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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240701BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240701BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240701BHJP
【FI】
H01L21/304 621D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019238063
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021106246
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】八木 理紗子
(72)【発明者】
【氏名】松下 隆幸
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特許第6882727(JP,B1)
【文献】特開2017-082067(JP,A)
【文献】特開2014-041978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体研磨用の研磨用組成物であって、
シリカ砥粒と、
ケイ酸と、
塩基性化合物と、
水とを含み、
前記シリカ砥粒の固形分の重量W1に対する前記研磨用組成物中のケイ酸イオンのSiO換算の重量W2の比W2/W1が0.5~2.0であり、
前記ケイ酸が、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸、メタ三ケイ酸、メタ四ケイ酸又はケイ酸水和物である、研磨用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の研磨用組成物であって、
前記塩基性化合物が、水酸化テトラメチルアンモニウムである、研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造において、超精密加工は極めて重要な技術である。近年LSIデバイスの微細化が進み、それに伴って精密研磨後の半導体ウェーハの表面粗度や平坦性への要求が厳しくなる傾向にある。これまで一次研磨では、主として研削加工量(研磨速度)に重点が置かれてきた。一方で、一次研磨後の半導体ウェーハの表面品質が、二次研磨や最終研磨後の表面品質に影響を及ぼすことが明らかとなってきた。そのため、現在では一次研磨においても、現状の研磨速度を維持しつつ、より高いレベルの表面品質の実現が求められている。
【0003】
研磨後の半導体ウェーハの表面品質を向上させる手段として、研磨傷や異物残りの原因となり得る砥粒の濃度を低くすることが有効である。しかし、砥粒の濃度を低くすると、研磨速度が小さくなるという問題がある。
【0004】
特開平9-306880号公報には、水溶性ケイ酸成分、コロイダルシリカ及びアルカリ成分を含有し、pHが8.5~13であるシリコン用研磨液組成物が開示されている。同公報には、アルカリ性コロイダルシリカ懸濁液にケイ酸カリウムやケイ酸ナトリウム等の水溶液ケイ酸成分を添加することで、コロイダルシリカの濃度を大幅に低減しても、シリコンウェーハ表面を効果的に研磨できると記載されている。
【0005】
特開2003-100670号公報には、研磨用粒子と、可溶性金属ケイ酸塩とを含み、研磨用粒子の固形分の重量(W1)に対する、可溶性金属ケイ酸塩中のシリカの重量(W2)の比(W2/W1)が0.001~0.08の範囲にある研磨材が開示されている。同公報には、研磨材に可溶性金属ケイ酸塩を配合することで、特に酸化膜基板の研磨速度を大きくできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-306880号公報
【文献】特開2003-100670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
砥粒の濃度によらず研磨速度を大きくする手段として、研磨用組成物中の塩基性化合物の濃度を高くして、エッチングによる加工量を大きくすることが考えられる。しかし、塩基性化合物の濃度を高くすると、砥粒が溶解して粒子径が変化する場合がある。砥粒の粒子径は、研磨速度、研磨後の半導体ウェーハの表面品質や平坦度に影響する。そのため、砥粒の粒子径を安定に保つ必要がある。
【0008】
本発明の課題は、砥粒の粒子径を安定に保つことができる研磨用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による研磨用組成物は、半導体研磨用の研磨用組成物であって、シリカ砥粒と、ケイ酸と、塩基性化合物と、水とを含み、前記シリカ砥粒の固形分の重量W1に対する前記研磨用組成物中のケイ酸イオンのSiO換算の重量W2の比W2/W1が0.5~2.0である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、砥粒の粒子径を安定に保つことができる研磨用組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、シリカ砥粒と、ケイ酸と、塩基性化合物と、水とを含む研磨用組成物において、シリカ砥粒の固形分の重量W1に対する研磨用組成物中のケイ酸イオンのSiO換算の重量W2の比W2/W1を所定の範囲に調整することで、シリカ砥粒の溶解を抑制し、シリカ砥粒の粒子径を安定に保つことができることを見出した。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づいて完成された。以下、本発明の一実施形態による研磨用組成物を詳述する。
【0013】
本発明の一実施形態による研磨用組成物は、シリカ砥粒と、ケイ酸と、塩基性化合物と、水とを含む。
【0014】
[シリカ砥粒]
シリカ砥粒は例えば、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカであり、なかでもコロイダルシリカが好適に用いられる。シリカ砥粒の粒子径や形状(会合度)は特に限定されない。シリカ砥粒は例えば、二次平均粒子径が20~150nmのものを用いることができる。
【0015】
シリカ砥粒の含有量は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物(原液)全体の0.15~20質量%である。研磨用組成物は、研磨時に10~100倍に希釈されて使用される。本実施形態による研磨用組成物は、シリカ砥粒の含有量が100~5000質量ppmになるように希釈して用いることが好ましい。
【0016】
[ケイ酸]
ケイ酸は、研磨用組成物中のケイ酸イオン濃度を調整する。ケイ酸は例えば、オルトケイ酸(HSiO)や、メタケイ酸(HSiO)、メタ二ケイ酸(HSiO)、メタ三ケイ酸(HSi)、メタ四ケイ酸(HSi11)である。ケイ酸はまた、ケイ酸塩やケイ酸水和物を溶解させることによって形成することもできる。
【0017】
ケイ酸は例えば、ゾル-ゲル法によって作製された高純度のコロイダルシリカを、アミン化合物の水溶液に溶解させることによって形成することもできる。
【0018】
ケイ酸の濃度は、シリカ砥粒の固形分の重量W1に対する研磨用組成物中のケイ酸イオンのSiO換算の重量W2の比W2/W1が所定の範囲となるように調整することが好ましい。W2/W1については後述する。
【0019】
[塩基性化合物]
塩基性化合物は、半導体ウェーハの表面と効率よく反応し、化学機械研磨(CMP)の研磨性能に貢献する。塩基性化合物は、例えば、アミン化合物、無機アルカリ化合物等である。
【0020】
アミン化合物は、例えば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム及びその水酸化物、複素環式アミン等である。具体的には、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ピペラジン塩酸塩、炭酸グアニジン等が挙げられる。なかでもTMAHが好適に用いられる。
【0021】
無機アルカリ化合物は、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の塩等が挙げられる。無機アルカリ化合物は、具体的には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等である。
【0022】
上述した塩基性化合物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。上述した塩基性化合物の中でも、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の塩、アンモニア、アミン、アンモニウム塩、及び第四級アンモニウム水酸化物類が好ましく、第四級アンモニウム水酸化物類が特に好ましい。
【0023】
塩基性化合物の含有量(二種以上含有する場合は、その総量)は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物(原液)全体の0.1~7.0質量%である。塩基性化合物の含有量の下限は、好ましくは1.5質量%である。塩基性化合物の含有量の上限は、好ましくは6質量%である。
【0024】
[W2/W1]
本実施形態による研磨用組成物は、シリカ砥粒の固形分の重量W1に対する研磨用組成物中のケイ酸イオンのSiO換算の重量W2の比W2/W1が0.5~2.0である。
【0025】
シリカ砥粒の固形分の重量W1に対して研磨用組成物中のケイ酸イオンのSiO換算の重量W2が小さすぎると、すなわちW2/W1が小さすぎると、シリカ砥粒の溶解を十分に抑制することができず、シリカ砥粒の粒子径を安定に保つことが困難になる。一方、シリカ砥粒の固形分の重量W1に対して研磨用組成物中のケイ酸イオンのSiO換算の重量W2が大きすぎると、すなわちW2/W1が大きすぎると、シリカ砥粒が凝集しやすくなる。W2/W1の下限は、より好ましくは0.52であり、さらに好ましくは0.55である。W2/W1の上限は、より好ましくは1.5であり、さらに好ましくは1.0である。
【0026】
シリカ砥粒の固形分の重量W1は、遠心分離機によって研磨用組成物中の固形分を抽出し、さらに乾燥機で水分を除くことで測定することができる。研磨用組成物中のケイ酸イオンの重量は、遠心分離した上澄み液を適当な濃度に希釈した後、イオンクロマトグラフィーを用いて測定することができる。SiO換算の重量W2は、測定された重量に、SiOとSiO との分子量の比1.266を除すことで求める。
【0027】
本実施形態による研磨用組成物は、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。本実施形態による研磨用組成物のpHは、好ましくは8.0~13.0である。
【0028】
本実施形態による研磨用組成物は、上記の他、キレート剤、水溶性高分子、界面活性剤等、研磨用組成物の分野で一般に知られた配合剤を任意に配合することができる。
【0029】
本実施形態による研磨用組成物は、シリカ砥粒、ケイ酸、塩基性化合物その他の配合材料を適宜混合して水を加えることによって作製される。本実施形態による研磨用組成物は、あるいは、シリカ砥粒、ケイ酸、塩基性化合物その他の配合材料を、順次、水に混合することによって作製される。これらの成分を混合する手段としては、ホモジナイザー、超音波等、研磨用組成物の技術分野において常用される手段が用いられる。
【0030】
本実施形態による研磨用組成物はまた、予めゾル-ゲル法等によって作製された高純度のコロイダルシリカをアミン化合物の水溶液に溶解させてケイ酸の水溶液を調整し、この水溶液とシリカ砥粒とを混合することによって製造することもできる。この方法によれば、純度のケイ酸が得られるため、例えば金属イオン等による半導体ウェーハの汚染を抑制することができる。
【0031】
以上で説明した研磨用組成物は、適当な濃度となるように水で希釈した後、半導体の研磨に用いられる。本実施形態による研磨用組成物は、シリコンウェーハ(ベアウェーハ)の研磨、特に一次研磨に好適に用いることができる。
【実施例
【0032】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0033】
以下の8種類の研磨用組成物を作製した。
【0034】
[組成物1-1]
純水(DIW、以下同じ)にTMAH3.75重量部を溶解させた水溶液に、ゾル-ゲル法によって作製された高純度コロイダルシリカ5.0重量部を投入し、このコロイダルシリカを完全に溶解させてケイ酸の水溶液を調整した。このケイ酸の水溶液に、さらにシリカ砥粒(二次平均粒子径:80.7nm、NMR比表面積:20.2m/g)10.5重量部、及びTMAH0.25重量部を加え、全体で100重量部となるように純水を加えて研磨用組成物とした。
【0035】
[組成物1-2]
組成物1-1のシリカ砥粒と同じシリカ砥粒(二次平均粒子径:80.7nm、NMR比表面積:20.2m/g)15.5重量部、TMAH4.0重量部、純水80.5重量部を混合して研磨用組成物とした。
【0036】
[組成物2-1]
組成物1-1のシリカ砥粒とは異なるシリカ砥粒(二次平均粒子径:123.0nm、NMR比表面積:29.0m/g)を用いた以外は、組成物1-1と同様にして研磨用組成物を作製した。
【0037】
[組成物2-2]
組成物2-1のシリカ砥粒と同じシリカ砥粒(二次平均粒子径:123.0nm、NMR比表面積:29.0m/g)15.5重量部、TMAH4.0重量部、純水80.5重量部を混合して研磨用組成物とした。
【0038】
[組成物3-1]
組成物1-1のシリカ砥粒とは異なるシリカ砥粒(二次平均粒子径:106.7nm、NMR比表面積:16.6m/g)を用いた以外は、組成物1-1と同様にして研磨用組成物を作製した。
【0039】
[組成物3-2]
組成物3-1のシリカ砥粒と同じシリカ砥粒(二次平均粒子径:106.7nm、NMR比表面積:16.6m/g)10.5重量部、TMAH4.0重量部、純水85.5重量部を混合して研磨用組成物とした。
【0040】
[組成物4-1]
組成物1-1のシリカ砥粒とは異なるシリカ砥粒(二次平均粒子径:122.8nm、NMR比表面積:38.4m/g)を用いた以外は、組成物1-1と同様にして研磨用組成物を作製した。
【0041】
[組成物4-2]
組成物4-1のシリカ砥粒と同じシリカ砥粒(二次平均粒子径:122.8nm、NMR比表面積:38.4m/g)10.5重量部、TMAH4.0重量部、純水85.5重量部を混合して研磨用組成物とした。
【0042】
[研磨用組成物中のシリカ砥粒の二次平均粒子径]
研磨用組成物を作製した後、組成物1-1、1-2、2-1、及び2-2は常温で2ヵ月保持後、組成物3-1及び3-3は50℃で5日保持(常温で2ヵ月保持に相当)後、動的光散乱法によって研磨用組成物中のシリカ砥粒の二次平均粒子径を測定した。二次平均粒子径の測定は、大塚電子株式会社製ELS-Zを使用して行った。
【0043】
W2/W1の値を、下記の式から近似的に算出した。
W1=シリカ砥粒の配合量×(研磨用組成物中のシリカ砥粒の二次平均粒子径/配合したシリカ砥粒の二次平均粒子径)
W2=シリカ砥粒の配合量+ケイ酸イオンの配合量(SiO換算)-W1
【0044】
[研磨速度]
これらの研磨用組成物を使用して、直径200mmのシリコンウェーハ(P型、(100)面)の研磨を行った。研磨装置は、ニッタ・ハース株式会社製の片面研磨装置を使用した。研磨パッドは、スウェードの研磨パッド(SUBA800)を使用した。研磨用組成物を31倍に希釈し、300mL/分の供給速度で供給した。定盤回転速度:115rpm、キャリア回転速度:100rpm、研磨荷重:300g/cmの条件で5分間の研磨を行って、加工量から平均研磨速度を算出した。
【0045】
結果を表1に示す。なお、表1のpHは、二次平均粒子径測定時に測定した値である。
【0046】
【表1】
【0047】
組成物1-1と組成物1-2との比較、及び組成物2-1と組成物2-2との比較から、W2/W1を0.5以上にすることで、シリカ砥粒の粒子径の減少量を低減することができる。また、配合したシリカ砥粒+ケイ酸(SiO換算)の量が同じであっても、W2/W1を0.5以上にすることで、研磨速度を大きくできることが分かる。
【0048】
組成物3-1と組成物3-2との比較、及び組成物4-1と組成物4-2との比較から、W2/W1を0.5以上にすることで、シリカ砥粒の粒子径の減少量を低減することができる。また、配合したシリカ砥粒の量が同じであっても、W2/W1を0.5以上にすることで、研磨速度を大きくできることが分かる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。