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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】頬画像中のシミ分布に基づく肌分類
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61B5/00 101A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020178961
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069977
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】菊地 久美子
(72)【発明者】
【氏名】勝山 雅子
(72)【発明者】
【氏名】小山 恵子
(72)【発明者】
【氏名】二宮 真人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 達也
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-096931(JP,A)
【文献】特開2007-130094(JP,A)
【文献】特開2017-189536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01、5/06-5/22
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者のシミの分布パターンを評価する方法であって、
肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する工程、
該分布に関するパラメータのうちの少なくとも2つを利用してシミの分布パターンをクラスター分析により分布情報として構築する工程
、および
該分布情報を利用して被検者のシミの分布パターンを決定する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記分布に関するパラメータは、シミの数、シミの平均面積、シミの最大面積、シミの総面積、シミの最大面積率、シミの総面積率、及びシミ面積の分散からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肌の画像からシミに関する複数の色パラメータおよび/または正常部分の複数の色パラメータを取得する工程、
該色パラメータのうちの少なくとも1つを利用して色情報を構築する工程、および
前記分布情報と該色情報とを利用して被検者のシミの分布パターンを決定する工程
をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記分布情報および/または色情報を可視化する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
被検者のシミの分布パターンを可視化する工程をさらに含む、請求項1~のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項記載の方法により評価された被検者のシミの分布パターンに基づき、肌の状態を評価する方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項記載の方法により評価された被検者のシミの分布パターンに基づき、適切な化粧料、薬剤もしくは化粧方法を被検者にレコメンデーションを行なう方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項記載の方法により評価された被検者のシミの分布パターンに基づき、化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に提供する方法。
【請求項9】
肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得するパラメータ取得部、
該パラメータのうちの少なくとも2つを利用してシミの分布パターンをクラスター分析によりクラスタリングし、肌分類を生成する肌分類生成部
とを備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置。
【請求項10】
生成された肌分類に基づき、被検者の肌画像からシミの分布パターンを決定する評価部をさらに含む、請求項記載の装置。
【請求項11】
決定されたシミの分布パターンに基づき、肌の状態を評価する肌状態評価部、化粧料、薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行うレコメンデーション部、または化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に提供する安全情報提供部をさらに含む、請求項10記載の装置。
【請求項12】
肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する段階、
該パラメータのうちの少なくとも2つを利用してシミの分布パターンをクラスター分析によりクラスタリングし、肌分類を生成する段階
をコンピュータに実行させる請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を実施するためのプログラム。
【請求項13】
生成された肌分類に基づき、被検者の肌画像からシミの分布パターンを決定する段階をさらに含む、請求項12記載のプログラム。
【請求項14】
決定されたシミの分布パターンに基づき、肌の状態を評価する段階、化粧料、薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行う段階、または化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に提供する段階の少なくとも1つをさらに含む、請求項13記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの肌の分析に関し、より詳細には、頬画像中のシミ分布に基づく肌分類に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ(色素斑)とは、肌に色素が沈着することにより生じ、肌の色素が沈着した部位と沈着していない部位との境界が明瞭である程度に色素が沈着した状態等を指し、主要な色素成分としては、メラニン成分やヘモグロビン成分が挙げられる。
【0003】
シミを分析するために、被検者の顔画像を取得するために用いられる装置が知られている(特許文献1)。このような装置を用いて取得した画像をもとに、皮膚中の成分量を求める手法が知られており、そのような手法を用いて、皮膚中のメラニン成分やヘモグロビン成分等の量を求めることができる(特許文献2および3)。また、一人一人の頬のシミの状態、すなわち、シミが何個生じているか、シミの大きさ・濃さ等については、特許文献4に開示のシミ解析法によって定量できる。しかし、どのようなシミのパターンがあるのかを判定する分類法・分類アルゴリズムは存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案第3171344号
【文献】特許第3727807号
【文献】特許第3798550号
【文献】特許第6138745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
年代別の平均値で出された肌状態の指標と、実際の個人の加齢に伴う変化は必ずしも一致しない。例えば、個々人の肌の状態がどのように変化していくのかを長期追跡調査することで、個々の肌変化を予測するアルゴリズムを構築することができると考えられるが、従来、どのようなシミのパターンがあるのか、分類法・分類アルゴリズムは存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示により、シミのパターンを把握し、分類するための手法が提供される。より具体的には、本開示は以下の態様に関する:
[1] 被検者のシミの分布パターンを評価する方法であって、肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する工程、該分布に関するパラメータのうちの少なくとも2つを利用して分布情報を構築する工程、および該分布情報を利用して被検者のシミの分布パターンを決定する工程を含む方法。
[2] 前記肌の画像からシミに関する複数の色パラメータおよび/または正常部分の複数の色パラメータを取得する工程、該色パラメータのうちの少なくとも1つを利用して色情報を構築する工程、および前記分布情報と該色情報とを利用して被検者のシミの分布パターンを決定する工程をさらに含む、態様1記載の方法。
[3] 前記分布情報および/または色情報を可視化する工程をさらに含む、態様1または2記載の方法。
[4] 被検者のシミの分布パターンを可視化する工程をさらに含む、態様1~3のいずれか一項記載の方法。
[5] 態様1~4のいずれか一項記載の方法により評価された被検者のシミの分布パターンに基づき、肌の状態を評価する方法。
[6] 態様1~4のいずれか一項記載の方法により評価された被検者のシミの分布パターンに基づき、適切な化粧料、薬剤もしくは化粧方法を被検者にレコメンデーションを行なう方法。
[7] 態様1~4のいずれか一項記載の方法により評価された被検者のシミの分布パターンに基づき、化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に提供する方法。
[8] 肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得するパラメータ取得部、該パラメータのうちの少なくとも2つを利用してシミの分布パターンをクラスタリングし、肌分類を生成する肌分類生成部とを備える装置。
[9] 生成された肌分類に基づき、被検者の肌画像からシミの分布パターンを決定する評価部をさらに含む、態様8記載の装置。
[10] 決定されたシミの分布パターンに基づき、肌の状態を評価する肌状態評価部、化粧料、薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行うレコメンデーション部、または化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に提供する安全情報提供部をさらに含む、態様9記載の装置。
[11] 肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する段階、該パラメータのうちの少なくとも2つを利用してシミの分布パターンをクラスタリングし、肌分類を生成する段階をコンピュータに実行させるプログラム。
[12] 生成された肌分類に基づき、被検者の肌画像からシミの分布パターンを決定する段階をさらに含む、態様11記載のプログラム。
[13] 決定されたシミの分布パターンに基づき、肌の状態を評価する段階、化粧料、薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行う段階、または化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に提供する段階の少なくとも1つをさらに含む、態様12記載のプログラム。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、456人から成る被検者母集団の頬の画像から得られたシミの数およびシミの最大面積に対してクラスター分析を行ない、16のクラスターに分類した結果の例を示している。
図2A図2Aは、本開示に係る装置の構成例を示している。
図2B図2Bは、本開示に係る装置の構成例を示している。
図2C図2Cは、本開示に係る装置の構成例を示している。
図3図3は、本開示に係るシステムの構成例を示している。
図4図4は、本開示に係る処理を実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。
図5A図5Aは、本開示に係る装置による処理(プログラム)の一例を示すフローチャートである。
図5B図5Bは、本開示に係る装置による処理(プログラム)の一例を示すフローチャートである。
図5C図5Cは、本開示に係る装置による処理(プログラム)の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[シミの分布パターンの評価]
本開示の一つの態様は、被検者のシミの分布パターンを評価する方法に関する。一部の実施態様において、本開示に従うシミの分布パターンを評価する方法は、(i)肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する工程、(ii)前記分布に関するパラメータのうちの少なくとも2つを利用して分布情報を構築する工程、および(iii)前記分布情報を利用して被検者のシミの分布パターンを決定する工程を含む。
【0009】
また、本開示の一部の態様は、上記(i)から(iii)の工程に加えて、(iv)前記肌の画像からシミに関する複数の色パラメータおよび/または正常部分の複数の色パラメータを取得する工程、(v)前記色パラメータのうちの少なくとも1つを利用して色情報を構築する工程、および(vi)前記分布情報と前記色情報とを利用して被検者のシミの分布パターンを決定する工程をさらに含む、被検者のシミの分布パターンを評価する方法に関する。
【0010】
分布に関するパラメータとしては、例えば、シミの数、シミの平均面積、シミの最大面積、シミの総面積、最大面積率、総面積率、およびシミ面積の分散が挙げられる。色パラメータとしては、例えば、L、a、b、C ab、hab、メラニン、およびヘモグロビンが挙げられる。これらのパラメータは、例えば、特許第6138745号(「シミ評価装置、およびシミ評価プログラム」)に記載の方法および装置を用いて取得することができる。面積は、例えば、画像データ中のピクセル数に基づき算出してもよい。
【0011】
上記のパラメータの取得方法について、一例を簡単に述べると、まず、例えば拡散照明ボックスとデジタルカメラとから構成される顔画像取得システム等により、被検者の顔画像を撮影し、取得された顔画像から、特定される部位(例えば、目の周りや頬等)の肌画像を取得する。顔画像取得システムとしては、本出願人の登録実用新案第3170125号に記載された装置等を用いることが可能である。
【0012】
上述した顔画像取得システムにより撮影される画像は、例えば拡散光を照射することにより肌表面の反射や影の影響等を抑えることが可能であり、撮影された部位の皮膚の「色」を計測し、肌の色情報を取得することが可能である。
【0013】
前述の特許第6138745号に記載の装置は、取得された肌画像に対して画像処理を実行し、肌画像の解析領域からシミの領域を抽出することができる。例えば、肌画像のうち、指定された解析領域の色彩データLab値、メラニン成分、ヘモグロビン成分等の色素成分を算出することができる。また、特許第6138745号に記載の装置は、解析領域をメラニン成分やヘモグロビン成分等の色素成分の分布状態へと変換することができる。例えば肌の色情報として顔画像取得システムにより撮影されたRGB表色系RGB値や、RGB表色系から変換されたXYZ表色系XYZ値等を取得することで、メラニン成分やヘモグロビン成分等の色素成分の分布状態へと変換することができる。
【0014】
また、特許第3798550号公報等の手法を用いて、皮膚の反射スペクトルからランベルトベールの法則における透過率を皮膚の反射率に置き換えた吸光度モデルおよび皮膚の構成成分の吸光係数スペクトルを重回帰分析を行い、皮膚中の成分量を求めることができる。さらに、特許第3727807号公報等の手法を用いて、例えば皮膚の測色値と皮膚中の成分量を重回帰分析して重回帰式を予め求め、重回帰式を用いて皮膚の測色値から皮膚中のメラニン成分やヘモグロビン成分等の量を求めることができる。
【0015】
また、肌画像の解析領域に対してメラニン成分で2値化処理を行うことができる。2値化処理は、例えばメラニン成分の濃さに対して、例えば平均値+0.01~0.30等を閾値として、閾値以上のメラニン値(高メラニン値)を有する画素を高メラニン部分とする。これにより、正常の肌部分と高メラニン部分とを識別することができる。そして、高メラニン値を有する画素が連続している領域を1つの色素沈着部位(シミ)として認識することができる。シミとして認識されない部分は、肌の正常部分として分類することができる。さらに、シミの数、個々のシミの面積、シミの平均面積、シミの最大面積、シミの総面積、最大面積率、および総面積率、ならびに個々のシミの濃さを解析し、解析結果を用いて、肌画像の解析領域から得られるシミの質を評価することができる。
【0016】
上記(i)肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する工程において、肌の画像は、顔の頬を含む画像でありうる。そのような画像は、分類のための母集団を形成するために、例えば、50人またはそれ以上、100人またはそれ以上、200人またはそれ以上、300人またはそれ以上、400人またはそれ以上、500人またはそれ以上、1000人またはそれ以上といった多数の被検者集団、例えば約500人の被検者集団から取得する。また、そのような画像は、同一の被検者から経時的に、例えば半年ごと、あるいは1年ごとに取得してもよい。上述のように、取得した画像を解析して、シミに関する複数の分布に関するパラメータを得ることができる。このようにして取得した画像、およびシミに関する複数の分布に関するパラメータの母集団は、データベースに蓄積してもよい。
【0017】
上記の(ii)前記分布に関するパラメータのうちの少なくとも2つを利用して分布情報を構築する工程において、分布情報の構築には、例えば、クラスター分析(クラスタリング)を用いることができる。クラスタリングとは、分類対象の集合を、内的結合と外的分離が達成されるような部分集合に分割することを言う。本開示の一部の態様においては、クラスタリングのためにk-means法、k-means++法、X-means法、DBSCAN法などを用いることができるが、これらに限定はされない。クラスター分析を行なうことにより、例えば、被検者集団に由来するシミの分布パターンを複数のクラスターに分類することができる。例えば、k-means法などでは、クラスターの数は任意に設定することができるが、例えば3~30の間の任意の数、例えば4~20の間、より具体的には、例えば4、6、8、10、12、14または16個のクラスターに分類されるように設定してよい。構築した分布情報またはクラスター分析の結果は、データベースに蓄積してもよい。
【0018】
分布情報を構築する際に用いるパラメータは、取得した全てのパラメータを用いてもよいが、相関の低い一部のパラメータを指標として選択して用いてもよい。つまり、分布に関するパラメータのうちの少なくとも2つを利用して分布情報を構築することができる。例えば、7個(7次元)のパラメータを取得した場合、そのうちの2つ、3つ、4つ、5つ、または6つを選択して使用してもよい。例えば、肌の画像から、シミの数、シミの平均面積、シミの最大面積、シミの総面積、最大面積率、総面積率、およびシミ面積の分散の7個(7次元)のパラメータを取得した場合、例えば、そのうちの少なくとも2つ、例えば、シミの数と最大面積を含む2以上のパラメータを選択して用いて分布情報を構築してもよい。例えば、シミの数と最大面積をパラメータとして用いて、7個程度のクラスターに分類した場合、各クラスター(シミの分布パターン)に「シミ無し型」や「散らばりシミ型」といった名称を付与して整理することもできる。
【0019】
上記の(iii)前記分布情報を利用して被検者のシミの分布パターンを決定する工程においては、上記工程(ii)で構築した分布情報に基づき、被検者のシミの分布パターンを決定する。これは例えば、クラスター分析により分類した各クラスターと、被検者の肌の画像から得られたシミに関する複数の分布に関するパラメータとの距離を計算することにより行なうことができる。例えば、シミの数と最大面積をパラメータとして選択した2次元ベクトル空間(平面)において母集団を複数のクラスターに分類した場合、被検者の肌の画像を解析して得られたシミの数と最大面積から成る2次元ベクトルと各クラスターの重心との距離を計算して、最も距離の近いクラスターに被検者のシミの分布パターンが属すると決定してもよい。あるいは、母集団のパラメータにユーザの被検者のパラメータを加えてクラスター分析を行なうことで、被検者のシミの分布パターンが属するクラスターを決定してもよい。
【0020】
図1は、456人から成る被検者母集団の頬の画像から得られたシミの数およびシミの最大面積に対してクラスター分析を行ない、16のクラスターに分類した結果を示している。よって、より具体的な本開示の一つの態様は、被検者のシミの分布パターンを評価する方法であって、(i)パラメータの母集団を形成するために、複数の個人の肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する工程、(ii)前記分布に関するパラメータのうちの少なくとも2つを利用して分布情報を構築する工程であって、パラメータが少なくともシミの数と最大面積を含み、分布情報がクラスター分析により得られる工程、および(iii)前記分布情報を利用して被検者のシミの分布パターンが属するクラスターを決定する工程を含む方法に関する。
【0021】
上記の(iv)前記肌の画像からシミに関する複数の色パラメータおよび/または正常部分の複数の色パラメータを取得する工程においても、肌の画像は、顔の頬を含む画像でありうる。そのような画像は、上記の工程(i)で用いたものと同じものであってよい。上述のように、取得した画像を解析して、色パラメータを得ることができる。このようにして取得した画像、および色パラメータは、データベースに蓄積してもよい。
【0022】
上記の(v)前記色パラメータのうちの少なくとも1つを利用して色情報を構築する工程において、複数の色パラメータを用いる場合、色情報の構築には、例えば、クラスター分析(クラスタリング)を用いることができる。構築した色情報またはクラスター分析の結果は、データベースに蓄積してもよい。
【0023】
上記の(vi)前記分布情報と前記色情報とを利用して被検者のシミの分布パターンを決定する工程においては、前記分布情報と前記色情報との組み合わせに基づき、被検者のシミの分布パターンを決定する。例えば、色情報に基づき肌を3つ(例えば、色白、標準的な肌色、健康的な肌色)に分類した上で、分布情報を利用して被検者のシミの分布パターンを決定することができる。
【0024】
[情報の可視化]
本開示の一部の実施態様において、本開示に従うシミの分布パターンを評価する方法は、前記分布情報および/または色情報を可視化する工程をさらに含む。例えば、前記分布情報および/または色情報を二次元平面上に写像し、クラスターごとに色分けして表示することができる。
【0025】
また、本開示の一部の実施態様において、本開示に従うシミの分布パターンを評価する方法は、被検者のシミの分布パターンを可視化する工程をさらに含む。例えば、前記分布情報および/または色情報の二次元平面上への写像の中のどこに被検者のシミの分布パターンが属するかをマークや色分けにより示すことができる。
【0026】
[肌の状態の評価]
本開示の一つの態様は、本開示に係る方法により評価された被検者のシミの分布パターンに基づき、肌の状態を評価する方法に関する。例えば、本開示に係る方法により、被検者のシミの分布情報が得られ、被検者のシミの分布パターンが特定のクラスターに分類された場合、その被検者の肌は、そのクラスターが対応する肌の状態にあると評価されうる。各クラスターが対応する肌の状態は、例えば、あらかじめ決定しておき、データベースに記録しておいてもよい。
【0027】
[レコメンデーション方法]
本開示の一つの態様は、本開示に係る方法により評価された被検者のシミの分布パターンに基づき、適切な化粧料、薬剤もしくは化粧方法を被検者にレコメンデーションを行なう方法に関する。例えば、本開示に係る方法により、被検者のシミの分布情報が得られ、シミの分布パターンが特定のクラスターに分類された場合、そのクラスターに分類される他の個人と同様な化粧料、薬剤もしくは化粧方法の使用を被検者にレコメンドすることができる。各クラスターに対して推奨される化粧料、薬剤もしくは化粧方法は、例えば、あらかじめ決定しておき、データベースに記録しておいてもよい。
【0028】
[安全性情報の提供]
本開示の一つの態様は、本開示に係る方法により評価された被検者のシミの分布パターンに基づき、化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に提供する方法に関する。例えば、本開示に係る方法により、被検者のシミの分布情報が得られ、シミの分布パターンが特定のクラスターに分類された場合、そのクラスターに分類される他の個人に提供されるのと同様な化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に知らせることができる。各クラスターに関連する化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報は、例えば、あらかじめ決定しておき、データベースに記録しておいてもよい。
【0029】
[装置・システム]
本開示の一つの態様は、肌分類を生成することのできる装置に関する。一部の態様において、本装置は、(i)肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得するパラメータ取得部と、(ii)該パラメータのうちの少なくとも2つを利用してシミの分布パターンをクラスタリングし、肌分類を生成する肌分類生成部とを備える。
【0030】
図2Aに例示した装置100は、パラメータ取得部110と肌分類生成部120を有している。パラメータ取得部110は、肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得することができる。より詳細には、被検者のシミの分布パターンを評価するシステムを例示した図3中に示されるように、パラメータ取得部110は、被検者母集団の肌画像を受け取る肌画像取得部112、入力された肌画像を解析してシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する肌画像解析部114、得られたパラメータを記憶するパラメータデータベース(DB)部116を含むことができる。肌画像取得部は、肌画像を撮影するカメラ、照明、制御用プロセッサ等のハードウェアをさらに含んでいてもよい。肌分類生成部120は、シミに関する複数の分布に関するパラメータをクラスター分析するクラスタリング部122、クラスター分析の結果得られたクラスター情報を記憶するクラスターDB部124を含むことができる。装置100は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、ハードディスク、フラッシュメモリ等の記憶装置を有しうる。この記憶装置には、装置を制御するためのプログラムや取得されたデータ(画像、パラメータ等)が格納されうる。そして、演算装置は、記憶装置に格納されたプログラムを実行することにより装置100をパラメータ取得部110および肌分類生成部120として機能させうる。すなわち、パラメータ取得部110および肌分類生成部120はCPUの機能として構成されうる。なお、装置100は、ネットワークにより接続されたサーバの演算装置および記憶装置と協同して動作してもよい。
【0031】
一部の態様において、本開示に係る装置は、生成された肌分類に基づき、被検者の肌画像からシミの分布パターンを決定する分布パターン評価部130をさらに含むことができる(図2B)。より詳細には、被検者のシミの分布パターンを評価するシステムを例示した図3中に示されるように、分布パターン評価部130は、ユーザの肌画像を受け取る肌画像取得部132、入力された肌画像を解析してシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する肌画像解析部134、ユーザのパラメータをクラスターDBに照会して肌分類を決定するシミ分布パターン決定部136を含むことができる。肌画像取得部は、ユーザの肌画像を撮影するカメラ、照明、制御用プロセッサ等のハードウェアをさらに含んでいてもよい。
【0032】
一部の態様において、本開示に係る装置は、決定されたシミの分布パターンに基づき、肌の状態を評価する肌状態評価部140、化粧料、薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行うレコメンデーション部150、または化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に提供する安全情報提供部160をさらに含むことができる(図2C)。被検者のシミの分布パターンを評価するシステムを例示した図3中に示されるように、これらの肌状態評価部140、レコメンデーション部150、安全情報提供部160を総称して価値提供部170とも呼ぶ。価値提供部はそれぞれ、決定されたシミの分布パターンと提供する情報とを結びつけるデータベース(DB)を含んでいてもよい。また、価値提供部はそれぞれ、ユーザに情報を提示するためのディスプレイ、プリンタ、スピーカー等を含んでいてもよい。
【0033】
図3にはさらに、被検者のシミの分布パターンを評価するシステムが例示されている。図3に示されているように、本開示に係るシステムは、生成した肌分類を図示するためのシミ分布パターン可視化部を含んでいてもよい。また、本開示に係るシステムは、すべての要素が同じ場所に存在する必要はなく、ネットワークを介して接続されていてもよい。
【0034】
[ハードウェア構成]
ここで、上述した装置においては、各機能をコンピュータに実行させることができる実行プログラムを生成し、例えば汎用のパーソナルコンピュータ、サーバ等、またはそれらの組み合わせにその実行プログラムをインストールすることにより、処理を行なうことができる。
【0035】
ここで、本開示に係る処理が実現可能なコンピュータのハードウェア構成例について図を用いて説明する。
【0036】
図4は、本開示に係る処理が実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。図4におけるコンピュータ本体には、入力装置51と、出力装置52と、ドライブ装置53と、補助記憶装置54と、メモリ装置55と、各種制御を行うCPU(Central Processing Unit)56と、ネットワーク接続装置57とを有するよう構成されており、これらはシステムバスBで相互に接続されている。
【0037】
入力装置51は、ユーザ等が操作するキーボードおよびマウス等のポインティングデバイスを有しており、ユーザ等からのプログラムの実行等、各種操作信号を入力する。また、入力装置51は、ネットワーク接続装置57等に接続された外部装置から通信ネットワークを介して得られる、被検者の顔画像等の各種データを入力することもできる。
【0038】
出力装置52は、本開示に係る処理を行うためのコンピュータ本体を操作するのに必要な各種ウィンドウやデータ等を表示するディスプレイを有し、CPU56が有する制御プログラムによりプログラムの実行経過や結果等を表示することができる。また、出力装置52は、上述の処理結果等を紙等の印刷媒体に印刷して、ユーザ等に提示することができる。
【0039】
ここで、本開示においてコンピュータ本体にインストールされる実行プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリやCD-ROM、DVD等の記録媒体58等により提供される。プログラムを記録した記録媒体58は、ドライブ装置53にセット可能であり、記録媒体58に含まれる実行プログラムが、記録媒体58からドライブ装置53を介して補助記憶装置54にインストールされる。
【0040】
補助記憶装置54は、ハードディスク等のストレージ手段であり、本開示に係る実行プログラムや、コンピュータに設けられた制御プログラム等を蓄積し必要に応じて入出力を行うことができる。
【0041】
メモリ装置55は、CPU56により補助記憶装置54から読み出された実行プログラム等を格納する。なお、メモリ装置55は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等からなる。
【0042】
また、実行プログラムは、任意のネットワークを介して必要時に外部機器からその全部または一部がダウンロードされるものであってもよい。さらに、実行プログラムがインストールされる補助記憶装置54および/またはインストールされた実行プログラムを格納するメモリ装置55が、外部機器に備えられていてもよい。外部機器はサーバであってよい。サーバは、特定のサーバであってもよいし、クラウド基盤のような不定のサーバであってもよい。さらには、実行プログラムは、サブスクリプション型のサービスによって提供されてもよい。サブスクリプション型のサービスとは、コンピュータのソフトウェアの利用形態の1つであって、ソフトウェアを利用した期間に応じて料金を支払う方式のサービスである。このように、実行プログラムの利用形態は任意であってよく、限定されるものではない。
【0043】
CPU56は、OS(Operating System)等の制御プログラム、およびメモリ装置55に格納されている実行プログラムに基づいて、各種演算や各ハードウェア構成部とのデータの入出力等、コンピュータ全体の処理を制御して各処理を実現することができる。なお、プログラムの実行中に必要な各種情報等は、補助記憶装置54から取得することができ、また実行結果等を格納することもできる。
【0044】
ネットワーク接続装置57は、通信ネットワーク等と接続することにより、実行プログラムを通信ネットワークに接続されている他の端末等から取得したり、プログラムを実行することで得られた実行結果または本開示に係る実行プログラム自体を他の端末等に提供したりすることができる。
【0045】
上述したようなハードウェア構成により、本開示に係る解析処理を実行することができる。また、プログラムをインストールすることにより、汎用のパーソナルコンピュータ等で本開示に係る処理を容易に実現することができる。
【0046】
[プログラム]
本開示の一部の態様は、本開示に係る各種方法をコンピュータに実行させるプログラムに関する。別の観点から言えば、本開示に係る方法は、その一部または全部がコンピュータ上で実行される方法であってもよい。一部の態様において、本開示に係るプログラムは、(i)肌の画像からシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する段階(ステップ100)、および(ii)該パラメータのうちの少なくとも2つを利用してシミの分布パターンをクラスタリングし、肌分類を生成する段階(ステップ110)をコンピュータに実行させるプログラムでありうる。図5Aには、装置による処理の一例が示されている。ステップ100からステップ110は、装置(サーバを含んでもよい)のCPUがプログラムを実行することにより実行される。
【0047】
一部の態様において、本開示に係るプログラムは、生成された肌分類に基づき、被検者の肌画像からシミの分布パターンを決定する段階(ステップ120)をさらに含む(図5B)。本開示に係るプログラムは、ユーザの肌画像を受け取る段階、入力された肌画像を解析してシミに関する複数の分布に関するパラメータを取得する段階、ユーザのパラメータをクラスターDBに照会して肌分類を決定する段階を含んでいてもよい。ユーザの肌画像を受け取る段階は特に、ユーザの肌画像を撮影するカメラからデータを受け取る段階を含んでいてもよい。
【0048】
一部の態様において、本開示に係るプログラムは、決定されたシミの分布パターンに基づき、肌の状態を評価する段階(ステップ130)、化粧料、薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行う段階(ステップ140)、または化粧料、薬剤もしくは化粧方法に関する安全性情報を被検者に提供する段階(ステップ150)の少なくとも1つをさらに含む。これらの段階を含む処理の例を図5Cに示す。本開示に係るプログラムは、ステップ130、140、150のすべての段階を含んでいてもよい。本開示に係るプログラムは、決定されたシミの分布パターンに基づき、データベース(DB)に照会を行い、提供する情報を取得する段階、取得した情報を出力デバイス(ディスプレイ、プリンタ、スピーカー等)に出力する段階をさらに含んでいてもよい。
【0049】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。本開示の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定され、本明細書中の例示は、本開示の技術的範囲を限定するものではない。本開示の趣旨を逸脱しないことを条件として、本開示の変更、例えば、本開示の構成要件の追加、削除および置換を行うことができる。
【符号の説明】
【0050】
51 入力装置
52 出力装置
53 ドライブ装置
54 補助記憶装置
55 メモリ装置
56 CPU
57 ネットワーク接続装置
58 記録媒体
100 装置
110 パラメータ取得部
112 肌画像取得部
114 肌画像解析部
116 パラメータDB部
120 肌分類生成部
122 クラスタリング部
124 クラスターDB部
130 分布パターン評価部
132 肌画像取得部
134 肌画像解析部
136 シミ分布パターン決定部
140 肌状態評価部
150 レコメンデーション部
160 安全情報提供部
170 価値提供部
180 シミ分布パターン可視化部
010 被検者集団
020 ユーザ


図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図5C