(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】マルチコプタ
(51)【国際特許分類】
B64D 27/24 20240101AFI20240701BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240701BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240701BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240701BHJP
B64D 27/08 20060101ALI20240701BHJP
B64D 31/06 20240101ALI20240701BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20240701BHJP
B64C 27/08 20230101ALI20240701BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20240701BHJP
B64U 10/16 20230101ALI20240701BHJP
B64U 50/19 20230101ALI20240701BHJP
B64U 50/33 20230101ALI20240701BHJP
B60W 20/00 20160101ALN20240701BHJP
【FI】
B64D27/24
B60K6/46 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/06 900
B64D27/08
B64D31/06
B64C39/02
B64C27/08
F02D29/00 A
B64U10/16
B64U50/19
B64U50/33
B60W20/00 900
(21)【出願番号】P 2021160395
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹川 翔一朗
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-183210(JP,A)
【文献】特開2020-117024(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2041250(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0115265(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017200341(DE,A1)
【文献】特開2020-094521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 27/04,27/08,27/33,31/06,31/18,35/024
B60K 6/46
B60W 10/08
B60W 10/06
B60W 20/00
B64C 39/02
B64C 27/08
F02D 29/00-29/06
B64U 10/16,50/19,50/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のロータと、
前記各ロータを回転駆動するためのモータと、
前記モータへ供給する電力を充放電可能に構成されるバッテリと、
前記モータに供給される電力及び前記バッテリに充電される電力を発電するための発電機と、
前記発電機を駆動するためのエンジンと、
前記エンジンの運転、前記発電機から前記モータへの電力の供給、前記発電機から前記バッテリへの充電及び前記バッテリから前記モータへの放電を制御するための制御手段と
を備え、前記モータへ電力を供給して前記各ロータを回転させることにより飛行するマルチコプタにおいて、
前記マルチコプタに要求される飛行応答速度を取得するための取得手段を更に備え、
前記制御手段は、前記マルチコプタの離陸に必要な飛行電力を充足させるために、前記発電機から前記モータへ発電電力を供給すると共に前記発電電力のみでは不足する電力を補うために前記バッテリから前記モータへバッテリ電力を放電させるように構成され、
前記制御手段は、前記マルチコプタの離陸時に前記取得手段により取得される前記飛行応答速度に合わせて前記発電機の出力応答速度を変化させるために前記エンジンを制御すると共に、前記発電機から前記モータへ流れる発電電流を制御する
ことを特徴とするマルチコプタ。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチコプタにおいて、
前記制御手段は、前記マルチコプタの着陸に必要な飛行電力を充足させるために、前記発電機から前記モータへ発電電力を供給すると共に、前記発電電力の余りを前記バッテリへ充電させるように構成され、
前記制御手段は、前記マルチコプタの着陸時に前記取得手段により取得される前記飛行応答速度に合わせて前記発電機の出力応答速度を変化させるために前記エンジンを制御すると共に、前記発電機から前記モータへ流れる発電電流を制御する
ことを特徴とするマルチコプタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチコプタにおいて、
前記エンジンの出力を調節するための出力調節手段を更に備え、
前記制御手段は、取得される前記飛行応答速度に合わせて前記出力調節手段を制御して前記エンジンの出力を調節することにより、前記発電機の前記出力応答速度を変化させる
ことを特徴とするマルチコプタ。
【請求項4】
請求項3に記載のマルチコプタにおいて、
前記制御手段は、取得される前記飛行応答速度が速いほど前記発電機の前記出力応答速度が速くなるように前記出力調節手段を制御し、取得される前記飛行応答速度が遅いほど前記発電機の前記出力応答速度が遅くなるように前記出力調節手段を制御する
ことを特徴とするマルチコプタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書に開示される技術は、エンジンで駆動する発電機と、充放電可能なバッテリとを備え、モータへ電力を供給して複数のロータを回転させることにより飛行するマルチコプタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、例えば、下記の特許文献1に記載されるマルチコプタが知られている。このマルチコプタは、複数のロータ、モータ及びバッテリの他に、電力を発電するエンジン発電ユニットと、マルチコプタを制御する制御部とを備える。エンジン発電ユニットは、エンジンと、エンジンで駆動する発電機とを含む。発電機は、モータへ供給する又はバッテリへ充電する電力を発電する。制御部は、発電機での発電を制御するためにエンジンを制御したり、発電機からモータへの電力の供給及び発電機からバッテリへの電力の充電を制御したり、バッテリからモータへの電力の放電を制御したり、マルチコプタの飛行を制御したりするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンで駆動する発電機と、充放電可能なバッテリとを備えたマルチコプタにおいて、離陸時の飛行において、発電機で発電される発電電力をモータへ供給しようとしても、離陸に必要な飛行電力を発電電力で充足させることができず、飛行電力の大半をバッテリから放電されるバッテリ電力で補わなければならないことがある。そのため、バッテリの大容量化が必要となり、バッテリが大型化及び重量化することになる。一方、着陸時の飛行においても、発電機の発電電力をモータへ供給するが、着陸に必要な飛行電力が発電電力より少なくなることがあり、余った発電電力をバッテリに充電させなければならなくなる。この点でも、バッテリの大容量化が必要となり、バッテリが大型化及び重量化することになる。その結果、マルチコプタの重量が増え、エンジン用燃料の可載量が減り、マルチコプタの航続距離が短くなったり、ペイロード性能が低下したりしてしまう。
【0005】
この開示技術は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は、エンジンで駆動する発電機と、充放電可能なバッテリとを備えたマルチコプタにおいて、離陸時に必要な飛行電力を充足させる発電機の発電電力とバッテリのバッテリ電力のうち、バッテリ電力を低減させることでバッテリの小型化及び軽量化を図ることを可能としたマルチコプタを提供することにある。この開示技術の第2の目的は、第1の目的に加え、マルチコプタの着陸時に必要な飛行電力を充足させる発電機の発電電力のうち、バッテリに充電される発電電力の余りを低減させることでバッテリの小型化及び軽量化を図ることを可能としたマルチコプタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の技術は、複数のロータと、各ロータを回転駆動するためのモータと、モータへ供給する電力を充放電可能に構成されるバッテリと、モータに供給される電力及びバッテリに充電される電力を発電するための発電機と、発電機を駆動するためのエンジンと、エンジンの運転、発電機からモータへの電力の供給、発電機からバッテリへの充電及びバッテリからモータへの放電を制御するための制御手段とを備え、モータへ電力を供給して各ロータを回転させることにより飛行するマルチコプタにおいて、マルチコプタに要求される飛行応答速度を取得するための取得手段を更に備え、制御手段は、マルチコプタの離陸に必要な飛行電力を充足させるために、発電機からモータへ発電電力を供給すると共に発電電力のみでは不足する電力を補うためにバッテリからモータへバッテリ電力を放電させるように構成され、制御手段は、マルチコプタの離陸時に取得手段により取得される飛行応答速度に合わせて発電機の出力応答速度を変化させるためにエンジンを制御すると共に、発電機から前記モータへ流れる発電電流を制御することを趣旨とする。
【0007】
上記技術の構成によれば、マルチコプタは、モータへ電力を供給して各ロータを回転させることにより飛行する。ここで、制御手段は、エンジンの運転、発電機からモータへの電力の供給、発電機からバッテリへの充電及びバッテリからモータへの放電を制御する。そして、制御手段は、マルチコプタの離陸に必要な飛行電力を充足させるために、発電機からモータへ発電電力を供給すると共に発電電力のみでは不足する電力を補うためにバッテリからモータへバッテリ電力を放電させる。また、制御手段は、マルチコプタの離陸時に取得手段により取得される飛行応答速度に合わせて発電機の出力応答速度を変化させるためにエンジンを制御すると共に、発電機からモータへ流れる発電電流を制御する。従って、マルチコプタでは、離陸に必要な飛行電力を充足させるために、取得される飛行応答速度に合わせて発電機の出力応答速度を変化させ、発電機からモータへ流れる発電電流が制御されるので、発電機の発電電力のみでは不足する電力を補うためにバッテリが負担するバッテリ電力が低減する。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の技術は、請求項1に記載の技術において、制御手段は、マルチコプタの着陸に必要な飛行電力を充足させるために、発電機からモータへ発電電力を供給すると共に発電電力の余りをバッテリへ充電させるように構成され、制御手段は、マルチコプタの着陸時に取得手段により取得される飛行応答速度に合わせて発電機の出力応答速度を変化させるためにエンジンを制御すると共に、発電機からモータへ流れる発電電流を制御することを趣旨とする。
【0009】
上記技術の構成によれば、請求項1に記載の技術の作用に加え、制御手段は、マルチコプタの着陸に必要な飛行電力を充足させるために、発電機からモータへ発電電力を供給すると共に発電電力の余りをバッテリへ充電させる。また、制御手段は、マルチコプタの着陸時に取得手段により取得される飛行応答速度に合わせて発電機の出力応答速度を変化させるためにエンジンを制御すると共に、発電機からモータへ流れる発電電流を制御する。従って、マルチコプタでは、着陸に必要な飛行電力を充足させるために、取得される飛行応答速度に合わせて発電機の出力応答速度が変化し、発電機からモータへ流れる発電電流が制御されるので、発電機の発電電力のうちモータへ供給されない余りの電力が低減し、バッテリに充電すべき余りの電力が低減する。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の技術は、請求項1又は2に記載の技術において、エンジンの出力を調節するための出力調節手段を更に備え、制御手段は、取得される飛行応答速度に合わせて出力調節手段を制御してエンジンの出力を調節することにより、発電機の出力応答速度を変化させることを趣旨とする。
【0011】
上記技術の構成によれば、制御手段が、上記のように出力調節手段を制御することで、請求項1又は2に記載の技術と同等の作用が得られる。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の技術は、請求項3に記載の技術において、制御手段は、取得される飛行応答速度が速いほど発電機の出力応答速度が速くなるように出力調節手段を制御し、取得される飛行応答速度が遅いほど発電機の出力応答速度が遅くなるように出力調節手段を制御することを趣旨とする。
【0013】
上記技術の構成によれば、制御手段が、上記のように出力調節手段を制御することで、請求項3に記載の技術と同等の作用が得られる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の技術によれば、エンジンで駆動する発電機と、充放電可能なバッテリとを備えたマルチコプタにおいて、離陸時に必要な飛行電力を充足させる発電機の発電電力とバッテリのバッテリ電力のうちバッテリ電力を低減させることができ、バッテリの小型化及び軽量化を図ることができる。
【0015】
請求項2に記載の技術によれば、請求項1に記載の技術の効果に加え、マルチコプタの着陸時に必要な飛行電力を充足させる発電機の発電電力のうちバッテリに充電される発電電力の余りを低減させることができ、バッテリの小型化及び軽量化を図ることができる。
【0016】
請求項3に記載の技術によれば、請求項1又は2に記載の技術と同等の効果を得ることができる。
【0017】
請求項4に記載の技術によれば、請求項3に記載の技術と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係り、マルチコプタの外観を示す斜視図。
【
図2】第1実施形態に係り、マルチコプタの構成を示すブロック図。
【
図3】第1実施形態に係り、発電用エンジンシステムとその関連機器の一部を示す概略構成図。
【
図4】第1実施形態に係り、マルチコプタの離陸時におけるエンジン回転数と発電電流に対する、等燃費率線、等出力線、エンジン全開性能線、等電圧線及び動作線の関係を示すグラフ。
【
図5】第1実施形態に係り、離陸時出力制御の内容を示すフローチャート。
【
図6】第1実施形態に係り、離陸応答速度に応じた応答時間を決定するために参照される応答時間マップ。
【
図7】第1実施形態に係り、
図4におけるエンジン回転数と発電電流に対する動作線の関係のみを示すグラフ。
【
図8】第1実施形態に係り、マルチコプタが急速に離陸する場合であって、離陸時出力制御に関連した各種パラメータの挙動を示すタイムチャート。
【
図9】第1実施形態に係り、マルチコプタがゆっくりと離陸する場合であって、離陸時出力制御に関連した各種パラメータの挙動を示すタイムチャート。
【
図10】対比例に係り、ジェネレータの応答性が遅い場合であって、各種パラメータの挙動を示すタイムチャート。
【
図11】第2実施形態に係り、マルチコプタの着陸時におけるエンジン回転数と発電電流に対する、等燃費率線、等出力線、エンジン全開性能線、等電圧線及び動作線の関係を示す
図4に準ずるグラフ。
【
図12】第2実施形態に係り、着陸時出力制御の内容を示すフローチャート。
【
図13】第2実施形態に係り、
図11におけるエンジン回転数と発電電流に対する動作線の関係のみを示すグラフ。
【
図14】第2実施形態に係り、マルチコプタが急速に着陸する場合であって、着陸時出力制御に関連した各種パラメータの挙動を示すタイムチャート。
【
図15】第2実施形態に係り、マルチコプタがゆっくりと着陸する場合であって、着陸時出力制御に関連した各種パラメータの挙動を示すタイムチャート。
【
図16】対比例に係り、着陸時にジェネレータの応答性が遅い場合であって、各種パラメータの挙動を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この開示技術におけるマルチコプタを具体化した実施形態について説明する。
【0020】
<第1実施形態>
先ず、第1実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
[マルチコプタの構成等について]
図1に、この実施形態のマルチコプタ1の外観を斜視図により示す。
図2に、マルチコプタ1の構成をブロック図により示す。以下に、マルチコプタ1の構成等について、
図1、
図2を参照して詳細に説明する。
【0022】
マルチコプタは、ヘリコプターの一種であり、3つ以上のロータを搭載した回転翼機のことである。この実施形態のマルチコプタ1は、機体11と、エンジン発電ユニット12とを備える。機体11は、先端が二股に分かれた複数(この実施形態では4本)のアーム21と、複数のアーム21を放射状に片持ち支持するアームベース22と、アームベース22を支持する機体ベース23と、各アーム21の先端に設けられた複数(この実施形態では8個)のモータ24と、各モータ24により回転駆動される複数(この実施形態では8個)のロータ25とを含む。このマルチコプタ1は、複数のロータ25を対応する各モータ24により同時に回転させることで飛行するようになっている。
【0023】
アームベース22は、機体ベース23の上に設けられる。アームベース22の中には、バッテリ31、燃料タンク32、メインコントローラ33、フライトコントローラ34、パワーコントロールユニット35、エレクトリックスピードコントローラ36などが設けられる。また、アームベース22には、外部を撮像または録画する撮像部37が設けられる。撮像部37は、カメラ及び録画メモリ等を含む。
【0024】
機体ベース23の下側には、エンジン発電ユニット12が懸架される。エンジン発電ユニット12は、後述する発電用エンジンシステム15(エンジン41を含む)と、エンジン41により駆動されて発電する発電機(ジェネレータ)42とを含む。
【0025】
各モータ24は、エレクトリックスピードコントローラ36(インバータ(不図示)を含む)とパワーコントロールユニット35を介してジェネレータ42に電気的に接続される。この接続により、ジェネレータ42で発電された電力が、パワーコントロールユニット35とエレクトリックスピードコントローラ36を介してモータ24に供給されるようになっている。
【0026】
バッテリ31は、電力を充放電可能な二次電池により構成される。バッテリ31は、パワーコントロールユニット35を介してジェネレータ42に電気的に接続され、ジェネレータ42で発電された電力を充電するようになっている。バッテリ31は、パワーコントロールユニット35とエレクトリックスピードコントローラ36を介して各モータ24に電気的に接続され、バッテリ31から放電する電力を各モータ24に供給するようになっている。バッテリ31には、バッテリ31の電流及び電圧をそれぞれ検出するセンサ(図示略)が設けられ、これらセンサがその検出結果に関する電気信号をメインコントローラ33へ送るようになっている。
【0027】
燃料タンク32には、燃料(例えば、ガソリン)が貯留される。この燃料は、エンジン41を駆動するために使用される。燃料タンク32に設けられたレベルセンサ(図示略)は、燃料残量に関する電気信号をメインコントローラ33へ送るようになっている。
【0028】
メインコントローラ33は、小型のコンピュータとして構成され、マルチコプタ1に関する全ての動作を制御するようになっている。メインコントローラ33は、風向取得部45、回転制御部46、風力取得部47、機械制御部48及びエンジン制御部50を備える。ここで、例えば、エンジン制御部50は、ジェネレータ42での発電を制御するためにエンジン41の動作を制御するようになっている。メインコントローラ33は、エンジン41の運転、ジェネレータ42から各モータ24への電力の供給、ジェネレータ42からバッテリ31への充電及びバッテリ31から各モータ24への放電を制御するようになっている。メインコントローラ33は、この開示技術における制御手段の一例に相当する。
【0029】
フライトコントローラ34は、マルチコプタ1の飛行を制御する装置である。このフライトコントローラ34は、マルチコプタ1の飛行に関する推力をメインコントローラ33とエレクトリックスピードコントローラ36へ指令する電気信号を送る一方で、メインコントローラ33からバッテリ31の充電状態に関する電気信号を受け取るようになっている。フライトコントローラ34は、後述するリモコン30から操縦者の操作指令に関する電気信号を受け取り、後述する各種センサ28から検出結果に関する電気信号を受け取るようになっている。
【0030】
パワーコントロールユニット35は、各モータ24へ供給される電力を制御する装置である。このパワーコントロールユニット35は、ジェネレータ42で発電された電力を受給したり、バッテリ31との間で電力の供給及び受給を行ったり、エレクトリックスピードコントローラ36へ電力を供給したりするようになっている。パワーコントロールユニット35は、メインコントローラ33から充放電の切替指令に関する電気信号を受け取るようになっている。また、パワーコントロールユニット35は、バッテリ31の電流に関する電気信号と、ジェネレータ42の電流に関する電気信号をそれぞれメインコントローラ33へ送るようになっている。
【0031】
エレクトリックスピードコントローラ36は、各モータ24の回転数を制御する装置である。このエレクトリックスピードコントローラ36は、パワーコントロールユニット35を介して供給される電力を駆動電力として各モータ24に供給するようになっている。エレクトリックスピードコントローラ36は、フライトコントローラ34から推力指令に関する電気信号を受け取るようになっている。
【0032】
エンジン発電ユニット12は、エンジン41を含む発電用エンジンシステム15の一部及びジェネレータ42などを備える。エンジン41は、ジェネレータ42の駆動源であって、この実施形態では、レシプロタイプの小型ガソリンエンジンより構成される。すなわち、エンジン41は、各モータ24又はバッテリ31へ供給される電力をジェネレータ42で発電するために、ジェネレータ42を駆動するようになっている。また、後述する発電用エンジンシステム15を構成する各種部品57,60,62は、メインコントローラ33のエンジン制御部50から、発電を目的としたエンジン制御指令に関する電気信号を受け取るようになっている。
【0033】
この実施形態で、マルチコプタ1は、各種センサ28とリモコン30を備える。各種センサ28は、マルチコプタ1の高度、姿勢、緯度や経度、加速度及び障害物などをそれぞれ検出するためのセンサを含む。リモコン30は、マルチコプタ1の操縦者が持つ操作器であり、操縦者により操作されるジョイスティックからの操作に関する電気信号をマルチコプタ1へ送信したり、マルチコプタ1からの動作に関する電気信号を受信したりする送受信機などの機器を含む。リモコン30は、マルチコプタ1に要求される飛行応答速度を取得するためのこの開示技術の取得手段の一例に相当する。ここで、マルチコプタ1に要求される飛行応答速度として、後述する離陸応答速度TRS及び着陸応答速度LRSが含まれる。
【0034】
この本実施形態のマルチコプタ1では、各モータ24とバッテリ31とエンジン41によりシリーズ式のハイブリッドシステムが構成される。すなわち、このマルチコプタ1では、エンジン41がジェネレータ42による発電のみに使用され、各モータ24が各ロータ25を回転駆動するために使用され、バッテリ31がジェネレータ42で発電された電力を充放電するために使用される。このようにして、マルチコプタ1は、エンジン41の動力によりジェネレータ42を動作させて発電し、その発電した電力で各モータ24を動作させて各ロータ25を回転させることで飛行するようになっている。また、このマルチコプタ1は、エンジン41の動力によりジェネレータ42で発電された電力のうち、各モータ24へ供給されて余った電力を、バッテリ31に一旦充電して蓄え、必要に応じてバッテリ31から各モータ24へ供給するようになっている。
【0035】
上記のように構成したマルチコプタ1は、各モータ24に電力を供給し、複数のロータ25をそれぞれ回転させることで各種飛行を実現するようになっている。すなわち、マルチコプタ1は、各ロータ25の回転数を制御することで、各ロータ25により発生する揚力をマルチコプタ1に作用する重力とバランスさせてホバリング飛行を実現する。マルチコプタ1は、各ロータ25により発生する揚力をマルチコプタ1に作用する重力よりも大きくすることで、上昇飛行を実現し、各ロータ25により発生する揚力をマルチコプタ1に作用する重力よりも小さくすることで、下降飛行を実現する。また、マルチコプタ1は、各ロータ25の回転数を制御し、各ロータ25により発生する揚力に不均衡を生じさせることで前進・後進・左右移動飛行を実現する。更に、マルチコプタ1は、相対回転する各ロータ25の回転数に差を設けることで、旋回(回転)飛行を実現する。
【0036】
ここで、メインコントローラ33は、パワーコントロールユニット35へ電力供給切り替え指令に関する電気信号を送ることで、ジェネレータ42で発電された電力の各モータ24への供給とバッテリ31への充電を制御すると共に、バッテリ31に充電された電力の各モータ24への放電を制御するようになっている。
【0037】
[発電用エンジンシステムについて]
次に、発電用エンジンシステム15について説明する。
図3に、この実施形態の発電用エンジンシステム15とその関連機器の一部を概略構成図により示す。以下に、発電用エンジンシステム15の構成について、
図3を参照して詳細に説明する。
【0038】
この発電用エンジンシステム(以下、単に「エンジンシステム」と言う。)15は、単気筒で構成されるエンジン41を備える。エンジン41は、4サイクルのレシプロエンジンであり、燃焼室を含む1つの気筒52及びクランクシャフト53の他、周知の構成要素を含む。エンジン41には、気筒52に吸気を導入するためにエンジン41へ吸気が流れる吸気通路54と、気筒52から排気を導出するための排気通路55とが設けられる。吸気通路54の入口には、エアクリーナ56が設けられる。吸気通路54の途中には、サージタンク54aが設けられ、そのサージタンク54aの上流側にはスロットル装置57が設けられる。スロットル装置57は、吸気通路54を流れる吸気量を調節するために開閉動作する。スロットル装置57は、ポペット式弁より構成され、弁座に対し往復駆動する弁体(図示略)と、その弁体を開度可変に駆動するためのステップモータ58とを含む。この実施形態のエンジンシステム15には、弁体の開度(スロットル開度)を検出するためのスロットルセンサが設けられていない。スロットル装置57は、弁体で流路を開閉することにより、吸気通路54を流れる吸気量を調節するようになっている。スロットル装置57は、エンジン41の出力を調節するための、この開示技術の出力調節手段の一例に相当する。一方、排気通路55には、排気を浄化するための触媒59が設けられる。
【0039】
吸気通路54には、同通路54に燃料を噴射するための1つのインジェクタ60が設けられる。インジェクタ60は、前述した燃料タンク32から供給される燃料(ガソリン)を噴射するように構成される。この実施形態のエンジン41は、一連の吸気行程、圧縮行程、爆発行程及び排気行程を含むエンジンサイクルをもって動作する。吸気通路54では、エンジンサイクルの吸気行程で導入された吸気と、インジェクタ60から吸気通路54に噴射された燃料とにより可燃性の混合気が形成される。
【0040】
エンジン41には、気筒52に対応して1つの点火プラグ61とイグニションコイル62が設けられる。点火プラグ61は、イグニションコイル62から出力される点火信号を受けてスパーク動作する。気筒52において、混合気は、エンジンサイクルの圧縮行程で点火プラグ61のスパーク動作により爆発・燃焼し、その爆発行程が経過する。燃焼後の排気は、排気行程で気筒52から排気通路55へ排出される。排気は、触媒59を流れて浄化され、外部へ排出される。これら一連のエンジンサイクルを720℃Aのクランク角をもって周期的に繰り返すことで、エンジン41のクランクシャフト53が回転し、エンジン41に出力が得られる。この実施形態では、エンジン41のクランクシャフト53は、ジェネレータ42の駆動軸に直接接続される。従って、ジェネレータ42の駆動軸の回転数が、クランクシャフト53の回転数と同じになる。
【0041】
エンジン41に対応して設けられる各種センサ等71,72,73は、エンジン41の運転状態を検出するための手段を構成する。エンジン41に設けられたエンジン温センサ71は、エンジン41のシリンダブロックの温度をエンジン温度THEとして検出し、その検出値に応じた電気信号を出力する。エンジン41に設けられた回転数センサ72は、クランクシャフト53の回転数をエンジン回転数NEとして検出し、その検出値に応じた電気信号を出力する。サージタンク54aに設けられた吸気圧センサ73は、サージタンク54a(吸気通路54)における吸気圧力PMを検出し、その検出値に応じた電気信号を出力する。
【0042】
このエンジンシステム15は、エンジン41の運転を制御するための前述したエンジン制御部50を含む。エンジン制御部50には、各種センサ等71~73がそれぞれ接続される。また、エンジン制御部50には、スロットル装置57のステップモータ58、各インジェクタ60及びイグニションコイル62がそれぞれ接続される。周知のようにエンジン制御部50は、中央処理装置(CPU)、各種メモリ、外部入力回路及び外部出力回路等を含む。
【0043】
この実施形態で、エンジン制御部50は、エンジン41を運転するために、各種センサ等71~73からの電気信号に基いてスロットル装置57(ステップモータ58)、各インジェクタ60及びイグニションコイル62をそれぞれ制御するようになっている。
【0044】
ここで、
図4には、マルチコプタ1の離陸時におけるエンジン回転数とジェネレータ42の電流(発電電流)に対する、等燃費率線EFCL、等出力線EOL、エンジン全開性能線WOT、等電圧線IL及び動作線OLの関係をグラフにより示す。
図4において、等燃費率線EFCLを1点鎖線で示し、等出力線EOLは実線で示し、エンジン全開性能線WOTは太い2点鎖線で示し、等電圧線ILは破線で示し、動作線OLは太い実線で示す。動作線OLは、等燃費率線EFCLに直交するように設定される。複数の等電圧線ILは、その配列の左側A1から右側A2へ向けて電圧が大きくなる。複数の等出力線EOLは、その配列の下側B1から上側B2へ向けて出力が大きくなる。複数の等燃費率線EFCLは、その配列の中側C1から外側C2へ向けて燃費率が大きくなる。この実施形態では、マルチコプタ1の離陸時における飛行出力とジェネレータ42の発電出力とが同じになるように、エンジン41の出力が動作線OL上を遷移するように設定される。マルチコプタ1が離陸するときは、エンジン41の燃費が最適となる動作線OL上の動作点P1でパワーコントロールユニット35がジェネレータ42から電力を取り出す動作を開始させ、動作線OL上の燃費動作点P2まで発電電力を動作線OLに沿って変化させていく。
【0045】
この実施形態のマルチコプタ1では、その離陸時にジェネレータ42により発電しても、離陸に必要な飛行電力の大半をバッテリ31の放電により補わなければならず、バッテリ31の大型化及び重量化が必要になってしまう。そこで、マルチコプタ1の離陸時に、バッテリ31の放電による電力の補いを最小化し、バッテリ31の小型化及び軽量化を図るために、メインコントローラ33は、次のような離陸時出力制御を実行するようになっている。
【0046】
ここで、メインコントローラ33は、離陸時出力制御を実行する前提として、マルチコプタ1の離陸に必要な飛行電力FP(
図8~
図10参照)を充足させるために、ジェネレータ42から各モータ24へ発電電力PG(
図8~
図10参照)を供給すると共にその発電電力PGのみでは不足する電力を補うためにバッテリ31から各モータ24へバッテリ電力BP(
図8~
図10参照)を放電させるように構成される。
【0047】
[離陸時出力制御について]
次に、メインコントローラ33が実行する離陸時出力制御について説明する。
図5に、この離陸時出力制御の内容をフローチャートにより示す。
【0048】
処理がこのルーチンへ移行すると、メインコントローラ33(エンジン制御部50を含む)は、ステップ100で、マルチコプタ1の離陸判定有りの判断を待ってステップ110へ移行する。メインコントローラ33は、リモコン30からの操作指令に関する電気信号に基づき、離陸判定が有るか否かを判断する。
【0049】
次に、ステップ110で、メインコントローラ33は、マルチコプタ1の離陸応答速度TRS、すなわちマルチコプタ1を離陸させるために要求される応答速度を取り込む。メインコントローラ33は、リモコン30からの操作指令に関する電気信号に基づき、この離陸応答速度TRSを取り込むことができる。離陸応答速度TRSは、この開示技術における飛行応答速度の一例に相当する。
【0050】
次に、ステップ120で、メインコントローラ33は、離陸応答速度TRSに応じたジェネレータ42の応答時間RTを決定する。メインコントローラ33は、例えば、
図6に示すような応答時間マップを参照することにより、離陸応答速度TRSに応じた応答時間RTを決定することができる。このマップでは、離陸応答速度TRSが速くなるほど応答時間RTが曲線的に増加するようになっている。
図6において、離陸応答速度TRSが、所定速度S1(例えば、5m/秒)の場合、応答時間RTが、所定時間T1(例えば、1秒)となる。
【0051】
次に、ステップ130で、メインコントローラ33は、エンジン41の運転、延いてはジェネレータ42の運転を制御するためのスロットル開度指令値TOCVを更新し、そのスロットル開度指令値TOCVに基づきスロットル装置57(ステップモータ58)を制御する。メインコントローラ33は、前回算出されたスロットル開度指令値(前回指令値TOCVo)に更新値UVを加算することにより、スロットル開度指令値TOCVを更新することができる(式1)。更新値UVは、最終到達値FRVから過渡開始値ESVを減算し、その減算結果を更新ステップ数NUSで除算することにより求めることができる(式2)。更新ステップ数NUSは、応答時間RTを制御周期(例えば、16[ms])で除算することにより求めることができる(式3)。
TOCV=TOCVo+UV ・・・(式1)
UV=(FRV-ESV)÷NUS ・・・(式2)
NUS=RT÷16 ・・・(式3)
【0052】
ここで、
図7に、
図4におけるエンジン回転数と発電電流に対する動作線OLの関係のみをグラフにより示す。
図7には、動作線OL上の動作点P1と燃費動作点P2との間の中間動作点Q1,Q2,Q3を示す。ステップ130の処理によれば、
図7に示すように、中間動作点Q1から中間動作点Q2へ遷移する。この間の遷移では、発電電流を一定とし、スロットル開度指令値TOCVが更新されることでエンジン回転数が更新(増加)される。
【0053】
次に、ステップ140で、メインコントローラ33は、ジェネレータ42の発電電流指令値PGCVを更新し、その発電電流指令値PGCVに基づきパワーコントロールユニット35を制御する。メインコントローラ33は、前回算出された発電電流指令値PGCV(前回指令値PGCVo)に更新値CUPを加算することにより、発電電流指令値GCCVを更新することができる(式4)。更新値CUPは、最終到達値CFVから過渡開始値CEVを減算し、その減算結果を更新ステップ数NUSで除算することにより求めることができる(式5)。更新ステップ数NUSは、応答時間RTを制御周期(例えば、16[ms])で除算することにより求めることができる(式6)。
PGCV=PGCVo+CUP ・・・(式4)
CUP=(CFV-CEV)÷NUS ・・・(式5)
NUS=RT÷16 ・・・(式6)
【0054】
このステップ140の処理によれば、
図7に示すように、中間動作点Q2から中間動作点Q3へ遷移する。この間の遷移では、スロットル開度指令値TOCVの更新と共に発電電流が更新される。この場合は、エンジン41の吸気量を一定として負荷を増やすので、エンジン回転数は低下することになる。
【0055】
そして、ステップ150で、メインコントローラ33は、スロットル開度指令値TOCVと発電電流指令値PGCCVが、それぞれ最終到達値FRV,CFVに到達したか否かを判断する。すなわち、メインコントローラ33は、スロットル開度指令値TOCVが最終到達値FRVに到達したこと、発電電流指令値PGCCVが最終到達値CFVに到達したことの両方の成立を判断する。メインコントローラ33は、この判断結果が肯定となる場合は処理一旦終了し、この判断結果が否定となる場合は処理をステップ130へ戻す。
【0056】
上記した離陸時出力制御によれば、メインコントローラ33は、マルチコプタ1の離陸時にリモコン30により取得される離陸応答速度TRS(飛行応答速度)に合わせてジェネレータ42の発電電力PGを出力させる応答速度(出力応答速度)を変化させるためにエンジン41を制御すると共に、ジェネレータ42から各モータ24へ流れる発電電流PGC(
図8~
図10参照)を制御するようになっている。
【0057】
また、上記した離陸時出力制御によれば、メインコントローラ33は、マルチコプタ1の離陸時に、取得される離陸応答速度TRS(飛行応答速度)に合わせてスロットル装置57を制御してエンジン41の出力を調節することにより、ジェネレータ42の発電電力PGを出力させる応答速度(出力応答速度)を変化させるようになっている。具体的には、メインコントローラ33は、取得される離陸応答速度TRSが速いほどジェネレータ42の発電電力PGを出力させる応答速度が速くなるようにスロットル装置57を制御し、取得される離陸応答速度TRSが遅いほどジェネレータ42の発電電力PGを出力させる応答速度が遅くなるようにスロットル装置57を制御するようになっている。
【0058】
[マルチコプタの作用及び効果]
以上説明したこの実施形態のマルチコプタ1の構成によれば、マルチコプタ1は、各モータ24へ電力を供給して各ロータ25を回転させることにより飛行する。ここで、メインコントローラ33(制御手段)は、エンジン41の運転、ジェネレータ42から各モータ24への電力の供給、ジェネレータ42からバッテリ31への充電及びバッテリ31から各モータ24への放電を制御する。そして、メインコントローラ33は、マルチコプタ1の離陸に必要な飛行電力FPを充足させるために、ジェネレータ42から各モータ24へ発電電力PGを供給すると共に発電電力PGのみでは不足する電力を補うためにバッテリ31から各モータ24へバッテリ電力BPを放電させる。また、メインコントローラ33は、マルチコプタ1の離陸時にリモコン30(取得手段)により取得される離陸応答速度TRS(飛行応答速度)に合わせてジェネレータ42の発電電力PGを出力させる応答速度(出力応答速度)を変化させるためにエンジン41を制御すると共に、ジェネレータ42から各モータ24へ流れる発電電流を制御する。従って、マルチコプタ1では、離陸に必要な飛行電力FPを充足させるために、取得される離陸応答速度TRSに合わせてジェネレータ42の発電電力PGを出力させる応答速度を変化させ、ジェネレータ42から各モータ24へ流れる発電電流が制御されるので、ジェネレータ42の発電電力PGのみでは不足する電力を補うためにバッテリ31が負担するバッテリ電力BPが低減する。このため、エンジン41で駆動するジェネレータ42と、充放電可能なバッテリ31とを備えたマルチコプタ1において、離陸時に必要な飛行電力FPを充足させるジェネレータ42の発電電力PGとバッテリ31のバッテリ電力BPのうちバッテリ電力BPを低減させることができ、バッテリ31の小型化及び軽量化を図ることができる。この結果、マルチコプタ1の重量増加を抑えることができ、これによってマルチコプタ1の航続距離を延ばすことができ、また、マルチコプタ1のペイロード性能を向上させることができる。
【0059】
図8は、この実施形態に係り、マルチコプタ1が急速に離陸する場合であって、離陸時出力制御に関連した各種パラメータの挙動をタイムチャートにより示す。
図9は、同じくこの実施形態に係り、マルチコプタ1がゆっくりと離陸する場合であって、離陸時出力制御に関連した各種パラメータの挙動をタイムチャートにより示す。
図10は、この実施形態とは異なる対比例に係り、離陸時にジェネレータの応答性が遅い場合であって、各種パラメータの挙動をタイムチャートにより示す。
図8~
図10において、(A)は電力の変化であって、太い実線はマルチコプタ1の飛行に必要な飛行電力FPを示し、太い破線はジェネレータ42の発電電力PGを示す。
図8~
図10において、(B)はスロットル開度指令値TOCVの変化を示し、(C)は発電電流PGCの変化を示す。
図9において、(A)に実線で示す飛行電力FP1及び破線で示す発電電力PG1、(B)に実線で示すスロットル開度指令値TOCV1、(C)に実線で示す発電電流PGC1は、それぞれ急速に離陸する場合を対比のために示すものである。
【0060】
図8に示すように、この実施形態のマルチコプタ1が急速に離陸する場合は、時刻t1で離陸を開始すると、(A)に示すように飛行電力FPは急増し、時刻t2でピークに達し、その後急減して一定値となる。このとき、発電電力PGは、飛行電力FPの変化に合わせて時刻t1と時刻t2との間で急増して一定値となる。また、(B)及び(C)に示すように、スロットル開度指令値TOCVと発電電流PGCも、発電電力PGの変化に対応して時刻t1と時刻t2との間で急増して一定値となる。すなわち、マルチコプタ1が急速に離陸する場合は、スロットル装置57が直ちに開弁応答し、ジェネレータ42の過渡応答が早まり、発電電力PGが応答性よく急増することになる。ここで、(A)において、飛行電力FPと発電電力PGとの間の紗(ドット)を付して示す部分がバッテリ31の放電によって補われるバッテリ電力BPを示す。この発電電力PGを補うバッテリ電力BPは、時刻t2に飛行電力FPがピークに達するときに最大となる。このときのバッテリ電力BPをバッテリ31の最大電力とすると、バッテリ31の重量は、この最大電力に応じて決定することができる。
【0061】
図9に示すように、この実施形態のマルチコプタ1がゆっくりと離陸する場合は、時刻t1で離陸を開始すると、(A)に示すように飛行電力FPはゆっくりと増加し、時刻t3でピークに達し、その後にゆっくりと減少して一定値となる。このとき、発電電力PGは、飛行電力FPの変化に合わせて時刻t1と時刻t3との間でゆっくりと増加して一定値となる。また、(B)及び(C)に示すように、スロットル開度指令値TOCVと発電電流PGCも、発電電力PGの変化に対応して時刻t1と時刻t3との間でゆっくりと増加して一定値となる。すなわち、マルチコプタ1がゆっくりと離陸する場合は、スロットル装置57が直ちに緩やかに開弁応答し、ジェネレータ42の過渡応答が早まり、発電電力PGが緩やかに増加することになる。ここで、(A)に示すように、時刻t3における飛行電力FPのピークは、急速に離陸する場合よりも小さくなることから、そのとき発電電力PGを補うバッテリ電力BPの最大値も小さくなる。
【0062】
一方、
図10に示すように、対比例のマルチコプタが急速に離陸する場合は、時刻t1で離陸を開始すると、(A)に示すように飛行電力FPは急増し、時刻t2でピークに達し、その後急減して一定値となる。このとき、ジェネレータの過渡応答が遅いことから、発電電力PGは、飛行電力FPの変化に遅れて時刻t2と時刻t4との間で急増して一定値となる。また、(B)及び(C)に示すように、スロットル開度指令値TOCVと発電電流PGCも、発電電力PGの変化に対応して時刻t2と時刻t4との間で急増して一定値となる。すなわち、この対比例では、マルチコプタが急速に離陸する場合でも、スロットル装置の開弁応答が遅れ、ジェネレータの過渡応答が遅れ、発電電力PGの増加が遅れることになる。従って、(A)において、時刻t2で飛行電力FPがピークに達するときには、発電電力PGがほぼゼロとなることから、発電電力PGを補うバッテリ電力BPは、飛行電力FPのほぼ全てとなってしまう。従って、このときのバッテリ電力BPをバッテリの最大電力とすると、バッテリの重量は、この最大電力に応じて決定することになる。このため、バッテリの重量は、
図8に示す場合のほぼ2倍となり、大型のバッテリが必要になってしまう。この実施形態では、バッテリ31の容量を、対比例のバッテリの容量のほぼ半分に抑えることができる。
【0063】
また、この実施形態のマルチコプタ1の構成によれば、発電用エンジンシステム15のエンジン41によりジェネレータ42が駆動されて発電し、その発電した電力がマルチコプタ1を飛行させるために各モータ24へ供給される。また、その発電した電力がバッテリ31へ充電されて充電量が補充される。従って、エンジン41が停止してジェネレータ42を駆動できなくなっても、バッテリ31に充電された電力を各モータ24へ供給することで、マルチコプタ1の飛行が可能となる。このため、ジェネレータ42で発電した電力をバッテリ31に充電できる分だけマルチコプタ1の航続距離及び滞空時間を延ばすことができる。
【0064】
<第2実施形態>
【0065】
次に、第2実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同等の構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、以下には異なった点を中心に説明する。
【0066】
この実施形態は、着陸時出力制御の点で第1実施形態の離陸時出力制御と構成が異なる。この実施形態では、第1実施形態の離陸時出力制御に加え、この着陸時出力制御を実行するようになっている。
【0067】
ここで、
図11には、マルチコプタ1の着陸時におけるエンジン回転数とジェネレータ42の発電電流に対する、等燃費率線EFCL、等出力線EOL、エンジン全開性能線WOT、等電圧線IL及び動作線OLの関係を
図4に準ずるグラフにより示す。この実施形態では、マルチコプタ1の着陸時における飛行出力とジェネレータ42の発電出力とが同じになるように、エンジン41の出力が動作線OL上を遷移するように設定される。
図11では、マルチコプタ1が着陸するときは、エンジン41の燃費が最適となる動作線OL上の動作点P3から、動作線OL上の動作点P1まで動作線OLに沿って電力を変化させる。
【0068】
この実施形態のマルチコプタ1では、その着陸時においても、ジェネレータ42の発電電力を各モータ24へ供給するが、着陸に必要な飛行電力が発電電力よりも少なくなることから、余った発電電力をバッテリ31に充電させなければならない。そのため、この点でもバッテリ31の大型化及び重量化が必要になってしまう。そこで、マルチコプタ1の着陸時に、バッテリ31への発電電力の充電を最小化し、バッテリ31の小型化及び軽量化を図るために、メインコントローラ33は、次のような着陸時出力制御を実行するようになっている。
【0069】
ここで、メインコントローラ33は、着陸時出力制御を実行する前提として、マルチコプタ1の着陸に必要な飛行電力FP(
図14~
図16参照)を充足させるために、ジェネレータ42から各モータ24へ発電電力PG(
図14~
図16参照)を供給すると共に発電電力PGの余りをバッテリ31へ充電させるように構成される。
【0070】
[着陸時出力制御について]
次に、メインコントローラ33が実行する着陸時出力制御について説明する。
図12に、この着陸時出力制御の内容をフローチャートにより示す。このフローチャートでは、ステップ100~ステップ120の代わりに、ステップ200~ステップ220が設けられる点で
図5のフローチャートと構成が異なる。
【0071】
処理がこのルーチンへ移行すると、メインコントローラ33(エンジン制御部50を含む)は、ステップ200で、マルチコプタ1の着陸判定有りの判断を待ってステップ210へ移行する。メインコントローラ33は、リモコン30からの操作指令に関する電気信号に基づき、着陸判定が有るか否かを判断する。
【0072】
次に、ステップ210で、メインコントローラ33は、マルチコプタ1の着陸応答速度LRS、すなわちマルチコプタ1を着陸させるために要求される応答速度を取り込む。メインコントローラ33は、リモコン30からの操作指令に関する電気信号に基づき、この着陸応答速度LRSを取り込む。着陸応答速度LRSは、この開示技術における飛行応答速度の一例に相当する。
【0073】
次に、ステップ220で、メインコントローラ33は、着陸応答速度LRSに応じたジェネレータ42の応答時間RTを決定する。メインコントローラ33は、例えば、
図6に準ずる応答時間マップを参照することにより、着陸応答速度LRSに応じた応答時間RTを決定することができる。
【0074】
その後、メインコントローラ33は、離陸時出力制御と同様に、ステップ130~ステップ150の処理を実行する。
【0075】
ここで、
図13に、
図11におけるエンジン回転数と発電電流に対する動作線OLの関係のみをグラフにより示す。
図13には、着陸時の動作線OL上の動作点P3と動作点P1との間の中間動作点Q4,Q5,Q6を示す。着陸時のステップ130の処理によれば、
図13に示すように、中間動作点Q4から中間動作点Q5へ遷移する。この間の遷移では、発電電流を一定とし、スロットル開度指令値TOCVが更新されることでエンジン回転数が更新(減少)される。
【0076】
また、着陸時のステップ140の処理によれば、
図13に示すように、中間動作点Q5から中間動作点Q6へ遷移する。この間の遷移では、スロットル開度指令値TOCVの更新と共に発電電流が更新される。この場合は、エンジン41の吸気量を一定として負荷を減らすので、エンジン回転数は上昇することになる。
【0077】
上記した着陸時出力制御によれば、メインコントローラ33は、マルチコプタ1の着陸時にリモコン30により取得される着陸応答速度LRS(飛行応答速度)に合わせてジェネレータ42の発電電力PGを出力させる応答速度(出力応答速度)を変化させるためにエンジン41を制御すると共に、ジェネレータ42から各モータ24へ流れる発電電流PGC(
図14~
図16参照)を制御するようになっている。
【0078】
[マルチコプタの作用及び効果]
以上説明したこの実施形態のマルチコプタ1の構成によれば、第1実施形態の作用及び効果に加え、次のような作用及び効果を得ることができる。すなわち、メインコントローラ33は、マルチコプタ1の着陸に必要な飛行電力FPを充足させるために、ジェネレータ42から各モータ24へ発電電力PGを供給すると共に発電電力PGの余りをバッテリ31へ充電させる。また、メインコントローラ33は、マルチコプタ1の着陸時にリモコン30により取得される着陸応答速度LRS(飛行応答速度)に合わせてジェネレータ42の発電電力PGを出力させる応答速度(出力応答速度)を変化させるためにエンジン41を制御すると共に、ジェネレータ42から各モータ24へ流れる発電電流PGCを制御する。従って、マルチコプタ1では、着陸に必要な飛行電力FPを充足させるために、取得される着陸応答速度LRSに合わせてジェネレータ42の発電電力PGを出力させる応答速度を変化させ、ジェネレータ42から各モータ24へ流れる発電電流PGCが制御されるので、ジェネレータ42の発電電力PGのうち各モータ24へ供給されない余りの電力が低減し、バッテリ31に充電すべき余りの電力が低減する。このため、マルチコプタ1の着陸時に必要な飛行電力FPを充足させるジェネレータ42の発電電力PGのうちバッテリ31に充電される発電電力PGの余りを低減させることができ、バッテリ31の小型化及び軽量化を図ることができる。この点においても、マルチコプタ1の重量増加を抑えることができ、これによってマルチコプタ1の航続距離を延ばすことができ、また、マルチコプタ1のペイロード性能を向上させることができる。
【0079】
図14は、この実施形態に係り、マルチコプタ1が急速に着陸する場合であって、着陸時出力制御に関連した各種パラメータの挙動をタイムチャートにより示す。
図15は、同じくこの実施形態に係り、マルチコプタ1がゆっくりと着陸する場合であって、着陸時出力制御に関連した各種パラメータの挙動をタイムチャートにより示す。
図16は、この実施形態とは異なる対比例に係り、着陸時にジェネレータの応答性が遅い場合であって、各種パラメータの挙動をタイムチャートにより示す。
図14~
図16において、(A)~(C)は
図8~
図10に準ずる。
図15において、(A)に実線で示す飛行電力FP1及び破線で示す発電電力PG1、(B)に実線で示すスロットル開度指令値TOCV1、(C)に実線で示す発電電流PGC1は、それぞれ急速に着陸する場合を対比のために示すものである。
【0080】
図14に示すように、この実施形態のマルチコプタ1が急速に着陸する場合は、時刻t1で着陸を開始すると、(A)に示すように飛行電力FPは急減し、時刻t2でほぼゼロとなる。このとき、発電電力PGは、飛行電力FPの変化に合わせて時刻t1と時刻t2との間で急減し、ほぼゼロとなる。また、(B)及び(C)に示すように、スロットル開度指令値TOCVと発電電流PGCも、発電電力PGの変化に対応して時刻t1と時刻t2との間で減少して一定値となる。すなわち、マルチコプタ1が急速に着陸する場合は、スロットル装置57が直ちに閉弁応答し、ジェネレータ42の過渡応答が早まり、発電電力PGが応答性よく急減することになる。ここで、(A)において、発電電力PGは飛行電力FPより大きく、発電電力PGと飛行電力FPの間の紗(ドット)を付して示す部分は、飛行に使われずに余った発電電力PGであり、バッテリ31に充電されるべき充電電力CPを示す。従って、マルチコプタ1が着陸を開始し終了するまでの時刻t1と時刻t2との間のある時刻で、充電電力CPが最大となる。この最大の充電電力CPをバッテリ31の最大電力とすると、バッテリ31の重量は、この最大電力に応じて決定することができる。
【0081】
図15に示すように、マルチコプタ1がゆっくりと着陸する場合は、時刻t1で着陸を開始すると、(A)に示すように飛行電力FPはゆっくりと減少し、時刻t3でほぼゼロとなる。このとき、発電電力PGは、飛行電力FPの変化に合わせて時刻t1と時刻t3との間でゆっくりと減少してほぼゼロとなる。また、(B)及び(C)に示すように、スロットル開度指令値TOCVと発電電流PGCは、発電電力PGの変化より早めに時刻t1と時刻t2との間でゆっくりと減少して一定値となる。すなわち、マルチコプタ1がゆっくりと着陸する場合は、スロットル装置57が直ちに緩やかに閉弁応答し、ジェネレータ42の過渡応答が早まり、発電電力PGが緩やかに減少することになる。ここで、(A)に示すように、時刻t1と時刻t3との間のある時刻における充電電力CPの最大値は、急速に着陸する場合よりも小さくなる。
【0082】
一方、
図16に示すように、対比例のマルチコプタが急速に着陸する場合は、時刻t1で着陸を開始すると、(A)に示すように飛行電力FPは急減し、時刻t2でほぼゼロとなる。このとき、ジェネレータの過渡応答が遅れることから、発電電力PGは、飛行電力FPの変化に遅れて時刻t1と時刻t4との間で減少してほぼゼロとなる。また、(B)及び(C)に示すように、スロットル開度指令値TOCVと発電電流PGCは、発電電力PGの変化よりも早い時刻t1と時刻t2との間で減少して一定値となる。すなわち、この対比例では、マルチコプタが急速に着陸する場合でも、スロットル装置の閉弁応答が遅れ、ジェネレータの過渡応答が遅れ、発電電力PGの減少が遅れることになる。従って、(A)において、時刻t1で着陸を開始してから時刻t2で着陸を終了した後も、時刻t4までの間でジェネレータの発電が続くことになり、バッテリで充電される充電電力CPが多くなる。従って、このときの充電電力CPの全部をバッテリに充電しようとすると、バッテリの容量は大きくなり、バッテリの重量は、
図14に示す場合の数倍(約4倍)となり、大型のバッテリが必要になってしまう。この実施形態では、バッテリ31の容量を、対比例のバッテリの容量の数分の一(約四分の一)に抑えることができる。
【0083】
[別の実施形態について]
なお、この開示技術は前記各実施形態に限定されるものではなく、開示技術の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
【0084】
前記各実施形態において、
図1に示すマルチコプタ1の外観は一例を示すものであり、機体11の形状、モータ24やロータ25の数及び配置等については、適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この開示技術は、エンジンで駆動する発電機と充放電可能なバッテリとを備えたマルチコプタに適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 マルチコプタ
24 モータ
25 ロータ
30 リモコン(取得手段)
31 バッテリ
33 メインコントローラ(制御手段)
41 エンジン
42 ジェネレータ(発電機)
57 スロットル装置(出力調節手段)
TRS 離陸応答速度(飛行応答速度)
LRS 着陸応答速度(飛行応答速度)
PGC 発電電流
FP 飛行電力
PG 発電電力
BP バッテリ電力
CP 充電電力