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特許7512247飲食品、飲食品の雑味マスキング剤、及び飲食品の雑味マスキング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】飲食品、飲食品の雑味マスキング剤、及び飲食品の雑味マスキング方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240701BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240701BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240701BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20240701BHJP
   A23L 33/15 20160101ALN20240701BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/105
A23L27/00 Z
A23C9/13
A23L33/15
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021502085
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006528
(87)【国際公開番号】W WO2020175274
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2019033536
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三井田 聡司
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 大地
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106359602(CN,A)
【文献】国際公開第2005/084461(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/027662(WO,A1)
【文献】特開平05-091854(JP,A)
【文献】特開2000-300190(JP,A)
【文献】特開平09-205991(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105077270(CN,A)
【文献】特開2019-176751(JP,A)
【文献】国際公開第2007/055089(WO,A1)
【文献】特開2002-060339(JP,A)
【文献】特開2003-231647(JP,A)
【文献】特開平10-215793(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0143333(US,A1)
【文献】Drinking Yogurt,Mintel GNPD,2017年11月,https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/5216943/,ID#: 5216943
【文献】Blackberry Yogurt with Probiotic Cultures,Mintel GNPD,2014年12月,https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/2816231/,ID#: 2816231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00 - 33/29
A23C 9/00 - 9/20
A23L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステビアを有効成分とする、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品の雑味マスキング剤(但し、前記飲食品はサンルージュ茶葉抽出物を含むものを除く。)
【請求項2】
ステビアを有効成分とする、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品の雑味マスキング剤であって、前記飲食品が酸性乳飲料である、該雑味マスキング剤
【請求項3】
前記食物繊維がポリデキストロースである、請求項1又は2記載の雑味マスキング剤
【請求項4】
前記ビタミンがビタミンC、ビタミンD、及びビタミンEからなる群から選ばれた1種又は2種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の雑味マスキング剤
【請求項5】
前記カルシウム源が乳酸カルシウムである、請求項1~4のいずれか1項に記載の雑味マスキング剤
【請求項6】
前記飲食品は、固形分含量が5質量%以上25質量%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の雑味マスキング剤
【請求項7】
前記飲食品は、前記ステビアを0.001質量%以上0.05質量%以下含有し、前記食物繊維を1質量%以上10質量%以下含有し、前記カルシウム源を0.1質量%以上1質量%以下含有し、前記ビタミンを0.01質量%以上5質量%以下含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の雑味マスキング剤
【請求項8】
前記飲食品は、ショ糖及び果糖をそれらの合計量で1質量%以上20質量%以下含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の雑味マスキング剤
【請求項9】
ステビアを、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品に含有させる、前記飲食品の雑味マスキング方法(但し、前記飲食品はサンルージュ茶葉抽出物を含むものを除く。)
【請求項10】
ステビアを、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品に含有させる、前記飲食品の雑味マスキング方法であって、前記飲食品が酸性乳飲料である、該雑味マスキング方法。
【請求項11】
前記食物繊維がポリデキストロースである、請求項9又は10記載の雑味マスキング方法。
【請求項12】
前記ビタミンがビタミンC、ビタミンD、及びビタミンEからなる群から選ばれた1種又は2種以上である、請求項9~11のいずれか1項に記載の雑味マスキング方法。
【請求項13】
前記カルシウム源が乳酸カルシウムである、請求項9~12のいずれか1項に記載の雑味マスキング方法。
【請求項14】
前記飲食品は、固形分含量が5質量%以上25質量%以下である、請求項9~13のいずれか1項に記載の雑味マスキング方法。
【請求項15】
前記飲食品は、前記ステビアを0.001質量%以上0.05質量%以下含有し、前記食物繊維を1質量%以上10質量%以下含有し、前記カルシウム源を0.1質量%以上1質量%以下含有し、前記ビタミンを0.01質量%以上5質量%以下含有する、請求項9~14のいずれか1項に記載の雑味マスキング方法。
【請求項16】
前記飲食品は、ショ糖及び果糖をそれらの合計量で1質量%以上20質量%以下含有する、請求項9~15のいずれか1項に記載の雑味マスキング方法。
【請求項17】
ステビア、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する酸性乳飲料であって、固形分含量が5質量%以上25質量%以下であり、甘味度が、ショ糖10質量%水溶液の甘味の程度を100としたときの相対値として、112~118であり、前記ステビアを0.001質量%以上0.05質量%以下含有し、前記食物繊維を1質量%以上10質量%以下含有し、前記カルシウム源を0.1質量%以上1質量%以下含有し、前記ビタミンを0.01質量%以上5質量%以下含有する、該酸性乳飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の栄養成分の配合が強化され、なお且つ、その栄養成分に起因して生じる雑味を改善してなる飲食品、該飲食品の雑味マスキング剤、及び該飲食品の雑味マスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりのなかで、通常の食事では不足しがちな栄養素を補ったり、特定の栄養機能性を享受したりするなどの目的で、そのための栄養成分の配合を強化した飲食品の提供が様々に提案されている。例えば、難消化性デキストリンやポリデキストロース等の食物繊維には、おなかの調子を整えたり、糖の吸収を抑えたりする機能性が知られている。また、ビタミン類としては、例えば、ビタミンCは、皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに、抗酸化作用を持つ栄養素であることが知られている。また、例えば、ビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素であることが知られている。更に、例えば、ビタミンEは、抗酸化作用により、体内の脂質を酸化から守り、細胞の健康維持を助ける栄養素であることが知られている。一方、カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素であることが知られている。
【0003】
しかしながら、これらを飲食品に配合する際には、飲食品の元来の風味への影響が無視できないという側面があった。
【0004】
例えば、特許文献1では、ポリデキストロース等の食物繊維には一定の不快味があり、これを高甘味度甘味料として知られるスクラロースで改善することが試みられている。また、特許文献2では、ビタミン臭を同様にスクラロースで改善することが試みられている。更に、特許文献3では、乳酸カルシウムの苦い後味を、製品を味わう又は消費する際に最初に感知される香味であるトップノート香味により、マスキングすることが試みられている。
【0005】
一方、特許文献4には、分岐アミノ酸または分岐アミノ酸を含むペプチドの苦味を、高甘味度甘味料として知られるステビアでマスキングすることが試みられている。また、特許文献5には、各種の最終製品における過剰な渋味を、ステビアにより減少又は緩和することが試みられている。更に、特許文献6には、低塩化した醤油様調味料において、塩味代替作用を有するアンモニウムイオンの異味を、ステビアにより抑制することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-099681号公報
【文献】特開2015-130893号公報
【文献】特表2011-505165号公報
【文献】特開2005-336078号公報
【文献】特開2006-61160号公報
【文献】特開2011-115142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの研究によると、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を配合した飲食品では、それらの個々の栄養成分に起因した異味が相交り合い、総じて特有の雑味が生じる場合があった。この点、上記特許文献1~2に記載のスクラロースでは、その雑味を改善する効果は不充分であった。また、上記特許文献3に記載のトップノート香料では、飲食品に余計な風味が付与されることが避けられなかった。また、上記特許文献4~6では、特定成分の異味をステビアにより改善することが試みられたが、食物繊維、ビタミン、カルシウム等の栄養成分に対する効果ではなかった。更には、それらが相交り合って、総じて生じる雑味の改善効果ではなかった。
【0008】
よって、本発明の目的は、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品であって、それらの栄養成分に起因して生じる雑味を改善してなる飲食品、該飲食品の雑味マスキング剤、及び該飲食品の雑味マスキング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、高甘味度甘味料として知られるステビアにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、その第1の観点では、ステビア、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品を提供するものである。
【0011】
上記飲食品においては、該飲食品が酸性乳飲料であることが好ましい。
【0012】
上記飲食品においては、前記食物繊維がポリデキストロースであることが好ましい。
【0013】
上記飲食品においては、前記ビタミンがビタミンC、ビタミンD、及びビタミンEからなる群から選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。
【0014】
上記飲食品においては、前記カルシウム源が乳酸カルシウムであることが好ましい。
【0015】
上記飲食品においては、甘味成分として、前記ステビア以外に、少なくともショ糖及び果糖を含有することが好ましい。
【0016】
上記飲食品においては、固形分含量が5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0017】
上記飲食品においては、前記ステビアを0.001質量%以上0.05質量%以下含有し、前記食物繊維を1質量%以上10質量%以下含有し、前記カルシウム源を0.1質量%以上1質量%以下含有し、前記ビタミンを0.01質量%以上5質量%以下含有することが好ましい。
【0018】
上記飲食品においては、ショ糖及び果糖をそれらの合計量で1質量%以上20質量%以下含有することが好ましい。
【0019】
一方、本発明は、その第2の観点では、ステビアを有効成分とする、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品の雑味マスキング剤を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、その第3の観点では、ステビアを、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品に含有させる、前記飲食品の雑味マスキング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を配合した飲食品では、それらの個々の栄養成分に起因した異味が相交り合い、総じて特有の雑味が生じる場合があったが、これをステビアにより改善して、それらの栄養成分の配合が強化され、なお且つ、風味の良好な飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明にかかる飲食品は、ステビア、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有するものである。
【0023】
ステビアとしては、飲食品の甘味料として知られているので、そのように飲食品に使用可能な素材を用いればよい。具体的には、キク科の多年草であるステビア(学名:Stevia rebaudiana)の植物体、特にはその葉部に含まれる、ステビオサイド、レバウディオサイドAなどのステビオール配糖体を甘味の主成分とするものを用いればよい。好ましくは、ステビアの植物体の葉部からの抽出物であって、ステビア甘味成分であるステビオール配糖体を固形分中に50質量%以上含むものを用いることが好ましく、70質量%以上含むものを用いることがより好ましく、80質量%以上含むものを用いることが更により好ましい。また、上記ステビア抽出物の場合、ステビア甘味成分であるステビオール配糖体以外の成分を、好ましくは50質量%を超えない範囲で含んでもよく、より好ましくは30質量%を超えない範囲で含んでもよく、更により好ましくは20質量%を超えない範囲で含んでいてもよい。更に、上記ステビア抽出物の場合、甘味の質を改良するため、任意にα-グルコシル糖転移酵素を用いて糖を転移させる酵素処理を施したうえで用いてもよい。飲食品の甘味料として使用可能なステビアとしては、商品名「レバウディオAD」(守田化学工業株式会社製)等の市販品もあるので、そのような市販品を用いてもよい。また、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
食物繊維としては、飲食品に使用可能であればよく、特に制限はない。水溶性食物繊維であってもよく、非水溶性食物繊維であってもよい。例えば、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、大豆多糖類、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、グルコマンナン、グアーガム、アカシアガム、イヌリン、ヘミセルロース、セルロース、キチン、キトサン、リグニン、グルカン、寒天、コーンファイバー、ビートファイバー、サイリウム種皮由来食物繊維、小麦フスマ等であってよい。食物繊維は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。なかでも、ステビアによる雑味のマスキング効果の観点からはポリデキストロースを用いることが好ましい。ポリデキストロースは、ブドウ糖とソルビトールとクエン酸を高温高圧下で重合させて得られる多糖類であり、通常、単糖から分子量数万のものまで混在する組成物である。例えば、商品名「ライテス」(DANISCO CULTOR社製:平均分子量1,200)等の市販品もあるので、そのような市販品を用いてもよい。
【0025】
ビタミンとしては、飲食品に使用可能であればよく、特に制限はない。水溶性ビタミンであってもよく、非水溶性ビタミンであってもよい。例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン等であってよい。ビタミンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。ただし、栄養補給の観点からは、2種以上のビタミンを組み合わせて用いることが好ましく、3種以上のビタミンを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0026】
カルシウム源としては、飲食品に使用可能であればよく、特に制限はない。水溶性カルシウムであってもよく、非水溶性カルシウムであってもよい。例えば、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、貝殻焼成カルシウム、卵殻焼成カルシウム等であってよい。なかでも、ステビアによる雑味のマスキング効果の観点からは乳酸カルシウムを用いることが好ましい。なお、本明細書において「カルシウム源」とは、飲食品に配合する乳原料等に由来する原料に含まれるものを除いて、付加的に含有せしめるそのようなカルシウム源を意味するものとする。カルシウム源は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
本発明にかかる飲食品としては、特に制限はないが、例えば、酸性乳飲料、ヨーグルト、清涼飲料水等が挙げられる。
【0028】
本発明にかかる飲食品においては、固形分含量が5質量%以上25質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが更により好ましい。更に、飲食品に要請される甘味の質等のためには、所望により、任意に、ステビア以外に他の甘味成分を含有してもよい。その甘味成分としては、例えば、ショ糖、果糖、グルコース、トレハロース、マルトース、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、パラチノース、ガラクトオリゴ糖、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムカリウム等が挙げられる。甘味の質の観点からは、ステビア以外に、少なくともショ糖及び果糖を含有することが好ましい。また、いわゆる高甘味度甘味料であって、より具体的には甘味度がショ糖の50倍以上を呈する甘味成分は含有しないことがより好ましい。
【0029】
上記飲食品中における含有量としては、ステビアにあっては0.001質量%以上0.05質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以上0.05質量%以下であることがより好ましく、0.005質量%以上0.02質量%以下であることが更により好ましい。食物繊維にあっては1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上3質量%以下であることが更により好ましい。カルシウム源にあっては0.1質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下であることが更により好ましい。ビタミンにあっては0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.03質量%以上0.5質量%以下であることが更により好ましい。また、所望により任意にステビア以外の他の甘味成分として、少なくともショ糖及び果糖を含有する場合には、それらの合計量の含有量が、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが更により好ましい。
【0030】
本発明にかかる飲食品は、上記したステビア、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有し、そのステビアが甘味を呈するとともに、そのステビアにより、栄養強化成分として配合された食物繊維、ビタミン、カルシウム源に起因した異味が相交り合って総じて生じる雑味が改善されてなる飲食品である。すなわち、ステビアによって、飲食品に栄養強化成分として配合された食物繊維、ビタミン、カルシウム源に起因した異味が相交り合って総じて生じる雑味が改善される。また、本発明のもう1つは、ステビアを有効成分とする、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品の雑味マスキング剤を提供するものである。また、本発明の更にもう1つは、ステビアを、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有する飲食品に含有させる、前記飲食品の雑味マスキング方法を提供するものである。なお、雑味が改善されているかどうかは、ステビアを配合せずに、飲食品の呈する甘味の程度をショ糖、果糖等の他の甘味料で代替えして、それ以外の配合を揃えて飲食品を調製し、これと比較した官能評価などにより検定することができる。
【0031】
以下には、本発明を適用し得る飲食品について、例えば酸性乳飲料を例にして更に具体的に説明する。ただし、本発明が適用される飲食品の範囲は、特に、以下に説明する酸性乳飲料の範囲に限定されるものではない。
【0032】
酸性乳飲料としては、牛乳、山羊乳、羊乳、豆乳等の動物および植物由来の液状乳、脱脂粉乳、全粉乳或いは粉乳、濃縮乳から還元した乳等の原料乳を、そのまま、あるいは水で希釈して乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌等の微生物を用いて発酵処理して得られる、生菌タイプの発酵乳や、殺菌処理の施された発酵乳を含有する乳性飲料や、ケフィアの他、乳成分に有機酸、果汁等の酸成分を加えて酸性にしたものなど、種々の形態であり得る。
【0033】
酸性乳飲料の調製を、微生物を乳原料に作用させてその発酵により行う場合、その製造に用いられる微生物としては、通常、飲食品に使用可能な乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌であれば特に限定されず、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ユーグルティ、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.ブルガリカス、ラクトバチルス・ジョンソニー等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクチス等のラクトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属細菌、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム、ビフィドバクテリウム・アングラータム、ビフィドバクテリウム・ラクチス、ビフィドバクテリウム・アニマリス等のビフィドバクテリウム属細菌を挙げることができる。なお、これらの乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
また、微生物発酵の際には乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌に加えて他の微生物、例えば、サッカロミセス属、キャンディダ属、ロドトルーラ属、ピチア属、シゾサッカロミセス属、トルラ属、チゴサッカロミセス属等の酵母類、あるいは、アスペルギルス属、ペニシリウム属、ユウロチウム属、モナスカス属、ミコール属、ニュウロスポラ属、リゾープス属等の糸状菌等を併用してもよい。
【0035】
微生物を乳原料に作用させるための条件や発酵方法は、通常の発酵乳の製造に使用される条件および方法を適用すればよく、特に限定されない。例えば、典型的な発酵条件としては、30~40℃の温度で、pHが3.0~4.0になるまで発酵させればよく、発酵方法としては、静置発酵、攪拌発酵、振盪発酵、通気発酵等から適宜選択して発酵に用いる微生物に適した方法を用いればよい。
【0036】
一方、酸性乳飲料を酸味成分で調製する場合には、各種酸味成分を添加してpHを3.0~4.0に調整すればよい。ここで、酸味成分として使用することができるものとしては、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸や、レモン、グレープフルーツ、ライム、オレンジ、ストロベリー、ブルーベリー、ピーチ、グレープ、アップル等の果汁などを好ましく例示することができる。酸味成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
酸性乳飲料の製造は、上記したステビア、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源、あるいは任意に含有してもよいステビア以外の甘味成分等を配合する以外は、通常の酸性乳飲料の製造方法に準じて行えばよい。また、配合時期および配合方法は、特に限定されるものではなく、ベースとなるプレ原料の製造工程のいずれかの任意の段階や、ひいては酸性乳飲料の製造工程全体のなかのいずれかの任意の段階で添加すればよい。例えば、ポリデキストロース等の食物繊維とともに各種糖質と、更にはステビア、ビタミン、カルシウム源等を所定の割合で含有するシロップを予め調製しておき、別途乳原料に微生物を作用させて得た発酵乳を調製しておき、これらを混合して調製したりしてもよい。この場合、シロップの調製は常法に従って行えばよく、例えば、典型的な調製法においては、70℃以上に昇温した水に各原料を溶解し、112℃で10秒間プレート殺菌するなどして調製することができる。
【0038】
かくして得られる酸性乳飲料には、上記したステビア、食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源、あるいは任意に含有してもよいステビア以外の甘味成分等以外に、本発明により得られる効果を損なわない範囲で通常各種飲食品へ配合される食品素材を配合することが可能である。このような食品素材としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、クリーム、バター、サワークリーム等の乳脂肪、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、レモン、グレープフルーツ、ライム、オレンジ、ストロベリー、ブルーベリー、ピーチ、グレープ、アップル等の果汁、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン等のミネラル分、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバー類を挙げることができる。
【0039】
かくして得られる酸性乳飲料は、その固形分含量が典型的に5質量%以上25質量%以下であってよく、より典型的には5質量%以上20質量%以下であってよく、更により典型的には5質量%以上15質量%以下であり得る。また、その甘味度が、ショ糖10質量%水溶液の甘味の程度を100としたときの相対値として、典型的に100~130であってよく、より典型的には110~120であってよく、更により典型的には112~118であり得る。そして、上記した食物繊維、ビタミン、及びカルシウム源を含有するにもかかわらず、それらの異味が相交り合って、総じて生じる雑味が低減されて、甘味の程度も程よいものとなる。
【実施例
【0040】
以下実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0041】
[試験例1]
従来の酸性乳飲料の処方を基本配合として、更に栄養成分として食物繊維、ビタミン、及びカルシウムを強化した酸性乳飲料の提供を試みた。この場合、ポリデキストロース等の食物繊維素材を配合すると、その分の固形分が増加して、得られる風味に厚味が付与されるため、従来の風味コンセプトから逸脱する問題があった。そこで、食物繊維による固形分の増加はショ糖や果糖を低減することにより調整し、それによる甘味の低下を高甘味度甘味料で補完することとした。
【0042】
具体的には、表1に示す配合で、乳酸菌発酵物からなる酸性乳飲料を調製した。乳酸菌発酵物は、脱脂粉乳15質量%及びブドウ糖果糖液糖9質量%を溶解した水溶液を121℃で3秒間プレート殺菌後、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)のスターターを接種し、pH3.6になるまで培養することにより調製した。また、シロップは、表1に示す原料をあらかじめ混合しておき、112℃で10秒間プレート殺菌した後に使用した。上記乳酸菌発酵物に加水してプレ原料液とし、その773.1g質量部に対してシロップ342.4g質量部を合わせ、さらに希釈水で希釈して、調製例1-1~3の酸性乳飲料を得た。なお、この場合、使用した甘味成分の既知の甘味度に基づいた加重平均値により、いずれの酸性乳飲料も甘味度が118(11.8質量%ショ糖相当)となるように調製した。
【0043】
【表1】

【0044】
得られた調製例1-1~3の酸性乳飲料について、10℃で26日間の保存検査及び担当者による風味評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
その結果、26日間の保存期間を通じて、いずれの調製例ともに品質性状に問題はなかった。ただし、栄養成分を強化した調製例1-2、1-3では、その栄養成分に由来する雑味を改善する必要があると判断された。一方、ショ糖を低減したタイプの調製例1-2と、果糖を低減したタイプの調製例1-3との比較では、果糖低減タイプのほうがほど良いボディー感があり、栄養成分由来の雑味が比較的感じにくい傾向がみられた。
【0047】
[試験例2]
試験例1において、高甘味度甘味料としてスクラロースを使用すると、雑味を改善する必要があることが明らかとなったので、高甘味度甘味料としてスクラロースに代えてステビアを使用して、その影響を調べた。
【0048】
試験では、試験例1においてショ糖低減型よりも結果の良かった果糖低減型の配合において、更に高甘味度甘味料としてスクラロースに代えてステビア(ステビア抽出物)を用いて、乳酸菌発酵物からなる酸性乳飲料を調製した。具体的には、試験例1と同様にして表3に示す配合で、スクラロースを使用した調製例2-1~3の酸性乳飲料と、ステビアを使用した調製例2-4~6の酸性乳飲料を調製し、比較した。なお、この場合、使用した甘味成分の既知の甘味度に基づいた加重平均値により、調製例2-1、4の酸性乳飲料については甘味度が110(11.0質量%ショ糖相当)となるように調製し、調製例2-2、5の酸性乳飲料については甘味度が115(11.5質量%ショ糖相当)となるように調製し、調製例2-3、6の酸性乳飲料については甘味度が120(12.0質量%ショ糖相当)となるように調製した。
【0049】
【表3】
【0050】
得られた調製例2-1~6の酸性乳飲料について、試験例1と同様にして、10℃で26日間の保存検査及び担当者による風味評価を実施した。その結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
その結果、調製例2-1と調製例2-4との比較や、調製例2-2と調製例2-5との比較や、調製例2-3と調製例2-6との比較にみられるように、使用する高甘味度甘味料としては、スクラロースよりもステビアを用いるほうが、得られる酸性乳飲料の雑味が低減され、甘味の程度も程よいものが得られた。さらに、ステビアを使用し甘味度115に調整した場合、長期保存後の官能も好ましかった。