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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】車両構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
B62D25/20 G
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022047988
(22)【出願日】2022-03-24
(65)【公開番号】P2023141588
(43)【公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】米谷 亮平
(72)【発明者】
【氏名】兼光 恭佑
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特許第7032849(JP,B2)
【文献】特開2014-148192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室のフロア部上に搭載された蓄電装置と、
前記フロア部のうち、前記蓄電装置よりも車両前方側の前部領域に設けられ、かつ上面部およびこの上面部の車幅方向両側から下向き屈曲状に延びる左右一対の側面部を有する上向き凸のトンネル状のフロアトンネル部と、
このフロアトンネル部から前記蓄電装置の上方を通過して前記蓄電装置よりも車両後方側に位置する車体構成部材の位置まで延び、かつ前記フロアトンネル部および前記車体構成部材の相互間に橋渡し接続されたブレースと、
前記フロア部上に搭載されて車幅方向に並んだ左右2つの車両用シートと、
を備えている、車両構造であって、
前記ブレースの上面部として、上向き突起部が設けられることなく車両前後方向に延びた特定領域が設けられており、
この特定領域は、前記2つの車両用シートの相互間に位置するウォークスルー通路の床部として用いられており、
前記ブレースは、車幅方向に幅をもつ主板部の左右両側部から一対の側片部が下向きに突出し、かつこれら主板部および一対の側片部が車両前後方向に延びているとともに、前記一対の側片部のそれぞれと前記主板部との境界部分の外面には、車幅方向に間隔を隔てて車両前後方向に延びる一対の稜線が形成されており、
前記ブレースは、前記一対の稜線をともに有する前部材と後部材とに分割されており、前記前部材は、前記フロアトンネル部の前記上面部および前記一対の側面部を覆うようにそれらの外面側に重ねられて溶接され、かつ前記後部材は、前記前部材の後側に接続され、前記前部材および前記後部材のそれぞれの一対の稜線どうしは、車両前後方向に連続して延びた態様に接続されている第1の構成、
または、
前記ブレースは、前記前部材および前記後部材には分割されておらず、前記ブレースの前端部は前記フロアトンネル部に溶接され、かつ前記ブレースの前端部における前記一対の稜線と、前記フロアトンネル部の前記上面部と前記一対の側面部との境界部分の外面に形成されている一対の稜線とは、車両前後方向に連続して延びた態様に接続されている第2の構成、
のいずれかとされていることを特徴とする、車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両構造の具体例として、特許文献1,2に記載のものがある。
これらの文献に記載の車両構造においては、車室のフロア部上にバッテリなどの蓄電装置が搭載されている。また、前記フロア部の前部には、フロアトンネル部が形成されているが、このフロアトンネル部と前記蓄電装置の車両後方側に位置する適当な車体構成部材との相互間には、ブレースが橋渡し接続されている。
このような構成によれば、バッテリを車室内にスペース効率よく設置できる他、蓄電装置の上方にブレースが位置することにより蓄電装置の保護が図られる。また、車両の前突が発生した際には、フロアトンネル部に入力した衝突荷重を、ブレースを介して蓄電装置の車両後方側の車体構成部材に伝達し、耐荷重性をよくすることができる。
【0003】
一方、車両の開発に際しては、車両構造の機能性、合理性、搭乗者の利便性などの一層の向上を図ることが要請される。したがって、前記したブレースが前記以上のさらなる機能・役割を果たすものとされることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-30513号公報
【文献】特許第7032849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、車室のフロア部上に搭載された蓄電装置との関係において設けられた所定のブレースの機能性を高め、また搭乗者にとって利便性のよいものとすることが可能な車両構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明により提供される車両構造は、車室のフロア部上に搭載された蓄電装置と、前記フロア部のうち、前記蓄電装置よりも車両前方側の前部領域に設けられたフロアトンネル部と、このフロアトンネル部から前記蓄電装置の上方を通過して前記蓄電装置よりも車両後方側に位置する車体構成部材の位置まで延び、かつ前記フロアトンネル部および前記車体構成部材の相互間に橋渡し接続されたブレースと、前記フロア部上に搭載されて車幅方向に並んだ左右2つの車両用シートと、を備えている、車両構造であって、前記ブレースの上面部として、上向き突起部が設けられることなく車両前後方向に延びた特定領域が設けられており、この特定領域は、前記2つの車両用シートの相互間に位置するウォークスルー通路の床部として用いられていることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、前記ブレースは、蓄電装置の保護や、車両の前突時における衝突荷重の伝達性向上などに役立つ部材であるが、これに加え、ウォークスルー通路の床部の構成部材としても役立っている。したがって、その構成は合理的であって、機能性がより高められた
ものとなる。本発明とは異なり、蓄電装置の上方にブレースが設けられておらず、たとえばフロアカーペットを利用してウォークスルー通路の床部が設けられただけでは、強度が不足し、搭乗者が蓄電装置を踏みつける虞があるが、本発明によれば、ブレースの強度を高くすることによって、そのような虞を適切に回避することも可能である。
また、ウォークスルー通路の床部として用いられるブレースの上面部の特定領域は、上向き突起部が設けられることなく車両前後方向に延びているため、その上を搭乗者は歩き易く、不用意に躓く虞をなくし、または少なくし、使い勝手がよいものとすることができる。
【0009】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る車両構造の一例を示す要部概略底面図である。
図2図1に示す車両構造の要部概略平面図である。
図3図1に示す車両構造の要部概略斜視図である。
図4図3にフロアカーペットやインストルメントパネルを設けた状態の一例を示す要部概略斜視図である。
図5図3のV-V断面図である。
図6図3のVI-VI断面図である。
図7図3において、バッテリを搭載した状態でのVII-VII断面図である。
図8】本発明の他の例を示す要部概略断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0012】
図1図7に示す車両構造Aは、左右一対のサイドメンバ3(図1の網点模様部分)、フロアトンネル部12が前部に形成された車室のフロア部11、バッテリ8、前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4B、ならびにブレース5を備えている。
図1図2中の符号19aは、前輪を示し、符号10は、エンジンルームを示す。
【0013】
一対のサイドメンバ3は、車体骨格部材であり、車両1の下部において、車幅方向に互いに間隔を隔てた配置で車両前後方向に延びている。図6図7に示すように、各サイドメンバ3は、たとえば断面ハット状などの部材を用いて構成されており、車両1のフロア部11が設けられている箇所においては、このフロア部11の下面部に溶接されている。
【0014】
フロア部11は、図1図3に示すように、ダッシュパネル11aの後端部と、フロントフロアパネル11bの前端部とが接合部17を介して接合(溶接)された構成である。このフロア部11の車幅方向両端部は、左右一対のロッカ15に接合されている。
【0015】
バッテリ8は、本発明でいう蓄電装置の一例に相当する。このバッテリ8は、フロア部11上のうち、たとえば前席である左右2つの車両用シート9の下方スペースに相当する領域に搭載されており、適当な固定部材を用いて固定されている。
【0016】
前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4Bは、バッテリ8の搭載箇所の強度を高め、バッテリ8の保護に役立つ部材であり、サイドメンバ3と同様に、たとえば断面ハット状部材を用いて構成されている。これら前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4Bは、バッテリ8を車両前後方向において挟むように位置して車幅方向に延び、かつ左右一対のロッカ15の相互間に橋渡し接続されている。
【0017】
左右2つの車両用シート9は、前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4Bの上側に取付けられる。具体的には、図2図4によく表われているように、前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4Bの上面部には、車両用シート9の下部を取付けるためのたとえばボルト挿通孔が設けられた複数のシート用ブラケット45a~45dが設けられている。2つの車両用シート9の下部には、それらシート用ブラケット45a~45dに対応した取付け部が設けられている。2つの車両用シート9は、前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4B間を跨ぐように配され、シート用ブラケット45a~45dを利用して前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4Bに取付けられる。
【0018】
フロアトンネル部12は、フロア部11のうち、前側のフロアクロスメンバ4Aよりも車両前方側の前部領域であって、車幅方向中央部に設けられている。このフロアトンネル部12は、フロア部11の周辺部よりも上方に突出し、かつダッシュパネル11aから車両後方側に延びた前部および下部が開口した上向き凸のトンネル状である。
なお、フロア部11の前部の剛性を高めるための手段として、フロア部11の上面部のうち、サイドメンバ3の上側には、アッパ部材40が設けられている。このアッパ部材40とフロアトンネル部12の側壁部との相互間には、補助クロスメンバ41が橋渡し接続されている(図6も参照)。一方、フロア部11の下面部には、フロアトンネル部12の基部を補強するためのインナメンバ13(図1の薄墨部分)が設けられている。図1中、符号16は、サイドメンバ3とロッカ15との相互間を橋渡し接続するアウタトルクメンバである。
【0019】
図3によく表われているように、ブレース5は、本実施形態においては、フロアトンネル部12用のリインフォースとして機能する前部材5aと、その後部側に接続された後部材5bとが一体的に組み合わされた構成である。このブレース5は、フロアトンネル部12の上面上から蓄電装置8の上方を通過するようにして車両後方側に延びており、フロアトンネル部12と後側のフロアクロスメンバ4Bとを橋渡し接続している。
ブレース5の車両前後方向の途中部50および後端部51は、前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4Bの上面部、または上面部に設けられた適当なブラケット46a,46bに対して、ボルト止めや溶接などの手段により取付けられている(図5を参照)。
【0020】
ブレース5の前部材5aは、フロアトンネル部12の上面部や側面部を覆ようにしてそれらの外面側に重ねられ、かつ溶接されている。
好ましくは、ブレース5の前部材5aの稜線Laと、後部材5bの稜線Lbとは、連続するように設定されている。この構成は、車両の前突発生時に、フロアトンネル部12に入力した衝突荷重が、ブレース5の前部材5aから後部材5bに稜線La,Lbを介して効果的に伝達する作用を生じさせる。
本発明におけるブレースとしては、フロアトンネル部12用のリインフォースとしての前部材5aを具備しない単一部材とした上で、ブレースの前端部をフロアトンネル部12に溶接してもよい。この場合において、ブレースの前端部の稜線とフロアトンネル部12の稜線とが連続するように設定することが好ましい。
ブレース5は、略平板状の主板部53と、この主板部53の左右両側部から下向きに突出する一対の側片部54とを有し(図7も参照)、かつこれらが車両前後方向に延びた構成を、基本構成としている。
【0021】
図4に示すように、この車両1の内装仕上げ状態においては、車室内の前部に、インストルメントパネル70が取付けられる。フロア部11上には、フロアカーペット71(同図の薄墨部分)が敷設される。
図3に示すように、ブレース5の前部には、後下がり状の傾斜部58や、シフトケーブルなどのケーブル類を通すための孔部59が設けられている。これに対し、図4に示すように、それらの部分は、インストルメントパネル70(インストルメントロアパネル)に
よって隠される。
【0022】
前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4B上には、2つの車両用シート9が設置されるが、これら2つの車両用シート9の相互間領域は、ウォークスルー通路とされる。ブレース5の上面部(主板部53の上面部)のうち、特定領域Sは、前記ウォークスルー通路の床部として用いられている。
ここで、特定領域Sは、なだらか(傾斜30°以下、好ましくは20°以下)であって、上向き突起部が設けられておらず、凹凸の少ない領域であり、かつ車両前後方向に適当な範囲で延びている領域である。ブレース5の後端部51付近は、急傾斜部となっており、このような部分は、特定領域Sには含まれない。より好ましくは、特定領域Sは、略水平状である。
【0023】
前記「上向き突起部」とは、たとえばボルトの頭部、軸部、およびナットなど、ブレース5の上面部よりも上向きに部分的に突出する突起状の部位である。このような部分は、ブレース5上を搭乗者が歩く際に障害となり、躓きの原因となる。これに対し、凹部は、躓きの原因にはなり難く、設けられていてもよい。たとえば、図5で示す前側のフロアクロスメンバ4Aとブラケット46aとのボルト止め箇所(途中部50)においては、ボルトの頭部99がブレース5の上面部よりも上方に突出しないようにするための凹部55が設けられているが、このような凹部55は、搭乗者が躓く原因にはならず、このような凹部55が設けられた領域は、特定領域Sに含まれる。
【0024】
また、図8に示すように、ブレース5の主板部53には、剛性を高めることを目的として、たとえば車両前後方向に延びるビード部56を設けてもよいが、このビード部56が、ブレース5の上面部において細幅な凹状56aを形成するだけであれば、搭乗者の歩行に支障はない。したがって、このようなビード部56による凹部56aも許容される。
【0025】
図4においては、ブレース5の上面部(特定領域Sを含む)が露出するように、フロアカーペット71が敷設されているが、これに限定されない。フロアカーペット71によってブレース5の上面部が覆われた構成とすることもできる。また、上面部上に、滑り止め用のマットまたはシートを貼付し、あるいは滑り止め用の塗装を施した構成とすることも可能である。
【0026】
次に、前記した車両構造Aの作用について説明する。
【0027】
まず、ブレース5は、バッテリ8の上方に位置しており、このバッテリ8を保護する役割を果たす。また、車両1の前突が発生し、フロアトンネル部12に対してその車両前方側から衝突荷重が入力した際には、この衝突荷重を、前側および後側のフロアクロスメンバ4A,4Bに伝達する役割も果たす。このことにより、耐荷重性および衝撃吸収性をよくすることが可能である。
【0028】
一方、ブレース5の特定領域Sは、2つの車両用シート9の相互間のウォークスルー通路の床部として利用されているため、その構成は合理的である。たとえば、バッテリ8の上方に単にフロアカーペット71が設けられているだけであると、バッテリ8が搭乗者によって踏まれる虞があるが、本実施形態によれば、そのような虞はない。また、ウォークスルー通路の床部に利用される専用の部材を別途用いる必要もない。
ウォークスルー通路の床部として用いられるブレース5の特定領域Sは、既述したように、上向き突起部がない凹凸の少ない領域であって、略水平または略水平に近いなだらかな傾斜角度にある。このため、その上を搭乗者は歩き易く、搭乗者が躓きなどを生じることを適切に回避することも可能である。
【0029】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0030】
上述の実施形態においては、ブレース5がフロアトンネル部12用のリインフォースとしての役割を果たす前部材5aと、その後側に繋がった後部材5bとから構成されているが、既述したように、本発明のブレースは、単一部材とすることもできる。また、ブレースは、たとえば上述の実施形態の構成において、フロアトンネル部12から前側のフロアクロスメンバ4Aまでの第1部分と、前側のフロアクロスメンバ4Aから後側のフロアクロスメンバ4Bまでの第2部分とが接続された構成とすることも可能であり、複数の部材を適宜組み合わせて構成することができる。
また、ブレース5の後端部51を後側のフロアクロスメンバ4Bに接続する構成に代えて、後側のフロアクロスメンバ4Bとは別の部材(バッテリ8よりも車両後方側に位置する他の車体構成部材)に接続した構成とすることも可能である。
本発明でいう蓄電装置には、バッテリに加え、たとえばキャパシタなども含まれる。また、バッテリやキャパシタそのものに加え、それらの補機も含まれる。
本発明の車両構造は、エンジン自動車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車にも適用することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
A 車両構造
S 特定領域(ブレースの上面部の)
11 フロア部
12 フロアトンネル部
4B 後側のフロアクロスメンバ(車体構成部材)
5 ブレース
8 バッテリ(蓄電装置)
9 車両用シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8