(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】注水井戸及び地下水リチャージ装置
(51)【国際特許分類】
E02D 3/10 20060101AFI20240701BHJP
B01D 24/00 20060101ALI20240701BHJP
B01D 29/11 20060101ALI20240701BHJP
B01D 35/02 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
E02D3/10
B01D29/08 520A
B01D29/08 530A
B01D29/08 540A
B01D29/10 510C
B01D29/10 530A
B01D35/02 R
(21)【出願番号】P 2020149795
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】林 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 明
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-009564(JP,A)
【文献】特開2009-090253(JP,A)
【文献】特開2007-069065(JP,A)
【文献】特開2018-197470(JP,A)
【文献】特開2015-183419(JP,A)
【文献】特開昭61-207711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/10
B01D 24/00
B01D 29/11
B01D 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に形成された掘削穴に配置される筒状の井戸本体と、
前記井戸本体の下端に接続される筒状のスクリーンと、
前記スクリーンに接して前記スクリーンよりも径方向外側に設けられたフィルターと、を備え、
前記スクリーンには複数の貫通孔が形成され、
前記フィルターは単層構造を有し、且つ略単一の粒径を有する複数のフィルター粒子で構成され、
前記粒径は前記貫通孔の最大寸法よりも大き
く、
前記スクリーンの内部と、ろ過装置と、を接続する通水管が設けられ、
前記通水管の一端は、前記スクリーンおよび前記フィルターと鉛直方向に重なる位置に配され、前記通水管の一端には揚水用のポンプが設けられている、
注水井戸。
【請求項2】
前記複数のフィルター粒子の粒径に関する均等係数は1.5以下である、
請求項1に記載の注水井戸。
【請求項3】
前記複数のフィルター粒子の中央粒径は、前記フィルターが隣接する地盤中の砂の中央粒径の5倍以上25倍以下である、
請求項1又は2に記載の注水井戸。
【請求項4】
地下水を揚水する揚水井戸と、
請求項1から3の何れか一項に記載の注水井戸と、
前記揚水井戸から揚水した前記地下水を前記注水井戸に注水するための通水装置と、
前記注水井戸から揚水した地下水をろ過するろ過装置と、
を備える、
地下水リチャージ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注水井戸及び地下水リチャージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチャージ工法では、揚水井戸で揚水した地下水を揚水井戸から離れた場所に設けられた注水井戸で地盤中に戻す。揚水井戸は、掘削した井戸用の孔の周面を底部に配置され且つスクリーンを有するケーシングを備える。スクリーンの径方向外側には、砂等のフィルターが設けられる。注水井戸は、前述の揚水井戸と略同様の構成を備える。
【0003】
揚水井戸で揚水した地下水に土、砂、鉄等の不純物が含まれると、不純物はスクリーンを通る際に、注水井戸のフィルター或いは地盤で捕捉され、フィルター及び地盤で目詰まりが生じる。フィルター及び地盤の目詰まりによる地盤への注水量の減少及び注水井戸の性能低下を解消するため、注水井戸の逆洗浄(以下では、単に、洗浄という場合がある)が行われることが多い。
【0004】
注水井戸の逆洗浄を定期的に行った場合であっても、長期の使用では、逆洗浄で取り除かれずに残留した不純物によって注水井戸の性能が低下することがある。洗浄効率を高める試みとして、例えば、特許文献1には、フィルターを構成する砂等の粒子(以下、フィルター粒子と称する。)の粒径を注水井戸の径方向で段階的に変化させた注水井戸が開示されている。特許文献1に開示されている注水井戸では、注水時に、不純物粒子を含む地下水が径方向でスクリーンに直近の粒径の大きい層から粒径の小さい層を順次通るため、地下水中の水が円滑に流れる。一方、洗浄時には、粒径の大きい層で捕捉された不純物粒子から粒径の小さい層で捕捉された不純物粒子へと順に吸い出されるので、洗浄効果が高まり、注水井戸の性能の長期維持が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている注水井戸のフィルターでは、粒径が注水井戸の径方向で段階的に変化するようにフィルター粒子を配置する必要がある。このようにフィルター粒子を配置するには、高い技術力が求められる。また、特許文献1に開示されている注水井戸のフィルターでは、多数種類の粒径のフィルター粒子及び専用のスクリーンを用意する必要があるため、注水井戸の製造に多くの手間、時間及び費用がかかる。
【0007】
本発明は、洗浄効果を高めつつ容易に製造可能な注水井戸及び地下水リチャージ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る注水井戸は、地盤に形成された掘削穴に配置される筒状の井戸本体と、前記井戸本体の下端に接続される筒状のスクリーンと、前記スクリーンに接して前記スクリーンよりも径方向外側に設けられたフィルターと、を備え、前記スクリーンには複数の貫通孔が形成され、前記フィルターは単層構造を有し、且つ略単一の粒径を有する複数のフィルター粒子で構成され、前記粒径は前記貫通孔の最大寸法よりも大きく、前記スクリーンの内部と、ろ過装置と、を接続する通水管が設けられ、前記通水管の一端は、前記スクリーンおよび前記フィルターと鉛直方向に重なる位置に配され、前記通水管の一端には揚水用のポンプが設けられている。
【0009】
上述の注水井戸によれば、フィルターは単層構造を有し、且つ略単一の粒径のフィルター粒子で構成され、フィルター粒子の粒径(詳しくは、最小粒径)はスクリーンの貫通孔よりも必ず大きいので、フィルター粒子同士の隙間による孔(即ち、流路)の径方向での最小幅が、大きな粒度分布のフィルター粒子を用いる場合よりも大きくなりやすい。このことによって、注水井戸に供給される地下水中の不純物粒子はフィルター粒子間の流路で容易に移動可能になり、注水井戸の逆洗浄時に地下水中の不純物粒子は良好に吸い出され、注水井戸における洗浄効果が高まる。また、上述の注水井戸によれば、フィルターは略単一の粒径のフィルター粒子によって単層で構成されるので、多数種類の粒径のフィルター粒子を用い且つ粒径に応じてフィルター粒子を複雑に配置する必要もなく、多くの手間、時間及び費用をかけずにフィルターを容易に製造できる。
【0010】
本発明に係る注水井戸では、前記複数のフィルター粒子の粒径に関する均等係数は1.5以下であることが好ましい。
【0011】
上述の注水井戸によれば、フィルター粒子の粒径のばらつきを抑え、フィルター粒子間の流路の最大寸法を適度に確保できる。
【0012】
本発明に係る注水井戸では、前記複数のフィルター粒子の中央粒径は、前記フィルターが隣接する地盤中の砂の中央粒径の5倍以上25倍以下であることが好ましい。
【0013】
上述の注水井戸によれば、フィルター粒子間の流路の寸法が適切に確保され、地下水中に含まれ且つ地盤中の砂に起因する土、砂、鉄等の不純物粒子の大部分がフィルター粒子間の流路を円滑に移動可能となる。したがって、注水井戸への地下水の注水量を確保し、注水井戸の洗浄時の不純物粒子の吸い上げの効率を高めることができる。
【0014】
本発明に係る地下水リチャージ装置は、地下水を揚水する揚水井戸と、上述の注水井戸と、前記揚水井戸から揚水した前記地下水を前記注水井戸に注水するための通水装置と、前記注水井戸から揚水した地下水をろ過するろ過装置と、を備える。
【0015】
上述の地下水リチャージ装置によれば、上述の注水井戸を備えるので、揚水井戸から揚水した地下水中の不純物粒子は注水井戸のスクリーンの貫通孔、フィルターのフィルター粒子間の流路を円滑に移動する。このことによって、注水井戸への注水量を確保すると共に洗浄効果を高め、且つフィルターを備えた注水井戸を容易に製造できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、注水井戸の洗浄効果を高めつつ、注水井戸及び地下水リチャージ装置を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る一実施形態の地下水リチャージ装置の断面図である。
【
図2】
図1に示す地下水リチャージ装置のディープウェルのフィルターに用いられるフィルター粒子の粒径加積曲線を表すグラフである。
【
図3】
図1に示す地下水リチャージ装置のリチャージウェルの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る注水井戸及び地下水リチャージ装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明に係る一実施形態の地下水リチャージ装置15は、掘削工事等を行う現場に設置され、ディープウェル(揚水井戸)110によって、帯水層(地盤)201-1内から揚水した地下水W1をリチャージウェル(注水井戸)150へ導き、リチャージウェル150から帯水層(地盤)201-2内に注水する装置である。
【0020】
地盤200は、1層以上の帯水層201と、1層以上の粘土層202とを有し、例えば地面300から深さ方向D1に沿って複数の帯水層201-1、201-2、…と、複数の粘土層202-1、202-2、…が交互に繰り返される積層構造を有する。以下、複数の帯水層201-1、201-2、…に共通する内容を説明する際は、これらの帯水層をまとめて帯水層201と記載する。同様に、複数の粘土層202-1、202-2、…に共通する内容を説明する際は、これらの粘土層をまとめて粘土層202と記載する。なお、地盤200の構造は、地下水リチャージ装置15を適用可能であれば、特に限定されない。
【0021】
図1に示すように、地下水リチャージ装置15は、ディープウェル110と、リチャージウェル150と、通水管(通水装置)140と、通水管180と、ろ過装置190と、備える。
【0022】
ディープウェル110は、帯水層201-1内の地下水W1を揚水するための排水設備であり、所謂、深井戸である。ディープウェル110は、井戸本体111と、スクリーン112と、止水部113と、フィルター114と、蓋115と、を備える。
【0023】
井戸本体111は、地盤200に形成された掘削穴21に配置されている。本実施形態では、掘削穴21は、地面300から鉛直方向に沿って延びている。掘削穴21の鉛直方向の長さは、粘土層202-1、帯水層201-1の鉛直方向の深さに応じて適宜設定されている。井戸本体111の少なくとも下部は、地盤200に埋設されている。本実施形態の井戸本体111の上部は、地面300から地上に露出している。井戸本体111の下端111bは、鉛直方向で帯水層201-1と重なっている。蓋115は、井戸本体111の上端開口を塞いでいる。井戸本体111及び蓋115は、地下水用の任意の配管材料等で形成されている。
【0024】
スクリーン112は、井戸本体111の下端111bに接続され、ディープウェル110の下部に配置され、鉛直方向で帯水層201-1と重なっている。スクリーン112は、鉛直方向を軸線として鉛直方向に沿って延び、井戸本体111と略同径で筒状に形成されている。スクリーン112は、所謂メッシュスクリーン等と呼ばれるろ過用の部材である。スクリーン112には、鉛直方向及びディープウェル110の周方向で互いに間隔をあけて複数の貫通孔121が形成されている。ディープウェル110の径方向で見た例えば円形状の貫通孔121の最大径(最大寸法)は、例えば1mm程度である。なお、貫通孔121の形状は、円形状に限定されず、矩形状、ランダム形状であってもよい。ディープウェル110の径方向から見た複数の貫通孔121の寸法は、互いに均一でもよく、不均一であってもよい。
【0025】
止水部113は、井戸本体111のうち鉛直方向で地盤200に埋設されている部分に接し、井戸本体111の前述の埋設部分よりもディープウェル110の径方向外側に設けられている。止水部113は、例えばコンクリートで形成されているが、地下水W1に対して止水性を有する任意の材質で形成されていればよい。なお、井戸本体111があれば、止水部113は省略されてもよい。
【0026】
フィルター114は、複数のフィルター粒子
511で構成されている。複数のフィルター粒子
511は、スクリーン112と同様に貫通孔が形成され且つ止水部113と略同径を有する不図示のフィルターケースに収容されている。複数のフィルター粒子511は、例えば
図2に示す粒度分布を持つ珪砂2号等の砂である。フィルター粒子511としての珪砂2号の中央粒径は例えば2.5mm程度であるが、産地等によって変わる。なお、
図2は、横軸に粒径[mm]をとり、縦軸に通過質量百分率[%]をとったグラフを示し、珪砂2号の砂の粒径加積曲線に加え、参考として珪砂1号及び珪砂3号の砂の各々の粒径加積曲線を示す。
【0027】
図1に示すように、通水管140は、密閉された管であり、ディープウェル110の内部とリチャージウェル150の内部とを接続する管である。通水管140の上流側(即ち、揚水側)の端部140cは、ディープウェル110内に配置され、鉛直方向でスクリーン112及びフィルター114と重なっている。通水管140の端部140cには、揚水用のポンプ142が設けられている。通水管140は、ディープウェル110の内部から蓋115を貫通し、リチャージウェル150に向かって地上で配置されている。
【0028】
リチャージウェル150は、地下水W1を帯水層201-2に注水するための注水設備であり、所謂、深井戸である。リチャージウェル150は、ディープウェル110とは離れた位置に設けられている。井戸本体151と、スクリーン152と、止水部153と、フィルター154と、蓋155と、を備える。
【0029】
井戸本体151は、地盤200において掘削穴21から離れた位置に形成された掘削穴25に配置されている。本実施形態では、掘削穴25は、鉛直方向に沿って延びている。掘削穴25の鉛直方向の長さは、粘土層202-1、202-2、帯水層201-1、201-2の鉛直方向の深さに応じて適宜設定されている。井戸本体151の少なくとも下部は、地盤200に埋設されている。本実施形態の井戸本体151の上部は、ディープウェル110の井戸本体111の上部と略同じ高さで地面300から地上に露出している。井戸本体151の下端151bは、鉛直方向で帯水層201-2と重なっている。蓋155は、井戸本体151の上端開口を塞いでいる。井戸本体151及び蓋155は、井戸本体111や蓋115と同様に、地下水用の任意の配管材料等で形成されている。
【0030】
スクリーン152は、井戸本体151の下端151bに接続され、リチャージウェル150の下部に配置され、鉛直方向で帯水層201-2と重なっている。スクリーン152は、鉛直方向を軸線として鉛直方向に沿って延び、井戸本体151と略同径で筒状に形成されている。スクリーン152は、所謂メッシュスクリーン等のろ過用の部材である。スクリーン152には、鉛直方向及びリチャージウェル150の周方向で互いに間隔をあけて複数の貫通孔161が形成されている。リチャージウェル150の径方向で見た貫通孔161の最大寸法(最大径)は、例えば1mm~2mm程度であり、不純物粒子501の最大粒径よりも大きく、不純物粒子501の最大粒径及び後述するフィルター粒子551の中央粒径を考慮して適宜設定されている。貫通孔161の形状は、円形状に限定されず、矩形状、ランダム形状であってもよい。リチャージウェル150の径方向から見た複数の貫通孔161の寸法は、互いに均一でもよく、不均一であってもよい。
【0031】
止水部153は、井戸本体151のうち鉛直方向で地盤200に埋設されている部分に接し、井戸本体151の前述の埋設部分よりもリチャージウェル150の径方向外側に設けられている。止水部153は、ディープウェル110の止水部113と同様に、例えばコンクリートで形成されている。なお、井戸本体151があれば、止水部153は省略されてもよい。
【0032】
フィルター154は、複数のフィルター粒子551で構成されている。複数のフィルター粒子551は、スクリーン152と同様に貫通孔が形成され且つ止水部153と略同径を有する不図示のフィルターケースに収容されている。複数のフィルター粒子551は、単層構造を有し、且つ略単一の粒径を有する。本明細書において、「単層構造を有する」とは、複数のフィルター粒子551で構成される粒子層以外の粒子層を備えないことを意味する。本明細書において、「略単一の粒径を有する」とは、例えばJIS A 1102等に準拠して測定可能な粒径加積曲線から求まる均等係数が1.5以下であることを意味する。なお、複数のフィルター粒子551の粒径の均等係数は、1.0~1.5程度であり、フィルター粒子551間にできる流路560の最大寸法を確保する観点から1.0以上1.2以下であることが好ましい。
【0033】
複数のフィルター粒子551の中央粒径は、少なくともフィルター154の貫通孔161の最大寸法よりも大きい。複数のフィルター粒子551の中央粒径は、地盤200の砂(及び粘土)の中央粒径よりも大きく、例えば地盤200の砂の中央粒径の5~25倍の範囲内であることが好ましく、地盤200の砂の中央粒径の5~20倍の範囲内であることがより好ましい。複数のフィルター粒子551の中央粒径が前述の条件を満たすことによって、
図3に示すように複数のフィルター粒子551同士の隙間で形成される孔、即ち流路560が形成される。このとき、リチャージウェル150の径方向から見た流路560の最小寸法(即ち、最小幅)が不純物粒子501の中央粒径よりも大きく且つ粗粒分の最大粒径よりも小さい状況が発生する確率が高い。例えば、リチャージウェル150の径方向から見たとき、フィルター154の貫通孔161の大きさが1mm、地盤200の砂の中央粒径が0.5mmである場合、複数のフィルター粒子551の中央粒径は25mmとすることができる。
【0034】
図1に示すように、通水管140の下流側(即ち、注水側)の端部140dは、リチャージウェル150内に開放されている。通水管180は、密閉された管であり、リチャージウェル150の内部とろ過装置190とを接続する管である。通水管180の上流側(即ち、揚水側)の端部180cは、リチャージウェル150内に配置され、鉛直方向でスクリーン152及びフィルター154と重なっている。通水管180の端部180cには、揚水用のポンプ182が設けられている。通水管180は、リチャージウェル150の内部から蓋155を貫通して地上に延びている。通水管180の下流側(即ち、排水側)の端部180dは、ろ過装置190に接続されている。
【0035】
ろ過装置190は、例えばバネ式ろ過器が好適であるが、リチャージウェル150から揚水した地下水W2から不純物粒子501を除去可能な装置であれば、特に限定されない。バネ式ろ過器としては、例えば、特開平8-196821号公報に開示されている液体ろ過フィルターエレメントや特許1822317号公報等に開示されているバネ式フィルターろ過装置等が挙げられる。バネ式ろ過器は、例えば非常に錆びにくいステンレス(SUS)からなるバネ線材を備える。バネ線材をコイル状に巻いたバネ式フィルターには、プリコート材が付着している。ポンプ182の作動によってリチャージウェル150から地下水W2が通水管180を介してバネ式ろ過器に導かれ、バネ式フィルターを通ると、プリコート材に付着した地下水W2中の不純物粒子501は、プリコート材と共に分離される。不純物粒子501が分離された地下水W2は、下流側の排水管から不図示の排水設備又は排水路に排出される。このようなバネ式ろ過器は、特に優れた自浄効果、逆洗再生機能を有し、メンテナンスを略必要としない。
【0036】
上述の地下水リチャージ装置15では、先ずディープウェル110から地下水W1を揚水する。詳しく説明すると、ポンプ142を作動させ、地盤200の帯水層201-1からディープウェル110のフィルター114、スクリーン112を順次通過させて地下水W1をディープウェル110内に溜める。ディープウェル110内に溜まった地下水W1を通水管140で汲み上げ、リチャージウェル150に供給する。リチャージウェル150に供給された地下水W1は、スクリーン152、フィルター154を順次通過して帯水層201-2に注水される。なお、地下水W1中の不純物粒子501には、帯水層201-1から揚水される際にフィルター114、スクリーン112を通過した土、砂、鉄等の粒子だけではなく、通水管140で上流側から下流側に通水する際に僅かな空気等に触れて析出した三価鉄の粒子等も含まれる。
【0037】
地下水リチャージ装置15では、基本的に上述したようにディープウェル110からの地下水W1を揚水する工程と、リチャージウェル150へ地下水W1を注水する工程と、を行う。しかしながら、地下水リチャージ装置15の長期使用によって、地下水W1中の不純物粒子501がスクリーン152の貫通孔161の周縁やフィルター154のフィルター粒子551の表面に付着する。その結果、リチャージウェル150から地盤200への地下水W1の注水性能が低下する。
【0038】
不図示の水量計や水圧計を用いて、リチャージウェル150で目詰まりが発生しているか否かを確認する。例えば、水量計又は水圧計に閾値を適用し、閾値以上になっていることを検知した際に次に説明する逆洗浄工程を行う。
【0039】
逆洗浄工程では、リチャージウェル150内の地下水W2を汲み上げてろ過装置190に通し、地下水W2に含まれる不純物粒子501を除去する。詳しく説明すると、ポンプ182を作動させ、リチャージウェル150の下部でフィルター154及びスクリーン152を通過させて地下水W2を揚水し、通水管180を介してろ過装置190に地下水W2を供給する。ろ過装置190がバネ式ろ過器であれば地下水W2に含まれる不純物粒子501をプリコート材と共に分離除去し、不純物粒子501と分離後の地下水W2とを各々、バネ式ろ過器から排出し、適宜処理する。
【0040】
以上説明したように、本実施形態のリチャージウェル150は、地盤200に形成された掘削穴25に配置される筒状の井戸本体151と、井戸本体151の下端151bに接続されて鉛直方向に延びる筒状のスクリーン152と、スクリーン152に接してスクリーン152よりも径方向外側に設けられたフィルター154と、を備える。スクリーン152には、複数の貫通孔161が形成されている。フィルター154は、略単一の中央粒径を有する複数のフィルター粒子551で構成されている。複数のフィルター粒子551の最小粒径は、貫通孔161の最大寸法(即ち、最大径)よりも大きい。
【0041】
上述のリチャージウェル150によれば、フィルター粒子551の粒径(詳しくは、中央粒径)はスクリーン152の貫通孔161よりも大きいので、フィルター粒子551同士の隙間によって形成される流路560の最小幅が大きな粒度分布のフィルター粒子を用いる場合よりも大きくなりやすい。このことによって、リチャージウェル150に供給される地下水W1中及びリチャージウェル150から汲み上げられる地下水W2中の不純物粒子501の大部分はフィルター粒子551間の流路560で容易に移動可能になる。
図3に示すように、リチャージウェル150における地下水W1の注水時には、流路560の寸法よりも粒径の小さい不純物粒子501がフィルター154の貫通孔161、流路560を順次通り、リチャージウェル150の径方向でフィルター154と帯水層201-2との境界部分或いはフィルター154に近い帯水層201-2で捕捉される。一方、リチャージウェル150における地下水W2の揚水時には、前述の境界部分或いはフィルター154に近い帯水層201-2で捕捉された不純物粒子501、及びフィルター154で捕捉された流路560の寸法よりも粒径の大きい不純物粒子501が流路560、貫通孔161を円滑に通り、効率良く揚水される。上述のリチャージウェル150によれば、地下水W1の注水量を維持しつつ、リチャージウェル150の逆洗浄時に地下水W2中の不純物粒子501を良好に吸い出し、洗浄効果を高めることができる。また、上述のリチャージウェル150によれば、フィルター154は略単一の粒径のフィルター粒子551で構成されるので、多数種類の粒径のフィルター粒子を用い且つ粒径に応じてフィルター粒子を複雑に配置する必要もなく、従来の注水井戸に比べて多くの手間、時間及び費用をかけずにフィルター154を容易に製造できる。
【0042】
上述のリチャージウェル150によれば、複数のフィルター粒子551の粒径に関する均等係数は1.5以下であるため、フィルター粒子の粒径のばらつきを略単一といえる程度に抑え、フィルター粒子551間の流路560の最大寸法を適度に確保できる。
【0043】
上述のリチャージウェル150では、複数のフィルター粒子551の中央粒径はフィルター154が隣接する帯水層(地盤)201-2中の砂の中央粒径の5倍以上25倍以下である。上述のリチャージウェル150によれば、フィルター154における流路560の最大寸法を適切に確保し、地下水W1中に含まれ且つ帯水層201中の砂に起因する土、砂、鉄等の不純物粒子501の大部分を流路560で円滑に移動させることができる。したがって、リチャージウェル150への地下水W1の注水量を確保し、リチャージウェル150の洗浄時に不純物粒子501を良好に吸い上げることができる。
【0044】
本実施形態の地下水リチャージ装置15は、地下水を揚水するディープウェル110と、上述のリチャージウェル150と、ディープウェル110から揚水した地下水W1をリチャージウェル150に注水するための通水管140と、リチャージウェル150から揚水した地下水W2をろ過するろ過装置190と、を備える。
【0045】
上述の地下水リチャージ装置15によれば、上述のリチャージウェル150を備えるので、ディープウェル110から揚水した地下水W1中の不純物粒子501をリチャージウェル150のスクリーン152の貫通孔161、フィルター154の流路560を円滑に移動させることができ、フィルター154と帯水層201-2との境界部分、或いはリチャージウェル150の帯水層201-2で捕捉可能にする。このことによって、リチャージウェル150への注水量を確保すると共に、逆洗浄時にフィルター154を通して不純物粒子501を吸い上げやすくして洗浄効果を高めることができる。また、略単一の粒径を有する複数のフィルター粒子551で構成するので、上述の地下水リチャージ装置15のリチャージウェル150のフィルター154を容易に製造できる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変更が可能である。
【0047】
例えば、上述のリチャージウェル150では、逆洗浄時に帯水層201-2の砂がフィルター154の流路560及びスクリーン152の貫通孔161を通って地下水W2中に混ざる可能性がある。そのため、地下水W2は、帯水層201-2の砂の前述のような引き込みを適度に抑えられる所定の揚水量で揚水されることが好ましい。通水管180には、地下水W2の揚水量を所定の揚水量とする揚水量調整装置が設けられてもよい。
【0048】
例えば、上述のディープウェル110のフィルター114はリチャージウェル150のフィルター154のフィルター粒子551と同様の複数のフィルター粒子で構成されてもよい。その場合は、通水管140には、地下水W1の揚水量を帯水層201-1の砂の引き込み量をある程度抑えることができる所定の揚水量とする揚水量調整装置が設けられている。
【0049】
例えば、上述のリチャージウェル150は、複数のフィルター粒子551で構成されるフィルター154と井戸本体151とスクリーン152とを備え、注水対象の地盤200にフィルター154を隣接させて配置可能に構成されていればよい。井戸本体151、スクリーン152及びフィルター154以外の他の構成要素は、特に限定されない。また、上述のディープウェル110は、揚水対象の地盤200から地下水W1を揚水可能に構成されていればよい。ディープウェル110の構成要素は、特に限定されない。上述の実施形態では、地盤200において掘削穴21、25はそれぞれ、鉛直方向に沿って延びているが、掘削穴21、25の形状は必ずしも鉛直方向に沿っている必要はなく、地盤200の構成や揚水井戸や注水井戸の設置環境等に合わせて適宜傾斜、屈折、屈曲等して変更されてもよい。
【0050】
例えば、上述の地下水リチャージ装置15において、通水管140に不純物粒子501を沈降させる沈降装置、ノッチタンク、或いは不純物粒子501の除去装置が設けられてもよい。これらの沈降装置や除去装置で不純物粒子501の一部又は例えば75μm以上の粒径を有する粗粒分の不純物粒子501をリチャージウェル150の上流側で地下水W1からある程度除去できる。
【符号の説明】
【0051】
110 ディープウェル(揚水井戸)
111、151 井戸本体
112、152 スクリーン
114、154 フィルター
140 通水管(通水装置)
150 リチャージウェル(注水井戸)
15 地下水リチャージ装置
W1、W2 地下水