(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】金属炭化物粒子を含む水性懸濁液
(51)【国際特許分類】
C01B 32/914 20170101AFI20240701BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C01B32/914
C04B41/87 U
(21)【出願番号】P 2020542361
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2019052235
(87)【国際公開番号】W WO2019154690
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】102018201771.9
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】シュワンケ スタニスラウス
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】マイスナー エルケ
(72)【発明者】
【氏名】エペルバーム ボリス
(72)【発明者】
【氏名】ライマン クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー ルーカス
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-515664(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106699228(CN,A)
【文献】特表2008-501612(JP,A)
【文献】特開2001-206771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
C04B 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの
タンタル炭化物粒子と、少なくとも1つの分散剤とを含む水性懸濁液であって、
前記少なくとも1つの
タンタル炭化物粒子の割合は、前記懸濁液の全重量を基準として、
60重量%~95重量%の範囲内であり
、
前記少なくとも1つのタンタル炭化物粒子は、0.05~25μmの範囲内の平均粒径を有し、
前記分散剤は、ポリアクリル酸、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、およびそれらの混合物からなる群から選択され、
前記分散剤の割合が、前記懸濁液の全重量を基準として、0.05重量%~5重量%の範囲内である、水性懸濁液。
【請求項2】
前記少なくとも1つの
タンタル炭化物粒子が、<300ppmの個々の元素不純物の含有量を有し;ならびに/あるいは
前記ポリアクリル酸が、3000~10000g/molの範囲内の数平均分子量を有す
る、ことを特徴とする請求項1に記載の水性懸濁液。
【請求項3】
塩基、水酸化ナトリウム溶液、消泡剤、脂肪アルコールポリアルキレングリコールエーテル、焼結助剤、コバルトまたはシリコン、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の水性懸濁液。
【請求項4】
前記
タンタル炭化物粒子の割合が、前記懸濁液の全重量を基準として、
60重量%~90重量%の範囲内であり;ならびに/あるいは
前記分散剤の割合が、前記懸濁液の全重量を基準として、
0.1重量%~
2重量%の範囲内であり;ならびに/あるいは
少なくとも1つの添加剤の割合が、前記懸濁液の全重量を基準として、0重量%~10重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の水性懸濁液。
【請求項5】
以下の工程を含む、基材のコーティング方法:
i)基材を提供する工程;
ii)請求項1~4のいずれか一項に記載の水性懸濁液を提供する工程;
iii)工程ii)からの前記懸濁液を、工程i)からの前記基材の表面に塗布する工程;
iv)塗布された懸濁液を乾燥させて、前記基材の表面にコーティングを形成する工程。
【請求項6】
前記基材が、グラファイト、調整された熱膨張係数を有する材料、6.5~7.5×10
-6K
-1の範囲内に調整された熱膨張係数を有するグラファイト、およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
さらに、以下の工程を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の方法:
v)工程i)で提供された前記基材を、工程iii)の前に、表面の機械的粗面化、表面の熱的前処理、表面の化学的処理、およびそれらの混合からなる群から選択される手段によって行われる前処理、ならびに、その後の、超音波処理によって行われる、洗浄を伴う前処理をする工程;
vi)工程iv)の後に得られたコーティングを焼結する工程。
【請求項8】
工程iii)における前記懸濁液を、塗装、浸漬または噴霧によって塗布することを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程iv)を、100~600℃の範囲内の温度で実施し、工程iv)を5~40時間の期間にわたって実施し、乾燥工程iv)において温度を段階的に上昇させ、以下の温度範囲および時間間隔とする:
(1)140~160℃で2.5~3.5時間;その後
(2)180~220℃で1.5~2.5時間;その後
(3)(2)の温度で2時間保持し;その後
(4)200~250℃で1.5~2.5時間;その後
(5)310~350℃で4.5~5.5時間;その後
(6)330~350℃で1.5~2.5時間;その後
(7)(6)の温度で2時間保持し;その後
(8)380~420℃で3.5~4.5時間;その後
(9)430~470℃で1.5~2.5時間;
ならびに/あるいは
工程vi)を、2000~2600℃の範囲内の温度で実施し、工程vi)を1~10時間の期間にわたって実施し;および/または
工程vi)を、500~900トルの範囲内の圧力で実施し;および/または
工程vi)を、ヘリウム、アルゴン、窒素、およびそれらの混合物からなる群から選択される不活性ガスの下で実施することを特徴とする請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程iv)の後および/または工程vi)の前のコーティングの未焼密度が、少なくとも50%であり;ならびに/あるいは
工程iv)またはvi)の後のコーティングが、300ppm未満の不純物含有量を有し;ならびに/あるいは
工程iv)またはvi)の後のコーティングが、5%未満の開放気孔率を有することを特徴とする請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程iv)またはvi)の後のコーティングの厚さが、20~500μmの範囲内であり;ならびに/あるいは
分散剤としてのポリアクリル酸の場合、工程iii)の前の前記水性懸濁液のpHが、5~10の範囲内であることを特徴とする請求項5~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項5~11のいずれか一項に記載の方法によって製造可能な被覆基材。
【請求項13】
コーティングの厚さが、20~500μmの範囲内であることを特徴とする請求項12に記載の被覆基材。
【請求項14】
炭化物材料としての請求項12または13に記載の被覆基材の使用。
【請求項15】
結晶成長のための用途、物理気相プロセス、エピタキシープロセスにおける用途、および坩堝のための用途における請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属炭化物粒子及び分散剤を含む水性懸濁液、ならびにこれらの水性懸濁液を使用して基材(substrate)をコーティングする方法に関する。本発明はさらに、本発明の方法によって製造可能な被覆基材及びその使用に関する。
【0002】
高融点金属炭化物、例えばチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、及びシリコンの炭化物は、それらの高い機械的、化学的及び熱的安定性によって特徴付けられる。その結果、炭化物材料は、固体セラミック体の形態又はコーティングの形態で広く使用される。例えば、炭化物材料は、高温及び/又は化学的に攻撃的な環境での材料の製造、切削工具又はその他のエンジンノズルの製造、ならびに結晶成長において使用される。
【0003】
しかし、それらの機械的硬度により、金属炭化物の加工(process)が困難になる。これは、比較的複雑な形状を有する固体成形体が、これらの材料から、困難かつ相当なコストを伴ってのみ製造可能であることを意味する。このため、構造部品はほとんどの場合、金属炭化物で被覆のみされている。
【0004】
通常使用されるコーティング方法は、CVD(化学蒸着)及びPVD(物理蒸着)プロセスである。しかしながら、これらのプロセスによって得られるコーティングは、通常、最大数マイクロメートルの厚さしかなく、長期安定性に乏しいため、例えば、炭化ケイ素又は窒化アルミニウム結晶の製造における特定の用途には十分ではない。
【0005】
また、従来技術は、金属炭化物粒子の有機懸濁液を塗装、噴霧又は浸漬によって被塗装部品に塗布(apply)し、その後焼結プロセスを行う湿式セラミックプロセスによって製造された金属炭化物コーティングの説明を含む。
【0006】
米国特許第2013/0061800A1号明細書には、等方性グラファイトを含むグラファイト基材を含む熱安定性の高い素子(element)が記載されている。また、熱安定性の高い素子は、タンタル炭化物(炭化タンタル)などの炭化物を含む炭化物コーティングを含む。さらに、炭化物粒子を懸濁液から基材上に堆積させる、前記素子の製造方法について記載されている。これは、液相として有機溶媒を含む懸濁液を用いて行われる。
【0007】
タンタル炭化物でグラファイトをコーティングするための湿式セラミックプロセスは、また、D.Nakamura、T.Kimura、T.Narita、A.Suzumura、T.Kimoto、及びK.Nakshimaによって、Journal of Crystal Growth,vol. 478,2017,163~173ページに、ならびにD.Nakamura、K.Shigedo、及びA.Suzumuraによって、Journal of the European Ceramic Society,vol. 37,2017、1175~1185ページに記載されている。公知の方法では、タンタル炭化物は、有機溶媒をベースとする懸濁液から堆積される。
【0008】
従来技術から知られている湿式セラミックプロセスは、層が場合によっては数百マイクロメートルの厚さである比較的厚い層の製造を可能にする。CVD又はPVDプロセスによって製造された層とは対照的に、湿式セラミックプロセスによって製造された層は、ランダムな粒子配向を有する等方性組織を有し、その結果、亀裂(crack)に対する感受性が低下し、基材損傷種の拡散経路が増大する。
【0009】
しかしながら、有機溶媒をベースにした懸濁液は、重要な不利益を有する。有機溶媒の毒性から生じる生態学的及び健康上の考慮に加えて、このような懸濁液の使用はまた、高可燃性噴霧ミストの安全性の問題を伴う。さらに、有機溶媒は熱分解によって除去しなければならない。その結果、望ましくない異物がコーティングに導入される。さらに、既知の懸濁液では、特に噴霧プロセスの場合、懸濁液の特性が前記プロセスの間の溶媒の蒸発により変動する可能性があるので、懸濁液の制御された塗布は不可能であり、これは、経時的に均質な層を得ることが不可能になることを意味する。
【0010】
さらに、有機溶媒をベースにした既知の懸濁液では、限られた程度しか可能ではないが、炭化物コーティング中の開孔対閉孔の比に影響を及ぼすことができることが望ましい。さらに望ましい目的は、基材表面からの浸透の深さがより深いコーティングを達成する能力である。
【0011】
これに基づいて、本発明の目的は、生態学的、健康及び安全性のいずれの問題とも関連しない懸濁液を提供することであった。非常に純粋で熱分解工程を必要としないコーティングの懸濁液からの製造も可能であるはずである。提供された懸濁液を使用して、非常に均質な層を経時的に堆積させ、懸濁液から堆積させたコーティング中の開孔と閉孔との間の比率を制御することも可能であるべきである。加えて、提供された懸濁液から堆積されたコーティングの、コーティングされる基材の表面からの浸透の深さは、増大されるべきである。さらに、コーティングはガス透過性が低く、耐熱衝撃性が高く、化学的に攻撃的な雰囲気に対して安定でなければならない。
【0012】
有機溶剤を含む懸濁液を液相として使用することによって生じる生態学的、健康及び安全性の問題は、水を液相として使用することによって排除することができた。
【0013】
しかし、これまで水は、様々な理由から、金属炭化物懸濁液の液相とは考えられていなかった。第一に、金属炭化物は非常に高密度(タングステン炭化物15.6g/cm3、タンタル炭化物13.9g/cm3)であり、その結果、非常に急速に偏析する。しかし、高い均質性を有する層を堆積するためには、金属炭化物粒子を懸濁液中に懸濁させることが極めて重要である。
【0014】
さらに、水性懸濁液中に必要な高い固形分含有量は、金属炭化物粒子の凝集が予想されなければならないことを意味し、そのような懸濁液から堆積されたコーティング中の未焼密度(green density)の減少及び亀裂を引き起こす。一方、有機溶媒は、その官能基を介して、凝集を少なくともある程度は抑制する選択肢を与える。
【0015】
本発明の目的は、水を液相とする場合に生じる上記課題を解決することにある。
【0016】
この目的は、下記の技術的特徴を有する請求項1に記載の特徴を有する水性懸濁液によって達成される。
【0017】
少なくとも1つ(1種)の金属炭化物粒子及び少なくとも1つ(1種)の分散剤を含む水性懸濁液であって、
前記少なくとも1つの金属炭化物粒子の割合が、前記懸濁液の全重量に対して、30重量%~95重量%の範囲内である。
【0018】
本発明による前記懸濁液の有利な実施形態は、請求項2~4に特定されている。
【0019】
本発明はさらに、請求項5に記載されているように、以下の工程を含む、本発明の水性懸濁液を用いて基材をコーティングする方法に関する:
i)基材を提供する工程;
ii)本発明の水性懸濁液を提供する工程;
iii)工程ii)からの懸濁液を、工程i)からの基材の表面に塗布する工程;
iv)塗布された懸濁液を乾燥させ、基材の表面にコーティングを形成する工程。
【0020】
この方法の有利な実施形態は、請求項6~11に特定されている。
【0021】
本発明はさらに、請求項12及び13に記載されているように、本発明の方法によって製造可能な基材に関し、請求項14及び15は、前記基材の使用を特定している。
【0022】
用語の定義
本発明の文脈における「水性懸濁液」では、水が液相として使用される。前記相中には、最大2重量%、好ましくは最大1重量%の他の溶媒が存在してもよい。ただし、「水性懸濁液」の液相は水のみであることが特に好ましい。
【0023】
本発明における「平均粒径」とは、d50値、すなわち、粒子の50%がより小さい粒子直径を有し、粒子の残りの50%がより大きい粒子直径を有する値を意味するものと理解される。レーザー散乱によって、懸濁液上の「平均粒径」を直接測定することが好ましい。凝集体のサイズは、好ましくは、レーザー散乱によって、懸濁液上で直接測定される。
【0024】
金属炭化物粒子又は前記粒子から形成されるコーティングの「純度」は、個々の元素不純物(elemental impurity)に関する化学的純度を意味するものとして理解される。純度はGDMS(グロー放電質量分析)で測定することが好ましい。
【0025】
本発明の文脈において、コーティングの「未焼密度」とは、焼結金属炭化物層の理論密度に関して生成される層の密度を意味するものとして理解される。
【0026】
本発明の文脈において、半金属(metalloid)シリコンの炭化物は、金属炭化物とみなされる。
【0027】
記載された数量
液相としての水に加えて、本発明による水性懸濁液はまた、少なくとも1つの金属炭化物粒子、少なくとも1つの分散剤、及び任意の添加剤を含む。記載された数量は、それぞれの場合、懸濁液の全重量(総重量)に基づいており、存在する成分(component)の全重量は、合計で100重量%になる。
【0028】
水性懸濁液
本発明の水性懸濁液は、少なくとも1つの金属炭化物粒子と、少なくとも1つの分散剤とを含み、少なくとも1つの金属炭化物粒子の割合は、懸濁液の全重量に対して、30重量%~95重量%の範囲内である。金属炭化物粒子の割合は、好ましくは懸濁液から揮発性成分を除去することにより決定され、好ましくは懸濁液を水の蒸発温度より高い温度に加熱することにより行われる。金属炭化物粒子の割合は、秤量した量から決定できる。
【0029】
本発明による水性懸濁液の好ましい実施形態を以下に示す。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの金属炭化物粒子は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、シリコンの炭化物、及びこれらの混合物からなる群から選択され、タンタル炭化物が優先される。
【0031】
ここで、少なくとも1つの金属炭化物粒子の平均粒径は、0.05~25μmの範囲内であることが好ましく、0.5~5μmの範囲内であることがより好ましく、1~2μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0032】
さらに、少なくとも1つの金属炭化物粒子は、個々の元素不純物の含有量が、<300ppm、好ましくは<10ppm、より好ましくは1ppm未満であることが好ましい。金属炭化物粒子が十分な純度で市販されていない場合、これらを、湿式化学精製などの当業者に公知の方法によって精製することができる。さらに、水性懸濁液から堆積されるコーティングの純度は、使用される金属炭化物粒子の純度に必ずしも対応しない。以下に説明する本発明の方法により、不純物の除去が可能である。
【0033】
特に好ましくは、少なくとも1つの金属炭化物粒子の平均粒径は、0.05~25μm、より好ましくは0.5~5μm、特に好ましくは1~2μmの範囲内であり、個々の元素不純物の含有量が、<300ppm、好ましくは<10ppm、より好ましくは1ppm未満である。
【0034】
好ましい金属炭化物はタンタル炭化物であり、特に好ましくは立方晶の相分率が70~100%である。
【0035】
別の好ましい実施形態において、分散剤は、好ましくは3000~10000g/mol、より好ましくは4000~6000g/molの範囲内の数平均分子量を有するポリアクリル酸、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、及びそれらの混合物からなる群より選択される場合がある。
【0036】
本発明の別の好ましい実施形態において、これは、塩基、特に水酸化ナトリウム溶液、消泡剤、特に脂肪アルコールポリアルキレングリコールエーテル、焼結助剤、特にコバルト又はシリコン、及びそれらの混合物からなる群から好ましく選択される、少なくとも1つ(1種)の添加剤を含む。特に好ましい添加剤は消泡剤である。後者(the latter)の使用は懸濁液中の気泡形成を抑制し、亀裂を減少させた。
【0037】
本発明のさらに好ましい実施形態では、金属炭化物粒子の割合は、懸濁液の全重量を基準として、40重量%~90重量%、好ましくは60重量%~85重量%の範囲内にある場合があり得る。
【0038】
本発明の他の好ましい実施形態では、分散剤の割合は、懸濁液の全重量を基準として、0.05重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~2重量%の範囲内にある場合があり得る。
【0039】
本発明のさらに好ましい実施形態では、懸濁液中の添加剤の割合は、懸濁液の全重量を基準として、0重量%~10重量%、好ましくは0.5重量%~5重量%の範囲内である。
【0040】
本発明の別の好ましい実施形態では、それぞれの場合において、懸濁液の全重量を基準として、金属炭化物粒子の割合は、40重量%~90重量%、好ましくは60重量%~85重量%の範囲内にあり、分散剤の割合は、0.05重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~2重量%の範囲内にあり、懸濁液中の添加剤の割合は、0重量%~10重量%、好ましくは0.5重量%~5重量%の範囲内にある。
【0041】
本発明のさらに好ましい実施形態では、懸濁液のpHが5~10、好ましくは7~8の範囲内である場合があり得る。分散剤としてポリアクリル酸を用いる場合、pHは7~8の範囲内が好ましい。
【0042】
さらに好ましい実施形態において、水性懸濁液は、水、金属炭化物粒子、分散剤、及び上記の添加剤以外の成分を含まない。
【0043】
本発明のさらに好ましい実施形態において、水性懸濁液は有機溶媒を完全に含まない。
【0044】
方法
基材をコーティングするための本発明の方法は、以下の工程を含む:
i)基材を提供する工程;
ii)本発明の水性懸濁液を提供する工程;
iii)工程ii)からの懸濁液を、工程i)からの基材の表面に塗布する工程;
iv)塗布された懸濁液を乾燥させ、基材の表面にコーティングを形成する工程。
【0045】
本発明による方法の好ましい実施形態を以下に示す。
【0046】
本発明による方法の好ましい実施形態では、基材は、グラファイト、調整された熱膨張係数を有する材料、好ましくは6.5~7.5×10-6K-1の範囲内の調整された熱膨張係数を有するグラファイト、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0047】
本発明による方法のさらなる好ましい実施形態では、前記方法が、以下のさらなる工程を含む場合があり得る:
v)工程i)において提供された基材を、工程iii)の前に、好ましくは、表面の機械的粗面化、表面の熱的前処理、表面の化学的処理、及びそれらの混合からなる群から選択される手段によって行われる前処理、ならびに、その後の、特に超音波処理によって行われる、洗浄を伴う前処理をする工程;
vi)工程iv)の後に得られたコーティングを焼結する工程。
【0048】
基材上のコーティングの良好な接着を達成するためには、まず基材を機械的に粗面化し、次いで超音波処理による適切な洗浄工程によって親水性の表面を形成することが特に有利である。特にグラファイト基材の場合、表面上の遊離粒子(loose particle)の数を確実に除去するか、又は少なくとも減少させるように注意しなければならない。
【0049】
別の好ましい実施形態では、工程iii)の懸濁液は、塗装、浸漬又は噴霧によって塗布される。
【0050】
噴霧により塗布する場合、基材は、好ましくは、回転可能なターンテーブルの中央に配置され、特別なホルダーによって所定の位置に固定される。ターンテーブルの傾斜角及びスプレーガンの噴霧角度は、特別に指定されたホルダーを使用して、コーティングされるべき基材の幾何学的形状に応じてさらに調整される。次いで、基材を、明確に規定された噴霧パラメータ(噴霧器の空気圧、ニードルリフトを介した材料供給の絞り、及びノズル開口部から基材表面までの距離を含む)下で、水性懸濁液を用いてコーティングする。噴霧プロセス中のターンテーブルの回転速度は、その後のコーティングの所望の層厚によって導かれる。
【0051】
本発明のさらに好ましい実施形態では、工程iv)は、100~600℃、好ましくは120~550℃、より好ましくは145~455℃の範囲内の温度で実施され、工程iv)を、5~40時間、より好ましくは20~30時間の期間にわたって実施することが優先される。
【0052】
亀裂のない層を得るためには、工程iv)で得られたコーティングをいくつかの温度段階にわたってアニールすることが有利であることが証明されている。保持相を含むことは、過度に急速な乾燥と、その結果として生じる亀裂を防止するために特に好ましい。特定の保持相は、使用した分散剤の蒸発挙動によって導かれる。焼結助剤としてコバルトを用いる場合には、不活性ガス雰囲気下で乾燥処理を行うと有利である。
【0053】
好ましい乾燥プロセスiv)において、温度範囲及び時間間隔は、以下の通りであり得る:
(1)140~160℃で2.5~3.5時間;その後
(2)180~220℃で1.5~2.5時間;その後
(3)(2)の温度で2時間保持し;その後
(4)200~250℃で1.5~2.5時間;その後
(5)310~350℃で4.5~5.5時間;その後
(6)330~350℃で1.5~2.5時間;その後
(7)(6)の温度で2時間保持し;その後
(8)380~420℃で3.5~4.5時間;その後
(9)430~470℃で1.5~2.5時間。
【0054】
本発明の別の好ましい実施形態において、工程vi)(=焼結)は、2000~2600℃、好ましくは2100~2500℃、より好ましくは2200~2300℃の範囲内の温度で実施される。1~10時間、より好ましくは3~5時間の期間にわたって、工程vi)を実行することが特に好ましい。さらに好ましくは、工程vi)を、500~900トル、好ましくは600~800トル、より好ましくは680~720トルの範囲内の圧力で実施する。
【0055】
本発明の別の好ましい実施形態では、工程vi)は不活性ガス下で行われ、不活性ガスは、ヘリウム、アルゴン、窒素、及びそれらの混合物からなる群から選択されることが特に好ましい。
【0056】
コバルト又はシリコンなどの焼結助剤の添加は、焼結プロセス中の流動挙動を高め、達成可能な被覆端密度を増加させる。
【0057】
本発明の別の好ましい実施形態では、工程v)の前のコーティングの未焼密度は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%である。
【0058】
さらに好ましい実施形態では、工程iv)又はvi)の後のコーティングが、300ppm未満、好ましくは1ppm未満の個々の元素不純物の含有量を有する場合があり得る。
【0059】
別の好ましい実施形態では、工程iv)又はvi)の後のコーティングは、5%未満、好ましくは1%未満の開放気孔率を有する。これは、好ましくは、Hgポロシメトリーによって測定される。
【0060】
本発明の別の好ましい実施形態では、工程iv)又はvi)の後のコーティングの厚さは、20~500μm、好ましくは50~400μm、より好ましくは100~300μmの範囲内である。
【0061】
さらに好ましい実施形態では、特に分散剤としてのポリアクリル酸の場合、工程iii)の前の水性懸濁液のpHが5~10、好ましくは7~8の範囲内である場合があり得る。
【0062】
被覆基材
本発明はさらに、本発明の方法により製造可能な被覆基材に関する。
【0063】
他の好ましい実施形態では、コーティングの厚さは、20~500μm、好ましくは50~400μm、より好ましくは100~300μmの範囲内である。
【0064】
さらに好ましい実施形態では、工程iv)又はvi)の後のコーティングが、300ppm未満、好ましくは1ppm未満の不純物含有量を有する場合があり得る。
【0065】
別の好ましい実施形態では、工程iv)又はvi)の後のコーティングが、5%未満、好ましくは1%未満の開放気孔率を有する。
【0066】
使用
本発明の被覆基材は、炭化物材料として使用される。
【0067】
ここでは、結晶成長の用途、特にPVT(物理気相)プロセス、エピタキシープロセス、及び坩堝の用途での使用が優先される。
【0068】
本発明の目的は、本明細書に示される特定の実施形態に限定することを意図することなく、以下の例を参照してより詳細に説明される。
【0069】
水性懸濁液1の調製
分散撹拌機を用いて、水性タンタル炭化物懸濁液を調製した。これは、タンタル炭化物粉末(70重量%、総不純物含有量:300ppm、H.C.Starck)、ポリアクリル酸(0.5重量%、Mw 5000g/mol、Polyscience Europe GmbH)、焼結助剤(シリコンの0.7重量%、H.C.Starck)、消泡剤(2滴のContraspum,Zschimmer und Schwarz)を、蒸留水(28.8重量%)に一度に一段階ずつ添加することにより行った。各個々の成分の添加の間に、使用した、金属炭化物粉末、分散剤、及び添加剤を懸濁液中に均一に分散することを確実にするために、懸濁液を最大15分間、4000回転/分で、撹拌機ユニットで処理した。懸濁液のpHを水酸化ナトリウム溶液でpH8に調整した。タンタル炭化物の割合は、水性懸濁液の全重量に対して70重量%であった。
【0070】
水性懸濁液2の調製
分散撹拌機を用いて、水性タンタル炭化物懸濁液を調製した。これは、タンタル炭化物粉末(70重量%、総不純物含有量:300ppm、H.C.Starck)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(0.5重量%、Sigma Aldrich)、焼結助剤(シリコンの0.7重量%、H.C.Starck)、消泡剤(2滴のContraspum、Zschimmer und Schwarz)を、蒸留水(28.8重量%)に一度に一段階ずつ添加することにより行った。各個々の成分の添加の間に、使用した、金属炭化物粉末、分散剤、及び添加剤を懸濁液中に均一に分散することを確実にするために、懸濁液を最大15分間、4000回転/分で、撹拌機ユニットで処理した。懸濁液のpHは7であった。タンタル炭化物の割合は、水性懸濁液の全重量に対して70重量%であった。
【0071】
水性懸濁液1及び2を用いて、グラファイト基材を被覆した。
【図面の簡単な説明】
【0072】
スプレーガンを用いて、回転可能かつ傾斜可能なターンテーブルを有するコーティングスタンド上でコーティングを行った。スプレーガンを2barの圧縮空気で操作し、試料からの角度と距離の両方を変更できるホルダーに取り付けた。グラファイト基材(
図1は、一例としてグラファイトシリンダを示す)のコーティングのために、19cmの距離と90°の噴霧角度を選択した。円筒形状を考慮して、
図1に示すアセンブリに従って、グラファイトシリンダの内部をコーティングした。このため、シリンダーを回転テーブルに固定し、50°の角度で傾けた。ガンの口を21cmの距離と70°の水平傾斜角に配置した(
図1)。テーブルを同時に回転させながら、シリンダー壁に垂直な上下運動を行うことによって、外側を手動でコーティングした。
【0073】
対応する層の焼結密度を測定するために、実際の焼結工程の後に、このようにして得られた層の質量、厚さ、及び面積を測定し、層の体積の厚さと面積、及び体積と質量から計算した焼結密度は、TaC(14.3g/cm3)の最大理論密度に関連した。懸濁液1からのコーティングは54%の焼結密度を与え、懸濁液2からのコーティングの焼結密度は56%であった。
【0074】
被覆及び焼結した基材の断面の分析を通して、両方の場合の層の厚さは、走査型電子顕微鏡及び入射光学顕微鏡により測定でき、100μmであった。