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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】トナー用粉砕装置及びトナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
G03G9/08 381
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020172858
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022064233
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 陽介
(72)【発明者】
【氏名】岡村 竜次
(72)【発明者】
【氏名】溝尾 祐一
(72)【発明者】
【氏名】中江 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 光司
(72)【発明者】
【氏名】正田 隆博
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-86023(JP,A)
【文献】特開2020-134662(JP,A)
【文献】特開2002-221828(JP,A)
【文献】米国特許第4562972(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被粉砕物を装置内に供給するための粉体供給口、内周面に複数の凸部と凹部とを有する固定子、中心回転軸に取り付けられ、外周面に複数の凸部と凹部とを有する回転子、および粉砕された粉体を装置から排出するための粉体排出口を有し、該固定子は該回転子を内包しており、該固定子の表面と該回転子の表面とが所定の間隙を有して対向するように、該回転子は配置され、該間隙において、被粉砕物の粉砕が行われ、該粉体供給口が該中心回転軸の一方の端部側に設けられており、該粉体排出口が該中心回転軸の他方の端部側に設けられているトナー用粉砕装置であって、
該固定子の温度を測定する温度測定手段を複数有することを特徴とするトナー用粉砕装置。
【請求項2】
前記温度測定手段の測定箇所が円周方向にわたって8点以上である請求項1に記載のトナー用粉砕装置。
【請求項3】
前記温度測定手段の測定箇所が、前記中心回転軸を該中心回転軸の軸方向に関して2分割して得られる2つの領域の内の前記粉体排出口に近い方の領域内である請求項1または2に記載のトナー用粉砕装置。
【請求項4】
前記温度測定手段の測定箇所が、周方向に等間隔に配置されている請求項1または2に記載のトナー用粉砕装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のトナー用粉砕装置を用いるトナーの製造方法であって、
前記温度測定手段を用いて前記固定子の温度を測定しながら粉砕を行い、前記固定子の温度のいずれもが所定の温度よりも低い状態が維持されるように、前記トナー用粉砕装置を制御することを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項6】
前記所定の温度が、前記被粉砕物のガラス転移温度(Tg)-10℃である請求項5に記載のトナーの製造方法。
【請求項7】
前記制御が、前記トナー用粉砕装置へ供給する前記被粉砕物の供給量を変更することである請求項6に記載のトナーの製造方法。
【請求項8】
前記制御が、前記トナー用粉砕装置へ供給する前記被粉砕物の体積平均粒径を変更することである請求項6に記載のトナーの製造方法。
【請求項9】
前記トナー用粉砕装置が、
前記粉体供給口に接続され、内部を気流が流れる配管と、
該配管における該粉体供給口より上流側に、該配管内に前記被粉砕物を投入するための粉体投入口と、をさらに有し、
該粉体投入口から投入された該被粉砕物は該気流によって前記間隙に運ばれて、粉砕されるものであって、
前記制御が、該粉体投入口から該気流への該被粉砕物の投入角度を変更することである請求項6に記載のトナーの製造方法。
【請求項10】
前記トナー用粉砕装置が、少なくとも第1の粉体供給口と第2の粉体供給口とを有し、
前記制御が、該第1の粉体供給口から供給される前記被粉砕物の供給量と、該第2の粉体供給口から供給される前記被粉砕物の供給量との割合を変更することである請求項6に記載のトナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式、静電記録方式、静電印刷方式、トナージェット方式に用いられるトナー用粉砕装置及びトナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式のフルカラー複写機が広く普及し、印刷市場への適用も始まっている。印刷市場では、幅広いメディア(紙種)に対応しながら、さらなる高画質化が要求されるようになっており、高画質化への対応としてトナーの小粒径化が進んでいる。トナー製造方法という観点からみると、いわゆる重合トナーが小粒径化には向いており、製造方法として採用例が多い。一方、溶融混練、粉砕工程を経て製造されるトナーは、小粒径化が難しいが顔料分散性が良いというメリットがある。顔料の高分散性を維持した状態で粒径を下げたトナーが理想的と考えられるが、粉砕工程に課題が多くあった。
【0003】
機械式粉砕においては、被粉砕物に対し主に高速で回転する回転子によって衝撃を加えることで粉砕していく。その際、被粉砕物の温度が上昇し被粉砕物が溶け、回転子および固定子に固着(以下、融着)する場合があった。小粒径を狙った場合など、高負荷での運転を行うと特に発生しやすかった。融着が悪化すると、回転子の粉砕面の減少による粉砕効率の低下や、回転子の過負荷などで粉砕装置が停止してしまうことがあり、課題のひとつとなっていた。
【0004】
融着は少しでも発生するとそれを核とし成長しやすいと推定されており、回転子の冷却など、融着を起こさない工夫が行われてきた。従来、融着の発生具合は粉砕装置からの出口温度の上昇(特許文献1)、または機内温度の上昇(特許文献2)などで予測していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-103067号公報
【文献】特開平8-207045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2に開示の予測方式では問題がないとされる場合でも、粉砕終了後に回転子および固定子を調べてみると、一部の固定子に偏って融着が発生する傾向がみられた。つまり従来の融着予測方式では、部分的な融着(一部の固定子の融着)の検知までは対応できておらず、融着拡大のリスクを抱えている状況にあった。
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであり、トナー用粉砕装置内における部分的な融着も検知し、トナーの製造の生産性を向上させることを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、
被粉砕物を装置内に供給するための粉体供給口、内周面に複数の凸部と凹部とを有する固定子、中心回転軸に取り付けられ、外周面に複数の凸部と凹部とを有する回転子、および粉砕された粉体を装置から排出するための粉体排出口を有し、該固定子は該回転子を内包しており、該固定子の表面と該回転子の表面とが所定の間隙を有して対向するように、該回転子は配置され、該間隙において、被粉砕物の粉砕が行われ、該粉体供給口が該中心回転軸の一方の端部側に設けられており、該粉体排出口が該中心回転軸の他方の端部側に設けられているトナー用粉砕装置であって、
該固定子の温度を測定する温度測定手段を複数有するトナー用粉砕装置が提供される。
【0008】
また、本発明の他の態様によれば、
前記トナー用粉砕装置を用いるトナーの製造方法であって、
前記温度測定手段を用いて前記固定子の温度を測定しながら粉砕を行い、測定の対象である前記固定子の温度のいずれもが所定の温度よりも低い状態が維持されるように、前記トナー用粉砕装置を制御するトナーの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トナー用粉砕装置の内部における部分的な融着を検知可能とし、さらに生産性の高いトナーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来の機械式粉砕装置の概略断面図である。
図2】粉体投入口から気流への被粉砕物の投入角度を変えることができる粉砕装置の概略図である。
図3】被粉砕物を回転子と固定子との間に加速噴射し供給する粉砕装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、部分的な融着発生リスク予測手法の改善を実施してきた。その結果、固定子の温度を複数点にわたって測定する機構を粉砕装置に持たせることで、部分的な融着を含め融着発生をより高精度に予測することに成功した。さらに運転にフィードバックすることで融着発生リスクを抑え、生産性の向上を可能とした。
【0012】
以下に本発明に係るトナー用粉砕装置およびトナーの製造方法の実施の形態を、図面を参照して例示的に詳述する。ただし、本発明の範囲は以下の実施の形態に限定されない。
まず、図1に基づいて、本発明に係るトナー用粉砕装置(機械式粉砕機)を用いた粉砕方法の概略を、説明する。図1では、横型の一般的な機械式粉砕装置の概略断面図を示しているが、縦型であっても良い。
図1に示す粉砕装置は、冷却水供給口109、冷却水排出口110を有し、ジャケット内に冷却水を流すことができる。粉砕装置は、回転子103と、固定子104と、粉体供給口101と、粉体排出口106とをさらに有する。
被粉砕物は、冷風発生装置108によって発生される冷風と共に、粉体供給口101から装置内の粉砕処理室に供給される。
粉砕処理室は内周面に多数の溝(固定子104)を有する。多数の溝は、複数の凸部及び凹部の一例である。
回転子103は、中心回転軸107に取り付けられ、高速回転する。回転子103も、外周面に多数の溝を有する。かかる多数の溝も、複数の凸部及び凹部の一例である。
粉砕された粉体は粉体排出口106から排出される。
固定子104は回転子103を内包しており、固定子104の表面と回転子103の表面とが所定の間隙を保持して対向するように、回転子103は配置され、該間隙において、被粉砕物の粉砕が行われる。
粉体供給口101が中心回転軸107の一方の端部側に設けられており、粉体排出口106が中心回転軸107の他方の端部側に設けられている。
固定子104は、粉砕機の外装に対して固定子固定用ボルト1111~1114によって固定されている。固定子固定用ボルトの数は粉砕機の大きさによって増減する。
固定子固定用ボルト1111~1114のそれぞれの位置は図1に示すとおりである。供給口から排出口に向かって1111~1114になる。
【0013】
前記の粉砕機では、図示しない定量供給機から粉体供給口101を経て所定量の粉体原料(被粉砕物)が投入されると、投入された粉体原料(被粉砕物)は粉砕処理室内に導入される。該粉砕処理室内では高速回転する回転子103と固定子104との間に発生する衝撃と、この背後に生じる多数の超高速渦流と、多数の超高速渦流によって発生する高周波の圧力振動とによって瞬間的に粉砕される。粉体原料は粉砕され後、粉体排出口106を通り、排出される。粒子を搬送しているエアー(空気)は粉砕処理室を経由し、粉体排出口106を通って装置システムの系外に排出される。粉体排出口106には温度計が設置されている場合もあり、その際は排気温度を測定できる。本発明においては、この様にして粉砕処理を行うことができる。
【0014】
このような機械式粉砕機としては、以下のものが挙げられる。イノマイザー(ホソカワミクロン(株)製)、クリプトリン(川崎重工業(株)製)、スーパーローター(日清エンジニアリング(株)製)、ターボミル(ターボ工業社製)、トルネードミル(日機装(株)製)など。これらをそのまま、あるいは適宜改造して用いることができる。
粉砕法によるトナーの製造方法においては、粒径2mm程度にする粗粉砕工程と、所望の粒径にする微粉砕工程との間に中粉砕工程を入れても良い。本発明の粉砕プロセスはこの中粉砕工程であっても良いし、微粉砕工程であっても良い。また本発明の粉砕プロセスを直列または並列に2段以上連結して粉砕しても良い。
【0015】
本発明では、以上のような粉砕装置に複数の温度測定手段を追加し、温度測定手段を複数有するものとすることが重要となる。温度測定手段は固定子の温度をできるだけ直接的に測定する形で配置されていることが好ましい。本発明者らの検討の結果、融着が発生する際には固定子の温度が上昇し、温度が上昇する固定子の位置にも偏りが生じることがわかってきた。そこで複数の固定子の温度を測定することで、固定子の部分的な温度上昇を検知することを可能とした。部分的な温度上昇のメカニズムは現状明らかになっていないが、本発明者らは以下のように推定している。
【0016】
図1のような粉砕装置では、入口と出口が1か所ずつ配置されているため、被粗粉砕物の流れにある程度の偏りが生じていると考えられる。すなわち、粉が密集して流れている箇所は温度上昇しやすく、粉が密集して流れていない箇所は温度上昇しにくいと思われる。これを平均化すると排気温度になるが、装置内には温度の高いところと低いところとが生じている。これによって固定子の部分的な温度上昇が発生していると推定している。
【0017】
部分的な融着を検知するためには、温度上昇の大きい箇所を局所的にモニターする必要がある。温度測定箇所は、複数存在することが必要だが、円周方向にわたって4点以上あることが好ましく、8点以上がより好ましい。これにより局所的な温度上昇を細かく検知することが可能となる。
【0018】
また融着は粉体出口側で発生しやすいため、温度測定手段の測定箇所は、中心回転軸を中心回転軸の軸方向に関して2分割して得られる2つの領域の内の前記粉体排出口に近い方の領域内であることが好ましい。
温度測定手段の測定箇所は、3/4以上出口側に位置する領域内であることがより好ましい。
図1に示す長さ「L/4」の4つの領域の内の最も粉体排出口に近い領域内の固定子1114は、「3/4以上出口側に位置する領域内」の固定子に該当する。
また、温度測定手段の測定箇所は、周方向に等間隔に配置されていることが好ましい。
【0019】
<トナー微粒子の製造方法>
本発明に係る製造方法および製造装置を用いて、トナー微粒子を製造する手順について説明する。
まず、原料混合工程では、トナー内添剤として、少なくとも結着樹脂、着色剤を所定量秤量して配合し、混合する。必要に応じて、トナーの加熱定着時にホットオフセットの発生を抑制する離型剤、離型剤を分散させる分散剤、帯電制御剤などを混合してもよい。混合装置の一例としては、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー等がある。
【0020】
更に、上記で配合し、混合したトナー原料を溶融混練して、樹脂類を溶融し、その中の着色剤等を分散させる。該溶融混練工程では、例えば、加圧ニーダー、バンバリィミキサー等のバッチ式練り機や、連続式の練り機を用いることができる。近年では、連続生産できる等の優位性から、1軸または2軸押出機が主流となっており、例えば、(株)神戸製鋼所製KTK型2軸押出機、東芝機械(株)製TEM型2軸押出機、ケイ・シー・ケイ社製2軸押出機、ブス社製コ・ニーダー等が一般的に使用される。更に、トナー原料を溶融混練することによって得られる着色樹脂組成物は、溶融混練後、2本ロール等で圧延され、水冷等で冷却する冷却工程を経て冷却される。
【0021】
上記で得られた着色樹脂組成物の冷却物は、次いで、粉砕工程で所望の粒径にまで粉砕される。粉砕工程では、まず、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミル等で粗粉砕される。更に、イノマイザー(ホソカワミクロン(株)製)、クリプトロン(川崎重工業(株)製)、スーパーローター(日清エンジニアリング(株)製)、ターボミル(ターボ工業社製)等の機械式粉砕機で微粉砕される。粉砕工程では、このように段階的に所定のトナー粒度まで粉砕される。
【0022】
本発明に係る粉砕装置を用いて部分融着を抑制する粉砕方法について記述する。
固定子の温度が上昇すると粉砕物が付着した際に溶けて融着につながると推測される。本発明に係る粉砕装置を用いることで部分的な温度上昇を計測でき、精度の向上を図ることができる。
さらに本発明者らは、固定子の温度が被粉砕物のガラス転移点-10℃より高くなると(ガラス転移点が55℃の場合は、固定子の温度が45℃以上になると)、融着が発生しやすくなることを突き止めた。そのため、複数ある固定子の温度のいずれもが被粉砕物のガラス転移点(Tg)-10℃よりも低い状態が維持されるように、トナー用粉砕装置を制御することで融着を抑制しながらロングラン生産を行うことができる。被粉砕物のガラス転移点-10℃以下を保つための手段は特に限定されないが、原料供給量を下げるなどの対応が好ましい。原料供給量を下げることで、上がっていた測定温度を下げることができる。これは粉砕機内の粉量が減ることで、粉砕に必要な力が少なくてすみ、その結果、粉砕時に発生する熱の発生が抑えられるためと推測される。
【0023】
原料供給量を下げることで生産性は低くなる。例えば原料供給量を1時間あたり300kgの条件で粉砕する場合を考える。複数ある固定子のうち被粉砕物のガラス転移点-10℃になった測定点が出た場合、融着リスクが高まるため、例えば供給量を1時間あたり200kgに減らす処置を行う。粉砕機内の被粉砕物量が減るため、上がっていた部分の温度は低下してくる。これにより融着を回避できたことになる。その後ある温度まで下がったことを確認し、供給量を300kg/hに戻す。このサイクルを10時間行った場合、1時間当たりの供給量は300kgより減ってしまう。しかし、300kg/hのまま粉砕を継続すると、融着が発生し、融着除去のためにメンテナンスを行う時間がより多く発生してしまう。よって、融着発生による粉砕性の低下や融着を除去するためのメンテナンスの時間がなくなることを考えると、総合的には生産性は向上する。
【0024】
融着の指標を被粉砕物のガラス転移点(Tg)-10℃とする場合、被粉砕物のTgが変わると、この点も変わってくる。
被粉砕物のTgが低い場合、融着発生温度も低くなる。そのためより早く融着回避の対処が必要となる。しかし、Tgが低い被粉砕物の場合は、小さいエネルギーで粉砕することができるため、同じ粒径の被粉砕物を得るために供給量を増やすことが可能となる。
逆に被粉砕物のTgが高い場合、融着発生温度は高くなり、融着しにくくなる。しかし、粉砕に大きなエネルギーを必要とするため、同じ粒径の被粉砕物を得るために供給量を減らすことになる。これらによって同じ粒径の被粉砕物を得る場合の生産性を比較すると、同じ程度になる場合がある。
【0025】
また、粉砕機内における粗粉砕物の量の偏りをずらすことで、粉砕箇所をずらし、固定子の局所的な温度上昇をずらすことが可能となる。これにより原料供給量を下げなくとも融着なく粉砕を継続することができる。粉砕箇所をずらす方法に関して特に限定はされないが、被粉砕物の粒径を変える手法、または固定子と回転子の間にインジェクションで投入する投入位置を変更する手法などがある。
【0026】
本発明者らの検討により、粗粉砕物の粒径が変わると、温度上昇箇所が変わることを見出した。これは粉砕装置内の粗粉砕物の流れが変わったためと推察している。よって、供給する粗粉砕物の粒径を意図的に変化させることによって粉砕箇所をずらすことが可能となる。変化については特に限定されないが、通常、供給する粗粉砕物の体積平均粒径を、50μm以上70μm以下から、90μm以上110μm以下に変更することが好ましい。粉砕装置内の粗粉砕物の流れが変わることで温度上昇していた箇所の温度が下がる。一方で異なる箇所の温度が上昇する。その際は、温度が上昇した箇所の固定子の温度が被粉砕物のガラス転移点-10℃以下になるよう再度、体積平均粒径を50μm以上70μm以下に戻して粉砕を継続する。これにより融着リスクを抑え、さらに被粉砕物の供給量を下げることなく粉砕を継続することが可能となる。被粉砕物の粒径を変える手法に関しては特に限定されないが、機械式粗粉砕装置を使用する場合、回転数を変えるなどの手法が好ましい。
【0027】
また本発明者らの検討の結果、粉体投入口から気流への、被粉砕物の投入角度を変化させることにより、粉砕処理室内での被粉砕物の軌道を変化させることができることも見出された。
図2に、粉体投入口から気流への被粉砕物の投入角度を変えることができる粉砕装置の構成の一例を示す。「気流の方向(以下、気流方向とも記載する。)」は、粉体投入口に流し込まれる気流が流れてくる配管201の長軸の方向と一致する。また、「投入の方向(以下、投入方向とも記載する。)」は、投入される粗砕物が流れてくる粉体投入管205の長軸の方向と一致する。
被粉砕物の粒径を変えた上記の場合と同様に、前記気流方向と前記投入方向との角度を変えることによって、粉砕箇所をずらすことが可能となる。
前記角度については特に限定されないが、30°以上60°以下の第1の角度と120°以上150°以下の第2の角度とを切り替えることが好ましい。この場合大きく流路が変更され、温度上昇箇所を変えて粉砕を継続できる。
【0028】
また図1のような粉砕装置の被粉砕物供給方式を変更し、被粉砕物を図3のように回転子103と固定子104との間に加速噴射し供給することで粉砕箇所を変更することもできる。
被粉砕物の加速噴射時の速度は10m/s以上50m/s以下であることが好ましい。加速噴射速度がこの範囲にあるとき、被粉砕物成分を粉砕し所定の粒径を得つつ、流路変更の効果も得られる。
【0029】
供給箇所(粉体供給口)は、装置の中心軸を挟む形で2か所以上あることが好ましい。供給箇所(粉体供給口)が装置の中心軸を中心とする円の円周上に等間隔で配置されることが好ましい。
ある粉体供給口から粉体を供給していて、その粉体供給口に近い固定子の局所的な温度上昇を検知した場合、供給中の粉体供給口からの供給量を減らし、減らした分を他の粉体供給口から供給することで温度上昇を別の箇所へずらすことができる。
【0030】
<トナーの原料>
次に、本発明で使用する結着樹脂及び着色剤を少なくとも含むトナー微粒子の原材料について説明する。
【0031】
<結着樹脂>
電子写真に用いられるトナーに用いられる結着樹脂としては、一般的な樹脂を用いることができ、以下のものが例示できる。ポリエステル樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など。この中でも、低温定着性を良好にするという観点から非晶性ポリエステル樹脂が用いられ、低温定着性と耐ホットオフセット性とを両立させるという観点から、低分子量ポリエステルと高分子量ポリエステルとを併用することが知られている。また、さらなる低温定着性の向上と保管時の耐ブロッキング性の向上とを図るという観点から結晶性ポリエステルを可塑剤として用いることもある。
【0032】
<着色剤>
トナーに含有できる着色剤としては、以下のものが挙げられる。
該着色剤としては、公知の有機顔料若しくは油性染料、カーボンブラック、又は磁性体などが挙げられる。
【0033】
シアン系着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物などが挙げられる。
【0034】
マゼンタ系着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物などが挙げられる。
【0035】
イエロー系着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物などが挙げられる。
黒色系着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、又は、前記イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤、及びシアン着色剤を用い黒色に調色されたものが挙げられる。
該着色剤は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0036】
<離型剤>
必要に応じて、トナーの加熱定着時にホットオフセットの発生を抑制する離型剤を用いてもよい。該離型剤としては、低分子量ポリオレフィン類、シリコーンワックス、脂肪酸アミド類、エステルワックス類、カルナバワックス、炭化水素系ワックスなどが一般的に例示できる
トナー及び原材料の各種物性の測定法について以下に説明する。
【0037】
<固定子の温度測定手法>
固定子の温度測定手法は、固定子自体の温度を測定できれば特に限定されないが、固定子をとめるボルトを穴あきのボルト(貫通穴付きボルト)に変更し、そのボルトの穴から温度測定部を挿入し測定することが好ましい。これにより現状の装置構成を大きく変えることなく、固定子の直下まで測定部位を差し込むことが可能となる。温度計は特に限定されないが、貫通穴付きボルトの貫通穴に入りやすく精度の高い熱電対方式が好ましい。
【0038】
<トナー粒子および微粉砕物の重量平均粒径(D4)の測定方法>
トナー粒子の重量平均粒径(D4)は、下記の精密粒度分布測定装置と、下記の専用ソフトとを用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。
・50μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター(株)製)
・測定条件の設定及び測定データの解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター(株)製)
【0039】
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター(株)製)が使用できる。
なお、測定、解析を行う前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行う。
【0040】
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター(株)製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を1μm以上30μm以下に設定する。
具体的な測定法は以下の通りである。
【0041】
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、解析ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに前記電解水溶液約30mLを入れ、この中に分散剤として下記の希釈液を約0.3mL加える。
・「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業(株)製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液
【0042】
(3)下記の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2mL添加する。
・発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス(株)製)の水槽
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
【0043】
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記(5)の電解質水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。なお、専用ソフトで「グラフ/体積%」と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【0044】
<粗粉砕粒子の粒度分布の測定方法>
粗粉砕物の粒度分布の測定として、粒度分布測定装置LA-950V2((株)堀場製作所製)を用いた。この装置はレーザー散乱法を用いて、0.01μm~3000μmまでの粒径が測定可能である。この装置を用いて湿式測定により粗粉砕物の粒径を測定した。湿式測定の方法としては水媒体に粗粉砕物を交ぜ、上記コールターカウンター同様に分散剤として「コンタミノンN」を用いて超音波分散させたものを装置内に導入させた。
試料(粗粉砕物)の屈折率の値として1.53、分散媒の屈折率の値として1.33を用いて測定を行った。
【0045】
<トナー粒子の個数平均粒径(D1)の測定方法>
トナー粒子の重量平均粒径(D4)の測定方法の(7)の工程において、専用ソフトで「グラフ/個数%」と設定したときの、分析/個数統計値(算術平均)画面の「平均径」が個数平均粒径(D1)である。
【0046】
<加速噴射速度の算出>
加速噴射の速度は、以下の式1から算出を行った。体積流量は流量計で測定を行うことで得られる値を使用する。

(速度)=(体積流量)/(管の有効断面積) (式1)
【0047】
<非晶性樹脂及びトナーのガラス転移温度(Tg)の測定>
非晶性樹脂及びトナーのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析装置「Q2000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418-82に準じて測定する。
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
【0048】
具体的には、非晶性樹脂又はトナー 約3mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用いて、以下の条件で測定する。
昇温速度:10℃/min
測定開始温度:30℃
測定終了温度:180℃
【0049】
測定範囲30℃~180℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。一度180℃まで昇温して10分間保持し、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この2度目の昇温過程で、温度30℃~100℃の範囲において比熱変化が得られる。このときの比熱変化が出る前のベースラインを延長した直線と比熱変化が出た後のベースラインを延長した直線とから縦軸方向に等距離にある直線と示差熱曲線との交点の温度(いわゆる、中間点ガラス転移温度)を、樹脂のガラス転移温度(Tg)とする。
【実施例
【0050】
以下の実施例において、部数は質量部基準である。

<非晶性ポリエステル樹脂L1の製造例>
・ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン:72.0質量部(0.20モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・テレフタル酸:
28.0質量部(0.17モル;多価カルボン酸総モル数に対して100.0mol%)
・2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒):0.5質量部
冷却管、攪拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。次にフラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、200℃の温度で撹拌しつつ、4時間反応させた。
さらに、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、1時間維持した後、180℃まで冷却し、大気圧に戻した。
【0051】
・無水トリメリット酸:
3質量部(0.01モル;多価カルボン酸総モル数に対して4.0mol%)
・tert-ブチルカテコール(重合禁止剤):0.1質量部
その後、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度180℃に維持したまま、1時間反応させた。そして、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が90℃に達したことを確認してから温度を下げて反応を止め、非晶性ポリエステル樹脂L1を得た。Tgは54℃であった。
【0052】
<非晶性ポリエステル樹脂L2の製造例>
1回目の反応時間を3.5時間に変更した以外は、非晶性ポリエステル樹脂L1と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂L2を製造した。Tgは52℃であった。
【0053】
<非晶性ポリエステル樹脂L3の製造例>
1回目の反応時間を4.5時間に変更した以外は、非晶性ポリエステル樹脂L1と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂L3を製造した。Tgは56℃であった。
【0054】
<非晶性ポリエステル樹脂H1の製造例>
・ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン:72.3質量部(0.20モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・テレフタル酸:
18.3質量部(0.11モル;多価カルボン酸総モル数に対して65.0mol%)
・フマル酸:
2.9質量部(0.03モル;多価カルボン酸総モル数に対して15.0mol%)
・2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒):0.5質量部
冷却管、攪拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。次にフラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、200℃の温度で撹拌しつつ、2時間反応させた。
さらに、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、1時間維持した後、180まで冷却し、大気圧に戻した。
【0055】
・無水トリメリット酸:
6.5質量部(0.03モル;多価カルボン酸総モル数に対して20.0mol%)
・tert-ブチルカテコール(重合禁止剤):0.1質量部
その後、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度160℃に維持したまま、15時間反応させた。そして、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が137℃に達したのを確認してから温度を下げて反応を止め、非晶性ポリエステル樹脂H1を得た。Tgは60℃であった。
【0056】
<非晶性ポリエステル樹脂H2の製造例>
2回目の反応時間を14時間に変更し、到達軟化点を134℃に変更した以外は、非晶性ポリエステル樹脂H1と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂H2を製造した。Tgは57℃であった。
【0057】
<非晶性ポリエステル樹脂H3の製造例>
2回目の反応時間を16時間に変更し、到達軟化点を140℃に変更した以外は、非晶性ポリエステル樹脂H1と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂H3を製造した。Tgは63℃であった。
【0058】
<結晶性ポリエステル樹脂>
・1,6-ヘキサンジオール:
34.5質量部(0.29モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・ドデカン二酸:
65.5質量部(0.28モル;多価カルボン酸総モル数に対して100.0mol%)
・2-エチルヘキサン酸錫(II):0.5質量部
冷却管、攪拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。フラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、140℃の温度で撹拌しつつ、3時間反応させた。
次に、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度200℃に維持したまま、4時間反応させた。
さらに、反応槽内の圧力を序々に開放して常圧へ戻した。その後、脂肪族モノカルボン酸及び脂肪族モノアルコールからなる群より選ばれた1種以上の脂肪族化合物を、原料モノマー100.0mol%に対し7.0mol%加え、常圧下にて200℃で2時間反応させた。
その後、再び反応槽内を5kPa以下へ減圧して200℃で3時間反応させることにより、結晶性ポリエステル樹脂を得た。
【0059】
<トナー1の製造例>
・非晶性ポリエステル樹脂L1 70質量部
・非晶性ポリエステル樹脂H1 30質量部
・結晶性ポリエステル樹脂 2質量部
・フィッシャートロプシュワックス(炭化水素ワックス、最大吸熱ピークのピーク温度90℃) 8質量部
・C.I.ピグメントブルー15:3 7質量部
【0060】
上記材料をヘンシェルミキサー(FM-75型、三井鉱山(株)製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5minで混合した後、二軸混練機(PCM-30型、(株)池貝製)にて混練した。混練時のバレル温度は、混練物の出口温度が120℃になるよう設定した。混練物の出口温度は、安立計器(株)製ハンディタイプ温度計HA-200Eを用いて直接計測した。得られた混練物を冷却し、ピンミルにて体積平均粒径100μm以下に粗粉砕し、被粗粉砕物を得た。被粗粉砕物のTgは57℃であった。
【0061】
<トナー2の製造例>
・非晶性ポリエステル樹脂L2 80質量部
・非晶性ポリエステル樹脂H2 20質量部
上記のように、非晶性ポリエステル樹脂の種類と含有量を変更した以外は、トナー1の製造例と同様にして、トナー2の製造を行った。被粗粉砕物のTgは53℃であった。
【0062】
<トナー3の製造例>
・非晶性ポリエステル樹脂L3 60質量部
・非晶性ポリエステル樹脂H3 40質量部
上記のように、非晶性ポリエステル樹脂の種類と含有量を変更した以外は、トナー1の製造例と同様にして、トナー3の製造を行った。被粗粉砕物のTgは61℃であった。
【0063】
<製造装置1>
図1に示す粉砕機(ターボ工業社製ターボミルT800改造機、RS型)を以下の通り改造した。
粉砕装置の粉体排出口106に近い位置に設けられた固定子を固定する24個の固定子固定用ボルト1114を貫通穴付きボルトに変更し、貫通穴すべてに不図示の熱電対を挿入した。熱電対(不図示)は、熱電対の先端が貫通穴の回転子側の端部からはみ出さない状態で、貫通穴先端に接触させることで、熱電対が粉砕が行われる空間内に入らないようにしつつ、固定子の温度を測定できるようにした。24個の熱電対は、固定子固定用ボルト1114の位置に周方向等間隔に配置した。粉砕処理が行われる空間に
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
粉砕機は、メンテナンスの際などに円筒状の粉砕処理室の上半分を下半分から取り外すことができる。取り外し可能な上半分を蓋側、蓋が取り外されても設置された状態を維持している下半分を本体側と呼称する。
表2の「本体側 1」、「本体側 2」、「本体側 3」・・・は、円周方向に36等分割した本体側内周面の各位置を意味する。
表2の「蓋側 37」、「蓋側 38」、「蓋側 39」・・・は、円周方向に36等分割した蓋側内周面の各位置を意味する。
【0064】
<製造装置2>
図3に示すように粉砕機(ターボ工業社製ターボミルT800改造機、RS型)を改造した。具体的には粉砕装置上下に開けた穴(301、302)からインジェクションを用いて被粉砕物を噴射して粉砕処理室内に供給できるようにした。温度測定に関しては製造装置1と同様にした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0065】
<製造装置3>
図2に示すように粉砕機(ターボ工業社製ターボミルT800改造機、RS型)を改造した。具体的には粉体供給口101に、内部を気流が流れる配管201が接続されている。そして、配管201における粉体供給口101より上流側に、配管内に被粉砕物を投入するための粉体投入口202を設けられている。被粉砕物を含む気流は粉体供給口101から装置内に取り込まれ、気流を維持したまま固定子104の表面と回転子103の表面との間隙に到達して、被粉砕物の粉砕が行われる。配管201に対する粉体投入管205の角度203を20°から160°まで変化させることができるように改造した。配管201に対する粉体投入管205の角度203を変化させることによって粉体投入口202から気流への被粉砕物の投入角度を変更することができる。
温度測定に関しては製造装置1と同様にした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0066】
<製造装置4>
温度測定を粉砕機(ターボ工業社製ターボミルT800改造機、RS型)の蓋側のみに配置した。蓋側の内周面を円周方向に36等分割した各位置の中央から左右に間隔を空けずに12個ずつ(合計24個)を配置した。それ以外は製造装置1と同じ構成とした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0067】
<製造装置5>
温度測定を粉砕機(ターボ工業社製ターボミルT800改造機、RS型)の本体側のみに配置した。本体側の内周面を円周方向に36等分割した各位置の中央から左右に間隔を空けずに12個ずつ(合計24個)を配置した。それ以外は製造装置1と同じ構成とした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0068】
<製造装置6>
温度測定位置を、図1に示す固定子固定用ボルト1113の位置とした。それ以外は製造装置1と同じ構成とした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0069】
<製造装置7>
温度測定位置を、図1に示す固定子固定用ボルト1112の位置とした。それ以外は製造装置1と同じ構成とした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0070】
<製造装置8>
温度測定点の数を12点とした以外は、製造装置1と同じ構成とした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0071】
<製造装置9>
温度測定点の数を6点とした以外は、製造装置1と同じ構成とした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0072】
<製造装置10>
温度測定点の数を2点とした以外は、製造装置1と同じ構成とした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0073】
<製造装置11>
温度測定点の数を1点とした以外は、製造装置1と同じ構成とした。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0074】
<製造装置12>
温度測定点の数を0点とした以外は、製造装置1と同じ構成とした。機内温度は測定されず、粉体排出口106から排出される排気温度のみ測定される。
粉砕機の構成を表1に、温度測定点の位置を表2に示す。表2において黒色に塗られた箇所が温度測定点を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
<トナー製造方法1>
表3に示す各装置を用いる。
粉砕条件は下記のとおりとする。
粉砕機の回転子103と固定子104との間隙の最小値:1.0mm
粉砕機に導入する空気温度:-20℃
吸引ブロワーの流量:25m/min
被粉砕物の供給量:300kg/hr
回転子103の回転数:4000rpm
被粉砕物の粒径(体積平均粒径):60μm
連続で運転し、固定子のいずれか一つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で運転を停止し融着具合を確認する。
【0078】
<トナー製造方法2>
装置2を用いる。加速噴射の条件は、ノズル径21.6mm、圧力0.5MPa、流量0.5L/minで行った。このときの流速は22.7m/sとなった。最初は図3の穴301に配置されたインジェクションを使用し、被粉砕物の供給を行う。
その他はトナー製造方法1と同条件で粉砕を開始する。
その後、固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、穴(粉体供給口)301に配置されたインジェクションからの供給を停止し、穴(粉体供給口)302に配置されたインジェクションからの供給を開始し、運転を継続する。
つまり、穴(粉体供給口)301から供給される被粉砕物の供給量の割合を0%とし、穴(粉体供給口)302から供給される被粉砕物の供給量の割合を100%とする。
被粉砕物を供給するために使用するインジェクションを変更すること以外は同条件で運転を継続する。
その後、固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、穴302に配置されたインジェクションからの供給を停止し、穴301に配置されたインジェクションからの供給を再開する。
つまり、穴(粉体供給口)302から供給される被粉砕物の供給量の割合を0%とし、穴(粉体供給口)301から供給される被粉砕物の供給量の割合を100%とする。
被粉砕物を供給するために使用するインジェクションを変更すること以外は同条件で運転を継続する。
使用するインジェクションの変更を適宜繰り返すこと以外はトナー製造方法1と同条件で粉砕を継続する。
【0079】
<トナー製造方法3>
装置2を用いる。加速噴射の条件は、ノズル径21.6mm、圧力0.5MPa、流量0.5L/minで行った。このときの流速は22.7m/sとなった。最初は図3の穴301に配置されたインジェクションを使用し、被粉砕物の供給を行う。
その他はトナー製造方法1と同条件で粉砕を開始する。
その後、固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、穴(粉体供給口)301に配置されたインジェクションからの供給を停止し、穴(粉体供給口)302に配置されたインジェクションからの供給を開始し、運転を継続する。
つまり、穴(粉体供給口)301から供給される被粉砕物の供給量の割合を10%とし、穴(粉体供給口)302から供給される被粉砕物の供給量の割合を90%とする。
被粉砕物を供給するために使用するインジェクションを変更すること以外は同条件で運転を継続する。
【0080】
その後、固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、穴302に配置されたインジェクションからの供給を停止し、穴301に配置されたインジェクションからの供給を再開する。
つまり、穴(粉体供給口)302から供給される被粉砕物の供給量の割合を10%とし、穴(粉体供給口)301から供給される被粉砕物の供給量の割合を90%とする。
被粉砕物を供給するために使用するインジェクションを変更すること以外は同条件で運転を継続する。
使用するインジェクションの変更を適宜繰り返すこと以外はトナー製造方法1と同条件で粉砕を継続する。
【0081】
<トナー製造方法4>
装置3を用いる。図2に示した角度203を45°に設定し被粉砕物の供給を行う。
その他はトナー製造方法1と同条件で粉砕を開始する。
その後、固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、角度203を135°に変更すること以外は同条件で運転を継続する。
その後、固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、角度203を45°に再度変更すること以外は同条件で運転を継続する。
角度203の変更を適宜繰り返すこと以外はトナー製造方法1と同条件で粉砕を継続する。
【0082】
<トナー製造方法5>
装置1を用いる。
供給する被粉砕物の粒径は体積平均粒径で60μmとする。その他はトナー製造方法1と同条件で粉砕を開始する。
その後、固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、供給する被粉砕物の体積平均粒径を100μmに変更すること以外は同条件で運転を継続する。
その後、固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、供給する被粉砕物の体積平均粒径を60μmに再度変更すること以外は同条件で運転を継続する。
供給する被粉砕物の体積平均粒径の変更を適宜繰り返すこと以外はトナー製造方法1と同条件で粉砕を継続する。
【0083】
<トナー製造方法6>
装置1を用いてトナー製造方法1と同条件で粉砕を開始する。
固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、被粉砕物の供給量を300kg/hから200kg/hに変更すること以外は同条件で運転を継続する。
これにより上がっていた固定子の温度が下降し始める。Tg(℃)まで戻った段階で再度供給量を300kg/hに変更する。これを繰り返し運転する。その他はトナー製造方法1と同条件とする。
【0084】
<トナー製造方法7>
装置1を用いる。
被粉砕物の供給量は330kg/hとする。その他はトナー製造方法1と同条件で粉砕を開始する。
固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で被粉砕物の供給量を200kg/hに変更すること以外は同条件で運転を継続する。
これにより上がっていた固定子の温度が下降し始める。Tg(℃)まで戻った段階で再度供給量を330kg/hに変更する。これを繰り返し運転する。その他はトナー製造方法1と同条件とする。
【0085】
<トナー製造方法8>
装置1を用いる。
被粉砕物の供給量は280kg/hとする。その他はトナー製造方法1と同条件で粉砕を開始する。
固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で被粉砕物の供給量を200kg/hに変更すること以外は同条件で運転を継続する。
これにより上がっていた固定子の温度が下降し始める。Tg(℃)まで戻った段階で再度供給量を280kg/hに変更する。これを繰り返し運転する。その他はトナー製造方法1と同条件とする。
【0086】
<トナー製造方法9>
装置1、装置11又は装置12を用いてトナー製造方法1と同条件で粉砕を開始する。
固定子のいずれか1つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点で、被粉砕物の供給を停止する。
これにより上がっていた固定子の温度が下降し始める。Tg(℃)まで戻った段階で再度供給量を開始する。これを繰り返し運転する。その他はトナー製造方法1と同条件とする。
【0087】
<実施例1>
表3に示すように、製造装置1をトナー製造方法1の条件で運転して、トナー1を粉砕し、融着予測の評価を行った。評価を表3に示す。
<融着予測の評価>
連続で運転し、固定子のどこか一つでも温度が(被粉砕物のTg-10℃)になった時点、または粉体排出口106から排出される粉砕物の粒径が体積平均粒径で5.7μmを超えた時点、で運転を停止した。そして、回転子103及び固定子104のトナーの付着度合い(汚れ)を目視で確認した。粒径の測定は20分に一度行った。
評価ランクは以下とする。
A・・・付着は全体の面積で5%未満でほとんどなく非常に優れている。
B・・・付着は全体の面積で5%以上10%未満で若干認められるが実用上問題のないレベルである。
C・・・付着は全体の面積で10%以上20%未満までで認められるが実用上問題のないレベルである。
D・・・付着は全体の面積で20%以上で実用上問題がある。
【0088】
<実施例2>
表3に示すように、製造装置2をトナー製造方法2の条件で10時間連続で運転して、トナー1を粉砕し、生産性の評価を行った。評価を表3に示す。
<生産性の評価>
10時間連続で運転し、1時間当たり平均の生産量を評価とした。温度に応じて被粉砕物の供給量を変更した場合は生産性が低下し、被粉砕物の供給を止めて対応した場合はさらに生産性が低下した。融着が発生し装置を止めてメンテナンス対応が必要になった場合はさらに生産性が低下した。粉体排出口106から排出される粉砕物の粒径が体積平均粒径で0.2μm以上増えた時点で融着発生と認定し、装置を止めてメンテナンスを行った。粒径の測定は20分に一度行った。また粉砕物は粉体排出出口から粉砕物が排出され始めてから20秒後のものをとっている。

評価ランクは以下とする。
A・・・生産性は300kg/h以上であった。
B・・・生産性は250kg/h以上300kg/h未満であった。
C・・・生産性は200kg/h以上250kg/h未満であった。
D・・・生産性は200kg/h未満であった。
【0089】
<実施例3乃至8、および比較例2、4>
製造装置、製造方法及び製造したトナーを変えた以外は、実施例2と同様にして評価を行った。製造装置等の組み合わせおよび評価結果を表3に示す。
【0090】
<実施例9乃至15、および比較例1、3>
製造装置及び製造方法を変えた以外は、実施例1と同様にして評価を行った。製造装置等の組み合わせおよび評価結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
比較例1で用いた装置11には、温度測定点が1つしかなく、部分的な融着の予測には測定点不足であった。このため温度が測定されていない部分で融着が発生してしまっていた。
比較例2で用いた装置11には、温度測定点が1つしかなく、前記のように、部分的な融着が発生してしまい、粒径変化が認められた。融着除去に時間を要したため生産性が低下した。
比較例3で用いた装置12には、固定子の温度を計測する点がない。よって排気温度が所定の温度になった時点で運転を停止して目視で確認したところ、融着が認められた。
比較例4で用いた装置12には、固定子の温度を計測する点がない。よって前記のように、融着が認められた。融着除去に時間を要したため生産性が低下した。
【符号の説明】
【0093】
101:粉体供給口
102:渦巻室
103:回転子
104:固定子
105:後室
106:粉体排出口
107:中心回転軸
108:冷風発生装置
109:冷却水供給口
110:冷却水排出口
1111:固定子固定用ボルト
1112:固定子固定用ボルト
1113:固定子固定用ボルト
1114:固定子固定用ボルト
201:配管
202:粉体投入口
203:配管と粉体投入管との角度
204:粉体投入口と回転子の中心回転軸の距離
205:粉体投入管
301:穴(粉体供給口)
302:穴(粉体供給口)

図1
図2
図3