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特許7512118液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドの製造方法および画像記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドの製造方法および画像記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
B41J2/16 503
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020129758
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022026345
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下山 弘幸
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-173960(JP,A)
【文献】特開2010-284813(JP,A)
【文献】特開2006-297830(JP,A)
【文献】特開2004-237626(JP,A)
【文献】特開2004-237590(JP,A)
【文献】特開2002-19123(JP,A)
【文献】特開2017-45746(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103625116(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面で開口する液体吐出口と、前記第1面に設けられ、外部と電気接続される電極部と、前記第1面の裏面である第2面に設けられる樹脂膜と、を備えるチップと、
前記チップの前記第2面を支持する支持面を備えた支持体と、
前記電極部を被覆する封止材と、
前記チップの前記第2面と前記支持体の前記支持面との間を接着する接着剤と、
を有する液体吐出デバイスを備えた液体吐出ヘッドにおいて、
前記接着剤は、
前記第2面において前記電極部の裏側に位置する領域と前記支持面との間の第1の塗布領域に配置された第1の接着剤と、
前記第1の塗布領域とは異なる第2の塗布領域であって、前記樹脂膜の少なくとも一部と前記支持面との間の前記第2の塗布領域に配置された第2の接着剤と、
を含み、
前記第1の接着剤の硬度は、前記第2の接着剤の硬度よりも低いことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記封止材は、前記第1の塗布領域と重なるように、前記第1面の前記電極部を含む領域を被覆することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記樹脂膜は、前記液体吐出口から吐出される液体を流す第1流路開口を前記第2面に備え、
前記第2の塗布領域は、前記第1流路開口を囲む領域であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1の接着剤と前記第2の接着剤は、接触界面を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記電極部と電気接続され、前記支持面に接合される配線基板を有し、
前記支持面において、前記配線基板と前記第2の接着剤の間に、前記第1の接着剤が配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記電極部は前記チップの端部に設けられ、
前記第1の接着剤は、前記チップの前記端部の側壁にも接地していることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第1の接着剤の前記側壁に接地する領域の高さは、前記チップの厚みを超えないことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記チップに対する前記第1の接着剤の接地面積は、前記チップに対する前記第2の接着剤の接地面積よりも小さいことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
所定の環境温度において、前記第1の接着剤のヤング率は、前記第2の接着剤のヤング率よりも小さいことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記チップに液体を流す第2流路開口が、長手方向と直交する方向に間隔を空けて複数が並んだ配置で、前記支持体の前記支持面に設けられており、
前記第1の塗布領域は、前記第2流路開口に対して、前記長手方向の両側に隣接する領域であり、
前記第2の塗布領域は、前記第2流路開口に対して、前記長手方向と直交する方向に隣接した領域であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記チップに液体を流す第2流路開口が、長手方向と直交する方向に間隔を空けて複数が並んだ配置で、前記支持体の前記支持面に設けられており、
前記第2の塗布領域は、複数の前記第2流路開口をそれぞれ囲むように隣接した領域であり、
前記第1の塗布領域は、前記第2の塗布領域に対して、前記長手方向の両側に隣接する領域であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
複数の前記液体吐出デバイスを有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記支持体は前記チップに液体を供給するための流路を有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
第1面で開口する液体吐出口と、前記第1面に設けられ、外部と電気接続される電極部と、前記第1面の裏面である第2面に設けられる樹脂膜と、を備えるチップと、
前記チップの前記第2面を支持する支持面を備えた支持体と、
前記電極部を被覆する封止材と、
前記チップの前記第2面と前記支持体の前記支持面との間を接着する接着剤と、
を有する液体吐出デバイスを備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記支持体の前記支持面において、前記チップの前記第2面において前記電極部の裏側に位置する領域と対向することになる第1の塗布領域に、第1の接着剤を塗布する第1の塗布工程と、
前記支持体の前記支持面における前記第1の塗布領域と異なる第2の塗布領域であって、前記樹脂膜の少なくとも一部と対向することになる前記第2の塗布領域に、前記第1の接着剤よりも硬度が高い第2の接着剤を塗布する第2の塗布工程と、
前記第2面と前記支持面とを接合して前記チップと前記支持体とを接着する接合工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
第1面で開口する液体吐出口と、前記第1面に設けられ、外部と電気接続される電極部と、前記第1面の裏面である第2面に設けられる樹脂膜と、を備えるチップと、
前記チップの前記第2面を支持する支持面を備えた支持体と、
前記電極部を被覆する封止材と、
前記チップの前記第2面と前記支持体の前記支持面との間を接着する接着剤と、
を有する液体吐出デバイスを備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記支持体の前記支持面において前記樹脂膜の少なくとも一部と対向することになる第2の塗布領域に、第2の接着剤を塗布する第2の塗布工程と、
前記第2面と前記支持面とを接合して前記チップと前記支持体とを接着する接合工程と、
接合された前記第2面と前記支持面との間の隙間であって、前記第2の塗布領域の外側で、かつ前記第2面において前記電極部の裏側に位置する領域と前記支持面とが対向する隙間である第1の塗布領域に、前記第2の接着剤よりも硬度が低い第1の接着剤を注入して塗布する第1の塗布工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記第1の接着剤または前記第2の接着剤の少なくとも一方は、熱硬化型接着剤である、請求項14又は15に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項17】
請求項1~1のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを備える画像記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドの製造方法および画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクに代表される液体を吐出する液体吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッドには、より高品位な画像を、より速い印刷速度で出力する機能が求められている。これらの要求に対応する手段として、近年、様々な形態のインクジェットヘッドが作られている。それに合わせて、インクジェットヘッドを構成するユニットの一つであるインク吐出デバイス(液体吐出デバイス)についても、製造過程においては目的に応じて多種多様な部材が用いられている。特許文献1には、インク吐出デバイスと支持体との接合に、2種類の接着剤を用いて接合を行う、インクジェットヘッドの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-312252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、断熱効果の高い部材や、特殊な添加剤を含有した封止材など、多種多様な部材同士を組合せてインク吐出デバイスを構成することがあり、構成内容によっては、チップ、支持体、封止材といった各部材間の線膨張差が大きくなる場合がある。線膨張差が大きい部材同士を近接させてインク吐出デバイスを構成した場合、高低差のある温度変化によって部材間接合部に応力が集中し、時としてインク吐出デバイスを構成する各部材の一部が破損する恐れが生じる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、部材間接合部に集中する応力を緩和することが可能な、液体吐出ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本発明の液体吐出ヘッドは、
第1面で開口する液体吐出口と、前記第1面に設けられ、外部と電気接続される電極部と、前記第1面の裏面である第2面に設けられる樹脂膜と、を備えるチップと、
前記チップの前記第2面を支持する支持面を備えた支持体と、
前記電極部を被覆する封止材と、
前記チップの前記第2面と前記支持体の前記支持面との間を接着する接着剤と、
を有する液体吐出デバイスを備えた液体吐出ヘッドにおいて、
前記接着剤は、
前記第2面において前記電極部の裏側に位置する領域と前記支持面との間の第1の塗布領域に配置された第1の接着剤と、
前記第1の塗布領域とは異なる第2の塗布領域であって、前記樹脂膜の少なくとも一部と前記支持面との間の前記第2の塗布領域に配置された第2の接着剤と、
を含み、
前記第1の接着剤の硬度は、前記第2の接着剤の硬度よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以上の構成によれば、部材間接合部に集中する応力を緩和可能な、液体吐出ヘッドを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のインクジェットプリンタの概略平面図である。
図2】本実施形態のインクジェットヘッドの平面図、及び、拡大平面図である。
図3】実施形態1に係るインク吐出デバイスの製造方法を示す平面図である。
図4図3(d)のA-A断面模式図、及び、拡大断面模式図である。
図5】実施形態2に係るインク吐出デバイスの製造方法を示す平面図である。
図6図5(b)のF-F断面模式図と、図5(c)のG-G断面模式図である。
図7図5(d)のH-H断面模式図、及び、拡大断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0010】
(実施形態1)
(インクジェットプリンタ)
図1を参照して、まず、本実施形態の画像記録装置としてのインクジェットプリンタ1の概略構成について説明する。図1は、本実施形態のインクジェットプリンタ1の平面構成を概略的に示す模式的平面図である。インクジェットプリンタ1は、記録材としての記録用紙2に画像等を記録するためのインクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)3と、インクジェットヘッド3を保持するためのキャリッジ4、そして、記録用紙2を搬送する搬送機構5(ローラ等)を備えている。プリンタ筐体6内には、記録用紙2を支持するプラテン7が設置され、このプラテン7の上方には、2つのガイドレール8a、8bが設けられている。キャリッジ4は、図示しないキャリッジ駆動モータによって駆動し、2本のガイドレール8a、8bに沿って移動することが可能である。
【0011】
インクジェットヘッド3は、プラテン7との間に隙間を有する状態で、キャリッジ4の下部に水平方向に沿って取り付けられている。インクジェットヘッド3の下面には、インク吐出デバイス(液体吐出デバイス)21が複数配置され、インク吐出部(液体吐出部)3aを構成している。また、インクジェットヘッド3は、インクカートリッジホルダ9と、図示しないチューブによって接続されている。インクカートリッジホルダ9には、4つのインクカートリッジ10a、10b、10c、10dが装着されており、吐出液体として、それぞれマゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクが、チューブを介してインクジェットヘッド3に供給される。
【0012】
メンテナンスユニット11には、キャップ12、吸引ポンプ13、及びワイパー14が配置されており、キャップ12は、モータの駆動源と、ギヤの動力伝達機構によって構成されたキャップ駆動部(不図示)によって昇降駆動される。そして、キャップ12は、キャップ駆動部によって上方へ移動し、インクジェットヘッド3のインク吐出部3aに密着することにより、キャッピングを行う。キャッピングの後、キャップ12に接続されている吸引ポンプ13が、キャップ12内部の空気を吸引し、キャップ12内部を減圧することでインクジェットヘッド3のインク吐出部3aから、キャップ12内部へインクを強制的に排出する吸引パージを行う。この吸引パージにより、インクに混入している気泡や塵、あるいは、増粘したインクが排出され、記録品質の劣化を抑制している。なお、ワイパー14は、吸引パージ後にインクジェットヘッド3がインク吐出位置に移動する際、インクジェットヘッド3のインク吐出部3aに付着したインクを拭き取るワイピングを行うために配置されている。
【0013】
以上の通り、インクジェットプリンタ1は、記録用紙2を搬送機構5により記録用紙排出部15に向かって搬送させながら、インクジェットヘッド3がインクを吐出させ、記録用紙2に画像や文字などを記録するように構成されている。
【0014】
(インクジェットヘッド)
図2(a)は、本実施形態の製造方法によって製造されるインクジェットヘッド3の平面図で、図2(b)は、インク吐出デバイス21を拡大した平面図となる。インクジェットヘッド3は、インク吐出孔(液体吐出孔)27に連通する複数のインク流路(液体流路)が設けられたベースプレート20に、複数のインク吐出デバイス21が接合されている。インク吐出デバイス21は、表面(第1面)で開口する(液体吐出口を形成する)複数のインク吐出孔27を設けたチップ26、チップ26の裏面(第2面)を支持する支持体22、電気接続部を保護するための封止材29、配線基板30等で構成されている。
【0015】
半導体チップであるチップ26は、例えば各インク吐出孔27の内側にエネルギー発生素子を備えており、配線基板30や後述の電極部28などを介して、エネルギー発生素子の駆動に用いられる電気信号や電力を受け取ることで、インク吐出動作が制御される。チップ26は表面にエネルギー発生素子が形成されたシリコン基板と、エネルギー発生素子に対応して設けられたインク吐出孔27が形成された吐出口形成部材と、を備える。チップ26はシリコン基板上にチップ26の外部との電気接続のための電極部28を備える。また、ここでは図示しないが、インクジェットヘッド3には、電気配線基板、ヘッドカバー、インクジェットプリンタとの取付け用基準治具が接合されている。本実施形態ではインク吐出デバイス21を8個並べて接合する形態であるが、用途に応じてベースプレート20の長さや形状を変更し、インク吐出デバイス21の配置を変更しても良い。
【0016】
図3(a)~図3(d)は、本実施形態の製造方法によって製造される、インク吐出デバイス21の製造方法を、時系列順に示したものである。
【0017】
図3(a)は、本実施形態の製造方法で使用される支持体22の平面図で、本実施形態では、支持体22の材料として絶縁性、熱伝導性、機械的強度を有するアルミナ材を使用している。また、支持体22にはチップ26に設けられたインク吐出孔27に、インクを供給するためのインク流路孔(液体流路孔)23が設けられている。第2流路開口としてのインク流路孔は、支持体22の支持面22aで開口している。本実施形態では、一つのインク吐出デバイスにつき、インク流路孔23は、長手方向と直交する方向に間隔を空けて複数が並んだ配置で4つの開口で構成されているが、これに限定されるものではなく、任意の数の開口から構成されてよい。そして、支持体22の支持面22aには、インク流路孔23を長手方向の両側に隣接して挟む形で、第1の接着剤24が塗布されている。第1の接着剤24は、後述する電極部28の下面近傍となるよう塗布する。また、第1の接着剤24の物性値として、環境温度100℃相当でのヤング率(縦弾性係数)が3GPa以下となるものが好ましく、より好ましいのは0.1GPa以下である。チップ26裏面の電極部28の裏側に位置する領域と支持面22aとが対向する領域、あるいはチップ26裏面の電極部28裏側領域と対向する支持面22aの領域が、第1の接着剤24が塗布される第1の塗布領域に相当する。
【0018】
続いて図3(b)では、インク流路孔23の隣接部に、第2の接着剤25を塗布している。本実施形態では、第2の接着剤25のヤング率は、環境温度100℃相当で10GPa前後となるものを使用した。なお、後工程でチップ26と支持体22を接合するが、接合面が外部とリークしないよう、第2の接着剤25は、第1の接着剤24と繋がる形(接触界面を有する形)で塗布をする。また、図3(b)に示すように、第2の接着剤25は、第1の接着剤24に挟まれる形で配置されており、後述する樹脂膜35のインク流路ピ
ッチ変換孔は、第1の接着剤24と第2の接着剤25に囲まれることになる。第2の接着剤25が塗布される第2の塗布領域は、チップ26の裏面と支持面22aとの間の第1の塗布領域とは異なる領域、あるいはチップ26の裏面と対向する支持面22aの第1の塗布領域とは異なる領域である。第2の塗布領域は、チップ26の裏面を構成する樹脂膜35の少なくとも一部と支持面22aとの間の領域、あるいはチップ26の裏面を構成する樹脂膜35の少なくとも一部と対向する支持面22aの領域を含む。
【0019】
本実施形態では、先に第1の接着剤24を塗布し、その後、第2の接着剤25を塗布したが、第1の接着剤24と第2の接着剤25の塗布順番は逆でもよい。また、第1の接着剤24の塗布高さは、第2の接着剤25の塗布高さの同等以上となるよう設定する。これは、第2の接着剤25の塗布高さが、第1の接着剤24よりも高くなった場合、第2の接着剤25が、第1の接着剤24の塗布上面に迫り出すことで、チップ26と支持体22の接合部に集中する応力の緩和作用が低下する恐れがあるためである。本実施形態では、第1の接着剤24と第2の接着剤25は、いずれも塗布ロボットに記憶させた塗布プログラムによって支持体22に塗布を行ったが、塗布方法以外に転写方式を用いて塗布パターンを形成してもよい。また、第1の接着剤24と第2の接着剤25には熱硬化型の接着剤を用いているが、UV熱硬化型の接着剤や、熱可塑性フィルムを用いてもよい。
【0020】
図3(c)では、第1の接着剤24と第2の接着剤25とが塗布された支持体22と、チップ26を接合した状態を示している。本実施形態では、第1の接着剤24と第2の接着剤25に熱硬化型の接着剤を用いているため、チップ26を加熱した状態で押圧し、接合している。なお、接合方法は本実施形態に限られるものではなく、使用する接着剤の物性に応じて、UV光と熱を併用した接合方法、或いは仮止め接着剤を併用した接合方法を用いても良い。
【0021】
次に、図3(d)に示すように、支持体22の上面に、配線基板30を接合する。本実施形態では、UV熱硬化型の接着剤を用いて接合を行ったが、接合方法はこれに限られるものではない。支持体22と配線基板30を接合後、チップ26の上面にある電極部28と、配線基板30の上面にある電極パッド(不図示)を、配線部材31(図4で図示)で接続する。その後、配線部材31を封止材29で被覆し、キュア処理にて封止材29を硬化させ、インク吐出デバイス21が完成する。完成した複数のインク吐出デバイス21を、図2(a)のようにベースプレート20に接合し、ここでは図示しないが、電気配線基板、ヘッドカバー、インクジェットプリンタとの接続用治具をそれぞれ接合することで、インクジェットヘッド3が完成する。
【0022】
ここで、図4を用いてチップ端部C部に集中する応力について、説明する。
【0023】
図4(a)は、図3(d)のA-A断面である。チップ26と配線基板30の電気接続を容易に行うため、電極部28はチップ端部C部に配置されている。そして、電極部28や、配線部材31をインクによる腐食から守るため、電極部28周辺は封止材29で堅牢に被覆されている。結果として、チップ端部C部は、様々な部材で覆われることになり、支持体22、チップ26、封止材29は、環境温度の高低差による膨張率、収縮率がそれぞれ異なるため、各部材間の接合部(接合界面)には、応力が集中しやすい構造となっている。そこで、本実施形態にあるように、チップ26と支持体22を接合するための接着剤である第2の接着剤25よりも、ヤング率が低い第1の接着剤24を、応力が集中しやすいチップ端部C部の裏面D部に配置する。これにより、応力作用によるチップ端部C部の変形を、第1の接着剤24が吸収し、チップ端部C部が変形しやすくなることで、チップ端部C部に集中する応力の緩和が可能となる。
【0024】
続いて図4(b)は、図4(a)のB部を拡大した模式図である。チップ26と支持体
22を接合すると、第1の接着剤24の一部がチップ端部C部の下面からはみ出し、はみ出した一部はチップ端部C部の側壁を這い上がることで、接着剤はみ出しE部を形成する。そして、チップ端部C部の側壁に対して、接着剤はみ出しE部の接地面積が大きいほど、チップ端部C部の変形を吸収する力が大きくなり、チップ端部C部に集中する応力を緩和する作用が増大する。このことから、接着剤はみ出しE部の高さT2は、チップ26の厚みT1の半分以上であることが好ましく、接着剤はみ出しE部の高さT2が、チップ26の厚みT1に近づくほど、より好ましい。ただし、接着剤はみ出しE部の高さT2が、チップ26の厚みT1を超えてしまうと、ここでは図示しないが、第1の接着剤24がチップ26に設けられているインク吐出孔27の一部を塞いでしまう可能性がある。インク吐出孔27の一部が塞がれてしまうと、印字品質を劣化させてしまうため、接着剤はみ出しE部の高さT2が、チップ26の厚みT1を超えないように、第1の接着剤24の塗布量を制御する必要がある。
【0025】
続いて、チップ26の接合に用いられる接着剤と、チップ26の裏面(第2面)に設けられている樹脂膜35の関係について、説明する。
【0026】
図4(a)に示すように本実施形態では、チップ26の裏面に樹脂膜35を有しており、樹脂膜35はチップ26の裏面(第2面)の一部を構成している。樹脂膜35には複数
のインク流路ピッチ変換孔(不図示)が形成されている。チップ26の裏面で開口する第1流路開口としてのインク流路ピッチ変換孔は、支持体22のインク流路孔23のピッチを、チップ26のインク供給口(供給孔)27のピッチに変換するためのものである。本実施形態においては、樹脂膜35の膜厚が10~30μmで形成されており、非常に薄い膜厚構成であるため、周囲の部材変形の影響を受けやすくなっている。この樹脂膜35は、チップ26を構成する、エネルギー発生素子が形成されたシリコン基板よりも薄い膜厚となっている。例えば、樹脂膜35と接触する接着剤が環境温度の上昇によって軟化し、硬度(硬さ)を維持出来なくなることで変形してしまうと、その変形に合わせて、樹脂膜35も変形し、チップ26と樹脂膜35の密着性が悪化する恐れがある。そのため、チップ26の接合に用いられる接着剤には、環境温度の変化を受けにくいよう、環境温度が100℃以上に上昇しても硬度の維持が可能な物性が求められる。具体的には、本実施形態でチップ26と、支持体22の接着に使用している第2の接着剤25は、0℃~100℃の環境温度において、ヤング率が10GPa以上である。これにより、環境温度が100℃になったとしても、第2の接着剤25は硬度を維持するため、変形を起こしにくく、樹脂膜35の変形を抑制することが出来る。
【0027】
なお、本実施形態における第1の接着剤24は、0℃~100℃の環境温度において、ヤング率が0.01GPa~4.8GPaに変化する物性を持っている。仮に、第1の接着剤24を、第2の接着剤25の代替えとして、チップ26と、支持体22の接着に使用した場合、環境温度の上昇に伴い、第1の接着剤24と樹脂膜35が変形するため、第1の接着剤24は、第2の接着剤25の代替としては使用しない。このことから、チップ26に対する第1の接着剤24と、第2の接着剤25の接地面積比率は必然的に第1の接着剤24の方が小さくなる。
【0028】
(実施形態2)
図5(a)~図5(d)は、第2の実施形態の製造方法によって製造される、インク吐出デバイス21の製造方法を、時系列順に示したものである。なお、実施形態2の説明では実施形態1と同様の構成、及び工程の説明は簡略、または省略する。
【0029】
図5(a)は、支持面22a上に第2の接着剤25を塗布した状態を示している。第2の接着剤25の塗布パターンにおいて、実施形態1との違いは、第1の接着剤24を塗布した場所に、第2の接着剤25を塗布している。
【0030】
図5(b)は、第2の接着剤25が塗布された支持体22と、複数のインク吐出孔27が設けられたチップ26が接合されている。チップ26を接合後、第1の接着剤24の塗布範囲33に向けて、第1の接着剤24を、塗布ニードル32から吐出する。図6(a)は、図5(b)のF-F断面で、第1の接着剤24を塗布する前の状態を示しており、隙間34に向け、第1の接着剤24の塗布(注入)を行う。隙間34は、接合されたチップ裏面と支持面22aとの間の隙間であって、第2の接着剤25が塗布された領域の外側で、かつチップ裏面において電極部28の裏側に位置する領域と支持面22aとが対向する隙間である。
【0031】
図5(c)は、第1の接着剤24が塗布された状態を示している。図6(b)は、図5(c)のG-G断面であるが、第1の接着剤24の、接着剤はみ出しE部の好ましい高さや、第1の接着剤24による応力緩和作用については、実施形態1と同様であるため、説明は省略する。なお、第1の接着剤24と、第2の接着剤25は、非接触状態でもよく、接触部と非接触部が混在する構成でも構わない。
【0032】
図5(d)、図5(d)のH-H断面である図7(a)、図7(a)のI部を拡大した模式図である図7(b)は、配線基板30の接合と、封止材29の被覆が終わり、インク吐出デバイス21が完成した状態を示している。以後の工程については、実施形態1と同様工程であるため説明を省略する。
【0033】
本実施形態では、硬度(硬さ)の指標としてヤング率(縦弾性係数)を例示したが、これに限定されるものではなく、他の指標を用いてもよい。また、所定の装置使用環境として環境温度が100℃の場合におけるヤング率の値について説明したが、硬度を比較する際の環境温度は100℃に限定されるものではなく、装置の仕様等に応じて適宜、他の温度で比較してよい。ヤング率の大きさについても同様である。
【符号の説明】
【0034】
21…インク吐出デバイス、22…支持体、24…第1の接着剤、25…第2の接着剤、26…チップ、28…電極部、29…封止材、30…配線基板、35…樹脂膜、C部…チップ端部、D部…チップ裏面、E部…接着剤はみ出し、T1…チップ厚み、T2…接着剤はみ出し高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7