(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】誘電体組成物及びこれを含む積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240702BHJP
C04B 35/465 20060101ALI20240702BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
C04B35/465
H01B3/12 303
H01G4/30 515
(21)【出願番号】P 2020071357
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】10-2019-0115901
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジェ スン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョン ウク
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ヒュン スーン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン ハン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン リョル
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-028225(JP,A)
【文献】特開2013-227219(JP,A)
【文献】特開2018-016538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
H01B 3/12
C04B 35/465
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO
3、(Ba,Ca)(Ti,Ca)O
3、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O
3、Ba(Ti,Zr)O
3、及び(Ba,Ca)(Ti,Sn)O
3のうち一つを主成分として含み、
希土類元素を含む第1副成分と、
原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む第2副成分と、を含み、
前記希土類元素の含有量合計をDT、前記原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量合計をATと定義するとき、(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5超過6.0未満を満たす、誘電体組成物。
(ただし、前記誘電体組成物はMoを含まない。)
【請求項2】
前記希土類元素は、ランタン(La)を含み、
イットリウム(Y)、アクチニウム(Ac)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテニウム(Lu)のうち一つ以上をさらに含み、
前記希土類元素の含有量合計(DT)に対する前記ランタン(La)の含有量の割合(La/DT)が0.1以上1.0未満を満たす、請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記第1副成分は、前記主成分100モルに対して、前記希土類元素を含む酸化物又は炭酸塩が0.2モル以上4.0モル以下で含まれる、請求項1または2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
前記原子価可変アクセプタ元素はMn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち一つ以上を含み、
前記原子価固定アクセプタ元素はMg及びZrのうち一つ以上を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の誘電体組成物。
【請求項5】
前記第2副成分は、前記主成分100モルに対して、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む酸化物又は炭酸塩が0.01モル以上4.0モル以下で含まれる、請求項1から4のいずれか一項に記載の誘電体組成物。
【請求項6】
前記誘電体組成物は、Baを含む酸化物又は炭酸塩である第3副成分を含み、
前記第3副成分は、前記主成分100モルに対して0.37モル以上4.0モル以下で含まれる、請求項1から5のいずれか一項に記載の誘電体組成物。
【請求項7】
Si及びAlのうち少なくとも一つを含む酸化物、及びSiを含むガラス(Glass)化合物のうち少なくとも一つである第4副成分を含み、
前記第4副成分は、前記主成分100モルに対して0.5モル以上7.0モル以下で含まれる、請求項1から6のいずれか一項に記載の誘電体組成物。
【請求項8】
誘電体層及び内部電極を含む本体と、
前記本体上に配置され、前記内部電極と接続される外部電極と、を含み、
前記誘電体層は、誘電体組成物を含み、
前記誘電体組成物は、BaTiO
3、(Ba,Ca)(Ti,Ca)O
3、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O
3、Ba(Ti,Zr)O
3、及び(Ba,Ca)(Ti,Sn)O
3のうち一つを主成分として含み、
希土類元素を含む第1副成分と、
原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む第2副成分と、を含み、
前記希土類元素の含有量合計をDT、前記原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量合計をATと定義するとき、(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5超過6.0未満を満たす、積層型電子部品。
(ただし、前記誘電体組成物はMoを含まない。)
【請求項9】
前記希土類元素は、ランタン(La)を含み、
イットリウム(Y)、アクチニウム(Ac)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテニウム(Lu)のうち一つ以上をさらに含み、
前記希土類元素の含有量合計(DT)に対する前記ランタン(La)の含有量の割合(La/DT)が0.1以上1.0未満を満たす、請求項8に記載の積層型電子部品。
【請求項10】
前記第1副成分は、前記主成分100モルに対して、前記希土類元素を含む酸化物又は炭酸塩が0.2モル以上4.0モル以下で含まれる、請求項8または9に記載の積層型電子部品。
【請求項11】
前記原子価可変アクセプタ元素はMn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち一つ以上を含み、
前記原子価固定アクセプタ元素はMg及びZrのうち一つ以上を含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項12】
前記第2副成分は、前記主成分100モルに対して、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む酸化物又は炭酸塩が0.01モル以上4.0モル以下で含まれる、請求項8から11のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項13】
前記誘電体組成物は、Baを含む酸化物又は炭酸塩である第3副成分を含み、
前記第3副成分は、前記主成分100モルに対して0.37モル以上4.0モル以下で含まれる、請求項8から12のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項14】
Si及びAlのうち少なくとも一つを含む酸化物、及びSiを含むガラス(Glass)化合物のうち少なくとも一つである第4副成分を含み、
前記第4副成分は、前記主成分100モルに対して0.5モル以上7.0モル以下で含まれる、請求項8から13のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項15】
前記誘電体層は、複数の結晶粒を含み、
前記複数の結晶粒は、平均結晶粒サイズ(Grain size)が50nm以上500nm以下である、請求項8から14のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項16】
前記誘電体層は、複数の結晶粒を含み、
前記複数の結晶粒のうち一つ以上の結晶粒は、コア-シェル構造を有する、請求項8から15のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項17】
前記誘電体層は、平均厚さが0.41μm以下である、請求項8から16のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物及びこれを含む積層型電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、キャパシタ、インダクタ、圧電体素子、バリスタ又はサーミスタなどのセラミック材料を用いる電子部品は、セラミック材料からなるセラミック本体と、セラミック本体の内部に形成された内部電極と、上記内部電極と接続されるように、セラミック本体の表面に配置された外部電極と、を備える。
【0003】
最近では、電子製品の小型化及び多機能化に伴い、チップ部品も小型化及び高機能化しつつあるため、積層型電子部品のうちの一つである積層セラミックキャパシタ(MLCC:multi-layer ceramic capacitor)に対してもサイズが小さく、容量が大きい高容量製品が要求されている。
【0004】
積層セラミックキャパシタの小型化及び高容量化をともに達成する方法としては、内部の誘電体層及び電極層の厚さを薄くして、多くの数を積層する方法が挙げられる。現在、誘電体層の厚さは0.6μm程度のレベルであって、継続して薄いレベルに向かって開発が進んでいる。
【0005】
積層セラミックキャパシタの高容量化及び超薄層化に伴い、高誘電率を有する積層セラミックキャパシタ用の組成設計が不可欠である。
【0006】
このような状況下では、誘電体層の信頼性の確保が誘電材料の主な問題として浮上しつつある。併せて、誘電体の絶縁抵抗劣化不良が増加し、品質及び歩留まりの管理に難しさがある点が重要な問題となっている。
【0007】
かかる問題を解決するために、積層セラミックキャパシタの構造的な面だけでなく、特に誘電体組成の面において高信頼性を確保することができる新たな方法が必要な実情である。
【0008】
一般に、高誘電特性を確保するための従来技術では、単に粒子の成長を誘発させることで、結晶内の双極子(dipole)の数を調整することによって高誘電率を確保した。しかし、従来技術に従って粒子成長による高誘電率の組成を設計するにあたり、温度及びDC電圧に応じた容量変化率が増加し、誘電体層当たりの粒子数の減少による信頼性低下の問題などがともに発生することがある。
【0009】
そこで、誘電体層を薄層化する際にも、信頼性が低下することなく、高誘電特性の実現が可能であり、DC電圧に応じた容量低下率が大きくない誘電体組成物を製造するために、粒子成長を伴うことなく誘電率を増加させる方法が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明のいくつかの目的のうちの一つは、信頼性を向上させることができる誘電体組成物及びこれを含む積層型電子部品を提供することである。
【0011】
本発明のいくつかの目的のうちの一つは、誘電率を向上させることができる誘電体組成物及びこれを含む積層型電子部品を提供することである。
【0012】
本発明のいくつかの目的のうちの一つは、誘電体層の厚さが薄いながらも耐電圧低下現象を最小限に抑えることができる誘電体組成物及びこれを含む積層型電子部品を提供することである。
【0013】
但し、本発明の目的は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程で、より容易に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面は、BaTiO3、(Ba,Ca)(Ti,Ca)O3、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、Ba(Ti,Zr)O3、(Ba,Ca)(Ti,Sn)O3のうち一つを主成分として含み、希土類元素を含む第1副成分と、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む第2副成分と、を含み、上記希土類元素の含有量合計をDT、上記原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量合計をATと定義するとき、(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5超過6.0未満を満たす誘電体組成物を提供する。
【0015】
本発明の他の一側面は、誘電体層及び内部電極を含む本体と、上記本体上に配置され、上記内部電極と接続される外部電極と、を含み、上記誘電体層は、誘電体組成物を含み、上記誘電体組成物は、BaTiO3、(Ba,Ca)(Ti,Ca)O3、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、Ba(Ti,Zr)O3、及び(Ba,Ca)(Ti,Sn)O3のうち一つを主成分として含み、希土類元素を含む第1副成分と、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む第2副成分と、を含み、上記希土類元素の含有量合計をDT、上記原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量合計をATと定義するとき、(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5超過6.0未満を満たす積層型電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によると、誘電体組成物に含まれる希土類元素の含有量、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量、Ba及びCaの含有量の相関関係を制御することにより、絶縁抵抗を向上させるとともに、結晶粒サイズ当たりの誘電率を向上させることができる。
【0017】
また、誘電体層の薄層化の際にも、信頼性の低下がなく、高誘電特性の実現が可能であり、DC電圧に応じた容量低下率が大きくない誘電体組成物及びこれを含む積層型電子部品を提供することができる。
【0018】
但し、本発明の多様であり、有意義な利点及び効果は、上述の内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態による積層型電子部品を概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図1のI-I'線に沿った断面を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図1のII-II'線に沿った断面を概略的に示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態による誘電体層及び内部電極が積層された本体を分解して概略的に示す分解斜視図である。
【
図5】希土類元素としてLa及びDyを複合添加した誘電体組成物を用いて形成された誘電体層の結晶粒を撮影した写真である。
【
図6】希土類元素としてDyだけを添加した誘電体組成物を用いて形成された誘電体層の結晶粒を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために拡大縮小表示(又は強調表示や簡略化表示)がされることがあり、図面上の同一の符号で示される要素は同一の要素である。
【0021】
なお、本発明を明確に説明すべく、図面において説明と関係ない部分は省略し、様々な層及び領域を明確に表現するために厚さを拡大して示し、同一思想の範囲内において機能が同一である構成要素に対しては同一の参照符号を用いて説明する。さらに、明細書全体において、ある構成要素を「含む」というのは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0022】
図面において、X方向とは、第2方向、L方向、又は長さ方向、Y方向とは、第3方向、W方向、又は幅方向、Z方向とは、第1方向、積層方向、T方向、又は厚さ方向と定義されることができる。
【0023】
誘電体組成物
本発明の一実施形態による誘電体組成物は、BaTiO3、(Ba,Ca)(Ti,Ca)O3、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、Ba(Ti,Zr)O3、及び(Ba,Ca)(Ti,Sn)O3のうち一つを主成分として含み、希土類元素を含む第1副成分と、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む第2副成分と、を含み、上記希土類元素の含有量合計をDT、上記原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量合計をATと定義するとき、(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5超過6.0未満を満たす。
【0024】
積層セラミックキャパシタの高容量化及び超薄層化に伴い、高誘電率を有する積層セラミックキャパシタ用の組成設計が不可欠である。
【0025】
一般に、高誘電特性を確保するための従来技術では、単に粒子の成長を誘発させることで、結晶内の双極子(dipole)の数を調整することによって高誘電率を確保した。しかし、従来技術に従って粒子成長による高誘電率の組成を設計するにあたり、温度及びDC電圧に応じた容量変化率が増加し、誘電体層当たりの粒子数の減少による信頼性低下の問題などがともに発生することがある。
【0026】
そこで、誘電体層を薄層化する際にも、信頼性が低下することなく、高誘電特性の実現が可能であり、DC電圧に応じた容量低下率が大きくない誘電体組成物を製造するために、粒子成長を伴うことなく誘電率を増加させる方法が要求されている。
【0027】
本発明では、誘電体組成物に含まれる希土類元素の含有量、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量、Ba及びCaの含有量の相関関係を制御することにより、意図的な小幅の電流密度(current density)の増加及び酸素空孔の欠陥による生成濃度の減少を介した、高誘電率及び高信頼性の両立が可能となって、絶縁抵抗を向上させるとともに、結晶粒サイズ当たりの誘電率を向上させることができる。尚、DC電界依存性、老化(Aging)特性などの低下がない誘電体組成物を提供することができる。
【0028】
主成分であるBaTiO3、(Ba,Ca)(Ti,Ca)O3、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、Ba(Ti,Zr)O3、及び(Ba,Ca)(Ti,Sn)O3は、ABO3で表されるペロブスカイト構造を有し、酸素があるべきサイトが空く酸素空孔(oxygen vacancy)が発生する可能性がある。例えば、還元雰囲気において焼成を行う場合、酸素空孔(oxygen vacancy)が発生することがあり、脱バインダーなどによりカーボンがABO3の酸素と結合してCO2の形で蒸発された場合に、酸素空孔(oxygen vacancy)が発生する可能性がある。
【0029】
すなわち、Oは、-2価の値(charge)を表すが、酸素があるべきサイトが空くと、+2価の値(charge)を有する酸素空孔が発生し、印加された電界によって酸素空孔が移動すると、信頼性が低下し、酸素空孔が多いほど、そして、温度及び電圧が高くかかるほど移動速度及び移動量が増加するようになって、信頼性をさらに悪化させる。
【0030】
かかる酸素空孔の問題点を解決するために、一般に、希土類元素を添加することにより、酸素空孔の濃度を低減して、信頼性を向上させる方法が知られている。しかし、結晶粒サイズ当たりの誘電率が低下したり、半導体化が過度に進むことによって、絶縁抵抗が低下するという問題があった。
【0031】
そこで、本発明では、希土類元素の含有量合計をDT、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量合計をATと定義するとき、(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5超過6.0未満を満たすように制御することにより、結晶粒サイズ当たりの誘電率を向上させることで、粒成長を最小限に抑えるとともに、高誘電特性及び絶縁抵抗も確保することができる。
【0032】
原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量合計(AT)に対する希土類元素の含有量合計(DT)の割合(DT/AT)を、Ba含有量及びCa含有量の合計(Ba+Ca)で割った値((DT/AT)/(Ba+Ca))が0.5以下の場合には、結晶粒サイズ当たりの誘電率が低い可能性がある。したがって、(DT/AT)/(Ba+Ca)は、0.5超過であることが好ましく、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは1.0以上であることができる。
【0033】
これに対し、(DT/AT)/(Ba+Ca)が6.0以上の場合には、電荷密度が増加するにつれて、絶縁抵抗が低下するおそれがある。尚、下記欠陥化学反応式で表される電荷運搬体(electronic charge carrier)の生成及び濃度の増加により、積層セラミックキャパシタの誘電体層内の電気伝導が急激に増加し、耐還元性が低下するという問題が発生することがある。
【0034】
【0035】
したがって、(DT/AT)/(Ba+Ca)は、6.0未満であることが好ましく、より好ましくは5.5以下、さらに好ましくは5.0以下であることができる。
【0036】
この際、上記希土類元素は、ランタン(La)を含み、イットリウム(Y)、アクチニウム(Ac)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテニウム(Lu)のうち一つ以上をさらに含み、上記希土類元素の含有量合計(DT)に対する上記ランタン(La)の含有量の割合(La/DT)が0.1以上1.0未満を満たすことができる。
【0037】
ランタン(La)は、Baサイトを効果的に置換することができるため、酸素空孔の欠陥濃度の減少にさらに効果的であり、結晶粒成長を抑制する役割を果たすことができる。
【0038】
La/DTが0.1未満の場合には、ランタンの添加効果が不十分である可能性がある。したがって、La/DTは0.1以上であることが好ましい。但し、ランタン(La)の添加効果をより確実に確保するために、La/DTは0.1超過であることがより好ましく、さらに好ましくは0.2以上であることができる。
【0039】
これに対し、La/DTが1.0の場合には、電荷密度が増加するにつれて、 絶縁抵抗が低下するおそれがあり、電荷運搬体(electronic charge carrier)の生成及び濃度の増加により、積層セラミックキャパシタの誘電体層内の電気伝導が急激に増加し、耐還元性が低下するという問題が発生する可能性がある。したがって、La/DTは1.0未満であることが好ましく、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下であることができる。
【0040】
図5は希土類元素としてLa及びDyを複合添加した誘電体組成物を用いて形成された誘電体層の結晶粒を撮影した写真であり、
図6は希土類元素としてDyだけを添加した誘電体組成物を用いて形成された誘電体層の結晶粒を撮影した写真である。
【0041】
図5及び
図6を参照すると、Dyだけを添加した場合よりもLa及びDyを複合添加した誘電体組成物を用いて形成された誘電体層の結晶粒が小さいことが確認できる。
【0042】
また、
図5の誘電体層は、誘電率(ε)が3240と測定されており、
図6の誘電体層は、誘電率(ε)が2430と測定された。これにより、Dyだけを添加した場合よりもLa及びDyを複合添加した誘電体組成物を用いて形成された誘電体層の結晶粒サイズ当たりの誘電率が大きいことが確認できる。
【0043】
以下、本発明の一実施形態による誘電体組成物の各成分について詳細に説明する。
【0044】
a)主成分
本発明の一実施形態による誘電体組成物は、BaTiO3、(Ba,Ca)(Ti,Ca)O3、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、Ba(Ti,Zr)O3、及び(Ba,Ca)(Ti,Sn)O3のうち一つを主成分として含む。
【0045】
より具体的な例を挙げると、BaTiO3、(Ba1-xCax)(Ti1-yCay)O3(ここで、xは0≦x≦0.3、yは0≦y≦0.1)、(Ba1-xCax)(Ti1-yZry)O3(ここで、xは0≦x≦0.3、yは0≦y≦0.5)、Ba(Ti1-yZry)O3(ここで、0<y≦0.5)、及び(Ba1-xCax)(Ti1-ySny)O3(ここで、xは0≦x≦0.3、yは0≦y≦0.1)からなる群より選択される一つ以上であることができる。
【0046】
本発明の一実施形態による誘電体組成物は、常温誘電率が2000以上であることができる。
【0047】
上記主成分は、特に制限されるものではないが、主成分粉末の平均粒径が40nm以上200nm以下であることができる。
【0048】
b)第1副成分
本発明の一実施形態によると、上記誘電体組成物は、希土類元素を含む第1副成分を含む。
【0049】
希土類元素は、ABO3の構造のA-サイト(site)を置換して、ドナー(donor)の役割を果たすことにより、酸素空孔の濃度を低減し、信頼性を向上させる。また、希土類元素は、結晶粒界における電子の流れを防ぐ障壁として作用して、リーク電流の増加を抑制する役割を果たす。
【0050】
この際、上記第1副成分は、上記主成分100モルに対して、上記希土類元素を含む酸化物又は炭酸塩が0.2モル以上4.0モル以下で含まれることができる。
【0051】
上記主成分100モルに対して、希土類元素を含む酸化物又は炭酸塩の含有量が0.2モル未満の場合には、上述した効果が不十分である可能性がある。
【0052】
これに対し、希土類元素の含有量が増加するほど、信頼性の向上の面では有利であるが、上記主成分100モルに対して、上記希土類元素を含む酸化物又は炭酸塩の含有量が4.0モルを超えると、半導体化が進むことによって、絶縁体の特性を低下させ、焼結性が低下するおそれがある。
【0053】
b)第2副成分
本発明の一実施形態によると、上記誘電体組成物は、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む第2副成分を含む。
【0054】
原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素は、主にABO3の構造のB-サイト(site)を置換して、アクセプタ(acceptor)の役割を果たすとともに、電子濃度を減らす役割を果たすことができる。したがって、希土類元素のA-サイト(site)の固溶による誘電体層の半導体化を抑制する役割を果たすことができる。尚、誘電体組成物が適用された積層セラミックキャパシタの焼成温度の低下及び高温耐電圧特性を向上させる役割を果たすことができる。
【0055】
このために、上述のように、希土類元素の含有量合計をDT、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量合計をATと定義するとき、(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5超過6.0未満を満たすように原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を添加することにより、結晶粒サイズ当たりの誘電率を向上させることで、粒成長を最小限に抑えるとともに、高誘電特性及び絶縁抵抗を確保することができる。
【0056】
この際、上記原子価可変アクセプタ元素は、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、及びZnのうち一つ以上を含み、上記原子価固定アクセプタ元素は、Mg及びZrのうち一つ以上を含むことができる。
【0057】
また、上記第2副成分は、上記主成分100モルに対して、上記原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む酸化物又は炭酸塩が0.01モル以上4.0モル以下で含まれることができる。
【0058】
上記主成分100モルに対して、上記原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む酸化物又は炭酸塩が0.01モル未満の場合には、希土類元素の添加による誘電体層の半導体化を抑制することが難しい可能性があり、焼成温度が高くなり、高温耐電圧特性がやや低下するおそれがある。
【0059】
これに対し、上記主成分100モルに対して、上記原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む酸化物又は炭酸塩が4.0モルを超えると、破壊電圧(BDV)又は常温比抵抗が低下するおそれがある。
【0060】
c)第3副成分
本発明の一実施形態によると、上記誘電体組成物は、Baを含む酸化物又は炭酸塩である第3副成分を含み、上記第3副成分は、上記主成分100モルに対して0.37モル以上4.0モル以下で含まれることができる。
【0061】
上記第3副成分の含有量は、酸化物又は炭酸塩のような添加形態を区別せず、第3副成分に含まれるBa元素の含有量を基準にすることができる。
【0062】
上記第3副成分は、誘電体磁器組成物内で焼結促進や誘電率調整などの役割を果たすことができ、その含有量が、上記主成分100モルに対して、0.37モル未満の場合には、その効果が不十分である可能性があり、4.0モルを超えると、誘電率が低くなったり、又は焼成温度が高くなるという問題がある。
【0063】
d)第4副成分
本発明の一実施形態によると、上記誘電体組成物は、第4副成分として、Si及びAlのうち少なくとも一つを含む酸化物、及びSiを含むガラス(Glass)化合物のうち少なくとも一つを含む。上記第4副成分は、上記主成分100モルに対して0.5モル以上7.0モル以下で含まれることができる。
【0064】
上記第4副成分の含有量は、ガラス、酸化物又は炭酸塩のような添加形態を区別せず、第4副成分に含まれるSi及びAlのうち少なくとも一つ以上の元素の含有量を基準にすることができる。
【0065】
上記第4副成分は、誘電体組成物が適用された積層セラミックキャパシタの焼成温度を低下させるとともに、高温耐電圧特性を向上させる役割を果たす。
【0066】
上記第4副成分の含有量が、上記主成分100モルに対して、0.5モル未満の場合には、その効果が不十分である可能性があり、7.0モルを超えると、焼結性及び緻密度の低下や2次相生成などの問題があるため好ましくない。
【0067】
積層型電子部品
図1は本発明の一実施形態による積層型電子部品を概略的に示す斜視図であり、
図2は
図1のI-I'線に沿った断面を概略的に示す断面図であり、
図3は
図1のII-II'線に沿った断面を概略的に示す断面図であり、
図4は本発明の一実施形態による誘電体層及び内部電極が積層された本体を分解して概略的に示す分解斜視図である。
【0068】
図1~
図4を参照すると、本発明の一実施形態による積層型電子部品100は、誘電体層111及び内部電極121、122を含む本体110と、本体110上に配置され、内部電極121、122と接続される外部電極131、132と、を含み、誘電体層111は、誘電体組成物を含み、上記誘電体組成物は、BaTiO
3、(Ba,Ca)(Ti,Ca)O
3、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O
3、Ba(Ti,Zr)O
3、及び(Ba,Ca)(Ti,Sn)O
3のうち一つを主成分として含み、希土類元素を含む第1副成分と、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素のうち一つ以上を含む第2副成分と、を含み、上記希土類元素の含有量合計をDT、上記原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量合計をATと定義するとき、(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5超過6.0未満を満たす。
【0069】
以下、上述した誘電体組成物で説明した内容と重複する部分は、重複した説明を避けるために省略する。また、積層型電子部品の一例として、積層セラミックキャパシタを例に挙げて説明するが、本発明は、上述した誘電体組成物を用いる様々な電子製品は、例えば、インダクタ、圧電体素子、バリスタ、又はサーミスタなどにも適用されることができる。
【0070】
本体110は、誘電体層111と内部電極121、122が交互に積層されて形成されることができる。
【0071】
本体110の具体的な形状に特に制限はないが、図面に示されるように、本体110は、六面体状やこれと類似した形状からなることができる。また、本体110は、焼成過程で本体110に含まれるセラミック粉末の収縮により、完全な直線を有する六面体状ではないが、実質的に六面体状を有することができる。
【0072】
本体110は、第1方向(Z方向)に互いに対向する第1面及び第2面1、2、第1面及び第2面1、2と連結され、第2方向(X方向)に互いに対向する第3面及び第4面3、4、及び第1面及び第2面1、2と連結され、第3面及び第4面3、4と連結され、且つ第3方向(Y方向)に互いに対向する第5面及び第6面5、6を有することができる。
【0073】
本体110を形成する複数の誘電体層111は、焼成された状態であって、隣接する誘電体層111間の境界は、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を利用せずには確認しにくいほど一体化することができる。
【0074】
誘電体層111は、上述した誘電体組成物を用いて形成されることができる。
【0075】
誘電体層111が上述した誘電体組成物を用いて形成されることにより、誘電体層111は、複数の結晶粒を含み、上記複数の結晶粒は、平均結晶粒サイズ(Grain size)が50nm以上500nm以下であることができる。
【0076】
結晶粒の平均サイズ(Grain size)が50nm未満の場合には、誘電率の低下や粒成長率の低下による添加元素の固溶不足による期待効果の実現が不十分になるという問題が発生するおそれがある。これに対し、500nmを超えると、温度及びDC電圧に応じた容量変化率が増加する可能性があり、誘電体層当たりの誘電体の結晶粒数の減少により、信頼性が低下するおそれがある。
【0077】
また、複数の結晶粒のうち少なくとも一つ以上の結晶粒は、コア-シェル構造を有することができる。
【0078】
複数の結晶粒のうち少なくとも一つ以上の結晶粒がコア-シェル構造を有することにより、誘電率及び信頼性の向上に有効であることができる。
【0079】
一方、本体110は、本体110の内部に配置され、誘電体層111を間に挟んで互いに対向するように配置される第1内部電極121及び第2内部電極122を含んで容量が形成される容量形成部Aと、上記容量形成部Aの上部及び下部に形成されたカバー部112、113と、を含むことができる。
【0080】
また、上記容量形成部Aは、キャパシタの容量形成に寄与する部分であって、誘電体層111を間に挟んで、複数の第1及び第2内部電極121、122を繰り返し積層して形成されることができる。
【0081】
上記上部カバー部112及び下部カバー部113は、単一の誘電体層又は2つ以上の誘電体層を容量形成部Aの上下面にそれぞれ厚さ方向に積層して形成されることができ、基本的には物理的又は化学的ストレスによる内部電極の損傷を防止する役割を果たすことができる。
【0082】
上記上部カバー部112及び下部カバー部113は、内部電極を含まず、誘電体層111と同一の材料を含むことができる。
【0083】
すなわち、上記上部カバー部112及び下部カバー部113は、セラミック材料を含むことができ、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)系セラミック材料を含むことができる。
【0084】
また、上記容量形成部Aの側面には、マージン部114、115が配置されることができる。
【0085】
マージン部114、115は、本体110の第6面6に配置されたマージン部114と、第5面5に配置されたマージン部115と、を含む。すなわち、マージン部114、115は、上記セラミック体110の幅方向両側に配置されることができる。
【0086】
マージン部114、115とは、
図3に示すように、上記本体110を幅-厚さ(W-T)の方向に沿った断面において、第1及び第2内部電極121、122の両先端と本体110の境界面の間の領域を意味することができる。
【0087】
マージン部114、115は、基本的に物理的又は化学的ストレスによる内部電極の損傷を防止する役割を果たすことができる。
【0088】
マージン部114、115は、セラミックグリーンシート上にマージン部が形成される部分を除いて導電性ペーストを塗布して内部電極を形成することにより形成されたものであってもよい。
【0089】
また、内部電極121、122による段差を抑制するために、積層後の内部電極が本体の第5面5及び第6面6に露出するように切断した後、単一の誘電体層又は2つ以上の誘電体層を容量形成部Aの両側面に幅方向に積層してマージン部114、115を形成することもできる。
【0090】
内部電極121、122は、誘電体層111と交互に積層されている。
【0091】
内部電極121、122は、第1及び第2内部電極121、122を含むことができる。第1及び第2内部電極121、122は、本体110を構成する誘電体層111を間に挟んで互いに対向するように交互に配置され、本体110の第3面3及び第4面4にそれぞれ露出することができる。
【0092】
図2を参照すると、第1内部電極121は、第4面4と離隔され、第3面3に露出することができ、第2内部電極122は、第3面3と離隔され、第4面4に露出することができる。
【0093】
この際、第1及び第2内部電極121、122は、中間に配置された誘電体層111によって互いに電気的に分離されることができる。
【0094】
図3を参照すると、本体110は、第1内部電極121が印刷されたセラミックグリーンシートと第2内部電極122が印刷されたセラミックグリーンシートとを交互に積層した後、焼成して形成することができる。内部電極121、122を形成する材料は、特に制限されず、電気伝導性に優れた材料を用いることができる。
【0095】
例えば、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、及びこれらの合金のうち一つ以上を含む内部電極用の導電性ペーストをセラミックグリーンシート上に印刷して形成することができる。
【0096】
上記内部電極用の導電性ペーストの印刷方法は、スクリーン印刷法又はグラビア印刷法などを用いることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0097】
一方、積層セラミックキャパシタの小型化及び高容量化を達成するために、誘電体層及び内部電極の厚さを薄くして積層数を増加させる必要がある一方で、誘電体層及び内部電極の厚さが薄くなるほど、信頼性が低下し、絶縁抵抗、破壊電圧などの特性が低下する可能性がある。
【0098】
そのため、誘電体層及び内部電極の厚さが薄くなるほど、本発明による信頼性向上の効果も増加することができる。
【0099】
特に、本発明の一実施形態によると、誘電体組成物に含まれる希土類元素の含有量、原子価可変アクセプタ元素及び原子価固定アクセプタ元素の含有量、Ba及びCaの含有量の相関関係を制御することにより、絶縁抵抗及び結晶粒サイズ当たりの誘電率を向上させることができることから、内部電極121、122の厚さte又は誘電体層111の厚さtdが0.41μm以下の場合に、本発明による絶縁抵抗及び結晶粒サイズ当たりの誘電率の向上効果が顕著になることができる。
【0100】
内部電極121、122の厚さteとは、第1及び第2内部電極121、122の平均厚さを意味することができる。
【0101】
内部電極121、122の厚さteは、本体110の第3及び第1方向の断面(W-T断面)を走査電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)でイメージスキャンして測定することができる。
【0102】
例えば、本体110の第2方向(L方向)の中央部で切断した第3及び第1方向の断面(W-T断面)を走査電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)でスキャンしたイメージから抽出された任意の内部電極121、122に対して、第3方向に等間隔である30個の地点でその厚さを測定して平均値を測定することができる。
【0103】
上記等間隔である30個の地点は、内部電極121、122が互いに重なる領域を意味する容量形成部Aで測定することができる。
【0104】
誘電体層111の厚さtdとは、上記第1及び第2内部電極121、122の間に配置される誘電体層111の平均厚さを意味することができる。
【0105】
内部電極の厚さteと同様に、誘電体層111の厚さtdも、本体110の第3及び第1方向の断面(W-T断面)を走査電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)でイメージスキャンして測定することができる。
【0106】
例えば、本体110の第2方向(L方向)の中央部で切断した第3及び第1方向の断面(W-T断面)を走査電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)でスキャンしたイメージから抽出された任意の誘電体層111に対して、第3方向に等間隔である30個の地点でその厚さを測定して平均値を測定することができる。
【0107】
上記等間隔である30個の地点は、内部電極121、122が互いに重なる領域を意味する容量形成部Aで測定することができる。
【0108】
また、カバー部112、113の厚さは、特に限定する必要がない。但し、積層型電子部品の小型化及び高容量化をさらに容易に達成するために、カバー部112、113の厚さtpは20μm以下であってもよい。
【0109】
外部電極131、132は、本体110上に配置され、内部電極121、122と接続される。
【0110】
図2に示す形のように、本体110の第3面3及び第4面4にそれぞれ配置され、第1及び第2内部電極121、122とそれぞれ接続された第1及び第2外部電極131、132を含むことができる。
【0111】
本実施形態では、積層型電子部品100が2つの外部電極131、132を有する構造について説明しているが、外部電極131、132の数や形状などは、内部電極121、122の形や他の目的に応じて変わり得る。
【0112】
一方、外部電極131、132は、金属などのような電気伝導性を有するものであればいかなる物質を用いて形成してもよく、電気的特性や構造的安定性などを考慮して、具体的な物質を決定することができる。さらに、多層構造を有することもできる。
【0113】
例えば、外部電極131、132は、本体110上に配置される電極層131a、132aと、電極層131a、132a上に形成されためっき層131b、132bと、を含むことができる。
【0114】
電極層131a、132aについてのより具体的な例として、電極層131a、132aは、導電性金属とガラスを含む焼成電極であるか、又は導電性金属と樹脂を含む樹脂系電極であることができる。
【0115】
また、電極層131a、132aは、本体上に焼成電極と樹脂系電極が順に形成された形であることができる。また、電極層131a、132aは、本体上に導電性金属を含むシートを転写する方法で形成されたものであってもよく、焼成電極上に導電性金属を含むシートを転写する方法で形成されたものであってもよい。
【0116】
電極層131a、132aに含まれる導電性金属として、電気伝導性に優れた材料を用いることができるが、特に限定されない。例えば、導電性金属は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、及びこれらの合金のうち一つ以上であってもよい。
【0117】
めっき層131b、132bについてのより具体的な例として、めっき層131b、132bは、Niめっき層又はSnめっき層であることができ、電極層131a、132a上にNiめっき層及びSnめっき層が順に形成された形であってもよく、Snめっき層、Niめっき層、及びSnめっき層が順に形成された形であってもよい。また、めっき層131b、132bは、複数のNiめっき層及び/又は複数のSnめっき層を含むこともできる。
【0118】
積層型電子部品100のサイズは、特に限定する必要はない。
【0119】
但し、小型化及び高容量化をともに達成するために、誘電体層及び内部電極の厚さを薄くして積層数を増加させる必要があるため、0603(長さ×幅、0.6mm×0.3mm)以下のサイズを有する積層型電子部品において、本発明による信頼性及び絶縁抵抗の向上効果がより顕著になり得る。
【0120】
これにより、本体の第3面と第4面の間の距離をL、上記第5面と第6面の間の距離をWと定義するとき、上記Lは0.6mm以下、上記Wは0.3mm以下であることができる。すなわち、0603(長さ×幅、0.6mm×0.3mm)サイズ以下の積層型電子部品であることができる。
【0121】
(実施例)
本発明の実施例は、主成分として100nm級レベルのチタン酸バリウム(BaTiO3)粉末に、主な添加剤を下記表1を満たすように添加し、バインダーとエタノールなどの有機溶媒を添加し、湿式混合して誘電体スラリーを用意した後、上記誘電体スラリーをキャリアフィルム上に塗布及び乾燥してセラミックグリーンシートを用意する。これにより、誘電体層を形成することができる。
【0122】
上記セラミックグリーンシートは、セラミック粉末、バインダー、溶剤を混合してスラリーを製造し、上記スラリーをドクターブレード法で1.0μm以下の厚さを有するシート(sheet)状に製作した。
【0123】
次に、ニッケル粒子の平均サイズが0.1~0.2μmであり、40~50重量部のニッケル粉末を含む内部電極用の導電性ペーストを用意することができる。
【0124】
上記グリーンシート上に上記内部電極用の導電性ペーストをスクリーン印刷工法で塗布して内部電極を形成し、内部電極パターンが配置されたグリーンシートを約0.3mmの厚さに積層して積層体を形成した後、上記積層体を圧着し、0603(長さ×幅、0.6mm×0.3mm)サイズに切断した。
【0125】
その後、切断された積層体を、400℃以下、窒素雰囲気中で加熱してバインダーを除去した後、焼成温度1200℃以下、水素濃度0.5%H2以下の条件で焼成した後、結晶粒サイズ(Grain size)、結晶粒サイズ当たりの誘電率、絶縁抵抗(IR)を測定し、下記表1に記載した。
【0126】
結晶粒サイズは、断面を撮影し、平均結晶粒サイズを測定しており、結晶粒サイズ当たりの誘電率及び絶縁抵抗は、LCRメータ(LCR meter)を用いて1kHz、AC0.5Vで測定した。
【0127】
結晶粒サイズ当たりの誘電率は、3600以上と優れる場合を「◎」、3100~3500と良好な場合を「○」、2600~3000と通常の場合を△、及び2500以下と不良の場合を「X」と表示した。
【0128】
絶縁抵抗は、107mΩ以上と優れる場合を「◎」、105mΩ以上107mΩ未満と良好な場合を「○」、104mΩ以上105mΩ未満と通常の場合を「△」、104mΩ未満と不良の場合を「X」と表示した。
【0129】
【0130】
(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5である試験番号1~5の場合には、結晶粒サイズ当たりの誘電率及び絶縁抵抗が通常であるか、又は不良と評価された。
【0131】
(DT/AT)/(Ba+Ca)が6である試験番号31~35の場合には、絶縁抵抗がすべて不良と評価された。また、誘電体の結晶粒サイズがすべて500nmを超え、温度及びDC電圧に応じた容量変化率が増加する可能性があり、誘電体層を薄層化する場合には、誘電体層当たりの誘電体の結晶粒数の減少により、信頼性が低下するおそれがある。
【0132】
したがって、(DT/AT)/(Ba+Ca)が0.5超過6.0未満になるように調整することが好ましいことが確認できる。
【0133】
尚、希土類元素の含有量合計(DT)に対する上記ランタン(La)の含有量の割合が増加するほど、結晶粒サイズ当たりの誘電率が向上することが確認できる。
【0134】
しかし、La/DTが1.0である試験番号5、10、15、20、25、30、及び35は、絶縁抵抗がすべて不良と評価された。
【0135】
したがって、希土類元素の含有量合計(DT)に対する上記ランタン(La)の含有量の割合は、0.1以上1.0未満であることが好ましいということが確認できる。
【0136】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。
【符号の説明】
【0137】
100 積層型電子部品
110 本体
121、122 内部電極
111 誘電体層
112、113 カバー部
114、115 マージン部
131、132 外部電極