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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】再帰反射顔料および塗料
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/00 20060101AFI20240701BHJP
   G02B 5/124 20060101ALI20240701BHJP
   G02B 5/12 20060101ALI20240701BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20240701BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240701BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240701BHJP
   G02B 5/00 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
C09C3/00
G02B5/124
G02B5/12
G02B1/10
C09D7/61
C09D201/00
C09D133/00
C09D175/04
G02B5/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022559915
(86)(22)【出願日】2021-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(86)【国際出願番号】 EP2021058058
(87)【国際公開番号】W WO2021198121
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】20166898.5
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ムンドゥス,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】カンティム,トマス
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-209142(JP,A)
【文献】特開2010-196008(JP,A)
【文献】特表平08-502301(JP,A)
【文献】特開平05-179174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00-3/12
C09D 1/00-10/00,
15/00-17/00,
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再帰反射構造を有し、マイクロメートルサイズの金属フレークである再帰反射顔料であって、
前記金属フレークが前面および裏面を有し、前記再帰反射構造がキューブコーナー構造であり、該キューブコーナー構造の底面が5から30μmの範囲の一辺の長さを有する正三角形を形成する、再帰反射顔料
【請求項2】
100μmから10,000μmの範囲の表面積を有し、前記表面積が、前記金属フレークの実質的に平坦な部分の一面の面積である、請求項1に記載の再帰反射顔料。
【請求項3】
10μmから100μmの範囲の平均直径および200nmから300nmの範囲の材料の厚さを有する金属フレークであって、該金属フレークが少なくとも1つの再帰反射構造を特徴とする、請求項1または2に記載の再帰反射顔料。
【請求項4】
1つのキューブコーナー構造のみが前記金属フレークの一面に設けられている、請求項1に記載の再帰反射顔料。
【請求項5】
前記金属フレークが、前記金属フレークの前面に1つ、および前記金属フレークの裏面に1つの、2つのキューブコーナー構造を特徴とする、請求項に記載の再帰反射顔料。
【請求項6】
薄い金属箔エンボス加工された、請求項1~5の何れか一項に記載の再帰反射顔料。
【請求項7】
プリフォーム上または基材上金属物理蒸着(PVD)された、請求項1~5の何れか一項に記載の再帰反射顔料。
【請求項8】
前記プリフォームが溶融または分解することなく少なくとも100℃の温度に耐えることができる耐熱性ポリマーから構成され、前記基材がガラスから構成される、請求項7に記載の再帰反射顔料。
【請求項9】
アルミニウムから構成される、請求項1~8の何れか一項に記載の再帰反射顔料。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の再帰反射顔料を含む塗料。
【請求項11】
前記塗料中の再帰反射顔料の濃度が、塗料の総質量に対して0.01から10質量%の範囲である、請求項10に記載の塗料。
【請求項12】
非再帰反射効果顔料をさらに含む、請求項10または11に記載の塗料。
【請求項13】
アクリル樹脂を含む、請求項10~12の何れか一項に記載の塗料。
【請求項14】
ポリウレタン樹脂を含む、請求項10~13の何れか一項に記載の塗料。
【請求項15】
請求項10~14の何れか一項に記載の塗料から得られるコーティングであって、前記再帰反射顔料がコーティングの表面全体に均一に分布し、且つ前記再帰反射顔料によって被覆される前記コーティングの表面積の割合が、コーティングの総表面積に対して少なくとも0.01%である、コーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、再帰反射顔料および再帰反射顔料を含む塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
ライダー(光検出および測距)は、物体を検出して距離を測定する技術であり、特定の角度方向または角度範囲にレーザー放射線を放出し、物体によって散乱または反射された放射線を検出して、光源と物体の間の距離を飛行時間または周波数測定によって評価する。この方法は、十分に高い信号が物体から散乱または反射され、そのエミッターに非常に近くに配置されたライダーシステムの検出器に到達することを必要とする。レーザーパルスは散乱または反射ではなく吸収されるので、濃い色の塗料でコーティングされた物体はライダー波長で非常に低い反射率を示す。メタリック塗料でコーティングされた物体は、高度な鏡面反射を示す。したがって、ライダー検出器は、そのような物体を検出できないか、誤った距離データを生成する可能性がある。
【0003】
再帰反射は、広く適用されている(例えば、交通標識または安全服)よく知られた原理である。再帰反射は、入射放射線がエミッターに向かって反射されることを保証し、それによって光源の視点からの物体の視認性を高める。
【0004】
US2016/0146926A1は、光検出および測距(ライダー)装置およびライダーターゲットを含むシステムを開示する。ライダー装置は、ライダーターゲットに光線を向けるように構成されている。このシステムはまた、ライダーターゲットと接触する再帰反射材料も含む。一実施形態では、再帰反射材料は、ある期間にわたってライダーターゲットから払い落とされるように構成された再帰反射ダストを含む。あるいは、再帰反射材料は、再帰反射塗料、再帰反射コーティング、再帰反射テープ、再帰反射布、再帰反射表面仕上げ、またはそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、再帰反射材料は、コーナーキューブまたは再帰反射ボールを含み得る再帰反射構造を含む。
【0005】
WO2018/081613A1は、近赤外電磁放射線によって照射された物体の表面の検出距離を増加させる方法を開示している。この方法は、(a)近赤外放射をより多く吸収し且つ近赤外反射コーティングと比較したときに1.5以下のΔE同色値を有する同色コーティングでコーティングされた物体と比較して、近赤外電磁放射検知距離を近赤外範囲の波長で測定して少なくとも15%増大させる近赤外反射コーティングで少なくとも部分的にコーティングされた同じ物体に、近赤外電磁放射源からの近赤外電磁放射を向ける工程、および(b)近赤外反射コーティングから反射された反射近赤外電磁放射線を検出する工程を含む。
【0006】
US2014/0154520A1は、高レベルの明るさおよび色強度を有するエンボス加工された微粒子の薄い金属フレークを調製するための方法を記載する。45°を超えるモノルールエンボス角を有する回折格子パターンを複製することによってエンボス加工された反射金属フレークは、75μm以上のD50平均粒子径および約50nmから約100nmのフレーク厚さを有する。フレークは、高い色強度または色度と組み合わせて光学的に明らかなグリッターまたはスパークル効果として特徴付けられる非常に高い輝度を生成するコーティングおよび印刷インクの用途を有する。
【0007】
WO2006/116641A2は、高レベルの明るさおよび色強度を有するエンボス加工された微粒子の薄い金属フレークを調製するための方法を開示する。この方法は、柔軟なポリマーキャリアフィルム上にリリースコートを形成し、45°を超える角度でモノルール化された回折格子パターンをリリースコートにエンボス加工し、エンボス加工されたリリース表面をアルミニウムなどの高反射金属で真空金属蒸着(vacuum metalizing)し、そしてその金属蒸着させたリリースコートを溶媒に溶解させてその金属をキャリアから取り除き、エンボス加工パターンを複製するエンボス加工された金属フレークを形成すること、を含む。そのフレークは、フレークのD50粒子径が75ミクロン以上に維持されるように、そのフレークを過度に破壊する高いせん断、粒子サイズの調整、または他のエネルギーの適用を避けながら、溶媒およびリリースコートポリマーを含む溶液から回収される。フレークは、高い色強度または色度と組み合わせて光学的に明らかなグリッターまたはスパークル効果として特徴付けられる非常に高い輝度を生成するコーティングおよび印刷インクの用途を有する。
【0008】
WO03/011980A1は、その表面上に形成された回折構造を有する単層または多層フレークを含む回折顔料フレークを開示する。多層フレークは、反射コア層の反対側に対称的な積層コーティング構造を有することができ、または反射コア層の周りに封止コーティングで形成することができる。回折顔料フレークは、後でさまざまな物体に適用するための回折組成物を生成するために、塗料またはインクなどの液体媒体に散在させることができる。
【0009】
US2004/146641A1は、1つ以上の球形ビーズを含む顔料であって、各球形ビーズが、カプセル化材料内にカプセル化された1つ以上の高アスペクト比粒子を含む顔料;前記顔料を含む樹脂組成物;および懸濁重合による前記顔料の製造方法を開示する。
【0010】
US2008/107841A1は、反射クリアコート組成物であって、1種以上の樹脂と、太陽スペクトルの近赤外線(NIR)領域の少なくとも一部において少なくとも30%の反射率および太陽放射スペクトルの可視領域の少なくとも一部において29%以下の反射率を有する反射フレークと、からなる高分子バインダーを含むクリアコート組成物を含む、反射クリアコート組成物を開示する。この反射クリアコート組成物は自動車の外部硬化塗料表面上で硬化され得る。結果として得られた硬化クリアコート組成物は、太陽放射にさらされている間に車両の客室内で発生する温度を下げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】US2016/0146926A1
【文献】WO2018/081613A1
【文献】US2014/0154520A1
【文献】WO2006/116641A2
【文献】WO03/011980A1
【文献】US2004/146641A1
【文献】US2008/107841A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示の目的は、ライダーシステムで使用される電磁放射線の高い反射率を有するコーティングを製造するために使用することができる再帰反射顔料およびそのような再帰反射顔料を含む塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、放射線源の方向に入射電磁放射線を再帰反射する効果顔料を提供する。本開示の再帰反射顔料の表面は、鏡のようであり(少なくとも意図された波長レジーム、例えばライダーの)、また、その顔料の幾何学的特性は、入射放射線のその線源方向への入射放射線の再帰反射を結果としてもたらす。
【0014】
本開示はまた、再帰反射顔料を含む塗料およびその塗料から製造されたコーティングも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の例示的な再帰反射顔料の概略図を示す。
図2】完全な吸収体基材上の標準的なアルミニウムフレークを含むコーティングの模擬の反射を示す(技術水準)。
図3】完全な吸収体基材上の本開示の再帰反射顔料を含むコーティングの模擬の反射を示す。
図4】標準的なアルミニウムフレークを含むコーティング、回折格子表面を有するアルミニウムフレークを含むコーティング、および本開示による再帰反射顔料を含むコーティングの、それぞれ完全な吸収体基材上の模擬の反射の比較を示す。
図5】標準的なアルミニウムフレークを含むコーティングと回折格子表面を有するアルミニウムフレークを含むコーティングの、それぞれ強力に吸収する黒色基材上で測定された反射の比較を示す。
図6】2つの再帰反射構造を有する本開示の例示的な再帰反射顔料の概略図を示す。
図7】(1)銀製の平面鏡、(2)白色コーティング、および(3)本開示による銀コーティングされたキューブコーナー構造の入射角の関数としてのLIDAR反射の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示では、再帰反射の概念が効果顔料に適用される。通常、そのような効果顔料は塗料に分散され、特別な色または光沢効果を生み出す。金属フレークは効果顔料として広く使用される。効果顔料に入射した光は、個々のフレークの(ほぼ)平らな表面によってほぼ鏡面方向に反射される。
【0017】
対照的に、本開示で使用されるフレークは、再帰反射幾何学的形状で三次元構造化されている。したがって、そのようなフレークの構造化領域に入射する放射線は、鏡面方向ではなく、光源に再帰反射される。適切な効果顔料の一例は、再帰反射表面構造を有するマイクロメートルサイズの金属フレークである。
【0018】
再帰反射顔料は、入射光の方向と逆の方向に狭いビームで入射光を反射する。再帰反射は、再帰反射物体を通常の反射よりもはるかに明るくするのに役立ち、通常、10から1000倍である。
【0019】
再帰反射率の直接測定値は、物体の平面における再帰反射光度I(カンデラ、cd)と照度E(ルクス、lx)の比である。それは光度係数CILと呼ばれる。単位はカンデラ/ルクスである。
【0020】
一実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、1mcd×lx-1を超える、例えば、10mcd×lx-1を超える、またはさらに100mcd×lx-1を超えるCIL値を有する。一実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、5から500mcd×lx-1、例えば、20から400mcd×lx-1、または30から300mcd×lx-1の範囲のCIL値を有する。
【0021】
一実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、金属材料から構成される。特定の実施形態では、本開示の再帰反射顔料はアルミニウムから構成される。別の特定の実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、真鍮または青銅から構成される。さらに別の特定の実施形態では、本開示の再帰反射顔料は銅から構成される。別の特定の実施形態では、本開示の再帰反射顔料は銀から構成される。さらに別の特定の実施形態では、本開示の再帰反射顔料は金で構成される。さらに別の特定の実施形態では、本開示の再帰反射顔料はスズで構成される。さらに別の特定の実施形態では、本開示の再帰反射顔料は亜鉛で構成される。別の特定の実施形態では、本開示の再帰反射顔料は鉛で構成される。別の実施形態では、再帰反射顔料は、薄い酸化物層でコーティングされた基材材料から構成される。
【0022】
一実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、850nmから950nmの範囲、例えば905nmの波長を有する光を再帰反射する。別の実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、1500nmから1600nmの範囲、例えば1550nmの波長を有する光を再帰反射する。
【0023】
一実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、100μmから60,000μm、例えば、100μmから10,000μmの範囲の表面積を有する。本開示の文脈において、表面積は、金属フレークの実質的に平坦な部分の一面の面積である。一実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、10μmから100μmの範囲の等価直径を有する。等価直径dは、式d=(4A/π)1/2を用いて、再帰反射顔料の一面の表面積Aから得られる。
【0024】
一実施形態では、再帰反射顔料は楕円形の金属フレーク、例えばアルミニウムフレークであり、第1の主軸は20μmから100μmの範囲、例えば40μmの長さを有し、第2の主軸は10μmから70μmの範囲、例えば25μmの長さを有する。特定の実施形態では、第1の主軸の長さは40μmであり、第2の主軸の長さは25μmである。
【0025】
別の実施形態では、再帰反射顔料は、10μmから100μmの範囲、例えば20μmの直径を有する円形金属フレーク、例えばアルミニウムフレークである。
【0026】
一実施形態では、金属フレークは、20nmから1,000nm、例えば200nmから300nmの範囲、例えば250nmの材料厚さを有する。「材料の厚さ」という用語は、金属フレークの最大面に対して垂直なその金属フレークの厚さを示すために使用される。
【0027】
一実施形態では、再帰反射顔料は、少なくとも1つの再帰反射構造を有するマイクロメートルサイズの金属フレークである。一実施形態では、金属フレークは、それにエンボス加工された少なくとも1つの再帰反射構造を特徴とする。さらなる実施形態では、金属フレークは、少なくとも2つの再帰反射構造を特徴とし、少なくとも1つは金属フレークの前面に存在し、少なくとも1つは金属フレークの裏面に存在する。
【0028】
一実施形態では、キューブコーナー構造が金属フレークの中心にエンボス加工される。一実施形態では、エンボス加工された構造の底面は、フレークの主平面において、一辺の長さが2から30μm、例えば5から30μmの範囲の、例えば17μmの正三角形を形成する。したがって、再帰反射構造は四面体の形をとる。別の実施形態では、2つの同一のキューブコーナー構造が、金属フレークの反対側に、互いに距離を置いてエンボス加工される。一方のキューブコーナー構造は金属フレークの前面にエンボス加工され、もう一方のキューブコーナー構造は金属フレークの裏面にエンボス加工される。
【0029】
本開示の再帰反射顔料は、高い表面反射率(その金属表面による)と反射の方向性(その再帰反射構造による)とを組み合わせる。
【0030】
顔料が(少なくともほぼ)再帰反射特性を示す場合、適用される形状に関して制限はない。例えば、再帰反射構造は、再帰反射ボールまたはビーズの形をとってもよく、または、有効な再帰反射領域を減らす角近くのデッドエリアを減らすために、キューブコーナー構造の部分(section)を組み合わせてもよい。例えば、異なる方向にわずかに傾けられた個々のマイクロプリズムの列またはクラスターを、再帰反射性をより広い入射角に広げるために使用することができる。さらに、長方形の部分をデッドコーナーを除いた基本のピラミッドユニットから選択することができ、且つ互いに角を突き合わせたこれらの小さなユニットの配列を組みあわせることができる。
【0031】
一実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、薄い金属箔、例えばアルミニウム箔をエンボス加工することによって製造される。さらなる実施形態では、金属フレーク、例えばアルミニウムフレークがエンボス加工される。他の実施形態では、本開示の再帰反射顔料は、プリフォーム上、または基材上への金属、例えばアルミニウムの物理蒸着(PVD)によって製造される。本開示の文脈において、プリフォームは、所望の表面構造を特徴とする支持体である。一実施形態では、プリフォームは、異なるエンボス加工技術によって製造され、エンボス加工された表面は、その後、薄い反射金属フィルムで金属化される。再帰反射顔料を得るために、金属フィルムは表面から除去される。一実施形態では、プリフォームは耐熱性ポリマーから構成される。本開示の文脈において、耐熱性ポリマーは、溶融または分解することなく少なくとも100℃の温度に耐えることができるポリマーである。適切なポリマーの例は、アクリル樹脂、アクリルコポリマー、PVC、ポリスチレン、およびPETなどのポリエステルを含む。さらに別の実施形態では、再帰反射顔料の製造は、ガラス基材、例えばガラスシートまたは箔上への金属フィルムの形成を含む。基材は必ずしもプリフォームである必要はない。さらなる実施形態では、金属フィルムはガラス基材から除去されない。
【0032】
本開示は、本開示の再帰反射顔料を含む塗料も提供する。本開示の塗料は、コーティング、例えば工業用コーティング、特に自動車コーティングに使用することができる。
【0033】
一実施形態では、塗料中の再帰反射顔料の濃度は、塗料の総質量に対して0.01から10質量%の範囲である。さらなる実施形態では、塗料中の再帰反射顔料の濃度は、塗料の総質量に対して0.1から5質量%、例えば0.5から2質量%の範囲、例えば1質量%である。
【0034】
一実施形態では、塗料は、平らな金属フレーク、虹色粒子、または干渉顔料などの非再帰反射効果顔料をさらに含む。さらなる実施形態では、塗料、すなわちメタリック塗料または虹色塗料に存在する効果顔料の一部が、本開示の再帰反射顔料によって置換される。
【0035】
本開示の再帰反射顔料は、他の効果顔料と組み合わせて分散させることができる。それらは、散乱顔料を含む層の下に配置されたコーティング層中(たとえば、固体コーティング中)にも使用できる。
【0036】
一実施形態では、塗料はポリウレタン樹脂を含む。別の実施形態では、塗料はアクリル樹脂を含む。さらなる実施形態では、塗料は、ウレタンおよびアクリル官能基を含むコポリマーを含む。
【0037】
本開示は、本開示の塗料から得られるコーティングも提供する。一実施形態では、コーティングは自動車コーティングである。別の実施形態では、コーティングは、例えば、金属、木材、プラスチック、セラミック、またはガラスからなる固体物体上のコーティングである。さらに別の実施形態では、コーティングはテキスタイルコーティングである。
【0038】
再帰反射顔料は、コーティングの表面全体に均一に分散されている。一実施形態では、再帰反射顔料によって被覆されるコーティングの表面積の割合は、コーティングの全表面積に対して少なくとも0.01%、例えば、少なくとも1%、または少なくとも5%である。一実施形態では、再帰反射顔料によって被覆されるコーティングの表面積の割合は、コーティングの全表面積に対して0.01%から90%、例えば1%から70%、または3%から50%、または5%から35%、またはさらには25%から35%の範囲である。
【0039】
一実施形態では、本開示のコーティング中の再帰反射顔料のフレークの配向は、コーティングの表面に対して実質的に平行である、すなわち、コーティングの表面とフレークの主平面との間の角度は(0°±4°)である。
【0040】
特定の実施形態では、再帰反射顔料は、少なくとも1つの再帰反射構造を有するマイクロメートルサイズの金属フレークである。一実施形態では、金属フレークは、10μmから100μm、例えば20μmから70μmの範囲の平均直径と、20nmから1,000nmの範囲の材料厚さとを有する。一実施形態では、金属フレークは、エンボス加工された少なくとも1つの再帰反射構造を特徴とする。さらなる実施形態では、金属フレークは、金属フレークの前面に少なくとも1つ存在し、金属フレークの裏面に少なくとも1つ存在する、少なくとも2つの再帰反射構造を特徴とする。一実施形態では、少なくとも1つの再帰反射構造はキューブコーナー構造であり、キューブコーナー構造の底面は、2から30μmの範囲の一辺の長さを有する正三角形を形成する。さらなる実施形態では、金属フレークは、金属フレークの前面に少なくとも1つ、および金属フレークの裏面に少なくとも1つの、少なくとも2つのキューブコーナー構造を特徴とする。
【0041】
コーティングの別の特定の実施形態では、再帰反射顔料は、20μmから100μmの範囲の長さを有する第1の主軸と、10μmから70μmの範囲の長さを有する第2の主軸と、20nmから1,000nmの範囲の材料厚さとを有する楕円形の金属フレークであって、その金属フレークはエンボス加工された少なくとも1つの再帰反射構造を特徴とする。前記再帰反射構造は、キューブコーナー構造であり、且つこのキューブコーナー構造の底面は2から30μmの範囲の一辺の長さを有する正三角形を形成する。さらなる実施形態では、金属フレークは、金属フレークの反対面にエンボス加工された2つのキューブコーナー構造を特徴とする。
【0042】
既に上述したように、コーティング中の再帰反射顔料のフレークの配向は、コーティングの表面に対して実質的に平行である。2つの面のそれぞれに少なくとも1つのキューブコーナー構造を有するフレークを含む顔料を使用することにより、少なくとも2つのキューブコーナー構造の少なくとも1つが、入射放射線を再帰反射するための正しい向きを常に有することが確実になる。
【0043】
本開示の主題は、添付の図面を参照してさらに記述および説明される。
【0044】
図面の詳細な説明
図1は、本開示の例示的な再帰反射顔料の概略図を示す。再帰反射顔料は、それぞれ40μmおよび25μmの主軸を備える楕円形状を有するアルミニウムフレークである。金属フレークの厚さは250nmである。キューブコーナー構造はアルミニウムフレークにエンボス加工されている。入射光線がキューブコーナー構造の3つの内面すべてで反射されることにより、入射光線の再帰反射を引き起こす。エンボス加工による四面体構造の底面は、一辺の長さが17μmの正三角形の形状を有する。図1は、再帰反射顔料のa)傾斜斜視側面図;再帰反射顔料のb)底面図;および再帰反射顔料のc)上面斜視図を示す。
【0045】
図2は、完全な吸収体基材上の標準的なアルミニウムフレークを含むコーティングの模擬の反射(W/srの垂直軸)を示す(技術水準)。このデータは、9,000個のそれぞれ40μmおよび25μmの主軸を備える標準的な楕円形のアルミニウムフレークを有するクリアコートの、およびクリアコートの表面全体に分散された平らな表面(すなわち、エンボス加工された構造の無い)の反射を表す。フレークは、コーティング表面に対して0°の傾斜角(±4°の標準偏差を有する)で、コーティングの表面に対して実質的に並行に配列される。フレークは、コーティングの全表面の約5%を被覆する。コーティングの表面はV=-45°の入射角で照射され、表面法線に対してV=-90°からV=90°までのコーティング表面からの反射が図示されている。ピークIは、クリアコートと空気の界面での鏡面反射とアルミニウムフレークの鏡面反射との合計を表す。
【0046】
図3は、完全な吸収体基材上の図1の構造化されたアルミニウムフレークを含むコーティングの模擬の反射(W/srの垂直軸)を示す。このデータは、クリアコートの表面全体に分散された9,000個のアルミニウムフレークを有するクリアコートの反射を表す。そのフレークは、コーティング表面に対して0°の傾斜角(±4°の標準偏差を有する)で、コーティングの表面に対して実質的に平行に配列される。フレークは、コーティングの全表面の約5%を被覆する。コーティングの表面はV=-45°の入射角、H=0°で照射され、表面法線に対してV=-90°からV=90°までのコーティング表面からの反射が図示される。ピークIは、クリアコートおよび空気の界面での鏡面反射とアルミニウムフレークの鏡面反射の合計を表す。図2と比較すると、コーティング表面に対して平行に配列されたアルミニウムフレークの全表面積がエンボス構造によって減少するので、ピークIの強度はわずかに減少する。ピークIIは、構造化されたアルミニウムフレークからの再帰反射によって引き起こされる。この模擬実験によると、入射放射線の約1%が再帰反射される。
【0047】
図2では標準的な(したがって平らな表面の)アルミニウムフレークが使用される一方で、図3では構造化されたアルミニウムフレーク(本開示による)が使用されている。どちらの場合も、鏡面方向への強い反射が観察される(V=45°、H=0°)。しかしながら、本開示の再帰反射型効果顔料が使用される場合、標準的な効果顔料では観察されない、光源方向(V=-45°、H=0°)に向かって反射される信号の大幅な増加がある。これは、標準的な効果顔料のみを使用するコーティングと比較して、そのようなコーティングに入射するライダーパルスがよりよく検出されることを示す。
【0048】
図4は、それぞれ完全な吸収体基材上の、
- 標準的なアルミニウムフレークを含むコーティング2、
- n=-2からn=+2までの各次数の回折について20%の回折効率を仮定して、周期性g=1.3μmの回折格子表面(US2014/0154520A1に記載されているような)を有するアルミニウムフレークを含むコーティング3、および
- 本開示の再帰反射顔料を含むコーティング4
からの、905nmの波長λを有するライダー信号の模擬の反射の比較を示す。
【0049】
反射されたライダー信号の相対強度[%]は、コーティングの表面法線に対する、ライダー信号の入射角[°]の関数として表される。ランバート基準1(Lambertian reference 1)の反射曲線も図に示されている。
【0050】
曲線2、3、4は、完全な吸収体基材上の20μmのベースコート層で構成され、クリアコート層で被覆されたコーティングの模擬の反射率を表す。ベースコートは、ベースコートの総質量に対して1質量%の顔料を含む。顔料はベースコート層全体に均一に分布し、コーティングの全表面積の約31%を被覆する。
【0051】
ランバート基準1の反射率は、入射角の増大とともに減少する。ランバート基準1は、ランバートの余弦則に従う理想的な拡散反射面を有する。
【0052】
標準的なアルミニウムフレークを含むコーティング2は、コーティング表面に対して平行に配向されたアルミニウムフレークからの鏡面反射により、小さい入射角で高い反射率を示す。入射角が大きくなると、反射率は急速に低下し、その後ほぼゼロになる。
【0053】
周期性g=1.3μmの回折格子表面(US2014/0154520A1に記載される)を有するアルミニウムフレークを含むコーティング3は、入射信号(それぞれ、n=-1およびn=-2)の回折のため、それぞれ約25から30°の入射角および約45°で2つのライダー反射率の極大値を示す。
【0054】
本開示の再帰反射顔料を含むコーティング4(図1に示される)は、入射角の全範囲にわたって、ランバート基準1の反射率を超える反射率を示す。入射角が5°の場合、コーティング4の反射率は、ランバート基準の反射率の21倍である。再帰反射の効果を65%と仮定すると(キューブコーナー構造の3つの面すべてで反射される光線のみが入射光線の方向に反射されるため)、コーティング4の反射率は、コーティングに分散したフレークの全表面積のみを考慮した場合のランバート基準1の反射率の37倍の理論値になる。これは、上記の模擬試験の結果と同じ範囲にあり、それゆえ、模擬試験の結果の妥当性を示している。
【0055】
図5は、標準的なアルミニウムフレークを含むコーティングと回折格子表面を有するアルミニウムフレークを含むコーティングの、それぞれ強力に吸収する基材上で測定された反射の比較を示す。反射されたライダー信号の相対強度[%]は、コーティングの表面法線に対するライダー信号の入射角[°]の関数として表される。
【0056】
各曲線は、黒いプラスチック基材上の多層コーティングからの、950nmの波長λを有するライダー信号の測定された反射を表す。多層コーティングは、順に、プライマー層、第1の20μmベースコート層BC1、第2の20μmベースコート層BC2、およびクリアコート層から構成される。
【0057】
曲線1は、BC1の総質量に対して10質量%の、BC1中に分散されたカーボンブラックと、BC2の総質量に対して1.43質量%の、BC2中に分散されたUS2014/0154520A1に記載されるような回折格子表面を有するアルミニウムフレーク(Metalure(登録商標)Prismatic H-50720、ECKART GmbH、91235 Hartenstein、Germany)と、を含むコーティングの測定された反射曲線である。
【0058】
曲線2は、BC1の総質量に対して20質量%の、BC1中に分散されたNIR透過黒色顔料と、BC2の総質量に対して1.43質量%の、BC2中に分散されたUS2014/0154520A1(Metalure(登録商標)Prismatic H-50720、ECKART GmbH、91235 Hartenstein、Germany)に記載されるような回折格子表面を有するアルミニウムフレークと、を含むコーティングの測定された反射曲線である。
【0059】
曲線3は、BC1の総質量に対して10質量%の、BC1中に分散されたカーボンブラックと、BC2の総質量に対して1質量%の、BC2中に分散された標準的なアルミニウムフレーク(Metalure(登録商標) A-31017AE, ECKART GmbH, 91235 Hartenstein, Germany)と、を含むコーティングの測定された反射曲線である。
【0060】
曲線4は、BC1の総質量に対して20質量%の、BC1中に分散されたNIR透過黒色顔料と、BC2の総質量に対して1質量%の、BC2中に分散された標準的なアルミニウムフレーク(Metalure(登録商標) A-31017AE、ECKART GmbH、91235 Hartenstein、Germany)と、を含むコーティングの測定された反射曲線である。
【0061】
US2014/0154520A1に記載されているような回折格子表面を有するアルミニウムフレークを含むコーティング1および2は、小さい入射角で高い反射率を示し、且つ約25から30°の入射角でライダー反射率のさらなる極大値を示す。この極大値は、ライダー波長の1つの回折次数がライダー源に向けられたときに現れる。
【0062】
標準的なアルミニウムフレークを含むコーティング3および4は、コーティング表面に対して平行に配向されたアルミニウムフレークからの鏡面反射により、小さい入射角で高い反射率を示す。入射角が増大すると、反射率は急速に減少し、その後ほぼゼロになる。
【0063】
図6は、2つの再帰反射構造を有する本開示の例示的な再帰反射顔料の概略図を示す。再帰反射顔料は、それぞれ40μmおよび25μmの主軸を有する楕円形のアルミニウムフレークである。金属フレークの厚さは250nmである。2つのキューブコーナー構造は、アルミニウムフレークの反対側の面にエンボス加工されている。エンボス加工により製造された四面体構造の底面は、一辺の長さが17μmの正三角形の形状を有する。図6は、再帰反射顔料の斜視側面図を示す。図示のように、キューブコーナー構造の1つに入射する光線は、キューブコーナー構造の3つの内面すべてで反射され、入射光線の再帰反射を引き起こす。キューブコーナー構造の背面に当たる入射光線は散乱する。フレークはその2つの面のそれぞれにキューブコーナー構造を有するので、フレークのどちらの面が照射されても再帰反射が発生する。
【0064】
図7は、ライダー信号増強に対する本開示の再帰反射構造の可能性を実証する実験の結果を示すグラフである。サンプルは(1)から(3)の3つを調製した。
・サンプル(1)は、PETフィルム(平面コーティング、構造なし)をUVコートでコーティングし、続いて銀(Ag)でコーティングして厚さ約120nmの層を製造することによって調製されたAgコーティングされた平面鏡であった。
・サンプル(2)は、上にクリアコートを有する白色ベースコートサンプル(L*=95)であった。
・サンプル(3)は、キューブコーナー構造を備える表面を特徴とする、UVコートでPETフィルムをコーティングすることによって調製された銀コーティングされたキューブコーナー構造サンプル(約100%の充填密度、各キューブコーナー要素のエッジの長さは約100μm)であった。続いて、UVコートを銀でコーティングして、厚さ約120nmのAg層を製造した。
【0065】
サンプルは、905nmで発光するライダーセンサーで照射された。
【0066】
図7は、サンプル(1)から(3)の入射角(AOI)[deg]の関数として、反射されたライダー信号の較正された相対強度[%]を示す。100%の「較正されたライダー信号」は、0°の入射角(AOI)での完全な拡散面(diffuser surface)の信号レベルに相当する。100%より大きいすべての信号強度は、人為的な最大値100%に設定される。したがって、グラフに示されているデータは、異なるサンプルで測定された信号強度の定量的な比較を可能にしない。しかしながら、データは、再帰反射構造(3)がa)広い範囲の入射角(AOI)にわたって強い測定された信号を生成し、b)白色散乱面(2)の信号を超えることを示す。その結果、このデータは、キューブコーナー構造が効果的にライダー反射率を高めることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7