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特許7512197mRNA送達用キャリアおよびこれを含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】mRNA送達用キャリアおよびこれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20240701BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240701BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240701BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240701BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240701BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K48/00
A61K9/10
A61K47/34
A61P43/00 111
C12N15/11 Z ZNA
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020538474
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019032943
(87)【国際公開番号】W WO2020040272
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018156804
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
(72)【発明者】
【氏名】ディリサラ アンジャネユル
(72)【発明者】
【氏名】内田 智士
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-030932(JP,A)
【文献】Biomaterials,2014年,Vol.35, No.27,pp.7887-7895
【文献】Drug Delivery System,2016年,Vol.31,No.4,pp.283-292
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 48/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非電荷親水性ポリマーブロックと、-(CH2n-NH2{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体とmRNAとのポリプレックスミセルであって、
非電荷親水性ポリマーブロックは、ポリオキサゾリンブロックもしくはポリエチレングリコールブロックを含むか、またはポリエチレングリコールブロックとポリオキサゾリンブロックを含み、
前記-(CH2n-NH2{nは、2~5の自然数}の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾され、
前記1-アミジン-3-メルカプトプロリル基がブロック共重合体分子間でジスルフィド結合による架橋を形成してポリプレックスミセルを安定化しており、
前記ブロック共重合体が側鎖に有する-(CH2n-NH2{nは、2~5の自然数}とmRNAとは複合体を形成している、
ポリプレックスミセル。
【請求項2】
-(CH2n-NH2{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸が、オルニチン若しくはリジンまたはその両方である、請求項1に記載のmRNAとのポリプレックスミセル。
【請求項3】
共重合体が、側鎖のアミノ基の10~40%が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された共重合体である、請求項1または2に記載のポリプレックスミセル。
【請求項4】
共重合体が、側鎖のアミノ基の20~30%が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された共重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリプレックスミセル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリプレックスミセルと薬学上許容可能な賦形剤を含む、組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリプレックスミセルを調製することに用いるための、非電荷親水性ポリマーブロックとリジンおよび/またはオルニチン側鎖のアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるように修飾されたポリリジンおよび/またはポリオルニチンとのブロック共重合体を含み、非電荷親水性ポリマーブロックは、ポリオキサゾリンブロックもしくはポリエチレングリコールブロックを含むか、またはポリエチレングリコールブロックとポリオキサゾリンブロックを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、mRNA送達用キャリアおよびこれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の体内への送達技術は、不足したタンパク質の補充等を目的として盛んに研究開発が行われている。中でも、ポリエチレングリコールとポリカチオンとの共重合体とDNAまたはsiRNAとでミセルを形成させると、ミセル内でこれらの核酸が安定化することが明らかにされている。
【0003】
非特許文献1では、プラスミドDNA(環状DNA)の体内への送達において、ポリエチレングリコールとポリカチオンとの共重合体とDNAとのポリプレックスミセルが、DNAの安定化に寄与するところ、前記ポリカチオンの側鎖にチオール基を導入してミセルを架橋する場合に、側鎖のポリカチオンの電荷を消失させたときと電荷を残したときとで比較し、側鎖のポリカチオンの電荷を消失させた方が、細胞内でプラスミドDNAを放出しやすく、結果としてプラスミドDNAからの遺伝子発現が向上することを明らかにした。
【0004】
また、非特許文献2では、siRNAの体内への送達において、ポリカチオンの側鎖にチオール基を導入してミセルを架橋する場合に、側鎖のポリカチオンの電荷を消失させたときと電荷を残したときとで比較し、側鎖のポリカチオンの電荷を消失させたときに、血中滞留性が高いことを明らかにした。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kanjiro Miyata et al., J. AM. CHEM. SOC. 2014, 126, 2355-2361
【文献】Christie R. James et al., Biomacromolecules 2011, 12, 3174-3185
【発明の簡単な説明】
【0006】
本発明は、mRNA送達用キャリアおよびこれを含む組成物を提供する。
【0007】
本発明者らは、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン)とアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるように修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体(カチオン性重合体である)とのブロック共重合体とmRNAとのポリプレックスミセルが、高いヌクレアーゼ耐性を有し、かつ細胞内に取り込まれると高いmRNAの放出能を発揮すること、および、細胞内でmRNAがコードするタンパク質を高発現させることができることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば、例えば、以下の発明が提供され得る。
(1)非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)とアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体とmRNAとのポリプレックスミセル。
(2)-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸が、オルニチン若しくはリジンまたはその両方である、上記(1)に記載のmRNAとのポリプレックスミセル。
(3)共重合体が、側鎖のアミノ基の10~40%が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された共重合体である、上記(1)または(2)に記載のポリプレックスミセル。
(4)共重合体が、側鎖のアミノ基の20~30%が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された共重合体である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のポリプレックスミセル。
(5)前記メルカプトプロリル基同士が共重合体間でジスルフィド結合によって架橋されている、上記(1)~(4)のいずれかに記載のポリプレックスミセル。
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載のポリプレックスミセルと薬学上許容可能な賦形剤を含む、組成物。
(7)mRNAの体内への送達用ポリプレックスミセルを調製することに用いるための、ポリエチレングリコールとリジンおよび/またはオルニチン側鎖のアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるように修飾されたポリリジンおよび/またはポリオルニチンとの共重合体を含む、組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、mRNAと各種共重合体を用いて作製したポリプレックスミセルにおけるmRNAの凝集の度合いを示す図である。mRNAには、Cy3またはCy5の標識がなされており、凝集するほど蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)効率が高まる。
図2図2は、mRNAと各種共重合体を用いて作製したポリプレックスミセルの、ポリアニオンの置換反応に対する耐性を示す図である。図中の四角の枠内にバンドが検出された場合、ポリアニオン置換反応に対してmRNAを放出してしまったことを示し、ポリアニオンの置換反応に対して感受性であることを意味する。図中の四角の枠内にバンドが検出されない場合には、ポリアニオンの置換反応に対して耐性であることを意味する。
図3図3は、mRNAと各種共重合体を用いて作製したポリプレックスミセルを血清中でインキュベートした後に、残存したmRNAの割合(%)を示す。
図4図4は、mRNAと各種共重合体を用いて作製したポリプレックスミセルを細胞内に取り込ませた後のmRNAからのガウシアルシフェラーゼ(GLuc)の発現の相対蛍光量の経時変化を示す図である。図4の下パネルは、48時間後の相対蛍光量を棒グラフで示す図である。
図5図5は、mRNAと各種共重合体を用いて作製したポリプレックスミセルを細胞内に取り込ませた後の、細胞内で残存したmRNAの量の経時変化を示す図である。
図6図6は、細胞内環境を模擬した還元環境および大量のポリアニオン存在下でのPMからのmRNAの放出の容易さを示す図である。四角の枠内にバンドが存在する場合には、PMは、細胞内環境においてmRNAを放出することが示される。
図7図7は、mRNAと各種共重合体を用いて作製したポリプレックスミセルと接触した細胞の生存率を示す図である。生存率が100%に近いほどPMの細胞毒性が低いことが示される。
図8図8は、PEGと重合度72のポリリジンを含む各種共重合体において保護された残存mRNAの相対量を示す図である。
図9図9は、PEGと重合度20のポリリジンを含む各種共重合体において保護された残存mRNAの相対量を示す図である。
図10図10は、ポリオキサゾリンと重合度51のポリリジンを含む各種共重合体において保護された残存mRNAの相対量を示す図である。
【発明の具体的な説明】
【0010】
本明細書では、「対象」とは、哺乳動物、特にヒトであり得る。
【0011】
本明細書では、「キャリア」とは、薬物を体内の組織に送達することに用いるための材料を意味する。キャリアは、例えば、ミセルである。
【0012】
本明細書では、「ポリプレックスミセル」は、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマー(例えば、核酸)を含むポリマー複合体によるミセルを意味する。特に非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)とカチオン性ポリマーブロックとの共重合体と核酸とのポリマー複合体によって形成されたミセルは、表面が非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)で被覆されたミセルの形態であると考えられる。「非電荷親水性ポリマーブロック」とは、室温の生理食塩水中で、および体内の血中で、非電荷であり、かつ親水性であるポリマーブロックを意味する。非電荷とは、非イオン性を意味する。
【0013】
本明細書では、「mRNA」とは、メッセンジャーRNAを意味する。mRNAは、タンパク質をコードする核酸として知られ、翻訳されることにより、迅速なタンパク質合成の鋳型となり得る。しかし、mRNAは、生体中で不安定であることで知られ、血中では裸の状態では、安定的に存在し得ない。
【0014】
本明細書では、「裸のmRNA」とは、ポリプレックスミセルを形成したmRNA(ポリプレックスミセルに内包されたmRNAとも表現する)との対比において、ポリプレックスミセルを形成していないという意味で遊離形態のmRNAをいう。mRNAは、一本鎖RNAであり、細胞質でリボソームと結合し、mRNAがコードする遺伝情報に対応するアミノ酸配列を有するタンパク質が合成される。mRNAとしては、単一のタンパク質をコードするモノシストロニックなmRNAと複数のタンパク質をコードするポリシストロニックなmRNAが挙げられる。mRNAは、一般的に、5’末端のキャップ構造と3’末端のポリ(A)鎖を有する。本明細書では、「成熟mRNA」とは、スプライシングや修飾などのプロセッシングを受けてタンパク質合成に適した形態となったmRNAを意味するが、人工的に合成したmRNA(例えば、cDNAから合成されたmRNA)を含む意味で用いられる。
【0015】
本明細書では、1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}とは、下記化学式:
【化1】
{式中、nは、2~5の自然数}により示される基を意味する。本明細書では、1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるように修飾されたポリリジンおよびポリオルニチンとは、側鎖が上記化学式により表される側鎖を有する{式中、nがそれぞれ3および4である}。
【0016】
本発明者らは、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)とアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体(カチオン性重合体、特にペプチドである)とのブロック共重合体とmRNAとのポリプレックスミセルが、高いヌクレアーゼ耐性を有することを見出した。
【0017】
従って、本発明では、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)とアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体とmRNAとのポリプレックスミセルが提供される。ここで、1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}基は、-(CH-NH-C(NH)-CH-CH-SH{nは、2~5の自然数}で表される基である。
【0018】
ある態様では、修飾または非修飾の-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体は、リジン若しくはオルニチンまたはその両方を単量体単位として含む重合体であり得る。この態様において、上記ペプチドの単量体単位の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上が、リジン若しくはオルニチンまたはその両方からなる。ある好ましい態様では、上記ペプチドの単量体単位は、リジン若しくはオルニチンまたはその両方からなる。
【0019】
本発明のある好ましい態様では、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)とリジン側鎖のアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾されたペプチドとの共重合体(以下、「PEG-PLys(AMP)」ということがある)と、mRNAとのポリプレックスミセルが提供される。
【0020】
本発明の好ましい態様では、本発明のポリプレックスミセルでは、共重合体が有するメルカプト基同士がジスルフィド結合によって架橋されている(すなわち、本発明のポリプレックスミセルは、共重合体間で形成されるジスルフィド結合を含む)。このような架橋は本発明のポリプレックスミセルと還元剤とを接触させることによって達成され得る。本明細書では、メルカプト基同士がジスルフィド結合によって架橋されたポリプレックスミセルを「架橋型ポリプレックスミセル」ということがある。
【0021】
1-アミジン-3-メルカプトプロリル基修飾は、前記ブロック共重合体の側鎖のアミノ基の一部または全部が有し得る。
【0022】
ある態様では、非電荷親水性ポリマーブロックは、エチレングリコール、エチルオキサゾリン、およびプロピルオキサゾリンからなる群から選択される1種以上の単量体単位を含むポリマーのブロックであり得る。ある態様では、非電荷親水性ポリマーブロックは、ポリエチレングリコールである。ある態様では、非電荷親水性ポリマーブロックは、ポリオキサゾリンブロックである。ある態様では、非電荷親水性ポリマーブロックは、ポリエチレングリコールブロックとポリオキサゾリンブロックを含む。
ある態様では、ポリエチレングリコール(PEG)ブロックは、重量平均分子量(Mw)において、例えば、1kDa~20kDa、例えば、1.5kDa~15kDaのPEGであり得る。ある態様では、ポリオキサゾリンブロックは、オキサゾリン、例えば、エチルオキサゾリンおよびプロピルオキサゾリンからなる群から選択される1種以上のオキサゾリンを単量体単位として含む重合体であり得る。この態様では、ポリオキサゾリンブロックは、重量平均分子量(Mw)において、例えば、1kDa~50kDa、例えば、5kDa~40kDa、例えば、10kDa~30kDaであり得る。ある態様では、ポリオキサゾリンブロックは、ポリエチルオキサゾリンブロックを含む。ある態様では、ポリオキサゾリンブロックは、ポリプロピルオキサゾリンブロックを含む。ある態様では、ポリオキサゾリンブロックは、ポリエチルオキサゾリンブロックとポリプロピルオキサゾリンブロックとを含む。
【0023】
ある態様では、修飾または非修飾の-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体は、例えば、重合度10~100であり得、例えば、重合度50~100であり得、例えば、60~90であり得る。
【0024】
ある態様では、側鎖のアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるように修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体は、例えば、アミノ基の1%~100%、10%~50%、15%~45%、20%~40%、15%~30%、10%~40%、または20%~30%が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾されている。
【0025】
ある態様では、nは3または4であり得る。すなわち、ある態様では、ポリプレックスミセルは、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)と、リジン若しくはオルニチンまたはその両方を単量体単位とするペプチドであって、アミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるように修飾されたペプチドとの共重合体とmRNAとを含む、ポリプレックスミセルであり得る。ある態様では、ポリプレックスミセルは、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)と、アミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるように修飾されたポリリジンまたはポリオルニチンとの共重合体とmRNAとを含む、ポリプレックスミセルであり得る。ポリプレックスミセルは、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)と、アミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾されたポリリジンとの共重合体とmRNAとを含む、ポリプレックスミセルであり得る。
【0026】
ある態様では、ポリプレックスミセルは、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)と、リジン若しくはオルニチンまたはその両方を単量体単位とするペプチドであって、アミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾されたペプチドとの共重合体とmRNAとを含む、ポリプレックスミセルであり、かつ、
PEGは、1kDa~20kDaの重量平均分子量を有し、
ペプチドは、例えば、60~90の重合度を有し、
単量体単位の10%~40%が、1-アミジン-3-メルカプトプロリル基により置換されている、
ポリプレックスミセルであり得る。
【0027】
単量体単位の1-アミジン-3-メルカプトプロリル基の保有率は、例えば、PEG-PLysのアミノ基の数に対して添加する3,3’-ジチオビスプロピオンイミダート(DTBP)の量を調整すること等によって当業者であれば適宜調整することができる。
【0028】
本発明のある態様では、ポリエチレングリコールとアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるように修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体は、以下式(I):
【化2】
{式中、
mは、5~20,000のいずれかの自然数であり得、
pは、10~100のいずれかの自然数であり得、50~100のいずれかの自然数であり得、または60~90のいずれかの自然数であり得、
nは、2~5のいずれかの自然数であり得、
y/(x+y)は、0.01~1、0.1~0.5、0.15~0.45、0.2~0.4、0.15~0.3、0.1~0.4、または0.2~0.3であり得、x+yは、pである。}で示される化合物であり得る。本発明では、このような化合物も提供される。本発明では、このような化合物とmRNAとを含むポリプレックスミセル、およびこれを含む組成物が提供される。
【0029】
本発明のある態様では、ポリオキサゾリンとアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるように修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体が提供され得る。本発明では、このような化合物とmRNAとを含むポリプレックスミセル、およびこれを含む組成物が提供される。
【0030】
本発明の組成物は、本発明のポリプレックスミセルを含む。本発明の組成物は、本発明のポリプレックスミセルと薬学上許容可能な賦形剤とを含んでいてもよい。賦形剤としては、例えば、等張剤、および緩衝剤が挙げられる。本発明の組成物は、注射剤の形態であり得る。本発明の組成物は、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、心室内投与、または脳室内投与のために製剤化され得る。
【0031】
本発明によれば、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)とアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体の、mRNAを含むポリプレックスミセルの調製における使用が提供される。
本発明によれば、非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)とアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体の、mRNAを含むポリプレックスミセルを含む組成物の調製における使用が提供される。
【0032】
本発明によれば、タンパク質をコードするmRNAを細胞内に送達する方法であって、
ポリエチレングリコールとアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体と、前記mRNAとのポリプレックスミセルを、細胞と接触させることを含む、方法が提供される。
【0033】
本発明によれば、タンパク質をコードするmRNAを細胞内で発現させる方法であって、
非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)とアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体と、前記mRNAとのポリプレックスミセルを、細胞と接触させることを含む、方法が提供される。
【0034】
本発明によれば、タンパク質をコードするmRNAをそれを必要とする対象に投与する方法であって、
非電荷親水性ポリマーブロック(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリオキサゾリン、例えば、ポリエチレングリコール)とアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体と、前記mRNAとのポリプレックスミセルを、当該対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0035】
本発明によれば、タンパク質をそれを必要とする対象の体内で発現させる方法であって、
ポリエチレングリコールとアミノ基の一部または全部が1-アミジン-3-メルカプトプロリル基となるよう修飾された-(CH-NH{nは、2~5の自然数}を側鎖に有するアミノ酸を単量体単位として含む重合体とのブロック共重合体と、当該タンパク質をコードするmRNAとのポリプレックスミセルを、当該対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0036】
本発明では、これらの方法に用いるための組成物が提供される。
【0037】
ある態様では、mRNAは、有用なタンパク質(例えば、酵素)をコードするmRNAであり得る。例えば、mRNAは、タンパク質補充療法で補充されるタンパク質(例えば、酵素)とすることができる。本発明で用いられ得る有用なタンパク質をコードするmRNAとしては、レポーター遺伝子、成長因子遺伝子、細胞増殖因子遺伝子、細胞増殖抑制因子遺伝子、細胞死促進因子遺伝子、細胞死抑制因子遺伝子、癌抑制遺伝子、転写因子遺伝子、及びゲノム編集遺伝子又はワクチン抗原遺伝子のmRNAが挙げられる。レポーター遺伝子としては、例えば、発光タンパク質、及び蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。成長因子をコードするmRNAとしては、例えば、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、血小板由来成長因子(PDGF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF又はFGF-2)及び肝細胞増殖因子(HGF)をコードするmRNAが挙げられる。細胞増殖抑制因子をコードするmRNAとしては、例えば、p21、p17、p16及びp53をコードするmRNAが挙げられる。細胞死促進因子をコードするmRNAとしては、例えば、Smac/Diablo、アポトーシス誘導因子(AIF)、HtrA2、Bad、Bim、Bax、p53、カスパーゼ1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10(例えば、カスパーゼ2、3、6、7、8、9及び10、好ましくはカスパーゼ3、6及び7)、Fasリガンド(FasL)、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)並びにFoxO1をコードするmRNAが挙げられる。細胞死抑制因子をコードするmRNAとしては、例えば、抗アポトーシス因子(例えば、FLIP、Mcl-1、Xiap、crmA、Bcl-2及びBcl-xL)をコードするmRNAが挙げられる。癌抑制遺伝子をコードするmRNAとしては、例えば、p53、網膜芽細胞腫遺伝子(Rb)、大腸腺腫症遺伝子(APC)、神経線維腫症1型遺伝子(NF1)、神経線維腫症2型遺伝子(NF2)、WT1、VHL、BRCA1、BRCA2、CHEK2、マスピン、p73、Smad4、MSH2、MLH1、PMS2、DCC、ホスファターゼテンシンホモログ(PTEN)、SDHD、p16、p57Kip2、PTC、TSC1、TSC2、EXT1及びEXT2をコードするmRNAが挙げられる。転写因子をコードするmRNAとしては、例えば、Runt関連転写因子1(Runx1)、p53、c-fos、c-Jun、CREB、C/EBP、MyoD、c-Myc、c-Myb、Oct3/4、NF-κB、NF-AT、Mef-2及び細胞外シグナル応答因子(SRF)をコードするmRNAが挙げられる。ゲノム編集遺伝子のmRNAとしては、例えば、zinc finger nuclease(ZNF)、transcription activator like effector nuclease(TALEN)及びclustered,regularly interspaced,short palindromic repeat(CRISPR)/CRISPR-associated(Cas)9遺伝子のmRNAが挙げられる。ワクチン抗原遺伝子のmRNAとしては、例えば、病原体抗原及び腫瘍特異的抗原をコードするmRNAが挙げられる。また、例えば、mRNAは、Cas9ヌクレアーゼをコードするmRNAとすることができ、これにより、mRNAを体内または対外の細胞に送達する効率が高まり、細胞内でのCas9エンドヌクレアーゼを高発現させ得る。Cas9ヌクレアーゼは、2つあるヌクレアーゼドメインの1つが不活性化されたニッカーゼであってもよい。Cas9ヌクレアーゼは、2つあるヌクレアーゼドメインの両方共が不活性化されており、かつ、転写活性化ドメインや転写不活性化ドメイン、メチル転移酵素、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)等の他のタンパク質(またはそのドメイン)と連結したものであってもよい。Cas9ヌクレアーゼをコードするmRNAを内包するポリプレックスミセルには、標的DNAに対するガイドRNA(gRNAともいう)(または、tracrRNAおよびcrRNA)が含まれていてもよい。mRNAは、哺乳動物細胞(特にヒト細胞)に適した修飾がなされ、かつ、哺乳動物細胞(特にヒト細胞)に適したコドンを使用したものとすることができる。
【実施例
【0038】
実施例1:mRNAを送達することに用いるためのブロックコポリマーの合成
本実施例では、以下式(I)で表される化合物:
【化3】
および
以下式(II)で表される化合物:
【化4】
をそれぞれ合成した(例えば、Christie R. James el at., Biomacromolecules 2011, 12, 3174-3185参照)。本実施例では、式(I)で表される化合物をPEG-PLys(AMP)ということがあり、式(II)で表される化合物をPEG-PLys(MP)ということがある。また、特にリジン残基のアミノ基に対するAMPまたはMPの導入比率(%)がp%である場合、式(I)の化合物は、「PEG-PLys(AMP-p)」または単に「AMPp」と表し、式(II)の化合物は、「PEG-PLys(MP-p)」または単に「MPp」と表すことがある。
【0039】
まず、PEG-PLysブロック共重合体のリジン残基に対して、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)または3,3’-ジチオビスプロピオンイミダート(DTBP)を用いて、様々なチオール化度を有するチオール基を導入した(表1参照)。
【0040】
【表1】
【0041】
SPDPの導入に関して、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニル(PDP)基をアミド結合を介して共重合体のリジン残基(リジンの側鎖ε-NH基と主鎖ω-NH基)に導入し、次いで、過剰量のジチオスレイトール(DTT)存在下で処理してリジン残基に3-メルカプトプロピオニル(MP)基を有する共重合体であるPEG-PLys(MP)を調製した。PEG-PLys(MP)の合成スキームはスキームaの通りであった。
【0042】
【化5】
【0043】
MPの導入によって、共重合体のPLys部分のカチオンチャージが減少している。これに対して、カチオンチャージを変化させない方法として、リジンの側鎖ε-NH基と主鎖ω-NH基のアミド化をDTBPを用いて行い、チオール基と共にカチオン性アミジン官能基を導入した。得られた共重合体をPEG-PLys(AMP)と称し、その合成スキームは、スキームbの通りであった。
【0044】
【化6】
【0045】
実施例2:mRNA内包型ポリプレックスミセルの調製と特性評価
ポリプレックスミセル(PM)は、各共重合体とmRNAとを混合して調製した。混合は、N/P比が2となるように行った{ここで、Nは、共重合体中のアミノ基およびアミジン基の数の合計であり、Pは、mRNA中のリン酸基の数である}。これにより、内包されるmRNAと共重合体のチャージ比を異なる共重合体を用いたPM間で一定とした。
【0046】
PMの物理化学的な特性評価を水力学的直径(D)、多分散度(PDI)、およびゼータポテンシャルを測定した(表2参照)。
【0047】
【表2】
【0048】
全てのPMは、50~65nmのDを有し、0.10~0.15の低いPDIを有していた。全てのPMはまた、ほぼ中性の表面電荷を示したが、このことは、調製されたPMがPEGで覆われていることを示すものである。興味深いことに、PEG-PLys(AMP)によるPMではいずれのPMでもチオール化度が上昇するにつれてDが減少した。このことは、ジスルフィド結合による架橋によってPMのコア部分へのmRNAのパッケージングがより強固になることを示唆する。これに対して、PEG-PLys(MP)では、Dの減少は認められず、PEG-PLys(MP-46)のDは、非架橋PMよりもむしろ大きかった。
【0049】
次に、mRNAの濃縮状況を調べるために、蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)測定をドナー蛍光色素とアクセプター蛍光色素で標識されたmRNAを用いて確認した。mRNAをCy3またはCy5で標識して、PMに搭載してFRET解析を行った。mRNAがより強固にパッケージングされると、Cy3とCy5との距離が近くなるためFRET効率が増加するはずである。PEG-PLys(AMP)のPMでは、非架橋PMと比較してFRET効率の増強が認められたが、PEG-PLys(MP)のPMでは、架橋の増加に伴うFRET効率の増強が観察されなかった(図1参照)。これらの結果はDLS測定と一貫しており、SH基の導入後にカチオン性チャージが減少していない共重合体によるPMでは、架橋によって強固なmRNAのパッケージングが引き起こされることが示された。
【0050】
次に、架橋によるmRNAの安定化効果を確認するために、ポリイオン交換反応に対するPMの耐性を評価した。デキストラン硫酸(DS)の添加後のPMからのmRNAの放出をゲル電気泳動で観察した。DSは、S/P比1において非架橋PMからのmRNAの放出を引き起こした{ここで、Sは、DS中の硫酸基の個数を示し、Pは、mRNA中のリン酸基の個数を示す}。これに対して、PEG-PLys(MP)やPEG-PLys(AMP)のPMではいずれでもS/P比10においてさえmRNAの放出に関して耐性であった。S/P比10では、PMは、高密度のアニオン性チャージを有する大量のアニオン性分子に露出していたはずである。これらの結果は、PLys部分においてカチオン性チャージと引き換えにSH基を導入したPEG-PLys(MP)でさえ、架橋がポリイオン交換反応に対して耐性であるPMを提供しうることを示す。すなわち、これらの結果は、大量のアニオン性高分子を含む厳しい生理的環境下においても架橋がPMの乖離を防ぐための実用的手段となり得ることを実証した。
【0051】
さらに、得られたPMのヌクレアーゼ耐性を確認するために、mRNAを含むPMをウシ胎児血清(FBS)中でインキュベートした後に、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)で評価した。この方法では、プライマーペア間が保護されたmRNAのみが検出されるため、ヌクレアーゼ等によるmRNAの分解の程度を検証することができる。結果は図3に示される通りであった。図3に示されるように、非架橋PMにmRNAを内包させると、裸のmRNA(ミセルに内包させていないmRNA)と比較して、残存mRNA量を10,000倍以上増加させた。このことは、ヌクレアーゼ耐性を改善するPMの能力を実証するものである。注目すべきことに、PEG-PLys(AMP)のPMにおいては、わずか13%のチオール化度の場合でさえ、非架橋PMと比較して4.9倍の残存mRNA量の増加を引き起こした。また、PEG-PLys(AMP-47)が非架橋PMと比較して残存mRNA量を9.4倍増加させたことから分かるように、PEG-PLys(AMP)のPMにおけるチオール化度を向上させるとヌクレアーゼ耐性がさらに改善した。これに対して、PEG-PLys(MP)のPMにおいては、対応する架橋率のPMと比較すると、残存mRNA量は、PEG-PLys(AMP)よりも有意に少なく、ほどほどのmRNAの保護効果を示した。これらの結果から、PMにおける共重合体間の架橋は、mRNAのヌクレアーゼに対する保護効果を高めるが、共重合体のカチオン性残基を減少させないことでmRNAのヌクレアーゼに対する保護効果を一層高めることができることが明らかとなった。
【0052】
図2に示されるように本実施例で調製した架橋PMは、いずれもDSに対してS/P比10のときでさえmRNAを放出することはなかった。一方で、FBSにはDSのような高密度アニオン性チャージを有するアニオン性分子は含まれていない。また、PEG-PLys(MP)では、非架橋PMに対してほどほどのmRNA保護効果しか示さなかったが、PEG-PLys(AMP)では大きなmRNA保護効果が示された。このことから、mRNAの保護効果は、mRNAが強固にパッケージングされていることに起因するものであると考えられ、すなわち、mRNAの保護には、mRNAのパッケージング状態が重要であると考えられた。図1に示されるように、PEG-PLys(AMP)のPMでは、PEG-PLys(MP)のPMや非架橋PMよりも強固なmRNAのパッケージングが引き起こされていると評価されている。
【0053】
実施例3:培養細胞へのPMの導入
培養細胞におけるタンパク質発現の誘導機能についてPMを評価した。PMに内包させるmRNAとしては、分泌型ルシフェラーゼであるガウシアルシフェラーゼ(GLuc)をコードするmRNAを用いた。また、培養細胞としては、ヒト肝細胞がん細胞株(HuH-7)を用いた。培養細胞へのPMの導入では、HuH-7細胞を12 wellプレートに50,000個/well蒔き、10% FBS, 1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む培地で24時間培養した。その後、培地を新しいものに交換し、GLuc mRNAを0.5 μg/well含むミセルを添加した。その後、培地を10 μLずつ採取し、GloMax(商標) 96 Microplate Luminometer (Promega Co., Madison, WI) とthe Renilla Luciferase Assay System (Promega Co., Madison, WI)を用い、培地に含まれるGLucの量を測定した。
【0054】
結果は、図4に示される通りであった。図4に示されるように、PEG-PLys(MP)のPMでは、非架橋PMと比較してタンパク質発現向上効果は限定的なものであり、顕著なタンパク質発現向上効果を示すことはなかった。これに対して、PEG-PLys(AMP)のPMでは、PEG-PLys(MP)に対してより高いタンパク質発現向上効果を示したが、特にPEG-PLys(AMP-26)において非架橋PMに対して5倍のタンパク質発現向上効果を示した。
【0055】
これらの結果は、非架橋PMおよびPEG-PLys(MP)と比較してPEG-PLys(AMP)がヌクレアーゼ耐性を増強させていること(図3参照)と一致する結果である。PEG-PLys(AMP)によってmRNAをPMに内包することにより、HuH-7細胞の培地に添加された後に培地中に存在するヌクレアーゼによる分解からmRNAが効果的に保護され、これにより、効果的なGLuc発現を可能としたものと考えられる。また、PEG-PLys(AMP-47)においてPEG-PLys(AMP-26)で観察された劇的なGLuc発現の増強効果が観察されなかったことも重要である。ジスルフィド結合による架橋は、還元環境である細胞内で還元され、これにより細胞内ではPMが崩壊してmRNAが放出されると考えられる。これに対して、PEG-PLys(AMP-26)では高いGLuc発現が観察され、PEG-PLys(AMP-47)ではその発現増強が顕著ではなかったことから、過剰な架橋は、細胞内環境におけるPMからのmRNAの放出を妨げる可能性が示唆された。
【0056】
次に、細胞内環境を模擬する環境下でPMからのmRNAの放出を評価した。細胞内環境は還元的であり、ジスルフィド結合の開裂を引き起こすが、高密度のアニオン性チャージを有するRNAを高濃度で含んでおり、PMを崩壊させてmRNAの放出を誘発する。細胞内環境を模擬するため、大量の非標識RNAを含む溶液中で、DTT存在下または非存在下でPEG-PLys(AMP-26)およびPEG-PLys(AMP-47)からのCy5標識mRNAの放出量を評価した。結果は、図6に示される通りであった。図6に示されるように、PEG-PLys(AMP-26)のPMでは、還元環境下でmRNAの放出が観察されたのに対して、PEG-PLys(AMP-47)では、還元環境下でのmRNAの放出量は少なかった。この結果は、架橋は、細胞内環境でのmRNAの放出を阻害する効果を有することを示唆するものであり、図4の結果と一貫するものであった。また、PMによる細胞毒性を観察したところ、いずれのPMにおいても細胞毒性は観察されなかった(図7参照)。
【0057】
細胞内でのmRNAの安定性が、GLuc発現におけるPEG-PLys(MP)とPEG-PLys(AMP)との相違の原因となった可能性が考え得る。そのため、細胞内取込み後のmRNAの安定性をqRT-PCRで評価した。HuH-7細胞に非架橋PM、PEG-PLys(MP-21)、およびPEG-PLys(AMP-26)それぞれを無血清条件下で接触させ、HuH-7細胞の細胞内にPMを導入し、その後、細胞を洗浄してPMを含まない培地に培地を変更することによって細胞内へのPMの取込みを停止させた。様々な時点でのmRNAの残存量をqRT-PCRによって定量した。PMの取込みを停止させた直後のmRNA量に対する相対的な細胞内のmRNAの残存量を求め、図5に示した。図5に示されるように、PMの取込みを停止させた1時間後では、非架橋PM中のmRNAと比較してPEG-PLys(MP-21)PMにより細胞内に導入したmRNAの残存量は24倍高く、PEG-PLys(AMP-26)ではそれよりもさらに3.1倍mRNAの残存量が高かった。その後の時点でも同様の傾向が認められた(図5参照)。
【0058】
PEG-PLys(MP-21)では、ほどほどのmRNA保護効果しか示さなかったのに対して(図3参照)、細胞内でのmRNAの安定性においては顕著な改善が認められた(図5参照)。このため、ポリイオン交換反応に対する高い耐性(図2参照)が、PEG-PLys(MP-21)による細胞内でのmRNAを部分的に説明すると考えられた。
【0059】
実施例4:類似する構造を有する共重合体PMとの比較
本実施例では、類似する構造を有する異なる共重合体によるPMに内包されたmRNAの安定性を評価した。具体的には、Christie R. James el at., Biomacromolecules 2011, 12, 3174-3185において、siRNAの安定化に適するとされたPEG-PLys(IM)のPMに内包されたmRNAの安定性を、実施例1~3で試験したPEG-PLys(AMP)のPMと比較した。
【0060】
MeO-PEG-PLysのポリリジン部分の側鎖ε-NH基と主鎖ω-NH基とにTraut’s試薬(イミノチオラン)を用いて1-アミジン-4-メルカプトブチル(AMB)基をコンジュゲートした。ここで、MeOは、メトキシ基を表し、PEGは、ポリエチレングリコールを表し、PLysは、ポリリジンを表す。簡単には、MeO-PEG-PLysブロック共重合体(50mg, 2.6μmol)を5重量%のLiClを含むN-メチルピロリドン(NMP)中に溶解させた。N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を重合体溶液(194μl、NH基に対して10mol過剰)に添加した。次に、IM(7.16 mg, 71.5 μmol)をNMPに溶解させ、IM溶液を室温で連続的攪拌下で重合体溶液に添加した。4時間後、反応した重合体溶液をジエチルエーテル内で沈殿させ、粉末状の粗生成物を得た。さらに、粗生成物は、ジエチルエーテルを用いて2回洗浄した。沈殿した重合体を0.01 NのHCl中に溶解させ、0.01 NのHClに対して1日間透析し、蒸留水に対して更にもう1日透析した。透析した重合体溶液を0.22μmのフィルターでろ過し、粉末形態のMeO-PEG-PLys(AMB)を得た。AMBコンジュゲートの程度は、IMの1-アミジン-4-メルカプトブチルプロトン[HS-(CH-CNH , δ= 2.1-3.43 ppm]に対するβ-、γ-、およびδ-メチレンプロトン[(CH, δ = 1.3-1.9 ppm]のピーク強度比によってH NMRスペクトルから決定した。同様の方法を用いて、様々な程度でAMBで置換されたMeO-PEG-PLys(すなわち、「PEG-PLys(IM)」)を調製した。
【0061】
非架橋ポリプレックスミセル(非架橋PM)は、PEG(Mw:12kDa)とPLys数76および20の重合度を有するPEG-PLysブロック共重合体から調製した。架橋ポリプレックスミセル(CPM)は、様々なチオール化の程度を有するPEG-PLys(MP)、PEG-PLys(IM)、およびPEG-PLys(AMP)ポリマーから調製した。複合体形成していない裸のガウシアルシフェラーゼ(GLuc)をコードするmRNA、非架橋PM、GLuc mRNAをmRNA濃度33.3μg/mlを含むCPMを50%ウシ胎児血清(FBS)(大日本住友製薬、大阪、日本)で37℃で15分間インキュベートした。FBS中に存在するリボヌクレアーゼに対してPM中で保護されたmRNAをRNeasy Mini Preparation Kit (Qiagen, Hilden, Germany)を用いてその製造者プロトコルに従って抽出した。CPMにおけるポリリジン間で形成されたジスルフィド架橋を還元してCPMからのmRNAの放出を促進するために、FBS中でインキュベート後のCPMを100mMジチオスレイトール(DTT)を含むRLT緩衝液中で37℃で15分間インキュベートした。次に、得られたサンプルに100μlのRNaseフリーの水を加え、250μlのエタノールを添加してmRNAを沈殿させた。次いでmRNAを製造者プロトコルにしたがって抽出した。抽出したmRNAをReverTra Ace(商標) qPCR RT Kit (Toyobo Life Sciences, Japan)を用いて逆転写してcDNAを得た。cDNAをGLuc特異的プライマーでPCRにより増幅させて、ABI Prism 7500 Sequence Detector (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いた定量的RT-PCRで定量した。用いたプライマー配列は以下の通りであった:
【化7】
【0062】
比較のため、PEG-PLys(MP)、PEG-PLys(IM)、およびPEG-PLys(AMP)ブロック共重合体から得られたPM試料それぞれに対して、FBSと接触させ、上記37℃でのインキュベーションをせずに、mRNAの定量を行った。
【0063】
結果は、図8に示される通りであった。図8に示されるように、重合度76のPLysブロックを有するポリマーでは、PEG-PLys(IM)によるmRNAの保護効果は限定的であり、特にチオール化率24%では、却ってmRNAの保護能力を失った。これに対して、PEG-PLys(AMP-26)では、mRNAの保護能力が顕著に高かった。
また、図9には、重合度20のPLysブロックを有するポリマーで同様の実験を行った場合においても、PEG-PLys(IM)(単に「IM」と表記することがある)では、mRNAの保護能力を消失させたのに対して、PEG-PLys(AMP)では、mRNAの高い保護能力を獲得した。
【0064】
本実施例では、ポリオキサゾリン-PLys(AMP)ブロック共重合体を用いて同様の実験を行った。具体的には、トリブロック共重合体は、非電荷親水性連鎖ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(PEtOx)と温度応答性連鎖ポリ(2-n-プロピル-2-オキサゾリン)からなるブロックセグメントと、カチオン性連鎖ポリリジン(PLys)を合成し、これらを結合することで作成した。トリブロック共重合体の合成スキームは以下スキーム1~3に示される通りであった。
【0065】
【化8】
【化9】
【化10】
【0066】
より具体的には、トリブロック共重合体の合成では、まずアルキン末端を持つ重合開始剤p-トルエンスルホン酸プロパルギル(61 mg, 0.29 mmol)をアセトニトリル9 mLとクロロベンゼン9 mLに溶解させ、2-n-プロピル-2-オキサゾリン( 2.3 g, 20 mmol)を加えた。反応溶液を42℃で6日間反応させた後、2-エチル-2-オキサゾリン(4.3 g, 44 mmol)を加えてさらに6日間反応を行った。ここで用いたp-トルエンスルホン酸プロパルギルは東京化成より購入し、Wako社より購入した五酸化ニリンを脱水剤として用いて蒸留精製して使用した。オキサゾリンモノマーは東京化成より購入し、シグマアルドリッチ社より購入したカルシウムハイドライドを脱水材として用いて蒸留精製して使用した。反応溶媒のアセトニトリル、クロロベンゼンはwako社より購入し、それぞれカルシウムハイドライド、五酸化二リンを脱水剤として用いて蒸留精製して使用した。重合反応後、反応溶液を水に対して5回透析し、凍結乾燥することでアルキン末端を持つジブロック共重合体、Alkyne-PnPrOx-PEtOxを得た。得られたポリマーは、MALDI-TOF MS(UltraFlextreme, Bruker社)とH-NMR(ESC400, JEOL)による解析から、PnPrOxの分子量が7.3k、PEtOxの分子量が13.7kであることが分かった。
【0067】
別途、アジド末端を持つポリリジン(PLys-N)を合成した。これは、シグマアルドリッチ社より購入した11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミンを開始剤として用い、非特許文献(J. Polym. Sci. Part A Polym. Chem. 2003, 41 1167-1187)に則りFuchs-Farthing法により合成したN-トリフルオロアセチル-L-リジン N-カルボキシアンヒドリド(以下、「Lys(TFA)-NCA」という)を重合させ、その後塩基で処理することで得られる。開始剤(22 mg, 0.10 mmol)を1Mの濃度のチオウレア(以下、「TU」という)を溶かしたDMF(以下、「DMF(1M TU)」という)2 mLに溶解させた。別途Arバック中でLys(TFA)-NCA(1.35 g, 5.0 mmol)をフラスコに測りとり、15 mLのDMF(1M TU)に溶解させた。調製したLys(TFA)-NCA溶液を、Ar雰囲気下で開始剤溶液に加え、25℃で2日間撹拌して重合反応を行った。反応溶液を水に対して5回透析したのち、凍結乾燥することでPoly(L-リジン)(TFA)(以下、「PLys(TFA)という)を得た。得られたPLys(TFA)を500 mg測りとり、25 mLのメタノールに溶解させた。反応後は、0.01M HClに対して3回透析を行った後、水に対して3回透析を行い、凍結乾燥によりアジド末端を持つポリリジン、PLys-Nを回収した。得られたポリマーは、H-NMR(ESC400, JEOL)による解析から、重合度が51であることが分かった。
【0068】
続いて、Alkyne-PnPrOx-PEtOxとPLys-Nをクリックケミストリーによりカップリングした。Alkyne-PnPrOx-PEtOx (210 mg, 0.01 mmol)を水2 mLに溶解し、1M のCuSO溶液と1Mのアスコルビン酸ナトリウム溶液を20 μLずつ加え、撹拌した。別途、PLys-N(35 mg, 0.0044 mmol)を水1 mLに溶解し、Alkyne-PnPrOx-PEtOx溶液に加え、-20℃で一晩静置し、4℃で2時間かけて融解させた。生成物は、反応溶液を水に対して5回透析し、凍結乾燥することで回収した。ここでの回収物はトリブロック共重合体の他に、PLys-Nを全て反応させるために過剰に加えたAlkyne-PnPrOx-PEtOxも含まれている。これら二つのジオキサンへの溶解性の違いに着目し、精製作業を行った。回収物をwako社より購入した脱水ジオキサンに分散させて遠心分離により上澄みを取り除く工程を3回行い、ジオキサンへの溶解性が高いAlkyne-PnPrOx-PEtOxのみを取り除き、溶解性の低いトリブロック共重合体のみを沈殿物として回収した。
【0069】
カップリングの進行や、精製作業後の回収物はGEヘルスケア社のカラムSuperdex 200を用いたSEC(AKTAexplorer, GE Helthcere)によって分析した。
【0070】
本トリブロック共重合体の下限臨界共溶温度(LCST)は約30℃であった。
【0071】
PEtOx-PnPrOx-PLys(AMP-X)の合成
これまでに報告した方法[J Drug Target. 2019;27(5-6):670-680]に従い、チオール化の程度が異なる一連のPEtOx-PnPrOx-PLy(AMP-X)ポリマーを、ホモ二官能性イミドエステル系のチオール化試薬であるDTBP(Thermo Scientific, Rockford, IL)を用いてPLysセグメントの側鎖ω-NH基および主鎖ω-NH基に1-アミジン-3-メルカプトプロピル(AMP)を導入して合成した。簡単に述べると、PEtOx-PnPrOx-PLys(10mg、0.35μmol)を、室温で10分間撹拌しながら、100mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)に溶解した。その後、100 mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH 9.0)に新たに溶解したDTBP(3.1 mg、10.0 μmol)を、室温で1時間恒常的に攪拌しながらPEtOx-PnPrOx-PLys溶液に滴下した。その後、ポリマー溶液をPBS緩衝液(pH7.4)に対して2時間以内に4回透析し、未反応のDTBPを除去した。透析溶液中のポリマーを室温で1時間DTT(100mM)処理して、ポリマー内および/またはポリマー間の予め形成されたジスルフィド架橋を切断し、隣接するAMP基にチオールを含むポリマーを生じた(以下、「PEtOx-PnPrOx-PLy(AMP)」という)。PEtOx-PnPrOx-PLys(AMP)をPBS緩衝液(pH7.4)に対して3時間以内に4回透析してDTTを除去し、最後に脱イオン水に対して3時間以内に6回透析してPBSを除去した。ポリマー溶液を濾過し(0.22μmフィルター)、凍結乾燥して粉末として得た。H NMRスペクトルから、AMP基のメルカプトエチルプロトン[HS-(CH、= 2.7~2.9ppm]に対するリジン単位[(CH、= 1.3~1.9ppm]のβ-、γ-、およびδ-メチレンプロトンのピーク強度比を計算して、AMP導入の程度を20%と決定した。反応中のPLysの-NH基に対するDTBPの供給比の様々な化学量論を変えることにより、様々な段階的な程度のAMP導入が生じた。PEtOx-PnPrOx-PLysのPLysセグメントの総-NH基にAMP導入度がX%のPEtOx-PnPrOx-PLys(AMP-X)ポリマーは、PEtOx-PnPrOx-PLys(AMP-X)と略記された。
【0072】
ポリプレックスミセル(PM)の調製
PEtOx-PnPrOx-PLysおよびPEtOx-PnPrOx-PLys(AMP-X)ポリマーを10mM HEPES緩衝液(pH7.3)に別々に溶解した。mRNAも10mM HEPES緩衝液(pH7.3)に別々に溶解した。
非架橋PM(非CPM)は、1単位体積のPEtOx-PnPrOx-Plys溶液を2単位体積のmRNA溶液に高速ボルテックス混合することにより、ブロック共重合体(N)の[mRNA(P)のリン酸基](N/P)に対する[アミノ基およびアミジン基]の残留モル比を2として調製した。
架橋PMは、PEtOx-PnPrOx-PLys(AMP-X)ポリマーから調製した。簡潔に述べると、PEtOx-PnPrOx-PLys(AMP-X)ポリマーを10mM DTTを含む10mM HEPES緩衝液(pH7.3)で処理し、ポリマー内の望ましくないジスルフィド架橋を切断してmRNAとの複合体形成前にチオール基を誘導化するために、少なくとも30分間室温でインキュベートした。PMは、N/P比2でDTTなしで10mM HEPES緩衝液(pH7.3)中のmRNA溶液中へのDTT前処理AMP-Xポリマー溶液の高速ボルテックス混合により調製した。この条件では、チオール基はポリマー間のジスルフィド架橋を形成していない。PMを4℃で4時間インキュベートし、続いてDMSO(5%v/v)で4℃で1日間インキュベートした。添加されたDMSOはチオール基の穏和な酸化剤であり、PEtOx-PnPrOx-PLys(AMP-X)ポリマーのリジン残基間のジスルフィド架橋の形成を促進する。
【0073】
ポリプレックスミセル(PM)の血液循環の評価
GLuc mRNAを積載したAMP-Xの非CPMおよびCPMを、150mM NaClを含む10mM HEPES緩衝液200μL中の40μgのmRNAの用量で、マウスに別々に尾静脈を介して静脈内注射した。血流内のPMの保護mRNAの量は、RNeasy Mini Preparation Kit(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて製造のガイドラインに従って抽出した。要するに、注射後の測定時点(2.5、5および10分)で、尾静脈切断から2μLの血液を取り出し、直ちに、100mM DTTおよびβ―メルカプトエタノール(最終濃度1%)、RLT溶液(RNeasy Mini Preparation Kitから)(350μL)を補充した緩衝液に移し、直ちに液体窒素で凍結した。凍結したサンプルを37℃で1時間インキュベートした。この間に、DTTは、mRNAを効果的に抽出するために、CPMのコア内のジスルフィド架橋の減少を促進すると予想される。非CPMもCPMと同様にDTTおよびRLT混合物による処理を受けた。インキュベーション後、mRNAを、製造業者のプロトコルに記載されたさらなる工程に従うことにより抽出した。抽出したmRNAを逆転写し、ReverTra Ace(商標)qPCRRTキット(Toyobo Life Sciences、大阪、日本)を用いて相補的DNA(cDNA)を形成した。cDNAを、ABI Prism 7500 Sequence Detector(Applied Biosystems, Foster City, CA)およびGLuc mRNAの204bp配列を増幅するGLuc特異的プライマー対(フォワードプライマー:GGAGGTGCTCAAAGAGATGG、及びリバースプライマー:TTGAACCCAGGAATCTCAGG)を用いた定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)のために使用した。
【0074】
非CPM、AMP-X PM製剤および裸のmRNAのqRT-PCRの各々について、公知の標準濃度のGLuc mRNAを、37℃でインキュベートすることなく血液とmRNAの混合物を用いることによって、血流中でPM中に保護されたmRNAの濃度を外挿するために調製した。標準試料の調製において、血液のRNaseを、各PM製剤の血液および標準mRNA濃度を混合した直後にmRNA分解を避けるために、10mM DTTおよびRLT溶液を含む緩衝液に血液を添加することによって、最初に不活性化した。DTTは、タンパク質のジスルフィド架橋を分解することにより、RNaseを不活性化すると予想される。得られた溶液を、RNeasy Mini Preparation Kitを用いて同様の抽出プロトコールに付し、その後、逆転写および前述のようにqRTPCR測定を行った。
【0075】
結果は、図10に示される通りであった。図10に示されるように、裸のmRNAは血中で即座に分解されるのに対して、非CPM中のmRNAとインビボフェクタミン中のmRNAは安定化効果を示したが、ポリオキサゾリン-PLys(AMP)ブロック共重合体は、積載したmRNAを更に顕著に安定化させることが明らかとなった。このように、非電荷親水性ポリマーブロックとしてポリオキサゾリンを用いたPLys(AMP)ブロック共重合体も、血中においてmRNAの滞留性を向上させた。
図1
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図10
【配列表】
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