(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】クロロシラン混合物から不純物を除去する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/107 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
C01B33/107 B
(21)【出願番号】P 2022528620
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2019082727
(87)【国際公開番号】W WO2021104618
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クノート,イェンス・フェリクス
(72)【発明者】
【氏名】ボッホマン,ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ペーツォルト,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】プロスト,ゼバスティアン
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-524328(JP,A)
【文献】特開昭59-083925(JP,A)
【文献】特開平10-316691(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036034(WO,A1)
【文献】米国特許第03252752(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のクロロシラン及び/又はオルガノクロロシランと、ホウ素化合物、リン化合物、ヒ素化合物及びアンチモン化合物を含む群からの少なくとも1種の不純物とを含有する液体混合物から不純物を少なくとも部分的に除去するための方法であって、以下の工程を含み、
a) 液体混合物を一般構造式(I)
【化1】
[式中、CAR=担体材料及びR
1、R
2は互いに独立してH、アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリールである]のアミドキシムで官能化された担体材料と接触させる工程、
b) 任意に官能化担体材料を除去する工程、
前記担体材料が、スチレン-ジビニルベンゼン、アクリロニトリル-ジビニルベンゼン、ポリメタクリル酸エステル及びこれらのコポリマーを含む群から選択され、
前記担体材料が粒状形態であり、50~500m
2/gの表面積を有する、方法。
【請求項2】
R
1、R
2が互いに独立してH又はMeであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロロシランが、0≦x≦12及び1≦n≦5の一般式H
xSi
nCl
(2n+2-x)の非環状クロロシラン、及び/又は0≦x≦20及び4≦n≦10の一般式H
xSi
nCl
(2n-x)の環状クロロシランであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記クロロシランが、テトラクロロシラン、トリクロロシラン、ジクロロシラン及びそれらの組み合わせを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記オルガノクロロシランが、0≦x≦11、1≦n≦5及び1≦y≦12である一般式H
xSi
nR
3
yCl
(2n+2-x-y)の非環状オルガノクロロシラン、及び/又は0≦x≦19、4≦n≦10及び1≦y≦20である一般式H
xSi
nR
3
yCl
(2n-x-y)の環状オルガノクロロシランであり、式中、R
3=アルキル、アリール、アルキルアリール又はアルコキシであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記官能化担体材料が、5重量%未満、好ましくは3重量%未満、特に好ましくは2重量%未満の割合の水を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記担体材料が、40~900×10
-10m、好ましくは50~800×10
-10m、特に好ましくは75~700×10
-10mの平均孔径を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程a)において、前記官能化担体材料は、混合物によって連続的に横断されることが好ましい直列又は並列に配置された1つ以上の容器中の固定層の形態であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反応体積中の混合物の流体力学的滞留時間が0.5~1800秒、好ましくは1.0~1200秒、特に好ましくは1.5~900秒であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程b)における除去が固液分離、好ましくは濾過によって行われることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程a)の前及び/又は工程a)の後、又は任意に工程b)の後で、混合物中の不純物の濃度が決定されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記不純物が、ホウ素、リン、ヒ素及び/又はアンチモンの水素化合物、ハロゲン化合物、炭素化合物及び/又はケイ素化合物であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
クロロシラン及び/又はオルガノクロロシランを含む
液体混合物からホウ素化合物、リン化合物、ヒ素化合物及び/又はアンチモン化合物を除去するための、一般構造式(I)
【化2】
[式中、CAR=担体材料及びR
1
、R
2
は互いに独立してH、アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリールである]のアミドキシムで官能化された担体材料の使用
であって、
前記担体材料が、スチレン-ジビニルベンゼン、アクリロニトリル-ジビニルベンゼン、ポリメタクリル酸エステル及びこれらのコポリマーを含む群から選択され、
前記担体材料が粒状形態であり、50~500m
2
/gの表面積を有する、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のクロロシラン及び/又はオルガノクロロシランと、ホウ素化合物、リン化合物、ヒ素化合物及びアンチモン化合物を含む群からの少なくとも1種の不純物とを含有する混合物から不純物を少なくとも部分的に除去するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロシラン、特にクロロシランの製造では、例えば、ホウ素、ヒ素、アンチモン又はリンを含む不純物が出現することがある。ハロシランは、多結晶シリコン(例えば、シーメンス法によるポリシリコン)の製造の出発材料である。次に、ポリシリコンは、特に、電子部品(例えば、ダイオード、バイポーラトランジスタ及びMOSトランジスタ)の製造のために半導体産業で使用される単結晶シリコンの製造の出発材料である。これらの電子部品の製造は、通常、導電率の標的の影響を達成するために、ドーパント(例えば、ホウ素、ヒ素)により単結晶シリコンを局所的に汚染することを含む。したがって、出発材料として使用されるポリシリコン及びその前駆体は、できるだけ低い割合のドーパントを既に有していることが必須である。
【0003】
典型的な不純物は、例えば、ホウ素、ヒ素、アンチモン及びリンの水素及びハロゲン化合物である。これらは一般に、ハロシランから蒸留で分離することが難しい。その後、不純物はシリコン中間体又は最終生成物(例えば、ポリシリコン、単結晶シリコン、シリコーン)中に少なくとも部分的に再出現する可能性がある。したがって、不純物の性質及び量の監視は、品質管理の観点から必要である。太陽光発電及び半導体の用途に使用されるポリシリコンは、理想的には20ppta未満のホウ素濃度を有するべきである。
【0004】
クロロシラン、特にトリクロロシラン(TCS)の製造は、以下の反応に基づく3つの方法によって行われる(WO2016/198264A1参照)。
(1) SiCl4+H2→SiHCl3+HCl+副生成物
(2) Si+3SiCl4+2H2→4SiHCl3+副生成物
(3) Si+3HCl→SiHCl3+H2+副生成物
【0005】
生成され得る副生成物には、さらにクロロシラン、例えば、モノクロロシラン(H3SiCl)、ジクロロシラン(DCS、H2SiCl2)、四塩化ケイ素(STC、SiCl4)、及びジシラン及びオリゴシランが含まれる。副生成物の成分は、上記不純物に加えて、炭化水素、オルガノクロロシラン及び金属塩化物などの不純物をさらに含むことがある。
【0006】
特に、方法(2)及び(3)で典型的に使用される金属シリコンとともに導入された不純物は、その後の方法の工程に持ち越される可能性がある。ここで特に重要なのは、炭素に加えて、ホウ素、リン、ヒ素、アンチモンなどの標準的ドーパントである。ホウ素含有化合物による汚染は、その分布係数が0.8であることから、方法の過程での帯域溶融によってホウ素をシリコンから事実上除去できなくなるため、特別な困難を引き起こす場合がある。方法(1)~(3)の粗生成物中には、使用原材料の品質及び反応器成分の材質並びにそれぞれの反応条件に応じて、異なる含量の不純物が認められる。蒸留によって得られた粗生成物を精製するのが通例である。しかし、場合によっては、生成物及び不純物の沸点が類似しているため、この精製が特に困難で技術的に非常に複雑な場合がある。例えば、DCS(沸点:8.4℃)からの三塩化ホウ素(沸点:12.4℃)の蒸留による除去はかなり複雑である。
【0007】
また、オルガノクロロシランを使用するには、特にナノテクノロジー及びマイクロエレクトロニクスの分野において、非常に高度な純度が要求される。
【0008】
オルガノクロロシラン、特にメチルクロロシランの製造は、特にミュラー-ローチョウ直接合成によって行われる(DE 10 2014 225 460A1参照)。
(4) Si+CH3Cl→(CH3)nSiCl4-n+副生成物、(n=1~4)
【0009】
これは、有機クロロ炭化水素化合物を金属シリコンと反応させ、銅触媒及び助触媒を加えてオルガノクロロシラン、特にメチルクロロシランを得ることを含む。ここでも不純物が、特に金属シリコンを介して、導入されることがある。
【0010】
オルガノクロロシランは、エピタキシャル層の堆積において、例えば半導体産業で使用されている。ごく少量の不純物、特にホウ素、リン、ヒ素、アンチモンなどのドーパントを含む不純物でさえ、ここではかなりの問題を引き起こしている。一般に、ドーパントは、望ましくないドーピング効果をもたらし、移動過程を通して電気部品の耐用年数を短縮させる可能性がある。
【0011】
高純度のクロロシラン及びオルガノクロロシランを得るための蒸留は、一般に、不純物を含有する副流を生成する。不純物を除去するために、副流は通常完全に除去され、その結果、かなりの量の価値のある生成物が失われる。これは高いコスト(シリコン損失、ハロゲン損失、廃棄コスト)をもたらす可能性がある。さらに、ときに多段蒸留では、通常蒸気の形態の高いエネルギーの投入が必要となる。
【0012】
したがって、特にドーパント含有不純物の効果的な除去を達成するために、様々な取り組みが使用される。
【0013】
DE 10 2008 004 397A1には、ホウ素及びアルミニウムと難溶性の錯体(その後機械的手段によって除去することができる)を形成するために、精製されるべきハロシラン混合物への塩化トリフェニルメチルの添加が記載されている。DE 10 2008 004 396A1によれば、このような難溶性錯体は蒸留によって除去される。原理的には、錯体形成剤を用いると、除去されるべき濃縮錯体だけでなく、生成物も含む副流が生成される。これらの副流は複雑な後処理必要とするか、廃棄しなければならない。
【0014】
CA1162028Aは、クロロシランの不均化において、固体イオン交換体上への吸着によってホウ素含有不純物を除去することを開示する。イオン交換体は第三級又は第四級アンモニウム基を含む。不均化の結果、変化した組成を有し、1つの標的生成物のみを単離するためにさらなる解決を必要とするクロロシラン混合物が得られることは不利である。
【0015】
EP0105201は、キレート形成アミドキシム樹脂を使用して、水溶液から、例えば、ウラン、ガリウム及び水銀という重金属イオンを除去する方法を開示する。水溶液の使用の問題点は、ハロシランの加水分解感受性である。
【0016】
DE1073460には、気体クロロシランの精製が記載されており、ここで、前記クロロシランは吸着剤上に通される。吸着剤は、気体ボランと安定な付加化合物を形成するが、クロロシランと反応しない有機物質又は無機物質を含んでいる。また、負荷に適したものとして、特にジメチルグリオキシムが記載されている。ここでの欠点は、気相での実施は、最初に、液体の形態で発生するクロロシランの蒸発を必要とすることである。しかし、化学結合が存在しないので、有機物質又は無機物質が含浸された吸着剤から前記有機物質又は無機物質が洗い流されるのを避けるために、気相が必要である。さらに、液体と比較してガスの量が多いことは、一般に、著しく低い処理能力が達成されるにすぎないことを意味する。
【0017】
対照的に、US3,126,248は、DE1073460で提案された有機物質又は無機物質を用いて、凝縮相で精製を実施することを開示する。ここで、精製されたクロロシランは吸着剤から洗い流された物質からの蒸留分離を必要とする。したがって、さらなる分離工程が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】国際公開第2016/198264号
【文献】独国特許出願公開第10 2014 225 460号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2008 004 397号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2008 004 396号明細書
【文献】カナダ国特許出願公開第1162028号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0105201号明細書
【文献】独国特許出願公開第1073460号明細書
【文献】米国特許第3,126,248号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、先行技術から知られている不利益を回避する、ハロシランを精製するための特に効率的かつ経済的な方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、少なくとも1種のクロロシラン及び/又はオルガノクロロシランと、ホウ素化合物、リン化合物、ヒ素化合物及びアンチモン化合物を含む群からの少なくとも1種の不純物とを含有する混合物から不純物を少なくとも部分的に除去するための方法によって達成される。この方法は以下の工程を含む。
a) 液体混合物を一般構造式(I)
【0021】
【化1】
[式中、CAR=担体材料及びR
1、R
2は互いに独立してH、アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリールである]のアミドキシムで官能化された担体材料と接触させる工程、
b) 任意に官能化担体材料を除去する工程。
【0022】
除去及び/又は接触後、混合物では不純物の含有率が減少する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
アミドキシム官能化担体材料の使用により、記載した種類の不純物から液体のクロロシラン及び/又はオルガノクロロシラン組成物/混合物の非常に効率的な分離が可能になることがわかった。アミドキシム官能基と不純物との間の化学反応は、原理的には、クロロシラン/オルガノクロロシランとアミドキシム官能基との反応を伴うことがあるが、アミドキシムは、この反応が無視できるほど不純物に対して高い親和性を有する。官能化担体材料の活性は制限されない。さらに、クロロシラン/オルガノクロロシランの不均化が起こらず、したがって得られる多成分混合物の下流での分離の必要性が回避されることが特に有利である。したがって、24時間の持続後、通常1重量%未満、特に0.5重量%未満の不均化生成物が生成される。この数字は、実際、一般に0.2重量%未満である。
【0024】
この方法の圧力及び温度は、混合物が物質の液体状態になるように選択される。方法の工程a)は1~20bar(g)、特に好ましくは1.1~10bar(g)、特に1.25~5bar(g)の圧力範囲で行うことが好ましい。温度は好ましくは-50℃~160℃、特に好ましくは-30℃~100℃、特に-10℃~40℃である。
【0025】
式(I)によれば、アミドキシムはその炭素原子で担体材料(すなわち担体材料の官能基)に直接結合されることができる。これは特に共有結合である。例えば、アミドキシムは、担体材料としてのポリアクリロニトリル又はポリアクリロニトリルコポリマーのニトリル基から合成され得る。しかし、担体材料とアミドキシムとの間にリンカーを提供することもできる。リンカーは、例えば、メチレン基、ベンジル基、又は2~5個の炭素原子を有する直鎖状炭化水素鎖であることができる。
【0026】
R1及び/又はR2のアルキル基は、直鎖状、分枝状又は環状であり得る。例えば、Me、Et、Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、t-Buを含む群から選択される基であることができる。アルキル基は、好ましくは1~16個、特に好ましくは1~12個、特に1~6個の炭素原子を含む。
【0027】
R1及びR2が互いに独立してH又はMeであることが好ましい。両基がH原子に対応することが特に好ましい。驚くべきことに、アミンの窒素(R1、R2=H)は、例えば、アミノ官能化イオン交換体のようにクロロシラン/オルガノクロロシランの不均化に有利ではないことが分かった。
【0028】
クロロシランは、0≦x≧12及び1≦n≧5である一般式HxSinCl(2n+2-x)の非環式クロロシランであることが好ましい。代替的に又は追加的に、クロロシランは、0≦x≧20及び4≦n≧10である一般式HxSinCl(2n-x)の環状クロロシランであってもよい。前記混合物は、これらのクロロシランを1種だけ、又は数種を含むことができる。
【0029】
クロロシランは、特にSTC、TCS、DCS及びそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0030】
オルガノクロロシランは、0≦x≧11、1≦n≧5及び1≦y≧12である一般式HxSinR3
yCl(2n+2-x-y)の非環式オルガノクロロシランが好ましい。代替的に又は追加的に、オルガノクロロシランは、0≦x≧19、4≦n≧10及び1≦y≧20であり、R3=アルキル、アリール、アルキルアリール又はアルコキシである一般式HxSinR3
yCl(2n-x-y)の環状オルガノクロロシランであってもよい。
【0031】
アルキル基に関しては、上記のものを参照することができる。しかし、R3がMe、メトキシ又はエトキシ基を表すことが好ましい。
【0032】
本発明による方法は、好ましくは、無水又は少なくとも実質的に無水の条件下で行われる。実質的に無水の条件は、微量の水が官能化又は非官能化担体材料中に存在し得ることを意味するものとして理解されるべきである。これらは典型的には5重量%未満である。混合物は一般に無水である。
【0033】
官能化担体材料は、5重量%未満、好ましくは3重量%未満、特に好ましくは2重量%未満の割合の水を含むことができる。担体材料は、原理的には、記載された微量の水を含むことは操作にとって重要でない。クロロシラン/オルガノクロロシラン加水分解による損失を避けるために、含水量は通常できるだけ低く保たれる。したがって、原則として水分は付加的には供給されない。しかし、慣用の担体材料については、記載された含水量を超えないのが通例であるため、一般的には、担体材料をさらなる乾燥工程に供する必要もない。
【0034】
アミドキシム官能化の担体として使用される担体材料は、イオン交換体及び吸着体を製造するための当業者によく知られているポリマーから選択され得る。好ましくは、担体材料は、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー並びにそれらの組合わせ及びそれらのコポリマーを含む群から選択される。特に好ましくは、担体材料は、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー及び/又はアクリロニトリル-ジビニルベンゼンコポリマーである。担体材料は、特にアクリロニトリル-ジビニルベンゼンコポリマーとポリメタクリル酸エステルとのコポリマーである。固体はさらにシリカであってもよい。
【0035】
担体材料は特に固体である。したがって、固体担体材料が好ましくは関係する。前記材料は、例えば、粒子及び/又は繊維の形態であり得る。担体材料は特に好ましくは粒状形態であり、10~2000m2/g、特に好ましくは25~1000m2/g、特に50~500m2/gの表面積を有することが好ましい。表面積は官能化状態で減少する場合がある。ここでの典型的な値は5~500m2/gである。表面積の測定は、例えば、BET測定(DIN ISO 9277)によって行うことができる。
【0036】
前記材料は、例えば、平均粒径(average particle size)(=平均粒径(average particle diameter))0.149~4.760mm(4~100メッシュ)、好ましくは0.177~2.0mm(10~80メッシュ)、特に好ましくは0.400~1.410mm(14~40メッシュ)を有する粒子の形態であることができる。測定は、動的画像分析(ISO 13322-2)、レーザー回折又は篩分けによって行うことができる。
【0037】
担体材料はさらにマクロ多孔性であり得る。担体材料は特にマクロ多孔性粒子の形態であることができる。担体材料は、好ましくは、40~900×10-10m、好ましくは50~800×10-10m、特に好ましくは75~700×10-10mの平均孔径を有する。平均孔径は通常、担体材料が官能化された後でも、記載されたサイズ範囲にとどまっている。
【0038】
担体材料の官能化とは無関係に、細孔構造は、不純物の吸着を、少なくともわずかに任意に可能にし得る。
【0039】
官能化担体材料は、混合物との接触の結果として膨潤挙動を示すことがある。しかし、粒子状担体材料の体積増加(膨潤)は、好ましくは7%以下、特に好ましくは6%以下、特に5%以下である。
【0040】
方法の工程a)における官能化担体材料は、好ましくは固定層の形態である。固定層は、特に混合物によって連続的に横断される。これにより、官能化担体材料の分離除去を回避することが可能となる。
【0041】
工程a)における好ましい実施形態において、官能化担体材料は、混合物によって連続的に横断されることが好ましい直列又は並列に配置された1つ以上の容器中の固定層の形態である。
【0042】
官能化担体材料で満たされた反応体積中(これは1つ以上の容器でよい)の混合物の流体力学的滞留時間τは、好ましくは0.5~1800秒、特に好ましくは1.0~1200秒、特に1.5~900秒である。τは以下に従って計算される。
【0043】
【数1】
ここで
V
R:反応体積:官能化担体材料で満たされた体積[m
3]、
【0044】
【0045】
総反応体積(例えば、いくつかの連続して配置された容器の場合、総反応体積は、個々の反応体積又は容器体積の合計である)は、好ましくは0.025~5m3、特に好ましくは0.05~3m3、特に0.1~2m3である。
【0046】
固定層として存在する官能化担体材料は、篩又は穿孔スクリーンを用いて保持することが好ましい。
【0047】
混合物はまた、原理的には、除去される前に所定の時間、固定層又は流動化層の形態の官能化担体材料と接触したままであることができる。最も単純な場合には、混合物を容器から排出することにより除去を行うことができ、ここで、固体の官能化担体材料は、篩又は穿孔スクリーンにより保持される。
【0048】
方法の工程b)における不純物を含んだ官能化担体材料の除去は、好ましくは、固液分離、特に濾過によって行われる。
【0049】
アミドキシム官能化担体材料には、官能化担体材料1g当たり1~100mg、好ましくは1.5~80mg、特に好ましくは2~60mgの不純物を含ませることができる。
【0050】
工程a)の前、工程a)の後、又は任意に工程b)の後に混合物中の不純物の濃度を決定することが好ましい。これにより、例えば、固定層としての官能化担体材料を連続横断する場合、混合物の体積流量を適応させることが可能となる。官能化担体材料を通過した後の不純物の濃度が目標値を超えると、直ちに同一の並列の吸着器部に切り替えることがさらに可能である。これにより、稼働時間が最大化される。不純物の濃度は、ICP-MS(誘導結合プラズマとともに質量分析)及び/又はICP-OES(誘導結合プラズマとともに光学発光分析)により測定することができ、そこでは継続的にサンプリングを行うことが好ましい。シーメンス方法に関連して使用されるクロロシラン混合物中の不純物の濃度を測定するための別の選択肢は、例えば、堆積されたシリコンの電気抵抗の測定である。電気抵抗の測定は規格SEMI MF84に従って行うことができる。堆積されたシリコン中のドーパントは、例えば、DE 10 2011 077 455A1に記載されているように光ルミネセンスによって定量することもできる。
【0051】
好ましい実施形態では、方法の工程a)に従い官能化担体材料と最初に接触させた後、混合物は、官能化担体材料と再接触させるために、工程a)の上流でまだ未処理の混合物にリサイクルさせてもよい。したがって、工程a)を2回以上実施することが好ましい場合がある。
【0052】
不純物は、特に、ホウ素、リン、ヒ素(例えばAsCl3)及び/又はアンチモン(例えばSbCl3、SbCl5)の水素化合物、ハロゲン化合物、炭素化合物及び/又はケイ素化合物である。混合物には、不純物として記載された元素の1種以上の異なる化合物が含まれていてもよい。不純物は、ホウ素及び/又はリンの化合物(例えば、PCl3、PHCl2、MePH2、MeSiH2PH2)から選択することが好ましい。不純物は、特に、ホウ素の化合物から選択することが好ましい。不純物は、特にボラン(B2H6など)及び/又はハロボラン(BCl3)から選択することができる。
【0053】
少なくとも1種の不純物はイオン形態ではない。
【0054】
混合物は、(方法の工程a)の前に)5ppta~1000ppma、好ましくは10ppta~500ppma、特に好ましくは50ppta~100ppmaの割合の不純物を含有してもよい。
【0055】
混合物がホウ素化合物を含む場合、混合物は、好ましくは、方法の工程a)の後に、又は任意に方法の工程b)の後に、不純物として、80%、特に好ましくは90%、特に99%減少した割合のホウ素化合物を含む。ホウ素の激減は99%を超えることもある。
【0056】
混合物が、リン化合物、ヒ素化合物又はアンチモン化合物を含む場合、混合物は、好ましくは、方法の工程a)の後に、又は任意に方法の工程b)の後に、70%、特に好ましくは80%、特に85%減少した割合の不純物として記載された化合物を含む。激減は85%を超えることもある。
【0057】
本発明による方法により精製されたクロロシランはポリシリコンを製造するために使用することができ、いずれの場合もポリシリコンは1000×10-12未満、好ましくは100×10-12未満、特に好ましくは10×10-12未満の原子分率のホウ素及びヒ素を含む。リンの原子分率は、1000×10-12未満、好ましくは100×10-12未満、特に好ましくは20×10-12未満であることができる。アンチモンの原子分率は、1000×10-12未満、好ましくは100×10-12未満、特に好ましくは50×10-12未満であることができる。ポリシリコンの抵抗は、好ましくは4000Ω・cmを超え、特に好ましくは6000Ω・cmを超え、特に7000Ω・cmを超える。本発明による方法の実施後にクロロシランをさらに精製(例えば、蒸留)する必要は原則としてない。
【0058】
好ましい実施形態において、工程a)及びb)は、ポリシリコンを製造するための統合システムに組み込まれる。統合されたシステムは、好ましくは以下の処理、すなわち、技術グレードのTCS含有クロロシラン混合物の製造(処理(1)~(3))、本発明による方法による生産されたクロロシラン混合物の精製、ポリシリコンの堆積(好ましくはシーメンス方法によるか粒状物として)を包含する。
【0059】
本発明のさらなる態様は、クロロシラン及び/又はオルガノクロロシランを含む混合物からのホウ素化合物、リン化合物、ヒ素化合物及び/又はアンチモン化合物の除去のための一般構造式(I)のアミドキシムで官能化された担体材料の使用に関する。
【0060】
官能化担体材料は、好ましくは、5重量%未満、好ましくは3重量%未満、特に好ましくは2重量%未満の割合の水を有する。アミドキシム及び担体材料のさらなる構成の観点から、上記のものを参照することができる。
【実施例】
【0061】
[実施例1:一般的な手順]
吸着材(本発明の官能化担体材料又は比較材料)を、体積180mlの容器(カートリッジ)中に固定層として配置し、液体クロロシラン混合物(TCS比率:99重量%超)を20℃及び1bar(g)で1kg/時の体積流量(TCSの密度(1.34kg/L)に基づき7.46×10-4m3/時)において容器に通した。したがってτは約870秒であった。吸着材との接触前後の混合物をシーメンス法によりポリシリコンとして堆積させ、ポリシリコンのドーパント濃度を測定した。光ルミネセンス法により堆積した多結晶性材料(帯域溶融方法、SEMI MF 1723)から生成したFZ単結晶についてSEMI MF 1398に従ってドーパントの定量を行った。この定量方法は、例えば、DE 10 2011 077 455A1に記載されている。又は、主な不純物のドーパント濃度を、SEMI MF 732に従った試料の比抵抗から測定した(例えば、実施例1b)。
【0062】
[実施例1a]
使用した吸着材は、式(I)のアミドキシム(R1=H、R2=H)で官能化した粒状アクリロニトリル-ジビニルベンゼンコポリマーで、平均粒径は0.400~1.410mmであった。官能化粒子の平均孔径は400×10-10mであった。測定されたドーパント濃度を表1に報告する。
【0063】
【0064】
[実施例1b]
実施例1aと比較して、ホウ素という不純物がより多い液体クロロシラン混合物を使用した。測定したホウ素濃度を表2に報告する。
【0065】
【0066】
[実施例1c]
使用した吸着材は式(I)のアミドキシム(R1=H、R2=H)で官能化したアクリロニトリル-ジビニルベンゼンコポリマーであったが(実施例1a参照)、一般的な実験説明からの逸脱は、90mlのみが使用されたことである(τ約435秒)。測定されたドーパント濃度を表3に報告する。
【0067】
【0068】
滞留時間τを435秒(官能化担体の体積180mlから90ml)に減少させても、ドーパントの除去に悪化はない(保持:B:99.8%、P:93.4%、As:91%)。
【0069】
[比較例1d]
使用した吸着材は、シリカ吸着剤(DE 25 46 957A1から知られている)であったが、一般的な実験説明からの逸脱は、90ml(τ約435s)のみが使用されたことである。液体クロロシラン混合物は実施例1aのものに相当した。測定されたドーパント濃度を表4に報告する。
【0070】
【0071】
ホウ素の除去は著しく不良である。リン及びヒ素の場合、シリカ吸着剤は実際に汚染を引き起こす。したがって、本発明に従って官能化された担体で達成可能な純度は、さらなる精製工程(例えば、蒸留)なしで達成することができない。
【0072】
[実施例2:一般的な手順]
吸着材(本発明による官能化担体材料又は比較材料)を、異なる体積を有する容器に固定層として配置し、20℃及び1bar(g)で異なる体積の液体クロロシラン混合物(TCS割合:99重量%超)を容器に流した。接触の前後の混合物を、シーメンス法によりポリシリコンとして堆積させ、ドーパント濃度を上記のように測定した。
【0073】
[実施例2a]
使用した吸着材は、式(I)のアミドキシム(R1=H、R2=H)で官能化したアクリロニトリル-ジビニルベンゼンコポリマーであった(実施例1a参照)。容器の体積は30Lであった。体積流量は12500kg/時であり、したがってτ=12秒であった。測定されたホウ素濃度は表5から明らかである。
【0074】
【0075】
[実施例2b]
実施例2aと比較して、体積流量は2100kg/時とし、τ=70秒とした。測定されたドーパント濃度を表6に報告する。
【0076】
【0077】
[比較例2c]
使用した吸着材は、シリカ吸収剤(DE 25 46 957A1から知られている)であった。容器の体積は120Lであった。体積流量は46600kg/時であり、τ=12秒であった。測定されたドーパント濃度を表6に報告する。
【0078】
【0079】
[実施例3]
20℃及び1bar(g)でガラスフラスコ中で、式(I)(R1=H、R2=H)のアミドキシムで官能化したアクリロニトリル-ジビニルベンゼンコポリマー(吸着材)0.54gをクロロシラン混合物20g(TCS約96重量%、DCS4重量%)と数時間かけて混合した。その後、フィルターで吸着材を除去した。吸収材は粒状形態で、平均直径は0.4~1.4mmであった。水分の割合は2重量%未満であった。官能化粒子の平均孔径は400×10-10mであった。接触前後でICP-OESによりホウ素濃度を測定した(表7参照)。
【0080】
【0081】
[実施例4]
5℃及び1bar(g)でガラスフラスコ中で、実施例3の吸収材0.40gをクロロシラン混合物15g(TCS約99重量%、DCS1重量%)と数時間かけて混合した。実施例3(表8参照)と同様にホウ素濃度を測定した。
【0082】
【0083】
[比較例5]
20℃及び1bar(g)でガラスフラスコ中で、0.40gの微粒子(直径1.5~4.4mm)活性化シリカゲル(Xi’an Lvneng Purification Technology)をTCS15gと混合した。実施例3及び4と同様にホウ素濃度を測定した(表9参照)。
【0084】