(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】バッテリーまたは他の電気装置システムにおける伝熱流体としてのナノ粒子組成物の使用
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20240701BHJP
C08F 290/04 20060101ALI20240701BHJP
C09K 5/10 20060101ALI20240701BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240701BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240701BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20240701BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20240701BHJP
【FI】
C09K5/14 E ZNM
C08F290/04
C09K5/10 E
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/653
H01M10/6556
(21)【出願番号】P 2022502800
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(86)【国際出願番号】 EP2020069746
(87)【国際公開番号】W WO2021009116
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-22
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ネス
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヴィーバー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ゲアハルト ハーゲマン
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター シュミット
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヘーベラー
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー シュランツ
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン メテハン トゥルハン
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/132122(WO,A1)
【文献】特表2007-514048(JP,A)
【文献】特開昭47-008279(JP,A)
【文献】特開2019-104846(JP,A)
【文献】特開2019-104914(JP,A)
【文献】特表2016-515658(JP,A)
【文献】国際公開第2018/041755(WO,A1)
【文献】特許第7411555(JP,B2)
【文献】特許第7379343(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーまたは他の電気装置システムにおける伝熱流体としてのナノ粒子組成物の使用であって、前記ナノ粒子組成物は、混合物をミリングすることによって得ることができ、前記混合物は、1種以上のナノ粒子化合物(A)と、1種以上の無定形ポリマー化合物(B)とを含み、
かつ前記ナノ粒子組成物が、前記ナノ粒子組成物の全質量を基準として、85~99.9質量%のベースフルード(C)および0.1~15質量%の(A)および(B)を含み、
(A)前記の1種以上のナノ粒子化合物(A)は、
- 金属またはメタロイド窒化物ナノ粒子、
- 多層または単層カーボンナノチューブ、
- カーボンブラック、
- 分子式MX
2[式中、Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、およびそれらの組合せからなる群から選択される金属元素であり、かつXは、硫黄(S)、酸素(O)、およびそれらの組合せからなる群から選択されるカルコゲン元素である]を有する金属カルコゲニド、
- またはその混合物
からなる群から選択され、かつ
(B)前記の1種以上の無定形ポリマー化合物(B)は、以下のものを含むモノマー組成物を重合することにより得ることができる:
a)前記モノマー組成物の全質量を基準として、1~30質量%の、以下のものからなるリストから選択される1種以上の官能性モノマー:
a1)アミノアルキル(メタ)アクリレートおよびアミノアルキル(メタ)アクリルアミド
、
a9)芳香族基を含有するビニルモノマー
、および
b)前記モノマー組成物の全質量を基準として、30~
70質量%の、1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマー、ここで、前記の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマーのアルキル基のそれぞれが独立して、線状、環状または分岐状であり、かつ炭素原子1~40個を含む、および
c)前記モノマー組成物の全質量を基準として、20~60質量%の、(メタ)アクリル酸の1種以上のエステルと、500~10000g/molの数平均分子量(M
n)を有する1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの反応生成物、
かつ前記の1種以上のナノ粒子化合物(A)の、前記の1種以上の無定形ポリマー化合物(B)に対する質量比が9:1~1:5であ
り、かつ前記ベースフルード(C)が、ASTM D-445による3cSt~30cStの40℃での動粘度、およびASTM D-93による110℃を上回る引火点を有する、前記使用。
【請求項2】
成分c)の前記の1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンが、溶離液としてテトラヒドロフランを用いてDIN 55672-1に従ってポリブタジエン校正標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより決定して、1500~2100g/mo
lの数平均分子量(Mn)を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記の1種以上の無定形ポリマー化合物(B)が、ポリメチルメタクリレート校正標準および溶離液としてテトラヒドロフランを用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより決定して、10000~1000000g/mo
lの質量平均分子量(M
w)を有する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記の1種以上の無定形ポリマー化合物(B)が、以下のものを含むモノマー組成物を重合することにより得ることができる:
a)前記モノマー組成物の全質量を基準として、1~30質量
%の、成分a)として、前記の1種以上の官能性モノマー、および
b1)前記モノマー組成物の全質量を基準として、30~60質量
%の、第1の成分b)として、式(I):
【化1】
[式中、Rは、水素またはメチルであり、R
1は、炭素原子1~8
個を有する線状、分岐状または環状のアルキル基を意味する]の1種以上のアルキル(メタ)アクリレート、および
b2)前記モノマー組成物の全質量を基準として、0~20質量
%の、第2の成分b)として、式(II):
【化2】
[式中、Rは、水素またはメチルであり、R
2は、炭素原子9~15
個を有する線状、分岐状または環状のアルキル基を意味する]の1種以上のアルキル(メタ)アクリレート、および
b3)前記モノマー組成物の全質量を基準として、0~20質量
%の、第3の成分b)として、式(III):
【化3】
[式中、Rは、水素またはメチルであり、R
3は、炭素原子16~40
個を有する線状、分岐状または環状のアルキル基を意味する]の1種以上のアルキル(メタ)アクリレート、および
c)前記モノマー組成物の全質量を基準として、20~60質量
%の、(メタ)アクリル酸の1種以上のエステルと、500~10000g/molの数平均分子量(M
n)を有する1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの反応生成物、
請求項1から3までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記の1種以上のナノ粒子化合物(A)の、前記の1種以上の無定形ポリマー化合物(B)に対する質量比が
、5:1~1:
2である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記の1種以上の無定形ポリマー化合物(B)が、以下のものを含むモノマー組成物を重合することにより得ることができる:
a1)前記モノマー組成物の全質量を基準として、0.5~5質量%の、第1の成分a)として、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド
、
a9)前記モノマー組成物の全質量を基準として、5~15質量%の、第2の成分a)として、芳香族基を含有するビニルモノマー
、
b1)前記モノマー組成物の全質量を基準として、35~50質量%の、第1の成分b)として、式(I)のアルキル(メタ)アクリレートモノマー
、
b2)前記モノマー組成物の全質量を基準として、1~10質量%の、第2の成分b)として、式(II)のアルキル(メタ)アクリレートモノマー
、
c)前記モノマー組成物の全質量を基準として、30~50質量%の、成分c)として、(メタ)アクリル酸
の1種以上のエステルと、500~10000g/molの数平均分子量(M
n)を有する
1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの
反応生成物、
請求項
4に記載の使用。
【請求項7】
前記モノマー組成物のモノマーa)、b)およびc)の質量含有率が、前記モノマー組成物の全質量を基準として、合計して100質量%になる、請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記ナノ粒子化合物(A)が、六方晶窒化ホウ素(hBN)ナノ粒子、カーボンブラック、分子式MX
2[式中、金属元素Mはモリブデン(Mo)またはタングステン(W)であり、かつカルコゲン元素Xは硫黄(S)である]を有する金属カルコゲニド、またはその混合物から選択される、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記ベースフルード(C)が、ASTM D-445によ
る3cSt~15cStの40℃での動粘
度を有す
る、請求項1から8までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記ベースフルードが、APIグループI基油、APIグループII基油、APIグループIII基油、APIグループIV基油、APIグループV基油、またはその混合物からなるリストから選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記ナノ粒子組成物が、前記ナノ粒子組成物の全質量を基準として
、90~99.9質量%のベースフルード(C)および0.1~10質量%の(A)および(B
)を含む、請求項
1から10
までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
(A)、(B)および(C)の量が、前記ナノ粒子組成物の全質量を基準として、合計して100質量%になる、請求項
1から11までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
1種以上のナノ粒子(A)、1種以上の無定形ポリマー化合物(B)およ
び前記ベースフルード(C)を含む前記ナノ粒子組成物が、ボールミルプロセスによってミリングされる、請求項1から12までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記ナノ粒子組成物がさらに、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、流動点降下剤、腐食抑制剤、金属不動態化剤、静電放電抑制剤、消泡剤、シール固定剤またはシール相溶剤、さび止め剤、抗乳化剤、乳化剤、摩擦調整剤、極圧添加剤、染料またはその混合物からなる群から選択される、1種以上の添加剤成分(D)を含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記電気装置システムが、電気電池、電動機、電気自動車トランスミッション、電気変圧器、電気キャパシタ、液体充填式伝送線、液体充填式電力ケーブル、コンピュータおよびパワーエレクトロニクスからなる群から選択される、請求項1から14までのいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーシステムまたは他の電気装置における伝熱流体としてのナノ粒子組成物の使用に関する。前記電気装置は、特に電気電池、電動機、電気自動車トランスミッション、電気変圧器、電気キャパシタ、液体充填式伝送線、液体充填式電力ケーブル、コンピュータおよびパワーエレクトロニクス、例えば電力変換器であってよい。
【0002】
発明の背景
近年、エネルギー不足および環境への懸念が、科学技術の進歩への多大な影響を及ぼしてきた。環境意識の増大は、いわゆるグリーンテクノロジーにおける、殊に自動車工業における関心の高まりをもたらしている。再生可能エネルギー源を燃料とするエミッションフリー車、例えば純電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)および燃料電池電気自動車の需要は徐々に、より重要になってきており、かつ今後20年で抜本的に増大すると予想される。そのような車両用のエネルギーは、高い比エネルギー密度を有するバッテリーにおいて提供され、かつ貯蔵される。鉛-酸、亜鉛/ハロゲン、金属/空気、ナトリウム-ベータアルミナ、ニッケル金属水素物(Ni-MH)およびリチウムイオン(Li-ion)などの多様なバッテリーがEVおよびHEVに利用できる。
【0003】
電気自動車の性能を増大させるために、高い電流放電を有する大型バッテリーが必要とされる。そのサイズおよび電力出力のために、これらの大型バッテリーは、高電流レベルでの急速充放電サイクル中に大量の熱を発生する。したがって、バッテリーは、バッテリー機能不良を回避し、かつ前記バッテリーの寿命を増大させるために、冷却するかまたは熱を放散することにより熱管理しなければならない。
【0004】
さらに、前記バッテリーの性能は温度に依存する。それらのタイプに応じて、バッテリーは、特定の温度範囲内でのみ最適に機能する。そのため、適正な熱管理は、バッテリー性能を最適化することを可能にする。
【0005】
潤滑剤配合物におけるナノ粒子の使用における関心も高まっている。潤滑剤は典型的に、ベースフルードと、多様な量の添加剤とを含有する。前記潤滑剤配合物中の一部の添加剤は、接触面間の摩擦および摩耗を減少させるのに使用され、このことは、潤滑されうる装置のエネルギー効率および耐久性に重要である。前記ナノ粒子は、境界潤滑を達成し、かつ離れた表面を維持するのに殊に有用である。研究は、ナノ粒子の添加が、摩耗および摩擦性能を抜本的に改善できることを示していた(Zhou et al, Tribology Letters 8, 213-218 (2000); Qiu et al. J. Tribol. 123 (3), 441-443 (2001))。
【0006】
しかしながら、ナノ粒子の安定な分散液の生成は難しい。たいていの未処理のナノ粒子、例えばhBNおよび金属二硫化物は、本来親水性であり、ひいては油または無極性環境中で不良な分散液を形成する。さらに、前記粒子の不良な分散および弱い力は、粒子を寄せ集めてアグロメレーションを引き起こす。これらのアグロメレートは、望ましなく、かつ前記配合物に有効でない沈降をまねく。
【0007】
国際公開第2018/019783号(WO 2018/019783 A1)には、酸化物および酸化金属ナノ粒子の、前記ナノ粒子をアルキル(メタ)アクリレートモノマー単位を有するポリマーと共有結合させることによる、安定化が開示されている。この文献には熱管理の適用が記載されていない。
【0008】
Naser Ali et al. Review article (2018): “A review on nanofluids: fabrication, stability and thermophysical properties”は、ナノ流体の開発に関し、かつナノ流体の安定性が、その製品の貯蔵寿命を、その熱物理的性質を維持しながら延長するので、ナノ流体の商業化において極めて重要な要素であることを指摘する。そのようなタイプの流体を使用する主な欠点が、ナノ流体の粘度の増大から引き起こされる配管系における圧力損失の上昇であることも示される。この文献には、主に親水性の伝熱流体が技術水準として記載されている。
【0009】
国際公開第2013/115925号(WO 2013/115925 A1)には、流動媒体と、電気絶縁性かつ熱伝導性であるナノ粒子を含むナノ粒子組成物とを含む、ナノコンポジット流体が開示されている。この文献には、前記ナノコンポジット流体の製造に関する具体的な例が全く示されていない。前記ナノコンポジット流体の安定性に関する詳細も示されておらず、対応する参考ベースフルードとの粘度および熱伝導率の比較も全く示されていない。
【0010】
米国特許出願公開第2004/069454号明細書(US 2004/069454 A1)には、伝熱システムにおいて使用するための組成物が開示されており、前記組成物は、伝熱媒体中に分散された金属ナノ粒子粉末を含み、前記ナノ粒子は、耐食性を付与し、かつ分散剤として作用するコーティングでコーティングされる。
【0011】
米国特許出願公開第2015/048272号明細書(US 2015/048272 A1)にも、伝熱能力を有するナノ流体を製造する方法が開示されており、前記伝熱流体は、水、エチレングリコールまたはその混合物および金属酸化物、例えばアルミナを含んでいてよい(米国特許出願公開第2015/048272号明細書の表1参照)。
【0012】
国際公開第2017/132122号(WO2017/132122 A1)は、極性液体中に分散されている、官能化されたカーボンナノ粒子および1種以上の半結晶性ポリマーの粒子を含むバッテリー用の伝熱流体に関する。開示された組成物が、前記半結晶性ポリマー粒子の溶融を通じて熱エネルギーを吸収する能力を有するのに対し、前記カーボンナノ粒子の添加が、開示された組成物に熱伝導率を提供することが記載されている。無極性媒体中の粒子の安定化について何も開示されていない。
【0013】
本発明は、可動部を有する電気装置、例えば電動機および電気自動車トランスミッションにおける、または可動部を全く有していない電気装置、例えば電気電池、電気変圧器、電気キャパシタ、液体充填式伝送線、液体充填式電力ケーブル、コンピュータまたはパワーエレクトロニクス、例えば電力変換器における伝熱のための新規な方法を提供することを目的とする。一般に、疎水性の誘電性流体は、金属部分と直接接触して電気絶縁を与えることができる場合に好ましい。なぜなら、それらが安全性の理由により電気的接触を防止するからである。したがって、本発明の課題は、疎水性媒体中のナノ粒子の安定性が増大した、改善された伝熱ナノ流体を提供することである。前記伝熱ナノ流体は、経時的に安定であるべきであり、かつ電気装置において使用される場合に、用途の規格、例えば長期間にわたってかつ異なる温度で改善された伝熱性能を満たす。前記電気装置が可動部を有する場合に、前記伝熱ナノ流体は、苛酷な条件下で良好なトライボロジー性能および安定性も有するべきである(いわゆる冷却潤滑剤)。
【0014】
発明の簡単な要約
本発明において、請求項1に定義されるナノ粒子とポリマーとを含むナノ粒子組成物が、バッテリーおよび他の電気装置用の伝熱流体として使用できることが驚くべきことに見出された。その挑戦は、前記伝熱流体中に含まれる前記ナノ粒子が高温で長期間にわたって良好に分散された状態を維持しながら、大きな伝熱性能を兼ね備えることであった。目標とした使用は、請求項1に定義される組成物を用いて達成された。
【0015】
機械可動部を有する電気装置における伝熱流体としての請求項1に定義されるナノ粒子組成物を使用する付加的な利点は、減摩性能が、前記潤滑油中に極めて良好に分散されている前記ナノ粒子を通じて前記可動部に得られることでもある。
【0016】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、請求項1に定義される伝熱流体としてのナノ粒子組成物の使用に関する。本発明によるナノ粒子組成物は、電気装置、例えば電気電池、電動機、電気自動車トランスミッション、電気変圧器、電気キャパシタ、液体充填式伝送線、液体充填式電力ケーブル、コンピュータまたはパワーエレクトロニクス、例えば電力変換器用の伝熱流体として有利に使用される。
【0017】
発明の詳細な説明
したがって、本発明は、バッテリーまたは他の電気装置システムにおける伝熱流体としてのナノ粒子組成物の使用に関するものであって、前記ナノ粒子組成物は、混合物をミリングすることにより得ることができ、前記混合物は、1種以上のナノ粒子化合物(A)と、1種以上のポリマー化合物(B)とを含み、
(A)前記の1種以上のナノ粒子化合物は、
- 金属またはメタロイド窒化物ナノ粒子、
- 多層または単層カーボンナノチューブ、
- カーボンブラック、
- 分子式MX2[式中、Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、およびそれらの組合せからなる群から選択される金属元素であり、かつXは、硫黄(S)、酸素(O)およびそれらの組合せからなる群から選択されるカルコゲン元素である]を有する金属カルコゲニド、
- またはその混合物
からなる群から選択され、
かつ
(B)前記の1種以上のポリマー化合物は、以下のものを含むモノマー組成物を重合することにより得ることができる:
a)前記モノマー組成物の全質量を基準として、1~30質量%の、以下のものからなるリストから選択される、1種以上の官能性モノマー:
a1)アミノアルキル(メタ)アクリレートおよびアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、例えばN-(3-ジメチル-アミノプロピル)メタクリルアミド、3-ジエチルアミノペンチル(メタ)アクリレート、3-ジブチル-アミノヘキサデシル(メタ)アクリレート、
a2)アルキル(メタ)アクリル酸のニトリルおよび他の含窒素(メタ)アクリレート、例えばN-(メタクリロイルオキシエチル)ジイソブチルケチミン、N-(メタクリロイルオキシエチル)ジヘキサデシル-ケチミン、(メタ)アクリロイルアミドアセトニトリル、2-メタクリロイルオキシエチルメチルシアナミド、シアノメチル(メタ)アクリレート、
a3)エーテルアルコールの(メタ)アクリレート、例えばテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、1-ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルオキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジルオキシエチル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシ-2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシ-2-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシル化(メタ)アクリレート、1-エトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシ-2-エトキシ-2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸とメトキシポリエチレングリコールとのエステル、
a4)オキシラニルアルキル(メタ)アクリレート、例えば2,3-エポキシブチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシブチル(メタ)アクリレート、10,11-エポキシウンデシル(メタ)アクリレート、2,3-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、オキシラニル(メタ)アクリレート、例えば10,11-エポキシヘキサデシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、
a5)含リン、含ホウ素および/または含ケイ素アルキル(メタ)アクリレート、例えば2-(ジメチル-ホスファト)プロピル(メタ)アクリレート、2-(エチルホスフィト)プロピル(メタ)アクリレート、2-ジメチルホスフィノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルホスホノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルメタクリロイルホスホネート、ジプロピルメタクリロイルホスフェート、2-(ジブチルホスホノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3-ブチレンメタクリロイルエチルボレート、メチルジエトキシメタクリロイルエトキシシラン、ジエチルホスファトエチル(メタ)アクリレート、
a6)複素環式アルキル(メタ)アクリレート、例えば2-(1-イミダゾリル)エチル(メタ)アクリレート、2-(4-モルホリニル)エチル(メタ)アクリレート、オキサゾリジニルエチル(メタ)アクリレートおよびN-メタクリロイルモルホリン、
a7)ハロゲン化ビニル、例えば塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデンおよびフッ化ビニリデン、
a8)ビニルエステル、例えば酢酸ビニル、
a9)芳香族基を含有するビニルモノマー、例えばスチレン、側鎖中にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばα-メチルスチレンおよびα-エチルスチレン、環上にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばビニルトルエンおよびp-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、例えばモノクロロスチレン、ジクロロスチレン、トリブロモスチレンおよびテトラブロモスチレン、
a10)複素環式ビニル化合物、例えば2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、3-エチル-4-ビニルピリジン、2,3-ジメチル-5-ビニルピリジン、ビニルピリミジン、ビニルピペリジン、9-ビニルカルバゾール、3-ビニルカルバゾール、4-ビニルカルバゾール、1-ビニルイミダゾール、2-メチル-1-ビニルイミダゾール、N-ビニルピロリドン、2-ビニルピロリドン、N-ビニルピロリジン、3-ビニルピロリジン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルブチロラクタム、ビニルオキソラン、ビニルフラン、ビニルチオフェン、ビニルチオラン、ビニルチアゾール類および水素化ビニルチアゾール類、ビニルオキサゾール類および水素化ビニルオキサゾール類、
a11)ビニルおよびイソプレニルエーテル、
a12)メタクリル酸およびアクリル酸、
b)前記モノマー組成物の全質量を基準として、30~80質量%の、1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマー、ここで、前記の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマーのアルキル基のそれぞれが独立して、線状、環状または分岐状であり、かつ炭素原子1~40個を含む、および
c)前記モノマー組成物の全質量を基準として、20~60質量%の、(メタ)アクリル酸の1種以上のエステルと、500~10000g/molの数平均分子量(Mn)を有する1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの反応生成物、
かつ前記の1種以上のナノ粒子化合物(A)の、前記の1種以上のポリマー化合物(B)に対する質量比は、9:1~1:5である。
【0018】
好ましい実施態様によれば、前記の1種以上のナノ粒子化合物(A)の、前記の1種以上のポリマー化合物(B)に対する質量比は、好ましくは9:1~1:2、より好ましくは5:1~1:2、最も好ましくは3:1~1:2である。
【0019】
別の好ましい実施態様によれば、モノマーa)、b)およびc)の量は、前記モノマー組成物の全質量を基準として、合計して100質量%になる。
【0020】
本明細書において用いられる「1種以上」は、列挙された成分の少なくとも1種が、または1種を上回って、開示されたように使用されてよいことを意味する。
【0021】
本明細書において用いられる「他の電気装置システム」は、電気装置、例えば電気電池、電動機、電気自動車トランスミッション、電気変圧器、電気キャパシタ、液体充填式伝送線、液体充填式電力ケーブル、コンピュータまたはパワーエレクトロニクス、例えば電力変換器を意味する。
【0022】
上記で定義された使用は、バッテリーまたは他の電気装置システムにおいて使用される伝熱流体における伝熱および熱伝導率を高める方法も意味し、ここで、前記ナノ粒子組成物は、混合物をミリングすることにより得ることができ、前記混合物は、上記でおよび本明細書を通じておよび請求項1~15に定義されるように、1種以上のナノ粒子化合物(A)と1種以上のポリマー化合物(B)とを含む。
【0023】
本発明による伝熱ナノ流体は、本明細書の実験の部に実証されるように、疎水性媒体中のナノ粒子の増大した安定性を示す。
【0024】
本発明によれば、前記伝熱流体がさらに、ASTM D-445による3cSt~30cStの40℃での動粘度、およびASTM D-93による110℃よりも高い引火点を有するベースフルード(C)を含むことが好ましい。
【0025】
有利には、バッテリーまたは金属可動部を有する他の電気装置システムにおける伝熱流体として使用される前記ナノ粒子組成物が、伝熱および熱伝導率を高めるだけではなく、良好なトライボロジー特性も提供することが観察されている。実験の部における第11表は、この付加的で有益な摩擦減少性能を説明し、この性能は、自動車用途および工業的用途におけるエネルギー効率に直接つなげることができる。
【0026】
ナノ粒子(A)
本発明によれば、前記ナノ粒子化合物(本明細書において「粒子」または「ナノ粒子」とも呼ばれる)は、1~500nm、好ましくは10~300nmおよびより好ましくは30~200nmである(透過型電子顕微鏡法、TEMを用いて決定される)少なくとも1つの寸法を有する微視的な粒子である。この粒子は、個々の性質のものであってよいかまたはアグリゲーションおよび/またはアグロメレーションされた構造において存在していてよい。後者において、その一次粒子のサイズは、少なくとも1つの寸法において上記のサイズの間にある。前記のアグリゲーション/アグロメレーションされた構造のサイズは、50~150000nm、好ましくは100~100000nmおよびより好ましくは400~70000nmであってよい(静的光散乱技術、d50 SLSを用いて決定される)。
【0027】
本発明において、前記SLS(静的光散乱)測定は、Beckmann Coulter LS 13 320装置を用いて実施される。相当する粉末0.1~2質量%を、水中0.05質量%ピロリン酸ナトリウム溶液中へ添加し、超音波を用いて1分間均質化する。この溶液0.2~2gを、水約200mLが充填されている測定装置中へ添加する。d50の数学的計算は、体積基準でフラウンホーファー光学モデルを用いて実施される。
【0028】
上記で示される寸法は、説明のためのみに提供され、かつ本開示を限定することを意図するものではない。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、前記ナノ粒子は、ホウ素またはアルミニウムの窒化物またはその混合物から選択され、より好ましくはhBNである。
【0030】
本発明の別の好ましい態様によれば、前記ナノ粒子はカーボンブラックである。
【0031】
本発明の別の好ましい態様によれば、前記ナノ粒子(A)は、分子式MX2[式中、Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、およびそれらの組合せからなる群から選択される金属元素であり、かつXは、硫黄(S)および/または酸素(O)、およびそれらの組合せからなる群から選択されるカルコゲン元素である]を有する金属カルコゲニドである。好ましくは、前記金属カルコゲニドは、分子式MX2[式中、前記金属元素Mはタングステン(W)またはモリブデン(Mo)であり、かつ前記カルコゲン元素Xは硫黄(S)である]を有する。
【0032】
本発明によるMX2化合物は、層間化合物であってよく、これは成分または層の間に挿入できる化合物を意味する。前記層間化合物は典型的に、フラーレン様の幾何学的形状を有する。前記のフラーレン様の幾何学的形状のコアは、中空、中実、無定形、またはその組合せであってよい。フラーレン様の幾何学的形状は、かごの幾何学的形状を有するとも呼ばれうる。より具体的には、一部の実施態様において、無機フラーレン様の幾何学的形状を有する層間化合物は、そのコアで中空または中実であり、かつその周囲で層のある、かごの幾何学的形状を有していてよい。例えば、前記の無機フラーレン様の幾何学的形状を有する層間化合物は、単層または二層構造であってよい。前記層間化合物はかなり多数の層を有していてよいので、前記層間化合物は、単層または二層構造のみに限定されない。これらの構造は、当該技術分野において入れ子の層構造であるとも呼ばれる。好ましくは前記層間化合物は、WS2またはMoS2またはその混合物から選択され、より好ましくはWS2である。
【0033】
好ましい実施態様において、前記層間化合物の無機フラーレン様の幾何学的形状は、中空コアありまたはなしで、球状、略球状、多面体、細長、棒状、立方体状、シート状または管状の幾何学的形状のものまたはその混合物であってよい。
【0034】
本発明の好ましい態様によれば、前記ナノ粒子は、上記の構造の混合物から選択され、より好ましくは、六方晶窒化ホウ素(hBN)ナノ粒子、カーボンブラック、分子式MX2[式中、前記金属元素Mはタングステン(W)またはモリブデン(Mo)であり、かつ前記カルコゲン元素Xは硫黄(S)である]を有する金属カルコゲニド、またはその混合物から選択される。
【0035】
ポリマー(B)
本発明のポリマーは、結晶性または半結晶性ポリマーではなく、無定形ポリマーである。
【0036】
本発明の好ましい実施態様において、前記の1種以上のポリマー化合物(B)は、10000~1000000g/mol、より好ましくは50000~800000g/mol、よりいっそう好ましくは100000~500000g/mol、最も好ましくは150000~350000g/molの質量平均分子量(Mw)を有する。
【0037】
本発明において、前記ポリマー(B)の質量平均分子量(Mw)は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)校正標準および溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)(流量:1mL/min、注入体積:100μL)を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定された。
【0038】
好ましくは、前記モノマー成分a)、b)およびc)を含むモノマー組成物を用いて製造される前記の1種以上のポリマー化合物(B)は、以下のものを含むモノマー組成物を重合することにより得ることができる:
a)前記モノマー組成物の全質量を基準として、5~30質量%、より好ましくは10~20質量%の、成分a)として前記の1種以上の官能性モノマー、および
b)前記モノマー組成物の全質量を基準として、35~70質量%、より好ましくは40~60質量%の、前記の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマー、ここで、前記の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマーのアルキル基のそれぞれが独立して、線状、環状または分岐状であり、かつ炭素原子1~40個を含む、および
c)前記モノマー組成物の全質量を基準として、25~55質量%、より好ましくは30~50質量%の、(メタ)アクリル酸と、500g/mol~10000g/molの数平均分子量(Mn)を有する1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの1種以上のエステル。
【0039】
好ましい実施態様において、前記モノマー組成物のモノマーa)、b)およびc)の質量含有率は、前記モノマー組成物の全質量を基準として、合計して100質量%になる。
【0040】
官能性モノマーa)
すでに上記で定義されたように、本発明による1種以上の官能性モノマーa)は、以下のものからなるリストから選択される:
a1)アミノアルキル(メタ)アクリレートおよびアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、
a2)アルキル(メタ)アクリル酸のニトリルおよび他の含窒素アルキル(メタ)アクリレート、
a3)エーテルアルコールの(メタ)アクリレート、
a4)オキシラニルアルキル(メタ)アクリレート、
a5)含リン、含ホウ素および/または含ケイ素アルキル(メタ)アクリレート、
a6)複素環式アルキル(メタ)アクリレート、
a7)ハロゲン化ビニル、
a8)ビニルエステル、
a9)芳香族基を含有するビニルモノマー、
a10)複素環式ビニル化合物、
a11)ビニルおよびイソプレニルエーテル、
a12)メタクリル酸およびアクリル酸。
【0041】
好ましくは、前記官能性モノマーa)は、アミノアルキル(メタ)アクリレートa1)またはアミノアルキル(メタ)アクリルアミドa1)または複素環式アルキル(メタ)アクリレートa6)または芳香族基を含有するビニルモノマーa9)から、より好ましくは、アミノアルキル(メタ)アクリルアミドa1)または芳香族基を含有するビニルモノマーa9)またはその混合物から選択される。
【0042】
よりいっそう好ましくは、前記官能性モノマーa)は、第1の成分a)としてアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、最も好ましくはN-(3-ジメチル-アミノプロピル)メタクリルアミドから、および第2の成分a)として芳香族基を含有するビニルモノマー、最も好ましくはスチレンから、選択される。
【0043】
アルキル(メタ)アクリレートモノマーb)
用語「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸、メタクリル酸およびアクリル酸とメタクリル酸との混合物をいい、その際にメタクリル酸が好ましい。用語「(メタ)アクリレート」は、アクリル酸のエステル、メタクリル酸のエステルまたはアクリル酸およびメタクリル酸のエステルの混合物をいい、その際にメタクリル酸のエステルが好ましい。
【0044】
用語「C1~40アルキル(メタ)アクリレート」は、(メタ)アクリル酸と炭素原子1~40個を有する直鎖、環状または分岐状のアルコールとのエステルをいう。前記用語は、特定の長さのアルコールとの個々の(メタ)アクリル酸エステル、および同様に異なる長さのアルコールとの(メタ)アクリル酸エステルの混合物を含む。
【0045】
本発明によれば、前記ナノ粒子組成物の任意の成分b)において、前記の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマーのアルキル基のそれぞれが独立して、線状、環状または分岐状であり、かつ炭素原子1~40個を含むことが好ましい。
【0046】
すでに上記で示されたように、本発明によれば、前記の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマーb)は、
b1)式(I):
【化1】
[式中、Rは、水素またはメチルであり、R
1は、炭素原子1~8個、好ましくは炭素原子1~5個、およびより好ましくは炭素原子1~4個を有する線状、分岐状または環状のアルキル基を意味する]の1種以上のアルキル(メタ)アクリレート、
b2)式(II):
【化2】
[式中、Rは、水素またはメチルであり、R
2は、炭素原子9~15個、好ましくは炭素原子12~15個、およびより好ましくは炭素原子12~14個を有する線状、分岐状または環状のアルキル基を意味する]の1種以上のアルキル(メタ)アクリレート、
b3)式(III):
【化3】
[式中、Rは、水素またはメチルであり、R
3は、炭素原子16~40個、好ましくは炭素原子16~30個、およびより好ましくは炭素原子16~22個を有する線状、分岐状または環状のアルキル基を意味する]の1種以上のアルキル(メタ)アクリレート
を含む。
【0047】
用語「C1~8アルキル(メタ)アクリレート」は、(メタ)アクリル酸と、炭素原子1~8個を有する直鎖または分岐状のアルコールとのエステルをいう。前記用語は、特定の長さのアルコールとの個々の(メタ)アクリル酸エステル、および同様に異なる長さのアルコールとの(メタ)アクリル酸エステルの混合物を含む。
【0048】
本発明によれば、前記の式(I)による1種以上のモノマー、すなわち前記C1~8アルキル(メタ)アクリレートのそれぞれが独立して、飽和アルコールに由来する(メタ)アクリレート、好ましくはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-tert-ブチルヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレートおよび3-イソプロピルヘプチル(メタ)アクリレートからなる群から選択されていてよく、最も好ましい前記の式(II)によるモノマーは、メチルメタクリレートである。
【0049】
特に好ましいC1~8アルキル(メタ)アクリレートは、メチル(メタ)アクリレートおよびn-ブチル(メタ)アクリレートであり、メチルメタクリレートおよびn-ブチルメタクリレートが殊に好ましい。
【0050】
用語「C9~15アルキル(メタ)アクリレート」は、(メタ)アクリル酸と、炭素原子9~15個を有する直鎖または分岐状のアルコールとのエステルをいう。前記用語は、特定の長さのアルコールとの個々の(メタ)アクリル酸エステル、および同様に異なる長さのアルコールとの(メタ)アクリル酸エステルの混合物を含む。
【0051】
本発明によれば、前記の式(II)による1種以上のモノマー、すなわち前記C9~15アルキル(メタ)アクリレートのそれぞれが独立して、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、5-メチルウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、2-メチルドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、5-メチルトリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、環置換基を有するシクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレートおよびイソボルニル(メタ)アクリレートからなる群から選択されていてもよい。
【0052】
特に好ましいC9~15アルキル(メタ)アクリレートは、線状C12~14アルコール混合物の(メタ)アクリル酸エステル(C12~14アルキル(メタ)アクリレート)である。
【0053】
用語「C16~40アルキル(メタ)アクリレート」は、(メタ)アクリル酸と、炭素原子16~40個を有する直鎖または分岐状のアルコールとのエステルをいう。前記用語は、特定の長さのアルコールとの個々の(メタ)アクリル酸エステル、および同様に異なる長さのアルコールとの(メタ)アクリル酸エステルの混合物を含む。
【0054】
本発明によれば、前記の式(III)による1種以上のモノマー、すなわち前記C16~40アルキル(メタ)アクリレートのそれぞれが独立して、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、5-イソプロピルヘプタデシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルオクタデシル(メタ)アクリレート、5-エチルオクタデシル(メタ)アクリレート、3-イソプロピルオクタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、セチルエイコシル(メタ)アクリレート、ステアリルエイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、エイコシルテトラトリアコンチル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、2,4,5-トリ-t-ブチル-3-ビニルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、および2,3,4,5-テトラ-t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートからなる群から選択されていてもよい。
【0055】
好ましくは、前記C1~40アルキル(メタ)アクリレートは、C1~8アルキル(メタ)アクリレートとC9~15アルキル(メタ)アクリレートとの混合物、より好ましくはC1~4アルキル(メタ)アクリレートとC12~15アルキル(メタ)アクリレートとの混合物を含む。
【0056】
マクロモノマー成分(c)
本発明によれば、上記で定義されたモノマー組成物は、成分c)として、(メタ)アクリル酸と、500~10000g/molの数平均分子量(Mn)を有する1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの1種以上のエステルを含む。これに関連して、本発明のポリマー化合物(B)は、骨格または主鎖とも呼ばれる第1のポリマーと、側鎖と呼ばれ、かつ前記骨格に共有結合される多数のさらなるポリマーとを含む。この場合に、前記ポリマーの骨格は、前記の(メタ)アクリル酸エステルの連結された不飽和基により形成される。前記(メタ)アクリル酸エステルのアルキル基および水素化ポリブタジエン鎖は、前記ポリマーの側鎖を形成する。(メタ)アクリル酸の1種以上の付加的なエステルと、500~10000g/molの数平均分子量を有する1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの反応生成物は、本発明において、マクロモノマーとも呼ばれる。
【0057】
前記マクロモノマーの数平均分子量Mnは、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いてDIN 55672-1に従ってポリブタジエン校正標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定される。
【0058】
前記成分a)、b)およびc)を含むモノマー組成物を用いて製造される前記の1種以上のポリマー化合物(B)は、そのモル分岐度(「f-分岐」)を基準にして特性決定することができる。前記モル分岐度は、前記モノマー組成物中の前記の全てのモノマーの全モル量を基準として、使用されるマクロモノマー(成分(c))のmol%でのパーセンテージをいう。使用されるマクロモノマーのモル量は、前記マクロモノマーの数平均分子量(Mn)に基づいて計算される。前記モル分岐度の計算は、国際公開第2007/003238号(WO 2007/003238 A1)に、殊にp.13および14に詳細に記載されており、前記明細書は本明細書に明示的に参照される。
【0059】
好ましくは、前記の1種以上のポリマー化合物(B)は、0.1~6mol%、より好ましくは1~4mol%および最も好ましくは1.5~3mol%のモル分岐度f分岐を有する。
【0060】
500g/mol~10000g/molの数平均分子量(Mn)を有するマクロアルコールをベースとする成分c)としてのマクロモノマーを、前記の1種以上の官能性モノマーa)および本発明による前記の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマーb)と組み合わせることにより、ナノ粒子化合物(A)と組み合わされる場合に安定な良好に分散されたナノ粒子組成物を提供するポリマー(B)を得ることができる。
【0061】
本発明に従う成分c)としての使用のための前記の1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、500g/mol~10000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。それらの高分子質量のために、前記のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、本発明に関連してマクロアルコールとも呼ばれうる。(メタ)アクリル酸の対応するエステルは、本発明に関連してマクロモノマーとも呼ばれうる。
【0062】
成分c)は、単一のタイプのマクロモノマーを含んでいてよいか、または異なるマクロアルコールをベースとする異なるマクロモノマーの混合物を含んでいてよい。
【0063】
前記のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、単一の数平均分子量(Mn)を有する単一のポリブタジエンであってよく、または異なる数平均分子量(Mn)を有する異なるポリブタジエンの混合物であってよい。
【0064】
好ましくは、前記モノマー組成物は、成分c)として、前記モノマー組成物の全質量を基準として、20~80質量%、より好ましくは20~70質量%、よりいっそう好ましくは20~60質量%、最も好ましくは20~50質量%の、(メタ)アクリル酸と、500g/mol~10000g/molの数平均分子量(Mn)を有する1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの1種以上のエステルを含む。
【0065】
好ましい実施態様において、本発明に従う成分c)としての使用のための1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、1500~7500g/molの数平均分子量(Mn)を有する。
【0066】
好ましくは、成分c)の前記の1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、1500~2100g/mol、より好ましくは1800~2100g/mol、最も好ましくは1900~2100g/molの数平均分子量(Mn)を有する。
【0067】
別の好ましい実施態様において、成分c)は、異なる分子量を有する1種以上のマクロアルコールを用いて製造される1種のマクロモノマーであってよく、ここで、第1のマクロアルコールは、1500~2100g/mol、より好ましくは1800~2100g/mol、最も好ましくは1900~2100g/molの数平均分子量を有し、かつ第2のマクロアルコールは、3500~7000g/mol、好ましくは4000~6000g/mol、より好ましくは4500~5000g/molの数平均分子量を有する。成分c)は、2種のマクロモノマーの混合物も含んでいてよく、ここで、第1のマクロモノマーは、1500~2100g/mol、より好ましくは1800~2100g/mol、最も好ましくは1900~2100g/molの数平均分子量を有するマクロアルコールを用いて製造され、かつ第2のマクロモノマーは、3500~7000g/mol、好ましくは4000~6000g/mol、より好ましくは4500~5000g/molの数平均分子量を有するマクロアルコールを用いて製造される。
【0068】
本発明の好ましい実施態様によれば、異なる数平均分子量の2種のマクロモノマーを組み合わせることにより、より低分子量のマクロモノマーの、より高分子量のマクロモノマーに対する質量割合は、好ましくは1以上、より好ましくは1.5~15、よりいっそう好ましくは2~7、最も好ましくは3~6である。
【0069】
好ましい実施態様において、前記のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、モノヒドロキシル化された水素化ポリブタジエン、好ましくはヒドロキシエチルを末端基とするかまたはヒドロキシプロピルを末端基とする水素化ポリブタジエンである。
【0070】
本発明の別の好ましい実施態様において、前記ポリマー化合物(B)の製造に使用される成分c)の(メタ)アクリル酸の1種以上のエステルは、メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートである。
【0071】
好ましくは、前記の1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、少なくとも99%の水素化レベルを有する。本発明のポリマーについて決定することができる水素化レベルの代替的な尺度は、ヨウ素価である。前記ヨウ素価は、ポリマー100gへ付加することができるヨウ素のグラム数をいう。好ましくは、本発明のポリマーは、ポリマー100gあたりヨウ素5g以下のヨウ素価を有する。前記ヨウ素価は、ウイス法によりDIN 53241-1:1995-05に従って決定される。
【0072】
好ましいヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、英国特許出願公開第2270317号明細書(GB 2270317)に従って得ることができる。
【0073】
本明細書において用いられる場合には、用語「ヒドロキシル化された水素化ポリブタジエン」は、1個以上のヒドロキシル基を含む水素化ポリブタジエンをいう。前記のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、さらに、付加的な構造単位、例えばアルキレンオキシドのポリブタジエンへの付加に由来するポリエーテル基または無水マレイン酸のポリブタジエンへの付加に由来する無水マレイン酸基を含んでいてよい。これらの付加的な構造単位は、前記ポリブタジエンがヒドロキシル基で官能化される際に前記ポリブタジエン中へ導入されてよい。
【0074】
好ましいのは、モノヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンである。より好ましくは、前記のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、ヒドロキシエチルまたはヒドロキシプロピルを末端基とする水素化ポリブタジエンである。好ましいのは、ヒドロキシプロピルを末端基とするポリブタジエンである。
【0075】
これらのモノヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、最初にブタジエンモノマーをアニオン重合によりポリブタジエンに変換することにより、製造することができる。引き続き、前記ポリブタジエンモノマーと、アルキレンオキシド、例えばエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドとの反応により、ヒドロキシ官能化されたポリブタジエンを製造することができる。前記ポリブタジエンは、1を超えるアルキレンオキシド単位と反応させて、末端ヒドロキシル基を有するポリエーテル-ポリブタジエンブロックコポリマーを生じさせてよい。前記のヒドロキシル化されたポリブタジエンは、適した遷移金属触媒の存在下で水素化することができる。
【0076】
これらのモノヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、末端二重結合を有する(コ)ポリマーのヒドロホウ素化により得られる生成物(例えば米国特許第4316973号明細書に記載される)、アミノアルコールとの、末端二重結合を有する(コ)ポリマーと無水マレイン酸とのエン反応により得られる無水マレイン酸-エン-アミノアルコール付加物、および末端二重結合を有する(コ)ポリマーのヒドロホルミル化、引き続き水素化により得られる生成物(例えば特開昭63-175096号公報に記載される)から選択することもできる。
【0077】
本発明に従う使用のためのマクロモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートのエステル交換により製造することができる。前記アルキル(メタ)アクリレートと、前記のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの反応は、本発明のエステルを形成する。好ましいのは、メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートを出発物質として用いることである。
【0078】
このエステル交換は広く知られている。例えば、このためには、不均一系触媒系、例えば水酸化リチウム/酸化カルシウム混合物(LiOH/CaO)、純粋な水酸化リチウム(LiOH)、リチウムメトキシド(LiOMe)またはナトリウムメトキシド(NaOMe)または均一系触媒系、例えばイソプロピルチタネート(Ti(OiPr)4)またはジオクチルスズオキシド(Sn(OCt)2O)を使用することが可能である。前記反応は平衡反応である。したがって、放出される低分子量アルコールは、例えば蒸留により、典型的に除去される。
【0079】
そのうえ、前記マクロモノマーは、直接エステル化手法により、例えば、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸無水物から、好ましくはp-トルエンスルホン酸またはメタンスルホン酸による酸触媒作用下で、または遊離メタクリル酸からDCC法(ジシクロヘキシルカルボジイミド)により得ることができる。
【0080】
さらに、このヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンは、酸塩化物、例えば塩化(メタ)アクリロイルとの反応により、エステルに変換することができる。
【0081】
好ましくは、本発明のエステルの上記で詳述された製造において、重合防止剤、例えば4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシルラジカルおよび/またはヒドロキノンモノメチルエーテルが使用される。
【0082】
好ましいモノマー組成物
本発明の好ましい態様によれば、前記の1種以上のポリマー化合物(B)は、以下のものを含むモノマー組成物を重合することにより得ることができる:
a)前記モノマー組成物の全質量を基準として、1~30質量%、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~20質量%の、成分a)として前記の1種以上の官能性モノマー、および
b1)前記モノマー組成物の全質量を基準として、30~60質量%、好ましくは30~50質量%、より好ましくは35~50質量%の、第1の成分b)として、式(I)の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマー、および
b2)前記モノマー組成物の全質量を基準として、0~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは1~10質量%の、第2の成分b)として、式(II)の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマー、および、
b3)前記モノマー組成物の全質量を基準として、0~20質量%、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0~10質量%の、第3の成分b)として、式(III)の1種以上のアルキル(メタ)アクリレートモノマー、および、
c)前記モノマー組成物の全質量を基準として、20~60質量%、より好ましくは25~55質量%、より好ましくは30~50質量%の、(メタ)アクリル酸の1種以上のエステルと、500~10000g/molの数平均分子量(Mn)を有する1種以上のヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの反応生成物、
ここで、前記モノマー組成物の全てのモノマーの量は、合計して100質量%になる。
【0083】
本発明の特に好ましい実施態様において、前記の1種以上のポリマー化合物(B)は、以下のものを含むモノマー組成物を重合することにより得ることができる:
a1)前記モノマー組成物の全質量を基準として、0.5~5質量%の、第1の成分a)として、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、最も好ましくはN-(3-ジメチル-アミノプロピル)メタクリルアミド、および
a9)前記モノマー組成物の全質量を基準として、5~15質量%の、第2の成分a)として、芳香族基を含有するビニルモノマー、最も好ましくはスチレン、および
b1)前記モノマー組成物の全質量を基準として、35~50質量%の、第1の成分b)として、式(I)のアルキル(メタ)アクリレートモノマー、最も好ましくはメチルメタクリレートおよび/またはブチルメタクリレート、および
b2)前記モノマー組成物の全質量を基準として、1~10質量%の、第2の成分b)として、式(II)のアルキル(メタ)アクリレートモノマー、最も好ましくはラウリルメタクリレート、および
c)前記モノマー組成物の全質量を基準として、30~50質量%の、成分c)として、(メタ)アクリル酸と、500~10000g/molの数平均分子量(Mn)を有するヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとのエステル、最も好ましくは(メタ)アクリル酸のエステルと、1500~5000g/molの数平均分子量(Mn)を有するヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンとの反応に由来するマクロモノマー、
ここで、前記モノマー組成物の全てのモノマーの量は、合計して100質量%になる。
【0084】
前記ポリマー化合物(B)の製造
本発明によれば、上記のポリマーは、
(x)上記で記載されたようなモノマー組成物を用意する工程、および
(y)前記モノマー組成物においてラジカル重合を開始する工程
を含む方法に従って、製造することができる。
【0085】
標準のフリーラジカル重合は、とりわけ、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版に詳述されている。一般に、重合開始剤および任意に連鎖移動剤がこのために使用される。
【0086】
前記重合は、標準圧力、減圧または高めた圧力下で実施することができる。その重合温度も決定的ではない。しかしながら、一般に、-20~200℃、好ましくは50~150℃およびより好ましくは80~130℃の範囲内である。
【0087】
前記重合工程(y)は、油中に希釈してまたは希釈せずに実施されてよい。希釈が実施される場合には、前記反応混合物の全質量に対して、前記モノマー組成物の量、すなわちモノマーの全量は、好ましくは20~90質量%、より好ましくは40~80質量%、最も好ましくは50~70質量%である。
【0088】
好ましくは、前記モノマー混合物を希釈するのに使用される油は、APIグループI、II、III、IVまたはV油、またはその混合物である。好ましくは、グループIII油またはその混合物は、前記モノマー混合物を希釈するのに使用される。
【0089】
好ましくは、工程(y)は、ラジカル開始剤の添加を含む。
【0090】
適したラジカル開始剤は、例えば、アゾ開始剤、例えばアゾビス-イソブチロニトリル(AIBN)、2,2′-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)および1,1-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、およびペルオキシ化合物、例えばメチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、tert-ブチルペル-2-エチルヘキサノエート、ケトンペルオキシド、tert-ブチルペルオクトエート、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジクミルペルオキシド、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、クミルヒドロペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシドおよびビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネートである。
【0091】
好ましくは、前記ラジカル開始剤は、2,2′-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-ビス(tert-ブチルペルオキシ)ブタン、tert-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエート、1,1-ジ-tert-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、tert-ブチルペルオキシベンゾエートおよびtert-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエートからなる群から選択される。特に好ましい開始剤は、tert-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエートおよび2,2-ビス(tert-ブチルペルオキシ)ブタンである。
【0092】
好ましくは、前記モノマー混合物の全質量に対するラジカル開始剤の全量は、0.01~5質量%、より好ましくは0.02~0.8質量%である。
【0093】
ラジカル開始剤の全量が、単一工程において添加されてよく、または前記ラジカル開始剤が、前記重合反応の経過につれて幾つかの工程において添加されてもよい。好ましくは、前記ラジカル開始剤は、幾つかの工程において添加される。例えば、前記ラジカル開始剤の一部分が、ラジカル重合を開始させるために添加されてよく、かつ前記ラジカル開始剤の第2の部分が、最初の配量の0.5~3.5時間後に添加されてもよい。
【0094】
好ましくは、工程(y)も連鎖移動剤の添加を含む。適した連鎖移動剤は、殊に油溶性メルカプタン、例えばn-ドデシルメルカプタンまたは2-メルカプトエタノール、さもなければテルペンの種類からの連鎖移動剤、例えばテルピノレンである。特に好ましいのは、n-ドデシルメルカプタンの添加である。
【0095】
前記モノマー組成物を最初の部分および第2の部分に分割し、かつ前記ラジカル開始剤の一部を前記の最初の部分に添加して、その中で前記重合反応だけを開始することも可能である。ついで、前記ラジカル開始剤の第2の部分は、前記モノマー組成物の第2の部分に添加され、ついでこれが0.5~5時間、好ましくは1.5~4時間、より好ましくは2~3.5時間の過程にわたって、前記重合反応混合物に添加される。前記の第2のモノマー混合物の添加後に、前記ラジカル開始剤の第3の部分は、上記に記載されるように前記重合反応に添加されてよい。
【0096】
好ましくは、前記ラジカル重合の全反応時間は、2~10時間、より好ましくは3~9時間である。
【0097】
前記ラジカル重合の完了後に、得られたポリマーは、好ましくは、上記油で所望の粘度にさらに希釈される。好ましくは、前記ポリマーは、ポリマー5~60質量%、より好ましくは10~50質量%、最も好ましくは20~40質量%の濃度に希釈される。
【0098】
本発明のナノ粒子組成物
本発明の好ましい実施態様によれば、本明細書において定義される前記の1種以上のナノ粒子(A)と、前記の1種以上のポリマー化合物(B)とを含むナノ粒子組成物は、ベースフルード(C)をさらに含んでいてよい。
【0099】
好ましい実施態様において、前記ベースフルード(C)は、ASTM D-445による3cSt~30cSt、より好ましくは3cSt~15cStの40℃での動粘度およびASTM D-93による110℃よりも高い引火点を有する。
【0100】
前記ベースフルード(C)は、APIグループI基油、APIグループII基油、APIグループIII、APIグループIV基油およびAPIグループV基油またはその組合せからなるリストから選択される基油であってよい。
【0101】
前記基油は、アメリカ石油協会(API)により指定されるように定義することもできる(“Appendix E-API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils”の2008年4月版、節1.3 副見出し1.3.“Base Stock Categories”参照)。
【0102】
APIは現在、潤滑剤ベースストックの5つのグループを定義する(API 1509, Annex E - API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils、2011年9月)。グループI、IIおよびIIIは、それらが含有する飽和分および硫黄の量と、それらの粘度指数とにより分類される鉱油であり、グループIVは、ポリアルファオレフィンであり、かつグループVは、例えばエステル油を含めた、その他全てである。以下の表は、これらのAPI分類を説明する。
【0103】
第1表 - 潤滑剤ベースストックのAPI定義
【表1】
【0104】
好ましい実施態様において、ASTM D-445による3cSt~30cSt、より好ましくは3cSt~15cStの40℃での動粘度およびASTM D-93による110℃よりも高い引火点を有する前記ベースフルード(C)は、ポリアルファオレフィン、テトラブタン、APIグループIII基油またはその混合物、好ましくは、テトラブタンまたはAPIグループIII基油、またはその混合物から選択される。
【0105】
前記ベースフルード(C)は、フッ化化合物、例えばポリヘキサフルオロプロピレンオキシド、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)、ペルフルオロアルキルエーテル(PFAE)、ペルフルオロポリアルキルエーテル(PFPAE)、ハイドロフルオロエーテル、またはその混合物であってよい。
【0106】
前記ベースフルード(C)がAPIグループV基油から選択される場合には、シリコーン油、ナフテン、ポリアルキレングリコール、リンを含有する酸の液状エステルを含む合成油、またはその混合物からなる群から好ましくは選択される。
【0107】
前記ベースフルード(C)は、上記で列挙されたあらゆる基油の混合物であってもよい。
【0108】
伝熱流体としての使用のための前記ナノ粒子組成物が、前記ナノ粒子組成物の全質量を基準として、85~99.9質量%のベースフルード(C)および0.1~15質量%の(A)および(B)、より好ましくは90~99.9質量%のベースフルード(C)および0.1~10質量%の(A)および(B)、最も好ましくは92~99.5質量%のベースフルード(C)および0.5~8質量%の(A)および(B)を含むことが好ましい。好ましくは、(A)、(B)および(C)の量は、前記ナノ粒子組成物の全質量を基準として、合計して100質量%になる。
【0109】
前記ナノ粒子組成物を製造する方法の好ましい実施態様において、1種以上のナノ粒子(A)と、前記の1種以上のポリマー化合物(B)と、任意に前記ベースフルード(C)との混合物は、出力10~1000W、好ましくは50~800Wおよびより好ましくは100~500Wを有する超音波装置を用いてミリングされる。好ましくは、前記組成物は、1~240分間、より好ましくは10~180分間およびよりいっそう好ましくは30~150分間ミリングされて、安定なナノ粒子組成物を達成する。
【0110】
別の好ましい実施態様において、1種以上のナノ粒子(A)と、前記の1種以上のポリマー化合物(B)と、任意に前記ベースフルード(C)との混合物は、超高圧技術(例えばジェットミル装置Sugino Ultimaizer HJP- 25050)を用いてミリングされる。この混合物の少なくとも2つの流れは、ポンプ、好ましくは高圧ポンプによって1つのノズル(直径0.25mm)を介してそれぞれ、反応器ハウジングにより囲まれた粉砕室中の衝突点上へスプレーされ、これは、前記粉砕室は、前記混合物でフラッディングされ、かつ最終的にミリングされた混合物は、前記粉砕室中への前記の連続的な流れの超過圧力により前記粉砕室から除去されることにより特徴付けられる。前記ポンプ圧力は、100~4000bar、好ましくは400~3000bar、より好ましくは1000~2500barである。
【0111】
別の好ましい実施態様によれば、1種以上のナノ粒子(A)と、1種以上のポリマー化合物(B)と、任意に前記ベースフルード(C)とを含むナノ粒子組成物は、ボールミルプロセスによってミリングされる。好ましくは、前記ボールミルプロセスは、エネルギー0.1~10kWh/kg、好ましくは1~5kWh/kg、より好ましくは1.5~3.5kWh/kgを前記混合物中へ導入することを含む。
【0112】
別の好ましい実施態様において、ナノ粒子組成物、殊に上記で記載されるナノ粒子組成物を製造する方法は、
(i)本明細書において定義される1種以上のナノ粒子化合物(A)を用意する工程、
(ii)本明細書において定義される1種以上のポリマー化合物(B)を用意する工程、
(iii)好ましくは、本明細書において定義されるベースフルード(C)を用意する工程、
(iv)少なくとも前記の1種以上のナノ粒子化合物(A)および前記の1種以上のポリマー化合物(B)を組み合わせて混合物を得る、好ましくは少なくとも前記の1種以上のナノ粒子化合物(A)、前記の1種以上のポリマー化合物(B)および前記ベースフルード(C)を組み合わせて、混合物を得る工程、および
(v)前記混合物をミリングする工程
を含む。
【0113】
本発明によれば、前記ミリング工程(v)は、動的光散乱技術(DLS)を用いて測定される前記ナノ粒子組成物の粒度分布の生じる変化により定義される。
【0114】
工程(v)に記載される本発明によるミリング技術は、ディソルバー、ローター-ステーター装置、均質化、高圧均質化、高せん断混合、超音波、ボールミリングまたは超高圧技術(ジェットミル)またはその組合せであってよい。実際、アグロメレートの粒度は、これらのミリング技術を用いて減少される。
【0115】
最も好ましい実施態様は、前記混合物をボールミルプロセスによってミリングすることである。
【0116】
本発明による伝熱流体として使用される前記ナノ粒子組成物は、任意にさらに、成分(D)として、以下に議論されるような、分散剤、消泡剤、シール固定剤またはシール相溶剤、清浄剤、酸化防止剤、流動点降下剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、腐食抑制剤、金属不動態化剤、さび止め剤、静電放電抑制剤、抗乳化剤、乳化剤、摩擦調整剤、染料およびそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる添加剤を含有していてよい。
【0117】
適切な分散剤は、ポリ(イソブチレン)誘導体、例えば、ホウ酸化PIBSIを含めたポリ(イソブチレン)スクシンイミド(PIBSI)、およびN/O官能基を有するエチレン-プロピレンオリゴマーを含む。
【0118】
分散剤(ホウ酸化分散剤を含む)は、前記ナノ粒子組成物の全量を基準として、0~10質量%の量で好ましくは使用される。
【0119】
適した消泡剤は、シリコーン油、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテルである。
【0120】
前記消泡剤は、前記ナノ粒子組成物の全量を基準として、0.005~0.5質量%の量で好ましくは使用される。
【0121】
好ましい清浄剤は、金属含有化合物、例えばフェノキシド、サリチレート、チオホスホネート、殊にチオピロホスホネート、チオホスホネートおよびホスホネート、スルホネートおよびカーボネートを含む。金属として、これらの化合物は、殊にカルシウム、マグネシウムおよびバリウムを含有していてよい。これらの化合物は、好ましくは中性または過塩基性の形で使用されてよい。
【0122】
清浄剤は、前記ナノ粒子組成物の全量を基準として、0.2~5質量%の量で好ましくは使用される。
【0123】
適した酸化防止剤は、例えば、フェノール系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤を含む。
【0124】
フェノール系酸化防止剤は、例えば、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4′-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4′-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4′-ビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2′-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2′-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4′-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4′-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2′-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール)、2,2-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,2′-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチル-フェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-アミル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N′-ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4′-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4′-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2′-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、n-オクチル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2,2′-チオ[ジエチル-ビス-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を含む。これらのうち、殊に好ましいのは、ビスフェノール系酸化防止剤およびエステル基含有フェノール系酸化防止剤である。
【0125】
前記アミン系酸化防止剤は、例えば、モノアルキルジフェニルアミン、例えばモノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、例えば4,4′-ジブチルジフェニルアミン、4,4′-ジペンチルジフェニルアミン、4,4′-ジヘキシルジフェニルアミン、4,4′-ジヘプチルジフェニルアミン、4,4′-ジオクチルジフェニルアミン、4,4′-ジノニルジフェニルアミン、ポリアルキルジフェニルアミン、例えばテトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン、ナフチルアミン類、具体的にはα-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミンおよびさらにアルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン、例えばブチルフェニル-α-ナフチルアミン、ペンチルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘプチルフェニル-α-ナフチルアミン、オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、ノニルフェニル-α-ナフチルアミンを含む。これらのうち、ジフェニルアミン類は、その抗酸化効果の見地から、ナフチルアミン類よりも好ましい。
【0126】
適した酸化防止剤は、さらに、硫黄およびリンを含有する化合物、例えば金属ジチオホスフェート、例えば亜鉛ジチオホスフェート(ZnDTP)、「OOSトリエステル」=ジチオリン酸と、オレフィン、シクロペンタジエン、ノルボルナジエン、α-ピネン、ポリブテン、アクリル酸エステル、マレイン酸エステルからの活性化二重結合との反応生成物(燃焼時に無灰)、有機硫黄化合物、例えばジアルキルスルフィド、ジアリールスルフィド、ポリスルフィド、変性チオール、チオフェン誘導体、キサンテート、チオグリコール、チオアルデヒド、硫黄含有カルボン酸、複素環式硫黄/窒素化合物、殊にジアルキルジメルカプトチアジアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、亜鉛ビス(ジアルキルジチオカルバメート)およびメチレンビス(ジアルキルジチオカルバメート)、有機リン化合物、例えばトリアリールおよびトリアルキルホスフィット、有機銅化合物および過塩基性カルシウムおよびマグネシウムをベースとするフェノキシドおよびサリチレートからなる群から選択されてよい。
【0127】
酸化防止剤は、前記ナノ粒子組成物の全量を基準として、0~15質量%、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%の量で使用される。
【0128】
前記流動点降下剤は、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、塩素化パラフィン-ナフタレン縮合物、塩素化パラフィン-フェノール縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレンを含む。好ましいのは、5000~200000g/molの質量平均分子量(Mw)を有するポリメタクリレートである。
【0129】
前記流動点降下剤の量は、前記ナノ粒子組成物の全量を基準として、好ましくは0.1~5質量%である。
【0130】
好ましい耐摩耗添加剤および極圧添加剤は、硫黄含有化合物、例えば亜鉛ジチオホスフェート、亜鉛ジ-C3~12-アルキルジチオホスフェート(ZnDTP)、亜鉛ホスフェート、亜鉛ジチオカルバメート、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオホスフェート、ジスルフィド、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステル、チオカーボネート、チオカルバメート、ポリスルフィド、リン含有化合物、例えばホスフィット、ホスフェート、例えばトリアルキルホスフェート、トリアリールホスフェート、例えばトリクレジルホスフェート、アミン中和モノアルキルおよびジアルキルホスフェート、エトキシル化モノアルキルおよびジアルキルホスフェート、ホスホネート、ホスフィン、それらの化合物のアミン塩または金属塩、硫黄およびリン含有耐摩耗剤、例えばチオホスフィット、チオホスフェート、チオホスホネート、それらの化合物のアミン塩または金属塩を含む。
【0131】
前記耐摩耗剤は、前記ナノ粒子組成物の全量を基準として、0~3質量%、好ましくは0.1~2質量%の量で存在していてよい。
好ましい摩擦調整剤は、機械的に活性な化合物、例えば二硫化モリブデン、グラファイト(フッ化グラファイトを含む)、ポリ(トリフルオロエチレン)、ポリアミド、ポリイミド、吸着層を形成する化合物、例えば長鎖カルボン酸、脂肪酸エステル、エーテル、アルコール、アミン、アミド、イミド、摩擦化学反応による層を形成する化合物、例えば飽和脂肪酸、リン酸エステル、ポリマー様層を形成する化合物、例えばエトキシル化ジカルボン酸部分エステル、官能化ポリ(メタ)アクリレート、不飽和脂肪酸、硫化オレフィンおよび有機金属化合物、例えばモリブデン化合物(モリブデンジチオホスフェートおよびモリブデンジチオカルバメートMoDTC)およびそれらとZnDTPとの組合せ、銅含有有機化合物を含んでいてよい。
【0132】
上記で列挙した化合物の一部は、複数の機能を満足しうる。例えば、ZnDTPは、主として耐摩耗性添加剤および極圧添加剤であるが、酸化防止剤および腐食抑制剤(ここでは:金属不動態化剤/不活性化剤)の特徴も有する。
【0133】
上記で詳述した添加剤は、とりわけ、T. Mang, W. Dresel (eds.):“Lubricants and Lubrication”, Wiley-VCH, Weinheim 2001、R. M. Mortier, S. T. Orszulik (eds.):“Chemistry and Technology of Lubricants”に詳細に記載されている。
【0134】
好ましくは、前記の1種以上の添加剤(D)の全濃度は、前記ナノ粒子組成物の全質量を基準として、20質量%まで、より好ましくは0.05%~15質量%である。
【0135】
好ましくは、(A)~(D)の量は、前記ナノ粒子組成物の全質量を基準として、合計して100質量%になる。
【0136】
実験の部
本発明は、以下に、例および比較例を参照して詳細にさらに説明されるが、本発明の範囲を限定することを何ら意図するものではない。
【0137】
省略形
C1AMA C1-アルキルメタクリレート(メチルメタクリレート、MMA)
C4AMA C4-アルキルメタクリレート(n-ブチルメタクリレート)
C12~14AMA C12~14-アルキルメタクリレート
DMAPMA N-3-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド
f分岐 分岐度[mol%]
CTA 連鎖移動剤
MMA メチル(メタ)アクリレート
MA-1 マクロアルコール(ヒドロキシル化された水素化ポリブタジエンMn=2000g/mol)
MM-1 メタクリレート官能基を有する水素化ポリブタジエンMA-1(Mn=2000g/mol)のマクロモノマー
Mn 数平均分子量
Mw 質量平均分子量
NB3020 Nexbase(登録商標)3020、7.7cStのKV40(ASTM D-445)および150℃超の引火点(ASTM D-93)を有するNesteからのグループIII基油
NB3043 Nexbase(登録商標)3043、20cStのKV40(ASTM D-445)および220℃超の引火点(ASTM D-92)を有するNesteからのグループIII基油
テトラブタン 4.2cStのKV40(ASTM D-445)および124℃の引火点(ASTM D-93)を有するテトラブタン(分岐状C16およびC20飽和炭化水素異性体)
PDI 多分散指数、Mw/Mnにより計算される分子量分布
IF-WS2 無機フラーレン二硫化タングステン
hBN 六方晶窒化ホウ素。
【0138】
ヒドロキシル化された水素化ポリブタジエン(マクロアルコール)MA-1の合成
前記マクロアルコールを、20~45℃でブチルリチウムを用いる1,3-ブタジエンのアニオン重合により合成した。所望の重合度に達した際に、この反応を、プロピレンオキシドを添加することにより停止させ、かつリチウムを、メタノールでの沈殿により除去した。引き続き、前記ポリマーを、水素雰囲気下で、貴金属触媒の存在下で、最大140℃および圧力200barで水素化した。前記水素化が終了した後に、前記貴金属触媒を除去し、有機溶剤を減圧下で除去して、100%マクロアルコールMA-1を得た。
【0139】
第2表は、MA-1の特性決定データを要約する。
【0140】
第2表 - 使用されるマクロアルコールの特性決定データ。
【表2】
【0141】
マクロモノマーMM-1の合成
サーベル撹拌機、空気導入管、制御器を備えた熱電対、加熱マントル、3mmワイヤスパイラルの不規則充填物を有するカラム、蒸気分配器、頂部温度計、還流冷却器および冷却板を備えた2L撹拌装置中で、上記のマクロアルコール1000gを、60℃での撹拌によりメチルメタクリレート(MMA)中に溶解させる。前記溶液に添加されるのは、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル20ppmおよびヒドロキノンモノメチルエーテル200ppmである。安定化のために空気を通しながら、加熱してMMA還流にした後に(底部温度 約110℃)、MMA 約20mLを共沸乾燥のために留去する。95℃に冷却した後に、LiOCH3を添加し、かつ前記混合物を加熱還流する。約1時間の反応時間後に、頂部温度は、メタノール形成のために、約64℃に低下した。形成されたメタノール/MMA共沸混合物を、約100℃の一定の頂部温度が再び確立されるまで、絶えず留去する。この温度で、前記混合物をさらに1時間反応させる。さらなる後処理のために、MMAの塊を減圧下で除去する。不溶性の触媒残留物を、圧力ろ過(Seitz T1000デプスフィルター)により除去する。
【0142】
第3表は、マクロモノマーMM-1の合成に使用されるMMAまたはLiOCH3量を要約する。
【0143】
第3表 - マクロアルコール、MMAおよび前記マクロモノマーのエステル交換のための触媒量。
【表3】
【0144】
本発明によるポリマー化合物(B)の製造
上記で記載されるように、前記ポリマーの質量平均分子量(Mw)を、ポリメチルメタクリレート(PMMA)標準を用いて校正されるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用する。
【0145】
ポリマー化合物(B)としてのポリマー1(P1):
Nexbase 3020 85g、Berylane 230SPP 85g、マクロモノマー140g、ブチルメタクリレート107g、スチレン28g、ラウリルメタクリレート13g、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド8g、およびn-ドデシルメルカプタン1gを、2リットルの4つ口丸底フラスコ中へ装入した。この反応混合物を、C形撹拌棒を用いて撹拌し、窒素で不活性にし、かつ115℃に加熱した。前記反応混合物が前記設定値温度に達すると、tert-ブチル-2-エチルペルオキシヘキサノエート0.9gを、3時間にわたってこの反応器中へ供給した。2,2-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)-ブタン0.5gを、30分間でかつ前の供給の3時間後に添加した。前記反応混合物を1時間撹拌し、ついで追加のNexbase 3020 132gを前記反応器に添加し、かつ1時間混合した。得られたポリマーは、260000g/molの質量平均分子量(Mw)を有する(PMMA標準)。
【0146】
前記例P1について、前記モノマー成分は合計して100%になる。開始剤および連鎖移動剤の量は、モノマーの全量に対して与えられる。以下の第4表は、前記ポリマーP1を製造するためのモノマー組成物および出発物質、ならびにその最終的な特性決定を示す。
【0147】
第4表 - ポリマーP1を製造するためのモノマー組成物および出発物質およびその最終的な特性決定
【表4】
【0148】
本発明によるナノ粒子組成物の製造
分散液IE1(ボールミルを用いる):
ボールミル装置(Netzsch Laboratory Mill Micro Series)に、NB3020油271.3gおよびP1 26.3gを予め装填し、同時にぜん動ポンプを90rpmに、かつ前記ボールミルを1000rpmに設定する。その後、六方晶窒化ホウ素粒子(hBN、SLS d50:2.7μm)52.5gをこの溶液中へ添加する。前記ぜん動ポンプを130rpmに調整し、かつ前記ボールミルを3900rpmの回転速度に設定する。この分散液を120分間処理する(エネルギー0.8kWhが導入される)。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、430nmのd99値を示す。
【0149】
分散液IE2(ボールミルを用いる):
ボールミル装置(Netzsch Laboratory Mill Micro Series)に、テトラブタン271.3gおよびP1 26.3gを予め装入し、同時にぜん動ポンプを90rpmに、かつ前記ボールミルを1000rpmに設定する。その後、六方晶窒化ホウ素粒子(hBN、SLS d50:2.7μm)52.5gをこの溶液中へ添加する。前記ぜん動ポンプを130rpmに調整し、かつ前記ボールミルを、3900rpmの回転速度に設定する。この分散液を120分間処理する(エネルギー0.7kWhが導入される)。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、385nmのd99値を示す。
【0150】
分散液IE3:
カーボンブラック粒子(SLS d50:17.6μm)10gを、P1 7gを含むNB3020 83gの溶液中へ添加し、同時にこの混合物を、超音波(超音波プロセッサUP400S、400W、24kH、Tiソノトロードを用いる)で60分間、それぞれミリングする。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、96nmのd99値を示す。
【0151】
分散液IE4(ボールミルを用いる):
ボールミル装置(Netzsch Laboratory Mill Micro Series)に、NB3020 259gおよびP1 21gを予め装入し、同時にぜん動ポンプを90rpmに、かつボールミルを1000rpmに設定する。その後、無機フラーレン二硫化タングステン粒子(IF-WS2、SLS d50:51.1μm)70gをこの溶液中へ添加する。前記ぜん動ポンプを130rpmに調整し、かつ前記ボールミルを3900rpmの回転速度に設定する。この分散液を120分間処理する(エネルギー0.7kWhが導入される)。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、123nmのd99値を示す。
【0152】
分散液IE5:
カーボンブラック粒子(SLS d50:17.6μm)20gを、P1 14gを含むNB3043 166gの溶液中へ添加し、同時にこの混合物を、超音波(超音波プロセッサUP400S、400W、24kHz、Tiソノトロードを用いる)で60分間、それぞれミリングする。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、101nmのd99値を示す。
【0153】
比較例の製造
分散液CE1:
六方晶窒化ホウ素粒子(hBN、SLS d50:2.7μm)2gをNB3043 18gの溶液中へ添加し、同時にこの混合物を、超音波(超音波プロセッサUP400S、400W、24kHz、Tiソノトロードを用いる)で120分間、それぞれ処理する。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、1144nmのd99値を示す。
【0154】
分散液CE2:
六方晶窒化ホウ素粒子(hBN、SLS d50:2.7μm)2gをNB3020 18gの溶液中へ添加し、同時にこの混合物を、超音波(超音波プロセッサUP400S、400W、24kHz、Tiソノトロードを用いる)で120分間、それぞれ処理する。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、3165nmのd99値を示す。
【0155】
分散液CE3:
六方晶窒化ホウ素粒子(hBN、SLS d50:2.7μm)2gをテトラブタン18gの溶液中へ添加し、同時にこの混合物を、超音波(超音波プロセッサUP400S、400W、24kHz、Tiソノトロードを用いる)で120分間、それぞれ処理する。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、1322nmのd99値を示す。
【0156】
分散液CE4:
六方晶窒化ホウ素粒子(hBN、SLS d50:2.7μm)2gを、オレイルアルコール2gと混合する。NB3043 16gの添加後に、この混合物を、超音波(超音波プロセッサUP400S、400W、24kHz、Tiソノトロードを用いる)で120分間、それぞれ処理する。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、1470nmのd99値を示す。
【0157】
分散液CE5:
六方晶窒化ホウ素粒子(hBN、SLS d50:2.7μm)2gをTriton X-100 2gと混合する。NB3043 16gの添加後に、この混合物を、超音波(超音波プロセッサUP400S、400W、24kHz、Tiソノトロードを用いる)で120分間、それぞれ処理する。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、1475nmのd99値を示す。
【0158】
分散液CE6:
六方晶窒化ホウ素粒子(hBN、SLS d50:2.7μm)2gをTriton X-100 2gと混合する。NB3020 16gの添加後に、この混合物を、超音波(超音波プロセッサUP400S、400W、24kHz、Tiソノトロードを用いる)で120分間、それぞれ処理する。その粒度分布(動的光散乱装置、Horiba Ltd.(日本)製LA-950を用いてTegosoft DEC油中で測定される)は、4357nmのd99値を示す。
【0159】
動的光散乱(DLS)
前記粒度分布を、Horiba Ltd.製の動的光散乱装置LB-500を用いてTegosoft油中で測定した。
【0160】
動的光散乱(DLS)は、懸濁液中の小さい粒子または溶液中のポリマーの粒度分布プロファイルを決定するのに使用することができる、物理学における技術である。この装置は、3nm~約6μmの範囲内の分散された材料(例えばナノ粒子またはポリマー球)の粒度を測定するのに使用することができる。前記測定は、その媒体内の前記粒子のブラウン運動および液体材料と固体材料との屈折率における差による入射レーザー光の散乱に基づいている。
【0161】
生じる値は、前記粒子の対応する球の流体力学直径である。値d50、d90およびd99は、前記粒子の粒度分布内にある前記粒子の50%、90%または99%が下回る流体力学直径を記載するので、議論のための共通の基準である。これらの値が低ければ低いほど、前記粒子分散はより良好になる。これらの値を監視することは、前記粒子分散液安定性についての手がかりを与えうる。前記値がおびただしく増大する場合には、前記粒子は十分に安定化されず、かつ経時的にアグロメレーションおよび沈降する傾向を有して、安定性の欠如の結果となりうる。前記媒体の粘度に応じて、500nm未満のd99値(例えばNexbase基油について)は、前記粒子が経時的に静止して留まるので、安定な分散液のための指標であると言える。
【0162】
動的粘度
前記動的粘度を、前記回転粘度法およびシングルギャップシリンダーCC 27を用いるAnton PaarからのPhysica MCR 300を用いて測定した。
【0163】
前記粘度計のモーターは、固定されたカップ内のボブを駆動する。前記ボブの回転速度をプリセットし、かつ前記測定ボブを回転するのに必要とされる特定のモータートルクを発生させる。このトルクは、試験される物質の粘性力に打ち勝たなければならず、したがってその粘度の尺度である。
データは、100s-1のせん断速度および23℃で測定される。
【0164】
目視外観/安定性
安定性試験を、各試料について、少量の濃縮物を前記ナノ粒子の1質量%および0.1質量%溶液、すなわち粒子の質量%に希釈することにより実施した。この希釈物を、前記濃縮物を50mLガラスビーカー中で室温で1時間ブレンドすることにより製造した。各希釈物を、5mLガラスバイアル中に入れ、室温で放置した。前記バイアルを、ブレンド後、その後1週および4週後に、沈降の徴候についてチェックした。前記沈降を5つのカテゴリーに分類した:沈降なし(粒子が前記バイアルの底部で沈降しない)、少しの沈降(一部の粒子が前記バイアルの底部に沈降し始める)、中程度の沈降(前記バイアルの底部に薄層)、ほぼ完全な沈降(ほぼ全ての粒子が沈降しており、かつ上澄み液が澄明になっている)。
【0165】
経時的な沈降は、あらゆる種類の粒子を含有する分散液についての明らかな安定性の判断である。経時的に、前記粒子は、前記バイアルの底に沈降する。これは、一般に、それらのサイズ、質量および前記ベースフルードの粘度に依存している。安定な分散液は、前記粒子が、前記媒体中に均質に分散され、かつ公知の機構により安定化されるという事実により特徴付けられる。
【0166】
したがって、前記分散液中のナノ粒子の安定性は、ナノ流体の伝熱特性の明らかな前提条件である。以下に提供される本発明による例は、技術水準の伝熱ナノ流体に比較して、長期間にわたって異なる安定性試験および良好な熱伝導率と共に、より高い安定性を示す。したがって、以下の安定性試験は、達成するのが通常より容易である室温でだけでなく、約100℃の最高温度を有する電動機を冷却する用途をシミュレートするより高温およびより長期間(例えば100℃で16h)でも実施した。
【0167】
比較例1~3は、ベースフルード中のあらゆる種類の界面活性剤または添加剤で化学的に変性されていないナノ粒子の単純な混合物である。比較例4~6は、米国特許第8850803号明細書(US8850803 B2)からの特許の例である。
【0168】
【0169】
【0170】
100℃での安定性試験(粘度の変化)
対応する分散液を取り、かつ前記分散液中のナノ粒子1質量%および5質量%濃度(第7表参照)に希釈した。これらの試料の動的粘度および熱伝導率を測定した。アリコートを、ガラスバイアル中へ充填し、かつ乾燥器中で100℃で16h(一晩)貯蔵した。前記分散液を室温に冷却した後に、その動的粘度および熱伝導率を再び測定した。
【0171】
前記の100℃での貯蔵中に、粒子と流動媒体との間の動的プロセスは、より高い運動エネルギーにより高められ、このことは、前記分散液中のナノ粒子の再アグロメレーションおよびまたは沈殿をまねきうる。したがって、10%を超える粘度の増加は、前記分散液の安定性が満たされないことを意味する。
【0172】
以下に第7表に示されるように、本発明の発明者は、伝熱流体のための与えられた要件下で良好な熱伝導率だけでなく、良好な安定性も有する伝熱流体としての使用のためのナノ粒子分散液を製造することができた。
【0173】
対照的に、前記比較例は、室温でさえ、1日間の貯蔵後にそれらの不安定性のために測定することができなかった。したがって、約100℃の最高温度を有する電動機を冷却する用途をシミュレートする高めた温度での安定性試験(例えば100℃で16h)はまさに不可能であった。
【0174】
第7表 - 100℃での前記分散液の貯蔵の前および後の室温(23℃)で測定された本発明による例の粘度
【表7】
【0175】
LAMBDA装置、Flucon GmbHによる熱伝導率の決定
前記熱伝導率の決定は、熱線法により実施される。前記LAMBDAの熱線は、その熱源としておよびトランスデューサーとして同時に利用される。温度を上昇させるために、前記熱線を一定の測定電流にかけ、その周囲媒体は温まるので、前記熱線の抵抗は、前記周囲媒体の熱粘度に従って変化する。したがって、前記熱線における電圧の変化は、前記周囲媒体中で行われている温度の変化を示す。その測定範囲は10~2000mW/m・Kである。
【0176】
データを、前記測定装置のPT 100白金温度計によって金属ブロックサーモスタット中で40℃および100℃で温度調節した後に測定する。これらの温度は、重要な用途に有意義であるので、選択される。
【0177】
以下の第8表に示されるように、伝熱流体としての本発明によるナノ粒子組成物の使用は、前記分散液中の前記ナノ粒子の安定性が第6表に示されるように経時的に保持されるだけではなく、本発明のナノ粒子組成物が、伝熱流体として使用される場合に技術水準の伝熱基油の参考に比較して改善される熱伝導率も提供するので、有利である。さらに、第7表に示されるように、ナノ粒子の添加は、粘度変化に大きな影響を及ぼさず、このことは予測されず、かつ有利である。
【0178】
【0179】
上記の実験の部に示されるように、前記比較分散液が、前記安定性基準試験すら満たさないので、伝熱ナノ流体として使用することができないと結論することができる。
【0180】
対照的に、層構造をベースとするナノ粒子、例えば六方晶窒化ホウ素、カーボンブラック、無機フラーレン二硫化タングステンを含む本発明のナノ粒子組成物が、伝熱流体として用途に近い条件(100℃で16h)で長期間にわたって、分散液安定性(粘度)および熱伝導率性能を失うことなく安定であることが実証されている。
【0181】
ミニトラクション機械による摩擦の減少の決定
摩擦係数を、PCS InstrumentsからのMTM2と名付けられたミニトラクション機械を用いて以下の第9表に記載された試験方法に従って測定した。SRRはすべり比をいう。このパラメーターは2時間の試験中に一定に維持し、かつ(Uボール-Uディスク)/Uとして定義され、ここで、(Uボール-Uディスク)は、すべり速度を表し、かつUは、U=(Uボール+Uディスク)/2により与えられる引き込み速度を表す。各試料についてのストライベック曲線を、第9表におけるプロトコルに従って測定した。
【0182】
第9表:ストライベック曲線を測定するためのプロトコル
【表9】
【0183】
MTM方法1に従って、前記摩擦係数を、各ブレンドの速度の全範囲にわたって記録し、ストライベック曲線が得られる。前記摩擦試験を、第10表に列挙された配合物についてこれらの条件に従って実施し、かつそれらの結果は、以下の第11表に開示される。列挙された質量パーセンテージは、前記の異なる配合物の全質量を基準としている。
【0184】
【0185】
%で前記摩擦減少を表現するために、定量化できる結果は、数として表現することができ、かつすべり速度5mm/s~60mm/sの範囲内の得られた対応するストライベック曲線を用いて台形公式を用いて摩擦値曲線の積分により得られる。前記面積は、選択された速度状態にわたる「全摩擦」に相当する。前記面積が小さければ小さいほど、試験された物の摩擦減少効果は大きくなる。摩擦減少のパーセンテージを、6.32mm/sの摩擦の面積を生じる参考基油Nexbase(登録商標)3043の値を用いることにより計算した。正の値は、摩擦係数の減少を示す。前記参考油に対する値は、第11表にまとめられている。
【0186】
第11表:基油と比較した本発明による配合物の境界状態における摩擦減少
【表11】
【0187】
この実験結果は、基油の参考に比較して大きな摩擦減少性能を示す。実際、すべり速度5mm/s~60mm/sの範囲内で計算した全摩擦の結果は、本発明による例IE5が、摩擦の減少に関して前記参考Nexbase(登録商標)3043油よりもはるかに良好な効果を有することを明らかに示す。Nexbase(登録商標)3043は、参考基油である。本発明のナノ粒子組成物の使用が、熱容量を高めるだけではなく、金属可動部を有する電気システムにおける摩擦減少も提供することが示されている。