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▶ アーイーツェー246 アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフトの特許一覧

特許75124052-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸のカリウム塩
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  • 特許-2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸のカリウム塩 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸のカリウム塩
(51)【国際特許分類】
   C07D 239/84 20060101AFI20240701BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20240701BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240701BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C07D239/84 CSP
A61K31/517
A61P31/12
A61P31/22
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022551820
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 EP2021055078
(87)【国際公開番号】W WO2021170882
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】20159742.4
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522337554
【氏名又は名称】アーイーツェー246 アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート ブッシュマン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ゴルトナー
(72)【発明者】
【氏名】ホルディ カルレス セロン ベルトラン
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/127971(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/096778(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 239/84
A61K 31/517
A61P 31/12
A61P 31/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のレテルモビルの結晶性カリウム塩(2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム)
【化1】
又はその溶媒和物。
【請求項2】
前記溶媒和物が、水和物である、請求項1に記載のレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物。
【請求項3】
前記溶媒和物が、2.5水和物である、請求項1又は2に記載のレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物。
【請求項4】
前記溶媒和物が、水-エタノール混合溶媒和物である、請求項1に記載のレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物。
【請求項5】
前記2.5水和物が、X線粉末ディフラクトグラムにおいて6.1、9.5、10.7、11.3、12.4、12.9、15.6、16.4、16.8、17.9、19.0、20.0、20.9、21.7、22.4、23.6、25.2、26.0、26.7、27.3、28.2、28.7、29.6、30.2、30.9、31.4、32.2、32.8及び33.4度の2シータに特徴的なピークを示すことを特徴とし、ここで当該2シータ角度値が±0.1度の正規偏差を有する、請求項3に記載のレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物。
【請求項6】
前記水-エタノール混合溶媒和物が、X線粉末ディフラクトグラムにおいて6.1、9.4、10.6、11.2、12.3、12.8、15.5、16.3、16.7、17.8、18.9、19.9、20.8、21.7、22.3、23.5、25.1、25.9、26.6、27.1、28.1、28.5、29.4、30.1、30.8、31.2、32.0、32.6及び33.3度の2シータに特徴的なピークを示すことを特徴とし、ここで当該2シータ角度値が±0.1度の正規偏差を有する、請求項4に記載のレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物。
【請求項7】
請求項1に記載のレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物を製造する方法であって、以下の工程:
a)2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸又はその塩若しくは溶媒和物を、任意選択的に加熱下で、第1溶媒に溶解する工程であって、前記第1の溶媒が、少なくとも1つのC1~C6-ジアルキルエーテル及び少なくとも1つのC1~C6アルコールを含む、工程と、
b)工程aで得られた溶液に水酸化カリウムを添加して、第1の混合物を提供する工程と、
c)工程bで得られた前記第1の混合物を、25℃~80℃の範囲内の温度で、少なくとも5分間攪拌する工程と、
d)前記第1の混合物を0℃~30℃の範囲内の温度まで冷却し、前記第1の混合物を前記温度で少なくとも10分間攪拌する工程と、
e)前記第1の溶媒を除去して、第1の固体を提供する工程と、
f)前記第1の固体を、少なくとも1つのC1~C6-ジアルキルエーテルを含む第2の溶媒と接触させて、第2の混合物を提供する工程と、
g)前記第2の混合物を、0℃~30℃の範囲内の温度で、少なくとも1時間撹拌する工程と、
h)前記第2の溶媒を除去して、第2の固体を提供する工程と、を含む、方法。
【請求項8】
前記第2の固体を20℃~30℃の範囲内の温度及び少なくとも60%の相対湿度で少なくとも1時間維持する追加の後続工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記C1~C6-ジアルキルエーテルが、ジイソプロピルエーテルである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記C1~C6-アルコールが、エタノールである、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程aにおけるC1~C6-ジアルキルエーテルとC1~C6アルコールとの容量比が、3:1~1:3の範囲内である、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の混合物が、工程cにおいて、45℃~55℃の範囲内の温度で少なくとも30分間攪拌される、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の混合物が、工程dにおいて、20℃~30℃の範囲内の温度まで冷却され、前記温度で少なくとも30分間攪拌される、請求項7~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の溶媒が、工程eにおいて蒸発によって除去される、請求項7~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の溶媒が、工程hにおいて濾過により除去される、請求項7~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか一項に記載のレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤及び/又は希釈剤と、を含む、薬学的組成物。
【請求項17】
疾患、特にウイルス感染、好ましくはヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染若しくはヘルペスウイルス科(herpes viridae)群の別のメンバーによる感染の治療及び/又は予防の方法で使用するための、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
疾患、特にウイルス感染、好ましくはヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染若しくはヘルペスウイルス科群の別のメンバーによる感染の治療及び/又は予防のための医薬を製造するための、請求項16に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項19】
治療又は予防を必要とするヒト及び動物における、ウイルス感染、好ましくはヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染若しくはヘルペスウイルス科群の別のメンバーによる感染の治療及び/又は予防のための医薬であって、請求項16に記載の薬学的組成物含む、医薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸のカリウム塩及びその溶媒和物に関する。本発明はさらに、前記2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸のカリウム塩又はその溶媒和物の調製方法、及び前記塩を含む薬学的組成物に関する。前記塩は、サイトメガロウイルス(CMV)、特にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)に関連する疾患の治療及び/又は予防に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
サイトメガロウイルス(CMV)は、固形臓器及び同種造血幹細胞移植後に重大な罹患率及び予防可能な死亡率を引き起こす一般的な日和見感染である。
【0003】
HCMVは、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)又はヘルペスウイルス(herpes viruses)として知られるウイルス科に属するウイルスの一種である。これは、通常HCMVと略され、ヒトヘルペスウイルス5(HHV-5)としても知られている。ヘルペスウイルス科の中で、HCMVは、ベータヘルペスウイルス(Betaherpesvirinae)亜科に属し、これには他の哺乳動物由来のサイトメガロウイルスも含まれる。
【0004】
レテルモビルは、HCMV感染に対処するための高活性薬物として知られており、Lischka et al.,In Vitro and In Vivo Activities of the Novel Anticytomegalovirus Compound Letermovir.Antimicrob.Agents Chemother.2010,54:p.1290-1297及びKaul et al.,First report of successful treatment of multidrug-resistant cytomegalovirus disease with the novel anti-CMV compound Letermovir.Am.J.Transplant.2011,11:1079-1084、並びにMarschall et al.,In Vitro Evaluation of the Activities of the Novel Anticytomegalovirus Compound Letermovir against Herpesviruses and Other Human Pathogenic Viruses.Antimicrob.Agents Chemother.2012,56:1135-1137に広範に記載されている。
【0005】
レテルモビルの正確な化学名は、以下に示すような、2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸であり:
【化1】
レテルモビルは、特にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)によって引き起こされる感染に対抗するための抗ウイルス剤として出願人によって開発された。レテルモビルの合成は、国際公開第2006/133822号及び同第2004/096778号に開示されている。
【0006】
レテルモビルの塩は、国際公開第WO2013/127971号に記載されている。特に、レテルモビルのナトリウム塩及びカルシウム塩の一部の溶媒和物は、結晶及び非晶質の形態で調製されている。レテルモビルのナトリウム塩の場合、メタノール又はエタノール水和物などのアルコール水混合溶媒和物が得られ(国際公開第2013/127971A1号の実施例1)、これは結晶性レテルモビルナトリウム三水和物に変換され得る(国際公開第2013/127971A1号の実施例2)。
【0007】
しかしながら、再現性があり拡張可能なプロセスにおいて調製でき、かつ、長期間にわたって安定なまま保存できるレテルモビルの安定な結晶塩が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、下記式(I)のレテルモビルの結晶性カリウム塩:
【化2】
又はその溶媒和物に関する。
【0009】
本発明の文脈におけるレテルモビルの結晶性カリウム塩は、一カリウム塩であり、2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸及びカリウム対イオンは、等モル比(1:1)で存在する。
【0010】
レテルモビルの結晶性カリウム塩は、ジアルキルエーテルとアルコールとの混合物中のレテルモビルの溶液に、さらに水酸化カリウムを添加したものから、高収率で容易に調製することができる。
【0011】
さらに、前記レテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物は易溶性であり、特に生理的pHで水性媒体中において良好な保存安定性を示すことも発見されている。特に、水性媒体中の100mg/mLを超える濃度レベルは、最終溶液のpH値を7~8、特に7.4~7.8の範囲に維持しながら、前記レテルモビルの結晶性カリウム塩を溶解することによって達成することができる。
【0012】
また、結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物は、有毒な溶媒残留物を含有しないため、前記化合物は、サイトメガロウイルス(CMV)、特にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)に関連する及び/又はそれによって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防の方法で使用するための薬学的組成物の製造に特に有用である。
【0013】
さらに、本発明により得ることができる結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物は、高純度を示す。
【0014】
本発明の別の態様は、前記式(I)のレテルモビルのカリウム塩
【化3】
又はその溶媒和物の調製方法であって、
a)2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸又はその塩若しくは溶媒和物を、任意選択的に加熱下で、第1溶媒に溶解する工程であって、前記第1の溶媒が、少なくとも1つのC1~C6-ジアルキルエーテル及び/又は少なくとも1つのC5~C9-アルカン及び/又は少なくとも1つのC5~C9-シクロアルカン及び少なくとも1つのC1~C6アルコールを含む、工程と、
b)工程aで得られた溶液に水酸化カリウムを添加して、第1の混合物を提供する工程と、
c)工程bで得られた前記第1の混合物を、25℃~80℃の範囲内の温度で、少なくとも5分間攪拌する工程と、
d)前記第1の混合物を0℃~30℃の範囲内の温度まで冷却し、前記第1の混合物を前記温度で少なくとも10分間攪拌する工程と、
e)前記第1の溶媒を除去して、第1の固体を提供する工程と、
f)前記第1の固体を、少なくとも1つのC1~C6-ジアルキルエーテル及び/又は少なくとも1つのC5~C9-アルカン及び/又は少なくとも1つのC5~C9-シクロアルカンを含む第2の溶媒と接触させて、第2の混合物を提供する工程と、
g)前記第2の混合物を、0℃~30℃の範囲内の温度で、少なくとも1時間撹拌する工程と、
h)前記第2の溶媒を除去して、第2の固体を提供する工程と、を含む、方法に関する。
【0015】
本発明の方法は、以下の技術的利点を有する:
・レテルモビルのカリウム塩は、レテルモビルの遊離塩基から直接調製できる;
・このプロセスの反応時間は比較的短い(数時間);
・このプロセスにより、有毒な溶媒残留物を伴うことなく、レテルモビルの結晶性カリウム塩が直接得られる;
・このプロセスは再現可能であり、さらなるスケールアップに好適である。
【0016】
一態様において、本発明はさらに、前記結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物を含む薬学的組成物に関する。
【0017】
本発明の別の態様は、疾患、特にウイルス感染、好ましくはヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染又はヘルペスウイルス科群の別のメンバーによる感染の治療及び/又は予防のための医薬を調製するための、前記結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム若しくはその溶媒和物、又は前記結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム若しくはその溶媒和物を含む薬学的組成物の使用に関する。
【0018】
本発明の別の態様は、前記結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム若しくはその溶媒和物、又は前記結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム若しくはその溶媒和物を含む薬学的組成物を投与することによって、ウイルス感染、好ましくはヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染若しくはヘルペスウイルス科群の別のメンバーによる感染の治療及び/又は予防を必要とする対象において、それを行う方法に関する。
[詳細な説明]
【0019】
「含む(comprising)」という用語は、「からなる(consisting of)」という意味も包含し、例えば、前記メンバーを含むメンバー群は、これらのメンバーのみからなるメンバー群を包含することに留意されたい。
【0020】
本明細書で使用される場合、「室温」という用語は、「標準室温」という用語と同義であり、19℃~26℃の範囲内の温度を指す。例えば、「前記混合物を室温で撹拌すること」は、「前記混合物を19℃~26℃の範囲内の温度で撹拌すること」を意味する。
【0021】
本明細書で使用される用語「結晶」は、X線を回折する分子の任意の三次元秩序配列を指す。
【0022】
本明細書で使用される場合、「単位セル」という用語は、基本的な平行六面体形状のブロックを指す。結晶の全容量は、そのようなブロックを規則的に組み立てることによって構築することができる。各単位セルは、パターンの単位の完全な表現を含み、その繰り返しが結晶を構築する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「空間群」という用語は、結晶の対称要素の配置を指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、「非対称単位」という用語は、結晶内で繰り返し全体を生成するために使用できる原子座標の最小セットを指す。
【0025】
用語「多形」は、固体状態の複数の結晶形で存在することができるレテルモビルのカリウム塩又はその溶媒和物の特定の結晶形(すなわち、結晶格子の構造)を指す。
【0026】
本明細書で使用する場合、「溶媒和物」という用語は、溶媒分子との配位により錯体を形成する、化合物、特に2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウムの形態を指す。水和物は、水との配位を生じる特殊な形態の溶媒和物である。
【0027】
本発明の文脈において、「安定な(stable)」又は「保存安定性の(storage-stable)」という用語は、本発明によるレテルモビルのカリウム塩又はその溶媒和物の場合、前記塩が「方法及び装置」のセクションで定義されるHPLC法を用いて測定される際、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも3週間、さらにより好ましくは少なくとも6週間、及び最も好ましくは12ヶ月の保存期間において、それらに含有される2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸の最小割合が、25℃で、90%超、好ましくは95%超、及び最も好ましくは99%であることを意味する。
【0028】
本発明の範囲内で、「~によって得られる」及び「~によって得ることができる」という用語は、同じ意味を持ち、交換可能に使用される。
【0029】
本発明の範囲内で、「当量」という用語は、「モル当量」を意味すると理解される。
【0030】
本明細書で使用される場合、「溶媒」という用語は、本明細書に記載の成分若しくは材料を溶解するか又は溶媒和するのに適した液体又は液体の混合物を指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、2つの材料に関して「接触させること」という用語は、第1の材料を第2の材料に添加すること、又は第2の材料を第1の材料に添加することを指す。特に、「接触させること」という用語は、溶媒への固体の添加、又は固体への溶媒の添加を指す。
【0032】
本明細書で使用される場合、「ジアルキルエーテル」という用語は、式R-O-Rの基を指し、式中、R基の各々はアルキルである。
【0033】
本明細書で使用される場合、「アルコール」という用語は、式R-OHの基を指し、式中、Rはアルキルである。
【0034】
本明細書で使用される場合、「アルカン」という用語は、指定された数の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖を有する飽和炭化水素を指す(すなわち、C5~C9-アルキルは、5~9個の炭素原子を意味する)。非限定的な例には、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン及びn-ノナンが含まれる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、それ自体で、又は別の置換基の一部として、指定された数の炭素原子を有するアルカンの基を指し(すなわち、C1~C6-アルキルは、1~6個の炭素原子を意味する)、直鎖及び分枝鎖を含む。非限定的な例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ネオペンチル、及びヘキシルが含まれる。疑義を避けるために、2つのアルキル部分が基に存在する場合、アルキル部分は同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
本明細書で使用される場合、「シクロアルカン」という用語は、1~3個の環を含み、3~12個の環炭素原子を有する環状脂肪族炭化水素を指す。
【0037】
本明細書で使用される場合、「治療」又は「治療すること」という用語は、治療剤、例えば、レテルモビルのカリウム塩若しくはその溶媒和物(単独若しくは別の医薬品との組み合わせ)の、対象への適用又は投与、あるいは、HCMV感染、HCMV感染の症状、若しくはHCMV感染を発症する可能性を治癒する(cure)か、癒す(heal)か、軽減するか、緩和するか、変更するか、治す(remedy)か、改善する(ameliorate)か、向上させる(improve)か、又はそれに影響を与える目的での、HCMV感染、HCMV感染の症状、又はHCMV感染を発症する可能性を有する対象由来の単離組織又は細胞系への、治療剤の適用又は投与として定義される。このような治療は、ファーマコゲノミクスの分野から得られた知識に基づいて、特別に調整又は変更することができる。
【0038】
本明細書で使用される場合、「予防する」、「予防すること」又は「予防」という用語は、何も生じていない場合には、障害若しくは疾患の発症がないこと、又は障害若しくは疾患の発症がすでにある場合には、さらなる障害若しくは疾患の発症がないことを意味する。また、障害又は疾患に関連する症状の一部又はすべてを予防する能力も考慮される。疾患の予防(prevention)には、疾患の予防法(prophylaxis)も含まれる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒト又は非ヒト哺乳動物を指す。非ヒト哺乳動物には、例えば、ヒツジ、ウシ、ブタ、ネコ、イヌ、及びマウス哺乳動物などの家畜及びペットが含まれる。好ましくは、対象は、ヒトである。
【0040】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される」という用語は、化合物の生物学的活性又は特性を無効にせず、比較的非毒性である担体又は希釈剤などの材料を指す。つまり、この材料は、望ましくない生物学的作用を引き起こすことなく、又はそれが含有される組成物の成分のうちのいずれかと有害な方法で相互作用することなく、対象に投与され得る。
【0041】
本発明は、下記式(I):
【化4】
のレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物に関する。
【0042】
驚くべきことに、本発明者らは、新規カリウムレテルモビル塩である、式(I)の2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウムを提供しており、これは、レテルモビル遊離塩基を、C1~C6-ジアルキルエーテル及び/又はC5~C9-アルカン及び/又はC5~C9-シクロアルカンとアルコールとの混合物、特にジイソプロピルエーテルとエタノールとの混合物に溶解し、続いて水酸化カリウムを添加することにより得ることができる。あるいは、前記カリウム塩は、レテルモビル遊離塩基を酢酸イソプロピルとジイソプロピルエーテルとの混合物に溶解し、続いて水酸化カリウムを添加することによって得ることができる。
【0043】
前記結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物は、異なる多形形態で存在し得る。多形は、溶解度、安定性及びバイオアベイラビリティなどの、実質的に異なる物理化学的特性を有する可能性がある、同じ化合物の異なる結晶形である。多形は薬物挙動に影響を与える可能性があるため、薬物物質の多形の評価は、製剤研究において重要な役割を果たす。例えば、薬物物質の溶解速度は、最終製品のバイオアベイラビリティに影響を与える。さらに、溶解度は、薬物物質の多形性状に依存する。多形が異なれば溶解度も異なる可能性があるため、対応する薬物のバイオアベイラビリティは異なる可能性がある。
【0044】
多形体の検査には様々な方法を使用できる。そのような方法には、顕微鏡法、IR分光法、ラマン分光法、固体NMR、TGA、DSC、PXRD、PDF、及びその他の技術が含まれる。様々な技術を組み合わせて適用できる。特に、PXRDは、多形体を検査するための有力な技術である。X線は、ビームと結晶面との間の角度がブラッグ条件を満たしている場合にのみ、結晶から反射される。結晶には無数の可能な面がある。各分子の繰り返しは、固有の一連の反射を与えるため、固有のパターンを生成し、これはスペクトルとして記録できる。
【0045】
しかしながら、従来のPXRD分析は、材料の平均的な構造(例えば、平均位置、変位パラメーター、及び占有率)をもたらすが、材料における局所的不規則性に関する情報を提供することはできない。この目的のためには、二体分布関数(PDF)を使用できる。これは、特定の原子から特定の距離にある原子を見出す確率を示す。PDFは、全散乱回折パターンのサイン-フーリエ変換であり、平均原子間距離、構造不規則性又は歪み、及び平均配位特性に関する情報を提供する。したがって、PDFは、従来のPXRD分析では区別できない同じ化合物の異なる固体形態を区別することができる。特に、様々な程度の不規則性によって特徴付けられる様々な非晶質形態が、PDF分析によって決定できる。(Boetker et al.Pharmaceutics 2012,4,93-103)。
【0046】
特に、レテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物は、水和物である。
【0047】
レテルモビルの結晶性カリウム塩が、水-エタノール混合溶媒和物(形態A)として同定された。結晶形態Aは、特に、工程aにおいて2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸又はその塩若しくは溶媒和物をC1~C6-ジアルキルエーテルに溶解する、本明細書に記載された方法によって得ることができる。
【0048】
レテルモビルのカリウム塩の結晶形態Aは、PXRD、H-NMR、DVS、TGA及びDSCによって特徴付けられた(図1~4を参照)。レテルモビルのカリウム塩の前記多形結晶形態AのX線回折パターンは、6.1、9.4、10.6、11.2、12.3、12.8、15.5、16.3、16.7、17.8、18.9、19.9、20.8の、21.7、22.3、23.5、25.1、25.9、26.6、27.1、28.1、28.5、29.4、30.1、30.8、31.2、32.0、32.6及び33.3度の2シータ角度値を含み、前記2シータ角度値は±0.1°の正規偏差を有する。
【0049】
レテルモビルのカリウム塩の結晶形態Aに加えて、レテルモビルのカリウム塩の別の形態である2.5水和物(形態B)が同定された。結晶形態Bは、PXRD、H-NMR、DVS、TGA及びDSCによって特徴付けられた(図5~8を参照)。レテルモビルのカリウム塩の前記結晶形態BのX線回折パターンは、6.1、9.5、10.7、11.3、12.4、12.9、15.6、16.4、16.8、17.9、19.0、20.0、20.9、21.7、22.4、23.6、25.2、26.0、26.7、27.3、28.2、28.7、29.6、30.2、30.9、31.4、32.2、32.8及び33.4度の2シータ角度値を含み、前記2シータ角度値は±0.1°の正規偏差を有する。
【0050】
結晶形態Bは、特に、以下の工程i):
i)第2の固体を20℃~30℃の範囲内の温度及び少なくとも60%の相対湿度で少なくとも1時間維持する工程、をさらに含む本明細書に記載の方法によって得ることができる。
【0051】
あるいは、結晶形態Bは、特に、以下の工程:
a’)2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸又はその塩若しくは溶媒和物を、任意選択的に加熱下で、第1溶媒に溶解する工程であって、前記第1の溶媒が、少なくとも1つのC1~C6-ジアルキルエーテル及び少なくとも1つのC1~C6アルコールを含む、工程と、
b’)工程a’で得られた溶液に水酸化カリウムを添加して、第1の混合物を提供する工程と、
c’)工程bで得られた前記第1の混合物を、25℃~80℃の範囲内の温度で、少なくとも5分間攪拌する工程と、
d’)前記第1の混合物を0℃~30℃の範囲内の温度まで冷却し、前記第1の混合物を前記温度で少なくとも10分間攪拌する工程と、
e’)前記第1の溶媒を除去して、第1の固体を提供する工程と、
f’)前記第1の固体を、少なくとも1つのC1~C6-ジアルキルエーテルを含む第2の溶媒と接触させて、第2の混合物を提供する工程と、
g’)前記第2の混合物を、0℃~30℃の範囲内の温度で、少なくとも1時間撹拌する工程と、
h’)前記第2の溶媒を除去して、第2の固体を提供する工程と、
i’)酢酸イソプロピルを含む第3の溶媒に前記第2の固体を溶解する工程と、
j’)工程i’で得られた溶液に、少なくとも1つのC1~C6ジアルキルエーテルを添加する工程と、
k’)任意選択的に、前記混合物を攪拌する工程と、
l’)前記第3の溶媒を除去して第3の固体を提供する工程と、を含む方法によって得ることができる。
【0052】
好ましい実施形態において、レテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物を製造する方法は、以下の工程:
a)2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸又はその塩若しくは溶媒和物を、任意選択的に加熱下で、第1溶媒に溶解する工程であって、前記第1の溶媒が、少なくとも1つのC1~C6-ジアルキルエーテル及び少なくとも1つのC1~C6アルコールを含む、工程と、
b)工程aで得られた溶液に水酸化カリウムを添加して、第1の混合物を提供する工程と、
c)工程bで得られた前記第1の混合物を、25℃~80℃の範囲内の温度で、少なくとも5分間攪拌する工程と、
d)前記第1の混合物を0℃~30℃の範囲内の温度まで冷却し、前記第1の混合物を前記温度で少なくとも10分間攪拌する工程と、
e)前記第1の溶媒を除去して、第1の固体を提供する工程と、
f)前記第1の固体を、少なくとも1つのC1~C6-ジアルキルエーテルを含む第2の溶媒と接触させて、第2の混合物を提供する工程と、
g)前記第2の混合物を、0℃~30℃の範囲内の温度で、少なくとも1時間撹拌する工程と、
h)前記第2の溶媒を除去して、第2の固体を提供する工程と、を含む。
【0053】
一実施形態では、前記方法は、第2の固体を、20℃~30℃の範囲内の温度及び少なくとも60%の相対湿度で少なくとも1時間、より好ましくは2時間、さらにより好ましくは少なくとも5時間、さらにより好ましくは少なくとも10時間、さらにより好ましくは少なくとも1日、さらにより好ましくは少なくとも2日間、最も好ましくは3日間維持する後続の工程をさらに含んでもよい。
【0054】
一実施形態では、前記C1~C6-ジアルキルエーテルは、C1~C4-ジアルキルエーテル、好ましくはジイソプロピルエーテルである。一実施形態では、前記C1~C6アルコールは、C1~C4アルコール、好ましくはエタノールである。
【0055】
一実施形態では、工程a又はa’におけるC1~C6-ジアルキルエーテルとC1~C6アルコールとの容量比は、3:1~1:3の範囲内である。好ましくは、工程a又はa’におけるC1~C6-ジアルキルエーテルとC1~C6アルコールとの容量比は、2:1~1:2の範囲内である。より好ましくは、工程aにおけるC1~C6-ジアルキルエーテルとC1~C6アルコールとの容量比は、1.5:1~1:1.5の範囲内である。最も好ましくは、工程aにおけるC1~C6-ジアルキルエーテルとC1~C6アルコールとの容量比は、約1:1である。
【0056】
一実施形態では、2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸又はその塩若しくは溶媒和物は、工程a又はa’において、20℃~60℃の範囲、好ましくは40℃~60℃、より好ましくは45℃~55℃の範囲、最も好ましくは約50℃の範囲内の温度で溶解される。
【0057】
一実施形態では、工程b又はb’における水酸化カリウムは、レテルモビル遊離塩基に対して1~5当量の量で添加される。好ましい実施形態では、工程b又はb’における水酸化カリウムは、レテルモビル遊離塩基に対して1~3当量の量で添加される。より好ましい実施形態では、工程b又はb’における水酸化カリウムは、レテルモビル遊離塩基に対して1~2当量の量で添加される。工程b又はb’におけるより好ましい水酸化カリウムは、レテルモビル遊離塩基に対して約1当量の量で添加される。
【0058】
一実施形態では、工程c又はc’の混合物は、25℃~80℃の範囲、好ましくは30℃~70℃の範囲、より好ましくは40℃~60℃の範囲、さらにより好ましくは45℃~55℃の範囲、最も好ましくは約50℃の温度で攪拌される。一実施形態では、工程c又はc’の混合物は、前記温度で、少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間、さらにより好ましくは少なくとも30分間、さらにより好ましくは少なくとも1時間、特に2時間攪拌される。一実施形態では、工程c又はc’の混合物は、45℃~55℃の範囲内の温度で少なくとも30分間攪拌される。一実施形態では、工程c又はc’の混合物は、45℃~55℃の範囲内の温度で少なくとも1時間攪拌される。一実施形態では、工程c又はc’の混合物は、約50℃の温度で少なくとも30分間攪拌される。一実施形態では、工程c又はc’の混合物は、約50℃の温度で少なくとも1時間攪拌される。
【0059】
一実施形態では、工程d又はd’の混合物は、0℃~30℃の範囲、より好ましくは10℃~30℃の範囲、さらにより好ましくは20℃~30℃の範囲内の温度まで、最も好ましくは室温まで冷却される。一実施形態において、工程d又はd’の混合物は、少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間、さらにより好ましくは少なくとも30分間、さらにより好ましくは少なくとも1時間、特に2時間、前記温度で撹拌される。一実施形態では、工程d又はd’の混合物を20℃~30℃の範囲内の温度まで冷却し、その温度で少なくとも30分間攪拌する。一実施形態では、工程d又はd’の混合物を20℃~30℃の範囲内の温度まで冷却し、前記温度で少なくとも1時間撹拌する。
【0060】
一実施形態では、工程e又はe’における前記第1の溶媒は、蒸発によって除去される。
【0061】
一実施形態では、工程h又はh’における前記第2の溶媒は、濾過によって除去される。
【0062】
一実施形態では、工程g又はg’の混合物は、0℃~30℃の範囲、より好ましくは10℃~30℃の範囲、さらにより好ましくは20℃~30℃の範囲、最も好ましくは室温までの温度で撹拌される。一実施形態において、工程g又はg’の混合物は、少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも2時間、さらにより好ましくは少なくとも5時間、さらにより好ましくは少なくとも10時間、特に1日間、前記温度で撹拌される。
【0063】
本明細書に記載の発明によるさらに好ましい実施形態では、方法は、前記2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物を造粒又は微粉化する工程をさらに含むことができる。
【0064】
一態様では、本発明はさらに、本明細書に開示される方法によって得ることができるレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物に関する。
【0065】
その特性及び特徴により、本発明によるレテルモビルのカリウム塩又はその溶媒和物を使用して、疾患、特にウイルス感染を予防及び/又は治療する方法での使用に好適な薬学的組成物を製造することができる。
【0066】
例として、以下の適応領域を挙げることができる:
1)AIDS対象におけるHCMV感染(網膜炎、肺炎、胃腸感染)の治療及び予防、
2)生命を脅かすHCMV肺炎又は脳炎、並びに胃腸及び全身性HCMV感染にしばしば罹患する骨髄及び臓器移植対象におけるサイトメガロウイルス感染の治療及び予防、
3)新生児及び幼児におけるHCMV感染の治療及び予防、
4)妊娠中の女性における急性HCMV感染の治療、
5)癌に罹患し、癌治療を受けている免疫抑制された対象におけるHCMV感染の治療、
6)HCMV介在性腫瘍の進行を低減することを目的とした、HCMV陽性の癌対象の治療(J.Cinatl,et al.,FEMS Microbiology Reviews 2004,28,59-77を参照)。
【0067】
本発明のレテルモビルのカリウム塩又はその溶媒和物は、好ましくは、ヘルペスウイルス科群、特にサイトメガロウイルス、特にヒトサイトメガロウイルスによる感染の予防及び/又は治療に使用するのに好適な薬学的組成物を製造するために使用される。
【0068】
その薬理学的特性及び特徴により、本発明によるレテルモビルの結晶性カリウム塩又はその溶媒和物を、それら自体によって、及び必要であればまた他の活性物質、特に抗ウイルス剤と組み合わせて、使用することができる。
【0069】
他の態様において、本発明は、式(I)の結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物を含む、薬学的組成物に関する。好ましくは、薬学的組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は希釈剤をさらに含む。
【0070】
薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は希釈剤としては、好ましくはラクトース、デンプン、スクロース、セルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、タルク、マンニトール、エチルアルコール(液体充填カプセル)のような不活性担体などの担体を使用することができる。適切な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、天然糖、コーンシロップ、アカシアなどの天然及び合成ガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール及びワックス、スクロースなどの糖類、小麦、コーンライス及びジャガイモ由来のデンプン、アカシア、ゼラチン及びトラガントなどの天然ガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸アンモニウムカルシウムなどの海藻誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース材料、ポリビニルピロリドン、及びケイ酸アルミニウムマグネシウムなどの無機化合物;ホウ酸、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸カリウム、ステアリン酸、高融点ワックスなどの潤滑剤、塩化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール及びD,L-ロイシンなどの他の水溶性潤滑剤;デンプン、メチルセルロース、グアーガム、デンプングリコール酸ナトリウムなどの加工デンプン、イナゴマメ、カラヤ、グアー、トラガント及び寒天などの天然及び合成ガム、メチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体、微結晶セルロース、及びクロスカラメロースナトリウムなどの架橋微結晶性セルロース、アルギン酸及びアルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩、ベントナイトなどの粘土、及び発泡性混合物などの崩壊剤(崩壊物);着色料、甘味料、香味料、保存料を挙げられる。滑剤は、例えば二酸化ケイ素及びタルクである。好適な吸着剤は、粘土、酸化アルミニウムであり、好適な希釈剤は、非経口注射用の水又は水/プロピレングリコール溶液、ジュース、ラクトース、スクロース、マンニトール及びソルビトールなどの糖類、小麦、コーンライス及びジャガイモ由来のデンプン、並びに微結晶性セルロースなどのセルロースである。
【0071】
本発明の薬学的組成物は、既知の方法で、好適な投薬量レベルで、従来の固体若しくは液体担体又は希釈剤及び従来の医薬的に作製されたアジュバント中で調製できる。好ましい調剤は、口腔用途に適合できる。これらの投与形態には、例えば、丸剤、錠剤、フィルム錠剤、被覆錠剤、カプセル、散剤及び沈殿物(deposits)が含まれる。
【0072】
さらに、本発明はまた、皮膚、皮内、胃内、皮内、血管内、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、膣内、頬内、経皮、直腸、皮下、舌下、局所、又は経皮適用を含む、非経口適用のための薬学的調剤を含み、この調剤は、通常のビヒクル及び/又は希釈剤に加えて、2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)-ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5]-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物を含む。
【0073】
本発明による2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)-ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5]-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物を有効成分として含有する薬学的組成物は、典型的には、意図される投与形態に関して、すなわち錠剤、カプセル(固体充填、半固体充填、又は液体充填のいずれか)、構成用散剤(powders for constitution)、押出物、沈殿物、ゲル、エリキシル、分散性顆粒剤、シロップ、懸濁液などの形態での経口投与のために選択された好適な担体材料と一緒に投与され、従来の薬学的慣習と一致しているであろう。例えば、錠剤又はカプセルの形態での経口投与の場合、活性薬物成分は、任意の経口非毒性の薬学的に許容される担体、好ましくはラクトース、デンプン、スクロース、セルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、タルク、マンニトール、エチルアルコール(液体充填カプセル)などの不活性担体と組み合わせてもよい。さらに、好適な結合剤、潤滑剤、崩壊剤及び着色剤も、錠剤又はカプセルに組み込んでもよい。散剤及び錠剤は、約5~約95重量%の、式(II)の本発明の2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物を活性成分として含む薬学的組成物に関する。
【0074】
好適な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、天然糖、コーンシロップ、アカシアなどの天然及び合成ガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、並びにワックスが挙げられる。好適な潤滑剤としては、ホウ酸、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどを挙げることができる。好適な崩壊剤としては、デンプン、メチルセルロース、グアーガムなどが挙げられる。必要に応じて、甘味料及び香味料、並びに防腐剤を含めることもできる。崩壊剤、希釈剤、潤滑剤、結合剤などについては、以下でより詳細に検討する。
【0075】
さらに、本発明の薬学的組成物は、抗ヒスタミン作用などの治療効果(複数可)を最適化するために、持続放出形態で処方されて、成分又は有効成分のうちの任意の1つ以上の速度制御放出を提供してもよい。持続放出に適した剤形には、様々な崩壊速度の層を有する錠剤、又は活性成分を含浸させ、錠剤形態に成形した制御放出ポリマーマトリックス、又はそのような含浸若しくはカプセル化多孔性ポリマーマトリックスを含有するカプセルが含まれる。
【0076】
液体形態の調剤としては、溶液、懸濁液及び乳剤が挙げられる。例として、非経口注射のための水又は水/プロピレングリコール溶液、又は経口溶液、懸濁液及び乳剤のための甘味料及び乳白剤の添加を挙げることができる。また、液体形態の調剤には、経鼻投与用溶液が含まれる場合がある。吸入に適したエアロゾル調剤は、粉末形態の溶液及び固体を含んでもよく、これらは不活性な圧縮ガス、例えば窒素などの薬学的に許容される担体と組み合わせて存在してもよい。座薬を調製するには、カカオバターのような脂肪酸グリセリドの混合物などの低融点脂肪又はワックスを最初に溶融し、次に有効成分を、攪拌によってその中に均一に分散させる。次に、溶融した均一な混合物を都合のよいサイズの金型に注ぎ、放冷し、それによって凝固させる。
【0077】
また、使用直前に、経口又は非経口投与用の液体調剤に変換することを意図した固形調剤も含まれる。このような液体形態としては、溶液、懸濁液及び乳剤が挙げられる。
【0078】
本発明による2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物は、経皮的に送達されてもよい。経皮組成物は、クリーム、ローション、エアロゾル及び/又は乳剤の形態を有してもよく、この目的のために当技術分野で知られているマトリックス又はリザーバタイプの経皮パッチに含まれてもよい。
【0079】
本明細書に記載のカプセルという用語は、例えば、有効成分(複数可)を含む組成物を保持又は収容するための、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、又は変性ゼラチンまた若しくはデンプンで作製された特定の容器又はエンクロージャを指す。硬い殻を持つカプセルは、通常、骨又は豚の皮から得た比較的ゲル強度の高いゼラチンをブレンドして作製される。カプセルそれ自体には、少量の染料、不透明剤、可塑剤、及び/又は防腐剤が収容されている場合がある。錠剤とは、好適な希釈剤を含む活性成分を含む、圧縮又は成形された固体剤形と理解される。錠剤は、湿式造粒、乾式造粒、又は当業者に周知の圧縮によって得られる混合物又は顆粒の圧縮によって調製されてもよい。
【0080】
経口ゲルとは、親水性の半固体マトリックスに分散又は可溶化された有効成分を指す。構成用散剤とは、有効成分及び好適な希釈剤を含有する粉末ブレンドを指し、この粉末ブレンドは、水又はジュースに懸濁され得る。
【0081】
好適な希釈剤は、組成又は剤形の大部分を通常構成する物質である。好適な希釈剤としては、ラクトース、スクロース、マンニトール及びソルビトールなどの糖類、小麦、コーンライス及びジャガイモ由来のデンプン、並びに微結晶性セルロースなどのセルロースが挙げられる。組成物中の希釈剤の量は、組成物全体の約5~約95重量%、好ましくは約25~約75重量%、より好ましくは約30~約60重量%の範囲であってもよい。
【0082】
崩壊剤という用語は、医薬の薬学的に有効な成分の分解(崩壊)及び放出を支援するために組成物に添加される材料を指す。好適な崩壊剤としては、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウムなどの「冷水可溶性」加工デンプン、イナゴマメ、カラヤ、グアー、トラガント及び寒天などの天然及び合成ガム、メチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体、微結晶性セルロース、及びクロスカラメロースナトリウムなどの架橋微結晶性セルロース、アルギン酸及びアルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩、ベントナイトなどの粘土、及び発泡性混合物が挙げられる。組成物中の崩壊剤の量は、組成物の約2~約20重量%、より好ましくは約5~約10重量%の範囲であってもよい。
【0083】
結合剤は、粉末粒子を結合又は「接着」し、顆粒を形成することでそれらを凝集させ、製剤中の「接着剤」として機能する物質である。結合剤は、希釈剤又は増量剤においてすでに利用可能な凝集力を付加する。適切な結合剤としては、スクロースなどの糖類、小麦、コーンライス及びジャガイモ由来のデンプン、アカシア、ゼラチン及びトラガントなどの天然ガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸アンモニウムカルシウムなどの海藻誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース材料、ポリビニルピロリドン、及びケイ酸アルミニウムマグネシウムなどの無機化合物が挙げられる。組成物中の結合剤の量は、組成物の約2~約20重量%、好ましくは約3~約10重量%、及びより好ましくは約3~約6重量%の範囲であってもよい。
【0084】
潤滑剤とは、剤形に添加されて、摩擦又は摩耗を低減することによって、圧縮後に錠剤顆粒などを金型又はダイから解放することができる物質のクラスを指す。適切な潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸カリウムなどの金属ステアリン酸塩、ステアリン酸、高融点ワックス、及び塩化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール及びD,L-ロイシンなどの他の水溶性潤滑剤が挙げられる。潤滑剤は、顆粒の表面に存在する必要があるため、通常、圧縮前の最後の工程で添加される。組成物中の潤滑剤の量は、組成物の約0.2~約5重量%、好ましくは約0.5~約2重量%、より好ましくは組成物の約0.3~約1.5重量%の範囲であってもよい。
【0085】
滑剤は、薬学的組成物の成分のケーキングを防止し、流動が滑らかで均一になるように顆粒の流動特徴を改善する材料である。好適な滑剤としては、二酸化ケイ素及びタルクが挙げられる。組成物中の滑剤の量は、最終組成物の約0.1~約5重量%、好ましくは約0.5~約2重量%の範囲であってもよい。
【0086】
着色剤は、組成物又は剤形を着色する賦形剤である。このような賦形剤としては、粘土又は酸化アルミニウムなどの好適な吸着剤に吸着された食品グレードの染料を挙げることができる。着色剤の量は、組成物の約0.1~約5重量%、好ましくは約0.1~約1重量%まで変化する場合がある。
【0087】
本発明のレテルモビルのカリウム塩及びその溶媒和物は、ヘルペスウイルス科群(ヘルペスウイルス)を代表するもの、とりわけサイトメガロウイルス(CMV)、特にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)に対して抗ウイルス効果を示す。したがって、それらは、疾患、特にウイルス(とりわけ、本明細書で言及されるウイルス)による感染、及びそれらによって引き起こされる感染症を治療及び予防する方法における使用に好適である。ここで、「ウイルス感染」という用語は、ウイルスによる感染のみならず、ウイルスによる感染によって引き起こされる疾患をも意味するものと理解される。
【0088】
したがって、本発明の別の態様は、サイトメガロウイルス、特にヒトサイトメガロウイルスによって引き起こされる及び/若しくはそれに関連する感染症の治療並びに/又は予防方法で使用するための、結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物を含む薬学的組成物に関する。
【0089】
別の態様では、本発明は、疾患、特にウイルス感染、好ましくはヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染若しくはヘルペスウイルス科群の別のメンバーによる感染の治療及び/又は予防のための医薬を調製するための、結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物含む薬学的組成物に関する。
【0090】
さらに、本発明は、サイトメガロウイルス(CMV)、特にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)に関連する及び/若しくはそれによって引き起こされる疾患、又はヘルペスウイルス科群の別のメンバーによる感染を治療及び/又は予防する方法であって、結晶性2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物を含む、治療有効量の薬学的組成物を、前記対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0091】
「有効量」という用語は、そのような治療を必要とする対象に投与した場合に、
(i)特定の疾患、状態若しくは障害を治療又は予防するか、
(ii)特定の疾患、状態若しくは障害の1つ以上の症状を軽減、改善又は排除するか、あるいは
(iii)本明細書に記載の特定の疾患、状態若しくは障害の1つ以上の症状の発症を予防するか又は遅らせるのに十分な化合物の量を意味する。
【0092】
2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸カリウム又はその溶媒和物の量は、特定の化合物、病状及びその重症度、治療を必要とする対象の個人情報(identity)(例えば、体重)などの要因に応じて変化するが、それにもかかわらず、当業者は常套的に決定することができる。
【0093】
略語
h 時間
DSC 示差走査熱分析
DVS 動的蒸気収着
HPLC 高圧液体クロマトグラフィー
min. 分
NMR 核磁気共鳴
PDF 二体分布関数
TGA 熱重量分析法
PXRD 粉末X線回折
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1図1は、得られたレテルモビルカリウム混合溶媒和物のPXRDを示す。
【0095】
図2図2は、レテルモビルカリウム混合溶媒和物のH-NMRスペクトルを示す。
【0096】
図3図3は、レテルモビルカリウム混合溶媒和物のDVSを示す。黒のトレースは、時間に対するサンプルの重量を示し、青のトレースは、時間に対する相対湿度を示す。
【0097】
図4図4は、レテルモビルカリウム混合溶媒和物のTGA及びDSC分析を示す。
【0098】
図5図5は、得られたレテルモビルカリウム水和物のPXRDを示す。
【0099】
図6図6は、レテルモビルカリウム水和物のH-NMRスペクトルを示す。
【0100】
図7図7は、レテルモビルカリウム水和物のDVSを示す。黒のトレースは、時間に対するサンプルの重量を示し、青のトレースは、時間に対する相対湿度を示す。
【0101】
図8図8は、レテルモビルカリウム水和物のTGA及びDSC分析を示す。
【0102】
図9図9は、レテルモビルカリウム水和物の単結晶X線構造を示す。1個のカリウム原子及び2.5個の水分子を含むレテルモビルの1個の分子。図に示されている一部の水分子は、隣接するセルと共有されている。
【0103】
図10図10は、レテルモビルカリウム水和物の単結晶X線構造を示す。2個のレテルモビル分子が、2個のカリウム原子及び5個の水分子と共に存在する。
【0104】
図11図11は、得られたレテルモビルカリウム混合溶媒和物のPXRDを示す。
【0105】
図12図12は、レテルモビルナトリウム混合溶媒和物のH-NMRスペクトルを示す。
【0106】
図13図13は、レテルモビルカリウム混合溶媒和物のDVSを示す。黒のトレースは、時間に対するサンプルの重量を示し、青のトレースは、時間に対する相対湿度を示す。
【0107】
図14図14は、レテルモビルカリウム混合溶媒和物のTGA及びDSC分析を示す。
【実施例
【0108】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。以下の実施例で開示される技術は、本発明の実施において十分に機能することが本発明者によって発見された技術を表し、したがって、その実施のための好ましい様式を構成するとみなすことができることを当業者は理解すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示された特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく同様又は類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【0109】
方法及び装置
粉末X線回折分析(PXRD):標準的なサンプルホルダー内で2つのポリアセテート箔を使用して、およそ20mgのサンプルを調製した。更なる操作を行わずに、サンプルを分析した。透過型配置で、CuKα1照射(1.54060Å)を使用して、D8 Advance Series 2シータ/シータ粉末回折システム上で粉末回折パターンを取得した。このシステムには、VÅNTEC-1単光子計数PSD、ゲルマニウムモノクロメーター、90位置オートチェンジャーサンプルステージ、固定発散スリット及びラジアルソーラー(radial soller)が装備されていた。X線ビームを生成するための発電機強度は、40mA及び40kVに設定される。使用したプログラム:DIFFRAC+XRD Commander V.2.5.1によるデータ収集、及びEVA V.14.0.0.0(Bruker-AXS 1996-2007)及びEVAV.5.0.0.22(Bruker-AXS 2010-2018)による評価。サンプルを、0.049°の角度ステップと、ステップ当たり2787秒の時間を用いて、4~40°の2θの範囲で、0.5時間の測定において室温で測定した。
【0110】
プロトン核磁気共鳴分光法(H-NMR):プロトン核磁気共鳴分析は、Bruker Avance 400 Ultrashield NMR分光計において重水素化DMSO(DMSO-d)中で記録された。スペクトルを、8~10mgのサンプルを0.6mLの重水素化溶媒に溶解して取得した。
【0111】
示差走査熱分析(DSC):約1~4mgのサンプルを、(MX5 Mettler Toledo微量天秤を使用して)秤量し、ピンホール蓋付きの40μLのアルミニウムるつぼに入れた。DSC分析を、Mettler Toledo DSC822e熱量計で記録した。使用したプログラム:ソフトウェアSTAReによるデータ収集及び評価。サンプルを乾燥窒素(流量:50mL/分)下、10℃/分で30~300℃まで加熱した。
【0112】
熱重量分析(TGA):約1~4mgのサンプルを、(MX5 Mettler Toledo微量天秤を使用して)秤量し、ピンホール蓋付きの40μLのアルミニウムるつぼに入れた。熱重量分析を、天秤MT1タイプのMettler Toledo TGA/SDTA851において記録した。使用したプログラム:ソフトウェアSTAReによるデータ収集及び評価。サンプルを乾燥窒素(流量:10mL/分)下、10℃/分で30~300℃まで加熱した。
【0113】
動的蒸気収着(DVS):約10~20mgのサンプルを、蓋のない150μL白金るつぼに量り取った。実験は、LF SDTA FRS2センサーを装備し、Modular Humidity Generator MHG 32と組み合わせたMettler Toledo TGA/DSC 1 LF機器において実行した。STAReソフトウェアを使用して、データの収集及び評価を行った。
【0114】
単結晶X線回折(XRD):測定した結晶は、偏光を使用するZeiss実体顕微鏡を使用して選択され、操作用の保護油としてのパーフルオロポリエーテルに浸漬した不活性条件下で調製した。結晶構造の決定は、Pilatus 200Kエリア検出器、MoKα放射を備えたRigaku MicroMax-007HFマイクロフォーカス回転陽極、Confocal Max Flux光学系、及びOxford Cryosystems低温装置Cryostream 700 plus(T=-173℃)を装備したRigaku回折計を使用して行った。全球データ収集は、ω及びφスキャンで使用した。使用したプログラム:CrysAlisProによるデータの収集及び削減(Rigaku OD,2015)。V/.60A及びScale3 Abspackスケーリングアルゴリズムによる吸収補正(CrysAlisPro 1.171.39.12b)(Rigaku OD,2015))。結晶構造の解は、コンピュータプログラムSHELXT(Sheldrick,G.M.Acta Cryst.2015 A71,3-8.)を使用して達成され、プログラムSHELXleを使用して視覚化された(C.B.Huebschle,G.M.Sheldrick&B.Dittrich;J.Appl.Cryst.,2011 44,1281-1284)。その後、欠落している原子を差分フーリエ合成から特定し、原子リストに加えた。プログラムSHELXL 2015(SHELXL;Sheldrick,G.M.Acta Cryst.,2015 A71,3-8)を使用して、すべての測定強度を使用したF の最小二乗精密化を実行した。異方性変位パラメーターを含むすべての非水素原子を精密化した。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC):
機器:Thermo Scientific Ultimate 3000 UHPLC
カラム:Agilent Zorbax Eclipse XDB C-18、150×4.6mm、5μm
流量:1.0ml/分
溶媒A:水中0.1%ギ酸
溶媒B:100%メタノール中0.1%ギ酸
停止時間:27分
注入容量:10μL
カラム温度:35℃
波長:260nm
オートサンプラー温度:10℃
【0115】
【表1】
【0116】
実施例1:レテルモビルカリウム混合溶媒和物の調製
レテルモビル遊離塩基(10g、17mmol)をエタノール及びジイソプロピルエーテルの混合物(1:1、39mL)に溶解した。その後、水酸化カリウム(0.922g、16mmol)を添加し、得られた混合物を50℃まで加熱し、3時間攪拌した。混合物を室温まで冷却し、一晩攪拌した。溶媒を蒸発させ(回転式蒸発器)、得られた発泡体を、追加のジイソプロピルエーテル(25mL)と共に室温で2時間攪拌した。えられたペーストを、混合水-エタノール溶媒和物として一晩結晶化させた。得られた固体を、PXRD、H-NMR、DVS、TGA及びDSCによって特徴付けた(図1~4を参照)。
【0117】
実施例2:レテルモビルカリウム水和物の調製
レテルモビル-エタノール混合溶媒和物のカリウム塩(2.75g、実施例1で得られた)を、気候チャンバ内において25℃及び70%の相対湿度で3日間保存した。エタノールを含まない水和形態が得られた。得られた固体を、PXRD、H-NMR、DVS、TGA及びDSCによって特徴付けた(図5~8を参照)。
【0118】
実施例3:レテルモビルカリウム水和物の単結晶の調製
実施例1で得られたレテルモビル水-エタノール混合溶媒和物のカリウム塩を、メタノール(MOH)、エタノール(EOH)、酢酸イソプロピル(AIP)、酢酸エチル(AET)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン(TOL)、2-ブタノン(MEC)及び酢酸メチル(MAC)に溶解した。抗溶媒ジイソプロピルエーテル(DIE)を添加し、サンプルを室温で48時間維持した。
【0119】
好適な単結晶が、酢酸イソプロピル(AIP)と共に実験で得られ、単結晶X線回折分析によって100Kで、その構造を決定した。
単結晶X線構造を図9及び10に示す。単位セル定数の概要を表2に示す。単結晶構造は、得られたカリウム塩が2.5個の水分子を含む水和物であることを示す。非対称単位は、1個の有機化合物分子及び2.5個の水分子を含有しており(図9)、これらはまた、2個の有機化合物分子及び5個の水分子と見ることもできる(図10)。
【0120】
【表2】
【0121】
参考例4:レテルモビルナトリウム混合溶媒和物の調製
50gのレテルモビル遊離塩基を、エタノール及びジイソプロピルエーテルの1:1混合物(195mL)に溶解した。約3gのNaOHを加え、混合物を50℃まで加熱し、3時間攪拌した。混合物を室温まで冷却し、一晩攪拌した。得られた懸濁液の容量を半分まで減らし(回転式蒸発器において蒸発)、得られた溶液を室温で2時間攪拌した。ジイソプロピルの追加分(37.5mL)を加え、得られた懸濁液を室温で2時間攪拌した。結晶化固体を濾過し、真空下、60℃で2時間乾燥させて、39g(72%)のレテルモビルナトリウム水-エタノール溶媒和物を得た。得られた固体を、PXRD、H-NMR、DVS、TGA及びDSCによって特徴付けた(図11~14を参照)。
【0122】
実施例5:レテルモビルカリウム混合溶媒和物及びレテルモビルナトリウム混合溶媒和物の溶解度の比較
過剰のレテルモビルカリウム混合溶媒和物(実施例1の塩)又はレテルモビルナトリウム混合溶媒和物(実施例4の塩)を、異なるpHを有する対応する緩衝液2mLに加えた。飽和懸濁液を、室温で2時間攪拌した。固体が完全には溶解せず、懸濁液を形成した場合、次いで、アリコートをナイロンシリンジフィルターに通して濾過し、得られた溶液をHPLCによって分析して、溶解したレテルモビルの量を求めた。混合物の最終pHも求めた。
【0123】
得られた溶解度試験結果を表3及び4に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
【表4】
【0126】
表3から分かるように、pH値を7.4~7.8の生理学的範囲内に維持しつつ、レテルモビルの前記結晶性カリウム塩を水性溶媒に溶解することにより、レテルモビル遊離塩基に対する100mg/mLの濃度レベルを達成することができる。レテルモビルの濃度が100mg/mLに達したら、7.4~7.8の範囲内で、カリウムイオンによって最終溶液のpHを安定化させる。最初の緩衝液のpHが8以上である場合にも、この効果は維持される。これらの結果は、レテルモビル遊離塩基に対する等モル比で存在するカリウムイオンの驚くべき緩衝効果の明らかな証拠を実証し、これにより、pH値を生理学的範囲内に維持しつつ、高濃度の活性物質を含む水溶液を調製することが可能になる。ナトリウム塩を用いた比較実験は、最初の緩衝液のpHが7よりも高い場合に、レテルモビルの濃度レベルが100mg/mLであることにより、溶液のpHが7から8へと上昇し、成長を続けることを実証する(表4)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14