(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】吐出装置及び吐出速度の算出方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 451
(21)【出願番号】P 2020120863
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】内田 直樹
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-152853(JP,A)
【文献】特開2012-153096(JP,A)
【文献】特開2005-205838(JP,A)
【文献】特開2008-143149(JP,A)
【文献】特開2005-081714(JP,A)
【文献】特開2005-262813(JP,A)
【文献】特開2009-137127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口面に形成された複数の吐出口から液滴を吐出する吐出ヘッドと、
光を発光する発光部と前記発光部が発光した光を受光する受光部とを有する検知手段と、
前記吐出ヘッドと前記検知手段との位置関係が、前記吐出ヘッドから吐出された液滴が前記発光部と前記受光部との間を通過する検出用の位置関係となった状態で、前記受光部の受光量に基づいて前記吐出ヘッドから吐出された液滴を検出する液滴検出手段と、
前記吐出ヘッドが前記液滴の吐出を開始してから前記液滴検出手段により前記液滴が前記光を通過したことを検出するまでの時間を検出する時間検出手段と、
前記時間検出手段が検出した時間に基づいて前記液滴の吐出速度を算出する算出手段と、
を有する吐出装置であって、
吐出口の使用頻度に関する情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した前記情報に基づいて、前記複数の吐出口のうち、前記時間の検出のために前記吐出ヘッドから液滴を吐出する吐出口を選択する選択手段と、
を更に有することを特徴とする吐出装置。
【請求項2】
前記取得手段は、画像の記録において各吐出口から吐出されたインク滴の数を示す情報を取得し、
前記選択手段は、前記画像の記録において各吐出口から吐出されたインク滴の数が多い吐出口を前記時間の検出のために前記吐出ヘッドから液滴を吐出する吐出口として選択することを特徴とする請求項1に記載の吐出装置。
【請求項3】
前記複数の吐出口は、所定の方向に並んで前記吐出口面に形成され、
前記取得手段は、前記所定の方向に並んで形成された前記複数の吐出口を所定の数ごとに複数の領域に分割した領域ごとに、画像の記録において吐出されたインク滴の数を示す情報を取得し、
前記選択手段は、第1の領域の吐出口から吐出したインク滴の数よりも第2の領域の吐出口から吐出したインク滴の数の方が多い場合には、前記時間の検出のために前記吐出ヘッドから液滴を吐出する吐出口として選択する前記第1の領域の吐出口の数よりも前記第2の領域の吐出口の数の方が多いことを特徴とする請求項1に記載の吐出装置。
【請求項4】
画像を記録するための記録データを、各画素に対しての記録の許容或いは禁止を定めるマスクパターンを用いて生成する生成手段を有し、
前記複数の吐出口は、所定の方向に並んで前記吐出口面に形成され、
前記吐出ヘッドは、前記吐出ヘッドと画像を記録する記録媒体とを前記所定の方向と交差する方向に相対的に移動しながら前記記録データに従って前記記録媒体へインクを吐出することにより画像を記録し、
前記取得手段は、前記記録データの生成に使用されるマスクパターンを示す情報を取得し、
前記選択手段は、前記情報が示すマスクパターンの各吐出口の使用率に基づいて、前記時間の検出のために前記吐出ヘッドから液滴を吐出する吐出口を選択することを特徴とする請求項1に記載の吐出装置。
【請求項5】
前記生成手段は、前記画像を記録する記録媒体の種類と、記録モードに基づいて決定された前記マスクパターンを用いて前記記録データを生成することを特徴とする請求項4に記載の吐出装置。
【請求項6】
前記取得手段が取得する前記情報は、記録において使用された累積の吐出口の使用頻度に関する情報であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の吐出装置。
【請求項7】
前記取得手段は、所定の期間の吐出口の使用頻度に関する情報を取得することを特徴とする請求項6に記載の吐出装置。
【請求項8】
前記吐出ヘッドから吐出された液滴が前記発光部と前記受光部との間を通過する位置における、前記吐出口が形成された吐出口面と前記検知手段との距離を変化させる変化手段を有し、
前記吐出ヘッドの前記吐出口面と前記発光部が発光する光との距離が第1の距離の状態で前記時間検出手段
は複数の
前記時間を検出し、
前記変化手段によって前記吐出口面と前記発光部が発光する光との距離が前記第1の距離とは異なる第2の距離とした状態で前記時間検出手段
は前記複数の時間を検出する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の吐出装置。
【請求項9】
吐出信号を生成する吐出信号生成手段と、
前記吐出信号の入力に従って前記吐出ヘッドの前記吐出口から前記液滴を吐出するための駆動パルスを生成する駆動パルス生成手段と、を更に有し、
前記吐出ヘッドは前記駆動パルスが印加されることによって前記吐出口から液滴を吐出し、
前記時間検出手段は、前記吐出信号生成手段が前記駆動パルス生成手段に前記吐出信号を入力したタイミングを前記吐出口から前記液滴の吐出を開始したタイミングとして時間を検出することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の吐出装置。
【請求項10】
吐出ヘッドの吐出口面に形成された複数の吐出口から吐出された液滴が光を発光する発光部と前記発光部の発光する光を受光する受光部との間を通過する位置に前記吐出ヘッドがある状態で、前記吐出ヘッドから吐出された液滴を前記受光部の受光量に基づいて検出し、
前記吐出ヘッドが前記液滴の吐出を開始してから前記液滴が前記光を通過したことを検出するまでの時間を検出し、
検出した前記時間に基づいて前記液滴の吐出速度を算出する液滴の吐出速度の算出方法であって、
吐出口の使用頻度に関する情報を取得し、
取得した前記情報に基づいて、前記複数の吐出口のうち、前記時間の検出のために前記吐出ヘッドから液滴を吐出する吐出口を選択することを特徴とする吐出速度の算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出装置及び吐出速度の算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の記録装置においては、使用を続けていくと記録装置や記録ヘッドの個体差およびインクの物性、さらにはその使用状況や環境影響によってインク滴の吐出速度が変化することがある。インク滴の吐出速度が変化すると、例えば記録ヘッドの往復走査によって画像を記録するときには、往路方向で吐出したインク滴と復路方向で吐出したインク滴の着弾位置の関係がずれてしまい、画質に影響が生じる。
【0003】
特許文献1は、吐出するインクの吐出速度を計測する光学的検出器を備え、計測結果に基づき記録ヘッドの移動速度と吐出速度とから吐出タイミングを適切に設定するためのレジストレーション調整方法が開示されている。また、この文献にはインクの吐出速度の測定方法として、インクの吐出タイミングから光学的検出器から照射される光束に到達するまでの時間を測定し、その測定結果と記録ヘッドから光束までの距離に基づいて吐出速度を算出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、記録の条件によって使用頻度の高い吐出口と使用頻度の低い吐出口がある。吐出速度を測定した吐出口の吐出速度と、記録での使用頻度の高い吐出口の吐出速度とが異なる場合、インク滴の着弾ずれが生じ、画質に影響が生じる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、吐出速度の測定対象とする吐出口を選択することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、吐出口面に形成された複数の吐出口から液滴を吐出する吐出ヘッドと、光を発光する発光部と前記発光部が発光した光を受光する受光部とを有する検知手段と、前記吐出ヘッドと前記検知手段との位置関係が、前記吐出ヘッドから吐出された液滴が前記発光部と前記受光部との間を通過する検出用の位置関係となった状態で、前記受光部の受光量に基づいて前記吐出ヘッドから吐出された液滴を検出する液滴検出手段と、前記吐出ヘッドが前記液滴の吐出を開始してから前記液滴検出手段により前記液滴が前記光を通過したことを検出するまでの時間を検出する時間検出手段と、前記時間検出手段が検出した時間に基づいて前記液滴の吐出速度を算出する算出手段と、を有する吐出装置であって、吐出口の使用頻度に関する情報を取得する取得手段と、前記取得手段が取得した前記情報に基づいて、前記複数の吐出口のうち、前記時間の検出のために前記吐出ヘッドから液滴を吐出する吐出口を選択する選択手段と、を更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吐出口の使用頻度に応じて吐出速度の測定対象の吐出口を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る記録装置の外観を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る記録装置の内部構成を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【
図4】インク滴の吐出速度と着弾位置の相関関係を示す模式図である。
【
図5】本実施形態におけるインク滴の吐出速度の算出方法について説明するための図である。
【
図6】本実施形態における検出時間および吐出速度を示す図である。
【
図7】本実施形態における吐出速度を算出する処理のフローチャートである。
【
図8】本実施形態におけるマスクパターンを示す図である。
【
図9】本実施形態における検出時間を測定するための吐出口を選択する処理のフローチャートである。
【
図10】本実施形態における吐出されるドット数と累積ドット数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<記録装置の全体概要>
図1は、実施形態に係る液滴吐出装置の一例としてのインクジェット記録装置(以下、記録装置)100の外観を示す図である。
【0011】
図1に示す記録装置100は、出力された記録媒体を積載する排紙ガイド101、種々の記録情報や設定結果などを表示するための表示パネル103と、記録モードや記録紙などの設定をするための操作ボタン102などを備える。さらに記録装置100には、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローなどの色のインクを貯留するインクタンクを収容し、液滴吐出ヘッドの一例として記録ヘッド201(
図2)にインクを供給するインクタンクユニット104を備える。
図1の記録装置は60インチサイズの記録媒体までの複数の幅の記録媒体に記録可能な記録装置である。記録媒体203はロール紙やカット紙を使用することができる。また、記録媒体203は紙に限られるものではなく、例えば布やビニールであってもよい。
【0012】
図2は、記録装置100の内部構成を示す斜視図である。プラテン212は記録ヘッド201と対向する位置に位置する記録媒体203を支持する部材である。記録媒体203は、プラテン212によって支持されながら、用紙搬送ローラ213によって搬送方向(Y方向、交差方向)に搬送される。記録ヘッド201は、吐出口が形成された吐出口面201a(
図5)を有している。吐出口面201aには、複数の吐出口がY方向に配列された吐出口列が各インク色毎に形成され、吐出口列はX方向(所定の方向)に配列されている。記録ヘッド201はキャリッジ202に搭載される。また、記録ヘッド201は、プラテン212上の記録媒体203と記録ヘッド201との距離を検出するための距離検出センサ204を備える。距離検出センサ204は記録媒体203上に光を照射する発光素子(
図8)、記録媒体203から反射する光を受光する受光素子(
図8)を有し、受光素子の受光量の出力の変化から、距離を計測する光学センサである。詳しくは
図8にて説明する。液滴検出センサ205は記録ヘッドから吐出される液滴、ここではインク滴を検出するセンサである。液滴検出センサ205は光を発光する発光部としての発光素子401(
図5)、光を受光する受光部としての受光素子402(
図5)、制御回路基板403(
図5)を備える光学センサである。詳しくは
図5にて説明する。メインレール206はキャリッジ202を支持するものであり、キャリッジ202はメインレール206に沿ってX方向(記録媒体の搬送方向に対して直交方向)に往復走査する。キャリッジ202の走査は、キャリッジ搬送ベルト207を介してキャリッジモーター208が駆動することにより行われる。リニアスケール209は走査方向に配設され、リニアスケール209をキャリッジ202に搭載されたエンコーダセンサ210が検出することで位置情報を取得する。さらに、記録装置100はキャリッジ202を支持するメインレール206の高さを段階的に可変するためのリフトカム(不図示)およびそのリフトカムを駆動するリフトモーター211を備える。リフトカムをリフトモーター211で駆動することで、記録ヘッド201を昇降させ、記録ヘッド201と記録媒体203の間の距離を接近させたり離間させたりすることができる。リフトカムの停止位置に基づき所定の精度で多段階に高さを可変することが可能で、その高さの可変量は所定段階の高さに対して相対的に駆動するため、高精度に段階間の変動距離を設定することができる。
【0013】
図3は、記録装置100の制御構成を示すブロック図である。記録装置100は、装置全体を制御するCPU301、各センサやモータを制御するセンサ・モーター制御部302、および吐出速度や記録媒体の厚さなどの各種情報を記憶するメモリ303を備える。CPU301、センサ・モーター制御部302、メモリ303は、互いに通信可能に接続される。センサ・モーター制御部302は、距離検出センサ204、液滴検出センサ205、及びキャリッジ202を走査するキャリッジモーター208を制御する。また、センサ・モーター制御部302は、エンコーダセンサ210で検出した位置情報に基づきヘッド制御回路305を制御し、記録ヘッド201からインクを吐出する。
【0014】
ホスト装置1から送信された画像データは、CPU301にて吐出信号に変換され、吐出信号に従って記録ヘッド201からインクが吐出されて記録媒体203への印刷が行なわれる。CPU301は、ドライバ部306、シーケンス制御部307、画像処理部308、タイミング制御部309、およびヘッド制御部310を含んで構成される。シーケンス制御部307は、記録制御全般を制御し、具体的には、各機能ブロックである画像処理部308、タイミング制御部309及びヘッド制御部310の起動および停止、記録媒体の搬送制御、キャリッジ202の走査制御等を行なう。各機能ブロックの制御は、シーケンス制御部307が各種プログラムをメモリ303から読み出して実行することにより実行される。ドライバ部306は、シーケンス制御部307からの指令に基づき、センサ・モーター制御部302、メモリ303、ヘッド制御回路305等への制御信号を生成し、また各ブロックからの入力信号をシーケンス制御部307へ伝達する。
【0015】
画像処理部308は、ホスト装置1からの入力画像データを色分解・変換し、記録ヘッド201で記録可能な記録データに変換する画像処理を行なう。タイミング制御部309は、キャリッジ202の位置と連動して、画像処理部308で変換・生成された記録データをヘッド制御部310に転送する。また、タイミング制御部309は、記録データの吐出のタイミングの制御も行なう。タイミング制御は、後述する吐出速度の算出処理において算出される吐出速度に基づいて決定された吐出タイミングに従って行う。ヘッド制御部310は、吐出信号生成手段として機能し、タイミング制御部309から入力された記録データを吐出信号に変換して出力する。また、シーケンス制御部307の指令に基づいてインクを吐出しない程度の制御信号を出力することによって記録ヘッド201の温度制御を行なう。ヘッド制御回路305は駆動パルス生成手段として機能し、ヘッド制御部310から入力された吐出信号に従って駆動パルスを生成し、記録ヘッド201に印加する。
【0016】
次に、
図4を用いて吐出タイミングの調整について説明する。
図4(a)は、インク滴の吐出速度と着弾位置の関係を示す模式図である。記録ヘッド201の吐出口面201aと記録媒体203のZ方向の距離をHとする。記録ヘッド201はX方向に速度Vcrで往復走査しながらインクを吐出して記録媒体203に画像の記録を行う。記録ヘッド201から吐出されたインク滴の吐出速度をVaとする。
図4(a)に示すように、往路方向の走査と復路方向の走査では走査方向が異なるために、インク滴を吐出した位置に対するインクの着弾位置が異なる。記録ヘッド201が吐出したインク滴の着弾位置を合わせるために、インク滴の吐出タイミングを調整する。まず、往路方向の走査においてインク滴を吐出した位置から記録媒体203上にインク滴が着弾する位置までの距離Xaは以下の計算式で記述される。
【0017】
Xa = (H / Va)× Vcr
さらに、復路方向の走査においてインク滴を吐出した位置から記録媒体203上にインク滴が着弾する位置までの距離Xbは以下の計算式で記述される。
【0018】
Xb =(H / Va)×(―Vcr)
= ―Xa
上記により、記録ヘッド201と記録媒体203の距離と、液滴検出センサ205により検出されたインク滴の吐出速度に基づき、エンコーダセンサ210が検出する記録ヘッド201の位置に対する適切な吐出タイミングが求められる。本実施形態では、予めデフォルトの吐出速度と、デフォルトの吐出速度に対する吐出タイミングが定められてメモリ303に保存されている。このデフォルトの吐出速度に対する吐出タイミングの調整値を0として、吐出速度に応じて調整値が-4から+4までの値で調整される。調整は1200dpi単位で行われる。この吐出速度と吐出タイミングの調整値が対応づけられたテーブルは予めメモリ303に保存しておく。そして、後述する
図7の吐出速度の算出処理によって取得した速度に応じた吐出タイミングの調整値をテーブルから取得し、吐出タイミングの調整を行う。
【0019】
また、
図4(b)は、液滴検出センサ205により検出されたインク滴の吐出速度が上記
図4(a)で示すインク滴の吐出速度から下がった場合を示している。このとき、往路方向の走査においてインク滴を吐出した位置から記録媒体203上にインク滴が着弾する位置までの距離Xa’は以下の計算式で記述される。
【0020】
Xa’ = (H / Va’)× Vcr
仮に、記録ヘッド201に吐出したインク滴が記録媒体203に着弾するまでのインク滴の吐出速度が10%減衰していたと仮定すると、以下のように吐出位置から着弾位置までの距離を求めることができる。
【0021】
Xa’= (H / Va’)× Vcr
= (H / (Va×0.9))× Vcr
= 1.11×Xa
以上のように、吐出速度が遅くなると、着弾位置は記録ヘッド201が走査する方向にずれる。吐出位置から着弾位置までの距離が求められると、
図4(a)と同様に、吐出速度に基づいて適切な吐出タイミングの調整値を求めることができる。尚、本実施形態では、記録媒体203は十分薄いとし、記録ヘッド201の吐出口面201aと記録媒体203の距離は、吐出口面201aとプラテン212の距離と同じ距離であると見なすことができるとする。
【0022】
次に、
図5を用いて本実施形態における、記録ヘッド201から吐出されるインク滴の吐出速度の算出方法を説明する。
図5は記録装置100をY-Z断面で切断した時の記録ヘッド201と液滴検出センサ205の模式図を示す。また、記録ヘッド201に駆動パルスを印加するための吐出信号と、液滴検出センサ205がインク滴の通過を検知したときの検出信号のタイミングチャートを示す。
【0023】
図5(a)に示すように記録ヘッド201は吐出口面201aを有している。液滴検出センサ205は発光素子401、受光素子402、制御回路基板403などから構成されている。発光素子401は光404を発し、受光素子402は発光素子401が発光した光404を受光する。受光素子402が受光した受光量を制御回路基板403が検出する。光404をインク滴が通過すると受光量が少なくなるため、インク滴の通過を検出することができる。液滴検出センサ205は、光404の光軸がプラテン212の記録媒体203を支持する側の表面とZ方向に同じ位置になるように設置されている。発光素子401および受光素子402の近傍にはそれぞれスリットが設けられ、入射する光404を絞り込んでS/N比を向上させる。光404の中をインク滴が通過するようにインク滴を吐出できるX方向の記録ヘッド201と液滴検出センサ205の位置関係を検出用の位置関係とする。インク滴の吐出速度を算出するためにインク滴を検出する際には、シーケンス制御部307によってセンサ・モーター制御部302はキャリッジモーター208が制御され、記録ヘッド201は検出用の位置関係となるような位置に移動する。本実施形態における光404の光束の断面積は1(mm^2)程度とする。そして、インク滴が光404を通過した場合のインク滴の平行光射影面積は2^-3(mm^2)程度とする。
【0024】
図5(a)は、記録ヘッド201の吐出口面201aと発光素子401が発光する光404との高さ方向(Z方向)の距離がH1であるときの様子を示している。吐出口面201aと光404との距離がH1でない場合にはセンサ・モーター制御部302はリフトモーター211を駆動してリフトカムによって記録ヘッド201の高さを移動させる。
図5(a)に示す状態になると、CPU301内のヘッド制御部310からの吐出信号がドライバ部306を介してヘッド制御回路305に送信される。ドライバ部306は吐出信号を送信したタイミングをシーケンス制御部307へ伝達する。ヘッド制御回路305は吐出信号に従って駆動パルスを発生させ、記録ヘッド201に印加することで吐出口からインクを吐出させる。発光素子401が発光する光404をインク滴が通過して受光素子402が受光する受光量が変化すると、受光量が変化したタイミングが制御回路基板403にて検出信号として出力される。出力した検出信号はセンサ・モーター制御部302を介してシーケンス制御部307に送られる。そしてシーケンス制御部307は、吐出信号が発せられてから検出信号が出力されるまでの検出時間T1を検出する。以上のように、シーケンス制御部307はインクの吐出開始から吐出したインク滴が検出されるまでの時間を検出する時間検出手段として機能し、吐出速度を算出するための検出時間を検出する。
【0025】
図5(b)は、
図5(a)にてインク滴を検出した後に、リフトモーター211を駆動し、記録ヘッド201の吐出口面201aと発光素子401が発光する光404との高さ方向(Z方向)の距離をH2としたときの様子を示している。
図5(a)と同様に、インク滴が液滴検出センサ205の光404を通過したときの受光素子402の受光量が変化したタイミングが検出信号として出力される。そして、記録ヘッド201にインク滴を吐出させる吐出信号が発せられてから検出信号が出力されるまでの検出時間T2がシーケンス制御部307にて検出される。
【0026】
図5(a)および
図5(b)の状態で検出時間T1、T2を検出すると、シーケンス制御部307は検出時間T1と検出時間T2の時間差と、距離H1と距離H2の距離差と、に基づき、距離H2から距離H1の間を通過するインク滴の吐出速度V1を算出する。算出式は以下のようになる。
【0027】
V1=(H2-H1)/(T2-T1)
吐出速度V1を算出すると、リフトモーター211を駆動し、吐出口面201aと光404との高さ方向の距離を距離H2よりも更に離間させたH3にする。このときの状態を
図5(c)に示す。
図5(a)および
図5(b)と同様に、記録ヘッド201の吐出口からインク滴を吐出し、吐出したインク滴が液滴検出センサ205の光404を通過したときの光量が変化したタイミングを制御回路基板403にて検出信号として検出する。そして、記録ヘッド201にインク滴を吐出させる吐出信号が発せられてから検出信号が出力されるまでの検出時間T3がシーケンス制御部307にて検出される。
図5(a)、
図5(b)で説明した時と同じように、距離H2と距離H3においてそれぞれ検出した検出時間T2と検出時間T3の差と、距離H2と距離H3の距離差とに基づき、距離H3から距離H2の間を通過するインク滴の吐出速度V2を算出する。算出式は以下のようになる。
【0028】
V2=(H3-H2)/(T3-T2)
吐出速度V2を算出すると、さらにリフトモーター211を駆動し、吐出口面201aと光404との高さ方向の距離を距離H3よりも更に離間させたH4にする。このときの状態を
図5(d)に示す。
図5(a)、
図5(b)および
図5(c)と同様に、記録ヘッド201の吐出口からインク滴を吐出し、吐出したインク滴が液滴検出センサ205の光404を通過したときの光量が変化したタイミングを制御回路基板403によって検出し、検出信号を出力する。そして、記録ヘッド201にインク滴を吐出させる吐出信号が発せられてから検出信号が出力されるまでの検出時間T4がシーケンス制御部307にて検出される。
図5(a)~
図5(c)で説明した時と同じように、距離H3と距離H4においてそれぞれ検出した検出時間T3と検出時間T4との差と、距離H3と距離H4の距離差とに基づき、距離H4から距離H3の間を通過するインク滴の吐出速度V3を算出する。算出式は以下のようになる。
【0029】
V3=(H4-H3)/(T4-T3)
以上のように、記録ヘッド201と液滴検出センサ205との距離を変化させ、それぞれの距離における検出時間を検出することによってインク滴の吐出速度Vを算出する。以上では、短い距離から順に検出時間を検出していったが、検出順はこれに限られない。例えば距離が長い方から順に検出しても良い。本実施形態において、離間させる距離Hは1.2mm-2.2mmの間の距離である。
【0030】
また、記録ヘッド201と液滴検出センサ205の距離は、上述の4つの距離には限られない。4つより多くの距離での検出時間を測り、吐出速度を算出してもよい。その場合は、多くの距離に対応する吐出速度が算出できるため、吐出速度の減衰影響(吐出速度が距離によって一定か、もしくは変化しているかどうか)をより詳細に取得することができる。その結果、より高精度にインク滴の吐出速度と減衰影響を取得することが可能である。また、4つより少ない距離、例えば1つの距離で検出時間を測り、吐出速度を算出してもよい。その場合には、検出時間を測るためにかかる時間を短縮することができる。
【0031】
また、本実施形態は、液滴検出センサ205に対して、記録ヘッド201が移動して距離を変化させる構成としているが、液滴検出センサ205と記録ヘッド201とのZ方向の距離が相対的に変化すればよい。そのため、例えば液滴検出センサ205をZ方向に移動させて距離を変化させるようにしてもよい。また、検出用の位置関係とするために液滴検出センサ205がX方向に移動するような構成としてもよい。
【0032】
図6(a)、(c)は、
図5で説明した、吐出口面201aと液滴検出センサ205の光404の距離と、それぞれの距離における検出時間の出力結果を示す図である。
図6(b)、(d)はそれぞれ
図6(a)、(c)に示す距離と検出時間から算出した吐出速度と、各距離の差との関係を示す図である。
【0033】
図6(a)に示すグラフにおいて、縦軸はシーケンス制御部307で検出される検出時間を示し、横軸を記録ヘッド201の吐出口面201aと液滴検出センサ205の光404の距離を示す。
図6(a)において斜線付き丸で示す箇所が実際に測定した箇所である。ここでは距離H1~H5のときに検出を行っている。距離H5は距離H4よりも更に離れた距離である。
【0034】
図6(b)に示すグラフにおいて、縦軸は吐出速度を示し、横軸は離間させた各距離の差を示す。このとき、算出した吐出速度のデータは、種々の影響から非線形に推移するデータが得られることがある。そのため、距離の差ごとに示す吐出速度のデータについてより精度よく算出するために、取得した吐出速度のデータから、2次以上の多項式の近似曲線を求め、求めた近似曲線の多項式を吐出速度を表す式とする。近似曲線を求めるためには、3つ以上吐出速度を用いる。3つ以上の吐出速度を算出するためには、4つ以上の距離における検出時間を検出する必要がある。吐出速度の求め方は上述した通りである。
【0035】
また、記録ヘッドの個体差およびインク色ごとの物性の差、さらにはその使用状況や環境影響によっては線形的に推移するデータが得られる可能性もあることが、発明者の実験により判明している。このような線形的に推移する場合のデータを
図6(c)に示す。この場合も、上記と同様に、各距離における検出時間と、吐出口面201aと光404との距離の差から吐出速度を算出することができる。算出した吐出速度と距離の差との関係を示す図を
図6(d)に示す。
図6(d)に示すように、各距離の差において算出した吐出速度はどの距離の差においても一定の吐出速度を示す。線形に移行するデータが得られることが分かっている場合には、距離に関わらず一定の吐出速度のため、1つの吐出速度を求めればよい。1つの吐出速度を算出するためには2つの距離における検出時間を検出すればよい。
【0036】
また、吐出速度の推移が非線形であっても、吐出口面201aと記録媒体203との距離が一定の距離の場合にのみ記録を行う場合には近似曲線の算出を必ずしも行う必要はない。その場合には、記録を行う際の距離が間に含まれる2つの距離における検出時間を検出すればよい。
【0037】
図7は、
図5および
図6に対応し、吐出速度を算出する処理のフローチャートを示す。
【0038】
図7の吐出速度の算出処理は、記録装置100のユーザーが記録装置100を初めて動作させる初期設置の動作時や、記録ヘッド201を新しいものに交換して装着されたときなどに行う処理である。また、メンテナンスとして定期的に行われたり、ユーザーの指示に従って行われる処理である。メンテナンスのための定期的な処理は、例えば所定数インクを吐出する毎に行ったり、所定枚数を記録する毎に行うことができる。
図7の処理は、例えばメモリ303に格納されたプログラムに従ってCPU301のシーケンス制御部307が行う処理である。
【0039】
まず、ステップS601では、シーケンス制御部307はリフトモーター211を駆動させ、記録ヘッド201と液滴検出センサ205を所定距離だけ離間させる。離間させる距離は、予めメモリ303に設定してあり、本実施形態では
図5で説明した距離H1~H4である。離間する距離の順番は
図5で説明した通り、距離H1、H2、H3、H4の順番とする。
【0040】
次にステップS602に進み、吐出速度を検出するために必要な前処理を実行する。詳しくは、吐出速度を検出するために最適な吐出制御の事前設定や、インク滴の安定吐出のための予備吐出動作、さらには記録装置内部の気流制御の安定化のための吸引ファン停止動作、などが挙げられる。
【0041】
次にステップS603に進み、液滴検出センサ205の発光素子401が発光する光404に対し、記録ヘッド201から検査用のインク滴を吐出する吐出動作を実行する。詳しくは、ステップS601で離間した距離において、記録ヘッド201の所定のノズルからインク滴の吐出を開始してから液滴検出センサ205の受光素子402が、光404をインク滴が通過したことを検出するまでの時間である検出時間を検出する。このとき、検出時間は、記録ヘッド201の複数のノズルを用いて複数の検出時間を検出する。検出時間の測定を行う対象のノズルは、後述する
図9の処理によって決定する。
【0042】
次にステップS604に進み、ステップS603で取得した検出時間のデータ処理を実行し、ステップS601で離間させた距離に対する検出時間を算出する。詳しくは、検出時間の測定の安定化のために必要な取得サンプル数に基づき平均化処理やデータの異常値混入を防ぐための上下誤差範囲外データの削除などのデータ処理を実行する。
【0043】
次にS605に進み、メモリ303に設定されている全ての距離に対して検出時間を検出したか否かを判定する。本実施形態では、現在の吐出口面201aと液滴検出センサ205の光404との距離が、最後に離間させる距離である距離H4であるか否かを判定する。距離が距離H4でない場合にはステップS601に戻り、次に設定されている距離だけ離間させ、以降のデータ取得と処理を実行する。ステップS605において、現在の距離が距離H4であると判定された場合には、全ての距離での検出時間の取得が完了しているとしてS606に進む。
【0044】
ステップS606では、吐出速度の算出を実行する。詳しくは、
図5、
図6を用いて説明したように、各距離の差と、各距離における検出時間に基づいて吐出速度を算出する。吐出速度を算出するとステップS607に進み、ステップS606で算出した吐出速度の情報をメモリ303に保存する。ここで保存した吐出速度情報は、以降、必要な処理に応じてデータ処理および記録ヘッド201の駆動制御に使用される。
【0045】
次にステップS608に進み、終了処理を行う。詳しくは、吐出速度の算出が完了したため、記録ヘッド201を所定位置に退避させたり、次回記録動作処理のための待機状態に移行したり、さらには取得した吐出速度情報に基づき、記録ヘッド201のクリーニング処理、などに移行し、その後本処理は終了する。
【0046】
図7の吐出速度が終了すると、メモリ303に予め保存された吐出速度と吐出タイミングの調整値が対応づいたテーブルと、
図7の処理によって取得した吐出速度に基づいて吐出タイミングの調整値をテーブルから取得し、吐出タイミングの調整を行う。画像の印刷を行う際には、タイミング制御部309によって記録データに従ってインクを吐出するタイミングの制御を行う。
【0047】
<吐出速度の算出処理を行う吐出口の選択>
本実施形態の記録装置は、キャリッジ202を往復走査しながら記録ヘッド201からインクを吐出して記録媒体に記録を行うシリアルタイプの記録装置である。この記録装置では、1パス記録、マルチパス記録によって画像の記録を行うことができる。1パス記録は、キャリッジの1回の走査に伴うインクの吐出によって記録媒体の単位領域に画像を完成させる記録方法である。マルチパス記録は、記録媒体の単位領域に対して複数回キャリッジ202を走査しながら記録ヘッド201からインクを吐出することにより記録媒体の単位領域に画像を完成させる記録方法である。
【0048】
図8に、本実施形態におけるマスクパターンを示す。マスクパターンは、記録ヘッド201の各走査における各画素に対しての記録の許容或いは禁止を定めるためのものである。本実施形態では、使用する記録媒体の種類ごとに異なるマスクパターンを使用する。
図8の0~639はY方向に配列された吐出口列の吐出口の番号を示している。
図8(A)は、記録媒体として普通紙を使用し、1パス記録を行う場合に使用するマスクパターンである。図に示すように、ノズル全域で均一な割合で使用される。
図8(B)は、記録媒体としてコート紙を使用し、4パスのマルチパス記録を行う場合に使用するマスクパターンである。
図8(B)のマスクパターンは、使用率が吐出口列中央の領域(吐出口番号160~479)と外側の領域(吐出口番号0~159、480~639)の2つの領域で異なり、中央の吐出口の方が外側の吐出口よりも使用率が高い。
図8(C)は、記録媒体として光沢紙を使用し、8パスのマルチパス記録を行う場合に使用するマスクパターンである。
図8(C)のマスクパターンは、吐出口列の中央の領域の使用率が最大となるようなグラデーションマスクである。ほかにも吐出番号0番側の吐出口の使用率が高いようなマスクパターン等を記録媒体の種類や記録モードによって設定してもよい。
【0049】
以上説明したようなマスクパターンは、記録媒体の種類によってそれぞれ設定されており、その中でもパス数によって異なるマスクパターンが設定され、メモリ303に記憶されている。記録に使用するマスクパターンはユーザーが選択した記録媒体の種類、パス数によってCPU301が決定する。パス数はユーザーが選択した記録モードによってCPU301が決定する。記録媒体の種類は普通紙、コート紙、光沢紙などである。記録モードには記録目的と記録品位がある。記録目的は「写真」または「線画」を選択することができる。記録品位は「きれい」、「標準」、「速い」を選択することができる。記録品位について、例えば写真などが記録されることの多い光沢紙においては「きれい」よりも画質を重視した「最高」モードを用意してもよい。また、文書などの線画が記録されることの多い普通紙においては「速い」よりもさらに印刷速度を重視した「最速」モードを用意してもよい。本実施形態においては、「線画」よりも「写真」が選択された場合の方がパス数が多くなる。また、「きれい」>「標準」>「速い」の順でパス数は多くなる。
【0050】
以上説明したような記録装置において、ユーザーによって使用する記録媒体の種類、記録モードは異なる。使用されるマスクパターンによって、頻繁に使用される吐出口列の領域が異なる。本実施形態では頻繁に使用される吐出口の吐出速度に合わせて吐出タイミングの調整値を設定する。そのために、吐出速度を算出に使用する検出時間を測定するための吐出口を、吐出口の使用率に基づいて決定する。
【0051】
図9は、
図7のステップS603において検出時間を測定するための吐出口を選択する処理である。
図9の処理は、例えばメモリ303に格納されたプログラムに従ってCPU301のシーケンス制御部307が行う処理である。
【0052】
ステップS1301では、記録において吐出されるインクの量を取得する。本実施形態では、インク量として、吐出口列をいくつかの領域に分割したときの、各領域において吐出されるドット数を取得する。
図10に吐出口列の各領域において記録で吐出されるドット数と累積ドット数を示す。初期とは記録ヘッド201が装着された時である。まだ記録を行っていないのですべての領域の吐出量は0である。1回目の記録において記録媒体の種類に普通紙、記録目的に線画、記録品位に標準が選択された場合には、普通紙の1パス記録を行うことが決定され、
図8(A)のマスクパターンが選択される。選択されたマスクパターンを用いて画像の記録が行われる。このとき均一な画像を記録した場合にはすべての領域において同じインクの量が吐出される。例えば10ドットずつ記録した場合には各領域のインク量に10を加算する。
【0053】
ステップS1302にて、各領域ごとのの累計ドット数を算出する。
図10において1回目の記録が終わった段階では累計ドット数は全領域で10である。
【0054】
ステップS1303では、使用頻度の高い領域の吐出口を検出時間の測定に使用する吐出口に決定する。
図10において1回目の記録が終わった段階ではすべての領域の累計ドット数は等しいので、検出時間の測定に使用する吐出口は全領域から均等に選択する。例えば選択する合計の吐出口の数が10の場合には各領域から1つずつ吐出口が選択する。
【0055】
ステップS1304では、ステップS1303で決定した検出時間の測定に使用する吐出口をメモリ303に記憶する。
【0056】
以上のようにして検出時間の測定に使用する吐出口が決定される。
図7の吐出速度算出処理のステップS603で検出時間を測定するときに、ステップS1303で決定されてメモリ303に記憶されている吐出口からインクを吐出して検出時間を測定する。このように、使用頻度が高い吐出口の検出時間を測定し、吐出速度を算出することで、使用頻度の高い吐出口の吐出速度に合わせた吐出タイミングの調整値が設定される。そのため、着弾ずれが起きるドットを少なくすることができ、画質の低下を抑制することができる。
【0057】
図10に示すように、2回目の記録に光沢紙、写真、きれい、が選択された場合には
図8(C)のマスクパターンを用いて8パス記録を行うことが決定され、中央の領域の吐出口の使用率が高くなる。記録において吐出したドット数を取得して累計ドット数を算出すると、中央の領域のドット数の方が多いので、中央の領域の吐出口が検出時間を測定するときに使用する吐出口として決定される。例えば領域3、領域8から1つずつ、領域4~7の各領域から2つずつ選択する。
【0058】
また、初めて記録ヘッド201を装着したときに実施する吐出速度の算出処理において測定する吐出口は、累計ドット数が全領域において0なので、全領域から均等に選択する。
【0059】
図9の処理では、実際に吐出するドット数をカウントし、それを吐出口列の領域ごとに累計した累計ドット数に基づいて検出時間を測定する吐出口を選択した。他にも、領域ごとではなく各ノズルの吐出ドット数をカウントして累計ドット数を計算し、累計ドット数の多い吐出口を検出時間を測定する吐出口を選択するようにしてもよい。また、記録の履歴を用いて吐出口を選択してもよい。例えば、マスクパターンの使用率を吐出口の使用率としてカウントすることができる。全ての画素に1ドットずつ記録するようなマスクパターンを使用率が100%のマスクパターンとする。例えば、
図8(A)のような均一なマスクパターンが使用率50%だとすると、1回の記録で50を加算する。また、
図8(B)のような中央の領域の使用率が80%、外側の領域の使用率が40%だとすると、中央の領域に対応する領域4~7には80を加算し、外側の領域に対応する領域1~3、8~10には40を加算する。この累計のカウントに応じて検出時間を測定する吐出口を選択するようにすることもできる。このカウント方法は、実際に吐出したドット数をカウントしていないので、実際の吐出頻度とはずれが出るが、各領域における吐出ドット数をカウントすることなく検出時間を測定する吐出口を選択することができる。
【0060】
また、記録の履歴を利用して、最近頻繁に使用される吐出口を選択することもできる。ユーザーによっては、時期によって使用する記録媒体の種類や記録モード等が変わることが考えられる。例えば、記録装置を導入してから2か月は普通紙を使用し、その後の2か月は光沢紙を使用するケースを考える。普通紙と光沢紙と吐出ドット数が同数の場合には、吐出口列の外側の領域(領域1、10付近)の累積ドット数も光沢紙のみを使用している場合よりも多いため、検出時間を測定する吐出口として選択される可能性が光沢紙のみを使用している場合よりも高い。しかし、直近では光沢紙を連続で使用しているため、今後使用される記録媒体の種類は光沢紙である可能性が高い。そのため、検出時間を測定する吐出口には、光沢紙を使用する際に使用率の高い吐出口を選択する。この吐出口の選択方法を実現するための装置構成の例を以下に示す。サーバーが記録装置100と通信可能に接続されている。記録装置100において記録が行われると、記録に使用された記録媒体の種類、記録モードのデータを記録装置100からサーバーに送信する。サーバーはこのデータを受信し、記憶する。そしてサーバーは、記憶したデータに基づくユーザーの記録媒体の種類の使用傾向から、以降使用する確率の高い記録媒体の種類を推定する。推定した記録媒体の種類のマスクパターンにおいて使用頻度の高い吐出口を、検出時間を測定する吐出口として決定し、記録装置100に決定した吐出口を送信する。例えば最後に記録が行われてから1か月などの所定の期間内に使用された記録媒体の種類のうち、最も使用された記録媒体の種類に基づいて吐出口を決定する。また、1人で複数台の記録装置を使用する場合には、複数の記録装置からの使用履歴に基づいて検出時間を測定する吐出口を決定し、決定した吐出口を複数の記録装置に反映するようにしてもよい。また、この例ではサーバーにユーザーの使用履歴を記憶させたが、記録装置のメモリが使用履歴の情報が保存可能な容量を有する場合にはサーバーを介さずに吐出口を決定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
100 記録装置
201 記録ヘッド
203 記録媒体
204 距離検出センサ
205 液滴検出センサ
301 CPU
302 センサ・モーター制御部
303 メモリ