(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】振動型アクチュエータ及び機器
(51)【国際特許分類】
H02N 2/16 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
H02N2/16
(21)【出願番号】P 2020119930
(22)【出願日】2020-07-13
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(72)【発明者】
【氏名】末藤 啓
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-121477(JP,A)
【文献】特開昭62-193577(JP,A)
【文献】特開昭63-161881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体と、
前記振動体と接触する接触体と、
前記振動体を支持する支持部材と、
前記振動体と前記接触体の相対移動方向への前記支持部材に対する前記振動体の移動を規制する位置止め部材と、を備える振動型アクチュエータであって、
前記振動体は、
前記相対移動方向に溝と突起部とが交互に形成された弾性体と、
前記弾性体に取り付けられた電気-機械エネルギ変換素子と、を有し、
前記位置止め部材は、
複数の前記突起部の間に介在する介在部と、
前記支持部材に取り付けられる取付部と、を有し、
前記支持部材は、前記取付部が取り付けられる被取付部を有し、
前記相対移動方向におい
て前記取付部と前記被取付部との間に隙間が形成され
、
前記隙間は前記相対移動方向で前記溝と前記介在部の間に形成される隙間よりも大きいことを特徴とする振動型アクチュエータ。
【請求項2】
前記取付部は、前記被取付部に対してねじによって締結されていることを特徴とする請求項
1に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項3】
振動体と、
前記振動体と接触する接触体と、
前記振動体を支持する支持部材と、
前記振動体と前記接触体の相対移動方向への前記支持部材に対する前記振動体の移動を規制する位置止め部材と、を備える振動型アクチュエータであって、
前記振動体は、
前記相対移動方向に溝と突起部とが交互に形成された弾性体と、
前記弾性体に取り付けられた電気-機械エネルギ変換素子と、を有し、
前記位置止め部材は、
複数の前記突起部の間に介在する介在部と、
前記支持部材に取り付けられる取付部と、を有し、
前記支持部材は、前記取付部が取り付けられる被取付部を有し、
前記相対移動方向において前記取付部と前記被取付部との間に隙間が形成され、
前記取付部と前記被取付部のいずれか一方が支柱部と爪部を有し、他方は前記支柱部が挿入されると共に前記爪部と係合する穴部を有し、
前記取付部と前記被取付部は、前記支柱部と前記爪部を弾性変形させて前記穴部へ挿入させた後に前記支柱部と前記爪部が元に形状に戻ることで係合していることを特徴とする振動型アクチュエータ。
【請求項4】
1個の前記位置止め部材は、1か所の前記溝に介在する1か所の前記介在部を有することを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項5】
前記相対移動方向に複数の前記位置止め部材が前記支持部材に取り付けられていることを特徴とする請求項1
乃至4のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項6】
複数の前記位置止め部材は、前記振動体の周方向に略等間隔に配置されていることを特徴とする請求項
5に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項7】
前記弾性体のスラスト方向において前記電気-機械エネルギ変換素子は前記弾性体と前記支持部材との間に配置され、
前記位置止め部材は、前記電気-機械エネルギ変換素子において前記支持部材を向く面に接触しないことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項8】
前記弾性体は、円環状であり、
前記相対移動方向は、前記振動体と前記接触体とを、前記円環状の弾性体の中心線を軸にして相対的に回転移動させる方向であることを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項9】
前記弾性体は、直線状であり、
前記相対移動方向は、前記振動体と前記接触体とが、相対的に直線移動する方向であることを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータと、
前記振動型アクチュエータにより駆動される部材と、を備えることを特徴とする機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型アクチュエータ及び機器に関し、特に振動型アクチュエータでの振動体を支持する構成に関する。
【背景技術】
【0002】
接触体と振動体を接触させ、振動体に進行性の振動波を励起することによって振動体が接触体に対して摩擦駆動力を与えることで、振動体と接触体を相対移動させることができる振動型アクチュエータが知られている。振動型アクチュエータは、構造が簡素で薄型化が容易であり、また、高精度で静粛な駆動が可能であるため、レンズ鏡筒や雲台等の旋回駆動装置、FA等での生産装置、OA機器等の各種の機器で駆動モータとして用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、カメラのパン・チルト角度を変更する駆動機構に振動型アクチュエータを用いた旋回駆動装置が記載されている。具体的には、パン駆動用の振動型アクチュエータの接触体は、ベース部材に不動に固定されている。また、パン駆動用の振動型アクチュエータの振動体は、櫛歯の間の溝に介在部が挿通された樹脂製の位置止め部材により、パンユニットに対して回転することができない状態で固定され、且つ、パンユニットはベースユニットに対して回転可能に保持されている。そのため、パン駆動用の振動型アクチュエータを駆動すると、パンユニットがベースユニットに対してパン方向に回転する。
【0004】
パンユニットはチルトユニットを保持しており、パンユニットがパン方向へ回転すると、チルトユニットとパンユニットは一体的にパン方向へ回転する。そして、チルト駆動用の振動型アクチュエータの接触体は、カメラを保持したチルトユニットに固定されている。また、チルト駆動用の振動型アクチュエータの振動体は、チルト駆動用の振動体の櫛歯の隙間に位置止め部材の介在部が挿通されてチルト方向の回転が規制された状態で、パンユニットに固定された支持部材に保持されている。よって、チルト駆動用の振動型アクチュエータを駆動すると、チルトユニットがパンユニットに対してチルト方向に回転する。
【0005】
このように、特許文献1に記載された旋回駆動装置では、パン駆動とチルト駆動のそれぞれに振動型アクチュエータを用いることで、応答性に優れた動作を実現している。また、振動型アクチュエータを用いることによって減速機構が不要になるため、旋回駆動装置の小型化が可能となっている。更に、樹脂製の位置止め部材に設けられた介在部を振動体の櫛歯の隙間に挿通させることで、振動体に励起される振動が小さくならないようにしながら、振動体の回転が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術には以下の問題がある。すなわち、位置止め部材では、介在部は、円環状部と一体的に、且つ、円環状部の外周面から外側へ向けて径方向に突出するようにして、周方向に略等間隔に複数設けられている。このような位置止め部材を用いた構造では、複数の介在部を確実に振動体の櫛歯の隙間に介在させるために、個々の介在部の幅を振動体の櫛歯の隙間よりも小さくする必要があり、介在部の剛性を高めることが容易ではない。
【0008】
そのため、例えば長期間にわたって旋回駆動装置での急な加減速を繰り返した場合に、介在部に亀裂や断裂等の破損が生じるおそれがある。また、このような位置止め部材の破損は、振動型アクチュエータに過負荷が掛かっている状態での振動型アクチュエータを駆動した場合にも生じ得る。その結果、振動型アクチュエータでの駆動精度や耐久性が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は、駆動精度と耐久性を向上させた振動型アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る振動型アクチュエータは、振動体と、前記振動体と接触する接触体と、前記振動体を支持する支持部材と、前記振動体と前記接触体の相対移動方向への前記支持部材に対する前記振動体の移動を規制する位置止め部材と、を備える振動型アクチュエータであって、前記振動体は、前記相対移動方向に溝と突起部とが交互に形成された弾性体と、前記弾性体に取り付けられた電気-機械エネルギ変換素子と、を有し、前記位置止め部材は、複数の前記突起部の間に介在する介在部と、前記支持部材に取り付けられる取付部と、を有し、前記支持部材は、前記取付部が取り付けられる被取付部を有し、前記相対移動方向において前記取付部と前記被取付部との間に隙間が形成され、前記隙間は前記相対移動方向で前記溝と前記介在部の間に形成される隙間よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、駆動精度と耐久性を向上させた振動型アクチュエータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る振動型アクチュエータの概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の振動型アクチュエータを構成する振動体の斜視図と分解斜視図である。
【
図3】
図2(a)に示す矢視A-Aでの断面図である。
【
図5】
図1の振動型アクチュエータの駆動中に位置止め部材に加わる負荷のシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】第2実施形態に係る振動型アクチュエータを構成する振動体の分解斜視図と部分的な断面図である。
【
図7】第3実施形態に係る振動型アクチュエータを構成する振動体の分解斜視図と部分的な断面図である。
【
図8】第4実施形態でのロボットの概略構成を示す斜視図である。
【
図9】第5実施形態での雲台装置の概略構成を示す正面図と側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る振動型アクチュエータ1の概略構成を示す断面図である。振動型アクチュエータ1は、振動体2と接触体3を有する。
【0015】
振動体2は、電気量を機械量に変換する電気-機械エネルギ変換素子の一例である圧電素子2aと、圧電素子2aと接合された弾性体2bを有する。弾性体2bは、円環状の形状を有し、ステンレス鋼等の金属材料で形成されている。弾性体2bの上面(接触体3側の面)には複数の溝2dにより、複数の突起部2cが周方向に略等間隔に(溝2dと突起部2cとが周方向において交互に)形成されている。突起部2cの先端面は、接触体3と接触して接触体3に摩擦駆動力を与える摩擦摺動面となる。突起部2cの先端面には、耐久性(耐摩耗性)を高めるための窒化処理(硬化処理)や硬質粒子が含有されたメッキ処理等が施されている。位置止め部材7(「位置決め部材」ともいう)の詳細については後述するが、位置止め部材7は、振動体2と接触体3の相対移動方向である周方向(回転軸L1を中心軸とした回転方向)での振動体2の移動が規制されるように、支持部材10に取り付けられている。なお、回転軸L1は、円環状の弾性体2bの中心線である。相対移動方向とは、振動体2と接触体3とを、回転軸L1(中心線)を軸にして相対的に回転移動させる方向である。
【0016】
接触体3は、弾性体2bの突起部2cと接触する円環状の形状を有しており、振動体2と接触体3は付勢部材5による付勢力によって一定の加圧力で接触している。接触体3は、本体部3aと接触部3bを有する。接触部3bは振動体2の突起部2cと接触する摺動面を有しており、本体部3aと接触部3bとは接着や溶接等により接合されている。本実施形態では、本体部3aには真鍮等の加工性に優れた金属材料が用いられており、接触部3bには焼入処理したステンレス鋼が用いられている。接触部3bは、ばね性を有する厚みで形成されており、振動体2(突起部2c)に対して安定して接触することが可能となっている。なお、本体部3aは円環状に限られず、円板状(円柱状)であってもよい。
【0017】
付勢部材5は、振動体2の円周方向に略等間隔に配置された複数のコイルばね5aと、加圧受け部材5bを含む。なお、ここではコイルばね5aを用いて加圧力を発生させているが、これに限らず、ウェーブワッシャや板ばね、皿ばね等を用いてもよい。付勢部材5と圧電素子2aの間には、フェルトで形成された加圧伝達部材6が配置されている。こうして、付勢部材5の加圧力を加圧伝達部材6を介して振動体2に加えることにより、振動体2を接触体3に対して均等な力で押し当てることができる。なお、加圧伝達部材6には、フェルトに限られず、ゴム等を用いてもよい。
【0018】
接触体3の上面(振動体2との接触面とはスラスト方向(回転軸L1と平行な方向)で反対側となる面)には、出力伝達部材4が取り付けられている。出力伝達部材4は、制振ゴム4aと錘部材4bによって構成されている。制振ゴム4aは、円環状であり、振動減衰性能が高いブチルゴムやシリコーンゴム等からなる。錘部材4bは、円環状の弾性部材であり、例えば真鍮で形成されている。出力伝達部材4を制振ゴム4aと錘部材4bで構成することにより、振動型アクチュエータ1の駆動中に接触体3に不要な振動が発生するのを抑制して、騒音発生や出力低下を抑制することができる。
【0019】
錘部材4bは、出力部8に取り付けられて、出力部8と一体的に回転する。出力部8は、軸受取付部8cを有する出力軸8aと、出力軸8aと螺合する内周部を備える軸受与圧部材8bから構成されている。出力軸8aは、中空状で、軸受取付部8cの外周部に嵌合した内輪を有する2個の転がり軸受9によって回転可能に支持されている。ここでは、転がり軸受9として深溝玉軸受を用いているが、これに限らず、アンギュラ玉軸受や滑り軸受等の軸受を用いてもよい。また、クロスローラベアリングを用いて、1つの軸受で出力軸8aを支持するように構成してもよい。
【0020】
転がり軸受9の外輪は、支持部材10に嵌合して固定されている。また、転がり軸受9の内輪は、軸受与圧部材8bを出力軸8aに適切な締付トルクで螺合することにより、予圧が掛かった状態となっている。なお、2つの転がり軸受9の間には、スペーサ10aが配置されている。これにより、転がり軸受9の径方向のがたつきを低減させて、出力軸8aの径方向の振れを抑えることができる。
【0021】
振動型アクチュエータ1では、圧電素子2aに駆動電圧(交流電圧)を印加すると、公知の技術により、振動体2の所定の位置に楕円振動が生じて進行波(進行性の振動波)が形成されることにより、振動体2が接触体3に対して摩擦駆動力を与える。これにより、振動体2と接触体3は、回転軸L1を中心に相対的に回転移動する。なお、本実施形態では説明の便宜上、支持部材10は不図示の筐体等に固定されており、接触体3が回転することで出力軸8aが回転するものとする。
【0022】
図2(a)は、振動体2及びその周辺構造を示す斜視図である。
図2(b)は、振動体2を部分的に分解して示す斜視図である。3個の位置止め部材7が、振動体2の周方向に略等間隔で振動体2に対して配設されている。位置止め部材7は、ポリカーボネート材やポリアセタール材等の樹脂材料からなり、振動体2の2つ(複数)の突起部2cの間に介在する介在部7aと、支持部材10の被取付部10bに挿通して取り付けられる取付部7bを有する。
【0023】
なお、位置止め部材7は、複数設けられていることが望ましく、振動体2を安定して支持する観点から3個以上設けられていることがより望ましい。但し、位置止め部材7の数は、被取付部10b間の距離が短くなることで支持部材10の機械的強度が低下しないように、且つ、振動体2の励振が阻害されないように、設定することが望ましい。
【0024】
1個の位置止め部材7は、1か所の介在部7aを有する。介在部7aの高さは突起部2cの高さより低く、介在部7aが接触体3と接触することはない。介在部7aの側面(振動体2の周方向を向く面)が突起部2cの立壁面(溝2dから立ち上がる面)と接することで、振動体2の支持部材10に対する回転(動き)が規制される。位置止め部材7は、前述の通りに樹脂材料で形成されており、介在部7aでのみ弾性体2bと接触して、圧電素子2aとは接触しておらず、よって、位置止め部材7は振動体2での振動の励起を阻害しない。
【0025】
更に、位置止め部材7の取付部7bは、弾性変形を利用した所謂スナップフィットの構造で支持部材10の被取付部10bに取り付けられる。つまり、接着剤等の他の材料を必要とすることなく簡単に位置止め部材7を支持部材10に取り付けることができるようになっている。なお、接着剤等を用いないことで、製造が容易となり、また、製造コストの低減を図ることができる。
【0026】
図3は、
図2(a)に示す矢視A-Aでの断面図である。取付部7bは、支柱部7cと爪部7dにより構成される。
図3に示すように、取付部7bが対面する振動体2の内周円に対する接線方向をθ方向として、2か所の爪部7dのθ方向での幅D1は、被取付部10bのθ方向での幅H1よりも大きくなるように設計されている。位置止め部材7を支持部材10に取り付ける際には、2か所の爪部7dは互いに近付くように弾性変形して被取付部10bに挿入される。そして、2か所の爪部7dの被取付部10bへの挿通が完了すると、2か所の爪部7dは元の形状に戻って支持部材10と係合する。これにより、位置止め部材7のZ方向(振動体2のスラスト方向)での移動が規制されると共に、付勢部材5によって接触体3に向けて(Z方向に)押圧されている振動体2のZ方向での移動も規制(位置止め、位置決め)される。
【0027】
2か所の支柱部7cのθ方向の幅D2は、被取付部10bのθ方向の幅H1よりも小さくなるように設計されている。そのため、支柱部7cと被取付部10bの間には隙間が形成され、この隙間の分だけ位置止め部材7のθ方向での位置は溝2dに対して相対的に移動可能となっている。よって、位置止め部材7の支持部材10に対するθ方向での位置調整を、支柱部7cと被取付部10bの間に設けられた隙間を利用して行うことができる。そして、介在部7aのθ方向の幅を溝2dのθ方向の幅に対して挿入可能な幅まで広げることが可能になる。つまり、介在部7aのθ方向の幅を、可能な限り、広くすることが可能になることで、位置止め部材7のθ方向での剛性を高めることができる。これにより、振動型アクチュエータ1を駆動時に急な加減速を行ったり過負荷状態で駆動したりしても、介在部7aに亀裂等の破損が発生してしまうことを抑制することができる。
【0028】
ここで、支柱部7cと被取付部10bとの間に隙間を設けることにより得られる効果について更に説明する。
図4(a),(b)はそれぞれ、振動体2の上面図(回転軸L1と平行な方向において接触体3側から見た図)である。
図4(a)は溝2dの幅寸法の公差を説明する図であり、
図4(b)は溝2dの位置寸法の角度公差を説明する図である。なお、
図4を参照した以下の説明では、具体例としての寸法を提示するが、提示した寸法は一例であって、振動型アクチュエータ1の構成を限定するものではない。
【0029】
図4(a)に示すように、溝2dの幅寸法VWは、幅公差TL0分だけ幅の値が変動する。これは、溝2dを切削加工等の機械加工により形成しており、加工機の精度や刃物の摩耗によって寸法が変動するためである。一例として、幅寸法VWを1mm、幅公差TL0を0.05mmとする。その場合、2つ(複数)の突起部2cの間に介在部7aを確実に介在させるためには、介在部7aの幅をVW-TL0で算出される幅、つまり0.95mm以下とすればよいことがわかる。
【0030】
また、
図4(b)に示すように、2つの溝2d-0及び2d-1の間の角度寸法VAは、前述の通りに溝2dを切削加工等の機械加工により形成しているため、角度公差ATL1の角度だけ変動し得る。例えば、角度公差ATL1は10´(分)とされ、度の単位に換算すると約0.17度となる。このような幅及び角度とその公差の条件下で、振動体2の外径がφ62mmの場合、溝2dの幅方向(θ方向)の寸法公差TL1は、ラジアン単位に換算した角度の誤差ATL1と半径の値31mmとの積から0.09mmとなる。
【0031】
一方、前掲の特許文献1に記載された一体的に形成された複数の介在部を有する従来の位置止め部材(以下単に「従来の位置止め部材」という)では、それぞれの介在部を独立して溝2dに対してθ方向に移動させることができない。つまり、従来の位置止め部材は、溝2dの角度公差に対する位置調整を行うことができない。そのため、2つ(複数)の突起部2cの間に介在部を確実に介在させるためには、介在部の幅を小さくすることで位置調整を可能にする必要がある。前述の幅及び角度とその公差と同じ条件では、従来の位置止め部材での介在部の幅は、VW-(TL0+TL1)により算出される値の0.86mm以下とする必要がある。また、従来の位置止め部材は、複数の介在部間に角度公差ATL2を有する。これは樹脂成型時のばらつきに起因する誤差であるため、角度公差ATL2は10´(分)である。振動体2の外径がφ62mmの場合、溝2dの幅方向の寸法公差TL2は0.09mmとなる。よって、従来の位置止め部材の介在部を2つ(複数)の突起部2cの間に確実に介在させるためには、溝2dの幅公差及び角度公差を合わせた、VW-(TL0+TL1+TL2)で算出される0.77mm以下の幅で介在部を形成する必要がある。
【0032】
これに対して本実施形態では、複数の位置止め部材7をそれぞれ別部材として製作すると共に、
図3に示すように支持部材10の被取付部10bと支柱部7cとの間に±θ方向(
図3での左右方向)に隙間が生じる構造としている。本実施形態では、θ方向の左右の隙間を合わせた大きさは、溝2dの角度公差から換算されるθ方向の公差TL1と、被取付部10bの角度公差から換算されるθ方向の公差TL3の和の2倍以上の大きさで形成されている。一例として、上述の被取付部10bの角度公差が10´(分)、外径がφ62mmの場合、θ方向の公差TL3は0.08mmとなり、和の2倍である隙間は0.34mm以上となる。
【0033】
この隙間により介在部7aはθ方向の左右にそれぞれ最大で0.17mmだけ移動することができる。これにより、従来の位置止め部材では前述したようにθ方向の幅を小さくする必要があるのに対して、本実施形態では介在部7aのθ方向の幅を狭くすることなく、溝2dの角度公差と被取付部10bの角度公差に対して位置を調整することができる。つまり、介在部7aのθ方向の幅は、溝2dの幅公差TL0のみを考慮すればよく、2つ(複数)の突起部2cの間に介在部7aを確実に介在させるためには、VW-TL0で算出される値以下とすることができる。その結果、位置止め部材7では、従来の位置止め部材よりも介在部7aを幅広に形成して、剛性を高めることができる。
【0034】
本実施形態では、1mmの幅寸法VWと0.05mmの幅公差TL0の溝2dに対して、介在部7aのθ方向の幅を0.95mm、公差を-0.2mm~0mmとしている。この場合、溝2dと介在部7aのθ方向の隙間は、最小で0mm、最大で0.3mmとなり、被取付部10bと支柱部7cとの間のθ方向の隙間は、溝2dと介在部7aのθ方向の隙間よりも常に大きくなっている。
【0035】
図5(a)は、振動型アクチュエータ1の駆動中に加わる負荷を模擬した力を介在部7aに与えた場合の介在部7aの変形の様子をシミュレーションした結果を示す図である。
図5(b)は、シミュレーション結果から求められる介在部7aのθ方向の幅と最大主応力の関係を示すグラフである。なお、
図5(a)は、介在部7aの変形の様子を分かりやすくするために、実際の寸法に対して変形量を拡大して示している。また、
図8(a)では、色が濃いほど大きな応力が掛かっていることを示している。
【0036】
図5(a)に示すように、振動型アクチュエータ1の駆動中に負荷が掛かると介在部7aはθ方向に変形し、介在部7aの根元付近のS部に応力が集中する。そのため、このS部付近から亀裂が発生し、破損が生じるおそれがある。
【0037】
図5(b)より、従来の位置止め部材の介在部では、上述の通りに、θ方向の幅は最大で0.77mmとなるため、最大主応力は62MPaとなる。一方、本実施形態での位置止め部材7では、介在部7aのθ方向の幅は最大で0.95mmであるため最大主応力は43MPaとなり、このことから最大主応力は30%以上低減する。よって、本実施形態での位置止め部材7を用いることで、従来の位置止め部材を用いた場合よりも、耐久性を向上させることが可能となることがわかる。
【0038】
なお、振動型アクチュエータ1を高トルク化すると、振動体2に加わる負荷も大きくなるため、介在部7aに生じる応力を小さくするためには介在部7aの数を増やすことが必要になる。ここで、複数の介在部が一体的に形成された従来の位置止め部材では、介在部の数が増えると、前述した角度公差の調整のために介在部のθ方向の幅を更に狭める必要が生じるため、介在部の数の増加による応力緩和の効果が相殺されてしまう。
【0039】
これに対して、本実施形態では、1個の位置止め部材7が1か所の介在部7aを有するため、前述した角度公差の調整を考慮する必要はなく、よって、介在部7aのθ方向の幅を狭める必要はない。したがって、位置止め部材7を数を増加させると、これに見合った応力緩和効果を得ることができる。大きなトルクが必要とされる振動型アクチュエータ1であっても、振動体2に加わる負荷に応じて位置止め部材7の数を設定することにより、所望の耐久性を得ることが可能になる。
【0040】
ところで、本実施形態では、位置止め部材7を支持部材10に取り付けた際に支柱部7cと被取付部10bの間に形成される隙間は、すきまばめや中間ばめ等の一般的な嵌合で用いる隙間に比べると十分に大きな値となっている。具体的には、本実施形態では、支柱部7cのθ方向の幅D2は2.6mmに設定されている。この場合、すきまばめでの標準的な公差域を適用し、支柱部7c側をg7(公差範囲:-0.012mm~-0.002mm)、被取付部10b側をH7(公差範囲:0mm~+0.01mm)とした場合、隙間は最大で0.022mmとなる。また、これよりも緩めの嵌合を適用して、支柱部7c側をd9(公差範囲:-0.045mm~-0.02mm)、被取付部10b側をH8(公差範囲:0mm~+0.014mm)とした場合、隙間は最大で0.059mmとなる。
【0041】
これに対して、本実施形態での支柱部7cと被取付部10bとの隙間は0.34mm以上となっており、標準的な公差域の嵌合と比べて約15倍の、緩めの嵌合と比べても約6倍の大きい隙間となっている。これは、従来の位置止め部材の介在部を単純に支持部材10に対して別体にし、その介在部を嵌合により支持部材10に取り付けるだけでは、本実施形態での角度公差に対する調整に必要な隙間が得られないからである。つまり、1つの介在部7aを有する位置止め部材7を用いる場合に、上述した効果を得るためには、一般的な嵌合で用いる隙間よりも大きな隙間を設ける必要がある。
【0042】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る振動型アクチュエータは、第1実施形態に係る振動型アクチュエータ1と比較すると、位置止め部材とこれが装着される支持部材の構造のみが異なる。そこで、以下では、これらの相違点を中心に説明を行うこととし、振動型アクチュエータ1と共通する構成についての図示と説明を省略する。
【0043】
図6(a)は、第2実施形態に係る振動型アクチュエータの振動体2の周辺構造を示す分解斜視図である。
図6(b)は、
図6(a)に示す矢視B-Bでの断面図である。なお、
図6(b)に示すθ方向の定義は、第1実施形態で説明した定義に準ずる。
【0044】
3個の位置止め部材17が、振動体2の周方向に略等間隔で振動体2に対して配設されている。位置止め部材17は、振動体2の2つ(複数)の突起部2cの間に介在する介在部17aと、支持部材11の被取付部11bに挿通して取り付けられる取付部17bを有する。介在部17aの側面が突起部2cの立壁面と接することにより、振動体2の支持部材11に対する回転が規制される。支持部材11の被取付部11bは、取付部17bに対して、弾性変形を利用したいわゆるスナップフィットの構造で形成されている。そのため、接着剤等の他の材料を必要とせず、位置止め部材17を支持部材11に簡単に取り付けることが可能となっている。
【0045】
図6(b)に示すように、被取付部11bは、被取付支柱部11cと被取付爪部11dにより構成されている。被取付爪部11dのθ方向における幅D11は、取付部17bのθ方向における幅H11よりも大きくなるように形成されている。被取付部11bの取付部17bへの挿通時には、2か所の被取付爪部11dがθ方向で近付くように弾性変形することで、取付部17bへの挿入が可能となる。挿通完了後は被取付爪部11dが元の形状に戻ることで、位置止め部材17のZ方向での位置が拘束される。第1実施形態と第2実施形態を比較するとわかるように、取付部と被取付部は、いずれか一方が支柱部と爪部を有し、支柱部が挿入されると共に爪部と係合する穴部を他方が有していればよい。
【0046】
取付部17bのθ方向における幅H11は、被取付支柱部11cのθ方向の幅D12よりも大きくなるように形成されており、取付部17bと被取付支柱部11cの間にθ方向に隙間が設けられている。この隙間により、位置止め部材17のθ方向の位置は、溝2dに対して相対的に移動可能となっている。また、この隙間のθ方向の大きさは、第1実施形態と同様に、溝2dと介在部17aのθ方向の隙間よりも常に大きくなるように設けられている。よって、位置止め部材17のθ方向の位置調整を取付部17bと被取付支柱部11cの間に設けられた隙間によって行うことができ、介在部17aのθ方向の幅は溝2dに挿入可能な幅にまで広げることができる。
【0047】
このように、本実施形態での位置止め部材17もまた、第1実施形態での位置止め部材7と同様に、従来の位置止め部材よりも介在部17aのθ方向の幅を大きく形成することができる。よって、位置止め部材17のθ方向の剛性が向上することで、振動型アクチュエータの耐久性を向上させることができる。また、位置止め部材17は、圧電素子2aと接触しておらず、介在部17aでのみ振動体2と接触しているため、振動体2の振動を阻害することなく、振動体2を安定して支持することができる。なお、位置止め部材17の数は、第1実施形態と同様に、振動型アクチュエータの負荷の大きさに応じて設定すればよい。
【0048】
<第3実施形態>
第3実施形態に係る振動型アクチュエータは、第1及び第2実施形態に係る振動型アクチュエータとは、位置止め部材とこれが装着される支持部材の構造のみが異なる。そこで、以下では、これらの相違点を中心に説明を行うこととし、第1及び第2実施形態に係る振動型アクチュエータと共通する構成についての説明を省略する。
【0049】
図7(a)は、第3実施形態に係る振動型アクチュエータの振動体2の周辺構造を示す分解斜視図である。
図7(b)は、
図7(a)に示す矢視C-Cでの断面図である。
図7(b)に示すθ方向の定義は、第1実施形態で説明した定義に準ずる。
【0050】
3個の位置止め部材27が、振動体2の周方向に略等間隔で振動体2に対して配設されている。位置止め部材27は、振動体2の2つ(複数)の突起部2cの間に介在する介在部27aと、支持部材21のねじ穴部21gに締結して取り付けられる取付部27bを有する。介在部27aの側面が突起部2cの立壁面と接することにより、振動体2の支持部材21に対する回転が規制される。支持部材21の被取付部21bは、ねじ部材21fとねじ穴部21gにより構成されており、取付部27bは支持部材21に対してねじ部材21fにより締結固定される。
【0051】
ねじ部材21fは、おねじ部である被取付支柱部21cと、ねじ頭部21eで構成されている。ねじ頭部21eのθ方向における幅D21は、取付部27bのθ方向における幅H21よりも大きくなるように形成されており、よって、ねじ部材21fにより位置止め部材27のZ方向位置が拘束される。取付部27bのθ方向における幅H21は、被取付支柱部21cのθ方向の幅D22よりも大きく形成されており、取付部27bと被取付支柱部21cの間には隙間が設けられている。この隙間により、位置止め部材27のθ方向の位置は、溝2dに対して相対的に移動可能となっている。また、この隙間のθ方向の大きさは、第1実施形態と同様に、溝2dと介在部27aの間のθ方向の隙間よりも常に大きくなるように設けられている。よって、θ方向の位置調整を取付部27bと被取付支柱部21cの間に設けられた隙間によって行うことができ、介在部27aのθ方向の幅は溝2dに挿入可能な幅にまで広げることができる。
【0052】
このように、本実施形態での位置止め部材27もまた、第1実施形態での位置止め部材7と同様に、従来の位置止め部材よりも介在部27aのθ方向の幅を大きく形成することができる。よって、位置止め部材27のθ方向の剛性が向上することで、振動型アクチュエータの耐久性を向上させることができる。また、位置止め部材27は、圧電素子2aと接触しておらず、介在部27aでのみ振動体2と接触しているため、振動体2の振動を阻害することなく、振動体2を安定して支持することができる。そして、ねじ部材21fの締結後は、位置止め部材27は支持部材21に対して固定されるために振動型アクチュエータの駆動中に振動体2がθ方向に動くことがなく、よって、より高精度な駆動が可能となる。位置止め部材27の数は、第1実施形態と同様に、振動型アクチュエータの負荷の大きさに応じて設定することができる。
【0053】
なお、取付部27bと被取付支柱部21cの間の隙間は、溝2dとねじ穴部21gの角度公差に対する調整に必要な大きさで形成されている。また、
図7(b)に示されるように、被取付支柱部21cは、ねじ頭部21eに向かってくびれた形状に形成されて、取付部27bとの距離がZ方向で変化している。このような構造であっても、取付部27bに対して最も近接している位置での隙間が上記の大きさであれば、上述の効果を得ることができる。
【0054】
第1乃至第3実施形態では、本発明を、回動型の振動波駆動装置に適用した場合について説明したが、本発明の技術思想は、回動型の振動波駆動装置のみならず、直動型の振動波駆動装置にも適用可能である。直動型の振動波駆動装置においては、弾性体は直線状であり、相対移動方向は、振動体と接触体とが、相対的に直線移動する方向である。
【0055】
<第4実施形態>
第4実施形態では、上述した各実施形態に係る振動型アクチュエータを備える装置(機器)の一例としての産業用ロボットについて説明する。
【0056】
図8は、振動型アクチュエータを搭載したロボット100の概略構成を示す斜視図であり、ここでは、産業用ロボットの一種である水平多関節ロボットを例示している。ロボット100は、アーム関節部111とハンド部112を有する。アーム関節部111は、2本のアーム120が交差する角度を変えることができるように2本のアームを接続する。ハンド部112は、アーム120と、アーム120の一端に取り付けられる把持部121と、アーム120と把持部121とを接続するハンド関節部122とを有する。振動型アクチュエータは、アーム関節部111や把持部121に内蔵され、アーム120やハンド関節部の角度調整や回転動作を行う。
【0057】
<第5実施形態>
第5実施形態では、上述した各実施形態に係る振動型アクチュエータを備える装置(機器)の一例としての雲台装置(旋回装置)について説明する。
【0058】
図9(a)は雲台装置200の外観正面図であり、
図9(b)は雲台装置200の側面図である。雲台装置200は、ヘッド部210、ベース部220、Lアングル230及び撮像装置240を有する。
【0059】
2個の振動型アクチュエータがヘッド部210の内部に配置されている。パン駆動用の振動型アクチュエータ280の出力部はベース部220と連結されており、振動型アクチュエータ280の駆動によってヘッド部210をベース部220に対して相対的にパン動作させることができる。チルト駆動用の振動型アクチュエータ270の出力部はLアングル230と連結されており、振動型アクチュエータ270の駆動によってLアングル230をヘッド部210に対して相対的にチルト動作させることができる。
【0060】
Lアングル230に取り付けられた撮像装置240は、動画や静止画の撮影用カメラである。振動型アクチュエータ270,280を駆動してパン動作とチルト動作を行いながら撮像装置240による撮影を行うことができる。一方、振動型アクチュエータ270,280は無通電時にも摩擦力により姿勢を維持することができるため、雲台装置200の姿勢を決めた後には無通電として消費電力を抑制して撮影を続けることもできる。なお、ここでは、雲台装置200のLアングル230に撮像装置240を搭載した構成について説明したが、雲台装置200は、搭載物を変更することによって撮像以外の他の用途に用いることができる。
【0061】
以上、本発明をその好適な実施例に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。また、上述した各実施例は本発明の一実施例を示すものにすぎず、各実施例を適宜組み合わせることも可能である。更に、振動型アクチュエータを備える機器として、ロボット100と雲台装置200を取り上げたが、本発明は振動型アクチュエータによる駆動力を用いて所定の部品を駆動する各種機器に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 振動型アクチュエータ
2 振動体
2a 圧電素子
2b 弾性体
2c 突起部
2d 溝
3 接触体
7a 介在部
7b 取付部
7 位置止め部材
10 支持部材
10b 被取付部