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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】遷移金属キレート樹脂ビーズ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240701BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20240701BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240701BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240701BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G01N33/543 541A
B01J20/22 C
B01D15/00 K
G01N33/531 B
G01N33/545 B
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2021556219
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2020058718
(87)【国際公開番号】W WO2020201089
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】19166197.4
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】フォンデンホフ,ガストン・フーベルトゥス・マリア
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-535725(JP,A)
【文献】特表2018-501312(JP,A)
【文献】国際公開第2018/189286(WO,A1)
【文献】Bonnie I. Kruft et al.,Quantum mechanical investigation of aqueous desferrioxamine B metal complexes: Trends in structure, binding, and infrared spectroscopy,Jounal of Inorganic Biochemistry,2013年08月31日,129,150-161
【文献】HybridSPE-Phopholipid リン脂質除去・濃縮用 固相抽出管,シグマアルドリッチジャパン,2014年05月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
G01N 33/48-33/98
B01J 20/00-20/34
B01J 21/00-38/74
B01D 15/00-15/42
C07B 31/00-409/44
C09K 3/00-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)遷移金属カチオン;
ii)ヒドロキサメート基-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは水素またはC1-C5アルキル基である]、ヒドロキサメート基の部分的または全体的にプロトン化された形態、ならびにヒドロキサメート基およびこれらの部分的もしくは全体的にプロトン化された形態の混合物から選択される少なくとも1つのキレート基含むリガンド;
iii)磁性ビーズ
を含む錯体であって、磁性ビーズ(iii)とリガンド(ii)が共有結合されている、錯体。
【請求項2】
少なくとも1つのキレート基は、1~4つのキレート基、あるいは2つまたは3つのキレート基である、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
リガンド(ii)が、一般構造式(I)
【化1】
[式中、
---は、磁性ビーズ(iii)への結合であり;
Aは、水素原子、-X-Y-(CH-CH-(CHR-R基およびRからなる群から選択され;
n、mは、独立に、ゼロ、または1~5の整数であり;
p、qは、独立に、1~10の整数3~5の整数、あるいは3または4の整数であり;
Xは、-CH-または-NH-であり;
Yは、-CH-または-C(=O)-であり;
、Rは、独立に、ヒドロキサメート基-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは、水素またはC1-C5アルキル基である]、およびヒドロキサメート基の部分的または全体的にプロトン化された形態からなる群から選択され;
は、水素原子または-NHZ基[式中、Zは保護基であ]]
を有する、請求項1または2に記載の錯体。
【請求項4】
保護基は、-C(=O)-O-CH -C 基(ベンジルオキシカルボニル基、Cbz)またはtert-ブチルオキシカルボニル基(Boc)である、請求項3に記載の錯体。
【請求項5】
リガンド(ii)が、一般構造式(Ia)
【化2】
[式中、---およびAは、請求項と同じ意味を有する]
を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項6】
リガンド(ii)が、一般構造式(Ia1)または(Ia2)
【化3】
[式中、---およびZは、請求項と同じ意味を有する]
を有する、請求項3から5のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項7】
遷移金属カチオン(i)が、白金、ルテニウム、イリジウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛カチオンの群から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の錯体。
【請求項8】
遷移金属カチオン(i)が、Fe 2+ 、Fe 3+ 、およびZr 4+ から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項9】
磁性ビーズ(iii)が、ポリマーマトリクス(P)、少なくとも1種の磁性粒子(M)およびポリマーマトリクス(P)面(S)上に共有結合されている少なくとも1つの-(CH-NH---基[式中、---は、リガンド(ii)への結合であり、rは、ゼロ、または1~10の範囲の整数1~5の範囲の整数2~4の範囲の整数、またはの整数である]を含み、ポリマーマトリクス(P)が、少なくとも1種の架橋(コ)ポリマーを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の錯体。
【請求項10】
ポリマーマトリクス(P)が、スチレン、官能化スチレン、塩化ビニルベンジル、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、メチルメタクリレートおよびアクリル酸からなる群から選択される少なくとも2つの異なるモノマービルディングブロックコポリマーを含む、請求項に記載の錯体。
【請求項11】
ポリマーマトリクス(P)が、以下のモノマー:
【化4】
[式中、rは、ゼロ、1~10の範囲の整数、1~5の範囲の整数、2~4の範囲の整数、または3の整数であり;
、R 、R 、R およびR は、互いに独立して、-N 、-NH 、-Br、-I、-F、-NR’R’’、-NR’R’’R’’’、-COOH、-CN、-OH、-OR’、-COOR’、-NO 、-SH 、-SO 、-R’(OH)x、-R’(COOH)x、-R’(COOR’’)x、-R’(OR’’)x、-R’(NH )x、-R’(NHR’’)x、-R’(NR’’R’’’)x、-R’(Cl)x、-R’(I)x、-R’(Br)x、-R’(F)x、R’(CN)x、-R’(N )x、-R’(NO )x、-R’(SH )x、-R’(SO )x、アルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、式中、R’、R’’およびR’’’は、互いに独立して、アルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、ハロゲン化物、水素、スルフィド、ニトレートおよびアミンからなる群から選択され、xは、1~3の範囲の整数である]
からなる群から選択される少なくとも2つの異なるモノマービルディングブロックのコポリマーを含む、請求項9または10に記載の錯体。
【請求項12】
ポリマーマトリクス(P)の(コ)ポリマーが架橋されており、ポリマーマトリクス(P)の架橋(コ)ポリマーが、架橋剤である少なくとも1つのモノマービルディングブロックで架橋された請求項10または11に記載の少なくとも2つの異なるモノマービルディングブロックの(コ)ポリマーである、請求項9から11のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項13】
架橋剤が、ジビニルベンゼン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルベンジルオキシ)ヘキサン、ビス(ビニルベンジルオキシ)ドデカンおよびこれらの架橋剤のうちの2つ以上の混合物からなる群から選択され、あるいは、架橋剤が、少なくともジビニルベンゼンを含む、請求項12に記載の錯体。
【請求項14】
少なくとも1種の磁性粒子(M)が、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、金属リン化物、金属酸化物、金属炭化物、金属キレートおよびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される化合物を含、請求項9から13のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項15】
少なくとも1種の磁性粒子(M)が、金属酸化物または金属炭化物を含む、請求項14に記載の錯体。
【請求項16】
少なくとも1種の磁性粒子(M)が酸化鉄を含む、請求項14または15に記載の錯体。
【請求項17】
酸化鉄が、Fe 、α-Fe 、γ-Fe 、MnFe 、CoFe 、NiFe 、CuFe 、ZnFe 、CdFe 、BaFe OおよびSrFe Oからなる群から選択される[式中、xは、1~3の整数、または2の整数であり、yは、3または4の整数である]、請求項16に記載の錯体。
【請求項18】
流体試料中少なくとも1種のリンオキシ物質の含量を低減するための請求項1から17のいずれか一項に記載の錯体の使用。
【請求項19】
少なくとも1種のリンオキシ物質は、その構造中に構造要素-O-P(O )(=O)-O-を含む、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
流体試料中の、少なくとも1種のリンオキシ物質含量を低減するための方法であって、
a)対象の少なくとも1つの被分析物および少なくとも1種のリンオキシ物質を含む流体試料を準備する工程と
c)少なくとも1種の第1の錯体添加する工程であり、錯体が、
i)遷移金属カチオン;
ii)ヒドロキサメート基-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは水素またはC1-C5アルキル基である]、ヒドロキサメート基の部分的または全体的にプロトン化された形態、ならびにヒドロキサメート基およびこれらの部分的もしくは全体的にプロトン化された形態の混合物から選択される少なくとも1つのキレート基含むリガンド;
iii)磁性ビーズ
を含み、磁性ビーズ(iii)とリガンド(ii)が共有結合されており、それによって、第1の錯体および少なくとも1種のリンオキシ物質を錯化形態で含む、第2の錯体を含む懸濁液を形成する工程と、
d)磁場を印加することによって、(c)で得た懸濁液中の第2の錯体を空間的に分離し、それによって第2の錯体を実質的に含まない上清を得る工程と、
e)上清を除去し、それによって分離された第2の錯体を得る工程と、を含む、方法。
【請求項21】
少なくとも1種のリンオキシ物質がリン脂質である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
c)において、少なくとも1種の第1の錯体を、懸濁液または水性懸濁液で添加する、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
c)ii)において、少なくとも1つのキレート基が、1~4つのキレート基、あるいは2つまたは3つのキレート基である、請求項20から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
b)流体試料のpH値が2.5~12の範囲になるように流体試料のpHを調整し、それによってpHが調整された流体試料を得る工程をさらに含む、請求項20から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項20から24のいずれか一項に記載の方法から得られるまたは得ることができる上清。
【請求項26】
上清中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定のための、請求項20から24のいずれか一項に記載の方法から得られるまたは得ることができる上清の使用。
【請求項27】
流体試料中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定のための方法であって、請求項20から24のいずれか一項に記載の精製方法の工程を含み、(e)ら得た上清中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定の工程を更に含む、方法。
【請求項28】
流体試料中の少なくとも1種のリンオキシ物質の種類および/または量を決定するための方法であって、請求項20から24のいずれか一項に記載の精製方法の工程を含み、
h)水性および/または有機溶出液を、(e)よって得られた(更に)分離された第2の錯体に添加することであって、水性および/または有機溶出液が、緩衝剤および/もしくは還元剤を含有し、かつ/または添加が、還元雰囲気下で行われ、それによって少なくとも1種のリンオキシ物質を、分離された第2の錯体から分離し、少なくとも1種のリンオキシ物質を含む溶液を得ることと、
j)(h)に従って得られる溶液中の少なくとも1種のリンオキシ物質の種類および/または量を決定することと、
を更に含む、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属カチオン(i)と;ヒドロキサメート基-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは水素またはC1-C5アルキル基である]、カテコレート基、カルボキシレート基、これらのキレート基の部分的または全体的にプロトン化された形態、ならびにこれらのキレート基および/またはこれらの部分的もしくは全体的にプロトン化された形態の混合物から選択される少なくとも1つのキレート基を含むリガンド(ii)と;磁性ビーズ(iii)とを含む錯体であって、磁性ビーズ(iii)とリガンド(ii)が共有結合されている、錯体に関する。
【0002】
本発明はまた、流体試料中の、好ましくはその構造中に構造要素-O-P(O)(=O)-O-を含む少なくとも1種のリンオキシ物質の含量を低減するための錯体の使用、ならびに錯体を添加する工程を含む、流体試料中の、少なくとも1種のリンオキシ物質、好ましくはリン脂質の含量を低減するための方法にも関する。本発明は更に、この方法で得られるまたは得ることができる上清と、上清中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定のための、この方法で得られるまたは得ることができる上清の使用とに関する。更に、本発明は、流体試料中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定の方法と、流体試料中の少なくとも1種のリンオキシ物質の種類および/または量を決定するための方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
リン脂質(PPL)は、診断分析を損ない得るまたは系のロバスト性に悪影響を及ぼし得る多くのヒト試料物質中の豊富分子である(Bylda C.,Thiele,R.,Kobold,U.,Volmer,D.A.,Analyst,2014,139,2265~2276参照)。同様に、(オリゴ)ヌクレオチドまたはリン酸化ペプチドおよびタンパク質等の多くのリンオキシ化合物(例えば、リン酸ジエステルを有する物質)は、被分析物の定量化を妨げ得る共通(代謝)物質である。
【0004】
LC-MS/MSによって測定したときのS/N(S/N:シグナルとノイズとの比)の増加は、対象の被分析物とは別の物質による干渉の低減を直接意味する。この技術は通常、LCによって大部分の妨害マトリクスを除去し、後続して規定のMRM遷移のために選択するが、定量化の精度および感度は、ほとんどの場合において依然として損なわれる。
【0005】
一方、特定の被分析物の定量化において問題のある同じ物質は、更なる定量化のためにそれら自体が興味深い被分析物であり得る。これらの高極性被分析物(ヌクレオチド/リン酸化ペプチド)または疎水性/両親媒性被分析物(リン脂質、PPL)のいずれも、(準)選択的分離および(ヒト)試料物質からの精製の候補としては困難である。
【0006】
リン脂質の除去は、幾つかの企業が対処している。ジルコニウム(Zr)は、PPLと錯体を形成する能力で知られ、その理由で、異なる形態で市販もされている。しかしながら、PPLを試料から除去するために、Zrを試料に添加するだけでは不十分である。Zrと錯体を形成したPPLは、後続して混合物から除去されなければならない。リン脂質を試料から除去するために幾つかの商品化された方法および材料があり、例えば、Hybrid SPE(商標)(Sigma Aldrich)、Ostro(商標)(Waters)、Captiva(商標)ND(Agilent)およびPhree(商標)(Phenomenex)がある。しかしながら、全ての市販材料は、パススルー法を用い、それによって試料が各材料に捕捉され、溶出される。これらの材料および方法は、主に生体試料の浄化において効果的なツールであるように見えるが、これらの方法は、a)実用的でなく(すなわち、自動化された試料調製ワークフローと組み合わせることが難しく、かなりの量(大量)の試料を要する)、b)高価であり、c)多くの時間を要し、d)多くの廃棄物を産出し、e)リン脂質の除去のみに対処し、リン脂質の精製自体には対処せず、f)リン脂質の除去のみに集中して、干渉し得る他の物質には重点を置かない。
【0007】
磁性粒子は、被分析物を試料から捕捉するための優れたツールである。磁気特性は、診断体系に対して容易、迅速かつ安価な自動化を可能にし、更に、時間のかかる遠心分離および濾過工程を回避するため、非常に重要である。超常磁性材料は、外部磁場が適用されたときのみに磁化を示すため、より注目を集めている。外部磁場の不在下、磁化はゼロであるように見える(「メモリー効果」はない)。多種多様なビーズが知られており、市販されている。しかしながら、今までのところ、依然として共役遷移金属につき1つまたは2つの分子(リン脂質など)と錯体を形成できるようなやり方で遷移金属を共役させるビーズは知られていない。
【0008】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、自動化された試料調製ワークフローを可能にし、上記の欠点を克服する磁性ビーズを提供することであった。
【発明の概要】
【0009】
この課題は、独立特許請求項の特徴を有する本発明によって解決される。本発明の有利な開発は、個別にまたは組み合わせて実現することができ、従属特許請求項で提示されており、かつ/または以下の明細書および詳述された実施形態において提示されている。
【0010】
以下で用いられる場合、用語「有する(have)」、「含む(comprise)」もしくは「含む(include)」またはこれらの任意の文法的変化形は、包括的に用いられる。したがって、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴以外に、これに関連して記載される実体において存在する更なる特徴がない状況と、1つまたは複数の更なる特徴が存在する状況と、の両方を指し得る。例として、表現「AはBを有する」、「AはBを含む(comprise)」および「AはBを含む(include)」は、B以外に、A中に存在する他の要素がない(すなわち、Aは、単独でかつ排他的にBからなる)と、B以外に、要素C、要素CおよびDまたは更なる要素等の1つまたは複数の更なる要素が実体A中に存在する状況との両方を指し得る。
【0011】
更に、特徴または要素が1回または複数回存在し得ることを示す用語「少なくとも1」、「1もしくは複数」または同様の表現は、典型的には、各特徴または要素を導入するときに1回のみ使用されることに留意すべきである。以下、ほとんどの場合、各特徴または要素を指すとき、表現「少なくとも1」または「1もしくは複数」は、各特徴または要素が1回または複数回存在し得るという事実にもかかわらず、繰り返されない。
【0012】
更に、以下で用いられるとき、用語「好ましくは」、「より好ましくは」、「特に」、「より詳細には」、「具体的には」、「より具体的には」または同様の用語は、代替の可能性を限定せずに、任意選択の特徴と共に用いられる。したがって、これらの用語によって導入される特徴は、任意選択の特徴であり、決して特許請求の範囲の範囲を限定することは意図しない。本発明は、当業者が認識するように、代替の特徴を使用することによって実施することができる。同様に、「本発明の実施形態における」または同様の表現によって導入される特徴は、本発明の代替の実施形態に関する任意の限定なしの、本発明の範囲に関する任意の限定なしの、およびそのような方法で導入された特徴と、本発明の他の任意選択または非任意選択の特徴とを合わせる可能性に関する任意の限定なしの、任意選択の特徴であることが意図される。
【0013】
第1の態様において、本発明は、
i)遷移金属カチオン;
ii)ヒドロキサメート基-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは水素またはC1-C5アルキル基である]、カテコレート基、カルボキシレート基、これらのキレート基の部分的または全体的にプロトン化された形態、ならびにこれらのキレート基および/またはこれらの部分的もしくは全体的にプロトン化された形態の混合物から選択される、少なくとも1つのキレート基、好ましくは1~4つのキレート基、より好ましくは2つまたは3つのキレート基を含むリガンド;
iii)磁性ビーズ
を含む錯体であって、磁性ビーズ(iii)とリガンド(ii)が共有結合されている、錯体に関する。
【0014】
本発明の錯体は、好ましくはその構造中に構造要素-O-P(O)(=O)-O-を含むリンオキシ物質を試料物質から除去するために使用でき、その使用は、S/Nにプラス効果を有し、すなわち、未処理の試料と比較したとき、約2倍のS/N増加が達成された。これは、被分析物のより高感度および高精度の定量化を可能にする。
【0015】
磁性ビーズ(iii)およびリガンド(ii)間の共有結合は、あらゆる種類の好適な結合タイプであってもよく、例えば、アミド結合、アミン結合、エステル結合、または(チオ)エーテル結合であってもよい。一実施形態において、磁性ビーズ(iii)およびリガンド(ii)は、アミド結合によって共有結合されている。各キレート基-ヒドロキサメート基、カテコレート基、カルボキシレート基、およびそれらの各部分的または全体的にプロトン化された形態-は、金属カチオン等の正電荷を持つ配位中心に配位結合できる2個のヘテロ原子を有する。すなわち、これらのキレート基はそれぞれ、2つのドナー原子を有する。
【0016】
錯体の一実施形態によれば、リガンド(ii)は、一般構造式(I)を有する:
【化1】
[式中、
---は、磁性ビーズ(iii)への結合であり;
Aは、水素原子、-X-Y-(CH-CH-(CHR-R基およびRからなる群から選択され;
n、mは、独立に、ゼロ、または1~5の整数であり;
p、qは、独立に、1~10の整数、好ましくは3~5の整数、より好ましくは3または4であり;
Xは、-CH-または-NH-であり;
Yは、-CH-または-C(=O)-であり;
、Rは、独立に、ヒドロキサメート基
-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは水素またはC1-C5アルキル基である]、カテコレート基、カルボキシレート基およびこれらのキレート基の部分的または全体的にプロトン化された形態からなる群から選択され;
は、水素原子または-NHZ基[式中、Zは保護基であり、好ましくは
-C(=O)-O-CH-C基(ベンジルオキシカルボニル基、Cbz)またはtert-ブチルオキシカルボニル基(Boc)である]]。
【0017】
錯体の一実施形態において、リガンド(ii)は、一般構造式(Ia)を有する:
【化2】
[式中、---およびAは、一般構造式(I)について上で開示したものと同じ意味を有する]。
【0018】
錯体の好ましい実施形態によれば、リガンド(ii)は、一般構造式(Ia1)または(Ia2)を有する:
【化3】
[式中、---およびZは、一般構造式(I)について上で開示したものと同じ意味を有する]。
【0019】
錯体の一実施形態において、遷移金属カチオン(i)は、白金、ルテニウム、イリジウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛カチオンの群から選択され、より好ましくはFe2+、Fe3+、およびZr4+から選択され、より好ましくはZr4+である。
【0020】
一般構造式(I)、(Ia)、(Ia1)または(Ia2)の遷移金属錯形成性リガンドは、ビーズと結合され、遷移金属カチオン(i)を有する二座、四座または六座錯体を形成する。例えば、ヒドロキサメートは、好適なリガンドであり、3つのヒドロキサメート基がZr4+等の遷移金属カチオン(i)に近接して位置するとき、良好な六座Zr錯体が形成される。錯体の一実施形態において、遷移金属の空き配位位置は溶媒分子、好ましくは水によって占められる。Zr4+は、八面体配位の錯体を形成する傾向がある。(Guerard F.,Lee Y.S.,Tripier R., Szajek L.P.,Deschamps J.R.,Brechbiel M.W.,Chem Commun.2013,49:1002~1004;Guerard,F.;Lee,Y.S.;Brechbiel,M.W.Chemistry.2014,20(19):5584~5591参照)。したがって、2つまたは3つのキレート基(それぞれ2個のドナー原子を有するヒドロキサメート基など)の存在は、対象のリガンド、すなわち、好ましくはその構造中に構造要素-O-P(O)(=O)-O-を含むリンオキシ物質(PPL等)が結合できる、すなわち、PPL等のリンオキシ物質による水の交換が起こり得るZr4+カチオンに4つまたは2つの空き配位位置をもたらす。
【0021】
錯体の一実施形態において、磁性ビーズ(iii)は、ポリマーマトリクス(P)、少なくとも1種の磁性粒子(M)およびポリマーマトリクス(P)面(S)上に共有結合されている少なくとも1つの-(CH-NH---基[式中、---は、リガンド(ii)への結合であり、rは、ゼロ、または1~10の範囲の整数、好ましくは1~5の範囲の整数、より好ましくは2~4の範囲の整数、より好ましくは3である]を含み、ポリマーマトリクス(P)は、少なくとも1種の架橋(コ)ポリマーを含む。
【0022】
磁性ビーズ(iii)
本発明による磁性ビーズ(iii)は、ISO13320に従って決定したとき、1~60マイクロメートルの範囲の粒径を有する。
【0023】
磁性ビーズ(iii)は、原則として、任意の幾何学的形態を示し得るが、好ましくは、粒子は実質的に球形である。本明細書で用いられる場合、用語「実質的に球形」は、好ましくは非ファセットのまたは実質的に鋭角な角を持たない丸い形状を有する粒子を指す。特定の実施形態において、実質的に球形の粒子は、典型的には、3:1または2:1未満の平均アスペクト比、例えば、1.5:1未満または1.2:1未満のアスペクト比を有する。特定の実施形態において、実質的に球形の粒子は、約1:1のアスペクト比を有し得る。アスペクト比(A)は、最大直径(dmax)およびそれに対して直交する最小直径(dmin)の関数(A=Dmin/Dmax)として規定される。直径は、SEMまたは光学顕微鏡測定法によって決定される。
【0024】
ポリマーマトリクス(P)
上述するように、磁性ビーズ(iii)は、ポリマーマトリクス(P)を含む。
【0025】
錯体の一実施形態において、ポリマーマトリクス(P)は、スチレン、官能化スチレン、塩化ビニルベンジル、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、メチルメタクリレートおよびアクリル酸からなる群から選択される少なくとも2つの異なるモノマービルディングブロック、好ましくは以下のモノマー:
【化4】
[式中、
rは、ゼロ、または1~10の範囲の整数、好ましくは1~5の範囲の整数、より好ましくは2~4の範囲の整数、より好ましくは3であり;
、R、R、RおよびRは、互いに独立して、-N、-NH、-Br、-I、-F、-NR’R’’、-NR’R’’R’’’、-COOH、-CN、-OH、-OR’、-COOR’、-NO、-SH、-SO、-R’(OH)x、-R’(COOH)x、-R’(COOR’’)x、-R’(OR’’)x、-R’(NH)x、-R’(NHR’’)x、-R’(NR’’R’’’)x、-R’(Cl)x、-R’(I)x、-R’(Br)x、-R’(F)x、R’(CN)x、-R’(N)x、-R’(NO)x、-R’(SH)x、-R’(SO)x、アルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、式中、R’、R’’およびR’’’は、互いに独立して、アルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、ハロゲン化物、水素、スルフィド、ニトレートおよびアミンからなる群から選択され、xは、1~3の範囲の整数である]
からなる群から選択される少なくとも2つの異なるモノマービルディングブロックの重合を含む方法によって得られるまたは得ることができるコポリマーを含む。
【0026】
錯体の一実施形態において、ポリマーマトリクス(P)の(コ)ポリマーは架橋されており、ポリマーマトリクス(P)の架橋(コ)ポリマーは、架橋剤である少なくとも1つのモノマービルディングブロックの存在下で上記の実施形態による少なくとも2つの異なるモノマービルディングブロックを共重合することによって得られまたは得ることができ、架橋剤は、好ましくは、ジビニルベンゼン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルベンジルオキシ)ヘキサン、ビス(ビニルベンジルオキシ)ドデカンおよびこれらの架橋剤のうちの2つ以上の混合物からなる群から選択され、好ましくは、架橋剤は、少なくともジビニルベンゼンを含む。
【0027】
磁性粒子(M)
上述するように、本発明による磁性ビーズ(iii)は、少なくとも1種の磁性粒子(M)を含む。
【0028】
錯体の一実施形態において、少なくとも1種の磁性粒子(M)は、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、金属リン化物、金属酸化物、金属キレートおよびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される化合物を含む。
【0029】
各磁性粒子(M)は、上記の基のうちの2つ以上、すなわち金属、金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、金属リン化物、金属酸化物、金属キレートおよびこれらの2つ以上の混合物のうちの2つ以上の混合物を含んでもよいことを理解されたい。更に、2つ以上の異なる金属、2つ以上の異なる金属酸化物、2つ以上の異なる金属炭化物、2つ以上の異なる金属窒化物、2つ以上の異なる金属硫化物、2つ以上の異なる金属リン化物、2つ以上の異なる金属キレートの混合物が考えられる。更に、本発明による磁性ビーズ(iii)が複数の磁性粒子(M)を含む場合、単一磁性ビーズ(iii)中に存在する各磁性粒子(M)は、同じであっても互いに異なっていてもよい。好ましくは、一磁性粒子に含まれる全ての磁性粒子(M)は同じである。より好ましくは、少なくとも1種の磁性粒子(M)は、金属酸化物または金属炭化物を含む。
【0030】
したがって、錯体の一実施形態において、少なくとも1種の磁性粒子(M)は、金属酸化物または金属炭化物、より好ましくは酸化鉄、特にFe、α-Fe、γ-Fe、MnFe、CoFe、NiFe、CuFe、ZnFe、CdFe、BaFeOおよびSrFeOからなる群から選択される酸化鉄を含み、最も好ましくはFeである[式中、xおよびyは、合成方法によって変動し、xは、好ましくは1~3、より好ましくは2の整数であり、yは、好ましくは3または4である]。
【0031】
錯体の一実施形態において、磁性粒子および磁性ビーズ(iii)は超常磁性である。用語「超常磁性」は、当業者に公知であり、特に単一磁性モノドメインより小さな粒子で遭遇する磁気特性を指す。そのような粒子は、外部磁場を印加すると、飽和磁化という異名をとるグローバル磁化の最大値に達するまで常時配向する。該粒子は、室温下、磁気ヒステリシスなし(残留磁気なし)で、磁場を外すと緩和する。外部磁場の不在下、超常磁性粒子は、双極子配向の熱揺らぎ(ネール緩和)および粒子位置(ブラウン緩和)に起因して、非永久磁気モーメントを示す。
【0032】
磁性粒子(M)は、いわゆる1つまたは複数の「コア」を形成する磁性ビーズの中心に存在しているか、または磁性ビーズ(iii)全体の細孔中に均一に分布されている、すなわち、ポリマーマトリクス(P)中に実質的に均一に分布されている。
【0033】
磁性粒子(M)は、好ましくはナノ粒子を含み、より好ましくはナノ粒子からなる。ナノ粒子は、好ましくは、粒子の磁性、好ましくは超常磁性を示す部分である。ナノ粒子はまた、本明細書において、「磁性ナノ粒子」と呼ばれることもある。
【0034】
本明細書で用いられる場合、用語「ナノ粒子」は、少なくとも一次元において100ナノメートル未満の、すなわち、100nm未満の直径を有する粒子を指す。好ましくは、本発明によるナノ粒子は、TEM測定法に従って決定した場合、1~20nm、好ましくは4~15nmの範囲の直径を有する。
【0035】
各ナノ粒子は、TEM測定法に従って決定した場合、1~20nm、好ましくは4~15nmの範囲の直径を有する。好ましくは、少なくとも1種の磁性ナノ粒子は超常磁性である。
【0036】
磁性粒子(M)は、1つのみのナノ粒子または複数のナノ粒子を含んでもよい。一実施形態において、磁性粒子(M)は、1~20のナノ粒子を含む。別の実施形態では、磁性粒子(M)は、20超のナノ粒子、好ましくは100~1500000のナノ粒子、より好ましくは750~750000のナノ粒子、より好ましくは1750~320000のナノ粒子、特に90000~320000のナノ粒子を含む。ナノ粒子は、個々の(すなわち別個の)粒子として存在してよく、例えば、個々のナノ粒子は、磁性ビーズ全体の細孔中に均一に分布されていてもよい、または幾つかのナノ粒子からなる凝集体を形成し得る。これらの凝集体は、含まれるナノ粒子の数に応じて異なるサイズを有し得る。一実施形態において、いわゆる超粒子が形成される。この実施形態によれば、磁性粒子(M)は、20超のナノ粒子、典型的には100超のナノ粒子を含み、これらのナノ粒子は、好ましくは互いに凝集して超粒子を形成する。より好ましくは、この場合、磁性粒子(M)は、凝集ナノ粒子からなる超粒子を含む。好ましくは、この場合、磁性粒子(M)は、100~1500000のナノ粒子、より好ましくは750~750000のナノ粒子、より好ましくは1750~320000のナノ粒子、特に90000~320000のナノ粒子を含む超粒子を含む。超粒子が存在する好ましい実施形態において、超粒子を含む磁性粒子(M)は、磁性ビーズの中心に存在し、いわゆる「コア」を形成する。好ましくは、磁性粒子(M)によって形成されるそのようなコアは、DLS(ISO22412)に従って決定した場合、80~500nm、より好ましくは150~400nm、最も好ましくは200~300nmの範囲の直径を有する。
【0037】
好ましくは、磁性粒子(M)の量は、磁性ビーズ(iii)の所望の飽和磁化が達成されるように選択される。好ましくは、本発明による磁性ビーズ(iii)は、少なくとも1Am/kgの飽和磁化を有する。好ましくは、飽和磁化は、ASTM A 894/A894Mに従って決定される場合、少なくとも1Am/kg、より好ましくは少なくとも2Am/kg、より好ましくは少なくとも3Am/kg、より好ましくは少なくとも4Am/kg、より好ましくは少なくとも5Am/kg、より好ましくは少なくとも6Am/kg、より好ましくは少なくとも7Am/kg、より好ましくは少なくとも8Am/kg、より好ましくは少なくとも9Am/kg、特に少なくとも10Am/kg、例えば10Am/kg、~20Am/kgの範囲、より好ましくは10Am/kg~30Am/kgの範囲である。
【0038】
錯体の使用
本発明は更に、流体試料中の、好ましくはその構造中に構造要素-O-P(O)(=O)-O-を含む少なくとも1種のリンオキシ物質の含量を低減するための上記の錯体の使用に関する。好ましくは、少なくとも1種のリンオキシ物質は、リン脂質、ホスホジエステル、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、リン酸化ペプチドおよびリン酸化タンパク質からなる群から選択され、好ましくはリン脂質である。
【0039】
少なくとも1種のリンオキシ物質の含量を低減するための方法
本発明は更に、流体試料中の、少なくとも1種のリンオキシ物質、好ましくはリン脂質の含量を低減するための方法であって、
a)対象の少なくとも1つの被分析物および少なくとも1種のリンオキシ物質を含む流体試料を準備する工程と、
b)任意選択により、流体試料のpH値が2.5~12の範囲になるように流体試料のpHを調整して、pHが調整された流体試料を得る工程と、
c)少なくとも1種の第1の錯体を、好ましくは懸濁液、より好ましくは水性懸濁液で添加する工程であり、錯体が、
i)遷移金属カチオン;
ii)ヒドロキサメート基-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは水素またはC1-C5アルキル基である]、カテコレート基、カルボキシレート基、これらのキレート基の部分的または全体的にプロトン化された形態、ならびにこれらのキレート基および/またはこれらの部分的もしくは全体的にプロトン化された形態の混合物から選択される、少なくとも1つのキレート基、好ましくは1~4つのキレート基、より好ましい2つまたは3つのキレート基を含むリガンド;
iii)磁性ビーズ
を含み、磁性ビーズ(iii)とリガンド(ii)が共有結合されており、それによって、第1の錯体および少なくとも1種のリンオキシ物質を錯化形態で含む、第2の錯体を含む懸濁液を形成する工程と、
d)磁場を印加することによって、(c)で得た懸濁液中の第2の錯体を空間的に分離し、それによって第2の錯体を実質的に含まない上清を得る工程と、
e)上清を除去し、それによって分離された第2の錯体を得る工程と、を含む、方法に関する。
【0040】
懸濁液、より好ましくは水性懸濁液の少なくとも1種の第1の錯体の濃度は、好ましくは10~150mg/mLの範囲、より好ましくは25~75mg/mL(50+/-25mg/mL)の範囲である。
【0041】
一実施形態において、少なくとも1種のリンオキシ物質の含量を低減するための方法は更に、
f)分離した第2の錯体に洗浄液を適用し、後続して磁場により第2の錯体を空間的に分離し、残りの上清を除去し、それによって更なる上清および更に分離された第2の錯体を得ることを含む。
【0042】
一実施形態において、少なくとも1種のリンオキシ物質の含量を低減するための方法は更に、
g)(e)および(f)からの上清の溶融を含む。
【0043】
本発明はまた、「少なくとも1種のリンオキシ物質の含量を低減するための方法」の項における上記の方法から得られるまたは得ることができる上清にも関する。
【0044】
本発明はまた、上清中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定のための、上記の方法で得られるまたは得ることができる上清の使用にも関する。
【0045】
本発明はまた、流体試料中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定のための方法であって、上記低減方法の工程を含み、(e)および/または(f)および/または(g)から得た上清中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定の工程を更に含む方法にも関する。
【0046】
本発明は更に、流体試料中の少なくとも1種のリンオキシ物質の種類および量を決定するための方法であって、上記低減方法の工程を含み、
h)水性および/または有機溶出液を、(e)および/または(f)によって得られた(更に)分離された第2の錯体に添加することであって、この水性および/または有機溶出液が、緩衝剤、酸および/もしくは還元剤を含有し、かつ/または添加が、還元雰囲気下で行われ、それによって少なくとも1種のリンオキシ物質を、分離された第2の錯体から分離し、少なくとも1種のリンオキシ物質を含む溶液を得ることと、
j)(h)に従って得られる溶液中の少なくとも1種のリンオキシ物質の種類および/または量を決定することと、
を更に含む、方法に関する。
【0047】
一実施形態によれば、少なくとも1種の緩衝剤は、水性および/または有機溶出液中に含まれ、結果としてpHの変化がもたらされる。pHの変化は、磁性ビーズからリンオキシ物質を放出させ得る。機構は、単純には、キレート部分のプロトン化であり、それによって錯体が破壊され、放出が生じる。緩衝剤は、有機酸およびその関連アニオンを含む系を意味し、系はpH緩衝できる。別の実施形態によれば、水性および/または有機溶出液は、少なくとも1種の酸を含有する。後の測定に干渉しない限り、少なくとも1種の酸に関する制限はほとんどない。一実施形態において、少なくとも1種の酸は、揮発性有機酸の群から選択され、好ましくはギ酸、酢酸およびギ酸と酢酸との混合物からなる群から選択され、揮発性有機酸は、標準圧力(1013mbar)で200℃未満、好ましくは150℃未満の沸点を有する全てのカルボン酸を含む。HClおよびリン酸等の不揮発性無機酸は除外される。pHの変化は、磁性ビーズからリンオキシ物質を放出させる。機構は、単純には、キレート部分のプロトン化であり、それによって錯体が破壊され、放出が生じる。リン化合物の放出を生じさせ得る別の方法は、金属の還元によるものである。これは、錯体の破壊も招く。したがって、一実施形態によれば、水性および/または有機溶出液は、金属の還元によってリン化合物の放出をもたらす少なくとも1種の還元剤を含有する。これはまた、結果として錯体を破壊させる。少なくとも1種の還元剤は、一実施形態において、有機還元剤の群から選択され、有機還元剤は、好ましくは、ジチオスレイトール、ジチオエリスリトール、メルカプトエタノールおよびこれらの還元剤の混合物からなる群から選択される。
【0048】
一実施形態によれば、水性および/または有機溶出液の添加は、還元雰囲気下で行い、または第2の錯体を含む水性および/または有機溶出液は、還元雰囲気、例えば水素雰囲気に曝露され、それによってリン化合物も放出され、すなわち、錯体が破壊される。
【0049】
一実施形態によれば、錯体を破壊するための方法は、水性および/もしくは有機溶出液が、緩衝剤、酸、還元剤およびこれらの助剤の2つ以上の混合物の群から選択される少なくとも1つの助剤を含有することならびに/または(h)に従って水性および/もしくは有機溶出液の添加が還元雰囲気下で行われることから混ぜ合わせられる。
【0050】
本発明は、以下の実施形態ならびに各従属および後方参考文献によって示される実施形態の組み合わせによって更に例示される。特に、さまざまな実施形態が挙げられるそれぞれの例において、例えば「実施形態1から4のいずれかに記載の・・・」等の用語との関係において、この範囲内の全ての実施形態は、当業者にとって明確に開示されていることを意味し、すなわち、この用語の表現は、当業者によって「実施形態1、2、3および4のいずれかに記載の・・・」と同義であると理解されるものである。
【0051】
1.
i)遷移金属カチオン;
ii)ヒドロキサメート基-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは水素またはC1-C5アルキル基である]、カテコレート基、カルボキシレート基、これらのキレート基の部分的または全体的にプロトン化された形態、ならびにこれらのキレート基および/またはこれらの部分的もしくは全体的にプロトン化された形態の混合物から選択される、少なくとも1つのキレート基、好ましくは1~4つのキレート基、より好ましくは2つまたは3つのキレート基を含むリガンド;
iii)磁性ビーズ
を含む錯体であって、磁性ビーズ(iii)とリガンド(ii)が共有結合されている、錯体。
【0052】
2.リガンド(ii)が、一般構造式(I)
【化5】
[式中、
---は、磁性ビーズ(iii)への結合であり;
Aは、水素原子、-X-Y-(CH-CH-(CHR-R基およびRからなる群から選択され;
n、mは、独立に、ゼロ、または1~5の整数であり;
p、qは、独立に、1~10の整数、好ましくは3~5の整数、より好ましくは3または4であり;
Xは、-CH-または-NH-であり;
Yは、-CH-または-C(=O)-であり;
、Rは、独立に、ヒドロキサメート基-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは、水素またはC1-C5アルキル基である]、カテコレート基、カルボキシレート基およびこれらのキレート基の部分的または全体的にプロトン化された形態からなる群から選択され;
は、水素原子または-NHZ基[式中、Zは保護基であり、好ましくは-C(=O)-O-CH-C基(ベンジルオキシカルボニル基、Cbz)またはtert-ブチルオキシカルボニル基(Boc)である]]
を有する、実施形態1に記載の錯体。
【0053】
3.リガンド(ii)が、一般構造式(Ia)
[式中、---およびAは、実施形態2と同じ意味を有する]
【化6】
を有する、実施形態1または2に記載の錯体。
【0054】
4.リガンド(ii)が、一般構造式(Ia1)または(Ia2)
【化7】
[式中、---およびZは、実施形態2と同じ意味を有する]
を有する、実施形態1から3のいずれか1つに記載の錯体。
【0055】
5.遷移金属カチオン(i)が、白金、ルテニウム、イリジウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛カチオンの群から選択され、より好ましくはFe2+、Fe3+、およびZr4+から選択され、より好ましくはZr4+である、実施形態1から4のいずれか1つに記載の錯体。
【0056】
6.遷移金属の空き配位位置が、溶媒分子、好ましくは水によって占められる、実施形態1から5のいずれか1つに記載錯体。
【0057】
7.磁性ビーズ(iii)が、ポリマーマトリクス(P)、少なくとも1種の磁性粒子(M)およびポリマーマトリクス(P)面(S)上に共有結合されている少なくとも1つの-(CH-NH---基[式中、---は、リガンド(ii)への結合であり、rは、ゼロ、または1~10の範囲の整数、好ましくは1~5の範囲の整数、より好ましくは2~4の範囲の整数、より好ましくは3である]を含み、ポリマーマトリクス(P)が、少なくとも1種の架橋(コ)ポリマーを含む、実施形態1から6のいずれか1つに記載の錯体。
【0058】
8.ポリマーマトリクス(P)が、スチレン、官能化スチレン、塩化ビニルベンジル、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、メチルメタクリレートおよびアクリル酸からなる群から選択される少なくとも2つの異なるモノマービルディングブロック、好ましくは以下のモノマー:
【化8】
[式中、rは、ゼロ、または1~10の範囲の整数、好ましくは1~5の範囲の整数、より好ましくは2~4の範囲の整数、より好ましくは3であり;
、R、R、RおよびRは、互いに独立して、-N、-NH、-Br、-I、-F、-NR’R’’、-NR’R’’R’’’、-COOH、-CN、-OH、-OR’、-COOR’、-NO、-SH、-SO、-R’(OH)x、-R’(COOH)x、-R’(COOR’’)x、-R’(OR’’)x、-R’(NH)x、-R’(NHR’’)x、-R’(NR’’R’’’)x、-R’(Cl)x、-R’(I)x、-R’(Br)x、-R’(F)x、R’(CN)x、-R’(N)x、-R’(NO)x、-R’(SH)x、-R’(SO)x、アルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、式中、R’、R’’およびR’’’は、互いに独立して、アルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、ハロゲン化物、水素、スルフィド、ニトレートおよびアミンからなる群から選択され、xは、1~3の範囲の整数である]
からなる群から選択される少なくとも2つの異なるモノマービルディングブロックの重合を含む方法によって得られるまたは得ることができるコポリマーを含む、実施形態7に記載の錯体。
【0059】
9.ポリマーマトリクス(P)の(コ)ポリマーが架橋されており、ポリマーマトリクス(P)の架橋(コ)ポリマーが、架橋剤である少なくとも1つのモノマービルディングブロックの存在下で実施形態8による少なくとも2つの異なるモノマービルディングブロックを共重合することによって得られまたは得ることができ、架橋剤が、好ましくは、ジビニルベンゼン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルベンジルオキシ)ヘキサン、ビス(ビニルベンジルオキシ)ドデカンおよびこれらの架橋剤のうちの2つ以上の混合物からなる群から選択され、好ましくは、架橋剤が、少なくともジビニルベンゼンを含む、実施形態7または8に記載の錯体。
【0060】
10.少なくとも1種の磁性粒子(M)が、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、金属リン化物、金属酸化物、金属キレートおよびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される化合物を含む、実施形態7から9のいずれかに記載の錯体。
【0061】
11.少なくとも1種の磁性粒子(M)が、金属酸化物または金属炭化物、より好ましくは酸化鉄、特にFe、α-Fe、γ-Fe、MnFe、CoFe、NiFe、CuFe、ZnFe、CdFe、BaFeOおよびSrFeOからなる群から選択される酸化鉄を含み、最も好ましくはFeである[式中、xおよびyは、合成方法によって変動し、xは、好ましくは1~3、より好ましくは2の整数であり、yは、好ましくは3または4である]、実施形態7から10のいずれか1つに記載の錯体。
【0062】
12.磁性粒子が超常磁性である、実施形態1から11のいずれか1つに記載の錯体。
【0063】
13.流体試料中の、好ましくはその構造中に構造要素-O-P(O)(=O)-O-を含む少なくとも1種のリンオキシ物質の含量を低減するための実施形態1から12のいずれか1つに記載の錯体の使用。
【0064】
14.少なくとも1種のリンオキシ物質が、リン脂質、ホスホジエステル、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、リン酸化ペプチドおよびリン酸化タンパク質からなる群から選択され、好ましくはリン脂質である、実施形態13に記載の使用。
【0065】
14.流体試料中の、少なくとも1種のリンオキシ物質、好ましくはリン脂質の含量を低減するための方法であって、
a)対象の少なくとも1つの被分析物および少なくとも1種のリンオキシ物質を含む流体試料を準備する工程と、
b)任意選択により、流体試料のpH値が2.5~12の範囲になるように流体試料のpHを調整し、それによってpHが調整された流体試料を得る工程と、
c)少なくとも1種の第1の錯体を、好ましくは懸濁液、より好ましくは水性懸濁液で添加する工程であり、錯体が、
i)遷移金属カチオン;
ii)ヒドロキサメート基-N(O)-C(=O)-R[式中、Rは水素またはC1-C5アルキル基である]、カテコレート基、カルボキシレート基、これらのキレート基の部分的または全体的にプロトン化された形態、ならびにこれらのキレート基および/またはこれらの部分的もしくは全体的にプロトン化された形態の混合物から選択される、少なくとも1つのキレート基、好ましくは1~4つのキレート基、より好ましくは2つまたは3つのキレート基を含むリガンド;
iii)磁性ビーズ
を含み、磁性ビーズ(iii)とリガンド(ii)が共有結合されており、それによって、第1の錯体および少なくとも1種のリンオキシ物質を錯化形態で含む、第2の錯体を含む懸濁液を形成する工程と、
d)磁場を印加することによって、(c)で得た懸濁液中の第2の錯体を空間的に分離し、それによって第2の錯体を実質的に含まない上清を得る工程と、
e)上清を除去し、それによって分離された第2の錯体を得る工程と、を含む、方法。
【0066】
16.実施形態15に記載の少なくとも1種のリンオキシ物質の含量を低減するための方法であって、
f)分離した第2の錯体に洗浄液を適用し、後続して磁場により第2の錯体を空間的に分離し、残りの上清を除去し、それによって更なる上清および更に分離された第2の錯体を得ることを更に含む、方法。
【0067】
17.g)(e)および(f)からの上清の溶融を更に含む、実施形態16に記載の方法。
【0068】
18.実施形態15から17のいずれか1つの方法から得られるまたは得ることができる上清。
【0069】
19.上清中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定のための、実施形態15から18のいずれか1つに記載の方法から得られるまたは得ることができる上清の使用。
【0070】
20.流体試料中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定のための方法であって、実施形態15から17のいずれか1つに記載の精製方法の工程を含み、(e)および/または(f)および/または(g)から得た上清中の少なくとも1つの被分析物の定性的および/または定量的測定の工程を更に含む、方法。
【0071】
21.流体試料中の少なくとも1種のリンオキシ物質の種類および/または量を決定するための方法であって、実施形態15から17のいずれか1つに記載の精製方法の工程を含み、
h)水性および/または有機溶出液を、(e)および/または(f)によって得られた(更に)分離された第2の錯体に添加することであって、この水性および/または有機溶出液が、酸、緩衝剤および/もしくは還元剤を含有し、かつ/または添加が、還元雰囲気下で行われ、それによって少なくとも1種のリンオキシ物質を、分離された第2の錯体から分離し、少なくとも1種のリンオキシ物質を含む溶液を得ることと、
j)(h)に従って得られる溶液中の少なくとも1種のリンオキシ物質の種類および/または量を決定することと、
を更に含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】Zr錯体形成磁性ビーズを用いた最終精製の前のスパイク血清のワークアップ工程を示す。
図2】アルドステロン試料のS/N比を示す。
図3】ノルトリプチリン試料のS/N比を示す。
図4】ベンゾイルエクゴニン試料のS/N比を示す。
図5】活性LPCが除去されたまたは除去されていない試料のLPC(18:0)面積を示す。
【実施例
【0073】
1.化学物質
【表1】
【0074】
2.実験計画
準浄化されたヒト血清から残留マトリクス、すなわち不純物を除去するZr錯体形成された磁性ビーズを合成し、後続して、i)LC-MS/MS法を用いて定量化される被分析物のシグナルとノイズとの比(S/N)の増加をもたらす傾向と、ii)重要なリン脂質であるリゾホスファチジルコリンを除去する傾向について評価した。
【0075】
LC-MS/MSによって測定したときのS/Nの増加は、対象の被分析物とは別の物質による干渉の低減を直接意味する。この技術は通常、LCによって大部分の妨害マトリクスを除去し、後続して規定のMRM遷移のために選択するが、定量化の精度および感度は、ほとんどの場合において依然として損なわれる。したがって、清浄な試料であるほど、イオン抑制を少なくすることができ、それによって高感度および高精度が可能になる。実際、系の堅牢性への清浄な試料の意味は非常に多い。LC-MS/MS系を測定する精度および感度の寿命を損なうことが知られる直接的測定パラメータの1つは、リン脂質である。これを達成するために、新規のビーズがこの物質を除去できると考えられるかを評価するために定量化された代表的な物質として1種のリゾホスファチジルコリン(18:0)(LPC18:0)を選択した。
【0076】
2.1 ジルコニウムキレートリガンドと磁性ビーズとの共役およびZrとのキレート化
好適なビーズとして、遊離アミノ基を有する磁性ビーズ1を選択した。標準的なペプチド化学を用いて、ジアセチル化形態のリガンド1、すなわちO-アセチルヒドロキサメート誘導体化オルニチンのジペプチドを遊離アミンに結合させた。後続して、ヒドロキシ基を脱保護し、リガンドは、Zrと錯体形成し(スキーム2参照)、それによってZr錯体形成された磁性ビーズを得た。
【0077】
【化9】
【0078】
スキーム1
ヒドロキサメートビーズをもたらすジアセチル化形態のリガンド1の磁性ビーズとの共役、リガンド1のヒドロキサメート基の脱保護、およびZr錯体形成された磁性ビーズをもたらすZr(IV)との錯体形成。
【0079】
2.2 Zr錯体形成された磁性ビーズの、リン脂質を除去し、LC-MS/MS定量化においてシグナルとノイズとの比(S/N)を改善する能力についての評価
Zr錯体形成された磁性ビーズの使用は、可能な限り多くの物質を(準浄化)生体マトリクスから除去するためであった。この実験の目的は、これらのビーズが、重要なマトリクス成分を除去でき、それによってi)臨床的に関連する被分析物の定量化(すなわち、S/N)およびii)系の堅牢性(少ない残留マトリクスは、LC-MS/MS系全体としての寿命を明らかに増大させる)を改善することを示すことであった。
【0080】
この目的を達成するために、2つの実験を実施した。第1の実験は、浄化された血清からS/Nを検査することに関し、第2の実験は、リゾホスファチジルコリン18:0(LPC18:0)を測定することに関していた。
【0081】
これらの被分析物を高度回収することが発見された濃縮ワークフローを使用して血清から浄化された臨床的に関連する被分析物を含有する十分な試料を得るために、以下に記載の方法に従って、100μL分のスパイク血清を5回ワークアップし、300μLの準浄化溶出液を生成した(図1も参照)。次いで、この溶出液を、もう1回水で希釈した(1:1)。次に、これらの混合物を9つの容器に一定分量に採った。容器1~3に、15μLの水を満たし、容器4~6には15μLの磁性ビーズ1を満たし、容器7~9には、Zr錯体形成された磁性ビーズを満たした。次に、管を簡単にボルテックスし、5分間静置した。後続して、上清をHPLCバイアルに移した。次に、試料をLC-MS/MSによって測定し、関連の被分析物のS/Nを決定し、LPC(18:0)含量をこれらの試料と比較した。
【0082】
3.例
比較例1-リガンド1およびそのジアセチル化形態それぞれ(O-アセチルヒドロキサメート誘導体化オルニチンのジペプチド)の合成
【化10】
【0083】
スキーム2
ジアセチル化形態のリガンド1の合成
ベンジルオキシカルボニル(Cbz)で保護されたオルニチンのジペプチドに、ベンジルアルデヒドを添加してイミンを形成した。次に、mCPBAを使用して得られた生成物を酸化した後に加水分解を行い、後続してアセチル化させた。得られた生成物、すなわちジアセチル化形態のリガンド1それ自体を使用し、標準的なペプチド化学を用いて、その遊離カルボン酸を介して適当なビーズの遊離アミンに結合させることができる。
【0084】
実施例1-アミド結合を介してO-アセチルヒドロキサメート誘導体化オルニチンのジペプチドに結合された磁性ビーズ(ヒドロキサメートビーズ)の合成
30mgの磁性ビーズ1に、約9μmolのジアセチル化形態のリガンド(ここでは1)を結合させてよい(1kDaの分子量と仮定する)。このプロトコルに基づいて、30mgの磁性ビーズ1に、DMF(0.25ml)を添加して攪拌した。これに、ジアセチル化形態のリガンド1(20.8mg、4当量、36μmol)、HOBt(5mg、2当量、18μmol)、DIC(5.6μl、4当量、36μmol)、DMF(0.25ml)中のN-メチルピペリジン(4.3μl、2当量、18μmol)を添加し、フラスコを2時間回転することによって穏やかに混合した。
【0085】
このアミド抱合の後、磁場を印加することによって、反応混合物を共役ビーズ(アミド結合によってリガンド1と連結した磁性ビーズ1)から除去した。共役ビーズをMeOHで3回洗浄し、水で3回洗浄し、更にMeOHで2回洗浄した。次いで溶媒を除去し、共役ビーズをMeOH中6%のN-メチルピペリジン中に再懸濁させた。再度、共役ビーズをMeOHで3回洗浄し、水で3回洗浄した。次に、溶媒を除去し、共役ビーズを真空下で乾燥し、30mgの共役ビーズを得た。
【0086】
反応後にビーズから取り出された使用済み反応混合物(0.5ml)を、未反応ジペプチドの存在について評価した。MeOH(1ml)中6%DIPEAを添加し、30分間静置した。これに、FeClを添加し、黄色を付与した。
【0087】
遊離アミンビーズ、すなわち磁性ビーズ1と接触させなかった反応混合物は、陰性対照として機能した。この反応混合物は、同じ処理を経た(すなわち、MeOH中の6%DIPEAを添加し、混合物を30分間静置し、後続してFeClを添加した)。この混合物の色は暗褐色であった。これは、全部ではないがほとんどの、遊離アミンビーズと反応させたジペプチドが反応したことを示す。すなわち、未反応ジペプチドは、Fe3+と錯体形成したと考えられ、陰性対照の場合と同様に褐色になった。
【0088】
実施例2-実施例1からのビーズ(Zr錯体形成された磁性ビーズ)のジルコニウム錯体の合成
ヒドロキサメートビーズ(30mg)を水(1ml)中に懸濁させ、室温で2時間回転することによってZrOCl(250μl、水中1M)と反応させた。磁場を印加することによって反応混合物を共役ビーズから除去した。次いで共役ビーズを水で3回洗浄した。次いでビーズを1mlの水中に再懸濁させ、30mg/mlのZr錯体形成された磁性ビーズを生成した。
【0089】
実施例3-スパイク血清のワークアップおよびZr錯体形成された磁性ビーズを用いた最終精製
標準的なビーズ評価のワークフローは、以下のとおりであった(図1参照)。対象の被分析物がスパイクされた試料(詳細は表1参照)を管に満たした(工程1)。使用した被分析物は、アルドステロン、ベンゾイルエクゴニンおよびノルトリプチリンであった。次に、混合物のpHを設定するpH調整試薬を添加した(工程2)。これに、実施例2からのZr錯体形成された磁性ビーズのビーズ懸濁液を添加し、混合物を振り、5分間インキュベートした(工程3)。後続して、磁場を印加し、磁性ビーズを容器の側面から引き抜き(工程4)、上清を除去した(工程5)。次に、洗浄液を添加し、混合物を振った(工程6)後、ビーズを再度、上清から分離し、次いでこれを再度除去した。この手順を更に1回繰り返した。後続して、溶出液を添加し(工程7)、混合物を振り、更に5分間インキュベートした。次に、ビーズを上清から分離し、これを次に、別のバイアルに移した(工程8)。これに、血清試料にスパイクされた化合物の内部標準を有する混合物を添加した(工程9)。詳細を以下の表1に示す。したがって、このワークフローを用いて、被分析物の濃縮または希釈は達成されなかった。比較のために、同じ手順を遊離磁性ビーズ1を用いておよびビーズの添加なし(対照)で実施した。
【表2】
【0090】
3.1 ビーズ評価、試薬およびツール
被分析物および対照のLPC(18:0)含量のS/N評価では、Agilent Infinity IIマルチサンプラーおよびHPLCシステムを、Agilent Poroshell 120 SbAq(2.1×50mm、2.7μm、シリアル番号USFAH01259)またはThermo Fisher Hypercarb(2.1×50mm、3μm、シリアル番号10517483)カラムと組み合わせて使用した。移動相に関しては、0.1%ギ酸を有する水を溶媒Aとして使用し、アセトニトリルを溶媒Bとして使用した。MS/MSとしては、イオン源として電子スプレーを使用するAB-Sciex6500+TripleQuadを使用した。集積化のためには、MultiQuantソフトウェアツールを使用した。次にデータをインポートし、JMP SASソフトウェアで解析した。
【0091】
3.2 アルドステロン、ベンゾイルエクゴニンおよびノルトリプチリンのS/N比較
ビーズ機能に対する一基準は、臨床的に関連する被分析物のS/Nの有意な改善である。これを達成するために、種々の試料のS/Nをアルドステロンについて比較した。実施例2からのZr錯体形成された磁性ビーズを用いた処理は、未処理の試料と比較したとき、約2倍のS/N増加につながることを示す。「遊離アミンビーズ」は、リガンド抱合体およびZr錯体形成に使用された遊離アミノ基を有する磁性ビーズ1を指す。この遊離アミンビーズはまた、より良好なS/Nを可能にする試料を生成するが、実施例2のZr錯体形成磁性ビーズはこのビーズも打ち負かすことが観察される。結果を図2にグラフで示す。他の被分析物ノルトリプチリン(図3)およびベンゾイルエクゴニン(図4)についても同様の結果が得られた。
【0092】
3.3 LPC(18:0)比較
リゾホスファチジルコリン(18:0)(LPC(18:0))含量の比較の結果を図5に示す。実施例2のZr錯体形成磁性ビーズで処理された試料は、有意に少ないLPC(18:0)を含有していたことが分かる。
【0093】
マトリクス物質を除去した試料物質の除去は、S/Nに対してプラス効果を有していたことは明らかである。これは、被分析物のより高感度および高精度の定量化を可能にする。。試料を、新規のビーズタイプ、すなわちZr錯体形成磁性ビーズで処理することによって、少なくとも1種のリン脂質が除去されることが示された。
【0094】
引用文献
Bylda C.,Thiele,R.,Kobold,U.,Volmer,D.A.,Analyst,2014,139,2265~2276
Guerard F.,Lee Y.S.,Tripier R., Szajek L.P.,Deschamps J.R.,Brechbiel M.W.,Chem.Commun.,2013,49:1002~1004
Guerard F.,Lee,Y.S.,Brechbiel,M.W.,Chemistry,2014,20(19):5584-5591.
図1
図2
図3
図4
図5