(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
G03G15/20 515
(21)【出願番号】P 2020121235
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 敢
(72)【発明者】
【氏名】三谷 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】西田 聡
(72)【発明者】
【氏名】宍道 健史
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-141380(JP,A)
【文献】特開2002-196603(JP,A)
【文献】特開2007-114689(JP,A)
【文献】特開平05-113729(JP,A)
【文献】特開平08-123232(JP,A)
【文献】特開平01-193778(JP,A)
【文献】特開2020-091460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに形成されたトナー像をシートに定着させる定着装置であって、
無端状の第一回転体と、
前記第一回転体の内側に配置された発熱体と、
前記第一回転体の外周面に当接し、前記第一回転体と共にニップ部を形成する第二回転体と、
前記第二回転体と共に前記第一回転体を挟むように前記第一回転体の内周面に摺擦可能に設けられ、前記発熱体からの輻射熱を受けて前記ニップ部を加熱するニップ部材と、を備え、
前記ニップ部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成された本体部と、前記本体部の表面に形成された酸化皮膜から構成される保護層と、を有し、
前記保護層は、前記発熱体に対向して前記発熱体からの輻射熱を受ける受熱面と、前記第一回転体の前記内周面に摺擦する摺擦面と、を有し、且つ輻射率が自然発色の前記酸化皮膜の輻射率よりも高くなるように着色材を含有
し、
前記着色材は、酸化皮膜の微細孔に吸着されたクロム錯塩染料である、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記保護層は、前記本体部の表面全体に設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記保護層は、輻射率が0.85以上1.0以下である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記本体部は、マンガンを含むAl-Mn系のアルミニウム合金で形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記発熱体からの輻射熱を前記ニップ部材に向けて反射する反射板を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記発熱体は、ハロゲンランプである、
ことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
シートにトナー像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段により形成されたトナー像をシートに定着させる、請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の定着装置と、を備える、
ことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートにトナー像を定着させる定着装置、及び定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は、未定着のトナー像が形成されたシートに熱と圧力を加えることにより、シートにトナー像を定着させる定着装置を備えている。定着装置として、無端状の定着ベルトと、定着ベルトの外周面に当接するローラ(加圧ローラと呼ぶ)と、ハロゲンランプと、ニップ部材と、を備えたものが従来から提案されている(特許文献1)。ハロゲンランプは定着ベルトの内側に配設されて、輻射熱によって定着ベルトを加熱する。ニップ部材はアルミニウムやアルミニウム合金などを用いて形成され、加圧ローラと定着ベルトを挟むようにして定着ベルトの内周面に摺擦されている。未定着のトナー像が形成されたシートが定着ベルトと加圧ローラとの間に形成されるニップ部を通過する際に、シートに対し熱と圧力が加えられて、トナー像がシートに定着される。
【0003】
ところで、上記のニップ部材において定着ベルトと摺擦する面(ベルト摺擦面と呼ぶ)には、定着ベルトやニップ部材の削れを抑制するために、耐摩耗性の高い保護層が形成されている。この保護層は、例えばアルミニウム製又はアルミニウム合金製の本体部の表面に、ニッケルーリン合金の被膜として形成される、あるいは陽極酸化皮膜処理により酸化皮膜として形成される。また、ニップ部材においてハロゲンランプから輻射熱を受ける面(受熱面と呼ぶ)には、ハロゲンランプからの輻射熱を効率的に吸収し定着ベルトに伝導させるため、輻射率(放射率)の高い黒色の塗装が施されたり、あるいは熱吸収部材が設けられたりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来では、ハロゲンランプからの輻射熱によるベルト加熱のために、ニップ部材の受熱面が着色されることから、ニップ部材のベルト摺擦面と受熱面とで膨張率が異なっていた。それ故、熱と圧力が加えられるニップ部材に撓みや変形が生じる虞があった。ニップ部材に撓みや変形が生じると、定着ベルトに対し均一に圧力を加えられず、加圧ローラとによりニップ部が適切に形成され難くなり、その結果、トナー像の一部がシートに定着され難くなる。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、ハロゲンランプからの輻射熱による加熱のために着色される、アルミニウム製又はアルミニウム合金製のニップ部材の撓みや変形を抑制可能な定着装置、及びこれを備えた画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る定着装置は、シートに形成されたトナー像をシートに定着させる定着装置であって、無端状の第一回転体と、前記第一回転体の内側に配置された発熱体と、前記第一回転体の外周面に当接し、前記第一回転体と共にニップ部を形成する第二回転体と、前記第二回転体と共に前記第一回転体を挟むように前記第一回転体の内周面に摺擦可能に設けられ、前記発熱体からの輻射熱を受けて前記ニップ部を加熱するニップ部材と、を備え、前記ニップ部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成された本体部と、前記本体部の表面に形成された酸化皮膜から構成される保護層と、を有し、前記保護層は、前記発熱体に対向して前記発熱体からの輻射熱を受ける受熱面と、前記第一回転体の前記内周面に摺擦する摺擦面と、を有し、且つ輻射率が自然発色の前記酸化皮膜の輻射率よりも高くなるように着色材を含有し、前記着色材は、酸化皮膜の微細孔に吸着されたクロム錯塩染料である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成され、発熱体からの輻射熱による加熱のために着色されるニップ部材の撓みや変形を抑制することが容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の画像形成装置の構成を示す概略図。
【
図4】アルミニウム製のニップ部材への着色について説明するための模式図。
【
図5】アルミニウム合金製のニップ部材への着色について説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[画像形成装置]
以下、本実施形態について説明する。まず、本実施形態の画像形成装置の構成について、
図1を用いて説明する。
図1に示す画像形成装置100は、中間転写ベルト8に沿ってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成部PY、PM、PC、PKを複数備えたタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。
【0011】
画像形成装置100は、図示を省略したが、装置本体に接続された原稿読取装置あるいは装置本体に対し通信可能に接続されたパーソナルコンピュータ等の外部機器からの画像情報に応じて、シートSに画像を形成する。シートSとしては、普通紙、厚紙、ラフ紙、凹凸紙、コート紙等の用紙、プラスチックフィルム、布など、といった様々な種類のシート材が挙げられる。なお、本実施形態の場合、画像形成部PY~PK、一次転写ローラ5Y~5K、中間転写ベルト8、二次転写内ローラ66、二次転写外ローラ67などにより、シートSにトナー像を形成する画像形成手段としての画像形成ユニット500が構成されている。
【0012】
シートSの搬送プロセスとして、例えばシートSはカセット62内に積載されており、給紙ローラ63により画像形成タイミングに合わせて1枚ずつ搬送パス64に供給される。あるいは、不図示の手差しトレイに積載されたシートSが1枚ずつ搬送パス64に給紙される。シートSは搬送パス64の途中に配置されたレジストレーションローラ65へ搬送され、レジストレーションローラ65によりシートSの斜行補正やタイミング補正が行われた後に二次転写部T2へと送られる。二次転写部T2は、対向する二次転写内ローラ66と二次転写外ローラ67とにより形成される転写ニップである。二次転写部T2では、二次転写内ローラ66に二次転写電圧が印加されることで、トナー像が中間転写ベルト8からシートSへ二次転写される。
【0013】
上記した二次転写部T2までのシートSの搬送プロセスに対して、同様のタイミングで二次転写部T2まで送られて来る画像の画像形成プロセスについて説明する。まず、画像形成部PY、PM、PC、PKについて説明する。ただし、画像形成部PY、PM、PC、PKは、現像装置4Y、4M、4C、4Kで用いるトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外、ほぼ同一に構成される。そこで、以下では代表してイエローの画像形成部PYを例に説明し、その他の画像形成部PM、PC、PKについては説明を省略する。
【0014】
画像形成部PYは、主に感光ドラム1Y、帯電装置2Y、現像装置4Y、及びドラムクリーナ6Y等から構成される。回転駆動される感光ドラム1Yの表面は、帯電装置2Yにより予め表面を一様に帯電され、その後、画像情報の信号に基づいて駆動される露光装置3によって静電潜像が形成される。次に、感光ドラム1Y上に形成された静電潜像は、現像装置4Yによるトナー現像を経て可視像化される。その後、画像形成部PYと中間転写ベルト8を挟んで対向配置される一次転写ローラ5Yにより所定の加圧力及び一次転写バイアスが与えられ、感光ドラム1Y上に形成されたトナー像が中間転写ベルト8上に一次転写される。一次転写後の感光ドラム1Y上に僅かに残る転写残トナーは、ドラムクリーナ6Yにより除去される。
【0015】
中間転写ベルト8は、テンションローラ10、二次転写内ローラ66、及び張架ローラ7a、7bによって張架され、図中矢印R2方向へと移動するように駆動される。本実施形態の場合、二次転写内ローラ66は中間転写ベルト8を駆動する駆動ローラを兼ねている。上述の画像形成部PY~PKにより処理される各色の作像プロセスは、中間転写ベルト8上に一次転写された移動方向上流の色のトナー像上に順次重ね合わせるタイミングで行われる。その結果、最終的にはフルカラーのトナー像が中間転写ベルト8上に形成され、二次転写部T2へと搬送される。なお、二次転写部T2を通過した後の転写残トナーは、転写クリーナ装置11によって中間転写ベルト8から除去される。
【0016】
以上、それぞれ説明した搬送プロセス及び画像形成プロセスをもって、二次転写部T2においてシートSとフルカラートナー像のタイミングが一致し、中間転写ベルト8からシートSにトナー像が二次転写される。その後、トナー像が転写されたシートSは定着装置30へと搬送され、定着装置30により熱と圧力が加えられることにより、トナー像がシートS上に溶融固着、つまり定着される。本実施形態の定着装置30については詳細を後述する(
図2参照)。
【0017】
定着装置30によりトナー像が定着されたシートSは、片面プリントの場合、順回転する排紙ローラ69により排紙トレイ601上に排出される。他方、両面プリントの場合、シートSは順回転する排紙ローラ69によりシートSの後端が切り替え部材602を通過するまで搬送された後、逆回転に切り換えられた排紙ローラ69により先後端が入れ替えられて両面搬送パス603へと搬送される。その後、再給紙ローラ604によって再び搬送パス64へと送られる。その後の搬送ならびに二面目の作像プロセスに関しては、上述の場合と同様なので説明を省略する。
【0018】
[定着装置]
次に、本実施形態の定着装置30について
図2を用いて説明する。
図2に示すように、定着装置30は、無端状の定着ベルト201と、定着ベルト201を加熱するための加熱ユニット200と、加熱ユニット200との間で定着ベルト201を挟む加圧ローラ202とを備える。なお、本明細書で言う定着ベルト201とは、薄肉のフィルム状のものを含む。
【0019】
第一回転体としての定着ベルト201は、高熱伝導率で低熱容量であるポリイミドなどの樹脂あるいはステンレスなどの金属で形成された、可撓性を有する無端状のベルト(エンドレスベルト)である。最近では、ポリイミド樹脂の定着ベルト201を用いることが多い。定着ベルト201は回転自在に設けられており、定着ベルト201の内周面には後述するニップ部材204との摺動性を確保するために、潤滑剤が塗布されている。そして、この定着ベルト201の回転軸線方向(X方向)の両端部には、定着ベルト201の回転を案内するとともに定着ベルト201の回転軸線方向への移動を規制するために、不図示のガイド部材が設けられている。
【0020】
加熱ユニット200は定着ベルト201の内周側に配設されており、ハロゲンランプ203、ニップ部材204、反射板205及び支持部材206を有している。発熱体としてのハロゲンランプ203は定着ベルト201とニップ部材204とから間隔をあけて配置され、輻射熱を発して定着ベルト201を加熱するために設けられている。ハロゲンランプ203は、不図示の電源による給電量に応じて輻射熱の温度が変わる。本実施形態の場合、ハロゲンランプ203が発する輻射熱の温度は、不図示の温度センサにより検出される定着ニップ部Nの温度が所定の目標温度に維持されるように、不図示の制御部によるハロゲンランプ203への給電量の制御に従って調整される。
【0021】
ニップ部材204は、回転する定着ベルト201に対し非回転に設けられ、定着ベルト201の内周面に摺擦可能に回転軸線方向に亘って延設された長尺状の部材である。上述のように、ハロゲンランプ203は定着ベルト201を加熱するために輻射熱を発するが、その際に、ニップ部材204がハロゲンランプ203からの輻射熱を受ける。つまり、ニップ部材204は、ハロゲンランプ203に対向してハロゲンランプ203からの輻射熱を受ける面(受熱面20aと呼ぶ)を有する。ニップ部材204は、ハロゲンランプ203による定着ベルト201の加熱が効率よく行われるように、ハロゲンランプ203から受けた輻射熱を吸収して定着ベルト201に伝導するように構成されている。本実施形態では、ハロゲンランプ203からの輻射熱を効率良く吸収し定着ベルト201に伝導させて定着ニップ部Nを加熱すべく、表面全体を保護層で覆い且つ輻射率(放射率)の高い着色材を用いて黒に近い濃い色に着色したニップ部材204を用いる。このニップ部材204の詳しい構成については、後述する(
図3及び
図4参照)。
【0022】
反射板205は、ハロゲンランプ203から発せられる輻射熱をニップ部材204に向けて反射するための部材であり、ハロゲンランプ203を覆うようにハロゲンランプ203から所定の間隔をあけて配置されている。そうするため、反射板205は、赤外線及び遠赤外線の反射率が大きい例えばアルミニウム板を、断面が略U字状になるように湾曲して形成されている。この反射板205によってハロゲンランプ203からの輻射熱がニップ部材204に集められることで、ハロゲンランプ203からの輻射熱を効率よく利用して、ニップ部材204を介して定着ベルト201を速やかに加熱することができる。
【0023】
支持部材206はニップ部材204を支持するための所定の剛性を有する部材であり、例えばステンレスやバネ鋼などの強度の優れた金属を用いて反射板205の外面に沿った形状に形成されている。本実施形態の場合、支持部材206に支持されたニップ部材204によって、定着ベルト201が内側から加圧ローラ202に向けて押圧されることで、より確実に定着ニップ部Nを形成できるようにしている。
【0024】
第二回転体としての加圧ローラ202は、回転自在に設けられている。本実施形態では、不図示の駆動モータにより加圧ローラ202が矢印A方向へ所定の周速度で回転される。すると、定着ニップ部Nで生じる摩擦力によって、加圧ローラ202の回転力が定着ベルト201に伝達される。こうして、定着ベルト201は加圧ローラ202により従動回転する(所謂、加圧ローラ駆動方式)。加圧ローラ202は、例えば回転軸としての金属製の芯金202Aの外周にシリコーンゴム等の弾性層202Bが形成され、弾性層202Bの外周にさらにPTFE、PFA、FEP等のフッ素樹脂からなる離型層202Cが形成されている。芯金202Aは、加圧ローラ202の回転軸線方向(X方向)の両端部が不図示の軸受け部によって回転可能に支持されている。
【0025】
本実施形態の場合、加圧ローラ202が例えばバネ等の付勢機構(不図示)により所定の付勢力で、不図示の軸受け部を介して定着ベルト201に向けて付勢されている。これにより、定着ベルト201と加圧ローラ202とが互いに所望の圧接力で圧接される。定着ベルト201と加圧ローラ202とを圧接させることにより、定着ベルト201と加圧ローラ202との間でシートSを加圧した状態で通過させてトナー像を加熱定着する定着ニップ部Nが形成される。なお、定着ニップ部Nを形成するために、バネなどの付勢手段によりニップ部材204を加圧ローラ202に向けて付勢できるようにしてあってもよい。
【0026】
上記したように、ニップ部材204がハロゲンランプ203からの輻射熱及び反射板205により反射された輻射熱によって加熱されることで、定着ベルト201の温度が上昇する。未定着トナー像が形成されたシートSは、回転する定着ベルト201と加圧ローラ202とにより挟持搬送される際に定着ニップ部Nで加熱及び加圧され、これにより、シートSにトナー像が定着される。
【0027】
[ニップ部材]
上記のニップ部材204の詳細について、
図2を参照しながら
図3及び
図4を用いて説明する。上述のように、本実施形態のニップ部材204は、定着ベルト201を挟んで加圧ローラ202に圧接されて定着ニップ部Nを形成する機能と、ハロゲンランプ203から受けた輻射熱を定着ベルト201に伝導する機能とを有する。そのため、ニップ部材204には、優れた熱伝導率や耐摩耗性、より高い輻射率(放射率)が望まれている。
【0028】
まず、ニップ部材204において所望の熱伝導率を実現するための構成について説明する。
図3に示すように、ニップ部材204は基材として熱伝導のよい純アルミニウム(A1050)を用いて形成される本体部204Aを有する。アルミニウムの含有率が「99.0%wt」以上の純アルミニウムは金属の中でも熱伝導率が高いので、ハロゲンランプ203から輻射熱を直接受けて定着ベルト201に伝導するニップ部材204に用いて好適である。純アルミニウム(A1050)の熱伝導率は、「0.23kW/m・K」を基準とした「±10%」の範囲である。なお、熱伝導率は、レーザーフラッシュ法熱物性測定装置「LFA-502」(京都電子工業製)で熱拡散率と比熱を、電子天秤精密比重計「AUX220+SMK-401」(島津製作所製)で密度を測定し、測定した熱拡散率と比熱と比重とにより求められる。
【0029】
次に、ニップ部材204において所望の耐摩耗性を実現するための構成について説明する。非回転のニップ部材204と回転する定着ベルト201とは、一方が他方に摺擦される。それ故、ニップ部材204において定着ベルト201と摺擦する面(区別するため、ベルト摺擦面20bと呼ぶ)や、定着ベルト201においてニップ部材204に摺擦される内周面が削れてしまう虞があった。即ち、定着ベルト201との摺擦でニップ部材204のベルト摺擦面20bに傷がつくと、アルミニウムの削れ粉が生じる。このアルミニウムの削れ粉により、ニップ部材204のベルト摺擦面がさらに削られたり、定着ベルト201の内周面が削られたりする。また、ニップ部材204や定着ベルト201が削られることにより生じる削れ粉は、定着ベルト201の内周面に塗布されている潤滑剤を吸着し、ニップ部材204との摺動性を低下させる。定着ベルト201とニップ部材204の摺動性が低下すると、加圧ローラ202の駆動トルクの上昇や、スティックスリップ現象による異音が発生する虞があるので、好ましくない。
【0030】
そこで、ニップ部材204には、アルミニウム製の本体部204Aのベルト摺擦面20bと受熱面20aとを含む表面全体を覆うように、保護層204Bが形成されている。保護層204Bは、本体部204Aを陽極酸化処理することにより形成される酸化皮膜の層である。陽極酸化処理は、十分に脱脂したアルミニウム(ここでは本体部204A)を陽極として希薄な酸中で電解し、そのときに発生する酸素によって表面に酸化アルミニウムの膜を形成する処理、所謂アルマイト処理(自然発色法)である。この酸化皮膜の保護層204Bが本体部204Aの表面全体に形成されることで、定着ベルト201に摺擦されるベルト摺擦面20bの削れを抑制し得る。
【0031】
上記した保護層204Bの硬度について説明する。ビッカース硬度計「MMT-X7」(マツザワ製)による測定で、定着ベルト201の基材であるポリイミド樹脂のビッカース硬度は約「100」(試験荷重:0.049N)である。これに対し、本体部204Aの基材である純アルミニウムのビッカース硬度は、約「30」(試験荷重:0.98N)である。なお、試験荷重は測定対象に応じて設定される。また、ビッカース硬度は一般的に測定荷重に依存せず、異なる荷重、測定対象であっても比較可能である。ただし、ビッカース硬度は対象物によるものの、最大で「±10%」の測定誤差が生じ得る。
【0032】
表1に、保護層204Bのビッカース硬度と、定着ベルト201に摺擦された場合における保護層204Bの削れ有無との関係を示す。ここでは、純アルミニウムを基材とする本体部204Aの表面に、異なる厚みの保護層204Bが形成される「アルマイト処理A」、「アルマイト処理B」、「アルマイト処理C」を行った場合における、ヒッカース硬度と削れの有無の関係を示している。
【表1】
【0033】
表1から理解できるように、保護層204Bのビッカース硬度が「150」以上(試験荷重:0.98N)であれば、定着ベルト201との摺擦による削れは生じなかった。これは、ニップ部材204の表面をアルマイト処理により硬度の大きい保護層204Bで覆うことで、定着ベルト201との摺擦による摩耗が抑制されるからである。この際に、ポリイミド樹脂からなる定着ベルトの内周面は摺擦によって削れ粉が微量に生じるものの、ニップ部材204との摺動性に対する影響は小さい。したがって、本実施形態のニップ部材204の保護層204Bは、厚みが「10μm」以上となるアルマイト処理によって形成される。
【0034】
次に、ニップ部材204において所望の輻射率を実現するための構成について説明する。本実施形態のニップ部材204は、自然発色の酸化皮膜の輻射率よりも輻射率を高くするためにベルト摺擦面20bと受熱面20aを含む表面全体が黒色に着色されている。上述したように、ニップ部材204の本体部204Aは、アルマイト処理により表面全体に酸化皮膜の保護層204Bが形成されている。アルマイト処理により形成される酸化皮膜は多孔質皮膜である。それ故、保護層204Bは多数の微細孔を有する。言い換えるならば、本体部204Aの表面に多数の微細孔を有する保護層204Bを形成するために、本体部204Aに対しアルマイト処理を行っている。
【0035】
そして、輻射率は黒体で最大(1.0)になるので、本実施形態のニップ部材204の表面は黒体により近くなるように黒色の着色材を用いて着色されている。ここでは着色処理として、クロム錯塩染料を含む水溶液の中に、保護層204Bを形成した後の本体部204Aを水溶液を撹拌しながらしばらく浸漬させ、その後引き上げて水洗いする処理(染色法)を採用した。この場合、
図4に示すように、本体部204Aの外周面に形成された酸化皮膜の保護層204Bの微細孔204Dの内部に着色材204Cを吸着させることができる。その後、封孔処理を行うことで、着色材204Cが定着される。なお、着色材204Cは黒色が最も輻射熱放射率を高める上で好ましいが、黒に近い濃い色の着色材を用いても構わない。本実施形態の場合、着色材204Cを含有する保護層204Bの輻射率は「0.85以上1.0以下」である。
【0036】
上記した本体部204Aの基材に純アルミニウムを用い、アルマイト処理及び着色処理により表面全体に黒色の着色材を含有する保護層204Bを形成したニップ部材204をハロゲンランプ203で加熱し、定着ベルト201の表面温度を測定した。その測定結果を表2に示す。また、表2には比較のために、本体部204Aの基材に純アルミニウムを用い、アルマイト処理のみを行っただけで黒色の着色材を含有していない保護層を形成したニップ部材を用いた比較例の測定結果も記した。測定条件として、定着ベルト201は、厚み100μm、外径24mmのものを用い、加圧ローラ202は外径24mmのものを用いた。また、定着ニップ部Nにおけるシート搬送方向のニップ幅が「9.0mm」となるように、定着ベルト201と加圧ローラ202とは加圧力147Nで圧接される。そして、室温(23℃)になじんだ状態から加圧ローラ202を回転速度「200mm/sec」で回転させ、ハロゲンランプ203により定着ベルト201の温度を上昇させた。
【表2】
【0037】
表2に示すように、比較例の場合には、ハロゲンランプ203による加熱開始から5秒後の定着ベルト201の表面温度が「152℃」だった。これに対し、本実施形態のニップ部材204の場合には、ハロゲンランプ203による加熱開始から5秒後の定着ベルト201の表面温度が「160℃」まで達していた。このことから、本実施形態のニップ部材204は、比較例のニップ部材に比べて高い輻射率を得ることができ、もって定着ベルト201に対しハロゲンランプ203の熱を効率よく伝達できることが分かる。
【0038】
以上のように、本実施形態では、基材にアルミニウムを用いた本体部204Aに対してアルマイト処理を行って酸化皮膜の保護層204Bを形成する。すると、本体部204Aのベルト摺擦面20bと受熱面20aとを含む表面全体に、保護層204Bが形成される。そして、アルマイト処理に伴い保護層204Bには微細孔204Dが形成され、この微細孔204Dに輻射率を高くするための着色材204Cを含有させて、ニップ部材204の表面全体を黒体により近づけるよう着色することができる。こうして、本体部204Aのベルト摺擦面20bと受熱面20aとを含む表面全体に着色材204Cを含有させて着色することにより、ベルト摺擦面20bと受熱面20aで膨張率が異ならず、アルミニウム製であっても、ニップ部材204は撓み難くなる。ニップ部材204に撓みが生じなければ、定着ベルト201に対し均一に圧力を加えられ、定着ニップ部Nが適切に形成されることから、トナー像がシートSに確実に定着される。また、上記した保護層204Bの形成工程と着色材204Cの着色工程は簡易であって、低コストでニップ部材204を作成できる。
【0039】
<他の実施形態>
なお、上述した実施形態では、本体部204Aの基材として純アルミニウム(JIS1000系)を用いたが、これに限らない。本体部の基材としては、多孔質の酸化皮膜を容易に形成可能な各種のアルミニウム合金を用いてもよい。そうしたアルミニウム合金としては、例えばAl-Cu(JIS2000)系、Al-Mn(JIS3000)系、Al-Si(JIS4000)系、Al-Mg(JIS5000)系、Al-Mg-Si(JIS6000)系、Al-Zn-Mg(JIS7000)系などが挙げられる。本体部304Aの基材にアルミニウム合金を用いたニップ部材304について、
図5を用いて説明する。
【0040】
本体部304Aの基材にアルミニウム合金を用いた場合、アルマイト処理によっておこる合金発色により輻射率の比較的に高い保護層304Bを形成することができる。即ち、アルミニウム合金はアルマイト処理により酸化皮膜(保護層304B)を形成する際に、添加金属が本体部304Aの表面に析出して酸化するので、この析出した金属析出物304Eの量や分散状態に応じて酸化皮膜の色が変わり得る。上記したアルミニウム合金の場合、酸化皮膜が黒色になる化合物が添加されている。例えば、Al-Mn系のアルミニウム合金を用いた場合には、金属析出物304Eとしてマンガンが本体部304Aの表面に析出する。表面に析出したマンガンが酸化され、酸化皮膜である保護層304Bが黒色になる。このように、本体部304Aをアルミニウム合金とした場合には、アルマイト処理によって黒色の保護層304Bを本体部304Aの表面全体に形成することができる。
【0041】
そして、上述したように、着色処理によってさらに黒色の着色材304C(有機染料)を保護層304Bの微細孔304Dに含有させる。こうすると、保護層304Bが、黒体放射により近い熱放射可能に黒色化される。つまり、輻射率の高いニップ部材304が、比較的に処理が容易なアルマイト処理と着色処理によって形成される。
【0042】
本体部304Aの基材にアルミニウム合金を用い、アルマイト処理及び着色処理により表面全体に黒色の着色材を含有する保護層304Bを形成したニップ部材304をハロゲンランプ203で加熱して、定着ベルト201の表面温度を測定した。測定条件は、上記した本体部204Aの基材に純アルミニウムを用いた場合と同じとした。
【0043】
上記した本体部204Aの基材に純アルミニウムを用いた場合には、ハロゲンランプ203による加熱開始から5秒後の定着ベルト201の表面温度が「160℃」であった(表2参照)。これに対し、本体部304Aの基材にアルミニウム合金を用いた場合には、ハロゲンランプ203による加熱開始から5秒後の定着ベルト201の表面温度が「164℃」であった。
【0044】
このように、基材にアルミニウム合金を用いた本体部304Aの場合、アルマイト処理によっておこる合金発色を利用して輻射率を高めた保護層304Bを形成し、さらに黒色の着色材304Cを保護層304Bの微細孔304Dに含有させることができる。これにより、ニップ部材304をより黒体放射に近づけるよう着色することができ、ハロゲンランプ203からの輻射熱を効率よく吸収させ得る。また、本体部304Aのベルト摺擦面と受熱面とを含む表面全体に着色材304Cが含有されることから、ベルト摺擦面と受熱面で膨張率が異らず、ニップ部材304は撓み難い。ニップ部材304に撓みが生じなければ、定着ベルト201に対し均一に圧力を加えられ、定着ニップ部Nが適切に形成されることから、トナー像がシートSに確実に定着される。
【0045】
なお、本体部204A(304A)の表面全体に保護層204B(304B)を形成する方法は、上述したような自然発色法や合金発色法のアルマイト処理に限らない。例えば、特殊な電解液を用いて酸化皮膜の形成と同時に発色が進む電解発色法のアルマイト処理を採用してもよい。また、保護層204B(304B)を着色(発色)する方法は、上述した染色法に限らない。例えば、アルマイト処理により酸化皮膜を形成した後に、金属ないし金属酸化物を電気化学的に析出させて着色させる電解着色法によってもよい。
【0046】
なお、上述の実施形態では、発熱体としてハロゲンランプ203(ハロゲンヒータ)を例に示したが、これに限らず、例えば赤外線ヒータやカーボンヒータなどであってもよい。
【0047】
なお、上述の実施形態では、各色の感光ドラム1Y~1Kから中間転写ベルト8に各色のトナー像を一次転写した後に、シートSに各色のトナー像を一括して二次転写する構成の画像形成装置100を例に説明したが、これに限らない。例えば、感光ドラム1Y~1KからシートSに直接転写する直接転写方式の画像形成装置であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
30…定着装置、100…画像形成装置、201…第一回転体(定着ベルト)、202…第二回転体(加圧ローラ)、203…発熱体(ハロゲンランプ)、204(304)…ニップ部材、204A(304A)…本体部、204B(304B)…保護層、205…反射板、500…画像形成手段(画像形成ユニット)、N…ニップ部(定着ニップ部)、S…シート