(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240701BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240701BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240701BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240701BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 658F
H01L29/78 655A
H01L21/316 S
(21)【出願番号】P 2022178306
(22)【出願日】2022-11-07
(62)【分割の表示】P 2019566441の分割
【原出願日】2019-01-10
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2018005735
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木本 恒暢
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓真
(72)【発明者】
【氏名】中野 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】明田 正俊
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-216306(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008385(WO,A1)
【文献】特開2014-110402(JP,A)
【文献】特開2012-238887(JP,A)
【文献】国際公開第2012/127821(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148130(WO,A1)
【文献】特開2016-181672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0075362(US,A1)
【文献】国際公開第2010/119789(WO,A1)
【文献】特開2017-034003(JP,A)
【文献】特開2015-138960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のSiC半導体層と、
前記SiC半導体層の表面に形成された第2導電型の複数のボディ領域と、
複数の前記ボディ領域の表面側にそれぞれ形成された第1導電型の複数のソース領域と、
隣り合う複数の前記ソース領域を跨ぐように前記SiC半導体層上に形成され、前記SiC半導体層に接する接続面、および、前記接続面の反対側に位置する非接続面を有するSiO
2層と、
前記SiO
2層の前記非接続面に配置され、前記非接続面の一部が露出するように配置されたゲート電極と、
前記SiO
2層の前記非接続面の露出部および前記ゲート電極を覆う層間絶縁層と、を有し、
前記SiO
2層は、前記接続面から前記非接続面に向けて炭素密度が漸減する炭素密度漸減領域と、
前記炭素密度漸減領域の前記非接続面側に形成され、炭素密度が前記炭素密度漸減領域よりも小さい低炭素密度領域と、を有
し、
前記低炭素密度領域は、前記炭素密度漸減領域の厚さと同等以上の厚さを有する、半導体装置。
【請求項2】
前記SiC半導体層は、1.0×10
22cm
-3以上の炭素密度を有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記炭素密度漸減領域の炭素密度は、前記SiC半導体層の炭素密度から漸減する、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記SiO
2層の前記接続面側の領域の窒素原子密度は、前記SiO
2層の前記非接続面側の領域の窒素原子密度よりも大きい、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記SiC半導体層において前記SiO
2層に接する領域に形成され、伝導帯端からのエネルギー準位が0.2eV以上0.5eV以下の範囲において4.0×10
11eV
-1・cm
-2以下である界面準位密度を有する界面領域をさらに含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記SiO
2層は、9.0MV・cm
-1以上のブレークダウン電界強度を有している、請求項1~
5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記SiO
2層は、20nm以上の厚さを有している、請求項1~
6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記SiC半導体層は、SiC半導体基板、および、前記SiC半導体基板の上に形成されたSiCエピタキシャル層を含み、
前記ボディ領域は、前記SiCエピタキシャル層の表面領域に形成されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記SiCエピタキシャル層は、前記SiC半導体基板の第1導電型不純物の濃度よりも低い第1導電型不純物濃度を有する、請求項
8に記載の半導体装置。
【請求項10】
第1導電型のSiC半導体層と、
前記SiC半導体層の表面に形成された第2導電型のボディ領域と、
前記ボディ領域の表面側に形成された第1導電型のソース領域と、
前記ソース領域および前記ボディ領域を貫通するように形成されたトレンチと、
前記トレンチの内側から前記SiC半導体層の表面にかけて形成され、前記SiC半導体層と接する接続面、および、前記接続面の反対側に位置する非接続面を有するSiO
2層と、
前記SiO
2層を介して前記トレンチ内に配置されたゲート電極と、
前記SiO
2層の前記非接続面の露出部分と前記ゲート電極とを覆う層間絶縁層とを有し、
前記SiO
2層は、前記接続面から前記非接続面に向けて炭素密度が漸減する炭素密度漸減領域と、
前記炭素密度漸減領域の前記非接続面側に形成され、炭素密度が前記炭素密度漸減領域よりも小さい低炭素密度領域と、を有
し、
前記低炭素密度領域は、前記炭素密度漸減領域の厚さと同等以上の厚さを有する、半導体装置。
【請求項11】
前記SiC半導体層は、1.0×10
22cm
-3以上の炭素密度を有する、請求項
10に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記炭素密度漸減領域の炭素密度は、前記SiC半導体層の炭素密度から漸減する、請求項
10または
11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記SiO
2層の前記接続面側の領域の窒素原子密度は、前記SiO
2層の前記非接続面側の領域の窒素原子密度よりも大きい、請求項
10に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記SiC半導体層は、4H-SiC単結晶を含み、前記4H-SiC単結晶の[0001]面から<11-20>方向に対して10°以下のオフ角を有する主面を含む、請求項1または
10に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記SiC半導体層の表面および前記層間絶縁層を覆うようにソース電極が形成されており、
前記ソース電極の上面は、前記ゲート電極が形成されていない領域において、前記SiC半導体層側に窪んでいる、請求項1または
10に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記層間絶縁層の端面は前記SiO
2層の端面と面一であり、
前記層間絶縁層は前記SiO
2層の前記非接続面上のみを覆う、請求項1または
10に記載の半導体装置。
【請求項17】
SiC半導体層を用意する工程と、
前記SiC半導体層の上にSiO
2層を形成する工程と、
低酸素分圧雰囲気下でアニール処理を施すことにより、前記SiO
2層に酸素原子を導入する酸素原子導入工程と、を含
み、
前記酸素原子導入工程に先立って、窒素原子を含む雰囲気下でアニール処理を施すことにより、前記SiO
2
層に窒素原子を導入する窒素原子導入工程をさらに含む、半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記窒素原子導入工程は、酸素原子および窒素原子を含む雰囲気下でアニール処理を施す工程を含む、請求項
17に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC半導体層の上にSiO2層が形成された構造を有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC半導体層の上にSiO2層が形成された構造では、SiC半導体層においてSiO2層に接する界面領域における界面準位密度の増加の問題が知られている。界面準位密度の増加の原因は様々であるが、その主たる原因の一つとして、SiC半導体層およびSiO2層の間の界面領域における界面欠陥を例示できる。界面欠陥は、界面領域に存する炭素原子によって形成され得る。
【0003】
界面準位密度は、チャネル移動度(キャリア移動度とも称される。)との間において相関関係を有している。より具体的には、界面準位密度の増加は、チャネル移動度の低下を引き起こす。界面準位密度を改善する手法の一例が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0004】
特許文献1は、SiC半導体基板の上にSiO2層を形成する工程と、Ar(アルゴン)を含む不活性ガス雰囲気においてSiO2層に対して熱処理を施す工程と、を含む、半導体装置の製造方法を開示している。
【0005】
特許文献2は、SiC半導体基板の上にSiO2層を形成する工程と、POCl3(塩化ホスホリル)を含む雰囲気においてSiO2層に対して熱処理を施し、SiO2層にリンを添加する工程と、を含む、半導体装置の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-345320号公報
【文献】国際公開第2011/074237A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の製造方法では、SiC半導体層においてSiO2層に接する界面領域から炭素原子を脱離させることができる。これにより、界面欠陥を低減できる。しかし、この場合、SiO2層内に炭素原子が残存するので、満足する絶縁特性を得ることはできない。
【0008】
特許文献2の製造方法では、SiO2層内の炭素原子および雰囲気中の酸素原子を反応させることができる。これにより、SiO2層内の炭素原子を除去できるから、界面欠陥を低減できる。しかし、この場合、SiO2層に添加されたP(リン)が電荷トラップとして機能するため、SiO2層の経時劣化が引き起こされる虞がある。
【0009】
本発明の一実施形態は、SiC半導体層およびSiO2層の間の界面欠陥を低減でき、かつ、良質なSiO2層を有する半導体装置およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、第1導電型のSiC半導体層と、前記SiC半導体層の表面に形成された第2導電型の複数のボディ領域と、複数の前記ボディ領域の表面側にそれぞれ形成された第1導電型の複数のソース領域と、隣り合う複数の前記ソース領域を跨ぐように前記SiC半導体層上に形成され、前記SiC半導体層に接する接続面、および、前記接続面の反対側に位置する非接続面を有するSiO2層と、前記SiO2層の前記非接続面に配置され、前記非接続面の一部が露出するように配置されたゲート電極と、前記SiO2層の前記非接続面の露出部および前記ゲート電極を覆う層間絶縁層と、を有し、前記SiO2層は、前記接続面から前記非接続面に向けて炭素密度が漸減する炭素密度漸減領域と、前記炭素密度漸減領域の前記非接続面側に形成され、炭素密度が前記炭素密度漸減領域よりも小さい低炭素密度領域と、を有する、半導体装置を提供する。
【0011】
本発明の一実施形態は、SiC半導体層を用意する工程と、前記SiC半導体層の上にSiO2層を形成する工程と、低酸素分圧雰囲気下でアニール処理を施すことにより、前記SiO2層に酸素原子を導入する酸素原子導入工程と、を含む、半導体装置の製造方法を提供する。
【0012】
本発明における上述の、またはさらに他の目的、特徴および効果は、添付図面を参照して次に述べる実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る半導体装置においてトレンチゲート型のMISFETが形成された領域を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す半導体装置の製造方法の一例を説明するための工程図である。
【
図3A】
図3Aは、
図1に示す半導体装置の製造方法の一例を説明するための断面図である。
【
図4】
図4は、ゲート酸化層の炭素密度の測定結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ゲート酸化層の高周波CV特性および準静的CV特性の測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、
図5のグラフをHigh-Low法に基づいて界面準位密度に変換したグラフである。
【
図7】
図7は、ゲート酸化層の電流密度特性の測定結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置においてプレーナゲート型のMISFETが形成された領域を示す断面図である。
【
図9】
図9は、
図8に示す半導体装置の製造方法の一例を説明するための工程図である。
【
図11】
図11は、本発明の第3実施形態に係る半導体装置においてトレンチゲート型のMISFETが形成された領域を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の第1実施形態に係る半導体装置1においてMISFETが形成された領域を示す断面図である。
【0015】
半導体装置1は、トレンチゲート型のMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)を備えた基本形態を有している。半導体装置1は、n型不純物が添加されたn型のSiC半導体層2を含む。SiC半導体層2は、この形態では、4H-SiC単結晶からなる。SiC半導体層2のn型不純物は、N(窒素)、As(ヒ素)またはP(リン)であってもよい。
【0016】
SiC半導体層2は、一方側の第1主面3および他方側の第2主面4を含む。第1主面3および第2主面4は、4H-SiC単結晶の[0001]面に対して<11-20>方向に10°以下の角度で傾斜したオフ角を有していてもよい。オフ角は、第1主面3および第2主面4の法線方向および4H-SiC単結晶のc軸の間の角度でもある。
【0017】
オフ角は、0°以上4°以下であってもよい。オフ角が0°であるとは、第1主面3の法線方向および4H-SiC単結晶のc軸が一致している状態である。オフ角は、0°を超えて4°未満であってもよい。オフ角は、典型的には、2°±10%または4°±10%の範囲に設定される。
【0018】
SiC半導体層2は、より具体的には、SiC半導体基板5およびSiCエピタキシャル層6を含む積層構造を有している。SiC半導体基板5は、SiC半導体層2の第2主面4を形成している。SiCエピタキシャル層6は、SiC半導体層2の第1主面3を形成している。
【0019】
SiC半導体基板5は、n+型の4H-SiC単結晶基板からなる。4H-SiC単結晶基板の主面は、[0001]面に対して<11-20>方向に10°以下の角度で傾斜したオフ角を有していてもよい。オフ角は、より具体的には、0°以上4°以下(たとえば2°または4°)である。
【0020】
SiC半導体基板5は、MISFETのドレイン領域7として形成されている。SiC半導体基板5のn型不純物濃度は、1.0×1015cm-3以上1.0×1021cm-3以下(たとえば1.0×1018cm-3程度)であってもよい。
【0021】
SiCエピタキシャル層6は、前記オフ角を有するn型の4H-SiC単結晶層からなる。SiCエピタキシャル層6は、SiC半導体基板5のn型不純物濃度未満のn型不純物濃度を有している。SiCエピタキシャル層6のn型不純物濃度は、1.0×1015cm-3以上1.0×1017cm-3以下(たとえば1.0×1016cm-3程度)であってもよい。SiCエピタキシャル層6の炭素密度は、1.0×1022cm-3以上1.0×1024cm-3以下(たとえば5.0×1022cm-3程度)であってもよい。
【0022】
SiC半導体層2の第1主面3の表層部には、p型のボディ領域8が形成されている。ボディ領域8は、SiC半導体基板5に対して第1主面3側に間隔を空けて形成されている。SiCエピタキシャル層6においてSiC半導体基板5およびボディ領域8の間の領域は、ドリフト領域9として形成されている。
【0023】
第1主面3の表層部には、トレンチゲート構造10が形成されている。トレンチゲート構造10は、ゲートトレンチ11、ゲート酸化層12およびゲート電極層13を含む。ゲートトレンチ11は、第1主面3からボディ領域8を貫通し、ドリフト領域9に至る。ゲートトレンチ11において側壁および底壁を接続する角部は湾曲面を有していてもよい。
【0024】
ゲート酸化層12は、SiO2(酸化シリコン)層の一例として形成されている。ゲート酸化層12は、ゲートトレンチ11の内壁面に沿って膜状に形成され、ゲートトレンチ11内において凹状の空間を区画している。ゲート酸化層12は、ゲートトレンチ11から引き出され、第1主面3を被覆する被覆部を一体的に有していてもよい。
【0025】
ゲート酸化層12は、SiC半導体層2に接する接続面21、および、接続面21の反対側に位置する非接続面22を有している。ゲート酸化層12は、20nm以上500nm以下の厚さを有していてもよい。ゲート酸化層12の厚さは、150nm以下であることが好ましい。ゲート酸化層12の厚さは、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
ゲート酸化層12の厚さは、接続面21および非接続面22の間の厚さである。ゲート酸化層12の厚さは、この形態では、ゲートトレンチ11の内壁面の法線方向に沿う厚さでもある。つまり、ゲート酸化層12の厚さ方向は、ゲートトレンチ11の内壁面の法線方向に一致する。
【0027】
ゲート酸化層12は、この形態では、第1領域14および第2領域15を含む。第1領域14は、ゲートトレンチ11の側壁に沿って形成されている。第2領域15は、ゲートトレンチ11の底壁に沿って形成されている。第2領域15は、第1領域14の第1厚さT1以上の第2厚さT2を有している。第1厚さT1に対する第2厚さT2の比T2/T1は、1以上3以下であってもよい。
【0028】
第1厚さT1は、20nm以上200nm以下であってもよい。第1厚さT1は、150nm以下であることが好ましい。第1厚さT1は、100nm以下であることがさらに好ましい。第2厚さT2は、20nm以上500nm以下であってもよい。第1領域14は、一様な厚さを有していてもよい。第2領域15は、一様な厚さを有していてもよい。第1厚さT1が第2厚さT2と等しい場合、第1領域14および第2領域15は、一様な厚さで形成される。
【0029】
ゲート酸化層12は、この形態では、ゲートトレンチ11の開口側の角部に沿って形成された膨出部16を含む。膨出部16は、ゲートトレンチ11の内方に向かって湾曲状に張り出している。膨出部16は、ゲートトレンチ11の開口部においてゲートトレンチ11の開口を狭めている。
【0030】
ゲート酸化層12は、炭素密度漸減領域23および低炭素密度領域24を含む。炭素密度漸減領域23および低炭素密度領域24は、ゲート酸化層12から拡散した炭素原子をそれぞれ含む。
【0031】
炭素密度漸減領域23および低炭素密度領域24は、ゲート酸化層12において少なくともボディ領域8(後述するMISFETのチャネルCH)に接する領域に形成される。炭素密度漸減領域23および低炭素密度領域24は、ゲート酸化層12においてドリフト領域9や後述するソース領域26に接する領域にも形成される。炭素密度漸減領域23および低炭素密度領域24は、ゲート酸化層12内に一様に形成されている。
【0032】
炭素密度漸減領域23は、より具体的には、ゲート酸化層12の接続面21の表層部に形成されている。炭素密度漸減領域23は、接続面21から非接続面22に向けてSiCエピタキシャル層6の炭素密度(1.0×1022cm-3以上)から1.0×1019cm-3以下まで漸減する炭素密度を有している。ゲート酸化層12の接続面21を基準とする炭素密度漸減領域23の厚さは、この形態では、0.15nm以上25nm以下である。
【0033】
低炭素密度領域24は、ゲート酸化層12の非接続面22の表層部に形成されている。低炭素密度領域24は、より具体的には、ゲート酸化層12において非接続面22および炭素密度漸減領域23の間の領域に形成されている。
【0034】
低炭素密度領域24は、ゲート酸化層12の厚さから炭素密度漸減領域23の厚さを差し引いた厚さを有している。ゲート酸化層12の厚さ方向に関して、ゲート酸化層12内において低炭素密度領域24が占める割合は、ゲート酸化層12内において炭素密度漸減領域23が占める割合以上である。つまり、低炭素密度領域24は、低炭素密度領域24の厚さ以上の厚さを有している。
【0035】
より具体的には、ゲート酸化層12の厚さ方向に関して、ゲート酸化層12内において低炭素密度領域24が占める割合は、ゲート酸化層12内において炭素密度漸減領域23が占める割合よりも大きい。つまり、低炭素密度領域24は、低炭素密度領域24の厚さを超える厚さを有している。
【0036】
低炭素密度領域24は、1.0×1019cm-3以下の炭素密度を有している。低炭素密度領域24の炭素密度は、より具体的には、1.0×1019cm-3未満である。低炭素密度領域24の炭素密度は、さらに具体的には、1.0×1017cm-3を超えて1.0×1018cm-3以下の極小値を有している。低炭素密度領域24の極小値は、ゲート酸化層12の厚さ方向のほぼ中央に位置している。
【0037】
低炭素密度領域24は、炭素密度が比較的高い第1領域、および、第1領域に比べて炭素密度が低い第2領域を含む。第1領域は非接続面22側に位置し、第2領域は接続面21側に位置している。第2領域は、より具体的には、第1領域および低炭素密度領域24の間の領域に位置している。
【0038】
第1領域は、1.0×1018cm-3を超えて1.0×1019cm-3以下の炭素密度を有している。第2領域は、1.0×1017cm-3を超えて1.0×1018cm-3以下の炭素密度を有している。低炭素密度領域24の極小値は、第2領域に位置している。
【0039】
第1領域は、一例として、5nm以上20nm以下の厚さを有していてもよい。第1領域は、5nm以上10nm以下、10nm以上15nm以下、または、15nm以上20nm以下の厚さを有していてもよい。第1領域は、10nm以上の厚さを有していることが好ましい。
【0040】
第2領域の厚さは、ゲート酸化層12の厚さに応じて異なる。第2領域は、一例として、5nm以上50nm以下の厚さを有していてもよい。第2領域は、5nm以上10nm以下、10nm以上15nm以下、15nm以上20nm以下、15nm以上20nm以下、20nm以上25nm以下、25nm以上30nm以下、30nm以上35nm以下、35nm以上40nm以下、40nm以上45nm以下、または、45nm以上50nm以下の厚さを有していてもよい。第2領域は、5nm以上20nm以下の厚さを有していてもよい。
【0041】
第2領域は、10nm以上の厚さを有していることが好ましい。第2領域は、ゲート酸化層12内において非接続面22から接続面21に向けて少なくとも10nm以上離れた深さ位置に形成されていることが好ましい。
【0042】
低炭素密度領域24および炭素密度漸減領域23(つまり、ゲート酸化層12)には、P(リン)は添加されていない。この「添加」には、「拡散」は含まれない。すなわち、SiC半導体層2内にn型不純物としてのP(リン)が含まれ、当該n型不純物としてのP(リン)がゲート酸化層12に拡散した場合には、ゲート酸化層12にP(リン)が添加されたことを意味しない。
【0043】
ゲート酸化層12がn型不純物としてのP(リン)を含む場合、ゲート酸化層12のn型不純物濃度(リン密度)は、SiC半導体層2(SiCエピタキシャル層6)のn型不純物濃度(リン密度)未満である。この場合、ゲート酸化層12のn型不純物濃度(リン密度)は、接続面21から非接続面22に向かって漸減するプロファイルを有する。このようなプロファイルは、SiC半導体層2からのP(リン)の拡散によって形成される。ゲート酸化層12のn型不純物濃度(リン密度)は、1.0×1016cm-3未満である。
【0044】
図1を再度参照して、ゲート電極層13は、ゲート酸化層12を挟んでゲートトレンチ11に埋め込まれている。ゲート電極層13は、より具体的には、ゲートトレンチ11内においてゲート酸化層12によって区画された凹状の空間に埋め込まれている。
【0045】
ゲート電極層13の上端部は、ゲート酸化層12の膨出部16に接している。これにより、ゲート電極層13の上端部は、ゲート酸化層12の膨出部16に沿って窪んだ括れ部を有している。ゲート電極層13は、タングステン、チタン、チタンナイトライド、モリブデンおよび導電性ポリシリコンのうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0046】
SiC半導体層2においてゲート酸化層12に接する境界面には、界面領域25が形成されている。界面領域25は、この形態では、窒素原子を含む。界面領域25は、より具体的には、窒素原子によって終端された窒素終端面である。界面領域25の窒素密度は、5.0×1018cm-3以上5.0×1021cm-3以下(たとえば5.0×1020cm-3程度)であってもよい。この窒素原子は、ゲート酸化層12を通って界面領域25に拡散している。ゲート酸化層12の接続面21側の窒素原子密度は、ゲート酸化層12の非接続面22側の窒素原子密度よりも大きい。
【0047】
ボディ領域8の表層部においてゲートトレンチ11の側壁に沿う領域には、n+型のソース領域26が形成されている。ソース領域26のn型不純物濃度は、1.0×1015cm-3以上1.0×1021cm-3以下(たとえば1.0×1019cm-3程度)であってもよい。ソース領域26のn型不純物は、As(ヒ素)またはP(リン)であってもよい。
【0048】
ボディ領域8の表層部においてゲートトレンチ11の側壁から間隔を空けた領域には、p+型のコンタクト領域27が形成されている。p+型のコンタクト領域27は、ボディ領域8に電気的に接続されている。コンタクト領域27は、第1主面3からソース領域26を貫通し、ボディ領域8に至る。
【0049】
このように、第1主面3の表層部においてゲートトレンチ11の側壁に沿う領域には、ソース領域26、ボディ領域8およびドリフト領域9が、第1主面3から第2主面4側に向けてこの順に形成されている。MISFETのチャネルCHは、ボディ領域8においてゲート酸化層12を挟んでゲート電極層13と対向する領域に形成される。
【0050】
第1主面3の上には、層間絶縁層31が形成されている。層間絶縁層31は、酸化シリコンまたは窒化シリコンを含んでいてもよい。層間絶縁層31は、この形態では、酸化シリコンを含む。層間絶縁層31は、トレンチゲート構造10および第1主面3の任意の領域を被覆している。層間絶縁層31には、コンタクト孔32が形成されている。コンタクト孔32は、ソース領域26およびコンタクト領域27を露出させている。
【0051】
層間絶縁層31の上には、ソース電極33が形成されている。ソース電極33は、層間絶縁層31の上からコンタクト孔32に入り込んでいる。ソース電極33は、コンタクト孔32内において、ソース領域26およびコンタクト領域27に接続されている。SiC半導体層2の第2主面4には、ドレイン電極34が接続されている。
【0052】
図2は、
図1に示す半導体装置1の製造方法の一例を説明するための工程図である。
図3A~
図3Nは、
図1に示す半導体装置1の製造方法の一例を説明するための断面図である。
【0053】
図3Aを参照して、SiC半導体層2が用意される(
図2のステップS1)。SiC半導体層2は、SiC半導体基板5を用意する工程、および、SiC半導体基板5の主面の上にSiCエピタキシャル層6を形成する工程を経て形成される。SiCエピタキシャル層6は、SiC半導体基板5の主面からSiCをエピタキシャル成長させることによって形成される。
【0054】
次に、
図3Bを参照して、p型のボディ領域8が、SiC半導体層2の第1主面3の表層部に形成される(
図2のステップS2)。ボディ領域8を形成する工程は、第1主面3の表層部にp型不純物を導入する工程を含む。p型不純物は、イオン注入法によって第1主面3の表層部に導入されてもよい。
【0055】
次に、
図3Cを参照して、p
+型のコンタクト領域27が、ボディ領域8の表層部に形成される(
図2のステップS2)。コンタクト領域27を形成する工程は、ボディ領域8の表層部にp型不純物を導入する工程を含む。p型不純物は、イオン注入マスク41を介するイオン注入法によってボディ領域8の表層部に導入されてもよい。
【0056】
次に、
図3Dを参照して、n
+型のソース領域26が、ボディ領域8の表層部に形成される(
図2のステップS2)。ソース領域26を形成する工程は、ボディ領域8の表層部にn型不純物を導入する工程を含む。n型不純物は、イオン注入マスク42を介するイオン注入法によって、ボディ領域8の表層部に導入されてもよい。
【0057】
ボディ領域8の形成工程、コンタクト領域27の形成工程およびソース領域26の形成工程の順序は、一例に過ぎず、前記順序に限定されない。ボディ領域8の形成工程、コンタクト領域27の形成工程およびソース領域26の形成工程の順序は、必要に応じて入れ替えられてもよい。
【0058】
次に、
図3Eを参照して、所定パターンを有するハードマスク43が、第1主面3の上に形成される(
図2のステップS3)。ハードマスク43は、絶縁体(たとえば酸化シリコン)を含んでいてもよい。ハードマスク43は、ゲートトレンチ11を形成すべき領域を露出させる開口44を有している。
【0059】
次に、
図3Fを参照して、第1主面3においてゲートトレンチ11となる部分が除去される。SiC半導体層2の不要な部分は、ハードマスク43を介するエッチング法(たとえばドライエッチング法)によって除去されてもよい。これにより、第1主面3にゲートトレンチ11が形成される。その後、ハードマスク43は、除去される。
【0060】
次に、
図3Gを参照して、ゲート酸化層12が、第1主面3に形成される(
図2のステップS4)。ゲート酸化層12は、酸化処理法(より具体的には熱酸化処理法)によって形成される。この工程では、1000℃以上の温度で第1主面3を酸化させることにより、20nm以上の厚さを有するゲート酸化層12が形成される。
【0061】
たとえば、1150℃の温度および20時間程度の条件で第1主面3を酸化させることにより、90nm程度の厚さを有するゲート酸化層12が形成される。1300℃の温度および40分程度の条件で第1主面3を酸化させることにより、60nm程度の厚さを有するゲート酸化層12が形成される。
【0062】
酸化処理法は、ドライ酸化処理法またはウェット酸化処理法を含んでいてもよい。この形態では、ドライ酸化処理法によってゲート酸化層12が形成される。ゲート酸化層12は、酸化処理法に代えてCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成されてもよい。
【0063】
ゲート酸化層12が形成された直後では、SiC半導体層2においてゲート酸化層12に接する界面領域25に、未結合種および炭素原子が存在する。
図3Gでは、未結合種が「X」によって簡略化して示され、炭素原子が「C」によって簡略化して示されている。未結合種および炭素原子は、界面領域25における界面欠陥の一要因である。未結合種および炭素原子が存する状態では、優れたチャネル移動度を得ることはできない。
【0064】
次に、
図3Hを参照して、ゲート酸化層12に窒素原子を導入する窒素原子導入工程が実施される(
図2のステップS5)。窒素原子導入工程は、ポストデポジションアニール工程やポストオキシデーションアニール工程とも称される。
【0065】
窒素原子導入工程は、窒素原子を含むガス雰囲気下でアニール処理を施す工程を含む。この雰囲気にリン原子は含まれない。窒素原子導入工程は、1000℃以上1400℃以下(たとえば1250℃程度)の温度および1分以上600分以下の条件で実施されてもよい。
【0066】
窒素原子を含むガスは、この形態では、窒素原子および酸素原子を含むNO(一酸化窒素)ガスを不活性ガスで希釈した混合ガスである。不活性ガスは、N2(窒素)ガス、Ar(アルゴン)ガスおよびHe(ヘリウム)ガスのうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。混合ガス中の不活性ガスの含有率は、5%以上20%以下(たとえば10%程度)であってもよい。
【0067】
この工程では、NO(一酸化窒素)ガス中の窒素原子が、ゲート酸化層12に導入される。この窒素原子は、SiC半導体層2の界面領域25に存する未結合種と結合する。
図3Hでは、窒素原子が「N」によって示されている。
【0068】
また、この工程では、NO(一酸化窒素)ガス中の酸素原子も、ゲート酸化層12に導入される。この酸素原子は、ゲート酸化層12中の炭素原子と反応する。また、この酸素原子は、SiC半導体層2の界面領域25に存する炭素原子とも反応する。これにより、ゲート酸化層12中の炭素原子およびSiC半導体層2の界面領域25に存する炭素原子が、CO(一酸化炭素)またはCO2(二酸化炭素)となる。
【0069】
この工程では、SiC半導体層2およびゲート酸化層12の間(つまり、界面領域25)の界面欠陥を、窒素原子によって窒素終端させることができる。また、この工程では、ゲート酸化層12および界面領域25から炭素原子を脱離させることができる。したがって、SiC半導体層2およびゲート酸化層12の間(つまり、界面領域25)の界面欠陥を低減できる。
【0070】
図3Iを参照して、窒素原子導入工程の後、ゲート酸化層12に酸素原子を導入する酸素原子導入工程がさらに実施される(
図2のステップS6)。酸素原子導入工程は、不活性ガスを含む混合ガスで希釈された低酸素分圧雰囲気下でアニール処理を施す工程を含む。不活性ガスは、希ガスや窒素原子等を含んでいてもよい。低酸素分圧雰囲気にリン原子は含まれない。
【0071】
低酸素分圧雰囲気下での酸素分圧は、0.1Pa以上10Pa以下であってもよい。酸素原子導入工程は、800℃以上1500℃以下(たとえば1300℃程度)の温度および1分以上600分以下の条件で実施されてもよい。混合ガスの圧力は、0.1気圧以上2気圧以下(たとえば1気圧程度)であってもよい。
【0072】
この工程では、O2(酸素)ガス中の酸素原子が、ゲート酸化層12に導入される。この酸素原子は、ゲート酸化層12中の炭素原子と反応する。また、この酸素原子は、SiC半導体層2の界面領域25に存する炭素原子とも反応する。
【0073】
これにより、ゲート酸化層12中の炭素原子および界面領域25に存する炭素原子が、CO(一酸化炭素)またはCO2(二酸化炭素)となる。その結果、ゲート酸化層12および界面領域25から炭素原子を脱離させることができる。
【0074】
よって、SiC半導体層2およびゲート酸化層12の間(つまり、界面領域25)の界面欠陥の更なる低減を図ることができる。特に、酸素分圧が0.1Pa以上10Pa以下の雰囲気下であれば、界面領域25の酸化を抑制しつつ、界面領域25から炭素原子を適切に脱離させることができる。
【0075】
次に、
図3Jを参照して、ゲート電極層13のベースとなるベース電極層45が、第1主面3の上に形成される(
図2のステップS7)。ベース電極層45は、導電性ポリシリコンを含んでいてもよい。ベース電極層45は、CVD法によって形成されてもよい。ベース電極層45は、ゲートトレンチ11を埋めて、第1主面3を被覆する。
【0076】
次に、
図3Kを参照して、ベース電極層45の不要な部分が除去される。ベース電極層45の不要な部分は、マスク(図示せず)を介するエッチング法(たとえばウエットエッチング法)によって除去されてもよい。ベース電極層45の不要な部分は、ゲート酸化層12が露出するまで除去されてもよい。これにより、ゲート電極層13が形成される。
【0077】
次に、
図3Lを参照して、層間絶縁層31が、第1主面3の上に形成される(
図2のステップS8)。層間絶縁層31は、酸化シリコンを含んでいてもよい。層間絶縁層31は、CVD法によって形成されてもよい。
【0078】
次に、
図3Mを参照して、所定パターンを有するマスク46が、層間絶縁層31の上に形成される(
図2のステップS9)。マスク46は、感光性樹脂を含むレジストマスクであってもよい。マスク46は、コンタクト孔32を形成すべき領域を露出させる開口47を有している。
【0079】
次に、層間絶縁層31の不要な部分が除去される。層間絶縁層31の不要な部分は、マスク46を介するエッチング法(たとえばウエットエッチング法)によって除去されてもよい。この工程では、ゲート酸化層12の不要な部分も除去される。これにより、コンタクト孔32が形成される。コンタクト孔32が形成された後、マスク46は除去される。
【0080】
次に、
図3Nを参照して、ソース電極33が第1主面3の上に形成され、ドレイン電極34が第2主面4の上に形成される(
図2のステップS10)。以上を含む工程を経て、半導体装置1が製造される。
【0081】
図4は、ゲート酸化層12とは異なる条件で製造されたゲート酸化層の炭素密度の測定結果を示すグラフである。
図4において、縦軸は炭素密度[cm
-3]であり、横軸は、深さ[nm]である。横軸は、より具体的には、ゲート酸化層12の非接続面22を零とし、当該ゲート酸化層12の非接続面22からSiC半導体層2(接続面21)に向かう方向の深さを表している。
【0082】
図4には、第1曲線L1、第2曲線L2および第3曲線L3が示されている。第1曲線L1は、第1参考ゲート酸化層の炭素密度を示している。第1参考ゲート酸化層の形成工程では、窒素原子導入工程(ステップS5)および酸素原子導入工程(ステップS6)が実施されていない。第1参考ゲート酸化層の厚さは、54nm程度である。
【0083】
第2曲線L2は、第2参考ゲート酸化層の炭素密度を示している。第2参考ゲート酸化層の形成工程では、窒素原子導入工程(ステップS5)および酸素原子導入工程(ステップS6)に代えて、Ar(アルゴン)ガス雰囲気下でアニール処理が実施されている。第2参考ゲート酸化層の厚さは、54nm程度である。
【0084】
第3曲線L3は、第3参考ゲート酸化層の炭素密度を示している。第3参考ゲート酸化層の形成工程では、窒素原子導入工程(ステップS5)および酸素原子導入工程(ステップS6)が実施されているが、ゲートトレンチ11の形成工程(ステップS3)が実施されていない。第3参考ゲート酸化層の厚さは、54nm程度である。
【0085】
本実施形態に係るゲート酸化層12の形成工程には、第3参考ゲート酸化層の形成工程が適用されている。本実施形態に係るゲート酸化層12の形成工程は、ゲートトレンチ11の内壁に形成されている点(SiC半導体層2に対する成長方向)において、第3参考ゲート酸化層との形成工程と相違する。しかし、本実施形態に係るゲート酸化層12の炭素密度は、第3参考ゲート酸化層の炭素密度とほぼ等しい。
【0086】
第1曲線L1を参照して、第1参考ゲート酸化層は、炭素密度漸減領域23および低炭素密度領域24を有している。炭素密度漸減領域23は、SiC半導体層2の炭素密度(1.0×1022cm-3以上)から1.0×1019cm-3以下まで漸減している。低炭素密度領域24は、1.0×1019cm-3以下の炭素密度を有している。
【0087】
第1参考ゲート酸化層の炭素密度は、良好である。しかし、第1参考ゲート酸化層に対しては、窒素原子導入工程(ステップS5)および酸素原子導入工程(ステップS6)が実施されていない。したがって、
図3Gに示されるように、SiC半導体層2の界面領域25に、未結合種および炭素原子が存在する。そのため、優れたチャネル移動度を得ることはできない。
【0088】
第2曲線L2を参照して、第2参考ゲート酸化層は、炭素密度漸減領域23および低炭素密度領域24を有している。炭素密度漸減領域23は、SiC半導体層2の炭素密度(1.0×1022cm-3以上)から1.0×1021cm-3以下まで漸減している。低炭素密度領域24は、8.0×1019cm-3以上1.0×1021cm-3以下の炭素密度を有している。
【0089】
Ar(アルゴン)ガス雰囲気下でアニール処理を実施することは、SiC半導体層2およびゲート酸化層12の間(つまり、界面領域25)における界面欠陥を低減する上で有効である。しかし、第2曲線L2から理解されるように、第2参考ゲート酸化層は、多量の炭素原子を含んでいるため、優れた絶縁耐圧を得ることはできない。
【0090】
第3曲線L3を参照して、第3参考ゲート酸化層は、炭素密度漸減領域23および低炭素密度領域24を有している。炭素密度漸減領域23は、SiC半導体層2の炭素密度(1.0×1022cm-3以上)から1.0×1019cm-3以下まで漸減している。低炭素密度領域24は、1.0×1019cm-3以下の炭素密度を有している。
【0091】
第1曲線L1および第2曲線L2との対比からも明らかなように、第3参考ゲート酸化層の炭素密度は、良好である。また、第3参考ゲート酸化層の形成工程では、窒素原子導入工程(ステップS5)が実施されているから、界面領域25の界面欠陥が窒素原子によって窒素終端させている。また、第3参考ゲート酸化層の形成工程では、酸素原子導入工程(ステップS6)が実施されているから、界面領域25から炭素原子が脱離されている。したがって、第3参考ゲート酸化層(つまり、ゲート酸化層12)によれば、優れたチャネル移動度および優れた絶縁耐圧を実現できる。
【0092】
また、第3参考ゲート酸化層に係る製造方法では、P(リン)を含む雰囲気中でアニール処理は実施されない。したがって、第3参考ゲート酸化層にP(リン)が添加されることはない。つまり、第3参考ゲート酸化層では、電荷トラップの導入が抑制されている。したがって、第3参考ゲート酸化層(つまり、ゲート酸化層12)によれば、電荷トラップに起因する経時劣化を抑制できる。
【0093】
図5は、高周波CV特性および準静的CV特性の測定結果を示すグラフである。
図5において、縦軸は、ゲート酸化層12の容量Coxに対する半導体装置1の全容量Cの比率C/Coxであり、横軸は、ゲート電圧VG[V]である。
【0094】
図5には、第1ヒステリシス曲線HL1、第2ヒステリシス曲線HL2および第3ヒステリシス曲線HL3が示されている。
【0095】
第1ヒステリシス曲線HL1は、第4参考ゲート酸化層の高周波CV特性(実線参照)および準静的CV特性(破線参照)を示している。第4参考ゲート酸化層の形成工程では、窒素原子導入工程(ステップS5)および酸素原子導入工程(ステップS6)は実施されていない。
【0096】
第2ヒステリシス曲線HL2は、第5参考ゲート酸化層の高周波CV特性(実線参照)および準静的CV特性(破線参照)を示している。第5参考ゲート酸化層の形成工程では、窒素原子導入工程(ステップS5)は実施されているが、酸素原子導入工程(ステップS6)は実施されていない。
【0097】
第3ヒステリシス曲線HL3は、第6参考ゲート酸化層の高周波CV特性(実線参照)および準静的CV特性(破線参照)を示している。第6参考ゲート酸化層の形成工程では、窒素原子導入工程(ステップS5)および酸素原子導入工程(ステップS6)が実施されているが、ゲートトレンチ11の形成工程(ステップS3)が実施されていない。第6参考ゲート酸化層の厚さは、54nm程度である。
【0098】
本実施形態に係るゲート酸化層12には、第6参考ゲート酸化層の形成工程が適用されている。本実施形態に係るゲート酸化層12の形成工程は、ゲートトレンチ11の内壁に形成されている点(SiC半導体層2に対する成長方向)において、第6参考ゲート酸化層の形成工程と相違する。しかし、本実施形態に係るゲート酸化層12の高周波CV特性および準静的CV特性は、第6参考ゲート酸化層の高周波CV特性(実線参照)および準静的CV特性(破線参照)とほぼ等しい。
【0099】
高周波CV特性(実線参照)および準静的CV特性(破線参照)の間の容量差が大きい程、界面準位密度Ditが大きい。つまり、高周波CV特性(実線参照)および準静的CV特性(破線参照)の間の容量差は、ゲート酸化層によって捕獲された電荷量を示している。
【0100】
図5を参照して、第1ヒステリシス曲線HL、第2ヒステリシス曲線HL2および第3ヒステリシス曲線HL3の順に、高周波CV特性(実線参照)および準静的CV特性(破線参照)の間の容量差が小さくなっていることが分かる。
【0101】
第4参考ゲート酸化層の実効固定電荷は、-7.0×1011cm-2程度であった。実効固定電荷は、フラットバンド電圧シフトにゲート酸化層の容量値を乗じることによって算出される。第5参考ゲート酸化層の実効固定電荷は、-1.0×1011cm-2程度であった。
【0102】
第6参考ゲート酸化層の実効固定電荷は、正の値を有している。第6参考ゲート酸化層の実効固定電荷は、1.0×1011cm-2以上1.0×1013cm-2以下(より具体的には、1.0×1012cm-2程度)であった。
【0103】
図6は、
図5のグラフをHigh-Low法に基づいて界面準位密度Ditに変換したグラフである。
図6において、縦軸は、界面準位密度Dit[eV
-1・cm
-2]であり、横軸は、伝導帯端からのエネルギー準位EC-ET[eV
-1]である。伝導帯端からのエネルギー準位EC-ETは、より具体的には、伝導帯のエネルギー準位ECおよびトラップ帯のエネルギー準位ETの差である。
【0104】
図6には、第1曲線L11、第2曲線L12および第3曲線L13が示されている。
【0105】
第1曲線L11は、SiC半導体層2において第4参考ゲート酸化層に接する界面領域25の界面準位密度Ditの特性を示している。第2曲線L12は、SiC半導体層2において第5参考ゲート酸化層に接する界面領域25の界面準位密度Ditの特性を示している。
【0106】
第3曲線L13は、SiC半導体層2において第6参考ゲート酸化層に接する界面領域25の界面準位密度Ditの特性を示している。本実施形態に係るゲート酸化層12の形成工程は、ゲートトレンチ11の内壁に形成されている点(SiC半導体層2に対する成長方向)において、第6参考ゲート酸化層の形成工程と相違する。しかし、本実施形態に係るゲート酸化層12の界面準位密度Ditは、第6参考ゲート酸化層の界面準位密度Ditとほぼ等しい。
【0107】
図6を参照して、第1曲線L11、第2曲線L12および第3曲線L13の順に、界面準位密度Ditが低下していることが分かる。第3曲線L13を参照して、第6参考ゲート酸化層に係る界面準位密度Ditは、伝導帯端からのエネルギー準位EC-ETが0.2eV以上0.5eV以下の範囲において4.0×10
11eV
-1・cm
-2以下であった。
【0108】
また、第6参考ゲート酸化層に係る界面準位密度Ditは、伝導帯端からのエネルギー準位EC-ETが0.3eV以上0.5eV以下の範囲において、2.0×1011eV-1・cm-2以下であった。さらに、第6参考ゲート酸化層に係る界面準位密度Ditは、伝導帯端からのエネルギー準位EC-ETが0.4eV以上0.5eV以下の範囲において、1.0×1011eV-1・cm-2以下であった。
【0109】
界面準位密度DitおよびSiC半導体層2のチャネル移動度は、互いに背反の関係にある。すなわち、界面準位密度Ditが高い場合、SiC半導体層2のチャネル移動度は低くなる。一方、界面準位密度Ditが低い場合、SiC半導体層2のチャネル移動度は高くなる。
【0110】
第6参考ゲート酸化層に係る界面準位密度Ditは、4.0×1011eV-1・cm-2以下であり、比較的低い。第6参考ゲート酸化層を有する半導体装置(つまり、ゲート酸化層12を有する半導体装置1)では、SiC半導体層2のチャネル移動度が50cm2/Vs以上である。
【0111】
図7は、ゲート酸化層12の電流密度特性の測定結果を示すグラフである。
図7において、縦軸は、ゲート酸化層12を流れる電流密度[A・cm
-2]であり、横軸は、ゲート酸化層12に印加された電界強度[MV・cm
-1]である。
【0112】
ゲート酸化層12に印加された電界強度が6.0MV・cm-1以下の時、ゲート酸化層12を流れる電流密度は、1.0×10-9A・cm-2以下であった。ゲート酸化層12に印加された電界強度が6.0MV・cm-1から9.0MV・cm-1まで上昇すると、ゲート酸化層12を流れる電流密度は、1.0×10-6A・cm-2程度まで上昇した。
【0113】
ゲート酸化層12に印加された電界強度が9.0MV・cm-1(より具体的には、9.5MV・cm-1)以上になると、ゲート酸化層12を流れる電流密度が大幅に増加した。このことから、ゲート酸化層12は、9.0MV・cm-1(より具体的には、9.5MV・cm-1)以上という比較的高いブレークダウン電界強度を有していることが分かった。
【0114】
以上、半導体装置1の製造方法によれば、窒素原子導入工程(
図2のステップS5)において窒素原子がゲート酸化層12に導入される。この窒素原子は、SiC半導体層2においてゲート酸化層12に接する界面領域25に至る(
図3Hも併せて参照)。これにより、SiC半導体層2およびゲート酸化層12の間(つまり、界面領域25)の界面欠陥を、窒素原子によって窒素終端させることができる。
【0115】
また、この製造方法によれば、酸素原子導入工程(
図2のステップS6)において、酸素原子を含む雰囲気下で、ゲート酸化層12に対してアニール処理が実施される。これにより、ゲート酸化層12に酸素原子が導入される(
図3Iも併せて参照)。
【0116】
この酸素原子は、ゲート酸化層12中の炭素原子と反応する。また、この酸素原子は、界面領域25に存する炭素原子と反応する。これにより、ゲート酸化層12中の炭素原子および界面領域25に存する炭素原子が、CO(一酸化炭素)またはCO2(二酸化炭素)となる。
【0117】
その結果、ゲート酸化層12および界面領域25から炭素原子を脱離させることができる。よって、SiC半導体層2およびゲート酸化層12の間の界面欠陥を低減できると共に、良質なゲート酸化層12を得ることができる。
【0118】
ゲート酸化層12は、比較的小さい厚さを有していることが好ましい。ゲート酸化層12の厚さは、より具体的には、20nm以上150nm以下であることが好ましい。ゲート酸化層12の厚さは、20nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。ゲート酸化層12の厚さを小さくすることにより、ゲート酸化層12中の炭素原子を適切に離脱させることができる。これにより、界面領域25における炭素密度を適切に低減し、界面欠陥を適切に低減できる。
【0119】
図8は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置51においてプレーナ構造のMISFETが形成された領域を示す断面図である。以下では、半導体装置1において述べた構造に対応する構造については、同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0120】
図8を参照して、半導体装置51は、プレーナゲート型のMISFETを備えた基本形態を有している。半導体装置51は、n型のSiC半導体層2を含む。SiC半導体層2の第1主面3の表層部には、ウェル状のp型のボディ領域8が形成されている。ボディ領域8の表層部には、ソース領域26およびコンタクト領域27が形成されている。
【0121】
ソース領域26は、ボディ領域8の周縁から内方領域に間隔を空けて形成されている。コンタクト領域27は、平面視においてボディ領域8の中央部に形成されている。ソース領域26は、コンタクト領域27を取り囲んでいてもよい。
【0122】
SiC半導体層2の第1主面3には、プレーナゲート構造62が形成されている。プレーナゲート構造62は、第1主面3の上にこの順に積層されたゲート酸化層12およびゲート電極層13を含む積層構造を有している。
【0123】
ゲート酸化層12は、第1主面3の上においてソース領域26、ボディ領域8およびドリフト領域9に対向している。ゲート酸化層12は、20nm以上500nm以下の厚さを有していてもよい。ゲート酸化層12の厚さは、この形態では、第1主面3の法線方向に沿う厚さである。ゲート酸化層12の厚さは、150nm以下であることが好ましい。ゲート酸化層12の厚さは、100nm以下であることがさらに好ましい。ゲート酸化層12は、この形態では、一様な厚さで形成されている。
【0124】
ゲート酸化層12は、第1主面3に接する接続面21、および、接続面21の反対側に位置する非接続面22を有している。ゲート酸化層12は、前述の炭素密度漸減領域23および低炭素密度領域24を含む。ゲート酸化層12の炭素濃度プロファイルは、
図4に示された通り、第3参考ゲート酸化層(つまり、ゲート酸化層12)の炭素濃度プロファイルと同様である。
【0125】
ゲート電極層13は、ゲート酸化層12を挟んで、ソース領域26、ボディ領域8およびドリフト領域9に対向している。ゲート電極層13は、銅、アルミニウムおよび導電性ポリシリコンのうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0126】
MISFETのチャネルCHは、ボディ領域8においてゲート酸化層12を挟んでゲート電極層13と対向する領域に形成される。SiC半導体層2においてゲート酸化層12に接する境界面には、界面領域25が形成されている。
【0127】
第1主面3の上には、層間絶縁層31が形成されている。層間絶縁層31は、プレーナゲート構造62を被覆している。層間絶縁層31には、ソース領域26およびコンタクト領域27を露出させるコンタクト孔32が形成されている。
【0128】
層間絶縁層31の上には、ソース電極33が形成されている。ソース電極33は、層間絶縁層31の上からコンタクト孔32に入り込んでいる。ソース電極33は、コンタクト孔32内においてソース領域26およびコンタクト領域27に接続されている。SiC半導体層2の第2主面4の上には、ドレイン電極34が接続されている。
【0129】
図9は、
図8に示す半導体装置51の製造方法の一例を説明するための工程図である。
図10A~
図10Lは、
図8に示す半導体装置51の製造方法の一例を説明するための断面図である。
【0130】
図10Aを参照して、SiC半導体層2が用意される(
図9のステップS11)。SiC半導体層2は、SiC半導体基板5を用意する工程と、SiC半導体基板5の主面の上にSiCエピタキシャル層6を形成する工程とを経て形成される。SiCエピタキシャル層6は、SiC半導体基板5の主面からSiCをエピタキシャル成長させることによって形成される。
【0131】
次に、
図10Bを参照して、p型のボディ領域8が、第1主面3の表層部に形成される(
図9のステップS12)。ボディ領域8を形成する工程は、第1主面3の表層部にp型不純物を導入する工程を含む。p型不純物は、イオン注入マスク71を介するイオン注入法によって、SiC半導体層2の第1主面3の表層部に導入されてもよい。
【0132】
次に、
図10Cを参照して、n
+型のソース領域26が、ボディ領域8の表層部に形成される(
図9のステップS12)。ソース領域26を形成する工程は、ボディ領域8の表層部にn型不純物を導入する工程を含む。n型不純物は、イオン注入マスク72を介するイオン注入法によって、ボディ領域8の表層部に導入されてもよい。
【0133】
次に、
図10Dを参照して、ボディ領域8の表層部にp
+型のコンタクト領域27が形成される(
図9のステップS12)。コンタクト領域27を形成する工程は、ボディ領域8の表層部にp型不純物を導入する工程を含む。p型不純物は、イオン注入マスク73を介するイオン注入法によって、ボディ領域8の表層部に導入されてもよい。
【0134】
ボディ領域8の形成工程、ソース領域26の形成工程およびコンタクト領域27の形成工程の順序は、一例に過ぎず、前記順序に限定されない。ボディ領域8の形成工程、ソース領域26の形成工程およびコンタクト領域27の形成工程の順序は、必要に応じて入れ替えられてもよい。
【0135】
次に、
図10Eを参照して、ゲート酸化層12が、第1主面3に形成される(
図9のステップS13)。ゲート酸化層12は、酸化処理法(より具体的には熱酸化処理法)によって形成される。この工程では、1000℃以上の温度で第1主面3を酸化させることにより、20nm以上の厚さを有するゲート酸化層12が形成される。
【0136】
たとえば、1150℃の温度および20時間程度の条件で第1主面3を酸化させることにより、90nm程度の厚さを有するゲート酸化層12が形成される。また、1300℃の温度および40分程度の条件で第1主面3を酸化させることにより、60nm程度の厚さを有するゲート酸化層12が形成される。
【0137】
酸化処理法は、ドライ酸化処理法またはウェット酸化処理法を含んでいてもよい。この形態では、ドライ酸化処理法によってゲート酸化層12が形成される。むろん、ゲート酸化層12は、酸化処理法に代えてCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成されてもよい。
【0138】
ゲート酸化層12が形成された直後では、SiC半導体層2においてゲート酸化層12に接する界面領域25に、未結合種および炭素原子が存在する。
図10Eでは、未結合種が「X」によって簡略化して示され、炭素原子が「C」によって簡略化して示されている。未結合種および炭素原子は、界面領域25における界面欠陥の一要因である。未結合種および炭素原子が存する状態では、優れたチャネル移動度を得ることはできない。
【0139】
次に、
図10Fを参照して、ゲート酸化層12に窒素原子を導入する窒素原子導入工程が実施される(
図9のステップS14)。窒素原子導入工程は、ポストデポジションアニール工程やポストオキシデーションアニール工程とも称される。
【0140】
窒素原子導入工程は、1000℃以上1400℃以下(たとえば1250℃程度)の温度および1分以上600分以下の条件で実施されてもよい。窒素原子導入工程は、窒素原子を含むガス雰囲気下でアニール処理を施す工程を含む。この雰囲気にリン原子は含まれない。
【0141】
窒素原子を含むガスは、この形態では、窒素原子および酸素原子を含むNO(一酸化窒素)ガスを不活性ガスで希釈した混合ガスである。不活性ガスは、N2(窒素)ガス、Ar(アルゴン)ガスまたはHe(ヘリウム)ガスのうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。混合ガス中の不活性ガスの含有率は、5%以上20%以下(たとえば10%程度)であってもよい。
【0142】
この工程では、NO(一酸化窒素)ガス中の窒素原子が、ゲート酸化層12に導入される。この窒素原子は、SiC半導体層2の界面領域25に存する未結合種と結合する。
図10Fでは、窒素原子が「N」によって示されている。
【0143】
また、この工程では、NO(一酸化窒素)ガス中の酸素原子も、ゲート酸化層12に導入される。この酸素原子は、ゲート酸化層12中の炭素原子と反応する。また、この酸素原子は、界面領域25に存する炭素原子とも反応する。これにより、ゲート酸化層12中の炭素原子および界面領域25に存する炭素原子が、CO(一酸化炭素)またはCO2(二酸化炭素)となる。
【0144】
このように、この工程では、SiC半導体層2およびゲート酸化層12の間(つまり、界面領域25)の界面欠陥を、窒素原子によって窒素終端させることができる。また、この工程では、ゲート酸化層12および界面領域25から炭素原子を脱離させることができる。したがって、SiC半導体層2およびゲート酸化層12の間(つまり、界面領域25)の界面欠陥を低減できる。
【0145】
図10Gを参照して、窒素原子導入工程の後、ゲート酸化層12に酸素原子を導入する酸素原子導入工程がさらに実施される(
図9のステップS15)。酸素原子導入工程は、不活性ガスを含む混合ガスで希釈された低酸素分圧雰囲気下でアニール処理を施す工程を含む。不活性ガスは、希ガスや窒素原子等を含んでいてもよい。この雰囲気にリン原子は含まれない。
【0146】
低酸素分圧雰囲気下での酸素分圧は、0.1Pa以上10Pa以下であってもよい。酸素原子導入工程は、800℃以上1500℃以下(たとえば1300℃程度)の温度および1分以上600分以下の条件で実施されてもよい。混合ガスの圧力は、0.1気圧以上2気圧以下(たとえば1気圧程度)であってもよい。
【0147】
この工程では、O2(酸素)ガス中の酸素原子が、ゲート酸化層12に導入される。この酸素原子は、ゲート酸化層12中の炭素原子と反応する。また、この酸素原子は、界面領域25に存する炭素原子とも反応する。
【0148】
これにより、ゲート酸化層12中の炭素原子および界面領域25に存する炭素原子が、CO(一酸化炭素)またはCO2(二酸化炭素)となる。その結果、ゲート酸化層12および界面領域25から炭素原子を脱離させることができる。
【0149】
よって、SiC半導体層2およびゲート酸化層12の間(つまり、界面領域25)の界面欠陥の更なる低減を図ることができる。特に、酸素分圧が0.1Pa以上10Pa以下の雰囲気下であれば、界面領域25の酸化を抑制しつつ、界面領域25から炭素原子を適切に脱離させることができる。
【0150】
次に、
図10Hを参照して、ゲート電極層13のベースとなるベース電極層74が、第1主面3の上に形成される(
図9のステップS16)。ベース電極層74は、ポリシリコンまたはアルミニウムを含んでいてもよい。ベース電極層74は、CVD法によって形成されてもよい。
【0151】
次に、
図10Iを参照して、所定パターンを有するマスク75が、ベース電極層74の上に形成される。マスク75は、ベース電極層74においてゲート電極層13が形成されるべき領域を被覆している。
【0152】
次に、ベース電極層74の不要な部分が除去される。ベース電極層74の不要な部分は、マスク75を介するエッチング法(たとえばウエットエッチング法)によって除去されてもよい。これにより、ゲート電極層13が形成される。
【0153】
次に、
図10Jを参照して、層間絶縁層31が、第1主面3の上に形成される(
図9のステップS17)。層間絶縁層31は、酸化シリコンを含んでいてもよい。層間絶縁層31は、CVD法によって形成されてもよい。
【0154】
次に、
図10Kを参照して、所定パターンを有するマスク76が、層間絶縁層31の上に形成される(
図9のステップS18)。マスク76は、感光性樹脂を含むレジストマスクであってもよい。マスク76は、コンタクト孔32を形成すべき領域を露出させる開口77を有している。
【0155】
次に、層間絶縁層31の不要な部分が除去される。層間絶縁層31の不要な部分は、マスク76を介するエッチング法(たとえばウエットエッチング法)によって除去されてもよい。これにより、コンタクト孔32が形成される。コンタクト孔32が形成された後、マスク76は除去される。
【0156】
次に、
図10Lを参照して、ソース電極33が第1主面3の上に形成され、ドレイン電極34が第2主面4の上に形成される(
図9のステップS19)。以上を含む工程を経て、半導体装置51が製造される。
【0157】
以上、本実施形態に係る半導体装置51は、トレンチゲート構造10に代えてプレーナゲート構造62を有している点を除いて、半導体装置1と同様の構造を有している。したがって、半導体装置51および半導体装置51の製造方法においても、半導体装置1および半導体装置1の製造方法に対して述べた効果と同様の効果を奏することができる。
【0158】
図11は、本発明の第3実施形態に係る半導体装置81においてトレンチゲート型のMISFETが形成された領域を示す断面図である。第1実施形態に係る半導体装置1では、ゲート酸化層12が一様な厚さで形成されてもよい旨を説明した。また、第1実施形態に係る半導体装置1では、
図3Gの工程においてゲート酸化層12がCVD法によって形成されてもよい旨を説明した。
【0159】
第3実施形態に係る半導体装置81は、CVD法によって形成されたゲート酸化層12を含む半導体装置1の一形態例である。以下では、半導体装置1において述べた構造に対応する構造については、同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0160】
図11を参照して、ゲート酸化層12は、この形態では、CVD法によって形成され、一様な厚さでゲートトレンチ11の側壁および底壁を被覆する膜状に形成されている。つまり、ゲート酸化層12の第1厚さT1は、ゲート酸化層12の第2厚さT2とほぼ等しい(T1=T2(T1≒T2))。
【0161】
第1厚さT1が第2厚さT2とほぼ等しいとは、第1厚さT1が第2厚さT2の±10%以内の値(T2×0.9≦T1≦T2×1.1)を有していることを意味する。むろん、ゲート酸化層12がCVD法によって形成されているという条件下において、第1厚さT1は、第2厚さT2を超えていてもよいし(たとえば、T1>T2×1.1)、第2厚さT2未満(たとえば、T1<T2×0.9)であってもよい。
【0162】
図3A~
図3Nに示された通り、半導体装置81は、半導体装置1の製造方法と同様の製造方法によって製造される。また、
図4に示された通り、半導体装置81に係るゲート酸化層12の炭素濃度プロファイルは、第3参考ゲート酸化層(つまり、ゲート酸化層12)の炭素濃度プロファイルと同様である。
【0163】
以上、半導体装置81および半導体装置81の製造方法においても、半導体装置1および半導体装置1の製造方法に対して述べた効果と同様の効果を奏することができる。
【0164】
本発明の実施形態について説明したが、本発明は他の形態で実施することもできる。
【0165】
たとえば、前述の各実施形態では、窒素原子導入工程(
図2のステップS5および
図9のステップS14)の後、酸素原子導入工程(
図2のステップS6および
図9のステップS15)が実施される例について説明した。しかし、前述の各実施形態において、窒素原子導入工程(
図2のステップS5および
図9のステップS14)を行わずに酸素原子導入工程(
図2のステップS6および
図9のステップS15)だけが実施されてもよい。
【0166】
前述の各実施形態では、ゲート酸化層12に対して、窒素原子導入工程(
図2のステップS5および
図9のステップS14)および酸素原子導入工程(
図2のステップS6および
図9のステップS15)が実施される例について説明した。しかし、ゲート酸化層12以外のSiO
2層に対して、窒素原子導入工程(
図2のステップS5および
図9のステップS14)および酸素原子導入工程(
図2のステップS6および
図9のステップS15)が実施されてもよい。
【0167】
ゲート酸化層12以外のSiO2層は、LOCOS(Local Oxidation Of Silicon)層に代表される領域分離のためのSiO2層を含んでいてもよい。その他、第1主面3の酸化によって形成されるSiO2層や、CVD法によって第1主面3に形成されるSiO2層は、ゲート酸化層12以外のSiO2層として適切である。
【0168】
窒素原子導入工程(
図2のステップS5および
図9のステップS14)および酸素原子導入工程(
図2のステップS6および
図9のステップS15)を実施し、ゲート酸化層12(SiO
2層)や界面領域25から炭素原子を脱離させるという技術的思想は、SiO
2以外の無機絶縁体を含む絶縁層にもある程度の効果を見込むことができる。
【0169】
SiO2以外の無機絶縁体を含む絶縁層としては、SiN(窒化シリコン)層、Al2O3(酸化アルミニウム)層、ONO層等を例示できる。ONO層は、SiC半導体層2の第1主面3の上にこの順に積層されたSiO2層、SiN層およびSiO2層を含む積層構造を有している。つまり、前述の各実施形態において、ゲート酸化層12は、SiO2に代えてまたはこれに加えて、SiN層、Al2O3層、ONO層等を含んでいてもよい。
【0170】
前述の各実施形態において、各半導体部分の導電型が反転された構造が採用されてもよい。つまり、p型の部分がn型とされ、n型の部分がp型とされてもよい。
【0171】
前述の各実施形態において、n+型のSiC半導体基板5に代えてp+型のSiC半導体基板5が採用されてもよい。p+型のSiC半導体基板5は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)のコレクタ領域として機能する。この場合、前述の各実施形態において、MISFETの「ソース」がIGBTの「エミッタ」と読み替えられ、MISFETの「ドレイン」がIGBTの「コレクタ」と読み替えられる。
【0172】
この明細書は、第1~第3実施形態に示された特徴の如何なる組み合わせ形態をも制限しない。第1~第3実施形態は、それらの間で任意の態様および任意の形態において組み合わせられることができる。つまり、第1~第3実施形態に示された特徴が任意の態様および任意の形態で組み合わされた形態が採用されてもよい。
【0173】
この出願は、2018年1月17日に日本国特許庁に提出された特願2018-005735号に対応しており、この出願の全開示はここに引用により組み込まれるものとする。
【0174】
本発明の実施形態について詳細に説明してきたが、これらは本発明の技術的内容を明らかにするために用いられた具体例に過ぎず、本発明はこれらの具体例に限定して解釈されるべきではなく、本発明の範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0175】
1 半導体装置
2 SiC半導体層
5 SiC半導体基板
6 SiCエピタキシャル層
12 ゲート酸化層(SiO2層)
13 ゲート電極層
21 ゲート酸化層の接続面
22 ゲート酸化層の非接続面
23 炭素密度漸減領域
24 低炭素密度領域
25 界面領域
51 半導体装置
81 半導体装置