(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】振幅推定方法
(51)【国際特許分類】
G06N 10/40 20220101AFI20240701BHJP
G06F 7/38 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G06N10/40
G06F7/38 510
(21)【出願番号】P 2023110102
(22)【出願日】2023-07-04
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】592131906
【氏名又は名称】みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303028745
【氏名又は名称】株式会社みずほフィナンシャルグループ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大塩 耕平
(72)【発明者】
【氏名】宇野 隼平
【審査官】北川 純次
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-536063(JP,A)
【文献】特開2022-174476(JP,A)
【文献】特開2023-39444(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0414508(US,A1)
【文献】田中智樹 ほか,パラメータ直交化法を用いたノイズのある量子振幅推定法,情報処理学会 研究報告 量子ソフトウェア(QS) 2022-QS-005,日本,情報処理学会,2022年03月,Vol. 2022-QS-5 No. 11,pp. 1-8,ISSN 2435-6492
【文献】PLEKHANOV, Kirill et al.,Variational quantum amplitude estimation,arXiv [online],v2,Cornell University,2022年02月28日,pp. 1-11,[検索日 2024.05.27], インターネット <URL: https://doi.org/10.48550/arXiv.2109.03687>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00 - 10/80
G06F 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラメータθを量子状態の振幅に埋め込む操作を行なう演算子Aと、
前記演算子Aにより埋め込まれた量子状態の振幅を増幅するGrover演算子と、
前記Grover演算子により、振幅の増幅後の量子状態を測定して得られた結果を用いて、パラメータθと、演算で生じるノイズの強度を示すノイズパラメータpを推定する振幅推定方法において、
前記振幅の増幅後の量子状態に対する測定基底を調整する、パラメータθ’により制御される変分量子回路を構成し、
前記変分量子回路における前記パラメータθ’の初期値を設定し、
前記初期値を設定した変分量子回路を加えて先行測定を行なうことにより、前記パラメータθ及び前記ノイズパラメータpを推定し、
前記先行測定の結果から求めた推定値を前記パラメータθ’として採用することにより、前記測定基底を調整する前記変分量子回路を再構成し、
前記再構成した変分量子回路を加えて、前記調整された測定基底を用いて後続測定を行ない、
前記後続測定の結果を用いて、前記パラメータθ及び前記ノイズパラメータpを推定することを特徴とする振幅推定方法。
【請求項2】
前記調整された測定基底を、SLD量子Fisher情報行列の定義におけるSLD演算子のスペクトル分解により算出される固有ベクトルから決定することを特徴とする請求項1に記載の振幅推定方法。
【請求項3】
前記変分量子回路は、前記パラメータθ’によって操作が制御され、
前記パラメータθ’を調整することによって、前記測定基底を調整することを特徴とする請求項1に記載の振幅推定方法。
【請求項4】
前記変分量子回路は、n+1個の量子ビットを入力し、
制御ビットが「1」の場合にn個の量子ビットに作用する、パラメータα
1によって制御される第1ゲートC
1と、
制御ビットが「0」の場合にn個の量子ビットに作用する、パラメータα
0によって制御される第2ゲートC
0と、
前記制御ビットに作用し、前記パラメータθ’によって制御されるRyゲートを備え、
【数1】
を満たすように、パラメータαを最適化することを特徴とする請求項1に記載の振幅推定方法。
【請求項5】
前記変分量子回路の出力において符号を判別し、
前記符号の判別結果に応じて、前記制御ビットにZゲートを付加することを特徴とする請求項4に記載の振幅推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズがある量子コンピュータを用いて、量子コンピュータ上に実現される量子状態の振幅を推定するための振幅推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータを用いることにより、従来のコンピュータでは現実的な時間や規模で解けなかった問題を解くことが期待される。そこで、この量子コンピュータを用いた多様な応用技術が検討されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
量子状態の振幅に埋め込まれたパラメータを推定する振幅推定問題は、量子コンピュータの代表的な問題のひとつである。例えば、振幅推定問題は、金融分野におけるデリバティブ価格計算や化学分野におけるエネルギー計算等を量子コンピュータ上で実施する際に、部分問題として現れる。振幅推定問題は、以下の〔数1〕で定義される操作を行なう演算子Aを用いて定義される次式の状態|ψ(θ)>n+1の振幅に埋め込まれたパラメータθを推定する問題である。
【0004】
【0005】
図15に示すように、量子コンピュータでは、Grover演算子Gを用いた演算を実施することで、演算子Aの呼出回数に対して、理論上最もよい精度でパラメータθを推定できることが知られている(Heisenberg極限)。〔数2〕の4番目の式に示すGrover演算子Gを用いた演算操作は振幅増幅と呼ばれている。
【0006】
【0007】
ここで、mは振幅増幅の実行回数(Grover演算子Gの呼出回数)である。また、Ng=2m+1は、
図15の回路で示す演算を1回実行した場合における演算子Aの呼出回数である。
【0008】
振幅増幅を用いた振幅推定として、振幅を推定する際に最尤推定を利用する方法が知られている(特許文献2を参照)。この文献に記載された技術では、Grover演算子G(振幅増幅操作)の回数が異なる量子回路から生成された測定データの組み合わせに基づいて最尤推定を行なうことにより、振幅を推定している。
【0009】
図16に示すように、最尤推定を用いた振幅推定では、各量子回路でそれぞれ異なる回数m1、m2、…、mM回だけGrover演算子Gを適用して振幅増幅を行なうとともに、それぞれで繰り返し回数(ショット数)Nの測定を行なう。そして、測定結果に対して最尤推定を用いることにより、尤度を最大にする推定値θを算出する。ノイズが無い量子コンピュータでは、この最尤推定を用いた振幅推定を用いることで、演算子Aの呼出回数が一定のときに、最も良い推定精度を示すことになる。そして、ショット数Nが十分に大きい場合、推定精度の理論的限界をほぼ達成する(特許文献2を参照)。
【0010】
量子状態は、通常、システムと環境との相互作用から生じるノイズによって乱される。このようなノイズの影響は、例えば、〔数3〕のように、Grover演算子を作用させるたびに、脱分極ノイズが生じるようなモデルでモデル化される。ここで、ρnoiseは脱分極ノイズが生じた後の量子状態を表す密度演算子である。このモデルでは、ノイズの強度を与えるノイズパラメータpに応じて、確率pで正しい演算、〔1-p〕で完全混合状態になると仮定する。ノイズパラメータpの値は、演算の詳細に応じて変化するため不明であるが、ノイズパラメータpに依存して測定結果が変化するため、パラメータθを精度よく推定するためには、ノイズパラメータpの影響を考慮する必要がある。ここで、d=2(n+1)はヒルベルト空間の次元を表す。
【0011】
【0012】
パラメータθの推定において、理論的に最も精度よくθを推定可能な測定基底は、SLD演算子LSのスペクトル分解により得られることが知られている(非特許文献1を参照)。ここで、測定基底とは、量子状態の測定において基準となる状態を指す。
【0013】
今回の問題設定においては、SLD演算子LSの固有ベクトルは下記式λ0,λ1,λdで与えられる。
【0014】
【0015】
固有ベクトルλ0,λ1,λdにより構成される測定基底で測定を行なうことができれば、理論上、最も精度よくパラメータθを推定することが可能である。一方で、量子コンピュータで任意の測定基底による測定を行なうためには、一般には測定の直前に、非常に多くのゲート操作を行なう必要がある。
【0016】
比較的少ない操作で、測定方向を調整するための方法として、変分量子回路を利用することが考えられる。変分量子回路は、パラメータによってゲート操作が制御されるような回路を用いることで、所望の操作を近似した操作を比較的少ないゲート操作で与えることが期待される方法である。例えば、量子コンピュータの物理的な制約に対して、ハードウェア上で実装しやすい変分量子回路として、Hardware Efficient AnsatzやAlternating Layered Ansatz等が提案されている(非特許文献2、3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2017-59074号公報
【文献】特許第7005806号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】Braunstein,S.L他、「Statistical Distance and the Geometry of Quantum State,」、PHYSICAL REVIEW LETTERS、72、American Physical Society、[online]、1994年5月30日、[令和5年5月5日検索]、インターネット<https://painterlab.caltech.edu/wp-content/uploads/2019/06/statistical_distance_geometry_quantum_states.pdf>
【文献】A.Kandala他、「Hardware-efficient variational quantum eigensolver for small molecules and quantum magnets」、Nature、549、242-246(2017)、Springer Nature Limited、[online]、1994年4月17日、[令和5年5月5日検索]、インターネット<https://arxiv.org/pdf/1704.05018.pdf>
【文献】M.Cerezo他、「Cost function dependent barren plateaus in shallow parametrized quantum circuits」、Nature Communications、volume12,Article number:1791(2021)、[online]、2021年3月19日、[令和5年6月4日検索]、インターネット<https://www.nature.com/articles/s41467-021-21728-w>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述のように、ノイズがある場合における最適な測定基底は、SLD演算子LSのスペクトル分解により得られる。しかしながら、量子コンピュータでは、計算基底と呼ばれる特定の測定基底で測定を行なうため、パラメータθの推定における推定精度の理論的限界を達成することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示の振幅推定方法は、パラメータθを量子状態の振幅に埋め込む操作を行なう演算子Aと、前記演算子Aにより埋め込まれた量子状態の振幅を増幅するGrover演算子と、前記Grover演算子により、振幅の増幅後の量子状態を測定して得られた結果を用いて、パラメータθと、演算で生じるノイズの強度を示すノイズパラメータpを推定する。ここでは、前記振幅の増幅後の量子状態に対する測定基底を調整する、パラメータθ’により制御される変分量子回路を構成し、前記変分量子回路におけるパラメータθ’の初期値を設定し、前記初期値を設定した変分量子回路を加えて先行測定を行なうことにより、前記パラメータθ及び前記ノイズパラメータpを推定し、前記先行測定の結果から求めた推定値を前記パラメータθ’として採用することにより、前記測定基底を調整する前記変分量子回路を再構成し、前記再構成した変分量子回路を加えて、前記調整された測定基底を用いて後続測定を行ない、前記後続測定の結果を用いて、前記パラメータθ及び前記ノイズパラメータpを推定する。すなわち、変分量子回路のパラメータαを調整する事前計算と、パラメータθを推定する先行計算並びに後続計算の3つの計算を実施することで実現される。まず、事前計算により、近似的に所望の操作を与えるように変分量子回路のパラメータαを調整する。次に、先行計算として、比較的少ないショット数により、振幅に埋め込まれたパラメータの大まかな推定値を得る。最後に、後続計算において、変分量子回路のパラメータαと、振幅のパラメータの推定値を利用して、測定基底を調整することで、最終的なパラメータθの推定値を得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、量子計算において、量子状態の振幅に埋め込まれたパラメータを高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】実施形態のハードウェア構成の説明図である。
【
図4】実施形態の量子回路の説明図であって、(a)は演算子B503を用いた回路、(b)は演算子B513を用いた回路、(c)は演算子B523を用いた回路説明図である。
【
図6】実施形態の量子回路の説明図であって、(a)は第1ゲート、(b)は第2ゲートの説明図である。
【
図13】実施形態の検証用の量子回路の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1~
図14を用いて、振幅推定方法の一実施形態を説明する。本実施形態では、ノイズの強度を示すパラメータpが不明な状況において、演算子Aによって量子状態の振幅に埋め込まれたパラメータθを推定する。
【0024】
本実施形態では、パラメータθの推定において推定精度の理論的限界を達成できるような「適応的な」測定基底の最適化戦略を採用する。ここでは、パラメータの推定を二段階に分ける。具体的には、まず、先行測定で得られた測定結果からパラメータθ,pを大まかに推定する。そして、この結果を用いて測定基底を最適化した上で後続測定を行なうことにより、最終的なパラメータθ,pの推定値を取得する。
このため、
図1に示すように、ネットワークで接続されたユーザ端末10、演算装置20を用いる。
【0025】
(ハードウェア構成の説明)
図2を用いて、ユーザ端末10、演算装置20(管理部211、古典計算部212)を構成する情報処理装置H10のハードウェア構成を説明する。情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を備える。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアにより実現することも可能である。
【0026】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースや無線インタフェース等である。
【0027】
入力装置H12は、利用者等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイ等である。
記憶装置H14は、ユーザ端末10、演算装置20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する装置である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0028】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、ユーザ端末10、演算装置20における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各サービスのための各種プロセスを実行する。
【0029】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行なうものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行なう専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、以下を含む回路として構成し得る。
【0030】
(1)コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ
(2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路
(3)それらの組み合わせ
プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0031】
(演算装置20のシステム構成)
次に、
図1を用いて、ユーザ端末10、演算装置20のシステム構成を説明する。
ユーザ端末10は、利用者が用いるコンピュータ端末である。
【0032】
演算装置20は、振幅推定を行なうためのコンピュータである。
この演算装置20は、後述する処理(管理段階、古典計算段階、量子計算段階等の各処理等)を行なう。そのためのプログラムを実行することにより、演算装置20は、管理部211、古典計算部212、量子計算部22として機能する。
【0033】
管理部211は、量子計算及び古典計算の管理を行なう。
古典計算部212は、最尤推定における統計処理を実行する。更に、古典計算部212は、測定基底の最適化に用いるパラメータを更新する更新処理を実行する。
【0034】
量子計算部22は、量子計算を行なう。この量子計算部22は、操作部221、状態保持部222、測定部223を含む。
操作部221は、状態保持部222の量子ビットに対してプログラムに応じた量子操作を行なう。この場合、操作部221は、量子ゲート等により構成される量子回路を用いることによって、状態保持部222が保持する状態を操作(作成)する。
【0035】
状態保持部222は、複数の量子ビットを備え、任意の量子状態を保持する。各量子ビットは、電子準位、電子スピン、イオン準位、各スピン、光子等、任意の物理状態で複数の値の重ね合わせ状態を保持する。重ね合わせ状態を保持できれば、量子ビットは上記に限定されるものではない。
【0036】
測定部223は、状態保持部222の量子ビットの重ね合わせ状態の固有状態を観測する。測定部223は、状態保持部222の量子ビットの状態に応じて、ヒット回数を記録する。
【0037】
(パラメータ推定処理の概要)
次に、
図3~
図6を用いて、パラメータ推定処理の概要を説明する。
図4(a)に示すように、以下のパラメータ推定処理では、演算子A(501)およびGrover演算子G(502)、演算子B(θ')(503)により構成される量子回路500に対して、最尤推定を用いた振幅推定を実行し、パラメータを推定する。演算子B(θ')は測定基底を調整するための演算子であり、パラメータθ'によって制御される。〔数5〕に示すように、演算子B(θ')は、理想的には、固有ベクトルλ
0,λ
1を計算基底|0>
n|0>,|0>
n|1>に変換する。
【0038】
【0039】
図5に示すように、演算子B(θ')の具体的な内訳として、演算子C
0(第1ゲート)、演算子C
1(第2ゲート)とRyゲートに分けた量子回路600を用いることが考えられる。演算子C
0,C
1には、n個の量子ビットが入力される。なお、Ryゲートは、制御ビットに注目した際に、Bloch球上でy軸周りの回転操作を与えるゲートである。
【0040】
但し、演算子C0,C1は、下記条件を満たす。
【0041】
【0042】
ここで、〔数6〕の条件を満たす演算子C0,C1を、近似的に、パラメータαによって制御される変分量子回路を用いて構成することを考える。なお、変分量子回路の構成は任意であり、具体的には、非特許文献2に記載されたHardware Efficient Ansatzや、非特許文献3に記載されたAlternating Layered Ansatzを用いることが可能である。
【0043】
例えば、n=2の場合の演算子C
0及び演算子C
1を説明する。
図6(a)および(b)に示すように、演算子C
0及び演算子C
1としては、それぞれ量子回路610および量子回路611を用いる場合が考えられる。演算子C
0は、パラメータα1~α4を含むRyゲートにより構成し、演算子C
1は、パラメータα5~α8を含むRyゲートにより構成することが可能である。
【0044】
図3に示す手順の概要により、以上の量子回路を用いて、パラメータθの推定を行なう。まず、事前計算により、上記のように変分量子回路を用いて構成された演算子C
0,C
1に対して、近似的に所望の操作を与えるように変分量子回路のパラメータαを調整する(ステップS11)。
【0045】
次に、演算装置20は、先行計算処理を実行する(ステップS12)。具体的には、管理部211は、古典計算部212、量子計算部22を用いて、最尤推定による振幅推定を行なう。
【0046】
(先行計算処理)
図4(b)に示すように、先行計算処理では、まず、演算子A(演算子A501)、演算子G
m(Grover演算子502)、演算子B(θ
0)(演算子B513)を用いた量子回路510を構成する。なお、演算子B513に含まれるパラメータθ
0は、演算子B503に含まれるパラメータθ’の初期値であり、後述のように適当な値を設定する。そして、管理部211は、量子計算部22により、Grover演算子の呼出回数mを変化させながら、それぞれN
0回演算を実行し、測定を行ない、先行測定結果を記録する。その後、取得された先行測定結果から、特許文献2に記載された最尤推定により振幅推定を行なう。そして、管理部211は、パラメータθの推定値としてθ
1を取得する。
【0047】
次に、演算装置20は、測定基底を最適化する処理を実行する(ステップS13)。ここでは、先行計算処理で取得したパラメータθ1を用いて、測定基底を調整する演算子B523を構成する。
【0048】
次に、演算装置20は、後続計算処理を実行する(ステップS14)。ここでも、管理部211は、古典計算部212、量子計算部22を用いて、最尤推定による振幅推定を行なう。
【0049】
(後続計算処理)
図4(c)に示すように、後続計算処理では、まず、演算子A(演算子A501)、演算子G
m(Grover演算子502)、演算子B(θ
1)(演算子B523)を用いた量子回路520を構成する。先行計算処理と同様に、管理部211は、量子計算部22により、Grover演算子の呼出回数mを変化させながら、それぞれN
1回演算を実行し、測定を行ない、後続測定結果を記録する。その後、取得された後続測定結果から、特許文献2に記載された最尤推定により振幅推定を行なう。そして、管理部211は、パラメータθの推定値としてθ
2を取得する。
【0050】
(パラメータ推定処理の具体的処理)
次に、
図7を用いて、
図3の処理をより詳細に説明する。
まず、演算装置20は、演算子C
0,C
1を制御するパラメータαの最適化を行なう(ステップS21)。ここでは、変分量子回路が所望の操作を与えるように、
図6に示すように演算子C
0,C
1を構成し、パラメータα1~α8の最適化を行なう。この場合、下記条件を満たすように最適化を行なう。
【0051】
【0052】
図8に示すように、演算子C
0,C
1を組み合わせることで、演算子B'を構成する(量子回路550)。コスト関数として、
図8に示す量子回路の測定結果において、n-qubitと示された各ビットが「0」にならなかった回数をカウントする。ここで、最下ビットは制御ビットであり、白丸は制御ビットが0の場合に付属しているゲート操作(C
0)を実行し、黒丸は制御ビットが1の場合に付属しているゲート操作(C
1)を実行することを意味している。なお、パラメータαの最適化に用いた測定結果は、パラメータθの推定に用いることが可能である。
【0053】
次に、演算装置20は、符号の反転の判別を行なう(ステップS22)。ここで、B'|ψ(θ)>は、下記のように符号の異なる状態への変換を与えうる。
【0054】
【0055】
このため、下記のように変換が行なわれている場合には、Zゲートによるビットの反転が必要となる。
【0056】
【0057】
この符号の反転を判別するため、Hゲートを加えて測定を行なう。
【0058】
【0059】
ここで、0≦θ≦π/2より(cosθ+sinθ)|0>n|0>+(cosθ-sinθ)|0>n|1>の場合には、|0>n|0>と|0>n|1>とを得る確率(p0,p1)の間にp0>p1が成り立つ。そこで、測定結果からp0>p1ならば、Zゲートを付加する。
【0060】
この場合、
図9に示すように、符号の判別結果に応じて、Zゲートを加えた量子回路560を演算子B'として用いる。
次に、演算装置20は、演算子B(θ’)を構成する(ステップS23)。ここでは、演算子B'に、Ry(-2Ngθ'-π/2)を加えて、
図5に示した演算子B(θ')を構成する(量子回路600)。
【0061】
なお、ビットの反転が必要な場合には、
図10に示すように、Zゲートを加えた演算子B(θ')を用いる(量子回路620)。
次に、演算装置20は、演算子B(θ
0)を構成する(ステップS24)。ここでは、パラメータθ'の初期値θ
0を設定する。具体的には、ここでは、〔-2N
gθ
0-π/2=0〕を満たす初期値θ
0を設定する。
【0062】
次に、演算装置20は、パラメータθ,pを推定する(ステップS25)。ここで、管理部211は、量子計算部22を用いて、演算子B(θ
0)を加えた量子回路510(
図4(b))に対して、振幅増幅の実行回数(Grover演算子Gの呼出回数)を変えながら、それぞれでN
0回の測定を行なう。そして、古典計算部212は、最尤推定を用いた振幅推定により、パラメータθ,pを推定し、θの推定値θ
1を得る。
【0063】
次に、演算装置20は、演算子B(θ1)を構成する(ステップS26)。ここで、測定結果から求めたθの推定値θ1を新しいパラメータθ1として採用することにより、演算子B(θ1)を構成する。
【0064】
次に、最適化された測定基底を用いて、パラメータθ,pを推定する(ステップS27)。ここで、管理部211は、量子計算部22を用いて、演算子B(θ
1)を加えた量子回路520(
図4(c))に対して、振幅増幅の実行回数(Grover演算子Gの呼出回数)を変えながら、それぞれでN1回の測定を行なう。そして、古典計算部212は、最尤推定を用いた振幅推定により、パラメータθ,pを推定し、θの推定値θ
2を得る。
【0065】
本実施形態により、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、演算装置20は、事前計算処理(ステップS11)、先行計算処理(ステップS12)、先行の計算結果に基づいた測定基底の最適化処理(ステップS13)、後続計算処理(ステップS14)を実行する。これにより、適応的な測定基底の最適化により、高い精度で量子状態の振幅を推定することができる。
【0066】
例えば、次式で与えられるようなSを与えるパラメータθを推定することが可能である。
【0067】
【0068】
この推定には、
図11に示す量子回路700を用いる。
この場合、
図12に示すように、実際に、ノイズがある状況での理論的限界に近い精度で量子状態の振幅を推定することができる。
【0069】
(2)本実施形態では、演算装置20は、符号の反転の判別を行なう(ステップS22)。これにより、変分量子回路で構成された演算子C0,C1を操作した後の量子状態の符号の反転を考慮して、量子回路を構成することができる。
【0070】
(3)本実施形態では、パラメータθの推定において、下記の状態の振幅を推定する。
【0071】
【0072】
上記の状態は「|ψ
0>
n|0>」と「|ψ
1>
n|1>」の基底により構成されているため、
図13に示すn+1番目の量子ビットの出力がわかれば振幅の推定が可能である。
図14に示すように、演算子C
0,C
1はn+1番目の量子ビットの状態には影響を与えないため、この回路の出力はパラメータθの推定に用いることが可能である。
【0073】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・本実施形態では、演算装置20は、事前計算処理(ステップS11)、先行計算処理(ステップS12)、先行の計算結果に基づいた測定基底の最適化処理(ステップS13)、後続計算処理(ステップS14)を実行する。先行の計算により、後続計算の測定基底を最適化できるのであれば、2段階に限定されるものではない。
【0074】
・上記実施形態では、変分量子回路を、演算子C0,C1,Ryゲートにより構成したが、これらに限定されるものではない。
・上記実施形態では、演算子C0,C1を、Ryゲートにより構成したが、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0075】
10…ユーザ端末、20…演算装置、211…管理部、212…古典計算部、22…量子計算部、221…操作部、222…状態保持部、223…測定部。
【要約】
【課題】量子計算において、効率的にパラメータを推定するための振幅推定方法を提供する。
【解決手段】振幅推定方法では、振幅増幅後の量子状態に対する測定基底を調整する、パラメータθ’により制御される変分量子回路503を構成し、変分量子回路におけるパラメータθ’の初期値を設定し、初期値を設定した変分量子回路513を加えて先行測定を行なうことにより、パラメータθ,pを推定し、先行測定の結果から求めたパラメータθの推定値をパラメータθ’として採用することにより、測定基底を調整する変分量子回路を再構成し、再構成した変分量子回路523を加えて、調整された測定基底を用いて後続測定を行ない、後続測定の結果を用いて、パラメータθ,pを推定する。
【選択図】
図4