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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/08 20060101AFI20240702BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B60C19/08
B60C5/00 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020052090
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021147024
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋
(72)【発明者】
【氏名】大澤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】宇野 弘基
(72)【発明者】
【氏名】柳生 健太郎
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-174594(JP,A)
【文献】特開2015-040031(JP,A)
【文献】特開2017-165135(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0077105(US,A1)
【文献】特開2018-083490(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0351705(US,A1)
【文献】特開2013-067707(JP,A)
【文献】特開2017-030620(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0036490(US,A1)
【文献】特開2000-168318(JP,A)
【文献】特開平11-348515(JP,A)
【文献】特開2014-172583(JP,A)
【文献】特開2016-41559(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054865(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面と接触するトレッドと、
前記トレッドの端に連なり、前記トレッドの径方向内側に位置する一対のサイドウォールと、
前記サイドウォールの径方向内側に位置し、リング状のコアを有する一対のビードと、
前記トレッド及び前記サイドウォールの内側において、一方のビードと他方のビードとの間を架け渡すカーカスと、
径方向において、前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトと、
前記カーカスの内側に位置するインナーライナーと、
前記カーカスと前記インナーライナーとの間に位置する一対の挿入層と
を備え、
前記カーカスがカーカスプライを含み、
前記カーカスプライが、一方のコアと他方のコアとの間を架け渡すプライ本体と、前記プライ本体に連なりそれぞれのコアの周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部とを有し、
前記挿入層が、前記ベルトの端と前記ビードの端との間に位置し、
前記挿入層の体積抵抗率が10Ω・cm未満であり、
前記挿入層の複素弾性率が前記インナーライナーの複素弾性率よりも高く、
最大幅位置における、前記サイドウォールの厚さが、5.0mm以下であり、
前記挿入層の外端が、軸方向において、前記ベルトの端よりも内側に位置し、
径方向において、前記挿入層の内端が前記ビードの端よりも内側に位置する、タイヤ。
【請求項2】
前記挿入層の複素弾性率の、前記インナーライナーの複素弾性率に対する比が4.9以下である、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記挿入層の厚さが0.2mm以上1.0mm以下である、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記挿入層の複素弾性率が4.0MPa以上である、請求項1から3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記挿入層と前記ベルトとの重複長さが20mm以下である、請求項1から4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
径方向において、前記折り返し部の端が前記最大幅位置よりも内側に位置する、請求項1からのいずれかに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記カーカスプライが、並列した多数のコードと、これらコードを覆うトッピングゴムとを含み、
前記挿入層が、前記トッピングゴムの材質と同じ材質からなる、請求項1からのいずれかに記載のタイヤ。
【請求項8】
前記カーカスが、1枚の前記カーカスプライからなり、
前記ビードが、前記コアの径方向外側に位置する内側エイペックスと、前記内側エイペックスの径方向外側に位置する外側エイペックスとを備え、
前記外側エイペックスと前記内側エイペックスとの間に、前記折り返し部が位置し、
前記外側エイペックスの外端が前記ビードの端である、請求項1からのいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。詳細には、本発明は乗用車に装着されるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
環境への配慮から、低い転がり抵抗を有するタイヤが求められている。転がり抵抗を低減させるために、例えば、低発熱性のゴムが使用される。低発熱性のゴムは補強剤としてシリカを多く含むため、低発熱性ゴムを使用したタイヤでは、通電性が低下し、走行中に発生する静電気の蓄積が懸念される。低発熱性ゴムを使用しても通電性を確保できるよう、様々な検討が行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-8269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤのカーカスの一部をなすトッピングゴムは通電性を有するので、カーカスは導電経路として機能する。このカーカスとインナーライナーとの間に位置するタイガム層は、カーカスと同様、一方のビードと他方のビードとの間を架け渡すように配置されるが、10Ω・cm以上の体積抵抗率を有し、導電経路として機能しない。このタイガム層を削減し、タイヤのサイド部を薄くすれば、転がり抵抗の低減を図れる見込みがある。しかし、タイヤの製造において、モールドに投入された未加硫状態のタイヤ(以下、生タイヤとも称される。)は膨張したブラダーによりモールドのキャビティ面に押し付けられるので、トッピングゴムが必要な厚さを確保できず、カーカスが導電経路として機能できない恐れがある。薄いサイド部を採用した場合、操縦安定性が低下する恐れもある。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、通電性及び操縦安定性への影響を抑えつつ、転がり抵抗の低減が達成されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るタイヤは、路面と接触するトレッドと、前記トレッドの端に連なり、前記トレッドの径方向内側に位置する一対のサイドウォールと、前記サイドウォールの径方向内側に位置し、リング状のコアを有する一対のビードと、前記トレッド及び前記サイドウォールの内側において、一方のビードと他方のビードとの間を架け渡すカーカスと、径方向において、前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトと、前記カーカスの内側に位置するインナーライナーと、前記カーカスと前記インナーライナーとの間に位置する一対の挿入層と、を備える。前記カーカスはカーカスプライを含み、前記カーカスプライは、一方のコアと他方のコアとの間を架け渡すプライ本体と、前記プライ本体に連なりそれぞれのコアの周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部とを有する。前記挿入層は、前記ベルトの端と前記ビードの端との間に位置し、前記挿入層の体積抵抗率は10Ω・cm未満である。前記挿入層の複素弾性率は前記インナーライナーの複素弾性率と同等である、又は、前記インナーライナーの複素弾性率よりも高い。最大幅位置における、前記サイドウォールの厚さは5.0mm以下である。
【0007】
好ましくは、このタイヤでは、前記挿入層の複素弾性率の、前記インナーライナーの複素弾性率に対する比は4.9以下である。
【0008】
好ましくは、このタイヤでは、前記挿入層の厚さは0.2mm以上1.0mm以下である。
【0009】
好ましくは、このタイヤでは、前記挿入層の複素弾性率は4.0MPa以上である。
【0010】
好ましくは、このタイヤでは、前記挿入層の外端は、軸方向において、前記ベルトの端よりも内側に位置し、前記挿入層と前記ベルトとの重複長さは20mm以下である。
【0011】
好ましくは、このタイヤでは、径方向において、前記挿入層の内端は前記ビードの端よりも内側に位置する。
【0012】
好ましくは、このタイヤでは、径方向において、前記折り返し部の端は前記最大幅位置よりも内側に位置する。
【0013】
好ましくは、このタイヤでは、前記カーカスプライは、並列した多数のコードと、これらコードを覆うトッピングゴムとを含む。前記挿入層は、前記トッピングゴムの材質と同じ材質からなる。
【0014】
好ましくは、このタイヤでは、前記カーカスは1枚の前記カーカスプライからなる。前記ビードは、前記コアの径方向外側に位置する内側エイペックスと、前記内側エイペックスの径方向外側に位置する外側エイペックスとを備える。前記外側エイペックスと前記内側エイペックスとの間に、前記折り返し部が位置し、前記外側エイペックスの外端が前記ビードの端である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、通電性及び操縦安定性への影響を抑えつつ、転がり抵抗の低減が達成されたタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、図1のタイヤの一部が示された拡大断面図である。
図4図4は、本発明の他の実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0018】
本開示においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、正規状態と称される。本開示では、特に言及がない限り、タイヤの各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0019】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0020】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。乗用車用タイヤの正規内圧は、例えば、180kPaである。
【0021】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。乗用車用タイヤの正規荷重は、例えば、前記荷重の88%に相当する荷重である。
【0022】
本開示において、タイヤのサイド部とは、路面と接触するトレッド部と、リムRに嵌め合わされるビード部との間を架け渡す、タイヤの部位を意味する。
【0023】
本開示においては、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の複素弾性率は、JIS K6394の規定に準拠し、粘弾性スペクトロメーターを用いて下記の条件にて測定される。
初期歪み=10%
振幅=±1%
周波数=10Hz
変形モード=引張
測定温度=70℃
この測定では、各要素のゴム組成物を加圧及び加熱して得られる、シート状の架橋ゴム(以下、ゴムシートとも称される。)からサンプリングされる試験片が用いられる。ゴムシートの作製のために、一般的に使用されるプレス成形機が用いられ、ゴムシート作製のための加熱温度は165℃、加熱時間は10分に設定される。
【0024】
本開示において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の体積抵抗率は、温度23℃及び相対湿度55%の恒温恒湿条件下で、印加電圧1000Vとし、それ以外についてはJIS K6271の規定に準拠して測定される。この測定で用いられるゴムシートは、前述のゴムシートと同様にして作製される。
【0025】
本開示において、架橋ゴムとは、ゴム組成物を加圧及び加熱して得られるゴム組成物の成形体である。ゴム組成物は、バンバリーミキサー等の混錬機において、基材ゴム及び薬品を混合することにより得られる未架橋状態のゴムである。架橋ゴムは加硫ゴムとも称され、ゴム組成物は未加硫ゴムとも称される。
【0026】
基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)及びブチルゴム(IIR)が例示される。薬品としては、カーボンブラックやシリカのような補強剤、アロマチックオイル等のような可塑剤、酸化亜鉛等のような充填剤、ステアリン酸のような滑剤、老化防止剤、加工助剤、硫黄及び加硫促進剤が例示される。詳述しないが、基材ゴム及び薬品の選定、選定した薬品の含有量等は、ゴム組成物が適用される要素の仕様に応じて、適宜決められる。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2は、乗用車に装着される。図1においてタイヤ2は、リムR(正規リム)に組まれており、正規状態にある。このタイヤ2は空気入りタイヤである。
【0028】
図1は、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ2の断面の一部を示す。この図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。この図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。この図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表す。
【0029】
図1において、軸方向に延びる実線BBLはビードベースラインである。このビードベースラインは、リムRのリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0030】
図1において、符号PWはタイヤ2の軸方向外端である。一方の外端PWから他方の外端PWまでの軸方向距離は、このタイヤ2の最大幅、すなわち断面幅(JATMA等参照)である。この外端PWは、このタイヤ2が最大幅を示す位置(以下、最大幅位置)である。外端PWは、タイヤ2の外面の輪郭に基づいて特定される。模様や文字等の装飾が外面にある場合、この外端PWは、この装飾がないと仮定して得られる仮想外面の輪郭に基づいて特定される。
【0031】
図2は、図1のII-II線に沿った、タイヤ2の断面を示す。この図2の紙面において、右側がタイヤ2の外面側であり、左側がこのタイヤ2の内面側である。
【0032】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16、一対のチェーファー18、インナーライナー20及び一対の挿入層22を備える。
【0033】
トレッド4は、その外面すなわちトレッド面24において路面と接触する。トレッド4には、溝26が刻まれる。トレッド4は、耐摩耗性、グリップ性能等が考慮された架橋ゴムからなる。
【0034】
図1において、符号PCはトレッド面24と赤道面との交点である。この交点PCはタイヤ2の赤道である。赤道面上に溝26が位置する場合には、溝26がないと仮定して得られる仮想トレッド面の輪郭に基づいて赤道PCは特定される。両矢印Hは、ビードベースラインから赤道PCまでの径方向距離である。この径方向距離Hは、タイヤ2の断面高さ(JATMA等参照)である。
【0035】
図1において、両矢印tcはトレッド4の厚さである。この厚さtcは、赤道面に沿って計測される、トレッドの内面から赤道PCまでの距離で表される。
【0036】
このタイヤ2では、軽量化の観点から、トレッドの厚さtcは8.5mm以下が好ましく、8.0mm以下がより好ましく、7.5mm以下がさらに好ましい。トレッドとしての機能を十分に発揮できる観点から、この厚さtcは5.0mm以上が好ましく、5.5mm以上がより好ましく、6.0mm以上がさらに好ましい。
【0037】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端に連なる。サイドウォール6は、トレッド4の径方向内側に位置する。サイドウォール6は、トレッド4の端からクリンチ8に向かって延びる。サイドウォール6は、耐カット性が考慮された架橋ゴムからなる。
【0038】
それぞれのクリンチ8は、サイドウォール6の径方向内側に位置する。クリンチ8はリムRと接触する。クリンチ8は耐摩耗性が考慮された架橋ゴムからなる。クリンチ8は、10Ω・cm未満の体積抵抗率を有する。クリンチ8は、導電経路として機能する。
【0039】
それぞれのビード10は、クリンチ8の軸方向内側に位置する。前述したように、クリンチ8はサイドウォール6の径方向内側に位置する。ビード10は、サイドウォール6の径方向内側に位置する。図1において、符号PBはビード10の端を表す。
【0040】
ビード10は、コア28と、内側エイペックス30と、外側エイペックス32とを備える。コア28はリング状である。コア28はスチール製ワイヤーを含む。内側エイペックス30は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。外側エイペックス32は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、外側エイペックス32は内側エイペックス30の材質と同じ材質で構成されてもよく、内側エイペックス30の材質と異なる材質で構成されてもよい。
【0041】
内側エイペックス30はコア28の径方向外側に位置する。内側エイペックス30は径方向外向きに先細りである。内側エイペックス30の高さは5mm以上20mm以下である。この内側エイペックス30の高さは、符号PMで表される、コア28と内側エイペックス30との境界中心から、内側エイペックス30の端PUまでの距離により表される。
【0042】
外側エイペックス32は、内側エイペックス30の径方向外側に位置する。外側エイペックス32は、カーカス12とクリンチ8との間に位置する。外側エイペックス32と内側エイペックス30との間には、後述する、カーカスプライの折り返し部が位置する。このタイヤ2では、外側エイペックス32は、内側エイペックス30の端PUの付近において厚く、この厚い部分から径方向内向きに先細りであり、この厚い部分から径方向外向きに先細りである。
【0043】
このタイヤ2では、外側エイペックス32の内端は、コア28と内側エイペックス30との境界付近に位置する。外側エイペックス32の外端は、径方向において、最大幅位置PWの近くに位置する。このタイヤ2では、外側エイペックス32の外端がビード10の端PBである。
【0044】
図1において、両矢印HBで示される長さはビードベースラインからビード10の端PBまでの径方向距離を表す。この距離HBはビード高さとも称される。このタイヤ2では、操縦安定性及び乗り心地の観点から、ビード高さHBの、断面高さHに対する比(HB/H)は0.35以上が好ましく、0.39以上がより好ましい。この比(HB/H)は、0.50以下が好ましく、0.46以下がより好ましい。
【0045】
このタイヤ2では、内側エイペックス30及び外側エイペックス32はそれぞれ、10Ω・cm未満の体積抵抗率を有する。このタイヤ2のビード10は導電経路として機能する。
【0046】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6及び一対のクリンチ8の内側に位置する。カーカス12は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す。カーカス12は、ラジアル構造を有する。カーカス12は、少なくとも1枚のカーカスプライ34を含む。
【0047】
このタイヤ2のカーカス12は、1枚のカーカスプライ34からなる。カーカスプライ34は、それぞれのコア28の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される。このカーカスプライ34は、一方のコア28と他方のコア28との間を架け渡すプライ本体36と、このプライ本体36に連なりそれぞれのコア28の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部38とを有する。
【0048】
このタイヤ2では、折り返し部38の端、すなわちカーカスプライ34の端は、径方向において、最大幅位置PWよりも内側に位置する。このカーカス12は、ローターンアップ(LTU)構造を有する。図1に示されるように、このタイヤ2では、折り返し部38の端は、外側エイペックス32とプライ本体36との間に挟まれる。
【0049】
図1において、両矢印HFで示される長さはビードベースラインから折り返し部38の端までの径方向距離を表す。この距離HFは、折り返し部高さとも称される。このタイヤ2では、操縦安定性及び乗り心地の観点から、折り返し部高さHFの、断面高さHに対する比(HF/H)は0.18以上が好ましく、0.20以上がより好ましい。この比(HF/H)は、0.25以下が好ましく、0.23以下がより好ましい。
【0050】
カーカスプライ34は、並列された多数のカーカスコード40を含む。図示されないが、それぞれのカーカスコード40は赤道面と交差する。このタイヤ2では、有機繊維からなるコードがカーカスコード40として用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0051】
図2に示されるように、カーカスコード40はトッピングゴム42で覆われる。このタイヤ2では、トッピングゴム42の体積抵抗率は10Ω・cm未満である。このトッピングゴム42を含むカーカス12は、導電経路として機能する。
【0052】
ベルト14は、径方向においてトレッド4とカーカス12との間に位置する。ベルト14は、トレッド4の径方向内側において、カーカス12と積層される。このベルト14は、径方向に積層された少なくとも2つの層44で構成される。ベルト14を構成する層44のうち、最も広い幅を有する層44が第一層46であり、この第一層46の径方向外側に位置し、この第一層46に次いで広い幅を有する層44が第二層48である。
【0053】
このタイヤ2のベルト14は、2つの層44で構成される。このタイヤ2では、2つの層44のうち、内側に位置する層44が第一層46であり、外側に位置する層44が第二層48である。このベルト14は、第一層46と、この第一層46の径方向外側に位置する第二層48とを備える。第一層46の幅は第二層48の幅よりも広い。
【0054】
図示されないが、第一層46及び第二層48はそれぞれ、並列された多数のベルトコードを含む。これらベルトコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードの材質はスチールである。トッピングゴムは10Ω・cm未満の体積抵抗率を有する。このベルト14は導電経路として機能する。
【0055】
図1において、両矢印EWで示される長さはベルト14の幅を表す。このベルト14の幅は、一方のベルト14の端から他方のベルト14の端までの軸方向距離により表される。この図1において、符号PEは、このタイヤ2の路面との接地面(図示されず)の軸方向外端に対応する、トレッド4の外面上の位置(以下、接地基準位置とも称される。)を表す。この接地基準位置PEは、正規状態のタイヤ2に正規荷重をかけてキャンバー角を0°としてこのタイヤ2を平らな路面に接触させて得られる接地面に基づいて特定されるこの図1において、両矢印CWで示される長さは、一方の接地基準位置PEから他方の接地基準位置PEまでの軸方向距離を表す。このタイヤ2では、この距離CWが基準接地幅と称される。
【0056】
このタイヤ2では、ベルト14がトレッド部Tの剛性確保に貢献する観点から、ベルト14の幅EWの、基準接地幅CWに対する比(EW/CW)は、1.10以上が好ましく、1.15以上がより好ましい。ベルト14による質量及び転がり抵抗への影響を抑えるとともに、ベルト14の端における損傷を防止する観点から、この比(EW/CW)は、1.30以下が好ましく、1.25以下がより好ましい。
【0057】
バンド16は、径方向においてトレッド4の内側に位置する。バンド16は、径方向においてトレッド4とベルト14との間に位置する。このタイヤ2では、軸方向において、バンド16の端はベルト14の端よりも外側に位置する。このバンド16は、ベルト14全体を覆うフルバンドである。このバンド16が、フルバンドの端部を覆う一対のエッジバンドをさらに備えてよい。このバンド16が、フルバンドではなく、一対のエッジバンドで構成されてもよい。この場合、エッジバンドがベルト14の端部を覆う。
【0058】
図示されないが、バンド16はバンドコードを含む。バンド16において、バンドコードは周方向に螺旋状に巻かれる。バンドコードはトッピングゴムで覆われる。有機繊維からなるコードがバンドコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。トッピングゴムは10Ω・cm未満の体積抵抗率を有する。このバンド16は導電経路として機能する。
【0059】
それぞれのチェーファー18は、ビード10の径方向内側に位置する。チェーファー18はリムRと接触する。このタイヤ2では、チェーファー18は布とこの布に含浸したゴムとからなる。
【0060】
インナーライナー20は、カーカス12の内側に位置する。インナーライナー20は、タイヤ2の内面を構成する。このインナーライナー20は、気体透過係数が低い架橋ゴムからなる。インナーライナー20は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0061】
それぞれの挿入層22は、カーカス12とインナーライナー20との間に位置する。挿入層22は、ベルト14の端とビード10の端PBとの間に位置する。このタイヤ2では、挿入層22の外端50の位置は、軸方向において、ベルト14の端の位置と一致する、又は、挿入層22の外端50は、軸方向において、ベルト14の端よりも内側に位置する。挿入層22の内端52は、径方向において、ビード10の端PBよりも内側に位置する。この挿入層22は、通電性及び剛性が考慮された架橋ゴムからなる。
【0062】
このタイヤ2では、挿入層22が設けられている部分においては、挿入層22を介して、インナーライナーはカーカスに接合される。一方の挿入層22の外端50と、他方の挿入層22の外端50との間の部分、及び、挿入層22の内端52から内側部分のように、挿入層22が設けられていない部分では、インナーライナー20は直接カーカス12に接合される。
【0063】
このタイヤ2では、トレッド4を貫通し、10Ω・cm未満の体積抵抗率を有する、導電部54が、このトレッド4に設けられる。このタイヤ2では、クリンチ8、ビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16及び導電部54によって、導電経路が構成される。このタイヤ2が装着された車両は、この導電経路によって路面と電気的に接続される。
【0064】
図3は、図1に示されたタイヤ2の断面の一部を示す。この図3には、タイヤ2のサイド部Sが示される。この図3において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。この図3の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
【0065】
図3において、両矢印EAで示される長さはサイドウォール6の厚さを表す。この厚さEAは、最大幅位置PWを通り軸方向に延びる直線に沿って計測される、サイドウォール6の内面から外面までの距離により表される。この厚さEAは、最大幅位置PWにおける、サイドウォール6の厚さである。
【0066】
このタイヤ2では、最大幅位置PWにおける、サイドウォール6の厚さEAは5.0mm以下である。このタイヤ2では、サイド部Sは薄い。薄いサイド部Sは、タイヤの質量及び転がり抵抗の低減に貢献する。この観点から、この厚さEAは4.9mm以下が好ましく、4.8mm以下がより好ましい。サイド部Sの外傷防止の観点から、この厚さEAは1.0mm以上が好ましく、1.1mm以上がより好ましく、1.2mm以上がさらに好ましい。
【0067】
図示されないが、従来のタイヤでは、インナーライナーはタイガム層を介してカーカスに接合される。これに対して、このタイヤ2では、タイガム層を用いることなく、インナーライナー20がカーカス12に接合される。このタイヤ2は、タイガム層を有する従来のタイヤに比べて軽い。このタイヤ2の転がり抵抗は、従来のタイヤに比べて低い。
【0068】
タイヤ2の製造では、未加硫状態のトレッド4等の要素を組み合わせ、未加硫状態のタイヤ(以下、生タイヤとも称される。)が準備される。この生タイヤは、モールド(図示されず)内で加圧及び加熱される。
【0069】
図示されないが、タイヤ2の製造では、加圧及び加熱工程(以下、加硫工程とも称される。)において、生タイヤは、膨張したブラダーによりモールドのキャビティ面に押し付けられる。トレッド4の端の辺りから最大幅位置PWまでのゾーンにおいては、ブラダーによる押し付けが強く、インナーライナー20がカーカス12の一部をなすトッピングゴム42を侵食する恐れがある。この場合、トッピングゴム42が押しつぶされ、必要な厚さを確保できず、カーカス12が導電経路として機能できない恐れがある。
【0070】
しかし、前述したように、このタイヤ2では、カーカス12とインナーライナー20との間に設けられる挿入層22は、ベルト14の端とビード10の端PBとの間に位置する。この挿入層22の体積抵抗率は10Ω・cm未満であり、この挿入層22の複素弾性率Esはインナーライナー20の複素弾性率Enと同等である、又は、このインナーライナーの複素弾性率Enよりも高い。
【0071】
このタイヤ2の挿入層22は、インナーライナー20の複素弾性率Enと同等以上の複素弾性率Esを有するので、ブラダーの押し付けによるインナーライナー20の動きを抑制する。このタイヤ2では、インナーライナー20によるトッピングゴム42の侵食が防止される。トッピングゴム42が押しつぶされる恐れのある、前述のゾーンにおいても、トッピングゴム42の厚さが確保されるので、カーカス12が導電経路として機能できる。カーカスコード40間の距離は広がることなく適切に維持されるので、オープンスレッド等のディフェクトの発生も抑えられる。挿入層22が、トッピングゴム42と同様、通電性を有する架橋ゴムからなるので、挿入層22がトッピングゴム42を侵食しても、カーカス12は導電経路として機能できる。
【0072】
さらに挿入層22がインナーライナー20の複素弾性率Enと同等以上の複素弾性率Esを有するので、この挿入層22はタイヤ2の剛性確保にも貢献する。このタイヤ2では、薄いサイド部Sを採用しているにもかかわらず、良好な操縦安定性が得られる。
【0073】
このタイヤ2では、通電性及び操縦安定性への影響を抑えつつ、転がり抵抗の低減が達成される。
【0074】
例えば、図2に示されるように、挿入層22はカーカス12のトッピングゴム42と接触する。安定な導電経路が構成される観点から、挿入層22は、トッピングゴム42の材質と同じ材質からなるのが好ましい。
【0075】
図2において、両矢印tsで表される長さは挿入層22の厚さを表す。両矢印taで表される長さは、挿入層22とカーカス12とからなる部分の厚さを表す。図1において、II-II線は、この厚さtaが最大となる位置を通る。この厚さtaは、挿入層22とカーカス12とからなる部分の最大厚さを表す。そして挿入層22の厚さtsは、挿入層22とカーカス12とからなる部分が最大の厚さを有する位置における、挿入層22の厚さを表す。
【0076】
このタイヤ2では、挿入層22が、トッピングゴム42の厚さの確保や、タイヤ2の剛性確保に貢献できる観点から、挿入層22の厚さtsは0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましく、0.4mm以上がさらに好ましい。挿入層22による、タイヤ2の質量及び転がり抵抗への影響が効果的に抑えられる観点から、この厚さtsは、1.0mm以下が好ましく、0.9mm以下がより好ましく、0.8mm以下がさらに好ましい。
【0077】
このタイヤ2では、挿入層22とカーカス12とからなる部分が、通電性及び操縦安定性の確保に貢献できる観点から、厚さtaは0.8mm以上が好ましく、0.9mm以上がより好ましく、1.0mm以上がさらに好ましい。この挿入層22とカーカス12とからなる部分による、タイヤ2の質量及び転がり抵抗への影響が効果的に抑えられる観点から、この厚さtaは、2.0mm以下が好ましく、1.9mm以下がより好ましく、1.8mm以下がさらに好ましい。
【0078】
このタイヤ2では、挿入層22の複素弾性率Esの、インナーライナー20の複素弾性率Enに対する比(Es/En)は4.9以下が好ましい。
【0079】
比(Es/En)が4.9以下に設定されることにより、挿入層22による乗り心地への影響が抑えられる。この観点から、この比(Es/En)は3.5以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましい。
【0080】
前述したように、このタイヤ2では、挿入層22の複素弾性率Esはインナーライナー20の複素弾性率Enと同等以上であり、この挿入層22は、タイヤ2の通電性の確保と操縦安定性の向上に貢献する。この観点から、比(Es/En)は1.1以上が好ましく、1.3以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。
【0081】
このタイヤ2では、挿入層22の複素弾性率Esは4.0MPa以上が好ましい。これにより、挿入層22が、タイヤ2の通電性の確保と操縦安定性の向上に効果的に貢献できる。この観点から、この挿入層22の複素弾性率Esは4.5MPa以上がより好ましく、5.4MPa以上がさらに好ましい。良好な乗り心地が得られる観点から、この挿入層22の複素弾性率Esは7.0MPa以下が好ましく、6.7MPa以下がより好ましく、6.5MPa以下がさらに好ましい。
【0082】
図3において、符号Paで示される位置は、ベルト14の端を通り、径方向に延びる直線と挿入層22の内面との交点である。この位置Paは、ベルト14の端に対応する内面上の位置である。両矢印DSで示される長さは、この位置Paから挿入層22の外端50までの距離を表す。このタイヤ2では、この距離DSが、挿入層22とベルト14との重複長さである。
【0083】
このタイヤ2では、好ましくは、挿入層22の外端50は、軸方向において、ベルト14の端よりも内側に位置し、挿入層22とベルト14との重複長さDSは20mm以下である。これにより、挿入層22による、タイヤ2の質量及び転がり抵抗への影響が効果的に抑えられる。この観点から、この重複長さDSは10mm以下がより好ましく、7mm以下がさらに好ましい。タイヤ2の通電性の確保の観点から、この重複長さDSは、1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましく、3mm以上がさらに好ましい。
【0084】
図3において、符号Pbで示される位置は、ビード10の端PBを通り、軸方向に延びる直線と挿入層22の内面との交点である。この位置Pbは、ビード10の端PBに対応する内面上の位置である。両矢印DUで示される長さは、この位置Pbから挿入層22の内端52までの距離を表す。このタイヤ2では、この距離DUが、ビード10と挿入層22との重複長さである。
【0085】
このタイヤ2では、ビード10と挿入層22との重複長さDUは30mm以下が好ましい。これにより、挿入層22による、タイヤ2の質量及び転がり抵抗への影響が効果的に抑えられる。この観点から、この重複長さDUは20mm以下がより好ましく、15mm以下がさらに好ましい。タイヤ2の通電性及び操縦安定性の確保の観点から、この重複長さDSは、1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。
【0086】
図3において、両矢印SVは、第二層48の端から第一層46の端までの最短距離を表す。この距離SVは、第二層48から突出する第一層46の長さであり、第一ステップ量とも称される。両矢印SBは、第一層46の端からバンド16の端までの最短距離を表す。この距離SBは、第一層46から突出するバンド16の長さであり、第二ステップ量とも称される。
【0087】
このタイヤ2では、軸方向において、第一層46の端は第二層48の端よりも外側に位置し、バンド16の端は第一層46の端よりも外側に位置する。このタイヤ2では、第一層46の端、第二層48の端及びバンド16の端が、軸方向において、分散して配置される。この配置は、ベルト14及びバンド16の端部における拘束力を緩やかに変化させるので、端部への歪の集中が抑えられる。このタイヤ2では、端部における損傷の発生が防止されるとともに、耐摩耗性の向上も図られる。
【0088】
このタイヤ2では、端部における損傷の発生が防止されるとともに、転がり抵抗の低減と耐摩耗性の向上とが図られる観点から、第一ステップ量SVは5.0mm以上が好ましく、5.5mm以上がより好ましく、6.0mm以上がさらに好ましい。ベルト14による拘束力が確保され、良好な操縦安定性が得られる観点から、この第一ステップ量SVは9.0mm以下が好ましく、8.5mm以下がより好ましく、8.0mm以下がさらに好ましい。
【0089】
このタイヤ2では、端部における損傷の発生が防止されるとともに、耐摩耗性の向上が図られる観点から、第二ステップ量SBは4.0mm以上が好ましく、4.5mm以上がより好ましく、4.8mm以上がさらに好ましい。バンド16によるタイヤの質量及び転がり抵抗への影響が抑えられるとともに、バンド16の端からタイヤ2の外面までの距離が十分に確保される観点から、この第二ステップ量SBは6.0mm以下が好ましく、5.5mm以下がより好ましく、5.2mm以下がさらに好ましい。
【0090】
図4は、本発明の他の実施形態に係るタイヤ62の一部を示す。このタイヤ62は、乗用車に装着される。図4においてタイヤ62は、リムR(正規リム)に組まれており、正規状態にある。
【0091】
図4は、タイヤ62の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ62の断面の一部を示す。この図4において、左右方向はタイヤ62の軸方向であり、上下方向はタイヤ62の径方向である。この図4の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ62の周方向である。
【0092】
このタイヤ62は、トレッド64、一対のサイドウォール66、一対のクリンチ68、一対のビード70、カーカス72、ベルト74、バンド76、一対のチェーファー78、インナーライナー80及び一対の挿入層82を備える。このタイヤ62では、ビード70及びカーカス72以外は、図1に示されたタイヤ2の構成と同等の構成を有する。
【0093】
このタイヤ62においても、ビード70はサイドウォール66の径方向内側に位置する。図4おいて、符号PBはビード70の端を表す。
【0094】
ビード70は、コア84と、エイペックス86とを備える。コア84はリング状である。コア84はスチール製ワイヤーを含む。エイペックス86は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。このタイヤ62では、エイペックス86は10Ω・cm未満の体積抵抗率を有する。このビード70は導電経路として機能する。
【0095】
エイペックス86はコア84の径方向外側に位置する。エイペックス86は径方向外向きに先細りである。エイペックス86の高さは20mm以上45mm以下である。このエイペックス86の高さは、符号PMで表される、コア84とエイペックス86との境界中心から、エイペックス86の端までの距離により表される。このタイヤ62では、ビード70はコア84及びエイペックス86で構成される。このエイペックス86の端がビード70の端PBである。
【0096】
図4において、両矢印HBで示される長さはビード高さである。このタイヤ62では、操縦安定性及び乗り心地の観点から、ビード高さHBの、断面高さHに対する比(HB/H)は0.20以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。この比(HB/H)は、0.35以下が好ましく、0.30以下がより好ましい。
【0097】
カーカス72は、トレッド64、一対のサイドウォール66及び一対のクリンチ68の内側に位置する。カーカス72は、一方のビード70と他方のビード70との間を架け渡す。カーカス72は、ラジアル構造を有する。カーカス72は、少なくとも1枚のカーカスプライ88を含む。
【0098】
このタイヤ62のカーカス72は、1枚のカーカスプライ88で構成される。カーカスプライ88は、それぞれのコア84の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される。このカーカスプライ88は、一方のコア84と他方のコア84との間を架け渡すプライ本体90と、このプライ本体90に連なりそれぞれのコア84の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部92とを有する。
【0099】
図4に示されるように、このタイヤ62においても、折り返し部92の端、すなわちカーカスプライ88の端は、径方向において、最大幅位置PWよりも内側に位置する。このカーカス72は、ローターンアップ(LTU)構造を有する。このタイヤ62では、折り返し部92の端は、径方向において、ビード70の端PBよりも外側に位置する。
【0100】
図4において、両矢印HFで示される長さは折り返し部高さである。このタイヤ62では、操縦安定性及び乗り心地の観点から、折り返し部高さHFの、断面高さHに対する比(HF/H)は0.25以上が好ましく、0.30以上がより好ましい。この比(HF/H)は、0.45以下が好ましく、0.40以下がより好ましい。
【0101】
図示されないが、カーカスプライ88は、並列された多数のカーカスコードを含む。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。このタイヤ62では、有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0102】
このタイヤ62においても、カーカスコードはトッピングゴムで覆われる。このトッピングゴムの体積抵抗率は10Ω・cm未満である。このトッピングゴムを含むカーカス72は、導電経路として機能する。
【0103】
このタイヤ62においても、それぞれの挿入層82は、カーカス72とインナーライナー80との間に位置する。挿入層82は、ベルト74の端とビード70の端PBとの間に位置する。このタイヤ62では、挿入層82の外端94は、軸方向において、ベルト74の端よりも内側に位置する。挿入層82の内端96は、径方向において、ビード70の端PBよりも内側に位置する。この挿入層82も材質は、図1に示されたタイヤ2の挿入層22の材質と同じである。
【0104】
図4において、両矢印EAで示される長さは、最大幅位置PWにおける、サイドウォール66の厚さを表す。
【0105】
このタイヤ62では、最大幅位置PWにおける、サイドウォール66の厚さEAは5.0mm以下である。このタイヤ62では、サイド部Sは薄い。薄いサイド部Sは、タイヤ62の質量及び転がり抵抗の低減に貢献する。
【0106】
このタイヤ62では、カーカス72とインナーライナー80との間に設けられる挿入層82は、ベルト74の端とビード70の端PBとの間に位置する。この挿入層82の体積抵抗率は10Ω・cm未満であり、この挿入層82の複素弾性率Esはインナーライナー80の複素弾性率Enと同等以上である。
【0107】
このタイヤ62の挿入層82は、インナーライナー80の複素弾性率Enと同等以上の複素弾性率Esを有するので、この挿入層82が、ブラダーの押し付けによるインナーライナー80の動きを抑制する。このタイヤ62では、インナーライナー80によるトッピングゴムの侵食が防止される。トッピングゴムが押しつぶされる恐れのある、ゾーンにおいても、トッピングゴムの厚さが確保されるので、カーカス72が導電経路として機能できる。カーカスコード間の距離は広がることなく適切に維持されるので、オープンスレッド等のディフェクトの発生も抑えられる。挿入層82が、トッピングゴムと同様、通電性を有する架橋ゴムからなるので、挿入層82がトッピングゴムを侵食しても、カーカス72は導電経路として機能できる。
【0108】
さらに挿入層82がインナーライナー80の複素弾性率Enと同等以上の複素弾性率Esを有するので、挿入層82はタイヤ62の剛性確保にも貢献する。このタイヤ62では、薄いサイド部Sを採用しているにもかかわらず、良好な操縦安定性が得られる。
【0109】
このタイヤ62では、通電性及び操縦安定性への影響を抑えつつ、転がり抵抗の低減が達成される。
【0110】
以上説明したように、本発明によれば、通電性及び操縦安定性への影響を抑えつつ、転がり抵抗の低減が達成されたタイヤが得られる。
【実施例
【0111】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0112】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用のタイヤ(タイヤサイズ=205/55R16)を得た。
【0113】
この実施例1では、タイガム層は設けられていない。このことが、表1のタイガム層の欄に「N」で表されている。最大幅位置PWにおける、サイドウォールの厚さEAは、4.7mmであった。
この実施例1では、カーカスとインナーライナーとの間に挿入層が設けられた。挿入層は、ベルトの端とビードの端との間に配置された。この挿入層の体積抵抗率は10Ω・cmであり、10Ω・cm未満であった。ベルトと挿入層との重複長さDSは5mmであり、ビードと挿入層との重複長さDUは10mmであった。挿入層の複素弾性率Esは4.0MPaであり、挿入層の厚さtsは0.5mmであった。インナーライナーの複素弾性率Enは3.5MPaであり、挿入層の複素弾性率Esの、複素弾性率Enに対する比(Es/En)は1.1であった。第一ステップ量SVは7.0mm、第二ステップ量SBは5.0mmに設定された。
【0114】
[比較例1]
比較例1は従来タイヤである。カーカスとインナーライナーとの間に、挿入層ではなく、両ビードの間を架け渡すようにタイガム層が設けられている以外は、実施例1と同様に構成された。タイガム層の体積抵抗率は10Ω・cmであった。最大幅位置PWにおける、サイドウォールの厚さEAは、5.7mmであった。タイガム層が設けられたことが、表1のタイガム層の欄に「Y」で表されている。
【0115】
[比較例2]
タイガム層を設けることなく、最大幅位置PWにおける、サイドウォールの厚さEAを4.5mmとした他は比較例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。
【0116】
[実施例2-3]
重複長さDSを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-3のタイヤを得た。
【0117】
[実施例4-6]
挿入層の複素弾性率Esを変えて比(Es/En)を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例4-6のタイヤを得た。
【0118】
[実施例7]
図4に示された基本構成を備え、下記の表2に示された仕様を備えた乗用車用のタイヤ(タイヤサイズ=205/55R16)を得た。
【0119】
この実施例7では、タイガム層は設けられていない。最大幅位置PWにおける、サイドウォールの厚さEAは、4.7mmであった。
この実施例7では、カーカスとインナーライナーとの間に挿入層が設けられた。挿入層は、ベルトの端とビードの端との間に配置された。この挿入層の体積抵抗率は10Ω・cmであり、10Ω・cm未満であった。ベルトと挿入層との重複長さDSは5mmであり、ビードと挿入層との重複長さDUは10mmであった。挿入層の複素弾性率Esは4.0MPaであり、挿入層の厚さtsは0.5mmであった。インナーライナーの複素弾性率Enは3.5MPaであり、挿入層の複素弾性率Esの、複素弾性率Enに対する比(Es/En)は1.1であった。第一ステップ量SVは7.0mm、第二ステップ量SBは5.0mmに設定された。
【0120】
[転がり抵抗(RRC)]
転がり抵抗試験機を用い、試作タイヤが下記の条件でドラム上を速度80km/hで走行するときの転がり抵抗係数(RRC)を測定した。比較例1を基準とし、この比較例1からの変化量を得た。この結果が、下記の表1-2に示されている。数値が小さいほど、転がり抵抗の低減が図られていることを表す。
リム:16×6.5J
内圧:210kPa
縦荷重:4.8kN
【0121】
[通電性]
タイヤをリム(サイズ=16×6.5J)に組み込み、タイヤに空気を充填して内圧を210kPaとした。リムを抵抗測定器の固定軸に固定して、タイヤを抵抗測定器に装着した。抵抗測定器においてタイヤを、絶縁板(電気抵抗値=1012Ω以上)上に設置された金属板に載せた。この状態で2時間放置した後、タイヤに0.5分間5.3kNの縦荷重を負荷した。荷重を一旦解放し、同様の荷重を0.5分間タイヤに負荷した。再度荷重を解放し、さらに2分間、同様の荷重をタイヤに負荷した。試験電圧(1000V)を印可し5分経過した後に、固定軸と金属板との間の電気抵抗値を測定した。測定は、タイヤの周方向に90°間隔で4箇所行われた。この結果が、4箇所とも、電気抵抗値が10Ω以下であった場合を100とした指数で、下記の表1-2に示されている。数値が大きいほど、通電性に優れる。なお、測定は、その温度が25℃、その湿度が50%の環境下で実施された。測定には、予め表面の離型剤及び汚れが十分に除去され、十分に乾燥した状態にあるタイヤを用いた。
【0122】
[耐ディフェクト性]
試作タイヤ50本を解体して、トレッドの端の辺りから最大幅位置までのゾーンでの、オープンスレッドや、トッピングゴムへのインナーライナーの侵食等のディフェクトの発生状況を確認した。全体に占める、ディフェクトの発生がなかったタイヤの比率に基づいて、耐ディフェクト性を評価した。この結果が、指数で、下記の表1-2に示されている。数値が大きいほど、耐ディフェクト性に優れる。
【0123】
[操縦安定性]
試作タイヤをリム(サイズ=16×6.5J)に組み込み、空気を充填しタイヤの内圧を230kPaに調整した。このタイヤを、試験車両としての排気量2000ccの後輪駆動車(1名乗車)の全輪に装着して、ドライアスファルト路面のテストコースで走行させた。ドライバーに操縦安定性を評価(官能評価)させた。その結果が、指数で、下記の表1-2に示されている。数値が大きいほど、操縦安定性に優れる。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
表1-2に示されているように、実施例では、通電性及び操縦安定性への影響を抑えつつ、転がり抵抗が低減されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0127】
以上説明された、通電性及び操縦安定性への影響を抑えつつ、転がり抵抗の低減を図るための技術は種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0128】
2、62・・・タイヤ
4、64・・・トレッド
6、66・・・サイドウォール
10、70・・・ビード
12、72・・・カーカス
14、74・・・ベルト
20、80・・・インナーライナー
22、82・・・挿入層
28、84・・・コア
34、88・・・カーカスプライ
36、90・・・プライ本体
38、92・・・折り返し部
40・・・カーカスコード
42・・・トッピングゴム
46・・・第一層
48・・・第二層
50・・・挿入層22の外端
52・・・挿入層22の内端
94・・・挿入層82の外端
96・・・挿入層82の内端
図1
図2
図3
図4