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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】光学スタック
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240701BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240701BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240701BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/22
G02B5/26
G02B27/01
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021534272
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 IB2019060903
(87)【国際公開番号】W WO2020128818
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】62/781,065
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】エドワーズ,ジャサン ディー.
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0235030(US,A1)
【文献】特開2008-006898(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0160321(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0135742(US,A1)
【文献】特開2012-203123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 5/20-5/28
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学スタックであって、
赤外線反射体部と、
前記赤外線反射体部上に配置された赤外線吸収体部であって、
少なくとも900nmから1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも一つの第1の波長の実質的に垂直な入射光について、及び直交する第1の偏光状態及び第2の偏光状態のそれぞれについて、
前記赤外線反射体部は、前記入射光の少なくとも60%を反射し、
前記赤外線吸収体部は、前記入射光の少なくとも60%を吸収する、赤外線吸収体部と、
前記赤外線反射体部と前記赤外線吸収体部との間に配置された反射偏光子部であって、
少なくとも450nmから700nmに及ぶ第2の波長範囲内にある少なくとも一つの第2の波長の実質的に垂直な入射光について、前記反射偏光子部は、前記第1の偏光状態を有する前記入射光の少なくとも80%を反射し、前記第2の偏光状態を有する前記入射光の少なくとも80%を透過させる、反射偏光子部と、を備え、
前記赤外線反射体部と前記反射偏光子部とは、延伸方向及び延伸比が同じである、
光学スタック。
【請求項2】
ビークルであって、
フロントガラスと、光源とを備え、
前記フロントガラスは、
ガラス層と、
光学スタックであって、
赤外線反射体部と、
前記赤外線反射体部上に配置された赤外線吸収体部と、
前記赤外線反射体部と前記赤外線吸収体部との間に配置された反射偏光子部と、を備え、
前記光学スタックは前記ガラス層上に又は前記ガラス層内に配置され、
少なくとも900nmから1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも一つの第1の波長の実質的に垂直な入射光について、及び直交する第1の偏光状態及び第2の偏光状態のそれぞれについて、
前記赤外線反射体部は、前記入射光の少なくとも60%を反射し、
前記赤外線吸収体部は、前記入射光の少なくとも60%を吸収する、光学スタックとを備え、
前記光源は、前記ビークル内に配置されると共に、前記光学スタックに向かって前記第1の波長で光を発するように構成され、前記光学スタックの前記赤外線吸収体部が前記赤外線反射体部と前記光源との間に配置されており、
前記赤外線反射体部と前記反射偏光子部とは、延伸方向及び延伸比が同じであり、
前記赤外線反射体部が、前記反射偏光子部よりも偏波感受性の弱い反射を呈する、
ビークル。
【請求項3】
ビークルであって、
フロントガラスと光源とを備え、
前記フロントガラスは、
前記フロントガラスの車外面に面する第1のガラス層と、
光学スタックであって、
赤外線反射体部と、
前記赤外線反射体部上に配置された赤外線吸収体部と、
前記赤外線反射体部と前記赤外線吸収体部との間に配置された反射偏光子部と、を備える、光学スタックと、
前記ビークルのキャビンに面する第2のガラス層とを備え、
前記赤外線反射体部は前記第1のガラス層に隣接し、前記赤外線吸収体部は前記第2のガラス層に隣接し、
前記光学スタックは、前記第1のガラス層と前記第2のガラス層との間に配置されており、
実質的に垂直な入射光について、及び少なくとも900nmから1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも一つの第1の波長について、及び直交する第1の偏光状態と第2の偏光状態のそれぞれについて、
前記赤外線反射体部は、前記入射光の少なくとも60%を反射し、
前記赤外線吸収体部は、前記入射光の少なくとも60%を吸収するものであり、
前記光源は、前記ビークルの前記キャビン内に配置されると共に、前記光学スタックに向かって前記第1の波長で光を発するように構成され、前記光学スタックの前記赤外線吸収体部が前記光を吸収して前記フロントガラスを加熱し、
前記赤外線反射体部と前記反射偏光子部とは、延伸方向及び延伸比が同じであり、
前記赤外線反射体部が、前記反射偏光子部よりも偏波感受性の弱い反射を呈する、
ビークル。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
多層反射偏光子は、概して交互ポリマー層で形成された光学フィルムであり、交互ポリマー層の間の屈折率差によって、直交偏光の一方の光が実質的に反射され、他方の光が実質的に透過するように交互ポリマー層が配向された光学フィルムである。層スタックの設計及び材料の選択により、多層反射偏光子は、可視波長及び赤外波長の所望の範囲にわたって光を偏光することができる。赤外線反射体は、赤外範囲内の光を反射し、可視範囲などの他の波長範囲内では透明又は実質的に透明であってもよい。赤外線吸収体は、赤外範囲内の光を吸収し、可視範囲などの他の波長範囲内では透明又は実質的に透明であってもよい。
【発明の概要】
【0002】
一態様では、本明細書は光学スタックに関する。光学スタックは、赤外線反射体部と、赤外線反射体部上に配置された赤外線吸収体部とを含む。少なくとも約900nmから約1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも1つの第1の波長の実質的に垂直な入射光について、及び直交する第1の偏光状態及び第2の偏光状態のそれぞれについて、赤外線反射体部は入射光の少なくとも60%を反射し、赤外線吸収体部は入射光の少なくとも60%を吸収する。光学スタックは、赤外線反射体部と赤外線吸収体部との間に配置された反射偏光子部を更に含む。少なくとも約450nmから約700nmに及ぶ第2の波長範囲内にある少なくとも1つの第2の波長の実質的に垂直な入射光について、反射偏光子部は、第1の偏光状態を有する入射光の少なくとも80%を反射し、第2の偏光状態を有する入射光の少なくとも80%を透過させる。
【0003】
いくつかの態様では、赤外線吸収体部は、染料又は顔料として組み込まれている。
【0004】
別の態様では、本明細書はビークルに関する。ビークルは、ガラス層と光学スタックとを含むフロントガラスを含む。光学スタックは、赤外線反射体部と、赤外線反射体部上に配置された赤外線吸収体部とを含む。少なくとも約900nmから約1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも1つの第1の波長の実質的に垂直な入射光について、及び直交する第1の偏光状態及び第2の偏光状態のそれぞれについて、赤外線反射体部は入射光の少なくとも60%を反射し、赤外線吸収体部は入射光の少なくとも60%を吸収する。光源は、ビークル内に配置されると共に、光学スタックに向かって第1の波長で光を発するように構成され、光学スタックの赤外線吸収体部が赤外線反射体部と光源との間に配置されている。
【0005】
別の態様では、本明細書はビークルに関する。ビークルは、フロントガラスを含み、フロントガラスは、その車外面に面する第1のガラス層を含む。フロントガラスは、赤外線反射体部と、赤外線反射体部上に配置された赤外線吸収体部とを有する光学スタックを更に含む。フロントガラスはまた、ビークルのキャビンに面する第2のガラス層を含む。赤外線反射体部は、第1のガラス層に隣接し、赤外線吸収体部は、第2のガラス層に隣接し、光学スタックは、第1のガラス層と第2のガラス層との間に配置されている。実質的に垂直な入射光について、及び少なくとも約900nmから約1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも1つの第1の波長について、及び直交する第1の偏光状態及び第2の偏光状態のそれぞれについて、赤外線反射体部は入射光の少なくとも60%を反射し、赤外線吸収体部は入射光の少なくとも60%を吸収する。光源は、ビークル内に配置されると共に、光学スタックに向かって第1の波長で光を発するように構成され、光学スタックの赤外線吸収体部が光を吸収してフロントガラスを加熱する。
【0006】
いくつかの態様では、光源は、ビークルの電子制御ユニット(ECU)とインタフェース接続されている。ECUは、1つ以上の条件に基づいて光源を選択的に動作させるように構成されている。1つ以上の条件は、ビークルのユーザによるトリガ、及びビークルのキャビン管理モジュールからのトリガのうちの少なくとも1つである。
【0007】
別の態様では、本明細書は、光学スタックの形成方法に関する。本方法は、赤外線反射体部を提供することと、赤外線反射体部上に赤外線吸収体部を配置することと、を含む。実質的に垂直な入射光について、及び少なくとも約900nmから約1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも1つの第1の波長について、及び直交する第1の偏光状態及び第2の偏光状態のそれぞれについて、赤外線反射体部は入射光の少なくとも60%を反射し、赤外線吸収体部は入射光の少なくとも60%を吸収する。本方法は、赤外線反射体部と赤外線吸収体部との間に反射偏光子部を配置することを更に含む。実質的に垂直な入射光について、及び少なくとも約450nmから約700nmに及ぶ第2の波長範囲にある少なくとも1つの第2の波長について、反射偏光子部は、第1の偏光状態を有する入射光の少なくとも80%を反射し、第2の偏光状態を有する入射光の少なくとも80%を透過させる。
【0008】
いくつかの態様では、赤外線吸収体部は、赤外線反射体部と反射偏光子部との共押出し後に光学スタックにラミネートされた(laminated)追加層である。赤外線吸収体部は、赤外線反射体部と反射偏光子部との共押出し中に、層のうちの1つに染料又は顔料として組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】光学スタックの側断面図である。
図2】実施例1の光学が実装されたビークルスタックの概略側面図である。
図3】実施例1の光学スタックの通過状態及びブロック状態の透過スペクトルを示すグラフである。
図4】実施例1の光学スタックの吸光度スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
光学スタックは、少なくとも部分的には、屈折率の異なるミクロ層の構成によって、望ましい透過特性及び/又は反射特性をもたらす多層光学フィルムを含んでもよい。真空チャンバの中で、一連の無機質材料を光学的に薄い層(「ミクロ層」)として基材に堆積させることによって、このような多層光学フィルムを作製することが公知である。無機質多層光学フィルムは、例えばH.A Macleodによる、Thin-Film Optical Filters、第2版、Macmillan Publishing Co.(1986)、及び、A.Thelanによる、Design of Optical Interference Filters、McGraw-Hill Inc.(1989)によるテキストに記載されている。
【0011】
多層光学フィルムは、交互ポリマー層を共押し出しすることによっても実証された。例えば、米国特許第3,610,729号(Rogers)、同第4,446,305号(Rogersら)、同第4,540,623号(Imら)、同第5,448,404号(Schrenkら)、及び同第5,882,774号(Jonzaら)を参照されたい。これらのポリマー多層光学フィルムにおいて、個々の層の作製には、ほとんど又は専ら、ポリマー材料が使用される。そのようなフィルムは、大量生産プロセスに適合しており、大きなシート及びロール品として作製することができる。
【0012】
多層光学フィルムは、異なる屈折率特性を有する個々のミクロ層を含み、それにより、一部の光は、隣接するミクロ層間の境界面で反射される。ミクロ層は十分に薄いため、複数の境界面で反射された光は強め合う干渉又は弱め合う干渉を受けて、多層光学フィルムに所望の反射特性又は透過特性を与える。紫外線、可視、又は近赤外線波長光を反射するように設計された多層光学フィルムでは、各ミクロ層は概して、光学的厚さ(物理的厚さ×屈折率)が約1μm未満である。多層光学フィルムの外表面のスキン層、又はミクロ層の可干渉のまとまり(以下「パケット」と称する)同士を分離するよう、多層光学フィルム内に配置される保護境界層(protective boundary layers、PBL)などの、より厚い層が含まれていてもよい。
【0013】
偏光用途、例えば、反射偏光子の場合には、光学層の少なくとも一部は、複屈折性ポリマーを用いて形成され、ポリマーの屈折率はポリマーの直交座標系の軸に沿って異なる値を有する。概して、複屈折性ポリマーのミクロ層は、層面(z軸)の法線により規定され、x軸とy軸が層面内に存在する、直交座標系の軸を有する。複屈折性のポリマーは、非偏光用途においても使用することができる。
【0014】
ある場合には、ミクロ層は、1/4波長スタックに相当する厚さ及び屈折率値を有し、すなわち、それぞれが等しい光学的厚さ(f比=50%)の2種の隣接ミクロ層を有する、光学繰り返し単位又は単位セルで構成され、このような光学繰り返し単位は、波長λが光学繰り返し単位の全光学的厚さの2倍である、強め合い干渉光による反射に有効である。f比が50%とは異なる、2種のミクロ層光学繰り返し単位を有する多層光学フィルム、又は光学繰り返し単位が2種より多いミクロ層を含むフィルムなどの他の層構成も知られている。これらの光学繰り返し単位の設計は、特定の高次反射を減少又は増加させるように構成することができる。例えば、米国特許第5,360,659号(Arendsら)及び同第5,103,337号(Schrenkら)を参照されたい。フィルムの厚さ軸(例えば、z軸)に沿った厚さ勾配を使用して、拡張された反射帯、例えば、反射帯が斜めの入射角で短波長にシフトする際に、ミクロ層スタックが可視スペクトル全体にわたって反射し続けるように、人間の可視領域全体にわたる、及び近赤外の中に拡張された反射帯を提供することができる。帯域端を鋭くするように調整された厚さ勾配、すなわち高反射と高透過の間の波長遷移は、米国特許第6,157,490号(Wheatleyら)に記述されている。
【0015】
多層光学フィルムと、関連する設計及び構造の更なる詳細は、米国特許第5,882,774号(Jonzaら)及び同第6,531,230号(Weberら)、PCT国際公開第95/17303号(Ouderkirkら)及び同第99/39224号(Ouderkirkら)、並びに表題「Giant Birefringent Optics in Multilayer Polymer Mirrors」、Science,Vol.287,March 2000(Weberら)という刊行物に記述されている。多層光学フィルム、及び関連の物品は、光学的特性、機械的特性、及び/又は化学的特性により選択される、追加の層及びコーティングを含むことがある。例えば、紫外線吸収層をこのフィルムの入射側に追加して、紫外線光により生じる劣化から構成要素を保護することができる。紫外線硬化型アクリレート接着剤又は他の好適な材料を用いて、多層光学フィルムを機械的補強層に取り付けることができる。このような補強層は、PET又はポリカーボネートなどのポリマーを含む場合があり、また例えばビーズ又はプリズムを使用することにより光拡散又はコリメーションなどの光学的機能を提供する、構造化された表面を含む場合もある。追加の層及びコーティングはまた、引っ掻き耐性層、引き裂き抵抗性層、及び硬化剤も含むことができる。例えば、米国特許第6,368,699号(Gilbertら)を参照されたい。多層光学フィルムを作るための方法及び装置は、米国特許第6,783,349号(Neavinら)に記述されている。
【0016】
多層光学フィルムの反射特性及び透過特性は、それぞれのミクロ層の屈折率と、ミクロ層の厚さ及び厚さ分布の関数である。各マイクロ層は、少なくともフィルム内の局所的位置では、面内屈折率n、n、及び、フィルムの厚さ軸に関連する屈折率nによって特性を定められ得る。これらの屈折率は、互いに直交するx軸、y軸、及びz軸に沿って偏光された光に対する対象材料の屈折率を、それぞれ表す。本特許出願での説明を容易にするため、別段の指定がない限り、x軸、y軸、及びz軸は、多層光学スタック上のあらゆる対象点に適用可能なローカルなデカルト座標系の軸であり、ミクロ層はx-y面に平行に延び、x軸は、Δnの大きさを最大とするようにフィルムの面内に配向されているものとする。したがって、Δnの大きさは、Δnの大きさ以下であって、それを超えないものとすることができる。更に、差Δn、差Δn、及び、差Δnの計算において、どの材料層から始めるべきかの選択は、Δnが非負であることを求めることにより規定される。換言すれば、境界面を形成する2つの層の間の屈折率の差は、Δn=n1j-n2jであり、ここで、j=x、y、又はzであり、層の指定1、2は、n1x≧n2x、すなわち、Δn≧0となるように選択される。
実際には、屈折率は、よく考えられた材料選択と加工条件によって制御される。従来の多層フィルムは、交互の2種のポリマーA、Bの多数の層、例えば数十又は数百の層を共押出しすることによって作製され、場合によってはその後、この多層押出物を1つ以上の増倍ダイ(multiplication die)に通し、次にこの押出物を延伸するか又は別の方法で配向して最終的なフィルムを形成する。得られるフィルムは、典型的には、可視又は近赤外などのスペクトルの所望の領域において1つ以上の反射帯をもたらすように厚さと屈折率が調整されている、多数の、すなわち数百の個別のミクロ層から構成される。妥当な数の層によって所望の反射率を得るために、隣接したミクロ層は、典型的には、x軸に沿って偏光した光に対して少なくとも0.04の屈折率差(Δn)を呈する。いくつかの実施形態では、x軸に沿って偏光した光に対する屈折率差が、配向後に可能な限り高くなるように材料を選択する。2つの直交する偏光に対して反射率が所望される場合に、隣接したミクロ層はまた、y軸に沿って偏光した光に対して少なくとも0.04の屈折率差(Δn)を呈するようにすることもできる。
【0017】
上記で参照した‘774号(Jonzaら)特許は、とりわけ、z軸に沿って偏光した光に対する隣接したミクロ層間の屈折率差(Δn)を調整して、斜めに入射する光のp偏光成分に対して所望の反射率特性を得る方法を述べている。斜め入射角におけるp偏光光の高い反射率を維持するために、ミクロ層間のz屈折率の不整合Δnは、最も大きい面内屈折率の差Δnより実質的に小さくなるように制御して、Δn≦0.5×Δn又はΔn≦0.25×Δnとすることができる。ゼロ又はゼロに近い大きさのz屈折率不整合は、p偏光光に対する反射率が入射角の関数として一定又はほぼ一定である、ミクロ層の間の境界面をもたらす。更に、z屈折率の不整合Δnは、面内屈折率の差Δnとの比較で、反対の極性を有する、すなわち、Δn<0となるように制御することができる。この条件は、s偏光光の場合と同様に、p偏光光に対する反射率が、入射角の増加とともに増加する境界面をもたらす。
【0018】
‘774号(Jonzaら)特許はまた、多層反射又は反射偏光子と呼ばれる偏光子として構成される多層光学フィルムに関するしかるべき設計事項考慮も述べている。多数の用途において、理想的な反射偏光子は、一方の軸(「消光」又は「ブロック」軸)に沿った高反射率と、他方の軸(「透過」又は「通過」軸)に沿ったゼロ反射率とを有する。本出願のためには、その偏光状態が通過軸又は透過軸に実質的に整列している光は通過光と呼び、その偏光状態がブロック軸又は消光軸に実質的に整列している光はブロック光と呼ぶ。別段の規定がない限り、入射角60°の通過光とは、p偏光通過光で測定したものである。なにがしかの反射率が透過軸に沿って生じる場合には、オフノーマル角度での偏光子の効率は低下し、様々な波長に対する反射率が異なる場合には、透過光に色が導入されることがあり得る。更には、ある多層系においては2つのy屈折率及び2つのz屈折率の厳密な整合は可能でなく、z軸屈折率が不整合である場合には、面内屈折率n1y及びn2yに対して若干の不整合の導入が望まれることがある。特に、y屈折率の不整合がz屈折率の不整合と同一の符号を有するように構成することによって、ミクロ層の境界面でブリュースター効果が生じて、多層反射偏光子の透過軸に沿った軸外れ(off-axis)の反射率、それゆえ軸外れの色が最小となる。
【0019】
‘774号(Jonzaら)で述べられている別の設計考慮事項は、多層反射偏光子の空気境界面での表面反射に関する。偏光子を、存在するガラス部品又は別の存在するフィルムに、透明な光学接着剤により両面ラミネートしない限り、このような表面反射は、光学システム中の所望の偏光光の透過を低下させる。このように、ある場合には反射偏光子に反射防止(antireflection、AR)コーティングを追加することが有用であることもある。
【0020】
反射偏光子は、液晶ディスプレイなどの視覚ディスプレイシステムにおいてしばしば使用される。携帯電話、タブレット、ノートブック、及びサブノートブックを含むコンピュータ、並びに一部のフラットパネルテレビなどの多様な電子機器に現在見られる、これらのシステムは、拡張エリアバックライトを用いて背後から照明される液晶(liquid crystal、LC)パネルを使用する。反射偏光子は、バックライトの上に載置されるか、又は別の方法でバックライトの中に組み込まれて、LCパネルにより使用可能な偏光状態の光をバックライトからLCパネルまで透過させる。LCパネルが使用できない直交偏光状態の光は、反射されてバックライトの中に戻され、そこでその光は反射されて最終的にLCパネルに向けて戻され、使用可能な偏光状態に少なくとも部分的に変換されて、通常なら失われる光をこのように「リサイクル」し、ディスプレイの得られる輝度及び全体の効率を向上させ得る。
【0021】
特定の実施形態では、多層反射偏光子は、自動車用途において有用であり得る。例えば、多層反射偏光子は、ビークル用フロントガラス、サイド窓、又は産業用窓、建築用窓、天窓、部屋用窓などの、さもなければ透明若しくは半透明の表面の少なくとも一部の上又はその付近で使用することができる。安全のために、ドライバは依然として、多層反射偏光子を通して道路又は周囲環境を観察可能である、又は表面を通しての視界の妨害が最小限である必要があるので、この用途は、従来の液晶ディスプレイ用途とは大幅に異なる。更に、ドライバのフロントガラス又は別の表面からの明るい反射によって、他のドライバ又は観察者が眩惑されたり、又は視覚を損なったりしないようにする必要がある。高反射性(1つの偏光状態について)の、高性能の従来の反射偏光子は、これらの所望の特性をもたらさないであろう。
【0022】
更に、既知の多層光学フィルムは、ビークルにおけるウィンドスクリーンのオートクレービングプロセスに必要な温度に安定的に耐え得る層を含む場合がある。これらの多層光学フィルムはまた、ヘッドアップディスプレイを過剰な加熱から保護するための太陽光ブロック機能を含む場合がある。しかしながら、既知の多層光学フィルムは、例えば、ウィンドスクリーンの除霜が必要な時には効率的でない場合がある。
【0023】
多層光学フィルムは、典型的には、2種の異なるポリマーの交互層から形成される。一方の層は、配向された場合に複屈折を発生させることができる層である。多層光学フィルムの形成に使用されるほとんど全てのポリマーは、延伸時に屈折率が増加するので、この層は、典型的には高屈折率層(又は「高屈折率光学系」つまりHIO)としても知られている。交互ポリマー層の他方の層は、典型的には、高屈折率層の屈折率以下の屈折率を有する等方性層である。この理由から、この層は、典型的には低屈折率層(又は「低屈折率光学系」つまりLIO)と呼ばれる。通常、高屈折率層は結晶性又は半結晶性であり、低屈折率層は非晶質である。これは、(特定の面内方向に沿った高屈折率層と低屈折率層との間の不整合に基づく)十分に高いブロック軸反射率と、(面内方向に直交する第2の方向に沿った高屈折率層と低屈折率層との間の整合に基づく)十分に低い通過軸反射率とを得るためには、非晶質材料が必要であろうという考えに少なくとも基づいている。
【0024】
ここで、驚くべきことに、ポリエチレンテレフタレートの低い延伸温度に起因して延伸中に生じる、ある程度の結晶性を有する高屈折率層及び低屈折率層の両方を有する多層反射偏光子が、これらの自動車用途に特に適していることが見出された。加えて、驚くべきことに、高屈折率光学系及び低屈折率光学系の両方が、延伸によって屈折率の非対称な増加を生じる多層反射偏光子が、自動車用途において有用であり得ることが見出された。いくつかの実施形態では、高屈折率層及び低屈折率層のそれぞれが、少なくとも0.04の面内複屈折を生じるか又は有し得る。いくつかの実施形態では、1つの面内方向に沿って、高屈折率層と低屈折率層との間の差は少なくとも0.04であってもよいが、面内方向に直交する第2の方向に沿っては、差は0.04未満であってもよい。特定の中間延伸工程中に、特定の多層光学フィルムが同様の複屈折特性を有し得るが、これらフィルムは、ブロック軸(延伸軸)反射率を最大化するために、引き続きヒートセットプロセスを受けて、層のうちの少なくとも1つ(典型的には低屈折率層、又は等方性層)において複屈折が最小化され、このことは、最終フィルム(すなわち、ロール形態のフィルム又は少なくとも4つのエッジを有する変換されたフィルム)が、これらの特性を呈しなかったことを意味する。
【0025】
いくつかの実施形態では、高屈折率層はポリエチレンテレフタレート(PET)であるように選択され、低屈折率層は、シクロヘキサンジメタノールがグリコール変性剤として使用される、ポリエチレンテレフタレートのコポリエステルであるように選択される(Eastman Chemicals(Knoxville,Tenn.)から入手可能なようなPETG)。いくつかの実施形態では、高屈折率層はPETであるように選択され、低屈折率層は、PETG及びPCTGの50:50ブレンドであるように選択される(また、シクロヘキサンジメタノールがグリコール変性剤として使用される、ポリエチレンテレフタレートであるが、PETG(Eastman Chemicals(Knoxville,Tenn.)から入手可能)では変性剤を2倍にする)。いくつかの実施形態では、高屈折率層はPETであるように選択され、低屈折率層は、PETGと、PCTGと、40モル%のテレフタル酸、10モル%のイソフタル酸、49.75モル%のエチレングリコール、及び0.25モル%のトリメチルプロパノールを有する「80:20」コポリエステルとの33:33:33のブレンドであるように選択される。他のコポリエステルが、本明細書に記載される低屈折率層として、又は低屈折率層内で有用であり得る。
【0026】
上記の例示的セットなどの材料を含む反射偏光子は、高温への曝露後に、結晶化が、放射線又は熱への曝露中に、(より大きな結晶部位を伴う)自然発生的というよりもむしろ、処理中に徐々に進行することに起因して、驚くべきことにヘイズのより良好な抑制を示した。更に、微細なしわ又は層間剥離などの美観及び外観の問題は、本明細書に例示される結晶性材料の組み合わせによって、著しく低い頻度で生じるように見受けられる。
【0027】
収縮率は、特に最大延伸方向に沿って、従来の反射偏光子より大きくてもよい。しかし、収縮量は、ヒートセット工程によって制御することができ、自動車の製造及び組み立てプロセスにおいては、特定の収縮率が望まれる。いくつかの実施形態では、光学スタックは、赤外線反射体と赤外線吸収体との間に積層された反射偏光子を含み得る。
【0028】
赤外線吸収剤を含むポリマーフィルムは、米国特許出願公開第2007013553号に示されている。ポリマーフィルムは、赤外線吸収剤として、六ホウ化ランタン及びエポキシ剤を含んでもよい。エポキシ剤は、脂肪族モノエポキシド及び脂肪族ジエポキシドからなる群から選択されてもよい。
【0029】
更に、仏国特許出願公開第2967117号は、赤外線放射を吸収する吸収ユニットと、ウィンドスクリーンの下側エッジが載置される接合部の底部に構成された赤外線放射源とを有する自動車用のウィンドスクリーンの防曇及び除霜装置について開示している。耐湿性コーティング中に配置された赤外線吸収剤を含む中間層が、米国特許出願公開第20070248809号に開示されている。特開2008-006898号は、ビークルを加熱するためにビークルの内側に設けられた熱吸収層について論じている。
【0030】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような光学スタックは、同時に形成された、異なる特性の光学スペクトルを有する異なる光学パケットを含む。
【0031】
図1は、光学スタック100の側面断面図である。光学スタック100は、赤外線反射体部10と、赤外線反射体部10上に配置された赤外線吸収体部20とを含む。反射偏光子部30は、赤外線反射体部10と赤外線吸収体部20との間に配置されている。任意選択で、光学スタック100は、光学スタック100のいずれかの端部にスキン層50を含む。更に、光学スタック100は、任意選択で反射偏光子部30と赤外線反射体部10との間の保護境界層40と、反射偏光子部30と赤外線吸収体部20との間の別の保護境界層40とを含む。2つの部分の間の任意選択の保護境界層40と、任意選択の光学スキン層50とが、交互の光学層を押出及びローラー接触の加工及び剪断力から保護する。反射偏光子部30は、交互の第1のポリマー層32及び第2のポリマー層34を含み、赤外線反射体部は、交互の第3のポリマー層12及び第4のポリマー層14を含む。
【0032】
延伸又は配向を含む典型的な光学スタック100形成プロセスでは、それによって作製された光学フィルムの光軸は、延伸プロセスにおける非対称性によりクロスウェブ寸法にわたって変化することになる。変動率は、処理条件に依存する。赤外線反射体にラミネートされた反射偏光子部を含むフィルムについては、フィルムの一部が異なるウェブ位置からもたらされる場合がある、又は単純に異なる処理条件にさらされる場合があるので、これらの光軸は精密には整列されていない場合がある、又は更には非常に厳密には整列されていない場合がある。有利には、同時に形成された(押出され、延伸された)部分を有するフィルムは、必然的にそれらの光軸の整列に優れている。
【0033】
驚くべきことに、好適な材料及び処理条件を用いて、本明細書に記載されたフィルムは、反射偏光子特性(より偏波感受性の強い反射:直交偏光光よりも多くの第1の偏光光を反射する)を呈する第1の部分と、赤外線反射体特性(より偏波感受性の弱い反射、より鏡面様:同様のレベルで偏光光又は無偏光光のいずれかを反射する)を呈する第2の部分と、を有し得る。典型的には、これらのフィルムは、異なる延伸条件(例えば、反射偏光子のための主に単一方向の延伸に対して、赤外線反射体のための2つの直交方向のほぼ均一の延伸)を利用する。いくつかの実施形態では、フィルムは、主にクロスウェブ方向に、又はクロスウェブ方向のみに延伸される。
【0034】
更に、典型的には、厚さ方向に対称性がない配向された多層フィルムは、(例えば、変換後に)張力から解放されるとカールする傾向を有する。これは、収縮、熱膨張、及び成分材料間の吸湿膨張の差に起因し得る。フィルムカールは、フィルムの後続工程での処理又は取り扱いにおいて深刻な問題となり得る。例えば、多層フィルムの切断片を切断し、ガラス、プラスチックにラミネートしたり、又はPVBなどの接着剤でガラス若しくはプラスチックの2つの断片の間に挟んだりする場合、フィルムカールは取り扱い及び処理を遅くし、又は効率を低下させることがあり、収率も低減し得る。驚くべきことに、本明細書に記載されたフィルムは、非常に低いカールを呈する。
【0035】
いくつかの実施形態では、反射偏光子部30は、複数の交互の第1のポリマー層32及び第2のポリマー層34を含み、少なくとも1つの面内方向に対して、反射偏光子部30の複数の第1のポリマー層32のそれぞれと複数の第2のポリマー層34のそれぞれとの間の屈折率差は、少なくとも0.04である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの面内方向に直交する第2の面内方向に対して、反射偏光子部30の複数の第1のポリマー層32のそれぞれと複数の第2のポリマー層34のそれぞれとの間の屈折率差は、0.04未満である。いくつかの実施形態では、赤外線反射体部10は、複数の交互の第3のポリマー層12及び第4のポリマー層14を含む。赤外線反射体部10は、900~1200nmにわたって平均して、垂直入射する無偏光光の少なくとも60%を反射する。赤外線反射体部10は、直交する第1の偏光状態のそれぞれ及び第2の偏光状態のそれぞれを反射する。いくつかの実施形態では、赤外線反射体部10は、それ自体で、900~1200nmにわたって平均して、垂直入射する無偏光光の30%未満を透過させ得る。いくつかの実施形態では、反射偏光子部30及び赤外線反射体部10の両方はそれぞれ、200層を超える層を有する。いくつかの実施形態では、赤外線吸収体部20は、900~1200nmにわたって平均して、垂直入射する無偏光光の少なくとも60%を吸収する。赤外線吸収体部20は、直交する第1の偏光状態のそれぞれ及び第2の偏光状態のそれぞれを反射する。
【0036】
複数の第1のポリマー層32及び/又は複数の第2のポリマー層34のいずれか一方は、複数の第3のポリマー層12及び/又は複数の第4のポリマー層14のいずれか一方と同じ材料であってもよく、又はこれを含んでもよい。いくつかの実施形態では、赤外線反射体部10に対して、複数の第3のポリマー層12のそれぞれと複数の第4のポリマー層14のそれぞれとの間の屈折率差は、少なくとも0.04である。いくつかの実施形態では、2つの直交する面内方向に対して、複数の第3のポリマー層12及び複数の第4のポリマー層14の各対の間の屈折率差は、第2の面内方向に沿った複数の第1のポリマー層32及び複数の第2のポリマー層34の各対の間の屈折率差よりも大きい。いくつかの実施形態では、反射偏光子部30の複数の第1のポリマー層32のそれぞれ及び複数の第2のポリマー層34のそれぞれは、少なくとも0.01の面内複屈折を有する。いくつかの実施形態では、複数の第1のポリマー層32のそれぞれ及び複数の第2のポリマー層34のそれぞれは、少なくとも0.02の面内複屈折を有する。いくつかの実施形態では、複数の第1のポリマー層32のそれぞれ及び複数の第2のポリマー層34のそれぞれは、少なくとも0.04の面内複屈折を有する。いくつかの実施形態では、反射偏光子部30は、450~700nmにわたって平均して、垂直入射光の波長範囲において、第1の偏光状態を有する入射光の少なくとも80%を反射する。いくつかの実施形態では、反射偏光子部30は、450~700nmにわたって平均して、垂直入射光の波長範囲において、第2の偏光状態を有する入射光の少なくとも80%を透過させる。
【0037】
本明細書に記載される光学スタック100は、1つ以上の追加層又はコーティングを含んでもよい。例えば、光学スタック100は、ハードコートを更に含んでもよい。いくつかの実施形態では、光学スタック100は、四分の一波長又は半波長リターダなどのリターダ層を更に含んでもよい。いくつかの実施形態では、光学スタック100は、光学的に透明な接着剤層を含んでもよく、いくつかの実施形態では、保護紙又はプラスチックライナーを含んでもよい。いくつかの実施形態では、光学スタック100は、その層のいずれかに、又は例えば接着剤中に、紫外線吸収剤成分を含んでもよい。
【0038】
図2に示すように、自動車フロントガラス220又は他のビークル用ウィンドウに使用される場合、光学スタック100は、フロントガラス220の車内側に、フロントガラス220の車外側に、又はフロントガラス220の2層の間に、すなわち、ラミネートされたフロントガラス220の第1のガラス層230と第2のガラス層240との間に配置されてもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、フロントガラス220はガラス層60と称されてもよく、ガラス層60は湾曲していてもよい。いくつかの実施形態では、光学スタック100は、赤外線反射体部10よりも赤外線吸収体部20が、自動車フロントガラス220の車外面から最も離れるように配置されてもよい。ビークル200は、光学スタック100に向かって900~1200nmにわたって平均化された波長範囲で光を発するように構成された光源210を含み、光学スタック100の赤外線吸収体部20が赤外線反射体部10と光源210との間に配置されてもよい。光学スタック100の赤外線吸収体部20は、光源210からの光を吸収してフロントガラス220を加熱する。光源210は、ビークル200の電子制御ユニット(ECU)250を介して選択的に動作されてもよい。ECU250は、ビークル200のユーザによるトリガ、又はビークル200のキャビン管理モジュール260からのトリガのうちの少なくとも1つに基づいて光源210を動作させてもよい。図2の点線は、ECU250及びキャビン管理モジュール260から光源210に伝達され得るトリガ信号を表す。
【0040】
いくつかの実施形態では、赤外線吸収体部20は、赤外線反射体部10及び反射偏光子部30に追加される追加層であってもよい。追加層は、赤外線反射体部10及び反射偏光子部30の共押出し後にラミネートされてもよい。追加層は、赤外線反射体部10及び反射偏光子部30の共押出し後に適用されるコーティングであってもよい。いくつかの実施形態では、赤外線吸収体部20は、共押出し中に形成された層のうちの1つの中に又はスキン層50中に、近赤外染料又は顔料によって組み込まれてもよい。
【0041】
視覚的に透明な赤外線吸収性の透明導電性酸化物のいくつかの組成物は、薄膜と、ナノ粒子粉末及び分散体との両方として従来技術で文書化されている。よく知られているTCOのうちのいくつかは、インジウムスズ酸化物(ITO)、アンチモンスズ酸化物(ATO)、ガリウムスズ酸化物(GTO)、アンチモン亜鉛酸化物(AZO)、アルミニウム/インジウムドープ亜鉛酸化物、セシウムタングステン酸化物のようなドープタングステン酸化物、タングステンブルー酸化物である。これらのナノ粒子の多くは、日産化学株式会社、長瀬産業株式会社、住友金属鉱山株式会社、Evonikから入手可能である。
【0042】
非酸化物である他の視覚的に透明なIR吸収剤は、六ホウ化ランタンのような金属ホウ化物、PEDOT-PSSのような導電性ポリマーナノ粒子である。
【0043】
金属硫化物及び金属セレン化物のような金属カルコゲニド、例えば、硫化銅及びセレン化銅のナノ粒子、二硫化タングステン、並びに二硫化モリブデンもまた赤外線を吸収する。
【0044】
視覚的に透明な調整可能なIR吸収体の更なる別の部類は、金、銀、銅などで作製されたものなどの金属プラズモンナノ粒子である。
【0045】
異なる部類の材料は、NIR染料及び顔料である。これらの染料は、低い可視吸収を有するが、強い狭帯域IR吸収を有する。これらの染料及び顔料の多くは、本質的に有機系/有機金属系又は有機金属である。染料/顔料の主な部類のいくつかとしては、フタロシアニン、シアニン、遷移金属ジチオリン、スクアリリウム、クロコニウム、クニオン(qunione)、アントラキノン、イミニウム、ピリリウ(pyriliu)、チアピリリウム(thiapyrilium)、アズレニウム、アゾ、ペリレン、及びインドアニリンが挙げられる。これらの染料及び顔料の多くは、可視吸収及び/又はIR吸収の両方を呈し得る。
【0046】
多くの異なる種類の可視染料及び着色剤が存在し、これらは、酸性染料、アゾイック着色物質、カップリング成分、ジアゾ成分のような1つ以上の部類に含まれる。塩基性染料としては、顕色剤、直接染料、分散染料、蛍光増白剤、食用染料、イングレイン染料、皮革染料、媒染染料、天然染料及び顔料、オキシデーションベース、顔料、反応染料、還元剤、溶剤染料、硫化染料、縮合硫化染料、建染染料が挙げられる。
【0047】
有機顔料のいくつかは、更なるモノアゾ、酸性染料のアゾ縮合不溶性金属塩、及びジアゾ、ナフトール、アリライド、ジアリライド、ピラゾロン、アセトアリライド、ナフトアニリド、フタロシアニン、アントラキノン、ペリレン、フラバントロン、トリフェンジオキサジン、金属錯体、キナクリドン、ポリプリロロピロール(polypryrrolopyrrole)などのうちの1つに属する。
【0048】
金属クロム酸塩、モリブデン酸塩、チタン酸塩、タングステン酸塩、アルミン酸塩、フェライトは、一般的な顔料の一部である。多くは、鉄、マンガン、ニッケル、チタン、バナジウム、アンチモン、コバルト、鉛、カドミウム、クロムなどのような遷移金属を含有する。バナジン酸ビスマスは非カドミウムイエローである。これらの顔料は、透明性及び低散乱が所望される場合に有用であり得るナノ粒子を生成するために粉砕され得る。
【0049】
高屈折率層及び低屈折率層の両方において結晶性を有する反射偏光子はまた、他の材料の耐化学性及び透過性(エッジ侵入)に関しても良好に機能する。
【0050】
本明細書に記載されたような反射偏光子は、自動車用途に有用であるが、特定の偏光ビームスプリッタ/ビューコンバイナ(view combiner)用途にも使用され得る又は好適であり得る。例えば、特定の拡張現実ディスプレイ又はディスプレイデバイスでは、生成され投影された画像が、着用者の視野の上に重ね合わされてもよい。例えば自動車用途のためのヘッドアップディスプレイに好適であり得る多くの利点が、これら拡張現実用途において同様に望ましい場合がある。
【0051】
実施例
ウィンドスクリーンディスプレイ及び太陽光ブロックフィルムのための複合機能を提供するように設計された多層光学フィルムを有する光学スタックが本明細書に記載される。したがって、単一の共押出フィルムは、ウィンドスクリーンディスプレイのために可視光におけるp偏光反射、及び近赤外波長における強い太陽光遮断を同時に提供することが必要とされる。比較のために、3M Company(St.Paul,MN,USA)から入手可能な、弱いポリエステル/コポリエステル系反射偏光子、及びUltra-Clear Solar Film(UCSF)(赤外線反射体)の物理的特性を以下の表に記載する。
【0052】
試験方法
機械方向(MD)のラベルは、押出方向の配向におけるこの多層光学フィルムの結果を表す。横断方向(TD)は、押出方向に直交するフィルムの結果を表す。動的機械分析(DMA)は、固体及び溶融ポリマーの物理的特性を測定し、弾性率及び減衰を報告し、力、応力、ひずみ、周波数、及び温度を測定するようにプログラム可能である、試験技術及び関連する分析器具である。熱機械分析(TMA)は、温度、時間、及び加えられた力の関数としてのサンプル変位(成長、収縮、移動など)の一般的な測定である。従来、TMAは、温度を変化させながら一定の力を試験片に加えることによって、材料の線膨張、ガラス転移、及び軟化点を特徴付けるために使用される。
【表1】
【表2】
【0053】
表1及び表2では、熱膨張及び吸湿膨張の係数が、二軸配向のUCSFについて、及びまた単軸配向のp偏光反射偏光子について示されている。特性は、反射偏光子の機械方向と横断方向とを比べると非常に異なるが、二軸フィルムでは両方向で非常に類似している。
【0054】
実施例1
多機能ウィンドスクリーンディスプレイ及びソーラーフィルムを、以下のように調製した。325層の2つの独立した多層パケットを、それぞれ、米国特許第9,630,356号(Neavinら)に記載されているようなフィードブロックシステムを使用して共押出した。これは、これらの実施例に使用される共押出プロセスに好適なスキン層、延伸比、及び幅出しプロセスを含む。本明細書に記載されたような「f比」は、最も高い光学指数を有する構成層「A」の光学的厚さの、完全な光学繰り返し単位(層A+Bを含む)の光学的厚さに対する比を指す。
【0055】
3種のポリマーを光学層に使用した。第1のポリマー(第1の光学層)は、固有粘度が0.72の精製テレフタル酸(PTA)系ポリエチレンテレフタレートであった。第2のポリマー(第2の光学層)は、Eastman Chemical(Kingsport,TN,USA)製のポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)GN071であった。第3のポリマーは、Plaskolite(Columbus,OH,USA)から入手可能なCA-24 co-PMMAであった。第1のパケットは、第1のポリマー及び第2のポリマー、すなわちPET及びPETGのみを使用した。第2のパケットは、第1のポリマー及び第3のポリマー、すなわちPETG及びco-PMMAのみを使用した。第1のポリマーの第1のパケットにおける供給速度と第2のポリマーの供給速度の比は、光学層が0.50のf比を有するように選択した。第1のポリマーの第2のパケットにおける供給速度と第3のポリマーの供給速度の比は、光学層が0.496のf比を有するように選択した。スキン層に使用されるポリマーは、Eastman Chemical(Kingsport,TN,USA)から入手可能なEASTAPAK PET 7352であった。材料を別個の押出成形機から多層共押出フィードブロックに供給し、そこでこれらを325層の交互の光学層の2つのパケットに組み立て、両面に第1の光学層のより厚い保護境界層を加えて、合計で654層とした。第1の光学層材料のスキン層を、その目的に特化したマニホールドにおいて構造に追加し、656層を有する最終構造体を得た。この多層溶融物は次に、ポリエステルフィルムに関する従来の方法で、フィルムダイを通してチルロール上にキャストされ、急冷された。次いで、キャストウェブを、工業規模の直線式テンターで延伸セクションにおいて約7:1の延伸比及び228°Fの温度で延伸した。ヒートセットセクションは350°Fの温度であった。
【0056】
このフィルムが製造される前に、この処理の流体力学的流れの安定性は、平坦な境界面を有し、層破壊がない完全に平行な層を生成するには不十分であるという懸念があった。しかしながら、3種のポリマー材料の結果として得られる材料の選択肢はそれでも、この共押出プロセスに適合するレオロジーを提供して、概ね平坦な、2つのパケット一軸延伸多層光学フィルムを提供した。
【0057】
実施例1の多層フィルム(コーティングなし)を、ロールの外側の第1のパケットを有する約15インチの外径を有するロール上に巻き取った。49日後に、MDに1つの縁部及びTDに1つの縁部を有する3インチ×3インチの正方形のフィルムを切断することによって、フィルムのカールについて評価した。フィルムは、ロールの外側ラップから、フィルムの縁部の間の中間にあった。正方形のフィルムを、パケット1を下にして平坦な表面上に置き、角部のそれぞれの高さを測定して、1.5ミリメートルとした。MDの縁部は真っ直ぐであったが、TDの縁部は湾曲しており、角部の持ち上がりは1.5ミリメートルであった。フィルムのシートは取り扱いが容易であり、多層フィルムを用いてラミネートされたグレージングを作製する際にカールは問題とならなかった。
【0058】
光学試験及び収縮試験の結果
層プロファイル、第1のポリマー材料、第2のポリマー材料、及び第3のポリマー材料、並びに選択された処理条件により、従来の分光計によって測定した結果として得られる通過状態及びブロック状態の透過スペクトルがもたらされ、図3に示されている。このフィルムの結果的な物理的厚さは、静電容量ゲージで測定して約86.9μmである。
【0059】
302°Fで測定した収縮率は、MDで2.74%及びTDで2.77%であり、この用途に十分な等方性挙動を提供した。
【0060】
図4は、930nmにおいてピーク吸収スペクトルを有するEpolinからの例示的な材料Spectra(商標)350の吸光度スペクトルを示すグラフである。光学スタック100を提供するために、実施例1の多層光学フィルムに赤外線吸収体部20を追加した、又は多層光学フィルム上にSpectra(商標)350をコーティングした。
【0061】
上述の実施形態は、本発明の様々な態様の説明を容易にするために詳細に記載されたものであるため、本発明は、上述の特定の実施例及び実施形態に限定されるものと見なされるべきではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲及びそれらの同等物によって定義される本発明の範囲内に含まれる様々な変形形態、同等のプロセス、及び代替的デバイスを含めた、本発明の全ての態様を包含するものと理解されるべきである。以下、例示的実施形態を示す。
[項目1]
光学スタックであって、
赤外線反射体部と、
前記赤外線反射体部上に配置された赤外線吸収体部であって、
少なくとも約900nmから約1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも一つの第1の波長の実質的に垂直な入射光について、及び直交する第1の偏光状態及び第2の偏光状態のそれぞれについて、
前記赤外線反射体部は、前記入射光の少なくとも60%を反射し、
前記赤外線吸収体部は、前記入射光の少なくとも60%を吸収する、赤外線吸収体部と、
前記赤外線反射体部と前記赤外線吸収体部との間に配置された反射偏光子部であって、
少なくとも約450nmから約700nmに及ぶ第2の波長範囲内にある少なくとも一つの第2の波長の実質的に垂直な入射光について、前記反射偏光子部は、前記第1の偏光状態を有する前記入射光の少なくとも80%を反射し、前記第2の偏光状態を有する前記入射光の少なくとも80%を透過させる、反射偏光子部と、を備える、
光学スタック。
[項目2]
前記反射偏光子部は、複数の交互の第1のポリマー層及び第2のポリマー層を含み、第1の面内方向に対して、前記反射偏光子部の複数の前記第1のポリマー層のそれぞれと複数の前記第2のポリマー層のそれぞれとの間の屈折率差は、少なくとも0.04であり、前記第1の面内方向に直交する第2の面内方向に対して、前記反射偏光子部の複数の前記第1のポリマー層のそれぞれと複数の前記第2のポリマー層のそれぞれとの間の屈折率差は、0.04未満であり、前記反射偏光子部の複数の前記第1のポリマー層のそれぞれ及び複数の前記第2のポリマー層のそれぞれが、少なくとも0.02の面内複屈折を有する、項目1に記載の光学スタック。
[項目3]
前記赤外線反射体部は、複数の交互の第3のポリマー層及び第4のポリマー層を含み、2つの直交する面内方向に対して、複数の前記第3のポリマー層のそれぞれと複数の前記第4のポリマー層のそれぞれとの間の屈折率差は、少なくとも0.04であり、前記2つの直交する面内方向に対して、複数の前記第3のポリマー層のそれぞれと複数の前記第4のポリマー層のそれぞれとの間の屈折率差は、第2の面内方向に沿った複数の第1のポリマー層のそれぞれと複数の第2のポリマー層のそれぞれとの間の屈折率差よりも大きく、複数の前記第1のポリマー層及び複数の前記第2のポリマー層のうちの少なくともいずれか一方は、複数の前記第3のポリマー層及び複数の前記第4のポリマー層のうちの少なくともいずれか一方と同じ材料を含み、前記第1のポリマー層、前記第2のポリマー層、前記第3のポリマー層、又は前記第4のポリマー層のいずれもポリエチレンナフタレートを含まない、項目1に記載の光学スタック。
[項目4]
リターダ層を更に備える、項目1に記載の光学スタック。
[項目5]
項目1に記載の光学スタックと、
ガラス層と、を備えるラミネートであって、
前記光学スタックは前記ガラス層にラミネートされ、前記ガラス層は自動車フロントガラスであり、前記光学スタックは、前記赤外線吸収体部が前記赤外線反射体部よりも前記自動車フロントガラスの車外面から最も離れるように配置されている、ラミネート。
[項目6]
項目1に記載の光学スタックと、
第1のガラス層と、
第2のガラス層と、を備えるフロントガラスであって、
前記光学スタックは、前記第1のガラス層と前記第2のガラス層との間に配置されている、フロントガラス。
[項目7]
ビークルであって、
フロントガラスと、光源とを備え、
前記フロントガラスは、
ガラス層と、
光学スタックであって、
赤外線反射体部と、
前記赤外線反射体部上に配置された赤外線吸収体部と、を備え、
前記光学スタックは前記ガラス層上に又は前記ガラス層内に配置され、
少なくとも約900nmから約1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも一つの第1の波長の実質的に垂直な入射光について、及び直交する第1の偏光状態及び第2の偏光状態のそれぞれについて、
前記赤外線反射体部は、前記入射光の少なくとも60%を反射し、
前記赤外線吸収体部は、前記入射光の少なくとも60%を吸収する、光学スタックとを備え、
前記光源は、前記ビークル内に配置されると共に、前記光学スタックに向かって前記第1の波長で光を発するように構成され、前記光学スタックの前記赤外線吸収体部が前記赤外線反射体部と前記光源との間に配置されている、
ビークル。
[項目8]
前記光源は、前記ビークルの電子制御ユニット(ECU)とインタフェース接続され、前記ECUは、1つ以上の条件に基づいて前記光源を選択的に動作させるように構成され、前記1つ以上の条件は、前記ビークルのユーザによるトリガ、及び前記ビークルのキャビン管理モジュールからのトリガのうちの少なくとも1つである、項目7に記載のビークル。
[項目9]
ビークルであって、
フロントガラスと光源とを備え、
前記フロントガラスは、
前記フロントガラスの車外面に面する第1のガラス層と、
光学スタックであって、
赤外線反射体部と、
前記赤外線反射体部上に配置された赤外線吸収体部と、
を備える、光学スタックと、
前記ビークルのキャビンに面する第2のガラス層とを備え、
前記赤外線反射体部は前記第1のガラス層に隣接し、前記赤外線吸収体部は前記第2のガラス層に隣接し、
前記光学スタックは、前記第1のガラス層と前記第2のガラス層との間に配置されており、
実質的に垂直な入射光について、及び少なくとも約900nmから約1200nmに及ぶ第1の波長範囲内にある少なくとも一つの第1の波長について、及び直交する第1の偏光状態と第2の偏光状態のそれぞれについて、
前記赤外線反射体部は、前記入射光の少なくとも60%を反射し、
前記赤外線吸収体部は、前記入射光の少なくとも60%を吸収するものであり、
前記光源は、前記ビークルの前記キャビン内に配置されると共に、前記光学スタックに向かって前記第1の波長で光を発するように構成され、前記光学スタックの前記赤外線吸収体部が前記光を吸収して前記フロントガラスを加熱する、
ビークル。
図1
図2
図3
図4