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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】工具本体、及び工具本体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/00 20060101AFI20240701BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20240701BHJP
   B23C 5/20 20060101ALI20240701BHJP
   B23C 9/00 20060101ALI20240701BHJP
   B23P 15/30 20060101ALI20240701BHJP
   B23P 15/34 20060101ALI20240701BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240701BHJP
   C22C 38/12 20060101ALI20240701BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240701BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20240701BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B23B27/00 C
B23C5/16
B23C5/20
B23C9/00 Z
B23P15/30
B23P15/34
C22C38/00 304
C22C38/00 301H
C22C38/12
B22F1/00 U
B22F3/10 B
B22F7/00 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022501624
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2020040686
(87)【国際公開番号】W WO2021166331
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2020025191
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】伊志嶺 朝之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】江頭 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】嶋内 一誠
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-004905(JP,A)
【文献】特表2011-527728(JP,A)
【文献】特開昭54-007691(JP,A)
【文献】特開2016-056445(JP,A)
【文献】特開2009-154251(JP,A)
【文献】特開2001-300813(JP,A)
【文献】特表2012-524667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 - 29/34
B22F 3/11
B22F 7/00
B23C 5/00 - 5/28
B23C 9/00
B23P 15/28 - 15/34
C22C 38/00 - 38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサートが取り付けられる工具本体であって、
焼結金属材によって構成されており、
前記焼結金属材は、
金属からなる母相と、
前記母相中に存在する複数の気孔と、を備え
前記焼結金属材の相対密度が93%以上99.5%以下であり、
前記焼結金属材の任意の断面において、
前記気孔の平均周囲長が100μm以下であり、
前記気孔の平均断面積が500μm 以下であり、
前記気孔の最大径の平均値が5μm以上30μm以下である、
工具本体。
【請求項2】
前記気孔の最大径の最大値が30μm以下である請求項1に記載の工具本体。
【請求項3】
前記気孔の最大径の最小値が3μm以上20μm以下である請求項1または請求項2に記載の工具本体。
【請求項4】
前記気孔の平均周囲長が10μm以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の工具本体。
【請求項5】
前記気孔の平均断面積が20μm 以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の工具本体。
【請求項6】
前記断面における前記気孔の真円度が3.4以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の工具本体。
【請求項7】
前記複数の気孔が前記母相中に等方的に分散する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の工具本体。
【請求項8】
前記金属は、鉄基合金であり、
前記鉄基合金は、C、Ni、Mo、及びBからなる群より選択される1種以上の元素を含有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の工具本体。
【請求項9】
金属粉末を含有する原料粉末を圧縮して、圧粉成形体を成形する工程と、
前記圧粉成形体を機械加工して、インサートが取り付けられる工具本体の形状に加工する工程と、
工具本体の形状に加工した前記圧粉成形体を焼結する工程と、を備え
前記圧粉成形体を成形する工程において、前記圧粉成形体の相対密度が93%以上99.5%以下であり、
前記圧粉成形体を焼結する工程において、焼結温度が液相温度未満である、
工具本体の製造方法。
【請求項10】
前記圧粉成形体を焼結する工程において、焼結温度が1000℃以上1200℃未満である請求項に記載の工具本体の製造方法。
【請求項11】
前記金属粉末は、ビッカース硬度Hvが80以上200以下である鉄系材料からなる粉末を含む請求項9または請求項10に記載の工具本体の製造方法。
【請求項12】
前記鉄系材料からなる粉末は、鉄基合金からなる粉末を含み、
前記鉄基合金は、0.1質量%以上2.0質量%以下のMo及び0.5質量%以上5.0質量%以下のNiの少なくとも一方の元素を含有する請求項11に記載の工具本体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具本体、及び工具本体の製造方法に関する。
本出願は、2020年2月18日付の日本国出願の特願2020-025191号に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、切刃を有する刃部と、刃部が固着される本体とから構成される除去加工用工具を開示する。特許文献1に記載された工具本体は、いわゆるポーラス金属から構成される。このポーラス金属は、ガス原子が溶解した溶融状態の金属を所定の方向から徐々に冷却、凝固させることで、その凝固過程でガス原子が析出することにより、多数の空隙が冷却方向に沿って細長く形成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-66714号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の工具本体は、
インサートが取り付けられる工具本体であって、
焼結金属材によって構成されており、
前記焼結金属材は、
金属からなる母相と、
前記母相中に存在する複数の気孔と、を備える。
【0005】
本開示の工具本体の製造方法は、
原料粉末を圧縮して、圧粉成形体を成形する工程と、
前記圧粉成形体を機械加工して、インサートが取り付けられる工具本体の形状に加工する工程と、
工具本体の形状に加工した前記圧粉成形体を焼結する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A図1Aは、実施形態に係る工具本体を備えるカッタの一例を示す側面図である。
図1B図1Bは、実施形態に係る工具本体を備えるバイトの一例を示す平面図である。
図1C図1Cは、実施形態に係る工具本体を備えるバイトの一例を示す側面図である。
図2A図2Aは、試験例1で作製した試料No.1の焼結金属材の断面を示す顕微鏡写真である。
図2B図2Bは、試験例1で作製した試料No.2の焼結金属材の断面を示す顕微鏡写真である。
図2C図2Cは、試験例1で作製した試料No.3の焼結金属材の断面を示す顕微鏡写真である。
図3図3は、試験例1で作製した各試料の焼結金属材について、気孔の平均断面積を示すグラフである。
図4図4は、試験例1で作製した各試料の焼結金属材について、気孔の平均周囲長を示すグラフである。
図5図5は、試験例1で作製した各試料の焼結金属材について、気孔の最大径の平均値を示すグラフである。
図6図6は、試験例1で作製した各試料の焼結金属材について、気孔の最大径の最大値を示すグラフである。
図7図7は、試験例1で作製した各試料の焼結金属材について、気孔の最大径の最小値を示すグラフである。
図8A図8Aは、試験例1で作製した試料No.101の焼結金属材の断面を示す顕微鏡写真である。
図8B図8Bは、試験例1で作製した試料No.102の焼結金属材の断面を示す顕微鏡写真である。
図8C図8Cは、試験例1で作製した試料No.103の焼結金属材の断面を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
従来、切刃を有するインサートと、インサートが取り付けられる工具本体とを備える刃先交換式の切削工具が知られている。インサートは切削工具の刃先を構成する。一般に、工具本体は、工具鋼などの金属の溶製材を機械加工して作製されている。従来、工具本体を構成する溶製材は、中実の金属材料であり、気孔が実質的に存在しない。
【0008】
特許文献1に記載された工具本体は、ポーラス金属から構成されるため、安定した強度が得られないおそれがある。特許文献1によれば、工具本体をポーラス金属から構成することで、空隙による振動抑制効果によって、ビビリ振動などを抑制することができるとされている。上記ポーラス金属は、溶融金属を所定の方向から冷却することで、多数の空隙を特定の方向に沿って細長く形成している。これらの空隙は、その長手方向を概ね揃えるように制御することはできても、個々の空隙の大きさや空隙の位置を制御することが難しい。そのため、上記ポーラス金属は、空隙の大きさがばらつくことがあり、粗大な空隙が生じる可能性がある。工具本体を構成するポーラス金属に粗大な空隙が存在すると、工具本体の強度が低下する。更に、空隙の位置を制御できないので、工具本体において、使用中に応力が集中する箇所に粗大な空隙が位置する可能性もある。
【0009】
また、上記ポーラス金属は、多数の空隙が特定の方向に沿うように規則的に形成されている。そのため、このようなポーラス金属で工具本体を構成した場合、工具本体が特定の方向に沿って割れ易いと考えられる。近年では、複雑形状の加工のため、1つの工具で多方向から加工を行う場合がある。工具本体を構成するポーラス金属に多数の空隙が特定の方向に沿って存在すると、加工中に特定の方向に沿って割れが発生し易いことから、工具本体の強度が不足する可能性がある。
【0010】
本開示は、振動減衰性に優れ、安定した強度を有する工具本体を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、振動減衰性に優れ、安定した強度が得られる工具本体の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示の工具本体は、振動減衰性に優れ、安定した強度を有する。本開示の工具本体の製造方法は、振動減衰性に優れ、安定した強度を有する工具本体を製造できる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、工具本体を焼結金属材により構成することを提案する。焼結金属材は、金属の粉末を成形して焼結した材料である。
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
(1)本開示の実施形態に係る工具本体は、
インサートが取り付けられる工具本体であって、
焼結金属材によって構成されており、
前記焼結金属材は、
金属からなる母相と、
前記母相中に存在する複数の気孔と、を備える。
【0014】
本開示の工具本体は、焼結金属材によって構成されていることで、振動減衰性に優れながら、安定した強度を有する。焼結金属材は、母相中に複数の気孔を有することで、振動を効果的に抑制することができる。そのため、焼結金属材は、中実の溶製材に比べて振動減衰性に優れている。したがって、本開示の工具本体は振動減衰性に優れる。本開示の工具本体を切削工具に使用した場合、加工中にビビリ振動などを抑制でき、加工精度が向上する。
【0015】
一般に、焼結金属材は、複数の気孔が母相中に等方的に分散する。「等方的に分散する」とは、気孔の大きさが方向に依存していないことを意味する。つまり、焼結金属材は、特許文献1に記載されたポーラス金属のように、気孔が特定の方向に沿って細長く形成されていない。そのため、焼結金属材は、特定の方向に沿って割れが発生し難い。更に、焼結金属材は、上記ポーラス金属に比べて粗大な気孔が形成されることを抑制できる。よって、工具本体が焼結金属材によって構成されていることで、工具本体の強度の低下を抑制することができる。本開示の工具本体を切削工具に使用した場合、1つの工具で多方向から加工を行っても、多方向に対して工具本体の強度のばらつきが小さい。したがって、本開示の工具本体は安定した強度を有する。
【0016】
その他、焼結金属材は複数の気孔を有することから、中実の溶製材に比べて工具本体の軽量化を図ることができる。また、焼結金属材は、複数の気孔によって熱を効果的に逃がすことができる。そのため、本開示の工具本体は放熱性にも優れる。
【0017】
(2)本開示の工具本体の一形態として、
前記焼結金属材の相対密度が85%以上99.9%以下であることが挙げられる。
【0018】
上記形態は、工具本体の強度と振動減衰性とを両立させ易い。上記焼結金属材は、85%以上の相対密度を有しており、緻密である。上記焼結金属材は、気孔が少ないため、気孔が割れの起点になり難い。よって、上記形態は、工具本体の強度を高めることができる。上記焼結金属材は、相対密度が99.9%以下であることで、気孔を含む。そのため、上記形態は、工具本体の振動減衰性や放熱性を改善することができる。また、工具本体の軽量化が可能である。
【0019】
(3)本開示の工具本体の一形態として、
前記焼結金属材の相対密度が93%以上99.5%以下であることが挙げられる。
【0020】
上記形態は、工具本体の強度と振動減衰性とをより両立させることができる。焼結金属材の相対密度が93%以上であれば、気孔がより少ないため、気孔が割れの起点に更になり難い。よって、上記形態は、工具本体の強度をより高めることができる。焼結金属材の相対密度が99.5%以下であることで、気孔を適度に含む。そのため、上記形態は、工具本体の振動減衰性や放熱性をより改善することができる。また、工具本体をより軽量化できる。
【0021】
(4)本開示の工具本体の一形態として、
前記焼結金属材の任意の断面における前記気孔の平均周囲長が100μm以下であることが挙げられる。
【0022】
上記形態は、工具本体の強度をより高めることができる。上記焼結金属材は、複数の気孔を含むものの、各気孔が割れの起点になり難い。この理由は、気孔の平均周囲長が100μm以下であれば、複数の気孔のうち、多くの気孔の周囲長が短いといえるからである。周囲長が短い気孔は、断面積が小さく、割れに起点になり難い。更に、上記形態は、気孔が小さいため、工具本体の振動減衰性が向上する。
【0023】
上記焼結金属材は、比較的低温で焼結することで製造されるため、生産性にも優れる。焼結温度が低いことで、熱エネルギーを低減できる。圧粉成形体を液相が生じる程度の高温で焼結すると、気孔が大きくなり易い。大きな気孔は割れの起点になり易い。気孔が割れの起点となることで、焼結金属材の強度が低下する。これに対し、圧粉成形体を比較的低温で焼結すれば、気孔が小さい焼結金属材を得ることが可能である。また、低温焼結した場合、高温焼結する場合に比べて、形状精度や寸法精度に優れる焼結金属材が得られ易い。そのため、上記焼結金属材は歩留まりを改善できる。
【0024】
(5)本開示の工具本体の一形態として、
前記焼結金属材の任意の断面における前記気孔の平均断面積が500μm以下であることが挙げられる。
【0025】
上記形態は、工具本体の強度をより高めることができる。上記焼結金属材は、複数の気孔を含むものの、各気孔が割れの起点になり難い。この理由は、気孔の平均断面積が500μm以下であれば、複数の気孔のうち、多くの気孔の断面積が小さいといえるからである。断面積が小さい気孔は割れの起点になり難い。更に、上記形態は、気孔が小さいため、工具本体の振動減衰性が向上する。
【0026】
上記焼結金属材は、比較的低温で焼結することで製造されるため、生産性にも優れる。その理由は上述したとおりである。
【0027】
(6)上記(4)又は(5)に記載の工具本体の一形態として、
前記気孔の最大径の平均値が5μm以上30μm以下であることが挙げられる。
【0028】
上記形態は、工具本体の強度を更に高めることができる。上記焼結金属材において、気孔の最大径の平均値が上記範囲であることで、気孔の周囲長が短かったり、気孔の断面積が小さかったりする。気孔の最大径の平均値が30μm以下であれば、複数の気孔のうち、多くの気孔は短く小さなものといえる。そのため、各気孔が割れの起点に更になり難い。更に、上記形態は、全体的に気孔が小さいため、工具本体の振動減衰性がより向上する。気孔の最大径の平均値が5μm以上であれば、気孔が小さ過ぎず、振動を抑制する効果が高い。
【0029】
(7)本開示の工具本体の一形態として、
前記複数の気孔が前記母相中に等方的に分散することが挙げられる。
【0030】
上記形態は、気孔が特定の方向に配向していないため、特定の方向に沿って割れが発生し難い。
【0031】
(8)本開示の工具本体の一形態として、
前記金属は、鉄基合金であり、
前記鉄基合金は、C、Ni、Mo、及びBからなる群より選択される1種以上の元素を含有することが挙げられる。
【0032】
上記形態は、工具本体の強度を高めることができる。上記に列挙する元素を含有する鉄基合金、例えばCを含有する鉄基合金である鋼などは強度が優れる。したがって、上記形態の工具本体は高い強度を有する。
【0033】
(9)本開示の実施形態に係る工具本体の製造方法は、
金属粉末を含有する原料粉末を圧縮して、圧粉成形体を成形する工程と、
前記圧粉成形体を機械加工して、インサートが取り付けられる工具本体の形状に加工する工程と、
工具本体の形状に加工した前記圧粉成形体を焼結する工程と、を備える。
【0034】
本開示の工具本体の製造方法は、焼結金属材から構成される工具本体を製造できる。工具本体を焼結金属材によって構成することで、上述したように、振動減衰性に優れ、安定した強度を有する工具本体が得られる。更に、工具本体を焼結金属材によって構成した場合、工具本体の軽量化や放熱性の向上を図ることができる。
【0035】
本開示の工具本体の製造方法は、圧粉成形体を機械加工して工具本体の形状に加工するため、工具本体を生産性よく製造できる。焼結前の圧粉成形体は、金属粉末を成形したままのものであるので、焼結後の焼結金属材に比べて切削加工し易い。本開示の製造方法は、圧粉成形体を加工するため、加工時間が短くて済む上、加工工具の寿命も焼結金属材を加工する場合に比べて延ばせられる。また、切削加工を容易に行えるため、形状精度や寸法精度に優れる工具本体が得られ易い。よって、本開示の製造方法は、形状精度や寸法精度が高い工具本体が得られるので、歩留まりを高められる。
【0036】
(10)本開示の工具本体の製造方法の一形態として、
前記圧粉成形体を成形する工程において、前記圧粉成形体の相対密度が85%以上99.9%以下であることが挙げられる。
【0037】
上記形態は、圧粉成形体が85%以上の相対密度を有することで、85%以上の相対密度を有する焼結金属材が得られる。この焼結金属材は、気孔が少ないため、気孔が割れの起点になり難い。よって、上記形態は、工具本体の強度を高めることができる。また、上記形態は、上述の緻密な圧粉成形体を用いるため、1300℃未満といった比較的低温で焼結しても、相対密度が高い緻密な焼結金属材からなる工具本体が得られる。一方、圧粉成形体の相対密度が99.9%以下であることで、焼結金属材の相対密度を99.9%以下にできる。この焼結金属材は、気孔を含むため、工具本体の振動減衰性や放熱性を改善することができる。また、工具本体の軽量化が可能である。
【0038】
(11)本開示の工具本体の製造方法の一形態として、
前記圧粉成形体を焼結する工程において、焼結温度が1000℃以上1300℃未満であることが挙げられる。
【0039】
上記形態は、圧粉成形体を1000℃以上1300℃未満の温度で焼結するため、生産性に優れる。焼結温度が1300℃未満であることで、熱エネルギーを低減できる。更に、焼結温度が比較的低温であるので、粗大な気孔が形成されることを抑制できる。そのため、気孔が小さい焼結金属材が得られ易い。代表的には、気孔の平均周囲長が100μm以下、又は、気孔の平均断面積が500μm以下である焼結金属材が得られる。よって、上記形態は、工具本体の強度をより高めることができる。また、低温焼結した場合、高温焼結する場合に比べて、形状精度や寸法精度に優れる工具本体が得られ易い。そのため、上記形態は歩留まりを更に高められる。
【0040】
(12)本開示の工具本体の製造方法の一形態として、
前記金属粉末は、ビッカース硬度Hvが80以上200以下である鉄系材料からなる粉末を含むことが挙げられる。
【0041】
上記形態は、高い強度を有する工具本体が得られる。鉄系材料は、代表的には、鉄基合金が挙げられる。鉄基合金は、一般に、高強度である。そのため、金属粉末が鉄系材料からなることで、高強度な焼結金属材が得られる。更に、金属粉末として、80以上200以下のビッカース硬度Hvを有する鉄系材料の粉末を用いることで、上述の緻密な圧粉成形体が得られ易い。緻密な圧粉成形体を焼結することで、緻密な焼結金属材が得られる。よって、上記形態は、工具本体の強度を高めることができる。
【0042】
(13)上記(12)に記載の工具本体の製造方法の一形態として、
前記鉄系材料からなる粉末は、鉄基合金からなる粉末を含み、
前記鉄基合金は、0.1質量%以上2.0質量%以下のMo及び0.5質量%以上5.0質量%以下のNiの少なくとも一方の元素を含有することが挙げられる。
【0043】
上記形態は、80以上200以下のビッカース硬度Hvを有する鉄基合金の粉末を得易い。
【0044】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照して、本開示の実施形態に係る工具本体、及び工具本体の製造方法を説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0045】
[工具本体]
主に図1A図1B図1Cを参照して、実施形態の工具本体110、210を説明する。以下では、図1A図1B図1Cをまとめて図1と称する場合がある。
【0046】
図1に示す工具100、200は切削工具である。図1Aに示す工具100は、フライス工具の一例であるカッタである。図1B図1Cに示す工具200は、旋削工具の一例であるバイトである。工具100、200は、インサート101、201と、インサート101、201が取り付けられる工具本体110、210とを備える。インサート101、201はチップと呼ばれることもある。工具本体110、210とは、インサート101、201が固定される部材のことである。通常、工具本体110、210は、刃物台又は主軸に取り付けられる。
【0047】
インサート101、201は切刃102、202を有する。インサート101、201は工具100、200の刃先を構成する。インサート101、201の材種は、例えば、超硬合金、サーメット、立方晶窒化硼素(CBN)焼結体、ダイヤモンド焼結体、高速度鋼などが挙げられる。インサート101、201の形状は、公知の形状を採用できる。
【0048】
工具本体110、210は、インサート101、201が取り付けられる取付座111、211を有する。本例の取付座111、211は、工具本体110、210の先端部に設けられている。取付座111、211の一例としては、インサート101、201の形状に対応した凹部が挙げられる。本例の取付座111の形状は、略四角形状である。本例の取付座211の形状は、略三角形状である。インサート101、201は取付座111、211から切刃102、202が突出するように取り付けられる。本例では、取付座111、211に、インサート101、201が図示しないネジによって着脱可能に装着されている。具体的には、図1A図1Bに示すように、インサート101、201は、インサート101、201に形成された貫通孔103、203にネジが挿入されることによって、取付座111、211にネジ止めされている。インサート101、201は、例えばロウ付けによって取付座111、211に固着してもよい。工具本体110、210の形状は、公知の形状を採用できる。本例のカッタの工具本体110は、回転軸の軸孔を有する略円筒状である。この工具本体110の先端側の外径は、根元側の外径よりも大きい。この工具本体110の取付座111の数、及びインサート101の数は6である。本例のバイトの工具本体210は、角棒状のシャンクと、シャンクの先端に一体に設けられるブロック状のホルダとを有する。ホルダには、取付座211が設けられている。
【0049】
本例では、切削工具の一例としてカッタ及びバイトを例示したが、工具の種類はカッタ及びバイトに限定されるものではない。切削工具としては、例えば、転削工具、旋削工具などが挙げられる。代表的には、ドリル、エンドミル、カッタ、バイトなどが挙げられる。例えば工具がドリルやエンドミルである場合、工具本体の形状は、例えば円柱状が挙げられる。例えば工具がカッタである場合、工具本体の形状は、例えば円盤状が挙げられる。この場合、工具本体の先端外周に複数のインサートが取り付けられる。具体的な工具本体の構造としては、工具本体の先端外周に複数の取付座を有し、各々の取付座にインサートが着脱可能に装着されることが挙げられる。インサート及び工具本体のそれぞれの形状は、工具の種類に応じて公知の形状を適宜採用すればよい。
【0050】
実施形態の工具本体110、210の特徴の1つは、焼結金属材によって構成されている点にある。工具本体110、210を構成する焼結金属材について説明する。図2A図2B図2Cはそれぞれ、焼結金属材1の断面を示す顕微鏡写真である。以下では、図2A図2B図2Cをまとめて図2と称する場合がある。
【0051】
[焼結金属材]
図2に示す焼結金属材1は、金属を主体とする焼結材料である。焼結金属材1は、図2に示すように、金属からなる母相10と、母相10中に存在する複数の気孔11とを備える。図2において、濃い色、特に黒色で示される粒状の領域及び白く縁取られた粒状の領域が気孔11であり、残部が母相10である。
【0052】
焼結金属材1は、母相10中に複数の気孔11を有することで、振動を効果的に抑制することができる。そのため、焼結金属材1は、振動減衰性に優れている。したがって、図1に示す工具本体110、210は振動減衰性に優れる。また、焼結金属材1は、複数の気孔11によって熱を効果的に逃がすことができる。よって、工具本体110、210は放熱性に優れる。焼結金属材1は、気孔11を有するため、溶製材に比べて軽量であり、工具本体110、210の軽量化を図ることができる。
【0053】
図2に示すように、焼結金属材1は、複数の気孔11が母相10中に等方的に分散する。つまり、焼結金属材1は、気孔11が特定の方向に沿って細長く形成されていない。そのため、焼結金属材1は、特定の方向に沿って割れが発生し難い。更に、図2に示す焼結金属材1は、任意の断面における気孔11が小さい。図1に示す工具本体110、210は、焼結金属材1によって構成されていることで、多方向に対して強度に優れる。よって、工具本体110、210は安定した強度を有する。
【0054】
以下、主に図2を参照して、焼結金属材1の好ましい態様を説明する。
【0055】
(組成)
母相10を構成する金属は、各種の純金属、又は合金が挙げられる。純金属は、例えばFe(鉄)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)などが挙げられる。合金は、例えば鉄基合金、チタン基合金、銅基合金、アルミニウム基合金、マグネシウム基合金などが挙げられる。合金は、一般に、純金属よりも高強度である。そのため、母相10が合金からなる焼結金属材1は強度が高い。焼結金属材1の強度が高いほど、図1に示す工具本体110、210の強度を高めることが可能である。
【0056】
鉄基合金は、添加元素を含有し、残部がFe及び不純物からなる。鉄基合金は、Feを最も多く含有する。添加元素は、例えばC(炭素)、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)、及びB(硼素)からなる群より選択される1種以上の元素が挙げられる。Feに加えて、上記に列挙する元素を含有する鉄基合金、例えば鋼などは、引張強さが高い。このような鉄基合金からなる母相10を備える焼結金属材1は強度が優れる。一般に、各元素の含有量が多いほど、強度が高くなる一方、靭性が低下する傾向がある。各元素の含有量が多過ぎなければ、強度を高めつつ、靭性の低下を抑制できる。
【0057】
Cを含有する鉄基合金、代表的には炭素鋼は、強度が優れる。Cの含有量は、例えば0.1質量%以上2.0質量%以下が挙げられる。Cの含有量は、0.1質量%以上1.5質量%以下、更に0.1質量%以上1.0質量%以下、0.1質量%以上0.8質量%以下でもよい。なお、各元素の含有量は、鉄基合金を100質量%とする質量割合である。
【0058】
Niは、強度の向上に加え、靭性の向上にも寄与する。Niの含有量は、例えば0質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。Niの含有量は、0.1質量%以上5.0質量%以下、更に0.5質量%以上5.0質量%以下、更には4.0質量%以下、3.0質量%以下でもよい。
【0059】
Mo、Bは、強度の向上に寄与する。特にMoは強度を高める。
Moの含有量は、例えば0質量%以上2.0質量%以下、更に0.1質量%以上2.0質量%以下、更には1.5質量%以下が挙げられる。
Bの含有量は、例えば0質量%以上0.1質量%以下、更に0.001質量%以上0.003質量%以下が挙げられる。
【0060】
その他の添加元素としては、例えばMn(マンガン)、Cr(クロム)、Si(珪素)などが挙げられる。これらの各元素の含有量は、例えば0.1質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。
【0061】
焼結金属材1の全体組成は、例えば、エネルギー分散型X線分析法(EDX又はEDS)、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)などで分析することができる。
【0062】
図1に示す工具本体110、210を構成する焼結金属材1が高い強度を有することで、高い強度を有する工具本体110、210が得られる。よって、工具本体110、210の強度の観点から、焼結金属材1の母相10は上述の鉄基合金からなることが好ましい。
【0063】
(組織)
焼結金属材1は、任意の断面において、複数の気孔11を含む。各気孔11は小さいことが好ましい。各気孔11が小さければ、各気孔11が割れの起点になり難い。焼結金属材1は、気孔11に起因する割れが生じ難いことで、図1に示す工具本体110、210の強度をより高めることができる。また、各気孔11が小さいことで、工具本体110、210の振動減衰性が向上する。後述する気孔の周囲長、気孔の断面積、気孔の最大径、及び相対密度の測定方法の詳細は、後述の試験例で説明する。
【0064】
《気孔の周囲長》
焼結金属材1は、任意の断面における気孔11の平均周囲長が100μm以下であることが好ましい。ここでの気孔11の平均周囲長は、焼結金属材1から任意の断面をとり、この断面において、複数の気孔11について各気孔11の輪郭の長さを求め、それぞれの輪郭の長さを平均した値である。
【0065】
気孔11の平均周囲長が100μm以下であれば、気孔11の多くは、周囲長が短い気孔11であるといえる。周囲長が短い気孔11は断面積が小さい。気孔11の平均周囲長が短いほど、各気孔11の断面積が小さいといえる。各気孔11が小さければ、割れの起点になり難い。よって、気孔11の平均周囲長が100μm以下を満たす焼結金属材1は、図1に示す工具本体110、210の強度をより高めることができる。この焼結金属材1は、気孔11が小さいため、工具本体110、210の振動減衰性が向上する。工具本体110、210の強度及び振動減衰性の観点から、上記平均周囲長は90μm以下、更に80μm以下、特に70μm以下が好ましい。
【0066】
気孔11の平均周囲長は、焼結金属材1の相対密度が高いほど小さくなる傾向にある。例えば、焼結金属材1の素材となる圧粉成形体を成形する工程において、成形圧力を高くして、圧粉成形体の相対密度を高めれば、焼結金属材1の相対密度が高められる。結果として、気孔11が小さくなり、上記平均周囲長が小さくなり易い。しかし、成形圧力が大き過ぎると、金型から圧粉成形体を取り出し難くなったり、金型の寿命が短くなったりし易い。つまり、成形圧力が過大になると、生産性の低下を招くおそれがある。生産性を向上する観点から、上記平均周囲長は、例えば10μm以上、更に15μm以上でもよい。
【0067】
《気孔の断面積》
焼結金属材1は、任意の断面における気孔11の平均断面積が500μm以下であることが好ましい。ここでの気孔11の平均断面積は、焼結金属材1から任意の断面をとり、この断面において、複数の気孔11について各気孔11の断面積を求め、それぞれの断面積を平均した値である。
【0068】
気孔11の平均断面積が500μm以下であれば、気孔11の多くは、断面積が小さい気孔11であるといえる。気孔11の平均断面積が小さいほど、各気孔11の断面積が小さいといえる。各気孔11が小さければ、割れの起点になり難い。よって、気孔11の平均断面積が500μm以下を満たす焼結金属材1は、図1に示す工具本体110、210の強度をより高めることができる。この焼結金属材1は、気孔11が小さいため、工具本体110、210の振動減衰性が向上する。工具本体110、210の強度及び振動減衰性の観点から、上記平均断面積は480μm以下、更に450μm以下、特に430μm以下が好ましい。
【0069】
気孔11の平均断面積は、焼結金属材1の相対密度が高いほど小さくなる傾向にある。上述のように成形圧力が過大にならずに生産性を向上する観点から、上記平均断面積は、例えば20μm以上、更に30μm以上でもよい。
【0070】
焼結金属材1は、気孔11の平均周囲長が100μm以下であり、かつ気孔11の平均断面積が500μm以下であることが好ましい。この場合、気孔11の多くは、断面積が小さく、かつ周囲長も短い気孔11であるといえる。そのため、各気孔11が割れの起点になり難い。上述したように、工具本体110、210の強度及び振動減衰性の観点から、上記平均周囲長及び上記平均断面積は小さいほど好ましい。
【0071】
《気孔の最大径》
更に、気孔11の最大径の平均値も小さいことが好ましい。ここでの気孔11の最大径の平均値は、焼結金属材1から任意の断面をとり、この断面において、複数の気孔11について各気孔11の最大長さを求め、それぞれの最大長さを平均した値である。
【0072】
気孔11の最大径の平均値は、例えば5μm以上30μm以下が挙げられる。上記平均値が30μm以下であれば、気孔11の多くは短く小さなものといえる。このような気孔11は割れの起点に更になり難い。よって、気孔11の最大径の平均値が30μm以下を満たす焼結金属材1は、図1に示す工具本体110、210の強度を更に高めることができる。この焼結金属材1は、全体的に気孔11が小さいため、工具本体110、210の振動減衰性がより向上する。工具本体110、210の強度及び振動減衰性の観点から、上記平均値は28μm以下、更に25μm以下、特に20μm以下が好ましい。上記平均値が5μm以上であれば、気孔11が小さ過ぎない。そのため、気孔11による振動抑制効果が得られ易い。上述のように成形圧力が過大にならずに生産性を向上する観点から、上記平均値は8μm以上、更に10μm以上でもよい。強度と生産性とのバランスを良好とする観点から、上記平均値は、例えば10μm以上25μm以下が挙げられる。
【0073】
更に、気孔11の最大径の最大値も小さいことが好ましい。各気孔11が割れの起点によりなり難いからである。上記最大値は、例えば30μm以下、更に28μm以下、特に25μm以下が好ましい。
【0074】
気孔11の最大径の最小値は、例えば3μm以上20μm以下、更に5μm以上18μm以下が挙げられる。上記最小値が上記範囲であれば、上述のように生産性の向上の点で好ましい。
【0075】
《気孔の形状》
焼結金属材1の断面において、気孔11の形状は、代表的には異形状が挙げられる。気孔11の形状が円形や楕円形などといった単純な曲線形状ではなく、異形状である理由の一つとして、後述するように、緻密な圧粉成形体を比較的低温で焼結することが挙げられる。
【0076】
(相対密度)
焼結金属材1の相対密度は85%以上99.9%以下であることが好ましい。つまり、焼結金属材1は、0.1%以上15%以下の範囲で気孔11を含む。気孔11の割合が上記範囲であれば、気孔11が少ない。よって、焼結金属材1は緻密である。気孔11が少ないことからも、気孔11が割れの起点になり難い。よって、相対密度が85%以上を満たす焼結金属材1は、図1に示す工具本体110、210の強度を高めることができる。焼結金属材1の相対密度が99.9%以下であれば、気孔11を含むため、工具本体110、210の振動減衰性や放熱性を改善することができる。また、工具本体110、210の軽量化が可能である。ここでの相対密度は、例えば、焼結金属材1の任意の断面において、断面の面積に対する母相10が占める面積の比率のことをいう(図2参照)。
【0077】
焼結金属材1の相対密度は、工具本体110、210の強度の観点から、90%以上、更に93%以上、94%以上が好ましい。工具本体110、210の更なる高強度化を図る場合には、上記相対密度は96%以上、特に96.5%以上が好ましい。上記相対密度は、97%以上、98%以上でもよい。工具本体110、210の振動減衰性及び放熱性の向上、工具本体110、210の軽量化を図る観点から、上記相対密度は99.5%以下、更に99%以下が好ましい。
【0078】
焼結金属材1の相対密度が99.9%以下、特に99.5%以下であれば、上述のように成形圧力が過大になることを防止して生産性の向上を図ることができる。生産性を向上する観点から、上記相対密度は99%以下でもよい。
【0079】
工具本体110、210の強度と振動減衰性などとのバランスの観点、及び生産性の観点から、焼結金属材1の相対密度は、例えば93%以上99.5%以下、更に94%以上99%以下が挙げられる。上記相対密度が93%以上であれば、気孔11がより少ないため、気孔11が割れの起点に更になり難い。よって、工具本体110、210の強度をより高めることができる。上記相対密度が99.5%以下であることで、気孔11を適度に含むため、工具本体110、210の振動減衰性や放熱性をより改善することができる。また、工具本体110、210をより軽量化できる。
【0080】
(用途)
実施形態の工具本体110、210は、切削工具に利用できる。切削工具は、例えば、転削工具、旋削工具などが挙げられる。代表的には、ドリル、エンドミル、カッタ、バイトなどが挙げられる。
【0081】
(主な効果)
実施形態の工具本体110、210は、焼結金属材1によって構成されている。焼結金属材1は、複数の気孔11により振動を効果的に抑制することができる。焼結金属材1は、複数の気孔11を含むものの、気孔11が特定の方向に配向していない。したがって、実施形態の工具本体110、210は、振動減衰性に優れ、安定した強度を有する。工具本体110、210が振動減衰性に優れるため、工具本体110、210を切削工具に使用した場合、加工中に発生するビビリ振動などを抑制できる。よって、切削工具による加工精度が向上する。また、工具本体110、210は、安定した強度を有しており、多方向に対して強度のばらつきが小さい。そのため、工具本体110、210を切削工具に使用して、1つの工具で多方向から切削加工を行っても、工具本体110、210に特定の方向に沿って割れが発生することを抑制できる。
【0082】
その他、工具本体110、210が焼結金属材1によって構成されていることで、工具本体110、210の軽量化を図ることができる。焼結金属材1は、複数の気孔11によって熱を効果的に逃がすことができる。そのため、工具本体110、210は放熱性にも優れる。
【0083】
更に、上述の焼結金属材1は、85%以上の相対密度を有しており、気孔11が少ない上に、任意の断面において気孔11が小さい。そのため、焼結金属材1は、気孔11が割れの起点になり難く、強度に優れる。よって、工具本体110、210が焼結金属材1によって構成されていることで、工具本体110、210の強度をより高めることができる。また、焼結金属材1は、気孔11が小さいため、工具本体110、210の振動減衰性が向上する。
【0084】
[工具本体の製造方法]
実施形態の工具本体110、210は、例えば、以下の工程を備える工具本体の製造方法によって製造できる。
第一の工程:金属粉末を含有する原料粉末を圧縮して、圧粉成形体を成形する工程。
第二の工程:圧粉成形体を機械加工して、インサートが取り付けられる工具本体の形状に加工する工程。
第三の工程:工具本体の形状に加工した圧粉成形体を焼結する工程。
【0085】
実施形態の工具本体の製造方法は、上述の第一から第三の工程を備える。この製造方法によれば、焼結金属材から構成される工具本体を製造できる。工具本体を焼結金属材によって構成することで、上述したように、振動減衰性に優れ、安定した強度を有する工具本体が得られる。更に、工具本体を焼結金属材によって構成した場合、工具本体の軽量化や放熱性の向上を図ることができる。
以下、工程ごとに説明する。
【0086】
(第一の工程:成形工程)
〈原料粉末の準備〉
原料粉末は金属粉末を含む。金属粉末は、柔らか過ぎず、かつ硬過ぎない金属からなるものが好ましい。金属粉末が硬過ぎないことで、圧縮によって塑性変形し易い。そのため、相対密度が85%以上である緻密な圧粉成形体が得られ易い。金属粉末が軟らか過ぎないことで、相対密度が99.9%以下である圧粉成形体、即ち気孔を含む圧粉成形体が得られ易い。
【0087】
原料粉末は、焼結金属材の母相の組成に応じて、適宜な組成の金属粉末を含むとよい。また、金属粉末の硬度は、金属粉末の組成に応じて調整するとよい。金属粉末の硬度の調整は、例えば、金属粉末の組成を調整したり、金属粉末に熱処理を施したり、金属粉末の熱処理条件を調整したりすることなどが挙げられる。金属粉末の組成は、上述の[焼結金属材]の(組成)の項を参照するとよい。
【0088】
例えば、焼結金属材の母相が鉄系材料からなる場合、原料粉末は鉄系材料からなる粉末を含む。以下では、鉄系材料からなる粉末を「鉄系粉末」と呼ぶことがある。鉄系材料は、純鉄、又は鉄基合金である。鉄系材料が特に鉄基合金であれば、上述のように高強度な焼結金属材が得られる。鉄系粉末は、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法などにより製造できる。
【0089】
鉄系粉末のビッカース硬度Hvは80以上200以下であることが好ましい。ビッカース硬度Hvが上記範囲を満たす鉄系粉末を用いることで、上述の緻密な圧粉成形体が得られ易い。ビッカース硬度Hvが80以上である鉄系粉末は、柔らか過ぎない。このような鉄系粉末を含む原料粉末を用いれば、上述のように気孔を含む圧粉成形体が得られる。ビッカース硬度Hvが200以下である鉄系粉末は、硬過ぎない。このような鉄系粉末を含む原料粉末を用いれば、上述のように緻密な圧粉成形体が得られる。上記ビッカース硬度Hvは、90以上190以下、更に100以上180以下、110以上150以下でもよい。
【0090】
焼結金属材の母相が鉄基合金からなる場合、原料粉末は、例えば以下が挙げられる。
(1)原料粉末は、第一合金粉末を含む。第一合金粉末は、上記母相を構成する鉄基合金と同じ組成を有する鉄基合金からなる。
(2)原料粉末は、第二合金粉末と、第一元素粉末とを含む。第二合金粉末は、上記母相を構成する鉄基合金に含まれる添加元素のうち、一部の添加元素を含む鉄基合金からなる。第一元素粉末は、上記添加元素のうち、残部の添加元素の各々からなる粉末である。
(3)原料粉末は、上記第二合金粉末と、第三合金粉末とを含む。第三合金粉末は、上記添加元素のうち、残部の添加元素を含む鉄基合金からなる。
(4)原料粉末は、純鉄粉と、第二元素粉末とを含む。第二元素粉末は、上記母層を構成する鉄基合金における全ての添加元素の各々からなる粉末である。
【0091】
上記(2)に示す原料粉末の具体例を述べる。例えば、焼結金属材の母相が、C、Ni及びMoを添加元素として含有し、残部がFe及び不純物からなる鉄基合金である場合、以下の第二合金粉末と第一元素粉末とを含むことが挙げられる。第二合金粉末は、C以外の上記添加元素、即ちNi及びMoを含有し、残部がFe及び不純物からなる粉末である。第一元素粉末は、カーボン粉末である。上記鉄基合金の一例として、0.1質量%以上2.0質量%以下のMo及び0.5質量%以上5.0質量%以下のNiの少なくとも一方の元素を含有することが挙げられる。MoやNiを上記範囲で含有する鉄基合金は、80以上200以下のビッカース硬度Hvを有する組成が多種存在する。そのため、上記鉄基合金からなる粉末を得易い。
【0092】
原料粉末の大きさは適宜選択できる。上述の合金粉末や純鉄粉の平均粒径は、例えば20μm以上200μm以下、更に50μm以上150μm以下が挙げられる。第三粉末(カーボン粉を除く)の平均粒径は、例えば1μm以上200μm以下程度が挙げられる。カーボン粉の平均粒径は、例えば1μm以上30μm以下程度が挙げられる。ここでの粉末の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)である。
【0093】
〈成形〉
圧粉成形体の相対密度が高いほど、相対密度が高い緻密な焼結金属材が得られる。したがって、最終的に、相対密度が高い緻密な焼結金属材からなる工具本体が得られる。緻密な焼結金属材は、気孔が少ない上、気孔も小さくなり易い。圧粉成形体の相対密度は85%以上99.9%以下が挙げられる。相対密度が85%以上である緻密な圧粉成形体を素材とすることで、焼結温度が液相温度未満といった比較的低温であっても、相対密度が85%以上99.9%以下である緻密な焼結金属材が得られる。また、上述の圧粉成形体は、0.1%以上15%以下の範囲で気孔を含む。但し、各気孔は、圧縮によって小さくなっている。上述の緻密な圧粉成形体を比較的低温で焼結することで、気孔が少なく、かつ気孔が小さい緻密な焼結金属材が得られる。いわば、圧粉成形体に含まれる気孔の大きさ及び量を実質的に維持した焼結金属材が得られる。この焼結金属材は、気孔が少ない上に小さいため、気孔が割れの起点になり難く、強度に優れる。よって、工具本体の強度を高めることができる。
【0094】
圧粉成形体の相対密度は、90%以上、更に93%以上、94%以上、96%以上、96.5%以上、97%以上、98%以上でもよい。一方、工具本体の振動減衰性及び放熱性の向上、工具本体の軽量化を図る観点から、焼結金属材は気孔を適度に含むことが好ましい。圧粉成形体の相対密度は、99.5%以下、更に99.4%以下、99.2%以下、99%以下でもよい。工具本体の強度と振動減衰性などとのバランスの観点から、圧粉成形体の相対密度は、例えば93%以上99.5%以下、更に94%以上99%以下が挙げられる。
【0095】
圧粉成形体の成形は、代表的には金型プレス装置を利用することが挙げられる。圧粉成形体の成形は、例えば、冷間等方加圧(CIP)装置を利用することも可能である。金型の形状は、圧粉成形体の形状に応じて選択するとよい。
【0096】
金型の内周面に潤滑剤を塗布してもよい。潤滑剤を塗布することで、圧粉成形体が金型に焼付くことを抑制できる。そのため、形状精度や寸法精度に優れる上に、緻密な圧粉成形体が得られ易い。潤滑剤は、例えば、高級脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0097】
成形圧力が高いほど、相対密度が高い緻密な圧粉成形体が得られ易い。成形圧力は、例えば1560MPa以上が挙げられる。成形圧力は、1660MPa以上、1760MPa以上、1860MPa以上、1960MPa以上でもよい。成形圧力を低くすれば、金型から圧粉成形体を取り出し易くなる、金型の寿命が長くなるなど、生産性が向上する。
【0098】
圧粉成形体の形状は、工具本体の形状に近い形状でもよいし、工具本体の形状とは異なる形状でもよい。圧粉成形体の形状は、例えば、円柱状、円筒状、直方体状などの単純形状とすることが挙げられる。圧粉成形体の形状が単純形状であれば、成形圧力がある程度低くても、緻密な圧粉成形体を高精度に成形し易い。また、単純形状であれば、金型コストも低減できる。
【0099】
(第二の工程:加工工程)
上述の圧粉成形体を工具本体の形状に加工する。圧粉成形体に施す機械加工は、代表的には切削加工が挙げられる。切削加工としては、例えば、転削加工、旋削加工などが挙げられる。焼結前の圧粉成形体は、金属粉末を成形したままのものであるので、焼結後の焼結金属材や溶製材に比べて切削加工し易い。そのため、加工時間が短くて済む上、加工工具の寿命も焼結金属材や溶製材を加工する場合に比べて延ばせられる。よって、圧粉成形体を工具本体の形状に加工することで、工具本体を生産性よく製造できる。また、切削加工を容易に行えるため、形状精度や寸法精度に優れる工具本体が得られ易い。よって、形状精度や寸法精度が高い工具本体が得られるので、歩留まりを高められる。
【0100】
圧粉成形体に行う加工は、工具本体の形状にする加工である。この加工により、例えば、所定の箇所にインサートが取り付けられる取付座を形成することが挙げられる。
【0101】
圧粉成形体の相対密度がある程度高い方が、切削加工を施し易い。特に、相対密度が85%以上の圧粉成形体であれば、例えば送り量を大きく設定しても、切削加工を良好に施すことができる。そのため、形状精度や寸法精度に優れる工具本体が得られ易い。この点で、歩留まりが向上する。また、送り量を大きくすれば、切削時間が短くなる。このように、圧粉成形体に切削加工を行うことは、工具本体の生産性の向上に寄与する。
【0102】
(第三の工程:焼結工程)
工具本体の形状に加工した上述の圧粉成形体を焼結する。焼結温度は、液相温度未満とすることが好ましい。具体的には、金属粉末が鉄系粉末である場合、焼結温度は1000℃以上1300℃未満が挙げられる。焼結温度は、液相温度未満であり、比較的低温である。そのため、液相が生じるような高温で焼結する場合に比較して、熱エネルギーを低減することができる。更に、焼結温度が比較的低温であれば、粗大な気孔が形成されることを抑制できる。そのため、気孔が小さい焼結金属材が得られ易い。代表的には、気孔の平均周囲長が100μm以下、又は、気孔の平均断面積が500μm以下である焼結金属材が得られる。例えば、相対密度が85%以上の緻密な圧粉成形体を比較的低温で焼結することで、気孔が少なく、かつ気孔が小さい緻密な焼結金属材が得られる。また、低温焼結は、高温焼結に比べて、熱収縮に起因する形状精度の低下や寸法精度の低下が生じ難い。そのため、形状精度や寸法精度に優れる工具本体が得られ易く、歩留まりを高められる。このように、圧粉成形体を比較的低温で焼結することは、工具本体の生産性の向上に寄与する。
【0103】
焼結温度及び焼結時間は、原料粉末の組成などに応じて調整するとよい。鉄系粉末を用いる場合、焼結温度は1000℃以上1300℃未満である。
【0104】
焼結温度が低いほど、熱収縮量が小さくなり易い。そのため、形状精度や寸法精度に優れる工具本体が得られ易い。熱エネルギーの低減の観点、形状精度や寸法精度の向上の観点から、焼結温度は1250℃以下、更に1200℃未満が好ましい。
【0105】
焼結温度が上述の範囲内で高いほど、焼結時間が短くなり易い。この点で、生産性が高められる。焼結時間の短縮の観点から、焼結温度は1050℃以上、更に1100℃以上でもよい。
【0106】
熱エネルギーの低減及び良好な精度と焼結時間の短縮とのバランスの観点から、焼結温度は、例えば1100℃以上1200℃未満が挙げられる。
【0107】
焼結時間は、例えば10分以上150分以下が挙げられる。
【0108】
焼結時の雰囲気は、例えば窒素雰囲気、真空雰囲気が挙げられる。真空雰囲気は、例えば10Pa以下が挙げられる。窒素雰囲気や真空雰囲気であれば、雰囲気中の酸素濃度が低く、焼結金属材の酸化を抑制し易い。
【0109】
(その他の工程)
上述の工具本体の製造方法は、第三の工程の後、上述の圧粉成形体を焼結して得られた焼結金属材に熱処理を行う工程を備えてもよい。例えば、上述の鉄系粉末を用いた焼結金属材である場合、上記熱処理は、例えば、浸炭処理、焼入れ焼戻し、浸炭焼入れ焼戻しなどが挙げられる。上記熱処理の条件は、焼結金属材の組成に応じて適宜調整するとよい。上記熱処理条件は、公知の条件を適用できる。
【0110】
上述の工具本体の製造方法は、第三の工程の後、焼結金属材に仕上げ加工を行う工程を備えてもよい。仕上げ加工は、例えば、研磨加工、研削加工などが挙げられる。仕上げ加工を行うことで、表面性状に優れる工具本体や、形状精度や寸法精度がより高い工具本体が得られる。
【0111】
(主な効果)
実施形態の工具本体の製造方法は、焼結金属材から構成される工具本体を製造できる。工具本体を焼結金属材によって構成することで、振動減衰性に優れ、安定した強度を有する工具本体が得られる。特に、実施形態の製造方法は、焼結前の圧粉成形体を工具本体の形状に加工するため、工具本体を生産性よく製造できる。例えば、上述の実施形態の工具本体を生産性よく製造できる。
【0112】
[試験例1]
相対密度が異なる圧粉成形体を種々の温度で焼結して焼結金属材を作製し、焼結金属材の組織を調べた。
【0113】
焼結金属材は、以下のように作製した。
原料粉末を用いて圧粉成形体を作製する。
得られた圧粉成形体を焼結する。
焼結後に浸炭焼入れ、焼戻しを順に施す。
【0114】
原料粉末は、以下の鉄基合金からなる合金粉末と、カーボン粉とを含む混合粉である。
鉄基合金は、Niを2質量%、Moを0.5質量%、Mnを0.2質量%含有し、残部がFe及び不純物からなる。この鉄基合金のビッカース硬度Hvは120であり、80以上200以下を満たす。
カーボン粉の含有量は、混合粉の合計質量を100質量%として0.3質量%である。
上記合金粉末の平均粒径(D50)は100μmである。カーボン粉の平均粒径(D50)は5μmである。
【0115】
原料粉末を圧縮して、円環状の圧粉成形体を成形した。圧粉成形体の成形は、金型プレスにより行った。圧粉成形体の寸法は、内径16mm、外径30mm、厚さ8mmである。
【0116】
各試料の圧粉成形体の相対密度(%)が85%から99%程度となるように、成形圧力を1560MPaから1960MPaの範囲から選択して、圧粉成形体を成形した。成形圧力が大きいほど、相対密度が高い圧粉成形体が得られる。各試料の圧粉成形体の密度(g/cm)及び相対密度(%)を表1に示す。
【0117】
圧粉成形体の密度(g/cm)は、圧粉成形体の質量を測定し、この質量を圧粉成形体の体積で除して求めた。求めた密度は、圧粉成形体の見かけ密度である。圧粉成形体の相対密度(%)は、圧粉成形体の見かけ密度を圧粉成形体の真密度で除して求めた。真密度は7.8g/cmとした。真密度は、原料粉末の組成から求めた。
【0118】
作製した圧粉成形体を以下の条件で焼結した。焼結後、以下の条件で浸炭焼入れを行ってから焼戻しを行うことによって、各試料の焼結金属材を得た。
【0119】
(焼結条件)
焼結温度(℃)は1130℃、1450℃、1480℃のいずれかである。各試料の焼結温度を表1に示す。保持時間は20分間である。雰囲気は、窒素雰囲気である。
(浸炭焼入れ)
930℃×90分、カーボンポテンシャル1.4質量%⇒850℃×30分⇒油冷
(焼戻し)
200℃×90分
【0120】
上述のようにして、内径16mm、外径30mm、厚さ8mmである円環状の焼結金属材を得た。この焼結金属材の母相は以下の鉄基合金からなる。この鉄基合金は、Niを2質量%、Moを0.5質量%、Mnを0.2質量%、Cを0.3質量%含有し、残部がFe及び不純物からなる。焼結金属材の成分分析はICPを利用して行った。
【0121】
(試料の説明)
試料No.1からNo.3の焼結金属材は、相対密度が93%以上である圧粉成形体を液相温度未満である1130℃で低温焼結したものである。図2Aから図2Cは順に、試料No.1からNo.3の焼結金属材について、任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したSEM像である。
【0122】
試料No.101からNo.103の焼結金属材は、相対密度が93%未満である圧粉成形体を1450℃又は1480℃という液相温度で高温焼結したものである。図8Aから図8Cは順に、試料No.101からNo.103の焼結金属材について、任意の断面をSEMで観察したSEM像である。図8A図8Bにおいて、上方の黒い領域は背景である。以下では、図8Aから図8Cをまとめて図8と称する場合がある。
【0123】
(密度及び相対密度)
作製した各試料の焼結金属材について、密度(g/cm)及び相対密度(%)を調べた。その結果を表1に示す。
【0124】
焼結金属材の密度(g/cm)は、上述の成分分析の結果を用いて求めた。
【0125】
焼結金属材の相対密度(%)は以下のようにして求める。
焼結金属材から複数の断面をとる。各断面をSEMや光学顕微鏡などの顕微鏡で観察する。この観察像を画像解析して、気孔を除く母相の面積割合を相対密度とみなす。
【0126】
焼結金属材が筒状体や柱状体である場合、焼結金属材における各端面側の領域と、焼結金属材における軸方向に沿った長さの中心近傍の領域とからそれぞれ断面をとる。本例の場合、焼結金属材は筒状体である。焼結金属材における各端面は円環状の面である。焼結金属材における軸方向は厚さ方向に相当する。
【0127】
上記端面側の領域は、焼結金属材の上記長さ、即ち厚さにもよるが、例えば焼結金属材の表面から内側に向って3mm以内の領域が挙げられる。上記中心近傍の領域は、焼結金属材の上記長さにもよるが、例えば上記長さの中心から各端面側に向って1mmまでの領域(合計2mmの領域)が挙げられる。切断面は、上記軸方向に交差する平面、代表的には直交する平面が挙げられる。
【0128】
各断面から複数の観察視野をとる。観察視野は、例えば10以上が挙げられる。1つの観察視野の大きさ(面積)は、例えば、500μm×600μm=300,000μmが挙げられる。1つの断面から複数の観察視野をとる場合、この断面を均等に分割して、分割した各領域から観察視野をとることが好ましい。
【0129】
各観察視野の観察像に画像処理を施して、処理画像から、金属からなる領域を抽出する。金属からなる領域は、母相から気孔を除いた領域といえる。上記画像処理は、例えば二値化処理などが挙げられる。抽出した金属からなる領域の面積を求める。更に、観察視野の面積に対する金属からなる領域の面積の割合を求める。この面積の割合を各観察視野の相対密度とみなす。求めた複数の観察視野の相対密度を平均する。この平均値を焼結金属材の相対密度(%)とする。
【0130】
ここでは、2つの端面側の領域からそれぞれ、10以上の観察視野をとる。また、中心近傍の領域から10以上の観察視野をとる。そして、各観察視野の相対密度を求めて、合計30以上の相対密度を平均する。この平均値を焼結金属材の相対密度(%)とする。
【0131】
なお、圧粉成形体の相対密度は、上述した焼結金属材の相対密度と同様にして求めてもよい。本例のように圧粉成形体を金型プレスによって成形する場合、圧粉成形体の断面は、圧粉成形体における加圧軸方向に沿った長さの中心近傍の領域、加圧軸方向の両端部に位置する端面側の領域からそれぞれとることが挙げられる。切断面は、加圧軸方向に交差する平面、代表的には直交する平面が挙げられる。
【0132】
(組織観察)
作製した各試料の焼結金属材について、任意の断面をとり、気孔の大きさを調べた。
【0133】
気孔の大きさは、以下のようにして求める。
各試料の焼結金属材において、任意の断面をとる。上記断面をSEMで観察し、上記断面から、少なくとも1つの視野をとる。気孔の大きさの測定は、合計50以上の気孔を抽出して行う。
ここでは、1つの視野に50以上の気孔が存在するように視野の大きさを調整した。1つの視野の大きさは約355μm×約267μmである。
【0134】
上記視野において、気孔を抽出する。図2図8に示すように、母相10の色と気孔11の色とが異なる。そのため、SEM像に二値化処理などの画像処理を行うことで、気孔が抽出される。気孔の抽出や気孔の大きさの測定、上述の相対密度の測定に利用する金属からなる領域の抽出や上記領域の面積の測定などは、市販の画像解析システムや市販の画像解析ソフトウエアなどを用いて行うとよい。
【0135】
〈断面積〉
上述のSEM像から抽出した各気孔の断面積を求める。更に、気孔の断面積の平均値を求める。上記断面積の平均値は、1つの視野から抽出した50以上の気孔の断面積について総和を求め、この総和を気孔数で除すことで求める。上記断面積の平均値を平均断面積(μm)とする。上記平均断面積を表1に示す。また、抽出した気孔数(N数)を表1に示す。
【0136】
〈周囲長〉
上述のSEM像から抽出した各気孔の周囲長を求める。気孔の周囲長は、気孔の輪郭の長さである。更に、気孔の周囲長の平均値を求める。上記周囲長の平均値は、抽出した50以上の気孔の周囲長について総和を求め、この総和を気孔数で除すことで求める。上記周囲長の平均値を平均周囲長(μm)とする。上記平均周囲長を表1に示す。
【0137】
〈最大径〉
上述のSEM像から抽出した各気孔の最大径を求める。更に、最大径の平均値を求める。上記最大径の平均値は、抽出した50以上の気孔の最大径について総和を求め、総和を気孔数で除すことで求める。上記最大径の平均値(μm)を表1に示す。気孔の最大径は、以下のようにして求める。上記SEM像において、各気孔の輪郭を2本の平行線によって挟み、これら2本の平行線の間隔を測定する。上記間隔は、上記平行線に直交する方向の距離である。任意の方向の平行線の組を複数とり、上記間隔をそれぞれ測定する。測定した複数の上記間隔のうち、最大値を各気孔の最大長さとし、この最大長さを最大径とする。
【0138】
気孔の最大径の最大値、最小値も求めた。ここでは、上述の50以上の気孔の最大径のうち、最大値(μm)を表1に示す。また、上述の50以上の気孔の最大径のうち、最小値(μm)を表1に示す。
【0139】
〈真円度〉
更に、気孔の真円度を求めた。真円度を求めるには、まず焼結金属材の任意の断面における4つ以上の視野内に存在する全気孔について、気孔ごとに外接円の直径と内接円の直径とを求める。次に、気孔ごとに比率「気孔の外接円の直径/気孔の内接円の直径」を求める。真円度は、全気孔における上記比率の平均とする。気孔の外接円及び気孔の内接円の直径は、市販の画像解析ソフトにより求められる。断面の観察にはSEMを用いる。各視野の倍率は450倍とする。各視野のサイズは0.4mm×0.6mmとする。上記真円度を表1に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
図3から図7は順に、各試料の焼結金属材について、気孔の平均断面積(μm)、気孔の平均周囲長(μm)、気孔の最大径の平均値(μm)、気孔の最大径の最大値(μm)、気孔の最大径の最小値(μm)を示すグラフである。各グラフの横軸は、試料番号を示す。各グラフの縦軸は、図3では気孔の平均断面積(μm)、図4では気孔の平均周囲長(μm)、図5では気孔の最大径の平均値(μm)、図6では気孔の最大径の最大値(μm)、図7では気孔の最大径の最小値(μm)を示す。
【0142】
表1及び図3に示すように、試料No.1からNo.3の焼結金属材は、試料No.101からNo.103の焼結金属材に比較して、気孔の平均断面積が小さいことが分かる。以下では、試料No.1からNo.3の焼結金属材を高密度成形の試料と呼ぶ。また、試料No.101からNo.103の焼結金属材を高温焼結の試料と呼ぶ。定量的には、高密度成形の試料は、気孔の平均断面積が500μm以下であり、本例では特に450μm以下である。焼結金属材の相対密度が96.5%以上である試料No.2、No.3の焼結金属材は、気孔の平均断面積が400μm以下、特に300μm以下である。試料No.2、No.3の焼結金属材は、気孔の平均断面積がより小さい。
【0143】
また、表1及び図4に示すように、高密度成形の試料は、高温焼結の試料に比較して、気孔の平均周囲長が短いことが分かる。定量的には、高密度成形の試料は、気孔の平均周囲長が100μm以下、本例では特に70μm以下である。試料No.2、No.3の焼結金属材は、気孔の平均周囲長が55μm以下である。試料No.2、No.3の焼結金属材は、気孔の平均周囲長がより短い。
【0144】
高温焼結の試料は、焼結金属材の相対密度が93%以上であり、表1及び図8Aから図8Cに示すように、各気孔11の断面積が大きく、周囲長も長い。この理由の一つは、以下のように考えられる。高温焼結の試料に用いた圧粉成形体は、高密度成形の試料に用いた圧粉成形体比較して、相対密度が小さいため、気孔を多く含む。気孔が多い圧粉成形体を液相温度といった高温で焼結すると、気泡がある程度排出され易いものの、内部で複数の気泡が結合する。そのため、高温焼結の試料は、図8Aから図8Cに示すように、大きな気孔が残存し易い。即ち、断面積が大きく、周囲長が長い気孔が残存し易い。
【0145】
これに対し、高密度成形の試料は、表1及び図2Aから図2Cに示すように、気孔11の数がある程度多いものの、各気孔11の断面積が小さく、周囲長も短い。試料No.1からNo.3の焼結金属材のうち、試料No.3は、気孔11の数が最も少ない上に、気孔11の断面積が最も小さく、周囲長も最も短い。この理由の一つは、以下のように考えられる。高密度成形の試料に用いた圧粉成形体は、相対密度が大きいため、気孔が少ない。また、圧縮によって、各気孔が小さくなり易い。このような圧粉成形体を比較的低温で焼結すると、気泡が排出されずに残存し易いものの、各気孔が小さいままである。そのため、高密度成形の試料は、図2Aから図2Cに示すように、断面積が小さく、周囲長が短い気孔が残存し易い。また、圧粉成形体中の気孔が少ないほど、焼結金属材中の気孔の断面積が小さくなり易いと共に気孔の周囲長が短くなり易い。
【0146】
その他、この試験から以下のことが分かる。
(1)表1及び図5に示すように、高密度成形の試料は、高温焼結の試料に比較して、気孔の最大径の平均値が小さい。定量的には、高密度成形の試料における上記最大径の平均値は30μm以下であり、本例では特に20μm以下である。また、高密度成形の試料における上記最大径の平均値は、5μm以上、本例では特に10μm以上である。このような気孔は小さいものの、小さ過ぎないといえる。
【0147】
(2)表1及び図6図7に示すように、高密度成形の試料は、高温焼結の試料に比較して、気孔の最大径の最大値及び最小値も小さい。定量的には、高密度成形の試料における上記最大径の最大値は30μm以下であり、本例では特に25μm以下である。また、高密度成形の試料は、高温焼結の試料に比較して、上記最大径において平均値と最大値との差が小さい。そのため、高密度成形の試料では、気孔は均一的な大きさを有するといえる。高密度成形の試料における上記最大径の最小値は20μm以下であり、本例では特に5μm以上15μm以下である。このことからも、高密度成形の試料では、気孔は小さいものの、小さ過ぎないといえる。
【0148】
(3)表1に示すように、高密度成形の試料は、高温焼結の試料に比較して、気孔の真円度が小さい。定量的には、高密度成形の試料における気孔の真円度は、3.4以下、ここでは更に3.3以下である。
【0149】
また、この試験から、相対密度が93%以上99.5%以下であり、気孔が小さい焼結金属材は、相対密度が93%以上99.5%以下である圧粉成形体を液相温度未満という比較的低温で焼結することで製造できることが示された。また、ビッカース硬度Hvが80以上200以下である鉄基合金からなる粉末を用いることで、上述のような緻密な圧粉成形体が得られることが示された。
【0150】
上述のように相対密度が高く、緻密で気孔が小さい焼結金属材は、気孔が割れの起点になり難く、強度に優れる。そのため、上記焼結金属材は高強度が求められる各種の部品などに好適に利用できると期待される。上記部品の具体例としては、切削工具の本体が挙げられる。上述の焼結金属材は、複数の気孔によって、振動を効果的に抑制できたり、熱を効果的に逃がしたりすることができる。そのため、上記焼結金属材は、振動減衰性や放熱性が望まれる切削工具の本体に好適に利用できる。
【0151】
[試験例2]
焼結金属材から構成される工具本体を製造し、その評価を行った。
【0152】
工具本体は、以下のように製造した。
原料粉末を用いて圧粉成形体を成形する。
圧粉成形体を工具本体の形状に加工する。
加工した圧粉成形体を焼結する。
焼結後に浸炭焼入れ、焼戻しを順に施す。
【0153】
原料粉末は、上述の試験例1と同じである。つまり、原料粉末は、Niを2質量%、Moを0.5質量%、Mnを0.2質量%含有する鉄基合金からなる合金粉末と、カーボン粉とを含む混合粉である。カーボン粉の含有量は、混合粉の合計質量を100質量%として0.3質量%である。
【0154】
原料粉末を圧縮して、円柱状の圧粉成形体を成形した。圧粉成形体の成形は、金型プレスにより行った。各試料における圧粉成形体の成形圧力は、上述の試験例1における試料No.1からNo.3の焼結金属材と同じである。各試料の圧粉成形体の密度(g/cm)及び相対密度(%)を表2に示す。粉成形体の密度(g/cm)及び相対密度(%)は、試験例1と同様にして求める。
【0155】
作製した圧粉成形体を切削加工して工具本体の形状に加工した。本例では、図1Aに示すカッタの工具本体の形状に加工した。このカッタは、住友電気工業株式会社製SECウェーブミルWEX2000F、刃径40mmである。
【0156】
加工後、圧粉成形体を焼結した。焼結後、浸炭焼入れ、焼戻しを行って、各試料の工具本体を得た。焼結温度は、上述の試料No.1からNo.3と同じ1130℃とした。浸炭焼入れ、焼戻しの各条件は、上述の試料No.1からNo.3と同じである。
【0157】
上述のようにして得られた各試料の工具本体を構成する焼結金属材について、母相の組成をICPにより分析した。その結果、焼結金属材の母相の組成は、Niを2質量%、Moを0.5質量%、Mnを0.2質量%、Cを0.3質量%含有し、残部がFe及び不純物からなる鉄基合金であった。
【0158】
(試料の説明)
試料No.21からNo.23の工具本体を構成する焼結金属材は、相対密度が93%以上である圧粉成形体を液相温度未満である1130℃で低温焼結したものである。試料No.21からNo.23の工具本体について、上述の試料No.1からNo.3と同じように、任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0159】
(密度及び相対密度)
各試料の工具本体を構成する焼結金属材について、密度(g/cm)及び相対密度(%)を調べた。各試料の焼結金属材の密度(g/cm)及び相対密度(%)を表2に示す。焼結金属材の密度(g/cm)及び相対密度(%)は、上述の試験例1と同様にして求める。
【0160】
(組織観察)
各試料の工具本体を構成する焼結金属材について、任意の断面をとり、上記断面をSEMで観察して気孔を抽出することにより、気孔の大きさを調べた。各試料の焼結金属材における気孔の大きさは、上述の試料No.1からNo.3と同様にして測定する。各試料の焼結金属材における気孔の平均断面積(μm)、気孔の平均周囲長(μm)、気孔の最大径の平均値(μm)、気孔の最大径の最大値(μm)、気孔の最大径の最小値(μm)を表2に示す。
【0161】
【表2】
【0162】
試料No.21からNo.23の工具本体にインサートを取り付けて、カッタを組み立てた。そして、各試料の工具本体をカッタに使用して切削加工を行った。インサートは、住友電気工業株式会社製AXMT123504PEER-Gを使用した。インサートの材種は超硬合金である。切削加工は、上述のカッタを用いて、被削材である円柱体の端面を切削した。被削材の材質はSCM440である。円柱体の直径は75mmである。円柱体の長さは30mmである。切削条件を以下に示す。
【0163】
(切削条件)
切削速度:100m/min
送り量:0.4mm/t
切込量:3mm
切削環境:Dry
上記送り量は、1刃当たりの送り量である。
【0164】
比較として、溶製材からなる工具本体を用意した。用意した工具本体は、フライス加工用のホルダであり、SKD61の溶製材から削り出して作製したものである。この工具本体の形状は、上述の試料No.21からNo.23の工具本体と同じ形状である。溶製材からなる上記工具本体を試料No.200とする。
【0165】
試料No.200の工具本体について、任意の断面をSEMで観察した。その結果、試料No.200の工具本体を構成する溶製材には、気孔が実質的に存在していなかった。つまり、試料No.200の工具本体を構成する溶製材は、相対密度が実質的に100%である。
【0166】
試料No.200の工具本体にインサートを取り付けて、上述の試料No.21からNo.23と同じ条件で切削加工を行った。
【0167】
(加工精度の評価)
試料No.21からNo.23の工具本体、及び試料No.200の工具本体をそれぞれ使用した場合の加工精度を評価した。加工精度は、加工した被削材の端面における表面粗さによって評価した。加工面の表面粗さが小さいほど、加工精度が高いといえる。本例では、被削材の端面における半径方向の表面粗さを測定した。測定した表面粗さは算術平均粗さRaである。表面粗さの測定は、JIS B 0601-2001に準拠して行い、基準長さを0.1mm、評価長さを2.0mmとした。その結果、試料No.21からNo.23の工具本体を使用したカッタでは、いずれも被削材の端面における半径方向の算術平均粗さRaが1μm以下であった。これに対し、試料No.200の工具本体を使用したカッタでは、被削材の端面における半径方向の算術平均粗さRaが3μmであった。
【0168】
上述したように、試料No.21からNo.23の工具本体を使用した場合、試料No.200の工具本体を使用した場合に比較して、被削材の端面における表面粗さが小さい。このことから、試料No.21からNo.23の工具本体を使用した場合、加工精度の点で優れる。この理由は、次のように考えられる。試料No.21からNo.23の工具本体は、焼結金属材によって構成されているため、焼結金属材中の複数の気孔により振動を効果的に抑制することができる。つまり、試料No.21からNo.23の工具本体は、振動減衰性に優れる。よって、試料No.21からNo.23の工具本体を使用した場合、加工中に発生するビビリ振動などが抑制されたことにより、加工精度が向上したものと考えられる。
【0169】
試料No.21からNo.23の工具本体をそれぞれ使用した各カッタについて、上述の切削加工を1000回繰り返し行った後、工具本体に割れや欠けが発生していないかを調べた。その結果、いずれの工具本体も割れなどの損傷は認められなかった。このことから、試料No.21からNo.23の工具本体は、十分に高い強度を有していることが分かる。
【符号の説明】
【0170】
1 焼結金属材
10 母相
11 気孔
100、200 工具
101、201 インサート
102、202 切刃
103、203 貫通孔
110、210 工具本体
111、211 取付座
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C