ込み、空間92から隙間95を通してフロントクロスメンバ53の下側に向けて流れる。また、バンパグリル55におけるメンバ隠しバー91の上側の部分から取り込まれる外気風は、フロントクロスメンバ53の上側にも流れる。その結果、外気風がフロントクロスメンバ53の上下両側に拡散するので、バンパグリル55とラジエータ42との間での外気風の圧力損失を低減でき、バンパグリル55からの外気風の流入量を増やすことができる。その結果、ラジエータ42の冷却性能が向上し、ラジエータ42を含むHV冷却系17によりPCU15を良好に冷却することができる。
【0077】
また、HVラジエータシール71は、左側部72の上端部と右側部73の上端部とに架け渡される上部74を有することにより、その強度の向上を図ることができる。
【0078】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0079】
たとえば、前述の実施形態では、本発明に係る構成がHV冷却系17のラジエータ42に適用された場合を取り上げたが、エンジン冷却系16のラジエータ24に本発明に係る構成が適用されてもよい。この適用により、ラジエータ24の後側から前側への熱気の回り込みを良好に防止することができる。
【0080】
また、車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステムに限らず、シリーズ・パラレル方式など、シリーズ方式以外の方式のハイブリッドシステムを搭載してもよい。シリーズ・パラレル方式のハイブリッドシステムでは、たとえば、エンジンおよびモータが遊星歯車機構に接続されており、エンジンからの動力を分割してモータおよび駆動輪に振り分けることができ、エンジンからの動力およびモータからの動力を合成して駆動輪に伝達することができる。
【0081】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1:車両
2:エンジンコンパートメント
11:エンジン(熱源)
15:PCU(熱源)
17:HV冷却系(冷却系)
42:ラジエータ
53:フロントクロスメンバ
54:フロントバンパ
55:バンパグリル
71:HVラジエータシール(ラジエータシール)
72:左側部(側部)
73:右側部(側部)
75:中間部
76:カバー部
77:ホーン