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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】ポリマー単位を含むポリマーの解析
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20240701BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20240701BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20240701BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/34
G01N27/02 D
C12M1/00 A
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2021014055
(22)【出願日】2021-02-01
(62)【分割の表示】P 2018213937の分割
【原出願日】2012-09-21
(65)【公開番号】P2021072834
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】61/538,721
(32)【優先日】2011-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/617,880
(32)【優先日】2012-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511252899
【氏名又は名称】オックスフォード ナノポール テクノロジーズ ピーエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】レイド,スチュアート ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ハーパー,ギャヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,クライヴ ギャヴィン
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ジェームス アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ヘロン,アンドリュー ジョン
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-257687(JP,A)
【文献】特開2006-119140(JP,A)
【文献】特表2010-524436(JP,A)
【文献】John J. Kasianowicz,Nanoscopic Porous Sensors,Annual Review of Analytical Chemistry,2008年,Vol.1, No.1,Pages 737-766
【文献】J. AM. CHEM. SOC.,2010年,vol.132, no.50,p.17961-17972
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー単位を含むポリマーを解析する方法であって、
ナノポアを横断して電圧が印加されている間に、
分子歯止めにより制御され、連続するkマーがナノポアで登録される一方向のみに動く様式で実施される、ナノポア中を通るポリマーの移行中に、
kが正整数である前記ポリマーのk個のポリマー単位であるナノポア中のkマーの正体に依拠しているナノポア中を通るイオン電流の流れの測定を行い、
ナノポア中を通るポリマーの移行中に、前記測定が個々のkマーに関して、ナノポアを横断して印加される前記電圧の異なるレベルで行われる別々の測定を含むステップ、および
前記電圧の前記異なるレベルで測定を解析してポリマーの少なくとも一部の正体を決定するステップ
を含む方法。
【請求項2】
測定を行う前記ステップが、
異なる移行において電圧がナノポアを横断して異なるレベルで印加されている間に、ナノポア中を通る前記ポリマーの複数の移行を実施するステップ、
前記異なる移行中に、ナノポアを横断する前記電圧の前記異なるレベルでの前記kマーの測定を行うステップ
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の移行がナノポア中を通る第1の方向への移行およびナノポア中を通る前記第1の方向とは反対の方向への移行を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
測定を行う前記ステップが、
電圧がナノポアを横断して印加されている間に、ナノポア中を通る前記ポリマーの移行を実施するステップ、
ナノポア中を通るポリマーの前記移行中に、前記測定が前記個々のkマーに依拠している状態の持続期間よりも短い繰返し周期を有する周期で前記電圧の前記異なるレベルを印加するステップ、および前記周期において前記電圧の前記異なるレベルでの前記個々のkマーに関して前記別々の測定を行うステップ
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ポリマー単位を含むポリマーの測定を行う方法であって、
電圧がナノポアを横断して印加されている間に、
分子歯止めにより制御され、連続するkマーがナノポアで登録される一方向のみに動く様式で実施される、ナノポア中を通る前記ポリマーの移行を実施するステップ、
ナノポア中を通るポリマーの前記移行中に、前記電圧の異なるレベルを周期的に印加するステップ、および
kが正整数である前記ポリマーのk個のポリマー単位であるナノポア中のkマーの正体に依拠しているナノポア中を通るイオン電流の流れの測定であり、前記測定が個々のkマーに依拠している状態よりも短い繰返し周期を有する前記周期で前記電圧の前記異なるレベルでの前記個々のkマーに関する別々の測定を含む測定を行うステップ
を含む方法。
【請求項6】
繰返し周期が最長で3秒である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
繰返し周期が少なくとも0.5msである、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記繰返し周期が、状態の持続時間より短く、状態の持続時間の平均で60%、70%、80%、90%、95%、または99%の少なくとも1つよりも短い、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1つよりも多い電圧周期が、状態の持続時間に適用され、適用される電圧周期の数が2から10までである、請求項4から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電圧の異なるレベルがそれぞれ、前記周期の部分的期間連続して印加される、請求項4から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記周期における前記電圧の前記異なるレベル間の遷移が、電圧変化により引き起こされる測定の容量性遷移を減少するように形作られる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電圧周期は、非対称的、対称的、規則的または不規則的な波形のいずれか1つを有し、および/または、
電圧の異なるレベルは連続的に適用され、そして前記波は三角波またはのこぎり波である、請求項から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
測定を解析してポリマーの正体を推定するステップが、測定を解析してポリマー中のポリマー単位の配列を推定することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
測定を解析してポリマー中のポリマー単位の配列を推定するステップが、
可能なkマーのセットについて、
起点kマーから目的地kマーまでの遷移の可能性を表す遷移重み付け、および
そのkマーについての所与の測定値を観測する可能性を表すそれぞれのkマーに関する放出重み付け
を含むモデルを提供するステップ、ならびに
前記モデルを参照し、ナノポアを横断する電圧の異なるレベルの印加下で行われる測定を扱う解析技法を使用して測定を複数の次元での測定として解析し、測定のシリーズがポリマー単位の配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度に基づいて、ポリマー中のポリマー単位の少なくとも1つの推定された配列を推定するステップ
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
測定を解析してポリマーの正体を決定するステップが、前記異なる電圧レベルで行われる別々の測定を比較して、前記測定が前記個々のkマーに依拠している状態間の遷移を決定することをさらに含む、請求項1から4、13または14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
電圧の前記異なるレベル間の違いが10mVから1.5Vの範囲である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記異なるレベルが2つの異なるレベルからなる、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
電圧の異なるレベルが同じ極性である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ナノポア中を通るイオン電流の流れの前記測定が、ナノポア中を通るDCイオン電流の流れの測定である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記電圧の前記異なるレベルのそれぞれ1つでグループの複数の測定を行うステップ、および
前記異なるレベルのそれぞれ1つでの複数の測定のそれぞれのグループから1つまたは複数のサマリー測定を導き出して、個々のkマーに関して前記別々の測定を構成するステップ
を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記電圧の異なるレベルがそれぞれ一定期間連続して印加され、
それぞれ各自の期間中、それぞれの期間中に印加される前記電圧の前記異なるレベルのうちの1つでグループのうちの1つの複数の測定を行う、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ポリマーがポリヌクレオチドであり、ポリマー単位がヌクレオチドである、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ナノポアが生物学的ポアである、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
分子歯止めが酵素である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリマーがポリヌクレオチドおよび、ポリメラーゼ、ヘリカーゼ、エキソヌクレアーゼ、一本鎖もしくは二本鎖結合タンパク質またはトポイソメラーゼを含む酵素である、
請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ポリマー単位を含むポリマーを解析するための装置であって、
ポリマーが中を通って移行しうるナノポア、
ナノポアを通過するポリマーの移行を、連続するkマーがナノポアで登録される一方向のみに動く様式で制御するように配置された、分子歯止め、
ナノポア中を通るポリマーの移行中にナノポアを横断して電圧を印加するように配置された制御回路、および
kが正整数であるポリマーのk個のポリマー単位であるkマーの正体に依拠しているナノポア中を通るイオン電流の流れの測定をナノポア中で行うように配置された測定回路であって、
前記制御回路がナノポアを横断して電圧の異なるレベルを印加するように配置され、前記測定回路がナノポアを横断して印加される前記電圧の異なるレベルで、個々のkマーに関して別々の測定を行うように配置されている、測定回路、および
前記電圧の前記異なるレベルで測定を解析してポリマーの少なくとも一部の正体を決定するように配置されている解析ユニット
を備える装置。
【請求項27】
制御回路が、ナノポア中を通る前記ポリマーの異なる移行中にナノポアを横断して電圧の異なるレベルを印加するように配置されており、測定回路が前記電圧の異なるレベルでの前記異なる移行中に、個々のkマーに関して別々の測定を行うように配置されている、請求項26に記載の装置。
【請求項28】
制御回路が、ナノポア中を通るポリマーの前記移行中に、
前記測定が前記個々のkマーに依拠している状態の持続時間よりも短い繰返し周期を有する周期で前記電圧の前記異なるレベルを印加するように配置されており、測定回路が前記周期において前記電圧の前記異なるレベルで、個々のkマーに関して別々の測定を行うように配置されている、請求項26に記載の装置。
【請求項29】
ポリマー単位を含むポリマーを測定するための装置であって、
ポリマーが中を通って移行しうるナノポア、
ナノポアを通過するポリマーの移行を、連続するkマーがナノポアで登録される一方向のみに動く様式で制御するように配置された、分子歯止め、
ナノポア中を通るポリマーの移行中に、前記測定が個々のkマーに依拠している状態の持続時間よりも短い繰返し周期を有する周期で電圧の異なるレベルを印加するように配置されている制御回路、および
ナノポアを横断して印加される前記電圧の異なるレベルで、個々のkマーに関して別々のナノポア中を通るイオン電流の流れの測定を行うように配置されている測定回路
を備える装置。
【請求項30】
前記電圧の異なるレベルで測定を解析して、ポリマーの少なくとも一部の正体を決定するように配置されている解析ユニットをさらに備える、請求項29に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、ポリマー単位を含むポリマーを解析する、例えば、限定される
ものではないが、ポリヌクレオチドをポリマーに関係する測定を行うことにより解析する
分野に関する。本発明の第一の態様は、具体的にはポリマー中のポリマー単位の配列を推
定することに関する。本発明の第二および第三の態様は、ポリマーの解析のためにポリマ
ーの移行中にナノポア中を流れるイオン電流の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーを解析しおよび/またはポリマー単位の配列を決定するためのポリマーの測定
を提供する多くの種類の測定システムが存在する。
【0003】
例えば、限定されるものではないが、1つの種類の測定システムは、ポリマーを移行さ
せる際に通るナノポアを利用する。前記システムのある特性は、ナノポア中のポリマー単
位に依拠しており、その特性の測定が行われる。例えば、測定システムは、絶縁膜にナノ
ポアを置き分析物分子の存在下でナノポアを通る電圧駆動イオン輸送を測定することによ
り作製しうる。ナノポアの性質に応じて分析物の正体を、その特徴的なイオン電流サイン
、特に、電流ブロックの持続時間および程度ならびに電流レベルの分散を通じて明らかに
しうる。ナノポアを使用するそのような種類の測定システムは、特に、DNAまたはRN
Aなどのポリヌクレオチドの配列を決定する分野ではかなり有望であり、つい最近の開発
の主題であった。
【0004】
幅広い適用にわたり迅速で安価な核酸(例えば、DNAまたはRNA)配列決定技術に
対する必要性が現在存在する。既存の技術は、主に増幅技法を利用して大量の核酸を産生
し、シグナル検出には高品質の専門の蛍光化学物質を必要とするために、時間がかかり高
価である。ナノポア検知には、必要なヌクレオチドおよび試薬の量を減少させることによ
り迅速で安価な核酸配列決定を提供できる潜在性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、それぞれの測定の値が、kが正整数であるk個のポリマー単位(すなわち、
kマー)のグループに依拠している状況に関する。
【0006】
さらに、それぞれの測定の値が、kが複数の整数であるkマーに依拠していることは、
大多数の現在公知の生物学的ナノポアを含む多くの種類の測定システムに典型的である。
これは、1つよりも多いポリマー単位が、観察されるシグナルに寄与しており、概念的に
は、測定されているポリマー単位よりも大きな「鈍いリーダーヘッド」を有する測定シス
テムと見なしてもよいからである。そのような状況では、分解される異なるkマーの数が
kの冪乗まで増加する。例えば、n個の可能なポリマー単位が存在する場合では、分解さ
れる異なるkマーの数はnである。異なるkマーについての測定間は明確に分離してい
ることが望ましいが、これらの測定の一部が重複していることはよく起こる。特に大きな
数のポリマー単位がkマー中にある、すなわち、大きな値のkでは、異なるkマーにより
生み出される測定を分解するのは困難になり、ポリマーについての情報、例えば、ポリマ
ー単位の根底にある配列の推定値を導き出すのに障害となる。
【0007】
したがって、開発研究の多くは、測定の分解を改善する測定システムの設計に向けられ
てきた。根底にある物理的または生物学的系の固有の変動からばらついて生じることがあ
る測定の変動および/または測定されている特性が小規模である結果避けられない測定ノ
イズによって、これは実際の測定システムでは困難である。
【0008】
多くの研究が、単一のポリマー単位に依拠している分解可能な測定を提供する測定シス
テムの設計を目指してきた。しかし、これは実際には困難であった。
【0009】
他の研究は、kが複数の整数であるkマーに依拠している測定を受け入れたが、異なる
kマーからの測定が互いに分解可能である測定システムの設計を目指してきた。しかし、
現実の限界はこれが極めて困難であることを再び意味している。いくつかの異なるkマー
が発するシグナルの分布は重複することが多いことがある。
【0010】
原理的には、それぞれが同じポリマー単位に部分的に頼ってポリマー単位のレベルで分
解される単一の値を得る、kが複数の整数であるk個の測定からの情報を組み合わせるこ
とは可能であるだろう。しかし、これは実際には困難である。第一に、これは、k個の測
定のセットを変換する適切な変換を同定する可能性にかかっている。しかし、多くの測定
システムでは、根底にある物理的または生物学的系における相互作用の複雑さのために、
そのような変換は存在しないまたは同定するのが非現実的であるのいずれかである。第二
に、所与の測定システムについてそのような変換が原理的に存在するとしても、測定の変
動のために変換を同定するのは困難であるおよび/または変換はそれでも互いに分解する
ことができない値を与える可能性がある。第三に、そのような技法では、例えば、測定を
行うことができない測定システムによって、またはそれに続くデータ処理のエラーによっ
て、実際の測定システムで時折ありうるように、見逃された測定、すなわち、所与のkマ
ーに依拠している測定がポリマー単位の配列のなかで失われる場合を考慮に入れることは
困難であるまたは不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様は、kマーに依拠しているような測定からポリマー中のポリマー単
位の配列を推定する正確度を改善する技法を提供することに関する。
【0012】
本発明の第一の態様によれば、ポリマーに関係する測定の少なくとも1つのシリーズか
らポリマー中のポリマー単位の配列を推定する方法であって、それぞれの測定の値が、k
が正整数であるk個のポリマー単位のグループであるkマーに依拠しており、
可能なkマーのセットについて、
起点kマーから目的地kマーまでの遷移の可能性を表す遷移重み付け、および
そのkマーについて所与の測定値を観測する可能性を表すそれぞれのkマーに関する放出
重み付け
を含むモデルを提供するステップ、ならびに
前記モデルを参照する解析技法を使用して測定のシリーズを解析し、測定のシリーズがポ
リマー単位の配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度に基づいて、ポ
リマー中のポリマー単位の少なくとも1つの推定された配列を推定するステップ
を含む方法が提供される。
【0013】
さらに本発明の第一の態様によれば、類似する方法を実行する解析装置が提供される。
【0014】
したがって、本発明の第一の態様は、測定を生み出す測定システムのモデルを使用する
。測定のいかなるシリーズを考慮しても、モデルはその測定を生み出したkマーの異なる
配列の可能性を表す。本発明の第一の態様は、それぞれの測定の値が、kが複数の整数で
あるkマーに依拠している状況に特に適している。
【0015】
前記モデルは可能なkマーを考慮する。例えば、それぞれのポリマー単位が4個のポリ
マー単位(またはさらに一般的にはn個のポリマー単位)のうちの1つでありうるポリマ
ーでは、どれか特定のkマーが物理的に存在しないのでなければ、4個の可能なkマー
(またはさらに一般的にはn個の可能なkマー)が存在する。存在しうるすべてのkマ
ーでは、放出重み付けは所与の測定値を観測する可能性を考慮に入れる。それぞれのkマ
ーに関する放出重み付けは、そのkマーについての所与の測定値を観測する可能性を表す
【0016】
遷移重み付けは、起点kマーから目的地kマーまでの遷移の可能性を表し、したがって
、測定が依拠しているkマーの、異なるkマー間を遷移する可能性を考慮に入れる。した
がって、遷移重み付けは、多少なりとも可能性がある遷移を考慮しうる。例として、kが
複数の整数である場合、所与の起点kマーでは、これは、起点kマーとは異なる配列を有
し最初の(k-1)個のポリマー単位が起点kマーの最後の(k-1)個のポリマー単位
ではない目的地kマーまでの遷移である好ましくない遷移よりも、最初の(k-1)個の
ポリマー単位が起点kマーの最後の(k-1)個のポリマー単位である配列を有する目的
地kマーまでの遷移である好ましい遷移のより大きな可能性を表しうる。例えば、ポリマ
ー単位が天然に存在するDNA塩基である3マーでは、状態CGTは、GTC、GTG、
GTTおよびGTAへの好ましい遷移を有する。限定のない例として、モデルは、遷移重
み付けおよび放出重み付けが確率である隠れマルコフモデルであってもよい。
【0017】
これにより、測定のシリーズは、モデルを参照する解析技法を使用して解析することが
可能になる。ポリマー中のポリマー単位の少なくとも1つの推定された配列が、測定のシ
リーズがポリマー単位の配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度に基
づいて推定される。例えば、限定されるものではないが、解析技法は確率的技法であって
よい。
【0018】
特に、個々のkマーからの測定は互いに分解可能である必要はなく、同じポリマー単位
に依拠しているk個の測定のグループからその変換に関しての値までの変換が存在する必
要はない、すなわち、観測される状態のセットはもっと少数のパラメータの関数である必
要はない(がこれは排除されない)。代わりに、モデルの使用は、測定のシリーズがポリ
マー単位の配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度を検討する際に複
数の測定を考慮に入れることにより正確な推定を提供する。概念的には、遷移重み付けは
、一部はそのポリマー単位に、および実際、配列中のより大きな距離からの測定にも依拠
している少なくともk個の測定を、所与のポリマー単位を推定する際に、モデルが考慮に
入れることを可能にすると見なしてもよい。モデルは、所与のポリマー単位を推定する際
に多数の測定を効果的に考慮に入れて、より正確でありうる結果を出すことができる。
【0019】
同様に、そのようなモデルを使用すれば、解析技法は所与のkマーからの失われた測定
を考慮に入れるおよび/または所与のkマーにより生じる測定の外れ値を考慮に入れるこ
とが可能になる。これは、遷移重み付けおよび/または放出重み付けにおいて説明しうる
。例えば、遷移重み付けは好ましくない遷移の少なくとも一部の非ゼロの可能性を表しう
るおよび/または放出重み付けはあらゆる可能な測定を観測する非ゼロの可能性を表しう
る。
【0020】
本発明の第二および第三の態様は、ポリマーがナノポア中を通って移行している間にナ
ノポア中を流れるイオン電流の測定を使用してポリマーの解析を支援する技法の提供に関
する。
【0021】
本発明の第二の態様によれば、ポリマー単位を含むポリマーを解析する方法であって、
ナノポアを横断して電圧が印加されている間にナノポア中を通るポリマーの移行中に、k
が正整数である前記ポリマーのk個のポリマー単位であるナノポア中のkマーの正体に依
拠している測定を行い、前記測定が個々のkマーに関して、ナノポアを横断して印加され
る前記電圧の異なるレベルで行われる別々の測定を含むステップ、および
前記電圧の前記異なるレベルでの測定を解析してポリマーの少なくとも一部の正体を決定
するステップ
を含む方法が提供される。
【0022】
前記方法は、kが正整数であるポリマーのk個のポリマー単位であるナノポア中のkマ
ーの正体に依拠している測定を行うことを伴う。特に、測定は、個々のkマーに関して、
ナノポアを横断して印加された前記電圧の異なるレベルで行われる別々の測定を含む。本
発明者らは、ナノポアを横断して印加された前記電圧の異なるレベルでのそのような測定
は単に重複しているというよりもむしろ追加の情報を提供すると認識し実証してきた。例
えば、異なる電圧での測定は、異なる状態の分解を可能にする。例えば、所与の電圧で分
解することができないいくつかのkマーは別の電圧では分解することができる。
【0023】
本発明の第三の態様は、ナノポアを横断する電圧の異なるレベルの印加下で行われる測
定を行う方法であって、場合により本発明の第二の態様で用いてもよい方法を提供する。
特に、本発明の第三の態様によれば、ポリマー単位を含むポリマーの測定を行う方法であ
って、
電圧がナノポアを横断して印加されている間に、ナノポア中を通る前記ポリマーの移行を
実施するステップ、
ナノポア中を通るポリマーの前記移行中に、前記電圧の異なるレベルを周期的に印加する
ステップ、および
kが正整数である前記ポリマーのk個のポリマー単位であるナノポア中のkマーの正体に
依拠している測定であり、前記測定が個々のkマーに依拠している状態よりも短い繰返し
周期を有する前記周期での前記電圧の前記異なるレベルでの前記個々のkマーに関する別
々の測定を含む測定を行うステップ
を含む方法が提供される。
【0024】
したがって、本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様と同じ利点であって、特に測
定が単に重複しているというよりもむしろ追加の情報を提供するという利点を与える。異
なる電圧での測定は、それに続く測定の解析において異なる状態の分解を可能にする。例
えば、所与の電圧で分解することができないいくつかの状態は別の電圧では分解すること
ができる。
【0025】
これは、異なる電圧での測定がナノポア中を通るポリマーの1回の移行中に得られる技
術革新に基づいている。これは、繰返し周期が測定される状態の持続時間よりも短くなる
ように選択される周期で前記電圧のレベルを変化させることにより達成される。
【0026】
しかし、本発明の第二の態様内でこの方法を使用することは不可欠ではない。代案とし
て、電圧の異なる大きさでのイオン電流測定は、同方向への移行でもよいし、または反対
方向への移行を含んでいてもよいナノポア中を通るポリマーの異なる移行中に行うことが
できる。
【0027】
したがって、本発明の第二の態様および第三の態様の方法は、ポリマーについての情報
を導き出す測定のその後の解析を改善する追加の情報を提供することができる。導き出し
うる情報の種類のいくつかの例は以下の通りである。
【0028】
解析は、状態間の遷移の時機を導き出すことでありうる。このケースでは、異なる電位
でのそれぞれの状態の測定により提供される追加の情報は、正確度を改善する。例えば、
2つの状態間の遷移を1つの電圧では分解することができないケースでは、遷移は別の電
圧でのイオン電流測定のレベルの変化により同定しうる。これが、1つの電圧だけでは明
らかな作動にならないと考えられる遷移を同定すること、または遷移が実際には起こらな
かったことをより高い信頼度で決定することを潜在的に可能にする。この同定は、測定の
それに続く解析において使用しうる。
【0029】
一般に、異なる電圧レベルで測定を実行することは、1つの電圧レベルで得られるより
も多くの情報を提供する。例えば、ナノポア中を通るイオン流の測定において、測定から
得られる情報には、特定の状態についての電流レベルおよびシグナル分散(ノイズ)が含
まれる。例えば、ナノポア中を通るDNAの移行では、ヌクレオチド塩基Gを含むkマー
はシグナル分散が増大した状態を生じる傾向がある。例えば、類似の電流レベルを有する
それぞれの状態によって、またはそれぞれの状態のうちの1つもしくは両方が高いシグナ
ル分散を有する場合には、状態の遷移が起こったかどうかを確定するのは困難であること
もある。特定の状態についての電流レベルおよびシグナル分散は異なる電圧レベルでは異
なることがあり、したがって、異なる電圧レベルでの測定は、高分散状態の決定を可能に
するまたは状態を決定する信頼度のレベルを増加しうる。その結果、別の電圧レベルと比
べて1つの電圧レベルでの状態間の遷移を決定する方が容易でありうる。
【0030】
解析は、ポリマーの正体を推定するまたはポリマー中のポリマー単位の配列を推定する
ことでありうる。このケースでは、異なる電位でのそれぞれの状態の測定により与えられ
る追加の情報は推定の正確度を改善する。
【0031】
ポリマー単位の配列を推定するケースでは、解析は本発明の第一の態様に従った方法を
使用しうる。したがって、本発明の第一の態様の特長は、本発明の第二の態様および/ま
たは第三の態様の特長と、いかなる組合せでも組み合わせることができる。
【0032】
さらに、本発明の第二および第三の態様によれば、類似の方法を実行する解析装置が提
供される。
【0033】
さらに十分な理解を可能にするため、本発明の実施形態は添付図面を参照して非限定的
例としてここで説明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】は、ナノポアを含む測定システムの概略図である。
図2】は、測定システムにより経時的に測定された事象のシグナルのプロットである。
図3】は、ナノポアを含む測定システムにおける2つの異なるポリヌクレオチドの測定の度数分布のグラフである。
図4】は、実験的に導き出される電流測定のセットに適用される一次線形モデルから予測される値に対する64の3マー係数のプロットである。
図5】は、実験的に導き出される電流測定値のセットに適用される一次線形モデルから予測される値に対する1024の5マー係数のプロットである。
図6】は、ポリマーの測定を含む入力シグナルを解析する方法のフローチャートである。
図7】は、図6の状態検出ステップのフローチャートである。
図8】は、図6の解析ステップのフローチャートである。
図9】は、状態検出ステップに供される入力シグナルのプロットである。
図10】は、測定の得られたシリーズのプロットである。
図11】は、遷移マトリックスの図形表示である。
図12】は、シミュレーションされた例におけるkマー状態に関する予測される測定のグラフである。
図13】は、図12において図示される予測される測定からシミュレーションされた入力シグナルを示している。
図14】は、図13の入力シグナルから導き出される測定のシリーズを示している。
図15】は、遷移重み付けの遷移マトリックスを示している。
図16】は、遷移重み付けの遷移マトリックスを示している。
図17】は、ガウスである可能な分布を有する放出重み付けのグラフである。
図18】は、三角である可能な分布を有する放出重み付けのグラフである。
図19】は、四角である可能な分布を有する放出重み付けのグラフである。
図20】は、図12に示される1セットのシミュレーションされた測定と予測される測定間の電流スペースアライメントのグラフである。
図21】は、実際のkマーと図20のシミュレーションされた測定から推定されるkマー間のkマースペースアライメントのグラフである。
図22】は、シミュレーションされた測定の追加のセットと図12に示される予測される測定間の電流スペースアライメントのグラフである。
図23】は、図15の遷移マトリックスを用いた、実際のkマーと図22のシミュレーションされた測定から推定されるkマー間のkマースペースアライメントのグラフである。
図24】は、図16の遷移マトリックスを用いた、実際のkマーと図22のシミュレーションされた測定から推定されるkマー間のkマースペースアライメントのグラフである。
図25】は、分布が図12の予測される測定を中心とする小非ゼロバックグランドのある四角分布を有する放出重み付けのグラフである。
図26】は、図15の遷移マトリックスおよび図25の放出重み付けを用いた、実際のkマーと図20のシミュレーションされた測定から推定されるkマー間のkマースペースアライメントのグラフである。
図27】は、分布が図12の予測される測定を中心とするゼロバックグランドのある四角分布を有する放出重み付けのグラフである。
図28】は、図15の遷移マトリックスおよび図27の放出重み付けを用いた、実際のkマーと図20のシミュレーションされた測定から推定されるkマー間のkマースペースアライメントのグラフである。
図29】は、ストレプトアビジンを使用するMS-(B2)8ナノポア中に保持されるDNA鎖から得られる電流測定の散布図である。
図30】は、実例トレーニングプロセスについての遷移マトリックスである。
図31】は、図30の遷移マトリックスの拡大部分である。
図32】は、静的トレーニングプロセスから導き出される64のkマーのモデルについての放出重み付けのグラフである。
図33】は、図32のモデルのおよそ400の状態のモデルへの変換についての放出重み付けのグラフである。
図34】は、トレーニングプロセスのフローチャートである。
図35】は、図34のトレーニングプロセスにより決定される放出重み付けのグラフである。
図36】は、モデルから予測される測定を用いていくつかの実験にわたって集められた電流測定のグラフである。
図37】は、実際のkマーと推定されたkマー間のkマースペースアライメントのグラフである。
図38】は、実際の配列と整列された推定されたkマーの推定された配列を示している。
図39】は、ポリマーのセンス領域およびアンチセンス領域の別々の推定された配列を、2つのそれぞれの次元で配置されたセンス領域およびアンチセンス領域からの測定を処理することにより導かれる推定された配列と一緒に示している。
図40】は、最初の例における3つの異なる電圧でのナノポア中のDNA鎖のセットについてのイオン電流測定のヒストグラムのセットである。
図41】は、第二の例におけるナノポア中の一本鎖についての共通の時間期間にわたり付加された電位および得られたイオン電流の対になったグラフである。
図42】は、第二の例において電圧レベル+60mVで水平方向に表示されたDNA鎖ごとの測定された電流の散布図である。
図43】は、第二の例において電圧レベル+100mVで水平方向に表示されたDNA鎖ごとの測定された電流の散布図である。
図44】は、第二の例において電圧レベル+140mVで水平方向に表示されたDNA鎖ごとの測定された電流の散布図である。
図45】は、第二の例において電圧レベル+180mVで水平方向に表示されたDNA鎖ごとの測定された電流の散布図である。
図46】は、第二の例において印加された電圧に対するそれぞれのDNA鎖の測定された電流のプロットである。
図47】は、印加された電圧に対する第二の例におけるDNA鎖ごとの電流測定の標準偏差のプロットである。
図48】は、イオン電流測定を行う方法のフローチャートである。
図49】は、第三の例における共通の時間期間にわたって付加された電位および得られたイオン電流の対になったグラフである。
図50】は、第三の例における共通の時間期間にわたって付加された電位および得られたイオン電流の対になったグラフである。
図51】は、イオン電流測定を行う別の方法のフローチャートである。
図52】A及びBは、ナノポアを横断して印加された形状電圧ステップおよび得られた電流の同じ時間尺度上のプロットである。本発明のすべての態様は、以下の通りの広範なポリマーに適用しうる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
ポリマーは、ポリヌクレオチド(または核酸)、タンパク質などのポリペプチド、多糖
類、または他の任意のポリマーであってよい。ポリマーは天然でも合成でもよい。
【0036】
ポリヌクレオチドまたは核酸のケースでは、ポリマー単位はヌクレオチドであってよい
。核酸は典型的にはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、cDNAまたは
ペプチド核酸(PNA)、グリセロール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、ロ
ックド核酸(LNA)もしくはヌクレオチド側鎖のある他の合成ポリマーなどの当技術分
野で公知の合成核酸である。核酸は一本鎖でも二本鎖でもまたは一本鎖領域と二本鎖領域
の両方を含んでいてもよい。典型的には、cDNA、RNA、GNA、TNAまたはLN
Aは一本鎖である。本発明の方法を使用して、いかなるヌクレオチドでも同定しうる。ヌ
クレオチドは天然に存在するもので人工的なものでもよい。ヌクレオチドは典型的には、
核酸塩基、糖および少なくとも1つのリン酸基を含有する。核酸塩基は典型的には複素環
式である。適切な核酸塩基には、プリンおよびピリミジンが、さらに具体的にはアデニン
、グアニン、チミン、ウラシルおよびシトシンが含まれる。糖は典型的には五炭糖である
。適切な糖には、リボースおよびデオキシリボースが含まれるがこれらに限定されない。
ヌクレオチドは典型的にはリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドである。ヌ
クレオチドは典型的には、一リン酸塩、二リン酸塩または三リン酸塩を含有する。
【0037】
ヌクレオチドは損傷した塩基でも後成的塩基でも可能である。ヌクレオチドは標識され
てまたは修飾されて、はっきりしたシグナルを有するマーカーとして働くことができる。
この技法を使用して、ポリヌクレオチド内の塩基の非存在、例えば、塩基脱落単位または
スペーサーを同定することが可能である。前記方法はどんな種類のポリマーにも適用する
ことができるであろう。
【0038】
修飾されたまたは損傷したDNAの測定(または類似のシステム)を検討する際に特に
有用なのが、補完的データが考慮される方法である。提供される追加の情報は、さらに多
数の根底にある状態の区別を可能にする。
【0039】
ポリペプチドのケースでは、ポリマー単位は天然に存在するまたは合成のアミノ酸であ
ってよい。
【0040】
多糖類のケースでは、ポリマー単位は単糖であってよい。
【0041】
本発明は、下でさらに考察されるように、広範囲の測定システムにより行われる測定に
適用しうる。
【0042】
本発明のすべての態様に従って、測定システムはナノポアを含むナノポアシステムであ
りうる。このケースでは、測定はナノポア中を通るポリマーの移行中に行いうる。ナノポ
ア中を通るポリマーの移行は、観測されうる、全体では「事象」と呼びうる測定される特
性における特徴的シグナルを生じる。
【0043】
ナノポアは、典型的にはナノメーターオーダーのサイズを有し、その中を通ってポリマ
ーを通過させるポアである。ポリマー単位がポア中を通って移行することに依拠している
特性は測定しうる。前記特性は、ポリマーとポア間の相互作用に関連していることがある
。ポリマーの相互作用はポアの狭窄領域で起こりうる。測定システムは前記特性を測定し
、ポリマーのポリマー単位に依拠している測定を生み出す。
【0044】
ナノポアは生物学的ポアでも固体状態ポアでもよい。
【0045】
ナノポアが生物学的ポアである場合、以下の特性を有していることがある。
【0046】
生物学的ポアは膜貫通タンパク質ポアでありうる。本発明に従って使用するための膜貫
通タンパク質ポアは、βバレルポアまたはαヘリックス束状ポアに由来することが可能で
ある。βバレルポアは、β鎖から形成されるバレルまたはチャネルを含む。適切なβバレ
ルポアには、α溶血素、炭疽毒素およびロイコシジンなどのβ毒素、ならびにマイコバク
テリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)ポリン(Msp)、例えば、Ms
pA、外膜ポリンF(OmpF)、外膜ポリンG(OmpG)、外膜ホスホリパーゼAお
よびナイセリア(Neisseria)自己輸送体リポタンパク質(NalP)などの細菌の外膜
タンパク質/ポリン、が含まれるがこれらに限定されない。αヘリックス束状ポアは、α
ヘリックスから形成されるバレルまたはチャネルを含む。適切なαヘリックス束状ポアに
は、内膜タンパク質ならびにWZAおよびClyA毒素などのα外膜タンパク質が含まれ
るがこれらに限定されない。膜貫通ポアは、Mspにまたはα溶血素(α-HL)に由来
しうる。
【0047】
膜貫通タンパク質ポアは典型的にはMspに、好ましくはMspAに由来する。そのよ
うなポアは、オリゴマーであり、典型的にはMsp由来の7、8、9または10モノマー
を含む。ポアは、同一のモノマーを含むMsp由来のホモオリゴマーポアであってもよい
。代わりに、ポアは、その他のモノマーとは異なる少なくとも1つのモノマーを含むMs
p由来のヘテロオリゴマーポアであってもよい。ポアは、Msp由来の2つ以上の共有結
合モノマーを含む1つまたは複数の構築物を含んでいてもよい。適切なポアは、米国特許
仮出願第61/441,718号(2011年2月11日提出)に開示されている。好ま
しくは、ポアはMspAまたはそのホモログもしくはパラログ由来である。
【0048】
生物学的ポアは天然に存在するポアでもよいし、変異ポアでもよい。典型的なポアは、
WO-2010/109197、Stoddart D et al.、Proc Natl Acad Sci、12; 106(19)
:7702-7、Stoddart D et al.、Angew Chem Int Ed Engl. 2010; 49(3):556-9、Stoddart
D et al.、Nano Lett. 2010 Sep 8; 10(9):3633-7、Butler TZ et al.、Proc Natl Acad
Sci 2008; 105(52):20647-52および米国特許仮出願第61/441718号に記載されて
いる。
【0049】
生物学的ポアはMS-(B1)8でありうる。B1をコードするヌクレオチド配列およ
びB1のアミノ酸配列は下に示されている(配列番号1および配列番号2)。
配列番号1:MS-(B1)8=MS-(D90N/D91N/D93N/D118R/
D134R/E139K)8
ATGGGTCTGGATAATGAACTGAGCCTGGTGGACGGTCAAG
ATCGTACCCTGACGGTGCAACAATGGGATACCTTTCTGAA
TGGCGTTTTTCCGCTGGATCGTAATCGCCTGACCCGTGAA
TGGTTTCATTCCGGTCGCGCAAAATATATCGTCGCAGGCC
CGGGTGCTGACGAATTCGAAGGCACGCTGGAACTGGGTTA
TCAGATTGGCTTTCCGTGGTCACTGGGCGTTGGTATCAAC
TTCTCGTACACCACGCCGAATATTCTGATCAACAATGGTA
ACATTACCGCACCGCCGTTTGGCCTGAACAGCGTGATTAC
GCCGAACCTGTTTCCGGGTGTTAGCATCTCTGCCCGTCTG
GGCAATGGTCCGGGCATTCAAGAAGTGGCAACCTTTAGTG
TGCGCGTTTCCGGCGCTAAAGGCGGTGTCGCGGTGTCTAA
CGCCCACGGTACCGTTACGGGCGCGGCCGGCGGTGTCCTG
CTGCGTCCGTTCGCGCGCCTGATTGCCTCTACCGGCGACA
GCGTTACGACCTATGGCGAACCGTGGAATATGAACTAA
配列番号2:MS-(B1)8=MS-(D90N/D91N/D93N/D118R/
D134R/E139K)8
GLDNELSLVDGQDRTLTVQQWDTFLNGVFPLDRNRLTREW
FHSGRAKYIVAGPGADEFEGTLELGYQIGFPWSLGVGINF
SYTTPNILINNITAPPFGLNSVITPNLFPGVSISALG
NGPGIQEVATFSVVSGAGGVAVSNAHGTVTGAAGGVLL
RPFARLIASTGDSVTTYGEPWNMN
【0050】
生物学的ポアはより好ましくはMS-(B2)8である。B2のアミノ酸配列は、変異
L88Nを除いてはB1のアミノ酸配列と同じである。B2をコードするヌクレオチド配
列およびB2のアミノ酸配列は下に示されている(配列番号3および配列番号4)。
配列番号3:MS-(B2)8=MS-(L88N/D90N/D91N/D93N/D
118R/D134R/E139K)8
ATGGGTCTGGATAATGAACTGAGCCTGGTGGACGGTCAAG
ATCGTACCCTGACGGTGCAACAATGGGATACCTTTCTGAA
TGGCGTTTTTCCGCTGGATCGTAATCGCCTGACCCGTGAA
TGGTTTCATTCCGGTCGCGCAAAATATATCGTCGCAGGCC
CGGGTGCTGACGAATTCGAAGGCACGCTGGAACTGGGTTA
TCAGATTGGCTTTCCGTGGTCACTGGGCGTTGGTATCAAC
TTCTCGTACACCACGCCGAATATTAACATCAACAATGGTA
ACATTACCGCACCGCCGTTTGGCCTGAACAGCGTGATTAC
GCCGAACCTGTTTCCGGGTGTTAGCATCTCTGCCCGTCTG
GGCAATGGTCCGGGCATTCAAGAAGTGGCAACCTTTAGTG
TGCGCGTTTCCGGCGCTAAAGGCGGTGTCGCGGTGTCTAA
CGCCCACGGTACCGTTACGGGCGCGGCCGGCGGTGTCCTG
CTGCGTCCGTTCGCGCGCCTGATTGCCTCTACCGGCGACA
GCGTTACGACCTATGGCGAACCGTGGAATATGAACTAA
配列番号4:MS-(B2)8=MS-(L88N/D90N/D91N/D93N/D
118R/D134R/E139K)8
GLDNELSLVDGQDRTLTVQQWDTFLNGVFPLDRNRLTREW
FHSGRAKYIVAGPGADEFEGTLELGYQIGFPWSLGVGINF
SYTTPNININNGNITAPPFGLNSVITPNLFPGVSISARLG
NGPGIQEVATFSVRVSGAKGGVAVSNAHGTVTGAAGGVLL
RPFARLIASTGDSVTTYGEPWNMN
【0051】
生物学的ポアは、生体膜、例えば、脂質二重層などの両親媒性層に挿入しうる。両親媒
性層は、親水性も親油性も有するリン脂質などの両親媒性分子から形成される層である。
両親媒性層は単層でも二重層でもよい。両親媒性層は、(Gonzalez-Perez et al.、Langm
uir、2009、25、10447-10450)により開示されているなどのコブロックポリマーであって
もよい。代わりに、生物学的ポアは固体状態層に挿入されてもよい。
【0052】
代わりに、ナノポアは、固体状態層内で形成される開口部を含む固体状態ポアであって
もよい。
【0053】
固体状態層は生体起源ではない。言い換えると、固体状態層は生物もしくは細胞などの
生物学的環境に由来してもそこから単離されてもおらず、または生物学的に利用可能な構
造体の合成的に製造されたものでもない。固体状態層は、マイクロエレクトロニクス材料
、Si3N4、A1203およびSiOなどの絶縁材料、ポリアミドなどの有機および無
機ポリマー、Teflon(登録商標)などのプラスチックまたは二成分付加硬化型シリ
コーンゴムなどのエラストマーならびにガラスを含むがこれらに限定されない有機材料か
らでも無機材料からでも形成することが可能である。固体状態層はグラフェンから形成し
うる。適切なグラフェン層は、WO 2009/035647およびWO-2011/0
46706に開示されている。
【0054】
固体状態ポアは典型的には固体状態層中の開口部である。開口部は化学的にまたは他の
方法で改変して、ナノポアとしてのその特性を増強してもよい。固体状態ポアは、トンネ
ル電極(Ivanov AP et al.、Nano Lett. 2011 Jan 12;11(1):279-85)または電界効果ト
ランジスター(FET)デバイス(国際出願WO2005/124888)などのポリマ
ーの別のまたは追加の測定を提供する追加の成分と組み合わせて使用してもよい。固体状
態ポアは、例えば、WO 00/79257に記載されている工程を含む公知の工程によ
り形成してもよい。
【0055】
測定システムの一種では、ナノポア中を流れるイオン電流の測定を使用しうる。これら
のおよび他の電気的測定は、Stoddart D et al.、Proc Natl Acad Sci、12; 106(19):770
2-7、Lieberman KR et al、J Am Chem Soc. 2010; 132(50):17961-72および国際出願WO
-2000/28312に記載されている標準単一チャネル記録装置を使用して行いうる
。代わりに、電気的測定は、例えば、国際出願WO-2009/077734および国際
出願WO-2011/067559に記載されているマルチチャネルシステムを使用して
行いうる。
【0056】
ポリマーがナノポア中を通って移行する時に測定を行うことを可能にするために、移行
速度はポリマー結合部分により制御することができる。典型的には、前記部分は、印加電
界に合わせてまたは逆らってナノポア中を通ってポリマーを移動させることができる。前
記部分は、例えば、前記部分が酵素のケースでは酵素活性を使用して分子モーターになる
、または分子ブレーキとなることができる。ポリマーがポリヌクレオチドである場合、ポ
リヌクレオチド結合酵素の使用を含む移行速度を制御するためのいくつかの方法が提唱さ
れている。ポリヌクレオチドの移行速度を制御するのに適した酵素には、ポリメラーゼ、
ヘリカーゼ、エキソヌクレアーゼ、一本鎖および二本鎖結合タンパク質、ならびにジャイ
レースなどのトポイソメラーゼが含まれるがこれらに限定されない。他のポリマー型では
、そのポリマー型と相互作用する部分を使用することができる。ポリマー相互作用部分は
、国際出願番号PCT/GB10/000133またはUS61/441718(Lieber
man KR et al、J Am Chem Soc. 2010;132(50):17961-72)に開示されているおよび電位開
口型スキーム(Luan B et al.、Phys Rev Lett. 2010; 104(23):238103)についてのいか
なる部分でもよい。
【0057】
ポリマー結合部分は、ポリマー運動を制御するいくつかの方法で使用することが可能で
ある。前記部分は、印加電界に合わせてまたは逆らってナノポア中を通ってポリマーを移
動させることができる。前記部分は、例えば、前記部分が酵素のケースでは酵素活性を使
用して分子モーターとして、または分子ブレーキとして使用することができる。ポリマー
の移行は、ポア中を通るポリマーの動きを制御する分子歯止めにより制御しうる。分子歯
止めはポリマー結合タンパク質であってよい。ポリヌクレオチドでは、ポリヌクレオチド
結合タンパク質は好ましくはポリヌクレオチドハンドリング酵素である。ポリヌクレオチ
ドハンドリング酵素は、ポリヌクレオチドと相互作用をし、ポリヌクレオチドの少なくと
も1つの特性を改変することができるポリペプチドである。前記酵素は、ポリヌクレオチ
ドを切断して個々のヌクレオチドまたはジヌクレオチドもしくはトリヌクレオチドなどの
ヌクレオチドの比較的短い鎖を形成することによりポリヌクレオチドを改変することがあ
る。前記酵素は、ポリヌクレオチドを特定の位置に方向付けるまたは移動させることによ
りポリヌクレオチドを改変することがある。ポリヌクレオチドハンドリング酵素は、標的
ポリヌクレオチドと結合しポア中を通るその動きを制御することができさえすれば酵素活
性を示す必要はない。例えば、前記酵素はその酵素活性を取り除くように改変されてもよ
いし、酵素として作用するのを妨げる条件下で使用してもよい。そのような条件は下でさ
らに詳細に考察される。
【0058】
ポリヌクレオチドハンドリング酵素は、核酸分解酵素に由来していてもよい。酵素の構
築物中で使用されるポリヌクレオチドハンドリング酵素は、より好ましくは、酵素分類(
EC)群、3.1.11、3.1.13、3.1.14、3.1.15、3.1.16、
3.1.21、3.1.22、3.1.25、3.1.26、3.1.27、3.1.3
0および3.1.31のうちのいずれかのメンバー由来である。酵素は、国際出願番号P
CT/GB10/000133(WO 2010/086603として公開された)に開
示されている酵素のうちのいずれであってもよい。
【0059】
好ましい酵素は、ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ヘリカーゼおよびジャイレース
などのトポイソメラーゼである。適切な酵素には、大腸菌(E.coli)由来のエキソヌクレ
アーゼI(配列番号8)、大腸菌(E.coli)由来のエキソヌクレアーゼIII酵素(配列
番号10)、サーマス・サーモフィルス(T. thermophilus)由来のRecJ(配列番号
12)およびバクテリオファージラムダエキソヌクレアーゼ(配列番号14)ならびにそ
のバリアントが含まれるがこれらに限定されない。配列番号14に示される配列またはそ
のバリアントを含む3つのサブユニットは相互作用してトリマーエキソヌクレアーゼを形
成する。前記酵素は好ましくはPhi29 DNAポリメラーゼ由来である。Phi29
ポリメラーゼ由来の酵素は、配列番号6に示される配列またはそのバリアントを含む。
【0060】
配列番号6、8、10、12または14のバリアントは、配列番号6、8、10、12
または14のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有しポリヌクレオチド結合力は保持
している酵素である。前記バリアントは、ポリヌクレオチドの結合を促進しならびに/ま
たは高塩濃度および/もしくは室温でその活性を促進する改変を含みうる。
【0061】
配列番号6、8、10、12または14のアミノ酸配列の全長にわたり、バリアントは
好ましくは、アミノ酸同一性に基づいてその配列に少なくとも50%相同であることにな
る。さらに好ましくは、前記バリアントポリペプチドは、アミノ酸同一性に基づいて、配
列番号6、8、10、12または14のアミノ酸配列にその全配列にわたり少なくとも5
5%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少
なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%およびさらに好ましくは少なくと
も95%、97%または99%相同であってよい。200以上の、例えば、230、25
0、270または280以上の連続するアミノ酸のストレッチにわたって少なくとも80
%、例えば、少なくとも85%、90%または95%アミノ酸同一性(「ハード相同性」
)が存在していてもよい。相同性は上に記載される通りに決定される。バリアントは、配
列番号2を参照して上で考察されるいかなる点においても野生型配列とは異なりうる。酵
素は上で考察されたポアに共有結合していてもよい。
【0062】
一本鎖DNA塩基配列決定のための2つの戦略は、シスからトランスへとトランスから
シスへの両方、付加電位に合わせてまたは逆らってのどちらかでナノポア中を通るDNA
の移行である。鎖塩基配列決定のための最も有利な機構は、付加電位下でのナノポア中を
通る一本鎖DNAの制御された移行である。二本鎖DNA上で前進的にまたは進行的に作
用するエキソヌクレアーゼは、付加電位下で残りの一本鎖を中に送り込むためにポアのシ
ス側上で、または逆電位下ではトランス側で使用することができる。同様に、二本鎖DN
Aをほどくヘリカーゼも類似する様式で使用することが可能である。付加電位に逆らった
鎖移行を必要とする塩基配列決定適用の可能性もあるが、DNAは先ず逆電位下でまたは
電位なしで酵素により「捕捉」されなければならない。次に結合に続いて電位が切り替え
られると、前記鎖はポア中をシスからトランスへ通過し、電流の流れにより伸ばされた立
体構造に保持されることになる。一本鎖DNAエキソヌクレアーゼまたは一本鎖DNA依
存性ポリメラーゼは分子モーターとして働いて、付加電位に逆らってトランスからシスに
、制御された段階的な様式でポア中で移行したばかりの一本鎖を引き戻すことができる。
代わりに、一本鎖DNA依存性ポリメラーゼは、ポア中を通るポリヌクレオチドの動きを
遅くする分子ブレーキとして働くことができる。仮出願US 61/441718または
US仮出願第61/402903号に記載されているいかなる部分、技法または酵素を使
用してもポリマーの動きを制御することができるであろう。
【0063】
しかし、別の種類の測定システムおよび測定も可能である。
【0064】
別の種類の測定システムのいくつかの非限定的例は以下の通りである。
【0065】
測定システムは、走査型プローブ顕微鏡であってよい。走査型プローブ顕微鏡は、原子
間力顕微鏡(AFM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)または別の形態の走査型顕微鏡
である。
【0066】
読取り装置がAFMであるケースでは、AFMチップの解像度は、個々のポリマー単位
の寸法ほど微細ではないことがある。したがって、測定は複数のポリマー単位の関数にな
りうる。AFMチップは、チップが機能化されていない場合とは別の様式でポリマー単位
と相互作用するように機能化させうる。AFMは、接触モード、非接触モード、タッピン
グモードまたは他のどんなモードでも作動させうる。
【0067】
読取り装置がSTMであるケースでは、測定の解像度は個々のポリマー単位の寸法ほど
微細ではないことがあり、そのため測定は複数のポリマー単位の関数になる。STMは、
従来法でまたは分光学的測定(STS)をするようにまたは他のどんなモードでも作動さ
せうる。
【0068】
別の種類の測定のいくつかの例には、電気的測定および光学的測定が限定なく含まれる
。蛍光の測定を伴う適切な光学的方法は、J. Am. Chem. Soc. 2009、131 1652-1653によ
り開示されている。可能な電気的測定には、電流測定、インピーダンス測定、トンネリン
グ測定(例えば、Ivanov AP et al.、Nano Lett. 2011 Jan 12;11(1):279-85に開示され
ている)およびFET測定(例えば、国際出願WO 2005/124888に開示され
ている)が含まれる。光学的測定は電気的測定と組み合わせうる(Soni GV et al.、Rev
Sci Instrum. 2010 Jan;81(1):014301)。測定は、ナノポア中を通るイオン電流の流れの
測定などの膜貫通電流測定でもよい。イオン電流は典型的には、直流イオン電流でよいが
、原理的には代案は交流電流の流れ(すなわち、交流電圧の印加下で流れる交流電流の大
きさ)を使用することである。
【0069】
本明細書では、用語「kマー」とは、kマーが単一ポリマー単位であるkが1であるケ
ースを含む、kが正整数であるk個のポリマー単位のグループのことである。いくつかの
文脈では、一般にはkが1であるケースを除外してkマーのサブセットである、kが複数
の整数であるkマーに言及する。
【0070】
理想的には測定は単一のポリマー単位に依拠すると考えられるが、多くの典型的な測定
システムに関しては、測定は、kが複数の整数であるポリマーのkマーに依拠する。すな
わち、それぞれの測定は、kが複数の整数であるkマー中のそれぞれのポリマー単位の配
列に依拠する。典型的には、測定はポリマーと測定システム間の相互作用に関連する特性
である。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態では、小グループのポリマー単位、例えば、ダブレットま
たはトリプレットのポリマー単位(すなわち、k=2またはk=3)に依拠している測定
を使用するのが好ましい。他の実施形態では、さらに大きなグループのポリマー単位に依
拠している測定を、すなわち、「広い」解像度で使用するのが好ましい。そのような広い
解像度は、ホモポリマー領域を調べるのに特に有用になることがある。
【0072】
特に測定が、kが複数の整数であるkマーに依拠している場合、できる限り多くの可能
なkマーについて分解可能である(すなわち、分離される)ことが望ましい。典型的には
、これは異なるkマーにより生み出される測定が測定範囲にわたり十分に広がっているお
よび/または狭い分布を有するならば、達成することが可能である。これは、異なる測定
システムにより様々な程度に達成しうる。しかし、異なるkマーにより生み出される測定
が分解可能であることが不可欠ではないことは本発明の特別な利点である。
【0073】
図1は、両親媒性層などの生体膜2に挿入された生物学的ポア1であるナノポアを含む
測定システム8の例を模式的に示している。ポリマー単位のシリーズ4を含むポリマー3
は、矢印で示されるように生物学的ポア1中を通って移行される。ポリマー3は、ポリマ
ー単位4がヌクレオチドであるポリヌクレオチドでありうる。ポリマー3は、生物学的ポ
ア1内部のkマーに依拠して変化する膜貫通電流などの電気特性を引き起こす生物学的ポ
ア1の活性部分5と相互作用する。この例では、活性部分5は3つのポリマー単位4のk
マーと相互作用しているものとして示されているが、これは限定的なものではない。
【0074】
生体膜2のそれぞれの側に配置された電極6は、制御回路71および測定回路72を含
めて、電気回路7と接続されている。
【0075】
制御回路71は、生物学的ポア1を横断する印加のために電極6に電圧を供給するよう
に配置されている。
【0076】
測定回路72は、電気特性を測定するように配置されている。したがって、測定は生物
学的ポア1内部のkマーに依拠している。
【0077】
測定システムにより出力される典型的タイプのシグナルであり、本発明に従って解析さ
れることになる入力シグナルであるシグナルは「ノイズステップ波」であるが、このシグ
ナルタイプに限定されない。この形態を有する入力シグナルの例は、ナノポアを含む測定
システムを使用して得られるイオン電流測定のケースについて図2に示されている。
【0078】
このタイプの入力シグナルは、連続するグループの複数の測定が同じkマーに依拠して
いる測定の入力シリーズを含む。それぞれのグループ内の複数の測定は、下で考察される
ある分散を受ける一定値であり、したがって、測定システムの状態に対応してシグナルに
「レベル」を形成する。シグナルは、大きなセットであることもあるレベルのセット間を
移動する。計測手段のサンプリング速度およびシグナル上のノイズを考慮すると、レベル
間の遷移は瞬間的だと見なすことが可能であり、したがって、シグナルは理想化されたス
テップトレースにより概算することが可能である。
【0079】
それぞれの状態に対応した測定は事象の時間尺度にわたり一定であるが、大半の測定シ
ステムでは短い時間尺度にわたり分散を受けることになる。分散は、例えば、電気回路お
よびシグナル処理から、特に電気生理学という特定のケースでは増幅器から生じる測定ノ
イズに起因することがある。そのような測定ノイズは、測定されている特性が小規模であ
るため避けられない。分散は、測定システムの根底にある物理的または生物学的系におけ
る固有の変動または拡散からも生じることがある。大半の測定システムは、そのような固
有の変動を大小の程度の差はあっても経験することになる。所与の測定システムでは、両
方の変動源が一因となることがあるまたはこれらのノイズ源のうちの1つが優勢であるこ
ともある。
【0080】
さらに、典型的にはグループにおける測定数に先験的知識はなく、この数は予測不能に
変化する。
【0081】
分散および測定数についての知識の欠如というこれら2つの要因のため、例えば、グル
ープが短いおよび/または2つの連続するグループの測定のレベルが互いに近い場合、グ
ループのいくつかを区別するのが困難になることがある。
【0082】
シグナルは、測定システムにおいて起きている物理的または生物学的過程の結果として
、このような形態をとる。したがって、測定のそれぞれのグループは「状態」と呼びうる
【0083】
例えば、ナノポアを含むいくつかの測定システムでは、ナノポア中を通るポリマーの移
行からなる事象は、一方向だけに動く様式で起こりうる。一方向だけの動きのそれぞれの
ステップ中、ナノポアを横断する所与の電圧でのナノポア中を流れるイオン電流は一定で
あり、上で考察された分散を受ける。したがって、測定のそれぞれのグループは、一方向
だけの動きのステップに関連している。それぞれのステップは、ポリマーがナノポアに対
してそれぞれの位置にある状態に対応する。状態の期間中の正確な位置にはある程度の変
動がありうるが、状態間にはポリマーの大規模な動きがある。測定システムの性質に応じ
て、状態はナノポア中での結合事象の結果として起こりうる。
【0084】
個々の状態の持続時間は、ポアを横断して印加される電位、ポリマーの歯止めをするの
に使用される酵素の種類、ポリマーが酵素によりポア中を通って押されているのかまたは
引っ張られているのか、pH、塩濃度および存在するヌクレオシド三リン酸の種類などの
いくつかの要因に依拠していることがある。状態の持続時間は、測定システムに応じて0
.5msから3秒まで変化することがあり、所与のナノポアシステムでは、状態間である
程度の無作為な変動がある。持続時間の予測される分布は、所与の測定システムについて
実験的に決定しうる。
【0085】
前記方法は、測定の複数の入力シリーズであって、それぞれがそれぞれのシリーズにお
ける複数の測定の連続するグループが同じkマーに依拠している上記の形態をとる入力シ
リーズを使用することがある。そのような複数のシリーズは登録されることがあるので、
例えば、それぞれシリーズの測定が同時間に行われる場合、それぞれのシリーズからのど
の測定が対応し同じkマーに依拠しているのかが先験的に分かる。例えば、測定が、異な
る測定システムにより同調して測定された異なる特性である場合、こうなる可能性がある
。代わりに、そのような複数のシリーズは登録されないことがあるので、それぞれのシリ
ーズからのどの測定が対応し同じkマーに依拠しているのかは先験的には分からない。例
えば、測定のシリーズが異なる時間に行われる場合、こうなる可能性がある。
【0086】
ナノポアを横断する異なるレベルの電圧の印加下で測定が行われる、下で考察される第
三の態様に従った方法は、それぞれのレベルの電圧に関する測定のシリーズを提供する。
このケースでは、測定の繰返し周期は、問題の測定システムについての状態の繰返し周期
を考慮して選択される。理想的には、繰返し周期はすべての状態の持続時間より短く、こ
れは、測定システムについての最小の予想される繰返し周期よりも短い繰返し周期を選択
することにより達成される。しかし、いくつかの状態のみの持続時間よりも短い、例えば
、状態の持続時間の平均で60%、70%、80%、90%、95%、または99%より
も短い繰返し周期中に行われる測定から有用な情報を得ることができる。典型的には、繰
返し周期は最長で3秒、さらに典型的には最長で2秒または最長で1秒であってよい。典
型的には、繰返し周期は少なくとも0.5ms、さらに典型的には少なくとも1msまた
は少なくとも2msであってよい。
【0087】
1つよりも多い、例えば、2から10までの数の電圧周期を状態の持続時間に適用して
もよい。
【0088】
それぞれのkマーに関して複数の測定を1つの電圧レベルで(または、複数の電圧レベ
ルのそれぞれで複数の測定を)行ってもよい。1つの可能なアプローチでは、異なるレベ
ルの電圧をそれぞれ、例えば、電圧波形がステップ波である時に、一期間連続して印加し
てもよく、前記複数の期間のそれぞれの期間中に、その期間に印加される電圧のうちの1
つで1グループの複数の測定が行われる。
【0089】
複数の測定は、それ自体それに続く解析において使用しうる。代わりに、その(または
それぞれの)電圧レベルでの1つまたは複数のサマリー測定を、複数の測定のそれぞれの
グループから導き出しうる。前記1つまたは複数のサマリー測定は、所与のkマーに関し
て所与の電圧レベルでの複数の測定から、いかなる様式でも、例えば、平均もしくは中央
値として、または統計的変動の尺度、例えば標準偏差として導き出しうる。次に、前記1
つまたは複数のサマリー測定は、それに続く解析において使用しうる。
【0090】
電圧周期はいくつかの異なる波形から選択しうる。波形は、非対称的、対称的、規則的または不規則的でもよい。
【0091】
周期の一例では、異なるレベルの電圧をそれぞれ、それらの異なるレベル間の遷移と共
に、一期間、すなわち、周期、例えば方形波またはステップ波の部分的期間連続して印加
してもよい。電圧レベル間の遷移は、急なこともあれば、一期間にわたり傾斜しているこ
ともある。
【0092】
周期の別の例では、電圧レベルは連続して変化し、例えば、異なるレベル間、例えば、
三角波またはのこぎり波で傾斜していてもよい。このケースでは、異なるレベルでの測定
は、所望の電圧レベルに対応する周期内で時々測定を行うことにより行ってもよい。
【0093】
情報は、電圧平坦域での測定からまたは勾配の測定から導き出しうる。さらに情報は、
異なる電圧レベルで行われる測定に加えて、例えば、1つの電圧レベルと別の電圧レベル
間の過渡電流の形状の測定により導き出しうる。
【0094】
段階的電圧スキームでは、電圧レベル間の遷移は、どんな容量過渡電流をも最小にする
ように形作ることができる。ナノポアシステムを単純なRC回路と見なせば、電流の流れ
、I、は式I=V/R+C dV/dtにより与えられ、Vは付加電位、Rは抵抗(典型
的にはポアの)、tは時間およびCは容量(典型的には二重層の)である。このモデル系
では2つの電圧レベル間の遷移は、時定数、τ=RCの指数関数(V=V2-(V2-V
1)exp(-t/τ))に従うと考えられる。
【0095】
図52aおよび52bは、電圧レベル間の遷移の時定数τが、遷移速度が最適化されて
いる、非常に速いおよび非常に遅くなるように選択されるケースを図示している。電圧遷
移が非常に速い場合、測定される電流シグナルにスパイク(オーバーシュート)が見られ
、非常に遅いと測定されるシグナルは急には平らにならない(アンダーシュート)。遷移
速度が最適化されているケースでは、測定される電流が理想的な急な遷移から歪んでいる
時間は最小化される。遷移の時定数τは、測定システムの電気的特性の測定から、または
異なる遷移の試験から決定しうる。
【0096】
2つ以上のうちのいかなる数のレベルの電圧でも測定は行いうる。電圧のレベルは、そ
れぞれのレベルの電圧での測定が、前記測定が依拠しているkマーの正体についての情報
を提供するように選択される。したがって、レベルの選択は測定システムの性質に依拠し
ている。ナノポアを横断して印加される電位差の程度は、両親媒性層の安定性、使用され
る酵素の種類および所望の移行速度などの要因に依拠することになる。典型的には、電圧
のレベルのそれぞれは同じ極性になるが、一般には電圧のレベルのうちの1つまたは複数
はそれ以外のレベルとは反対の極性であることも可能であろう。一般に、大半のナノポア
システムでは、それぞれのレベルの電圧は典型的には対地10mVから2Vであってもよ
い。したがって、電圧レベル間の電圧差は典型的には少なくとも10mV、さらに好まし
くは少なくとも20mVであってよい。電圧レベル間の電圧差は典型的には最大で1.5
V、さらに典型的には最大で400mVであってよい。電圧差が大きくなると電圧レベル
間の電流差はさらに大きくなり、したがってそれぞれの状態間に潜在的にさらに大きな区
別を生じる傾向がある。しかし、高電圧レベルは例えば、システムにより多くのノイズを
生じるまたは酵素による移行の混乱を招くことがある。逆に、電圧差が小さくなると電流
差は小さくなる傾向がある。最適電位差は、実験条件または酵素歯止めの種類に応じて選
択しうる。
【0097】
1つの電圧レベルで測定されるkマーは、必ずしも異なる電圧レベルで測定されるのと
同じkマーではないことがある。kの値は、異なる電位で測定されるkマー間で異なるこ
とがある。しかし、これが本当であるならば、異なる電圧レベルで測定されるそれぞれの
kマーに共通であるポリマー単位が存在する可能性が高い。理論に縛られることなく、測
定されているkマーのいかなる差も、ナノポアを横断して印加されるより高い電位差での
ナノポア内のポリマーの立体構造の変化がリーダーヘッドにより測定されているポリマー
単位の数の変化をもたらすことに起因している可能性があると考えられる。この立体構造
の変化の程度は、1つの値と別の値間の電位の差に依拠している可能性がある。
【0098】
測定の一部としてまたは登録情報を提供する追加の供給源からのいずれかで他の情報が
入手可能になることがある。この他の情報により状態を同定できることがある。
【0099】
代わりに、シグナルが恣意的な形態をとることがある。これらのケースでは、kマーに
対応する測定は放出と遷移のセットの点からも記載されることがある。例えば、特定のk
マーに依拠している測定は、これらの方法による記載を受け入れることができる形で起こ
る測定のシリーズを含むことがある。
【0100】
所与の測定システムがkマーおよびkマーのサイズに依拠している測定を提供する程度
は実験的に調べることができる。例えば、公知のポリマーが合成され、測定システムに対
して予め定められた位置に保持されて、得られた測定から、前記測定が測定システムと相
互作用をするkマーの正体にどのように依拠しているのかを調べることができる。
【0101】
1つの可能なアプローチは、同一配列を有するポリマーのセットを、そのセットのポリ
マーごとに変化する予め定められた位置のkマーを除いて使用することである。前記kマ
ーのサイズおよび正体を変化させて、測定に対するその効果を調べることができる。
【0102】
別の可能なアプローチは、予め定められた位置で調査中のkマーの外側のポリマー単位
がそのセットのポリマーごとに変化するポリマーのセットを使用することである。そのよ
うなアプローチの例として、図3は、ナノポアを含む測定システムにおける2つのポリヌ
クレオチドの電流測定の頻度分布である。前記ポリヌクレオチドのうちの1つ(poly
Tと呼ばれる)では、ナノポアの領域におけるすべての塩基がT(polyTと呼ばれる
)であり、ポリヌクレオチドのもう一方(N11-TATGAT-N8と呼ばれる)では
、特定の決められた6マー(配列TATGATを有する)から左側に11塩基および右側
に8塩基を変化させる。図3の例は電流測定の点で前記2つの鎖の見事な分離を示してい
る。N11-TATGAT-N8鎖により見られる値の範囲も、polyTにより見られ
る値の範囲よりもごくわずかに広い。このようにしておよび他の配列を有するポリマーも
測定して、問題の特定の測定システムでは、測定が6マーに良好な近似で依拠しているこ
とを確かめることが可能である。
【0103】
このアプローチまたは類似のアプローチは、位置および最小kマー記述を決定すること
を可能にするどんな測定システムについても一般化することが可能である。
【0104】
異なる条件下でまたは異なる検出方法によって複数の測定を適用する確率論的枠組み、
特に技法により、ポリマーのより低いk記述を使用することが可能になることがある。例
えば、下で考察されるセンスDNAおよびアンチセンスDNA測定のケースでは、それぞ
れのkマー測定のより正確な記述が6マーになると考えられる場合、3マー記述で根底に
あるポリマーkマーを決定するのに十分でありうる。同様に、複数の電位での測定のケー
スでは、それぞれのkマー測定のより正確な記述がkマーまたはkが比較的高い値を有す
るkマーになると考えられる場合、kが比較的低い値を有するkマー記述で根底にあるポ
リマーkマーを決定するのに十分でありうる。
【0105】
類似の方法を使用して、一般的測定システムにおける十分近似するkマーの位置および
幅を同定してもよい。図3の例では、これは、(例えば、Nの数を前と後ろで変化させる
ことにより)ポアに対して6マーの位置を変えて、最もよく近似するkマーの位置を検出
し、6から決められた塩基の数を増加するおよび減少することにより達成される。kの値
は、十分に狭い値の拡散の影響を最小限受けることがある。kマーの位置は、ピーク幅を
最小限にするように選択することができる。
【0106】
典型的な測定システムでは、異なるkマーに依拠している測定はすべてが独自に分解可
能であるわけではないことは通常事実である。例えば、図3が関係する測定システムでは
、決められた6マーを有するDNA鎖により生み出される測定の範囲は2pAの桁であり
、このシステムの近似の測定範囲は30pAから70pAであることが観測される。6マ
ーでは、4096通りの可能なkマーが存在する。これらのそれぞれが2pAの類似する
変動を有することを考慮すると、40pA測定範囲においてはこれらのシグナルは独自に
分解可能ではないことは明らかである。いくつかのkマーの測定が分解可能である場合で
さえ、多くの他のkマーの測定が分解可能ではないことが典型的に観測される。
【0107】
多くの実際の測定システムでは、それぞれが同じポリマー単位に一部依拠しているk個
の測定を変換して、ポリマー単位のレベルで分解される単一の値を得る関数を同定するこ
とは可能ではなく、またはさらに一般的にはkマー測定がkマーの数よりも小さなパラメ
ータのセットにより記述可能ではない。
【0108】
例として、ナノポアを含む特定の測定システムでは、ポリヌクレオチドの実験的に導か
れたイオン電流測定は簡単な一次線形モデルにより正確に記述可能ではないことがここで
実証されるであろう。これは、下でより詳細に説明される2つのトレーニングセットにつ
いて明らかにされる。この実証のために使用される簡単な一次線形モデルは、
電流=Sum[fn(Bn)]+E
であり、fnは測定システムにおけるそれぞれの位置nで生じる塩基Bnごとの係数であ
り、Eは実験変動性に起因するランダム誤差を表す。データは最小二乗法によりこのモデ
ルにフィットさせるが、当技術分野で公知の多くの方法のいずれか1つを代わりに使用す
ることもできる。図4および5は、電流測定に対してフィットする最良モデルのプロット
である。データがこのモデルで十分に記述されるのであれば、点は典型的な実験誤差(例
えば、2pA)内で対角線にきちんと従うはずである。これは、データがどちらのセット
の係数でもこの線形モデルでは十分に記述されないことを示すケースではない。
【0109】
ノイズが多いステップ波である入力シグナルを解析する方法であって、本発明の第一の
態様を具体化する特定の方法がここで説明されることになる。以下の方法は、測定が、k
が2以上のkマーに依拠しているケースに関係するが、同じ方法はkが1であるkマーに
依拠している測定に単純化された形態で適用しうる。
【0110】
前記方法は図6に図示されており、図6に模式的に図示されている解析ユニット10に
おいて実施しうる。解析ユニット10は測定回路72からの測定を含む入力シグナルを受
けて解析する。したがって、解析ユニット10と測定システム8は接続され、合わせてポ
リマーを解析するための装置を構成する。解析ユニット10は、制御回路7に制御シグナ
ルも提供して測定システム8において生物学的ポア1を横断して印加される電圧を選択し
、印加された電圧に従って測定回路72からの測定を解析することができる。
【0111】
解析ユニット10と測定システム8を含む装置は、WO-2008/102210、W
O-2009/07734、WO-2010/122293および/またはWO-201
1/067559のいずれかに開示されている通りに配置しうる。
【0112】
解析ユニット10は、コンピュータ装置において実行されるコンピュータプログラムに
より実施してもよいし、または専用のハードウェアデバイスまたはその任意の組合せによ
り実施してもよい。どちらのケースでも、前記方法により使用されるデータは解析ユニッ
ト10のメモリに記憶される。コンピュータ装置は、使用される場合、いかなる種類のコ
ンピュータシステムでもよいが、典型的には従来の構造である。コンピュータプログラム
は、いかなる適切なプログラム言語で書かれていてもよい。コンピュータプログラムは、
コンピュータ可読記憶媒体上に記憶されることができ、前記媒体は、どんな種類でも、例
えば、計算システムのドライブに差し込み可能であり、情報を磁気的に、光学的にまたは
光磁気的に記憶しうる記憶媒体、ハードドライブなどのコンピュータシステムの固定記憶
媒体、またはコンピュータメモリでもよい。
【0113】
前記方法は、どのグループでも測定の数についての先験的な知識なしで同じkマーに依
拠している複数の測定の連続するグループを含む、上記の種類の測定のシリーズを(また
は、さらに下で説明されるように、より一般的にはどんな数のシリーズでも)を含む入力
シグナル11で実施される。そのような入力シグナル11の例は、以前記載された図2
示されている。
【0114】
状態検出ステップS1では、入力シグナル11は処理されて、連続するグループの測定
を同定し、それぞれの同定されたグループに関して予め定められた数(1または複数であ
る)の測定からなる測定のシリーズ12を導き出す。解析ステップS2は、このようにし
て導き出された測定のシリーズ12で実施される。状態検出ステップS1の目的は、それ
ぞれのkマー状態に関連する予め定められた数の測定まで入力シグナルを減らして、解析
ステップS2を簡略化することである。例えば、図2に示されるように、ノイズの多いス
テップ波シグナルは、それぞれの状態に関連する単一の測定が平均電流でありうる状態ま
で減らしうる。この状態はレベルと呼ばれることもある。
【0115】
状態検出ステップS1は、以下の通りに入力シグナル11の導関数において短期増加を
探す図7に示されている方法を使用して実施しうる。
【0116】
ステップS1-1では、入力シグナル11は微分されてその導関数を導き出す。
【0117】
ステップS1-2では、ステップS1-1からの導関数は、(微分が増幅させる傾向が
ある)高周波ノイズを抑制するための低域フィルタリングにかけられる。
【0118】
ステップS1-3では、ステップS1-2からフィルターにかけられた導関数は閾値処
理され、測定のグループ間の遷移点を検出し、それによりデータのグループを同定する。
【0119】
ステップS1-4では、予め定められた数の測定は、ステップS1-3において同定さ
れたそれぞれのグループにおける入力シグナル11から導き出される。最も簡単なアプロ
ーチでは、単一の測定は、それぞれの同定されたグループにおける測定値の、例えば平均
、中央値または他の位置の尺度として導き出される。ステップS1-4からの測定出力は
測定のシリーズ12を形成する。他のアプローチでは、それぞれのグループに関する複数
の測定が導き出される。
【0120】
この技法の一般的簡略化は、データの2つの隣接する窓の平均を比較するスライディン
グウィンドウ解析を使用することである。次に、閾値は直接的に平均差に置くこともでき
るし、または前記2つの窓におけるデータ点の分散に基づいて設定することができる(例
えば、ステューデントt統計量を計算することにより)。これらの方法の特定の利点は、
これらの方法がデータに多くの仮定を負わせることなく適用することができることである
【0121】
測定されたレベルに関連している他の情報は、解析において後で使用するために記憶さ
せることができる。そのような情報は、シグナルの分散、非対称情報、観察の信頼度、グ
ループの長さのいずれでも制限なく含んでいてもよい。
【0122】
例として、図9は、移動するウィンドウt検定により減らされた実験的に決定された入
力シグナル11を図示している。特に、図9は入力シグナル11を細線で示している。状
態検出に続くレベルは暗線としてかぶせて示されている。図10は、遷移間の平均値から
のそれぞれの状態のレベルを計算して、全トレースについて導き出された測定のシリーズ
12を示している。
【0123】
しかし、下でさらに詳細に説明されるように、状態検出ステップS1は任意選択であり
、さらに下で説明される代案では、省いてもよい。このケースでは、図6中の点線により
模式的に示されるように、解析ステップS2は、測定のシリーズ12の代わりに、入力シ
グナル11自体で実施される。
【0124】
解析ステップS2はここで説明される。
【0125】
解析ステップS2は、解析ユニット10に記憶されたモデル13を参照する解析技法を
使用する。解析ステップS2は、測定のシリーズ12がポリマー単位の配列により生み出
されるというモデル13により予測される尤度に基づいてポリマー中のポリマー単位の推
定された配列16を推定する。最も単純なケースでは、推定された配列16は、ポリマー
単位ごとに単一の推定された正体を提供する表示であることがある。さらに一般的には、
推定された配列16は、ある最適性基準に従ってポリマー単位の配列の任意の表示である
ことがある。例えば、推定された配列16は、例えば、ポリマーの一部またはすべてにお
ける1つまたは複数のポリマー単位の複数の推定された正体を含めて、複数の配列を含む
ことがある。
【0126】
モデル13の数学的基礎はここで検討される。解析ステップS2は、さらに下で説明さ
れるクオリティスコア17も提供する。
【0127】
電流をサンプリングする確率変数の配列{X、X、...,X}間の関係は、変

1-2-3-...
間の条件付き独立関係を表す単純なグラフィックモデルAにより表される。
【0128】
それぞれの電流測定は読み取られているkマーに依拠しているので、確率変数の根底に
あるセット{S、S、...、S}がkマーの根底にある配列を表しており、対応
するグラフィックモデルBでは、
【0129】
【化1】
である。
【0130】
適用の電流領域に適用されるこれらのモデルはマルコフ性を利用する。モデルAでは、
f(X)を確率変数Xiの確率密度関数を表すようにとれば、マルコフ性は
f(X|Xm-1)=f(X|X、X、...、Xm-1
として表すことができる。
【0131】
モデルBでは、マルコフ性は
P(S|Sm-1)=P(S|S、S、...、Sm-1
として表すことができる。
【0132】
問題が正確にどのようにコード化されているかに応じて、解決のための自然の方法は、
ベイジアンネットワーク、マルコフ確率場、隠れマルコフモデルを含むことがあり、これ
らのモデルの異形、例えば、そのようなモデルの条件付きまたは最大エントロピーフォー
ミュレーションも含む。これらのわずかに異なる枠組み内の解決法は多くの場合類似して
いる。一般的に、モデル13は起点kマーから目的地kマーまでの遷移の可能性を表す遷
移重み付け14、およびそれぞれのkマーに関してそのkマーについて測定の所与の値を
観測する可能性を表す放出重み付け15を含んでいる。モデル13が隠れマルコフモデル
であるケースではここで説明される。
【0133】
隠れマルコフモデル(HMM)は、グラフィックモデルBにおいてここで与えられる設
定の自然表示である。HMMでは、個々の確率変数SとSm+1の間の関係は、このケ
ースではそれぞれの確率変数が取ることのできる可能な状態間、すなわち、起点kマーか
ら目的地kマーまでの遷移の確率を表す確率である遷移重み付け14の遷移マトリックス
の点から定義されている。例えば、従来から、遷移マトリックスの(i,j)番目エント
リーは、S=Sm,iだと仮定するとSm+1=Sm+1,jである確率、すなわち、
がそのi番目の可能な値を帯びると仮定するとSm+1のj番目の可能な値への遷移
の確率を表す遷移重み付け14である。
【0134】
図11は、SからSm+1までの遷移マトリックスの図形表示である。ここでは、S
およびSm+1は、説明のために4つの値を示しているだけであるが、実際には異なる
kマーが存在するのと同じ数の状態が存在すると考えられる。それぞれのエッジは遷移を
表し、遷移確率を表す遷移マトリックスからのエントリーで標識してもよい。図11では
、S層からSm+1層においてそれぞれの交点を接続する4つのエッジの遷移確率は古
典的には合計で1になると考えられるが、非確率的重み付けを使用してもよい。
【0135】
一般に、遷移重み付け14は、非バイナリー変数(非バイナリー値)の値を含むことが
望ましい。これにより、モデル13はkマー間の遷移の実際の確率を表すことが可能にな
る。
【0136】
モデル13がkマーを表すことを考慮すると、所与のkマーは、起点kマーから、最初
の(k-1)個のポリマー単位が起点kマーの最後の(k-1)個のポリマー単位である
配列を有する目的地kマーまでの遷移であるk個の好ましい遷移を有する。例えば、4種
のヌクレオチドG、T、AおよびCからなるポリヌクレオチドのケースでは、起点3マー
TACは3マーACA、ACC、ACTおよびACGへの好ましい遷移を有する。最初の
近似まで、概念的には、4つの好ましい遷移の遷移確率は(0.25)に等しく、それ以
外の好ましくない遷移の遷移確率はゼロであり、好ましくない遷移は、起点kマーから、
起点kマーとは異なる配列を有し、最初の(k-1)個のポリマー単位が起点kマーの最
後の(k-1)個のポリマー単位ではない目的地kマーまでの遷移であると考えてもよい
。しかし、この近似は理解のためには有用であるが、遷移の実際の可能性は一般に、所与
の測定システムではこの近似から変わることがある。これは、非バイナリー変数(非バイ
ナリー値)の値をとる遷移重み付け14により反映されることがある。表されることがあ
るそのような変動のいくつかの例は以下の通りである。
【0137】
一例は、好ましい遷移の遷移確率は等しくなくてもよいことである。これによりモデル
13は、ポリマーの配列間に相互関係性があるポリマーを表すことが可能になる。
【0138】
一例は、好ましくない遷移の少なくとも一部の遷移確率はゼロでなくてもよいことであ
る。これにより、モデル13は見逃された測定、すなわち、実際のポリマー中のkマーの
うちの1つ(または複数)に依拠している測定はないことを考慮することが可能になる。
そのような見逃された測定は、測定システムの問題によって起こり、測定は物理的には行
われない、または、例えば、所与のグループが短すぎるもしくは2つのグループが十分分
離したレベルではないという理由で、測定値のグループのうちの1つを同定することがで
きない状態検出ステップS1などのその後のデータ解析の問題によって起こることもある
【0139】
遷移重み付け14が任意の値を持つことを可能にする一般性にもかかわらず、典型的に
は、遷移重み付け14が、起点kマーから、最初の(k-1)個のポリマー単位が起点k
マーの最後の(k-1)個のポリマー単位である配列を有する目的地kマーまでの好まし
い遷移の非ゼロの可能性を表し、好ましくない遷移のさらに低い可能性を表すことが事実
となるであろう。典型的には、遷移重み付け14は、前記好ましくない遷移の少なくとも
一部の非ゼロの可能性も表すが、その可能性はゼロに近いことがあり、または完全に除外
される遷移の一部ではゼロであることもある。
【0140】
配列中の単一の見逃されたkマーを可能にするため、遷移重み付け14は、起点kマー
から、最初の(k-2)個のポリマー単位が起点kマーの最後の(k-2)個のポリマー
単位である配列を有する目的地kマーまでの好ましくない遷移の非ゼロの可能性を表すこ
とがある。例えば、4種のヌクレオチドからなるポリヌクレオチドのケースで、起点3マ
ーTACでは、これらはCから開始するすべての可能な3マーへの遷移である。これらの
単一の見逃されたkマーに対応する遷移を「スキップ(skips)」と定義することができ
る。
【0141】
それぞれのkマーに関して単一測定を含む測定のシリーズ12を解析するケースでは、
次に遷移重み付け14は、測定12ごとに遷移の高い可能性を表すことになる。測定の性
質に応じて、起点kマーから起点kマーと同じである目的地kマーまでの遷移の可能性は
ゼロもしくはゼロに近いこともあれば、好ましくない遷移の可能性に類似することもある
【0142】
同様に、それぞれのkマーに関して予め定められた数の測定を含む測定のシリーズ12
を解析するケースでは、次に遷移重み付け14は、同じkマーに関する測定12間の遷移
の低いまたはゼロの可能性を表すことがある。遷移重み付け14を変化させて起点kマー
と目的地kマーが同じkマーになるようにすることは可能である。これは、例えば、誤検
出された状態遷移を可能にする。これら繰り返される同じkマーに対応する遷移を「ステ
イ(stays)」と定義することができる。kマー中のポリマー単位すべてが同一である、
すなわちホモポリマーであるケースでは、好ましい遷移はステイ遷移になると考えられる
ことに我々は注目している。これらのケースでは、ポリマーは1位置移動しているがkマ
ーは同じままである。
【0143】
同様に、それぞれのkマーに関して典型的に複数の測定がある測定のシリーズ12を解
析するケースであるが未知の量であるケース(「スティッキング(sticking)」と呼ばれ
ることがある)では、遷移重み付け14は、起点kマーと目的地kマーが同じkマーにな
る比較的高い確率を表すことがあり、物理系に応じて、遷移重み付け14は、いくつかの
ケースでは、上記の好ましい遷移が、起点kマーから最初の(k-1)個のポリマー単位
が起点kマーの最後の(k-1)個のポリマー単位と同じである目的地kマーまでの遷移
である確率よりも大きくなることがある。
【0144】
さらに、状態検出ステップS1を使用せずに、入力シグナル11を解析するケースでは
、次にこれは、単に、起点kマーと目的地kマーが同じkマーになる比較的高い確率を表
すように遷移重み付け14を適合させることにより達成しうる。これにより、根本的に、
同じ解析ステップS2を実施することが可能になり、モデル13の適合は状態検出を暗黙
の裡に考慮に入れている。
【0145】
それぞれのkマーと関連して、そのkマーについての測定の所与の値を観測する確率を
表す放出重み付け15が存在する。したがって、図11における交点Sm,iにより表さ
れるkマー状態では、放出重み付け15は、電流測定がサンプリングされる分布を記述す
る確率密度関数g(X|Sm,i)として表されうる。放出重み付け15が、非バイナ
リー変数の値を含むことが望ましい。これにより、モデル13は、一般には簡単なバイナ
リー形をもたないことがある異なる電流測定の確率を表すことが可能になる。
【0146】
状態検出ステップS1が、それぞれの同定されたグループに関して複数の測定からなる
測定のシリーズ12を導き出すケースでは(例えば、平均および変動)、放出重み付け1
5は、そのkマーについてのそれぞれの種類の測定の所与の値を観測する確率を表す。同
様に、登録されているので、それぞれのシリーズ由来のどの測定が対応しており同じkマ
ーに依拠しているのかが先験的に分かっている測定の複数のシリーズ12で前記方法が実
施されるさらに一般的なケースでは、放出重み付け15はそのkマーについてのそれぞれ
のシリーズの測定の所与の値を観測する確率を再び表す。これらのケースでは、モデル1
3は、それぞれのkマー状態についての複数の測定の分布を記述する複数の次元における
確率密度関数として放出重み付け15を使用して適用することができる。一般に、所与の
kマーについての放出重み付け15は、測定の確率を反映するいかなる形態でも取りうる
。異なるkマーは、単一モデル13内での同じ放出分布形態またはパラメータ付け(para
meterisation)で放出重み付け15を有する必要はない。
【0147】
多くの測定システムでは、kマーの測定は、測定される物理的または生物学的特性の拡
散によりおよび/または測定誤差によりのいずれかで分散することがある特定の予測され
る値を有する。これは、適切な分布、例えば、単峰形(unimodal)である分布を有する放
出重み付け15を使用することによりモデル13にモデル化することができる。
【0148】
しかし、いくつかの測定システムでは、所与のkマーについての放出重み付け15は、
多峰形(multimodal)である、例えば、測定システムにおける2つの異なる種類の結合か
らおよび/またはkマーが測定システム内で複数の立体構造をとることから物理的に生じ
ることがある。
【0149】
有利なことに、放出重み付け15は、可能なすべての測定を観測する非ゼロの可能性を
表すことがある。これにより、モデル13は、外れ値である、所与のkマーが生み出す思
いがけない測定を考慮に入れることが可能になる。例えば、放出重み付け15確率密度関
数を、非ゼロ確率を有する外れ値を可能にする広いサポート上で選択しうる。例えば、単
峰形分布のケースでは、kマーごとの放出重み付けは、すべての実数に対して非ゼロの重
み付けを有するガウス分布またはラプラス分布を有することがある。
【0150】
放出重み付け15が恣意的に定義される分布であることを可能にして、外れ値測定の手
際の良い取扱いおよび多価放出を有する単一状態のケースを取り扱うことが可能になるこ
とは有利でありうる。
【0151】
放出重み付け15を経験的に、例えば、下に説明されるトレーニング段階中に決定する
のが望ましいことがある。
【0152】
放出重み付け15の分布は、測定空間を横断する任意の適切な数のビン(bin)を用い
て表すことができる。例えば、下記のケースでは、分布は、データ範囲全体で500個の
ビンにより定義される。外れ値測定は、すべてのビンにおいて非ゼロ確率(外れたビンで
は低いが)を、データが定義されたビンのうちの1つに収まらない場合は類似の確率を有
することにより取り扱うことが可能である。十分な数のビンを定義すれば望ましい分布を
近似することができる。
【0153】
したがって、前記好ましくない遷移のうちの少なくとも一部の非ゼロ可能性を表す遷移
重み付け14の使用および/またはあらゆる可能な測定を観測する非ゼロ可能性を表す放
出重み付け15の使用から特定の利点を導き出しうる。特定の利点は、所与のkマーにつ
いての広い範囲の測定を観測する相対的な可能性に対応する放出重み付けの使用からも導
き出しうる。
【0154】
これらの利点を強調するために、配列を導き出すための簡単な非確率的方法は比較例と
見なされる。この比較例では、観測される値の所与の範囲外の測定を生み出すkマーは無
効とされ、見逃された測定(スキップ)に対応する遷移は、例えば、エッジおよび交点を
削除することにより図11における遷移の数を減らして、無効とされる。比較例では、次
に、Sごとに正確に1つの交点を含み、ポリマー単位の根底にある配列に対応するkマ
ー状態の独自の接続された配列が探索される。しかし、この比較例は恣意的な閾値に頼っ
て無効とされた交点とエッジを同定するので、適切なエッジがグラフ内の存在しないため
読み飛ばされた測定のケースではどんな経路も見つけることができない。同様に、外れた
測定のケースでは、比較例は、図11において削除された対応する交点を生じることにな
り、再びグラフ中を通る適切な経路を確認するのは不可能になる。
【0155】
これとは対照的に、モデル13および解析ステップS2における確率的または重み付け
の方法などの解析技法の使用の特定の利点は、このブレイクダウンのケースを回避するこ
とができる点である。別の利点は、複数の可能な経路が存在するケースでは、最も可能性
の高い経路、または可能性のある経路のセットを決定することができる点である。
【0156】
この方法の別の特定の利点は、ホモポリマー、すなわち同一ポリマー単位の配列の検出
に関係する。モデルをベースとする解析により、シグナルに寄与するポリマー単位の数に
類似する長さまでホモポリマー領域の取扱いが可能になる。例えば、6マー測定は6ポリ
マー単位長までホモポリマー領域を同定することができるであろう。
【0157】
解析ステップS2の1つの可能な形態は図8に示されており、以下の通りに作動する。
【0158】
ステップS2-1では、kマーの推定された配列18は、測定のシリーズ12がkマー
の配列により生み出されるというモデル13により予測される尤度に基づいてモデル13
を参照して推定される。
【0159】
ステップS2-2では、ポリマー単位の推定された配列16は、ステップS2-1にお
いて推定されたkマーの推定された配列18から推定される。
【0160】
ステップS2-1でもS2-2でも、さらに下で考察されるように、それぞれkマーの
推定された配列18とポリマー単位の推定された配列16の質を表すクオリティスコアも
提供される。
【0161】
解析ステップS2において適用される解析技法は、モデル13に適している種々の形態
をとり、測定のシリーズ12がポリマー単位の配列により生み出されるというモデル13
により予測される尤度に基づいてポリマー中のポリマー単位の推定された配列16を提供
しうる。例えば、モデルがHMMであるケースでは、解析技法は、ステップS2-1にお
いて、いかなる公知のアルゴリズムでも、例えば、フォワードバックワードアルゴリズム
またはビタビ(Viterbi)アルゴリズムを使用してもよい。そのようなアルゴリズムは、
一般に、状態の配列を通じたあらゆる可能な経路の尤度を力任せに虱潰しに計算するのを
回避し、代わりに、尤度に基づいて簡略化された方法を使用して状態配列を同定する。
【0162】
一代案では、ステップS2-1は、測定のシリーズが個々のkマーにより生み出される
というモデルにより予測される尤度に基づいて、配列の個々のkマーまたは配列中のkマ
ーごとの複数のkマー推定値を推定することによりkマーの配列18を同定しうる。例と
して、解析技法がステップS2-1においてフォワードバックワードアルゴリズムを使用
する場合、解析技法は、測定のシリーズが個々のkマーにより生み出されるというモデル
により予測される尤度に基づいて、kマーの配列18を推定する。フォワードバックワー
ドアルゴリズムは当技術分野では周知である。フォワード部分では、所与のkマーで終わ
る全配列の全体の尤度は遷移および放出重み付けを使用して最初から最後の測定まで再帰
的に前向きに計算される。バックワード部分は、類似する形態でしかし最後の測定からず
っと最初まで働く。これらのフォワードおよびバックワード確率は組み合わされ、データ
の全体の尤度と併せてそれぞれの測定が所与のkマー由来である確率を計算する。
【0163】
フォワード-バックワード確率から、配列18におけるそれぞれのkマーの推定値が導
き出される。これは、それぞれ個々のkマーと関連する尤度に基づいている。1つの簡単
なアプローチは、フォワード-バックワード確率がそれぞれの測定でのkマーの相対的尤
度を示しているので、それぞれの測定で最も可能性の高いkマーを取ることである。
【0164】
ステップS2-1では、測定のシリーズ12が個々のkマーを含む配列により生み出さ
れるというモデル13により予測される尤度を表すクオリティスコアも配列18中の個々
のkマーに関して導き出される。これはステップS2-1において実施される解析から得
られ、追加の有用な情報を提供する。
【0165】
もう1つの代案では、ステップS2-1は、測定のシリーズがkマーの全体配列により
生み出されるというモデルにより予測される尤度に基づいて、全体配列または複数の全体
配列を推定することによりkマーの配列18を同定しうる。別の例として、解析技法がス
テップS2-1においてビタビアルゴリズムを使用する場合、解析技法は、測定のシリー
ズがkマーの全体配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度に基づいて
kマーの配列18を推定する。ビタビアルゴリズムは当技術分野では周知である。
【0166】
ステップS2-1では、測定のシリーズ12がkマーの全体配列により生み出されると
いうモデル13により予測される尤度を表すクオリティスコアも配列18中の個々のkマ
ーに関して導き出される。これはステップS2-1において実施される解析から得られ、
追加の有用な情報を提供する。
【0167】
別の代案として、ステップS2-1は、測定のシリーズがkマーの全体配列により生み
出されるというモデルにより予測される尤度に基づいてkマーの全体配列を同定する第1
段階および第1段階の結果から前記配列の個々のkマーまたは前記配列中のkマーごとの
複数のkマー推定値を推定することによりkマーの配列18を同定する第2段階を含む、
2つの段階に分けてもよい。例として、この代案は、力任せの虱潰し計算を使用しうる。
【0168】
ステップS2-2では、ポリマー単位の推定された配列16は、任意の適切な技法を使
用してステップS2-1において推定されたkマーの推定された配列18から推定される
。1つの単刀直入なアプローチは、kマーをポリマー単位と1対1の関係に関連付け、関
連するkマーから単一のポリマー単位を取り出すだけである。さらに複雑なアプローチは
、それぞれの所与のポリマー単位を含有する配列18中の推定されたkマーのグループか
らの情報の組合せを使用してそれぞれのポリマー単位を推定する。例えば、ポリマー単位
はその推定されたkマーのうち最も確実なものから取り出してもよい。それぞれのポリマ
ー単位は、ステップS2-1における推定されたkマー配列に関して導き出されたクオリ
ティスコア17を利用して推定することができる。
【0169】
ステップS2-2では、測定のシリーズ12がポリマー単位を含む配列により生み出さ
れるというモデル13により予測される尤度を表すクオリティスコアも配列16中のそれ
ぞれのポリマー単位に関して導き出される。これは、例えば、それぞれのkマーおよび関
連するポリマー単位の相対的確率に基づいて、ステップS2-2において実施される解析
から得られ、追加の有用な情報を提供する。
【0170】
解析ステップS2における上記技法は限定的ではない。確率的または他の解析技法を使
用するモデルを利用する多くの方法が存在する。kマーの全体配列、個々のkマーまたは
根底にあるポリマー単位を推定するプロセスは、特定の適用に適合させることが可能であ
る。いかなる「硬い」kマー配列、kマーまたはポリマー単位コールも作る必要はない。
あらゆるkマー配列、または可能性の高いkマー配列のサブセットを考慮することができ
る。kマー配列と関連するkマーもしくはkマーのセットまたは特定のkマー配列とは関
係がないと見なされるkマーもしくはkマーのセット、例えば、すべてのkマー配列にわ
たる加重和を考慮することができる。kマーと関連するポリマー単位もしくはポリマー単
位のセットまたは特定のkマーとは関係がないと見なされるポリマー単位もしくはポリマ
ー単位のセット、例えば、すべてのkマーにわたる加重和、kマー配列もしくはkマー配
列のセットに依拠しているkマーまたはkマー配列もしくはkマー配列のセットとは無関
係なkマーを考慮することができる。
【0171】
例として、3マーポリヌクレオチド系を考慮しうる。可能性の高い塩基推定値のセット
を導き出すいくつかの方法がある。第1の代案は、最も可能性の高い経路を考慮し(ビタ
ビアルゴリズム)、その経路と関連する3マー状態のセットを導き出し、kマー由来の1
つの塩基、例えば、中央の塩基を塩基コールとして使用することである。第2の代案は、
すべての経路を考慮してそれぞれの地点で最も可能性の高いkマーを導き出すことである
(フォワード-バックワードアルゴリズム)。次に、最も可能性の高いkマー由来の1つ
の塩基(例えば、中央の塩基)を塩基推定値とすることもできるだろう。kマーから塩基
推定値を導き出す別の方法は、塩基のうちの1つ(例えば、中央の塩基)の寄与を考慮し
最も可能性の高い塩基を推定値として取りすべてのkマーにわたり合計することになると
考えられる。kマーから塩基推定値を導き出す別の方法は、すべてのkマーにおけるすべ
ての位置からの寄与を合計してそれぞれの位置で最も可能性の高い推定値を決定すること
になると考えられる。
【0172】
同様に、解析ステップS2は、kマーの複数の配列18および/またはポリマー単位の
複数の配列16を推定しうる。このケースでは、kマーの複数の配列18のそれぞれおよ
び/またはポリマー単位の複数の配列16のそれぞれに関してクオリティスコアを導き出
しうる。このようにして、解析ステップS2は、可能性がさらに低い配列に関する情報で
、にもかかわらず一部の適用において有用であることもある情報を提供する。
【0173】
上記説明は、遷移重み付け14および放出重み付け15が確率であり、解析ステップS
2がモデル13を参照する確率的技法を使用するHMMであるモデル13に関して与えら
れている。しかし、遷移重み付け14および/または放出重み付け15が確率ではなくあ
る他の方法で遷移または測定の可能性を表す枠組みをモデル13が使用することは代案と
しては可能である。このケースでは、解析ステップS2は、測定のシリーズがポリマー単
位の配列により生み出されるというモデル13により予測される尤度に基づいている確率
的技法以外の解析技法を使用しうる。解析ステップS2により使用される解析技法は、尤
度関数を明確に使用しうるが、一般にはこれは不可欠ではない。したがって、本発明の文
脈では、用語「尤度」は、計算または正式な尤度関数の使用を必要とせずに、測定のシリ
ーズがポリマー単位の配列により生み出される可能性を考慮に入れるという一般的意味で
使用される。
【0174】
例えば、遷移重み付け14および/または放出重み付け15は、遷移または放出の可能
性を表すが、確率ではなく、したがって、例えば、合計が1になるように制約されてはい
ないコスト(または距離)により表しうる。このケースでは、解析ステップS2は解析を
、例えば、オペレーションズリサーチにおいて広く見られるように、最小コスト経路また
は最小経路問題として取り扱う解析技法を使用しうる。ダイクストラアルゴリズムなどの
標準法(または他のさらに効率的なアルゴリズム)を解決のために使用することができる
【0175】
モデル13が、鈍いリーダーヘッドシステムからのデータをモデル化し解析するのに使
用されるHMMである特定の例がここで考察されることになる。ここでは、入力データ1
1は先ず既に記載された状態検出ステップS1により処理される。簡単にするために、し
かし制限なく、この特定の例は、4種の可能な塩基を有し、そのため64の可能なkマー
が存在するポリヌクレオチドについての3マーモデルに関係している。根底にあるモデル
13および状態を参照して要点を説明することができるシミュレーションされたケースが
提示される。
【0176】
このシミュレーションされたケースでは、3マー電流レベルが無作為に選択されるので
、64のkマー状態の放出重み付け15を最も簡単に記述するのにも64の係数が必要で
ある。測定からkマーの根底にある配列を決定するのは、記載された通りにモデルベース
の解析により達成される。
【0177】
図12は、kマーごとに、測定の最も可能性の高い値を示している。したがって、これ
らの値は、それぞれのkマーの放出重み付け15の分布の中心値でもある。図12では、
kマー状態インデックスは、G、T、A、Cの順に順次続き、すなわち、状態0=「GG
G」、状態1=「GGT」、...状態62=「CCA」、状態63=「CCC」である
。kマー状態インデックスは解析中に使用され、最終ステップとして「塩基スペース(ba
se space)」に再び変換される。
【0178】
所与の配列からの測定は、既に記載されている係数を使用してシミュレーションされる
。例えば、配列ACTGTCAGは3マー、ACT、CTG、TGT、GTC、TCA、
CAGで構成されている。これらは状態インデックス45、52、17、7、30、56
に対応し、このインデックスは68.5、46.5、94.9、51.3、19.5、5
2.1の予測される測定を与える。シミュレーションされた測定は、入力シグナル12と
して図13に、状態検出ステップS1により生み出される測定のシリーズ12として図1
4に図示されている。
【0179】
実際には、行われたどんな測定も、その測定に付随するエラーがある。シミュレーショ
ンのケースでは、予測された測定値にノイズを加えることによりこれは考慮される。
【0180】
測定を見落とすまたは偽陽性の測定を挿入する可能性もある。これらは、ここで説明さ
れることになる遷移マトリックスにおいて説明することができる。
【0181】
シミュレーションのケースについての遷移重み付け14の遷移マトリックスは、ここで
考慮されることになる。
【0182】
測定のシリーズ12および放出重み付け15のセットを考慮して、解析ステップS2は
根底にある配列の推定値を決定する。概念的には、これは、観測された配列が比較される
対象のすべての可能な遷移をモデル化する解析ステップS2と見なしてもよい(が、実際
、解析ステップS2はこれを必要としないもっと効率的なアルゴリズムを使用することも
ある)。例えば、考慮中の3マーのケースでは、64の状態のそれぞれが他の4つの状態
への好ましい遷移を有する。
【0183】
図15は、好ましい遷移に対する遷移重み付け14がそれぞれ0.25であり、好まし
くない遷移に対する遷移重み付け14がそれぞれゼロであるシミュレーションされたモデ
ルについての遷移重み付け14の遷移マトリックスを図示している。例えば、起点状態0
(GGG)は、等しい確率で状態、0(GGG)、1(GGT)、2(GGA)または3
(GGC)に遷移することが可能であると見ることができる。
【0184】
図16は、見逃された測定を表す、すなわち、遷移が読み飛ばされている好ましくない
遷移に対する非ゼロの遷移重み付け14を可能にすることにより、図15のシミュレーシ
ョンされたモデルから修正されたシミュレーションされたモデルについての遷移重み付け
14の遷移マトリックスのより複雑なケースを図示している。一般論として、遷移マトリ
ックスは、根底にある測定システムをモデル化するのに必要であるように、恣意的に複雑
になることがある。
【0185】
測定のシリーズ12で作動するケースでは、我々が状態検出S1を実施した場合、所与
の起点kマーから離れる遷移確率は典型的に高く、要するに1に近づく。図15の第1の
例では、遷移マトリックスは、好ましい「遷移」のうちの1つが同じkマーへの遷移であ
る4つのホモポリマーのケースを除けば、遷移を必要とする。任意の状態からの4つの好
ましい遷移のそれぞれの確率は0.25である。このマトリックスは、他の適切な緩和が
行われなければ、「実世界」のデータを取り扱うこと、例えば、放出重み付け15におけ
る外れ値取扱い、ができる可能性はない。
【0186】
しかし、非ゼロの遷移は、それを扱う必要があるまたは起こる可能性があるいかなるケ
ースにも可能にすることができる。図16の第2の例では、好ましい遷移の確率は0.2
5未満であり、残りはステイおよびスキップ確率からなる。恣意的なレベルの複雑さまで
、複数のスキップも類似する形態で許される。
【0187】
遷移確率は、kマー間の遷移を測定することができる平易さを考慮に入れるように調整
することが可能である。例えば、互いに非常に近い2つの連続するkマーからのシグナル
のケースでは、状態検出ステップS1がこの遷移を見逃すことは可能である。このケース
では、これら2つのkマー間の遷移マトリックスエレメントは、第2のkマーを読み飛ば
す方向へ重み付けをしてもよい。
【0188】
マトリックスは、所与の試料中の任意の配列バイアスを考慮に入れるように調整しうる
【0189】
上記の例では、放出および遷移重み付けは一定の値で固定されているが、これは不可欠
ではない。代案として、放出重み付けおよび/または遷移重み付けは、おそらくプロセス
についての追加の情報に導かれて、解析される測定値シリーズの異なる部分について変化
させてもよい。例として、「ステイ」としての解釈を有する遷移重み付けのマトリックス
のエレメントを、特定の事象()がポリマーの実際の遷移を反映する信頼度に応じて調整
することができるだろう。さらなる例として、放出重み付けを、測定デバイスのバックグ
ランドノイズにおける系統的ドリフトまたは印加された電圧に加えられる変化を反映する
ように調整することができるだろう。重み付けに対する調整の範囲はこれらの例に限定さ
れない。
【0190】
上記の例では、それぞれのkマーが単回表示されているが、これは不可欠ではない。代
案として、モデルはkマーの一部またはすべての複数回別個に表示されてもよく、したが
って、所与のkマーに関して、遷移および/または放出重み付けのセットが複数あっても
よい。ここでの遷移重み付けは別個の起点kマーと別個の目的地kマー間であってよく、
したがって、それぞれの起点-目的地対は、それぞれのkマーの別個の表示の数に応じて
、複数の重み付けがあってもよい。これら別個の表示の多くの可能な解釈の1つは、kマ
ーが、直接観測することが可能ではないシステムのある挙動、例えば、ナノポア中を通る
移行中にポリマーが取る可能性がある異なる立体構造または移行挙動の異なる動態を示す
ラベルをタグ付けされていることである。
【0191】
状態検出ステップS1を実施せずに生の入力シグナル11で作動するモデル13では、
複数の測定のグループが、グループにおける測定の数についての先験的な知識なしで同じ
kマーに依拠している測定の入力シリーズに前記方法は直接適用される。このケースでは
、非常に類似する技法であるが、所与の起点kマー状態から離れる遷移確率の合計がここ
では1よりはるかに少ないという点で著しく調整した技法を、モデル13に適用すること
ができる。例えば、平均してシステムが同じkマーで100の測定を費やすとすれば、遷
移マトリックスにおける対角線上の確率(遷移を表さないまたは起点kマーと目的地kマ
ーが同じkマーである遷移を表す)は0.99になり、0.01のスプリットがすべての
その他の好ましい遷移と好ましくない遷移の間にあることになる。好ましい遷移のセット
は、状態検出ケースについての遷移に類似していることがある。
【0192】
放出重み付け15を考慮して、図17から19は、それぞれ、ガウス、三角および四角
分布であるシミュレーションされた係数についての放出分布を示すが、どんな恣意的な分
布(非パラメータ分布を含む)もこの様式で定義することができる。
【0193】
ノイズに対するこれらの方法の堅牢さを実証するため、ノイズ摂動がシミュレーション
された測定に加算される。この例では、標準偏差5pAのガウス分布からサンプリングさ
れたランダムノイズが図12に示される予測されるkマー測定に加算される。
【0194】
図20は、図12に示される予測される測定と比べたシミュレーションされた測定(測
定のシリーズ12)を示しており、見ることができる加算されたノイズが厳密であること
を図示している。
【0195】
遷移重み付けの適切な遷移マトリックス、例えば、図16に示されるマトリックスおよ
び放出重み付け15についての適切な分布、このケースでは、ガウス分布を用いて、モデ
ル13が適用される。フォワード-バックワードアルゴリズムが解析技法として使用され
て、測定のシリーズにおけるそれぞれの点で最も可能性の高いkマーを推定する。推定さ
れたkマーコールは、図21に示されているように、既知のkマー配列に対して比較され
る。この厳密なケースでも、大多数の状態が正しく推定されていることが分かる。
【0196】
配列中のkマーに関連する失われた測定に対する堅牢さはここで説明される。このケー
スでは、ノイズを予測されるkマー測定に加算することに加えて(この例では、1pA標
準偏差を有するノイズの厳密ではないケースを使用する)、このケースでは、0.1の削
除の確率で、kマー測定がデータからも無作為に削除される測定のシリーズ12がシミュ
レーションされる。図22は、図12に示されている予測された測定と比べたシミュレー
ションされた測定(測定のシリーズ12)を示している。図22では、円で囲まれた失わ
れたkマー状態を見ることができる。
【0197】
再び、遷移重み付けの適切な遷移マトリックス、このケースでは図15および16に示
される両方のマトリックスおよび放出重み付け15についての適切な分布、このケースで
は、ガウス分布を用いて、予測されたkマー測定のモデル13が適用される。フォワード
-バックワードアルゴリズムが解析技法として使用されて、測定のシリーズ12における
それぞれの点で最も可能性の高いkマーを推定する。
【0198】
推定されたkマーコールは、図15および16の遷移マトリックスについてそれぞれ図
23および24に示されているように、既知のkマー配列に対して比較される。ここでは
図23と比べた場合、図24では、モデル遷移におけるスキップを可能にすることによ
り正確にコールされたkマーの数に改善がみられる。失われたkマー測定値が高信頼度の
推定値に取り囲まれているケースでは、失われたkマーは周囲のkマーから推定すること
が可能である。これとは対照的に、スキップが許されないケースでは、失われたデータは
、解析がkマーのシリーズの中を通る経路を見つけるためにゼロには達しない分布を有す
る放出重み付け15により収容される。放出分布における非ゼロのバックグランドは次の
セクションでさらに考察される。
【0199】
配列中の所与のkマーと関連がある外れた測定に対する堅牢さはここで説明される。遷
移重み付け14が読み飛ばされた状態(すなわち、図15の遷移マトリックスを用いて)
を許さない失われた測定に関する以前の説明では、解析がkマーの配列中を通る経路(非
常に可能性が低い経路にもかかわらず)を見つけることができるようにゼロに達しない分
布を有する放出重み付け15を使用する必要があった。すべての測定値について非ゼロの
値を有する放出重み付け15の利点は、四角放出分布の単純なケースにおいて例証される
。この例は、標準偏差5pAを有するノイズが加算される図20に示される測定のシミュ
レーションされたシリーズ12を使用する。
【0200】
再び、図15に示されるように、好ましくない遷移が許されない遷移重み付け14の遷
移マトリックスを用いて、および放出重み付け15についての2つの異なる分布を用いて
、予測されたkマー測定のモデル13がこのケースでは適用される。フォワードバックワ
ードアルゴリズムが解析技法として使用されて、測定のシリーズ12におけるそれぞれの
点で最も可能性の高いkマーを推定する。
【0201】
第1のケースでは、放出重み付け15は、図25に示される小非ゼロバックグランド(
このケースでは1×10-10)の四角分布を有し、これについては図26において、推
定されたkマーコールは既知のkマー配列に対して比較される。
【0202】
第2のケースでは、放出重み付け15は図27に示されるゼロバックグランドの四角分
布を有し、これについては図28において、推定されたkマーコールが既知のkマー配列
に対して比較される。
【0203】
放出重み付け15の分布においてゼロバックグランドの第2のケースでは、それらの分
布の幅が狭すぎる放出分布ではkマー配列を通る経路は存在しない。この例では、図27
において示されるように、解析が測定の中を通る経路を見つけることができるように幅+
/-14pAの放出分布を使用してきた。このケースでは、それぞれが大きな数の正確な
状態を有する少数の経路が存在するよりは、多くの不正確にコールされた状態を含有する
多数の経路が存在する。この例についてのkマーコールのセットは図28に示されている
【0204】
図25に示されるように、バックグランドにおいて小非ゼロ放出が許される第1のケー
スでは、はるかに狭い分布を許容することが可能であり、図28よりも良好な結果を与え
図27に示されるように、さらに大きな数のkマー状態を正確に推定することが可能に
なる。
【0205】
さらに、この例は、図27および28に示される四角分布の使用よりも良好な結果を提
供する図20および21に示される例について使用されるガウス放出と四角分布ケースを
比較することにより確率的方法の利点を示している。
【0206】
モデル13のトレーニング、すなわち、所与の測定システムについての放出重み付け1
5の誘導がここで考察されることになる。
【0207】
上記シミュレーションとは対照的に、実際の測定システムでは、それぞれのkマーから
の個々の測定は前もって分かってはいないが、トレーニングセットから導き出すことがで
きる。一般論として、これは既知のポリマーから測定を行い、それ自体がHMMにとって
従来法であるトレーニング技法を使用することを含む。
【0208】
これらのトレーニング法では、特定種類の配列、すなわち、所与のkについてすべての
kマーを含有する最小長配列であるド・ブラン(deBruijn)配列を利用しうる。ド・ブラ
ン配列を使用するのは必要とされる実験数を最小限に抑えるための効率的方法である。
【0209】
ポリヌクレオチドを測定するのに使用されるナノポアを含む測定システムについて2つ
のトレーニング法が記載されている。第1の方法は、ビオチン/ストレプトアビジン系に
よってナノポア内の特定の位置に保持された「静的」DNA鎖からの測定を使用する。第
2の方法は、ナノポア中を通って移行されるDNA鎖からの測定を使用し、kマー推定の
ために記載された枠組みに類似する確率的枠組みを利用することにより係数を推定するま
たは「訓練する」。
【0210】
第1の静的トレーニング法は以下の通りに実施される。
【0211】
これらの実験は、Stoddart D et al.、Proc Natl Acad Sci, 12;106(19):7702-7に記載
されている方法に類似するやり方でビオチン分子を使用してDNA鎖をストレプトアビジ
ン「アンカー」に結合させた。このシステムでは、kの値は3である。DNA鎖は、40
0mM KCl中でMS-(B2)8を使用するk=3ド・ブラン配列(配列番号3)を
表す。前記鎖は、付加電位下でナノポア中に捕捉され、その電流が記録される。下の表1
に収載されているように、実験は配列を1ヌクレオチドずつ前進させている一連のDNA
鎖を用いて繰り返すことが可能である。このようにして、下の表に収載されているように
、移動している鎖から予測される電流レベルに対応する180mVなどの特定の付加電位
での電流レベルの測定が得られた。
配列番号3(k3ド・ブラン):
ATAAGAACATTATGATCAGTAGGAGCACTACGACCTTTGT
TCTGGTGCTCGTCCGGGCGCCCAAAT
【0212】
【表1A】
【表1B】
【0213】
それぞれ個々の鎖からのデータは順次プロットされて図29に示される電流状態の地図
(散布図)を生み出し、それぞれの点はSD01(左)からSD64(右)までのDNA
鎖を表す。データは、ポリT鎖からのふれとしてプロットされている。
【0214】
これらの測定を使用して、図29に示される測定を中心とするそれぞれのkマーの分布
として放出重み付け15を導き出すことができる。ガウス分布は、図29に示される測定
から得られる標準偏差を用いて使用しうる。遷移重み付け14は手動で選択しうる。
【0215】
第2の動的トレーニング技法は以下の通りに実施される。
【0216】
静的鎖トレーニングは多くの利点を提供するが、骨が折れることがあり、一部では測定
システムは完全な塩基配列決定システムを正確に反映しないこともある。解析ステップS
2において使用する枠組みに類似する枠組み(および、したがって、類似するアルゴリズ
ム)を利用することにより、モデル13を別法で訓練することが可能である。このそのよ
うな1つの実行はここで説明されるが、多くのバリエーションを適用することができる。
説明されるプロセスは反復性のプロセスなので、始めるのに用いるパラメータの合理的推
定値(ベイズ理論用語で、プライアー(prior))があるのは有用である。3マー静的係
数は、より高度なkマーモデルを訓練するための合理的開始点を提供する。
【0217】
トレーニングが適用されるので、状態コーリングモデルよりもかなり柔軟性が少ないモ
デルが使用される。トレーニング鎖(複数可)の配列は既知であるので、大きな制約を適
用することができる。すべてのkマー間の認められた遷移をモデル化するよりも、我々の
トレーニング配列により認められた遷移のみがモデル化される。トレーニングをさらに制
約するため、トレーニング鎖中のそれぞれの位置は独立してモデル化され、直後の状態へ
の遷移のみが好ましい。したがって、これを「強制的経路(forced path)」モデルと呼
ぶことができるであろう。
【0218】
例えば、およそ400単位のポリマーであれば、そのポリマー中の位置ごとの別々の状
態インデックスを定義することができる。次に、図30および31に示されるように、ポ
リマー内での遷移を許す遷移マトリックスが構築され、図30が408のkマー状態につ
いての遷移マトリックスを示し、図31が最初の10の遷移重み付けの大写しを示してい
る。
【0219】
上記のモデル13における遷移重み付け14のkマー推定遷移マトリックスの場合と同
じように、これが現実世界のシステムであるという事実を考慮するように柔軟性を加える
ことが可能である。この例では、遷移がないこと(または、起点状態インデックスと目的
地状態インデックスが同じ状態である遷移)が認められ、状態を読み飛ばす好ましくない
遷移について非ゼロの確率を使用することにより見落とされた測定が収容される。確率的
(または、重み付けされた)枠組みの利点は、測定システムの既知の人為産物を遷移重み
付けおよび/または放出重み付けにおいて具体的に取り扱うことができる点である。
【0220】
放出重み付けのトレーニングがここで説明される。放出重み付けの分布は、上記解析ス
テップS2のために使用された分布と類似していてもよい。しかし、この例では、ポリマ
ー中のそれぞれの位置が別々に扱われるために、放出分布は位置ごとに定義される。図3
2は、上記の静的トレーニングプロセスから導かれる64kマーモデルの例を示している
図33は、およそ400の状態の配列に移し返られた図32の64kマーモデルの例を
示している。既に記載されたように、外れ値データは、あらゆる可能な測定値について非
ゼロの確率を有する放出重み付けの分布内に収容することができる。
【0221】
トレーニングプロセスは図34に示されており、ここで説明される。トレーニングプロ
セスは反復性であり、先ず、上記のモデル20の最初の推定値をモデル21の推定値とし
て使用する。トレーニングプロセスは測定22も使用する。
【0222】
モデル21の推定値および測定22を考慮すれば、ステップS3において、広い範囲の
既知のアルゴリズムのうちのいずれか1つを適用することにより、測定22がモデルにど
のようにして適合するのかが計算される。HMMのケースでは、1つの適切なアルゴリズ
ムはフォワード-バックワードアルゴリズムである。
【0223】
次に、ステップS4では、ステップS3において計算されたモデルに適合するデータを
使用して、どんな根底にある状態放出分布がその適合下にあるかを推定し、kマー状態中
心を再推定し、それによってモデル21の推定値を更新する。
【0224】
ステップS5では、トレーニングプロセスが収束したかどうか、すなわち、ステップS
4からのモデル21の更新された推定値が以前の繰り返しから著しく変化していないかど
うかが決定される。収束していなければ、前記プロセスはモデル21の更新された推定値
を使用して繰り返される。
【0225】
そのような繰り返しは、ステップS5において収束が決定されるまで行われる。この時
点で、モデル21の更新された推定値は測定22の記述に収束しており、出力モデル23
として出力される。
【0226】
これはトレーニングプロセスのための機械学習アルゴリズムの1つの可能な実行である
が、当技術分野で公知の他の機械学習方法を使用することもできるであろう。
【0227】
図6の解析方法が図9の実験的に決定された入力シグナル11に適用される例がここで
説明されることになる。上記のように、状態検出ステップS1により導き出される測定の
シリーズ12は図10に示されている。
【0228】
ポリマーはポリヌクレオチドであり、測定を記述するのに使用されるkマーモデルは3
マーである。
【0229】
モデル13は、図16に示され上に記載されている遷移重み付け14を含む。
【0230】
前記モデルは、上記の図34のトレーニングプロセスを使用して決定された放出重み付
け15を含む。図35は、小非ゼロバックグランドを有するガウス分布である結果として
得られた放出重み付け15を示している。
【0231】
図36は、モデル13から予測される測定値を用いて、いくつかの実験にわたり集計さ
れた状態データのセクションからの電流測定のオーバーレイを示している。
【0232】
図37は、既知の配列(参照)と解析ステップS2により推定されたkマー状態の推定
された配列(コール)の状態スペースアライメントを示している。正確に推定されたkマ
ー状態は大きな点として示されている。見ることができるように、kマー状態の良好な推
定が与えられている。
【0233】
図38は、解析ステップS2により推定され、実際の配列と整列させて示されるヌクレ
オチドの推定された配列16を示している。正確なkマー状態推定値は「#」として図示
されている(kマー状態を直接塩基と関連付けてきたので、これを示すことができる)。
正確な塩基推定値であるが不正確なkマー状態推定値は「*」として図示されている。
【0234】
上記説明は、前記方法が単一入力シグナル11および測定の単一シリーズ12に基づい
ているケースに関係している。
【0235】
代わりに、本発明の第一の態様は、それぞれが同じポリマーに関係している測定の複数
のシリーズを使用してもよい。この文脈では、「同じ」ポリマーとは、同じ正体または組
成を有するポリマーであり、物理的に同じポリマーまたは同じ正体を有する物理的に異な
るポリマーである。測定の複数のシリーズは同じポリマーで行ってもよいし、関連する配
列を有する異なるポリマーで行ってもよい。
【0236】
測定の複数のシリーズはそれぞれが同じ技法で行ってもよいし、異なる技法で行っても
よい。測定の複数のシリーズは同じ測定システムで行ってもよいし、異なる測定システム
で行ってもよい。
【0237】
測定の複数のシリーズは、同じポリマーの同じ領域で同時に行われる異なる種類、例え
ば、同時に行われる膜貫通電流測定とFET測定であっても、または同時に行われる光学
的測定と電気的測定であってもよい(Heron AJ et al.、J Am Chem Soc. 2009;131(5):16
52-3)。所与のポリマーまたはその領域を1回よりも多くポア中を通って移行させること
により複数の測定を次々に行うことも可能である。これらの測定は同じ測定でもまたは異
なる測定でもよく、同じ条件下でもまたは異なる条件下でも行うことができる。
【0238】
測定の複数のシリーズは関係のあるポリマーの領域で行いうる。このケースでは、測定
のシリーズは、関係のある配列を有する別々のポリマーの測定でもよくまたは関係のある
配列を有する同じポリマーの異なる領域の測定でもよい。後者の例として、関係が配列が
相補的であるという場合に、ポリヌクレオチドについて提唱された技法が使用されること
もある。このケースでは、センス鎖とアンチセンス鎖が、ポリヌクレオチド結合タンパク
質を使用してまたはポリヌクレオチド試料調製を介して順次読み取られうる。特許仮出願
第61/511436号またはWO-2010/086622に提示されているいかなる
方法でも使用してセンス鎖とアンチセンス鎖を読み取らせてもよい。
【0239】
この例として、図6に図示されている方法は、状態検出ステップS1において処理され
うる複数の入力シグナル11に適用して、測定の複数のシリーズ12を提供しもよい。こ
のケースでは、上に詳細に記載されているように、それぞれの入力シグナル11および測
定のシリーズ12は、同じポリマーの同じ領域の測定であることにより、または同じポリ
マーもしくは異なるポリマーの異なっているが関係のある領域(例えば、DNA鎖および
相補的DNA鎖)の測定であることによりのいずれかで前記ポリマーと関係している。
【0240】
このケースでは、解析方法は基本的に同じであるが、測定のそれぞれのシリーズ12か
らの測定は、複数のそれぞれの次元で配置されているステップS2における解析技法によ
り扱われる。
【0241】
これは、解析ステップS2においてそれぞれの入力シグナル11と測定のシリーズ12
を別々に処理するよりはかなり有利である。解析のこの初期段階で測定のシリーズ12か
らの情報を組み合わせることにより、根底にあるポリマー単位のより正確な推定を行うこ
とが可能である。解析プロセス初期の情報を組み合わせると、解析プロセスの終了時に測
定のシリーズ12と組合せを独立に処理するよりも正確な出力が可能になる。これは、根
底にあるポリマー関係による以外に、測定のシリーズ12が関係があるといういかなる要
件もなしで達成されうる。確率的技法または他の解析技法でも、解析が、測定の関係のあ
るシリーズ12の位置合わせまたはアライメントを推定することが可能になる。測定のど
んなシリーズでも他の任意の測定のシリーズに位置合わせをすることは先験的に分かって
いることもあれば分かっていないこともあることに注目するのは重要である。位置合わせ
がないケースでは、シリーズ内のそれぞれの測定は別のシリーズからの測定と先験的に対
になっていない。
【0242】
数学的に言えば、2つのそれぞれの次元に配置されている測定のシリーズ12を扱う解
析ステップS2の拡張は単刀直入である。放出重み付け15は複数の次元で起こり、測定
のシリーズ12ごとに1つの次元である。方法が、登録されている測定の複数のシリーズ
12で実施され、したがってそれぞれのシリーズからのどの測定が対応しており同じkマ
ーに依拠しているのかが先験的に分かっているケースでは、モデル13を、放出重み付け
15をkマー状態ごとの複数の測定の分布を記述している確率密度関数として複数の次元
で使用して適用しうる。
【0243】
これとは対照的に、方法が登録されていない複数のシリーズで実施され、したがってそ
れぞれのシリーズからのどの測定値が対応しており同じkマーに依拠しているのかが先験
的に分かっていないケースでは、前記方法は、以下の通りに、測定の複数のシリーズを、
複数のそれぞれの次元で配置された全体として扱う。
【0244】
放出分布のそれぞれの次元は、スキップ状態で増大され、多次元重みはその発生の可能
性を表す。個々のシリーズでスキップが起こる場合、放出分布は対応する次元での測定値
よりはむしろ「スキップ」シグナル状態を放出するように取られる。これら「スキップ」
状態は観測可能ではなく、これらの状態の未知の数および位置が位置合わせ問題を引き起
こす。解析ステップS2は、測定の複数のシリーズ12がkマーおよびポリマー単位の異
なる配列から導き出される尤度およびこれらの測定間の異なる位置合わせではそれぞれの
位置合わせが放出分布において潜在している可能性に基づいて実施される。
【0245】
登録されたケースでも非登録のケースでも、測定の複数のシリーズ12が同じ特性(例
えば、同じポリマーの繰返し測定について)の等しい測定である場合、それぞれのシリー
ズ12に関する放出重み付け15は同じであってよい。測定の複数のシリーズ12が異な
る特性(例えば、同じポリマーの異なる測定について、またはポリマーの異なっているが
関係のある領域の測定について)の測定である場合、それぞれのシリーズ12に関する放
出重み付け15は異なっていてもよい。
【0246】
上記のグラフィックモデルBを考慮すると、概念的にはモデルは、Xがここでは単一
の値というよりむしろ値のベクトルを表すこと以外は同じである。HMMのケースでは、
1次元確率密度関数g()からの状態放出値というよりはむしろ、値は複数次元密度関数
から放出され、例えば、センス鎖およびアンチセンス鎖の測定のケースでは、Xは電流
ペア(Xis,Xia)を放出し、Xisはセンス鎖からの電流読取りでありXiaは相
補的kマーに対するアンチセンス鎖からの読みである。この放出された電流ペアは、観測
されないスキップ状態ならびに実際の電流測定を含有していてもよい。基本的な1次元ケ
ースと同じように、外れ値および失われたデータまたは読み飛ばされた状態をモデル化す
ることができる。
【0247】
有利なことに、ポリマーのうちの1つでのスキップは関係するポリマーからの情報を使
用して埋めることができる。例えば、センス-アンチセンスデータに関しては、2次元密
度g()がスキップを非ゼロ確率で1次元に放出し、その間電流をもう一方の次元からサ
ンプリングすることを可能にすることにより、スキップをアンチセンスではなくセンスに
おいて(またはその逆)放出してもよく、したがって、Xは形式(X1s,X1a)、
(X1s,-)または(-,X1a)(-は観測されないスキップを表す)の電流ペアを
放出しうる。さらに、両方のポリマーにおけるスキップもモデル化し、1Dケースにおけ
るのと同じように補正することができる。ここで、測定の1つのシリーズにおける「ステ
イ」も、その他のものについてのスキップ状態を放出することによりモデル化することが
できる。
【0248】
前記1次元HMMからの利点はすべてこの複数次元HMMに移動する。同様に、2つの
別々の1次元HMMを実行し次にアライメント技法を通じて底空間で整列させることより
も利点がある。
【0249】
単なる例として、複数の次元で配置された測定にビタビアルゴリズムを適用することが
考察される。ビタビアルゴリズムは当技術分野では周知である。1次元HMMでは、最も
可能性の高い経路がそれぞれの可能なkマーKで終わる尤度L(k)は、最初の状態か
ら最後の状態へ状態配列の中を前方に移動するそれぞれの状態i(i=1...n)ごと
に計算される。測定の複数のシリーズ間の位置合わせの欠如によって、そのような経路は
すべて考慮しなければならない。値L(K)はすぐ前を先行する状態からの値Li-1
(.)のみを遷移および放出確率と共に使用し、再帰を形成して計算することができる。
m次元HMMでは、類似するスキームを使用しうる。スキップが組み込まれるためには、
m個のインデックスがあり、したがって、Li1,i2,...im(K)は、次元1に
おける状態i1、次元2における状態i2などを記述する最大尤度である。それは可能な
あらゆる量Lj1,j2,...jm(K)を調べることにより再帰的に計算することが
でき、スキップが次元1で放出されるならばj1=i1または状態が次元1において放出
されるならば(i1-1)であり、j2、j3、等についても同様である。
【0250】
この解析法は、それぞれの入力シグナル11および測定のシリーズ12が同じポリマー
の同じ領域の測定である場合に適用しうる。例えば、ポリマーまたはポリマーの領域が再
読取りされるシステムでは、これらの読みは組み合わせることができ、位置合わせまたは
アライメントを推定して根底にあるkマー状態をさらに正確に決定することができる。前
記方法は、異なる条件下でまたは組み合わされる異なる方法により行われる測定も可能に
する。
【0251】
上で考察されたように、例えば、測定の複数シリーズが複数の電気的測定または電気的
および光学的測定を含む場合、複数の測定も同時に行いうる。これらの読みは組み合わさ
れるおよび/または位置合わせもしくはアラインメントが推定されて根底にあるポリマー
配列をより正確に推定することができる。
【0252】
代わりに、測定の複数のシリーズ12は集合されて、1次元測定として解析ステップS
2により使用される測定のサマリーシリーズを提供する。m個の異なる種類の複数の測定
シリーズが存在する場合、同じ種類のすべてのシリーズに集合が適用され、m次元HMM
がサマリー状態シリーズに用いることができる。代わりに、複数のシリーズが存在する場
合、それぞれのシリーズまたはそれぞれのサマリー測定シリーズに1次元HMMを実行し
てよく、これらの解析からの出力に基づいてコンセンサスコールが行われる。
【0253】
この解析法は、入力シグナル11および測定の2つのシリーズを含む測定のシリーズ1
2にも適用することができ、測定の第1のシリーズはポリマーの第1の領域の測定であり
、測定の第2のシリーズは前記第1の領域に関係しているポリマーの第2の領域、例えば
、同じポリマーまたは異なるポリマーの相補的領域の測定である。
【0254】
この技法は、DNA配列の相補的対、すなわち、「センス」鎖およびその相補的「アン
チセンス」鎖への特定の適用を有する。
【0255】
2つの別々の1次元HMMおよび次にアライメント技法を通じた底空間で整列させるこ
とにまさる2次元アプローチの利点はここで説明されることになる。
【0256】
極度に単純化した説明として、センス鎖上でのHMMからPr(AAACAAA)=0
.6、Pr(AAAGAAA)=0.39、Pr(AAAAAAA)=0.01およびア
ンチセンス鎖上でのHMMからPr(TTTTTTT)=0.6、Pr(TTTCTTT
)=0.39、Pr(TTTGTTT)=0.01が想定されている。センスおよびアン
チセンスについて最も可能性の高い配列が取られ、センス-アンチセンスペアとして整列
されるように企てられた場合、配列の中間の塩基でクラッシュ(clash)が得られる。2
次元HMMは、配列の飛び抜けて最も可能性の高い一貫したペアは(AAAGAAA、T
TTCTTT)であることを見つけ、配列ペア(AAACAAA、TTTGTTT)およ
び(AAAAAAA、TTTTTTT)には低い確率を割り当てると考えられる。
【0257】
この極度に単純化した説明では、2番目に可能性が高い配列はそれぞれの1次元HMM
により問題を解決すると見なされるが、さらに長い配列についてのすべての必要なポリマ
ー単位推定を一通り調べるのはすぐに非現実的になる。さらに、ポリマー単位を推定する
ためのいくつかの方法(例えば、ビタビ)は最も確実な経路を放出するだけで、ポリマー
単位を推定した後の可能性のより低い配列の組合せは不可能になる。
【0258】
ビタビアルゴリズムを使用するセンス-アンチセンスケースの特定の詳細な例は、改良
を実証するためにここで説明される。
【0259】
センス-アンチセンスのケースでは、上記のm次元ケースは、m=2について使用され
、Lij(K)は、状態がセンスのみにより、アンチセンスのみにより、または両方によ
り放出されるのかに応じて、値Li-1,j(.)、Li.j-1(.)およびLi,j
(.)を使用して計算される。
【0260】
図39は、最も可能性の高いセンスおよびアンチセンス配列の独立したコールが3マー
モデルおよびHMMを使用して行われる例を図示している。ジョイントセンス-アンチセ
ンスコールは上記の2次元ビタビアルゴリズムを使用して行われる。ジョイントコールは
正確で例外は非常に少なく、特にセンスコールとアンチセンスコールの両方で不正確にコ
ールされている塩基を正確にコールしている。正確な3マー状態推定値は「#」で示され
、正確な塩基は「*」で示されている。この図解では、独立したセンス読取りとアンチセ
ンス読取りの最良の領域を組み合わせても、センス-アンチセンス結果の正確なコールの
数を占めていないことが見て取れる。解析プロセス初期のデータの組合せは、確率的アプ
ローチと組み合わせると、「部分の総和超(more than the sum of the parts)」の結果
をもたらす。
【0261】
この多次元例は、加算された情報が1つの鎖は別の鎖に相補的であることであるセンス
-アンチセンスDNAのケースのためであるが、ポリマーの領域間の他の関係は多次元ア
プローチにおいてコード化しうる。コード化できるであろう別の種類の情報の例は、ポリ
マー中の構造情報である。この情報は、機能的構造体を形成することがわかっているRN
Aに存在しうる。この情報は、ポリペプチド(タンパク質)にも存在しうる。タンパク質
のケースでは、構造情報は、疎水性領域または親水性領域に関係していてもよい。前記情
報は、アルファへリックス、ベータシートまたは他の二次構造に関してでもよい。前記情
報は、結合部位、触媒部位および他のモチーフなどの既知の機能的モチーフに関してでも
よい。
【0262】
本発明の第二の態様および第三の態様に従ってポリマーの測定を行う方法がここで考察
されることになる。下でさらに詳細に考察されるように、これは場合によっては、本発明
の第一の態様に従った上記の方法と組み合わせてもよい。
【0263】
この方法では、測定はナノポア中を流れるイオン電流の測定である。この方法では、ポ
リマーは、ナノポアを横断して電圧が印加されている間にナノポアの中を移行する。測定
はナノポア中のkマーの正体に依拠している。測定はナノポアを横断する異なるレベルの
電圧の印加下で行われる。そのような測定により、単なる重複性ではなく追加の情報が与
えられることは本発明者らにより認識されていた。この利点のいくつかの特定の実証がこ
こで説明されることになる。
【0264】
最初の例は、付加電位下で測定システム中に静止して保持されたDNAの鎖であるポリ
マーのイオン電流測定の分解を図示している。この例では、電流が最初の通常の電圧レベ
ルでは互いに類似しているDNA配列は、第2の電圧レベルで記録することにより分解さ
れた。
【0265】
DNA鎖は、Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 May 12;106(19):7702-7に既に報告され
ている方法に類似するストレプトアビジンアンカーを使用してナノポア中に保持された。
DNAの個々の鎖が当技術分野で公知の方法を使用してDPhPC二重層に包埋された単
一MS-(B1)ナノポア中で測定される場合、ラン(run)が収集された。電圧はナ
ノポアを横切って印加され、電流はナノポアのどちら側でも塩溶液中のイオンの動きから
生み出された。
【0266】
ラン条件は、400mM KCl、10mM Hepes、pH8.0、+180mV
であった。対照配列(TS01)はストレプトアビジンと一緒に2対1比でインキュベー
トされ、チャンバーに添加されて最終濃度200nM DNAを得た。分析物配列はスト
レプトアビジンと一緒に2対1比でチャンバーに添加され、最終分析物DNA濃度400
nMを得た。両方のケースで、ビオチン化DNAとストレプトアビジンは、チャンバーへ
の添加に先立って5分間インキュベートされた。シングルチャネルレコーディングは、+
180mV(2秒)から-180mV(0.2秒)まで付加電位を変化させる自動化手順
を使用して実施された。正の付加電位を使用して捕捉してDNAレベルを読取り、負電位
を使用してナノポアからストレプトアビジン-DNA複合体を排出した。
【0267】
DNA結合事象(状態)ごとの平均電流は以下の通りに調べられた。
【0268】
TS01対照と分析物配列からの集団が記録された。分析物配列電流レベルは、以下の
関係
DNA Ajusted=IDNA Recorded-ITS01+32.2pA
を使用することにより調整された。このプロセスは、広範囲の様々なDNA配列について
繰り返された。例として、表2は、+180mVの電圧で測定された場合、調整された電
流レベルが類似する大きさ(54.5±0.5pA)を示した選択された配列を提示して
いる。
【0269】
【表2】
【0270】
それに続く実験では、DNAの同じ鎖はすべて、脂質膜に包埋された単一MS-(B1
ナノポアを含有するチャンバー中に置かれた。条件は、上記条件の400mM KC
l、10mM Hepes、pH8.0、+180mVに類似していた。分析物配列はす
べてストレプトアビジンと一緒に2対1比でチャンバーに添加され、最終濃度は分析物D
NAごとに200nM DNAであった。TS01はこの実験では添加されなかった。ビ
オチン化DNAとストレプトアビジンは、チャンバーへの添加に先立って5分間インキュ
ベートされた。
【0271】
DNA識別に対する付加電位の効果を調べるため、この実験では電圧を変化させた。シ
ングルチャネルレコーディングは、付加電位を+X(2秒)から-X(0.2秒)まで変
化させる自動化手順を使用して実施され、Xは140mV、180mVおよび220mV
である。シングルチャネルデータは、Xの値ごとにおよそ30分間記録された。
【0272】
DNA結合事象(状態)ごとの平均電流レベルが記録され、それぞれ+140mV、+
180mVおよび+220mVの正電位に関して図40に示されているヒストグラムのセ
ットにプロットされている。これらの結果を考慮すると、+180mVでのデータは予想
通りに振る舞っており、表1.1の11の鎖すべてが非常に類似する電流レベルを生じて
いることは明白である。+220mVでは、電流レベルヒストグラムが広がるまたは散ら
ばっており、レベルが分離していることが示唆される。+140mVでも、広がるまたは
散らばっており、同様に電流レベルは明らかに多数のはっきり異なる集団に分解している
。これらの結果から、+180mVではできなかった多くのDNA鎖を+140mVでは
互いに区別することができることが示唆される。実験の容易さのために、これはナノポア
中で静止している鎖を用いて実施された例であるが、DNA鎖が異なればナノポア中の関
連のある位置で提供されるkマーも異なり、イオン電流に影響を与えるので、DNA鎖の
異なるkマーにより生み出されるイオン電流間の類似の分離はポア中を動的に移行すると
予測される。
【0273】
第2の例は、付加電位下で測定システム中で静止して保持されるDNAの鎖であるポリ
マーのイオン電流測定の分離を図示している。この例では、異なる電圧レベルでのイオン
電流の測定は異なるkマーを分解することが示されている。
【0274】
第2の例では、所与の鎖の電流レベルに対する付加電位の効果を決定するために、DN
A配列はすべての可能なトリプレットを含有するように選択された(ド・ブラン、GTA
C、k3、配列番号5)。
配列番号5(k3 ド・ブラン)
ATAAGAACATTATGATCAGTAGGAGCACTACGACCTTTGT
TCTGGTGCTCGTCCGGGCGCCCAAAT
【0275】
鎖の動きから生じるどんな可能な複雑化もなく電流レベルの効果を評価するために、一
連の異なるDNA鎖が設計された。これらの鎖はそれぞれが、3’末端にビオチン-TE
Gリンカー、k3ド・ブラン配列の一部(35ヌクレオチド長)、およびDNAをナノポ
ア内に通すのを支援する低二次構造を有するセクション(10ヌクレオチド長)を含有し
ていた。k3ド・ブランを含有するセクションの配列は、配列が鎖あたり1ヌクレオチド
移動されるように変化させた。リーダーセクションは、ド・ブランセクションにハイブリ
ダイズしないように選択された。これらのコードおよび対応する配列は表3に収載されて
いる。
【0276】
【表3A】
【表3B】
【表3C】
【0277】
表3に示される鎖の電流レベルは、第1の例に記載されるアプローチに類似するアプロ
ーチを使用して得られた。TS01鎖は内部対照としてチャンバーに添加され、電流レベ
ルはこの対照に対して較正された。この実験で使用される方法と第1の例で使用された方
法の間には2つの主な違いが存在していた。第1の違いはナノポアがMS-(B1-L8
8N)ミュータントに変えられていることであった。第2の違いは、適用された電圧ス
キームであった。これは、電流が4つの異なる付加電位で順次記録されるように選択され
た。ナノポアがDNAを捕捉する速度は付加電位に依拠しているので、最も大きな電位が
最初に記録された。選択された電圧スキームは、+180mV(2.2秒)、+140m
V(0.4秒)、+100mV(0.4秒)、+60mV(0.4秒)、-180mV(
0.8秒)であった。
【0278】
図41は、下のトレースでは印加電圧の例を、上のトレースでは同じ時間スケールにわ
たるSD01鎖について得られ測定されたイオン電流を示している。図41のこの例に見
られるように、結合事象は+180mVの初期間中に起こり、イオン電流の降下を生じる
。それに続く期間で電位が下がるに従って、観測されるイオン電流は減少する。最終期間
は、逆になった電圧はDNA鎖を排出する。
【0279】
DNA鎖SD01~SD54のすべてについて類似するパターンが観測され、それぞれ
の電圧での測定されたイオン電流レベルは表3に収載されている。
【0280】
このデータのグラフィック表示を提供するため、図42から45は、それぞれ4つのレ
ベルの電圧で、順次水平方向に表示されたDNA鎖ごとの測定された電流の散布図である
。見て取れるように、散布図の形状は電位が変わるに従って変化する。それは、異なる電
圧での測定が、例えば、別の電圧では分解することができない2つの状態を分解する1つ
の電圧での測定により追加の情報を提供することになることを暗示している。
【0281】
同じデータの別の表示を与えるため、図46は印加電圧に対するそれぞれの鎖の測定さ
れた電流のグラフである。前記データは、それぞれの電圧での鎖ごとの点からなり、鎖ご
との点はグラフでは線で繋がれて鎖ごとの傾向を示している。図46におけるこの表示は
変動の2つの主要な特長を図示している。
【0282】
第1の特長は、電圧が増大するに従って全体では異なる鎖についての測定された電流の
広がりが増大することである。この全体の傾向は一般的に興味深い。これは、電圧の最適
の選択に影響を与えると考えられるが、状態間の分離におよび個々の状態の測定の標準偏
差にも依拠している状態間の分解の変化を示している可能性がある。しかし、全体の傾向
は複数の電圧を使用する有益性を実証するものではない。
【0283】
第2の特長は、個々の鎖についての測定された電流が印加電圧への異なる依存度での挙
動を示していることである。したがって、全体の傾向が電圧の増大に従って分岐すること
であるが、すべての鎖ごとの電流測定は同じ傾向を示してはいない。鎖についての測定は
相互に分岐していないが、代わりに個々の鎖に変動がある。それどころか、一部の鎖は電
圧と共に一般的線形変化を示しているが、他の鎖は非線形または振動性の変化を示し、い
くつかのケースでは変曲点がある。全体的な分岐傾向に対して、一部の鎖に関する線は収
束している。この観測の理由は重大ではないが、これは、異なる電圧の印加下での測定シ
ステムの物理的および/または生物学的変化により、おそらくナノポア中のDNAの立体
構造変化により引き起こされると推測される。
【0284】
この第2の特長は、1つよりも多い電圧での測定が単に重複しているというよりはむし
ろ追加の情報を提供することである。異なる電圧でのイオン電流測定により異なる状態の
分解が可能になる。例えば、1つの電圧では分解できないいくつかの状態を別の電圧では
分解することができる。
【0285】
第2の例でのいくつかの追加の観測により、状態の標準偏差(または分散)に対する電
圧を変えることの効果が調べられる。これらの状態の分散は、電流の分散がDNA鎖の制
御された動き(例えば、酵素制御されたDNA移行)に類似する時間尺度であるときには
問題を引き起こすことがある。このレジメでは、電流レベルの変化がそれぞれの状態内の
分散またはDNAのネット運動(net movement)のためあるかどうかを決めるのは困難に
なる。この理由で、第2の例で収集されたデータは、移行を制御する酵素を使用するので
はなく、ストレプトアビジンによりナノポア上に保持された鎖を使用して収集された。し
たがって、電流変化が鎖の動きから生じたのかまたはその電流状態の固有の特性から生じ
たのかどうかを描写するように電流レベルの分散を変化させることができるシステムがあ
るのが望ましい。
【0286】
状態分散に対する付加電位の効果を評価するため、第2の例の結果は解析されて、表3
のDNA配列ごとに平均標準偏差を導き出した。図47は、印加電圧に対するそれぞれの
鎖の標準偏差のグラフである。データは、それぞれの電圧での鎖ごとの点からなり、鎖ご
との点はグラフでは線で繋がれて鎖ごとの傾向を示している。電流レベルの分散は付加電
位と共に確かに変化することは、図47から明らかである。大多数の鎖では、分散は付加
電位の増大と共に増加するが+180mVから+220mVまで急上昇する。この変化は
上記の電圧に合わせた電流の変動に類似する原因を有すると推測される。
【0287】
1つよりも多い電圧でイオン電流測定を行う方法であって、本発明の第二の態様および
第三の態様を具体化する方法は、図48に図示されている。この方法では、付加電位はD
NAがナノポア中を通って動いている間変調される。
【0288】
ステップS6では、ポリマーはナノポアを横断する電圧の印加下でナノポア内を通って
移行される。
【0289】
ステップS7では、移行中、電圧のレベルは周期的に変化される。周期は2つ以上の電
圧レベルを含みうる。電圧レベルは規則的にまたは不規則に繰り返してもよい。この期間
を含めて、周期は個々の観測される状態、すなわち、測定される電流が異なるkマーに依
拠するようにポリマーが異なる位置である状態よりも短くなるように選択される。したが
って、それぞれの状態中、電圧のレベルが同じである時、例えば、繰り返される周期で、
ナノポア中を流れるイオン電流は同じであることが観察される。言い換えると、イオン電
流は印加電圧と共に循環する。
【0290】
ステップS8では、異なる電圧レベルの適用下でのナノポア中を流れるイオン電流はそ
れぞれの状態ごとに測定される。
【0291】
第3の例は、この方法の例が以下の通りに実施された。分析物DNA鎖は、上記第2の
例におけるストレプトアビジン系で特徴付けられていた配列を含有するように選択された
。分析物DNA鎖は、ナノポア中に通させる5’オーバーハングでの低二次構造配列も含
有していた。相補鎖は分析物鎖にハイブリダイズされた。前記相補鎖は、コレステロール
-TEGリンカーを含有する短いオリゴがハイブリダイズされる短い5’オーバーハング
も含有していた。コレステロールの組込みにより、DNAは二重層に繋ぎ止められ、必要
なDNAの濃度が大幅に減少する。表4は、この例で使用される分析物DNA鎖の配列を
収載している。
【0292】
【表4】
【0293】
実験設定は上記に類似しており、溶液は、400mM KCl、10mM Hepes
、pH8.0、1mM EDTA、1mM DTTを含有していた。バッファーはチャン
バー内で予備混合溶液の一部として使用された。表4.1において使用されるDNAは1
対1対1比でハイブリダイズされ、予備混合溶液に添加され、Phi DNAPも添加さ
れ、予備混合溶液は室温で5分間混合させておいた。単一のMS-(B1-L88N)
チャネルが得られ、予備混合物を添加して、0.5nMの最終溶液DNA濃度および10
0nMの最終溶液Phi29 DNAP濃度が得られた。
【0294】
印加電圧は、それぞれ10msの長さの+180mVと+140mVの交互パルスを含
む周期で適用された。
【0295】
図49は、結果の図解部分を示しており、特に、下トレースでは印加電圧、および上ト
レースでは得られ測定されたイオン電流を示している。事象はPhi29 DNAP-D
NA複合体から見られた。図49では、付加電位の両方で、状態、例えば、標識された状
態1から3を観測することができた。それぞれの状態中、連続する周期においてそれぞれ
の電圧レベルで流れるイオン電流は同じである。それぞれの状態で、+140mVおよび
+180mVの付加電位での電流レベルは、鎖が一貫した位置にあり、ポア中の単一分子
上2つの電圧で読みを与える間順次得られ、これは状態の期間よりも短い周期期間により
達成される。容量性遷移は付加電位が変えられる直後に観察することができる。これは、
脂質二重層上に蓄えられた電荷が変化する時に起きる。この容量性遷移の持続時間は脂質
膜のサイズに依拠し、さらに小さな膜サイズに進むことにより減らすことができる。この
実験では、脂質膜は、直径50μmの開口部にわたって浮遊させた。
【0296】
DNAは付加電位下Phi29 DNAPの中を通って引っ張られるので、鎖が1つの
位置から別の位置に動くときに起こる状態間の遷移を観察することも可能である。前記遷
移により付加電位ごとに観察される電流が変化する。
【0297】
図49の例は、状態2と隣接する状態1および3における測定されるイオン電流間の違
いは+140mVの印加電圧よりも+180mVの印加電圧でのほうがはるかに大きいと
いう点で、複数の電圧を使用する利点も図示している。これにより、+140mVの印加
電圧よりも+180mVの印加電圧で状態1と3から状態2を分解するほうが容易になる
。逆に、+180mVの印加電圧よりも+140mVの印加電圧で他の状態を分解するほ
うが容易である。
【0298】
図50は、図49と同じ種類のプロットにおいて、第3の例で記載された条件に類似す
る条件下で、しかし、MS-(B1-L88N)の代わりにMS-(B1)ポアを使
用して得られた結果の別の図解部分を図示している。図50図49に類似する全体的な
形を有し、今回は、状態1から状態4と名付けられた4つの状態を含む。このケースでは
、+140mVの印加電圧での状態2と隣接する状態3の測定されたイオン電流間にはほ
とんど違いはないが、+140mVの印加電圧では大きな違いが存在する。このケースで
は、+140mVでは状態2を状態3から分解するのは困難であるまたは不可能でさえあ
るが、これは+180mVでは可能になる。再び、+180mVの印加電圧よりも+14
0mVの印加電圧で他の状態を分解するほうが容易である。
【0299】
上で実証され考察された複数レベルの印加電圧を使用して得られた追加の情報は、ポリ
マーについての情報を導き出すために測定されたイオン電流が解析される時には利点を提
供する。
【0300】
測定を解析する1つの方法は、本発明の第一の態様に従って方法、例えば、第一の態様
を(図6およびそれに続く図を参照して)具体化する上記の方法を適用することである。
したがって、本明細書に記載される方法の様々な特長はいかなる組合せでも組み合わせう
る。このケースでは、複数の電圧を使用することにより得られる追加の情報は推定の正確
度を改善する。
【0301】
本発明の第一の態様に従った解析法は、ポリマーの少なくとも一部の配列を、したがっ
て、正体を決定する。しかし、第二の態様および第三の態様に従った方法も、ポリマーの
少なくとも一部の正体を決定する測定を解析する他の方法において利点を提供し、その利
点のいくつかの非限定的例は以下の通りである。
【0302】
測定を解析して、本発明の第一の態様に従った技法以外の技法を使用してポリマーの少
なくとも一部のポリマー単位の配列を推定しうる。
【0303】
測定を解析して、ポリマー単位の配列の完全な推定を提供せずにポリマーの少なくとも
一部の正体を推定しうる。これらの種類の解析では、複数の電圧を使用することにより得
られる追加の情報は推定の正確度を改善する。
【0304】
代わりに、測定を解析して、状態間の遷移のタイミングを導き出しうる。これらのタイ
ミングはそれ自体が価値があり、またはさらなる解析において使用して、例えば、ポリマ
ー単位の正体を決定しうる。この種類の解析では、追加の情報は遷移を検出する能力を改
善する。一部の遷移は1つの電位で観測するほうが容易であり、他の遷移はもう一方の電
位で観測するほうが容易である。例として、図50の図解的結果では、状態2から状態3
への遷移は+140mVで観測するのは困難であるが、+180mVでは容易に観測され
る。これとは対照的に、状態3から状態4への遷移は+180mVでは弱いが、+140
mVでは容易に観測される。したがって、1つよりも多い電位で記録するのには状態検出
に対する利点が明らかに存在する。
【0305】
いくつかの解析方法では、異なるレベルでの測定は両方とも、例えば、ポリマーの少な
くとも一部の正体の決定に両方とも同じように寄与する別々の測定として直接使用される
。他の解析方法では、異なるレベルでの測定、例えば、正体を決定するのに使用される1
つのレベルで行われる測定およびその結果を確認するのに使用される異なるレベルで行わ
れる測定は異なるやり方で使用しうる。代わりに、1つのレベルでのノイズは、1つの電
圧での特定の測定を使用することを決定するため、別のレベルでのノイズと比較されるこ
とがある。代わりに、解析方法は、それぞれのkマーについての異なるレベルでの測定間
の選択とそれに続くポリマーの少なくとも一部の正体を決定するための選択された測定の
使用を含んでいてもよい。
【0306】
異なるレベルでの2つの測定の使用により得られる追加の情報の程度はkマー間で変わ
ることがある。そのケースでは、異なる数のレベルでの測定は異なるkマーについて使用
され、例えば、いくつかのkマーについて、減少した数のレベル、おそらく、1つだけの
レベルでの測定を使用し、一方、他のkマーについてさらに多くのレベルでの測定を使用
することがある。この方法は、高分散状態にまたは類似の電流レベルを有するそれぞれの
状態に特に有用でありうる。
【0307】
異なるレベルでの測定が使用される場合、異なる重み付けが異なる測定に付けられるこ
とがある。
【0308】
それでもなお、解析方法が様々な形で測定を使用しうるという事実にもかかわらず、い
くつかのkマーに関する異なるレベルでの測定はある方法で使用される。
【0309】
本発明に従った2つの非限定的例がここで説明される。これらの例は両方とも、それぞ
れの電位での状態あたり典型的には少なくとも1つの測定があるケースに適用される。
【0310】
最初の例では、複数のレベルでの測定が使用されて、状態遷移を決定する。これは、状
態遷移がある電位では観測可能であるが別の電位では可能ではないことがあるという事実
を利用する。測定は、状態からの遷移の可能性が高い、状態検出ステップS1を含む上記
の解析方法を受けることができる。図50では、例えば、状態についてのそれぞれの電位
での全データの平均をとることにより、トレースはそれぞれ140および180mVでの
2つの測定に減らしてもよい。次に、これらの測定は2セットの放出分布から同時発生(
すなわち、密に結合した次元)として扱われ、1Dケースに類似するセットの遷移で解析
されてもよい。これは、我々が単一の電位で状態を1回よりも多く測定するケース、例え
ば、平均と分散に実行が類似している点に注目されたい。実際、我々は、例えば、それぞ
れの電位での平均と分散を考慮することによりこのアプローチを4つの密に結合された次
元まで広げることがある。
【0311】
第2の例では、状態間の遷移は、ステップS1が省かれる上記ケースに似て、別々のス
テップとしてというよりむしろ解析段階中に推定される。この例では、単純にするため、
我々は、電位周期のそれぞれのステップでの測定のシリーズを単回測定まで減らしたケー
ス、例えば、平均を考慮することになる。再び、図50を参照して、状態1は140から
180mVに交互に代わる28の測定からなる。したがって、測定ごとの放出確率は適切
な放出(140mVまたは180mV)およびこのデータに適している遷移に関して計算
される。例えば、この状態からのおよそ0.05の全遷移確率が適切でありうる。このア
プローチは、それぞれの周期からのサマリー測定またはそれぞれの周期からの複数のサマ
リー測定よりはむしろそれぞれの測定を考慮するように一般化されてもよい。
【0312】
本発明の第二の態様に従って異なる電圧で測定を行う方法では、ポリマーがナノポア中
を通って移行される間付加電位が循環される本発明の第三の態様に従った方法を適用する
のが有利であるが、代わりに他の方法を使用しうる。
【0313】
非限定的例として、本発明の第二の態様に従って1つよりも多い電圧でイオン電流測定
を行う1つの別の方法は、図51に示されており以下の通りに実施される。
【0314】
ステップS9では、ポリマーはナノポア中を通って移行され、ステップS10では、移
行中単一レベルの電圧がナノポアを横断して印加されそのレベルの電圧の印加下でナノポ
ア中を流れるイオン電流が観測されるそれぞれの状態ごとに測定される。次に、前記方法
は同じポリマーを移行させるステップS9およびステップS10を繰り返すが、異なるレ
ベルの電圧を印加する。ステップS9およびS10は、いかなる数の回数でも繰り返して
、いかなる数の電圧レベルでイオン電流測定を得てもよい。
【0315】
望ましいのは、毎回同じポリヌクレオチドを読み取るために、ナノポアを離れるポリマーの能力は制限される。ポリヌクレオチドのケースでは、これは、鎖が離れていかないように電位を制御することにより、または鎖の移行を阻害する、ストレプトアビジンなどの化学的または生化学的ブロック剤を使用することにより実行しうる。
本願は以下の態様にも関する。
(1) ポリマーに関係する少なくとも1つのシリーズの測定からポリマー中のポリマー単位の配列を推定する方法であって、それぞれの測定値が、kが正整数であるk個のポリマー単位のグループであるkマーに依拠しており、
可能なkマーのセットについて、
起点kマーから目的地kマーまでの遷移の可能性を表す遷移重み付け、および
そのkマーについての所与の測定値を観測する可能性を表すそれぞれのkマーに関する放出重み付け
を含むモデルを提供するステップ、ならびに
前記モデルを参照する解析技法を使用して測定のシリーズを解析し、測定のシリーズがポリマー単位の配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度に基づいて、ポリマー中のポリマー単位の少なくとも1つの推定された配列を推定するステップ
を含む方法。
(2) 遷移重み付けおよび放出重み付けのうちの少なくとも1つが非2値変数の値を含む、上記(1)に記載の方法。
(3) 遷移重み付けと放出重み付けの両方が非2値変数の値を含む、上記(2)に記載の方法。
(4) 放出重み付けがあらゆる可能な測定を観測する非ゼロの可能性を表す、上記(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5) それぞれのkマーに関する放出重み付けが測定値にわたり単峰性または多峰性分布を有する、上記(1)から(4)のいずれかに記載の方法。
(6) それぞれのkマーに関する放出重み付けが測定値にわたりガウス分布、ラプラス分布、四角分布または三角分布を有する、上記(5)に記載の方法。
(7) kが複数の整数である、上記(1)から(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 遷移重み付けが、起点kマーから、最初の(k-1)個のポリマー単位が前記起点kマーの最後の(k-1)個のポリマー単位である配列を有する目的地kマーまでの遷移である好ましい遷移の非ゼロ可能性を表し、起点kマーから前記起点kマーとは異なる配列を有し、最初の(k-1)個のポリマー単位が前記起点kマーの最後の(k-1)個のポリマー単位ではない目的地kマーまでの遷移である好ましくない遷移のより低い可能性を表す、上記(7)に記載の方法。
(9) 遷移重み付けが前記好ましくない遷移のうちの少なくとも一部の非ゼロ可能性を表す、上記(8)に記載の方法。
(10) 遷移重み付けが、起点kマーから、最初の(k-2)個のポリマー単位が前記起点kマーの最後の(k-2)個のポリマー単位である配列を有する目的地kマーまでの好ましくない遷移の非ゼロ可能性を表す、上記(9)に記載の方法。
(11) 解析技法が確率的技法である、上記(1)から(10)のいずれかに記載の方法。
(12) 遷移重み付けが確率であり、および/または放出重み付けが確率である、上記(1)から(11)のいずれかに記載の方法。
(13) モデルが隠れマルコフモデルである、上記(1)から(12)のいずれかに記載の方法。
(14) 解析のステップが、測定のシリーズがポリマー単位の推定された配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度を表す推定された配列またはそれぞれの推定された配列に関してクオリティスコアを導き出すことをさらに含む、上記(1)から(13)のいずれかに記載の方法。
(15) 解析のステップが、ポリマー単位の推定された配列に対応する個々のkマーに関するクオリティスコアであって、測定のシリーズが個々のkマーを含む配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度を表すクオリティスコアを導き出すことをさらに含む、上記(1)から(14)のいずれかに記載の方法。
(16) 解析のステップが、ポリマー単位の推定された配列に対応するkマーの配列に関するクオリティスコアであって、測定のシリーズがkマーの所与の配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度を表すクオリティスコアを導き出すことをさらに含む、上記(1)から(15)のいずれかに記載の方法。
(17) 解析のステップがポリマー中のポリマー単位の複数の推定された配列を導き出す、上記(1)から(16)のいずれかに記載の方法。
(18) ポリマー中のポリマー単位の少なくとも1つの推定された配列を推定するステップが、測定のシリーズが個々のkマーにより生み出されるというモデルにより予測される尤度に基づいてkマーの配列を推定するステップ、および
kマーの推定された配列からポリマー単位の配列を推定するステップ
を含む、上記(1)から(17)のいずれかに記載の方法。
(19) ポリマー中のポリマー単位の少なくとも1つの推定された配列を推定するステップが、測定のシリーズがkマーの全体の配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度に基づいてkマーの少なくとも1つの配列を推定するステップ、および
kマーの推定された配列からポリマー単位の配列を推定するステップ
を含む、上記(1)から(18)のいずれかに記載の方法。
(20) 測定の少なくとも1つのシリーズにおいて、予め定められた数の測定がそれぞれのkマーに依拠しており、予め定められた数が1以上である、上記(1)から(19)のいずれかに記載の方法。
(21) グループにおける測定の数についての先験的知識なしで、複数の測定のグループが同じkマーに依拠している測定の入力シリーズを含む少なくとも1つの入力シグナルを受けるステップ、および
解析のステップ前に、少なくとも1つの入力シグナルを処理して、連続するグループの測定を同定し、それぞれの同定されたグループに関して前記予め定められた数の測定を導き出し、解析のステップがこのようにして導き出された測定のシリーズまたはそれぞれの測定のシリーズで実施されるステップ
を含む、上記(20)に記載の方法。
(22) 少なくとも1つのシリーズの測定において、複数の測定のグループが、前記グループにおける測定の数について先験的知識なしで同じkマーに依拠している、上記(1)から(19)のいずれかに記載の方法。
(23) ポリマーの前記測定を行うことをさらに含む、上記(1)から(22)のいずれかに記載の方法。
(24) ポリマーの前記測定がナノポア中を通るポリマーの移行中に行われる、上記(23)に記載の方法。
(25) ポリマーの移行が、複数の測定のグループが同じkマーに依拠するように実施される、上記(24)に記載の方法。
(26) ナノポア中を通るポリマーの移行は一方向のみに動く様式で実施される、上記(24)または(25)に記載の方法。
(27) ポリマーがポリヌクレオチドであり、ポリマー単位がヌクレオチドである、上記(24)から(26)のいずれかに記載の方法。
(28) 測定のシリーズが、ナノポア中を通るポリマーの移行中に行われる測定である、上記(24)から(27)のいずれかに記載の方法。
(29) ナノポアが生物学的ポアである、上記(24)から(28)のいずれかに記載の方法。
(30) 測定が、電流測定、インピーダンス測定、トンネリング測定、FET測定および光学的測定のうちの1つまたは複数を含む、上記(24)から(29)のいずれかに記載の方法。
(31) 方法が、それぞれが前記ポリマーに関係している測定の複数のシリーズで実施され、それぞれの測定の値がkマーに依拠しており、
解析技法が、複数のそれぞれの次元で配置されている測定の複数のシリーズを扱う、上記(24)から(30)のいずれかに記載の方法。
(32) 測定のそれぞれのシリーズが同じポリマーの同じ領域の測定である、上記(31)に記載の方法。
(33) 測定の複数のシリーズが測定の2つのシリーズを含み、測定の最初のシリーズがポリマーの第1の領域の測定であり、測定の第2のシリーズが前記第1の領域に関係しているポリマーの第2の領域の測定である、上記(31)に記載の方法。
(34) 前記第1の領域と第2の領域が同じポリマーの関係する領域である、上記(33)に記載の方法。
(35) 前記関係する領域が相補的である、上記(33)または(34)に記載の方法。
(36) モデルがメモリに記憶される、上記(1)から(35)のいずれかに記載の方法。
(37) モデルを提供し測定を解析するステップが、ハードウェア装置においてまたはコンピュータ装置において実行される、上記(1)から(36)のいずれかに記載の方法。
(38) 上記(1)から(37)のいずれかに記載の方法を実施するように構成されたデバイス。
(39) ポリマー中のポリマー単位の配列を前記ポリマーに関係のある測定の少なくとも1つのシリーズから推定するための解析デバイスであって、それぞれの測定の値が、kが複数の整数であるk個のポリマー単位のグループであるkマーに依拠しており、方法が可能なkマーのセットについて、
起点kマーから目的地kマーまでの遷移の可能性を表す遷移重み付け、および
そのkマーの所与の測定値を観測する可能性を表すそれぞれのkマーに関する放出重み付けを含むモデルを記憶するメモリ、ならびに
前記モデルを参照する解析技法を使用して、測定のシリーズを解析し、測定のシリーズがポリマー単位の配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度に基づいて、ポリマー中のポリマー単位の少なくとも1つの推定された配列を推定するように構成された解析ユニット
を含む、解析デバイス。
(40) ポリマーの前記測定を行うように構成された測定デバイス、および上記(38)または(39)に記載の解析デバイス
を備える塩基配列決定装置。
(41) ポリマー単位を含むポリマーを解析する方法であって、
ナノポアを横断して電圧が印加されている間にナノポア中を通るポリマーの移行中に、kが正整数である前記ポリマーのk個のポリマー単位であるナノポア中のkマーの正体に依拠している測定を行い、前記測定が個々のkマーに関して、ナノポアを横断して印加される前記電圧の異なるレベルで行われる別々の測定を含むステップ、および
前記電圧の前記異なるレベルで測定を解析してポリマーの少なくとも一部の正体を決定するステップ
を含む方法。
(42) 測定を行う前記ステップが、
異なる移行において電圧がナノポアを横断して異なるレベルで印加されている間に、ナノポア中を通る前記ポリマーの複数の移行を実施するステップ、
前記異なる移行中に、ナノポアを横断する前記電圧の前記異なるレベルでの前記kマーの測定を行うステップ
を含む、上記(41)に記載の方法。
(43) 前記複数の移行がナノポア中を通る第1の方向への移行およびナノポア中を通る前記第1の方向とは反対の方向への移行を含む、上記(42)に記載の方法。
(44) 測定を行う前記ステップが、
電圧がナノポアを横断して印加されている間に、ナノポア中を通る前記ポリマーの移行を実施するステップ、
ナノポア中を通るポリマーの前記移行中に、前記測定が前記個々のkマーに依拠している状態の持続期間よりも短い繰返し周期を有する周期で前記電圧の前記異なるレベルを印加するステップ、および前記周期において前記電圧の前記異なるレベルでの前記個々のkマーに関して前記別々の測定を行うステップ
を含む、上記(41)に記載の方法。
(45) ポリマー単位を含むポリマーの測定を行う方法であって、
電圧がナノポアを横断して印加されている間に、ナノポア中を通る前記ポリマーの移行を実施するステップ、
ナノポア中を通るポリマーの前記移行中に、前記電圧の異なるレベルを周期的に印加するステップ、および
kが正整数である前記ポリマーのk個のポリマー単位であるナノポア中のkマーの正体に依拠している測定であり、前記測定が個々のkマーに依拠している状態よりも短い繰返し周期を有する前記周期で前記電圧の前記異なるレベルでの前記個々のkマーに関する別々の測定を含む測定を行うステップ
を含む方法。
(46) 繰返し周期が最長で3秒である、上記(44)または(45)に記載の方法。
(47) 繰返し周期が少なくとも0.5msである、上記(44)から(46)のいずれかに記載の方法。
(48) 前記電圧の異なるレベルがそれぞれ、前記周期の部分的期間連続して印加される、上記(44)から(47)のいずれかに記載の方法。
(49) 前記周期における前記電圧の前記異なるレベル間の遷移が、電圧変化により引き起こされる測定の容量性遷移を減少するように形作られる、上記(48)に記載の方法。
(50) 測定を解析してポリマーの正体を決定することをさらに含む、上記(45)または(上記(5に付随する場合は上記(46)から(49)のいずれかに記載の方法。
(51) 測定を解析してポリマーの正体を推定するステップが、測定を解析してポリマー中のポリマー単位の配列を推定することを含む、上記(41)から(44)または(50)のいずれかに記載の方法。
(52) 測定を解析してポリマー中のポリマー単位の配列を推定するステップが、
可能なkマーのセットについて、
起点kマーから目的地kマーまでの遷移の可能性を表す遷移重み付け、および
そのkマーについての所与の測定値を観測する可能性を表すそれぞれのkマーに関する放出重み付け
を含むモデルを提供するステップ、ならびに
前記モデルを参照し、ナノポアを横断する電圧の異なるレベルの印加下で行われる測定を扱う解析技法を使用して測定を複数の次元での測定として解析し、測定のシリーズがポリマー単位の配列により生み出されるというモデルにより予測される尤度に基づいて、ポリマー中のポリマー単位の少なくとも1つの推定された配列を推定するステップ
を含む、上記(51)に記載の方法。
(53) 測定を解析してポリマーの正体を決定するステップが、前記異なる電圧レベルで行われる別々の測定を比較して、前記測定が前記個々のkマーに依拠している状態間の遷移を決定することをさらに含む、上記(41)から(44)、(51)または(52)のいずれかに記載の方法。
(54) 電圧の前記異なるレベル間の違いが10mVから1.5Vの範囲である、上記(1)から(53)のいずれかに記載の方法。
(55) 前記異なるレベルが2つの異なるレベルからなる、上記(1)から(54)のいずれかに記載の方法。
(56) 電圧の異なるレベルが同じ極性である、上記(1)から(55)のいずれかに記載の方法。
(57) 前記測定がナノポア中を通るイオン電流の流れの測定である、上記(1)から(56)のいずれかに記載の方法。
(58) ナノポア中を通るイオン電流の流れの前記測定が、ナノポア中を通るDCイオン電流の流れの測定である、上記(57)に記載の方法。
(59) 前記電圧の前記異なるレベルのそれぞれ1つでグループの複数の測定を行うステップ、および
前記異なるレベルのそれぞれ1つでの複数の測定のそれぞれのグループから1つまたは複数のサマリー測定を導き出して、個々のkマーに関して前記別々の測定を構成するステップ
を含む、上記(1)から(58)のいずれかに記載の方法。
(60) 前記電圧の異なるレベルがそれぞれ一定期間連続して印加され、
それぞれ各自の期間中、それぞれの期間中に印加される前記電圧の前記異なるレベルのうちの1つでグループのうちの1つの複数の測定を行う、
上記(59)に記載の方法。
(61) ポリマーがポリヌクレオチドであり、ポリマー単位がヌクレオチドである、上記(1)から(60)のいずれかに記載の方法。
(62) ナノポアが生物学的ポアである、上記(1)から(61)のいずれかに記載の方法。
(63) ナノポア中を通るポリマーの前記移行が、連続するkマーがナノポアで登録される一方向のみに動く様式で実施される、上記(1)から(62)のいずれかに記載の方法。
(64) ポリマーの移行が分子歯止めにより制御される、上記(1)から(63)のいずれかに記載の方法。
(65) 分子歯止めが酵素である、上記(64)に記載の方法。
(66) ポリマー単位を含むポリマーを解析するための装置であって、
ポリマーが中を通って移行しうるナノポア、
ナノポア中を通るポリマーの移行中にナノポアを横断して電圧を印加するように配置された制御回路、および
kが正整数であるポリマーのk個のポリマー単位であるkマーの正体に依拠している測定をナノポア中で行うように配置された測定回路であって、
前記制御回路がナノポアを横断して電圧の異なるレベルを印加するように配置され、前記測定回路がナノポアを横断して印加される前記電圧の異なるレベルで、個々のkマーに関して別々の測定を行うように配置されている、測定回路、および
前記電圧の前記異なるレベルで測定を解析してポリマーの少なくとも一部の正体を決定するように配置されている解析ユニット
を備える装置。
(67) 制御回路が、ナノポア中を通る前記ポリマーの異なる移行中にナノポアを横断して電圧の異なるレベルを印加するように配置されており、測定回路が前記電圧の異なるレベルでの前記異なる移行中に、個々のkマーに関して別々の測定を行うように配置されている、上記(66)に記載の装置。
(68) 制御回路が、ナノポア中を通るポリマーの前記移行中に、前記測定が前記個々のkマーに依拠している状態の持続時間よりも短い繰返し周期を有する周期で前記電圧の前記異なるレベルを印加するように配置されており、測定回路が前記周期において前記電圧の前記異なるレベルで、個々のkマーに関して別々の測定を行うように配置されている、上記(66)に記載の装置。
(69) ポリマー単位を含むポリマーを測定するための装置であって、
ポリマーが中を通って移行しうるナノポア、
ナノポア中を通るポリマーの移行中に、前記測定が前記個々のkマーに依拠している状態の持続時間よりも短い繰返し周期を有する周期で前記電圧の異なるレベルを印加するように配置されている制御回路、および
ナノポアを横断して印加される前記電圧の異なるレベルで、個々のkマーに関して別々の測定を行うように配置されている測定回路
を備える装置。
(70) 前記電圧の前記異なるレベルで測定を解析して、ポリマーの少なくとも一部の正体を決定するように配置されている解析ユニットをさらに備える、上記(69)に記載の装置。

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