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特許7512004結晶品質推定プログラム、結晶品質推定方法、および記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】結晶品質推定プログラム、結晶品質推定方法、および記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20240701BHJP
   C30B 29/04 20060101ALI20240701BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G01N21/65
C30B29/04 Z
H01L21/66 N
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023223851
(22)【出願日】2023-12-31
【審査請求日】2023-12-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和5年1月1日に、日刊工業出版 光アライアンス2023年1月号にて公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517223750
【氏名又は名称】大島 龍司
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】大島 龍司
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 完司
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0201023(US,A1)
【文献】国際公開第2021/110949(WO,A1)
【文献】特開2009-292720(JP,A)
【文献】大島龍司、飯塚完司,光アライアンス,2023年01月01日,vol.34, No.1,p.6 - p.11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/65
C30B 29/04
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光法を用いて所定の結晶面を有する測定試料の結晶品質を推定する結晶品質推定プログラムであって、
コンピュータ
前記測定試料に0~360°までの所定の偏光角度に調整された入射レーザーである偏光ラマンレーザーを照射して得られた偏光ラマンスペクトルから、偏光ピーク強度を取得する偏光ピーク強度取得部と、
前記偏光ピーク強度取得部により取得された前記偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、偏光角度依存プロファイルを取得する偏光角度依存プロファイル取得部と、
前記偏光角度依存プロファイル取得部により取得された前記偏光角度依存プロファイルと、前記測定試料の標準試料における偏光角度依存プロファイルとの偏光プロファイル一致度を算出する偏光プロファイル一致度算出部と、
前記偏光プロファイル一致度算出部により算出された前記偏光プロファイル一致度と所定の閾値とを比較する偏光プロファイル一致度比較部と、
前記偏光ラマンスペクトルから偏光ピーク半値幅を取得する偏光ピーク半値幅取得部と、
前記偏光ピーク半値幅取得部により取得された前記偏光ピーク半値幅の平均値を算出する偏光ピーク半値幅平均値算出部と、
前記偏光ピーク半値幅平均値算出部により算出された前記偏光ピーク半値幅の平均値と、前記測定試料の標準試料における偏光ピーク半値幅との偏光ピーク半値幅一致度を算出する偏光ピーク半値幅一致度算出部と、
前記偏光ピーク半値幅一致度算出部により算出された前記偏光ピーク半値幅一致度と所定の閾値とを比較する偏光ピーク半値幅比較部と、
前記偏光ラマンスペクトルから偏光ピーク波数を取得する偏光ピーク波数取得部と、
前記偏光ピーク波数取得部により取得された前記偏光ピーク波数の平均値を算出する偏光ピーク波数平均値算出部と、
前記偏光ピーク波数平均値算出部により算出された偏光ピーク波数の平均値と、前記測定試料の標準試料における偏光ピーク波数との偏光ピーク波数一致度を算出する偏光ピーク波数一致度算出部と、
前記偏光ピーク波数一致度算出部により算出された前記偏光ピーク波数一致度と所定の閾値とを比較する偏光ピーク波数比較部と、
前記偏光プロファイル一致度比較部での比較結果、前記偏光ピーク半値幅比較部での比較結果、および前記偏光ピーク波数比較部での比較結果のすべてが、各々の前記所定の閾値以上の一致度だけであるかどうか判断することにより前記測定試料の結晶品質を推定する偏光結晶品質推定部
を制御させるための結晶品質推定プログラム。
【請求項2】
前記コンピュータ、更に、
ラマンレーザーの初期偏光角度を読み込む偏光角度読込部と、
前記偏光角度読込部により読み込まれた初期偏光角度を有する入射レーザーである偏光ラマンレーザーを前記測定試料に照射させる偏光ラマンレーザー照射部と、
前記偏光ラマンレーザー照射部による偏光ラマンレーザーの照射により得られた偏光ラマンスペクトルを保存する偏光ラマンスペクトル保存部と、
前記偏光ラマンスペクトル保存部により前記偏光ラマンスペクトルが保存された後、前記測定試料に照射された前記偏光ラマンレーザーが有する偏光角度に所定の角度を加算する偏光角度加算部と、
前記偏光角度加算部により加算された偏光角度が360°未満であるかどうか判断する偏光角度判断部
を制御させるための、請求項1に記載の結晶品質推定プログラム。
【請求項3】
前記偏光結晶品質推定部により結晶品質が優れると推定された場合、
前記コンピュータ、更に、
0~360°までの所定の回転角度に回転された前記測定試料に、前記偏光角度が固定された入射レーザーである回転ラマンレーザーを照射して得られた回転ラマンスペクトルから、回転ピーク強度を取得する回転ピーク強度取得部と、
前記回転ピーク強度取得部により取得された前記回転ピーク強度を回転角度毎にプロットし、回転角度依存プロファイルを取得する回転角度依存プロファイル取得部と、
前記回転角度依存プロファイル取得部により取得された前記回転角度依存プロファイルと、前記測定試料の標準試料における回転角度依存プロファイルとの回転プロファイル一致度を算出する回転プロファイル一致度算出部と、
前記回転プロファイル一致度算出部により算出された前記回転プロファイル一致度と所定の閾値とを比較する回転プロファイル一致度比較部と、
前記回転ラマンスペクトルから回転ピーク半値幅を取得する回転ピーク半値幅取得部と、
前記回転ピーク半値幅取得部により取得された前記回転ピーク半値幅の平均値を算出する回転ピーク半値幅平均値算出部と、
前記回転ピーク半値幅平均値算出部により算出された前記回転ピーク半値幅の平均値と、前記測定試料の標準試料における回転ピーク半値幅との回転ピーク半値幅一致度を算出する回転ピーク半値幅一致度算出部と、
前記回転ピーク半値幅一致度算出部により算出された前記回転ピーク半値幅一致度と所定の閾値とを比較する回転ピーク半値幅比較部と、
前記回転ラマンスペクトルから回転ピーク波数を取得する回転ピーク波数取得部と、
前記回転ピーク波数取得部により取得された前記回転ピーク波数の平均値を算出する回転ピーク波数平均値算出部と、
前記回転ピーク波数平均値算出部により算出された回転ピーク波数の平均値と、前記測定試料の標準試料における回転ピーク波数との回転ピーク波数一致度を算出する回転ピーク波数一致度算出部と、
前記回転ピーク波数一致度算出部により算出された前記回転ピーク波数一致度と所定の閾値とを比較する回転ピーク波数比較部と、
前記回転プロファイル一致度比較部での比較結果、前記回転ピーク半値幅比較部での比較結果、および前記回転ピーク波数比較部での比較結果のすべてが、各々の前記所定の閾値以上の一致度だけであるかどうか判断することにより前記測定試料の結晶品質を推定する回転結晶品質推定部
を制御させるための、請求項1または2に記載の結晶品質推定プログラム。
【請求項4】
前記コンピュータ、更に、
ラマンレーザーの初期回転角度を読み込む回転角度読込部と、
前記回転角度読込部により読み込まれた初期回転角度を有する入射レーザーである回転ラマンレーザーを前記測定試料に照射させる回転ラマンレーザー照射部と、
前記回転ラマンレーザー照射部による回転ラマンレーザーの照射により得られた回転ラマンスペクトルを保存する回転ラマンスペクトル保存部と、
前記回転ラマンスペクトル保存部により前記回転ラマンスペクトルが保存された後、前記測定試料に照射された前記回転ラマンレーザーが有する回転角度に所定の角度を加算する回転角度加算部と、
前記回転角度加算部により加算された回転角度が360°未満であるかどうか判断する回転角度判断部
を制御させるための、請求項3に記載の結晶品質推定プログラム。
【請求項5】
ラマン分光法を用いて所定の結晶面を有する種基板に形成されたダイヤモンドの結晶品質を推定する結晶品質推定プログラムであって、
ンピュータ
前記ダイヤモンドに、焦点が前記ダイヤモンドに合わせられるとともに0~360°までの所定の偏光角度に調整された入射レーザーであるダイヤモンド偏光ラマンレーザーを照射して得られたダイヤモンド偏光ラマンスペクトルから、ダイヤモンド偏光ピーク強度を取得するダイヤモンド偏光ピーク強度取得部と、
前記ダイヤモンド偏光ピーク強度取得部により取得された前記ダイヤモンド偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、ダイヤモンド偏光角度依存プロファイルを取得するダイヤモンド偏光角度依存プロファイル取得部と、
前記種基板に、焦点が前記種基板に合わせられるとともに0~360°までの所定の偏光角度に調整された入射レーザーである種基板偏光ラマンレーザーを照射して得られた各々の種基板偏光ラマンスペクトルから、種基板偏光ピーク強度を取得する種基板偏光ピーク強度取得部と、
前記種基板偏光ピーク強度取得部により取得された前記種基板偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、種基板偏光角度依存プロファイルを取得する種基板偏光角度依存プロファイル取得部と、
前記ダイヤモンド偏光角度依存プロファイルと、前記種基板偏光角度依存プロファイルとの基板回転プロファイル一致度を算出する基板偏光プロファイル一致度算出部と、
前記基板偏光プロファイル一致度算出部により算出された前記基板回転プロファイル一致度と所定の閾値を比較する基板偏光プロファイル一致度比較部と、
前記基板偏光プロファイル一致度比較部での比較結果が、前記所定の閾値以上の一致度であるかどうか判断することにより前記ダイヤモンドの結晶品質を推定するダイヤモンド偏光結晶品質推定部
を制御させるための結晶品質推定プログラム。
【請求項6】
前記ダイヤモンド偏光結晶品質推定部により結晶品質が優れると推定された場合、
前記コンピュータ、更に、
0~360°までの所定の回転角度に回転された前記ダイヤモンドに、焦点が前記ダイヤモンドに合わせられるとともに偏光角度が固定された入射レーザーであるダイヤモンド回転ラマンレーザーを照射して得られたダイヤモンド回転ラマンスペクトルから、ダイヤモンド回転ピーク強度を取得するダイヤモンド回転ピーク強度取得部と、
前記ダイヤモンド回転ピーク強度取得部により取得された前記ダイヤモンド回転ピーク強度を回転角度毎にプロットし、ダイヤモンド回転角度依存プロファイルを取得するダイヤモンド回転角度依存プロファイル取得部と、
0~360°までの所定の回転角度に回転された前記種基板に、焦点が前記種基板に合わせられるとともに偏光角度が固定された入射レーザーである種基板回転ラマンスペクトルを照射して得られた種基板回転ラマンスペクトルから、種基板回転ピーク強度を取得する種基板回転ピーク強度取得部と、
前記種基板回転ピーク強度取得部により取得された前記種基板回転ピーク強度を回転角度毎にプロットし、種基板回転角度依存プロファイルを取得する種基板回転角度依存プロファイル取得部と、
前記ダイヤモンド回転角度依存プロファイルと、前記種基板回転角度依存プロファイルとの基板回転プロファイル一致度を算出する基板回転プロファイル一致度算出部と、
前記基板回転プロファイル一致度算出部により算出された前記基板回転プロファイル一致度と所定の閾値を比較する基板回転プロファイル一致度比較部と、
前記基板回転プロファイル一致度比較部での比較結果が、前記所定の閾値以上の一致度であるかどうか判断することにより前記ダイヤモンドの結晶品質を推定するダイヤモンド回転結晶品質推定部
を制御させるための、請求項5に記載の結晶品質推定プログラム。
【請求項7】
請求項1、2、5、6のいずれか一項に記載のプログラムを記録したことを特徴とする記録媒体。
【請求項8】
ラマン分光法を用いて所定の結晶面を有する測定試料の結晶品質を推定する結晶品質推定方法であって、
コンピュータが、
前記測定試料に0~360°までの所定の偏光角度に調整された入射レーザーである偏光ラマンレーザーを照射して得られた偏光ラマンスペクトルから、偏光ピーク強度を取得し、
記取得された前記偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、偏光角度依存プロファイルを取得し、
記取得された前記偏光角度依存プロファイルと、前記測定試料の標準試料における偏光角度依存プロファイルとの偏光プロファイル一致度を算出し、
記算出された前記偏光プロファイル一致度と所定の閾値とを比較し、
前記偏光ラマンスペクトルから偏光ピーク半値幅を取得し、
記取得された前記偏光ピーク半値幅の平均値を算出し、
記算出された前記偏光ピーク半値幅の平均値と、前記測定試料の標準試料における偏光ピーク半値幅との偏光ピーク半値幅一致度を算出し、
記算出された前記偏光ピーク半値幅一致度と所定の閾値とを比較し、
前記偏光ラマンスペクトルから偏光ピーク波数を取得し、
記取得された前記偏光ピーク波数の平均値を算出し、
記算出された偏光ピーク波数の平均値と、前記測定試料の標準試料における偏光ピーク波数との偏光ピーク波数一致度を算出し、
記算出された前記偏光ピーク波数一致度と所定の閾値とを比較し、
前記偏光プロファイル一致度と前記所定の閾値との比較結果、前記偏光ピーク半値幅一致度と前記所定の閾値との比較結果、および前記偏光ピーク波数一致度と前記所定の閾値との比較結果のすべてが、各々の前記所定の閾値以上の一致度だけであるかどうか判断する
ことを特徴とする結晶品質推定方法。
【請求項9】
請求項3に記載のプログラムを記録したことを特徴とする記録媒体。
【請求項10】
請求項4に記載のプログラムを記録したことを特徴とする記録媒体。
【請求項11】
請求項1、2、5、6のいずれか一項に記載のプログラムを実行するために用いる装置。
【請求項12】
請求項3に記載のプログラムを実行するために用いる装置。
【請求項13】
請求項4に記載のプログラムを実行するために用いる装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶の品質を推定する結晶品質推定プログラム、結晶品質推定方法、および記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体などの基板の材質としてシリコンが用いられている。近年では、シリコンに代えて、サファイヤ、GaN、SiC、ダイヤモンドが注目されている。これらの材料は、シリコンと比較してバンドギャップが広く絶縁耐圧に優れ、熱伝導率が高いことから、近年では特に注目されている。最近では、CVD(chemical vapor deposition)法によるダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長により、□10mmのダイヤモンド基板の製造が可能であり、GaNやSiCに加えてダイヤモンドも実用化に向けて注目されている。
【0003】
例えば、CVD単結晶ダイヤモンドの結晶品質は、HPHT(High Pressure and High Temperature、高温高圧)法で成長したダイヤモンドの品質より優れており、ダイヤモンド基板の表面加工精度を向上させることにより、さらに品質が向上する。このように、基板の品質は、製造方法や加工技術により大きく変動する。基板の品質としては、例えば、基板への残留応力が少ないことや、欠陥が少ないことが挙げられる。
【0004】
このように、基板の品質は、近年の半導体素子の小型化・高性能化に対応するためには、より正確に評価される必要がある。基板の品質を推定する手法として、例えば特許文献1には、ダイヤモンドの単結晶薄膜表面のラマンシフト量分布により、応力分布を2次元面分布により評価することが開示されている。また、同文献には、ラマンピークの半値幅が結晶性を反映した数値であり、半値幅が小さい方が結晶として良質であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-272191号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Grodzinski, Paul, “Diamond Technology”, N.A.G. Press, 1956
【文献】Hironori Yamashida, Hidetoshi Takeda, Hideo Aida, “Planarization of brittle materials by laser assisted machining”, International Conference on Planarization / CMP Technology ・ November 19-21, 2014 Kobe, 344-347.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の発明では、面方向によらず、どの方向であってもラマンシフト量と半値幅で基板の品質を推定している。特許文献1の段落0024~0026には、種基板の面方位が{110}面になるように、表面をエッチングし、CVDにてホモエピタキシャル成長させたダイヤモンド単結晶基板を成長させることが開示されている。
【0008】
ただ、特許文献1の段落0027には、エピタキシャル成長した層の面分析を行っているだけであり、基板の結晶方位が不明である場合には、どの方位での面分析の結果であるか不明である。また、種基板の結晶方位が判明していたとしても、成長した層が同じ方位であるとは限らない。
【0009】
また、シリコンよりも硬いGaN、SiC、およびダイヤモンドを加工する場合には、シリコンの加工と同様の方法で加工したとしても、膨大な加工時間と大きな応力が基板に加わる。このため、種基板の結晶品質が劣化し、成長した層の品質も劣化することになる。種基板の劣化を抑制するためには、各材料の加工容易方向で加工することが挙げられる。
【0010】
例えばサファイヤであれば、a面よりc面の方が加工しやすい。ダイヤモンドなどの材料であっても、非特許文献1に記載のように、結晶面に応じて加工容易方向が存在する。そして、各材料の加工容易方向に研削・研磨を行うことができれば、加工時間と加工時の応力が低減し、結晶品質も向上する。
【0011】
このように、加工容易方向で加工した種基板を用いてエピタキシャル成長により得られた基板は、結晶品質に優れることが推察される。ただ、前述のように、エピタキシャル成長により得られた基板が満遍なく種基板と同じ面方位で成長するとは限らない。このため、前述のように、種基板の結晶品質が向上したとしても、エピタキシャル成長した層の結晶品質も、高い精度で評価することが、今後の半導体分野の発展に大きく寄与する。
【0012】
そこで、本発明の課題は、結晶品質を推定する結晶品質推定プログラム、結晶品質推定方法、および記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来から、ラマン分光法では、単に測定試料を試料台に乗せ、所定の条件でラマンレーザーを照射してラマンスペクトルを取得していた。ただ、測定試料の角度によりラマンスペクトルは変化する。また、ラマンレーザーの偏光角度によってもラマンスペクトルは変化する。これらの条件が異なることにより、ラマンピークの半値幅も異なる。このため、同じ測定試料であっても種々の結果が得られてしまい、測定試料の状態を反映する結果が得られない。さらに、積層体の各層に関する情報を得ようとしても、焦点が合っていない領域から散乱光を排除しなければならず、排除したラマンスペクトルで評価をしなければならず、本来のラマンスペクトルでの評価は難しい。
【0014】
本発明者らは、これらを鑑み、得られた面方向の情報に基づいて、測定試料のラマンスペクトルから得られる情報と標準試料のラマンスペクトルから得られる情報とを比較し、これらの差から、より正確に基板の品質を推定することに思い至った。より詳細には、本発明者らは、ピーク波数の差であるラマンシフト量と、ピーク強度の差と、その面方向に由来するピークの半値幅の差を評価すれば、面方向に特有のラマンスペクトルに基づいて精度よく基板の品質を推定することができる着想に思い至った。
【0015】
本発明者らは、これらの着想により、標準試料からのズレから加工された基板の品質を評価することができると考えた。これを実現するためには、測定試料の回転、ラマンレーザーの偏光角度の調整により、所定の結晶面を有する測定試料において、偏光角度を調整しながらラマンシフトのピーク強度のプロファイルを測定し、標準試料のプロファイルと比較することに思い至った。これにより、測定試料の偏光角度の依存性を評価することができるため、特定の偏光角度に限定された評価を回避することができ、したがって、より正確な結晶品質の推定をすることができる知見が得られた。
【0016】
また、本発明者らは、上記の比較に加えて、測定試料の欠陥や応力の状態をも結晶品質の推定に用いるようにするため、ピーク半値幅の平均値と標準試料のピーク半値幅とのズレ、およびピーク波数の平均値と標準試料のピーク波数とのズレを評価することにより、更に高精度に結晶品質を推定することができることにも思い至った。
【0017】
そして、これらの標準試料とのズレを一致度として算出し、この一致度が所定の閾値を上回る場合には、所定の結晶方位における応力を推定することができる。例えば、所定の結晶方位での応力が小さく、標準試料との一致度が高い場合には、例えば加工された測定試料が加工容易方向に沿って加工されていることが推定され、ゆえに、測定試料は高品質であると推定することができる。
【0018】
さらに、種基板にダイヤモンドなどを成長させた場合であっても、ラマンレーザーの焦点を種基板とダイヤモンドの各々に合わせれば、各層の情報が得られる。このため、種基板およびエピタキシャル層の面方向を正確に把握した上で、ピーク強度の偏光角度依存性、更には測定試料の回転角度依存性をも考慮することができる知見が得られた。
これらの知見により、本発明は完成した。
これらの知見により得られた本発明は以下のとおりである。
【0019】
(1) ラマン分光法を用いて所定の結晶面を有する測定試料の結晶品質を推定する結晶品質推定プログラムであって、
コンピュータを、
測定試料に0~360°までの所定の偏光角度に調整された入射レーザーである偏光ラマンレーザーを照射して得られた偏光ラマンスペクトルから、偏光ピーク強度を取得する偏光ピーク強度取得部と、
偏光ピーク強度取得部により取得された偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、偏光角度依存プロファイルを取得する偏光角度依存プロファイル取得部と、
偏光角度依存プロファイル取得部により取得された偏光角度依存プロファイルと、測定試料の標準試料における偏光角度依存プロファイルとの偏光プロファイル一致度を算出する偏光プロファイル一致度算出部と、
偏光プロファイル一致度算出部により算出された偏光プロファイル一致度と所定の閾値とを比較する偏光プロファイル一致度比較部と、
偏光ラマンスペクトルから偏光ピーク半値幅を取得する偏光ピーク半値幅取得部と、
偏光ピーク半値幅取得部により取得された偏光ピーク半値幅の平均値を算出する偏光ピーク半値幅平均値算出部と、
偏光ピーク半値幅平均値算出部により算出された偏光ピーク半値幅の平均値と、測定試料の標準試料における偏光ピーク半値幅の平均値との偏光ピーク半値幅一致度を算出する偏光ピーク半値幅一致度算出部と、
偏光ピーク半値幅一致度算出部により算出された偏光ピーク半値幅一致度と所定の閾値とを比較する偏光ピーク半値幅比較部と、
偏光ラマンスペクトルから偏光ピーク波数を取得する偏光ピーク波数取得部と、
偏光ピーク波数取得部により取得された偏光ピーク波数の平均値を算出する偏光ピーク波数平均値算出部と、
偏光ピーク波数平均値算出部により算出された偏光ピーク波数の平均値と、測定試料の標準試料における偏光ピーク波数の平均値との偏光ピーク波数一致度を算出する偏光ピーク波数一致度算出部と、
偏光ピーク波数一致度算出部により算出された偏光ピーク波数一致度と所定の閾値とを比較する偏光ピーク波数比較部と、
偏光プロファイル一致度比較部での比較結果、偏光ピーク半値幅比較部での比較結果、および偏光ピーク波数比較部での比較結果のすべてが、各々の所定の閾値以上の一致度だけであるかどうか判断することにより測定試料の結晶品質を推定する偏光結晶品質推定部
として機能させることを特徴とする結晶品質推定プログラム。
【0020】
(2) コンピュータを、更に、
ラマンレーザーの初期偏光角度を読み込む偏光角度読込部と、
偏光角度読込部により読み込まれた初期偏光角度を有する入射レーザーである偏光ラマンレーザーを測定試料に照射させる偏光ラマンレーザー照射部と、
偏光ラマンレーザー照射部による偏光ラマンレーザーの照射により得られた偏光ラマンスペクトルを保存する偏光ラマンスペクトル保存部と、
偏光ラマンスペクトル保存部により偏光ラマンスペクトルが保存された後、測定試料に照射された偏光ラマンレーザーが有する偏光角度に所定の角度を加算する偏光角度加算部と、
偏光角度加算部により加算された偏光角度が360°未満であるかどうか判断する偏光角度判断部
として機能させる、上記(1)に記載の結晶品質推定プログラム。
【0021】
(3) 偏光結晶品質推定部により結晶品質が優れると推定された場合、
コンピュータを、更に、
0~360°までの所定の回転角度に回転された測定試料に、偏光角度が固定された入射レーザーである回転ラマンレーザーを照射して得られた回転ラマンスペクトルから、回転ピーク強度を取得する回転ピーク強度取得部と、
回転ピーク強度取得部により取得された回転ピーク強度を回転角度毎にプロットし、回転角度依存プロファイルを取得する回転角度依存プロファイル取得部と、
回転角度依存プロファイル取得部により取得された回転角度依存プロファイルと、測定試料の標準試料における回転角度依存プロファイルとの回転プロファイル一致度を算出する回転プロファイル一致度算出部と、
回転プロファイル一致度算出部により算出された回転プロファイル一致度と所定の閾値とを比較する回転プロファイル一致度比較部と、
回転ラマンスペクトルから回転ピーク半値幅を取得する回転ピーク半値幅取得部と、
回転ピーク半値幅取得部により取得された回転ピーク半値幅の平均値を算出する回転ピーク半値幅平均値算出部と、
回転ピーク半値幅平均値算出部により算出された回転ピーク半値幅の平均値と、測定試料の標準試料における回転ピーク半値幅の平均値との回転ピーク半値幅一致度を算出する回転ピーク半値幅一致度算出部と、
回転ピーク半値幅一致度算出部により算出された回転ピーク半値幅一致度と所定の閾値とを比較する回転ピーク半値幅比較部と、
回転ラマンスペクトルから回転ピーク波数を取得する回転ピーク波数取得部と、
回転ピーク波数取得部により取得された回転ピーク波数の平均値を算出する回転ピーク波数平均値算出部と、
回転ピーク波数平均値算出部により算出された回転ピーク波数の平均値と、測定試料の標準試料における回転ピーク波数の平均値との回転ピーク波数一致度を算出する回転ピーク波数一致度算出部と、
回転ピーク波数一致度算出部により算出された回転ピーク波数一致度と所定の閾値とを比較する回転ピーク波数比較部と、
回転プロファイル一致度比較部での比較結果、回転ピーク半値幅比較部での比較結果、および回転ピーク波数比較部での比較結果のすべてが、各々の所定の閾値以上の一致度だけであるかどうか判断することにより測定試料の結晶品質を推定する回転結晶品質推定部
として機能させる、上記(1)または上記(2)に記載の結晶品質推定プログラム。
【0022】
(4) コンピュータを、更に、
ラマンレーザーの初期回転角度を読み込む回転角度読込部と、
回転角度読込部により読み込まれた初期回転角度を有する入射レーザーである回転ラマンレーザーを測定試料に照射させる回転ラマンレーザー照射部と、
回転ラマンレーザー照射部による回転ラマンレーザーの照射により得られた回転ラマンスペクトルを保存する回転ラマンスペクトル保存部と、
回転ラマンスペクトル保存部により回転ラマンスペクトルが保存された後、測定試料に照射された回転ラマンレーザーが有する回転角度に所定の角度を加算する回転角度加算部と、
回転角度加算部により加算された回転角度が360°未満であるかどうか判断する回転角度判断部
として機能させる、上記(3)に記載の結晶品質推定プログラム。
【0023】
(5) ラマン分光法を用いて所定の結晶面を有する種基板に形成されたダイヤモンドの結晶品質を推定する結晶品質推定プログラムであって、
コンピュータを、
ダイヤモンドに、焦点がダイヤモンドに合わせられるとともに0~360°までの所定の偏光角度に調整された入射レーザーであるダイヤモンド偏光ラマンレーザーを照射して得られたダイヤモンド偏光ラマンスペクトルから、ダイヤモンド偏光ピーク強度を取得するダイヤモンド偏光ピーク強度取得部と、
ダイヤモンド偏光ピーク強度取得部により取得されたダイヤモンド偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、ダイヤモンド偏光角度依存プロファイルを取得するダイヤモンド偏光角度依存プロファイル取得部と、
種基板に、焦点が種基板に合わせられるとともに0~360°までの所定の偏光角度に調整された入射レーザーである種基板偏光ラマンレーザーを照射して得られた各々の種基板偏光ラマンスペクトルから、種基板偏光ピーク強度を取得する種基板偏光ピーク強度取得部と、
種基板偏光ピーク強度取得部により取得された種基板偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、種基板偏光角度依存プロファイルを取得する種基板偏光角度依存プロファイル取得部と、
ダイヤモンド偏光角度依存プロファイルと、種基板偏光角度依存プロファイルとの基板回転プロファイル一致度を算出する基板偏光プロファイル一致度算出部と、
基板偏光プロファイル一致度算出部により算出された基板回転プロファイル一致度と所定の閾値を比較する基板偏光プロファイル一致度比較部と、
基板偏光プロファイル一致度比較部での比較結果が、所定の閾値以上の一致度であるかどうか判断することによりダイヤモンドの結晶品質を推定するダイヤモンド偏光結晶品質推定部
として機能させることを特徴とする結晶品質推定プログラム。
【0024】
(6) ダイヤモンド偏光結晶品質推定部により結晶品質が優れると推定された場合、
コンピュータを、更に、
0~360°までの所定の回転角度に回転されたダイヤモンドに、焦点がダイヤモンドに合わせられるとともに偏光角度が固定された入射レーザーであるダイヤモンド回転ラマンレーザーを照射して得られたダイヤモンド回転ラマンスペクトルから、ダイヤモンド回転ピーク強度を取得するダイヤモンド回転ピーク強度取得部と、
ダイヤモンド回転ピーク強度取得部により取得されたダイヤモンド回転ピーク強度を回転角度毎にプロットし、ダイヤモンド回転角度依存プロファイルを取得するダイヤモンド回転角度依存プロファイル取得部と、
0~360°までの所定の回転角度に回転された種基板に、焦点が種基板に合わせられるとともに偏光角度が固定された入射レーザーである種基板回転ラマンスペクトルを照射して得られた種基板回転ラマンスペクトルから、種基板回転ピーク強度を取得する種基板回転ピーク強度取得部と、
種基板回転ピーク強度取得部により取得された種基板回転ピーク強度を回転角度毎にプロットし、種基板回転角度依存プロファイルを取得する種基板回転角度依存プロファイル取得部と、
ダイヤモンド回転角度依存プロファイルと、種基板回転角度依存プロファイルとの基板回転プロファイル一致度を算出する基板回転プロファイル一致度算出部と、
基板回転プロファイル一致度算出部により算出された基板回転プロファイル一致度と所定の閾値を比較する基板回転プロファイル一致度比較部と、
基板回転プロファイル一致度比較部での比較結果が、所定の閾値以上の一致度であるかどうか判断することによりダイヤモンドの結晶品質を推定するダイヤモンド回転結晶品質推定部
として機能させる、上記(5)に記載の結晶品質推定プログラム。
【0025】
(7) 上記(1)~上記(6)のいずれか一項に記載のプログラムを記録したことを特徴とする記録媒体。
【0026】
(8) ラマン分光法を用いて所定の結晶面を有する測定試料の結晶品質を推定する結晶品質推定方法であって、
コンピュータが、
測定試料に0~360°までの所定の偏光角度に調整された入射レーザーである偏光ラマンレーザーを照射して得られた偏光ラマンスペクトルから、偏光ピーク強度を取得し、
偏光ピーク強度取得部により取得された偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、偏光角度依存プロファイルを取得し、
偏光角度依存プロファイル取得部により取得された偏光角度依存プロファイルと、測定試料の標準試料における偏光角度依存プロファイルとの偏光プロファイル一致度を算出し、
偏光プロファイル一致度算出部により算出された偏光プロファイル一致度と所定の閾値とを比較し、
偏光ラマンスペクトルから偏光ピーク半値幅を取得し、
偏光ピーク半値幅取得部により取得された偏光ピーク半値幅の平均値を算出し、
偏光ピーク半値幅平均値算出部により算出された偏光ピーク半値幅の平均値と、測定試料の標準試料における偏光ピーク半値幅の平均値との偏光ピーク半値幅一致度を算出し、
偏光ピーク半値幅一致度算出部により算出された偏光ピーク半値幅一致度と所定の閾値とを比較し、
偏光ラマンスペクトルから偏光ピーク波数を取得し、
偏光ピーク波数取得部により取得された偏光ピーク波数の平均値を算出し、
偏光ピーク波数平均値算出部により算出された偏光ピーク波数の平均値と、測定試料の標準試料における偏光ピーク波数の平均値との偏光ピーク波数一致度を算出し、
偏光ピーク波数一致度算出部により算出された偏光ピーク波数一致度と所定の閾値とを比較し、
偏光プロファイル一致度比較部での比較結果、偏光ピーク半値幅比較部での比較結果、および偏光ピーク波数比較部での比較結果のすべてが、各々の所定の閾値以上の一致度だけであるかどうか判断する
ことを特徴とする結晶品質推定方法。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本実施形態に係る結晶品質推定プログラムに用いる装置の一例を示す概要図である。
図2図2は、本実施形態に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータのハードウエア構成を示すブロック図である。
図3図3は、本実施形態1に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータの機能構成を示すブロック図である。
図4図4は、本実施形態1に係る結晶品質推定方法のフローチャートである。
図5図5は、本実施形態1に係る結晶品質推定プログラムを用いて測定した測定試料において、各結晶面における偏光角度とピーク強度のプロファイルを示し、図5(a)は(100)面、図5(b)は(110)面、図5(c)は(111)面である。
図6図6は、本実施形態2に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータの機能構成を示すブロック図である。
図7図7は、本実施形態2に係る結晶品質推定方法のフローチャートである。
図8図8は、本実施形態2に係る結晶品質推定プログラムを用いて測定した測定試料において、各結晶面の回転角度とピーク強度のプロファイルを示し、図8(a)は(100)面、図8(b)は(110)面、図8(c)は(111)面である。
図9図9は、本実施形態3に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータの機能構成を示すブロック図である。
図10図10は、本実施形態3に係る結晶品質推定方法のフローチャートである。
図11図11は、本実施形態3に係る結晶品質推定プログラムを用いて測定した基板試料における偏光角度とピーク強度のプロファイルを示し、図11(a)はSi基板の(111)面、図11(b)はその基板上に形成されたダイヤモンドである。
図12図12は、本実施形態3に係る結晶品質推定プログラムを用いて測定した基板試料における偏光角度とピーク強度のプロファイルを示し、図12(a)はSi基板の(100)面、図12(b)はその基板上に形成されたダイヤモンドである。
図13図13は、本実施形態4に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータの機能構成を示すブロック図である。
図14図14は、本実施形態4に係る結晶品質推定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。以下の実施形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各実施形態を組み合わせて形態も実施可能である。
【0029】
1.結晶品質推定プログラムに用いる装置の概要
図1は、本実施形態に係る結晶品質推定プログラムに用いる装置10の一例を示す概要図である。装置10は、本実施形態に係る偏光システム20、回転台30、共焦点システム40、およびコンピュータ50、50-1、50-2、50-3を備える。本発明は、装置10によりラマン分光法を用いた測定試料の結晶品質を推定する
【0030】
図1に示すように、装置10は、後述する本発明に係る結晶品質推定プログラムからの指示により、図1の下向きの矢印で示される励起光の入射レーザーを顕微鏡の対物レンズで集光し、測定試料に照射する。測定試料より図1の上向きの矢印で示される散乱された散乱レーザーは、後方散乱配置で、対物レンズを介して不図示の分光器で分光され、不図示の検出器で波長毎に検出される。
【0031】
例えば、入射レーザーの偏光角度を調整するためには、不図示の1/2波長板を用いることで偏光角度を90°回転させることができる。このように、種々の波長板を用いることにより、入射レーザーの直線偏光を種々の偏光角度に調整することができる。また、同時に、散乱光も偏光子を用いて任意の角度に偏光することが可能である。
【0032】
測定配置の座標を記号表記方法としては、入射レーザーの照射(入射)方向をZ座標、散乱レーザーの散乱方向を後方散乱配置座標であるZとすれば、それぞれの偏光方向をカッコ内に記述すると、
入射レーザーの入射方向(入射レーザー偏光方向、散乱レーザー偏光方向)散乱光座標方向
と表現できる。例えば、入射光の偏光方向を横波(0度)、散乱光の偏光方向を縦波(90度)に偏光した場合の記述は、Z(0,90)Zと表記することができる。
【0033】
図1に示すように、装置10は、入射レーザーおよび/または散乱レーザーに、前述のように偏光角度を調整可能な偏光システム20および共焦点システム40を備え、さらに試料が360°回転可能な回転台30を組み合わせた偏光ラマン分光分析試料回転装置である。このように、装置10では、偏光角度、共焦点の調整、試料の回転角度を1台の装置で調整することができるため、試料を回転台に載置したまま、種々の条件を調整してラマン分光法による測定を行うことができる。
【0034】
以下にラマン散乱強度の測定例の一例を示す。測定条件を次に示す。入射レーザーとして励起レーザー波長532nmのラマンレーザーを用い、20倍の対物レンズでスポット径約5μmに集光し、測定試料に照射する。分光器はシングルモノクロメータであり、焦点長が500mm、グレーティング刻線数は3000grooves/mm、分光器への導入口のスリットはφ25μmである。測定試料には、あらかじめ面方位の決定された市販のSi基板を用い、入射レーザーの偏光方向を横波(X)、もしくは縦波(Y)に固定し、散乱レーザーの偏光角度を5度毎に変化させSiのラマンピークである520cm-1付近のピークを測定することができる。
【0035】
共焦点システム40は、焦点が合っていない波数領域の散乱レーザーを極力排除することができる。これを利用し、焦点を測定対象の測定試料に合わせれば、例えばSiなどの種基板に成長したダイヤモンドの測定も可能となる。測定には、例えば、共焦点システム40を有する装置(WITec社製、型式名alpha 300R)を装置10に付設させて用いることができる。
【0036】
共焦点システム40は、焦点が合っていない領域からの散乱光を極力排除することが可能である特徴を有している。実験装置において、入射レーザーと測定試料は従来から知られているTrueSurface法を用いることで、表面形状の影響を受けることなく共焦点を維持することができる。
【0037】
共焦点システム40の測定例は、以下のようにすることができる。例えば入射レーザーの励起レーザー波長は、532nmである。入射レーザーはスポット径<1μmで試料に照射する。散乱されたラマン光は、100倍の対物レンズ(開口数0.9)で集光する。ラマン散乱光は、フォトニックファイバーのコアをピンホールとし、分光器への導入口スリットを用いることなく、分光器に導入されるため強度低下することなく高効率に分光器に導入可能である。
【0038】
分光器としては、例えば、焦点長300mmグレーティング刻線数1800grooves/mmである。この構成でラマン測定すると、散乱レーザーのにじみや歪みの問題が排除されるため、理論回折限界および理論装置分解能を超えたイメージング測定が可能となる。
【0039】
2.コンピュータ
装置10は、検出器で検出されたラマンスペクトルから、種々のデータを処理するためのコンピュータ50、50-1、50-2、50-3を備える。図2は、本実施形態に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータのハードウエア構成を示すブロック図である。
【0040】
コンピュータ50は、種々の処理を行うCPU(Central ProcessingUnit)51、メモリ52、不揮発性の記憶装置53、入力手段54、モニタ55、および入出力インタフェース56を備える。コンピュータ50-1、50-2、50-3もコンピュータ50と同じハードウエア構成である。
【0041】
CPU51は、記憶装置53に記憶されているプログラムをメモリ52にロードして実行する。後述される各機能はCPU51により実行される。記憶装置53は、プログラムの他に、各種データを記憶する。記憶装置53は、ROM(Random Access Memory)等の不揮発性メモリや、外部から接続可能なHDD等である。また、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ROM等など磁気的、光学的に記憶を行うものなどを主として、プログラムが記憶可能なメディアであればよい。
【0042】
本発明に係る記録媒体は、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ROM等など磁気的、光学的に記憶を行うものなどを主として、プログラムが記憶可能なメディアであればよい。そして、本発明に係る記録媒体は、本発明に係るプログラムを記録してなり、コンピュータ50の入出力インタフェース56と接続されることにより、コンピュータ50に機能させることができる。
【0043】
記憶装置53に記憶されている本発明に係るプログラムは、メモリ52にロードされる。入力手段54は情報入力のための装置である。CPU51の実行結果等はモニタ55に表示される。入出力インタフェース56は、ラマン分光測定装置でラマンレーザーの照射指示、検出された波数の検出データ受信、または外部装置との送受信などのためのインタフェースである。
【0044】
入力手段54は、キーボードやマウスなどであり、モニタ55に表示される種々の選択項目を選択したり、入力項目に偏光角度や回転台の回転角度などを入力する。
【0045】
2-1.実施形態1
図3は、本実施形態1に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータの機能構成を示すブロック図である。コンピュータ50は、偏光ピーク強度取得部50a、偏光角度依存プロファイル取得部50b、偏光プロファイル一致度算出部50c、偏光プロファイル一致度比較部50d、偏光ピーク半値幅取得部50e、偏光ピーク半値幅平均値算出部50f、偏光ピーク半値幅一致度算出部50g、偏光ピーク半値幅比較部50h、偏光ピーク波数取得部50i、偏光ピーク波数平均値算出部50j、偏光ピーク波数一致度算出部50k、偏光ピーク波数比較部50l、偏光角度読込部50m、偏光ラマンレーザー照射部50n、偏光ラマンスペクトル保存部50o、偏光角度加算部50p、偏光角度判断部50q、偏光結晶品質推定部50rを備える。これら機能は前述したハードウエア資源の協働により実現される。これらの機能は、図4を用いて詳述する。
【0046】
図4は、本実施形態1に係る結晶品質推定方法のフローチャートである。図1および図3も合わせて説明する。
【0047】
まず、偏光角度読込部50mは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの初期偏光角度を読み出す(S11)。偏光角度を0~360°まで調整する場合には、初期偏光角度は、通常0°として記憶装置53に保存されている。場合によっては、初期偏光角度は0°でなくてもよい。偏光ラマンレーザー照射部50nは、偏光角度読込部50mにより読み込まれた初期偏光角度で回転台30に載置されている測定試料に入射レーザーである偏光ラマンレーザーを照射させる(S12)。偏光角度以外の条件は従来と同様である。
【0048】
偏光ラマンスペクトル保存部50oは、偏光ラマンレーザー照射部50nによる偏光ラマンレーザーの照射により検出された偏光ラマンスペクトルを保存する(S13)。偏光角度加算部50pは、偏光ラマンスペクトル保存部50oによりラマンスペクトルが保存された後、測定試料に照射された偏光ラマンレーザーが有する偏光角度に所定の角度を加算する(S14)。例えば所定の角度が5°であれば、0~360°まで73個のラマンスペクトルを得ることができる。
【0049】
偏光角度判断部50qは、偏光角度加算部50pにより加算された偏光角度が360°未満であるかどうか判断する(S15)。360°未満である場合には(S15、yes)、S12に戻る。
【0050】
偏光角度判断部50qによる判断において、加算された偏光角度が360°である場合には(S15、no)、偏光ピーク強度取得部50aは、各々記憶装置53に保存されている各偏光角度の偏光ラマンスペクトルから、偏光ピーク強度を取得する(S16)。詳細には、偏光ピーク強度取得部50aは、各偏光角度の偏光ラマンスペクトルにおいて、最大ピーク強度を偏光ピーク強度として取得する。偏光角度依存プロファイル取得部50bは、偏光ピーク強度取得部50aにより取得された偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、偏光角度依存プロファイルを取得する(S17)。得られたプロットは、例えば図6に示す通りである。これについては後述する。
【0051】
偏光プロファイル一致度算出部50cは、偏光角度依存プロファイル取得部50bにより取得された偏光角度依存プロファイルと、測定試料の標準試料における標準試料偏光角度依存プロファイルである標準試料偏光角度依存プロファイルとの偏光プロファイル一致度を算出する(S18)。標準試料は、測定試料において、不純物や欠陥が一切なく理想状態のものを表す。標準試料偏光角度依存プロファイルは、理想状態から論理的に求めることができる場合には、そのプロファイルを用いてもよい。または、測定試料を加工容易方向に沿って加工したものを標準試料としてもよい。この標準試料について、予めプロファイル、半値幅、波数を求めておき、後述する比較対象として用いてもよい。
【0052】
偏光プロファイル一致度は、例えば以下のように求めることができる。標準試料における各偏光角度のピーク強度と、各偏光角度のピーク強度とのズレを、ピーク強度に対する割合として算出することができる。例えば、0°での測定試料のピーク強度が99cpsであり、標準試料のピーク強度が100cpsであった場合、偏光プロファイル一致度は、100-|((99-100)/100)×100|=99%となる。偏光角度を0~360°まで5°ずつ加算してラマンスペクトルを得た場合には、全部で73個のピーク強度のズレを算出することができるため、これらの平均を資料全体としての標準試料との偏光プロファイル一致度として算出することができる。また、偏光角度依存プロファイルと標準試料の偏光角度依存プロファイルとを、最小二乗法を用いて算出してもよい。
【0053】
偏光プロファイル一致度比較部50dは、記憶装置53に記憶されている所定の閾値を読み出し、偏光プロファイル一致度算出部50cにより算出された偏光プロファイル一致度と所定の閾値を比較する(S19)。例えば、偏光プロファイル一致度が99%であり、閾値が96%である場合には、偏光プロファイル一致度は、閾値以上となる。この閾値は、本発明を検討する際に蓄積された結果から得られた経験的な値であってもよい。測定試料を用いる製品に応じて適宜変更してもよい。
【0054】
また、偏光角度判断部50qによる判断において、加算された偏光角度が360°である場合には(S15、no)、偏光ピーク強度取得部50aとともに、偏光ピーク半値幅取得部50eは、各々記憶装置53に保存されている各偏光角度の偏光ラマンスペクトルから、偏光ピーク半値幅を取得する(S20)。偏光ピーク半値幅は、最大ピーク強度を示すピークの半値幅である。偏光ピーク半値幅は、偏光ラマンスペクトルの最大ピーク強度を示すピークの半値幅である。例えば、FWHM(半値全幅:Full Width at Half Maximum)により、結晶の品質評価において一般的に用いられている指標を用いて取得することができる。
【0055】
偏光ピーク半値幅平均値算出部50fは、偏光ピーク半値幅取得部50eにより取得された偏光ピーク半値幅の平均値を算出する(S21)。例えば、前述のように73個のラマンプロファイルを取得した場合には、各ラマンプロファイルから取得された偏光ピーク半値幅の合計を73で除した値を平均値として算出する。
【0056】
偏光ピーク半値幅一致度算出部50gは、偏光ピーク半値幅平均値算出部50fにより算出された偏光ピーク半値幅の平均値と、測定試料の標準試料における偏光ピーク半値幅の平均値との偏光ピーク半値幅一致度を算出する(S22)。偏光ピーク半値幅一致度は、例えば、測定試料の偏光ピーク半値幅の平均値から標準試料の偏光ピーク半値幅の平均値を差し引き、標準試料の偏光ピーク半値幅で除して100を乗じた値(%)の絶対値を算出し、100からこの算出値を差し引いた値にすることができる。これは、偏光プロファイル一致度算出部と同様の算出方法であればよい。
【0057】
偏光ピーク半値幅比較部50hは、偏光ピーク半値幅一致度算出部50gにより算出された偏光ピーク半値幅一致度と所定の閾値を比較する(S23)。この閾値も、前述のように、本発明を検討する際に蓄積された結果から得られた経験的な値であればよい。
【0058】
さらに、偏光角度判断部50qによる判断において、加算された偏光角度が360°である場合には(S15、no)、偏光ピーク強度取得部50aや偏光ピーク半値幅取得部50eとともに、偏光ピーク波数取得部50iは、各々記憶装置53に保存されている各々の偏光ラマンスペクトルから偏光ピーク波数を取得する(S24)。偏光ピーク波数は、偏光ラマンスペクトルの最大ピーク強度を示すピークの波数である。偏光ピーク波数平均値算出部50jは、偏光ピーク波数取得部50iにより取得された偏光ピーク波数の平均値を算出する(S26)。例えば73個の偏光ラマンスペクトルが記憶装置53に保存されている場合には、73個の偏光ピーク波数を求め、これらの合計を73で除した値であってもよい。
【0059】
偏光ピーク波数一致度算出部50kは、偏光ピーク波数平均値算出部50jにより算出された偏光ピーク波数の平均値と、測定試料の標準試料における標準試料偏光ピーク波数の平均値との偏光ピーク波数一致度を算出する(S26)。偏光ピーク波数一致度は、例えば、測定試料の偏光ピーク波数の平均値から標準試料の偏光ピーク波数の平均値を差し引き、標準試料の偏光ピーク波数で除して100を乗じた値(%)の絶対値を算出し、100からこの算出値を差し引いた値にすることができる。これは、偏光プロファイル一致度算出部や偏光ピーク半値幅一致度算出部と同様の算出方法であればよい。
【0060】
偏光ピーク波数比較部50lは、偏光ピーク波数一致度算出部50kにより算出された偏光ピーク波数一致度と、記憶装置53から読み出した閾値と、を比較する(S27)。この閾値も、前述のように、本発明を検討する際に蓄積された結果から得られた経験的な値である。
【0061】
偏光結晶品質推定部50rは、偏光プロファイル一致度比較部50dでの比較結果、偏光ピーク半値幅比較部50hでの比較結果、および偏光ピーク波数比較部50lでの比較結果の中で、各々の閾値以上の一致度だけであるかどうか判断することにより結晶品質を推定する(S28)。すべての一致度が各閾値以上であれば(S28、yes)、偏光結晶品質推定部50rは、測定試料の結晶品質は高品質であると推定し(S29)、終了する。いずれか1つの一致度が各閾値を下回れば(S28、no)、偏光結晶品質推定部50rは、測定試料の結晶品質は低品質であると推定し(S30)、終了する。
【0062】
このように、実施形態1では、所定の角度を有する測定基板を、0~360°までのあらゆる角度でのラマンスペクトルを用いて評価する。このため、従来のように、従来のように特定の偏光角度を有するラマンレーザーにより得られたラマンスペクトルで評価する場合と比較して、偏光角度に依存しない高品質の評価により結晶品質を推定することができる。
【0063】
更には、このようなラマンスペクトルから得られるラマン強度のプロファイルだけではなく、ピーク半値幅、およびピーク波数を用いて、結晶の欠陥や内部応力をも評価した推定が行われるため、従来の精度を遥かに上回る結晶品質の推定が可能となる。
【0064】
図5は、本実施形態1に係る結晶品質推定プログラムにより測定した測定試料において、各結晶面における偏光角度とピーク強度のプロファイルを示し、図5(a)は(100)面、図5(b)は(110)面、図5(c)は(111)面である。各図において、中心から外周に向かって放射状に延びる図形は、外周が偏光角度であり、中心からの距離はピーク強度を表す。このように、結晶面によりピーク強度のプロファイルは大きく異なる。また、偏光角度によりピーク強度は大きく異なる。このため、従来のように、偏光角度を固定した測定では、測定試料の品質を精度よく推定することはできないが、本発明では、偏光角度を調整することにより、正確に測定試料の品質を推定することが可能となる。
【0065】
2-2.実施形態2
図6は、本実施形態2に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータ50-1の機能構成を示すブロック図である。図6において、図3と重複する機能の説明は省略する。コンピュータ50-1は、図3のコンピュータ50の機能構成に加えて、回転ピーク強度取得部50-1aa、回転角度依存プロファイル取得部50-1bb、回転プロファイル一致度算出部50-1cc、回転プロファイル一致度比較部50-1dd、回転ピーク半値幅取得部50-1ee、回転ピーク半値幅平均値算出部50-1ff、回転ピーク半値幅一致度算出部50-1gg、回転ピーク半値幅比較部50-1hh、回転ピーク波数取得部50-1ii、回転ピーク波数平均値算出部50-1jj、回転ピーク波数一致度算出部50-1kk、回転ピーク波数比較部50-1ll、回転角度読込部50-1mm、回転ラマンレーザー照射部50-1nn、回転ラマンスペクトル保存部50-1oo、回転角度加算部50-1pp、回転角度判断部50-1qq、回転結晶品質推定部50-1rrを備える。これら機能は前述したハードウエア資源の協働により実現される。これらの機能は、図7を用いて後述する。
【0066】
図7は、本実施形態2に係る結晶品質推定方法のフローチャートである。図7のS11~S28、およびS30は、図4と同一であるため、説明を省略する。S28において、プロファイルの一致度、半値幅の一致度、ピーク波数の一致度が、すべて閾値以上である場合には(S28、yes)、S31に進む。
【0067】
S31以降は、S11~S30において、0~360°までの所定の回転角度に回転された測定試料に、偏光角度が固定された入射レーザーを照射して得られた各々の回転ラマンスペクトルに基づいて結晶品質を推定する点で異なる。すなわち、実施形態1において、偏光角度を変えたラマンスペクトルから得られたプロファイル、半値幅、波数を用いて評価すること以外、実施形態1と実施形態2は同様の手法で結晶品質を推定する。
【0068】
まず、回転角度読込部50-1mmは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの初期回転角度を読み出す(S31)。回転角度を0~360°まで調整する場合には、初期回転角度は、通常0°として記憶装置53に保存されている。場合によっては、初期回転角度は0°でなくてもよい。回転ラマンレーザー照射部50-1nnは、回転角度読込部50-1mmにより読み込まれた初期回転角度で回転台30に載置されている測定試料に入射レーザーである回転ラマンレーザーを照射させる(S32)。回転角度以外の条件は従来と同様である。偏光角度は0~360°のいずれかの角度であればよい。
【0069】
回転ラマンスペクトル保存部50-1ooは、回転ラマンレーザー照射部50-1nnによる回転ラマンレーザーの照射により検出された回転ラマンスペクトルを保存する(S33)。回転角度加算部50-1ppは、回転ラマンスペクトル保存部50-1ooによりラマンスペクトルが保存された後、測定試料に照射された回転ラマンレーザーが有する回転角度に所定の角度を加算する(S34)。例えば所定の角度が5°であれば、0~360°まで73個のラマンスペクトルを得ることができる。
【0070】
回転角度判断部50-1qqは、回転角度加算部50-1ppにより加算された回転角度が360°未満であるかどうか判断する(S35)。360°未満である場合には(S35、yes)、S12に戻る。
【0071】
回転角度判断部50-1qqによる判断において、加算された回転角度が360°である場合には(S35、no)、回転ピーク強度取得部50-1aaは、各々記憶装置53に保存されている各回転角度の回転ラマンスペクトルから、回転ピーク強度を取得する(S36)。詳細には、回転ピーク強度取得部50-1aaは、各回転角度の回転ラマンスペクトルにおいて、最大ピーク強度を回転ピーク強度として取得する。回転角度依存プロファイル取得部50-1bbは、回転ピーク強度取得部50-1aaにより取得された回転ピーク強度を回転角度毎にプロットし、回転角度依存プロファイルを取得する(S37)。得られたプロットは、例えば図6に示す通りである。これについては後述する。
【0072】
回転プロファイル一致度算出部50-1ccは、回転角度依存プロファイル取得部50-1bbにより取得された回転角度依存プロファイルと、測定試料の標準試料における回転角度依存プロファイルとの回転プロファイル一致度を算出する(S38)。標準試料は、測定試料において、不純物や欠陥が一切なく理想状態のものを表す。標準試料回転角度依存プロファイルは、理想状態から論理的に求めることができる場合には、そのプロファイルを用いてもよい。または、測定試料を加工容易方向に沿って加工したものを標準試料としてもよい。この標準試料について、予めプロファイル、半値幅、波数を求めておき、後述する比較対象として用いてもよい。
【0073】
回転プロファイル一致度は、例えば以下のように求めることができる。標準試料における各回転角度のピーク強度と、各回転角度のピーク強度とのズレを、ピーク強度に対する割合として算出することができる。例えば、0°での測定試料のピーク強度が99cpsであり、標準試料のピーク強度が100cpsであった場合、回転プロファイル一致度は、100-|((99-100)/100)×100|=99%となる。回転角度を0~360°まで5°ずつ加算してラマンスペクトルを得た場合には、全部で73個のピーク強度のズレを算出することができるため、これらの平均を資料全体としての標準試料との回転プロファイル一致度として算出することができる。また、回転角度依存プロファイルと標準試料の回転角度依存プロファイルとを、最小二乗法を用いて算出してもよい。
【0074】
回転プロファイル一致度比較部50-1ddは、記憶装置53に記憶されている所定の閾値を読み出し、回転プロファイル一致度算出部50-1ccにより算出された回転プロファイル一致度と所定の閾値を比較する(S39)。例えば、回転プロファイル一致度が99%であり、閾値が96%である場合には、回転プロファイル一致度は、閾値以上となる。この閾値は、本発明を検討する際に蓄積された結果から得られた経験的な値であってもよい。測定試料を用いる製品に応じて適宜変更してもよい。
【0075】
また、回転角度判断部50-1qqによる判断において、加算された回転角度が360°である場合には(S35、no)、回転ピーク強度取得部50-1aaとともに、回転ピーク半値幅取得部50-1eeは、各々記憶装置53に保存されている各回転角度の回転ラマンスペクトルから、回転ピーク半値幅を取得する(S40)。回転ピーク半値幅は、最大ピーク強度を示すピークの半値幅である。回転ピーク半値幅は、回転ラマンスペクトルの最大ピーク強度を示すピークの半値幅である。例えば、FWHM(半値全幅:Full Width at Half Maximum)により、結晶の品質評価において一般的に用いられている指標を用いて取得することができる。
【0076】
回転ピーク半値幅平均値算出部50-1ffは、回転ピーク半値幅取得部50-1eeにより取得された回転ピーク半値幅の平均値を算出する(S41)。例えば、前述のように73個のラマンプロファイルを取得した場合には、各ラマンプロファイルから取得された回転ピーク半値幅の合計を73で除した値を平均値として算出する。
【0077】
回転ピーク半値幅一致度算出部50-1ggは、回転ピーク半値幅平均値算出部50-1ffにより算出された回転ピーク半値幅の平均値と、測定試料の標準試料における回転ピーク半値幅の平均値との回転ピーク半値幅一致度を算出する(S42)。回転ピーク半値幅一致度は、例えば、測定試料の回転ピーク半値幅の平均値から標準試料の回転ピーク半値幅の平均値を差し引き、標準試料の回転ピーク半値幅で除して100を乗じた値(%)の絶対値を算出し、100からこの算出値を差し引いた値にすることができる。これは、回転プロファイル一致度算出部と同様の算出方法であればよい。
【0078】
回転ピーク半値幅比較部50-1hhは、回転ピーク半値幅一致度算出部50-1ggにより算出された回転ピーク半値幅一致度と所定の閾値を比較する(S43)。この閾値も、前述のように、本発明を検討する際に蓄積された結果から得られた経験的な値であればよい。
【0079】
さらに、回転角度判断部50-1qqによる判断において、加算された回転角度が360°である場合には(S35、no)、回転ピーク強度取得部50-1aaや回転ピーク半値幅取得部50-1eeとともに、回転ピーク波数取得部50-1iiは、各々記憶装置53に保存されている各々の回転ラマンスペクトルから回転ピーク波数を取得する(S44)。回転ピーク波数は、回転ラマンスペクトルの最大ピーク強度を示すピークの波数である。回転ピーク波数平均値算出部50-1jjは、回転ピーク波数取得部50-1iiにより取得された回転ピーク波数の平均値を算出する(S45)。例えば73個の回転ラマンスペクトルが記憶装置53に保存されている場合には、73個の回転ピーク波数を求め、これらの合計を73で除した値であってもよい。
【0080】
回転ピーク波数一致度算出部50-1kkは、回転ピーク波数平均値算出部50-1jjにより算出された回転ピーク波数の平均値と、測定試料の標準試料における回転ピーク波数の平均値との回転ピーク波数一致度を算出する(S46)。回転ピーク波数一致度は、例えば、測定試料の回転ピーク波数の平均値から標準試料の回転ピーク波数の平均値を差し引き、標準試料の回転ピーク波数で除して100を乗じた値(%)の絶対値を算出し、100からこの算出値を差し引いた値にすることができる。これは、回転プロファイル一致度算出部や回転ピーク半値幅一致度算出部と同様の算出方法であればよい。
【0081】
回転ピーク波数比較部50-1llは、回転ピーク波数一致度算出部50-1kkにより算出された回転ピーク波数一致度と、記憶装置53から読み出した閾値と、を比較する(S47)。この閾値も、前述のように、本発明を検討する際に蓄積された結果から得られた経験的な値である。
【0082】
回転結晶品質推定部50-1rrは、回転プロファイル一致度比較部50-1ddでの比較結果、回転ピーク半値幅比較部50-1hhでの比較結果、および回転ピーク波数比較部50-1llでの比較結果の中で、各々の閾値以上の一致度だけであるかどうか判断することにより結晶品質を推定する(S48)。すべての一致度が各閾値以上であれば(S48、yes)、回転結晶品質推定部50-1rrは、測定試料の結晶品質は高品質であると推定し(S49)、終了する。いずれか1つの一致度が各閾値を下回れば(S48、no)、回転結晶品質推定部50-1rrは、測定試料の結晶品質は低品質であると推定し(S50)、終了する。
【0083】
このように、実施形態2は、偏光角度依存性により結晶品質を推定した後、更に、試料の回転角度依存性により結晶品質を推定する。このため、測定試料の結晶面に依存しない推定が行われるため、更に精度よく結晶品質を推定することができる。
【0084】
図8は、本実施形態2に係る結晶品質推定プログラムを用いて測定した測定試料において、各結晶面の回転角度とピーク強度のプロファイルを示し、図8(a)は(100)面、図8(b)は(110)面、図8(c)は(111)面である。図8中の放射状の円は、前述と同様に、外周が測定試料の回転角度であり、中心から外周までの長さがピーク強度である。図8から明らかなように、試料の回転角度によりピーク強度は大きく異なる。このため、従来のように、試料を固定した測定では、測定試料の品質を精度よく推定することはできないが、本発明では、種々の回転角度のラマンスペクトルを用いて結晶品質を推定するため、さらに極めて正確に測定試料の品質を推定することが可能となる。
【0085】
実施形態2では、前述のように、偏光角度依存性のプロファイルを取得した後に、測定試料の回転角度依存性のプロファイルを取得しているが、単に偏光角度依存性と測定試料の回転角度依存性を組み合わせたのではない。偏光角度依存性では、測定試料は固定しているため、偏光角度を調整した測定精度は極めて高い。一方、測定試料を回転させる場合には、測定試料の表面状態に依存する側面があるため、回転角度を偏光した測定精度は、偏光角度を調整した測定精度と比較してわずかに劣ることがある。
【0086】
このため、実施形態2では、偏光角度依存性に基づいて高い精度で結晶品質を推定した後、更に精度を向上させるために回転角度依存性に基づいて結晶品質を推定した。このため、実施形態2では、好ましい形態として、偏光角度依存性に基づいて結晶品質の推定を行った後、回転角度依存性に基づいて結晶品質を推定したのである。測定試料によっては、回転角度依存性に基づいて結晶品質の推定を行った後、偏光角度依存性に基づいて結晶品質を推定してもよい。その場合には、図7のS11~S30とS31~S50を入れ替えればよい。これは、後述する実施形態4でも同様である。
【0087】
なお、偏光角度依存性に基づいて結晶品質の推定を行った場合であっても、回転角度依存性に基づいて結晶品質を推定した場合、稀ではあるが、回転角度依存性に基づいて結晶品質を推定したところ、結晶品質が低品質であると推定されることがある。
【0088】
2-3.実施形態3
実施形態3は、図1の共焦点システム40を用い、積層基板の各層の品質を推定する方法である。図9は、本実施形態3に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータの機能構成を示すブロック図である。
【0089】
コンピュータ50-2は、ダイヤモンド偏光ピーク強度取得部50-2a、ダイヤモンド偏光角度依存プロファイル取得部50-2b、種基板偏光ピーク強度取得部50-2e、種基板偏光角度依存プロファイル取得部50-2f、基板偏光プロファイル一致度算出部50-2g、基板偏光プロファイル一致度比較部50-2h、偏光角度読込部50-2m、偏光ラマンレーザー照射部50-2n、偏光ラマンスペクトル保存部50-2o、偏光角度加算部50-2p、偏光角度判断部50-2q、およびダイヤモンド偏光結晶品質推定部50-2r、共焦点設定読込部50-2sを備える。これら機能は前述したハードウエア資源の協働により実現される。これらの機能は、図10を用いて詳述する。
【0090】
実施形態3では、例えば、実施形態1または実施形態2で結晶品質が高品質であると推定された種基板(例えばSi基板)にダイヤモンドが成長した基板試料において、Si基板とダイヤモンドの品質の評価方法について説明する。
【0091】
図10は、本実施形態3に係る結晶品質推定方法のフローチャートである。図10のS101~S105は、図4のS11~S15と比較して、共焦点設定読込部50-2sがラマンレーザーの共焦点の設定を読み込む(S101-2、S108-2)ことを除いて、図4のS10~S15と同様である。
【0092】
まず、偏光角度読込部50-2mは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの初期偏光角度を読み出す(S101-1)。偏光角度を0~360°まで調整する場合には、初期偏光角度は、通常0°として記憶装置53に保存されている。場合によっては、初期偏光角度は0°でなくてもよい。共焦点設定読込部50-2sは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの共焦点設定情報を読み出す(S101-2)。S101-2では、共焦点を種基板に成長したダイヤモンドに合わせる設定情報を読み込む。
【0093】
偏光ラマンレーザー照射部50-2nは、偏光角度読込部50-2mおよび共焦点設定読込部50-2sにより読み込まれた初期偏光角度および共焦点設定情報に基づいて、回転台30に載置されている種基板に成長したダイヤモンドに入射レーザーである偏光ラマンレーザーを照射させる(S102)。偏光角度以外の条件は従来と同様である。
【0094】
偏光ラマンスペクトル保存部50-2oは、偏光ラマンレーザー照射部50-2nによる偏光ラマンレーザーの照射により検出された偏光ラマンスペクトルを保存する(S103)。偏光角度加算部50-2pは、偏光ラマンスペクトル保存部50-2oによりラマンスペクトルが保存された後、ダイヤモンドに照射された偏光ラマンレーザーが有する偏光角度に所定の角度を加算する(S104)。例えば所定の角度が5°であれば、0~360°まで73個のラマンスペクトルを得ることができる。
【0095】
偏光角度判断部50-2qは、偏光角度加算部50-2pにより加算された偏光角度が360°未満であるかどうか判断する(S105)。360°未満である場合には(S105、yes)、S102に戻る。
【0096】
偏光角度判断部50-2qによる判断において、加算された偏光角度が360°である場合には(S105、no)、ダイヤモンド偏光ピーク強度取得部50-2aは、各々記憶装置53に保存されている各偏光角度の偏光ラマンスペクトルから、ダイヤモンド偏光ピーク強度を取得する(S106)。詳細には、ダイヤモンド偏光ピーク強度取得部50-2aは、各ダイヤモンド偏光角度の偏光ラマンスペクトルにおいて、最大ピーク強度を偏光ピーク強度として取得する。ダイヤモンド偏光角度依存プロファイル取得部50-2bは、ダイヤモンド偏光ピーク強度取得部50-2aにより取得されたダイヤモンド偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、ダイヤモンド偏光角度依存プロファイルを取得する(S107)。ダイヤモンド偏光角度依存プロファイルは、例えば図11または図12に示す通りである。これについては後述する。
【0097】
次に、偏光角度読込部50-2mは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの初期偏光角度を読み出す(S108-1)。S108-1では、ダイヤモンドのラマンスペクトルを取得した後であるため、偏光角度を0~360°まで調整する場合には、初期偏光角度は、通常0°として記憶装置53に保存されている。場合によっては、初期偏光角度は0°でなくてもよい。共焦点設定読込部50-2sは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの共焦点設定情報を読み出す(S108-2)。S108-2では、共焦点を種基板に合わせる設定情報を読み込む。
【0098】
偏光ラマンレーザー照射部50-2nは、偏光角度読込部50-2mおよび共焦点設定読込部50-2sにより読み込まれた初期偏光角度および共焦点設定情報に基づいて、回転台30に載置されている種基板に入射レーザーである偏光ラマンレーザーを照射させる(S109)。偏光角度以外の条件は従来と同様である。
【0099】
偏光ラマンスペクトル保存部50-2oは、偏光ラマンレーザー照射部50-2nによる偏光ラマンレーザーの照射により検出された偏光ラマンスペクトルを保存する(S110)。偏光角度加算部50-2pは、偏光ラマンスペクトル保存部50-2oによりラマンスペクトルが保存された後、ダイヤモンドに照射された偏光ラマンレーザーが有する偏光角度に所定の角度を加算する(S111)。例えば所定の角度が5°であれば、0~360°まで73個のラマンスペクトルを得ることができる。
【0100】
偏光角度判断部50-2qは、偏光角度加算部50-2pにより加算された偏光角度が360°未満であるかどうか判断する(S112)。360°未満である場合には(S112、yes)、S109に戻る。
【0101】
偏光角度判断部50-2qによる判断において、加算された偏光角度が360°である場合には(S112、no)、種基板偏光ピーク強度取得部50-2eは、各々記憶装置53に保存されている各偏光角度の偏光ラマンスペクトルから、ダイヤモンド偏光ピーク強度を取得する(S113)。詳細には、種基板偏光ピーク強度取得部50-2eは、各種基板偏光角度の偏光ラマンスペクトルにおいて、最大ピーク強度を偏光ピーク強度として取得する。種基板偏光角度依存プロファイル取得部50-2fは、種基板偏光ピーク強度取得部50-2eにより取得された種基板偏光ピーク強度を偏光角度毎にプロットし、種基板偏光角度依存プロファイルを取得する(S114)。ダイヤモンド偏光角度依存プロファイルは、例えば図11または図12に示す通りである。これについては後述する。
【0102】
基板偏光プロファイル一致度算出部50-2gは、ダイヤモンド偏光角度依存プロファイルと、種基板偏光角度依存プロファイルとの基板偏光プロファイル一致度を算出する(S115)。基板回転プロファイル一致度の算出方法は、図4のS18と同様の方法を採用することができる。基板偏光プロファイル一致度比較部50-2hは、基板偏光プロファイル一致度算出部50-2gにより算出された基板回転プロファイル一致度と所定の閾値を比較する(S116)。閾値に関しては、図4のS19と同様であるため、説明を省略する。
【0103】
ダイヤモンド偏光結晶品質推定部50-2rは、基板偏光プロファイル一致度比較部50-2hでの比較結果が、所定の閾値以上の一致度であるかどうか判断することによりダイヤモンドの結晶品質を推定する。基板偏光プロファイル一致度が閾値以上である場合(S117、yes)、ダイヤモンドの結晶品質が高品質であると推定し(S118)、終了する。一方、基板偏光プロファイル一致度が閾値未満である場合(S117、no)、ダイヤモンドの結晶品質が低品質であると推定し(S119)、終了する。
【0104】
このように、実施形態3では共焦点システム40と偏光システム20と利用して、種基板に成長したダイヤモンドの結晶品質を精度よく評価することができる。すなわち、高品質の種基板に近いプロファイルを示すダイヤモンドであれば、ダイヤモンドには種基板の結晶構造が引き継がれるため、ダイヤモンドの結晶品質は高品質であると推定することができる。さらには、種基板に成長したダイヤモンドを、実施形態1や実施形態2のプログラムや方法を用いれば、更に精度が高い結晶品質を推定することが可能となる。
【0105】
なお、実施形態3における種基板は、Si、サファイヤ、MgOなど、ダイヤモンドがヘテロエピタキシャル成長するための基板であれば特に限定されることはない。後述する実施形態4も同様である。
【0106】
図11は、本実施形態3に係る結晶品質推定プログラムを用いて測定した基板試料における偏光角度とピーク強度のプロファイルを示し、図11(a)はSi基板の(111)面、図11(b)はその基板上に形成されたダイヤモンドである。図11から、平板状ダイヤモンドからのプロファイルは、図5(c)に示した(111)面の楕円のプロファイルと一致し、上面は(111)面であることがわかる。
【0107】
また、Si(111)基板上に成長した平板状ダイヤモンドとSi基板の楕円のプロファイル方向が一致している。この結果は、Siとダイヤモンドの格子振動の方向が一致していることを意味している。このようにSi(111)基板上に成長した平板状ダイヤモンドは、基板の原子配列に沿ってダイヤモンドが成長していることを示している。
【0108】
図12は、図12は、本実施形態3に係る結晶品質推定プログラムを用いて測定した基板試料における偏光角度とピーク強度のプロファイルを示し、図12(a)はSi基板の(100)面、図12(b)はその基板上に形成されたダイヤモンドである。図12から、Si(100)基板上に成長した平板状ダイヤモンドとSiのプロファイルは、方向が一致する結晶とそうでないものがあることがわかった。
【0109】
この結果は、方位整合して成長している結晶とそうでないものがあること示唆している。また、Si(100)基板の偏光角度依存性は図5(a)に示す(100)面特有の8の字形のプロファイルではないことがわかった。予備実験において、成長前のSi(100)基板および成長後、平板状ダイヤモンドが成長していない箇所のプロファイルは8の字型の(100)面を確認している。
【0110】
以上のことから、Si(100)基板は平板状ダイヤモンドがCVD生成時にSi(100)基板表面の原子配列に影響を及ぼし、表面の(100)構造を維持せず、上面に(111)面を有する平板状ダイヤモンドが成長したことが示唆された。このように共晶点と偏光角度依存性を組み合わせることによって、種基板と成長したダイヤモンドとの方位関係の情報を得ることができる。そして、図11および図12のように、種基板に成長したダイヤモンドの結晶面と種基板の結晶面との関係を明確にした上で、プロファイルの一致度からダイヤモンドの品質を推定することができる。
【0111】
2-4.実施形態4
実施形態4では、共晶点と、偏光角度依存性およびダイヤモンドの回転角度依存性と、を組み合わせることによって、更に精度よく種基板と種基板に成長したダイヤモンドとの方位関係の情報を得ることができ、高い精度で結晶品質を推定することができる。詳細は以下の通りである。
【0112】
実施形態4では、図10に示す実施形態3において、ダイヤモンド偏光角度依存プロファイルを取得した後、図7に示すように、偏光角度を固定したラマンレーザーを、所定の角度に回転させたダイヤモンドおよび種基板に照射して、回転角度依存プロファイルを取得し、一致度を評価する。
【0113】
図13は、本実施形態4に係る結晶品質推定プログラムを機能させるコンピュータの機能構成を示すブロック図である。図13において、図9と重複する機能の説明は省略する。コンピュータ50-3は、図9に示すコンピュータ50-2に加えて、ダイヤモンド回転ピーク強度取得部50-3aa、ダイヤモンド回転角度依存プロファイル取得部50-3bb、種基板回転ピーク強度取得部50-3ee、種基板回転角度依存プロファイル取得部50-3ff、基板回転プロファイル一致度算出部50-3gg、基板回転プロファイル一致度比較部50-3hh、回転角度読込部50-3mm、回転ラマンレーザー照射部50-3nn、回転ラマンスペクトル保存部50-3oo、回転角度加算部50-3pp、回転角度判断部50-3qq、およびダイヤモンド回転結晶品質推定部50-3rrを備える。これら機能は前述したハードウエア資源の協働により実現される。これらの機能は、図14を用いて詳述する。
【0114】
図14は、本実施形態4に係る結晶品質推定方法のフローチャートである。図14のS101-1~S117、およびS119は、図10と同一であるため、説明を省略する。S117において、プロファイルの一致度が閾値以上である場合には(S117、yes)、S121-1に進む。
【0115】
S121-1以降は、S101-1~S119において、0~360°までの所定の回転角度に回転された測定試料に、偏光角度が固定された入射レーザーを照射して得られた各々の回転ラマンスペクトルに基づいて結晶品質を推定する点で異なる。すなわち、実施形態3において、偏光角度を変えたラマンスペクトルから得られたプロファイルを用いて評価すること以外、実施形態3と実施形態4は同様の手法で結晶品質を推定する。
【0116】
まず、回転角度読込部50-3mmは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの初期回転角度を読み出す(S121-1)。回転角度を0~360°まで調整する場合には、初期回転角度は、通常0°として記憶装置53に保存されている。場合によっては、初期回転角度は0°でなくてもよい。共焦点設定読込部50-3sは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの共焦点設定情報を読み出す(S121-2)。S121-2では、共焦点を種基板に成長したダイヤモンドに合わせる設定情報を読み込む。
【0117】
回転ラマンレーザー照射部50-3nnは、回転角度読込部50-3mmにより読み込まれた初期回転角度で回転台30に載置されている測定試料に入射レーザーである回転ラマンレーザーを照射させる(S122)。回転角度以外の条件は従来と同様である。偏光角度は0~360°のいずれかの角度であればよい。
【0118】
回転ラマンスペクトル保存部50-3ooは、回転ラマンレーザー照射部50-3nnによる回転ラマンレーザーの照射により検出された回転ラマンスペクトルを保存する(S123)。回転角度加算部50-3ppは、回転ラマンスペクトル保存部50-3ooによりラマンスペクトルが保存された後、測定試料に照射された回転ラマンレーザーが有する回転角度に所定の角度を加算する(S124)。例えば所定の角度が5°であれば、0~360°まで73個のラマンスペクトルを得ることができる。
【0119】
回転角度判断部50-3qqは、回転角度加算部50-3ppにより加算された回転角度が360°未満であるかどうか判断する(S125)。360°未満である場合には(S125、yes)、S12に戻る。
【0120】
回転角度判断部50-3qqによる判断において、加算された回転角度が360°である場合には(S125、no)、ダイヤモンド回転ピーク強度取得部50-3aaは、各々記憶装置53に保存されている各回転角度の回転ラマンスペクトルから、ダイヤモンド回転ピーク強度を取得する(S126)。詳細には、ダイヤモンド回転ピーク強度取得部50-3aaは、各ダイヤモンド回転角度の回転ラマンスペクトルにおいて、最大ピーク強度を回転ピーク強度として取得する。ダイヤモンド回転角度依存プロファイル取得部50-3bbは、ダイヤモンド回転ピーク強度取得部50-3aaにより取得されたダイヤモンド回転ピーク強度を回転角度毎にプロットし、ダイヤモンド回転角度依存プロファイルを取得する(S127)。
【0121】
次に、回転角度読込部50-3mmは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの初期回転角度を読み出す(S128-1)。S128-1では、ダイヤモンドのラマンスペクトルを取得した後であるため、回転角度を0~360°まで調整する場合には、初期回転角度は、通常0°として記憶装置53に保存されている。場合によっては、初期回転角度は0°でなくてもよい。共焦点設定読込部50-3sは、予め記憶装置53に保存されているラマンレーザーの共焦点設定情報を読み出す(S128-2)。S128-2では、共焦点を種基板に合わせる設定情報を読み込む。
【0122】
回転ラマンレーザー照射部50-3nnは、回転角度読込部50-3mmおよび共焦点設定読込部50-3sにより読み込まれた初期回転角度および共焦点設定情報に基づいて、回転台30に載置されている種基板に入射レーザーである回転ラマンレーザーを照射させる(S129)。回転角度以外の条件は従来と同様である。
【0123】
回転ラマンスペクトル保存部50-3ooは、回転ラマンレーザー照射部50-3nnによる回転ラマンレーザーの照射により検出された回転ラマンスペクトルを保存する(S130)。回転角度加算部50-3ppは、回転ラマンスペクトル保存部50-3ooによりラマンスペクトルが保存された後、ダイヤモンドに照射された回転ラマンレーザーが有する回転角度に所定の角度を加算する(S131)。例えば所定の角度が5°であれば、0~360°まで73個のラマンスペクトルを得ることができる。
【0124】
回転角度判断部50-3qqは、回転角度加算部50-3ppにより加算された回転角度が360°未満であるかどうか判断する(S132)。360°未満である場合には(S132、yes)、S129に戻る。
【0125】
回転角度判断部50-3qqによる判断において、加算された回転角度が360°である場合には(S132、no)、種基板回転ピーク強度取得部50-3eeは、各々記憶装置53に保存されている各回転角度の回転ラマンスペクトルから、ダイヤモンド回転ピーク強度を取得する(S133)。詳細には、種基板回転ピーク強度取得部50-3eeは、各種基板回転角度の回転ラマンスペクトルにおいて、最大ピーク強度を回転ピーク強度として取得する。種基板回転角度依存プロファイル取得部50-3ffは、種基板回転ピーク強度取得部50-3eeにより取得された種基板回転ピーク強度を回転角度毎にプロットし、種基板回転角度依存プロファイルを取得する(S134)。
【0126】
基板回転プロファイル一致度算出部50-3ggは、ダイヤモンド回転角度依存プロファイルと、種基板回転角度依存プロファイルとの基板回転プロファイル一致度を算出する(S135)。基板回転プロファイル一致度の算出方法は、図4のS18と同様の方法を採用することができる。基板回転プロファイル一致度比較部50-3hhは、基板回転プロファイル一致度算出部50-3ggにより算出された基板回転プロファイル一致度と所定の閾値を比較する(S136)。閾値に関しては、図4のS19と同様であるため、説明を省略する。
【0127】
ダイヤモンド回転結晶品質推定部50-3rrは、基板回転プロファイル一致度比較部50-3hhでの比較結果が、所定の閾値以上の一致度であるかどうか判断することによりダイヤモンドの結晶品質を推定する。基板回転プロファイル一致度が閾値以上である場合(S137、yes)、ダイヤモンドの結晶品質が高品質であると推定し(S138)、終了する。一方、基板回転プロファイル一致度が閾値未満である場合(S137、no)、ダイヤモンドの結晶品質が低品質であると推定し(S139)、終了する。
【0128】
このように、実施形態3では共焦点システム40と、偏光システム20および回転台30と利用して、種基板に成長したダイヤモンドの結晶品質を精度よく評価することができる。すなわち、偏光角度依存性および回転角度依存性を組み合わせることによって、種基板と成長したダイヤモンドとの方位関係の情報をより精度よく得ることができる。そして、種基板に成長したダイヤモンドの結晶面と種基板の結晶面との関係を明確にした上で、プロファイルの一致度からダイヤモンドの品質を推定することができる。
【0129】
また、高品質の種基板に近いプロファイルを示すダイヤモンドであれば、ダイヤモンドには種基板の結晶構造が引き継がれるため、ダイヤモンドの結晶品質は高品質であると推定することができる。さらには、種基板に成長したダイヤモンドを、実施形態1や実施形態2のプログラムや方法を用いれば、更に精度が高い結晶品質を推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0130】
10 装置
20 偏光システム
30 回転台
40 共焦点システム
50、50-1、50-2、50-3 コンピュータ
【要約】      (修正有)
【課題】結晶品質を推定する結晶品質推定プログラム、結晶品質推定方法、および記録媒体を提供する。
【解決手段】結晶品質推定プログラムは、コンピュータを、測定試料偏光ピーク強度取得部と、測定試料偏光角度依存プロファイル取得部と、偏光プロファイル一致度算出部と、偏光プロファイル一致度比較部と、測定試料偏光ピーク半値幅取得部と、測定試料偏光ピーク半値幅平均値算出部と、偏光ピーク半値幅一致度算出部と、偏光ピーク半値幅比較部と、測定試料偏光ピーク波数取得部と、測定試料偏光ピーク波数平均値算出部と、偏光ピーク波数一致度算出部と、偏光ピーク波数比較部と、偏光結晶品質推定部として機能させる。
【選択図】図4
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