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特許7512409腫瘍学及びウイルス学におけるハロゲン化キサンテンの新規の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】腫瘍学及びウイルス学におけるハロゲン化キサンテンの新規の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20240701BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240701BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240701BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K39/395 S
A61P31/14
A61P43/00 121
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022558583
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(86)【国際出願番号】 US2021024185
(87)【国際公開番号】W WO2021195400
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】63/000,231
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510293969
【氏名又は名称】プロヴェクタス ファーマテック,インク.
(73)【特許権者】
【識別番号】507132329
【氏名又は名称】ユーティーアイ リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100086368
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 誠
(72)【発明者】
【氏名】アル ナレンドラン
(72)【発明者】
【氏名】エドワード ブイ. パーシング
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】ブルース ホロヴィッツ
(72)【発明者】
【氏名】エリック エー. ワクター
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-507403(JP,A)
【文献】特表2004-503592(JP,A)
【文献】特開2005-009065(JP,A)
【文献】特表2013-525437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物被験体のSARS-CoV-2ウイルス感染症の処置に使用するための薬学的組成物であって、前記薬学的組成物は、SARS-CoV-2ウイルス複合体化量のローズベンガル二ナトリウムであり、
前記薬学的組成物は、前記哺乳動物被験体に投与される、薬学的組成物。
【請求項2】
前記投与が反復される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
哺乳動物被験体のSARS-CoV-2ウイルス感染症の処置に使用するための薬学的組成物であって、
前記薬学的組成物は、前記SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質に結合する有効量のホール抗体又はそのパラトープ含有部分、及びSARS-CoV-2ウイルス複合体化量のローズベンガル二ナトリウムであり、
前記薬学的組成物は、前記哺乳動物被験体に投与される、薬学的組成物。
【請求項4】
前記抗体が、ホール抗体である、請求項に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択された腫瘍学条件及びウイルス学条件において治療特性又は免疫療法特性を示すハロゲン化キサンテン分子の治療上の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍学とウイルス学は、動物、特にヒトの自然免疫系及び適応免疫系において重なる、わずかに関連する分野である。疾患の病因と所見は、通常異なるが、この重なりによって、一方の分野における発見を他方の分野に応用するための共通の根拠が提供される。ここで、本発明者らは、それぞれの分野で独立して得られた新しい発見を融合することによって、両分野に適用可能な新規アプローチを組み立てた。
【0003】
コロナウイルス(CoV)は、一本鎖リボ核酸RNA(ssRNA)ゲノムを含むプラス鎖エンベロープウイルスである。コロナウイルスは、1960年代に発見され、複数の哺乳動物及び鳥類の種に天然に存在する。CoVは、最近数十年の間に数回、天然の宿主種からヒトへの乗換えが生じた際に世界的な健康脅威となった(例えば、2003年のSARS-CoV、2012年のMERS-CoV及び2019年後期以降の現在のSARS-CoV-2)。ヒトでは、CoVは、軽症から致死的まで様々であり得る呼吸器感染症を引き起こす。これらのCoVに起因するヒト疾患は、それぞれ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)及び2019年CoV疾患(COVID-19)である。
【0004】
CoVは、表面に複数の球根状の突起(スパイク様ペプロマーを形成する表面タンパク質)を有する多形性の球状粒子(直径およそ12nm)である。ウイルスエンベロープは、これらのペプロマーをつなぎ留めている脂質二重層からなる。エンベロープの内部には、複数コピーのウイルスRNAゲノムに結合するヌクレオカプシドが存在する。宿主細胞の外に存在するとき、エンベロープ、膜タンパク質及びヌクレオカプシドが、一体となって、ウイルスゲノムを保護する。
【0005】
感染は、ペプロマーがトロピック細胞(tropic cell)(ウイルスの感染及び増殖を支援することができる細胞)上の相補的な宿主細胞レセプターに付着し、ウイルス又はウイルス成分が宿主生物に侵入すると始まる。付着後、宿主細胞のプロテアーゼが、レセプターに付着したペプロマーを切断し、活性化させる。宿主細胞のプロテアーゼの利用可能性に応じて、切断及び活性化により、エンドサイトーシス、又はウイルスエンベロープと宿主膜との直接融合による細胞侵入が可能となる。細胞内に侵入すると、ウイルスRNAは、宿主細胞のリボソームによって転写され、ウイルスが複製される。その結果生じる子孫のCoV粒子は、エキソサイトーシスによって宿主細胞から放出される。
【0006】
ヒトへの感染は、CoVペプロマーと、相補的な宿主細胞レセプターとの相互作用に依存している。これが、所与のウイルスの組織向性及び感染性を決定する。
【0007】
Zihe Rao及びその共同研究者が報告した研究は、4つのウイルス分類であるI、II、III及びIVの主要プロテアーゼ(Mpro)タンパク質の基質結合部位が、3次元の形態は似ているが、タンパク質配列は似ていないことに注目した。[Yang et al.,PLoS Biology 3(10):e324(2005).]Mproは、レプリカーゼポリタンパク質のタンパク質分解処理を通じたウイルス遺伝子の発現及び複製において中心的役割を担っているので、抗CoV薬設計の魅力的な標的である。[Zhang et al.,Science 10.1126/science.abb3405(2020年3月20日).]Mproは、各CoV群内で比較的高い配列類似性を示した。Mproは、ホモ二量体であり、その第1の作用の1つは、それ自体のタンパク質のうちの1つのN末端部分の一部を切断することである。
【0008】
Raoのグループは、表面構造に共有結合し、ウイルスの複製及び転写に重要なポイントにおいてCoV群の代表の活性を阻害する、N3と称される、共役カルボニルを含むペプチド模倣マイケルアクセプター分子を、計算モデリングのアプローチを用いて調製し、使用したことも報告した。自殺阻害剤の配列は、CoV TGEV MproのN末端自己処理部位のP1-P4の配列に基づいた[Yang et al.,PLoS Biology 3(10):e324(2005).]。
【0009】
3年後、Raoのグループは、さらなるCoV株を用いた研究をさらに報告し、彼らの以前の阻害剤及び改良型阻害剤の阻害効果の結晶学的証拠を提供した。改良型阻害剤の1つ(N27)は、バリン残基をイソロイシン残基で置換し、もう1つ(H16)は、N3イソロイシン2-ブチル側鎖をt-ブチル側鎖で置換した。[Xue et al.,J Virol 82(5):2515-2527(2008).]
【0010】
Rao及び共同研究者は、新型SARS-CoV-2のMproに関する非査読の研究を発表した。[Jin et al.,BioRxiv February 05,2020.]彼らは、Mpro結合ポケットに共有結合した阻害剤N3の結晶学的情報を提供し、N3並びに他の公知の化合物が、0.67~21.4μMのIC50値でMpro活性を阻害することを報告した。
【0011】
これらの阻害剤化合物の中には、米国食品医薬品局承認薬であるジスルフィラム及びカルモフールが含まれた一方で、エブセレン、シコニン、チデグルシブ、PX-12及びTDZD-8は、現在臨床試験中であるか、又は前臨床試験中である。エブセレンは、IC50が0.67μMであり、Mpro活性の最も強い阻害を有する。しかしながら、洗浄剤ベースのアッセイにおいて、TDZD-8は、Mproを特異的に阻害しない可能性がある凝集物ベースの阻害剤であると見出されたので、さらなる検討は行われなかった。
【0012】
エブセレンは、Mproウイルスシステインを部分的にしか改変しないと見出されたのに対し、カルモフールなどの他の阻害剤は、そのシステインを完全に改変した。エブセレンが最も強い阻害剤であることを考慮して、著者らは、この化合物及び他の化合物も親和性(非共有結合性の手段)を通じてMproを阻害すると考えた。
【0013】
COVID-19は、SARS-CoV-2の感染に起因する感染性の高い疾患であり、SARSの特徴を有する。一般的な症状としては、発熱、咳及び息切れが挙げられる。ほとんどの症例は、無症候性であるか又は軽症を有するとみられるが、一部は、重症肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、呼吸不全、敗血症性ショック、多臓器不全及び死亡に至る。死亡率は、米国ではおよそ1.8%と推定されているが[COVID-19 Dashboard by the Center for Systems Science and Engineering at Johns Hopkins University,1:26 P.M.,March 22,2021;coronavirus.jhu.edu/map]、年齢に大きく依存する。米国疾病対策予防センターは、基準群の5~17歳と比較して、死亡率が30~39歳では45倍高く、85歳以上では7,900倍高いと推定している。このことは、基礎疾患による寄与に加えて、免疫系の能力低下が、重症度の重要な因子となり得ることを示唆している。
【0014】
肺は、SARS-CoV-2の影響を最も受ける器官である。なぜなら、このウイルスは、肺のII型肺胞細胞に最も多く存在するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)というレセプターを介して宿主細胞にアクセスするからである。このウイルスは、そのペプロマー(節状の構造又はスパイク)を用いて、ACE2に接続し、宿主細胞に侵入する。
【0015】
各組織におけるACE2の密度は、その組織における当該疾患の重症度と相関し、一部では、ACE2活性を低下させることが保護につながり得ると示唆されているが、別の見解は、アンジオテンシンIIレセプター遮断薬を用いてACE2を増加させることが保護につながり得るというものである。肺胞疾患は、進行すると、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)及び呼吸不全を発症し得る。ACE2は、心臓細胞にも多く存在し、急性心外傷の経路となる可能性がある。
【0016】
レムデシビルは、入院を必要とするCOVID-19患者の処置のために2020年10月に承認された。商業的に入手可能なレムデシビルは、注射用又は静脈内用のVEKLURY(登録商標)という名称のものである(VEKLURY(登録商標)ラベル)。レムデシビルは、SARS-CoV-2の複製を阻害するための薬剤として現在、唯一承認されていると思われる。その他の方法では、患者は、支持療法(例えば、必要に応じて輸液及び酸素による補助)、並びに影響を受けた他の重要臓器のモニタリング及び支援によって管理される。ロピナビル/リトナビル、ニタゾキサニド、クロロキン及びヒドロキシクロロキン、並びにトシリズマブをはじめとしたいくつかの調査的COVID-19処置が、前臨床試験中及び/又は臨床試験中である。
【0017】
12歳以上且つ体重が少なくとも40キログラム(kg)の成人患者及び小児患者におけるレムデシビルの推奨投与量は、1日目に200mgという単回初回負荷量であり、その後、2日目から、30~120分かけて注入される、1日1回の100mgという維持量である。VEKLURY(登録商標)は、100mL又は250mLの0.9%塩化ナトリウム輸液バッグ内で希釈する前に滅菌注射用水で再構成する必要がある、100mgの凍結乾燥粉末としてバイアル内に供給されている。バイアル内に100mg/20mL[5mg/mL]溶液として供給されるVEKLURY(登録商標)注射剤は、250mLの0.9%塩化ナトリウム輸液バッグ内で希釈する必要がある。
【0018】
侵襲的な機械的人工呼吸及び/又は体外式膜型人工肺(ECMO)を必要としない患者の場合、推奨される総処置期間は、5日間である。患者が、臨床的な改善を示さない場合、処置は、さらに最大5日間延長でき、総処置期間は最大10日間となる(VEKLURY(登録商標)ラベル)。
【0019】
レムデシビルは、エボラウイルス感染症及びマールブルグウイルス感染症に対する抗ウイルス薬として開発され、ssRNAウイルスに対する活性を有すると示されている。レムデシビルは、活性型であるGS-441524に代謝されるプロドラッグであり、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼの作用を干渉し、ウイルスRNAの産生を低下させる。レムデシビルは、細胞内に拡散すると、GS-441524一リン酸に変換され、それが、活性なヌクレオチド三リン酸型のレムデシビル(RTP)にリン酸化される。[Padhi et al.,bioRxiv,p.4,2020年6月29日投稿.]レムデシビルは、半減期が約0.89時間であるのに対して、GS-441524は、半減期が約25時間である[Tempestilli et al.,J Antimicrob Chemother,doi:10.1093/jac/dkaa239(2020年5月14日受理)]。
【0020】
University of AlbertaのGotteのグループなどからの最近の論文発表[Tchesnokov et al.,J Biol Chem 295(47):16156-16165(2020年11月20日)]では、鋳型依存的阻害である第2の阻害機構が提供されている。
【0021】
ロピナビル/リトナビル(LPV/r)は、ヒト免疫不全ウイルス感染症/後天性免疫不全症候群(HIV/AIDS)の処置及び予防のために開発された、ロピナビルと低用量リトナビルとの配合剤である。両剤は、プロテアーゼ阻害剤クラスの抗レトロウイルス薬である。LPV/rとウミフェノビル(umifenovir)(インフルエンザに対して用いられるインドール誘導体で、ウイルスとトロピック細胞との接触を遮断してウイルス膜の融合を阻害する)と抗ウイルス薬なしとの三者間の探索的無作為化試験は、SARS-COV-2に対する活性に差がないことを示した。[Li et al.,medRxiv 2020年3月19日.]
【0022】
ニタゾキサニドは、広域抗寄生生物薬且つ広域抗ウイルス薬である。ニタゾキサニドは、抗寄生生物活性及び抗ウイルス活性を有する合成ニトロチアゾリル-サリチルアミド誘導体である薬物クラスであるチアゾリドのプロトタイプメンバーである。ニタゾキサニドは、インフルエンザ、慢性B型肝炎ウイルス(HBV)及び慢性C型肝炎ウイルス(HCV)に対する臨床試験においていくらかの見込みを示しており、ロタウイルス及びノロウイルス胃腸炎の処置についても研究されている。抗ウイルス活性は、ウイルスヘマグルチニンの成熟、ヘマグルチニンの細胞内輸送及び宿主の原形質膜へのタンパク質の挿入を損なうことなどの宿主の転写因子を選択的に遮断することを介するとみられる。
【0023】
リン酸クロロキンは、ウイルスと細胞との融合プロセスを干渉し得る、エンドソームのpH値の上昇によって、抗ウイルス機能を発揮すると考えられている。リン酸クロロキンは、亜鉛イオノフォアとしても作用することがあり、それにより、細胞外の亜鉛が細胞内に入り、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼを阻害することが可能になる。
【0024】
ヒドロキシクロロキンは、抗原提示細胞においてリソソームのpH値を上昇させる。炎症状態において、ヒドロキシクロロキンは、形質細胞様樹状細胞(PDC)上のtoll様レセプター(TLR)を遮断し、TLRシグナル伝達を減少させ、樹状細胞(DC)の活性化を低減し、炎症過程を減少させる。
【0025】
世界保健機関(WHO)は、(a)レムデシビル、(b)クロロキン及びヒドロキシクロロキン、(c)LPV/r、又は(d)インターフェロンベータ(IFN-β)を伴うLPV/rがCOVID-19の処置に対して有用性を有するかを評価する世界的大規模の臨床試験を2020年3月20日に発表した。[Kupferschmidt and Cohen,Science 2020年3月22日.]さらに、2020年に記録的な速さで4つの大規模な無作為化対照試験(RCT)が実施され、信頼性の高いデータがもたらされた。(1)米国国立衛生研究所(NIH)のRCTには、世界中の60の病院が参加し、COVID-19肺炎で入院した成人の回復時間の短縮におけるレムデシビルの有効性が示され、(2)3つの大規模RCTは、すでに終了し、それぞれヒドロキシクロロキン、デキサメタゾン並びにロピナビル及びリトナビルに対するものだった。これらの治験は、University of Oxfordが主導する「Recovery」プロジェクトの傘下で行われた。このプロジェクトには、英国内の176の病院が参加しており、このプロジェクトは、COVID-19に使用されるいくつかの処置の有効性を検証するために発足された。[Ortolani et al.,Clin Mol Allergy 18:17(2020)]
【0026】
これらの3つの「Recovery」RCTは、(a)ヒドロキシクロロキンによる処置は、COVID-19で入院した患者に恩恵をもたらさない、(b)デキサメタゾンによる処置は、機械的人工呼吸を受けているCOVID-19患者の死亡数を3分の1減少させ、酸素投与のみを受けている患者での死亡数を5分の1減少させる、(c)ロピナビルとリトナビルとの併用は、COVID-19入院患者の死亡率低下に有効でない、という結論に間違いなく達した[Ortolani et al.,Clin Mol Allergy 18:17(2020)]。
【0027】
トシリズマブ(別名アトリズマブ(atlizumab))は、インターロイキン-6レセプター(IL-6R)に対する免疫抑制性ヒト化モノクローナル抗体である。IL-6は、免疫応答において重要な役割を果たし得るサイトカインであり、多くの疾患の病因に関わっている。医学界の一部では、COVID-19患者を処置するためにトシリズマブを使用したときの、重症の症状を有する一部の患者における改善が報告されているが、現在のところ、決定的なデータは得られていない。
【0028】
最近投稿された予備的研究であるHorby et al.,medRxiv,February 11,2021は、進行性のCOVID-19の臨床的エビデンス[室内空気において酸素飽和度が<92%であるか又は酸素療法を受けている、且つC反応性タンパク質(CRP)が≧75mg/Lであると定義される]を示す約4000人の入院患者を含む患者研究により、トシリズマブへの割り当てが、28日死亡率の13%の比例減少(死亡率比0.86、95%CI 0.77~0.96、p=0.007)と関連することを示したと指摘した。報告されたデータは、全身性炎症の証拠を有する低酸素のCOVID-19患者において、全身性コルチコステロイドとトシリズマブとの併用による処置が、単純な酸素投与を受けている患者の場合に死亡率を約3分の1減少させ、侵襲的な機械的人工呼吸を受けている患者の場合にはほぼ2分の1減少させると予想され得ることを示唆している。
【0029】
それらの結果は、トシリズマブの使用を裏付けるが、他のIL-6アンタゴニストも利用可能である。別のモノクローナル抗体IL-6アンタゴニストであるサリルマブの効果は、サリルマブを投与された48人の患者だけが、トシリズマブを使用したときと似ていたが、さらに2つの試験が終了し、報告はまだ公表されていない。
【0030】
ウイルス感染症又はウイルス感染症の影響(SARS-CoV-2によるものか、別のウイルスによるものかを問わない)に対処するためのこれらの取り組みは、利用可能なストラテジーのいくつかを浮き彫りにした:
宿主細胞へのウイルスの付着を阻止すること、
宿主細胞内へのウイルス遺伝子及び場合によっては酵素の放出を阻止すること、
宿主の細胞機構を用いたウイルス成分の複製を阻止すること、
ウイルス成分から完全なウイルス粒子へのアセンブリを阻止すること、
ウイルス粒子を放出して新しい宿主細胞に感染するのを阻止すること、及び
ウイルス感染に対する炎症反応を阻止すること。
【0031】
宿主細胞へのウイルスの付着
ウイルスは、標的細胞に入り込むために、宿主細胞の表面上の特定のレセプター部位に結合することから始まる一連の工程を経なければならない。結合が生じた場合、脂質エンベロープを有するウイルスは、そのエンベロープを標的細胞、又は細胞内にウイルスを輸送するベシクルと融合させなければならない。ウイルスは、細胞内に入ると、脱殻し、その内容物を放出する。このプロセスは、2つの手法で阻害され得る。
1)ウイルス関連タンパク質(VAP)を模倣し、宿主細胞上の細胞レセプターに結合する作用物質を使用する手法、及び
2)細胞レセプターを模倣し、ウイルス上のVAPに結合する作用物質を使用する手法。
【0032】
宿主細胞内へのウイルス遺伝子及び場合によっては酵素の放出
ウイルス脱殻の阻害は、インフルエンザ及びライノウイルス感染症に対して有用であることが証明されている。アプローチとしては、脱殻プロセスを制御する、ウイルス表面上のポケットを遮断することが挙げられ、この構造は、一連のライノウイルス(RV)及びエンテロウイルス(EV)の間で保存されている。
【0033】
宿主の細胞機構を用いたウイルス成分の複製
ウイルスゲノムの逆転写の阻止は、ウイルスRNA又はデオキシリボ核酸(DNA)の合成を不活性化することによって達成され得る。宿主ゲノムへのウイルスDNAの組み込みの阻止が、DNAウイルスに対して有効であり得る。RNA転写の開始にとって非常に重要な転写因子を阻止することにより、ウイルス成分の複製を阻止することができる。ウイルスによる宿主細胞機構の乗っ取りを阻止するためのさらなる機能的標的としては、翻訳/アンチセンス、翻訳/リボザイム及びプロテアーゼ阻害が挙げられる。
【0034】
ウイルス成分から完全なウイルス粒子へのアセンブリ
リファンピシンは、ワクシニアウイルスに対していくらかの有効性を示す抗生物質である。その主な作用機序は、ある特定のRNAポリメラーゼによるRNA合成の阻害であるが、ワクシニアウイルスに対しては、感染細胞におけるウイルス粒子の細胞質でのアセンブリを可逆的に阻止する。この機能は、重要なウイルス膜成分の四次構造を干渉することによって付与されるとみられ、それにより、完全なウイルス粒子への自己集合が阻害される。
【0035】
ウイルス粒子を放出して新しい宿主細胞に感染すること
ザナミビル及びオセルタミビルの2つの薬物は、インフルエンザウイルスの表面上に見られ、広範囲の株のインフルエンザの間で保存されているとみられる、ノイラミニダーゼを阻止することによって感染細胞からのウイルス粒子の放出を防ぐことによってインフルエンザを処置する。
【0036】
ウイルス感染に対する炎症反応
宿主のトロピック細胞への猛烈なウイルス感染は、感染細胞からの炎症性シグナル伝達成分(例えば、自然免疫反応に関わるサイトカイン、ケモカイン、損傷関連分子パターン(DAMPs)、並びにT細胞及び適応免疫応答の他の機能成分)の放出に起因して、局所的な又は全身性の重度の炎症反応を誘発することがあり、感染の局所症状や全身症状につながる。重症の肺炎反応の低減などのそのような疾患所見を処置するアプローチは、患者が、抗ウイルス薬治療及び/又は適応免疫応答のいずれかによって適切な抗ウイルス応答を開始し得るまで、重要な疾患制御を提供し得る。
【0037】
トロピック細胞のウイルス感染の防止若しくは感染したトロピック細胞内でのウイルスの機能活性の防止、又はウイルス感染中の制御不能な炎症反応の調節によるウイルス性疾患の制御にとってメリットがあり得る作用物質がいくつか存在するが、抗ウイルス剤のための新しい選択肢が必要であることは明らかである。CoVを制御することができ、且つCoVが国際社会に与え得る劇的な影響(例えば、COVID-19)を緩和することができる申し分ない作用物質がないことが、この早急な必要性を際立たせている。
【0038】
インターフェロン
インターフェロン(IFN)は、ウイルス、感染性微生物及び腫瘍細胞に対する細胞防御の中核を成すシグナル伝達タンパク質(すなわち、サイトカイン)の一群である。[Andrea et al.,Eur J Paed Neurol 6 Suppl A(6):A41-A46(2002).]例えば、ウイルスに感染した細胞は、IFNを放出し、抗ウイルス防御を強めるように近くの細胞にシグナル伝達する。インターフェロンは、ウイルス感染から細胞を守ることによってウイルス複製を「干渉」する能力に対して名づけられた。[Parkin et al.,Lancet 357(9270):1777-1789(2001).]
【0039】
IFNは、直接的な抗ウイルス作用に加えて、免疫細胞(例えば、ナチュラルキラー細胞及びマクロファージ)を活性化する働きを果たし、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原の発現を増加させることによって抗原提示をアップレギュレートする働きを果たす。IFNは、3つのグループに分類される。
・IFN-α、IFN-β、IFN-ε、IFN-κ及びIFN-ωからなるI型IFNは、ウイルスに応答して産生され、細胞のレセプターに結合すると、ウイルスRNA及びウイルスDNAの複製を阻害する。I型IFNは、癌に応答する免疫シグナル伝達においても類似の役割を担っている。
・II型IFN(IFN-γ)は、インターロイキン-12(IL-12)によって活性化され、細胞傷害性T細胞及びTヘルパー細胞によって放出される。
・III型IFNは、いくつかのタイプのウイルス感染症及び真菌感染症に対する免疫応答に関わっている。
【0040】
STING活性化及び免疫活性化
小胞体(ER)に存在する膜貫通型タンパク質であるインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)は、自然免疫の重要な制御因子であり、Ishikawa et al.,Nature 455(7213):674-678(2008)により初めて報告された。それらの著者らは、STINGは、発現するとI型IFNを誘導し、強力な抗ウイルス状態を発揮するのに対して、STINGの喪失によって、細胞が極端にウイルス感染に感受性になり得ることを見出した。
【0041】
より詳細には、STINGは、cGAMPシンターゼがサイトゾルDNAを認識すると細胞内のセカンドメッセンジャーとして産生される、cGMP-AMP(cGAMP)などの環状ジヌクレオチドに結合することによって、活性化される。STINGは、cGAMPに結合すると、その二量体化及びERからゴルジ装置への移動を引き起こす。再配置の後、STINGは、セリン/トレオニンキナーゼであるTANK結合キナーゼ1(TBK1)をリクルートして、インターフェロン制御因子3[IRF3]のリン酸化をもたらし、IFN-β及びCXCL10を含むI型IFN及びIFN刺激遺伝子のアップレギュレーションをもたらす。[Motani et al.,J Biol Chem 293(20):7717-7726(2018).]
【0042】
Ishikawa et al.,Nature 461(8):788-793(2009)は、マウスにおけるSTING欠損が、I型IFN応答がうまくいかないことに起因して単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染に対する致死的な感受性をもたらすことを示した。
【0043】
STINGは、細胞が細胞内病原体に感染すると、I型IFNの産生を誘導し、それを分泌する細胞と同じ細胞(すなわち、オートクリンシグナル伝達)及び近傍の細胞(すなわち、パラクリンシグナル伝達)に結合することによって、感染細胞及び近くの細胞を局所感染から守る。I型インターフェロン(IFN-I)応答は、ウイルス感染に対して効率的な防御を提供するために極めて重要であり得る。
【0044】
IFN-Iの産生は、ウイルス核酸などの病原体関連分子パターン(PAMPs)の宿主センサーによる認識によって、速やかに開始される。IFN-Iによって誘導されるシグナル伝達は、転写因子に収束し、それにより、インターフェロン刺激遺伝子(ISG)と呼ばれる数百の遺伝子の発現が速やかに誘導される[Schoggins, Annu Rev Virol.6(1):567-584(2019)に総説]。この抗ウイルスシグナル伝達カスケードは、IFN-Iに曝露された実質的にすべての細胞型において生じる。
【0045】
ISGは、IFN-I(炎症促進性サイトカインを含む)によって制御される他の下流分子とともに、ウイルス複製の直接阻害から様々な免疫細胞の動員及び活性化に及ぶ多様な機能を有する。したがって、時宜を得た頑健且つ局在的なIFN-I応答は、ウイルスのクリアランスを促進し、組織修復を誘導し、ウイルスに対する長期の適応免疫応答の引き金を引くので、ウイルス感染に対する防御の最前線として通常必要とされる。Sa Ribero et al.,Plos Pathog 16(7):e1008737(2020年7月29日).
【0046】
Sun et al.,Proc Natl Acad Sci,USA,105(21):8653-8658(2009)は、STINGの二量体化がこの自然免疫系シグナル伝達にとって極めて重要であることを示した。Abe et al.,Mol Cell 50:5-15(2013)は、急性のSTING活性化(二量体化を介する)が保護機能に必要であるのに対して、慢性の活性化は逆効果の炎症応答及び自己免疫疾患につながり得ることを示した。
【0047】
いくつかの場合において、STINGは、宿主細胞核及び感染病原体から漏出したDNAなどの外来性及び内在性DNAの細胞内センサーとして働く。そのような内在性DNAは、全身性エリテマトーデス(SLE)又はアイカルディ・グティエール症候群(AGS)などの自己炎症性疾患に関与し得る。[Barber,Nat Rev Immunol 15(12):760-770(2015年12月).]興味深いことに、上記のAbeらに記載されているように、抗ウイルス活性に関しては、急性のSTING活性化(二量体化を介して)が保護機能に必要であるのに対し、慢性の活性化は免疫のダウンレギュレーションにつながり得るとみられる。
【0048】
上記のBarberは、レトロウイルス及びRNAウイルスの複製に対して同様の活性を述べている。したがって、STINGの発現及び二量体化は、すべての主要なウイルスクラスによる感染に対して極めて重要な細胞防御の役割を果たす。
【0049】
上記のBarberは、抗ウイルスの役割に加えて、細菌感染に対しても同様の機能を報告している。その総説においてBarberは、彼らの研究が、微生物に利用され得る平衡状態である、適切な免疫応答と炎症の間の繊細な平衡状態を浮き彫りにしたと述べている。Barberはさらに、それらの知見が、STING標的化アジュバントの開発、及び頑健な持続性の適応免疫応答を誘導することを目的としたワクチンの設計において重要な意味を持つ可能性があると述べた。
【0050】
これらの観察結果は、急性のSTING活性化が抗微生物活性(すなわち、抗ウイルス、抗菌、抗真菌又は抗寄生生物)にとって極めて重要であり得ることを指摘している。
【0051】
最近の研究により、STINGホモ二量体は、細胞質ポリヌクレオチド、特にウイルスに関連した一本鎖及び二本鎖DNA(ssDNA及びdsDNA)分子と複合体化することが示された。そのような二量体STINGを含む複合体は、I型IFNに加えて、HSV-1によって媒介される、広範な自然免疫遺伝子及び炎症促進性遺伝子の転写活性化に不可欠であることが見出された。[Abe et al.,Mol Cell 50:5-15(2013).]
【0052】
ある特定の細胞型におけるSTINGの活性化は、アポトーシス及びネクローシスを含む細胞死の引き金を引く。この効果は、不必要又は過剰な炎症イベントを防ぐため、及び宿主の免疫ホメオスタシスを維持するために極めて重要であり得る。STINGシグナル伝達は、IFN及び腫瘍壊死因子(TNF)の産生に代表される正規の免疫応答のほかに、種々の細胞型において細胞死イベントも誘発し得る。
【0053】
現在、難治性悪性腫瘍を処置するために、いくつかのSTINGアゴニストが開発されている。例えば、Ramanjulu et al.,Nature 564:439-443(2018年12月20/27日)における連結型アミドベンズイミダゾール(ABZI)ベースの化合物の使用を参照のこと。
【0054】
Saliら(PLoS Pathog,pages 1-30,2015年12月8日)は、転写因子のIFN制御因子3(IRF3)を介してI型IFN応答を活性化することができる小分子STING活性化因子の同定を報告した。G10とも称されるその分子は、ヒト線維芽細胞においてIRF3/IFN関連転写を引き起こした。
【0055】
その分子に対する細胞応答をさらに調べたところ、複数のIRF3依存性抗ウイルスエフェクター遺伝子、並びにI型及びIII型IFNサブタイプの発現が明らかになった。これにより、チクングニアウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス及びシンドビスウイルスをはじめとした新興ssRNAアルファウイルス種の複製を防ぐ細胞状態が確立された。その著者らは、G10分子が、STINGに直接結合せず、ヒトのSTING依存性表現型の間接的な活性化因子として作用すると報告した。
【0056】
Guoら[Antimicrob Agents Chemother 59(2):1273-1281(2015)]は、合成小分子である5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸(DMXAA)が、STING依存性のシグナル伝達経路を活性化して、マウスマクロファージにおいてI型IFN優性サイトカイン応答を誘導し、細胞質のウイルスヌクレオカプシド量を減少させることによって、培養マウス肝細胞及びマウスの肝臓におけるHBV複製が効率的に抑制されることを報告した。DMXAAは、マウスSTINGに対するアゴニストとして以前に同定されていた。ヒトのSTINGは、DMXAAに結合しなかったか、又はDMXAAに応答してシグナル伝達しなかった。[Conlon et al.,J Immunol 190:5216-5225(2013).]このカスケードにおけるSTINGの直接的な作用は、自然免疫系と適応免疫系との間の仲介をする樹状細胞(DC)であるとみられる。
【0057】
STINGは、TBK1/IRF3及びNF-κB経路による免疫応答並びにその後のIFN及びTNF産生の活性化因子として認識されている。STINGは、炎症促進性サイトカインの誘導を通じて、宿主防御、自己免疫疾患及び腫瘍免疫において極めて重要な役割を果たすと示唆されている。また、STING経路を標的とする、癌免疫療法への応用も検討されている。[Liu et al.,Mediat Inflamm(2018)Article ID 1202797,(4頁)]
【0058】
Barber[Nat Rev Immunol 15(12):760-770(2015年12月)]は、ウイルス学での役割とほぼ匹敵する、STING依存性の自然免疫シグナル伝達を概説した。STINGの活性化は、I型IFNの活性化につながり、適応免疫系に対してプライミング効果(DCによる腫瘍抗原の交差提示を通じた腫瘍抗原特異的T細胞の活性化)を及ぼす。マウスにおいてSTINGを無効にすると、メラノーマに対するT細胞応答、並びに免疫チェックポイント阻害剤の活性が無効になる。Barberは、ウイルス学で観察されたように、慢性のSTING活性化が腫瘍形成の促進において役割を果たし得ると述べている。
【0059】
上記著者は、「STINGは、抗腫瘍免疫応答の促進において重要な役割を果たすことが明らかになりつつあり、さらに、腫瘍微小環境内でSTING活性を刺激することは、悪性疾患の処置に役立つ新しい免疫療法ストラテジーを構成する可能性がある」と結論づけた。[Barber,Nat Rev Immunol 15(12):768(2015)]
【0060】
Simon et al.,Proc R Soc B 282:20143085(2015)に記載されているように、免疫機能は、幼児期に急速に向上し、高齢になるまで成人期の間ずっと変わらない。その著者らは、免疫系は加齢に伴って、著明なリモデリングを起こし、衰えていくと述べている。この免疫の老化は、高齢者が急性ウイルス感染症及び急性細菌感染症にかかるリスクが高くなる素因になる。
【0061】
加齢に伴うSTINGの発現及び活性化の変化に関する直接的なデータはほとんどないとみられるが、特に、生得的な抗ウイルス免疫の媒介におけるSTINGの中心的役割を考えると、高齢(すなわち、60歳以上)になることに伴う自然免疫の全体的な衰えと同じパターンを辿る可能性がある。これらの著者らは、加齢に伴って癌の発生率が平行して増加すること(すなわち、先進工業国におけるおよそ70歳という発症年齢の中央値)も、年齢が上昇するにつれてSTINGの発現及び活性化が低下することに起因し得る可能性があると述べている。
【0062】
さらに、感染症及び腫瘍において、急性のSTING活性化に対する実りある結果及び慢性のSTING活性化に対する逆効果の結果という一貫した観察結果は、感染症及び腫瘍の処置における急性のSTING活性化の中心的役割の証拠となる。
【0063】
ハロゲン化キサンテン(HX)化合物
本発明者らのこれまでの研究により、ハロゲン化キサンテン(HX)化合物及び特にローズベンガル[4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン](RB、RBの注射可能な水性製剤であるPV-10と本明細書中で称されることがある)が、腫瘍内注射後又は外用適用後に強い活性を有する新規治療薬として同定された。ローズベンガルは、特許文献1~3にSingerらによって記載されたHX化合物クラスの分子のプロトタイプメンバーである。
【0064】
これらの分子は、Eagleらによって特許文献4~6に記載されたような注射可能な腫瘍薬として、並びにDeesらによって特許文献7に記載されたような外用皮膚科薬としての、いくつかの医療用途を有する。RBは、癌に対する免疫活性化療法[Liu et al.,Oncotarget 7:37893(2015)]及び炎症性皮膚疾患に対する免疫調節療法[Krueger et al.,Psoriasis from Gene to Clinic 2018]としての見込みを示したが、これらの分子は、自然免疫の直接的な活性化において、提案される役割を有していなかった。
【0065】
本明細書中以後に詳述される、SARS-CoV-2ウイルスの利用可能なMproポケットへの結合に対する新たに見出された高い親和性は、RB及び他のHX化合物が生体分子、特に糖タンパク質に対して有する高親和性に部分的に起因する可能性がある。例えば、静脈内投与(IV)したとき、ラット及びウサギの血漿タンパク質への高レベルのRB結合を説明する報告がいくつか発表されている。[Tsao et al.,Drug Metab Dispos,16(3):482-489(1988)、及びLuxon et al.,J Pharmacol Exp Ther 289(1):296-305(1995)].
【0066】
平衡透析を用いると、血清アルブミンを欠くラットの血清では99.8%超のRBが結合されていることから、いくつかのタンパク質が関与していることが示される。正常なラットでは、RBの75~80%が、アルブミン画分から回収され、残りの20~25%は、他のタンパク質画分に回収された[Tsao et al.1988,前出、及びMeurman,Acta medica Scan,Supp 167,Chapter I,III,V,VII,X及びXII(1960)]。本発明者らは、超遠心分離法を用いたとき、RBが、ラット血漿中で高い血漿タンパク質結合性を示すことを確認し、1μMでは99.0%という血漿タンパク質結合性が観察され、10μMでは99.2%という血漿タンパク質結合性が観察された。この親和性は、ヒト血漿においてより高いことも確認し、99.8%~99.9%という血漿タンパク質結合性が、それぞれ1μM~10μMにおいて観察された。
【0067】
生体分子、特に糖タンパク質に対するこの親和性は、両親媒性であるHX化合物のユニークな物理化学的特性の結果であるとみられる。例えば、RBは、水において少なくとも10%(100mg/mL)、エタノールにおいて3%(30mg/mL)及び2-メトキシエタノールにおいて6%(60mg/mL)という溶解度を有する。[Floyd J.Green,Sigma-Aldrich Handbook of Stains,Dyes and Indicators,Aldrich Chemical Company,Inc.,Milwaukee,WI,pages 637-638(1990)].
【0068】
HX化合物は、静脈内の方法(IV)によってヒトに投与したとき、およそ30分という循環半減期で、代謝されずに胆汁を介して排泄される。これが、肝機能のIV診断薬としての歴史的な使用につながった。Delprat et al.,Arch Intern Med 34:533-541(1924)による最初の臨床的実証から始まり、静脈内RBは、排泄量の差に基づく肝障害の診断薬として日常的に使用されるようになった。1950年代の131I放射標識RBの導入により、ガンマ線検出による肝臓の直接画像化を可能にする造影剤としての使用が拡大した[Taplin et al.,J Lab Clin Med 45(5):665-678(1955)]。
【0069】
臨床使用においては、放射性ヨウ素標識RBを、非放射標識RBで希釈することが多かった。米国において承認されている適応は、肝機能不全の測定において診断補助薬として使用すること、及び放射標識された生成物の排泄速度を遅らせて肝臓の走査により多くの時間をかけられるようにするために、阻止用量の非放射標識RB(放射標識された生成物の投与の10分前に投与される100mg)とともに最大25μCiという線量の131I RB(およそ12mgのRB)で肝臓イメージングのために使用することに対するものだった。本発明者らは、全身投与されたRBの安全性及び薬物動態学的特性を確認するために、最新の臨床ツール及び基準を用いて、非放射標識RBを用いてこの手順を繰り返した。
【0070】
Yoshimoto et al.,J Food Hyg Soc Japan,25(4):352-355(1984)は、蒸留水に溶解されたローズベンガルを若齢雄Wistarラットに300mg/kg/日で経口投与したときの効果に関する研究を報告した。その研究者らは、成長速度に対する影響はなかったが、RBが相対肝重量を有意に減少させたと報告した。RNAへのH-UTPの取り込み又は肝臓の核におけるRNA含有量に対する影響は顕著でなかった。同様の濃度のPonceau 3R又はAmaranthが、インビボでRNA合成を刺激すると報告された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0071】
【文献】米国特許第8,530,675号
【文献】米国特許第9,273,022号
【文献】米国特許第9,422,260号
【文献】米国特許第9,107,887号
【文献】米国特許第9,808,524号
【文献】米国特許第9,839,688号
【文献】米国特許第8,974,363号
【発明の概要】
【0072】
本発明は、ハロゲン化キサンテン(HX)化合物、その薬学的に許容され得る塩、アミドの医薬としての使用に関するいくつかの概念を企図し、そのアミドの窒素原子は、非置換であるか、1つ又は2つのC-Cアルキル基で置換されており、そのC-Cアルキル基は、同じであるか若しくは異なり、又はそのアミド窒素原子と一体となって、5若しくは6員環、そのC-Cアルキルエステル、芳香族誘導体(アミド又はエステル)を形成し、その芳香族誘導体は、独立して窒素、酸素若しくは硫黄である0、1若しくは2個のヘテロ環原子を含む5若しくは6員の芳香環又は5,6-若しくは6,6-縮合芳香環系を有するアルコール又は一置換アミンから形成されるエステル又はアミドである。ローズベンガルが、好ましいHX化合物であり、その二ナトリウム塩であるローズベンガル二ナトリウムが、最も好ましい。
【0073】
本発明は、より詳細には、ウイルス、細菌、真菌及び寄生生物並びにSARSファミリーウイルスによる哺乳動物被験体の感染、特に、COVID-19を引き起こすコロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染のプロセス、並びに癌性腫瘍に対して他の作用物質とともに全身投与されたときの、STINGによるI型インターフェロン(IFN)免疫応答及び免疫学的なアジュバント効果の誘導のプロセスにおける、ハロゲン化キサンテン(HX)化合物、特にローズベンガルの相互作用を企図する。
【0074】
より詳細には、1つの実施形態は、ヒトなどの哺乳動物被験体のコロナウイルス感染症を処置するための方法を企図し、その方法は、コロナウイルス複合体化(ウイルス結合)量の、上述のハロゲン化キサンテン、薬学的に許容され得る塩、アミド、エステル、又は芳香族アミド誘導体若しくは芳香族エステル誘導体をその哺乳動物被験体に投与する工程を含む。処置に対して特に企図されるコロナウイルスは、COVID-19呼吸器疾患の原因物質であるSARS-CoV-2として知られるものである。使用されるハロゲン化キサンテン分子は、好ましくは、ローズベンガル二ナトリウムである。投与が1回以上反復されることも好ましい。
【0075】
この実施形態の類似の態様において、上記HX化合物は、コロナウイルス複合体化(ウイルス結合)量のレムデシビルと併せて投与される。これらの2つの薬は、生理食塩水などの単一の水性薬学的組成物からの注入、又は別個の水性薬学的組成物の注入によって投与され得るか、又は一方の薬であるハロゲン化キサンテンが、経口的に投与され得、レムデシビルが、注入によって投与される。
【0076】
別の実施形態は、微生物感染症を示すなどの、処置の必要性を認識している哺乳動物被験体、好ましくはヒトにおいてI型インターフェロン応答を誘導する方法を企図し、その方法は、I型インターフェロン応答を誘導するのに有効な量の、上述のハロゲン化キサンテン、薬学的に許容され得る塩、アミド、エステル又は芳香族誘導体を投与する工程を含む。好ましいハロゲン化キサンテンは、ローズベンガル二ナトリウムである。ハロゲン化キサンテンのC-Cアルキルエステルが使用されるとき、それは、好ましくは、C(エチル)エステルである。芳香族誘導体が使用されるとき、それは、好ましくは、ベンジルエステル、フェニルエステル又は2-、3-若しくは4-ピリジル(ピリジル)エステル、又はベンジルアミド、フェニルアミド又は2-、3-若しくは4-ピリジル(ピリジル)アミドであるが、本明細書中以後に論じられるように、他の芳香族誘導体も企図される。微生物感染症は、ウイルス感染症、細菌、真菌又は単細胞寄生生物(例えば、マラリアの原因物質であるプラスモディウム属)による感染症であり得る。
【0077】
哺乳動物の免疫原特異的免疫応答を増強する方法も企図される。その方法は、インビトロ培養プレートなどの哺乳動物細胞増殖支持培地中に存在するか又は哺乳動物の身体でのインビボに存在する哺乳動物細胞を、アジュバント有効量の、先に論じたハロゲン化キサンテン、薬学的に許容され得る塩、アミド、エステル又は芳香族誘導体、及び免疫応答が増強されるべき免疫原と接触させる工程を含む。
【0078】
この免疫原性応答は、腫瘍にRBを病巣内注射すること、又は米国特許第7,648,695号、同第8,557,298号及び同第9,107,877号、同第10,130,658号、米国特許公開第2019-0350893A1に示されているような、悪性の血液(hematologic)細胞及びそれらの1つ以上の子孫をRBと接触させることによって得られる応答とは異なる。上記特許及び出願において接触される癌性哺乳動物細胞は、RBを優先的に取り込み、そのRBが癌細胞を殺滅し、その結果得られる小さくなった細胞残屑が自己ワクチンとして作用するのを引き起こして、遠隔免疫応答を誘導する。この免疫原性応答において、RBなどのHX化合物は、STING応答を刺激するように作用する。ローズベンガル二ナトリウムが、好ましいHX化合物である。
【0079】
免疫応答の増強は、適切な免疫分子又は免疫細胞、例えば、サイトカイン、ケモカイン、抗体、B細胞及び/又はT細胞をインビボ又はインビトロの手法によって比較することによって測定され得る。そのような比較は、この分野において通常用いられる、腫瘍サイズ、ウイルス血症の程度などの比較によっても行われ得る。
【0080】
別の実施形態は、固形癌性腫瘍又は血液悪性腫瘍を示す哺乳動物被験体、好ましくは、ヒトにおいてI型インターフェロン応答を誘導する方法を企図する。ここで、企図される方法は、哺乳動物被験体においてSTING二量体化を誘導することによりI型インターフェロン応答を誘導するのに有効な、ハロゲン化キサンテン、先に論じた薬学的に許容され得る塩、アミド、エステル又は芳香族誘導体を全身投与する工程を含む。ハロゲン化キサンテンの量は、哺乳動物被験体に存在する癌性腫瘍又は血液悪性腫瘍に対するIC50未満である。好ましいハロゲン化キサンテンは、ローズベンガル二ナトリウムである。ハロゲン化キサンテンのC-Cアルキルエステルが使用されるとき、それは、好ましくは、C(エチル)エステルである。芳香族誘導体が使用されるとき、それは、好ましくは、ベンジルエステル、フェニルエステル、2-、3-若しくは4-ピリジル(ピリジル)エステル、又はベンジルアミド、フェニルアミド、2-、3-若しくは4-ピリジル(ピリジル)アミドであるが、上記及び本明細書中以後でより十分に論じられるような他の芳香族誘導体も企図される。
【0081】
さらなる実施形態は、生理的に許容され得る水性キャリアに溶解又は分散された、(a)レムデシビルと、(b)ハロゲン化キサンテン(HX)、上述の薬学的に許容され得る塩、アミド、エステル又は芳香族誘導体との両方を、各々コロナウイルス複合体化量で含む薬学的組成物を企図する。HX化合物は、好ましくは、薬学的に許容され得る塩として薬学的組成物中に存在し、HXの薬学的に許容され得る塩は、最も好ましくは、ローズベンガル二ナトリウムである。
【0082】
哺乳動物被験体のコロナウイルス感染症を処置する方法も企図される。その態様において、コロナウイルス複合体化量の、レムデシビル及びハロゲン化キサンテン(HX)化合物、上述の薬学的に許容され得る塩、アミド、エステル又は芳香族誘導体の各々が、前記哺乳動物被験体に投与される。両方の薬が、注入(IV投与)として非経口的に投与され得る。そのような投与は、上記パラグラフの組成物を用いて達成され得るか、又はそれらの2つの薬は、別々に注入され得る。或いは、レムデシビルは、非経口的に投与され得、HX化合物は、経口的に投与され得る。送達の手段を問わず、HX化合物は、好ましくは、ローズベンガル二ナトリウムである薬学的に許容され得る塩として存在する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
本開示の一部を形成する図面において、
【0084】
図1A】30分間、1、2、4及び24時間、RBと接触させたTHP-1急性単球性白血病(AML)細胞からのウエスタンブロットの注釈付きの写真であり、その接触により、特異的抗体によって検出された新しい70KDのSTING二量体バンド(点線の四角)が出現した。
図1B】2、4、6及び8時間、RBと接触させたTHP-1急性単球性白血病(AML)細胞からのウエスタンブロットの注釈付きの写真であり、その接触により、特異的抗体によって検出された新しい70KDのSTING二量体バンド(点線の四角)が出現した。図1Bは、図1Aよりも長いフィルム露光を用いることにより、STING二量体の存在を強調している。
図1C】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1D】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1E】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1F】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1G】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1H】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1I】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1J】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1K】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1L】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1M】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1N】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1O】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1P】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1Q】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図1R】RBをTHP-1 AML細胞と接触させる前から、6、24及び48時間後までの、記載のサイトカイン又はケモカインのアッセイされた量のグラフを提供している。
図2A】Yang et al.,PLoS Biology 3(10):e324(2005)のN3阻害剤と複合体化したSARS-CoV-2の主要プロテアーゼ(Mpro)結合部位(PDB:6LU7)のコンピュータ生成モデルである。当該モデルは、インシリコのフレキシブルなリガンド-レセプタードッキングを行い、原子間距離に基づいて全結合エネルギーを求めるために、AutoDock Vina[Dr.Oleg Trott,Molecular Graphics Lab,Scripps Research Institute,LaJolla,CA]及びBIOVIA Discovery Studio[Dassault Systemes BIOVIA,Discovery Studio Modeling Environment,Release 2017,San Diego,CA]プラットフォームを用いて作製された。
図2B】Yang et al.,PLoS Biology 3(10):e324(2005)の「参照」化合物と複合体化したSARS-CoV-2の主要プロテアーゼ(Mpro)結合部位(PDB:6LU7)のコンピュータ生成モデルである。当該モデルは、インシリコのフレキシブルなリガンド-レセプタードッキングを行い、原子間距離に基づいて全結合エネルギーを求めるために、AutoDock Vina[Dr.Oleg Trott,Molecular Graphics Lab,Scripps Research Institute,LaJolla,CA]及びBIOVIA Discovery Studio[Dassault Systemes BIOVIA,Discovery Studio Modeling Environment,Release 2017,San Diego,CA]プラットフォームを用いて作製された。
図2C】例証的なハロゲン化キサンテン分子としてRBが主要プロテアーゼ(Mpro)結合部位と複合体化している、図2A及び2Bと同様のモデルを示しており、本明細書中以後に論じられるようなRBの誘導体を収容し得る利用可能なポケット領域をさらに図示している。これらのモデルは、インシリコのフレキシブルなリガンド-レセプタードッキングを行い、原子間距離に基づいて全結合エネルギーを求めるために、AutoDock Vina[Dr.Oleg Trott,Molecular Graphics Lab,Scripps Research Institute,LaJolla,CA]及びBIOVIA Discovery Studio[Dassault Systemes BIOVIA,Discovery Studio Modeling Environment,Release 2017,San Diego,CA]プラットフォームを用いて作製された。
図3A】複合体化した(ドッキングした)SARS-CoV-2 スパイクタンパク質(左側)とヒトACE2タンパク質(右側)との界面のコンピュータ生成モデルの結果を示しており、図3Aでは、ローズベンガル(RB)分子が、それら2つのタンパク質の間の間隙において結合している。
図3B】複合体化した(ドッキングした)SARS-CoV-2 スパイクタンパク質(左側)とヒトACE2タンパク質(右側)との界面のコンピュータ生成モデルの結果を示しており、ローズベンガルの構造式、並びにアミノ酸残基の3文字コード及びタンパク質配列の位置番号によって特定されるスパイクタンパク質(薄灰色)及びACE2タンパク質(暗灰色)の残基を示している。
図4A】コンピュータ生成モデルであり、ローズベンガル(RB)分子が英国バリアントN501Y変異型SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質(左側)とヒトACE2タンパク質(右側)との間の間隙において結合しているタンパク質に対する空間充填モデリングを用いて、それら2つのタンパク質を示している。
図4B】コンピュータ生成モデルであり、図4Aと同じ相互作用を、それぞれのタンパク質部分に対するリボンモデルを用いて示している。図4Bにおいて、重ねられている矢印は、N501Yの位置を指し示している。
図5A】ローズベンガル(RB)分子が、複合体化したSARS-CoV-2スパイクタンパク質(左側)とヒトACE2タンパク質(右側)の間隙において結合している、それら2つのタンパク質間の界面のコンピュータ生成モデルであり、南アフリカバリアントN501Y・K417N変異型SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質(左側)及びヒトACE2(右側)を、空間充填モデリングを用いて示している。
図5B】ローズベンガル(RB)分子が、複合体化したSARS-CoV-2スパイクタンパク質(左側)とヒトACE2タンパク質(右側)の間隙において結合している、それら2つのタンパク質間の界面のコンピュータ生成モデルであり、図5Aと同じ相互作用を、それぞれのタンパク質部分に対するリボンモデルを用いて示している。図5Bにおいて、重ねられている下側の矢印は、N501Y変異の位置を指し示しており、上側の矢印は、K417N変異の位置を指し示している。
図6A】RBの濃度に応じた、SARS-CoV-2ウイルスに感染したVero細胞の生存率(三角形)及びウイルス力価(丸)を示しているグラフであり、ここで、ウイルス力価の完全な阻害が見られ、細胞生存率は、約50μMの濃度まで一定のままだった。
図6B】0.01~100μMというより広い濃度範囲にわたる図6Aと同様のグラフである。
図6C図6Bに示されたRB濃度範囲にわたる反復研究からのデータを示している。
図7A】ウイルス核酸の増幅に必要な逆転写のサイクル数であり、ゆえに、存在するウイルス量の指標である、サイクル閾値(ct)を示しているデータのグラフである。このデータは、ウイルスの吸収前又はウイルスの吸収中の様々な条件下において0.6μM RBで処置されたウイルスでより高いct値、及びコントロールと比べてウイルス産生の減少を示している。ウイルスを細胞とインキュベートした後のRBの添加は、ウイルス産生に対して効果がなかった。その後のウイルスの付着及び複製を干渉するようにウイルスとRBとが相互作用することによって媒介される遺伝子のコピー数減少は、ウイルスのコピー数を示している図7Bのデータによってさらに証明される。
図7B】ウイルスのコピー数を示すデータのグラフである。
図8A】レムデシビルの濃度に応じた、SARS-CoV-2感染細胞の阻害性増殖曲線である。パーセント阻害を、DMSOで処置された細胞と比較した(±標準偏差)。
図8B】レムデシビルの濃度に応じた、DMSO処置細胞と比較したパーセントプラーク形成単位(±標準偏差)を示している図8Aの曲線と同様の曲線である。
図8C】いくつかの濃度のレムデシビルの存在下における感染性ウイルス粒子(プラーク形成単位)の定量(±標準偏差)を示している棒グラフである。
図9A】0.15μMレムデシビル及び1、5、20又は50μM RBの存在下又は非存在下における、力価プレートの1ウェルあたりのプラーク形成単位(±標準偏差)を示している棒グラフである。
図9B】各処置について、DMSOで処置された細胞と比較した、パーセント阻害及びパーセントプラーク形成単位を示している表である(SD=標準偏差)。
図9C】RBの濃度に応じた、RBのみと2時間接触した後(丸)、及び0.15μMレムデシビルとRBとの併用での同じ2時間という接触時間の後のSARS-CoV-2感染細胞の増殖阻害を示しているグラフであり、このグラフから、それぞれのIC50値が、RBのみ=67.0μMと算出され、RB+0.15μMレムデシビル=47.4μMと算出された。
【発明を実施するための形態】
【0085】
ハロゲン化キサンテンはSARS-COV-2 Mproに堅固に結合する
本発明者らは、本明細書中以後に詳述されるような、STING経路を介した免疫アジュバントの役割においてHX化合物を使用することに対する直接的な意義に加えて、HX化合物をウイルス阻害剤として使用することの可能性をさらに検討した。Jinら[bioRxiv 2020年2月5日]は、先に述べたCOVID-19の原因物質であるSARS-CoV-2に対する有望な抗ウイルス剤を特定し、スクリーニングする国際的且つ学際的な取り組みの初期の結果を報告した。
【0086】
本発明者らは、Jinら、2020に記載されたSARS-CoV-2薬物標的(Mpro)を用いることにより、AutoDock Vina及びBIOVIA Discovery Studioプラットフォームを使用してSARS-CoV-2 Mpro上のRBの結合特性をモデル化した。これにより、フレキシブルなリガンド-レセプタードッキングのモデル化が可能になり、原子間距離に基づいて全体的な結合エネルギーの決定が可能になった。このモデリングのコントロールとして、本発明者らは、N3及び別の抗ウイルス薬候補(「参照」分子、Jinら、2020の研究において試験された10,000個のライブラリー分子のうちの1つで、ナノモル濃度の結合効率及び広範な抗ウイルス活性を有すると示された分子)を使用した。
【0087】
2005年、2008年及び2020年2月のこの文献は、下記に示されるN3及び「参照」分子が、SARS-CoV-2 Mproの触媒ポケットに結合すること、および結合すると、ウイルス複製に対して阻害活性を示すことを実証している。本発明者らのモデル化によって、RBが、N3よりもSARS-CoV-2 Mproに対して強い結合を示すことが示されたことから、RBがN3よりも良いSARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬候補であることが示された。
【0088】
【化1】
【0089】
これらのモデル化の結果は、図2A~2Cに図示されており、これらの図はそれぞれ、N3(図2A)、「参照」分子(図2B)、及びRB(図2C)と複合体化したSARS-CoV-2の主要プロテアーゼMproの結合空洞を表している。HX化合物のハロゲン組成は、変化させることができるので、ハロゲン含有量を変化させること(例えば、4、5、6又は7位の塩素部分のうちの1つ以上をフッ素又は臭素又はその混合物で置き換えること)、及び/若しくは2’、4’、5’又は7’位のヨウ素部分のうちの1つ以上をフッ素又は臭素又はその混合物で置き換えること)によって、又はこれらの位置のうちの1つ以上における脂肪族置換によって、この適合性を最適化することができる。
【0090】
同様に、RBについても、SARS-COV-2スパイクタンパク質とそのヒト細胞表面結合パートナーであるヒトACE2タンパク質との界面に結合した状態(その界面において複合体化した状態)をコンピュータモデル化した(図3A)。図3Bは、RB単独の場合の化学式を、RBと相互作用するスパイクタンパク質及びヒトACE2タンパク質のアミノ酸残基と併せて示している。RBは、変異していないSARS-COV-2スパイク及びACE2タンパク質ポケットに約-12.5kcal/molで結合(複合体化)すると算出された。
【0091】
N501Y変異型SARS-COV-2スパイクタンパク質及びACE2タンパク質を用いたコンピュータモデリングを用いたときの同様の結合効率は、約-13kcal/molで、ほぼ同じ効率を示した。RBは、ヒトACE2-南アフリカK417N変異型バリアントスパイクタンパク質に約-17.5kcal/molで結合する。これらのコンピュータモデルは、UKバリアントN501Y変異SARS-COV-2スパイクタンパク質に対するものが図4A及び4Bに、南アフリカバリアントN501Y・K417N変異SARS-COV-2スパイクタンパク質を用いたものが図5A及び5Bに図示されている。
【0092】
SARS-CoV-2に対する抗ウイルス剤としてRBなどのHX化合物を使用することのなおもさらなる利点は、インビボに存在する複合体化していないHX化合物が、処置を受けている被験体においてSTINGを介してI型インターフェロン免疫応答を刺激し、それにより、別個の薬物の必要がない免疫ブーストの利点を得ることができるという点である。この特徴は、以下の段落でさらに詳細に論じる。
【0093】
ウイルス感染に対抗するための一般的な代替アプローチは、ワクチンの使用である。これらの薬は、従来、生ウイルスに曝露される前に、弱めた又は不活性化したウイルス又はウイルス抗原に患者の免疫系を曝露することが前提となっている。この手順により、患者はウイルスに曝露されたときに、トロピック組織の重大な感染を予防することができる適応免疫応答を発達させることができる。ウイルスゲノムの解明により、ウイルス構造(すなわち、表面タンパク質)のモデリングに基づいて合成ワクチンの開発を行うことが可能となり、新規の抗ウイルスストラテジーの特定又は合成が導かれた[Graham et al.,Ann Rev Med 70:91-104(2019)]。特徴的なSARS-COV-2表面スパイク(S)糖タンパク質の構造の発表により、このタイプの重点的な開発のための重要な標的が提供された[Wrapp et al.,Science 367:1260-1263(2020)]。
【0094】
2020年の初頭に、米国国立衛生研究所(NIH)の国立アレルギー感染症研究所(NIAID)は、これらのウイルスのスパイクタンパク質を複製するメッセンジャーRNAプラットフォームを使用して作製される合成ワクチン候補の開発に資金提供を行った(NIAIDウェブサイト、2020年1月31日)。この合成アプローチは、患者が実際のウイルスに曝露されることを回避しつつ、機能的な免疫応答を誘発し得る。類似のアプローチが、感染時に合成ウイルス表面タンパク質を使用して宿主細胞に付着し、その形状を「締める」ことに基づく「分子クランプ」ワクチンプラットフォームを開発するために、Coalition for Epidemiologic Preparedness(CEPI)によって、2019年初頭に開始された。これにより、免疫系の認識が高まり得る(CEPIウェブサイト、2020年1月23日)。
【0095】
このユニークなCoVスパイクタンパク質は、ウイルスの機能を無効にする(すなわち、トロピック細胞への付着又はウイルスのアンパッキング及び複製を防ぐ)ための、又は宿主免疫系に対するウイルスの抗原性を高めることによる免疫アジュバントとしての、代替ターゲットを提供する。特に、糖タンパク質に対するRB及びそのHX化合物アナログの極めて高い親和性は、トロピック細胞へのCoVの付着を阻害すること又は感染細胞内でのウイルスのアンパッキング及び複製を阻害することによってウイルス機能を無効にする可能性、並びにCoVスパイク糖タンパク質構造との複合体化の際の宿主免疫系へのウイルスの抗原性を高めることによる免疫アジュバントとしての可能性をもたらす。曝露の初期に高い抗原性を使用することにより、感染が広がり始める前に宿主の免疫応答を増強することができる。
【0096】
ウイルスのインタラクトームにおいて宿主タンパク質を妨害することによって、ウイルス活性の機能を阻止することが、別の抗ウイルスアプローチであり、潜在的な小分子薬物候補の相互作用を評価するGordonら[bioRxiv 2020年3月22日]による取り組みの対象である。その著者らは、SARS-CoV-2のインタラクトームにおいてヒトタンパク質を標的とする小分子を同定することが彼らの目的であると述べている。
【0097】
彼らは、ケモインフォマティクスのデータベース及び解析を利用して、ヒトタンパク質と、直接であることが多いが経路及び複合体によっても相互作用することが知られているリガンドを探索した。当該文献のケモインフォマティクス検索により、15個の承認薬、4つの新治験薬(臨床)及び18個の前臨床候補が得られ、専門家の知識から、12個の承認薬、10個の新治験薬(臨床)及び10個の前臨床候補が明らかになった。
【0098】
これらの取り組みは、利用可能なウイルスのプロセス及び構造に基づいて、構造、機能及びゲノムによってガイドされるドラッグデザインの価値を説明するものである。
【0099】
糖タンパク質に対するRB及びそのHX化合物アナログの極めて高い親和性は、ウイルスのインタラクトームにとって極めて重要な宿主タンパク質との相互作用を阻害することによって、ウイルスの機能を無効にする可能性をもたらす。
【0100】
ローズベンガル-SARS-CoV-2複合体の形成及びウイルス力価/生存率の研究
この実施形態の関連する態様では、Vero細胞、及び肺腺癌の胸水に由来する肺上皮細胞株Calu-3(ATCC HTB-55)をこれらの研究において使用した。Tseng et al.,J Virol 79(15):9470-9479(2005)による以前の研究は、コロナウイルス(SARS-CoV)が、Calu-3細胞に生産的に感染でき、肺での自然な感染過程を反映するプロセスである細胞変性効果を引き起こすことを示した。これらの細胞は、SARS-CoVの機能的レセプターであるアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)を頂端膜上に発現することが示されており、ACE-2とウイルスの両方が、感染細胞の頂端ドメインに共局在する。
【0101】
細胞を、様々な濃度のローズベンガルあり及びなしで、以前の研究において最適であると示されたウイルス濃度で処理した。最初の研究では、およそ1~100μMの濃度範囲のローズベンガル(RB)を、RBと48時間接触させた後のVero細胞において細胞生存率及びウイルス力価について調べた。この研究では、ウイルス力価の完全な阻害が見られ、細胞生存率は、約50μMまで正常のままだった。このことから、RBは、細胞生存率に対して影響を及ぼさない濃度においてウイルス複製を阻止できることが示された(図6A)。
【0102】
次の研究も、Vero細胞における研究で、用量設定データを確認するために、より低濃度に拡大した濃度を含んだ。この研究では、細胞生存率に影響を及ぼさないと認められた濃度である0.01μM~約100mMのRBを、感染したVero細胞に48時間接触させたとき、ウイルス力価の用量依存的低下が認められた(図6B及び図6C)。48時間後に得られた阻害値は、EC50=0.054μM、CC50=174.8μM及びSI=3211だった。Calu-3細胞において行われた48時間のRB接触研究においても、同様の知見が得られた(EC50=0.015μM)。これらの知見は、これらの細胞においてウイルスの結合及びその後の複製の阻害を達成するRBの能力を示した。
【0103】
最大半量有効濃度(EC50)とは、指定の曝露時間が経過した後、ベースラインと最大値との中間の反応を誘導する、薬物、抗体又は毒物の濃度のことを指す。50%細胞毒性濃度(CC50)は、細胞生存率を50%減少させるために必要な化合物の濃度(μg/mL)と定義されている。選択性指数(SI=CC50/EC50)は、化合物がウイルス又は宿主細胞のどちらに対して選択性を有するのかという尺度を提供する。EC50値、CC50値及びSI値を、RBを添加した48時間後に得られたデータから算出した。
【0104】
レムデシビルを用いた研究
この実施形態のさらなる態様において、SARS-CoV-2に感染したVero C1008細胞は、図8A、8B及び8Cのデータから分かるように、レムデシビルによる処置に感受性であると示された。RB及びレムデシビルを添加した2時間後に計測された阻害データから、各々に対して0.86μMというIC50値及びEC50値が求められた。
【0105】
また、SARS-CoV-2に感染したVero C1008細胞を、一定濃度のレムデシビル(0.15μM)及びRBの濃度を上昇させてそれらと接触させ、別途、レムデシビルの非存在下において接触させた。感染細胞は、図9A、9B及び9Cにおけるデータから分かるように、RB単独に対して感受性であり、RBとレムデシビルの両方の存在下ではより高い感受性であることが見出された。RBと2時間接触させた後、RB単独による阻害について算出されたIC50値が67.0μMだったのに対して、同じ2時間の接触時間後のRB+0.15μMレムデシビルに対するIC50値は、47.4μMだった。
【0106】
したがって、レムデシビルとRBの両方が、SARS-CoV-2のウイルス複製を阻害する2つの別個の機構を有するとみられる。レムデシビルは、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ並びに鋳型鎖を直接阻害するとみられるのに対して、RBは、主要プロテアーゼ(Mpro)、並びに感染した細胞内へのウイルスの侵入に大きく関与するヒトACE2タンパク質とウイルスSタンパク質との結合を阻害するとみられる。興味深いことに、これらの4つの機構はすべて異なるが互いに交わっており、それら2つを併用することによりウイルス複製が減少したという事実から分かるように、それらは互いに干渉しない。
【0107】
レムデシビルは、通常、注入などによって非経口的に投与される。本明細書中以後により十分に論じられるような、企図されるHX化合物、塩、アミド又はエステルも、好ましくは非経口的に投与される。コロナウイルス結合量のそれらの薬の各々は、単一の薬学的(又は生理的)に許容され得る希釈剤に溶解又は分散されて組み合わされることにより、薬学的組成物を形成し得る。また、各々が、別個の薬学的組成物としても非経口的に投与され得る。或いは、レムデシビルが、非経口的に投与され得、企図されるHX化合物が、別個の薬学的組成物として経口的に投与され得る。
【0108】
ハロゲン化キサンテンはSTINGを活性化する
本発明者らは、樹立された急性単球性白血病(AML)細胞株(THP-1)を、STING活性化をインビトロで研究するためのモデルとして用いて、ローズベンガル(RB)がSTING二量体化及びその結果としてのI型インターフェロン応答の促進物質であることを見出した。細胞をRBで処理し、環状グアノシン一リン酸-アデノシン一リン酸(cGAMP)をポジティブコントロールとして用いてSTINGの誘導をウエスタンブロット解析によって評価した。
【0109】
これらの研究は、100μMのRB、すなわち約0.01%のRBを用いて行われた。サイトカインアッセイは、細胞培養液にRBを添加する前(0)、並びにその8、24及び48時間後に行った。
【0110】
RBの存在下においてSTINGと会合するタンパク質を、免疫沈降により精製し、質量分析(LC-MS/MS)によって解析した。RBで処理された細胞の培養上清を、Bio-Plex(登録商標)マルチプレックスビーズベースアッセイシステム(Bio-Rad Laboratories,Inc.)を用いて、42個の免疫サイトカインのパネルについて探索した。
【0111】
THP-1 AML細胞をRBに曝露したところ、特異的抗体によって検出される約70KDの新しいSTING二量体バンドが出現した。図1A及び1B(写真のゲルにおける点線の四角)。cGAMPコントロールと比較すると、PDL-1の誘導は認められなかった。これらの細胞におけるSTINGの免疫沈降物の質量分析による解析から、二量体化したSTING複合体に、熱ショックタンパク質(HSP)60、70及び90並びにポリアデニル酸結合タンパク質1(PABP1)が存在することが示された。
【0112】
ケモカインアッセイは、独特なセットの炎症促進性サイトカイン及び細胞傷害性T細胞動員サイトカインの特異的なアップレギュレーションを示した(図1C~1R)。したがって、示されるように、単球走化性タンパク質-3(MCP-3)及びIFNガンマの誘導のピークは、24時間後に見られ(>2倍)、IL-6、IL-8及びインターフェロンガンマ誘導タンパク質10(IP-10)の各々のおよそ10倍の増加が、RBへの曝露の24時間後に見られた。MCP-1レベルの有意な上昇も認められた。
【0113】
これらの結果は、RBによって誘導されるSTING二量体化及びHSP会合が、急性の炎症促進性免疫応答(すなわち、24~48時間以内)につながることを示している。さらなるインビトロ研究により、RBが、溶液中でSTING二量体化を誘導すること(すなわち、その効果は、癌細胞内の作用に依存しないこと)が確認された。
【0114】
AMLモデル及びその後の調査から、例えばRBなどのHX化合物が、急性のSTING二量体化を誘導し得ることが例証された。これは、腫瘍学において重要な意味を有し、STINGによって媒介される免疫活性化は、Deesら、米国特許第7,648,695号に記載されているような注射可能な腫瘍薬などによる単剤免疫療法、又はそのような薬物がEagleら、第9,107,887号に記載されているような他の薬剤と使用される併用療法としての、抗腫瘍療法における自然免疫系及び適応免疫系の応答において中心的役割を果たすことができる。
【0115】
これらの結果は、HX化合物に基づくSTING二量体化誘導がウイルス学において重要な意味を有することも示しており、STINGによって媒介される免疫活性化は、単剤の抗ウイルス薬としての又は他の抗ウイルス薬との併用療法における抗ウイルス治療において自然免疫系及び適応免疫系の応答において中心的役割を果たすことができる。先に論じたようなHX分子又は塩(化合物)のアジュバント量は、STING二量体化を誘導する量(すなわち、STING二量体化誘導量)であり、さらに、細胞毒性量未満、好ましくは細胞毒性量の約75%未満のHX化合物の量と定義される。細胞毒性量は、腫瘍適応症(例えば、神経芽細胞腫、白血病、メラノーマ又は他の腫瘍)に対するIC50量であり、感染症に対しては、細胞毒性量は、正常組織(例えば、培養線維芽細胞、腎臓細胞など)に対するIC50である。
【0116】
HX化合物のヒト循環半減期が短い(約30分)ことから、これらの分子を急性のSTING活性化のために効果的に適用することが促され、この適用は、逆効果の炎症反応、自己免疫疾患又は腫瘍形成の促進の可能性につながり得る慢性の活性化を回避しつつ、自然免疫シグナル伝達の可能性を最大にする。図1C図1Rに示されているインビトロの結果から分かるように、サイトカイン産生の増大に対するRBの作用は、それら16個のサイトカインの各々において48時間以内に生じた。
【0117】
1回以上の全身投与は、特に、免疫能力が低下している患者において、免疫応答を惹起するために特に生産的であり得る。このアプローチは、後述するように、HX化合物を癌又は微生物感染症に対する免疫アジュバントとして使用することにも同様に適用できる。
【0118】
免疫原アジュバントとしてのハロゲン化キサンテン
ウイルス感染に対抗するための一般的な代替アプローチは、ワクチンの使用である。これらの薬は、従来、感染によって生ウイルスに曝露される前に、弱めた又は不活性化したウイルス又はウイルス免疫原に患者の免疫系を曝露することが前提となっている。この手順により、患者はウイルスに曝露されたときに、トロピック組織の重大な感染を予防することができる適応免疫応答を発達させることができる。
【0119】
ウイルスゲノムの解明により、ウイルス構造(すなわち、表面タンパク質)のモデリングに基づいて合成ワクチンの開発を行うことが可能となり、新規の抗ウイルスストラテジーの特定又は合成が導かれた[Graham et al.,Ann Rev Med 70:91-104(2019)]。特徴的なSARS-COV-2表面スパイク(S)糖タンパク質の構造の発表により、このタイプの重点的な開発のための重要な標的が提供された[Wrapp et al.,Science 367:1260-1263(2020)]。
【0120】
このユニークなCoVスパイクタンパク質は、ウイルスの機能を無効にする(すなわち、トロピック細胞への付着又はウイルスのアンパッキング及び複製を防ぐ)ための、又は宿主免疫系に対するウイルスの抗原性を高めることによる免疫アジュバントとしての、代替ターゲットを提供する。CoVの表面スパイクは、CoV間でほとんど保存されているので、抗CoV薬及びワクチンの開発のための広範かつ有望な標的として特に魅力的である。
【0121】
特に、糖タンパク質に対するRB及びそのHX化合物アナログの極めて高い親和性は、トロピック細胞へのCoVの付着を阻害すること又は感染細胞内でのウイルスのアンパッキング及び複製を阻害することによってウイルス機能を無効にする可能性、並びにCoV表面スパイク(S)糖タンパク質などのウイルス表面糖タンパク質構造との複合体化の際の宿主免疫系へのウイルスの抗原性を高めることによる免疫アジュバントとしての可能性をもたらす。曝露の初期に高い抗原性を使用することにより、感染が広がり始める前に宿主の免疫応答を増強することができる。
【0122】
ハロゲン化キサンテンは、腫瘍学及びウイルス学に新規且つ広範な適用性を提供する
上記の考察は、RB及びそのHX化合物アナログが、腫瘍学及びウイルス学においてこれまで考えられなかった又は開示されなかった新規の役割を有することを説明している。このクラスの分子は、STING二量体化に対して影響を及ぼすので、腫瘍学とウイルス学の両方において免疫アジュバントとしての役割がある。さらに、先に記載されたように、RB及び他のHX化合物の、生体分子に対する高い結合親和性及びユニークな化学構造が、ウイルス複製に対する阻止剤としての役割につながる。
【0123】
この親和性は、ウイルスのペプロマー又は他のウイルス表面構造との結合によるウイルス付着の阻止(すなわち、細胞レセプター構造の遮断)にも適用可能であり得る。HX化合物のハロゲン組成は変化させることができるので、ハロゲン含有量を変化させること(例えば、4、5、6又は7位の塩素原子のうちの1つ以上をフッ素又は臭素又はその混合物で置き換えること)、及び/若しくは2’、4’、5’又は7’位のヨウ素原子のうちの1つ以上をフッ素又は臭素又はその混合物で置き換えること)によって、又はこれらの位置のうちの1つ以上における脂肪族置換によって、特異的標的に対する3次元適合性を最適化することができる。或いは、このクラスの分子は、ウイルス機能を阻害する(ウイルス表面スパイク糖タンパク質若しくは他のウイルス表面構造、又はウイルスのインタラクトームにおける宿主タンパク質との複合体化により、トロピック細胞への付着又はウイルスのアンパッキング及び複製を阻害する)ように機能し得るか、又はそのような複合体化によってウイルスの抗原性を高めるように機能し得る。
【0124】
RB及び他のHX化合物は、SARS-CoV-2に対するワクチンの一部であるSARS-CoV-2表面スパイク糖タンパク質ポリペプチドを利用するワクチンにとって有用なアジュバントであることに加えて、特に、他のウイルス、細菌、真菌及び単細胞寄生生物などの他の感染病原体からのタンパク質性免疫原を使用するとき、それらの感染病原体に対するアジュバントとしても有用であり得る。例証的なウイルスとしては、インフルエンザ、A型、B型、C型及びD型肝炎ウイルス、水痘帯状疱疹(水疱瘡)、単純ヘルペス1及び2型(HSV1及びHSV2)などのヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)などが挙げられる。例証的な細菌性病原体としては、E.coli、E.faecalis、S.aureusなどが挙げられる。例証的な単細胞寄生生物は、P.falciparum、P.vivax、P.bergeii又はP.yoelliのマラリアスポロゾイトである。例証的な真菌性感染病原体としては、Candida albicans、Candida glabrata、Candida parapsilosis、Candida tropicalis及びCandida kruseiが挙げられる。
【0125】
例証的なタンパク質性免疫原及び疾患関連マーカー分子ペプチドは、それらの公開されている出典の引用とともにWO2020028532に開示されている。
【0126】
米国特許第6,942,866号には、以下のペプチド性(peptidal)エピトープが含まれている。
マラリアB細胞エピトープ
P.falciparum
P.vivax
P.bergeii
P.yoelli
マラリアユニバーサルT細胞エピトープ
P.falciparum
P.vivax
P.yoelli
【0127】
米国特許第8,017,127には、以下のペプチド性エピトープが含まれている。
A型インフルエンザM2タンパク質B細胞エピトープ
【0128】
米国特許第8,017,127号で述べられているように、M2タンパク質は、A型インフルエンザ株に感染した細胞において発現される。M2タンパク質のN末端残基1~24は、感染細胞の膜を通って伸びている。そのタンパク質の細胞外部分は、M2eと称される。したがって、そのタンパク質のA型インフルエンザ細胞外M2e部分を免疫原性マーカーとして使用することにより、すべてのインフルエンザ株からの防御が提供され得る。ゆえに、インフルエンザワクチンの選択を毎年変更することを回避することができる。
【0129】
米国特許第4,599,231号には、以下のペプチド性エピトープが含まれている。
B型肝炎ウイルス表面抗原
【0130】
B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)は、B細胞とT細胞の両方のポリペプチドエピトープを提供する。米国特許第4,599,231号に開示されているようないくつかの各エピトープタイプは、aywドナー(P49)及びadwドナー(P72及びP73)由来のDNAに基づいて、その特許に記載されているように、それらのペプチドの名称、及びN末端からの括弧付きの配列位置とともに、以下の表に示される。
B細胞エピトープ
【0131】
米国特許第5,180,806号には、以下のエピトープが含まれている。
ヒトパピローマウイルス(HPV)マーカーペプチド
【0132】
パピローマウイルスは、皮膚又は粘膜上皮の良性、異形成及び悪性の過剰増殖を誘導する。50種(株)を超えるヒトパピローマウイルス(HPV)が同定されている。ヒトでは、異なるパピローマウイルスのタイプが、異なる疾患を引き起こすと知られている。例えば、1型及び2型HPVは、尋常性疣贅を引き起こし、6型及び11型は、コンジローマ及び性器扁平疣贅を引き起こす。その一方で、16、18及び33型HPVは、ほとんどの子宮頸癌に保有されており、通常のコンジローマを引き起こさず、子宮頸部内皮に散在性に残存して、最小限の病理学的変化を示すのみである。子宮頸癌に関連するHPV型は、初感染後数年間にわたって子宮頸部内皮組織に潜伏状態で維持され、その後、場合によっては進行して子宮頸癌を引き起こすと考えられている。
【0133】
米国特許第5,180,806号には、抗体の産生を誘導するいくつかのペプチド配列が開示されている。米国特許第5,180,806号には、16型関連HPV配列の例証的なペプチドマーカーが開示されている。その特許は、18型及び33型のペプチド配列、並びに6、11、18及び33型HPVのE2 ORFによってコードされる配列も開示している。
【0134】
ハロゲン化キサンテンのインビボ使用
Swift et al.,OncoTargets and Ther 12:1293-1307(2019)に提供されているデータは、インビトロ細胞傷害アッセイにおいていくつかの小児固形腫瘍癌細胞株(SK-N-AS、SK-N-BE(2)、IMR5、LAN1、SHEP及びSK-N-SH培養神経芽腫細胞並びにSK-N-MC培養神経上皮腫細胞)に対してRBが最大阻害効果の半分を発揮する濃度(IC50値)が49~85μMの範囲内であることを示している。この著者らは、正常なコントロール細胞(初代骨髄細胞及び正常な線維芽細胞)に対するRBのIC50値が、93~143μMであることも報告した。
【0135】
RBで処置された、原発性又は再発性の小児白血病患者に由来する11個の商業的に入手可能な白血病細胞株のパネルを用いて行われたインビトロ細胞培養生存率アッセイでは、原発性細胞株に対する平均IC50値が92.8μMであり、再発性細胞株に対する平均IC50値が122.5μMであることが示された。[Swift et al.,Blood,132,No.Suppl 1:5207(2018年11月21日).]
【0136】
本明細書中に提供されるデータは、THP-1 AML細胞が、100μMの濃度でRBに曝露されたとき、STING二量体化が観察されたこと、並びにそのような接触の際に、そのような細胞においてサイトカイン及びケモカインの産生が観察されたことも示している。
【0137】
RB二ナトリウムの1018g/モルという分子量に基づいて、およそ5Lという標準的な血液量を有する成人に100mgのRBを単回IVボーラスとして投与することによって行われる、RBの古典的なIV診断用途では、およそ20mg/L、すなわち、およそ20μM RBという血中濃度が達成された。上記のSwiftら、2019又はSwiftら、2018の結果が示すように、そのようなレベルでの曝露は、固形腫瘍又は血液悪性腫瘍に対して直接的な最小の細胞傷害作用をもたらし得る。
【0138】
PV-10(注射用食塩水中の10%RB二ナトリウム)の臨床試験では、腫瘍内に送達される血管内異物侵入において、1500mgというボーラス用量のRBが許容された。これは血流中のおよそ300mg/L(300μM RB)という曝露量に匹敵する。
【0139】
したがって、RBは、かなりの割合の腫瘍組織の直接的な細胞傷害性を誘発する可能性が低いレベル(すなわち、およそ50~100μM又はそれ未満)であってSTING二量体化を誘発し得るレベル(すなわち、およそ50~100μMまで)で、静脈内(IV)注入などの全身経路で投与することが可能である。
【0140】
急速に殺滅された腫瘍細胞の負荷から生じ得る毒性反応(すなわち、腫瘍崩壊症候群)を回避するために、腫瘍細胞に対する直接的な細胞傷害性を回避することが好ましい場合がある。Howard et al.,N Engl J Med 364(19):1844-1854(2011年5月12日)は、腫瘍崩壊症候群が、血液癌を処置する医師が遭遇する最も一般的な疾患関連緊急事態であると報告している。
【0141】
ヒトでは循環からのRBのクリアランスが速いこと(t1/2が約30分)に起因して、1回の投与において循環中のRBのピークレベルを維持する(すなわち、最大数時間又はそれ以上にわたって)ために、持続注入を用いることができる。
【0142】
HX化合物の循環半減期が短いことから、これらの分子を急性のSTING活性化のために効果的に適用することが促され、この適用は、逆効果の炎症応答及び場合によっては自己免疫疾患につながり得る慢性の活性化を回避しつつ、自然免疫系のシグナル伝達能を最大にする。
【0143】
1回以上の全身投与は、特に、免疫能力が低下している患者において、免疫系応答を惹起するために特に生産的であり得る。このアプローチは、HX化合物を癌又は微生物感染症の免疫学的アジュバントとして使用することにも同様に適用できる。
【0144】
全身投与又は局所投与は、IV投与、緩徐なIV注入、持続的なIV注入、経口投与、エアロゾル吸入、又は皮下デポーの確立、又は同様の手段によって達成することができる。デポーからの持続放出は、吸収されない又はゆっくり吸収されるキャリアとHX化合物を、切断可能な結合を介して複合体化すること(例えば、ナノ粒子、注射可能な充填剤又は同様のキャリアへのエステル化)によって、達成され得る。
【0145】
処置を必要とし(哺乳動物被験体)、且つHX化合物又はその薬学的に許容され得る塩又はRB二ナトリウムを含む薬学的組成物を投与され得る、微生物感染症(例えば、ウイルス感染症又は細菌感染症)又は癌(例えば、白血病、神経芽細胞腫、メラノーマ、非小細胞肺癌など)を有する哺乳動物被験体は、ヒトなどの霊長類、チンパンジー若しくはゴリラなどの類人猿、カニクイザル若しくはマカクなどのサル、ラット、マウス若しくはウサギなどの実験動物、イヌ、ネコ、ウマなどの伴侶動物、又は雌ウシ若しくは雄子牛、ヒツジ、子ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラマなどの食用動物などであり得る。
【0146】
上で述べたように、1回の処置において細胞傷害性によって癌性細胞のかなりの部分が直接殺滅されることを回避することが、有益であり得る。したがって、本発明は、毒性反応のリスクを最小限に抑えながら、I型IFN免疫応答の惹起及び下流の適応免疫応答の活性化のための手段を提供することができる。
【0147】
これらの濃度範囲は、腫瘍学に対する用量選択の指針になることに加えて、RB及び関連するHX化合物の抗ウイルス用途に対する臨床パラメータの選択の境界線を確立する。特に、300μM以下の濃度が許容され、正常組織への毒性発生の可能性を回避するために100μM以下の濃度が好ましいことに注意されたい。
【0148】
以下に列挙される同様に有用なハロゲン化キサンテン化合物及びそれらの薬学的に許容され得る塩は、互いに約3倍異なる分子量を有し得る(表3、米国特許第7,390,688号、カラム15~16を参照のこと)。使用される特定のHX化合物の正確な量は、そのような各化合物又はRBの分子量に基づいて算出されることが好ましい。
【0149】
企図されるHX化合物には、特に好ましいローズベンガル(4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラヨード-フルオレセイン、RB)、エリスロシンB、フロキシンB、4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,5’,7’-テトラ-ヨードフルオレセイン、2’,4,5,6,7-ペンタクロロ-4’,5’,7’-トリヨードフルオレセイン、4,4’,5,6,7-ペンタクロロ-2’,5’,7’-トリヨードフルオレセイン、2’,4,5,6,7,7’-ヘキサクロロ-4’,5’-ジヨードフルオレセイン、4,4’,5,5’,6,7-ヘキサクロロ-2’,7’-ジヨードフルオレセイン、2’,4,5,5’,6,7-ヘキサクロロ-4’,7’-ジヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’-トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,7’-トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,5’-トリヨードフルオレセイン及び4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,7’-トリヨードフルオレセインが含まれる。
【0150】
上記のハロゲン化キサンテンなどの薬学的化合物と薬学的に許容され得る塩を形成する通常使用される薬学的に許容され得る酸及び塩基のリストについては、Berge,J.Pharm.Sci.1977 68(1):1-19を参照されたい。例証的なカチオンとしては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、並びにアンモニウム、及びマグネシウム及びカルシウムなどのアルカリ土類塩が挙げられる。ローズベンガルの二ナトリウム塩が特に好ましい。
【0151】
上記のハロゲン化キサンテン化合物のうちの1つのC-Cアルキルエステルも使用でき、C、すなわちエチルエステルが好ましい。例えば、RB、エチル-レッド3(エリスロシンエチルエステル;2’,4’,5’,7’-テトラヨード-フルオレセインエチルエステル)、4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン及びエチル-フロキシンB(4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラブロモフルオレセインエチルエステル)の各々を用いるインビトロ研究は、CCL-142腎腺癌に対して同様の抗腫瘍活性を示した。芳香族エステルを使用するとき、それは、好ましくは、ベンジルエステル又はフェニルエステルである。
【0152】
HX化合物のカルボキシル基を使用して、アミド基を形成することもできる。アミド窒素原子は、非置換[-C(O)-NH]であり得るか、C-Cアルキル基で一置換され得るか[-C(O)-NHR(ここでRはC-Cアルキルである)]、又は独立して選択される2つのC-Cアルキル基で二置換され得る[-C(O)-NR(ここでR及びRは、各々独立して、同じ又は異なるC-Cアルキル基である)]。或いは、R及びR基は、アミド窒素原子と一体となって、5又は6員環を形成する。
【0153】
さらに、HX化合物のカルボキシル基は、エステル又は一置換アミドである芳香族誘導体を形成し得る。このような誘導体の芳香環は、独立して窒素、酸素若しくは硫黄である0、1若しくは2個のヘテロ環原子を含む単一の5員若しくは6員の芳香環又は5,6-若しくは6,6-縮合芳香環系である。
【0154】
現在のところ、芳香環部分がフェニル、ベンジル又は2-、3-若しくは4-ピリジル(ピリジル)である芳香族誘導体が好ましい。しかしながら、他の芳香族単環含有エステル及び芳香族縮合環含有エステル並びに芳香族単環含有アミド及び芳香族縮合環含有アミドも企図される。そのような芳香族エステル誘導体基及び芳香族アミド誘導体基の例証的な例を下記に示し、命名する。式中、Zは、O又はNHであり、線-Zは、環-酸素又は環-窒素がその環の利用可能な任意の炭素からであり得ることを示し、波線を横断するZ-線は、描かれているアルコキシ基又はアミノ基が、別の分子であるエステル化又はアミド化されたHX分子の一部であることを示す。
【0155】
【化2】
【0156】
上記HX化合物のうちの1つの脂肪族誘導体又は芳香族誘導体、例えば、Singerら、米国特許第8,530,675号における図1sに示されている2,3,4,5-テトラクロロ-6-(6-ヒドロキシ-2,4,5-トリヨード-7-イソプロピル-3-オキソ-3H-キサンテン-9-イル)安息香酸二ナトリウム[4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’-トリヨード-7’-イソプロピルフルオレセイン]、及び2、3、4、5、2’、4’、5’又は7’位のうちの1つ以上における1つ以上の脂肪族部分又は芳香族部分の付着を介して形成される同様の脂肪族誘導体又は芳香族誘導体も使用され得る。
【0157】
RBの好ましい形態は、下記の構造式を有するローズベンガル二ナトリウムである。
【0158】
【化3】
【0159】
上述のHX化合物を含む薬学的組成物の医薬用途のさらなる詳細は、米国特許第5,998,597号、同第6,331,286号、同第6,493,570号、同第7,390,688号、同第7,648,695号、同第8,974,363号、同第9,107,887号、同第9,808,524号、同第9,839,688号、同第10,130,658号及び同第10,471,144号(これらの開示は、その全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されている。
【0160】
企図されるHX又はその薬学的に許容され得る塩は、通常、水性薬学的組成物に溶解又は分散された状態で使用される。HX化合物は、通常、水性0.9%食塩水薬学的組成物中に0.1~約20%(w/v)で存在する。
【0161】
企図される薬学的組成物は、通常、IV法などによる非経口投与を意図しているので、そのような組成物は、電解質を含むべきであり、好ましくは、ほぼ生理学的な浸透圧及びpH値を有するべきである。薬学的に許容され得る水性媒体中の一価の電解質イオンの好ましい濃度は、約0.5~約1.5%(w/v)、より好ましくは、約0.8~約1.2%(w/v)、最も好ましくは、約0.9%(w/v)の濃度である。約0.9%(w/v)の濃度は、ほぼ等張の水溶液に相当するので、特に好ましい。さらなる好ましい実施形態において、企図される薬学的組成物中の電解質は、塩化ナトリウムである。
【0162】
そのようなレベルの電解質は、薬学的に許容され得る水性媒体の浸透圧を高める。したがって、電解質濃度の範囲を明示する代用として、浸透圧を用いることにより、組成物の電解質レベルを部分的に特徴付けることができる。組成物の浸透圧は、約100mOsm/kgより高いことが好ましく、より好ましくは、組成物の浸透圧は約250mOsm/kgより高く、最も好ましくは、約300~約500mOsm/kgである。
【0163】
水性ビヒクル中のHX化合物の最大の溶解度を得るため、及び生体組織との適合性を確保するために、薬学的に許容され得る水性媒体のpH値は、約4~約9であることが好ましい。特に好ましいpH値は、約5~約8であり、より好ましくは、約6~約7.5である。これらのpH値において、ハロゲン化キサンテンは、低いpH値で形成される水不溶性ラクトンではなく、通常、二塩基性の形態のままである。
【0164】
薬学的に許容され得る水性媒体のpH値は、当業者に公知の任意の好適な手段によって制御又は調整され得る。組成物は、緩衝され得るか、又は酸若しくは塩基などの添加によってpH値が調整され得る。ハロゲン化キサンテン又はその生理学的に許容され得る塩は、弱酸であるので、ハロゲン化キサンテンの濃度及び/又は電解質の濃度に応じて、組成物のpH値は、緩衝剤及び/又はpH改変試薬の使用を必要としない場合がある。しかしながら、組成物は、投与されたとき、生物学的環境と同じにすることを可能にする、いかなる緩衝剤も含まない(緩衝剤不含である又は緩衝剤非含有である)ことが特に好ましい。
【0165】
経口投与、吸入又は他の非経口投与経路に適合した代替の企図される薬学的組成物は、そのような投与経路に対する当該分野で標準的な方法を用いて製剤化及び送達され得る。
【0166】
本発明において、投与されるRB又はRB二ナトリウムなどのHX化合物の具体的な量は、組成物が腫瘍に腫瘍内注射される場合と同様に重要ではないと考えられる。なぜなら、治療的に活性な濃度のHX化合物を罹患細胞の環境に最終的に提供することがここでの目的であるからであり、それらの罹患細胞は、STING活性化又は特定の適応症に依存する抗ウイルス活性のいずれかを介して治療効果を誘発するのに十分なレベルでHX化合物と接触され得る。
【0167】
抗ウイルス適応においてHX化合物との併用処置に有用な第2の治療薬は、抗体又は抗体の混合物(「抗体カクテル」と称されることもある)である。そのような抗体の例証的なものは、ウイルスのスパイクタンパク質と免疫反応することにより、ウイルスがヒト細胞に結合するのを阻害するモノクローナル抗体である。これらのモノクローナル抗体は、注入によって投与される。
【0168】
ウイルスのスパイクタンパク質に対して免疫反応性である抗体の1つであるモノクローナル抗体のバムラニビマブ(bamlanivimab)は、バムラニビマブに耐性があるいわゆる「カリフォルニア」バリアントが存在することに起因して(逃避変異)、カリフォルニア州、アリゾナ州及びネバダ州でFDAから単剤としての緊急使用許可(Emergency Use Authorization)(EUA)が、2021年3月17日に解かれた。製造者のEli Lilly and Companyの広報担当者は、同日、バムラニビマブとモノクローナル抗体エテセビマブ(etesevimab)を併用した場合、そのバリアントに対する中和効果が維持されると報告した。
【0169】
Regeneron PharmaceuticalsがREGN-COVの商品名で販売している、別のスパイクタンパク質反応性モノクローナル抗体対であるカシリビマブ(casirivimab)及びイムデビマブ(imdevimab)は、2020年11月21日に米国食品医薬品局からEUAを受けた。これらのモノクローナル抗体は、異なる2つの位置においてウイルスのスパイクタンパク質と免疫反応し、そのように結合すると、ウイルスが体内の細胞に侵入するのを阻止する。これらのモノクローナル抗体は、それぞれを等量含む混合物として投与される。
【0170】
下記に示されるように、HX化合物は、ウイルスのスパイクタンパク質と複合体化することができるので、HX化合物とそのようなスパイクタンパク質反応性モノクローナル抗体との併用により、ウイルスの結合をさらに干渉することによって抗ウイルス活性を高め、それにより、そのような抗体の治療活性を高め、逃避変異を妨げることができる。
【0171】
インタクトなモノクローナル抗体に加えて、Fab、Fab’、F(ab’)及びFv領域などのそれらのパラトープ含有部分(結合部位含有部分)、並びに一本鎖抗体ペプチド結合配列も有用であり得る。インタクトなヒト化モノクローナル抗体は、添付文書から分かるように、ヒト体内で約1~3週間という半減期を有する。例示として免疫チェックポイント阻害剤を用いるとき、例えば、Yervoy(登録商標)(イピリムマブ)の終末相t1/2=15.4日、添付文書12/2013、Keytruda(登録商標)(ペンブロリズマブ)の終末相t1/2=23日、添付文書03/2017]。一本鎖抗体結合部位オリゴ又はポリペプチドは、インビボにおいてより短い半減期を有する傾向がある。
【0172】
レムデシビル及び上述のモノクローナル抗体などの薬は、FDAが承認した添付文書に示されている指示書で述べられている量、条件及びタイミングで投与される。それらの量は、有効量であるとみなされる。例えば、短縮型において、レムデシビルは、体重が少なくとも40kgの12歳以上の人間に対して、1日目に200mgという単回負荷投与量で投与した後、2日目から1日1回、100mgという維持量を30~120分かけて注入する。侵襲的な人工呼吸及び/又は体外式膜型人工肺(ECMO)を必要としない患者の場合、推奨される総処置期間は、5日間である。患者が臨床的改善を示さない場合、その期間を最大5日間延長することができる。
【0173】
HX化合物は、レムデシビル又は上述のようなモノクローナル抗体と同日に投与される。RBなどのHX化合物とモノクローナル抗体の両方の薬が、好ましくは、別個の組成物として投与される。両方のタイプの薬を、互いに数分以内~約8時間以内に投与することが好ましい。より好ましくは、両方の薬を、他方の1時間未満のうちに投与する。言い換えれば、それら2種類の薬を重複スケジュールで、好ましくは互いの1時間以内に投与する。
【0174】
本明細書中で使用されるとき、「投与」は、処置レジメンの開始を意味するために使用される。したがって、IV流を開始する時点のように、錠剤又は他の経口剤形を嚥下することが、処置レジメンの開始である。第1の抗癌剤と第2の抗癌剤の両方が、同じ単一の組成物に共に存在するとき、その単位組成物が被験体の体内に入った時点で投与が開始する。
【0175】
方法論及び結果
複合体形成のためのコンピュータモデリング
AutoDock Vina[Dr.Oleg Trott,Molecular Graphics Lab,Scripps Research Institute,La Jolla,CA]及びBIOVIA Discovery Studio[Dassault Systemes BIOVIA,Discovery Studio Modeling Environment,Release 2017,San Diego,CA]プラットフォームを用いてコンピュータモデルを生成して、インシリコのフレキシブルリガンド-レセプタードッキングを行い、原子間距離に基づいて全結合エネルギーを求めた。
【0176】
図6A~6Cに関して先に論じた知見に基づいて、これらのデータの背後にあるいくつかの態様の特異性を規定するために、ウイルスエンベロープタンパク質(E遺伝子産物)をコードするウイルスRNA(vRNA)の定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)に基づくアッセイを用いる一連の研究をデザインした。これらの研究では、細胞に加える前にウイルスをRBとプレインキュベートした。実験条件を下記の表1に記載する。
【0177】
表1
qPCR処理の概要
細胞の前処理:
・細胞をRB(0.6μM、1時間)で前処理し、RBを除去し、ウイルスを加え(1時間)、細胞を洗浄し、増殖培地を加える
ウイルスの前処理:
・ウイルスをRB(0.6μM、1時間)で前処理し、ウイルス+RB混合物を細胞に加え(1時間)、細胞を洗浄し、増殖培地を加える
ウイルス+RBの吸着:
・ウイルス+RBを細胞に加え(1時間)、細胞を洗浄し、増殖培地を加える
通常:
・ウイルスを細胞に加え(1時間)、細胞を洗浄し、RB/増殖培地を加える
吸着後のRB添加:
・ウイルスを細胞に加え(1時間)、ウイルスを除去し、増殖培地を加え(1時間)、除去し、RB/増殖培地を加える(2時間)
(+)コントロール:
・ウイルスを細胞に加え(1時間)、細胞を洗浄し、増殖培地を加える
すべての条件で、16時間インキュベートし、その後、ウイルス上清を回収し、vRNAを抽出し、qPCRを行った。
【0178】
阻害の後、細胞のウイルスE遺伝子の発現を、PCRによってコピー数について計測した。図7Bに示されている結果は、ウイルスをRBで前処理したとき、より低コピー数が見られたことを示しており、おそらく、その後の細胞レセプターとの相互作用の前に阻止されたウイルス領域への結合において先手を打つことができた(p<0.05)。
【0179】
ウイルスとRBを同時に添加しても、コントロールに比べて減少を示したが、その減少は小さかったことから、RBが少なくとも部分的にウイルス成分と相互作用している可能性が示された。このことは、ウイルスを細胞とインキュベートした後にRBを加えても効果がなかったという観察結果によってさらに確かめられ、それにより、E遺伝子のコピー数の減少が、その後のウイルスの付着及び複製を干渉するようにRBとウイルスとが相互作用することによって媒介されることが確認された。
【0180】
コントロールとして、新しいウイルスが複製する機会がある前の、感染の16時間後に、サブゲノムのウイルスRNAのレベルを調べた(図7A)。サイクル閾値(ct、ウイルス核酸の増幅に必要な逆転写のサイクル数)は、存在するウイルス量の指標であり、データは、RBで処置されたウイルスでより高いct値を示したことから、図7Bに示されている直接計測の結果に見られる傾向、及びRBがウイルス複製に悪影響を与えることが確認された。ウイルス感染性の阻止においてより良好な効率が達成されるかを確かめるために、RB濃度を上昇させて、及びインキュベーション時間を延長して、研究が進められている。
【0181】
材料及び方法
Vero C1008細胞(ATCC(登録商標)CRL-1586(商標))を、10%FBS(ATCC(登録商標)30-2020(商標))、10単位ペニシリン/10μg/mlストレプトマイシン(Gibco(商標)15140148)が補充された推奨の増殖培地(イーグル最小必須培地(ATCC(登録商標)30-2003(商標))中、37℃、5%COで維持した。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)分離株USA-WA1/2020は、BEI Resources(NR-52281)から入手した。
【0182】
プラーク減少アッセイ
10%FBSが補充された増殖培地に細胞を、6ウェルプレート(Falcon(商標)353046)に4×10細胞/ウェル(2ml/ウェル)の濃度で播種し、37℃、5%COで一晩(約18時間)インキュベートした。
【0183】
レムデシビル(GS-5734(商標),MedKoo Biosciences,Inc.)に対するSARS-CoV-2の感受性を試験するために、増殖培地を除去し、細胞をPBS(Corning(商標)21031CV)で一度洗浄し、2%FBSが補充された増殖培地中で約60プラーク形成単位(PFU)のSARS-CoV-2に3つ組で感染させた。15分ごとに振盪しながら1時間インキュベートした後、SARS-CoV-2を除去し、その後、0.4%微結晶セルロース及びDMSO又は量を増加させたレムデシビル(0.156、0.312、0.625、1.25及び2.5μM)を含む3mlの培地で細胞を覆い、37℃、5%COでインキュベートした。プラーク形成を可能にするために96時間のインキュベーションの後、そのオーバーレイを除去し、細胞単層を10%リン酸緩衝ホルマリン(1ml;Fisher SF100)で1時間固定し、水で一度洗浄し、1%クリスタルバイオレット(600μl;Sigma C3886,20%メタノールで希釈)で10分間染色した。クリスタルバイオレットを除去した後、細胞を水で一度洗浄し、プラークを計数した。
【0184】
レムデシビルと併用したときのSARS-CoV-2に対するRBの治療効果を評価するために、感染後、薬物を連続的に適用し、まずRBを適用した後、一定用量のレムデシビルを適用した。細胞をPBSで一度洗浄し、2%FBSが補充された増殖培地中で、およそ60PFUのSARS-CoV-2に感染させた。15分ごとに振盪しながら1時間インキュベートした後、SARS-CoV-2を除去し、1、5、20及び50μMのRB及び適切なコントロール(0.9%食塩水又は培地のみ)を含む2mlの培地を3つ組で加えた。2時間のインキュベーションの後、RBを除去し、細胞をPBSで一度洗浄し、0.4%微結晶セルロース及び0.15μMレムデシビル又はDMSOを含む3mlの培地で覆った。プラーク形成を可能にするために96時間のインキュベーションの後、上記のようにプラークを可視化した。このアッセイを2つ組で行った。
【0185】
SARS-CoV-2インビボ感染のRB処置をよりうまく模倣するために、RBを、感染中に持続的に適用した(細胞の感染前の処置、感染中の処置、及び試験終了までの感染後の処置)。細胞を洗浄し、濃度を上げたRB及びコントロール(培地のみ又は0.9%食塩水)を含む2mlの培地と2時間、3つ組でインキュベートした。
【0186】
0.5、1、5、10、20、50、75及び100μM RBという濃度を第1の反復において試験し、第2の反復では、0.5、1、5、10、20、30、40及び50μMに調整した。培地を除去した後、RBとおよそ60PFUのSARS-CoV-2との混合物を、15分ごとに振盪しながら1時間加えた。その後、そのウイルス-薬物混合物を除去し、RB含有オーバーレイと交換した。プラーク形成を可能にするために96時間のインキュベーションの後、上記のようにプラークを可視化した。
【0187】
ポジティブコントロールとして、5μMレムデシビルを、SARS-CoV-2による感染中のウェル及び96時間のオーバーレイに加えた。このアッセイを2つ組で行った。
【0188】
RBを用いる全工程を、赤色光の存在下において行った。IC50値及びEC50値は、GraphPad Prism 8.0ソフトウェア(非線形回帰分析)によって算出した。
【0189】
冠詞「a」及び「an」は、その冠詞の1つの又は1つより多い(すなわち、少なくとも1つの)文法上の対象物のことを指すために本明細書中で使用される。例として、「エレメント(an element)」は、1つのエレメント又は1つより多いエレメントを意味する。本明細書に引用された特許、特許出願及び論文は、各々、参照により援用される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1L
図1M
図1N
図1O
図1P
図1Q
図1R
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C