(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】液体残量検知機構および液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
B41J2/175 307
B41J2/175 315
B41J2/175 141
(21)【出願番号】P 2020062944
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】久永 あかね
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-095120(JP,A)
【文献】特開2012-000861(JP,A)
【文献】特開2017-105169(JP,A)
【文献】特開2016-165803(JP,A)
【文献】特開2004-338105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留するタンクの貯留室に配置されている回動部材と、センサと、を有し、
前記回動部材は軸を中心として回動可能であり、前記液体から浮力を受けるフロートと、前記センサによって検知可能な被検知部と、前記軸が挿入される貫通孔と、を含み、
前記センサは、前記回動部材の回動時における前記被検知部の軌跡の一部に対向する位置に配置されており、
少なくとも一部が前記軸の外周面と前記貫通孔の内周面との間に位置して前記液体を保持可能な液溜まり部を有
し、
前記液溜まり部の少なくとも一部は、前記軸の外周面に設けられた複数の凸部の間の空間からなり、
複数の点状の前記凸部が前記軸の外周面に分散して配置されていることを特徴とする液体残量検知機構。
【請求項2】
前記液溜まり部の少なくとも一部は、前記軸の外周面の鉛直方向下側の部分に設けられている、請求項
1に記載の液体残量検知機構。
【請求項3】
前記液溜まり部の少なくとも一部は、前記貫通孔の内周面に設けられた凹部からなる、請求項1
または2に記載の液体残量検知機構。
【請求項4】
前記液溜まり部の少なくとも一部は、前記貫通孔の内周面に設けられ前記軸の長手方向に沿って延びる溝からなる、請求項1
または2に記載の液体残量検知機構。
【請求項5】
前記液溜まり部の少なくとも一部は、前記貫通孔の内周面に設けられた複数の凸部の間の空間からなる、請求項1
または2に記載の液体残量検知機構。
【請求項6】
前記凸部は前記軸の長手方向に沿って延びている、請求項
5に記載の液体残量検知機構。
【請求項7】
液体を貯留するタンクの貯留室に配置されている回動部材と、センサと、を有し、
前記回動部材は軸を中心として回動可能であり、前記液体から浮力を受けるフロートと、前記センサによって検知可能な被検知部と、前記軸が挿入される貫通孔と、を含み、
前記センサは、前記回動部材の回動時における前記被検知部の軌跡の一部に対向する位置に配置されており、
少なくとも一部が前記軸の外周面と前記貫通孔の内周面との間に位置して前記液体を保持可能な液溜まり部を有し、
前記液溜まり部の少なくとも一部は、前記貫通孔の内周面に設けられた複数の凸部の間の空間からなり、
複数の点状の前記凸部が前記貫通孔の内周面に分散して配置されている
ことを特徴とする液体残量検知機構。
【請求項8】
前記液溜まり部の少なくとも一部は、前記貫通孔の内周面の鉛直方向下側の部分に設けられている、請求項
3から
7のいずれか1項に記載の液体残量検知機構。
【請求項9】
液体を貯留するタンクの貯留室に配置されている回動部材と、センサと、を有し、
前記回動部材は軸を中心として回動可能であり、前記液体から浮力を受けるフロートと、前記センサによって検知可能な被検知部と、前記軸が挿入される貫通孔と、を含み、
前記センサは、前記回動部材の回動時における前記被検知部の軌跡の一部に対向する位置に配置されており、
少なくとも一部が前記軸の外周面と前記貫通孔の内周面との間に位置して前記液体を保持可能な液溜まり部を有し、
前記液溜まり部の少なくとも一部は、前記貫通孔の内周面に設けられた切り欠き部からなり、前記切り欠き部は外部に開口している
ことを特徴とする液体残量検知機構。
【請求項10】
前記切り欠き部の少なくとも一部は、前記貫通孔の内周面の鉛直方向上側の部分に設けられて、鉛直方向上方に開口している、請求項
9に記載の液体残量検知機構。
【請求項11】
液体を貯留するタンクの貯留室に配置されている回動部材と、センサと、を有し、
前記回動部材は軸を中心として回動可能であり、前記液体から浮力を受けるフロートと、前記センサによって検知可能な被検知部と、前記軸が挿入される貫通孔と、を含み、
前記センサは、前記回動部材の回動時における前記被検知部の軌跡の一部に対向する位置に配置されており、
少なくとも一部が前記軸の外周面と前記貫通孔の内周面との間に位置して前記液体を保持可能な液溜まり部を有し、
前記液溜まり部は、前記貫通孔の内周面の鉛直方向下側の部分のみに設けられていることを特徴とする液体残量検知機構。
【請求項12】
前記フロートは前記液体よりも比重が小さく、前記貫通孔は前記フロートの一側部に設けられている、請求項1から
11のいずれか1項に記載の液体残量検知機構。
【請求項13】
前記被検知部は、前記フロートの前記一側部と反対側の側部に接続されている、請求項
12に記載の液体残量検知機構。
【請求項14】
前記タンクは、前記液体としてインクを収容する、請求項1から
13のいずれか1項に記載の液体残量検知機構。
【請求項15】
請求項1から
14のいずれか1項に記載の液体残量検知機構と、前記タンクと、前記タンクに対して着脱可能であり液体貯留室を有するカートリッジと、前記タンクの前記貯留室から供給された前記液体を外部に吐出する液体吐出ヘッドと、を有することを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体残量検知機構および液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を貯留する貯留室を有するタンクと、貯留室から供給された液体を吐出する液体吐出ヘッドとを備えた液体吐出装置が公知である(特許文献1)。液体吐出装置には、貯留室に貯留された液体の残量を検知する液体残量検知機構を備えたものがある。残量検知機構の一例としては、貯留室内に、液体よりも比重が小さい回動部材が、軸を中心として回動可能に配置された構成のものがある。貯留室内の液体の液面が所定の高さ以上である場合、回動部材は、液体から浮力を受けて液面上に上昇した位置にある。貯留室内の液体が減少し液面が下降すると、それに伴って回動部材も重力によって下降するように回動する。この回動部材の回動をセンサによって光学的に検知して、貯留室内の液体の残量を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した液体吐出装置において、タンクの貯留室内の液体の残量が減少すると、液体貯留室を備えたカートリッジが装着され、カートリッジの液体貯留室内の液体がタンクの貯留室に供給される。タンクの貯留室内に液体が供給されると、貯留室内の液面が上昇し、それに伴って回動部材が再び上昇するように回動しようとする。しかし、貯留室内の液面が低下して軸よりも下方に位置している状態で放置されると、軸の外周面と、その軸が挿入されている貫通孔の内周面とに付着している少量の液体が固化し、固化した液体が軸の外周面と貫通孔の内周面とを互いに固定することがある。その結果、貯留室内に液体が供給されても回動部材が円滑に回動できず、液体の残量検知が困難になるおそれがある。
【0005】
本発明は、前述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体の固化によって貯留室内の液体の残量の検知が困難になることを抑制できる液体残量検知機構および液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液体残量検知機構は、液体を貯留するタンクの貯留室に配置されている回動部材と、センサと、を有し、回動部材は軸を中心として回動可能であり、液体から浮力を受けるフロートと、センサによって検知可能な被検知部と、軸が挿入される貫通孔と、を含み、センサは、回動部材の回動時における被検知部の軌跡の一部に対向する位置に配置されており、少なくとも一部が軸の外周面と貫通孔の内周面との間に位置して液体を保持可能な液溜まり部を有し、液溜まり部の少なくとも一部は、軸の外周面に設けられた複数の凸部の間の空間からなり、複数の点状の凸部が軸の外周面に分散して配置されていることを特徴とする。
本発明の液体残量検知機構は、液体を貯留するタンクの貯留室に配置されている回動部材と、センサと、を有し、前記回動部材は軸を中心として回動可能であり、前記液体から浮力を受けるフロートと、前記センサによって検知可能な被検知部と、前記軸が挿入される貫通孔と、を含み、前記センサは、前記回動部材の回動時における前記被検知部の軌跡の一部に対向する位置に配置されており、少なくとも一部が前記軸の外周面と前記貫通孔の内周面との間に位置して前記液体を保持可能な液溜まり部を有し、前記液溜まり部の少なくとも一部は、前記貫通孔の内周面に設けられた複数の凸部の間の空間からなり、複数の点状の前記凸部が前記貫通孔の内周面に分散して配置されていることをもう1つの特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体の固化によって貯留室内の液体の残量の検知が困難になることを抑制できる液体残量検知機構および液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態の液体吐出装置の要部を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示す液体吐出装置の液体残量検知機構の回動部材および支持部材を示す拡大正面図である。
【
図3】
図2に示す回動部材および支持部材の要部を示す断面図である。
【
図4】
図1に示す液体吐出装置の液体残量検知状態を示す断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態の回動部材の要部を示す断面図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態の回動部材の要部を示す断面図である。
【
図7】本発明の第4の実施形態の回動部材の要部を示す断面図である。
【
図8】本発明の第5の実施形態の回動部材の要部を示す断面図である。
【
図9】本発明の第6の実施形態の回動部材および支持部材の要部を示す断面図である。
【
図10】本発明の第7の実施形態の回動部材の要部を示す断面図である。
【
図11】本発明の第8の実施形態の回動部材の要部を示す断面図である。
【
図12】本発明の第9の実施形態の回動部材の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。各図面において同じ機能を有する部分には同じ符号を付け、説明を省略する場合がある。以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、構成および方法を適宜に変更できる。
【0010】
図1は、本発明の第1の実施形態の液体吐出装置を模式的に示している。この液体吐出装置は、液体吐出ヘッド1の吐出口(不図示)から外部の被記録媒体2に向けて液体を吐出して被記録媒体2に記録を行うインクジェット記録装置である。液体吐出ヘッド1には、タンク20の貯留室21から液体が供給される。タンク20には、液体吐出装置の筐体(不図示)およびタンク20に対して着脱可能なカートリッジ10から液体が供給される。カートリッジ10は、液体貯留室11と大気連通口12と液体供給部13とを有する。液体貯留室11は、被記録媒体2に向けて吐出される液体の一例であるインクを収容する。大気連通口12は、液体貯留室11を大気に連通させる。液体供給部13は、液体貯留室11に設けられた開口が栓部材によって塞がれた構成である。
【0011】
タンク20は、貯留室21と、大気連通口22と、ニードル23と、センサ24と、回動部材25と、支持部材27とを有する。貯留室21は、大気連通口22により、大気と連通している。ニードル23は貯留室21から突出する中空の針であり、カートリッジ10の液体供給部13の栓部材に突き刺さって、カートリッジ10の液体貯留室11とタンク20の貯留室21とを接続する。従って、カートリッジ10の液体貯留室11内の液体が、液体供給部13およびニードル23を介して、タンク20の貯留室21へ流通可能である。タンク20の貯留室21は、カートリッジ10から供給された液体を貯留する。
【0012】
図2は、
図1に示す液体吐出装置の液体残量検知機構の回動部材25の拡大正面図である。
図3(A)は
図2のA-A線断面図であり、
図3(B)は
図3(A)のB-B線断面図である。回動部材25は、フロート25aと被検知部25bと軸25cとを有する。フロート25aの一側部に貫通孔25dが設けられており、貫通孔25dに軸25cが挿入されている。それにより、フロート25aの回動するストロークが大きい。貫通孔25dが設けられた一側部と反対側の側部において、フロート25aに被検知部25bが接続されている。フロート25aは、貯留室21に貯留された液体よりも比重が小さく、液体から浮力を受ける。フロート25aは、液体よりも比重が小さい材料によって形成されていてもよい。また、フロート25aは、液体以上の比重を有する材料から構成されていても、中空構造であって内部に空気を収容した浮き袋状の部材であって、フロート25a全体として液体よりも比重が小さくなっていればよい。貯留室21の下部に支持部材27が固定的に設けられている。支持部材27には孔部27aが設けられている。軸25cは、フロート25aの貫通孔25dと支持部材27の孔部27aとに挿入されて、貫通孔25dおよび孔部27aを貫通している。回動部材25は、貯留室21内で支持部材27によって支持されるとともに、軸25cを中心として回動可能である。フロート25aは回動部材25の下部に位置し、被検知部25bは上部に位置している。ただし、回動部材25は、支持部材27以外の部材に支持されていてもよい。被検知部25bは、後述するセンサ24の発光部から出射した光を遮る材料によって形成されている。
【0013】
センサ24は、発光部と受光部を有する光学センサであって、発光部から出射した光が受光部で受光されたか否かに応じて異なる検知信号を出力する。センサ24は、貯留室21内において、所定の高さの位置であって、被検知部25bと対向可能な位置、具体的には、回動部材25の回動時に被検知部25bが通る軌跡の一部に対向する位置にある。従って、センサ24の発光部から出射した光が回動部材25の被検知部25bによって遮断されたか否かを検知することによって、回動部材25の回動状態を検知することができる。こうして検知された回動部材25の回動状態から、貯留室21に貯留された液体の液面Lの位置を知ることができる。例えば、センサ24は、発光部から出力された光が受光部で受光できない場合、すなわち、受光強度が所定の強度未満である場合に、ローレベル信号(信号レベルが閾値未満である信号)を制御部(不図示)へ出力する。一方、センサ24は、発光部から出力された光が受光部で受光された場合、すなわち、受光強度が所定の信号強度以上である場合に、ハイレベル信号(信号レベルが閾値レベル以上である信号)を制御部(不図示)へ出力する。制御部は、ハイレベル信号を受信すると、カートリッジ10に貯留されている液体が残り少ないか、または無くなっていることを検知する。そして、制御部は、カートリッジ10の交換が必要であることを、ディスプレイの表示や、LEDの点灯や、ブザーの発音等によってユーザーに報知する。
【0014】
少なくとも一部が回動部材25の軸25cと貫通孔25dとの間に位置する、液体を保持可能な液溜まり部28が設けられている。一例として、本実施形態では、
図3に示すように、軸25cの外周に切り欠き部が設けられ、この切り欠き部と貫通孔25dの内周面との間に空間が生じている。軸25cが液体中に浸漬された状態で、この空間内に液体が浸入してそのまま保持される。すなわち、この切り欠き部からなる空間が液溜まり部28である。
【0015】
本実施形態における液体量の検知方法について説明する。
図4(A)に示すように、カートリッジ10が筐体に装着され、タンクのニードル23がカートリッジ10の液体供給部13の栓部材に突き刺さる。それにより、中空のニードル23を介して、カートリッジ10の液体貯留室11内の液体が、タンク20の貯留室21に流入する。そして、カートリッジ10の液体貯留室11内の液面Lの高さと、タンク20の貯留室21内の液面の高さが等しくなる。タンクの貯留室21内に十分な量の液体が存在する時には、液面Lの高さが高く、液体から浮力を受けたフロート25aは上方へ移動しようとして回動部材25全体が軸25cを中心として回動する(
図4(A)の矢印にて図示)。回動部材25の回動によって、被検知部25bがセンサ24の発光部と受光部との間の位置に来る。センサ24の発光部から光を出射すると、その光は被検知部25bによって遮られる。その結果、センサ24の受光部が光を受光せず、センサ24はローレベル信号を制御部へ出力する。制御部はローレベル信号を受信して、タンク20の貯留室21内に十分な量の液体が存在すると判定する。この時、回動部材25の軸25cは液体中に浸漬されており、液溜まり部28は液体で満たされる。
【0016】
液体吐出ヘッド1による液体吐出が行われると、タンク20の貯留室21およびカートリッジ10の液体貯留室11の内部の液体が減少する。液体が減少して、
図4(B)に示すように、タンク20の貯留室21内の液面Lが、回動部材25のフロート25aの下方に来ると、フロート25aは液面Lの下降に追随し、重力によって下方に移動しようとする。その結果、回動部材25全体が回動する(
図4(B)の矢印にて図示)。回動部材25の回動によって、被検知部25bがセンサ24の発光部と受光部との間の位置から退避する。センサ24の発光部から光を出射すると、その光は被検知部25bによって遮られず、受光部によって受光される。そこで、センサ24はハイレベル信号を制御部へ出力する。制御部はハイレベル信号を受信して、タンク20の貯留室21内の液体が減少したと判定する。そして、制御部は、ディスプレイの表示やLEDの点灯やブザーの発音等によって、カートリッジ10の交換の必要性を報知する。
【0017】
このようにタンク20の貯留室21内の液体が減少しても、
図3(A),3(B)に示すように、液溜まり部28内の液体は、回動部材25の軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との間に保持されたままである。この液溜まり部28の機能について説明する。前述したように、タンク20の貯留室21内の液体が減少して、制御部がカートリッジ10の交換の必要性を報知しても、カートリッジ10が交換されないままで放置される可能性がある。そのような場合に、液溜まり部28が存在しない構成では、残留する少量の液体中の溶媒が蒸発して固体成分のみが残り、液体が固化することがある。特に、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との間の小さな隙間(遊び)に存在する液体は量が少ないため、大気に触れると溶媒が蒸発して固化しやすい。軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面とに接触した状態の液体が固化すると、固化した液体が軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面とを互いに固定して、フロート25aが円滑に回動できなくなる可能性がある。そうすると、カートリッジ10が交換されて新しい液体がカートリッジ10からタンク20の貯留室に流入して、フロート25aが液体から浮力を受けても、固化した液体に固定されて回動部材25が回動できない。その結果、センサ24および被検知部25bを用いた液体の残量検知が困難になり、制御部が適切なタイミングでカートリッジ10の交換の必要性を報知することができなくなる。また、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との間の小さな隙間(遊び)に液体が存在しないと、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との摩擦によって円滑な回動が困難になることがある。さらに、軸25cと貫通孔25dの形状および寸法の精度によっては、両者の間にがたつきが生じて回動が円滑に行われないこともある。
【0018】
これに対し、本実施形態では、軸25cと貫通孔25dとの間に液溜まり部28が設けられている。タンク20の貯留室21内の液体が減少しても、液溜まり部28には液体が保持される。例えば
図3に示す例では軸25cの外周面を切り欠いて液溜まり部28を形成しているため、液溜まり部28にはある程度の量の液体が存在する。液溜まり部28が存在しない場合に比べて、軸25cと貫通孔25dとの間に存在する液体が多いため、液体が大気に接しても、溶媒が蒸発して液体が固化するおそれが小さい。また、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との間に液体が存在すると、この液体が潤滑剤の役割を果たし、軸25cが貫通孔25d内で円滑に回動しやすい。このように、本実施形態によると、タンク20の貯留室21内の液体の残量が少なくなり、回動部材25の軸25cが露出して大気に接触しても、回動部材25が円滑に回動可能な状態が維持される。従って、貯留室21内の液体の残量が減少してカートリッジ10が交換された時に、軸25cが円滑に回動でき、センサ24および被検知部25bを用いた液体の残量検知が行える。その結果、適切なタイミングで制御部がカートリッジ10の交換の必要性を報知することが可能である。すなわち、本実施形態では、軸25cと貫通孔25dとの間に液溜まり部28が設けられているため、液体残量が検知不能になることを抑えられる。
【0019】
図3に示す液溜まり部28は、軸25cの外周面に設けられた少なくとも1つの切り欠き部からなる。タンク20の貯留室21内の液面Lが低下しても、貫通孔25dと軸25cの間の液溜まり部28に液体が保持される。液溜まり部28となる切り欠き部を設ける位置は、軸25cの外周面であって貯留室21内に開放されていればどこであってもよい。軸25cの外周面に複数の液溜まり部28を設けてもよい。液溜まり部28内に保持される液体が大気に触れるタイミングを遅くして、溶媒の蒸発をより抑えるために、液溜まり部28は軸25cの外周面の鉛直方向下側(貫通孔25dの底面側)の部分に設けられることがより好ましい。
【0020】
本発明の液溜まり部は、前述したように軸25cの外周面の一部が切り欠かれた構成に限定されない。例えば、
図5に示す本発明の第2の実施形態では、軸25cの外周面に設けられた凹部によって液溜まり部29が構成されている。本実施形態の液溜まり部29は、軸25cの外周面から中心部に向かって窪む凹部状であるため、保持した液体が液溜まり部29の周囲に流出しにくい。従って、液体の固化を防いで回動部材25の円滑な回動を維持し、液体の残量検知を行える信頼性が高い。液溜まり部29の数および位置は限定されず、
図5(A),5(B)に例示するように任意の位置に任意の数の液溜まり部29を形成すればよい。
【0021】
図6に示す本発明の第3の実施形態では、軸25cの外周面に設けられて軸25cの長手方向に沿って延びる溝によって液溜まり部30が構成されている。本実施形態の溝状の液溜まり部30によると、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との接触面積が小さくなる。そのため、仮に軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との間の液体が固化しても、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面とを互いに固定するには至らず、回動部材25が回動可能な状態が維持されやすい。溝状の液溜まり部の断面形状は特に限定されず、
図6(A)に示すような矩形、
図6(B)に示すような三角形、
図6(C)に示すような略半円形など、任意の形状であってよい。
【0022】
図7に示す本発明の第4の実施形態の液溜まり部31は、軸25cの内部に位置する保持空間31aと、軸25cの外周面から保持空間31aに繋がる導入部31bとを有している。本実施形態によると、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との間に存在する液体を保持空間31aに導いて、多量の液体を保持空間31a内に保持することができる。保持空間31a内に保持されている多量の液体は大気に曝されないため、溶媒の蒸発が抑制され、液体の増粘や固化を抑制することができる。また、軸25cの外周面のうち、貫通孔25dの内周面と接する摺動面の面積が大きいため、回動部材25が円滑に回動しやすい。保持空間31aは軸25cの断面中心付近に設けられることが好ましい。
図7(A)~7(C)に示すように、導入部31bは任意の位置に任意の数だけ形成すればよい。
【0023】
図8に示す本発明の第5の実施形態では、軸25cの外周面に複数の凸部32が設けられ、外周面上で複数の凸部32の間に位置する部分(空間)が液溜まり部33になっている。貫通孔25dは凸部32を収容できる大きさの内径を有している。凸部32は、軸25cの外周面上に1個以上設けられており、
図8(A)に示すように軸25cの長手方向に沿って延びていてもよい。また、
図8(B)に示すように、複数の点状の凸部32が分散して配置されていてもよい。本実施形態によると、軸25cの外周面の外側に液溜まり部33が設けられるため、多量の液体を保持することができる。そして、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との接触面積が小さく、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面とが互いに固定される可能性が低く、回動部材25が回動可能な状態が維持されやすい。
【0024】
図9に示す本発明の第6の実施形態では、軸25cの外周面には凹部も凸部も形成されておらず、貫通孔25dの内周面に、凹部、または軸25cの長手方向に沿って延びる溝からなる液溜まり部34が設けられている。
図9(A)は本実施形態の回動部材25および支持部材27を示す拡大正面図であり、
図9(B)は
図9(A)のC-C線断面図である。
図9(C)~(F)は、本実施形態の様々な変形例の、
図9(A)のC-C線と同じ位置で切断した断面図である。本実施形態でも、タンク20の貯留室21内に十分な量の液体が存在して軸25cは液体中に浸漬されている時に、液溜まり部34は液体で満たされる。そして、タンク20の貯留室21内の液面Lが低下しても、液溜まり部34に液体が保持される。
図9(B)~9(F)に示すように、液溜まり部34の形状や位置や数は任意に変更可能である。液溜まり部34内に保持される液体が大気に触れるタイミングを遅くして、溶媒の蒸発をより抑えるために、液溜まり部34は貫通孔25dの内周面の鉛直方向下側(底面側)に設けられることがより好ましい。
【0025】
図10に示す本発明の第7の実施形態では、貫通孔25dの内周面の一部が切り欠かれた切り欠き部によって液溜まり部35が形成されている。切り欠き部は、貫通孔25dの内周面に設けられ、外部に開口している。本実施形態によると、容易に多量の液体を保持することができる。液溜まり部35を構成する切り欠き部は、貫通孔25dの内周面に1箇所以上設けられている。切り欠き部は軸25cの長手方向に沿って延びていてもよいが、液体の保持の信頼性を高くするためには、切り欠き部は軸25cの全長に亘って延びておらず、軸25cの長手方向において部分的に切り欠かれた形状であることが好ましい。
図10(A),10(B)に示すように、切り欠き部の大きさや数は限定されず、任意に設定可能である。また、
図10(C)に示すように、複数の切り欠き部が、貫通孔25dの内周面において周方向に並んで配置されていてもよい。いずれの構成でも、液溜まり部35を構成する切り欠き部の少なくとも一部は、液体を保持するために、貫通孔25dの鉛直方向上側(上面側)の部分に設けられて、鉛直方向上方に開口していることが好ましい。
【0026】
図11に示す本発明の第8の実施形態では、貫通孔25dの内周面に複数の凸部36が設けられ、内周面上で複数の凸部36の間に位置する部分(空間)が液溜まり部37になっている。貫通孔25dの内周面は凸部36によって狭まっているが、この狭くなった領域内に軸25cが挿入できるような大きさに、貫通孔25dおよび凸部36が形成されている。凸部36は、貫通孔25dの内周面上に1個以上設けられており、
図11(A)に示すように軸25cの長手方向に沿って延びていてもよい。また、
図11(B)に示すように、複数の点状の凸部36が分散して配置されていてもよい。本実施形態によると、液溜まり部37に多量の液体を保持することができる。そして、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との接触面積が小さく、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面とが互いに固定される可能性が低く、回動部材25が回動可能な状態が維持されやすい。
【0027】
図12に示す本発明の第9の実施形態では、軸25cの外周面に液溜まり部が設けられるとともに、貫通孔25dの内周面にも液溜まり部が設けられている。便宜上、軸25cの外周面の液溜まり部を第1の液溜まり部と称し、貫通孔25dの内周面の液溜まり部を第2の液溜まり部と称する場合もある。
図12(A)に示す構成では、
図5(B)に示す第2の実施形態と同様に、軸25cの外周面に設けられた凹部によって液溜まり部29が構成されている。さらに、
図9(C)に示す第6の実施形態と同様に、貫通孔25dの内周面に設けられた凹部によって液溜まり部34が構成されている。この構成によると、前述した第2の実施形態と同様な効果と第6の実施形態と同様な効果とが得られる。
【0028】
図12(B)に示す構成では、
図8(A)に示す第5の実施形態と同様に、軸25cの外周面に凸部32と液溜まり部33とが設けられている。さらに、
図9(C)に示す第6の実施形態と同様に、貫通孔25dの内周面に設けられた凹部によって液溜まり部34が構成されている。この構成によると、前述した第5の実施形態と同様な効果と第6の実施形態と同様な効果とが得られる。
【0029】
図12(C)に示す構成では、
図5(B)に示す第2の実施形態と同様に、軸25cの外周面に設けられた凹部によって液溜まり部29が構成されている。さらに、
図11(A)に示す第8の実施形態と同様に、貫通孔25dの内周面に凸部36と液溜まり部37とが設けられている。この構成によると、前述した第2の実施形態と同様な効果と第8の実施形態と同様な効果とが得られる。
【0030】
図12(D)に示す構成では、
図8(A)に示す第5の実施形態と同様に、軸25cの外周面に凸部32と液溜まり部33とが設けられている。さらに、
図11(A)に示す第8の実施形態と同様に、貫通孔25dの内周面に凸部36と液溜まり部37とが設けられている。この構成によると、前述した第5の実施形態と同様な効果と第8の実施形態と同様な効果とが得られる。
【0031】
このように本実施形態では、軸25cの外周面に液溜まり部が設けられることによって、第1~5の実施形態のいずれかと同様な効果が得られる。さらに、貫通孔25dの内周面に液溜まり部が設けられることによって、第6~8の実施形態のいずれかと同様な効果が得られる。そして、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面とにそれぞれ液溜まり部が設けられているため、液溜まり部の総容積が大きく、保持できる液体の量が多い。その結果、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との間で液体の溶媒が蒸発するまでの時間が長く、液体が固化するおそれが小さい。
図12(A),12(D)に示す構成では、軸25cの外周面に設けられた液溜まり部(第1の液溜まり部)と、貫通孔25dの内周面に設けられた液溜まり部(第2の液溜まり部)とが互いに対向している。この構成によると、両方の液溜まり部に液体が浸入しやすく、液体の保持の信頼性が高い。一方、
図12(B),12(C)に示す構成では、軸25cの外周面に設けられた液溜まり部(第1の液溜まり部)と、貫通孔25dの内周面に設けられた液溜まり部(第2の液溜まり部)とが互いに非対向の位置に配置されている。この構成によると、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面とがほとんど隙間なく対向する部分が小さく、液体の固化によって互いに固定されやすい部分がごく僅かである。従って、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面との間に位置する液体の固化によって回動部材25の円滑な回動が困難になる可能性が低い。なお、
図12(A)~12(D)に例示した構成に限られず、軸25cの外周面に設けられる液溜まり部と、貫通孔25dの内周面に設けられる液溜まり部は、液体を保持可能であればどのような形態のものであってもよい。
【0032】
以上説明した各実施形態から明らかなように、本発明では、タンク20の貯留室21内に十分な液体が存在する状態で、被検知部25bおよびセンサ24によって液体の残量が多いことが検知される。この時、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面の一方または両方に設けられている液溜まり部に液体が浸入する。この状態から貯留室21内の液体が減少すると、液面Lの低下に伴って回動部材25が回動する。その結果、被検知部25bおよびセンサ24によって液体の残量が減少したことが検知される。液面Lが回動部材25の液溜まり部よりも下方に下降しても、液溜まり部内の液体は保持される。仮に、このように貯留室21内の液体が減少した状態で放置されても、液溜まり部に液体が保持されているので、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面の間に存在する液体の量が多い。液体の量が多いため溶媒が蒸発しにくく、液体の固化が抑制される。従って、回動部材25が軸を中心として円滑に回動できる状態が維持される。さらに、液溜まり部に液体が保持されて、軸25cの外周面と貫通孔25dの内周面の間に多量の液体が存在すると、この液体が潤滑剤として機能し、がたつきを生じることなく回動部材25が円滑に回動しやすい。従って、カートリッジ10等からタンク20の貯留室21内に液体が補充されると、再びフロート25aが上昇して液体残量を検知可能な状態になる。すなわち、液体残量が検知不能になることが抑えられる。
【0033】
なお、本発明において貯留室内に保持されて残量を検知される液体はインクに限定されない。例えば、記録時にインクに先立って被記録媒体に吐出される前処理液等が、本発明に基づいて残量検知されてもよい。
【符号の説明】
【0034】
20 タンク
21 貯留室
24 センサ
25 回動部材
25a フロート
25b 被検知部
25c 軸
25d 貫通孔
28,29,30,31,33,34,35,37 液溜まり部