(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電子時計、ムーブメント、モーター制御回路、電子時計の制御方法
(51)【国際特許分類】
G04C 3/14 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G04C3/14 U
G04C3/14 W
(21)【出願番号】P 2020016994
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019124270
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】長▲濱▼ 玲子
(72)【発明者】
【氏名】川口 孝
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/08375(WO,A1)
【文献】特表2009-542186(JP,A)
【文献】特開2001-320898(JP,A)
【文献】特開平11-127595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04C 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを有するモーターと、
前記コイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、
前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した上限電流閾値を超えた場合に前記ドライバーを前記オフ状態に制御し、前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した下限電流閾値を下回った場合に前記ドライバーを前記オン状態に制御するドライバー制御部と、
前記ドライバー制御部
が前記オン状態に制御してから前記オフ状態に制御するまでの前記オン状態の継続時間であるオン時間が最大となったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替える極性切替部と、
を備えることを特徴とする電子時計。
【請求項2】
請求項1に記載の電子時計において、
前記所定条件は、前記オン時間が最大となったことを検出した後、前記ドライバーの前記オフ状態の継続時間であるオフ時間が予め設定された判定値を超えることである
ことを特徴とする電子時計。
【請求項3】
請求項1に記載の電子時計において、
前記所定条件は、前記オン時間が最大となったことを検出した時から予め設定された時間が経過したことである
ことを特徴とする電子時計。
【請求項4】
請求項3に記載の電子時計において、
前記ドライバー制御部は、前記極性切替部が前記オン時間が最大となったことを検出した時から前記コイルへの前記駆動電流の供給を停止し、
前記極性切替部で前記駆動電流の極性を切り替えると、前記コイルへの前記駆動電流の供給を再開する
ことを特徴とする電子時計。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子時計において、
前記極性切替部は、連続する3回のオン時間のうち、2番目のオン時間が1番目および
3番目のオン時間よりも長い場合に、前記オン時間が最大となったと判定する
ことを特徴とする電子時計。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子時計において、
前記極性切替部は、連続する複数のオン時間のうち、1番目のオン時間が2番目のオン時間よりも長い場合に、前記オン時間が最大となったと判定する
ことを特徴とする電子時計。
【請求項7】
コイルを有するモーターと、
前記コイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、
前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した上限電流閾値を超えた場合に前記ドライバーを前記オフ状態に制御し、前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した下限電流閾値を下回った場合に前記ドライバーを前記オン状態に制御するドライバー制御部と、
前記ドライバー制御部
が前記オン状態に制御してから前記オフ状態に制御するまでの前記オン状態の継続時間であるオン時間が最大となったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替える極性切替部と、
を備えることを特徴とするムーブメント。
【請求項8】
モーターのコイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、
前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した上限電流閾値を超えた場合に前記ドライバーを前記オフ状態に制御し、前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した下限電流閾値を下回った場合に前記ドライバーを前記オン状態に制御するドライバー制御部と、
前記ドライバー制御部
が前記オン状態に制御してから前記オフ状態に制御するまでの前記オン状態の継続時間であるオン時間が最大となったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替える極性切替部と、
を備えることを特徴とするモーター制御回路。
【請求項9】
コイルを有するモーターと、前記コイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、を備える電子時計の制御方法であって、
前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した上限電流閾値を超えた場合に前記ドライバーを前記オフ状態に制御し、前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した下限電流閾値を下回った場合に前記ドライバーを前記オン状態に制御するステップと、
前記ドライバーを前記オン状態に制御してから前記オフ状態に制御するまでの前記オン状態の継続時間であるオン時間が最大となったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替えるステップと、
を備えることを特徴とする電子時計の制御方法。
【請求項10】
コイルを有するモーターと、
前記コイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、
前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した上限電流閾値を超えた場合に前記ドライバーを前記オフ状態に制御し、前記コイルに流れる電流の電流値が予め設定した下限電流閾値を下回った場合に前記ドライバーを前記オン状態に制御するドライバー制御部と、
前記ドライバー制御部
が前記オン状態に制御してから前記オフ状態に制御するまでの前記オン状態の継続時間であるオン時間が所定値以上になったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替える極性切替部と、
を備えることを特徴とする電子時計。
【請求項11】
請求項10に記載の電子時計において、
前記所定値は、あらかじめ測定した前記オン時間の最大値の70%以上である
ことを特徴とする電子時計。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の電子時計において、
前記所定条件は、前記ドライバーの前記オフ状態の継続時間であるオフ時間が予め設定された判定値を超えることである
ことを特徴とする電子時計。
【請求項13】
請求項10から請求項12のいずれか一項に記載の電子時計において、
前記極性切替部は、前記モーターの駆動状態を判定し、前記駆動状態が適正でない場合は、前記所定値を変更する
ことを特徴とする電子時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子時計、ムーブメント、モーター制御回路および電子時計の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モーターのコイルへの電流の供給を、コイルに流れる電流が上限の閾値を上回ったらオフし、下限の閾値を下回ったらオンして、電力供給を継続するオン時間または電力供給の停止を継続するオフ時間からモーターのローターの位置を推定してモーターの回転を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、オン時間やオフ時間からローターの位置を推定できるが、その推定のための演算回路が複雑になってしまうという恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の電子時計は、コイルを有するモーターと、前記コイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、前記コイルに流れる電流値に応じて前記ドライバーを前記オン状態または前記オフ状態に制御するドライバー制御部と、前記ドライバー制御部の前記オン状態の継続時間であるオン時間が最大となったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替える極性切替部と、を備えることを特徴とする。
【0006】
本開示の電子時計において、前記所定条件は、前記オン時間が最大となったことを検出した後、前記ドライバーの前記オフ状態の継続時間であるオフ時間が予め設定された判定値を超えることである。
【0007】
本開示の電子時計において、前記所定条件は、前記オン時間が最大となったことを検出した時から予め設定された時間が経過したことである。
【0008】
本開示の電子時計において、前記ドライバー制御部は、前記極性切替部が前記オン時間が最大となったことを検出した時から前記コイルへの前記駆動電流の供給を停止し、前記極性切替部で前記駆動電流の極性を切り替えると、前記コイルへの前記駆動電流の供給を再開することが好ましい。
【0009】
本開示の電子時計において、前記極性切替部は、連続する3回のオン時間のうち、2番目のオン時間が1番目および3番目のオン時間よりも長い場合に、前記オン時間が最大となったと判定することが好ましい。
【0010】
本開示の電子時計において、前記極性切替部は、連続する複数のオン時間のうち、1番目のオン時間が2番目のオン時間よりも長い場合に、前記オン時間が最大となったと判定してもよい。
【0011】
本開示のムーブメントは、コイルを有するモーターと、前記コイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、前記コイルに流れる電流値に応じて前記ドライバーを前記オン状態または前記オフ状態に制御するドライバー制御部と、前記ドライバー制御部の前記オン状態の継続時間であるオン時間が最大となったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替える極性切替部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本開示のモーター制御回路は、モーターのコイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、前記コイルに流れる電流値に応じて前記ドライバーを前記オン状態または前記オフ状態に制御するドライバー制御部と、前記ドライバー制御部の前記オン状態の継続時間であるオン時間が最大となったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替える極性切替部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本開示の電子時計の制御方法は、コイルを有するモーターと、前記コイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、を備える電子時計の制御方法であって、前記コイルに流れる電流値に応じて前記ドライバーを前記オン状態または前記オフ状態に制御するステップと、前記オン状態の継続時間であるオン時間が最大となったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替えるステップと、を備えることを特徴とする。
【0014】
本開示の電子時計は、コイルを有するモーターと、前記コイルに駆動電流を供給するオン状態、および、前記駆動電流を供給しないオフ状態に制御されるドライバーと、前記コイルに流れる電流値に応じて前記ドライバーを前記オン状態または前記オフ状態に制御するドライバー制御部と、前記ドライバー制御部の前記オン状態の継続時間であるオン時間が所定値以上になったことを検出した後、所定条件に該当したら前記駆動電流の極性を切り替える極性切替部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本開示の電子時計において、前記所定値は、あらかじめ測定した前記オン時間の最大値の70%以上であることが好ましい。
【0016】
本開示の電子時計において、前記所定条件は、前記ドライバーの前記オフ状態の継続時間であるオフ時間が予め設定された判定値を超えることであることを特徴とする。
【0017】
本開示の電子時計において、前記極性切替部は、前記モーターの駆動状態を判定し、前記駆動状態が適正でない場合は、前記所定値を変更することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】第1実施形態の電子時計の回路構成を示す回路図。
【
図3】第1実施形態の電子時計のICの構成を示す構成図。
【
図4】第1実施形態の電子時計のモーター制御回路の構成を示す回路図。
【
図5】第1実施形態のモーター制御処理を説明するフローチャート。
【
図6】第1実施形態のオン時間最大値判定処理を説明するフローチャート。
【
図7】第1実施形態のモーター制御処理における電流、電圧、回転角度の変化を示すグラフ。
【
図8】比較例のモーター制御処理における電流、電圧、回転角度の変化を示すグラフ。
【
図10】第2実施形態の電子時計のICの構成を示す構成図。
【
図11】第2実施形態のモーター制御処理を説明するフローチャート。
【
図12】第2実施形態の低負荷での早送り駆動時の電流、電圧、回転角度の変化を示すグラフ。
【
図13】第2実施形態の高負荷での早送り駆動時の電流、電圧、回転角度の変化を示すグラフ。
【
図14】比較例のモーター制御処理における電流、電圧、回転角度の変化を示すグラフ。
【
図15】第3実施形態のオン時間所定値比較処理を説明するフローチャート。
【
図16】第3実施形態のローター回転角と負荷との関係を示すグラフ。
【
図17】第4実施形態のモーター制御処理を説明するフローチャート。
【
図18】第4実施形態のオン時間所定値比較処理を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態の電子時計1を図面に基づいて説明する。
電子時計1は、
図1に示すように、ユーザーの手首に装着される腕時計であり、外装ケース2と、円板状の文字板3と、図示略のムーブメントと、
図2にも示すように、ムーブメント内に設けられたモーター13で駆動される指針である秒針5、分針6、時針7と、操作部材であるりゅうず8およびボタン9とを備える。
【0020】
[電子時計の回路構成]
電子時計1は、
図2に示すように、信号源である水晶振動子11と、電源である電池12と、ボタン9の操作に連動してオン、オフされるスイッチS1と、りゅうず8の引き出し操作に連動してオン、オフされるスイッチS2と、モーター13と、時計用のIC20とを備えている。
モーター13は、電子時計用に用いられる2極単相ステッピングモーターであり、後述するように、IC20の出力端子O1、O2から出力される駆動電流によって駆動される。
秒針5、分針6、時針7は、図示略の輪列で連動しており、モーター13により駆動され、秒、分、時を表示する。なお、本実施形態では、1つのモーター13で、秒針5、分針6、時針7を駆動しているが、例えば、秒針5を駆動するモーターと、分針6および時針7を駆動するモーターのように複数のモーターを設けてもよい。
【0021】
図2に示すように、IC20は、水晶振動子11が接続される接続端子OSC1、OSC2と、スイッチS1、S2が接続される入出力端子P1、P2と、電池12が接続される電源端子VDD、VSSと、モーター13のコイル130に接続される出力端子O1、O2とを備える。
なお、本実施形態では、電池12のプラス電極を、高電位側の電源端子VDDに接続し、マイナス電極を低電位側の電源端子VSSに接続し、低電位側の電源端子VSSをグランドに設定している。
【0022】
水晶振動子11は、後述する発振回路21で駆動されて発振信号を発生する。
電池12は、一次電池または二次電池で構成される。二次電池の場合は、図示略のソーラーセルなどによって充電される。
スイッチS1は、電子時計1の2時位置にあるボタン9に連動して入力され、例えば、ボタン9が押されている状態ではオン状態となり、ボタン9が押されていない状態ではオフ状態となる。
スイッチS2は、りゅうず8の引き出しに連動したスライドスイッチである。本実施形態では、りゅうず8が1段目に引き出された状態でオン状態となり、0段目ではオフ状態となる。
【0023】
[ICの回路構成]
IC20は、
図3に示すように、発振回路21と、分周回路22と、電子時計1の制御用のCPU23と、ROM24と、入出力回路26と、バス27と、モーター制御回路30とを備えている。CPUは、Central Processing Unitの略であり、ROMはRead Only Memoryの略である。
【0024】
発振回路21は、基準信号源である水晶振動子11を高周波発振させ、この高周波発振で発生する所定周波数の発振信号を分周回路22に出力する。
分周回路22は、発振回路21の出力を分周してCPU23にタイミング信号つまりクロック信号を供給する。
ROM24は、CPU23で実行される各種プログラムを記憶している。本実施形態では、ROM24は、基本時計機能などを実現するためのプログラムを記憶している。
CPU23は、ROM24に記憶されたプログラムを実行し、前記各機能を実現する。
【0025】
入出力回路26は、入出力端子P1、P2の状態をバス27に出力する。バス27は、CPU23、入出力回路26、モーター制御回路30間のデータ転送などに用いられる。
モーター制御回路30は、バス27を通してCPU23から入力される命令により、モーター13のコイル130に駆動電流を供給してモーター13の駆動を制御する。
【0026】
[モーター制御回路の構成]
モーター制御回路30は、
図4に示すように、デコーダー31と、ドライバー51と、電流検出部である電流検出回路61とを備える。
デコーダー31は、CPU23から入力される命令に基づいて、後述するように、ドライバー51に対してゲート信号P1、P2、N1、N2、N3、N4を出力する。
ドライバー51は、2つのPchトランジスター52、53と、4つのNchトランジスター54、55、56、57と、2つの検出抵抗58、59とを備える。各トランジスター52~57は、デコーダー31から出力されるゲート信号P1、P2、N1、N2、N3、N4によって制御され、モーター13のコイル130に正逆両方向の電流を供給する。したがって、ドライバー51は、モーター13のコイル130に駆動電流を出力してモーター13を駆動する駆動手段である。
【0027】
電流検出回路61は、第1基準電圧発生回路62と、第2基準電圧発生回路63と、コンパレーター641、642、651、652と、複合ゲート68、69とを備えている。複合ゲート68は、
図4に示すAND回路661、662およびOR回路680を組み合わせたものと同等の機能を備える一つの素子である。複合ゲート69は、AND回路671、672およびOR回路690を組み合わせたものと同等の機能を備える一つの素子である。
コンパレーター641、642は、抵抗値R1、R2の検出抵抗58、59の両端に発生する電圧と、第1基準電圧発生回路62の電圧とをそれぞれ比較する。
AND回路661にはデコーダー31から出力される駆動極性信号PLが反転入力され、AND回路662には駆動極性信号PLがそのまま入力されているため、駆動極性信号PLによって選択されたコンパレーター641、642の一方の出力が検出信号DT1として出力される。
コンパレーター651、652は、抵抗値R1、R2の検出抵抗58、59の両端に発生する電圧と、第2基準電圧発生回路63の電圧とをそれぞれ比較する。
AND回路671には駆動極性信号PLが反転入力され、AND回路672には駆動極性信号PLがそのまま入力されているため、駆動極性信号PLによって選択されたコンパレーター651、652の一方の出力が検出信号DT2として出力される。
【0028】
第1基準電圧発生回路62は、コイル130に流れる電流が下限電流閾値Iminの場合に、検出抵抗58、59の両端に発生する電圧に相当する電位を出力するように設定されている。
したがって、コイル130に流れる電流Iが下限電流閾値Imin以上の場合は、検出抵抗58、59の両端に発生する電圧が第1基準電圧発生回路62の出力電圧を上回るため、検出信号DT1がHレベルとなる。一方、電流Iが下限電流閾値Iminを下回っている場合は、検出信号DT1がLレベルとなる。したがって、電流検出回路61の第1基準電圧発生回路62、コンパレーター641、642、複合ゲート68は、コイル130に流れる電流Iが下限電流閾値Iminより小さいことを検出する下限電流検出部であり、検出信号DT1は下限電流検出部の検出結果である。
第2基準電圧発生回路63は、上限電流閾値Imaxに相当する電圧を発生する。したがって、電流検出回路61の検出信号DT2は、コイル130に流れる電流Iが上限電流閾値Imaxを超えた場合にHレベルとなり、上限電流閾値Imax以下の場合にLレベルとなる。このため、電流検出回路61の第2基準電圧発生回路63、コンパレーター651、652、複合ゲート69は、コイル130に流れる電流Iが上限電流閾値Imaxを超えたことを検出する上限電流検出部であり、検出信号DT2は上限電流検出部の検出結果である。
【0029】
[モーター制御回路の制御処理]
次に、本実施形態のモーター制御回路30による制御について、
図5および
図6のフローチャートと、
図7および
図8のグラフとを用いて説明する。なお、以下では、モーター制御回路30が、モーター13を1Hzの周波数で駆動する場合、つまり1秒毎に1ステップ駆動する場合の制御を例示して説明する。
IC20のCPU23は、モーター13の駆動制御を開始すると、初期設定を行うステップS1の処理を実行し、n=0、TonX=0に設定する。nは、駆動制御を開始してから極性切替までに、ドライバー51をオンした回数を示す変数である。TonXは、初期値は「0」であり、ドライバー51をオンしている継続時間であるオン時間Tonが最大となったことを検出した場合つまり最大値を経過した場合に、「1」に設定される変数である。
【0030】
次に、CPU23は、ステップS2を実行し、ドライバー51をオンし、変数nに1を加算する。すなわち、CPU23からデコーダー31にドライバー51をオンする命令が出力されると、デコーダー31はゲート信号P1、P2、N1、N2、N3、N4によってモーター13のドライバー51をオンする。これにより、モーター13のコイル130に正方向の駆動電流が流れる。なお、フローチャートおよび以下の説明において、ドライバー51をオンするとは、コイル130に駆動電流を流すことができるオン状態にドライバー51を制御することを意味し、ドライバー51をオフするとは、コイル130に駆動電流を流すことができないオフ状態にドライバー51を制御することを意味する。
【0031】
本実施形態では、コイル130に供給される駆動電流は、第1の極性および第2の極性に切り替えられ、第1の極性の場合に、コイル130に正方向の電流が流れ、第2の極性の場合に、正方向とは逆方向の負方向の電流が流れるものとしている。
本実施形態では、トランジスター52、57がオン、トランジスター53、54、55、56がオフに制御され、トランジスター52、端子O1、コイル130、端子O2、検出抵抗59、トランジスター57を流れる電流、つまり端子O1から端子O2に向かってコイル130を流れる電流を正方向の電流としている。また、トランジスター53、56がオン、トランジスター52、54、55、57がオフに制御され、トランジスター53、端子O2、コイル130、端子O1、検出抵抗58、トランジスター56を流れる電流、つまり端子O2から端子O1に向かってコイル130を流れる電流を、負方向の電流としている。
【0032】
次に、CPU23は、コイル130を流れる電流Iが、上限電流閾値Imaxを超えたか否かを判定するステップS3の処理を実行する。前述のとおり、電流検出回路61の検出信号DT2は、検出抵抗58、59に発生する電圧が、第2基準電圧発生回路63の基準電圧を超えるとHレベルの信号を出力する。このため、CPU23は、デコーダー31を介して検出信号DT2を検出し、検出信号DT2がLレベルの場合はステップS3でNOと判定し、検出信号DT2がHレベルに変化するとステップS3でYESと判定する。なお、上限電流閾値Imaxは、予めモーター13の駆動実験などを行うことで適切なレベルに設定されている。
【0033】
CPU23は、ステップS3でYESと判定した場合は、デコーダー31を介してドライバー51をオフするステップS4を実行する。ドライバー51をオフすると、オン時間Tonが確定する。
CPU23は、ステップS4を実行すると、デコーダー31にドライバー51をオフする命令を出し、デコーダー31は、ゲート信号P1、P2、N1、N2、N3、N4によってドライバー51をオフする。具体的には、P1がHレベル、P2がHレベル、N1がHレベル、N2がLレベル、N3がHレベル、N4がHレベルとなる。このため、コイル130の両端が電源端子VSSに接続されて短絡され、ドライバー51からコイル130への電流Iの供給も停止する。したがって、コイル130に電流が流れていない状態は、ドライバー51がオフ状態に制御された状態である。本実施形態では、Pchトランジスター52、53およびNchトランジスター55をオフ、Nchトランジスター54、56、57をオンにした状態を、ドライバー51の第1の極性でのオフ状態としている。
【0034】
次に、CPU23は、nが2より大きいか否かを判定するステップS5の処理を実行する。CPU23は、ドライバー51がオンになった回数が1回目の場合つまりnが1の場合は、ステップS5でNOと判定する。
【0035】
一方、CPU23は、ステップS5でYESと判定した場合、つまりnが3以上の場合は、Ton最大値判定処理S20を実行する。Ton最大値判定処理S20は、後述するように、連続する3回のオン時間Tonを用いて判定するため、Ton最大値判定処理S20を実行する条件をnが2より大きいこと、つまりnが3以上の場合に限定している。
CPU23は、Ton最大値判定処理S20を実行すると、
図6に示すように、Ton(n-2)にTon(n-1)を代入し、Ton(n-1)にTon(n)を代入し、Ton(n)に現在のオン時間Tonを代入するステップS21を実行する。このため、直前に終了したオン時間TonはTon(n)に代入され、その1回前のオン時間がTon(n-1)に代入され、2回前のオン時間がTon(n-2)に代入される。
【0036】
次に、CPU23は、2回前のオン時間がTon(n-2)が1回前のオン時間Ton(n-1)よりも小さいか、つまり、2回前より1回前のオン時間が長くなっているかを判定するステップS22を実行する。
CPU23は、ステップS22でYESと判定した場合は、1回前のオン時間がTon(n-1)が直前のオン時間Ton(n)よりも大きいか、つまり、1回前より直前のオン時間が短くなっているかを判定するステップS23を実行する。
【0037】
CPU23は、ステップS23でYESと判定した場合、変数TonXを1に設定するステップS24を実行する。つまり、CPU23は、連続する3回のオン時間のうち、2番目のオン時間が1番目および3番目のオン時間よりも長い場合は、2番目のオン時間が最大値であり、オン時間Tonが最大となったことを検出したと判定し、オン時間Tonが最大値を経過していることを示すフラグである変数TonXを1に設定して、Ton最大値判定処理S20を終了する。
一方、CPU23は、ステップS22、S23でNOと判定した場合は、オン時間Tonが最大値を経過していないと判断し、変数TonXは0のまま維持して、Ton最大値判定処理S20を終了する。
【0038】
CPU23は、Ton最大値判定処理S20が終了した場合と、nが2以下であるためステップS5でNOと判定した場合は、コイル130を流れる電流Iが下限電流閾値Iminを下回ったか否かを判定するステップS6を実行する。前述のとおり、電流検出回路61の検出信号DT1は、検出抵抗58、59に発生する電圧が、第1基準電圧発生回路62の基準電圧を下回っているとLレベルの信号を出力する。このため、CPU23は、デコーダー31を介して検出信号DT1を検出し、検出信号DT1がHレベルの場合はステップS6でNOと判定し、ステップS6の判定処理を継続し、検出信号DT1がLレベルに変化した場合はステップS6でYESと判定する。下限電流閾値Iminも、予めモーター13の駆動実験などを行うことで適切なレベルに設定されている。
【0039】
CPU23は、ステップS6でYESと判定した場合は、変数TonXが1であるか、つまりオン時間Tonの最大値を経過したか否かを判定するステップS7を実行する。CPU23は、ステップS7でNOと判定した場合は、オン時間Tonの最大値を経過することで判定できる極性の切り替え条件に該当していないことになり、極性の切り替えは行わずにステップS2に戻り、ドライバー51をオンしてモーター13を駆動し、変数nに1を加算する。
【0040】
CPU23は、ステップS7でYESと判定した場合は、ステップS8を実行し、所定時間待機する。この所定時間は、駆動電流の供給を停止したローターが惰性で静的安定位置に移動し、振動を止めることができるのに十分な時間であり、予め実験などで求めた固定値である。
次に、CPU23は、極性の切り替えを行い、変数nおよび変数TonXを「0」に初期化するステップS9を実行する。
そして、CPU23は、次のモーター駆動タイミングになったか否かを判定するステップS10を実行し、ステップS10でNOの場合はステップS10の判定処理を継続し、YESの場合はステップS2に戻る。例えば、モーター13を1秒毎に駆動し、秒針5、分針6、時針7を1秒毎にステップ運針している場合、CPU23は、1秒毎の駆動を開始してから1秒経過するまでは、ステップS10でNOと判定し、1秒経過した場合はYESと判定して、ステップS2に戻り、次のステップ運針を実行する。
ステップS2では、極性が切り替えられているので、CPU23は、デコーダー31に対し、コイル130を流れる電流が前回と逆方向となるように設定されたゲート信号を出力するように制御する。具体的には、P1がHレベル、P2がLレベル、N1,N2,N4がLレベル、N3がHレベルとなる。これにより、Pchトランジスター52がオフ、Pchトランジスター53がオンされる。また、Nchトランジスター54、55、57がオフ、Nchトランジスター56がオンされる。このため、電流は、Pchトランジスター53、端子O2、コイル130、端子O1、検出抵抗58、Nchトランジスター56を流れる。したがって、コイル130に出力される駆動電流は、第2の極性であり、コイル130に正方向と逆方向である負方向の電流が流れる。したがって、コイル130に負方向の電流が流れる状態は、第2の極性の駆動信号を出力するようにドライバー51がオン状態に制御された状態である。
したがって、CPU23は、第1の極性および第2の極性を交互に切り替えながら、ステップS2~S10およびTon最大値判定処理S20を繰り返し実行する。
【0041】
以上のように、電子時計1では、CPU23は、ドライバー51を制御するドライバー制御部と、モーター13を駆動する際の極性を切り替える極性切替部として機能する。
また、CPU23が駆動電流の供給を停止している時間は、オン時間Tonが最大となったことを検出した時間T2から開始するステップS8の所定時間と、この所定時間経過時から次のモーター駆動タイミングまでの残り時間とを加算した時間となる。
【0042】
図7は、本実施形態による制御を行った場合の電流波形をローターの回転角度と対応付けた図であり、
図8は、比較例であるオフ時間Toffに基づいて極性切替を制御した場合の電流波形をローターの回転角度と対応付けた図である。
比較例である
図8では、ローターが180°に近づくと、オフ時間Toffも徐々に長くなるため、オフ時間Toffが判定値Dtを超えた時点、つまり
図8の経過時間T1の時点でパルスの出力を停止している。
一方、本実施形態の例である
図7では、オン時間Tonが最大値を経過した時点、つまり
図7の経過時間T2の時点で、パルスの出力を停止している。このため、
図8の比較例に比べて消費電力を低減できる。例えば、経過時間T2が経過時間T1よりも約30%短い時間であれば、消費電力も約30%低減できる。
オン時間Tonが最大値となる時点は、ローターがパルスを印加する前の位置に引き戻される力がピークとなる位置であり、これを超えた点を検出して駆動電流の印加をやめると、ローターは惰性で次にローターが引かれる位置、つまり元の静的安定位置から180°回転した位置まで回転する。惰性による回転であるため、比較例のように駆動電流を印加していた時よりもスピードは遅くなるが、数十Hzより遅い駆動、例えば1Hzの駆動では次パルスの出力までに十分な時間があり、ローターが静的安定位置で振動を止める時間も十分に確保できるため、問題とはならない。
【0043】
[第1実施形態の効果]
CPU23は、オン時間Tonが最大となったことを検出した時点、つまりオン時間Tonが最大値であった次のオン時間Tonが終了した時点で駆動電流の供給を停止し、所定時間経過後に極性を切り替え、次のモーター駆動タイミングでモーターを駆動しているので、モーター13で駆動する負荷が変動した場合でもローターの位置を誤って判定することを低減でき、モーター13を確実に駆動できる。すなわち、オン時間Tonが最大となるタイミングは、負荷が大きくなると遅くなり、負荷が小さくなると早くなるが、いずれの場合もオン時間Tonが最大値となる時点は、ローターがパルスを印加する前の位置に引き戻される力がピークとなる位置である。したがって、負荷の大小にかかわらず、オン時間Tonが最大値を経過した時点で駆動電流の印加を停止すれば、ローターは惰性によって次の静的安定位置まで回転し、停止する。このため、モーター13で駆動する負荷が変動した場合でもローターの位置を誤って判定することを低減でき、モーター13を確実に駆動できる。
【0044】
CPU23は、オン時間Tonが最大値を経過したことを検出した時点で駆動電流の供給を停止しているので、オフ時間Toffが判定値Dtを超えた場合に駆動電流の供給を停止する場合に比べて、駆動電流を供給する時間を短くでき、消費電力を低減できる。
【0045】
CPU23がオン時間Tonが最大値を経過したことを判定するTon最大値判定処理S20は、連続する3回のオン時間Ton(n-2)、Ton(n-1)、Ton(n)のうち、2番目のオン時間Ton(n-1)がその前後のオン時間Ton(n-2)およびTon(n)よりも長い場合に最大値を経過したと判定しているため、短時間で容易に判定できる。したがって、CPU23は、ローターが慣性で次の静的安定位置まで回転できる位置まで回転したことを簡単に検出できる。
【0046】
CPU23は、ステップS7でYESと判定するまでの間は、ドライバー51をオフする毎にTon最大値判定処理S20を実行できるので、負荷変動があっても、オン時間Tonが最大値を経過したこと、つまりローターが前述した所定の位置まで回転したことを精度よくかつリアルタイムで検出できる。
本実施形態では、CPU23がバス27およびデコーダー31を介してドライバー51を制御しているので、論理回路でドライバー51を制御する場合に比べて回路素子を少なくできる。
【0047】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の電子時計1Aについて、
図9~
図14に基づいて説明する。第1実施形態と同様の機能を有する部材や要素は同じ符号を用いて、説明を省略する。
第2実施形態の電子時計1Aは、クロノグラフ機能付きの電子時計であり、
図9に示すように、外装ケース2、文字板3、りゅうず8、ボタン9A、9Bを備える。電子時計1Aは、文字板3の平面中心位置に同軸で配置される3つの指針軸を備え、各指針軸には分針42、時針43、1/5クロノグラフ秒針44がそれぞれ取り付けられる。また、文字板3の平面中心位置から10時方向には、小秒針41が取り付けられた指針軸が配置される。文字板3の平面中心位置から2時方向には、クロノグラフ分針45が取り付けられた指針軸が配置される。文字板3の平面中心位置から6時方向には、モード針を兼用するクロノグラフ時針46が取り付けられた指針軸が配置される。文字板3には、日窓3Aが開口され、日窓3Aから視認される日車47が設けられている。
【0048】
電子時計1Aは、
図10に示すように、第1実施形態のIC20と同様のIC20Aを備え、さらに第1モーター制御回路30Aから第6モーター制御回路30Fを備える。
第1モーター制御回路30Aは、小秒針41を駆動する図示略のモーターの駆動を制御し、第2モーター制御回路30Bは、分針42および時針43を駆動する図示略のモーターの駆動を制御する。第3モーター制御回路30Cは、1/5クロノグラフ秒針44を駆動する図示略のモーターの駆動を制御し、第4モーター制御回路30Dは、クロノグラフ分針45を駆動する図示略のモーターの駆動を制御し、第5モーター制御回路30Eは、クロノグラフ時針46を駆動する図示略のモーターの駆動を制御する。第6モーター制御回路30Fは、日車47を駆動する図示略のモーターの駆動を制御する。
IC20Aにおいて、P1はボタン9Aの入力を検出するスイッチS1が接続される入出力端子であり、P2はボタン9Bの入力を検出するスイッチS2が接続される入出力端子であり、P3はりゅうず8の操作を検出するスイッチS3が接続される入出力端子である。
【0049】
次に、電子時計1Aにおいて、各指針を早送りする場合の駆動制御方法について、
図11のフローチャートに基づいて説明する。すなわち、第2実施形態においても、各指針を数十Hz以下の一定間隔で運針する場合つまり時分秒針を通常運針する場合や、クロノグラフ針で時間計測を行う場合は、第1実施形態の駆動制御方法を利用する。
一方で、第1実施形態の駆動制御方法では、駆動電流の供給を停止した後はローターを惰性で回転し、所定時間経過するまで極性切替を待機するため、例えば数百Hz以上で指針を早送りすることは難しい。一方、第2実施形態の駆動制御方法は、以下に説明するように、数百Hz程度の早送りも可能である。
以下の例では、モード針としても利用されるクロノグラフ時針46を、異なるモードを指示するために早送りさせる場合で説明する。
クロノグラフ時針46は、第1実施形態と同様にIC20AのCPU23および第5モーター制御回路30Eによって制御される。クロノグラフ時針46は、通常の時刻表示時は、電池残量を指示し、ボタン操作でクロノグラフ機能が選択されると0位置に早送りで移動する。また、クロノグラフ時針46は、ボタン操作で機内モードが選択されると機内モードを指示する位置に早送りされ、衛星信号の受信操作が行われると受信モードを指示する位置に早送りされる。
これらの早送り時に、CPU23は、
図11のフローチャートの処理S40を実行する。CPU23は、まずステップS41を実行し、変数nおよび変数TonXを「0」に初期化する。変数n、変数TonXは第1実施形態と同じである。
【0050】
次に、CPU23は、第1実施形態のステップS2~S5と同じ処理であるステップS41~S44の処理を実行する。CPU23は、ステップS44でYESと判定すると、変数TonXが1であるか否かを判定するステップS45を実行する。
CPU23は、ステップS45でNOと判定した場合は、第1実施形態と同じTon最大値判定処理S20を実行する。
CPU23は、Ton最大値判定処理S20が終了した場合と、nが2以下であるためステップS44でNOと判定した場合と、既にオン時間Tonの最大値を経過していると判定済みで変数TonXが「1」であったためにステップS45でYESと判定した場合は、第1実施形態のステップS6と同じく、コイル130を流れる電流Iが下限電流閾値Iminを下回ったか否かを判定するステップS46を、ステップS46でYESと判定するまで継続して実行する。
【0051】
CPU23は、ステップS46でYESと判定した場合は、第1実施形態のステップS7と同じく、変数TonXが1であるか否かを判定するステップS47を実行する。CPU23は、ステップS47でNOと判定した場合は、極性の切り替えは行わずにステップS41に戻り、ドライバー51をオンしてモーターを駆動し、変数nに1を加算する。
【0052】
CPU23は、ステップS47でYESと判定した場合は、オフ時間Toffが判定値Dt2よりも大きいか否かを判定するステップS48を実行する。判定値Dt2は、ローターが180°近辺まで回転した場合のオフ時間Toffであり、実験等で予め設定した固定値である。
CPU23は、ステップS48でNOと判定した場合は、ローターが180°近辺まで回転していないことになるので、ステップS41に戻り、モーターの駆動を継続する。
CPU23は、ステップS48でYESと判定した場合は、第1実施形態のステップS9と同じく、極性の切り替えを行い、変数nおよび変数TonXを「0」に初期化するステップS49を実行する。
そして、CPU23は、所定ステップ数が経過したか否かを判定するステップS50を実行し、ステップS50でNOの場合はステップS41に戻ってモーター駆動を継続する。所定ステップ数は、例えば、モード針を兼用するクロノグラフ時針46であれば、現在の指示位置から選択されたモードに応じた所定位置まで移動するために必要なステップ数である。また、クロノグラフ用の各指針を0位置に帰零する場合は、0位置まで移動するために必要なステップ数である。
CPU23は、ステップS50でYESの場合は、モーターの駆動制御を終了するステップS51を実行する。
したがって、CPU23は、モーターを所定ステップ数駆動するまで、第1の極性および第2の極性を交互に切り替えながら、ステップS41~S50およびTon最大値判定処理S20を繰り返し実行する。
【0053】
以上のように、電子時計1Aにおいても、CPU23は、ドライバー51を制御するドライバー制御部と、モーター13を駆動する際の極性を切り替える極性切替部として機能する。
【0054】
図12は、本実施形態による早送り駆動を低負荷の場合に行った電流波形をローターの回転角度と対応付けた図であり、
図13は、本実施形態による早送り駆動を高負荷の場合に行った電流波形をローターの回転角度と対応付けた図であり、
図14は、比較例である固定のマスク期間を設定して駆動制御を行った場合の電流波形をローターの回転角度と対応付けた図である。
図12~
図14の電流波形図に示すように、極性を切り替えてモーターを連続して回転する場合、停止状態のモーターの駆動を開始した1ステップ目と、連続駆動している2ステップ目以降ではパルスを印加している時間が変化する。また、このパルス印加時間は、負荷によっても変化する。
また、極性を切り替えた各ステップにおける最初の数発のパルスは印加している間は、オフ時間Toffが判定値Dt2よりも大きくなる場合もあり、極性切替後の最初のオフ時間Toffから判定値Dt2と比較すると、ローターが回転していないのに回転したと誤判定する。
このため、従来は、各極性での駆動制御開始時から予め設定した固定のマスク期間を設け、このマスク期間が経過してから、オフ時間Toffと判定値Dt2とを比較してローターの回転位置を推定していた。固定のマスク期間を設定する場合、前述したように、負荷やモーターの駆動開始から何ステップ目であるかなどでパルス印加時間が変化するため、各々に応じたマスク期間を設けなければならない。
図14は、高負荷の早送り駆動を行った場合に、固定のマスク期間T3をそれぞれ設定した比較例である。
図14の例では、モーターの駆動開始後の2ステップ目では、固定マスク期間T3が経過した時点は、ローターは180°近くまでしか回転していない。このため、オン時間Tonも増加中であり最大値を超えていないのに、オフ時間Toffが判定値Dt2を超えてしまい、ローターが360°近くまで回転したと誤判定して極性を切り替えてしまい、結果的にモーターを動作できなかった例である。
【0055】
一方、第2実施形態では、低負荷での早送り駆動の例である
図12や、高負荷での早送り駆動の例である
図13に示すように、固定のマスク期間を設けるのでは無く、オン時間Tonの最大値を経過したことを検出した後に、オフ時間Toffと判定値Dt2とを比較している。このため、負荷の変動やステップ数によって、ローターの回転位置を誤って把握して駆動制御することを低減できるため、モーターを適切に駆動できる。
【0056】
[第2実施形態の効果]
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、オン時間Tonが最大となったことを検出しているので、モーター13で駆動する負荷が変動した場合でも、ローターが元の静的安定位置に戻らない位置まで回転したことを判定できる。このため、固定マスク期間を設定する必要が無く、
図14に示すように、固定マスク期間を正しく設定できないためにモーターが駆動しないことを防止できる。
オン時間Tonが最大値を経過した後も、モーターのコイル130に駆動電流を流しているので、ローターを惰性で回転させる第1実施形態に比べて、極性切替までの時間を短くできる。また、オン時間Tonが最大値を経過した後、オフ時間Toffが判定値Dt2よりも大きくなったことを検出して切替タイミングを判定しているので、極性切替タイミングを適切に判断できる。したがって、モーターを確実にかつ高速で駆動できる。
したがって、ムーブメントに取り付けられた針の大きさや、温度変化、負荷の増加等、個々の状況に合わせて、モーターを確実にかつ数百Hz程度の高速で駆動できる。
【0057】
[第3実施形態]
第3実施形態の電子時計は、第2実施形態におけるTon最大値判定処理S20の代わりに、
図15のTon所定値比較処理S20Aを実行するものである。このため、Ton所定値比較処理S20Aについてのみ説明する。
【0058】
CPU23は、
図15のTon所定値比較処理S20Aを実行すると、直前のオン時間Ton(n)が所定値Aよりも大きいか否かを判定するステップS21Aを実行する。所定値Aは、シミュレーションで算出されたオン時間Tonの最大値Ton_maxの70%以上の値に設定されている。
【0059】
CPU23は、ステップS21AでYESと判定した場合、変数TonXを「1」に設定するステップS22Aを実行する。つまり、CPU23は、オン時間Tonが所定値Aよりも長い場合は、オン時間Tonが所定値を経過していることを示すフラグである変数TonXを「1」に設定して、Ton所定値比較処理S20Aを終了する。
一方、CPU23は、ステップS21AでNOと判定した場合は、オン時間Tonが所定値を経過していないと判断し、変数TonXは「0」のまま維持して、Ton所定値比較処理S20Aを終了する。
Ton所定値比較処理S20Aを終了した後は、第2実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0060】
なお、所定値Aを最大値Ton_maxの70%以上の値に設定することの理由について、以下に説明する。
図16は、オン時間Tonを変化させた場合のローター回転角と負荷との関係をシミュレーションで求めたグラフである。負荷は、シミュレーションで設定した所定の基準負荷を「1」とし、その負荷に対する割合で表している。すなわち、負荷0.5は、基準負荷1の半分の値であり、負荷2は、基準負荷1の2倍の負荷である。
図16は、基準負荷1の時の最大値Ton_maxをシミュレーションで算出し、最大値Ton_maxを100%とした場合と、最大値Ton_maxに対して80%、70%、60%の値としたときのローター回転角をプロットしたグラフである。具体的には、線L1は100%、線L2は80%、線L3は70%、線L4は60%の場合である。
点線L5は、初動として必要な角度、つまり、ローターがパルスを印加する前の位置に引き戻されにくい位置まで回転した角度を示す。ローターの回転角が点線L5以上、
図16の例ではローター回転角が50度以上になっていれば、逆誘起電流が十分発生し、オフ時間Toffが極性切替判定用の判定値Dt2よりも低くなるため、オン時間Tonが所定値Aを超えた時点で、ローターが180°近辺まで回転したと誤検出することを防止できる。したがって、オフ時間Toffが判定値Dt2よりも大きくなるのは、ローターが180°近辺まで回転した場合であり、第2実施形態と同じく、極性切替タイミングを精度よく検出できる。
【0061】
図16に示すように、負荷1.5では、線L1、L2、L3で示すように、最大値Ton_maxの70%以上であれば、ローター回転角が初動として必要な角度を超えているため、モーター13を駆動でき、指針を動かすことができる。
負荷0.5では、線L3の場合は、ローター回転角が初動として必要な角度には達していないが、負荷が低いためにスピードが出ている状態であり、オフ時間Toffが判定値Dt2を超えるまでのオン時間Tonでローターを回転することができる。したがって、所定値Aを最大値Ton_maxの70%以上の値に設定し、オン時間Tonが所定値Aを超えたことを検出した後に、オフ時間Toffを判定値Dt2と比較することで、ローターが回転していることを正しく検出できる。
一方、線L4で示すように、所定値Aを最大値Ton_maxの70%未満の値に設定すると、オン時間Tonが所定値Aを超えていても、ローターを回しきれない可能性が高くなる。
したがって、Ton所定値比較処理S20Aにおいて、オン時間Tonが予め設置した所定値Aを超えたか否かを判定することで、Ton最大値判定処理S20でオン時間Tonが最大値となったことを検出していた場合と同様に、ローターが回転しているか否かを精度よく検出でき、ある程度の負荷変動に耐えうる運針制御ができる。
【0062】
[第3実施形態の効果]
第3実施形態では、Ton所定値比較処理S20Aにおいて、オン時間Tonを所定値Aと比較しているので、第2実施形態に比べて回路構成を簡単にできる。すなわち、Ton最大値判定処理S20のように、オン時間Tonの最大値を検出するには、複数点の計測と、そのデータ保持が必要である。データを保持するためには、アナログ値をデジタル値に変換する回路が必要であり、最大値を判定するためには、データの比較回路も必要である。これらの処理をCPUで行う場合には、その処理実行用のプログラムが長くなり、プログラム実行分だけ処理時間も長くなる。また、アナログ回路で構成する場合には、所定値Aと比較する場合に比べて、少なくとも2倍の比較用の回路が必要となる。
一方、本実施形態によれば、固定値である所定値Aとオン時間Tonとを比較すればよいので、比較用のコンパレーターを設けるだけで瞬時に判断できる。
【0063】
図16に示すように、例えば、所定値Aを最大値Ton_maxの70%以上にすることで、負荷が変動してもローターの回転状態を正しく検出できるため、負荷変動にも対応したモーター制御を行うことができる。
さらに、オン時間Tonの最大値を検出した場合に比べて対応できる負荷の範囲は狭くなるが、一般的な機種の場合の部品のばらつきや温度変動などの負荷変動には十分に対応することができる。一般的な機種とは、モーターで駆動される指針が一般的なデザインの針の形である場合のように、モーターで駆動される負荷の範囲が基準負荷を基準に一定範囲に納まるものである。
【0064】
さらに、オン時間Tonが所定値A以上になったことを検出した後、オフ時間Toffが判定値Dt2よりも大きくなったことを検出して切替タイミングを判定しているので、極性切替タイミングを適切に判断できる。したがって、モーターを確実にかつ高速で駆動できる。
したがって、ムーブメントに取り付けられた針の大きさや、温度変化、負荷の増加等、個々の状況に合わせて、モーターを確実にかつ数百Hz程度の高速で駆動できる。
【0065】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態の電子時計について、
図17および
図18のフローチャートを参照して説明する。
図17のフローチャートは、第2実施形態の
図11に示すフローチャートの一部を変更したものである。このため、
図11のフローチャートと同一または同様のステップS41~S51には同一符号を付し、説明を簡略する。
図17において、ステップS40からS45までは、第2実施形態と同じ処理である。そして、ステップS45でYESの場合、Ton最大値判定処理S20の代わりにステップS20BのTon所定値比較処理2を実行する。
CPU23は、Ton所定値比較処理2を実行すると、
図18に示すように、直前のオン時間Ton(n)が所定値Aよりも大きいか否かを判定するステップS21Bを実行する。所定値Aは、例えば、シミュレーションで算出された最大値Ton_maxの70%以上の値に設定されている。
【0066】
CPU23は、ステップS21BでNOと判定した場合は、オン時間Tonが所定値を経過していないと判断し、変数TonXは0のまま維持して、Ton所定値比較処理2を終了する。
CPU23は、ステップS21BでYESと判定した場合、直前のオン時間Ton(n)が所定値Bよりも大きいか否かを判定するステップS21Bを実行する。所定値Bは、所定値Aよりも大きな値であり、例えば、所定値Aの+30%の値である。つまり、所定値B=所定値A+所定値A×0.3である。
【0067】
CPU23は、ステップS22BでNOと判定した場合、変数TonXを1に設定するステップS23Bを実行する。つまり、CPU23は、オン時間Tonが所定値Aよりも長く、所定値B以下の場合は、変数TonXを1に設定して、Ton所定値比較処理2を終了する。
一方、CPU23は、ステップS22BでYESと判定した場合、変数TonXを2に設定するステップS24Bを実行する。つまり、CPU23は、オン時間Tonが所定値Bよりも長い場合は、変数TonXを2に設定して、Ton所定値比較処理2を終了する。
【0068】
CPU23は、ステップS20BのTon所定値比較処理2を終了した後は、第2実施形態と同様にステップS46~S48を実行する。なお、変数TonXは2に設定される場合もあるため、ステップS47では、変数TonXが1以上であるか否かを判定している。
そして、CPU23は、ステップS47およびステップS48でYESと判定した場合、つまり極性切替条件に該当したと判定した場合、変数TonXが2であるか否かを判定するステップS52を実行する。CPU23は、ステップS52でYESと判定した場合、つまりオン時間Tonが所定値Bよりも大きい場合は、所定値AにΔAを加算し、所定値BにΔBを加算するステップS53を実行する。ΔAは、例えば、所定値Aを+10%した値である。つまり、新所定値A=所定値A+ΔA=所定値A+所定値A×0.1である。ΔBも同様に、例えば、所定値Bを+10%した値である。つまり、新所定値B=所定値B+ΔB=所定値B+所定値B×0.1である。
【0069】
CPU23は、ステップS53の処理後は、第2実施形態と同じくステップS49、S50を実行する。また、CPU23は、ステップS52でNOの場合は、所定値A、Bを変更せずに、ステップS49、S50を実行する。そして、CPU23は、ステップS50でYESと判定されるまで、ステップS41~S50の処理を繰り返す。
【0070】
[第4実施形態の効果]
第4実施形態によれば、オン時間Tonが所定値Bよりも大きい場合、所定値A、Bを補正しているので、第3実施形態の所定値Aとの比較のみ行う場合に比べて、ローターの回転位置を精度よく検出できる。また、オン時間を所定値A、Bと比較するだけでよいので、第2実施形態のオン時間の最大値を検出する場合に比べて、回路構成も簡単にでき、容易に検出することができる。特に、所定値Aとの比較用と、所定値Bとの比較用との2つのコンパレーターを設けるだけでよいので、回路構成を簡易にできる。
【0071】
さらに、オン時間Tonが所定値Bを超えた場合は、モーターの駆動状態が適正でないと判断し、所定値A、Bを変更しているので、大きく負荷が異なるような場合でも、初動後にしばらく確認運転をすれば、適正な判定値になり、以降は精度よく検出し、安定して駆動することができる。
【0072】
[第4実施形態の変形例]
なお、所定値Aを変更する方法としては、オン時間Tonを所定値Bと比較するものに限定されず、センサーを用いたローターの回転検出や、パルス長から判定するローター回転判定などを併用し、それらの判定がNGとなった場合に、所定値Aが適正でなかったと判断し、所定値Aを変更する処理を行ってもよい。
さらに、オン時間Tonと比較する所定値を3つ以上設定し、所定値を+10%、+20%等と複数段階に変更してもよい。
【0073】
[他の実施形態]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
Ton最大値判定処理S20は、前記各実施形態の例に限定されない。例えば、上限電流閾値Imaxや下限電流閾値Imin等の設定によっては、極性切替後の1発目によって、ローターを元の静的安定位置に戻らない位置、つまり各実施形態におけるオン時間Tonが最大値を経過したときのローターの位置まで回転させることができる場合がある。このような特性を有するモーターを駆動制御する場合は、最初のオン時間Tonが最も長くなり、オン時間Tonが順次短くなるため、オン時間Tonが連続して減少したことを確認した場合に、オン時間Tonが最大となったことを検出したと判定してもよい。つまり、CPU23は、連続する2回のオン時間のうち1番目のオン時間が2番目のオン時間よりも長い場合や、連続する3回のオン時間のうち1番目のオン時間が2番目のオン時間よりも長く且つ2番目のオン時間が3番目のオン時間より長い場合は、1番目のオン時間が最大値であり、オン時間Tonが最大となったことを検出したと判定してもよい。
【0074】
前記各実施形態では、CPU23によってドライバー51を制御していたが、論理回路によってドライバー51を制御してもよい。論理回路でドライバー制御部を構成すれば、CPU23で構成する場合に比べて消費電力を低減できる。また、CPU23は、一つのICで構成してもよいし、複数のICから構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1、1A…電子時計、5…秒針、6…分針、7…時針、8…りゅうず、9…ボタン、9A…ボタン、9B…ボタン、11…水晶振動子、12…電池、13…モーター、130…コイル、21…発振回路、22…分周回路、23…CPU、24…ROM、26…入出力回路、27…バス、30…モーター制御回路、30A…第1モーター制御回路、30B…第2モーター制御回路、30C…第3モーター制御回路、30D…第4モーター制御回路、30E…第5モーター制御回路、30F…第6モーター制御回路、31…デコーダー、41…小秒針、42…分針、43…時針、44…1/5クロノグラフ秒針、45…クロノグラフ分針、46…クロノグラフ時針、47…日車、61…電流検出回路、62…第1基準電圧発生回路、63…第2基準電圧発生回路。