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特許7512243ペースト組成物ならびに多孔質体およびその製造方法
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  • 特許-ペースト組成物ならびに多孔質体およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】ペースト組成物ならびに多孔質体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/107 20220101AFI20240701BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240701BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240701BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20240701BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240701BHJP
   C03B 19/06 20060101ALI20240701BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20240701BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20240701BHJP
   F28D 15/04 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B22F1/107
B22F1/00 L
B22F1/052
B22F3/11 Z
B22F9/00 B
C03B19/06 A
C03B19/06 C
C22C1/05 Z
C22C1/08 F
F28D15/04 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021167654
(22)【出願日】2021-10-12
(65)【公開番号】P2022070816
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020179871
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】小林 広治
(72)【発明者】
【氏名】川口 暁広
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-169426(JP,A)
【文献】特開2020-070481(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107552796(CN,A)
【文献】国際公開第2009/144792(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/10
B22F 3/11
B22F 9/00
C22C 1/04
C22C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙率70~98%の多孔質体を形成するためのペースト組成物であって、
中空ガラス粒子、金属粒子および有機ビヒクルを含み、かつ前記中空ガラス粒子と、前記金属粒子との体積比率が、前者:後者=70:30~97:3であるペースト組成物。
【請求項2】
前記中空ガラス粒子の平均粒子径が20~150μmであり、かつ前記中空ガラス粒子の見掛密度が0.5g/cm以下である請求項1記載のペースト組成物。
【請求項3】
前記中空ガラス粒子が、ホウ珪酸ガラスまたはホウ珪酸ナトリウムガラスである請求項1または2記載のペースト組成物。
【請求項4】
前記金属粒子がCu単体粒子である請求項1~3のいずれか一項に記載のペースト組成物。
【請求項5】
前記金属粒子の平均粒子径が0.01~20μmである請求項1~4のいずれか一項に記載のペースト組成物。
【請求項6】
前記多孔質体がヒートパイプまたはベーパーチャンバーのウィックである請求項1~5のいずれか一項に記載のペースト組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のペースト組成物を、前記中空ガラス粒子の軟化点以上の温度で焼成して多孔質体を製造する方法。
【請求項8】
金属およびガラスで形成され、かつ空隙率が70~95%である多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体を形成するためのペースト組成物ならびにこの組成物を用いて得られた多孔質体およびその製造方法に関し、特に、ヒートパイプやベーパーチャンバーの筐体の内壁に付設され、作動液を毛細管力によって移動させて還流を行うウィック(多孔質体による毛細管状または網目状構造体)の形成に好適なペースト組成物ならびにこの組成物を用いて得られた多孔質体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンやモバイル端末などの情報端末機器には、半導体素子等の電子部品が搭載されているが、前記電子部品の冷却デバイスとしてヒートパイプが採用されている。また、端末機器の薄型化に対応して、薄型で効率のよい冷却デバイスとして、扁平したヒートパイプや、面型(平板型)のヒートパイプであるベーパーチャンバーが採用されている。近年では、素子の高集積化、高性能化により発熱量が増加し、また、端末機器の小型化が進むことで発熱密度が増加するため、より高度な放熱対策が重要になってきた。
【0003】
ヒートパイプ(またはベーパーチャンバー)は、水などの凝縮性の流体(作動流体)の潜熱を利用して効率的に熱の輸送を行う熱伝導素子である。ヒートパイプは、内部に作動流体を封入するための空間を有する密閉された筒状またはシート状の構造を有しており、筐体の外壁部は熱伝導率の良い金属(主に銅)で形成されている。筐体の内部には、作動流体が封入され、内壁面には毛細管力により作動流体を輸送するウィック(多孔質体による毛細管構造)が形成されている。
【0004】
このような構造を有するヒートパイプは、電子部品などの熱源と接触し、作動流体が気化する領域である蒸発部と、作動流体が凝縮して液化する領域である凝縮部とを備えており、作動流体を蒸発部と凝縮部との間で循環させることにより前記熱源で発生する熱を放熱している。詳しくは、蒸発部で蒸発した気相状態の作動流体が低温・低圧側の冷却部に移動することにより熱を輸送し、輸送先の凝縮部において作動流体を冷却して凝縮し、液相状態に戻った作動流体(作動液)をウィックの毛細管力によって、再び蒸発部(入熱部)に移動することにより、作動流体を還流させて循環させている。
【0005】
このようなウィックには、毛細管力を向上させるために、作動流体との濡れ性が良好であり、かつ液相状態の作動流体の液面に形成されるメニスカスでの実効毛細管半径が可及的に小さくなることが要求される。そこで、ウィックとしては、従来から、多孔質焼結体や極細線束などが利用されている。具体的には、金属メッシュ、金属極細線束、金属粉末(比較的粒径の大きい金属粒子)の焼結体、ガラスなどが提案されているが、ヒートパイプの性能は、ウィックの毛細管力と浸透性(作動流体の流れ易さ)に左右されるため、近年の端末機器の小型化・薄型化に対応した放熱対策として好適な新たなウィックが必要となっている。しかし、ウィックとして、金属メッシュや粒径の大きい金属粒子を用いる場合は薄型化に限界がある。
【0006】
そこで、特開2008-122030号公報(特許文献1)には、中心粒径(D50)が5~50μmであり、主成分がデンドライト状(樹枝状)である電解銅粉粒子からなるヒートパイプ構成原料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-122030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、銅粉の形状が樹枝状であるために粒子の見掛密度が小さく、焼結後に空隙率の高い焼結体を得ることができるとされている。しかし、見掛密度の小さい電解銅粉を用いれば空隙率の高い焼結体は得られるものの、一つ一つの空隙サイズが小さいと作動流体の移動が不充分となるため、高い冷却能力を得ることが難しい。すなわち、見掛密度の小さい電解銅粉は粒子径サイズも小さいため樹枝構造の枝葉も細かく、それを焼結して得られる空隙も小さくなり易い。これに対して、枝葉を大きくして空隙サイズを大きくしようとすると、粒子径の大きな電解銅粉を用いることになり、見掛密度が大きくなる。そうすると、空隙率が小さくなったり、最大粒子径が大きすぎて薄型のウィックを製造するのが困難となる。すなわち、樹枝状の電解銅粉を用いても、薄型化と高空隙率とを両立できない。
【0009】
従って、本発明の目的は、薄型(薄膜)で高空隙率であり、かつ内部に浸透する液体の移動性(浸透性および流れやすさ)に優れる多孔質体を形成できるペースト組成物ならびにこの組成物を用いて得られた多孔質体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、中空ガラス粒子と金属粒子と有機ビヒクルとを組み合わせて調製したペーストを用いることにより、薄型(薄膜)で高空隙率であり、かつ内部に浸透する液体の移動性(浸透性および流れ易さ)に優れる多孔質体を形成できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のペースト組成物は、中空ガラス粒子、金属粒子および有機ビヒクルを含む。前記中空ガラス粒子と、前記金属粒子との体積比率が、前者:後者=20:80~97:3である。前記中空ガラス粒子の平均粒子径は20~150μmであり、見掛密度は0.5g/cm以下であってもよい。前記中空ガラス粒子は、ホウ珪酸ガラスまたはホウ珪酸ナトリウムガラスであってもよい。前記金属粒子はCu単体粒子であってもよい。前記金属粒子の平均粒子径は0.01~20μmであってもよい。前記ペースト組成物は、多孔質体を形成するための組成物であってもよい。前記多孔質体は、ヒートパイプまたはベーパーチャンバーのウィックであってもよい。
【0012】
本発明には、前記ペースト組成物を、前記中空ガラス粒子の軟化点以上の温度で焼成して多孔質体を製造する方法も含まれる。
【0013】
本発明には、金属およびガラスで形成され、かつ空隙率が60~95%である多孔質体も含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、中空ガラス粒子と金属粒子と有機ビヒクルとを組み合わせて調製したペーストを用いるため、薄型(薄膜)で高空隙率であり、かつ内部に浸透する液体の移動性(浸透性および流れやすさ)に優れる多孔質体を製造できる。得られた多孔質体は、薄肉で高空隙率であるにも拘わらず、必要な膜強度を保持しており、中空ガラスの殻(シェル)を利用して空隙を形成するため、充分な空隙率が得られるとともに、空隙の割合を制御しやすく、吸水性の制御に優れる。また、薄膜化に対応して、粒径の小さい金属粒子を用いても、高空隙率の多孔質体を形成できる。さらに、ペースト状の形態であるため、中空ガラス粒子と金属粒子との分散性に優れるとともに、スクリーン印刷等の簡便な方法で自在に膜厚を制御できるため、生産性に優れる。そのため、近年の端末機器の小型化・薄型化に対応したヒートパイプまたはベーパーチャンバーにおいて、高度な放熱対策として好適な新たなウィックを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例3で得られた焼成膜(多孔質体)のマイクロスコープ写真(300倍)である。
図2図2は、比較例3で得られた焼成膜(多孔質体)のマイクロスコープ写真(300倍)である。
図3図3は、実施例22で得られた焼成膜(多孔質体)のマイクロスコープ写真(300倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[ペースト組成物]
本発明のペースト組成物は、中空ガラス粒子、金属粒子および有機ビヒクルを含む。本発明では、このペースト組成物を、前記中空ガラス粒子の軟化温度(軟化点)以上の温度で焼成することで、中空ガラス粒子の殻(シェル)であるガラスが溶融して中空ガラス粒子が互いに連結し、連続した空隙を形成する。この時、金属粒子同士も焼結し、空隙を多く含む金属多孔質体(金属を主要な構成要素とする複合多孔質体または金属多孔質体)を形成する。中空ガラス粒子を構成していて溶融したガラス成分は、多孔質体に残存するが、中空ガラス粒子の殻は薄いため、ガラス成分自体の実質的な体積は小さく、空隙の形成や熱伝導性を阻害しない。そのため、得られた複合多孔質体は、機能的には、金属多孔質体とみなすことができる。
【0017】
さらに、本発明では、前記中空ガラス粒子の粒子径や添加量を変えることで、空隙率や空隙の大きさを容易に制御できる。そのため、ヒートパイプやベーパーチャンバーのウィックの構成材料として用いれば、ヒートパイプやベーパーチャンバーの筐体の内壁部に塗布して焼成することで、作動流体の吸収や移動性(浸透性)に適した空隙率や空隙サイズに容易に調整できる。さらには、空隙サイズを大きくするために粒子径の大きな中空ガラス粒子を選択した場合にも、焼成により中空ガラス粒子は流動するため、焼成膜(ウィック)の厚みが大きくなりすぎず、薄膜のウィックの形成にも好適に使用できる。
【0018】
(金属粒子)
金属粒子の金属種は特に制限されない。具体的には、金属としては、例えば、Al、Ti、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Pd、Ag、W、Pt、Auなどが挙げられる。これらの金属は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。金属粒子は、異種の金属粒子の組み合わせであってもよく、二種以上を組み合わせた合金で形成されていてもよい。これらの金属の中で、ヒートパイプやベーパーチャンバー本体の外壁部が熱伝導性金属または合金、特に、Cuで形成されることが多いことを考慮すれば、熱伝導性金属または合金粒子、特に、Cu単体粒子、Cuの融点よりも低い温度で焼結が可能なAlやAu、Agなどの金属単体粒子、またはAg-Pd、Ag-Cu、Ag-Pt、Cu-Niの混合もしくは合金粒子が好ましく、筐体の外壁部と同種であるうえに、性能(熱伝導性)、経済性などの観点で、Cu単体粒子が特に好ましい。
【0019】
金属粒子(特にCu単体粒子)の形状としては、例えば、球状(真球状または略球状)、楕円体(楕円球)状、多面体状(多角錘状、立方体状や直方体状など多角柱状など)、板状(扁平状、鱗片状、薄片状など)、ロッド状または棒状、繊維状、樹針状、樹枝状またはデンドライト状、多葉または星状(3~6葉状など)、ドッグボーン状、不定形状などが挙げられる。これらの形状のうち、通常、球状、楕円体状、多面体状、不定形状、樹枝状などであり、得られる多孔質体における液体の浸透性および流れ易さ(通液性)の点から、球状(真球状または略球状)、正多面体状(正六面体状または立方体状、正八面体状など)などの等方形状が好ましく、球状が特に好ましい。
【0020】
なお、本願において、「球状」は、真球状および略球状の双方を含む意味で用いる。球状において、短径に対する長径の比は、例えば1~2、好ましくは1~1.5、さらに好ましくは1~1.3、より好ましくは1~1.2、最も好ましくは1~1.1である。また、等方形状は、略等方形状も含む。
【0021】
金属粒子の平均粒子径は特に制限されない。中空ガラス粒子をできるだけ高充填にして、その隙間に金属粒子を存在させることで、多孔質体の高空隙率かつ高強度が担保される点から、金属粒子の平均粒子径(D50)は、中空ガラス粒子の平均粒子径(D50)よりも小さい方が好ましい。具体的に、金属粒子の平均粒子径は、例えば0.01~100μm、好ましくは0.5~65μm、さらに好ましくは0.5~20μm、より好ましくは1~10μm、最も好ましくは3~8μmである。また、金属粒子の平均粒子径(D50)は、薄膜化と高空隙率とを両立できるとともに、軟化し易く、低温で焼成できる点から、20μm以下であってもよく、例えば0.01~20μm、好ましくは0.1~10μm、さらに好ましくは0.2~8μmであってもよい。粒子径が小さすぎると、経済性が低下するとともに、組成物中での分散性も低下する虞があり、大きすぎると、多孔質性および吸水性が低下し、薄膜化が困難となる上に、中空ガラス粒子が多い際に金属粒子同士が離れて焼結できず構造が弱くなる虞がある。
【0022】
金属粒子の90体積%粒径(D90)は150μm以下(例えば0.02~150μm)であってもよく、例えば100μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは15μm以下、最も好ましくは13μm以下(例えば5~13μm)であってもよい。D90が大きすぎると、得られる多孔質体の空隙率が低下する虞がある。
【0023】
なお、本願において、粒子(金属粒子および後述する中空ガラス粒子)の平均粒子径および粒径分布は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定された中心粒径(D50)および粒子径分布(体積基準)を意味する。
【0024】
金属粒子の割合は、ペースト組成物中30質量%以上であればよく、例えば30~90質量%、好ましくは40~80質量%、さらに好ましくは50~70質量%、より好ましくは55~65質量%である。金属粒子の割合が少なすぎると、得られる多孔質体において、金属間の結合が低下する虞がある。
【0025】
(中空ガラス粒子)
本発明における中空ガラス粒子は、中空ビーズまたはガラスバルーンとも称され、ガラス成分で形成され、粒子の外周を形成する殻(シェル)を有し、前記シェルの内部が空洞である構造を有している。中空ガラス粒子の内部の空洞は、多孔質体の空隙になるべき役割を担う。中空ガラス粒子の外周のシェルは、ペースト組成物中に溶媒が存在し、流動(変形)可能な状態であっても、ペースト組成物中で空洞を担保し、金属粒子同士の距離を離して金属粒子の過度な焼結を進みにくくして、空隙率を向上させる役割を担う。
【0026】
中空ガラス粒子のシェルを構成するガラス組成は、シェルが溶融して中空粒子が互いに連結して連続した空隙を形成できるものであれば特に限定されない。中空ガラス粒子を構成するガラス成分としては、例えば、ビスマス系ガラス、シリカ系ガラス、亜鉛系ガラス、ホウ珪酸系ガラス、ホウ珪酸亜鉛系ガラス、鉛系ガラスなどが挙げられる。
【0027】
本発明では、前記ガラス成分の中から、シェルの軟化温度が焼成温度よりも低くなるように選定するのが好ましい。例えば、金属粒子がCu単体粒子である場合、その焼成温度は600~900℃であることが多いため、シェルの軟化温度はその温度よりも低くなるよう選定する。例えば、ホウ珪酸ガラスの中空ガラス粒子(軟化点550℃)、ホウ珪酸ナトリウムガラス(軟化点450℃)の中空ガラス粒子が好ましい。具体的には、中空ガラス粒子を形成するガラス(シェル)の軟化点は、焼成温度よりも、10℃以上低い軟化点であってもよく、50~500℃低い軟化点が好ましく、100~450℃低い軟化点がさらに好ましく、200~400℃低い軟化点がより好ましく、300~350℃低い軟化点が最も好ましい。具体的な軟化点は、例えば300~600℃、好ましくは400~550℃であってもよい。
【0028】
なお、本願において、ガラスの軟化点は、慣用の方法、例えば、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて測定できる。
【0029】
中空ガラス粒子の形状は特に制限されない。中空ガラス粒子の形状としては、例えば、前記金属粒子の形状として例示された形状から選択できる。前記形状のうち、得られる多孔質体の空隙の均一性を向上できる点から、等方形状が好ましく、球状が特に好ましい。
【0030】
中空ガラス粒子の平均粒子径(D50)は、例えば10~200μm、好ましくは20~150μm、さらに好ましくは40~100μm、より好ましくは60~90μmである。さらに、中空ガラス粒子の平均粒子径(D50)は、多孔質体の強度を向上できる点から、例えば12~150μm、好ましくは12~100μm、さらに好ましくは12~80μm、より好ましくは12~50μm、最も好ましくは12~35μmであってもよい。中空ガラス粒子の平均粒子径が小さすぎると、多孔質体の空隙サイズが小さくなると共に、中空ガラス粒子に占める空洞割合も小さくなるため、多孔質体の空隙率および吸水性が低くなる虞がある。平均粒子径が大きすぎる場合、多孔質体の空隙サイズが大きくなり、金属粒子同士の距離が遠くなって充分な焼結が得られず、金属間の結合構造が脆弱になるうえに、毛細管現象による作動流体の移動性(浸透性)および吸水性も低下する虞がある。
【0031】
多孔質体の高空隙率かつ高強度を担保できる点から、中空ガラス粒子の平均粒子径(D50)は、金属粒子の平均粒子径(D50)よりも大きい方が好ましい。中空ガラス粒子の平均粒子径(D50)は、金属粒子の平均粒子径(D50)に対して1倍を超えていればよいが、1.1~300倍程度の範囲から選択でき、例えば2~250倍、好ましくは3~200倍、さらに好ましくは5~100倍、より好ましくは10~50倍、最も好ましくは15~20倍である。
【0032】
中空ガラス粒子の90体積%粒径(D90)は400μm以下(例えば20~400μm)であってもよく、例えば300μm以下、好ましくは200μm以下、さらに好ましくは180μm以下(例えば120~180μm)であってもよい。D90が大きすぎると、得られる多孔質体の空隙率が低下する虞がある。
【0033】
中空ガラス粒子は、前記粒径分布を有するのが好ましく、粒径分布は、ピークが1つである単峰性の分布であってもよく、ピークが2以上ある多峰性(例えば2峰性)の分布であってもよい。
【0034】
中空ガラス粒子の見掛密度は、1.5g/cm以下であってもよく、例えば0.05~1g/cm程度の範囲から選択できるが、空洞割合が大きく、空隙率を高め易い点から、0.5g/cm以下が好ましく、例えば0.05~0.5g/cm、好ましくは0.08~0.2g/cm、さらに好ましくは0.09~0.17g/cm、より好ましくは0.1~0.16g/cm、最も好ましくは0.12~0.15g/cmである。見掛密度が小さすぎると、金属粒子同士の距離が遠くなって充分な焼結が得られず、金属間の結合構造が脆弱になる虞があり、大きすぎると、多孔質体の空隙率が低下する虞がある。
【0035】
なお、本願において、中空ガラス粒子の見掛密度は、中空部を粒子容積に含めた密度を意味し、慣用の方法で測定でき、例えば、ピクノメーター法などに基づいて測定できる。
【0036】
中空ガラス粒子と金属粒子との体積比率は、多孔質体、特にウィック層に好適な空隙率を実現できる点から、20:80~97:3であり、好ましくは60:40~95:5、さらに好ましくは70:30~93:7、より好ましくは80:20~92:8、最も好ましくは85:15~91:9である。さらに、中空ガラス粒子と金属粒子との体積比率は、多孔質体の強度を向上できる点から、好ましくは20:80~95:5、さらに好ましくは20:80~93:7、より好ましくは20:80~90:10であってもよい。金属粒子に対する中空ガラス粒子の体積比率が小さすぎると、多孔質体の空隙率が低くなり、毛細管現象による作動流体の移動性(浸透性)が低下する虞がある。一方、金属粒子に対する中空ガラス粒子の体積比率が大きすぎると、金属粒子が少ないため、金属粒子同士の距離が遠くなって充分な焼結が得られず、金属間の結合構造が脆弱になる虞がある。
【0037】
なお、本願において、中空ガラス粒子と金属粒子との体積比率は、原料の質量に対して、それぞれ見掛密度および比重から換算した値に基づいて算出できる。
【0038】
(有機ビヒクル)
有機ビヒクルは、ペースト組成物の有機ビヒクルとして利用される慣用の有機ビヒクル、例えば、有機バインダーおよび/または有機溶剤であってもよい。有機ビヒクルは、有機バインダーおよび有機溶剤のいずれか一方であってもよいが、通常、有機バインダーと有機溶剤との組み合わせ(有機バインダーの有機溶剤による溶解物)である。
【0039】
有機バインダーとしては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂(オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体など)、熱硬化性樹脂(熱硬化性アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂など)、ゴム類(ポリブタジエン、ポリイソプレンなど)などが挙げられる。これらの有機バインダーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機バインダーのうち、焼成過程で容易に焼失し、かつ灰分の少ない樹脂、例えば、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなど)、セルロース誘導体(ニトロセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、酢酸セルロースなど)、ポリエーテル類(ポリオキシメチレンなど)などが汎用され、熱分解性などの点から、ポリ(メタ)アクリル酸メチルやポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステルやエチルセルロースが好ましい。
【0040】
有機溶剤としては、特に限定されず、ペースト組成物に適度な粘性を付与し、かつペースト組成物を基材に塗布した後に乾燥処理によって容易に揮発できる有機化合物であればよく、高沸点の有機溶剤であってもよい。このような有機溶剤としては、例えば、芳香族炭化水素(パラキシレンなど)、エステル類(乳酸エチルなど)、ケトン類(イソホロンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、脂肪族アルコール(オクタノール、デカノール、ジアセトンアルコールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテートなど)、カルビトール類(カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトールなど)、カルビトールアセテート類(エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート)、脂肪族多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)、脂環族アルコール類[例えば、シクロヘキサノールなどのシクロアルカノール類;テルピネオール、ジヒドロテルピネオールなどのテルペンアルコール類(モノテルペンアルコールなど)など]、芳香族アルコール類(メタクレゾールなど)、芳香族カルボン酸エステル類(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど)、窒素含有複素環化合物(ジメチルイミダゾール、ジメチルイミダゾリジノンなど)などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機溶剤のうち、ペーストの流動性などの点から、テルピネオールなどの脂環族アルコール、ブチルカルビトールアセテートなどのC1-4アルキルセロソルブアセテート類が好ましい。
【0041】
有機バインダーと有機溶剤とを組み合わせる場合、有機バインダーの割合は、有機溶剤100質量部に対して、例えば1~200質量部、好ましくは10~100質量部、さらに好ましくは30~80質量部程度であり、有機ビヒクル全体に対して1~80質量%、好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%程度である。
【0042】
有機ビヒクルの質量割合は、ペースト組成物中5~80質量%、好ましくは10~75質量%、さらに好ましくは20~70質量%である。有機ビヒクルの割合が少なすぎると、取り扱い性が低下する虞があり、多すぎると、金属間の結合構造が脆弱になる虞がある。
【0043】
(他の成分)
ペースト組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、無機バインダー(中実のガラスフリットなど)、硬化剤(アクリル系樹脂の硬化剤など)、分解促進剤(金属酸化物など)、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤又は分散剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)、分散安定化剤、粘度調整剤又はレオロジー調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などが挙げられる。これらの他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の成分の割合は、成分の種類に応じて選択でき、通常、ペースト組成物全体に対して10質量%以下(例えば0.01~10質量%)程度である。
【0044】
[多孔質体およびその製造方法]
本発明の多孔質体は、前記ペースト組成物を焼成することにより製造でき、例えば、前記ペースト組成物を基材の上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を焼成して多孔質を得る焼成工程を含む製造方法により製造できる。
【0045】
塗布工程において、ペースト組成物を基材に塗布して塗膜を形成する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法(例えば、グラビア印刷法など)、平版印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法などの印刷法やこれらの印刷法を組み合わせた印刷法、スピンコート法、ディップ法、ロール圧入法、スギージ圧入法、プレス圧入法などの直接圧入法などが挙げられる。これらの方法のうち、スクリーン印刷法が好ましい。
【0046】
塗膜として基材に付着させたペースト組成物は、焼成処理の前に、自然乾燥してもよいが、加熱して乾燥してもよい。加熱温度は、有機溶媒の種類に応じて選択でき、例えば50~200℃、好ましくは80~180℃、さらに好ましくは100~150℃である。加熱時間は、例えば1分~3時間、好ましくは5分~2時間、さらに好ましくは10分~1時間である。
【0047】
基材の材質としては、多孔質体の種類に応じて選択でき、前記金属粒子の項で例示された金属から選択できる。多孔質体をヒートパイプやベーパーチャンバーのウィックとして利用する場合、基材はヒートパイプやベーパーチャンバーの筐体であり、前記筐体は、熱伝導性金属または合金、例えば、Cuで形成されている場合が多い。
【0048】
焼成工程において、焼成温度は、金属ペースト組成物中の中空ガラス粒子のシェルが軟化し、かつ金属粒子が焼結する温度以上であればよい。焼成温度は、金属粒子の種類に応じて選択できるが、中空ガラス粒子の軟化点以上であってもよく、前記軟化点よりも、10℃以上高い温度が好ましく、50~500℃高い温度がさらに好ましく、100~450℃高い温度が特に好ましく、200~400℃高い温度がより好ましく、300~350℃高い温度が最も好ましい。
【0049】
具体的な焼成温度(最高到達温度)は450℃以上であってもよく、例えば550~1000℃、好ましくは650~950℃、さらに好ましくは700~900℃である。
【0050】
焼成温度が低すぎると、中空ガラス粒子のシェルが溶けずに連結した空隙が形成されなかったり、金属粒子同士が焼結できなかったりする虞がある。一方、焼成温度が高すぎると、金属粒子の焼結が進みすぎて中空ガラス粒子の空洞(金属多孔質体の空隙)が塞がれたり、基材(ヒートパイプやベーパーチャンバーの筐体の外壁部)である銅板が溶出する虞がある。
【0051】
焼成時間(最高到達温度での焼成時間)は、例えば1分~3時間、好ましくは3分~1時間、さらに好ましくは5~30分である。
【0052】
なお、焼成の雰囲気は、金属粒子の種類に応じて選択でき、特に限定されず、空気中、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中、真空雰囲気中のいずれかであってもよい。基材がCuで形成されている場合は、酸化を防ぐために不活性ガス雰囲気中が好ましく、経済性の面から、窒素雰囲気中が特に好ましい。
【0053】
焼成(特に窒素雰囲気中での焼成)は、バッチ炉またはベルト搬送式のトンネル炉を用いて行ってもよい。
【0054】
焼成により形成された焼成膜は、多孔質体を形成している。得られた多孔質体の表面または内部は、物理的な処理または化学的な処理に供してもよい。物理的な処理方法としては、例えば、表面を揃えるための研磨処理があり、バフ研磨、ラップ研磨、ポリッシング研磨などが挙げられる。化学的な処理方法としては、例えば、過硫酸ナトリウム水溶液などで最表面をソフトエッチングする方法や電解めっき処理・無電解めっき処理などが挙げられる。また、作動流体の吸収性や移動性を高める目的でプラズマ親水化処理や各種親水性コーティングなどを施してもよい。
【0055】
本発明の多孔質体は、金属およびガラスで形成され、高空隙率である。本発明の多孔質体の空隙率は、50~98%程度の範囲から選択でき、例えば60~95%、好ましくは70~93%、さらに好ましくは75~92%、より好ましくは80~90%、最も好ましくは85~88%である。空隙率が小さすぎると、通液性が低下する虞があり、高すぎると、強度低下する虞がある。
【0056】
なお、本願において、多孔質体の空隙率は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0057】
本発明の多孔質体は、薄肉に形成でき、平均厚みは、例えば10~300μm、好ましくは30~200μm、さらに好ましくは50~150μm、より好ましくは80~120μm、最も好ましくは90~110μmである。
【0058】
なお、本願において、多孔質体の平均厚みは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0059】
本発明の多孔質体は、作動流体の浸透性や移動性に優れている。本発明の多孔質体の吸水性は、多孔質体の30mmの長さを吸い上げる速度で評価でき、40秒以下であってもよく、好ましくは30秒以下、さらに好ましくは20秒以下、より好ましくは10秒以下である。
【0060】
なお、本願において、吸水性は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0061】
作動流体としては、例えば、水、メタノール、エタノール、アンモニア、フロンなどが挙げられる。これらのうち、ヒートパイプやベーパーチャンバーの作動流体としては水が好ましい。
【実施例
【0062】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、実施例で使用した材料、ペースト組成物の調製方法および評価試料の作製方法、得られた評価試料の評価方法を以下に示す。
【0063】
[使用した材料]
(金属粒子)
Cu粒子1…球状、平均粒子径D50:0.2μm、D90:0.3μm、比重8.9
Cu粒子2…球状、平均粒子径D50:0.5μm、D90:0.8μm、比重8.9
Cu粒子3…球状、平均粒子径D50:5μm、D90:8μm、比重8.9
Cu粒子4…球状、平均粒子径D50:65μm、D90:118μm、比重8.9
Cu粒子5…樹枝状、電解銅粉、平均粒子径D50:20μm、D90:40μm、見掛密度:0.8g/cm
Cu粒子6…樹枝状、電解銅粉、平均粒子径D50:85μm、D90:140μm、見掛密度:2.1g/cm
Ag粒子…球状、平均粒子径D50:1μm、D90:1.7μm、比重10.5。
【0064】
(中空ガラス粒子)
中空ガラス粒子1…ホウ珪酸ナトリウムガラス、球状、平均粒子径D50:80μm、D90:150μm、見掛密度:0.14g/cm、耐熱温度(中空形状の維持に関係する耐熱温度であり、厳密には軟化点とは異なる温度)450℃
中空ガラス粒子2…ホウ珪酸ガラス、球状、平均粒子径D50:12μm、D90:20μm、見掛密度1.10g/cm、耐熱温度550℃
中空ガラス粒子3…ホウ珪酸ナトリウムガラス、球状、平均粒子径D50:20μm、D90:35μm、見掛密度:0.46g/cm、耐熱温度450℃
中空ガラス粒子4…ホウ珪酸ガラス、球状、平均粒子径D50:35μm、D90:45μm、見掛密度:0.34g/cm、耐熱温度550℃
中空ガラス粒子5:ホウ珪酸ナトリウムガラス、球状、平均粒子径D50:40μm、D90:80μm、見掛密度:0.20g/cm、耐熱温度450℃
中空ガラス粒子6:ホウ珪酸ナトリウムガラス、球状、平均粒子径D50:60μm、D90:105μm、見掛密度:0.18g/cm、耐熱温度450℃
中空ガラス粒子7:ホウ珪酸ナトリウムガラス、球状、平均粒子径D50:100μm、D90:170μm、見掛密度:0.11g/cm、耐熱温度450℃
中空ガラス粒子8:ホウ珪酸ナトリウムガラス、球状、平均粒子径D50:120μm、D90:185μm、見掛密度:0.10g/cm、耐熱温度450℃
中空ガラス粒子9:ホウ珪酸ナトリウムガラス、球状、平均粒子径D50:150μm、D90:220μm、見掛密度:0.08g/cm、耐熱温度450℃
中空ガラス粒子10:ホウ珪酸ナトリウムガラス、球状、平均粒子径D50:180μm、D90:255μm、見掛密度:0.07g/cm、耐熱温度450℃
【0065】
(有機ビヒクル)
有機バインダーであるアクリル樹脂と、有機溶剤であるテレピネオールとを、有機バインダー:有機溶剤=1:4の質量比で混合した混合物。
【0066】
[ペースト組成物の調製]
表1~4に示す組成で各原料を秤量し、遊星式脱泡撹拌機にて十分に混合することによって、ペースト組成物を調製した。
【0067】
[評価試料の作製]
無酸素銅板(60mm×60mm×0.2mm厚み)の表面にメタルマスクを用いて縦50mm×横15mmのパターンをスクリーン印刷法で塗布して塗膜を形成した。メタルマスクの厚さは、中空ガラス粒子の平均粒子径に応じて使い分け、中空ガラス粒子の平均粒子径D50が150μm以下の場合は、厚さ0.12mmのメタルマスクを用い、中空ガラス粒子の平均粒子径D50が150μm以上の場合は、厚さ0.30mmのメタルマスクを用いた。120℃の送風乾燥機で10分間、塗膜を乾燥させた後、焼成して焼成膜を形成した。なお、焼成条件としては、金属粒子としてCu粒子を用いた場合は、ベルト式連続焼成炉にて窒素雰囲気中、温度800℃、ピーク保持時間10分間焼成した。排出するまでの総時間は60分であった。金属粒子としてAg粒子を用いた場合は、ベルト式連続焼成炉にて大気雰囲気中、温度600℃であること以外は、Cu粒子を用いた場合と同様に焼成した。
【0068】
[焼成膜の観察]
焼成膜をマイクロスコープで観察し、膜の状態を観察した。
【0069】
[焼成膜の元素分析]
焼成膜をSEM-EDS分析により元素分析し、中空ガラス粒子に由来するケイ素が検出されるか確認した。SEM-EDS分析は、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製「JSM-IT300LA」)に付属のエネルギー分散型蛍光X線分析装置(JED-2300)を用いた。
【0070】
[焼成膜の厚み]
マイクロメーターを用い、銅板と焼成膜との厚み、および銅板のみの厚みを測定し、その差を焼成膜の厚みとした(3カ所の平均値)。膜厚が120μm以下であれば、適正な薄膜が形成できていると評価した。
【0071】
[焼成膜の強度(テープ剥離)]
焼成膜の表面にセロテープ(登録商標)を貼り、テープを剥がした後のセロテープの粘着面に、焼成膜や金属粉の付着がないかをマイクロスコープで観察し、以下の判定方法で焼成膜の強度を評価した。
【0072】
(判定方法)
a:テープに何も付着していない(合格)
b:テープに金属粉が付着している(合格)
c:膜自体が剥離する(不合格)。
【0073】
[焼成膜の強度(鉛筆硬度)]
JIS K5600-5-4、引っかき硬度(鉛筆法)に準じて、焼成膜の鉛筆硬度を測定した。焼成膜に傷跡が生じなかった最も硬い鉛筆硬度を測定値とし、以下の判定方法で焼成膜の強度を評価した。
【0074】
(判定方法)
a:鉛筆硬度3H以上(合格)
b:鉛筆硬度H以上、3H未満(合格)
c:鉛筆硬度H未満(不合格)
【0075】
[焼成膜(多孔質体)の多孔質性(空隙率)]
以下に示す式にて、焼成膜の重量と見掛密度から空隙率を算出し、以下の判定方法で多孔質性を評価した。
【0076】
焼成膜の重量(g)=焼成後の評価試料の重量(g)-塗布前の銅板の重量(g)
焼成膜の見掛密度=焼成膜の重量(g)/(焼成膜の厚み×塗布面積)
焼成膜の空隙率(%)=100×(1-焼成膜の見掛密度/金属の真比重)
【0077】
(判定方法)
a:焼成膜の空隙率が70%以上(合格)
b:焼成膜の空隙率が50%以上(合格)
c:焼成膜の空隙率が50%未満(不合格)。
【0078】
[焼成膜(多孔質体)の吸水性]
焼成膜の縦方向に対して、上端から10mm、下端から10mmの位置にそれぞれ横方向に延びる標線を記し、焼成膜中央部分(対向する標線で区切られた中央領域)の30mmの距離の範囲を試験範囲とした。水を張ったシャーレを準備し、焼成膜面を上面にして斜め45度に傾けた評価試料を、焼成膜の下端側の標線まで水中に浸漬し、焼成膜が水を吸い上げる挙動を評価した。詳しくは、下端側の標線から上端側の標線まで30mmの距離を水が吸い上げられる時間を測定した。測定は3回行い、その平均値を吸い上げ時間とし、以下の判定方法で吸水性を評価した。
【0079】
(判定方法)
a:水を吸い上げる時間が10秒以内(合格)
b:水を吸い上げる時間が20秒以内(合格)
c:水を吸い上げる時間が40秒以内(合格)
d:水を吸い上げる時間が40秒以上(不合格)。
【0080】
[総合判定]
焼成膜の強度(テープ剥離、鉛筆硬度)、多孔質性(空隙率)、吸水性(吸い上げ時間)を確認した結果に基づく総合的な判定として、以下の基準で優劣を判定(ランク付け)した。
【0081】
A:強度、多孔質性、吸水性が全てa判定(合格)
B:強度、多孔質性、吸水性がaまたはb判定(合格)
C:強度、多孔質性がaまたはb判定、吸水性がc判定(合格)
D:強度、多孔質性、吸水性に不合格の項目がある(不合格)。
【0082】
[評価結果]
実施例1~24および比較例1~9について、配合組成および評価結果を表1~4に示す。比較例1~8は、中空ガラス粒子を含まないペースト組成物を用いた例であり、実施例1~24および比較例9は、中空ガラス粒子を含むペースト組成物を用いた例である。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
[実施例1~3、7および比較例1~3、7の結果]
金属粒子として粒子径の小さい球状のCu粒子(Cu粒子1;平均粒子径D50が0.2μm、Cu粒子2;平均粒子径D50が0.5μm、Cu粒子3;平均粒子径D50が5μm)を用いた実施例1~3、比較例1~3を比較した。さらに、金属粒子として粒子径の小さい球状のAg粒子(平均粒径D50が1μm)を用いた実施例7と比較例7とを比較した。中空ガラス粒子を含まない比較例1~3、7では空隙率が非常に低く、吸水性評価で吸水しなかった。それに対して、中空ガラス粒子1を含む実施例1~3、7(中空ガラス粒子1:金属粒子=90:10の体積比率)では、高い多孔質性(空隙率70%以上)、高い吸水性(水の吸い上げ時間が20秒以内)が得られた。
【0088】
比較例1~3、7に対して実施例1~3、7では、中空ガラス粒子の存在により焼成膜の厚みは大きくなったが、焼成膜の強度は優れていたことから、中空ガラス粒子による空洞を含んだまま、金属粒子の焼結構造が強固に形成されたといえる。焼成膜をマイクロスコープで観察したところ、実施例1~3、7では、互いに連なった球状の空隙が無数に存在していたのに対し、比較例1~3、7では、連なった空隙は見られなかった。実施例3および比較例3で得られた焼成膜のマイクロスコープ写真(300倍)を図1および2に示すが、実施例3では球状の空隙が連なっているのが確認できるのに対して、比較例3では連なった空隙がないことを確認できる。また、焼成膜の元素分析では、比較例1~3、7ではケイ素は検出されなかったのに対し、実施例1~3、7ではケイ素が検出され、焼成膜に中空ガラス粒子が残存していると云える。
【0089】
[比較例8の結果]
比較例3に対して有機ビヒクルを増量した比較例8では、空隙率に差異は無く、固形分濃度が下がったことで焼成膜の厚みが小さくなっただけであった。これより、有機成分の量は空隙率に影響しないと云える。
【0090】
[実施例4および比較例4の結果]
金属粒子として粒子径の大きい球状のCu粒子4(平均粒径D50が65μm)を用いた実施例4と比較例4とを比較した。中空ガラス粒子を含まない比較例4では、焼成膜の強度は大きいが、空隙率が48%、水の吸い上げ時間が88秒であったのに対し、中空ガラス粒子1を含む実施例4では、焼成膜の強度が大きく、空隙率が71%、水の吸い上げ時間が27秒と多孔質性および吸水性が向上した。
【0091】
[実施例5~6および比較例5~6の結果]
金属粒子として樹枝状の電解銅粉(Cu粒子5;平均粒子径D50が20μm)を用いた実施例5と比較例5とを比較した。中空ガラス粒子を含まない比較例5では、金属粒子の樹枝状の形状により、高い多孔質性(空隙率78%)が得られたものの、吸水性は小さかった(水の吸い上げ時間が52秒)。それに対して、実施例5では、空隙率が82%、水の吸い上げ時間が18秒と多孔質性および吸水性が向上した。
【0092】
また、金属粒子として樹枝状の電解銅粉(Cu粒子6;平均粒子径D50が85μm)を用いた実施例6と比較例6とを比較した。中空ガラス粒子を含まない比較例6では、金属粒子の樹枝状の形状により、比較的高い多孔質性(空隙率55%)が得られたものの、吸水性は小さかった(水の吸い上げ時間が68秒)。それに対して、実施例6では、空隙率が68%、水の吸い上げ時間が28秒と多孔質性および吸水性が向上した。
【0093】
樹枝状のCu粒子を用いた場合には、Cu粒子の見掛密度が小さくなり、細かい樹枝形状の枝葉の焼結より高い焼結性が得られ、その結果、多孔質性(空隙率)は高くなるものの、その空隙の大きさが微細なため吸水性は小さくなった。
【0094】
[実施例1~7の結果]
なお、実施例1~7の結果から、金属粒子の粒子径と吸水性(および多孔質性)との関係を見ると、粒子径が大きい金属粒子を用いると見掛密度が大きくなるため吸水性(および多孔質性)が低下した。また、粒子径が大きいと焼成膜の厚みが大きくなった。ウィックに好適な薄型化(薄膜化)と高空隙率とが両立した金属多孔質体(焼成膜)を得るという観点では、金属粒子の粒子径は小さい方が好ましく、平均粒子径D50は20μm以下が好ましいと云える。
【0095】
[実施例8~15、比較例9の結果]
実施例3、比較例3の金属ペースト組成物に対して、中空ガラス粒子(中空ガラス粒子1)と金属粒子(Cu粒子3)との体積比率を変量した実施例8~15について、焼成膜の強度、多孔質性(空隙率)、吸水性(吸い上げ時間)を確認した。なお、中空ガラス粒子と金属粒子との体積比率(中空ガラス粒子:金属粒子)を、便宜上「中空ガラス粒子の割合」と記載する。
【0096】
中空ガラス粒子を含まない比較例3に対して、中空ガラス粒子の割合を16:84(比較例9)、20:80(実施例8)、50:50(実施例9)、60:40(実施例10)、70:30(実施例11)、80:20(実施例12)、90:10(実施例3)、93:7(実施例13)、95:5(実施例14)、97:3(実施例15)の順に増加させた。その結果、比較例3に対して中空ガラス粒子の割合が増加すると、焼成膜の厚みが大きくなるとともに、焼成膜の強度を保持したまま吸水性(および多孔質性)が向上する傾向が見られた。但し、中空ガラス粒子の割合が少ない比較例9(16:84)では多孔質性および吸水性が不合格の水準であり、実施例8の割合(20:80)以上の場合に多孔質性および吸水性が合格の水準になった。
【0097】
特に、中空ガラス粒子の割合が80:20(実施例12)、90:10(実施例3)の場合に吸水時間が10秒以内となり、特に吸水性に優れた。さらに、中空ガラス粒子の割合を増加させた実施例13(93:7)、実施例14(95:5)、実施例15(97:3)では、多孔質性(空隙率)が高くなりすぎて、焼成膜の強度が若干低下するとともに、吸水性も若干低下する傾向が見られたが、実用的には問題の無いレベルであった。
【0098】
[実施例16~24の結果]
実施例3の金属ペースト組成物に対して、中空ガラス粒子の割合を90:10と一定にしたまま、金属粒子に対する中空ガラス粒子の平均粒子径D50を12~180μmの範囲で変量した実施例16~24について、焼成膜の強度、多孔質性(空隙率)、吸水性(吸い上げ時間)を確認した。
【0099】
中空ガラス粒子の平均粒子径D50を、12μm(実施例16)、20μm(実施例17)、35μm(実施例18)、40μm(実施例19)、60μm(実施例20)、80μm(実施例3)、100μm(実施例21)、120μm(実施例22)、150μm(実施例23)、180μm(実施例24)の順に増加させた。
【0100】
焼成膜の形成については、平均粒子径D50が12~120μmの範囲の場合(実施例3、実施例16~22)には、厚さ0.12mmのメタルマスクを用いたスクリーン印刷が可能であった。実施例3、実施例21、実施例22で用いた中空ガラス粒子は、平均粒子径D90の値が120μm(メタルマスクの厚み)以上の粒子を含むが、スキージの撓みで粒子を乗り越えられる程度であり、成膜性に問題は無かった。中空ガラス粒子は焼成により溶融し、中空ガラス粒子としての形状を失うため、実施例3、実施例16~22では中空ガラス粒子の粒子径に関わらず、焼成膜の厚みは全て120μm以下で同程度であった。
【0101】
一方、中空ガラスの平均粒子径D50が150μm以上(実施例23、実施例24)の場合には、厚さ0.12mmのメタルマスクでは、スクリーン印刷の際に粒子がスキージに引きずられた跡が残り成膜性が低かったため、厚さ0.3mmのメタルマスクを用いた。その結果、焼成膜の厚みが270μm程度に大きくなったため、薄膜化は難しいと云える。
【0102】
焼成膜の強度、空隙率、吸水性については、中空ガラス粒子の平均粒子径D50が12~180μmの範囲の場合、いずれの実施例でも、焼成膜の強度は高い水準であり、吸水性(および多孔質性)についても実用上問題の無いレベルであった。
【0103】
最も小さい平均粒子径D50が12μmの中空ガラス粒子を用いた実施例16では、空隙率は高いものの、空隙の大きさが小さすぎるためか、水の吸い上げ時間が26秒と吸水性が若干劣った(判定c)。一方、最も大きい平均粒子径D50が180μmの中空ガラス粒子を用いた実施例24では、空隙率が高かったが、空隙が大きくなりすぎたためか、水の吸い上げ時間が22秒と吸水性が若干劣った(判定c)。
【0104】
平均粒子径D50が20~150μmの中空ガラス粒子を用いた実施例17~23、実施例3では、水の吸い上げ時間が20秒以内と吸水性にも優れているため、適度な空隙率の金属多孔質体が形成される平均粒子径(D50)の範囲と推察できる。特に、平均粒子径D50が60~100μmの中空ガラス粒子を用いた実施例20、実施例3、実施例21では、水の吸い上げ時間が10秒以内の高い吸水性が得られ、最も好適な空隙率の金属多孔質体が形成される平均粒子径(D50)の範囲と推察できる。
【0105】
実施例22で得られた焼成膜のマイクロスコープ写真(300倍)を図3に示す。実施例3で得られた焼成膜のスコープ写真(図1)と比較すると、実施例3よりも粒径が大きい中空ガラス粒子を用いた実施例22では、図1よりも大きい球状の空隙が連なっているのが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のペースト組成物は、薄型(薄膜)で空隙率の高い金属多孔質体として利用でき、各種の分野で利用できる。なかでも、ヒートパイプやベーパーチャンバーの構成部材、例えば、筐体の外壁層、内壁層、内壁部に付設または積層されるウィック(多孔質体による毛細管状構造体)、内部に付設する他の構成部材として利用でき、通液性にも優れるため、ウィックとして好適に利用できる。
図1
図2
図3