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特許7512124使用感を改良した高内相W/O型乳化組成物及びこれを利用した化粧料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】使用感を改良した高内相W/O型乳化組成物及びこれを利用した化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/39 20060101AFI20240701BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20240701BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
A61K8/39
A61K8/06
A61Q1/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020136225
(22)【出願日】2020-08-12
(65)【公開番号】P2022032443
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森田 敏充
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸岳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅彦
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-090454(JP,A)
【文献】特開2004-307353(JP,A)
【文献】特表平9-511763(JP,A)
【文献】特開2002-201355(JP,A)
【文献】特開2020-164439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)乳化剤と、(B)油と、(C)水とを含み、水相の占める割合が70質量%以上であるW/O型乳化組成物であって、前記(A)乳化剤は、HLB値が以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを含み、前記組成物中の該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.55質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする高内相W/O型乳化組成物。
【請求項2】
(A)乳化剤と、(B)油と、(C)水とを含み、水相の占める割合が70質量%以上であるW/O型乳化組成物であって、前記(A)乳化剤は、ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-5を含み、前記組成物中の該ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-5の含有量が0.55質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする高内相W/O型乳化組成物。
【請求項3】
前記組成物を光学顕微鏡下に観察し、20μm径以上の粒子を除いた乳化粒子の10個以上を任意に選択して、その平均粒子径を求めたとき5μm以下である、請求項1または2に記載の高内相W/O型乳化組成物。
【請求項4】
化粧料の形態である、請求項1~3のいずれか1項に記載の高内相W/O型乳化組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の高内相W/O型乳化組成物を含む化粧料。
【請求項6】
(A)乳化剤と、(B)油と、(C)水とを含む原料混合物を均質化することによって、水相の占める割合が70質量%以上であるW/O型乳化組成物を得る該組成物の製造方法であって、前記(A)乳化剤は、HLB値が以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを含み、前記組成物中の該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.55質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする高内相W/O型乳化組成物の製造方法。
【請求項7】
(A)乳化剤と、(B)油と、(C)水とを含む原料混合物を均質化することによって、水相の占める割合が70質量%以上であるW/O型乳化組成物を得る該組成物の製造方法であって、前記(A)乳化剤は、ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-5を含み、前記組成物中の該ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-5の含有量が0.55質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする高内相W/O型乳化組成物の製造方法。
【請求項8】
前記原料混合物の均質化をディスパーミキサーにより行なう、請求項6または7に記載の高内相W/O型乳化組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料等への応用に適した乳化組成物に関し、より詳細には、油相に水相が分散してなるW/O型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油相に水相が分散してなるW/O型の乳化組成物のうち、水性の分散相の割合が高い高内相W/O型乳化組成物が知られている(特許文献1参照)。高内相W/O型乳化組成物は、化粧料用組成物として、肌に塗布したときになじみやすく、塗布後には速やかに肌上に水分を放出させることで、水があふれ出すようなみずみずしい使用感が得られることが知られている。一般に、そのような使用感は、スプラッシュ感とも称されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-81827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの研究によれば、化粧料用組成物として、高内相W/O型乳化組成物には更なる改善の余地があった。
【0005】
本発明の目的は、みずみずしい使用感と経時安定性を両立した、高内相W/O型乳化組成物及びこれを利用した化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1は、(A)乳化剤と、(B)油と、(C)水とを含み、水相の占める割合が70質量%以上であるW/O型乳化組成物であって、前記(A)乳化剤は、HLB値が8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを含み、前記組成物中の該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.55質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする高内相W/O型乳化組成物を提供するものである。
【0008】
本発明に係る高内相W/O型乳化組成物においては、前記組成物を光学顕微鏡下に観察し、20μm径以上の粒子を除いた乳化粒子の10個以上を任意に選択して、その平均粒子径を求めたとき5μm以下であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る高内相W/O型乳化組成物においては、該組成物は化粧料の形態であることが好ましい。
【0010】
一方、本発明の第2は、上記の高内相W/O型乳化組成物を含む化粧料を提供するものである。
【0011】
更に、本発明の第3は、(A)乳化剤と、(B)油と、(C)水とを含む原料混合物を均質化することによって、水相の占める割合が70質量%以上であるW/O型乳化組成物を得る該組成物の製造方法であって、前記(A)乳化剤は、HLB値が8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを含み、前記組成物中の該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.55質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする高内相W/O型乳化組成物の製造方法を提供するものである。
【0012】
本発明に係る高内相W/O型乳化組成物の製造方法においては、前記均質化をディスパーミキサーにより行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高内相W/O型乳化組成物に配合する乳化剤としてHLB値が8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用し、なお且つ、これを特定の配合量で使用するようにしたので、みずみずしい使用感に優れ、経時安定性にも優れた化粧料用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】試験例1において、調製した乳化組成物について化粧料としての使用感を調べた結果を示す図表である。
図2】試験例2において、調製した乳化組成物について化粧料としての使用感(スプラッシュ感を感じるまでの時間の観点)を調べた結果を示す図表である。
図3】試験例2において、調製した乳化組成物について化粧料としての使用感(スプラッシュ時の水滴量の観点)を調べた結果を示す図表である。
図4】試験例3において、調製した乳化組成物について化粧料としての使用感(スプラッシュ感を感じるまでの時間の観点)を調べた結果を示す図表である。
図5】試験例3において、調製した乳化組成物について化粧料としての使用感(スプラッシュ時の水滴量の観点)を調べた結果を示す図表である。
図6】試験例4において、調製した乳化組成物について乳化状態を観察した顕微鏡像の例を示す図表である。
図7】試験例4において、ディスパーミキサーを用いて均質化して調製した乳化組成物について乳化粒子の平均粒径を調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る高内相W/O型乳化組成物は、
成分(A)として乳化剤を、
成分(B)として油を、
成分(C)として水を含み、水相からなる分散相の占める割合が70質量%以上である。
【0016】
ここで、一般に乳化組成物の乳化状態として、油相中に水相が分散してなるW/O型の乳化状態を形成しているかどうかは、当業者に周知の方法により、例えば、試験管に入れた水に乳化物を滴下し、分散しなければW/O型の乳化状態であると判定することができる(希釈法)。また、例えば、乳化物にテスターの電極部分を接触させ電気伝導度を測定することによりW/O型の乳化状態であることを確認することができる(電気伝導度法)。更に、例えば、水溶性または油溶性色素を添加し、顕微鏡像によりW/O型の乳化状態であることを確認することができる(色素法)。
【0017】
本発明に係る高内相W/O型乳化組成物は、水相からなる分散相の占める割合が70質量%以上99質量%以下であることが好ましく、74質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、74質量%以上90質量%以下であることが最も好ましい。水相からなる分散相の占める割合が上記範囲未満であると、例えば、みずみずしい使用感やしっとりとした使用感など、高内相W/O型乳化組成物に特徴的な性質が得られなくなる場合があるので好ましくない。
【0018】
本発明においては、成分(A)の乳化剤として、少なくともポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる。乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用すると、高内相W/O型乳化組成物に特徴的な性質とともに、肌に塗布したときになじみやすく、塗布後には速やかに肌上に水分を放出させることで、水があふれ出すようなみずみずしい使用感(いわゆるスプラッシュ感ともいわれる使用感)に、特に優れている。なお、ここで乳化剤とは、水と油を乳化させる機能性を有する物質一般を指し、例えば、界面活性剤と称される場合であっても、そのような機能性を有する限り、本発明の乳化剤として使用可能である。
【0019】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの種類は、一般に化粧料等に使用可能なものであればよく、特に制限はない。例えば、そのグリセリン構成部におけるグリセリンの平均重合度が1~10、より好ましくは5~10であってよい。また、例えば、その脂肪酸エステル構成部における脂肪酸の炭素数が10~24、より好ましくは18~22であってよい。更に、例えば、そのグリセリン構成部におけるグリセリン単位(モノグリセリン)当たりの、その脂肪酸エステル構成部における脂肪酸の分子数が、0.3以上程度、より典型的には0.5以上であってよい。
【0020】
ただし、本発明においては、皮膚と化粧料の親和性の観点から親油性のものを用いる。具体的には、親油度の指標となるHLB値としては、8以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値は、乳化剤を構成する分子の親油度/親水度のバランスによって算出される数値であり、乳化剤の性質を示す指標として当業者に周知の指標である(例えば、野々村美宗著「化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 基礎から応用まで」発行所:フレグランスジャーナル社、出版日:平成27年10月10日、第35-38頁参照)。また、市場に流通する乳化剤の多くは、その乳化剤に固有のHLB値とともに流通している。よって、そのような流通過程の表示に基づいて、上記HLB値が好ましいかどうかの判断をなし得る。
【0021】
本発明の限定されない任意の態様においては、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、特に、不飽和脂肪酸及び/又は分岐脂肪酸を残基に有するものを用いることが好ましい。この場合、不飽和脂肪酸としては、リシノレイン酸、オレイン酸、ヒドロキシステアリン酸、パルミトオレイン酸、エルカ酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、マカダミアナッツ脂肪酸等が挙げられる。分岐脂肪酸としては、イソステアリン酸、ネオペンタン酸等が挙げられる。その不飽和脂肪酸及び/又は分岐脂肪酸としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルの1分子中に単一種類を有するものであってもよく、複数種類を有するものであってもよい。すなわち、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、その脂肪酸エステル構成部における脂肪酸として、不飽和脂肪酸及び分岐脂肪酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の残基を有するものを用いる。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、不飽和脂肪酸及び分岐脂肪酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の残基のみを有するものを用いることが更により好ましい。
【0022】
本発明に用いることができるポリグリセリン脂肪酸エステルを、更に具体的に例示すれば、例えば、ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-5、ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-6、ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-10、オレイン酸ポリグリセリル-2、オレイン酸ポリグリセリル-3、オレイン酸ポリグリセリル-4、トリオレイン酸ポリグリセリル-10、ペンタオレイン酸ポリグリセリル-10、ヒドロキシステアリン酸ポリグリセリル-10、デカマカダミアナッツ脂肪酸ポリグリセリル-10、ペンタイソステアリン酸ポリグリセリル-10等が挙げられる。
【0023】
また、本発明の限定されない任意の態様においては、上記のように用いようとするポリグリセリン脂肪酸エステルから、特に、直鎖状の飽和脂肪酸のみを残基に有するポリグリセリン脂肪酸エステルを除くようにしてもよい。直鎖状の飽和脂肪酸のみを残基に有するポリグリセリン脂肪酸エステルは、場合によっては、高内相W/O型乳化組成物の安定性を阻害する傾向があるからである。この場合、直鎖状の飽和脂肪酸としては、ステアリン酸、ラウリン酸等が挙げられる。更に具体的に例示するとすれば、例えば、オクタステアリン酸ポリグリセリル-6、ラウリン酸ポリグリセリル-10等が挙げられる。
【0024】
成分(A)の乳化剤として、上記したポリグリセリン脂肪酸エステルは、その1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。ただし、組成物中の含有量として、特定範囲である必要がある。後述の実施例で示されるように、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が多すぎると、上記したようなスプラッシュ感ともいわれる使用感に乏しくなる傾向となるからである。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が少なすぎると、安定な高内相W/O型乳化組成物を調製できなくなる場合があるからである。具体的には、0.55質量%以上1.2質量%以下であることが好ましく、0.9質量%以上1.2質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
成分(A)の乳化剤としては、上記したポリグリセリン脂肪酸エステルに属するもの以外にも、他の乳化剤を適宜併用してもよい。他の乳化剤としては、一般に化粧料等に使用可能なものを適宜選択して使用すればよいが、例えば、ショ糖、(モノ)グリセリン、ソルビタン、オキシエチレン等を親水部として有する脂肪酸エステルなどが挙げられる。高内相W/O型乳化組成物の乳化状態の安定性の観点からは、その脂肪酸エステル構成部における脂肪酸が不飽和脂肪酸である乳化剤が好ましい。例えば不飽和脂肪酸としてオレイン酸やエルカ酸などが挙げられ、なかでも、オレイン酸スクロース、エルカ酸スクロース等を用いるのが好ましい。また、使用感、安定性および乳化組成物の粘性の観点より、その脂肪酸エステル構成部における脂肪酸が飽和脂肪酸であるパルミチン酸やステアリン酸である乳化剤を併用してもよい。なかでもパルミチン酸スクロース、ステアリン酸スクロース等を用いるのが好ましい。
【0026】
ただし、上記したポリグリセリン脂肪酸エステルによる、スプラッシュ感ともいわれる使用感を得る観点からは、成分(A)の乳化剤の全量中に、上記したポリグリセリン脂肪酸エステルに属するもの以外の乳化剤の含有量は、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることが更により好ましい。また、場合によっては、含まれないことが好ましい。
【0027】
成分(B)の油としては、一般に化粧料等に使用可能なものを適宜選択して使用すればよく、特に制限はないが、例えば、高内相W/O型乳化組成物を調製する観点からは、その調製温度(例えば80℃)で液体状となる油を用いることが好ましい。また、低粘で肌に塗布しやすい乳化液体状の化粧料とする観点からは、常温(25℃)で液体状となる油を用いることが好ましい。
【0028】
具体的には、例えば、脂肪酸類とアルコール類とをエステル結合してなるエステル油である。エステル油としては、例えば、2-エチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸イソプロピル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、ミリスチン酸2-オクチルドデシル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、オレイン酸2-オクチルドデシル、ジ2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリイソステアリン酸グリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル、2-エチルヘキサン酸ジグリセリド、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等が挙げられる。低粘性及び安定性の観点からは、2-エチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸イソノニル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等が好ましい。
【0029】
また、例えば、炭化水素系の非エステル油である。非エステル油としては、例えば、ミネラルオイル(流動パラフィン)、スクワラン、スクワレン、セレシン等が挙げられる。低粘性及び安定性の観点からは、ミネラルオイル、スクワラン等が好ましい。
【0030】
また、例えば、シリコーン系のシリコーン油である。シリコーン油としては、例えば、ジフェニルシロキシトリメチコン、ジメチコン(ジメチルポリシロキサン)、フェニルトリメチコン、シクロペンタンシロキサン等が挙げられる。メイクなじみや、2種以上の油を使用する場合の他の油相成分との相溶性の観点からは、ジフェニルシロキシトリメチコン、シクロペンタンシロキサン等が好ましい。
【0031】
また、例えば、植物油である。植物油としては、例えば、ホホバ油、オリーブ油、マカダミアナッツ油、ツバキ油、アボガド油、ローズヒップ油、ククイナッツ油、ヘーゼルナッツ油、メドウフォーム油等が挙げられる。安定性の観点からは、マカダミアナッツ油、メドウフォーム油等が好ましい。
【0032】
成分(B)の油として、上記した油は、その1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
成分(B)の油としては、高内相W/O型乳化組成物を調製する温度(例えば80℃)で液体状となる油、もしくは常温(25℃)で液体状となる油に属するもの以外にも、他の油を適宜併用してもよい。他の油としては、一般に化粧料等に使用可能なものを適宜選択して使用すればよいが、化粧料の使用感を調整するとの観点から、例えば、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)などの半固形油や、ステアリン酸バチル、蜜蝋、コレステロールなどの固形油等が挙げられる。
【0034】
上記した他の油は、成分(B)の油として、その1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
ただし、高内相W/O型乳化組成物の調製温度(例えば80℃)で液体状のものを用いる観点、もしくは低粘で肌に塗布しやすい乳化液体状の化粧料とする観点からは、成分(B)の油の全量中に、上記した他の油の含有量は、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることが更により好ましい。また、場合によっては、含まれないことが好ましい。
【0036】
成分(B)の含有量(上記した他の油を含む場合や2種類以上の油を含む場合には、それらの合計量として)としては、成分(A)及び(C)の配合量や他の原料の配合量との関係もあり、また、用いる油の種類によっても一概ではないが、典型的には、例えば、組成物全量中に0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。上記範囲を超えると、水相からなる分散相の占有比を維持し難くなる場合がある。また、上記範囲未満であると、W/O型の乳化状態を維持し難くなる場合がある。
【0037】
成分(C)の水としては、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水、RO水、滅菌処理水等、一般に化粧料等に使用可能なものを適宜用いればよく、特に制限はない。
【0038】
成分(C)の含有量としては、成分(A)及び(B)の配合量や他の原料の配合量との関係等によっても一概ではないが、典型的には、例えば、組成物全量中に20質量%以上96質量%以下であることが好ましく、30質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、30%質量%以上90%以下が特に好ましい。上記範囲未満であると、水相からなる分散相の占有比を維持し難くなる場合がある。また、上記範囲を超えると、W/O型の乳化状態を維持し難くなる場合がある。
【0039】
本発明の限定されない任意の態様においては、更なる安定性の向上の観点から、油ゲル化剤を適宜配合してもよい。油ゲル化剤としては、一般に化粧料等に使用可能なものを適宜選択して使用すればよく、特に制限はない。例えば、ベヘン酸グリセリル、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル等のグリセリン脂肪酸エステル、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン、(パルミチン酸/ヘキシルデカン酸)デキストリン、ステアリン酸イヌリン等の多糖と脂肪酸のエステル、バチルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコールや有機変性粘度鉱物等が挙げられる。なかでも、グリセリン脂肪酸エステル、デキストリン脂肪酸エステル等を用いることが好ましく、より具体的には、ベヘン酸グリセリル、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル等を用いることが好ましい。
【0040】
上記した油ゲル化剤は、1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
上記した油ゲル化剤の含有量としては、成分(A)~(C)の配合量や他の原料の配合量との関係もあり、また、用いる油ゲル化剤の種類によっても一概ではないが、典型的には、例えば、組成物全量中におよそ0.05質量%以上程度含有せしめれば、安定な高内相W/O型乳化組成物の形成に寄与し得る。好ましくは0.1質量%以上であり、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることが更により好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることが特に好ましい。上記範囲未満であると、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定化する効果に乏しくなる。また、上記範囲を超えて含有せしめても、その含有量に応じて乳化状態を安定化する効果に乏しく、かえって、安定な高内相W/O型乳化組成物の形成を妨げる場合がある。
【0042】
また、更なる使用感の向上や安定性の向上の観点からは、モノアルコール及び/又は多価アルコールを適宜配合してもよい。モノアルコール及び/又は多価アルコールとしては、一般に化粧料等に使用可能なものを適宜選択して使用すればよいが、上記水溶性有効成分を配合した高内相W/O型乳化組成物の乳化状態の安定化の観点からは、例えば、炭素数2~6のモノアルコール、炭素数2~6の多価アルコール、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル等を用いることが好ましい。炭素数2~6のモノアルコールとしては、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。なかでも、エタノール、イソプロパノール等を用いることがより好ましい。炭素数2~6の多価アルコールとしては、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、プロパンジオール、1,2-ヘキサンジオール等が挙げられる。なかでも、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール等を用いることがより好ましい。
【0043】
上記したモノアルコール及び/又は多価アルコールとしては、1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
上記したモノアルコール及び/又は多価アルコールの含有量としては、成分(A)~(C)の配合量や他の原料の配合量との関係もあり、また、用いるモノアルコール及び/又は多価アルコールの種類によっても一概ではないが、典型的には、例えば、組成物全量中に3.0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以上15質量%以下であることが更により好ましい。この範囲を外れると、安定な高内相W/O型乳化組成物を調製できなくなる場合がある。
【0045】
本発明に係る高内相W/O型乳化組成物には、上記した成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、一般に化粧料等に配合される成分、例えば、有機酸類、塩類、防腐剤、香料、色素等を何れも配合することができる。また、増粘のための増粘剤を配合してもよい。例えば、化粧料の使用感を調整する観点からは、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ケイ酸(Al/Mg)、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル重合体等の水系増粘剤を適宜配合してもよい。
【0046】
また、例えば、機能性を付与する観点からは、下記に示すような水溶性有効成分を適宜配合してもよい。ただし、これらに限られず、皮膚に対してなんらかの有効性を与える物質として寄与し得る任意の成分であってよい。なお、上記水溶性有効成分について「水溶性」とは、高内相W/O型乳化組成物の水相からなる分散相によく溶解又は分散して、少なくともその水相からなる分散相中に実質量で存在し得る性質を有する成分であることを意味するものである。
【0047】
(微生物発酵産物)
一般に化粧料等に配合される成分を乳酸菌(ビフィズス菌を含む)や酵母で発酵させた培養物、培養上清、その培養物及び/又は培養上清から水もしくは含水アルコール等により抽出した抽出物等が挙げられる。例えば、特公平02-040643号公報に記載されているような乳酸菌/牛乳発酵液、特許第4512265号公報に記載されているような乳酸菌/牛乳発酵液、特許第3795011号公報に記載されているような乳酸桿菌/アロエベラ発酵液、特許第3184114号公報に記載されているような豆乳/ビフィズス菌発酵液、特開2017-212894号公報に記載されているような乳成分含有培地の乳酸菌培養物をクリベロマイセス・マキシアヌスで発酵させた培養物、WO2016/117489公報に記載されているような乳成分含有培地の乳酸菌培養物をウィッカーハモマイセス・ピジュペリで発酵させた培養物等が挙げられる。微生物発酵産物は、これに含まれるアミノ酸等の成分が、皮膚に対して保湿作用などの有効性を与える物質として化粧料に用いられる。
【0048】
(ヒアルロン酸及び/又はその塩)
微生物の発酵物やニワトリのトサカから抽出した抽出物等が挙げられる。具体的には、例えば、特公平4-6356号公報に記載されているようなグルコース含有培地をストレプトコッカスで発酵させた培養物等が挙げられる。ヒアルロン酸及び/又はその塩は、皮膚に対して保湿作用の有効性や良好な使用感を与える物質として化粧料に用いられる。
【0049】
(植物抽出物)
昆布、ワカメ、モズク等の海藻類、チンピ、ヨモギ、エイジツ、ゲットウ、サクラ、シャクヤク、ツボクサ、ボダイジュ、特開2002-179581または特開2014-2184677号公報に記載されているような水丁香等の植物類を、水もしくはアルコール等により抽出した抽出物等が挙げられる。植物抽出物は、これに含まれるフラボノイド、ポリフェノール等の成分が、皮膚に対して保湿作用、抗酸化作用等の有効性を与える物質として化粧料に用いられる。
【0050】
(グリチルリチン酸及び/又はその塩)
カンゾウから抽出した物質に対して、酸加水分解を行って得られたもの等が挙げられる。グリチルリチン酸及び/又はその塩としては、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸アンモニウム等が挙げられる。グリチルリチン酸及び/又はその塩は、皮膚に対して抗炎症作用等の有効性を与える物質として化粧料に用いられる。
【0051】
(アスコルビン酸、その塩及び/又はその誘導体)
グルコースや発酵で得られた物質を原料にして、合成により得られた物質を結晶析出したもの、更にこれを合成や発酵により化学修飾した誘導体等が挙げられる。アスコルビン酸、その塩及び/又はその誘導体としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、アスコルビン酸硫酸2ナトリウム、ラウリル3-グリセリルアスコルビン酸等が挙げられる。アスコルビン酸、その塩及び/又はその誘導体は、美白作用、真皮コラーゲン合成促進作用、抗酸化作用等の皮膚に対して有効性を与える物質として化粧料に用いられる。
【0052】
上記した水溶性有効成分としては、1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
上記した水溶性有効成分の含有量としては、成分(A)~(C)の配合量や他の原料の配合量との関係もあり、また、用いる水溶性有効成分の種類や配合目的によっても一概ではないが、典型的には、例えば、組成物全量中に乾燥固形分換算で0.01質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、0.02質量%以上2.0質量%以下であることが更により好ましい。上記範囲未満であると、当該水溶性有効成分を配合したことによる作用効果を得難くなる場合がある。また、上記範囲を超えると、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定に維持し難くなる場合がある。
【0054】
本発明に係る高内相W/O型乳化組成物は、通常、当業者に周知の手段により、成分(A)の乳化剤と、成分(B)の油と、成分(C)の水とを含む原料混合物を均質化することによって得ることができる。その調製の際には、油によく溶解し又は分散させることができる原料は、成分(B)の油を主体とする油性原料として溶解もしくは分散させ、水によく溶解し又は分散させることができる原料は、成分(C)の水を主体とする水性原料として溶解もしくは分散させ、適当な温度条件下、例えば室温~80.0℃にて、必要に応じて油性原料を撹拌しながら少量ずつ水性原料を混合するなどして、各原料を溶解・分散させ、均質化することにより調製することができる。一旦、乳化状態を形成した後は、例えば室温等へと除熱してもよい。なお、本発明において成分(A)の乳化剤として用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、一般に油に親和性を有する場合が多いので、その場合、油性原料に溶解もしくは分散させるようにすることが好ましい。また、油ゲル化剤は、一般に油に親和性を有する場合が多いので、その場合、油性原料に溶解もしくは分散させるようにすることが好ましい。一方、水溶性有効成分を配合する場合や、モノアルコール及び/又は多価アルコールを配合する場合は、一般に水に親和性を有する場合が多いので、その場合、水性原料に溶解もしくは分散させるようにすることが好ましい。
【0055】
本発明の限定されない任意の態様においては、上記のようにして高内相W/O型乳化組成物を調製する際、成分(A)の乳化剤と、成分(B)の油と、成分(C)の水とを含む原料混合物を均質化するための手段として、ディスパーミキサーを用いることが好ましい。一般に、ディスパーミキサーは、円盤状の撹拌羽根を備え、その外周縁の上下にノコギリ歯状に剪断刃を有し、これを高速回転させることにより、撹拌対象物に所定の剪断力を付与しながら撹拌する手段である。後述の実施例で示されるように、ディスパーミキサーによれば、所望の乳化粒子径の乳化状態が得易く、なお且つ、巨大粒子の出現率も少ない。一般に、乳化粒子径の径が細かく揃っているほうが乳化組成物の経時安定性に優れる傾向となり、また、巨大粒子の出現率が多いと製剤の均質性が悪くなる傾向となる。よって、本発明の限定されない任意の態様においては、製剤の経時安定性および均質性の観点からは、上記のようにして得られる高内相W/O型乳化組成物は、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を顕微鏡下に観察したとき、20μm径以上の粒子を除いた乳化粒子の10個以上を任意に選択して、その平均粒子径を求めたとき5μm以下であることが好ましく、また、乳化粒子全体で実質的に20μm以上の巨大粒子が存在しないことが好ましい。ここで、実質的に存在しないとは、400μm×300μmの範囲の視野を任意に5つ選択して、その視野中に20μm以上の巨大粒子が見出されないことを言う
【0056】
本発明に係る高内相W/O型乳化組成物は、それをそのまま化粧料として用いてもよく、あるいは化粧料の原料として化粧料の製造工程で配合するようにして用いてもよい。具体的には、例えば、乳液、クリーム、クレンジング、マッサージ、サンスクリーン、化粧下地、クリームファンデーション等の形態の化粧料あるいはその原料として、好適に用いられる。なお、ここでいう化粧料は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で定義されている医薬品、医薬部外品、化粧品を含む。
【実施例
【0057】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0058】
[試験例1]
表1に示す配合で、水相からなる分散相の占める割合が90質量%である高内相W/O型乳化組成物(調製例1-1)と、水相からなる分散相の占める割合が50質量%であるW/O型乳化組成物(調製例1-2)と、水相からなる連続相の占める割合が90質量%であるO/W型乳化組成物(調製例1-3)とを調製し、それぞれの乳化組成物について化粧料としての使用感を評価した。乳化組成物の調製は、油相及び水相の各原料を秤量後、それぞれ80℃にて溶解・混合させ、80℃にて油相に水相を少量ずつ添加しながらディスパーミキサー(商品名「スリーワンモータBLh600」(撹拌翼φ58mm)、新東科学株式会社製)により、撹拌翼回転速度700rpmで分散させた後、38℃まで冷却することで、各乳化組成物を得た。
【0059】
【表1】
【0060】
得られた組成物について、化粧料としての使用感に関する官能評価を行った。評価は、組成物を塗布したとき肌になじむ触感とともに、塗布した箇所から速やかに水が溢れ出すような、顕著なみずみずしさが感じられるか、いわゆるスプラッシュ感が得られるかどうかの観点から行い、具体的には、各調製例を比較対象とした総当たりの組み合わせについて、下記評価基準に基づき、7段階(-3、-2、-1、0、+1、+2、+3)で点数付けすることにより相対評価を行った。図1には、各調製例につき10名のパネラーによる評価スコアの平均値と一対比較法による有意差検定の結果をまとめて示す。
【0061】
(評価基準)
+3:比較対象と比べてスプラッシュ感が非常に強い
+2:比較対象と比べてスプラッシュ感が強い
+1:比較対象と比べてスプラッシュ感がやや強い
±0:比較対象と同等のスプラッシュ感である
-1:比較対象と比べてスプラッシュ感がやや弱い
-2:比較対象と比べてスプラッシュ感が弱い
-3:比較対象と比べてスプラッシュ感が非常に弱い
【0062】
その結果、図1に示されるように、水相からなる分散相の占める割合が90質量%である高内相W/O型乳化組成物(調製例1-1)では、水相からなる連続相の占める割合が90質量%であるO/W型乳化組成物(調製例1-3)と比較して、有意に高い評価スコアが得られた。一方、水相からなる分散相の占める割合が50質量%であるW/O型乳化組成物(調製例1-2)も同様に、調製例1-1と比較して有意に低い評価スコアとなった。
【0063】
以上のことから、化粧料としてスプラッシュ感を呈するものを得るためには、高内相W/O型乳化組成物の形態が好ましいことが明らかとなった。
【0064】
[試験例2]
表2に示す配合で、水相からなる分散相の占める割合が90質量%であって、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した高内相W/O型乳化組成物(調製例2-1)と水相からなる分散相の占める割合が90質量%であって、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを使用した高内相W/O型乳化組成物(調製例2-2)とを調製し、それぞれの乳化組成物について化粧料としての使用感を評価した。乳化組成物の調製は、油相及び水相の各原料を秤量後、それぞれ80℃にて溶解・混合させ、80℃にて油相に水相を少量ずつ添加しながらディスパーミキサー(商品名「ROBOMICS」(撹拌翼φ35mm)、特殊機化工業株式会社製)により、撹拌翼回転速度2,000rpmで分散させた後、38℃まで冷却することで、各乳化組成物を得た。
【0065】
【表2】
【0066】
評価は、スプラッシュ感を呈する使用感であるかどうかの観点(スプラッシュ感を感じるまでにかかる時間およびスプラッシュ時の水滴量の観点)から行い、具体的には、各調製例を比較対象とした総当たりの組み合わせについて、下記評価基準に基づき、5段階(-2、-1、0、+1、+2)で点数付けすることにより相対評価を行った。図2および図3には、各調製例につき5名の専門パネラーによる評価スコアの平均値とシェッフェの一対比較法による有意差検定の結果をまとめて示す。
【0067】
(評価基準:スプラッシュ感を感じるまでにかかる時間の観点)
+2:比較対象と比べてスプラッシュ感を感じるまでにかかる時間が早い
+1:比較対象と比べてスプラッシュ感を感じるまでにかかる時間がやや早い
±0:比較対象と同等である
-1:比較対象と比べてスプラッシュ感を感じるまでにかかる時間がやや遅い
-2:比較対象と比べてスプラッシュ感を感じるまでにかかる時間が遅い
【0068】
(評価基準:スプラッシュ時の水滴量の観点)
+2:比較対象と比べてスプラッシュ時の水滴量が多い
+1:比較対象と比べてスプラッシュ時の水滴量がやや多い
±0: 比較対象と同等である
-1:比較対象と比べてスプラッシュ時の水滴量がやや少ない
-2:比較対象と比べてスプラッシュ時の水滴量が少ない
【0069】
その結果、図2および図3に示されるように、水相からなる分散相の占める割合が90質量%であって、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した高内相W/O型乳化組成物(調製例2-1)は、水相からなる分散相の占める割合が90質量%であって、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを使用した高内相W/O型乳化組成物(調製例2-2)と比較して、どちらの評価でも有意に高い評価スコアが得られた。
【0070】
以上のことから、乳化剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用するとよいことが明らかとなった。
【0071】
[試験例3]
表3に示す配合で、乳化剤として使用するポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量を0.58質量%(調製例3-1)、1.15質量%(調製例3-2)、2.3質量%(調製例3-3)と変えて、水相からなる分散相の占める割合が85質量%である高内相W/O型乳化組成物を調製し、それぞれの乳化組成物について化粧料としての使用感を評価した。乳化組成物の調製は試験例2と同様とし、官能評価についても、スプラッシュ感を呈する使用感であるかどうかの観点(スプラッシュ感を感じるまでにかかる時間およびスプラッシュ時の水滴量の観点)から、専門パネル3名により行ったこと以外は試験例2と同様にして行った。
【0072】
【表3】
【0073】
図4および図5には、各調製例につき3名の専門パネラーによる評価スコアの平均値と一対比較法(中屋の変法)による有意差検定の結果をまとめて示す。
【0074】
その結果、図4および図5に示されるように、水相からなる分散相の占める割合が85質量%であって、乳化剤として使用するポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量が0.58質量%である調製例3-1では、配合量が1.15質量%である調製例3-2と比較して、スプラッシュ感を呈する使用感であるかどうかの観点(スプラッシュ感を感じるまでにかかる時間およびスプラッシュ時の水滴量の観点)で、どちらの評価でも有意に高い評価スコアが得られた。一方、乳化剤として使用するポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量が2.3質量%である調製例3-3では、調製例3-1や調製例3-2と比較して、有意に低い評価スコアしか得られなかった。
【0075】
以上のことから、化粧料の使用感としてスプラッシュ感を高めるためには、高内相W/O型乳化組成物の乳化剤として使用するポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量を抑えるとよいことが明らかとなった。
【0076】
[試験例4]
表4に示す配合で、乳化剤として使用するポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量を0.58質量%(調製例4-1)、0.92質量%(調製例4-2)、1.15質量%(調製例4-3)、1.73質量%(調製例4-4)、2.3質量%(調製例4-5)と変えて、水相からなる分散相の占める割合が85質量%である高内相W/O型乳化組成物を調製した。なお、調製例4-1、4-3、4-5の原材料の配合組成は、それぞれ試験例3における調製例3-1、3-2、3-3の原材料の配合組成と同一である。乳化組成物の調製を試験例1と同様にして行い、ただし、均質化のための処理を、下記のとおり撹拌条件を変えて行った。
【0077】
(撹拌条件)
撹拌条件1:ディスパーミキサー(「スリーワンモータBLh600」、新東科学株式会社製)により、80℃下、周先端速度1.3(m/s)で5分間撹拌
撹拌条件2:ディスパーミキサー(「ROBOMICS」、特殊機化工業株式会社製)により、80℃下、周先端速度3.7(m/s)で5分間撹拌
撹拌条件3:ホモミキサー(「POLYTRON(R)(登録商標)PT3100」、株式会社セントラル科学貿易製)により、80℃下、周先端速度3.9(m/s)で5分間撹拌
撹拌条件4:撹拌条件3と同じホモミキサーにより、80℃下、周先端速度5.8(m/s)で5分間撹拌
撹拌条件5:撹拌条件3と同じホモミキサーにより、80℃下、周先端速度6.4(m/s)で5分間撹拌
【0078】
【表4】
【0079】
得られた組成物について、それぞれの乳化状態を分析した。具体的には、光学顕微鏡(BX51、OLYMPUS社製)を用いて観察し、付属の画像解析ソフト(cellSens、OLYMPUS社製)により、乳化粒子の径を計測して、平均粒子径(乳化粒子30個あたり)を算出した。また、観察した視野中における20μm以上の粒子又は100μm以上の粒子の存在の有無を観察した。なお、平均粒子径算出の際、粒子径がおよそ20μm以上の巨大粒子は、組成物全体の乳化状態を代表する粒子ではないと考えられたため、平均粒子径の算出のための乳化粒子としては、カウントしなかった。更に、ディスパーミキサーを用いて調製した乳化組成物については、50℃で1ヵ月間保管して、油相と水相に分離せずに乳化状態を保つかどうか、安定性を評価した。
【0080】
図6には、各乳化組成物について観察した顕微鏡像の一例を示す。
【0081】
表5には、撹拌手段として、ディスパーミキサーを用いた場合の結果について示す。
【0082】
表6には、撹拌手段として、ホモミキサーを用いた場合の結果について示す。
【0083】
図7には、撹拌手段として、ディスパーミキサーを用いた場合の平均粒径の結果についてグラフ化して示す。
【0084】
【表5】
【0085】
【表6】
【0086】
その結果、表5、図6及び図7に示されるように、ディスパーミキサーによる撹拌で調製した場合には、乳化剤として使用するポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が増加するほど、同じ撹拌条件であっても、平均粒子径が小さくなる傾向がみられた。また、撹拌条件が激しくなるほど、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が同じであっても、平均粒子径が小さくなる傾向がみられた。
【0087】
一方、表6に示されるように、ホモミキサーによる撹拌で調製した場合でも、同様の傾向がみられたが、ディスパーミキサーによる撹拌で調製した場合に比べると、20μm径以上の粒子や100μm径以上の粒子など、比較的大きな粒子の出現率が高い傾向がみられ、製剤の均質性の観点から好ましくないと考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7