(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240701BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240701BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B32B15/08 P
C23C14/06 N
B32B3/30
(21)【出願番号】P 2020110770
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藤野 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】内藤 純也
(72)【発明者】
【氏名】福田 剛
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070901(JP,A)
【文献】特開2019-086510(JP,A)
【文献】特開2017-121743(JP,A)
【文献】特開平10-250296(JP,A)
【文献】特開2002-212324(JP,A)
【文献】特開2021-066022(JP,A)
【文献】再公表特許第2010/064285(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B60R13/00
13/07
13/10-15/04
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起伏を有する基材と、
前記基材の前記起伏を有する面に対向するように形成された金属層と、を備え、
前記起伏
を有する基材は、熱可塑性樹脂から成形されてなり、
前記金属層は金属粒子を含み、
前記金属粒子はインジウム、及びスズからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含んでなり、平均粒子径が30nm~90nmであり、
前記基材における前記起伏の頂部又は底部の厚さと傾斜部の厚さとの比が1:1.5~1:6である、成形体。
【請求項2】
前記金属層の膜厚が、30nm~60nmである、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記成形体に照射された光の反射光における正反射率が90%以上である、請求項1
又は2に記載の成形体。
【請求項4】
前記起伏における頂部から底部までの高低差が、50mm以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項5】
前記基材と前記金属層との間にプライマー層を備える、請求項1~
4のいずれか1項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の内装品や外装品、家電製品等の表面には、装飾等の目的で、金属調の外観と立体的な形状を有する成形体が備え付けられる場合がある。このような金属調の成形体は、金属層を有する積層シートを延伸成形して製造されることもあれば、金属フレークを練りこんだ組成物を成形して製造されることもある。
【0003】
例えば、特許文献1には、インジウムからなり粒径が100nm以上172nm以下である金属粒子によって形成されたインジウム薄膜を備える金属保持フィルム層を有する深絞り成形物成形用金属調加飾シートが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、軟質高分子成形体に金属薄膜層を有する金属調軟質高分子成形体であって、金属薄膜層は、長手方向の最大長が0.5μm以内の蒸着金属粒でなる多数の島部が不連続に密集する平坦な表面構造を有し、かつ層厚が20nm~100nmである金属調軟質高分子成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-30249号公報(2007年2月8日公開)
【文献】特開2007-136689号公報(2007年6月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
成形体は用途に応じて様々な形状に成形され、その形状によらず、金属調の光沢がある外観を有することが求められる。しかしながら、特許文献1に記載の成形体用金属調加飾シートは当該シートから厚さ方向において高低差のある成形体を成形すると、シートが延伸されることに伴い、成形体における金属光沢が低下するという問題があった。また、特許文献2に記載の金属調軟質高分子成形体においても、基材であるシートが高低差を有する立体形状に形成されていると、特に当該立体形状の傾斜部に蒸着された金属粒子間の隙間がシートの延伸に伴い大きくなる結果、金属光沢が低下するという問題があった。
【0007】
すなわち、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、立体的形状の高低差によらず、良好な金属光沢を有する新規な成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る成形体は、起伏を有する基材と、前記基材の前記起伏を有する面に対向するように形成された金属層と、を備え、前記起伏と前記基材とは熱可塑性樹脂から成形されてなり、前記金属層は金属粒子を含み、前記金属粒子は、前記金属粒子はインジウム、及びスズからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含んでなり、平均粒子径が30nm~90nmである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、立体的形状の高低差によらず、良好な金属光沢を有する新規な成形体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一態様に係る成形体1の概略を説明するための断面図である。
【
図2】本発明の一態様に係る成形体1に用いられる基材10の概略を説明するための断面図である。
【
図3】本発明の一態様係る成形体2の概略を説明するための断面図である。
【
図4】実施例1の成形体1が備えている金属層20における表面の電子顕微鏡写真である。
【
図5】実施例2の成形体1が備えている金属層20における表面の電子顕微鏡写真である。
【
図6】実施例3の成形体1が備えている金属層20における表面の電子顕微鏡写真である。
【
図7】比較例3の真空蒸着法によって形成された金属層における表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0012】
<成形体1>
図1及び
図2を参照して、本発明の一態様(第1の態様)に係る成形体1について、より詳細に説明する。
図1は、一実施形態に係る成形体1の概略を説明するための断面図である。
図2は、一実施形態に係る成形体1が備える基材10の概略を説明するための断面図である。
【0013】
図1に示すように、本発明の一態様に係る成形体1は、基材10に金属層20が積層された積層体によって、起伏である凹凸が表裏一体となるように形成されている。成形体1は積層体によって形成された凹部の内側に金属層20が形成され、当該凹部の内側に充填材30が充填されている。起伏を有する基材10において、金属層20に対向する側の面を当該基材10の第1面と称する。成形体1は、基材10と、当該基材10における第1面の裏面側から当該基材10越しに視認される金属層20とによってもたらされる金属調の外観を有する。
【0014】
本発明の一態様に係る成形体1は、成形体1の表面(言い換えれば、基材10における第1面の裏面)に照射される光の反射光が90%~100%の正反射率を有することが好ましい。本明細書において、正反射率とは、SCI(Specular Component Include)方式により測定される反射光ESCIと、SCE(Specular Component Exclude)方式により測定される反射光ESCEとから、以下の式1によって算出される反射光に関するパラメータであり、成形体に照射された光の反射光に含まれる正反射された光の割合を意味する。
正反射率(%)=(ESCI-ESCE)/ESCI×100・・・(式1)
ここで、ESCIは測色計によって測定された正反射光を含む反射光であり、ESCEは測色計によって測定された正反射光を含まない反射光である。
【0015】
SCI方式による全光線反射を含む成形体の反射光ESCIと、SCE方式による正反射光を含まない成形体の反射光ESCEとは、JIS Z 8722 幾何条件Cに準じて測定されていればよく、本明細書においては色差計CM-3600A(コニカミノルタ株式会社製)により測定した値を採用した。
【0016】
反射光において正反射された光の比率が高いと、成形体の表面において陰影が強い光沢を呈する。また、反射光以外の反射光(拡散光ともいう)の比率が低ければ、成形体の表面において拡散光によるちらつきやボケが少ない。そのため、全光線反射における正反射率が高い表面を有する成形体ほど、陰影が強く、実際の金属表面のような金属光沢を呈する。したがって、正反射率は良好な金属光沢の指標となり得る。本発明の一態様に係る成形体は、高い正反射率を有することでクロムメッキに近い金属調の光沢を示す。すなわち、クロムメッキのような環境負荷の高い材料を用いずとも、クロムメッキに近い高級感のある金属光沢を有することも、本発明の一態様に係る成形体の利点の一つである。本発明の一態様に係る成形体は、クロムメッキされた成形体の代替品として好適に利用できる。
【0017】
本発明の一態様に係る成形体1の上面視におけるサイズは、用途に応じて適宜調整すればよく、限定されるものではないが、5mm角以上、250mm角以下の大きさに収まるサイズであればよい。
【0018】
本発明の一態様に係る成形体1は、例えば、自動車等の車両の外装品や屋外に設置される物体(被着体)の表面に貼り付けるための柔軟なエンブレム、徽章、ワッペン、ステッカー、シール、ラベル、銘板、リボン等として特に好適に使用でき、特にエンブレム等の3次元構造を有する成形体として使用できる。なお、成形体は接着剤によって被着体に接着すればよい。
【0019】
〔基材10〕
図1に示すように、本発明の一態様に係る成形体1は基材10を備えている。また、
図2に示すように、基材10は頂部101から傾斜部102を経て底部103に至る高低差Hを有する起伏が設けられている。なお、基材10は熱可塑性樹脂を含む樹脂材料によって成形されている。
【0020】
基材10は、厚さT1である傾斜部102と、厚さがT0である部分として頂部101及び底部103とを有している。基材10における比較的に薄い部分の厚さがT1に相当し、比較的に厚い部分の厚さがT0に相当する。ここで、厚さT1である傾斜部102と、頂部101又は底部103の厚さT0との比であるT1:T0は、1:1.5~1:6.0であり得る。基材10の頂部101及び底部103における厚さT0は、当該基材10に起伏を成形するために予め準備されたフィルム状の樹脂材料(ブランクともいう)の厚さに依存し得る。また、傾斜部102の厚さT1は、厚さがT0であるフィルム状の樹脂材料がプレス加工により絞り成形されたときに延伸されることで薄くなることに起因する厚さであり得る。すなわち、基材10におけるT1:T0は基材10がフィルム状の樹脂材料(ブランクともいう)からプレス加工により絞り成形された基材であることの証左の1つであり得る。
【0021】
基材10がプレス加工により絞り成形された基材である場合、基材10における厚さT0は100μm~2000μm以下であるとよい。
【0022】
基材10の高低差Hとは、基材10の厚さ方向における高低差である。基材10における頂部101と底部103との高低差Hは、好ましくは5mm以上であり、より好ましくは10mm以上である。頂部101と底部103との高低差Hは、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは30mm以下である。また、成形体における高低差Hを5mm以上、50mm以下に好適に調整するために、傾斜面102における凹部内側の傾斜面と底部103における底面との間の角度θ(抜き勾配における角度)は45°~85°の範囲内であることが好ましい。
【0023】
本発明の一態様に係る成形体は、基材の厚さ方向における高低差Hが5mm以上、50mm以下であっても、実際の金属に近い光沢を付与できることが利点の一つである。なお、起伏を有する基材10のサイズが、成形体1の実質的なサイズを規定することはいうまでもない。
【0024】
基材10と基材10が有する起伏とは、熱可塑性樹脂を含む樹脂材料から一体的に成形され得る。熱可塑性樹脂は成形性と剛性に優れるため、起伏を有する基材10を成す材料として好適に用いられる。また、表面粗さが小さい材質を基材10の材料として用いることで、基材10を外側にして成形体1を所望の被着体(不図示)に備え付けたときに成形体1が発する反射光の散乱を低減できるため好ましい。
【0025】
樹脂材料に含まれる熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂(TPU)、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等が挙げられるがこれに限定されず、中でも、耐候性及び屈折率の観点から、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂であることがより好ましい。
【0026】
樹脂材料には、成形体の用途に応じて、例えば、染料、顔料、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤等を含み得る。
【0027】
〔金属層20〕
図1に示すように、本発明の一態様に係る成形体1は、基材10の起伏を有する第1面に対向するように形成された金属層20を備えている。基材10において第1面は凹部が形成されている側の面、つまり凹面であり、当該凹面側に金属層20が形成されている。金属層20は基材10が有する少なくとも1つの凹面側に形成され得る。
【0028】
金属層20は、金属粒子を含む層であり、金属粒子からなっていてもよい。金属層20に含まれる金属粒子は、インジウム(In)及びスズ(Sn)をからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含んでなり、より好ましくはインジウム(In)を含み得る。インジウムは、耐候性、白化抑制、金属光沢のバランスに優れる金属であり、金属調を示すことを目的とした金属層20の材質として好適である。また、インジウムは基材の歪等に追従できる柔軟性を有しているため好ましい金属である。また、スズ(Sn)を用いても、熱可塑性樹脂上に島状金属粒形状が形成できるというインジウムに近い性能を得ることができる。
【0029】
金属層20に含まれる金属粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡により撮影された金属粒子の写真から算出され得る。本明細書において、平均粒子径Rは、以下の式に従って算出される。
t=α+(3β+γ)/4
S=L2/(k2×t)
R=2×(S/π)1/2
L:走査型電子顕微鏡により撮影された金属粒子の写真おいて金属粒子の個数を算出するために用いられる正方形の枠における一片の長さ
k:走査型電子顕微鏡写真における倍率
t:一辺の長さがLである正方形の枠内における金属粒子の実質的な個数
S:1個の金属粒子が占める面積
SX:一辺の長さがLの正方形内に存在する最も大きい金属粒子(最大粒子)の面積
α:一辺の長さがLの正方形内に存在する金属粒子の個数
β:当該正方形内に存在する金属粒子のうち、最大粒子の面積SXの1/2以上の面積を有する粒子の個数
γ:当該正方形内に存在する金属粒子のうち、最大粒子の面積SXの1/2未満の面積を有する粒子の個数
一辺の長さがLの正方形内に存在する各粒子の面積の算出、及び最大粒子の特定はVHX7000(キーエンス社製)により行ない、同様に、α、β、γも各粒子の面積に基づいてVHX7000により数え上げる。
また、以下に説明するX、Y、及びZを含め、撮影された粒子の粒子径はそれら粒子の面積と等しい面積を有する円の直径(円相当径ともいう)として算出する。X、Y、及びZの基準となる各粒子の粒子径は単位をnmとして小数点以下第1を四捨五入して算出する。
【0030】
金属層20に含まれる金属粒子がインジウムである場合、当該インジウム粒子は角を有するランダムな多角形を有し得る。また、一辺Lの正方形内に存在するα、β及びγ個の粒子のうち最大粒子の粒子径をX及びその個数χとし、X/2≦Y<X、0<Z<X/2、を満たす粒子径Y、Zを有する金属粒子の個数をそれぞれψ、ωとすると、金属層20に含まれる金属粒子において、tに対するωの比率が50%以上である。つまりXの1/2未満の粒子径を有する粒子の個数が多いことから、金属粒子による島構造に対し、島構造の間隙となる海構造が狭く、緻密な海島構造を形成し得る。この緻密な海島構造が金属層における正反射率を高めることに寄与し得る。このことから、単位面積当たりにおけるωは、好ましくは600~1000個/μm2であり得る。これにより、金属層に起因する正反射率を大きくできる。
【0031】
別の観点から、金属層20における海状構造の平均幅、すなわち島状構造同士の間の平均距離は、5nm以上であり得、好ましくは25nm以下、より好ましくは15nm以下であり得る。なお、本明細書において、海状構造の平均幅Gは、以下の式に従って算出される。
【0032】
金属層20に含まれる金属粒子の粒子比率Atは、走査型電子顕微鏡により撮影された金属粒子の写真から、VHX7000(キーエンス社製)で矩形の辺を150nm以上として測定で求めた。この金属層の平均粒径Dは本明細書において、以下の式に従って算出される。
D={4×(S/τ)/π}1/2
τ=χ+(3×ψ+ω)/4
τ:矩形内の最大径を基準にした粒子数を表す。
χ:当該正方形内に存在する金属粒子のうち、最大粒子の面積を有する粒子の個数
ψ:当該正方形内に存在する金属粒子のうち、最大粒子の面積の1/2以上の面積をする粒子の個数
ω:当該正方形内に存在する金属粒子のうち、最大粒子の面積の1/2未満の面積を有する粒子の個数
3個の円形粒子を稠密配置とし、各粒子の中心点同士の間隔が一辺Lpの正三角形をなす配置とすると、海状構造の平均幅Gは、以下の式から算出される。
At=(π×D2/4×1/2)/(Lp×Lp×sin60°×1/2)
G=Lp-R
【0033】
金属層の厚さは、良好な金属光沢を呈する観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上である。また、金属層の厚さは、製造時における消費金属量を少なくする観点から、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0034】
〔充填材40〕
図1に示すように、本発明の一態様に係る成形体1は、金属層20を挟んで基材10の反対側における凹部の内側に充填材40が充填されていてもよい。このような構成にすることで、成形体1は、立体的形状を保ちつつ、剛性を高めることができる。
【0035】
充填材40としては、一般的に、成形加工に用いられる樹脂であれば、限定されることはないが、例えば、ウレタン樹脂を用いることができる。ウレタン樹脂としては、例えば2液硬化型ウレタン樹脂が挙げられる。また、充填材におけるウレタン樹脂はて無機フィラー等の体質顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び可塑剤等を含んでいてもよい。
【0036】
<成形体2>
本発明に係る成形体は、上述の第1態様に係る成形体1に限定されない。例えば、本発明の一態様(第2態様)に係る成形体2は、
図3に示すように、基材10、プライマー層30、及び金属層20が、この順に積層されてなる。なお、成形体2について、成形体1と同一又は同等の部材については、特に説明する場合を除き、同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0037】
〔プライマー層30〕
図3に示すように、本発明の一態様に係る成形体2は、基材10と金属層20との間に、プライマー層30を備えてもよい。プライマー層30を備えることで、金属層20の基材10への密着性を高めることができる。
【0038】
プライマー層30は、金属層20を形成する際に、金属粒子を密着させることができれば、特に限定されず、当技術分野で公知のプライマー層であってよい。このようなプライマー層3は、例えば、ウレタン樹脂及び(メタ)アクリル樹脂を含む、プライマー層用の組成物から形成され得る。特に、プライマー層30に含まれるウレタン樹脂は基材10を侵食しないという観点から、水系ウレタン樹脂であることがより好ましい。水系ウレタン樹脂には、例えば、自己乳化型ウレタン樹脂、強制乳化型ウレタン樹脂、及び水溶性型ウレタン樹脂等が挙げられる。自己乳化型ウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の分子構造に、アニオン及びノニオン等の親水性基を有しており、これら親水性基によってウレタン樹脂等が水系に乳化分散されたタイプの水系ウレタン樹脂である。強制乳化型ウレタン樹脂は、アニオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤等の界面活性剤によってウレタン樹脂又はウレタンプレポリマーが水系に乳化分散されたタイプの水系ウレタン樹脂である。このような、ウレタン樹脂には、タケラック(登録商標)WSシリーズ(三井化学製)等が挙げられる。
【0039】
プライマー層30は、この他に、架橋剤、シリカ粉、及び着色剤等を含んでいてもよい。
【0040】
プライマー層30の厚さは、金属層20の基材10への密着性を高めるという観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。または、プライマー層30の厚さは、成形体1の基材10側からの外観を好適に保つという観点から、好ましくは6μm以下、より好ましくは4μm以下である。
【0041】
<別の態様に係る成形体>
本発明の別の一態様に係る成形体は、上述の態様(第1の態様及び第2の態様)に限定されない。例えば、本発明の別の一態様に係る成形体が有する基材に由来する起伏の形状は段差状であってもよく、当該段差を構成する面は平面または曲面の何れか一方又は両方であってもよい。また、起伏の頂部における最も高い位置と、基材の底部との高低差が上述の高低差Hの範囲内であれば、起伏の頂部自身に高低差があってもよく、1つの成形体に複数の凸状、凹状の起伏があってもよい。その他、基材に成形された起伏は、必ずしも当該基材において表裏一体に形成された凹凸により構成されていなくてもよい。
【0042】
また、さらに別の態様に係る成形体は、基材における凸部が形成された凸面を第1面として、当該第1面に金属層が形成されていてもよい。
【0043】
<成形体の製造方法>
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂を含む樹脂材料から起伏を有する基材を成形する工程と、起伏を有する基材における1つの面(第1面)に金属層を形成する工程とを包含する。また、一態様に係る成形体の製造方法は、起伏を有する基材を成形する工程と、金属層を形成する工程との間にプライマー層を形成する工程を含んでいてもよく、金属層を形成する工程を形成する工程後、充填材を充填する工程を包含していてもよい。
【0044】
〔基材を成形する工程〕
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂を成形して、起伏を有する基材を得る工程を含んでもよい。
【0045】
熱可塑性樹脂を成形する方法としては、プレス成形、射出成形、及び注型成形等、立体的形状を有する成形体を得られることができれば、当技術分野で公知の成形方法を用いることができる。中でも、絞り加工を含むプレス成形を採用することが、樹脂材料を注型することに起因するパーティングラインやゲート跡が残らない基材を成形できるためより好ましい。
【0046】
起伏を有する基材を形成する工程においてプレス成形を採用する場合、当該工程は、予めフィルム状に成形された樹脂材料を準備する段階と、当該樹脂材料を絞り加工する段階とを含み得る。ここで、基材に対し所定の高低差Hを有する起伏を成形するために、絞り加工する段階は少なくとも1度行えばよく、所望の成形体の形状に応じ、複数回の絞り加工を行ってもよい。
【0047】
〔プライマー層を形成する工程〕
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、基材における金属層を形成する面に対し、予めプライマー層を形成する工程を含んでもよい。プライマー層を形成する工程は、上述のプライマー層用の組成物を用い、公知の方法により成形すればよい。
【0048】
プライマー層の形成方法は、当技術分野で公知の方法を用いることができ、例えば、基材にプライマー層用組成物を塗布し、加熱乾燥する方法が挙げられる。また、プライマー層は、基材に起伏を成形する前に、予め基材となるフィルム状の樹脂材料における一方の面に形成しておくとよい。
【0049】
〔金属層を形成する工程〕
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、起伏を有する基材に、インジウムからなる金属層を形成する工程を含む。この工程により、基材が有する起伏に対向するように、金属層が形成される。
【0050】
本発明の一態様に係る成形体の金属層は、伝統的な金属層の形成方法であるクロムメッキ等の湿式工程を経ずに形成することが排水や溶媒蒸気による環境負荷が小さくできるため好ましい。また、本発明の成形体の製造方法は、30~90nm、より好ましくは30~60nmの平均粒子径を有する金属粒子を含む金属層が形成できれば、その形成方法は限定されないが、当該平均粒子径を有する金属粒子を含む金属層を形成する方法には、好ましくはスパッタリング法が例示される。スパッタリング法を採用することにより、基材が有する起伏における頂部、傾斜部における金属層が堆積する表面の状態によらず、30~90nm、より好ましくは30~60nmの平均粒子径を有する金属粒子を含む金属層が形成できる。また、これにより、従来の真空蒸着法による金属粒子の堆積方法よりも、金属のない海部分の幅を1/2以下にできる。
【0051】
スパッタリングの成膜材料(スパッタリングターゲットともいう)は、インジウムを含む金属であり得、好ましくはインジウムからなる。インジウムは、耐候性、白化抑制、金属光沢のバランスに優れる金属であると共に、スパッタリングによって金属層を形成した際に、好適に金属粒子からなる島状構造を形成することができるため好ましい。
【0052】
スパッタリングを行う空間における真空圧は、好ましくは10-2Pa以下、より好ましくは10-3Pa以下である。これにより、均一な膜厚の金属層を形成することができ、金属層に含まれる金属粒子の平均粒子径を好適に制御することができる。
【0053】
スパッタリングを行うときにおける出力は、スパッタリング材から起伏を有する基材の表面まで金属粒子を飛散させるという観点から、好ましくは0.3kW以上、より好ましくは0.5kW以上である。また、スパッタリングを行う工程において、出力は、基材の熱変形を防ぐという観点から、好ましくは2kW以下、より好ましくは0.5kW以下である。0.3kW以上、2kW以下とすることにより所定の高低差Hを有する基材に対し、基材の熱変形を防ぎつつ、所定の平均粒子径を有する金属粒子を堆積させるための飛程距離を確保できる。
【0054】
スパッタリングによる成膜時間は、金属層20の所望の膜厚に応じて、適宜調整すればよく、例えば、1秒以上、15秒以下とすればよい。
【0055】
〔充填材を充填する工程〕
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、成形体の凹部分に充填材を充填する工程を含んでもよい。この工程により、成形体の剛性を高められる。
【0056】
充填材は、例えば、上述の2液硬化型ウレタン樹脂を用い、公知の方法によって形成するとよい。
【実施例】
【0057】
実施例1~3及び比較例1~2の成形体を作製し、各成形体について、金属層表面における正反射率を評価した。また、実施例1及び3の各成形体について、金属層に含まれる金属粒子の平均粒子径を評価した。
【0058】
〔実施例1〕
膜厚125μmのポリカーボネート(PC)樹脂フィルム(テクノロイ(登録商標)C000、住化アクリル販売株式会社より入手可能)を熱プレスで深絞り成形し、縁部の抜き勾配85°、厚さ方向における高低差(つまり高さ)が10mmであり、上面視における縦幅が30mm、横幅が35mmである「N」の文字状に成形された基材を準備した。この基材の薄い部分に相当する傾斜部の膜厚と厚い部分に相当する頂部との膜厚の比は60:100であった。
【0059】
次いで、スパッタリング装置(SPP-202H、株式会社昭和真空製)を用い、成形した基材における凹面側に金属層を形成した。金属層の形成では、スパッタ成膜材料(スパッタリングターゲット)としてインジウムを用い、出力0.5kW、真空圧1×10-2Pa、成膜時間4秒の成膜条件で、基材表面にインジウムを成膜し、実施例1の成形体を得た。
【0060】
〔実施例2〕
真空圧を1×10-3Pa、成膜時間を10秒としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の成形体を得た。
【0061】
〔実施例3〕
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂フィルム(厚さ200μm、大成産業株式会社製)を用いて基材を準備し、成膜時間を1秒としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の成形体を得た。
【0062】
〔比較例1〕
成膜時間を5秒、スパッタリング装置の出力を20kW、スパッタ成膜材料をアルミニウムとしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の成形体を得た。
【0063】
〔比較例2〕
ABS樹脂を用いて基材を準備し、成膜時間を2秒、スパッタリング装置の出力を20kW、スパッタ膜材質をアルミニウムとしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の成形体を得た。
【0064】
〔比較例3〕
帝人株式会社製PET樹脂フィルムを用いて、実施例1と同様に基材を成形した。次いで、真空蒸着装置(BMC-500、真空機械工業製)を用い、成形した基材における凹面側に金属層を形成した。金属層の形成では、蒸着材料としてインジウムを用い、真空圧1×10-2Pa、成膜時間20秒の成膜条件で、基材表面にインジウムを成膜し、比較例3の成形体を得た。
【0065】
<評価方法>
〔金属層の膜厚の評価〕
実施例1~3及び比較例1~2の成形体の金属層の膜厚を走査電子顕微鏡(Regulus8100、株式会社日立ハイテク製)を用いて測定した。膜厚の測定結果を表1に示す。
【0066】
〔正反射率の評価〕
実施例1~3及び比較例1~2の成形体の「N」の文字状の縁部以外の平面部に対して、色差計(CM-3600A、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、SCI方式による反射光とSCE方式による反射光とを測定し、成形体の正反射率(%)を以下の式1によって算出した。
正反射率(%)=(ESCI-ESCE)/ESCI×100
【0067】
実施例1~3及び比較例1~3の成形体の正反射率の評価結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
以上の評価結果から、起伏を有する基材に対して、スパッタリングによりインジウム粒子の金属層を成膜した実施例1~3の成形体は、91%~97%の良好な正反射率を有することが確認できた。
【0070】
〔平均粒子径の評価〕
実施例1~3、比較例1~3の成形体における金属層を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、0.5μm×0.5μmの正方形枠の視野内にある粒子を視認により計上し、α、β、γと分類した。α、β、γの分類の基準は以下の通り。
SX:一辺の長さがLの正方形内に存在する最も大きい金属粒子(最大粒子)の面積
α:一辺の長さがLの正方形内に存在する金属粒子の個数
β:当該正方形内に存在する金属粒子のうち、最大粒子径Xの1/2以上の面積を有する粒子の個数
γ:当該正方形内に存在する金属粒子のうち、最大粒子径Xの1/2未満の面積を有する粒子の個数
なお、比較例1及び2の成形体における金属層では、金属粒子同士が合着し膜状になっていたため、個々の粒子を識別し、α、β、γに分類することが出来なかった。
【0071】
当該視野内にある金属粒子の実質的な個数をt、金属粒子の平均面積をS、として、金属粒子の平均粒子径Rを以下の式により評価した。
なお、Lは0.5μmであり、kは10万倍である。
t=α+(3β+γ)/4
S(μm
2)=L
2/(k
2×t)
R(nm)=2×(S/π)
1/2
各成形体における平均粒子径の評価結果を表1に示す。実施例1~3の成形体の金属層を走査型電子顕微鏡により撮影した写真(倍率10万倍)をそれぞれ
図4~6に示す。また、比較例3の成形体の金属層を走査型電子顕微鏡により撮影した写真(倍率10万倍)を
図7に示す。
【0072】
以上の評価結果から、実施例1~3の成形体に含まれる金属粒子の平均粒子径は、30~90nmの範囲内であり、一辺Lの正方形内に存在するα個の粒子のうち最大粒子径をXとし、X/2≦Y<X、0<Z<X/2、を満たす粒子径Y、Zを有する金属粒子の個数をそれぞれβ、γとすると、γに分類される小さな金属粒子の個数が多いことが確認できた。また、金属層における海状構造の幅は、
図7に示す従来の蒸着方法により形成される海状構造における幅が狭いことが確認できた。金属層のこれらの特徴が、高い正反射率に寄与していると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、自動車等の車両の外装や物体の表面に貼り付けるためのエンブレム等の成形体として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 ・・・成形体
2 ・・・成形体
10 ・・・基材
20 ・・・金属層
40 ・・・充填材
30 ・・・プライマー層
101・・・頂部
102・・・傾斜部
103・・・底部