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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】鋼の鍛造部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240701BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240701BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/60
C21D8/06 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022528614
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 IB2019059868
(87)【国際公開番号】W WO2021099815
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボルドロー,ビクトル
(72)【発明者】
【氏名】ペルセム,カロリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ルイルリー,マチュー
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-240130(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03168319(EP,A1)
【文献】国際公開第2017/213166(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/203348(WO,A1)
【文献】特開2017-057475(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101338398(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00ー38/60
C21D 8/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械部品を熱間鍛造するための鋼であって、重量パーセントで表される以下の元素、
0.2%≦C≦0.5%、
0.8%≦Mn≦1.5%、
0.4%≦Si≦1%、
0.15%≦V≦0.6%、
0.01%≦Nb≦0.15%、
0.01%≦Cr≦0.5%、
0.01%≦P≦0.05%、
0.04%≦S≦0.09%、
0.01%≦N≦0.025%、
を含み、及び以下の任意元素、
0%≦Al≦0.05%、
0%≦Mo≦0.5%、
0.01%≦Ni≦0.5%、
0%≦Ti≦0.2%、
0%≦B≦0.008%、
0%≦Cu≦0.5%、
の1種以上を含むことができ、組成の残余は、鉄及び加工により生じた不可避の不純物から構成され、熱間鍛造後の機械部品の鋼の微細組織は、50%~90%のパーライト、10%~40%のフェライトを含み、任意で0%~2%の間の針状フェライトの存在を含み、ニオブ当量が80%以上であり、ここで、ニオブ当量が80%以上であるとは、炭化物、窒化物及び/又は炭窒化物として存在するニオブの量が、鋼に存在する公称ニオブ含有率の少なくとも80%に相当することを意味し、
最終的に得られる熱間鍛造後の機械部品の鋼が、750MPa以上の降伏強度、1030MPa以上の極限引張強度、室温で測定して5J以下の衝撃靭性、及び12.0%以上の全伸びを有する、鋼。
【請求項2】
組成が0.5%~0.9%のケイ素を含む、請求項1に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項3】
組成が0.3%~0.5%の炭素を含む、請求項1又は2に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項4】
組成が0.9%~1.3%のマンガンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項5】
組成が0.05%~0.3%のクロムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項6】
組成が0.2%~0.5%のバナジウムを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項7】
組成が0.02%~0.12%のニオブを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項8】
ニオブ当量が90~100%の間である、請求項1~7のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項9】
バナジウム当量が60~100%の間であり、ここで、バナジウム当量が60~100%の間であるとは、炭化物、窒化物及び/又は炭窒化物として存在するバナジウムの量が、鋼に存在する公称バナジウム含有率の60%~100%に相当することを意味する、請求項1~8のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項10】
パーライトが60%~90%の間である、請求項1~9のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項11】
フェライトが10%~40%の間である、請求項1~10のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項12】
前記最終的に得られる熱間鍛造後の機械部品の鋼が、1040MPaを超える極限引張強度、及び770MPaを超える降伏強度を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項13】
前記最終的に得られる熱間鍛造後の機械部品の鋼が、室温で測定して4.5J未満の衝撃靭性を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の機械部品を熱間鍛造するための鋼。
【請求項14】
次の連続した工程
- 半製品の形態の請求項1~9のいずれか一項に記載の鋼組成物を提供する工程、
- 該半製品を1150~1300℃の間の温度まで再加熱する工程、
- オーステナイト範囲で該半製品を熱間鍛造する、ここで、熱間鍛造部品を得るために仕上げ熱間鍛造仕上げ温度が950℃を超える工程、
- 熱間鍛造部品を3段階の冷却で冷却する工程であって、
・ 工程1において、該熱間鍛造部品を3℃/秒以下の平均冷却速度CR1で熱間鍛造仕上げ温度から775~875℃の間の温度T1まで冷却し、
・ 工程2において、該熱間鍛造部品を0.5℃/秒~2.1℃/秒の間の平均冷却速度CR2でT1から430~530℃の間の温度T2まで冷却し、
・ 工程3において、該熱間鍛造部品を5℃/秒以下の平均冷却速度CR3でT2から室温まで冷却して鍛造機械部品を得る工程
を含む、鋼の鍛造機械部品の製造方法であって、
熱間鍛造後の機械部品の鋼の微細組織は、50%~90%のパーライト、10%~40%のフェライトを含み、任意で0%~2%の間の針状フェライトの存在を含み、ニオブ当量が80%以上であり、ここで、ニオブ当量が80%以上であるとは、炭化物、窒化物及び/又は炭窒化物として存在するニオブの量が、鋼に存在する公称ニオブ含有率の少なくとも80%に相当することを意味し、
最終的に得られる熱間鍛造後の機械部品の鋼が、750MPa以上の降伏強度、1030MPa以上の極限引張強度、室温で測定して5J以下の衝撃靭性、及び12.0%以上の全伸びを有する、方法
【請求項15】
冷却の工程1において、熱間鍛造部品を2.5℃/秒未満の平均冷却速度で仕上げ熱間鍛造温度から775~825℃の間の温度T1まで冷却する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
冷却の工程2において、熱間鍛造部品を0.6℃/秒~2.0℃/秒の間の平均冷却速度でT1から475~525℃の間の温度T2まで冷却する、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
工程3において、熱間鍛造部品を4℃/秒以下の冷却速度でT2から室温まで冷却する、請求項1416のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
車両の構造部品若しくは安全部品又はエンジンの製造のための請求項1~13のいずれか一項に記載の鋼又は請求項1417の方法に従って製造された鍛造機械部品の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用鋼の機械部品を鍛造するのに適切なフェライト-パーライト鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用、特に内燃機関用の機械部品は一般に鍛造により製造される。鍛造用材料は、本質的に、高いレベルの降伏強度を有する適切な衝撃靭性という二重の要求を満たし、同時にそのエンジンに対する自動車産業の要求に応えることができないという問題に直面している。さらに、これらの材料は、クランクシャフト、カムシャフト、連結ロッド等の内燃機関用の機械部品の製造に使用できるように、これらの材料のさらなる必須要件は、これらが機械加工性、特に破断分離において良好でなければならないことである。
【0003】
そこで、適切な衝撃靭性と共に750MPaを超える高い降伏強度を有しながら、機械加工性の良い材料の開発に集中的な研究及び開発努力が払われている。
【0004】
内燃機関用機械部品の鍛造用鋼の分野における以前の研究及び開発は、高強度及び良好な機械加工性を与える幾つかの方法をもたらし、それらの幾つかは本発明を徹底的に理解するために本明細書に列挙される。
【0005】
US20100186855号は、この発明が、少なくとも2つの破断分離可能な部品で構成される高強度の破断分離可能な機械部品のための鋼及び加工方法に関する特許である。これらの鋼及び方法は、鋼の化学組成(重量%で表される)が以下、すなわち、0.40%≦C≦0.60%、0.20%≦Si≦1.00%、0.50%≦Mn≦1.50%、0%≦Cr≦1.00%、0%≦Ni≦0.50%、0%≦Mo≦0.20%、0%≦Nb≦0.050%、0%≦V≦0.30%、0%≦Al≦0.05%、0.005%≦N≦0.020%の通りであり、残余は鉄及び精錬に関係する不純物おおび残留物質であることを特徴とする。US20100186855号の鋼は750MPaの降伏強度に達することができるが、衝撃靭性を与えることができなかった。
【0006】
EP2246451号は、破断分離性、機械加工性に優れ、破断分離で使用するために分離された鋼部品に使用可能な熱間鍛造マイクロ合金鋼及び熱間圧延鋼に関する特許であり、熱間鍛造マイクロ合金鋼からなる部品に関する特許である。しかし、EP2246451号の鋼は適切な衝撃靭性を提供することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2010/0186855号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2246451号明細書
【発明の概要】
【0008】
したがって、上記の公表文献に照らして、本発明の目的は、少なくとも750MPaの降伏強度、少なくとも1030MPaの引張強さ、及びV-ノッチ試験片を用いて室温で5J以下の衝撃靭性を得ることを可能にする、連結棒のような機械部品の熱間鍛造のための鋼を提供することである。
【0009】
そこで、本発明の目的は、同時に以下を有する熱間鍛造に適したフェライト-パーライト鋼を利用可能にすることにより、これらの問題を解決することにある。
- 750MPa以上、好ましくは770MPaを超える降伏強度、
- 1030MPa以上、好ましくは1040MPaを超える極限引張強度、
- 室温で5J以下、好ましくは4.5J未満の衝撃靭性、
- 12.0%以上の全伸び。
【0010】
好ましくは、このような鋼は、クランクシャフト、連結棒、カム及びカムシャフトのような直径50mmまでの断面を有し、鍛造部品表層と中心との間に目立った硬さ勾配がない鍛造鋼部品を製造するのに適している。
【0011】
本発明の別の目的は、製造パラメータの変化に対し安定である一方で、従来の工業用途と適合するこれらの機械部品の製造方法を利用可能にすることでもある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
炭素は本発明の鋼に0.2%~0.5%存在する。炭素はパーライトを形成することにより鋼に強度を付与し、また、適切な靭性を達成するためにフェライトの形成を制限する。炭素はまた、炭化物又は炭窒化物の形態で、バナジウム及びニオブと共に析出物を形成する。最低50%のパーライトを形成することにより1030MPaの引張強さに達するためには最低0.2%の炭素が必要であるが、もし炭素が0.5%を超えて存在するならば、熱間鍛造後の引張強さは1200MPaを超えて上昇し、得られた鍛造部品の機械加工性に悪影響となる針状フェライト、ベイナイト及びマルテンサイトのような硬い二次相形成の著しいリスクを伴う。炭素含有率は有利には0.3~0.5%、特に0.35~0.45%の範囲である。
【0013】
この鋼に0.8~1.5%の間のマンガンを加える。マンガンは鋼に焼入れ性を与える。マンガンは、フェライト及びパーライト変態温度を下げるために鋼に添加され、より微細な微細組織、特にパーライト中のより低いセメンタイト層間間隔及びより低いパーライトコロニーサイズに導く。マンガン含有率は好ましくは0.9%~1.3%の間、より好ましくは0.95~1.15%の間である。
【0014】
本発明の鋼には0.4%~1%の間のケイ素が存在する。ケイ素は、固溶体強化により強度を本発明の鋼に付与する。ケイ素は脱酸化剤としても作用する。本発明の鋼中の0.5%~0.9%の間が好ましい含有率であり、特に0.6%~0.75%の間が好ましい含有率である。
【0015】
バナジウムは本発明の主要な元素であり、含有率は0.15%~0.6%の間である。バナジウムは、特に炭化物又は炭窒化物を形成することによる析出強化により鋼の強度を高めるのに有効である。降伏強度750MPaを保証するためには、下限値が0.15%であることが必須である。上限は0.6%に保たれる。何故ならば0.6%を超えると、バナジウムの効果が特に引張強さ及び降伏強度の増加に有益ではないからである。また、過剰のバナジウム析出は伸びを減少させる。バナジウムの好ましい限界は0.2~0.5%の間であり、より好ましくは0.25~0.45%の間である。
【0016】
本発明の鋼には0.01%~0.15%の間でニオブが存在する。本発明において、ニオブは、オーステナイト粒度成長動力学を制限するオーステナイト領域において900℃を超える温度で析出物の形成を開始し、また、900℃未満の温度でバナジウムと同様に窒化物及び炭窒化物を形成し、これは本発明の鋼の鋼降伏強度を高める。フェライト変態のための核(鍛造したままの微細組織中に過剰のフェライトの発生をもたらし、ひいては引張強さ及び降伏強度を、限度を超えて低下させる)として作用し得るニオブ析出物の粗大化を防止するためには、0.15重量%より高い含有率までは添加できない。さらに、0.15%以上のニオブの含有率は、鋼の熱間延性に対しても悪影響であり、鋼の鋳造及び圧延中に困難な点をもたらす。ニオブの好ましい限界は0.02%~0.12%の間であり、より好ましくは0.02%~0.1%の間である
【0017】
クロムは、本発明の鋼に0.01%~0.5%存在する。クロムの添加は、クロムがオーステナイト中の炭素の拡散係数を低下させるので、パーライト層間間隔を微細化できる。しかし、0.5%を超えるクロムの含有率の存在は、硬い相の生成及び偏析のリスクがある。さらに0.5%を超えるクロムは、許容限度を超えて焼入れ性を高める可能性がある。クロムの好ましい限界は0.05%~0.3%の間であり、より好ましくは0.05%~0.2%の間である。
【0018】
本発明の鋼のリン含有率は0.01%~0.05%の間である。良好な破断分離挙動を保証するためには、最低0.01重量%のリンが必要である。それにもかかわらず、0.05重量%を超えるリン含有率を使用することは、疲労限界に対して悪影響であり、粒間界面剥離により破裂を引き起こす可能性があるため、推奨されない。リン含有率の好ましい限界は0.01%~0.025%の間である。
【0019】
硫黄は0.04~0.09%の間で含まれる。硫黄は機械加工性を向上させるMnS析出物を形成し、十分な機械加工性を得るのに役立つ。圧延及び鍛造のような金属成形方法中に、変形可能な硫化マンガン(MnS)介在物が伸びる。このような伸びたMnS介在物は、もし介在物が荷重方向と整列していなければ、伸び及び衝撃靭性のような機械的特性にかなりの悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、硫黄含有率は0.09%に制限される。機械加工性と疲労限界の間の最良のバランスを得るために、硫黄の含有率の好ましい範囲は、0.060%~0.085%である。
【0020】
窒素は、本発明の鋼において0.01%~0.025%の間の量である。窒化物又は炭窒化物の形態のバナジウム及びニオブの析出を高めるために窒素を添加する。鍛造後の冷却中、窒素はバナジウム及びニオブを捕捉し、窒化物及び炭窒化物を形成する。窒化物及び炭窒化物を生成するためには0.01%の最小窒素量が必要であり、鋼の析出強化が著しく増強され、その結果、降伏強度が増強される。しかし、0.025%を超える窒素の量は、鋼の凝固の間、材料内部に気孔を形成するリスクがある。窒素はまた、オーステナイト結晶粒成長動力学を制限するアルミニウムと共に窒化物を形成し得る。オーステナイト結晶粒径が小さいと、パーライト含有率のため室温で衝撃靭性を5KV(J)未満に保ちながら、低いフェライト及びパーライト有効結晶粒径及びより高い降伏強度をもたらす。
【0021】
アルミニウムは、本発明の鋼にとって残留元素であり、鋼を脱酸するために添加され、また、オーステナイト結晶粒成長を妨げる窒化物として鋼中に分散した析出物を形成する。しかし、脱酸化効果は0.05%を超えるアルミニウム含有率で飽和する。含有率が0.05%を超えると、粗いアルミニウムに富む酸化物が発生し、疲労限界及び機械加工性を悪化させる可能性がある。本発明については、Al含有率を0.05%、好ましくは0.03%に制限するのが適切である。
【0022】
モリブデンは任意元素であり、本発明において0%~0.5%の間で存在し得る。モリブデンは、焼入れ性を付与するために添加される。モリブデン含有率の好ましい限界は0%~0.2%の間であり、0%~0.1%の間がより好ましい。
【0023】
ニッケルは、本発明のための任意元素であり、0.01%~0.5%の間で含まれる。ニッケルはクロムと同様にオーステナイト中の炭素の拡散係数を低下させるので、パーライト層間間隔を微細化するために鋼組成中にニッケルを添加する。経済的実現可能性のためには、ニッケルの存在を0.2%に制限することが好ましいので、好ましい限界は0.01%~0.2%の間である。
【0024】
チタンは任意元素であり、0%~0.2%の間で存在する。最少量が、窒素が、本発明の鋼に強度を付与するために、ニオブ及びバナジウムとの析出に利用可能である固溶体であることを保つという理由で、チタンは可能な限り少ない量で添加しなければならない。チタンは、強度を鋼に付与するチタン窒化物を形成するが、これらの窒化物は凝固過程中に形成する可能性があり、このため機械加工性及び疲労限度に悪影響を及ぼす。したがって、チタンの好ましい限度は0%~0.1%の間であり、より好ましくは0%~0.05%の間である。
【0025】
ホウ素は、0~0.008%の間で存在できる任意元素である。ホウ素は、標的とする機械部品用の鋼において果たす役割を持たない。ホウ素は焼入性に明らかな影響を及ぼし、鍛造処理の終わりに完全なフェライト又はパーライト微細組織を導く可能性がある。
【0026】
銅は残留元素であり、鋼の加工により0.5%まで存在することがある。0.5%までの銅は鋼の特性に影響を与えないが、0.5%を超えると熱間加工性が著しく低下する。
【0027】
スズ、セリウム、マグネシウム又はジルコニウム等の他の元素は、個々に又は組み合わせて、以下の重量比で添加することができる。スズ≦0.1%、セリウム≦0.1%、マグネシウム≦0.010%及びジルコニウム≦0.010%。示された最大含有率レベルまで、これらの元素は凝固中に結晶粒を微細化することを可能にする。鋼の組成の残余は、鉄及び加工に起因する不可避の不純物からなる。
【0028】
鋼の微細組織は、以下を含む。
【0029】
フェライトは、本発明の鋼の微細組織の必須の構成要素である。フェライトは、本発明の鋼中に面積分率で10%~40%の間で存在する。本発明のフェライトは、本発明の鋼に強度を付与する炭化物、窒化物及び/又は炭窒化物の形態のニオブ及びバナジウムの結晶粒間及び結晶粒内の両方の析出物を含む。フェライトはまた、本発明の鋼に伸びを付与する。1030MPaの強度を達成しつつ少なくとも12.0%の伸びを確保するためには最低10%のフェライトが必要であるが、フェライトが40%を超えると、目標強度が達成されなくなり、衝撃靭性が限度を超えて増加し、破断分離が悪化する。フェライトは熱間鍛造後の冷却工程中に形成される。フェライトの好ましい限界は15%~40%の間である。本発明による好ましい実施形態では、炭素含有率が0.2~0.4%の間の場合、25~40%の間のフェライト含有率が好ましく、25~35%の間のフェライト含有率がより好ましい。別の好ましい実施形態では、炭素含有率が0.4%~0.5%の間の場合、15%~35%の間のフェライト含有率が好ましい。
【0030】
パーライトは、鋼中に面積分率で50%~90%の間で存在する。パーライトはフェライトに比べて硬い相であり、本発明の鋼に強度を付与する。本発明の鋼のパーライトは、フェライトとセメンタイトの交互層から構成される2相の層状構造を有し、ここでパーライトのフェライトは、炭化物、窒化物及び/又は炭窒化物の形態のニオブ及びバナジウムの結晶粒間及び結晶粒内析出物によって強化される。パーライトは鍛造後の冷却中に生成する。しかし、パーライトが90%を超えて存在すると、鋼の機械加工性に悪影響が観察される。60%~90%の間のパーライトが好ましく、60%~85%の間のパーライトがより好ましい。本発明による好ましい実施形態では、炭素含有率が0.2~0.4%の間の場合、50%~75%の間のパーライト含有率が好ましく、60%~75%の間のパーライト含有率がより好ましい。別の好ましい実施形態では、炭素含有率が0.4%~0.5%の間の場合、75%~90%の間のパーライト含有率が好ましく、75%~85%の間のパーライト含有率がより好ましい。
【0031】
本発明の鋼は、0%~2%の間で針状フェライトを任意に含むことができる。針状フェライトは、本発明の一部であることを意図したものではなく、鋼の加工による残留微細組織として生じる。針状フェライトの含有率はできるだけ低く抑え、2%を超えないようにしなければならない。
【0032】
目標とする機械的特性、特に降伏強度及び引張強さを得るためには、ニオブ当量は80%以上でなければならない。これは、炭化物、窒化物及び/又は炭窒化物として存在するニオブの量が、鋼に存在する公称ニオブ含有率の少なくとも90%に相当することを意味する。90%超のニオブ当量が好ましく、95%超のニオブ当量がより好ましい。
【0033】
さらに、好ましい実施形態における本発明の鋼は、炭化物、窒化物及び/又は炭窒化物として存在するバナジウムの量が、鋼に存在する公称バナジウム含有率の少なくとも60%に相当することを意味する少なくとも60%のバナジウム当量を有することができる。このようなバナジウム当量レベルに達すると、機械的特性、具体的には引張強さ及び降伏強度が向上する。
【0034】
上記の微細組織に加えて、機械的鍛造部品の微細組織はベイナイト、マルテンサイト及び焼戻しマルテンサイトのような微細組織成分を含まない。
【0035】
本発明による機械部品は、以下に説明される規定された方法のパラメータに従って、任意の適切な熱間鍛造方法、例えば、ドロップ鍛造、プレス鍛造、振込み鍛造及びロール鍛造によって製造することができる。
【0036】
本明細書中で好ましい例示的方法が実証されるが、この例は開示の範囲及び例の基礎となる態様を限定しない。さらに、本明細書に示されたいずれの例も、限定的であることを意図しておらず、本開示の様々な態様が実施される可能性のある多くの考えられる方法のいくつかを単に示しているに過ぎない。
【0037】
好ましい方法は、本発明に従った化学組成を有する鋼の半製品の鋳造を提供することからなる。鋳造は、直径50mmまでの断面を有する部品に鍛造することができる、インゴット、ブルーム、又はビレットのような任意の形態で行うことができる。
【0038】
例えば、上記の化学組成を有する鋼は、ブルームに鋳造され、次いで棒の形態で圧延される。この棒は鍛造用の半製品として機能することができる。所望の半製品を得るために複数の圧延工程を実施してもよい。
【0039】
鍛造作業に備えるために、半製品は、圧延後に直接高温で使用することができるか、あるいはまず室温まで冷却し、次いで熱間鍛造のために再加熱することができる。
【0040】
半製品は、温度1150℃~1300℃の間で再加熱される。その後、半製品は950℃超、好ましくは1280℃未満、好ましくは1000℃~1280℃の間で熱間鍛造され、鍛造のためのより好ましい温度は1050℃~1280℃の間である。
【0041】
半製品の再加熱温度が1150℃より低い場合、その後の鍛造作業中に鍛造金型に過大な荷重がかかり、さらに鋼の温度がフェライト変態開始温度未満に低下することがある。ひずみ下での金属変態は、与えられた冷却速度又は与えられた化学組成に対して得られた微細組織の著しい変化を導くことがある。その結果、得られた微細組織は目標としたものとは全く異なり、そのため機械的性質も異なる。したがって、半製品の温度は、オーステナイト温度範囲で熱間鍛造が完了できるように十分高いことが好ましい。1300℃を超える温度での再加熱は、工業的に費用がかかり、また鋼の鍛造性に影響を及ぼす液体領域の発生につながる可能性があるため、避けなければならない。
【0042】
再結晶及び鍛造に有利な組織を得るためには、最終仕上げ鍛造温度(FFT)を950℃超に保たなければならない。950℃より高い温度で最終鍛造を行う必要がある。何故ならばこれより低い温度では、鋼板は、鍛造が鋼の非再結晶温度未満で行われるため、有意な低下を示すからである。非再結晶温度未満の鋼の延性は著しく劣化する。これは、表面形態の劣化だけでなく、鍛造部品の最終寸法に関する問題につながる可能性がある。それは、ひび割れを引き起こしたり、鍛造部品の完全な失敗を引き起こしたりすることさえある。
【0043】
熱間鍛造後、熱間鍛造鋼部品が得られ、次いで熱間鍛造鋼部品は3段階冷却処理で冷却される。
【0044】
冷却の工程1では、熱間鍛造部品を、3℃/秒以下、好ましくは2.5℃/秒以下、より好ましくは2.0℃/秒以下の平均冷却速度で、仕上げ鍛造温度から775~875℃の間の温度範囲(本明細書ではT1とも呼ばれる)まで冷却する。好ましいT1温度範囲は775℃~825℃の間である。この工程の間に析出強化も行われ、ニオブ及びバナジウムの析出物が窒化物、炭化物及び/又は炭窒化物を形成する。熱間鍛造鋼部品は任意に600秒以下の間T1温度範囲で保持することができる。
【0045】
その後、T1から第2の工程の冷却が開始され、ここでは、0.5~2.1℃/秒の間、より好ましくは0.6~2.0℃/秒の間の平均冷却速度で、熱間鍛造部品をT1から430~530℃の温度範囲(本明細書ではT2とも呼ばれる)まで冷却する。好ましいT2温度範囲は、475℃~525℃の間である。この工程の間、バナジウムが炭化物、窒化物又は炭窒化物の形態で析出物を形成すると共に、オーステナイトはフェライト及びパーライトに変態する。
【0046】
第3の工程では、熱間鍛造部品をT2から室温にし、第3工程の間の平均冷却速度を5℃/秒以下、好ましくは4℃/秒未満、より好ましくは2℃/秒未満に保つ。これらの平均冷却速度は、熱間鍛造部品の断面にわたって均一な冷却を行うように選択される。
【0047】
冷却の第3の工程の終了後、鍛造機械部品が得られる。
【実施例
【0048】
ここに示される以下の試験、実施例、具象表現した例示及び表は、本質的に非限定的であり、例示のみの目的で考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示すものである。
【0049】
異なる組成を有する鋼製の鍛造機械部品を表1にまとめ、ここでは、鍛造機械部品を、それぞれ、表2に規定される方法のパラメータに従って製造する。その後、表3は試験中に得られた鍛造機械部品の微細組織をまとめ、表4は得られた特性の評価結果をまとめる。
【0050】
【表1】
【0051】
<表2>
表2は、表1の鋼で製造された半製品に実施された方法のパラメータをまとめたものである。試験例I1~I5は、本発明による鍛造機械部品の製造に役立つ。この表はまた、R1~R3まで、表の中で指定される参考鍛造機械部品を明記する。
【0052】
表2は次の通りである。
【0053】
【表2】
【0054】
表3
表3は、本発明の鋼及び参考の鋼の両方の微細組織を面積分率で決定するための走査型電子顕微鏡のような異なる顕微鏡に関する標準に従って行われた試験の結果を例示したものである。バナジウム及びニオブ当量の測定は、電解抽出及びそれに続く光学発光分光分析に基づいている。析出物の選択抽出は、メタノールに希釈した塩化リチウム及びサリチル酸塩で構成された電解質を用いて行う。酸化を防ぎ、効率的なろ過を確保するためにメタノールが好ましい。鋼試料は、マトリックスだけが溶解するような電流密度に供される。この電解操作の後、得られた溶液を200nmのポリカーボネート膜でろ過する。その後、フィルター上で酸鉱化を行い、溶液をICP-OESで分析する。結果は本明細書に記される。
【0055】
【表3】
【0056】
表4
表4は、発明の鋼及び参考の鋼の両方の機械的特性を例示する。引張強さ、降伏強度を決定するために、引張試験をNF EN ISO 6892-1規格に従って実施する。本発明の鋼及び参考の鋼の両方について衝撃靭性を測定する試験を、室(toom)温でVノッチを有するEN ISO 148-1規格DVM試験片に従って実施する。
【0057】
規格に従って実施された種々の機械的試験の結果をまとめる。
【0058】
【表4】