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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】建築物
(51)【国際特許分類】
   E04H 3/10 20060101AFI20240701BHJP
   E04B 7/16 20060101ALI20240701BHJP
   E04B 1/36 20060101ALI20240701BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240701BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
E04H3/10 Z
E04B7/16 B
E04B1/36 B
E04H9/02 331A
F16F15/04 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020134625
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030539
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 達也
(72)【発明者】
【氏名】塩出 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英二
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 信哉
(72)【発明者】
【氏名】三木 重人
(72)【発明者】
【氏名】成田 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】上城 和洋
(72)【発明者】
【氏名】高畠 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼村 奨
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-048941(JP,A)
【文献】特開2020-020169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 7/00 - 7/24
E04B 1/00 - 1/36
E04H 9/00 - 9/16
E04H 3/00 - 4/16
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲に客席が設けられたアリーナ部の上方を昇降する可動建築物と、
前記可動建築物の周囲に立設された昇降用脚と、
前記昇降用脚を昇降する昇降装置と、
前記昇降装置に設けられ、前記可動建築物を支持する免震装置と、
を備えた建築物。
【請求項2】
前記可動建築物が上昇した状態及び昇降時において、前記可動建築物は前記免震装置に免震支持されている、
請求項1に記載の建築物。
【請求項3】
前記客席の上方に跳ね出し、先端部が前記昇降用脚に支持された固定屋根を有している、
請求項1又は請求項2に記載の建築物。
【請求項4】
前記昇降用脚は、
平面視で矩形の角部に相当する位置に配置された四本の支柱と、
前記昇降装置を固定する固定ピンが挿入される固定孔が形成され対向配置された鋼板が前記支柱に接合された鋼板部と、
前記支柱にトラス部材が接合されたトラス架構部と、
を備えた請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、競技場内のグランドを競技種目に応じて天然芝の芝生グランドに入れ替えて使用することができる天然芝競技場システムに関する技術が開示されている。この先行技術では、競技場のスタンド上の固定屋根に、天然芝を植え込んだ芝生グランドの基盤を競技場内のグランドに対し昇降自在に支持し、その基盤をグランド上に降ろして競技場内に芝生グランドを設置している。
【0003】
特許文献2には、ドーム内アリーナ面に天然芝コートを有する昇降式天然芝付屋根を備えた多目的ドームに関する技術が開示されている。この先行技術では、天然芝コートが表面に天然芝を有する一体の床構造体で構成されている。また、ドームの屋根部に床構造体が入る穴部を設け、その穴部付近の屋根構造体とドームの床との間に複数の支柱を設けている。支柱にはラックギヤを取付け、床構造体にはラックギヤと噛合うピニオンギヤとそのピニオンギヤを駆動する駆動装置および支柱に沿って床構造体を案内するガイドローラを設けている。また、駆動装置を制御する制御装置が設けられている。
【0004】
特許文献3には、柱等の下部構造と屋根等の上部構造との間に積層ゴム等の免震装置を介装してなる免震構造物に関する技術が開示されている。この先行技術では、免震構造物の各部に設置される免震装置の剛性を、その設置位置における下部構造の剛性および上部構造の剛性に対応して決定し、それら免震装置と下部構造および上部構造の総合的な剛性がこの免震構造物の各部において均等となるように設定している。
【0005】
特許文献4には、屋根架構とそれを周辺で支持する支持構造から構成される大空間構造物において、屋根架構を支持構造に免震支持させた免震構造物に関する技術が開示されている。この先行技術では、免震構造物は、屋根架構と屋根架構を支持する支持構造との間に、両者間の相対水平変位を許容する機能と、相対水平変位時に減衰力を発生する機能を有する免震装置を設置している。免震装置は支持構造の水平剛性が低い方向に屋根架構と支持構造との間の少なくとも一定量の相対変位を生じさせ、水平剛性が高い方向に屋根架構と支持構造との間の相対変位を許容しながら、減衰力を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-048941号公報
【文献】特開平8-004188号公報
【文献】特開平8-326351号公報
【文献】特開2002-047827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昇降屋根等の可動建築物と昇降装置とが一体化された構造においては、地震時に昇降装置が昇降する昇降用脚に大きな地震力が作用するため、昇降用脚の部材断面を大きくする等し、昇降用脚の剛性を大きくする必要がある。
【0008】
本発明は、上記事実を鑑み、可動建築物を昇降させる昇降装置が昇降する昇降用脚に作用する地震力を低減させることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一態様は、周囲に客席が設けられたアリーナ部の上方を昇降する可動建築物と、前記可動建築物の周囲に立設された昇降用脚と、前記昇降用脚を昇降する昇降装置と、前記昇降装置に設けられ、前記可動建築物を支持する免震装置と、を備えた建築物である。
【0010】
第一態様の建築物では、昇降用脚を昇降する昇降装置には、可動建築物を支持する免震装置が設けられている。よって、昇降装置に設けられた免震装置によって、地震時における可動建築物の揺れが小さくなる。したがって、昇降装置が昇降する昇降用脚に作用する地震力が低減する。
【0011】
第二態様は、前記客席の上方に跳ね出し、先端部が前記昇降用脚に支持された固定屋根を有している、第一態様に記載の建築物である。
【0012】
第二態様の建築物では、客席の上方に跳ね出した固定屋根の先端部は、昇降用脚に支持されている。
【0013】
よって、固定屋根の先端部を支持する支柱を別途設ける必要がない。
【0014】
或いは、固定屋根の先端部が昇降用脚に支持されることで、先端部が支持されない自由端となっている跳ね出し庇状の固定屋根と比較し、固定屋根を低剛性化し、軽量化することが可能となる。
【0015】
第三態様は、前記昇降用脚は、平面視で矩形の角部に相当する位置に配置された四本の支柱と、前記昇降装置を固定する固定ピンが挿入される固定孔が形成され対向配置された鋼板が前記支柱に接合された鋼板部と、前記支柱にトラス部材が接合されたトラス架構部と、を備えた第一態様又は第二態様に記載の建築物である。
【0016】
第三態様の建築物では、昇降用脚は、昇降装置を固定する固定ピンが挿入される固定孔が形成され対向配置された鋼板が支柱に接合された鋼板部と、支柱にトラス部材が接合されたトラス架構部と、で構成されている。
【0017】
よって、昇降装置が支持される支持部の鋼板部の鋼板を支柱に接合すればよいので、昇降装置が支持されない非支持部にも支柱に鋼板を接合する場合と比較し、施工工数が削減する。
【0018】
或いは、昇降用脚を鋼管で構成する場合のように、非支持部の板厚を支持面の板厚と同じ厚さにする無駄が生じない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、可動建築物を昇降させる昇降装置が昇降する昇降用脚に作用する地震力を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】可動ピッチが上昇した状態の建築物全体を模式的に示す斜視図である。
図2】可動ピッチが下降した状態の建築物全体を模式的に示す斜視図である。
図3】可動ピッチが上昇した状態の建築物全体を模式的に示す断面図である。
図4】可動ピッチが下降した状態の建築物全体を模式的に示す断面図である。
図5】可動ピッチの角部から突出する接続トラスを模式的に示す上方から見た斜視図である。
図6】昇降システムを模式的に示す横方向から見た斜視図である。
図7】昇降用脚と昇降装置とを示す斜視図である。
図8】昇降用脚と昇降装置と接続架構とを示す側面図である。
図9】昇降用脚と斜材と示す斜視図である。
図10】昇降装置の昇降工程を説明する斜視図である。
図11】昇降装置の昇降工程における図10の状態から油圧ジャッキ装置のシャフトを伸長して上部固定部を持ち上げた状態の斜視図である。
図12】昇降装置の昇降工程における図11の状態から油圧ジャッキ装置のシャフトを収縮して下部固定部を引き上げた状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
本発明の一実施形態の建築物について説明する。
[構造]
まず、建築物の構造について説明する。
【0022】
図3及び図4に示すように、本実施形態の建築物10は、周囲に客席22を備えたスタンド部20が設けられたアリーナ部26の上に設置された可動ピッチ50が昇降システム100の昇降装置150(図7参照)によって昇降する多機能複合型スタジアムである。建築物10は、アリーナ部26の周囲のスタンド部20の客席22の上には、固定屋根30(図2も参照)が跳ね出している。なお、本実施形態では、アリーナ部26の略全周に客席22が設けられているが、これに限定されるものではない。
【0023】
図1及び図2に示すように、可動建築物の一例としての可動ピッチ50は、平面視略矩形状のピッチ部54と、ピッチ部54の各角部から外側に突出する接続架構60(図5及び図6も参照)と、を有して構成されている。可動ピッチ50を構成する接続架構60は、平面視略矩形状のピッチ部54の対角線上に沿って外側に突出する。なお、接続架構60の突出方向等の構造は一例であって、これに限定されるものではない。また、図5では固定屋根30の一部を切り欠いて図示している。
【0024】
図2に示すように、本実施形態の固定屋根30は、建築物10の全周に亘って設けられ、中央部分には開口部32が形成されている。平面視矩形状の開口部32は、可動ピッチ50のピッチ部54と略同じ大きさである。そして、可動ピッチ50が昇降システム100の昇降装置150(図7参照)によって上昇すると、図1及び図3に示すように、ピッチ部54が開口部32を塞ぎ屋根の役割をはたす。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施形態では、可動ピッチ50のピッチ部54は、上面部分に天然芝が植栽されたサッカー場52である。
【0026】
図3及び図4に示す本実施形態のアリーナ部26は、鉄筋コンクリート構造であり、可動ピッチ50が昇降システム100の昇降装置(図7参照)によって下降すると、上面28に可動ピッチ50が設置される。なお、アリーナ部26は、鉄筋コンクリート構造以外であってもよい。例えば、アリーナ部26は、無筋コンクリート構造及びアスファルト等であってもよい。
【0027】
本実施形態の多機能複合型スタジアムである建築物10は、図2及び図4に示すように、可動ピッチ50が昇降装置150(図7参照)によって下降し、アリーナ部26の上面28(図2参照)に可動ピッチ50のピッチ部54が設置された状態では、サッカーの競技施設として利用される。
【0028】
図1及び図3に示すように、建築物10は、可動ピッチ50が昇降装置150(図7参照))によって上昇し、固定屋根30の開口部32を可動ピッチ50のピッチ部54が塞いだ状態では、アリーナ部26の上面28をコンサート場や展示会場等の施設として利用される。また、可動ピッチ50のピッチ部54の芝生の養生が効果的に行われる。
【0029】
図6図7及び図8に示すように、昇降システム100は、昇降用脚120(図2図3及び図4も参照)と昇降装置150と駆動装置110(図6参照)とを含んで構成されている。図3図4及び図6に示すように、昇降用脚120は、可動ピッチ50の周囲におけるスタンド部20とスタンド部20との間に立設されている。
【0030】
図6図7及び図8に示すように、四本の各昇降用脚120には、それぞれ昇降用脚120を昇降する昇降装置150が設けられている。昇降装置150は、全体形状が筒状とされ、昇降用脚120に挿通している。
【0031】
図7及び図8に示すように、昇降装置150には、免震装置の一例としての積層ゴム支承200が設置されている。なお、図では隠れて見えていないが、積層ゴム支承200は、昇降装置150の昇降用脚120を挟んだ左右両側に設置されている。
【0032】
ここで、昇降用脚120、昇降装置150及び前述した接続架構60の前後方向及び左右方向について説明する。
【0033】
「前後方向」とは、平面視において、接続架構60が突出する方向に沿った方向(可動ピッチ50のピッチ部54の対角線上に沿った方向)であり、矢印FBで示す。「前方向」は、可動ピッチ50に向かう内側方向であり、「後方向」はその逆の外側方向である。「前方向」は矢印Frで示し、「後方向」は矢印Baで示す。また、「左右方向」とは、平面視における前後方向(矢印FB)と直交する方向であり、矢印LRで示す。
【0034】
図8に示すように、可動ピッチ50(図1図6参照)の接続架構60は、昇降装置150に設置された積層ゴム支承200に支持されている。別の観点から説明すると、可動ピッチ50の接続架構60は、積層ゴム支承200を介して昇降装置150に支持されている。
【0035】
接続架構60は、複数の鉄骨62が接合されて構成されたトラス構造の架構である。なお、図8以外の図では、接続架構60は、模式的に図示しているため、トラス構造は図示されていない。そして、接続架構60の前後方向の中間部66が、積層ゴム支承200に接合されていると共に昇降用脚120が挿通している。具体的には、中間部66の下部を構成する左右の下側鉄骨部68(図8図10図12参照)が、積層ゴム支承200に接合されている。
【0036】
また、接続架構60と昇降装置150とに、ダンパー等の運動エネルギーを減衰させる減衰装置を接続してもよい。また、積層ゴム支承200の内部に鉛プラグ等の減衰部材を設けてもよい。
【0037】
なお、接続架構60の中間部66の前方側を前部64とし、後方側を後部69とする。また、接続架構60の前部64の先端部分が可動ピッチ50(図1図6参照)に接合されている。
【0038】
図7及び図8に示すように、昇降装置150は、前述したように、全体形状が筒状とされ、昇降用脚120に挿通している。なお、図7及び図8以外の図では、昇降装置150は、模式的に図示しているため、以降で説明する構造は図示されていない。昇降装置150は、矩形枠状の上部固定部152及び下部固定部154と、両者を連結する油圧ジャッキ装置156と、を有して構成されている。なお、下部固定部154に前述した積層ゴム支承200が設置されている。
【0039】
図7に示すように、上部固定部152及び下部固定部154には、油圧や電動等を駆動源とする直動機構やリンク機構等によって固定ピン160、161が突出及び引っ込む固定装置162、164がそれぞれ設けられている(図10図11及び図12も参照)。固定ピン160、161は、後述する鋼板122の固定孔124に挿入される。なお、図7では隠れて見えていないが、固定装置162、164は、昇降装置150の昇降用脚120を挟んだ前後両側に設置されている。また、後述する図10図11及び図12では、固定装置164を図示するため、下部固定部154の一部を切り欠いて図示している。
【0040】
昇降装置150を構成する油圧ジャッキ装置156及び固定装置162、164は、駆動装置110(図6及び図8参照)によって駆動する。図6に示すように、駆動装置110は、駆動機器部112及び設備室114を有している。駆動機器部112には、図示されていないポンプユニット、タンクユニット及び電気制御盤等が含まれて構成されている。
【0041】
図8に示すように、駆動機器部112は、前述した接続架構60における積層ゴム支承200に接合され支持されている中間部66の後側の後部69内に設置されている(図6も参照)。
【0042】
図6に示すように、設備室114は、スタンド部20の側壁部24の昇降用脚120の近傍に設けられている。設備室114は、昇降用脚120の上下方向の中間部と同じ高さに設けられている。
【0043】
なお、昇降装置150と駆動機器部112とには、ケーブル116が接続されている。また、駆動機器部112と設備室114とには、ケーブル118が接続されている。ケーブル116、118は、配管や配線等が束ねられて構成されている。
【0044】
図7及び図9に示すように、昇降用脚120は、支柱130と、鋼板部128と、トラス架構部140と、を有して構成されている。
【0045】
支柱130は、鉄骨で構成され、平面視で矩形の角部に相当する位置に配置されている。鋼板部128は、昇降用脚120の前後方向の両側を構成し、前後方向に対向配置された鋼板122が上下方向に間隔をあけて並んで支柱130に溶接されて構成されている。各鋼板122には、前述した昇降装置150を固定する固定ピン160、161(図7及び図10図12参照)が挿入される固定孔124が形成されている。トラス架構部140は、昇降用脚120の左右方向の両側を構成し、支柱130にトラス部材142が接合されて構成されている。なお、別の観点から説明すると鋼板部128は昇降装置150が支持される支持部であり、トラス架構部140は昇降装置150が支持されない非支持部である。
【0046】
図9に示すように、昇降用脚120の上端部分には、二本の斜材220の上端部が接合されている。一方の斜材220は左斜め下後方に延び、他方の斜材220は右斜め下後方に延びている。本実施形態では、図1図2及び図5に示すように、二本の斜材220の下端部は、スタンド部20の図示されていない柱と梁との接合部位である仕口部に接合されているが、これに限定されるものではない。
【0047】
また、図1及び図2に示すように、昇降用脚120の上端は、固定屋根30の先端部34に接合されている。つまり、昇降用脚120は固定屋根30の先端部34を支持している。
【0048】
[昇降工程]
次に昇降装置150の昇降工程を説明する。
【0049】
図10に示すように、上部固定部152の固定装置162の固定ピン160を固定孔124から引き抜く。
【0050】
図11に示すように、油圧ジャッキ装置156のシャフト157を伸長し、上部固定部152を持ち上げ、上部固定部152の固定装置162の固定ピン160を固定孔124に挿入する。そして、下部固定部154の固定装置164の固定ピン161を固定孔124から引き抜く。
【0051】
図12に示すように、油圧ジャッキ装置156のシャフト157を収縮し、下部固定部154を引き上げ、下部固定部154の固定装置164の固定ピン161を固定孔124に挿入する。
【0052】
これらの工程を繰り返すことで、昇降装置150は、昇降用脚120を昇っていく。また、これらの工程を逆に行うことで、昇降装置150は、昇降用脚120を降りていく。
【0053】
[作用及び効果]
次に本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0054】
建築物10では、昇降用脚120を昇降する昇降装置150には、可動ピッチ50を支持する積層ゴム支承200が設けられている。よって、昇降装置150に設けられた積層ゴム支承200によって、地震時における可動ピッチ50の揺れが小さくなる。したがって、昇降装置150が昇降する昇降用脚120に作用する地震力が低減される。よって、積層ゴム支承200が設けられていない場合と比較し、昇降用脚120の部材断面を小さくすることができる。
【0055】
そして、昇降用脚120の部材断面を小さくすることで、施工コストが低減する。また、昇降用脚120の部材断面を小さくすることで、客席22からの視認性が向上する。
【0056】
また、可動ピッチ50に伝達される地震力が低減されるので、可動ピッチ50を軽量化することができる。更に、接続架構60等に作用する回転変形が吸収される。
【0057】
また、建築物10では、スタンド部20の客席22の上方に跳ね出した固定屋根30の先端部34は、昇降用脚120に支持されている。よって、固定屋根30の先端部34を支持する支柱を別途設ける必要がないので、施工コストが低減すると共に視認性が向上する。或いは、固定屋根30の先端部34が昇降用脚120に支持されることで、先端部34が支持されない自由端となっている跳ね出し庇状の固定屋根と比較し、固定屋根30を低剛性化し、軽量化することが可能となる。
【0058】
このように、昇降用脚120は、昇降装置150が昇降する機能と、固定屋根30を支持する機能と、の二つの機能を有している。なお、固定屋根30は、可動ピッチ50と比較して軽量であり、本実施形態では可動ピッチ50の約10%以下の重量であるので、昇降用脚120の部材断面を大きくすることなく、或いは殆ど大きくすることなく、固定屋根30を支持することが可能である。
【0059】
また、建築物10では、昇降用脚120は、昇降装置150を固定する固定ピン160が挿入される固定孔124が形成され対向配置された鋼板122が支柱130に接合された鋼板部128と、支柱130にトラス部材142が接合されたトラス架構部140と、で構成されている。
【0060】
よって、昇降装置150が支持される支持部に鋼板122を支柱130に接合すればよいので、昇降装置150が支持されない非支持部にも鋼板122を接合する場合と比較し、施工工数が削減する。或いは、昇降用脚120を鋼管で構成する場合のように、非支持部の板厚を支持部の板厚と同じ厚さにする無駄が生じない。
【0061】
また、駆動機器部112は、接続架構60における積層ゴム支承200に接合され支持されている中間部66の後側の後部69内に設置されている。よって、駆動機器部112と昇降装置150とは、一体的に上下動する。よって、昇降装置150と駆動機器部112とを繋ぐケーブル116を短くできると共に取り回しが容易である。
【0062】
また、設備室114は、スタンド部20の側壁部24の昇降用脚120の上下方向の中間部と同じ高さに設けられている。よって、駆動機器部112と設備室114とを繋ぐケーブル118を短くすることができると共に取り回しが容易である。
【0063】
また、二方向に延びる二本の斜材220が、昇降用脚120の上端部分とスタンド部20とに接合されている。よって、一本の斜材で昇降用脚120を補強する場合と比較し、昇降用脚120に作用する転倒モーメントに対して効果的に抵抗することができる。
【0064】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0065】
本実施形態の多機能複合型スタジアムである建築物10は、可動ピッチ50が下降し、アリーナ部26の上面28に可動ピッチ50のピッチ部54が設置された状態では、サッカーの競技場として利用される。また、可動ピッチ50が上昇し、固定屋根30の開口部32をピッチ部54が塞いだ状態では、アリーナ部26の上面28はコンサート場や展示会場等として利用される。しかし、建築物は、このような多機能複合型スタジアムに限定されない。
【0066】
例えば、可動建築物の一例としての可動ピッチ50のピッチ部54は、天然芝でなく、人工芝であってもよい。或いは、アリーナ部は、人工芝の野球場であってもよい。或いは、可動建築物が人工芝又は天然芝の野球場であってもよい。或いは、可動ピッチ及びアリーナ部は、ラグビー場や陸上競技場等であってもよい。要は、周囲に客席が設けられたアリーナ部の上方を可動建築物が昇降する建築物全般に本発明を適用することができる。
【0067】
また、例えば、上記実施形態では、免震装置として、積層ゴム支承200を用いたが、これに限定されない。転がり支承、滑り支承及吊り構造等を免震装置として用いてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、可動ピッチ50の接続架構60を昇降装置150に設けた免震装置の一例としての積層ゴム支承200の上に固定したが、これに限定されない。例えば、可動ピッチ50の接続架構60を昇降装置150に設けた免震装置に吊り下げてもよい。或いは、可動ピッチ50の接続架構60を昇降装置150の側面部分、例えば前面部分に設けた免震装置に接合してもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、昇降用脚120は、鋼板122が支柱130に接合された鋼板部128と、支柱130にトラス部材142が接合されたトラス架構部140と、で構成されていたが、これに限定されない。例えば、昇降装置150が支持されない非支持部にトラス部材142でなく鋼板を接合してもよい。或いは、昇降用脚が鋼管で構成されていてもよい。
【0070】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。複数の実施形態及び変形例等は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 建築物
20 スタンド部
22 客席
26 アリーナ部
30 固定屋根
34 先端部
50 可動ピッチ(可動建築物の一例)
120 昇降用脚
122 鋼板
124 固定孔
128 鋼板部
130 支柱
140 トラス架構部
142 トラス部材
150 昇降装置
160 固定ピン
161 固定ピン
200 積層ゴム支承(免震装置の一例)
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