(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20240701BHJP
【FI】
G06N20/00 130
(21)【出願番号】P 2021072639
(22)【出願日】2021-04-22
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
【審査官】真木 健彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-128863(JP,A)
【文献】特開2012-140080(JP,A)
【文献】特開2012-022498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00 - 99/00
G06F 18/00 - 18/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列データに含まれる従属変数及
び独立変数の少なくとも一方に基づいて、非線形関数を生成する非線形関数生成部と、
前記非線形関数を基底関数とした線形回帰式を生成する回帰式生成部と、
前記線形回帰式の係数を推定する推定部と、
前記係数と、前記係数に対応する
前記時系列データ中の基底関数の最大値との積を、影響度として算出する算出部と、
前記影響度に基づいて前記係数を修正する修正部と
、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記修正部により修正された前記係数によって、前記線形回帰式を更新した後、更新された前記線形回帰式の係数を再度、推定し、
前記算出部は、前記更新された線形回帰式の係数と、前記更新された線形回帰式の係数に対応する
前記時系列データ中の基底関数の最大値との積によって、前記影響度を更新し、
前記修正部は、更新された前記影響度に基づいて、前記更新された線形回帰式の係数を、再度、修正し、
前記係数の推定と、前記影響度の算出と、前記係数の修正とを、所定の回数、繰り返す、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記従属変数及び前記独立変数は、正規化されていない値を有する、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記修正部は、前記影響度が閾値以下の前記基底関数の係数を0に修正する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記推定部は、非負最小二乗法によって前記係数を推定する、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
複数の種類の前記時系列データを記憶
する記憶部をさらに備え、
前記複数の種類の時系列データは、初期条件及び境界条件の少なくとも一方が異なる時系列データである、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記線形回帰式の左辺は、前記従属変数の時間微分である、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記従属変数の値は、前記従属変数が示す物理量毎に統一された単位により表され、
前記独立変数の値は、前記独立変数が示す物理量毎に統一された単位により表される、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
情報処理装置が、時系列データに含まれる従属変数及
び独立変数の少なくとも一方に基づいて、非線形関数を生成するステップと、
前記情報処理装置が、前記非線形関数を基底関数とした線形回帰式を生成するステップと、
前記情報処理装置が、前記線形回帰式の係数を推定するステップと、
前記情報処理装置が、前記係数と、前記係数に対応する
前記時系列データ中の基底関数の最大値との積を、影響度として算出するステップと、
前記情報処理装置が、前記影響度に基づいて前記係数を修正するステップと
、
を含む情報処理方法。
【請求項10】
コンピュータを、
時系列データに含まれる従属変数及
び独立変数の少なくとも一方に基づいて、非線形関数を生成する非線形関数生成部と、
前記非線形関数を基底関数とした線形回帰式を生成する回帰式生成部と、
前記線形回帰式の係数を推定する推定部と、
前記係数と、前記係数に対応する
前記時系列データ中の基底関数の最大値との積を、影響度として算出する算出部と、
前記影響度に基づいて前記係数を修正する修正部と
、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物理現象をモデル化する技術が従来から知られている。例えば、機械学習の一種である関数同定問題を応用し、時系列データから物理現象を記述する数理モデルを獲得する技術がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】S.L.Brunton,J.L.Proctor,J.N.Kutz,”Discovering governing equations from data by sparse identification of nonlinear dynamical systems”,Proc.Natl.Acad.Sci.,113 (2016),pp.3932-3937
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、物理現象のモデルの生成精度をより向上させることが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の情報処理装置は、非線形関数生成部と回帰式生成部と推定部と算出部と修正部とを備える。非線形関数生成部は、時系列データに含まれる従属変数及び独立変数の少なくとも一方に基づいて、非線形関数を生成する。回帰式生成部は、前記非線形関数を基底関数とした線形回帰式を生成する。推定部は、前記線形回帰式の係数を推定する。算出部は、前記係数と、前記係数に対応する前記時系列データ中の基底関数の最大値との積を、影響度として算出する。修正部は、前記影響度に基づいて前記係数を修正する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態の情報処理装置の機能構成の例を示す図。
【
図2】実施形態のモデルの生成方法の例を示すフローチャート。
【
図3】ある熱流体解析結果を逐次閾値最小二乗法で学習させた結果の例を示す図。
【
図4】熱流体解析対象のパワエレ機器の例を示す図。
【
図7】パワエレ機器のチップの数及び位置の例を示す図。
【
図8】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルに入力される未知の入力データの例1を示す図。
【
図9】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルによる予測結果の例1(入力データの例1が入力された場合)を示す図。
【
図10A】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルに入力される未知の入力データの例2を示す図。
【
図10B】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルに入力される未知の入力データの例2を示す図。
【
図11】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルによる予測結果の例2(入力データの例2が入力された場合)を示す図。
【
図12】実施形態の情報処理装置のハードウェア構成の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムの実施形態を詳細に説明する。
【0008】
関数同定問題を発展させた非特許文献1では、真のモデルが非線形項の線形結合で表現できるという下記式(1)の仮定を置く。
【0009】
【0010】
実施形態の情報処理装置においても、上記式(1)を採用し、真のモデルが非線形項の線形結合で表現できると仮定する。そして、実施形態の情報処理装置は、非線形関数の候補で構成された下記式(2)のライブラリの係数Ξを、新たに開発した機械学習技術(後述の新たなスパース推定技術)を用いて推定する。
【0011】
【0012】
実施形態の情報処理装置は、このライブラリで探索空間を定めることによって、学習に要する時間と、学習に必要なデータの大幅な削減とを達成する。
【0013】
以下の実施形態の説明では、物理現象のモデルとして、熱回路網のモデルを生成することを考える。下記式(3)により表される熱回路網法の節点方程式は、温度の時間変化を非線形項の線形結合として表現可能である。
【0014】
【0015】
そこで、右辺に比例する基底関数の候補から成るライブラリを考えて、機械学習技術で係数推定する方法が考えられる。与えられた基底関数の係数のほとんどはゼロである。したがって、機械学習技術の一種であるスパース推定技術を用いて係数推定することになる。従来のスパース推定技術は、変数を正規化することで上手く動作する。しかし、候補の基底関数は、例えば下記式(4)の右辺のように変数同士の足し算引き算を含み、それらの演算結果が物理的な意味を持つため、変数を正規化すると不都合が生じる。
【0016】
【0017】
例えば温度T1が20~30℃の範囲であり、温度T2が20~50℃の範囲であるとする。基底関数の中には、温度T2-温度T1に比例するような関数が含まれている。ここで、温度T1が20℃、温度T2が50℃の場合、正規化しないと温度T2-温度T1は30℃である。一方、0~1の範囲で正規化すると、温度T2は1になり、温度T1は0になるので、温度T2-温度T1は、1である。
【0018】
また、例えば温度T1が30℃、温度T2が35℃の場合、正規化しないと温度T2-温度T1は5℃である。一方、0~1の範囲で正規化すると、温度T2は0.5になり、温度T1は、1になるので、温度T2-温度T1は-0.5である。つまり、前者は30℃の温度差、後者は5℃の温度差が重要であるのに対し、正規化すると前者はT1、後者は-0.5となり、物理的意味が損なわれる。
【0019】
また、全節点、つまりN個の温度Tをまとめて正規化した場合も同様に物理的意味が損なわれる。例えば、温度T1の温度範囲が20~30℃であり、温度T2の温度範囲が20~50℃である場合に、温度Tをまとめて正規化することを考える。温度T1が、20℃、25℃、30℃と変化し、温度T2が、20℃、50℃、40℃と変化する場合、温度T1は、0、0.17、0.33と正規化され、温度T2は、0、1、0.67と正規化される。
【0020】
ここで、関数の引き算が、線形関数の引き算T2-T1であれば、温度T1及びT2が上記のように変化するとき、正規化しない場合は、T2-T1は、0、25、10となり、正規化した場合、T2-T1は、0、0.83、0.33となる。このとき、25/10=2.5、0.83/0.33≒2.5である。このように、線形関数同士の足し算引き算を行う場合には、変数を正規化しても演算結果の関係性は保たれる。
【0021】
一方、関数の引き算が、非線形関数の引き算T22-T12であれば、温度T1及びT2が上記のように変化するとき、正規化しない場合は、T22-T12は、0、109375、37000となり、正規化した場合、T22-T12は、0、1、0.26となる。このとき、109375/37000≒2.956、1/0.26≒3.846である。このように、非線形関数同士の足し算引き算を行う場合、変数を正規化すると、演算結果の関係性が損なわれる。
【0022】
熱の問題を考える場合は温度の絶対値が重要であって、温度変化し難い場所(温度変動幅小)の温度と,温度変化し易い場所(温度変動幅大)の温度を同じレンジ(0~1)に正規化すると、物理的におかしくなる。
【0023】
しかしながら、従来のスパース推定技術は係数の大きさを基準に、変数選択を行うため、基底関数の範囲が各々バラバラな場合は上手く動作しない。例えば、従来のスパース推定技術として、下記式(5)のlasso、及び、非特許文献1で提案されているsequential thresholded least-squares algorithm(以下、「逐次閾値最小二乗法」という。)が知られている。
【0024】
【0025】
基底関数の範囲が各々バラバラな場合、上記式(5)のlassoも上手く動作しないし、非特許文献1の逐次閾値最小二乗法も上手く動作しない。
【0026】
さらに、熱回路網法で使う節点方程式は、上記式(3)で表される連立微分方程式である。上記式(3)の左辺は、従属変数の時間微分である。また、上記式(3)の右辺は熱容量を分母に持つ項で成り立つ。この熱容量は節点によって大きく異なり、節点によって5オーダー以上異なる場合も多い。そのため、節点ごとに0にする閾値を適切に設定することが非常に難しい。
【0027】
そこで、実施形態の情報処理装置では、従属変数及び独立変数が、正規化されていない値を有する場合についても適用可能な新たなスパース推定技術を用いることとする。新たなスパース推定技術では、非特許文献1の逐次閾値最小二乗法を発展させ、上記式(3)の右辺のどの項が左辺に強く影響を及ぼすか?という視点で基底関数選択を行う。すなわち、実施形態の情報処理装置では、上記式(3)の右辺の係数ではなく、項(係数×基底関数)の大きさに基づいて、基底関数の選択を行う。
【0028】
以下、物理現象のモデルの生成精度をより向上させることができる実施形態の情報処理装置の動作例の詳細について説明する。
【0029】
[機能構成の例]
図1は実施形態の情報処理装置1の機能構成の例を示す図である。実施形態の情報処理装置1は、記憶部11と非線形関数生成部12と回帰式生成部13と推定部14と算出部15と修正部16と出力制御部17とを備える。
【0030】
記憶部11は、従属変数及び独立変数の少なくとも一方を含む時系列データを記憶する。従属変数(目的変数)は、独立変数(説明変数)に依存して定まる変数である。独立変数は、従属変数の変化の要因を示す変数である。従属変数は、例えば電子部品及びヒートシンクなどの温度である。独立変数は、例えば、電子部品を冷却するファンの風の強さを示す風速、電子部品に流れる電流、及び、電子部品に入力される電圧等である。
【0031】
実施形態の情報処理装置1では、従属変数の値は、従属変数が示す物理量毎に統一された単位により表される。例えば、物理量が重さであれば、kgにより表された従属変数と、gにより表された従属変数とを混在させずに、kg又はgに統一する。同様に、独立変数の値は、独立変数が示す物理量毎に統一された単位により表される。
【0032】
なお、記憶部11は、複数の種類の時系列データを記憶してもよい。複数の種類の時系列データは、初期条件及び境界条件の少なくとも一方が異なっていてもよい。
【0033】
非線形関数生成部12は、従属変数及び独立変数の少なくとも一方に基づいて、非線形関数を生成する。非線形関数生成部12は、例えば、位置iの温度Tiと、位置jの温度Tjとに基づいて、非線形関数を生成する。
【0034】
回帰式生成部13は、非線形関数生成部12により生成された非線形関数を基底関数とした線形回帰式を生成する。
【0035】
推定部14は、回帰式生成部13により生成された線形回帰式の係数を推定する。
【0036】
算出部15は、項(係数×基底関数)の大きさに基づく影響度を算出する。基底関数(例えばTi‐Tj)の値は時間とともに変化する。そこで、時系列データ中の最大値を基底関数の代表値とみなし、具体的には、影響度を、項の大きさ=係数ξkj×基底関数の代表値maxi|θik|で表現する。すなわち、算出部15は、推定部14により推定された係数と、当該係数に対応する基底関数の最大値との積を、影響度として算出する。
【0037】
修正部16は、算出部15により算出された影響度に基づいて係数を修正する。例えば、修正部16は、影響度が閾値以下の基底関数の係数を0に修正する。
【0038】
出力制御部17は、所定の収束条件を満たした場合、修正された係数により表された線形回帰式を出力する。所定の収束条件は、例えば機械学習処理の繰り返し回数等である。
【0039】
[モデルの生成方法の例]
図2は実施形態のモデルの生成方法の例を示すフローチャートである。はじめに、情報処理装置1は、モデルを機械学習する際に使用されるデータ(例えばハイパーパラメーター等)を初期化する(ステップS1)。
【0040】
次に、推定部14は、回帰式生成部13により生成された線形回帰式の係数を、下記式(6)による非負最小二乗法によって推定する(ステップS2)。
【0041】
【0042】
ここで、ステップS2で非負最小二乗法を使用する理由について説明する。従来の逐次閾値最小二乗法では、係数推定を最小二乗法で行う。しかし、基底関数(≒変数)同士の相関が非常に高く、学習データ数が少ない場合は係数推定が上手くいかず、係数の推定値が非常に大きくなってしまう場合がある。
【0043】
図3は、ある熱流体解析結果を逐次閾値最小二乗法で学習させた結果の例を示す図である。
図3の学習結果では、非常に大きな係数をもつ、相関の高い基底関数のペアが散見する。これらペアの総和は学習データに対して0に近い値になる場合が多い。左辺に与える影響はほとんどない、このような基底関数の係数を、次の処理ステップで0にすることはできない。
【0044】
係数の大きな基底関数が多く残ると、式自体は不安定になる。そこで、上記式(3)の右辺の基底関数の取り方を工夫すると係数の符号が一意に決まることを利用し、実施形態の推定部14は非負最小二乗法で係数推定する。すると、相関の高い基底関数同士で効果を打ち消しあうようなことは起こらなくなる。
【0045】
図2に戻り、次に、算出部15が、上述の影響度(項の大きさ)を算出し、修正部16が、当該影響度が閾値以下の基底関数の係数を0に修正することによって、閾値以下の基底関数を削除する(ステップS3)。閾値は、例えば下記式(7)の右辺で表現される。
【0046】
【0047】
ここで、tolは、ハイパーパラメーターであり、tol<1である。iは時間を示し、jは空間(節点)を示す。kは、基底関数を識別する番号である。上記式(7)の右辺に示されるように、閾値は、jによって変動する(時定数の影響を考慮)。
【0048】
修正部16は、各項の大きさの総和のtol倍以下の項(ξkjmaxi|θik|)に対応する基底関数θkの係数を0に修正する。
【0049】
なお、閾値は、下記式(8)の右辺でもよい。すなわち、修正部16は、左辺に最も影響を与えた項のtol倍以下の項(ξkjmaxi|θik|)に対応する基底関数θkの係数を0に修正してもよい。
【0050】
【0051】
次に、修正部16は、係数の推定及び修正処理の結果が、収束条件を満たしたか否かを判定する(ステップS4)。
【0052】
収束条件は、例えば係数の推定及び修正処理の実行回数である。この場合、推定部14は、修正部16により修正された係数によって、線形回帰式を更新した後、更新された線形回帰式の係数を再度、推定する。次に、算出部15は、更新された線形回帰式の係数と、更新された線形回帰式の係数に対応する基底関数の最大値との積によって、影響度を更新する。そして、修正部16は、更新された影響度に基づいて、更新された線形回帰式の係数を、再度、修正する。情報処理装置1は、上記係数の推定と、上記影響度の算出と、上記係数の修正とを、所定の回数、繰り返す。
【0053】
収束条件を満たしていない場合(ステップS4,No)、処理はステップS2に戻る。収束条件を満たした場合(ステップS4,Yes)、出力制御部17が、モデルの性能評価指標を算出する(ステップS5)。次に、出力制御部17は、学習されたモデルが、収束条件を満たしたか否かを判定する(ステップS6)。収束条件は、例えばモデルの学習処理の実行回数である。また例えば、収束条件は、ステップS5の処理によって算出された性能評価指標が、所定の評価閾値より大きい場合である。収束条件を満たしていない場合(ステップS6,No)、ハイパーパラメーターを更新し(ステップS7)、ステップS2に戻る。
【0054】
収束条件を満たした場合(ステップS6,Yes)、出力制御部17が、モデルを出力する(ステップS8)。
【0055】
[効果の説明]
次に、実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルの精度について説明する。
【0056】
図4は熱流体解析対象のパワエレ機器100の例を示す図である。パワエレ機器100は、ヒートシンク101及び電子機器102を備える。ヒートシンク101は、電子機器102を冷却する。ヒートシンク101には、ファンから風が送られる。電子機器102は、パワエレ機器100の動作を制御する。パワエレ機器100は、例えばパワーモジュールである。
【0057】
実施形態の情報処理装置1は、例えば、パワエレ機器100を対象とした熱流体解析を60節点の温度履歴を含む時系列データを用いて、上述の機械学習を行うことによって、例えば、数百万節点の熱流体解析を60節点で表現するモデルを生成する。
【0058】
図5は電子機器102の部品構成の例を示す図である。電子機器102は、チップ103、接合部材104、部品105、部品106、部品107、接合部材108及び部品109を備える。
【0059】
図6はヒートシンク101の温度計測箇所(節点)の例を示す図である。ヒートシンク101の温度履歴は、節点121~127等を含む複数の節点で計測される。
【0060】
図7は、パワエレ機器100のチップ103の数及び位置の例を示す図である。パワエレ機器100では、例えば1番目から12番目のチップ103が、
図7のような配置で搭載される。1番目から12番目の位置にあるチップ103を、それぞれチップ_1~チップ_12と表す。
【0061】
以下に説明する実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルの有効性の検証例では、入力データを73変数(チップ_1~チップ_12のチップ発熱量、ヒートシンクに風を送付するファンの風速、及び、60箇所(節点)の初期温度)とし、出力データを60変数(60箇所の温度)としている。また、学習データは、12回の熱流体解析結果である。学習データの範囲は、発熱量が1~69W、ファンの風速が1.0~2.0m/sである。評価データ(学習データには含まれていない未知の入力データ)の範囲は、発熱量が0~80W、ファンの風速が1.5~3.5m/sである。
【0062】
図8は実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルに入力される未知の入力データの例1を示す図である。vは、ヒートシンク101に送られる風の速度(風速)を示す。Q1~Q12は、チップ_1~チップ_12の発熱量を示す。
【0063】
図9は実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルによる予測結果の例1(入力データの例1が入力された場合)を示す図である。
図9の例では、チップ_1、チップ_6及びチップ_12のそれぞれに含まれる節点、並びに、ヒートシンク101の節点122及び127の温度変化の予測結果を示す。点線は、モデルによる予測結果を示す。実線は、熱流体解析の結果(正解)を示す。チップ_1の温度変化の予測結果が示すように、実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルは、計測開始直後の急な温度上昇も、その後の定常値も高精度に予測できていることがわかる。また、時定数のオーダーが数桁異なる計測対象に、節点が含まれている場合でも、問題なく予測できていることがわかる。
【0064】
図10A及び10Bは実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルの入力データの例2を示す図である。入力データの例2は、発熱量を一定とせず、
図10Bのように変動させた場合を示す。
【0065】
図11は実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルによる予測結果の例2(入力データの例2が入力された場合)を示す図である。実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルは、
図11に示すように、発熱量を変動させた場合でも、チップ_1、チップ_6及びチップ_12のそれぞれに含まれる節点、並びに、ヒートシンク101の節点122及び127の温度変化を高精度に予測できていることがわかる。
【0066】
以上説明したように、実施形態の情報処理装置1では、記憶部11は、従属変数及び独立変数の少なくとも一方を含む時系列データを記憶する。非線形関数生成部12は、従属変数及び独立変数の少なくとも一方に基づいて、非線形関数を生成する。回帰式生成部13は、非線形関数を基底関数とした線形回帰式を生成する。推定部14は、線形回帰式の係数を推定する。算出部15は、当該係数と、当該係数に対応する基底関数の最大値との積を、影響度として算出する。修正部16は、影響度に基づいて係数を修正する。そして、出力制御部17は、修正された係数により表された線形回帰式を出力する。
【0067】
これにより実施形態の情報処理装置1によれば、物理現象のモデルの生成精度をより向上させることができる。
【0068】
なお、上述の実施形態では、情報処理装置1が、熱モデルの線形回帰式を生成する場合について述べたが、他の物理現象(例えば、電気抵抗、物理的な変形量)のモデルの線形回帰式を生成するようにしてもよい。
【0069】
最後に実施形態の情報処理装置1のハードウェア構成の例について説明する。
【0070】
[ハードウェア構成の例]
図12は実施形態の情報処理装置1のハードウェア構成の例を示す図である。
【0071】
実施形態の情報処理装置1は、制御装置201、主記憶装置202、補助記憶装置203、表示装置204、入力装置205及び通信装置206を備える。制御装置201、主記憶装置202、補助記憶装置203、表示装置204、入力装置205及び通信装置206は、バス210を介して接続されている。
【0072】
制御装置201は、補助記憶装置203から主記憶装置202に読み出されたプログラムを実行する。主記憶装置202は、ROM及びRAM等のメモリである。補助記憶装置203は、HDD(Hard Disk Drive)及びメモリカード等である。
【0073】
表示装置204は、表示情報を表示する。表示装置204は、例えば液晶ディスプレイ等である。入力装置205は、情報処理装置1を操作するためのインタフェースである。入力装置205は、例えばキーボードやマウス等である。情報処理装置1がスマートフォン及びタブレット型端末等のスマートデバイスの場合、表示装置204及び入力装置205は、例えばタッチパネルである。
【0074】
通信装置206は、他の装置等と通信するためのインタフェースである。
【0075】
実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、メモリカード、CD-R及びDVD等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記録されてコンピュータ・プログラム・プロダクトとして提供される。
【0076】
また実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムをダウンロードさせずにインターネット等のネットワーク経由で提供するように構成してもよい。
【0077】
また実施形態の情報処理装置1のプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0078】
実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムは、上述した機能ブロック(
図1)のうち、プログラムによっても実現可能な機能ブロックを含むモジュール構成となっている。当該各機能ブロックは、実際のハードウェアとしては、制御装置201が記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、上記各機能ブロックが主記憶装置202上にロードされる。すなわち上記各機能ブロックは主記憶装置202上に生成される。
【0079】
なお上述した各機能ブロックの一部又は全部をソフトウェアにより実現せずに、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現してもよい。
【0080】
また複数のプロセッサを用いて各機能を実現する場合、各プロセッサは、各機能のうち1つを実現してもよいし、各機能のうち2以上を実現してもよい。
【0081】
また実施形態の情報処理装置1の動作形態は任意でよい。実施形態の情報処理装置1を、例えばネットワーク上のクラウドシステムとして動作させてもよい。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 情報処理装置
11 非線形関数生成部
13 回帰式生成部
14 推定部
15 算出部
16 修正部
17 出力制御部
100 パワエレ機器
101 ヒートシンク
102 電子機器
103 チップ
104 接合部材
105 部品
106 部品
107 部品
108 接合部材
109 部品
201 制御装置
202 主記憶装置
203 補助記憶装置
204 表示装置
205 入力装置
206 通信装置