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特許7512139地震動評価モデル提供方法、及び、地震動評価モデル提供装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】地震動評価モデル提供方法、及び、地震動評価モデル提供装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/28 20060101AFI20240701BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240701BHJP
【FI】
G01V1/28
G06N20/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020153553
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047650
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】片寄 武彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 透
(72)【発明者】
【氏名】小穴 温子
(72)【発明者】
【氏名】和田 健介
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-170739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0019882(US,A1)
【文献】国際公開第2018/008708(WO,A1)
【文献】特開2009-180687(JP,A)
【文献】特開2019-170359(JP,A)
【文献】特表2008-512800(JP,A)
【文献】特開2002-168963(JP,A)
【文献】特開2014-006158(JP,A)
【文献】特開2019-046469(JP,A)
【文献】特開2018-044775(JP,A)
【文献】特開2008-281462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G06N 3/00- 3/12
7/08-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震動諸特性パラメータ及び地震動観測記録が関連付けられてデータベースに登録された地震動データを学習用データとする機械学習を行い、当該機械学習に基づく地震動評価モデルの最新版を外部に提供する地震動評価モデル提供方法であって、
新たな前記地震動データを収集し、当該新たな地震動データに対して所定の前処理を実施した更新用の前記地震動データにより前記データベースを更新するデータベース更新工程と、
更新後の前記データベースから新たな前記学習用データを取得して前記機械学習を行い、前記地震動諸特性パラメータと前記地震動観測記録から得られる地震動指標との相関関係を機械学習させた前記地震動評価モデルの更新案を生成する機械学習工程と、
前記更新案に対して所定の検証処理を実施し、その結果有効性が認められた場合に、当該更新案により前記最新版を更新するモデル更新工程とを含み、
前記前処理は、
前記新たな地震動データを解析し、前記データベースに登録することが不適切な場合に当該地震動データを除外する除外処理を含み、
前記除外処理は、
前記新たな地震動データに含まれる前記地震動観測記録の時刻歴波形において、信号雑音比が所定値よりも小さい場合に当該地震動データを除外する第1の除外処理と、
前記時刻歴波形において、別地震又は別事象が混在している場合に当該地震動データを除外する第2の除外処理と、
前記時刻歴波形において、前記地震動観測記録の記録時間が不足している場合に当該地震動データを除外する第3の除外処理との少なくとも1つを含む、
地震動評価モデル提供方法。
【請求項2】
前記第1の除外処理は、
前記信号雑音比に係る異常状態が正解ラベルとして付与された時刻歴波形に基づく画像データを用いて当該画像データと当該異常状態との相関関係を機械学習させた第1の時刻歴波形評価モデルに、前記新たな地震動データに含まれる前記地震動観測記録の前記時刻歴波形に基づく画像データを入力することにより当該第1の時刻歴波形評価モデルから出力された前記信号雑音比に係る異常状態に基づいて当該地震動データを除外し、
前記第2の除外処理は、
前記別地震又は前記別事象に係る異常状態が正解ラベルとして付与された時刻歴波形に基づく画像データを用いて当該画像データと当該異常状態との相関関係を機械学習させた第2の時刻歴波形評価モデルに、前記新たな地震動データに含まれる前記地震動観測記録の前記時刻歴波形に基づく画像データを入力することにより当該第2の時刻歴波形評価モデルから出力された前記別地震又は前記別事象に係る異常状態に基づいて当該地震動データを除外し、
前記第3の除外処理は、
前記記録時間に係る異常状態が正解ラベルとして付与された時刻歴波形に基づく画像データを用いて当該画像データと当該異常状態との相関関係を機械学習させた第3の時刻歴波形評価モデルに、前記新たな地震動データに含まれる前記地震動観測記録の前記時刻歴波形に基づく画像データを入力することにより当該第3の時刻歴波形評価モデルから出力された前記記録時間に係る異常状態に基づいて当該地震動データを除外する、
請求項に記載の地震動評価モデル提供方法。
【請求項3】
地震動諸特性パラメータ及び地震動観測記録が関連付けられてデータベースに登録された地震動データを学習用データとする機械学習を行い、当該機械学習に基づく地震動評価モデルの最新版を外部に提供する地震動評価モデル提供方法であって、
新たな前記地震動データを収集し、当該新たな地震動データに対して所定の前処理を実施した更新用の前記地震動データにより前記データベースを更新するデータベース更新工程と、
更新後の前記データベースから新たな前記学習用データを取得して前記機械学習を行い、前記地震動諸特性パラメータと前記地震動観測記録から得られる地震動指標との相関関係を機械学習させた前記地震動評価モデルの更新案を生成する機械学習工程と、
前記更新案に対して所定の検証処理を実施し、その結果有効性が認められた場合に、当該更新案により前記最新版を更新するモデル更新工程とを含み、
前記検証処理は、
前記更新案に基づく前記地震動指標の予測値と、現在又は過去における前記最新版に基づく前記地震動指標の予測値とを比較することにより、当該更新案を検証する第1の検証処理を含む、
地震動評価モデル提供方法。
【請求項4】
コンピュータであって、
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の地震動評価モデル提供方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える、
地震動評価モデル提供装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動評価モデル提供方法、及び、地震動評価モデル提供装置に関する。
【背景技術】
【0002】
過去の地震(震源断層のすべり破壊現象)や地震動(地震によってもたらされる地盤の揺れ)等に関して得られた様々なデータに基づいて将来発生すると考えられる地震による地震動の特性を評価・予測する技術は、その有用性ゆえ、地震動の特徴分析・解釈から建築物・構造物の挙動予測・構造設計等、更には地震防災等に至るまで、社会で幅広く活用されている。
【0003】
従来、個々の専門家により自らの判断を伴いつつ選定された一部のデータが、専門的な手法により分析された上で、将来の地震による地震動の最大振幅(最大加速度・最大速度・最大変位等)や応答スペクトル(地震動をある固有周期と減衰定数を有する一質点系に入力させた場合の一質点系の最大応答振幅)等を評価・予測するための地震動評価式(距離減衰式、地震動予測式等と称されることもある)が開発され、活用されてきた(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-39446号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nobuyuki Morikawa and Hiroyuki Fujiwara,A New Ground Motion Prediction Equation for Japan Applicable up to M9 Mega-Earthquake,Journal of Disaster Research,Vol.8,No.5,2013,p.878-888
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の専門分野の細分化・高度化や少子化に伴う専門家の減少といった環境変化もあって、このような地震動評価式の提案・改善に向けて個々の専門家が直接取り組める時間・労力は限られてきている。また、既往の検討により開発され活用されている実用的な地震動評価式は、個々の専門家の検討に用いられた地震観測記録のデータに依存する上、大規模な地震や最大級の地震動は稀な自然現象であるため、それらの予測式に反映される既往の知見の質と量にはアンバランスが含まれている。
【0007】
日々蓄積・解析されることによるデータ量の増加、コンピュータの情報処理能力の向上やシミュレーション技術の進歩はそれらの問題の改善に大きく寄与する可能性を秘めているが、そのためには新たな地震の発生により新たな観測データやシミュレーション結果が得られる度に個々の専門家が地震動評価式の再検討・再評価を行わなければならない。しかしながら、そのような作業のためにその都度個々の専門家が膨大な時間と労力を費やすことには限界があり、現実にはなかなかその作業が進まない。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであって、地震が発生する度に得られる新たな観測データやシミュレーション結果等をデータベースに随時取り込み、ビッグデータを地震動の評価・予測に有効活用することを可能とする地震動評価モデル提供方法、及び、地震動評価モデル提供装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明の一実施形態に係る地震動評価モデル提供方法は、
地震動諸特性パラメータ及び地震動観測記録が関連付けられてデータベースに登録された地震動データを学習用データとする機械学習に基づく地震動評価モデルの最新版を外部に提供する地震動評価モデル提供方法であって、
新たな前記地震動データを収集し、当該新たな地震動データに対して所定の前処理を実施した更新用の前記地震動データにより前記データベースを更新するデータベース更新工程と、
更新後の前記データベースから新たな前記学習用データを取得して前記機械学習を行い、前記地震動諸特性パラメータと前記地震動観測記録から得られる地震動指標値との相関関係を機械学習させた前記地震動評価モデルの更新案を生成する機械学習工程と、
前記更新案に対して所定の検証処理を実施し、その結果有効性が認められた場合に、当該更新案により前記最新版を更新するモデル更新工程とを含む。
【0010】
また、本発明の一実施形態に係る地震動評価モデル提供装置は、
コンピュータであって、上記地震動評価モデル提供方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態に係る地震動評価モデル提供装置、及び、地震動評価装置によれば、地震が発生する度に得られる新たな観測データやシミュレーション結果等に対して所定の前処理を施した上でそれらを採用することによりデータベースを随時更新しつつ、当該データベースから新たな学習用データを取得して地震動評価モデルの更新案を随時生成し、所定の検証処理により有効性が認められた場合に、当該更新案により地震動評価モデルの最新版を更新し、外部に提供する。したがって、地震動評価モデルは、新たなデータが得られる度に随時自動生成、検証、高度化されて外部に提供されるので、ビッグデータを地震動の評価・予測に有効活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る地震動評価システム1の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る地震動評価システム1の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る地震動評価モデル提供装置3及び地震動評価モデル提供方法の一例を示す機能説明図である。
図4】データベース10の一例を示すデータ構成図である。
図5】時刻歴波形の解析例を示し、(a)はフーリエ振幅スペクトル図、(b)は別地震又は別事象を含む時刻歴波形図、(c)は頭部不足の時刻歴波形図である。
図6】勾配ブースティング木の概要を示す概要図である。
図7】本発明の実施形態に係る地震動評価装置4及び地震動評価方法の一例を示す機能説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る地震動評価システム1の一例を示す概略構成図である。図2は、本発明の実施形態に係る地震動評価システム1の一例を示すブロック図である。
【0015】
地震動評価システム1は、地震による地震動が複数の観測点にてそれぞれ観測された地震動観測記録を収集し、その観測結果を外部に提供する観測データ提供装置2Aと、地震動観測記録に基づいて地震の震源や規模を解析し、その解析結果を外部に提供する解析データ提供装置2Bと、地震動の評価・予測に用いる地下構造に関する地下構造パラメータを外部に提供する地下構造データ提供装置2Cと、所定のシミュレーション手法に従って地震動シミュレーションを実行し、そのときのシミュレーション条件やシミュレーション結果をシミュレーションデータとして外部に提供する地震動シミュレーションデータ提供装置2Dとを備える。
【0016】
また、地震動評価システム1は、データ提供装置2A~2Dにより提供された新たなデータに基づいてデータベース10を随時更新するとともに、その更新したデータベース10を用いて機械学習に基づく地震動評価モデル13の最新版131を随時更新して提供する地震動評価モデル提供装置3と、地震動評価モデル提供装置3により提供された地震動評価モデル13(最新版131)に基づいて地震動を評価・予測する地震動評価装置4と、各装置間を接続するネットワーク5とを備える。
【0017】
地震動評価モデル提供装置3により地震動評価装置4に提供された地震動評価モデル13は、例えば、地震動の特徴分析・解釈から建築物・構造物の挙動予測・構造設計等、更には地震防災等に至るまで、社会で幅広く活用することが可能である。
【0018】
観測データ提供装置2Aは、地震が発生したときに、複数の観測点に設置された地震計(不図示)により測定された南北方向、東西方向及び上下方向に対する三成分の時刻歴波形データを、地震動観測記録としてそれぞれ収集し、地震動観測記録と、例えば、観測点の位置を示す観測点位置等の付加情報と、を含む観測データを外部に提供する。本実施形態では、観測データは、例えば、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、「防災科研」という)の強震観測網K-NETにより提供されるデータであって、特に、関東地方一都六県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬)に設置された観測点138地点(図1参照)にて観測されたデータを使用するものとして説明する。
【0019】
解析データ提供装置2Bは、地震動観測記録に基づいて地震の震源や規模を解析し、その解析結果として、例えば、モーメントマグニチュード、気象庁マグニチュード、震央位置、震源深さ、地震種別、断層タイプ、及び、震源メカニズム解等を含む解析データを外部に提供する。本実施形態では、解析データ提供装置2Bは、例えば、防災科研の広帯域震観測網F-NETや気象庁により提供されるデータを使用するものとして説明する。
【0020】
地下構造データ提供装置2Cは、地下構造パラメータとして、例えば、地震基盤面深さ、工学的基盤面深さ、層厚、密度、地震波伝播速度、Q値、減衰定数等を含む地下構造データを外部に提供する。本実施形態では、地下構造データ提供装置2Cは、例えば、防災科研の地震ハザードステーションJ-SHISにより提供されるデータを使用するものとして説明する。
【0021】
なお、観測データ提供装置2A、解析データ提供装置2B及び地下構造データ提供装置2Cは、地震が発生したときに、当該地震に関する提供データをリアルタイムに地震動評価モデル提供装置3に提供してもよいし、地震動評価モデル提供装置3からデータの要求を受けたときに、その要求に関する提供データ(過去に発生した地震のうち所定の条件に合致する複数の地震に関する提供データでもよい)を地震動評価モデル提供装置3に提供してもよい。また、本実施形態では、データ提供装置2A~2Cは、別々の3つの装置であるものとして説明するが、これに限られず、1つの装置として構成されていてもよいし、他のデータ提供装置がさらに付加されてもよい。
【0022】
地震動シミュレーションデータ提供装置2Dは、地震が発生したときに、又は、仮想の地震が発生したと想定したときに、当該地震による地震動を所定のシミュレーション手法に従って解析するものであり、そのときのシミュレーション条件やシミュレーション結果をシミュレーションデータとして外部に提供する。その際、所定のシミュレーション手法は、任意の手法が採用可能であり、複数の手法が採用されてもよい。また、地震動シミュレーションデータ提供装置2Dは、自装置にて地震動シミュレーションを実行することでシミュレーションデータを提供するものでもよいし、他の装置で地震動シミュレーションが実行されたときのシミュレーションデータを提供するものでもよい。
【0023】
なお、地震動シミュレーションデータ提供装置2Dは、新たな地震動シミュレーションを実行したときに、当該地震動シミュレーションに関するシミュレーションデータを地震動評価モデル提供装置3に随時提供してもよいし、地震動評価モデル提供装置3からデータの要求を受けたときに、その要求に関するシミュレーションデータ(地震動評価モデル提供装置3からシミュレーション条件を受けた場合には、そのシミュレーション条件に基づいて地震動シミュレーションを実行したときのシミュレーション結果を含むシミュレーションデータでもよい)を地震動評価モデル提供装置3に提供してもよい。
【0024】
ネットワーク5は、無線通信又は有線通信により各種のデータや信号を通信するものであり、任意の通信規格が用いられる。
【0025】
(地震動評価モデル提供装置3の構成と各部による工程について)
地震動評価モデル提供装置3は、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データ(観測データ、解析データ、地下構造データ、シミュレーションデータ)を収集し、データベース10を随時更新する。地震動評価モデル提供装置3は、その更新したデータベース10を用いて、例えば、勾配ブースティング木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)等の機械学習アルゴリズムを実行することにより、機械学習の学習済みモデルとして、地震動評価モデル13の更新案130を生成する。地震動評価モデル提供装置3は、その更新案130により地震動評価モデル13の最新版131を更新し、その更新後の地震動評価モデル13の最新版131を外部(本実施形態では、地震動評価装置4)に提供する。
【0026】
地震動評価モデル提供装置3は、汎用又は専用のコンピュータで構成されており、図2に示すように、HDD、メモリ等により構成される記憶部30と、CPU、GPU等のプロセッサにより構成される制御部31と、ネットワーク5との通信インターフェースである通信部32と、キーボード、マウス等により構成される入力部33と、ディスプレイ、タッチパネル等により構成される表示部34とを備える。
【0027】
記憶部30には、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データが登録・更新されるデータベース10と、学習済みモデルである地震動評価モデル13と、地震動評価モデル提供装置3の動作を制御して地震動評価モデル提供方法を実現する地震動評価モデル提供プログラム300とが記憶されている。なお、データベース10は、記憶部30に代えて、外部記憶装置に記憶されていてもよく、その場合には、地震動評価モデル提供装置3は、ネットワーク5を介して当該外部記憶装置と通信し、データベース10にアクセスするようにすればよい。
【0028】
制御部31は、地震動評価モデル提供プログラム300を実行することにより、データベース更新部310、機械学習部311、及び、モデル更新部312として機能する。なお、各部の機能の詳細は後述する。
【0029】
図3は、本発明の実施形態に係る地震動評価モデル提供装置3及び地震動評価モデル提供方法の一例を示す機能説明図である。
【0030】
(データベース更新部310によるデータベース更新工程について)
データベース更新部310は、データ提供装置2A~2Dにより提供された新たな提供データ(観測データ、解析データ、地下構造データ、シミュレーションデータ)に基づいて新たな地震動データ11Aを収集し、当該新たな地震動データ11Aに対して所定の前処理を実施した更新用の地震動データ11Bによりデータベース10を更新する。
【0031】
図4は、データベース10の一例を示すデータ構成図である。データベース10には、複数の地震と当該複数の地震による地震動が観測された少なくとも1つの観測点との各組み合わせについて、当該地震動が観測されたときの地震動諸特性パラメータ及び地震動観測記録が関連付けられた地震動データ11が複数登録されて記憶されている。シミュレーションデータが、実際の地震又は仮想の地震による地震動を地震動シミュレーションにより算出したときのシミュレーション条件及びシミュレーション結果を含む場合には、シミュレーション条件を地震動諸特性パラメータとして、シミュレーション結果を地震動観測記録又は地震動指標として扱うことにより、データベース10には、当該シミュレーションデータが地震動データ11として登録される。
【0032】
地震動諸特性パラメータは、地震動の諸特性を記述する各種のパラメータであり、地震動の諸特性は、例えば、地震動の震源特性、及び、伝播特性を含み、サイト特性、方位特性、及び、地震動観測特性をさらに含む。本実施形態では、地震動諸特性パラメータは、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データ(観測データ、解析データ、地下構造データ)を、上記の地震動の諸特性に応じて分類・記録したものである。以下に、地震動諸特性パラメータに含まれる震源特性、伝播特性、サイト特性、方位特性、及び、地震動観測特性について説明する。
【0033】
震源特性は、例えば、マグニチュード(モーメントマグニチュードMw、気象庁マグニチュード等)、震央位置(緯度lat_eq,経度lon_eq)、震源深さH、地震種別Type(内陸地殻内地震・プレート境界地震・スラブ内地震)、断層タイプMech(正断層・逆断層・横ずれ断層)、震源メカニズム解(走向Strike1、傾斜角dip1、すべり角rake1)、及び、震源メカニズム解の共役解(走向Strike2、傾斜角dip2、すべり角rake2)等の少なくとも1つである。本実施形態に係る震源特性は、モーメントマグニチュードMw、震央位置(緯度lat_eq,経度lon_eq)、震源深さH、地震種別Type、断層タイプMech、震源メカニズム解(Strike1、dip1、rake1)、及び、震源メカニズム解の共役解(Strike2、dip2、rake2)である。
【0034】
伝播特性は、例えば、震源距離X、断層最短距離、及び、震央距離の少なくとも1つである。本実施形態に係る伝播特性は、震源距離Xであり、観測点位置と、震央位置との間の距離として算定される。
【0035】
サイト特性は、例えば、観測点位置(緯度lat_site,経度lon_site)、地震基盤面深さ、工学的基盤面深さ、層厚、密度、地震波伝播速度、Q値、及び、減衰定数の少なくとも1つである。本実施形態に係るサイト特性は、観測点位置(緯度lat_site,経度lon_site)、最上層のS波速度VS1、表層10m平均S波速度AVS10、表層30m平均S波速度AVS30、微地形区分JCODE、S波速度700m/s層上面深さD7、S波速度1400m/s層上面深さD17、S波速度2100m/s層上面深さD24、及び、地震基盤面深さD28(=S波速度2700m/s層上面深さ)である。なお、表層30m平均S波速度AVS30が、観測点の地下構造データから求められない場合には、防災科研の地震ハザードステーションJ-SHISの250mメッシュの表層30m平均S波速度AVS30で代用し、表層10m平均S波速度AVS10が、観測点の地下構造データから求められない場合には、表層30m平均S波速度AVS30で代用するものとした。また、地震基盤面深さD28は、防災科研の地震ハザードステーションJ-SHISで公開されている対象観測点位置が含まれるメッシュの深部地盤モデルの第28層の下面深さ(同モデルで地震基盤に相当するP波速度5000m/s・S波速度2700m/sの第29層の上面深さに等しい)とした。
【0036】
方位特性は、例えば、観測点を基準として震央が位置する方位を示す震央方位Λである。そのため、震央方位Λは、観測点位置を基準として震央位置が存在する方位として算定される。その際、震央方位Λは、真北を0°として時計回りに定めるとともに、真北を境に不連続量となるため、本実施形態に係る方位特性は、震央方位Λを表すsinΛとcosΛのペアを用いる。
【0037】
地震動観測特性は、例えば、地震動観測記録として記録された時刻歴波形のデータが南北方向、東西方向及び上下方向のいずれかであることを示す地震動の方向成分Compである。
【0038】
地震動観測記録は、例えば、南北方向、東西方向及び上下方向に対する三成分の加速度、速度、及び、変位の時刻歴波形である。地震動観測記録は、所定の評価手法により評価・解析されることで、各種の地震動指標が得られる。本実施形態に係る地震動観測記録は、強震観測網K-NETのうち関東地方一都六県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬)に設置された観測点138地点(図1参照)にて観測された水平二成分(南北方向及び東西方向)に対する時刻歴波形である。
【0039】
地震動指標は、地震動の振幅特性、周期特性、及び、経時特性の少なくとも1つを含む。
【0040】
振幅特性は、地震動観測記録(加速度、速度、及び、変位の時刻歴波形)から得られる地震動の最大加速度PGA、最大速度、及び、最大変位の少なくとも1つである。本実施形態に係る振幅特性は、最大加速度PGAである。
【0041】
周期特性は、地震動観測記録(加速度、速度、及び、変位の時刻歴波形)から得られる応答スペクトル又はフーリエスペクトル等において、少なくとも1つの周期に対する応答値である。応答スペクトルは、例えば、所定の減衰定数(例えば、5%)に対する加速度応答スペクトル、擬似速度応答スペクトルpSv、速度応答スペクトル、及び、変位応答スペクトル等である。フーリエスペクトルは、例えば、加速度フーリエスペクトル、速度フーリエスペクトル、及び、変位フーリエスペクトル等である。本実施形態に係る周期特性は、0.1秒、0.5秒、1秒、3秒、5秒の各周期における減衰定数5%の擬似速度応答スペクトルpSv(0.1s)、pSv(0.5s)、pSv(1s)、pSv(3s)、pSv(5s)の5つである。
【0042】
経時特性は、例えば、地震動観測記録(加速度、速度、及び、変位の時刻歴波形)から得られる応答継続時間スペクトルにおいて、少なくとも1つの周期に対する応答継続時間である。応答継続時間スペクトルは、例えば、所定の減衰定数(例えば、5%)に対する加速度応答継続時間スペクトル、速度応答継続時間スペクトルTSv、及び、変位応答継続時間スペクトル等である。本実施形態に係る経時特性は、0.1秒、0.5秒、1秒、3秒、5秒の各周期における減衰定数5%の速度応答継続時間スペクトルTSv(0.1s)、TSv(0.5s)、TSv(1s)、TSv(3s)、TSv(5s)の5つである。なお、応答継続時間の開始と終了を規定するパラメータは、p1=0.03、p2=0.95である。
【0043】
データベース更新部310がデータベース10を更新する更新条件としては、例えば、新たな地震動データ11Aが所定数以上収集されたときでもよいし、更新用の地震動データ11Bが所定数以上蓄積されたときでもよいし、所定の期間毎(例えば、1時間毎、1日毎、1週間毎、1か月毎等)でもよいし、これらの条件を組み合わせたものでもよい。また、更新条件は、地震動評価モデル提供装置3の管理者からの指示操作に基づいて適宜変更されてもよいし、同一の更新条件が常時設定されていてもよい。
【0044】
(新たな地震動データ11Aに対する所定の前処理について)
データベース更新部310による所定の前処理は、新たな地震動データ11Aを解析し、データベース10に登録することが不適切な場合に当該地震動データ11Aを除外する除外処理と、新たな地震動データ11Aに対して補正処理及びノイズ除去処理を行う加工処理との少なくとも一方を含む。したがって、データベース更新部310が、前処理として除外処理と加工処理の両方を実施する場合には、更新用の地震動データ11Bとしては、除外処理にて除外されなかった新たな地震動データ11Aであって、加工処理にて補正処理及びノイズ除去処理が行われた後の新たな地震動データ11Aがデータベース10に新たに登録される。
【0045】
除外処理は、例えば、新たな地震動データ11Aに含まれる地震動観測記録の時刻歴波形を解析し、当該地震動データ11Aをデータベース10に登録することが適切か不適切かの適否を判定し、不適切と判定した場合に、当該地震動データ11Aをデータベース10に登録する対象から除外する。なお、除外処理では、管理者により新たな地震動データ11Aが不適切と判定された場合には、その旨を示す管理者の指示操作に基づいて当該地震動データ11Aを除外するようにしてもよい。
【0046】
例えば、除外処理は、第1の除外処理と、第2の除外処理と、第3の除外処理との少なくとも1つを含む。第1の除外処理は、時刻歴波形において信号雑音比(S/N比)が所定値よりも小さい場合に不適切と判定する。第2の除外処理は、時刻歴波形において別地震又は別事象が混在している場合に不適切と判定する。第3の除外処理は、時刻歴波形において地震動観測記録の記録時間が不足(頭部不足、尾部不足又は両方不足)している場合に不適切と判定する。
【0047】
図5は、時刻歴波形の解析例を示し、(a)はフーリエ振幅スペクトル図、(b)は別地震又は別事象を含む時刻歴波形図、(c)は頭部不足の時刻歴波形図である。
【0048】
専門家が、地震動データ11Aに含まれる地震動観測記録において、例えば、振幅が小さくノイズが大きいか否かに応じて地震動データ11Aの適否を判定する場合、一般的に、数値データのみではノイズの有無や信号雑音比を判断することが難しい。そのため、専門家は、時刻歴の数値データに基づいて、例えば、図5(a)に示すフーリエ振幅スペクトル図(画像データ)を作成し、そのフーリエ振幅スペクトル図を目視してノイズを識別し、さらにノイズを除去する周波数フィルタの周期範囲を設定し、最終的に地震動データ11Aの適否を判定している。また、専門家は、例えば、図5(b)、(c)に示す時刻歴波形図(画像データ)を目視して、別地震又は別事象が混在しているか否か、記録時間が不足しているか否かを判定している。そこで、専門家が画像データを目視して地震動データ11Aの適否を判定したときの判定結果が正解ラベルとして付与された当該画像データを用いて機械学習モデルを事前に生成しておき、除外処理では、当該機械学習モデルを用いて地震動データ11Aの適否を判定する手法を採用することが可能である。
【0049】
第1の除外処理の事前準備として、信号雑音比に係る異常状態が正解ラベルとして付与された時刻歴波形に基づく画像データ(図5(a)参照)を用いて当該画像データと当該異常状態との相関関係を機械学習させた第1の時刻歴波形評価モデル14Aを生成し、記憶部30に記憶される。そして、第1の除外処理では、新たな地震動データ11Aに含まれる地震動観測記録の時刻歴波形に基づく画像データを第1の時刻歴波形評価モデル14Aに入力する。そして、当該第1の時刻歴波形評価モデル14Aから出力された信号雑音比に係る異常状態に基づいて、新たな地震動データ11Aの適否を判定し、不適切と判定した場合に当該地震動データ11Aを除外する。
【0050】
第2の除外処理の事前準備として、別地震又は別事象に係る異常状態が正解ラベルとして付与された時刻歴波形に基づく画像データ(図5(b)参照)を用いて当該画像データと当該異常状態との相関関係を機械学習させた第2の時刻歴波形評価モデル14Bを生成し、記憶部30に記憶される。そして、第2の除外処理では、新たな地震動データ11Aに含まれる地震動観測記録の時刻歴波形に基づく画像データを第2の時刻歴波形評価モデル14Bに入力する。その結果、当該第2の時刻歴波形評価モデル14Bから出力された別地震又は別事象に係る異常状態に基づいて、新たな地震動データ11Aの適否を判定し、不適切と判定した場合に当該地震動データ11Aを除外する。
【0051】
第3の除外処理の事前準備として、記録時間に係る異常状態が正解ラベルとして付与された時刻歴波形に基づく画像データ(図5(c)参照)を用いて当該画像データと当該異常状態との相関関係を機械学習させた第3の時刻歴波形評価モデル14Cを生成し、記憶部30に記憶される。そして、第3の除外処理では、新たな地震動データ11Aに含まれる地震動観測記録の時刻歴波形に基づく画像データを第3の時刻歴波形評価モデル14Cに入力する。その結果、当該第3の時刻歴波形評価モデル14Cから出力された記録時間に係る異常状態に基づいて、新たな地震動データ11Aの適否を判定し、不適切と判定した場合に当該地震動データ11Aを除外する。
【0052】
なお、第1乃至第3の時刻歴波形評価モデル14A~14Cでは、任意の機械学習アルゴリズムを採用することが可能であるが、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を採用すればよい。また、画像データは、時刻歴波形に基づく画像データであれば、時刻歴波形図、フーリエ振幅スペクトル図等を含む任意の画像データを採用することが可能である。その際、画像データは、スケールを基準化する等の処理が実施されたものでもよい。
【0053】
加工処理は、補正処理として、例えば、新たな地震動データ11Aに含まれる地震動観測記録の時刻歴波形に対して、例えば、基線補正等を行う。また、加工処理は、ノイズ除去処理として、新たな地震動データ11Aに含まれる地震動観測記録の時刻歴波形に対して、例えば、時刻歴フィルタ処理、周波数フィルタ処理等を行う。
【0054】
(機械学習部311による機械学習工程について)
機械学習部311は、図3に示すように、更新後のデータベース10に登録された複数の地震動データ11(更新用の地震動データ11Bを含む)から、地震動諸特性パラメータを特徴量とし、地震動観測記録から得られる地震動指標を目的変数として、特徴量及び目的変数で構成される新たな学習用データ12を複数取得する。なお、学習用データ12は、教師あり学習における学習データ(トレーニングデータ)、検証データ及びテストデータとして用いられるデータである。また、複数の学習用データ12からなる学習用データ12の集合は、学習用データセットという。
【0055】
機械学習部311は、更新後のデータベース10から新たな学習用データ12を複数取得する際、更新用の地震動データ11Bを意図的に含むように新たな学習用データ12を取得してもよいし、更新用の地震動データ11Bを含むか否かに関係なく、新たな学習用データ12を無作為に取得してもよい。また、機械学習部311は、所定の地震条件及び所定の地震動条件の少なくとも一方を満たす地震に基づく地震動データ11を学習用データ12として選択するようにしてもよい。例えば、地震条件及び地震動条件は、ある程度振幅が大きな地震動がバランス良く分布するように設定されるのが好ましい。
【0056】
本実施形態では、学習用データ12を構成する特徴量は、図4に示す25種類の地震動諸特性パラメータのうち、モーメントマグニチュードMw、震源深さH、震源距離X、震央方位Λ(sinΛとcosΛのペア)、表層30m平均S波速度AVS30、及び、地震基盤面深さ(S波速度2700m/s層上面深さ)D28の6種類であり、学習用データ12を構成する目的変数は、図4に示す11種類の地震動指標のうち、最大加速度PGAの1種類であるものとして説明する。
【0057】
機械学習部311は、図3に示すように、更新後のデータベース10から取得した複数の学習用データ12を用いて機械学習を行い、特徴量及び目的変数の相関関係を機械学習させた学習済みモデルとして、地震動評価モデル13の更新案130を生成し、記憶部30に一時的に記憶する。本実施形態では、機械学習における機械学習アルゴリズムとして、勾配ブースティング木(Gradient Boosting Decision Tree)を用いる場合について説明する。
【0058】
図6は、勾配ブースティング木の概要を示す概要図である。勾配ブースティング木は、勾配ブースティングと決定木を組み合わせた学習器である。勾配ブースティングは、複数の弱学習器(低性能な機械学習モデル)を結合していくことにより強学習器(高性能な機械学習モデル)を構築する手法である。決定木は、樹木の分岐構造を利用した条件分岐を行うことにより分類・回帰が可能な機械学習モデルを生成する手法である。これら2つの手法を組み合わせた勾配ブースティング木は、決定木により生成した複数の弱学習器を勾配ブースティングにより結合する手法である。
【0059】
なお、図4に示す11種類の地震動指標のうち、最大加速度PGA及び擬似速度応答スペクトルpSvについては、振幅が大きくなるにつれてデータ数が急激に減少すると考えられる。そのため、目的変数の分布に発生する偏りを低減するため、最大加速度PGA及び擬似速度応答スペクトルpSvに対する目的変数のデータとして、常用対数(log10PGAとlog10pSv)をそれぞれ用いるのが好ましい。また、勾配ブースティング木における損失関数として、最大加速度PGA及び擬似速度応答スペクトルpSvには、最小二乗法(正規分布)を適用し、速度応答継続時間スペクトルTSvにはポアソン分布を適用するのが好ましい。
【0060】
さらに、モデル更新部312が、勾配ブースティング木を用いて地震動評価モデル13(更新案130)を生成する際、目的変数として、図4に示す11種類の地震動指標を採用する場合には、地震動評価モデル13(更新案130)を目的変数毎に生成するようにすればよい。すなわち、特徴量と目的変数(最大加速度PGA=1種類目の地震動指標)との相関関係を機械学習させた第1の地震動評価モデル13A、特徴量と目的変数(擬似速度応答スペクトルpSv(0.1s)=2種類目の地震動指標)との相関関係を機械学習させた第2の地震動評価モデル13Bというように、第3の地震動評価モデル13Cから第11の地震動評価モデル13Kまでをそれぞれ生成し、合計11個の地震動評価モデル13A~13Kを生成するようにすればよい。
【0061】
(モデル更新部312によるモデル更新工程について)
モデル更新部312は、更新案130に対して所定の検証処理を実施し、その結果有効性が認められた場合に、当該更新案130により最新版131を更新する。
【0062】
(更新案130に対する所定の検証処理について)
モデル更新部312による所定の検証処理は、更新案130の有効性の有無を定量的又は定性的に検証するものであり、その結果更新案130の有効性が認められた場合(図3の「OK」の場合)には、上記のように、当該更新案130により最新版131が更新される。一方、更新案130の有効性が認められなかった場合(図3の「NG」の場合)には、当該更新案130により最新版131が更新されず、当該更新案130は外部に提供されない。その場合、更新案130は、記憶部30から削除してもよいし、外部に提供されない状態で記憶部30に記憶されたままとしてもよい。なお、検証処理では、管理者により更新案130の有効性が認められないと判定された場合には、その旨を示す管理者の指示操作に基づいて更新案130により最新版131を更新しないようにしてもよい。
【0063】
定量的な検証処理は、例えば、第1の検証処理と、第2の検証処理と、第3の検証処理との少なくとも1つを含む。
【0064】
第1の検証処理は、更新案130に基づく地震動指標の予測値と、現在又は過去における最新版131に基づく地震動指標の予測値(基準値)とを比較することにより、当該更新案130を検証する。第1の検証処理では、例えば、学習用データセットにおけるテストデータに含まれる地震動諸特性パラメータを特徴量として更新案130に入力することにより当該更新案130から出力される目的変数を、更新案130に基づく地震動指標の予測値として取得する。また、同一のテストデータを特徴量として現在又は過去における最新版131に入力することにより当該地震動評価モデル13から出力される目的変数を基準値として取得する。そして、両者の値を比較し、所定の閾値以下である場合に、更新案130の有効性が認められる。なお、複数のテストデータを用いた場合には、両者の平均値や標準偏差等を比較し、所定の閾値以下である場合に、更新案130の有効性が認められる。
【0065】
第2の検証処理は、更新案130に基づく地震動指標の予測値と、地震動データ11に含まれる地震動観測記録から得られる地震動指標の観測値(基準値)とを比較することにより、当該更新案130を検証する。第2の検証処理では、第1の検証処理と同様に、学習用データセットにおけるテストデータを用いて、更新案130に基づく地震動指標の予測値を取得する。また、同一のテストデータに含まれる地震動観測記録から地震動指標の観測値を基準値として取得する。そして、両者の値を比較し、所定の閾値以下である場合に、更新案130の有効性が認められる。なお、複数のテストデータを用いた場合には、第1の検証処理と同様に、両者の平均値や標準偏差等を比較し、所定の閾値以下である場合に、更新案130の有効性が認められる。
【0066】
第3の検証処理は、更新案130に基づく地震動指標の予測値と、所定の地震動評価式から得られる地震動指標の計算値(基準値)とを比較することにより、当該更新案130を検証する。第3の検証処理では、第1の検証処理と同様に、学習用データセットにおけるテストデータを用いて、更新案130に基づく地震動指標の予測値を取得する。また、同一のテストデータに含まれる地震動諸特性パラメータを所定の地震動評価式に代入することにより地震動指標の計算値を基準値として取得する。そして、両者の値を比較し、所定の閾値以下である場合に、更新案130の有効性が認められる。なお、複数のテストデータを用いた場合には、第1の検証処理と同様に、両者の平均値や標準偏差等を比較し、所定の閾値以下である場合に、更新案130の有効性が認められる。
【0067】
定性的な検証処理は、例えば、更新案130として生成された地震動評価モデル13の骨格が物理的に見て不自然なものになっているか否かに基づいて、当該更新案130を検証する。
【0068】
モデル更新部312は、上記のような検証処理にて地震動評価モデル13の更新案130の有効性が認められた場合に、当該更新案130により地震動評価モデル13の最新版131を更新する。その結果、当該更新案130により更新された最新版131が、外部に提供可能な状態となり公開される。その際、最新版131は、事前に登録された配信先(本実施形態では、地震動評価装置4)にネットワーク5を介して自動配信されてもよいし、ダウンロード可能な状態で公開されてもよい。また、地震動評価モデル13の最新版131だけでなく、更新後のデータベース10についても公開されてもよい。なお、最新版131が更新案130により更新された場合であっても、最新版131を外部に公開するか否かは、管理者の指示操作に基づいて最終的に決定されるようにしてもよい。
【0069】
(地震動評価装置4の構成と各部による工程について)
地震動評価装置4は、地震動評価モデル提供装置3により提供された地震動評価モデル13(最新版131)に基づいて、地震動を評価・予測し、その結果を、例えば、表示媒体や紙媒体等の出力媒体に出力する。
【0070】
地震動評価装置4は、地震動評価モデル提供装置3と同様に、汎用又は専用のコンピュータで構成されており、図2に示すように、HDD、メモリ等により構成される記憶部40と、CPU、GPU等のプロセッサにより構成される制御部41と、ネットワーク5との通信インターフェースである通信部42と、キーボード、マウス等により構成される入力部43と、ディスプレイ、タッチパネル等により構成される表示部44とを備える。
【0071】
記憶部40には、地震動評価モデル提供装置3により学習済みモデルとして提供された地震動評価モデル13と、地震動評価装置4の動作を制御して地震動評価方法を実現する地震動評価プログラム400が記憶されている。
【0072】
制御部41は、地震動評価プログラム400を実行することにより、受付部410、予測部411、及び、出力処理部412として機能する。なお、各部の機能の詳細は後述する。
【0073】
図7は、本発明の実施形態に係る地震動評価装置4及び地震動評価方法の一例を示す機能説明図である。
【0074】
(受付部410による受付工程について)
受付部410は、予測対象の地震動諸特性パラメータを受け付ける。具体的には、受付部410は、例えば、地震動評価装置4のユーザが予測対象として想定している地震(以下、「想定地震」という)のモーメントマグニチュードMw、震央位置、及び、震源深さHについて入力部33を介して受け付けるとともに、当該想定地震による地震動がどの程度発生するのかを予測したい予測点の位置を示す予測点位置についても入力部33を介して受け付ける。なお、予測点位置は、任意の位置でもよいし、観測点位置と同じでもよい。また、予測点位置は、複数でもよく、例えば、所定の格子間隔(例えば、5km間隔)における各格子点等でもよい。
【0075】
そして、受付部410は、想定地震の震央位置と、地震動の予測点位置とに基づいて、震源距離X及び震央方位Λを算出するとともに、地下構造データ提供装置2Cにより提供された地下構造データに基づいて、地震動の予測点位置に対する表層30m平均S波速度AVS30、及び、地震基盤面深さ(S波速度2700m/s層上面深さ)D28を取得する。これにより、受付部410は、予測対象の地震動諸特性パラメータ(想定地震のモーメントマグニチュードMw、想定地震の震源深さH、想定地震の震源と予測点位置との間の震源距離X、予測点位置を基準として想定地震の震央位置が存在する方位を示す震央方位Λ、予測点位置の表層30m平均S波速度AVS30、及び、予測点位置の地震基盤面深さD28)を受け付ける。
【0076】
(予測部411による予測工程について)
予測部411は、受付部410にて受け付けられた予測対象の地震動諸特性パラメータを特徴量として、地震動評価モデル13(本実施形態では、6種類の地震動諸特性パラメータを特徴量とし、1種類の地震動指標を目的変数として、両者の相関関係を学習した学習済みモデル)に入力することにより当該地震動評価モデル13から出力される目的変数に基づいて、予測対象の地震動諸特性パラメータに対応する地震動指標(予測値)を予測する。その際、受付部410が、想定地震を複数受け付けたり、予測点位置を複数受け付けたりすることで、予測対象として複数の地震動諸特性パラメータを受け付けた場合には、予測部411は、複数の地震動諸特性パラメータの各々を地震動評価モデル13に入力することで、複数の地震動諸特性パラメータの各々に対応する地震動指標(予測値)をそれぞれ予測する。
【0077】
なお、地震動評価モデル13が、目的変数(11種類の地震動指標)毎に生成された合計11個の地震動評価モデル13A~13Kを含む場合には、予測部411は、予測対象の地震動諸特性パラメータを特徴量として合計11個の地震動評価モデル13A~13Kにそれぞれ入力し、合計11個の地震動評価モデル13A~13Kからそれぞれ出力される目的変数(11種類の地震動指標)毎に、予測対象の地震動諸特性パラメータに対応する地震動指標(予測値)を予測すればよい。
【0078】
(出力処理部412による出力処理工程について)
出力処理部412は、予測部411にて予測された地震動指標の予測値を視認可能な出力媒体に出力する。例えば、出力媒体が、表示部44のような表示媒体である場合には、出力処理部412は、表示媒体に表示するための表示データ(出力データ)を生成し、表示媒体に表示出力する。また、出力媒体が、紙媒体である場合には、出力処理部412は、紙媒体に印刷するための印刷データ(出力データ)を生成し、紙媒体に印刷出力する。なお、出力処理部412は、出力データを、例えば、地震動予測マップ作成システムやハザードマップ作成システム等に通信出力するようにしてもよいし、公共施設、建物、工場等の防災システムに通信出力するようにしてもよい。
【0079】
例えば、出力処理部412は、受付部410にて受け付けられた予測対象の地震動諸特性パラメータが、1つの想定地震に対して、例えば、各格子点を予測点位置とするような複数の地震動諸特性パラメータであるとき、当該複数の地震動諸特性パラメータに基づいて予測部411にて予測された各予測点位置における複数の地震動指標の予測値を、地図上に重畳するように、例えば、コンター図や、色分けしたメッシュ図として出力媒体に出力する。
【0080】
また、出力処理部412は、受付部410にて受け付けられた予測対象の地震動諸特性パラメータが、予測点位置を中心として異なる複数の方位特性を含む複数の地震動諸特性パラメータであるとき、当該複数の地震動諸特性パラメータに基づいて予測部411にて予測された各方位における複数の地震動指標の予測値を、出力媒体における基準点からの距離として表すとともに、複数の方位特性を、基準点を中心とする各方位に割り当てることにより、複数の地震動指標を出力媒体に出力する。
【0081】
さらに、出力処理部412は、受付部410にて受け付けられた予測対象の地震動諸特性パラメータが、異なる震源距離を含む複数の地震動諸特性パラメータであるとき、当該複数の地震動諸特性パラメータに基づいて予測部411にて予測された複数の地震動指標の予測値を距離減衰特性として表すことにより、複数の地震動指標を出力媒体に出力する。
【0082】
以上のように、本実施形態に係る地震動評価モデル提供装置3及び地震動評価モデル提供方法によれば、地震が発生する度に得られる新たな観測データやシミュレーション結果等に対して所定の前処理を施した上でそれらを採用することによりデータベース10を随時更新しつつ、当該データベース10から新たな学習用データを取得して地震動評価モデル13の更新案130を随時生成し、所定の検証処理により有効性が認められた場合に、当該更新案130により震動評価モデル13の最新版131を更新し、外部に提供する。したがって、地震動評価モデル13は、新たなデータが得られる度に随時自動生成、検証、高度化されて外部に提供されるので、ビッグデータを地震動の評価・予測に有効活用することができる。
【0083】
また、本実施形態に係る地震動評価装置4及び地震動評価方法によれば、地震動評価モデル提供装置3及び地震動評価モデル生成方法により随時提供された地震動評価モデル13を利用することにより、個々の専門家の経験に依存することなく、将来発生すると考えられる地震による地震動の特性を高精度で評価・予測することができる。
【0084】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0085】
例えば、上記実施形態では、地震動評価モデル提供装置3が、関東地方一都六県に設置された観測点138地点の観測データを用いて地震動評価モデル13を生成し、地震動評価装置4が、その地震動評価モデル13を用いて関東地方における地震動を評価・予測するものとして説明したが、地震動評価モデル13の対象となる地域はこれに限られず、また、対象となる地域の範囲や形状も任意に変更してもよい。さらに、地震動評価モデル13は、地域を対象とするだけでなく、観測点を対象としてもよいし、複数の観測点が所定の分類基準に従ってグループ化された観測点グループを対象としてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、学習用データ12を構成する特徴量は、図4に示す25種類の地震動諸特性パラメータのうち6種類の地震動諸特性パラメータが選定されたものとして説明したが、25種類の地震動諸特性パラメータから任意の地震動諸特性パラメータを特徴量として選定して組み合わせてもよいし、25種類の地震動諸特性パラメータ以外の他の地震動諸特性パラメータを特徴量としてさらに組み合わせてもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、地震動評価モデル提供プログラム300及び地震動評価プログラム400は、記憶部30、40にそれぞれ記憶されたものとして説明したが、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、DVD、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、地震動評価モデル提供プログラム300及び地震動評価プログラム400は、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1…地震動評価システム、
2A…観測データ提供装置、2B…解析データ提供装置、
2C…地下構造データ提供装置、2D…地震動シミュレーションデータ提供装置、
3…地震動評価モデル提供装置、4…地震動評価装置、5…ネットワーク、
10…データベース、11、11A、11B…地震動データ
12…学習用データ、13、13A~13K…地震動評価モデル、
14A…第1の時刻歴波形評価モデル、14B…第2の時刻歴波形評価モデル
14C…第3の時刻歴波形評価モデル
30…記憶部、31…制御部、32…通信部、33…入力部、34…表示部、
40…記憶部、41…制御部、42…通信部、43…入力部、44…表示部、
130…更新案、131…最新版、
300…地震動評価モデル提供プログラム、
310…データベース更新部、311…機械学習部、312…モデル更新部、
400…地震動評価プログラム、
410…受付部、411…予測部、412…出力処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7