(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】心室補助デバイスの制御
(51)【国際特許分類】
A61M 60/546 20210101AFI20240701BHJP
A61M 60/237 20210101ALI20240701BHJP
A61M 60/569 20210101ALI20240701BHJP
A61M 60/135 20210101ALI20240701BHJP
A61M 60/174 20210101ALI20240701BHJP
A61M 60/416 20210101ALI20240701BHJP
A61M 60/816 20210101ALI20240701BHJP
【FI】
A61M60/546
A61M60/237
A61M60/569
A61M60/135
A61M60/174
A61M60/416
A61M60/816
(21)【出願番号】P 2022139624
(22)【出願日】2022-09-02
(62)【分割の表示】P 2019520709の分割
【原出願日】2017-10-16
【審査請求日】2022-09-29
(32)【優先日】2016-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルステン
(72)【発明者】
【氏名】アボウルホーセン ワリド
(72)【発明者】
【氏名】ニックス クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ルンツェ カトリン
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-030774(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0107658(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0045772(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0306290(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0073203(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/546
A61M 60/237
A61M 60/569
A61M 60/135
A61M 60/174
A61M 60/416
A61M 60/816
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
速さレベルを設定可能な心室補助デバイス、VAD(50)用の制御デバイス(100)であって、前記制御デバイス(100)は、前記VAD(50)による心臓補助を受けている患者(P)の循環系の生理学的状態と関連する少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)を受信するように構成された入力部(101)を備え、前記制御デバイス(100)は、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの1つ以上に基づき心臓(H)の少なくとも1つの特性パラメータの実際値(EDLVP;FG)を導出するように、および、生理学的に生じる変動の効果が排除または低減されている、前記少なくとも1つの特性パラメータの精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)を提供するように構成されており、前記制御デバイス(100)はさらに、更新された速さレベルの設定値(n
VAD
set)を出力するように構成された出力部(105)を備え、前記制御デバイス(100)は、前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)および事前設定可能な設定点値(EDLVP
set;FG
set)に基づいて前記更新された設定値(n
VAD
set)を生成するように構成され、前記少なくとも1つの特性パラメータ
の精緻化された実際値(EDLVP
*
;FG
*
)が前記事前設定可能な設定点値(EDLVP
set;FG
set)を達成するように前記VAD(50)の前記速さレベルを
、前記更新された設定値(n
VAD
set
)に基づいて調整することによって、前記少なくとも1つの特性パラメータ
の精緻化された実際値(EDLVP
*
;FG
*
)を制御する閉ループ制御を実装することを特徴とする、制御デバイス(100)。
【請求項2】
請求項1に記載の制御デバイス(100)であって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの前記1つ以上と、前記実際値(EDLVP、FG)と、のうちの少なくとも一方を処理して、前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)を提供するように構成されていることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御デバイス(100)であって、現在の実際値(EDLVP;FG)および更なる実際の履歴値を含む移動時間間隔内の、複数の実際値(EDLVP;FG)を処理するように構成されていることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)は、複数の実際値(EDLVP;FG)の移動平均であることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)は、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)の移動平均に基づいていることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)と、実際の履歴値(EDLVP;FG)と、換気圧の測定信号と、のうちの少なくとも1つに基づいて、呼吸または換気回数(VF)を決定するように構成されていることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、
排除すべき前記生理学的に生じる変動の周期性と関連するサイズを有する移動平均フィルタを適用することによって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの前記1つ以上または実際値(EDLVP;FG)のシークエンスを処理すること、および排除すべき前記生理学的に生じる変動と関連する特徴付けカットオフ周波数を有するハイパスフィルタを適用することによって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの前記1つ以上または前記実際値(EDLVP;FG)のシークエンスを処理すること、のうちの少なくとも一方を実行するように構成されていることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの少なくとも1つは、前記患者の前記循環系における少なくとも1つの圧力、すなわち、左室圧(LVP)、大動脈圧(AoP)、中心静脈圧(CVP)、および肺動脈圧(PAP)のうちの少なくとも1つであることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの少なくとも1つは、前記患者のECG信号であることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記少なくとも1つの特性パラメータは、心周期の所定の事象における血管圧の特定の値、前記心周期の所定の事象における心内圧の特定の値、および1回の心周期中の2つの特定の事象における2つの心内圧の間の圧力勾配(SC、DR、FG)、のうちの少なくとも1つであることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記少なくとも1つの特性パラメータは、僧帽弁の開放(OMV)と僧帽弁の閉鎖(CMV)との間の心周期の心臓拡張相中の左室圧(LVP)の充満勾配
【数1】
(FG)であり、これは
【数2】
として定義され、前記制御デバイス(100)は、前記充満勾配
【数3】
が正でありかつゼロに近くなるかまたはそこに維持されるように、前記更新された設定値(n
VAD
set)を生成するように構成されていることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記少なくとも1つの特性パラメータは、僧帽弁の開放(OMV)と僧帽弁の閉鎖(CMV)との間の心周期の心臓拡張相中の左室圧(LVP)の充満勾配
【数4】
(FG)であり、これは
【数5】
として定義され、前記制御デバイス(100)は、前記充満勾配
【数6】
がゼロになるかまたはゼロに維持されるように、前記更新された設定値(n
VAD
set)を生成するように構成されていることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、
前記少なくとも1つの特性パラメータ(EDLVP;FG)のうちの1つの出現と連続する再出現との間の時間間隔に基づいた実際の心拍数と、
前記VAD(50)が生み出す実際の血流量と、のうちの少なくとも一方を計算するように、さらに構成されていることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)と前
記設定点値(EDLVP
set;FG
set)との間に所定の差が存在するたびに、更新された設定値(n
VAD
set)を生成すること、
新しい精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)が生成されたときに、前記設定値(n
VAD
set)を更新すること、および
前記設定値(n
VAD
set)を所定の頻度で周期的に更新すること、のうちの少なくとも1つを実行するように構成されている、
ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)をディスプレイ(210)上に表示すること、および、前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)を出力部(104)において提供することのうちの少なくとも一方を実行するように、構成されていることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)を備える心臓補助用のVAD(50)。
【請求項17】
請求項16に記載のVAD(50)であって、無拍動型回転式血液ポンプであることを特徴とするVAD(50)。
【請求項18】
請求項17に記載のVAD(50)であって、前記血液ポンプはカテーテルベースのものであることを特徴とするVAD(50)。
【請求項19】
請求項16から18のいずれか1項に記載のVAD(50)であって、
前記VADの動く部品または回転する部品は、低重量の材料で作成されることによって低い質量を備えることと、駆動手段が、モータによって駆動される部品の近くに、または隣接して配置されることと、前記モータによって駆動される部品と前記モータの結合部または接続部は短いことと、前記VADの前記動く部品または前記回転する部品は全て小径であることと、のうちの1つ以上を特徴とする低慣性のデバイスであることを特徴とする、VAD(50)。
【請求項20】
請求項19に記載のVAD(50)であって、前記動く部品、前記回転する部品、および前記モータによって駆動される部品のうちの少なくとも1つはロータ又は羽根車であることを特徴とするVAD(50)。
【請求項21】
請求項19または20に記載のVAD(50)であって、前記低重量の材料はプラスチックであることを特徴とするVAD(50)。
【請求項22】
請求項19から21のいずれか1項に記載のVAD(50)であって、前記駆動手段は電動モータであることを特徴とするVAD(50)。
【請求項23】
請求項19から22のいずれか1項に記載のVAD(50)であって、当該VAD(50)がカテーテルベースである場合、前記駆動手段は駆動式の回転ケーブルを有さないことを特徴とするVAD(50)。
【請求項24】
請求項19から23のいずれか1項に記載のVAD(50)であって、前記結合部または前記接続部は軸であることを特徴とするVAD(50)。
【請求項25】
速さレベルを設定可能な心室補助デバイス、VAD(50)の速さレベルを制御するため
の方法であって、
患者(P)の循環系の生理学的状態と関連する少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)を受信することと、
前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの1つ以上に基づいて心臓(H)の少なくとも1つの特性パラメータの実際値(EDLVP;FG)を導出することと、
前記実際値(EDLVP;FG)または前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの前記1つ以上を処理して、生理学的に生じる変動が排除または低減されている精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)を提供することと、
前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)および事前設定可能な設定点値(EDLVP
set;FG
set)に基づいて、前記速さレベルの前記更新された設定値(n
VAD
set)を生成することと、を含み、
前記少なくとも1つの特性パラメータ
の精緻化された実際値(EDLVP
*
;FG
*
)が前記事前設定可能な設定点値(EDLVP
set;FG
set)を達成するように前記VAD(50)の前記速さレベルを
、前記更新された設定値(n
VAD
set
)に基づいて調整することによって、前記少なくとも1つの特性パラメータ
の精緻化された実際値(EDLVP
*
;FG
*
)が閉ループ制御工程において制御される、ことを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの前記1つ以上または前記実際値(EDLVP、FG)の時系列を処理して、前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)を提供することをさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項25または26に記載の方法であって、現在の実際値(EDLVP;FG)および更なる実際の履歴値を含む移動時間間隔内の複数の実際値(EDLVP;FG)を処理することをさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項25から27のいずれか1項に記載の方法であって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)、連続した実際値(EDLVP;FG)、換気圧の測定信号、のうちの1つ以上に基づいて、前記患者(P)の呼吸または換気回数(VF)を決定することをさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項25から28のいずれか1項に記載の方法であって、排除または低減すべき前記生理学的に生じる変動の周期性と関連するサイズを有する移動平均フィルタを適用することによって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの前記1つ以上もしくは実際値(EDLVP;FG)のシークエンスを処理すること、
排除または低減すべき前記生理学的に生じる変動と関連する特徴付けカットオフ周波数を有するハイパスフィルタを適用することによって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの前記1つ以上もしくは実際値(EDLVP;FG)の前記シークエンスを処理すること、のうちの少なくとも一方をさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項25から29のいずれか1項に記載の方法であって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの少なくとも1つは、前記患者の循環系における少なくとも1つの圧力、すなわち、左室圧(LVP)、大動脈圧(AoP)、中心静脈圧(CVP)、肺動脈圧(PAP)、のうちの少なくとも1つである、ことを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項25から29のいずれか1項に記載の方法であって、前記少なくとも1つの測定信号(LVP
meas)のうちの少なくとも1つは、前記患者のECG信号である、ことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項25から31のいずれか1項に記載の方法であって、前記少なくとも1つの特性パラメータは、心周期の所定の事象における血管圧の特定の値、心周期の所定の事象における心内圧の特定の値、1回の心周期中の2つの特定の事象における2つの心内圧の間の圧力勾配(SC、DR、FG)、のうちの少なくとも1つである、ことを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項25から32のいずれか1項に記載の方法であって、前記少なくとも1つの特性パラメータは、僧帽弁の開放(OMV)と僧帽弁の閉鎖(CMV)との間の心周期の心臓拡張相中の左室圧(LVP)の充満勾配
【数7】
(FG)であり、これは
【数8】
として定義され、制御デバイス(100)は、前記充満勾配
【数9】
(FG)が正でありかつゼロに近くなるかまたはそこに維持されるように、前記更新された設定値(n
VAD
set)を生成するように構成されている、ことを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項25から32のいずれか1項に記載の方法であって、前記少なくとも1つの特性パラメータは、僧帽弁の開放(OMV)と僧帽弁の閉鎖(CMV)との間の心周期の心臓拡張相中の左室圧(LVP)の充満勾配
【数10】
(FG)であり、これは
【数11】
として定義され、制御デバイス(100)は、前記充満勾配
【数12】
(FG)がゼロになるかまたはそこに維持されるように、前記更新された設定値(n
VAD
set)を生成するように構成されている、ことを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項25から34のいずれか1項に記載の方法であって、前記少なくとも1つの実際値(EDLVP;FG)のうちの1つの出現と連続する再出現との間の時間間隔に基づいて実際の心拍数を計算すること、
前記VAD(50)が生み出す実際の血流量を計算すること、のうちの少なくとも一方をさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項25から35のいずれか1項に記載の方法であって、前記精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)と前
記設定点値(EDLVP
set;FG
set)との間に所定の差が存在するたびに、前記設定値(n
VAD
set)を更新すること、
新しい精緻化された実際値(EDLVP
*;FG
*)が生成されたときに前記設定値(n
VAD
set)を更新すること、
前記設定値(n
VAD
set)を所定の頻度で周期的に更新すること、のうちの少なくとも1つをさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項25から36のいずれか1項に記載の方法であって、排除または低減すべき前記生理学的に生じる変動は、前記患者(P)の胸腔内の圧力変動、前記患者(P)の自律的なまたは補助を受けた呼吸が引き起こす圧力変動、前記患者の大動脈内の大動脈内バルーンポンプが引き起こす圧力変動、前記患者に適用される外部型カウンターパルゼーション療法が引き起こす圧力変動、前記患者の体位の変化が引き起こす圧力変動のうちの、少なくとも1つと相関していることを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項1から15のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、排除または低減すべき前記生理学的に生じる変動は、前記患者(P)の胸腔内の圧力変動、前記患者(P)の自律的なまたは補助を受けた呼吸が引き起こす圧力変動、前記患者の大動脈内の大動脈内バルーンポンプが引き起こす圧力変動、前記患者に適用される外部型カウンターパルゼーション療法が引き起こす圧力変動、前記患者の体位の変化が引き起こす圧力変動のうちの、少なくとも1つと相関していることを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項39】
請求項38に記載の制御デバイス(100)であって、前記患者の体位の変化はトレンデレンブルグ体位への変化であることを特徴とする制御デバイス(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心室補助デバイスの分野に関する。特に、本発明は、血管内ロータリー血液ポンプなどの心室補助デバイス(VAD)を制御するための制御デバイス、および、VADを制御するための制御デバイスを備えるVADに関する。
【背景技術】
【0002】
最善の医療処置を行っても患者の心臓のポンプ機能が不十分である場合、循環系をVADで補助することが可能である。VADは、心臓の心室と並行して血液を送達することによって、心臓の心室の不十分なポンプ機能を補助することができ、または置換することさえできる。この目的のために、VADは通常、入口で血液循環から血液を取り込み、これを出口で駆出して血液循環に戻すように構成されている。これを行う際、VADは、出口と入口との間の、すなわちVADの後負荷と前負荷との間の、実際の圧力差を克服する必要がある。
【0003】
VADの1つの例示的な実施形態は、カテーテルベースのロータリー血液ポンプであり、これは、回復するまで心臓機能を補助するために、数時間または数日の間、心臓内に直接設置されるかまたは埋め込まれるように構成されている。例えば、米国特許第5911685A号は、無拍動型の血管内ロータリー血液ポンプを開示している。ただし、他の種類のVADも存在する。米国特許第5911685A号により知られている血管内ロータリー血液ポンプは、心臓内に血液ポンプが埋め込まれてから、それぞれの位置でそれぞれ周囲の血圧を測定するための、2つの圧力センサを備える。
【0004】
例えば、集中治療室において、VADの補助を受けている心臓機能が不十分な患者に、換気を行う、すなわち呼吸の補助を行う場合がある。外部との換気により呼吸補助が行われ、この結果、患者の肺律動的な膨張および収縮が生じる。この外部との換気により、胸腔内圧も相応に変化する。胸腔内圧の変化の結果は、それに応じた心血管のおよび/または心臓内の心臓圧力の変動をもたらす。特に、吸気(膨張)中は呼気(収縮)中よりも胸腔内圧が高い。
【0005】
通常の治療室または冠疾患集中治療室において、心臓補助を受けている意識のある患者は、自律的に呼吸する場合がある。その場合、上述した効果が逆に生じる、すなわち、吸気中の胸腔内圧は、呼気中よりも低い。
【0006】
上で検討した例示的なコンテキスト(context)では、記載した圧力変化の結果、測定される血管圧および/または心内圧に変動が生じることが見出された。有り得る結果として、これらの変動が、血液ポンプ速さの制御の安定性に影響する場合がある。さらに、負圧などの事象の検出または回避が妨げられる場合がある。これらは、監視される血管測定信号および/または心臓内測定信号の変動がVADの制御にどのように影響し得るかについての、ただ2つの具体的な例に過ぎないことが留意される。さらに、有り得る原因として記載した補助によるまたは自律的な呼吸も、一例に過ぎない。生理学的に生じる変動の他の例としては、大動脈内バルーンポンプ療法によって、外部型カウンターパルゼーション療法によって、患者の体の配置を例えばトレンデレンブルグ体位へと変えることによって、生じる圧力変動が考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
血管内血液ポンプなどのVAD用の改善された制御デバイス、およびこの制御デバイスを備える対応するVADであって、VADによる心臓補助を受けている患者から得られる1つ以上の測定信号において生理学的に生じる変動が、VADの制御に、特に、回転式血管内血液ポンプの回転速さなどVADが生み出す血流量と関連するVADの速さの制御に及ぼす効果に関して改善されている、制御デバイスおよびVADが必要とされている。さらに、実際値を導出する元になる1つ以上の測定信号の、生理学的に生じる変動の効果が排除または少なくとも低減される、心臓の少なくとも1つの特性パラメータの精緻化された実際値を取得するための方法を提供することが望まれている。さらに、精緻化された実際値に基づいてVADの速さレベルを制御するための方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、独立請求項の特徴によって達成される。それぞれの従属請求項において、有利な実施形態および更なる発展形態が規定される。
【0009】
本明細書に提示する改善の基本的な発想は、VAD速さ、例えば血管内血液ポンプの回転式ポンプの速さの制御に使用できる心臓の少なくとも1つの特性パラメータの導出される実際の値の、生理学的に生じる変動を、排除または少なくとも低減することである。特に、閉ループ制御によって制御される制御されたVAD速さの不安定さ、例えば揺らぎを、回避または少なくとも低減できる。例えば、VADによる心臓補助を受けている患者の心臓の特性パラメータとして、拡張終期の左室圧を使用してもよい。これに基づき、VAD速さは、閉ループ制御によって、監視される拡張終期の左室圧が所望の設定点値を達成するように、自動的に調整されてもよい。また、VAD速さの制御において、他の特性パラメータを使用してもよい。測定信号には生理学的に生じる変動が存在し、これによりそこから導出される特性パラメータの「真の(true)」実際値が不明確になることが見出された。このことは、例えば、制御されるVAD速さの不安定さをもたらす場合がある。例えば、1つの特性パラメータとして監視される拡張終期の左室圧は、患者の自律的なまたは補助を受けた呼吸の影響を受け、この結果、VAD速さの制御もまた影響を受ける。これらの生理学的に生じる変動を排除または少なくとも低減することにより、制御されるVAD速さがより安定する。このように、心臓の少なくとも1つの特性パラメータの「真の」実際値を利用可能にすることが提案されている。
【0010】
明晰にするために、本明細書では以下の定義を使用する。
【0011】
用語「心臓の特性パラメータ」は、心臓の状態を例えば、過負荷もしくは除荷などの負荷状態および/または弱っている、強健である、もしくは回復しているなどの生理学的状態に関して特徴付けることのできる、生理学的信号から導出される特定の値として理解すべきである。
【0012】
「循環系」は、血液が循環することを可能にする器官系である。人の循環系の必須の構成要素は、心臓、血液、および血管である。循環系は、肺循環、すなわち血液に酸素が供給される肺を通る「ループ」と、体循環、すなわち酸素供給された血液を提供するための、体のそれ以外の部分を通る「ループ」と、を含む。
【0013】
第1の態様は、設定可能な速さレベルを備える、心室補助デバイス(VAD)用の制御デバイスに関し、その特定の実施形態および更なる発展形態を、本明細書において以下で検討する。「設定可能な速さレベル」は、個別の速さレベル、例えば、回転式血液ポンプの特定の個別の回転速度、または、最低速さおよび最高速さによって規定される範囲内の連続的に設定可能な速さレベルであってもよい。速さレベルは、VADが生み出す血流量、およびしたがって、心臓に提供される補助の量と関連している。しかしながら、VADの入口と出口との間の実際の圧力差が、特定のVAD速さにおいて生み出される血流量にも影響を及ぼしているので、VAD速さと生み出される血流量との間には、必ずしも直接的な関係は存在しない。
【0014】
制御デバイスは、少なくとも1つの測定信号を受信するように構成された、少なくとも1つの入力部を備える。少なくとも1つの測定信号は、VADによる心臓補助を受けている患者の循環系と関連する少なくとも1つの生理学的な値(これは量とも呼ばれる)についての情報を表すか、またはこれを含む。
【0015】
制御デバイスは、少なくとも1つの測定信号から心臓の少なくとも1つの特性パラメータの実際値を導出するように構成されている、すなわち、少なくとも1つの特性パラメータはまた、2つ以上の測定信号から導出されてもよい。
【0016】
制御デバイスは、生理学的に生じる変動が排除または低減されている、少なくとも1つの特性パラメータの精緻化された実際値を提供するようにさらに構成されている。精緻化された実際値は、上記の検討によれば、少なくとも1つの特性パラメータが基づいている1つ以上の測定信号に関する、生理学的に生じる変動によって不明確になっていない「真の」実際値である。
【0017】
制御デバイスは、VADの速さレベルの更新された設定値を出力するように構成された、出力部をさらに備える。
好ましくは、制御デバイスは、少なくとも1つの特性パラメータの現在の精緻化された実際値およびその事前設定可能な設定点値に基づいて、更新された設定値を生成するように構成されている。例えば、この目的のために、制御デバイスは、監視される少なくとも1つの特性パラメータが所定の設定点値を達成するようにVADの速さレベルを調整することによって、少なくとも1つの特性パラメータが制御される、閉ループ制御を実装してもよい。
【0018】
好ましくは、制御デバイスは、少なくとも1つの測定信号および/または少なくとも1つの特性パラメータの実際値を処理して、少なくとも1つの特性パラメータの精緻化された実際値を提供するように構成されている。
【0019】
この目的のために、制御デバイスは、移動時間間隔内で特性パラメータの複数の実際値を処理するように構成されていてもよい。時間間隔は好ましくは、特性パラメータの現在の実際値および更なる履歴値を含む、すなわち、時間間隔は過去において始まり特性パラメータの現在の実際値の時点で終わる。好ましくは、時間間隔は、制御デバイスの使用者によって設定可能であるか、または制御デバイスによって調整可能である。
【0020】
少なくとも1つの特性パラメータの複数の実際値は、特性パラメータの実際値の時系列として記憶されてもよい。この時系列は、少なくとも1つの特性パラメータの限定された数の実際値を含んでもよい。好ましくは、特性パラメータの限定された数の実際値は、現在の移動時間間隔に属する値に対応していてもよく、この値は、特性パラメータの現在の実際値、および現在の時間間隔内の更なる履歴値または過去値を含む。時間間隔は現在の実際値で終わり、事前に定義された時間枠だけ過去へと戻る。時間間隔内の更なる履歴値は、時間間隔内に位置付けられている少なくとも1つの特性パラメータの全ての実際値を含んでもよい。ただし、時系列はただ、時間間隔内の特性パラメータの値を、1つ置き、2つ置き、または4つ置き、などで含むだけの場合もある。このように、時系列は、連続した実際値の列、または実際値のシークエンスを含む。
【0021】
特定の実施形態では、特性パラメータの現在の精緻化された実際値は、特性パラメータの現在の実際値と、移動時間間隔内の更なる履歴値または過去値との、移動平均値である。追加としてまたは別法として、特性パラメータの現在の精緻化された実際値は、特性パラメータを導出する元になる少なくとも1つの測定信号の移動平均値に基づいていてもよい。
【0022】
特定の用途においては、特性パラメータにおいて生理学的に生じる変動は、患者の胸腔内の圧力変動によって引き起こされる場合がある。圧力変動は、患者の補助を受けたまたは自律的な呼吸に起因するものであってもよい。より具体的には、患者が肺の換気により呼吸補助を受けているとき、変動は、呼吸回数または換気回数と相関している場合がある。変動は他の理由によっても生じる場合がある。例えば、生理学的に生じる変動としては、大動脈内バルーンポンプ(IABP)によって、外部型カウンターパルゼーション(ECP)療法によって、患者の体の位置の変化、例えば体をトレンデレンブルグ体位に変えることによって、生じる圧力変動が考えられるが、これらは例をさらにいくつか挙げたに過ぎない。
【0023】
手短に言えば、IABPは、心筋の酸素灌流を向上させると同時に心拍出量を高める機械的デバイスである。IABPは、大動脈内に配設された円筒形バルーンから成っていてもよく、その膨張および収縮は、心臓の拍動と逆の関係で拍動するように制御される。ECPは、患者に対して脚部に装着した空気カフにより行われる処置であり、これらのカフは、患者の心電図に基づくタイミングで膨張および収縮するようになっており、理想的には、心臓拡張期の開始時に膨張し、心臓収縮期の開始時に収縮する。ECPはIABPと似ているが、これは、ECPが、心臓拡張期中心臓が弛緩している間に、大動脈内の圧力を高めるからである。トレンデレンブルグ体位では、体は足部が頭部よりも15~30度高くなるようにして平らに仰向けに横たえられるが、対照的に逆トレンデレンブルグ体位では、体は反対方向に傾けられる。
【0024】
この目的のために、制御デバイスは、少なくとも1つの測定信号および/または特性パラメータの実際の履歴値に基づいて、排除または少なくとも低減すべき生理学的に生じる変動と相関している頻度、例えば呼吸または換気回数を決定するように構成されていてもよい。例えば、呼吸または換気回数は、測定信号において最小値または最大値が出現する時間の間隔を測定することによって検出されてもよい。例えば、少なくとも1つの測定信号または少なくとも1つの特性パラメータの連続する最大値(または最小値)の間の時間間隔によって、換気回数VFを(またはこれに対応して、同様に呼吸回数を)計算してもよい。
【0025】
例えば、測定信号が左室圧LVPである場合、特性パラメータは、拡張終期の左室圧EDLVPとして定義される。この場合、実際の呼吸回数VFは、使用される規準値、例えば左室圧LVPまたは拡張終期の左室圧EDLVPの出現の時点tk-1、および再出現の時点tkにおいて、
VF=(tk、EDLVP、max-tk-1、EDLVP、max)-1、および/または
VF=(tk、LVP、max-tk-1、EDLVP、max)-1、
として決定することができる。
【0026】
生理学的に生じる変動を排除または低減するために、制御デバイスは、移動平均フィルタを適用することによって、少なくとも1つの測定信号のうちの1つ以上および/または少なくとも1つの特性パラメータの実際値のシークエンスを処理するように構成されていてもよい。移動平均フィルタは、排除するべき生理学的に生じる変動の周期性と関連するサイズを有してもよい。別法としてまたは追加として、制御デバイスは、排除すべき生理学的に生じる変動と関連する特徴付けカットオフ周波数を有するハイパスフィルタを適用することによって、少なくとも1つの測定信号のうちの1つ以上および/または少なくとも1つの特性パラメータの実際値のシークエンスを処理するように構成されていてもよい。
【0027】
例えば、生理学的に生じる変動が呼吸と関連している例示的な用途では、変動の周期性は、呼吸回数または換気回数と相関している。このため、移動平均フィルタは、呼吸回数または換気回数と関連するサイズを有し得る。すなわち、移動平均フィルタのサイズは、時間間隔を画定し得る。
【0028】
少なくとも1つの測定信号として、患者の循環系における少なくとも1つの圧力を使用してもよい。例えば、少なくとも1つの測定信号は、患者の左室圧LVP、大動脈圧AoP、中心静脈圧CVP、肺動脈圧PAP、およびECG信号のうちの少なくとも1つであってもよいが、これらは好ましい例をいくつか挙げたに過ぎない。
【0029】
少なくとも1つの特性パラメータとして、心周期の所定の事象における血管血圧および/または心臓内血圧の、特定の値を使用してもよい。
【0030】
更なる発展形態では、少なくとも1つの特性パラメータは、心周期の所定の事象における血管血圧および/または心臓内血圧のうちの、少なくとも2つの特定の値から導出されてもよい。例えば、少なくとも1つの特性パラメータは、1回の心周期中の2つの特定の事象における2つの心内圧の間の圧力勾配であってもよい。
【0031】
例えば、少なくとも1つの特性パラメータは、ここでは僧帽弁の開放の時点t
OMVと連続する僧帽弁の閉鎖の時点t
CMVとの間に画定される、心周期の心臓拡張相中の左室圧LVPの充満勾配FG
【数1】
であってもよく、これは
【数2】
と表され、ここで、jは特定の心周期を表す、すなわち、j+1は心周期jに続く心周期を示し、j=1、2、3、…である。
【0032】
少なくとも1つの特性パラメータとしての充満勾配FGに基づいて、制御デバイスは、充満勾配が正でありかつゼロに近くなるかまたはそこに維持されるように、更新された設定値を生成するように構成されていてもよい。最も好ましくは、制御デバイスは、充満勾配をゼロに維持するように構成されている。
【0033】
別法としてまたは追加として、少なくとも1つの特性パラメータは、心臓の拡張期弛緩または収縮期収縮であってもよい。
【0034】
収縮期収縮は、僧帽弁の閉鎖の瞬間と大動脈弁の開放の瞬間とに観察される左室圧値の差を、これらの間の時間スパン、すなわち僧帽弁の閉鎖から大動脈弁の開放までに費やした時間で除算した、正の商として定義される。
【0035】
拡張期弛緩は、大動脈弁の閉鎖の瞬間と僧帽弁の開放の瞬間とに観察される左室圧値の差を、これらの間の時間スパン、すなわち大動脈弁の閉鎖から僧帽弁の開放までに費やした時間で除算した、商として定義される。
【0036】
さらに、制御デバイスは、少なくとも1つの特性パラメータのうちの1つの出現と連続する再出現との間の時間間隔に基づいて実際の心拍数を計算するように、さらに構成されていてもよい。
【0037】
追加としてまたは別法として、制御デバイスは、1つの特定の特性パラメータとしてVADが生み出す実際の血流量を計算するように構成されていてもよい。
【0038】
設定値の更新に関して、制御デバイスは、少なくとも1つの特性パラメータの少なくとも1つの精緻化された実際値が、対応する事前設定可能な設定点値から所定の逸脱をするたびに、更新された設定値を生成するように構成されていてもよい。追加としてまたは別法として、制御デバイスは、特性パラメータの新しい精緻化された実際値が生成されたときに、設定値を更新するように構成されていてもよい。追加としてまたは別法として、制御デバイスは、設定値を周期的に、すなわち所定の更新周期で更新するように構成されていてもよい。
【0039】
第2の態様は、患者の心臓を補助するためのVADに関する。
【0040】
VADは、上記の第1の態様に従って記載したような制御デバイスのうちのいずれか1つを備える、すなわち、これに接続または結合されている。
【0041】
特定の例示的な好ましい実施形態では、VADは無拍動型回転式血液ポンプである。血液ポンプは好ましくは、カテーテルベースの血液ポンプである。最も好ましくは、VADは、以下の特徴(a)から(c)のうちの1つ以上を特徴とする、低慣性のデバイスである:(a)VADの動く、特に回転する部品、例えばロータまたは羽根車は、低重量の材料、例えばプラスチックで作成されることによって低い質量を備える、(b)電動モータなどの駆動手段が、モータによって駆動される部品、例えばロータまたは羽根車の近くに、好ましくは非常に近くに、最も好ましくは隣接して配置されており、カテーテルベースのものであるならば、好ましくは回転式の駆動ケーブルを有さない、(c)モータによって駆動される部品、例えばロータまたは羽根車との、モータの結合部または接続部、例えば軸が短い;VADの動く、特に回転する部品は全て小径である。
【0042】
例えば、第1の態様に従って記載したようなVAD用の制御デバイスは、カテーテルベースのロータリー血液ポンプと接続すると、これを通る血流量を少なくとも1つの決定された特性パラメータに基づいて直接制御することができ、特に有用であり得る。そのような血液ポンプは、例えば米国特許第5911685A号により知られている。このコンテキストでは、制御デバイスは、血液ポンプの回転速さ、すなわち速さレベルを制御するための、いわゆるポンプ制御装置である。
【0043】
基本的には、そのような血液ポンプは、一次的な設置または埋め込みのために、左心または右心内へと配置される。左側での心臓補助の場合、血液ポンプは、最終的に血液ポンプが、カニューレが大動脈弁の開口部を通った状態で突出して、ポンプデバイスによってカニューレを通して血液を左心室から大動脈弁を通して大動脈内へと送出できるように、大動脈を介して患者の心臓の左心室の内部に配設されるように配置される。
【0044】
代替としての右側での心臓補助では、血液ポンプは、血液ポンプが、そのカニューレが三尖弁の開口部を通って右心房と右心室とを橋渡しした状態で突出して、ポンプデバイスによってカニューレを通して血流を大静脈から直接肺動脈内へと送出できるように、右心よりも前段の大静脈内に配設されるように配置される。
【0045】
例えば、ポンプデバイスは、モータ区域と、モータ区域の遠位端に固定されたポンプ区域とを備えてもよい。ただし、他の構成、例えばモータがポンプ区域の出口に対して遠位にあるものもまた可能である。ポンプ区域は、中で回転する羽根車などの推進要素を有する、管状のポンプハウジングをさらに備えてもよい。推進要素は、モータ区域から突出しているモータ軸上に据えられてもよい。別法として、回転するシールされたモータと羽根車などの推進要素との磁力結合など、モータを駆動装置と結合する他の方法が可能である。ポンプ区域の遠位端から、血液ポンプの動作中にポンプデバイスを介して血液を吸入できる、またはポンプするポンプ流れ方向が反転したときに駆出できるように適合されている、フローカニューレが延びていてもよい。
【0046】
制御デバイスの構成に関しては、制御デバイスは、外部信号および内部信号を受信するための少なくとも1つの入力部を有する、データ取得ユニットを実装してもよい。例えば、ある入力部は、少なくとも1つの測定信号を受信するように構成されていてもよく、これは例えば血管圧信号または心内圧信号であってもよい。
【0047】
少なくとも1つの測定信号は、例えば、VAD内もしくはVAD上に統合され得る、または患者に埋め込み可能なセンサであってもよい、1つ以上のセンサによって、内部で集められてもよい。別法としてまたは追加として、少なくとも1つの測定信号は、例えば追加の監視システムによって、外部で集められてもよい。
【0048】
「外部」はここでは、制御デバイスとVADとを備えるシステムの外部にある信号を意味することが留意される。一方、「内部」は、制御デバイスおよび/もしくはVAD中に既に存在している、または、制御デバイスおよび/もしくはVADの構成要素によって提供される、信号を意味する。
【0049】
さらに、制御デバイスは、入力手段および出力手段を備えるユーザインタフェースを備えてもよいか、またはこれに接続されてもよいか、またはこれに結合されてもよい。例えば、入力手段は、キーおよび/または押下されるボタンおよび/または回転される回転式ボタンなどの、1つ以上の入力デバイスであってもよい。出力手段は、制御デバイスに関する設定情報、制御デバイスおよび/またはVADの動作データ、などの情報を表示するための、ディスプレイデバイスであってもよい。特に、入力手段および出力手段は、タッチスクリーンデバイスなどの1つのエンティティとして、部分的にまたは完全に統合されてもよい。入力デバイスからの入力信号は、データ取得ユニットに転送されて、例えば制御デバイスに関する設定データとして、さらに使用されてもよい。
【0050】
例えば、ユーザインタフェースは、とりわけ、使用者が少なくとも1つの特性パラメータの中から、VADの速さレベルの制御で使用することになる特定のパラメータを選択できるように構成されてもよい。さらに、ユーザインタフェースは、少なくとも特性パラメータについて対応する設定点値を使用者が定義できるように構成された、対応する入力手段を提供してもよく、この設定点値は必要に応じて使用者が選択可能であってもよい。すなわち、設定点値は使用者によって事前設定可能である。別法としてまたは追加として、設定点値の入力は、制御デバイス自体の他の内部ユニットによって提供されてもよい。そのような他の内部ユニットは、本明細書において以下で検討するデータ処理ユニットのように、信号処理および/または分析を行うように構成されてもよい。別法としてまたは追加として、設定点値はエキスパートシステムユニットによって提供されてもよい。
【0051】
制御デバイスは、更新された設定値を出力するように構成された出力部を有する。このとき、「output(出力する)」は、信号が制御デバイスによって別の外部エンティティに出力されるものであることを必ずしも意味しないことが留意される。「output(出力部)」は、制御デバイス内の特定の箇所、例えば、制御デバイスの内部に実装された、特定の機能または機能性を行うように構成されているユニットの、出力部でも有り得る。
【0052】
上で述べたように、VADの例示的な一実施形態としての、例示的なカテーテルベースのロータリー血液ポンプのコンテキストでは、VADの速さレベルの設定値は、血液ポンプのポンプデバイスの回転速さの設定値であってもよい。例えば、回転速さの設定値は、ポンプデバイスの電動モータによって駆動される回転する推進要素が確立すべき回転速さに対応していてもよい。
【0053】
測定信号の取得に関しては、例えば、少なくとも2つの圧力センサを、一方のセンサがVADの入口における圧力、すなわち前負荷を検出し、他方のセンサがVADの出口における圧力、すなわち後負荷を検出するように、VAD上に配置するか、またはVADに組み込んでもよい。別法としてまたは追加として、VADは、前負荷と後負荷との間の実際の圧力差を検出できる圧力センサを備えてもよい。
【0054】
少なくとも1つの圧力センサは、任意の好適な圧力センサによって実装されてもよい。好ましくは、1つ以上の圧力センサは、少なくとも約250Hzの周波数で読み出される、すなわちサンプリングされるかまたはデータを引き出される(pulled)。
【0055】
例えば、VADが左側での心臓補助に合わせて配置されるとき、VADは入口に、VADが左心内に配設されるときに左心室内に位置付けられることになる、第1の圧力センサを備えてもよい。圧力センサは、少なくとも1つの物理値としての左室圧を表す測定信号を生成する際に、使用することができる。循環系と関連した物理値を表す追加のおよび代替の血圧は、大動脈圧AoPであってもよい。したがって、追加としてまたは別法として、VADは出口に、血液ポンプが左心内に配設されるときに大動脈内に位置付けられることになる圧力センサを備えてもよい。左側での心臓補助に関して、好ましくは少なくとも1つの特性パラメータは、大動脈弁の閉鎖の瞬間に観察可能な大動脈圧値、大動脈弁の開放の瞬間に観察可能な大動脈圧値、僧帽弁の閉鎖の瞬間に観察可能な拡張終期の左室圧、および僧帽弁の開放の瞬間に観察可能な左室圧のうちの、少なくとも1つであってよい。さらに、有り得る特性パラメータは、心臓の、上で検討した圧力勾配、例えば充満勾配、拡張期弛緩、および収縮期収縮であってもよい。
【0056】
これに対応して、VADが右側での心臓補助に合わせて配置されている場合、VADの入口は大静脈または右心室内に位置付けられていてもよく、出口は肺動脈内に位置付けられていてもよく、したがって、循環系と関連する物理量は、中心静脈圧CVPおよび/または肺動脈圧PAPであってもよい。特性パラメータは、上で検討したように左側での心臓支援と関連して相応に導出されてもよい。
【0057】
他のデバイスもまた、循環系と関連する物理値を表す有用な測定信号を提供する、供給源としての役割を果たし得ることに留意するのは、有益である。例えば、そのようなセンサは、例えば患者の皮膚に取り付け可能な、心電図(ECG)デバイスの電極を備えてもよい。ECGデバイスが提供するそのようなECG信号を、循環系と関連する1つの物理値を表す1つの測定信号として使用してもよい。
【0058】
制御デバイスは、制御デバイスの内部の機能または機能性のために構成されている内部ユニットを実装するための、少なくとも1つの演算ユニットを備えてもよい。演算ユニットは、ハードウェアおよびソフトウェアを任意の組み合わせで備えてもよい。すなわち、演算ユニットは、例えば本明細書に記載するような制御デバイスの特定の機能または機能性のそれぞれの必要なステップをプログラム可能なハードウェアに実行させるためのソフトウェアコードを含む、対応するコンピュータプログラムによって構成され得る、プログラム可能なハードウェアを備えてもよい。プログラム可能な演算ユニットは当技術分野においておよび当業者にとって一般に周知であり、したがって詳細な説明は必要ない。
【0059】
当然ながら、演算ユニットは、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などのハードコードされた特定の機能を備える、特定の専用ハードウェア、ならびに/または、例えば少なくとも1つの測定信号を処理および/もしくは分析するための信号プロセッサなどの、1つ以上の専用プロセッサを備えてもよい。この点に関して、制御デバイスは、構造的にハードウェアユニットおよび/またはソフトウェアモジュールから成っていてもよく、これらはいずれも、VADの速さの制御において協働するそれぞれの機能ユニットを実装する。単純にするために、本明細書に記載する機能および機能性が全てまとめて制御デバイスによって実施されるものと見なされることが想定されている。本明細書では、制御デバイスにおいてまたは制御デバイスによって実装され特定の機能または機能性のために構成されている専用ユニットを参照して、制御デバイスの特定の機能が説明されているが、一般には、特定の機能または機能性と特定のユニットとの関連付けは必要に応じて適合され得ることが留意される。
【0060】
第1に、制御デバイスは、上述したデータ取得ユニットを実装してもよい。データ取得ユニットは、外部および内部で測定した信号を収集するように構成されていてもよい。第2に、制御デバイスは、信号処理ユニットを実装してもよい。信号処理ユニットは、少なくとも測定信号を処理することによって、特性パラメータを導出するように構成されていてもよい。例えば、信号処理ユニットは、左室圧を表す経時的な測定信号から、少なくとも1つの特性パラメータとして拡張終期の左室圧を決定するように構成されていてもよい。別法としてまたは追加として、信号処理ユニットは、少なくとも1つの導出された特性パラメータおよび/または少なくとも1つの測定信号に基づいて、特性パラメータとして使用できる更なる値を生成するように、さらに構成されていてもよい。第3に、制御デバイスは、信号分析ユニットを実装してもよい。信号分析ユニットは、外部信号および内部信号ならびに/または少なくとも1つの特性パラメータを、経時的に分析するように構成されていてもよい。例えば、信号分析ユニットは、例えば、補助を受けている心臓の心周期における特定の事象の、次の発生を予測するように構成されていてもよい。例えば、そのような事象はその時点であってもよく、大動脈弁の閉鎖の次の発生が予想される。さらに、信号分析ユニットは、上で検討した少なくとも1つの測定信号および/または少なくとも1つの特性パラメータの実際値の処理を行って、その精緻化された実際値を提供するように、構成されていてもよい。第4に、制御デバイスは、速さ命令ユニットを実装してもよい。一般に、速さ命令ユニットは、VADによって、例えば、例示的な回転式血液ポンプの電動モータなど、VADのモータによって確立されるべき速さレベルを示す、速さ命令信号を提供するように構成されていてもよい。第6に、制御デバイスはモータ制御ユニットを実装してもよいが、モータ制御ユニットは制御デバイスの外部にあってもよい。モータ制御ユニットは、速さの現在の実際の設定値に従って速さを確立するための、現在の速さ命令信号に従って、VADの速さレベルを調整するように構成されていてもよい。例えば、ロータリー血液ポンプのコンテキストでは、モータ制御ユニットは、血液ポンプの電動モータに供給される電力を変化させることによって、回転式血液ポンプの速さを調整するように構成されていてもよい。例えば、モータ制御ユニットは、血液ポンプのモータに供給される電動モータ電流を調整してもよい。最後に、信号処理ユニットおよび信号分析ユニットは、データ処理ユニットなどの1つのユニットによって実装されてもよい。
【0061】
上で検討したように、信号処理ユニットおよび/または信号分析ユニットは、対応する測定信号の導関数に基づいて少なくとも1つの特性パラメータを決定するように構成されていてもよい。
【0062】
例えば、特性パラメータは拡張終期の左室圧であってもよい。この目的のために、制御デバイスは、心内圧としての左室圧LVPの測定信号LVPmeas、およびその導関数を使用するように構成されていてもよい。さらに、少なくとも1つの特性パラメータは、拡張終期の左室圧EDLVPであってもよく、これは、左室圧を表す測定信号の一次および/または二次導関数に基づくサンプリングまたはデータの引き出しによって検出されてもよい。この目的のために、EDLVPの実際値は、測定信号LVPmeasおよび/または測定信号LVPmeasの導関数d/dtに基づいて導出されてもよい。また、追加の信号を使用してもよい。
【0063】
例えば、EDLVPの実際値は、測定信号LVPmeasの一次導関数に基づいて検出されてもよい。測定信号LVPmeasを時間に関して微分してもよく、すなわちdLVPmeas/dtである。一次導関数dLVPmeas/dtが所定の閾値vthresholdに達するかもしくはこれを上回るとき、および/または、他の好適な条件が有効であるときには、その、この特定の時点tkにおいて、実際のEDLVP(tk)値を決定することができる。
【0064】
例えば、所定の閾値vthresholdは、例えばECGによって、特定の患者に対して個別に設定されてもよい。例えば、制御デバイスは、測定信号LVPmeasをECG信号またはこれに基づくトリガ信号と比較するように構成されていてもよい。例えばEDLVPは、対応するECG信号におけるR波の発生後間も無く検出され得る。閾値vthresholdは、ECG信号においてR波が現れたときまたはその後間も無くの一次導関数dLVPmeas/dtと一致するように相応に調整されてもよい。すなわち、一次導関数dLVPmeas/dtの特定の値を、例えばECG信号であってもよい別の信号を基準にして設定することができる。
【0065】
別法として、EDLVPの実際値を、ECG信号だけを採用することで決定してもよい。例えば、制御デバイスは、EDLVPの発生とほぼ同時に生じるR波について、ECG信号を監視するように構成されていてもよい。別法として、制御デバイスは、R波の発生を示すトリガ信号をただ受信および使用して、EDLVPの現在の実際値としてLVPの実際値を決定してもよい。
【0066】
VADが生み出す実際の血流量の計算は以下のようであってもよく、例えば、例示的なVADとしてのロータリー血液ポンプのコンテキストでは、制御デバイスは、血液ポンプを通る実際の血流量を、血液ポンプの入口と出口との間の実際の圧力差、血液ポンプの実際の速さ、および血液ポンプに供給される電力に基づいて計算するように構成されていてもよい。好ましくは、この目的のために、制御デバイスは、記憶されている、これらのパラメータ間の関係を表す特性カーブの組にアクセスできてもよい。特性カーブの組は、演算ユニットのメモリ、または演算ユニットがアクセス可能な血液ポンプ中のメモリに記憶されてもよい。例えば、特性カーブの組は、ルックアップテーブルの形態で記憶されてもよい。
【0067】
以下では本発明について、以下の添付の図面を参照して例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】大動脈に通されて心臓の大動脈弁を通って左心室内へと延びる、VADの例としてのカテーテルベースの血管内血液ポンプ、および、血液ポンプ用の制御デバイスの実施形態の単純化したブロック図を示す図である。
【
図2】いくつかの詳細を含む
図1のVADの側面図である。
【
図3】VADによる心臓補助を受けているおよび肺換気デバイスによる呼吸補助を受けている患者に関するアプリケーション・コンテキスト(application context)における、
図1の制御デバイスを示す図である。
【
図4A】肺換気に起因して生理学的に生じる変動(
図4C)を、検出される拡張終期の圧力値(
図4A)および拡張終期の圧力信号に基づいて示す図であり、この場合、生理学的に生じる変動が低減されており(
図4A)、および血液ポンプの回転速さ(
図4B)は制御デバイスの制御下にあることを示す図である。
【
図4B】肺換気に起因して生理学的に生じる変動(
図4C)を、検出される拡張終期の圧力値(
図4A)および拡張終期の圧力信号に基づいて示す図であり、この場合、生理学的に生じる変動が低減されており(
図4A)、および血液ポンプの回転速さ(
図4B)は制御デバイスの制御下にあることを示す図である。
【
図4C】肺換気に起因して生理学的に生じる変動(
図4C)を、検出される拡張終期の圧力値(
図4A)および拡張終期の圧力信号に基づいて示す図であり、この場合、生理学的に生じる変動が低減されており(
図4A)、および血液ポンプの回転速さ(
図4B)は制御デバイスの制御下にあることを示す図である。
【
図5A】左室圧信号中の拡張終期の圧力値の検出を示す図である。
【
図5B】左室圧信号中の拡張終期の圧力値の検出を示す図である。
【
図6A】充満勾配(
図6B)などの圧力勾配、収縮期収縮、および拡張期弛緩を示す、2つの心周期の左心室圧力信号に関する図表を示す図である。
【
図6B】特にVAD補助を伴わない充満勾配を示す図表を示す図である。
【
図6C】充満勾配に基づく速さレベル制御の効果を示す図表を示す図である。
【
図7】いくつかのpVループにより
図6CのVADの補助の効果をさらに示す図である。
【
図8】ロータリー血液ポンプにおける前負荷と後負荷との間の実際の圧力差ΔP
pumpと、実際の血液ポンプ速さn
pumpと、血液ポンプが生み出す対応する血流量Q
pumpとの間の関係を示す、特性カーブを有する図表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
ここで
図1および
図2を参照すると、
図1は、左側にあるカテーテルベースの回転式血液ポンプ(以下では「血液ポンプ」と呼ぶ)を示し、これを本明細書ではVADの例示的な一実施形態として記載するが、この例示的な血液ポンプは、
図2により詳細に示されている。
【0070】
血液ポンプはカテーテル10をベースにしており、これにより、血液ポンプが、心臓の大動脈12および大動脈弁15を通って左心室16内へと、一時的に導入される。
図2により詳細に示すように、血液ポンプは、カテーテル10の他に、カテーテルチューブ20の端部に固定されたロータリーポンプデバイス50を備える。ロータリーポンプデバイス50は、モータ区域51と、そこから軸方向に距離を置いて位置付けられているポンプ区域52と、を備える。フローカニューレ53は、その一方の端部でポンプ区域52に接続されてポンプ区域52から延びており、その他方の端部には、流入ケージ54が位置付けられている。流入ケージ54には、柔軟な可撓性の先端部55が取り付けられている。ポンプ区域52は、出口開口部56を有するポンプハウジングを備える。さらに、ポンプデバイス50は、モータ区域51からポンプ区域52のポンプハウジング内に突出している、駆動軸57を備える。駆動軸57は推進要素としての羽根車58を駆動し、これにより、ロータリーポンプデバイスの動作中、血液を流入ケージ54を通して吸入することおよび出口開口部56を通して放出することができる。
【0071】
ポンプデバイス50は、相応に適合させれば反対方向に送出を行うこともできるが、例えばこのことは、血液ポンプが右心内に設置されるときに必要である。この点に関して、完全を期して、
図1は、左心内にその補助のために位置付けられている、VADの1つの具体的な例としてのロータリー血液ポンプを示す。右心の補助のために、この例のロータリー血液ポンプは、大静脈から右心に導入されて、肺動脈内に血液を駆出できるように、右心内に位置付けられてもよい。この構成では、血液ポンプは、大静脈からまたは右心室から血液を吸入するように、およびその血液を肺動脈内に駆出するように、構成されてもよい。すなわち、この1つの特定の実施形態によって説明された原理および機能性は、右側での心臓補助に合わせて相応に移し替えられる。したがって、詳細な説明は必要としない。
【0072】
図1および
図2では、3つの線、すなわち、2つの信号線28Aおよび28Bと電流をモータ区域51に供給するための電力供給線29とが、カテーテル10のカテーテルチューブ20を通過してポンプデバイス50まで通っている。2つの信号線28A、28Bおよび電力供給線29は、これらの近位端において制御デバイス100に取り付けられている。更なる機能のための追加の線が存在してもよいことは言うまでもなく、例えば、パージ流体用の線(図示せず)が、同じくカテーテル10のカテーテルチューブ20を通過してポンプデバイス50まで通っていてもよい。異なる感知技術に基づいて追加の線を追加してもよい。
【0073】
図2に示すように、信号線28A、28Bは血圧センサの一部であってそれぞれ対応するセンサヘッド30および60を有し、これらは外部でポンプ区域52のハウジング上に位置付けられている。第1の圧力センサのセンサヘッド60は、信号線28Bと関連付けられている。信号線28Aは、第2の血圧センサのセンサヘッド30と関連付けられ、これに接続されている。血圧センサは、例えば、2つの信号線28A、28Bが光ファイバである、米国特許第5911685A号に記載されているような、ファブリー-ペロの原理に従って機能する光学圧力センサであってもよい。ただし、他の圧力センサを代わりに使用してもよい。基本的には、センサの場所における圧力についてのそれぞれの情報を担持し、任意の好適な物理的起源のもの、例えば光学的、液圧的、または電気的などの起源のものであってよい、圧力センサの信号が、それぞれの信号線28A、28Bを介して、制御デバイス100のデータ処理ユニット110の、対応する入力部に伝達される。
図1に示す例では、圧力センサは、大動脈圧AoPがセンサヘッド60によって測定され、左室圧LVPがセンサヘッド30によって測定されるように、配置されている。
【0074】
データ処理ユニット110は、入力部101を介して対応する大動脈圧AoPの測定信号AoPmeasおよび左室圧LVPの測定信号LVPmeasを受信するための、それぞれの信号線28A、28Bと接続される。
【0075】
データ処理ユニット110は、ポンプ流量を推定するための基礎としての2つの圧力信号の間の差の計算など、信号処理のために、少なくとも1つの特性パラメータσの実際値、例えば、速さ命令信号生成部120に転送されることになる心臓の拡張終期の左室圧EDLVPまたは充満勾配FGの導出など、信号分析のために、外部信号および内部信号を取得するように構成されている。
【0076】
データ処理ユニット110は、入力部102、103において対応する信号線を介して追加の測定デバイス300、例えば心電図(ECG)310に接続される。ECG310は、ECG信号をデータ処理ユニット110に提供する。デバイス310は例示的で非限定的なものである、すなわち、デバイス320によって表される他の外部測定デバイスもまた、有用な信号を供給することができ、使用され得る。
【0077】
制御デバイス100は、出力手段としてのディスプレイ210と、入力手段としてのキーボード、ボタンなどの入力デバイス220と、を備える、ユーザインタフェース200をさらに備える。ディスプレイデバイス210および入力デバイス220は、タッチスクリーンデバイスの形態で、部分的に1つに統合されている。ディスプレイ210上には、設定パラメータ、測定される圧力信号などの監視されるパラメータ、および、例えば設定メニューなどの、他の情報を表示することができる。特に、少なくとも1つの特性パラメータσの精緻化された実際値、例えばEDLVP*またはFG*は、ディスプレイデバイス210を介して使用者に表示されてもよい。さらに、ユーザインタフェース220によって、制御デバイス100およびVADの使用者は、例えばシステムの所望の設定を変更することによって、制御デバイス100とやりとりすることができる。
【0078】
さらに、生理学的に生じる変動の効果が排除または低減されている、少なくとも1つの特性パラメータσの精緻化された実際値、例えばEDLVP*、FG*は、必要に応じて外部で使用するために出力部104において提供される。
【0079】
データ処理ユニット110はまた、少なくとも1つの特性パラメータσの精緻化された実際値、例えばEDLVP*またはFG*を提供するようにも構成されている。少なくとも1つの特性パラメータσの精緻化された実際値は、速さ命令信号生成部120に転送される。
【0080】
速さ命令信号生成部120は、実際の速さ命令信号nVAD
setを生成および調整、すなわち更新し、これを速さ制御ユニット130に供給するように構成されている。速さ命令信号nVAD
setは、命令信号生成部120に少なくとも1つの特性パラメータσの精緻化された実際値が連続的に供給される外部の帰還ループで動作している、命令信号生成部120によって提供される。
【0081】
命令信号生成部120はまた、少なくとも1つの特性パラメータσの対応する設定点値SP、例えばEDLVP
setまたはFG
setを受信する。設定点値SPはまた、データ処理ユニット110によっても提供される。命令信号生成部120は、少なくとも1つの特性パラメータσの精緻化された実際値、例えばEDLVP
*またはFG
*と、対応する設定点値SPとの間の実際の差に対応する誤差信号ERR(
図3を参照)に基づいて、実際の速さ命令信号n
VAD
setを生成するように構成されている。例えば、実際の速さ命令信号n
VAD
setは、誤差信号に基づいて、比例-微分-積分(PID)制御装置125(
図3を参照)、またはファジー制御装置などの任意の他の代替の制御装置の様式で、生成されてもよい。生成された実際の速さ命令信号n
VAD
setは、速さ制御ユニット130に転送される。
【0082】
これに応じて、速さ制御ユニット130は、受信した速さ命令信号nVAD
setに従って、VADの速さnVADを制御する。例示的なVADとしての回転式血液ポンプを参照すると、速さ制御ユニット130は、カテーテルチューブ20を通って延びる電力供給線29を介して、モータ電流IVADをポンプデバイス50のモータ区域51に供給する。供給されるモータ電流IVADの実際のレベルは、ポンプデバイス50が、実際の速さ命令信号nVAD
setによって規定される目標速さレベルを確立するために必要とする電流に対応している。電力供給線29を介して、ポンプデバイス50は、制御ユニット100と通信してもよい、すなわち、実際の回転速さに対応する信号を提供してもよい。
【0083】
供給されるモータ電流IVADの測定信号は、制御デバイス100への内部信号の例であり、これはデータ処理ユニット110にも提供されて、さらに処理され使用される。
【0084】
第1の態様によれば、速さレベルを設定可能なVADの実施形態としてのポンプデバイス50用の制御デバイス100は、VADによる心臓補助を受けている患者の循環系と関連する物理値を表す、左室圧LVPの測定信号LVPmeasを受信するように構成されている、入力部101を備える。
【0085】
制御デバイス100は、生理学的に生じる変動が排除または少なくとも低減されている、少なくとも1つの特性パラメータの精緻化された実際値EDLVP*またはFG*を提供するように、構成されている。この目的のために、示されている実施形態では、データ処理ユニット110は、測定信号LVPmeasから、心臓の少なくとも1つの特性パラメータσの実際値として、EDLVPの実際値を導出するように構成されている。
【0086】
データ処理ユニット110は、測定信号LVPmeasまたは実際値EDLVPもしくはFGを処理して、生理学的に生じる変動が排除されている精緻化された実際値EDLVP*またはFG*を提供するように、さらに構成されている。データ処理ユニット110の出力部は、少なくとも1つの特性パラメータσの精緻化された実際値EDLVP*またはFG*を、速さ命令ユニット120に転送する。
【0087】
速さ命令ユニット120は次に、出力部105において、対応して更新される速さ命令信号nVAD
setを、現在の設定値としてモータ制御ユニット130に提供する。
【0088】
モータ制御ユニット130は、ポンプデバイス50が速さ命令信号nVAD
setによって規定されるような目標速さレベルを確立するために必要とする、対応するモータ電流IVADを供給する。
【0089】
図3は、患者PがVAD50による心臓補助および肺換気デバイス70による呼吸補助を受けるというコンテキストにおける、
図1の改善された制御デバイス100の適用の実施形態を示す図である。
【0090】
まず最初に、
図3の右側では、破線のボックスは、患者Pを描写している。さらに、ボックスHは、患者Pの心臓を描写している。単純にするために、ボックスHの下半分が左心室16に対応しており、この中に、
図1および
図2のポンプデバイス50の流入ケージ54を有するフローカニューレ53、ならびに圧力センサのうちの1つのセンサヘッド30が位置付けられている。モータ区域51、ポンプ区域52、およびポンプハウジング56は、大動脈内で大動脈弁15よりも後段に位置付けられている。ポンプデバイス50のモータ区域51は、ポンプデバイス50のポンプ速さをもたらす。制御デバイス100のモータ制御ユニット130によって電力供給線29を介して必要なモータ電流I
VADを供給することによって、少なくとも1つの特性パラメータσとしての精緻化された実際値EDLVP
*またはFG
*に基づいて、VADの速さを制御することができる。
【0091】
ボックスP内にはさらに、患者Pの肺Lを表すボックスが示されている。この例では、不十分な心臓機能を有する患者Pはポンプデバイス50による心臓補助、およびさらに換気デバイス70による肺Lへの換気補助を受ける。
【0092】
換気に起因して、肺Lは膨張および収縮される。このことにより、患者Pの胸腔内の圧力が影響を受け、この結果、心内圧が同期して変動する。したがって、測定される左室圧LVPは、対応する生理学的に生じる変動を含む。
換気圧センサ72によって、制御デバイス100は、換気圧VentPmeasの測定信号である、換気圧センサ72が感知した圧力信号を受信する。
【0093】
制御デバイス100のデータ処理ユニット110は、受信した測定信号LVPmeasに対して信号処理を連続的に行って、生理学的に生じる変動が排除または少なくとも低減されている、特性パラメータσの精緻化された実際値EDLVP*またはFG*を生成するように構成されている。さらに、データ処理ユニット110は、受信した換気圧VentPmeasの測定信号に対して信号処理を連続的に行うように構成されている。
【0094】
ポンプデバイス50のポンプ速さの制御のために、データ処理ユニット110は、対応する測定信号LVPmeasにおいて検出されるかまたはこれから導出されるEDLVPの 実際値を、導出し処理するように構成されている。
特性パラメータσとしてのEDLVPの精緻化された実際値EDLVP*またはFG*は、速さ命令ユニット120に転送される。速さ命令ユニット120は、EDLVPまたはFGの設定可能な設定点値SP、例えばEDLVPsetまたはFGsetとの比較を行うように、および、モータ制御ユニット130に供給される対応する速さ命令信号nVAD
setを生成するように構成されており、その後、モータ制御ユニット130は、ポンプデバイス50の電動モータに供給されるモータ電流を相応に調整する。
【0095】
図5Aおよび
図5Bに示すように、この目的のために、データ処理ユニット110は、左室圧の測定信号LVP
measの一次導関数dLVP
meas/dtをフィルタリングした(または平滑化した)ものであるFVに基づいて、実際値EDLVPを決定するように構成されている。
【0096】
例えば、左室圧の測定信号LVPmeasの一次導関数dLVPmeas/dtが所定の閾値vthresholdと等しいと(および/または更なる条件が有効であると)判定されるとき、現在のLVPの実際値はEDLVPの現在の実際値として決定される。
【0097】
別法としてまたは追加として、制御デバイス100は、ECGデバイス310が提供するECG信号を使用してもよい。この場合、データ処理ユニット110は、更なる条件として、ECG信号がR波を示すかどうかをチェックするように構成されている。さらに、ECG信号の場合、制御デバイス100は、上で検討したようにLVPmeasの一次導関数に基づいてEDLVPの実際値を決定できるように、ECG信号において発生するR波に基づいて、所定の閾値vthresholdを調整するように構成され得る。
【0098】
VADの動作においては、血液ポンプ速さレベルの制御は、EDLVPの精緻化された実際値EDLVP*および対応する設定点値SPに基づいている。速さ命令ユニット120は、精緻化された実際値EDLVP*および設定点値SPに基づいて、誤差信号ERRを計算するように構成されている。速さ命令ユニット120は、PID制御装置125の様式で、誤差信号ERRに基づいて、モータ制御ユニット130に供給される、対応して更新される速さ命令信号nVAD
setを生成するように、さらに構成されている。
【0099】
上で検討した、循環系と関連する物理量を表す測定信号としてのLVPに基づく、VADの速さレベルに関する制御原理を、循環系と関連する物理量を表す任意の1つ以上の他の測定信号に基づくように、修正することができる。例えば、別のまたは更なる血管圧および/または心内圧、例えば、大動脈圧AoP、中心静脈圧CVP、および/または右側での心臓補助用の肺動脈圧PAP、ならびにECG信号を使用してもよい。
【0100】
上述したように、換気に起因して、肺Lは換気デバイス70によって膨張および収縮する。このことにより、患者Pの胸腔内の圧力が影響を受け、この結果、測定信号LVPmeasの対応する変動が生じる。結果として、吸気相中、導出されるEDLVPは、吸気相中に大きくなり、呼気相中に小さくなる。このことにより、VADの速さレベルの制御において、対応する生理学的に生じる変動が引き起こされる。
【0101】
図4Aから4Cは、換気が誘起した、導出される実際値EDLVPの変動を示す。
図4Aには、測定信号LVP
meas(実線)が描かれ、導出される実際値EDLVPが三角形で標示されている。
図4Cは、EDLVP値の対応する変動を引き起こす換気圧VentPを経時的に示す。
【0102】
これらの生理学的に生じる変動を排除するために、第1の手法として、データ処理ユニット110は、導出される実際値EDLVPに平均フィルタを適用するように構成されている。
【0103】
平均フィルタの構成に関して、データ処理ユニット110は、換気圧VentPmeasの測定信号に基づいて、換気回数VFを連続的に、または時々、または周期的に決定するように構成されていてもよい。
【0104】
換気回数VFの逆数値、すなわち1/VFに対応するフィルタサイズ(またはフィルタ窓)が、換気の効果を補償するのに有効であることが見出されている。言い換えれば、データ処理ユニット110を、各時点について、換気回数VFと関連する時間間隔の間の、導出される実際値EDLVPの実際の平均値を計算するように構成することができる。
例えば、時間間隔は、換気回数VFの逆数値、またはそれをn倍したもの、すなわち
【数3】
によって定義されてもよく、ここで、n=1、2、3、…である。
【0105】
別法として、データ処理ユニット110を、本明細書で既に検討したような実際値EDLVPの2つの連続した最大値または最小値の間の時間間隔によって換気回数VFを計算するように、構成することができる。
【0106】
別法として、移動平均フィルタの代わりに、適用されるフィルタは、排除すべき生理学的に生じる変動が解消するように設定される特性カットオフ周波数を有するハイパスフィルタであってもよい。特に、制御デバイスは、ハイパスフィルタの特性カットオフ周波数を、決定された換気回数VFに設定するように構成されていてもよい。
【0107】
VADの速さレベル制御に関して、制御デバイス100の信号処理ユニット110は、さらにまたは代替として、心収縮期および心弛緩期のぞれぞれの開始および終了を判定するように構成されている。実装される値検出アルゴリズムは、以下で大まかに説明するが、左室圧LVPおよび/または大動脈圧AoPの測定信号に基づく。心収縮期および心弛緩期のそれぞれの判定された開始および終了に基づいて、収縮率および心弛緩率をそれらに基づいて計算することができる。
【0108】
図6Aは、心臓の充満勾配FG、収縮期収縮SC、および拡張期弛緩DRを説明するための、2つの心周期j、j+1中の左心室内の圧力LVPおよび大動脈内の圧力AoPの図表を示す。これらの圧力勾配FG、SC、DRは、(別法としてまたは追加として)VADの速さレベルの制御において特性パラメータとして使用されてもよい。
【0109】
本明細書で使用する用語「心周期」は、例えば血圧および心室容積の時間依存性の変化を含む、1回の心拍中の心臓の動的挙動を包含する。本明細書では、心拍は、心房収縮の喚起で始まり次の心房収縮の直前で終了するものと定義され、心臓収縮期と心臓拡張期とを区別する。心臓の心臓収縮期(心臓の駆出相とも呼ばれる)は、僧帽弁の閉鎖と大動脈弁の閉鎖との間の相である。心臓拡張期(心臓の充満相とも呼ばれる)は、大動脈弁の閉鎖と次の心周期の僧帽弁の閉鎖との間の相である。心臓が心周期を経る頻度は、心拍数として知られている。
【0110】
図6Aのそれぞれの点1から4は、2つの示されている心周期j、j+1の各々中のそれぞれの特定の特徴的な事象、すなわち、僧帽弁の閉鎖(点1、CMV)、大動脈弁の開放(点2、OAV)、大動脈弁の閉鎖(点3、COV)、および僧帽弁の開放(点4、OMV)を標示している。以下の考察は、心周期jに基づいている。
【0111】
したがって、僧帽弁の閉鎖(点1)と大動脈弁の開放(点2)との間の心周期の心臓収縮相中の左室圧LVPの圧力勾配は、
【数4】
として定義され、これは収縮期収縮SC、すなわち心臓の収縮率を記述しており、心臓ポンプ能力の尺度、前負荷および後負荷とは無関係に刺激によって活性化したときに筋繊維が短縮し得る程度として、使用することができる。これは心拍出量の主要な決定要因であり、心機能補償(cardiac compensation)における重要な要素である。データ処理ユニット110は、実際の収縮期収縮SCを特性パラメータσとして計算するように構成されていてもよい。
【0112】
大動脈弁の閉鎖(点3、COV)と僧帽弁の開放(点4、OMV)との間の心周期の心臓拡張相中の左室圧LVPの圧力勾配は、
【数5】
として定義され、これは心臓の拡張期弛緩DRを記述しており、心臓拡張の機能不全、すなわち、心臓に血液を満たしながら次の駆出の準備を行う、心拍の弛緩期における異常を識別するために使用することができる。データ処理ユニット110は、特性パラメータσとして心臓の実際の拡張期弛緩DRを計算するように構成されていてもよい。
【0113】
最後に、心周期jにおける僧帽弁の開放(点4、OMV)と続く心周期j+1における僧帽弁の閉鎖(点1、CMV)との間の心周期の心臓拡張相中の左室圧LVPの圧力勾配は、
【数6】
として定義され、これは充満勾配FGと呼ばれ、左心室が適正に弛緩せず強張っている(これは心室に血液が適正に充満できないことを意味する)かどうかを記述する尺度として使用することができる。データ処理ユニット110は、特性パラメータσとして実際の充満勾配FGを計算するように構成されていてもよい。
【0114】
図6Bおよび
図6Cは、少なくとも1つの特性パラメータσとして充満勾配FGを監視することに基づく、VAD速さの制御の効果を示す。この目的のために、データ処理ユニット110は、上で検討した、終わりつつある心周期jにおける僧帽弁の開放の瞬間に観察される左室圧の値と、連続する続く心周期j+1における僧帽弁の閉鎖の瞬間に観察される左室圧の値の差を、これらの間の時間スパンで除算した商を、計算するように構成されている。
【0115】
図6Bは、まだ負荷のかかっている、すなわちVADの適用による十分な補助を受けていない、不全状態の心臓のLVPの波形を描写している。左心室は適正に弛緩せず強張って、この結果、血液が左心室を適正に満たすことができない。このことは、充満勾配FG(
図6Bの点線)が正に傾斜している、すなわちゼロよりも大きいことにより、識別することができる。
【0116】
図6Cは、VADにより良好に調整された心臓補助の効果を示しており、この場合、VAD速さの制御は、充満勾配FGおよびこれに対応して調整されたVADの速さを監視することに基づいており、このとき、VADが心臓に提供する補助の量は、負圧を回避するために、充満勾配が正になり負にはならないものになっている。充満勾配FGの監視およびこれをゼロに近いかまたは等しい状態に保つことが、弱った心臓を除荷し心臓の回復を支援するための、心臓補助の好適な量の標示となることが想定されている。
【0117】
図7は、少なくとも1つの特性パラメータσとしての充満勾配FG(
図6)に基づく、1回の心周期中の左室圧LVPおよび絶対左室容積LVVの変動に対する、ポンプデバイス50による心臓補助の効果をさらに示し、これは特性pVループと呼ばれる。
【0118】
補助される心臓のpVループの形状および位置に対する効果は、VADが提供する補助の量と相関しており、例えば例示的な血液ポンプの場合、血液ポンプ速さと相関している。VADのポンプデバイスが生み出す血流量は、VADの後負荷と前負荷との間の圧力差によって変わるので、VADの速さと生み出される血流量との間に、および提供される補助との間にも、線形の関係は存在しないことが留意される。ただし、補助の量はVADの速さを速くすることによって大きくなると言うは、大まかには正しい。
【0119】
図7に示す図表はVADが支援を行っていない状況(
図6Bに対応する)から始まり、これは、図表の中央およびさらに右側に位置付けられている、背の高いpVループ(太い線)に反映されている。VADによる、すなわちポンプデバイス50による支援を増やすと、互いにらせん状に接続されたpVループ波形の中心は、図表の左側に移動し、同時に、それぞれのpVループの面積は、次第に小さくなってゆく。pVループの面積は心臓自体が生み出す実際の仕事、すなわち心臓に課される実際の負荷を反映している。こうして、
図7は、ポンプデバイス50によって心臓を除荷することを示す。指針となるのは、VADが提供する補助によって心臓を除荷することではない。指針となるのは、心臓がその回復を支援するのに正に十分な程度に除荷されるような、実際の補助の量を、見出し、維持し、調整することである。
【0120】
このことは、
図6と関連させて検討し説明した充満勾配FGなどの、好適な特性パラメータσを使用して、本明細書において提案される速さレベル制御に基づいて、行うことができる。
【0121】
完全を期して、心エコー検査デバイスによって左心室の絶対容積VLVを監視してもよいことが知られている。
【0122】
図8は、本明細書で使用されているVADの例のような例示的な血管内回転式血液ポンプに関する、血液ポンプの前負荷と後負荷との間の実際の圧力差ΔP
pumpと、実際の血液ポンプ速さn
pumpと、血液ポンプを通る血流量Q
pumpとの間の関係を表す1組の特性カーブを示す、例示的な図表である。
【0123】
血液ポンプを通る実際の血流量Q
pumpは、特性カーブの組に基づいて、実際の圧力差ΔP
pumpと実際のポンプ速さn
pumpの関数
Q
pump=f(ΔP
pump,n
pump)
として求めることができる。実際の圧力差ΔP
pumpを、
図2の圧力センサ30、60によって決定することができる。実際の血液ポンプ速さは、データ処理ユニット110に知られており、特に速さ命令ユニット120および/またはモータ制御ユニット130において知られている。こうして、実際の血流量Q
pumpを、データ処理ユニット110によって確認することができる。上で検討した、
図8に示す1組の特性カーブによって記述される値ΔP
pump、Q
pump、およびn
pumpの間の関係は、ルックアップテーブルとして、制御デバイス100中の記憶装置、例えばデータ処理ユニット110の読み出し専用メモリに、または、血液ポンプ中のもしくはモータ制御ユニット130中のチップ上の記憶装置に、記憶することができる。
【0124】
更なる実施形態
本発明は特に、以下の番号を付した項目において規定されているような、以下の実施形態に関わるものである。
【0125】
1. 速さレベルを設定可能な心室補助デバイス、VAD(50)用の制御デバイス(100)であって、制御デバイス(100)は、VAD(50)による心臓補助を受けている患者(P)の循環系の生理学的状態と関連する少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)を受信するように構成された入力部(101)を備え、制御デバイス(100)は、少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上から心臓(H)の少なくとも1つの特性パラメータの実際値(EDLVP;FG)を導出するように、および、生理学的に生じる変動が排除されている、少なくとも1つの特性パラメータの精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)を提供するように構成されており、制御デバイス(100)はさらに、更新された速さレベルの設定値(nVAD
set)を出力するように構成された出力部(105)を備え、制御デバイス(100)は、精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)および事前設定可能な設定点値(EDLVPset;FGset)に基づいて更新された設定値(nVAD
set)を生成するように構成されている、制御デバイス(100)。
【0126】
2. 制御デバイス(100)は、少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上および/または実際値(EDLVP、FG)の時系列を処理して、精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)を提供するように構成されている、項目1に記載の制御デバイス(100)。
【0127】
3. 制御デバイス(100)は、現在の実際値(EDLVP;FG)および更なる実際の履歴値を含む移動時間間隔内の、複数の実際値(EDLVP;FG)を処理するように構成されている、項目1または2に記載の制御デバイス(100)。
【0128】
4. 精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)は、複数の実際値(EDLVP;FG)の移動平均であり、および/または、少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上の移動平均に基づいている、項目1から3のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)。
【0129】
5. 制御デバイス(100)は、少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)および/または連続する実際値(EDLVP;FG)および/または換気圧の測定信号に基づいて、呼吸または換気回数(VF)を決定するように構成されている、項目1から4のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)。
【0130】
6. 制御デバイス(100)は、
排除もしくは低減すべき生理学的に生じる変動の周期性と関連するサイズを有する移動平均フィルタを適用することによって、少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上もしくは実際値(EDLVP;FG)のシークエンスを処理するように、かつ/または、
排除もしくは低減すべき生理学的に生じる変動と関連する特徴付けカットオフ周波数を有するハイパスフィルタを適用することによって、少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上もしくは実際値(EDLVP;FG)のシークエンスを処理するように、構成されている、項目1から5のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)。
【0131】
7. 少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの少なくとも1つは、患者の循環系における少なくとも1つの圧力、すなわち、患者の左室圧(LVP)、大動脈圧(AoP)、中心静脈圧(CVP)、肺動脈圧(PAP)、および/またはECG信号のうちの少なくとも1つである、項目1から6のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)。
【0132】
8. 少なくとも1つの特性パラメータは、心周期の所定の事象における血管圧および/または心内圧の特定の値、1回の心周期中の2つの特定の事象における2つの心内圧の間の圧力勾配(SC、DR、FG)、のうちの少なくとも1つである、項目1から7のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)。
【0133】
9. 少なくとも1つの特性パラメータは、僧帽弁の開放(OMV)と僧帽弁の閉鎖(CMV)との間の心周期の心臓拡張相中の左室圧(LVP)の充満勾配
【数7】
(FG)であり、これは
【数8】
として定義され、制御デバイス(100)は、充満勾配
【数9】
が正でありかつゼロに近くなるかまたはそこに維持される、好ましくはゼロになるかまたはそこに維持されるように、更新された設定値(n
VAD
set)を生成するように構成されている、項目1から8のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)。
【0134】
10. 制御デバイス(100)は、
少なくとも1つの特性パラメータ(EDLVP;FG)のうちの1つの出現と連続する再出現との間の時間間隔に基づいて実際の心拍数を計算するように、および/または、
VAD(50)が生み出す実際の血流量を計算するように、さらに構成されている、項目1から9のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)。
【0135】
11. 制御デバイス(100)は、精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)と対応する設定点値(EDLVPset;FGset)との間に所定の差が存在するたびに、更新された設定値(nVAD
set)を生成するように構成されている、および/または
制御デバイス(100)は、新しい精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)が生成されたときに、設定値(nVAD
set)を更新するように構成されている、および/または
制御デバイス(100)は、設定値(nVAD
set)を所定の頻度で周期的に更新するように構成されている、
項目1から10のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)。
12. 制御デバイス(100)は、精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)をディスプレイ(210)上に表示するように、および/または、精緻化された実際値(EDLVP*)を制御デバイス(100)の出力部(104)において提供するように、構成されている、項目1から10のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)。
【0136】
13. 項目1から12のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)を備える心臓補助用のVAD(50)であって、
VAD(50)は好ましくは無拍動型回転式血液ポンプであり、
さらに好ましくは、血液ポンプはカテーテルベースのものであり、
最も好ましくは、VAD(50)は、以下、すなわち:VADの動く、特に回転する部品、例えばロータまたは羽根車は、低重量の材料、例えばプラスチックで作成されることによって低い質量を備える;電動モータなどの駆動手段が、モータによって駆動される部品、例えばロータまたは羽根車の近くに、好ましくは非常に近くに、最も好ましくは隣接して配置されており、カテーテルベースのものであるならば、好ましくは回転式の駆動ケーブルを有さない;モータによって駆動される部品、例えばロータまたは羽根車との、モータの結合部または接続部、例えば軸が短い;VADの動く、特に回転する部品は全て小径である;のうちの1つ以上を特徴とした、低慣性のデバイスである、VAD(50)。
【0137】
14. 心臓(H)の少なくとも1つの特性パラメータの精緻化された実際値を取得するための方法であって、
患者(P)の循環系の生理学的状態と関連する少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)を受信することと、
少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上から心臓(H)の少なくとも1つの特性パラメータの実際値(EDLVP;FG)を導出することと、
実際値(EDLVP;FG)または少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上を処理して、生理学的に生じる変動が排除または低減されている精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)を提供することと、を含む、方法。
【0138】
15. 速さレベルを設定可能な心室補助デバイス、VAD(50)の速さレベルを制御するための方法であって、
項目14に記載の方法によって、心臓(H)の少なくとも1つの特性パラメータの精緻化された実際値を取得することと、
精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)および事前設定可能な設定点値(EDLVPset;FGset)に基づいて、速さレベルの更新された設定値(nVAD
set)を生成することと、を含む、方法。
【0139】
16. 少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上または実際値(EDLVP、FG)の時系列を処理して、精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)を提供することをさらに含む、項目14に記載の方法。
【0140】
17. 現在の実際値(EDLVP;FG)および更なる実際の履歴値を含む移動時間間隔内の、複数の実際値(EDLVP;FG)を処理することをさらに含む、項目14または15に記載の方法。
【0141】
18. 少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)および/または連続した実際値(EDLVP;FG)および/または換気圧の測定信号に基づいて、患者(P)の呼吸または換気回数(VF)を決定することをさらに含む、項目14から17のいずれか1つに記載の方法。
【0142】
19. 低減または排除すべき生理学的に生じる変動の周期性と関連するサイズを有する移動平均フィルタを適用することによって、少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上もしくは実際値(EDLVP;FG)のシークエンスを処理すること、および/または
排除または低減すべき生理学的に生じる変動と関連する特徴付けカットオフ周波数を有するハイパスフィルタを適用することによって、少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの1つ以上もしくは実際値(EDLVP;FG)のシークエンスを処理すること、
をさらに含む、項目14から18のいずれか1つに記載の方法。
【0143】
20. 少なくとも1つの測定信号(LVPmeas)のうちの少なくとも1つは、患者の循環系における少なくとも1つの圧力、すなわち、患者の左室圧(LVP)、大動脈圧(AoP)、中心静脈圧(CVP)、肺動脈圧(PAP)、および/またはECG信号のうちの少なくとも1つである、項目14から19のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
21. 少なくとも1つの特性パラメータは、心周期の所定の事象における血管圧および/または心内圧の特定の値、1回の心周期中の2つの特定の事象における2つの心内圧の間の圧力勾配、のうちの少なくとも1つである、項目14から20のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
22. 少なくとも1つの特性パラメータは、僧帽弁の開放(OMV)と僧帽弁の閉鎖(CMV)との間の心周期の心臓拡張相中の左室圧(LVP)の充満勾配
【数10】
(FG)であり、これは
【数11】
として定義され、制御デバイス(100)は、充満勾配
【数12】
(FG)が正でありかつゼロに近くなるかまたはそこに維持される、好ましくはゼロになるかまたはそこに維持されるように、更新された設定値(n
VAD
set)を生成するように構成されている、項目14から21のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
23. 少なくとも1つの実際値(EDLVP;FG)のうちの1つの出現と連続する再出現との間の時間間隔に基づいて実際の心拍数を計算すること、および/または、VAD(50)が生み出す実際の血流量を計算すること、をさらに含む、項目14から21のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
24. 精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)と対応する設定点値(EDLVPset;FGset)との間に所定の差が存在するたびに、設定値(nVAD
set)を更新すること、および/または、
新しい精緻化された実際値(EDLVP*;FG*)が生成されたときに設定値(nVAD
set)を更新すること、および/または
設定値(nVAD
set)を所定の頻度で周期的に更新すること、
をさらに含む、項目14から23のいずれか1つに記載の方法。
【0148】
25. 排除または低減すべき生理学的に生じる変動は、患者(P)の胸腔内の圧力変動、患者(P)の自律的なまたは補助を受けた呼吸が引き起こす圧力変動、患者の大動脈内の大動脈内バルーンポンプが引き起こす圧力変動、患者に適用される外部型カウンターパルゼーション療法が引き起こす圧力変動、患者の体位の、例えばトレンデレンブルグ体位などへの変化が引き起こす圧力変動のうちの、少なくとも1つと相関している、項目1から12のいずれか1つに記載の制御デバイス(100)または項目14から24のいずれか1つに記載の方法。