IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井製糖株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-抗糖化剤 図1
  • 特許-抗糖化剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】抗糖化剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240701BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20240701BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/899
A61P3/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018103252
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019205398
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-05-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【弁理士】
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 清昭
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】天野 宏樹
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/100105(WO,A1)
【文献】特開2010-70541(JP,A)
【文献】古田到真,伊藤傑,水雅美,河合俊和,国内製糖工場廃棄物からの有価物製造におけるGHG削減技術実証,精糖技術研究会誌,2017年,vol.63,p.7-10,実験方法
【文献】Izabela Sadowska-Bartosz,Grzegorz Bartosz,Prevention of Protein Glycation by Natural Compounds,Molecules,2015年,vol.20,p.3309-3334,Abstract
【文献】三菱ケミカル,合成吸着剤,[online],2017年4月4日,https://web.archive.org/web/201704072547/http://www.diaion.com/products/synthesis_0201.html#01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
PubMed
BIOSIS/CAPLUS/EMBASE/MEDLINE/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バガスの分解抽出物を有効成分として含む、抗糖化剤。
【請求項2】
前記バガスの分解抽出物は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により得られる分解処理液である、請求項1に記載の抗糖化剤。
【請求項3】
前記バガスの分解抽出物は、前記分解処理液を、固定担体を充填したカラムに通液することより得られる画分である、請求項2に記載の抗糖化剤。
【請求項4】
前記固定担体は、合成吸着剤又はイオン交換樹脂である、請求項3に記載の抗糖化剤。
【請求項5】
前記固定担体が合成吸着剤であり、前記バガスの分解抽出物は、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒で溶出させることにより得られる画分である、請求項3に記載の抗糖化剤。
【請求項6】
前記合成吸着剤は、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である、請求項4又は5に記載の抗糖化剤。
【請求項7】
前記バガスの分解抽出物は、前記分解処理液を、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出させて得られる画分であり、
前記合成吸着剤は、無置換基型の芳香族系樹脂であり、
前記カラムの温度は20~60℃であり、
前記混合溶媒のエタノール及び水の体積比(エタノール/水)は50/50~60/40である、請求項2に記載の抗糖化剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗糖化剤を含有する、抗糖化用飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗糖化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖化とはメイラード反応とも呼ばれ、1912年にフランスの科学者L.C. Maillardによって発見されたアミノ酸・タンパク質と還元糖の非酵素的な化学反応である。糖化は食品の加熱中におこる着色、香り・風味の変化等食品化学の分野で注目されてきた。
【0003】
生体における糖化は、グルコースなどの還元糖のカルボニル基とタンパク質とが非酵素的に反応し、シッフ塩基(schiff base)の形成を経てアマドリ転移により不可逆的な物質である糖化タンパク質となり、3-デオキシグルコソン(3DG)、グリオキサール、メチルグリオキサール、グリセルアルデヒド、グルタールアルデヒドなどのカルボニル化合物を中心とする反応中間体生成を経て、糖化最終生成物(advanced glycation endproducts:AGEs)の生成に至る反応である。
【0004】
近年、AGEsと、人の皮膚の老化、動脈硬化、糖尿病疾病、糖尿病の三大合併症(神経障害、網膜症、腎症)、成人病疾患等との関係性について種々の研究がなされており、これらの疾患の治療・改善及び老化防止・予防には、抗糖化剤が用いられる。そして、これまでにも、種々の抗糖化剤が提案されている。例えば、特許文献1には、焼酎残渣もろみの濃縮エキスを有効成分として含有する、抗糖化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-213021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な抗糖化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、バガスの分解抽出物を有効成分として含む抗糖化剤に関する。本発明の抗糖化剤は、バガスの分解抽出物を有効成分として含むため、抗糖化活性に優れている。
【0008】
バガスの分解抽出物は、水熱処理、酸処理、アルカリ処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により得られる分解処理液であってよい。
【0009】
バガスの分解抽出物は、分解処理液を、固定担体を充填したカラムに通液することより得られる画分であってもよい。固定担体は、好ましくは、合成吸着剤又はイオン交換樹脂である。
【0010】
固定担体が合成吸着剤である場合、バガスの分解抽出物は、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒で溶出させることにより得られる画分であってもよい。
【0011】
合成吸着剤は、好ましくは、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である。
【0012】
バガスの分解抽出物は、分解処理液を、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出させて得られる画分であってよく、この場合、合成吸着剤は、無置換基型の芳香族系樹脂であり、カラムの温度は20~60℃であり、混合溶媒のエタノール及び水の体積比(エタノール/水)は50/50~60/40であってもよい。
【0013】
上記抗糖化剤は、抗糖化活性に優れているため、抗糖化用飲食品として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規な抗糖化剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1における結果を示すグラフである。
図2】試験例3における結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本明細書における抗糖化剤は、抗糖化活性を有するものであり、具体的には、糖化最終生成物(AGEs)の、生成抑制作用(糖化反応阻害作用)、蓄積抑制作用又は分解作用を有するものであってよい。言い換えれば、本実施形態の抗糖化剤は、例えば、糖化最終生成物の生成抑制剤(糖化反応阻害剤)、蓄積抑制剤又は分解剤(分解促進剤)であってよい。
【0018】
糖化最終生成物(終末糖化産物)は、糖化反応(メイラード反応)による生成物の総称である。糖化最終生成物としては、例えば、CML(Nε-(carboxymethyl)lysine)、ペントシジン(pentosidine)、ピラリン(pyrraline)、クロスリン(crossline)が挙げられる。また、本実施形態の抗糖化剤は、糖化反応における反応中間体の、生成抑制作用、蓄積抑制作用又は分解促進作用を有することにより、結果として、上述の抗糖化活性を有するものであってよい。糖化反応における反応中間体としては、具体的には、グリオキサール(GO)、3-デオキシグルコソン(3DG)、メチルグリオキサール(MGO)等であってよい。
【0019】
本実施形態の抗糖化剤は、バガスの分解抽出物を有効成分として含む。
【0020】
抗糖化剤におけるバガスの分解抽出物の含有量は、抗糖化剤全量基準で、0.01~100質量%であってもよく、0.1~100質量%であってもよい。
【0021】
一実施形態に係る抗糖化剤は、バガスの分解抽出物を有効成分として含有する。バガスの分解抽出物には、p-クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸及びバニリン等のフェニルプロパノイド、並びにリグニン及びその分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれていることが好ましい。
【0022】
「バガス」とは、典型的には原料糖製造工程における製糖過程で排出されるバガスをいう。原料糖工場における製糖過程で排出されるバガスには、最終圧搾機を出た最終バガスだけではなく、第1圧搾機を含む以降の圧搾機に食い込まれた細裂甘蔗をも含む。好適なバガスは、原料糖工場において圧搾工程により糖汁を圧搾した後に排出されるバガスである。当該バガスは、甘蔗の種類、収穫時期等により、その含まれる水分、糖分及びそれらの組成比が異なるが、本発明においては、これらのバガスを任意に用いることができる。さらに、本実施形態では、原料のバガスとして、原料糖工場と同様に、例えば黒糖製造工場において排出される甘蔗圧搾後に残るバガス、又は実験室レベルの小規模な実施により甘蔗から糖液を圧搾した後のバガスも用いることができる。
【0023】
バガスの分解抽出物は、一実施形態において、バガス(及び/又はその加工物)の分解処理液であってよい。分解処理液は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の分解処理により得ることができる。分解処理は、バガスの分解抽出物を得やすい観点から、好ましくはアルカリ処理又は水熱処理である。
【0024】
アルカリ処理は、バガスにアルカリ性溶液を接触させる処理であってよい。アルカリ性溶液を接触させる方法としては、例えば、アルカリ性溶液をバガスに振りかける方法、バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法等が挙げられる。バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法においては、バガス及びアルカリ性溶液の混合物を撹拌しながら浸漬させてもよい。
【0025】
アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられる。アルカリ性溶液は、これらの溶液を1種単独で又は2種以上を混合して用いられてよい。アルカリ性溶液は、安価であり、食品製造工程で容易に用いられる観点から、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。
【0026】
アルカリ性溶液の温度(液温)は、分解処理の処理時間を短縮する観点から、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは130℃以上である。アルカリ性溶液の温度は、分解処理液に多糖類を残存させないようにする観点から、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは200℃以下であり、更に好ましくは150℃以下である。
【0027】
アルカリ処理は、常圧下で行われてよく、加圧して行われてもよい。加圧する場合、圧力は、0.1MPa以上、0.2MPa以上であってよく、4.0MPa以下、1.6MPa以下、又は0.5MPa以下であってよい。
【0028】
水熱処理は、バガスに高温の水又は水蒸気を高圧下で接触させる処理であってよい。水熱処理は、より具体的には、例えば、バガスの固形物濃度が0.1~50%となるように水を加え、高温・高圧条件下で分解処理を行う方法であってもよい。水又は水蒸気の温度は130~250℃であることが好ましく、加える圧力は、各温度の水の飽和水蒸気圧に、更に0.1~0.5MPa高い圧力であることが好ましい。
【0029】
酸処理は、バガスに酸性溶液を接触させる処理であってよい。酸性溶液としては、希硫酸等が挙げられる。バガスに酸性溶液を接触させる方法、酸処理における酸溶液の温度、酸処理における圧力条件は、上述したアルカリ処理における方法又は条件と同様であってよい。
【0030】
亜臨界水処理は、バガスに亜臨界水を接触させる処理であってよい。バガスに亜臨界水を接触させる方法は、上述したアルカリ処理における方法と同様であってよい。亜臨界水処理の条件は特に制限されないが、亜臨界水の温度を160~240℃とし、処理時間を1~90分間とすることが好ましい。
【0031】
微粉砕処理は、圧縮、衝撃、せん断、摩擦などによりバガスを数μm~数百μmに粉砕する処理であってよい。爆砕処理は、水熱処理によりバガスに含まれる不溶性キシランをある程度分解させた後、耐圧反応容器に設けられたバルブを一気に開放すること等によって、瞬間的に大気圧に放出することによりバガスを粉砕する処理であってよい。
【0032】
分解処理液においては、上述した分解処理の後、固形分及び液分を分離する処理がなされてもよい。この場合、分離後に得られた液分を分解処理液とすることができる。固形分及び液分を分離する方法は、ストレーナー、ろ過、遠心分離、デカンテーション等による分離であってよい。
【0033】
分解処理液においては、膜分離により多糖類等の高分子成分が除去されてもよい。この場合、膜分離後の液分を分解処理液とすることができる。分離膜は、限外濾過膜(UF膜)であれば特に限定されない。限外濾過膜の分画分子量は、好ましくは2,500~50,000であり、より好ましくは2,500~5,000である。
【0034】
限外濾過膜の素材としては、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PS)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、再生セルロース、セルロース、セルロースエステル、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリ四フッ化エチレン等を使用することができる。
【0035】
限外濾過膜の濾過方式は、デッドエンド濾過、クロスフロー濾過であってよいが、膜ファウリング抑制の観点から、クロスフロー濾過であることが好ましい。
【0036】
限外濾過膜の膜形態としては、平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型等、適宜の形態のものが使用できる。より具体的には、GE Power&WaterのGEシリーズ、GHシリーズ、GKシリーズ、DESAL社のG-5タイプ、G-10タイプ、G-20タイプ、G-50タイプ、PWタイプ、HWSUFタイプ、KOCH社のHFM-180、HFM-183、HFM-251、HFM-300、HFK-131、HFK-328、MPT-U20、MPS-U20P、MPS-U20S、Synder社のSPE1、SPE3、SPE5、SPE10、SPE30、SPV5、SPV50、SOW30、旭化成株式会社製のマイクローザ(登録商標)UFシリーズの分画分子量3,000から10,000に相当するもの、日東電工株式会社製のNTR7410、NTR7450等が挙げられる。
【0037】
バガスの分解抽出物は、他の実施形態において、上述した分解処理液を、固定担体を充填したカラムに通液することより得られる画分であってもよい。分解処理液をカラムに通液することにより、分解処理液中の抗糖化活性を有する成分(有効成分)が固定担体に吸着され、糖類及び無機塩類の大部分がそのまま流出する。
【0038】
上述した分解処理液は、直接又は水で任意の濃度に調整して、カラムに通液することができる。分解処理液においては、カラムの通液前にpHを調整してもよい。吸着率を向上させる観点から、分解処理液は、pH6以下に調整されていることが好ましい。分解処理液のpHは、4.5を超え6以下であってもよい。
【0039】
固定担体は、好ましくは、合成吸着剤又はイオン交換樹脂のいずれかである。
【0040】
合成吸着剤は、好ましくは合成多孔質吸着剤である。合成吸着剤(合成多孔質吸着剤)としては、好ましくは有機系樹脂が用いられる。有機系樹脂は、好ましくは、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である。
【0041】
芳香族系樹脂としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン系樹脂が挙げられる。芳香族系樹脂としては、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、無置換基型の芳香族系樹脂、無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂等の多孔質性樹脂も挙げられ、このうち、無置換基型の芳香族系樹脂又は無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂が好ましい。
【0042】
合成吸着剤で市販のものとしては、ダイヤイオン(商標)HP-10、HP-20、HP-21、HP-30、HP-40、HP-50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP-825、SP-800、SP-850、SP-875、SP-70、SP-700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP-900(芳香族系樹脂、商品名、三菱ケミカル株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-2、XAD-4、XAD-16、XAD-2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)SP-205、SP-206、SP-207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);HP-2MG、EX-0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-7、XAD-8(以上、アクリル酸エステル樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)HP1MG、HP2MG(以上、アクリル酸メタクリル樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);セファデックス(商標)LH20、LH60(以上、架橋デキストランの誘導体、いずれも商品名、ファルマシア バイオテク株式会社製)等が挙げられる。中でも、無置換基型の芳香族系樹脂(例えば、HP-20)又は無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂(例えば、SP-850)が好ましい。
【0043】
カラムに充填する合成吸着剤の量は、カラムの大きさ、合成吸着剤の種類等によって適宜決定することができる。
【0044】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、分解処理液を通液するときの通液速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜変更が可能であるが、好ましくは、SV=1~30時間-1である。なお、SV(Space Velocity、空間速度)は、1時間当たり樹脂容量の何倍量の液体を通液するかという単位である。
【0045】
合成吸着剤に吸着された吸着成分(有効成分)は、溶媒(溶出溶媒)により溶出させることができる。吸着成分をより効率よく回収する観点から、吸着成分を溶出させる前に、カラムに残留する糖類及び無機塩類を水洗により洗い流すことが好ましい。この場合、溶出させた成分をバガスの分解抽出物とすることができる。
【0046】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出溶媒は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。溶出溶媒は、アルコール及び水の混合溶媒が好ましく、エタノール及び水の混合溶媒がより好ましく、吸着成分が室温においてより効率よく溶出可能となる観点から、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)であるエタノール及び水の混合溶媒が更に好ましい。
【0047】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出する際のカラムの温度(カラム温度)は室温であってよいが、室温よりもカラム温度を高温にすることにより、エタノール及び水の混合溶媒においてエタノールの混合割合を減らすことができ、吸着成分をより効率的に溶出させることができる。温度は、好ましくは20~60℃であり、より好ましくは40~60℃である。カラム内は常圧条件下であっても、加圧条件下であってもよい。
【0048】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜設定することが可能であるが、好ましくは、SV=0.1~10時間-1である。
【0049】
イオン交換樹脂は、樹脂の形態に基づいて、ゲル型樹脂と、ポーラス型、マイクロポーラス型又はハイポーラス型等の多孔性樹脂とに分類されるが、特に制限はない。イオン交換樹脂は、好ましくは陰イオン交換樹脂である。陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂又は弱塩基性陰イオン交換樹脂が用いられてよい。アルカリ処理液を原料として使用する場合、好ましくは、強塩基性陰イオン交換樹脂が用いられるが、その他の処理による分解処理液を原料とする場合は特に制限はない。
【0050】
市販の強塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)PA306、PA308、PA312、PA316、PA318L、HPA25、SA10A、SA12A、SA11A、SA20A、UBA120(以上、三菱ケミカル株式会社製)、アンバーライト(商標)IRA400J、IRA402Bl、IRA404J、IRA900J、IRA904、IRA458RF、IRA958、IRA410J、IRA411、IRA910CT(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)マラソンA、マラソンMSA、MONOSPHERE550A、マラソンA2(以上、ダウケミカル日本株式会社製)等が挙げられる。
【0051】
市販の弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)WA10、WA20、WA21J、WA30(以上、三菱ケミカル株式会社製)、アンバーライト(商標)IRA478RF、IRA67、IRA96SB、IRA98、XE583(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)マラソンWBA、66、MONOSPHERE66、MONOSPHERE77(以上、ダウケミカル日本株式会社製)等が挙げられる。
【0052】
カラムに充填するイオン交換樹脂の量は、カラムの大きさ、イオン交換樹脂の種類などによって適宜決定できるが、分解処理液の固形分に対して2~10,000倍湿潤体積量が好ましく、5~500倍湿潤体積量がより好ましい。
【0053】
通液条件は、前処理液の種類、イオン交換樹脂の種類等により適宜設定することが可能である。好ましくは、流速はSV=0.3~30時間-1であり、通液する液量はイオン交換樹脂の100~300%であり、カラム温度は40~90℃である。カラム内は常圧又は加圧された状態であってもよい。
【0054】
固定担体としてイオン交換樹脂を用いる場合、バガスの分解抽出物は、イオン交換樹脂を充填したカラムに通液し、塩や酸、アルコール又はこれらの混合水溶液等の溶離液で溶出させることで得られる画分であってもよい。溶離液は脱気処理されていてもよい。
【0055】
バガスの分解抽出物は、一実施形態においては、上述した分解処理液又は画分を濃縮した濃縮物であってもよい。濃縮方法は公知の方法であってよく、例えば、減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等の方法であってよい。濃縮を行う場合、分解処理液又は画分を15~30倍に濃縮して、濃縮後の成分をバガスの分解抽出物とすることができる。
【0056】
バガスの分解抽出物は、例えば、次のようにして得ることができる。バガスに、固形物濃度が0.1~50%となるように1質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して100℃で煮沸を行い、分解処理液(アルカリ処理液)を得る。分解処理液を分画分子量2500~5000のUF膜にて限外濾過を行い、得られた濾過液を酸性に調整してから、無置換基型の芳香族系樹脂を充填したカラムに、カラム温度20~60℃にて通液する。その後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20~60℃にて、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)のエタノール及び水の混合溶媒(溶出溶媒)で溶出させ、エタノール及び水の混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が該芳香族系樹脂の45倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。回収された画分(抗糖化活性を有する成分を含む画分)を集め、慣用の手段(減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等)により濃縮して、バガスの分解抽出物を得ることができる。このようにして得られたバガスの分解抽出物は、固形分が30質量%以上になるように濃縮した液状又は粉末状の抽出物として保存することができる。抽出物の保存は、当該抽出物が液状の場合、冷蔵で行うことが好ましい。
【0057】
バガスの分解抽出物は、他の例として、例えば、次のようにして得ることもできる。すなわち、バガスに固形物濃度が0.1~50%となるように加水して130~250℃の水により、0.2~4.0Mpaの圧力下で水熱処理を行い、濾過による固液分離で分解処理液(水熱処理液)を得る。得られた水熱処理液について、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂を充填したカラムに、温度20~60℃にて通液した後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20~60℃にて、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)のエタノール及び水の混合溶媒(溶出溶媒)で溶出させ、エタノール及び水の混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が該芳香族系樹脂の5倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。回収された画分(抗糖化活性を有する成分を含む画分)を集め、慣用の手段(減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等)により濃縮して、バガスの分解抽出物を得ることができる。このようにして得られたバガスの分解抽出物は、固形分が30質量%以上になるように濃縮した液状又は粉末状の抽出物として保存することができる。抽出物の保存は、当該抽出物が液状の場合、冷蔵で行うことが好ましい。
【0058】
上述した各実施形態におけるバガスの分解抽出物は、液状又は粉末状であってよい。粉末状のバガスの分解抽出物は、例えば、液状のバガス分解抽出物を用いて、スプレードライ法、凍結乾燥法、流動層造粒法、又は賦形剤を用いた粉末化法等により製造することができる。
【0059】
本実施形態の抗糖化剤は、バガスの分解抽出物以外に賦形剤などを含んでもよい。賦形剤として、抗糖化剤が動物用である場合、コーンスターチ、及び小麦デンプン等の各種デンプン、デキストリン、各種グルテン、小麦粉、ふすま、各種米糠、大豆かす、及び黄粉などの大豆類、グルコース又は乳糖などの糖類、植物・動物油等の油脂類、魚粉類、酵母類、ケイ素化合物類、各種リン酸塩、ケイソウ土又はベントナイトなどの鉱物類、飼料及び飼料添加物の製剤を製造する上で使用できる賦形剤が挙げられる。また、抗糖化剤がヒト用である場合、乳糖、デンプン及びマルトース等の糖類、その他ヒト用の製剤を製造する上で使用できる賦形剤が挙げられる。これらのうち、コーンスターチ、デキストリン及び脱脂米糠は、製剤用担体として用いることができ、これらと甘蔗由来の抽出物を混合することで、抗糖化剤を、例えば、粉末状、顆粒状、又は錠剤状の固形製剤とすることができる。
【0060】
本実施形態の抗糖化剤は、ヒト又は動物に投与(経口投与又は非経口投与)することにより、抗糖化効果を奏するものであってよい。
【0061】
抗糖化剤が非経口投与される場合、投与量としては、例えば、バガスの分解抽出物が体重1kg当たり1回に100μg以上となるように投与されるのが好ましく、150μg以上となるように投与されるのがより好ましく、200μg以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が体重1kg当たり1日に200μg以上となるように投与されるのが好ましく、300μg以上となるように投与されるのがより好ましく、400μg以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が、体重1kg当たり1回に2000mg以下となるように投与されるのが好ましく、1500mg以下となるように投与されるのがより好ましく、1000mg以下となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が体重1kg当たり1日に4000mg以下となるように投与されるのが好ましく、3000mg以下となるように投与されるのがより好ましく、2000mg以下となるように投与されるのが更に好ましい。この範囲であれば、十分な血中濃度を達成することができ、抗糖化活性をよりよく発現することができる。
【0062】
抗糖化剤が経口投与される場合、抗糖化剤の投与量は、バガスの分解抽出物の精製度、形態、対象とする動物の種類、健康状態、成長の度合い等により適宜決定し得る。特に投与の形態、例えば集中投与又は長期投与のいずれかであるかは、投与量を決定する上で重要な要因である。集中投与である場合、抗糖化剤の投与量は、バガスの分解抽出物の全量基準(固形分)で、体重1kg当たり1日に50~3,000mg、又は100~2,000mgであってよい。また、集中投与の場合の投与期間は、1~20日間であってよい。日常的に長期投与する場合、抗糖化剤の投与量は、バガスの分解抽出物の全量基準(固形分)で、体重1kg当たり1日に1~500mg又は、1~100mgであってよい。長期投与の場合の投与期間は、例えば、数週間から数ヶ月間(例えば、20~180日間)であってよい。この範囲であれば、十分な血中濃度を達成することができ、抗糖化活性をよりよく発現することができる。
【0063】
本実施形態の抗糖化剤は、医薬品、医薬部外品、飲食品(食品組成物)、飼料、飼料添加物等の製品の成分として使用することができる。飲食品(飲料及び食品)としては、例えば、健康食品、機能性表示食品、特別用途食品、栄養補助食品、サプリメント又は特定保健用食品等が挙げられる。また、上記抗糖化剤は、調味料(醤油、味噌等)、菓子類等の食品、又は水、清涼飲料水、果汁飲料、アルコール飲料等の飲料における成分として使用することもできる。
【0064】
飼料としては、ドッグフード、キャットフード等のコンパニオン・アニマル用飼料、家畜用飼料、家禽用飼料、養殖魚介類用飼料等が挙げられる。「飼料」には、動物が栄養目的で経口的に摂取するもの全てが含まれる。具体的には、養分含量の面から分類すると、粗飼料、濃厚飼料、無機物飼料、特殊飼料の全てを包含し、また公的規格の面から分類すると、配合飼料、混合飼料、単体飼料の全てを包含する。また、給餌方法の面から分類すると、直接給餌する飼料、他の飼料と混合して給餌する飼料、または飲料水に添加し栄養分を補給するための飼料の全てを包含する。
【0065】
本実施形態の抗糖化剤からなる、又は抗糖化剤を含む上記製品(例えば、飲食品)は、抗糖化用であってよい。すなわち、本実施形態の抗糖化剤を含有する飲食品は、抗糖化用飲食品として好適に用いることができる。上記抗糖化剤を含有する、上記製品の形状は、固形又は液体のいずれの形状であってもよい。
【0066】
上記製品に含まれる抗糖化剤の含有量は、上記製品の種類及び摂取方法に応じて、適宜決定してよい。抗糖化効果をより一層有効に発揮する観点から、上記製品は、固形分として0.001質量%以上となるような量のバガスの分解抽出物を含むことが好ましい。抗糖化剤を含有する、上記製品を集中的に摂取する場合、上記製品の摂取量(1日当たりの摂取量)は、バガスの分解抽出物の全量基準(固形分)で、好ましくは50~3,000mg/kg(体重)であり、より好ましくは100~2,000mg/kg(体重)である。日常的に長期摂取する場合、上記製品の摂取量(1日当たりの摂取量)は、バガスの分解抽出物の全量基準(固形分)で、好ましくは1~500mg/kg(体重)である。
【実施例
【0067】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。バガスの分解抽出物は、以下、単に「抽出物」と表現することがある。
【0068】
<バガスの分解抽出物の製造>
[製造例1]
サトウキビの搾りかすであるバガス15kg(含水率50質量%)及び0.5%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液100Lを混合し、150℃の条件でアルカリ処理を行った。アルカリ処理後の混合液を固形分と液分に分離して、液分を約100L得た。分画分子量2500のUF膜(GEウォーター&プロセス・テクノロジー社、GH8040F30)を用いて限外濾過を行い、濾過液80Lを得た。合成吸着剤(三菱ケミカル株式会社製、HP-20)1リットルを樹脂塔(内径80mm、高さ400mm)に充填し、これに上記の濾過液を、pHを6に調整してから流速10リットル/時間(SV=10.0(時間-1))で通液した。
【0069】
続いて、5リットルの精製水を、流速10リットル/時間(SV=10.0(時間-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。次に、溶出溶媒として60%エタノール水溶液(エタノール/水=60/40(体積/体積))2リットルを、流速2リットル/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液した。続けて、2リットルの精製水を流速2リットル/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。樹脂塔から溶出した画分を、ロータリーエバポレーターにて約10倍の濃度に減圧濃縮したのち、一晩凍結乾燥して、バガスの分解抽出物として、茶褐色の粉末20gを得た。これを抽出物Aとした。
【0070】
[製造例2]
サトウキビの搾りかすであるバガス30kg(含水率50質量%)を、200℃の熱水100Lで水熱処理を行った。前処理後の混合液を固形分と液分に分離して、液分を約88L得た。分画分子量2500のUF膜(GEウォーター&プロセス・テクノロジー社、GH8040F30)を用いて限外濾過を行い、濾過液70Lを得た。合成吸着剤(三菱ケミカル株式会社製、SP-850)1リットルを樹脂塔(内径80mm、高さ400mm)に充填し、これに上記の濾過液のうち25Lを、流速20リットル/時間(SV=20.0(時間-1))で通液した。
【0071】
続いて、3.3リットルの精製水を、流速20リットル/時間(SV=20.0(時間-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。次に、溶出溶媒として60%エタノール水溶液(エタノール/水=60/40(体積/体積))2リットルを、流速2リットル/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液した。続けて、2リットルの精製水を流速2リットル/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。樹脂塔から溶出した画分を、ロータリーエバポレーターにて約10倍の濃度に減圧濃縮したのち、一晩凍結乾燥して、バガスの分解抽出物として、茶褐色の粉末40gを得た。これを抽出物Wとした。
【0072】
<抽出物Aの抗糖化活性評価(試験例1~2)>
試験例1:ヒト血清アルブミンモデルにおける抗糖化活性の評価
グルコース-ヒト血清アルブミン(HSA)の反応により生成されるAGEsに対するバガスの分解抽出物(抽出物A)の抗糖化活性(AGEs生成抑制作用)を調べた。
【0073】
(サンプル調製)
バガスの分解抽出物である抽出物Aを100mg/mLとなるように蒸留水で溶解し試験液原液を調製した。この試験原液を蒸留水で希釈して、0.01~100mg/mLの溶液を調製した。これを試験用のサンプルとした。陽性対照として、糖化反応阻害剤であるアミノグアニジンの水溶液(濃度3.0mg/mL)を調製した。
【0074】
(糖化反応条件)
0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.4)、8mg/mLヒト血清アルブミン(HSA、Sigma-Aldrich社製)、及び0.2mol/Lグルコース水溶液からなる反応液中に、調製した各濃度のサンプルを1/10濃度(反応終濃度)になるように添加し、60℃で40時間インキュベーションした。陰性対照としてサンプルの代わりに蒸留水を添加したものを用いた。陽性対照として上述のアミノグアニジン水溶液を用いた。なお、陽性対照に対するブランクとしてグルコースの代わりに蒸留水を添加したものを用いた。
【0075】
(抗糖化活性の測定)
糖化反応終了後、反応液に生成した蛍光性AGEsをマイクロプレートリーダー(SpectraMax i3、モレキュラーデバイス社)で測定した(励起波長370nm、蛍光波長440nm)。AGEsの生成阻害率(以下、単に「阻害率」ともいう)は、糖化反応においてサンプルを添加した反応液の蛍光強度をFとし、グルコース水溶液の代わりに蒸留水を添加してインキュベーションした反応液の蛍光強度をFとし、バガスの分解抽出物又はアミノグアニジンを添加せずにインキュベーションした反応液の蛍光強度をFとし、ブランクとして、バガスの分解抽出物又はアミノグアニジンを添加せずに、グルコース水溶液の代わりに蒸留水を添加してインキュベーションした反応液の蛍光強度をFとして、下記の式に従って算出した。
蛍光性AGEs阻害率(%)=(1-(F-F)/(F-F))×100
【0076】
バガスの分解抽出物(抽出物A)の各反応終濃度(0.1mg/mL、0.3mg/mL又は1mg/mL)における蛍光性AGEs(HSA)の阻害率を図1に示す。図1のとおり、抽出物Aは、濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(蛍光性AGEs(HSA)生成抑制作用)を示した。陽性対照であるアミノグアニジンの0.3mg/mLにおける蛍光性AGEs(HSA)の阻害率は81.2±1.4%であった。アミノグアニジンは、抗糖化活性(蛍光性AGEs(HSA)生成抑制作用)を有することが確認された。抽出物Aの各濃度におけるサンプルの阻害率から算出したIC50(50%生成阻害濃度)は、0.19mg/mLで、ヒト血清アルブミンモデルにおいて、抽出物Aは抗糖化活性を有していることが示された。
【0077】
試験例2:AGEs架橋切断試験(AGEs分解活性の評価)
次に、AGEs架橋切断試験により、バガスの分解抽出物(抽出物A)のAGEs分解活性を評価した。AGEs分解活性(AGEs架橋切断作用)は、公知の方法(例えば、Glycative Stress Research 2015年,2巻(2号),pp.58-66)である、αジケトン構造を有する1-フェニルー1,2-プロパンジオン(l-phenyl-1,2-propanedione:PPD)をモデル基質とした反応系を使用した方法で評価した。
【0078】
(サンプル調製)
バガスの分解抽出物である抽出物Aを20mg/mLとなるように蒸留水で溶解し、試験用のサンプルを調製した。
【0079】
(架橋切断反応条件)
0.16mol/Lのリン酸緩衝液(pH7.4)、2mmol/mLのPPDの組成の反応液中に、上記で調製したサンプルを1/2濃度(10mg/mL)になるように添加し、37℃で8時間インキュベーションした。陰性対照としてはサンプルの代わりに蒸留水を添加したものを用いた。陽性対照としてPTB(N-phenacylthiazoliumbromide)を用いた。反応液を20℃、3000×gで10分間遠心分離し、上清を得た。上清中の安息香酸量を逆相HPLCで分析した。反応液中の安息香酸量は、別途測定したサンプル中の安息香酸量を差し引いて求めた。1molのPPDは1molの安息香酸を生成することから、以下の式で架橋切断率を算出した。
架橋切断率(%)={(A-B)/C}×100
A:反応液中の安息香酸量
B:サンプル中の安息香酸量
C:反応に供したPPD量(基質量)
【0080】
(架橋切断試験結果)
サンプル及びPTB溶液(5mmol/L)における架橋切断率と、PTB(5mmol/L)を100%としたときのサンプルにおける架橋切断率の値(切断率相対値)を求めたところ、サンプルの架橋切断率は8.50、PTBの架橋切断率は20.1であり、サンプルの切断率相対値は42.29%であった。よって、抽出物AがAGEsの分解活性を有していることが示された。
【0081】
<抽出物Wの抗糖化活性評価(試験例3~4)>
試験例3:ヒト血清アルブミンモデルにおける抗糖化活性の評価
バガスの分解抽出物として上述の抽出物Wを用いたこと、サンプルの調製において蒸留水ではなくジメチルスルホキシド(DMSO)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして、抗糖化活性を評価した。陽性対照としては、アミノグアニジンの水溶液(最終濃度0.3mg/mL)を用いた。陽性対照であるアミノグアニジンの0.3mg/mLにおける蛍光性AGEs(HSA)の阻害率は74.6±0.8%であった。測定結果を図2に示す。また、抽出物Wの各濃度におけるサンプルの阻害率から算出したIC50(50%生成阻害濃度)は、0.14mg/mLで、抽出物Wは、抗糖化活性を有していることが示された。
【0082】
試験例4:AGEs架橋切断試験(AGEs分解活性の評価)
(サンプル調製)
バガスの分解抽出物である抽出物Wを50%DMSOで溶解し、20mg/mL溶液を調製した。この溶液を50%DMSOで段階希釈して、試験用のサンプルとした。陽性対照としては、10mmol/LのPTB(N-phenacylthiazoliumbromide)溶液を用いた。
【0083】
(架橋切断反応条件)
試験溶液又はPTB溶液(10mmol/L)と、10mmol/LのPPD溶液と、0.2mol/Lリン酸緩衝液(pH7.4)と、を5:1:4の割合で混合し、37℃で8時間反応させた(n=3)。反応終了後、塩酸を加えて反応停止させた。その後、反応液を20℃で3,000×gで10分間遠心分離し、上清中の安息香酸量を逆相HPLCで分析した。反応液中の安息香酸量は、別途測定したサンプル中の安息香酸量を差し引いて求めた。1molのPPDは1molの安息香酸を生成することから、以下の式で架橋切断率を算出した。架橋切断の相対値(切断率相対値)はPTBの架橋切断率を100としたときの、各濃度の架橋切断率の値(%)である。なお、測定装置としては、島津超高速液体クロマトグラフNexeraシステム(株式会社島津製作所製)を用いた。
架橋切断率(%)={(A-B)/C}×100
A:反応液中の安息香酸量
B:サンプル中の安息香酸量
C:反応に供したPPD量(基質量)
【0084】
(架橋切断試験結果)
サンプル及びPTB溶液(5mmol/L)における架橋切断率と、PTB(5mmol/L)を100%としたときのサンプルにおける架橋切断率の値(切断率相対値)を求めたところ、サンプルの架橋切断率は10.07、PTBの架橋切断率は22.4であり、サンプルの切断率相対値は44.87%であった。よって、抽出物WがAGEsの分解活性を有していることが示された。
図1
図2