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特許7512637ファサードの設計方法及びファサードの施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ファサードの設計方法及びファサードの施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/14 20060101AFI20240702BHJP
   E04B 2/88 20060101ALI20240702BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240702BHJP
【FI】
E04G21/14
E04B2/88
G06F30/10 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020055895
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021155975
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 発行者:株式会社日刊工業新聞社 刊行物名:日刊工業新聞 2019年6月19日 発行年月日:令和1年6月19日 (2) 発行者:株式会社日刊建設通信新聞社 刊行物名:建設通信新聞 2019年6月19日 発行年月日:令和1年6月19日 (3) 発行者:株式会社日刊建設工業新聞社 刊行物名:日刊建設工業新聞 2019年6月19日 発行年月日:令和1年6月19日 (4) 発行者:株式会社日刊建設産業新聞社 刊行物名:日刊建設産業新聞 2019年6月19日 発行年月日:令和1年6月19日 (5) ウェブサイトの掲載年月日:令和1年7月19日 ウェブサイトのアドレス(URL):https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/00597/ (6) 発行者:株式会社日経BP 刊行物名:日経アーキテクチュア 2019年7月25日号 発行年月日:令和1年7月25日 (7) ウェブサイトの掲載年月日:令和1年7月25日 ウェブサイトのアドレス(URL):https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/na/18/00005/071900034/
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三谷 一房
(72)【発明者】
【氏名】新岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】古城 雄一
(72)【発明者】
【氏名】間宮 剛
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-082799(JP,A)
【文献】特開2001-280950(JP,A)
【文献】特開2008-032733(JP,A)
【文献】実開昭61-049814(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0058506(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/14
E04B 2/88
E04C 2/30
G06F 30/10,30/12,30/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四角形以上の多角形で形成された面材を複数有するファサードの設計方法であって、
前記面材の第1頂点及び第2頂点を含む辺と、前記面材の前記第1頂点及び第3頂点を含む辺とを固定した後に、前記面材の第4頂点を前記面材の面外方向に移動させるようにして前記面材を変形させる際に、
前記面材の変形前の前記第1頂点と前記第4頂点とを結ぶ対角線の長さに対する、前記面材の変形後の前記第4頂点の前記面外方向への移動量をねじり比として、
前記ねじり比の複数の異なる値毎に前記面材の最大主応力を計算すること、
前記ねじり比の前記複数の異なる値と前記面材の前記最大主応力との関係のグラフを作成すること、
前記グラフにおいて、前記最大主応力が所定の値以下となる前記ねじり比の所定許容範囲を求めること、
前記所定許容範囲内の前記ねじり比の値に基づいて、前記面材の寸法及び前記面材の前記第4頂点の前記面外方向への移動量を決定すること
を特徴とするファサードの設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載のファサードの設計方法であって、
有限要素法を用いて前記面材の前記最大主応力を計算する
ことを特徴とするファサードの設計方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のファサードの設計方法であって、
前記最大主応力の前記所定の値は、前記面材の長期許容応力の値である
ことを特徴とするファサードの設計方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のファサードの設計方法であって、
前記面材は、倍強度ガラスで形成される
ことを特徴とするファサードの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファサードの設計方法及びファサードの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元曲面のファサードを実現する技術として、コールドベントが知られている。コールドベントは、ガラスからなる面材を施工現場において常温で強制的に変形させて躯体に取り付ける施工技術である。コールドベントを適用することにより、ダイナミックな三次元曲面を有するファサードを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-228434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コールドベントを適用するファサードは、複数のユニットカーテンウォールから構成されることがある。このとき、ファサードを構成する個々のユニットカーテンウォールの強制変形の妥当性を確認するためには、ユニットカーテンウォール毎にガラスに生じる応力を都度求める必要があった。このため、ファサード計画の初期段階においてユニットカーテンウォールのガラスの形状および寸法の試行錯誤をスピーディに行えなかった。
【0005】
本発明の幾つかの実施形態は、コールドベントを適用するファサード計画の初期段階において、カーテンウォールの強制変形の妥当性の確認を容易に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の幾つかの実施形態は、四角形以上の多角形で形成された面材を複数有するファサードの設計方法であって、前記面材の第1頂点及び第2頂点を含む辺と、前記面材の前記第1頂点及び第3頂点を含む辺とを固定した後に、前記面材の第4頂点を前記面材の面外方向に移動させるようにして前記面材を変形させる際に、前記面材の変形前の前記第1頂点と前記第4頂点とを結ぶ対角線の長さに対する、前記面材の変形後の前記第4頂点の前記面外方向への移動量をねじり比として、前記ねじり比の複数の異なる値毎に前記面材の最大主応力を計算すること、前記ねじり比の前記複数の異なる値と前記面材の前記最大主応力との関係のグラフを作成すること、前記グラフにおいて、前記最大主応力が所定の値以下となる前記ねじり比の所定許容範囲を求めること、前記所定許容範囲内の前記ねじり比の値に基づいて、前記面材の寸法及び前記面材の前記第4頂点の前記面外方向への移動量を決定することを特徴とするファサードの設計方法である。
【0008】
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の幾つかの実施形態によれば、コールドベントを適用するファサード計画の初期段階において、カーテンウォールの強制変形の妥当性の確認を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態のコールドベントを適用したファサードを有する建築物の一例を示す図である。
図2図2Aは、平面のファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の説明図である。図2Bは、コールドベントを適用した三次元曲面のファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の説明図である。
図3図3は、ユニットカーテンウォール1を構成する面材2の頂点及び対角長を説明する図である。
図4図4A及び図4Bは、面材2の別の例における頂点及び対角長を説明する図である。
図5図5は、面材2の断面図である。
図6図6は、本実施形態のファサードの設計方法を示すフロー図である。
図7図7は、ねじり比の複数の値に対する面材2の最大主応力の関係のグラフを示す図である。
図8図8Aは、躯体5に引き込む前のユニットカーテンウォール1を示す図である。図8Bは、躯体5に引き込んだ後のユニットカーテンウォール1を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0012】
四角形以上の多角形で形成された面材を複数有するファサードの設計方法であって、前記面材の第1頂点及び第2頂点を含む辺と、前記面材の前記第1頂点及び第3頂点を含む辺とを固定した後に、前記面材の第4頂点を前記面材の面外方向に移動させるようにして前記面材を変形させる際に、前記面材の変形前の前記第1頂点と前記第4頂点とを結ぶ対角線の長さに対する、前記面材の変形後の前記第4頂点の前記面外方向への移動量をねじり比として、前記ねじり比の複数の異なる値毎に前記面材の最大主応力を計算すること、前記ねじり比の前記複数の異なる値と前記面材の前記最大主応力との関係のグラフを作成すること、前記グラフにおいて、前記最大主応力が所定の値以下となる前記ねじり比の所定許容範囲を求めること、前記所定許容範囲内の前記ねじり比の値に基づいて、前記面材の寸法及び前記面材の前記第4頂点の前記面外方向への移動量を決定することを特徴とするファサードの設計方法が明らかとなる。このようなファサードの設計方法によれば、コールドベントを適用するファサード計画の初期段階において、カーテンウォールの強制変形の妥当性の確認を容易に行うことができる。
【0013】
有限要素法を用いて前記面材の前記最大主応力を計算することが望ましい。これにより、面材の最大主応力を容易に計算することができる。
【0014】
前記最大主応力の前記所定の値は、前記面材の長期許容応力の値であることが望ましい。これにより、カーテンウォールの強制変形の妥当性の確認を容易に行うことができる。
【0015】
前記面材は、倍強度ガラスで形成されることが望ましい。このような場合に、特に有利である。
【0016】
四角形以上の多角形で形成された面材を準備すること、前記面材の第1頂点及び第2頂点を含む辺と、前記面材の前記第1頂点及び第3頂点を含む辺とを固定した後に、前記面材の第4頂点を前記面材の面外方向に移動させるようにして前記面材を変形させることを特徴とするファサードの施工方法が明らかとなる。このようなファサードの施工方法によれば、コールドベントを適用するファサードを容易に実現することができる。
【0017】
前記面材の変形前の前記第1頂点と前記第4頂点とを結ぶ対角線の長さに対する、前記面材の変形後の前記第4頂点の前記面外方向への移動量をねじり比として、前記ねじり比の複数の異なる値毎に前記面材の最大主応力を計算すること、前記ねじり比の前記複数の異なる値と前記面材の前記最大主応力との関係のグラフを作成すること、前記グラフにおいて、前記最大主応力が所定の値以下となる前記ねじり比の所定許容範囲を求めること、前記所定許容範囲内の前記ねじり比の値に基づいて、前記面材の寸法及び前記面材の前記第4頂点の前記面外方向への移動量を決定すること、前記移動量だけ前記面材の前記第4頂点を移動させることが望ましい。これにより、コールドベントを適用するファサード計画の初期段階において、カーテンウォールの強制変形の妥当性の確認を容易に行うことができる。
【0018】
前記ファサードは、前記面材を備えるカーテンウォールと、前記カーテンウォールが取り付けられる躯体とを有し、前記カーテンウォールは、前記第4頂点に取り付けられる第1の金物を備え、前記躯体は、第2の金物を備え、前記第1の金物を前記第2の金物にかみ合わせることで、前記面材の前記第4頂点を前記移動量だけ移動させることが望ましい。これにより、コールドベントを適用するファサードを容易に実現することができる。
【0019】
===本実施形態===
<ファサードの設計方法>
図1は、本実施形態のコールドベントを適用したファサードを有する建築物の一例を示す図である。
【0020】
コールドベントは、面材を施工現場において常温で変形させて躯体に取り付ける施工技術である。例えばガラスからなる面材を施工現場において常温で強制的にねじりながら躯体に取り付けることにより、ダイナミックな三次元曲面を有するファサードを実現することができる。
【0021】
なお、コールドベントを適用せずに三次元曲面を有するファサードを実現する方法として、平面で形成された面材を組み合わせて多面体を構成し、ファサードを曲面に見せるようにする方法(以下、「第1の工法」と呼ぶことがある)がある。しかし、この第1の工法の場合、部材数が増えることによる工期やコストが増大してしまう。また、コールドベントを適用せずに三次元曲面を有するファサードを実現する別の方法として、曲面の面材を工場で生産し、施工現場において躯体に取り付ける方法(以下、「第2の工法」と呼ぶことがある)がある。しかし、この第2の工法の場合も、曲面の面材を加工する手間がかかることによる工期やコストが増大してしまう。本実施形態のコールドベントを適用する方法では、こうした部材数や加工の手間を削減することができ、工期やコストを抑制することができる。コールドベントでは、第1の工法や第2の工法と比較して、制作・施工期間を最大約20パーセント、コストを最大約25パーセント抑制することができる。
【0022】
図1に示すように、本実施形態のファサードは、複数のユニットカーテンウォール1で構成される。
【0023】
ユニットカーテンウォール1は、建築構造上取り外し可能な壁部材である。建物の自重及び建物にかかる荷重は、ユニットカーテンウォール1以外の部材である柱、梁、床、屋根等で支え、ユニットカーテンウォール1は建物の自重又は荷重を直接負担しない。本実施形態のユニットカーテンウォール1は、あらかじめ周囲をフレームによって枠組みしたユニットを形成しておき、このユニットを施工現場で躯体に組み付けるユニット型のカーテンウォールである。以下では、ユニットカーテンウォールのことを単に「カーテンウォール」と呼ぶことがある。コールドベントを適用したファサードでは、複数のユニットカーテンウォール1をそれぞれねじりながら(強制変形させながら)躯体に取り付けることにより、図1に示すような三次元曲面のファサードが形成される。
【0024】
図2Aは、平面のファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の説明図である。図2Bは、コールドベントを適用した三次元曲面のファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の説明図である。なお、図2A及び図2Bの下側には、複数のユニットカーテンウォール1のうち、任意のユニットカーテンウォール1を取り出してそれぞれ図示している。
【0025】
ユニットカーテンウォール1は、面材2と、フレーム3とを有する。
【0026】
面材2は、ユニットカーテンウォール1の本体部分を構成する部材である。本実施形態の面材2は、ガラスで形成されている。但し、面材2は、ガラス以外の材料で形成されていても良い。また、本実施形態の面材2は、四角形で形成されている。但し、面材2は、四角形以上の多角形で形成されても良い。
【0027】
フレーム3は、面材2を枠組みする部材である。本実施形態のフレーム3は、アルミニウムで形成されている。但し、フレーム3は、アルミニウム以外の材料で形成されていても良い。フレーム3は、面材2の周囲に設けられている。フレーム3は、面材2の4辺全てを支持している(4辺支持)。但し、フレーム3は、面材2の4辺全てを支持していなくても良い(3辺支持~1辺支持であっても良い)。なお、フレーム3は変形可能である。フレーム3を変形させることにより、枠組みされた面材2をユニットカーテンウォール1ごと変形させることができる。
【0028】
図2Aに示すように、平面のファサードでは、ファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の形状や寸法を全て同一にすることができる。つまり、図2Aに示すように、ファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1は、全て同じ四角形であり、ファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の辺や対角線の長さは同一である。
【0029】
図2Bに示すように、三次元曲面のファサードでは、ファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の強制変形の程度を少しずつ異ならせながら、ユニットカーテンウォール1が躯体に取り付けられる。このため、三次元曲面のファサードでは、ファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の形状や寸法は全て同一ではなく、少しずつ異なっている。そこで、本実施形態では、以下のように、面材2の「ねじり比」を定義することで、ユニットカーテンウォール1の強制変形の程度を標準化することができる。
【0030】
図3は、ユニットカーテンウォール1を構成する面材2の頂点及び対角長を説明する図である。面材2の「ねじり比」を定義する前に、まず、面材2の頂点及び対角長について説明する。
【0031】
以下では、図3に示す方向に従って説明を行うことがある。すなわち、面材2の面に平行な方向を「面内方向」とし、面材2の面に垂直な方向を「面外方向」とする。面外方向において、面材2が躯体に取り付けられたときの屋内の側を「屋内側」とし、面材2が躯体に取り付けられたときの屋外の側を「屋外側」とする。
【0032】
図3に示すように、四角形で形成された面材2の4つの頂点をそれぞれ、第1頂点V1、第2頂点V2、第3頂点V3、第4頂点V4とする。また、図3に示すように、面材2の第1頂点V1及び第2頂点V2を含む辺を辺S12、面材2の第1頂点V1及び第3頂点V3を含む辺を辺S13、面材2の第2頂点V2及び第4頂点V4を含む辺を辺S24、面材2の第3頂点V3及び第4頂点V4を含む辺を辺S34とする。さらに、図3に示すように、面材2の第1頂点V1と第4頂点V4をと結ぶ線(対角線)をD14とする。以下では、対角線D14の長さを「対角長」と呼ぶことがある。
【0033】
図3に示すように、四角形で形成された面材2では、第2頂点V2と、第1頂点V1と、第3頂点V3とがこの順に隣り合っている。そして、第4頂点V4が、第2頂点V2と第3頂点V3の間の頂点である。言い換えれば、第4頂点V4が、第1頂点の対角に位置している。
【0034】
前述したように、本実施形態では、ファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の強制変形の程度が少しずつ異なっているため、形状や寸法(例えば、辺S12の長さなど)はユニットカーテンウォール1毎に少しずつ異なっている。また、複数のユニットカーテンウォール1の強制変形の程度が少しずつ異なっているため、第4頂点V4の面外方向への移動量Mもユニットカーテンウォール1毎に少しずつ異なっている。本実施形態では、ねじり比は、下記の数式1に示すように計算される。
[数1]
ねじり比(%)=移動量M(mm)/対角長D14(mm)×100
【0035】
本実施形態では、ユニットカーテンウォール1のねじり比を比較することにより、ファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の強制変形の程度を比較することができる。
【0036】
図4A及び図4Bは、面材2の別の例における頂点及び対角長を説明する図である。図4Aは、五角形で形成された面材2の例を示している。また、図4Bは、六角形で形成された面材2の例を示している。図4A及び図4Bに示すように、五角形及び六角形で形成された面材2でも、図3に示す四角形で形成された面材2と同様、第2頂点V2と、第1頂点V1と、第3頂点V3とがこの順に隣り合っている。そして、五角形及び六角形で形成された面材2では、第4頂点V4は、第2頂点V2と第3頂点V3との間の頂点のうちの任意の頂点である。図4A及び図4Bに示すように、第1頂点V1と第4頂点V4とを結ぶ線(実線で示される対角線)をD14とする。なお、図4A及び図4Bに示すように、第1頂点V1と他の第4頂点V4とを結ぶ線(破線で示される対角線)をD14としても良い。
【0037】
本実施形態では、面材2は、四角形以上の多角形で形成されている。第2頂点V2と、第1頂点V1と、第3頂点V3とがこの順に隣り合っている。そして、第4頂点V4は、第2頂点V2と第3頂点V3との間の1以上の頂点のうちの任意の頂点である。第1頂点V1と第4頂点V4とを結ぶ線が対角線D14である。
【0038】
図5は、面材2の断面図である。
【0039】
面材2は、倍強度ガラスである。倍強度ガラスとは、同じ厚さのフロート板ガラスに比べて耐風圧強度、熱割れ強度が約2倍程度優れたガラスである。但し、面材2は、倍強度ガラス以外であっても良い。
【0040】
面材2は、ガラス2Aと、中間膜2Bとを有する。ガラス2Aは、面材2の主な材料である。図5に示すように、面材2は、2つのガラス2Aで構成されている。1つのガラス2Aの厚さは、6.0mmである。中間膜2Bは、2つのガラス2Aの間に形成されている材料である。中間膜2Bは、ガラス以外の材料で形成されている。中間膜2Bの厚さは、2.26mmである。但し、面材2は、図5に示す構成以外で構成されていても良い。例えば、面材2は、中間膜2Bが形成されておらず、ガラス2Aのみで形成されていても良い。また、ガラス2Aや中間膜2Bの厚さは、図5に示されているもの以外でも良い。
【0041】
前述したように、ファサードを構成する複数のユニットカーテンウォール1の面材2は、それぞれ形状・寸法や第4頂点V4の面外方向への移動量Mが異なるため、ねじり比もユニットカーテンウォール1に異なる。このような面材2のねじり比が異なる複数のユニットカーテンウォール1の強制変形の妥当性を確認するために、ユニットカーテンウォール1毎に面材2に生じる応力を都度求めることもできる。しかし、本実施形態では、下記のように、任意の面材2の強制変形時の最大主応力に基づいてねじり比の所定許容範囲を求めることで、ユニットカーテンウォール1の強制変形の妥当性の確認を容易に行うことができる。ユニットカーテンウォール1の強制変形の妥当性の確認は、特にファサード計画の初期段階において行うことで、ユニットカーテンウォール1の形状および寸法の試行錯誤をスピーディに行うことができる。
【0042】
図6は、本実施形態のファサードの設計方法を示すフロー図である。
【0043】
本実施形態のファサードの設計方法では、まず、ねじり比の複数の異なる値毎に面材2の最大主応力を計算する(S001)。例えば、任意のユニットカーテンウォール1について、面材2の第4頂点V4の面外方向への移動量Mを少しずつ異ならせ、それぞれの最大主応力を計算する。これにより、ねじり比の複数の異なる値毎に面材2の最大主応力を計算することができる。
【0044】
なお、面材2の最大主応力とは、強制変形によって面材2に発生する最大の引張応力である。面材2の最大主応力は、有限要素法による解析(FEM解析)、つまり、有限要素法(Finite Element Method)による構造解析によって求められる。有限要素法とは、複雑な形状をした部材や構造物を単純な形状の要素の集合体としてモデル化し、風、地震、温度などによる力に対して、要素ごとの応力や変形などを求めたり、それらから構造物全体の変形などを求めたりする高度な解析方法である。有限要素法を用いることで、面材の最大主応力を容易に計算することができる。
【0045】
次に、ねじり比の複数の異なる値と面材2の最大主応力との関係のグラフを作成する(S002)。
【0046】
図7は、ねじり比の複数の値に対する面材2の最大主応力の関係のグラフを示す図である。
【0047】
図7に示すように、ねじり比の複数の異なる値と、面材2の最大主応力とは1本のグラフで表すことができる。図7に示すグラフが、ねじり比の複数の異なる値と面材2の最大主応力との関係のグラフである。
【0048】
次に、最大主応力が所定の値以下となるねじり比の所定許容範囲を求める(S003)。
【0049】
本実施形態では、最大主応力の所定の値は、面材2の長期許容応力の値として設定する。これにより、カーテンウォールの強制変形の妥当性の確認を容易に行うことができる。長期許容応力は、面材2に長時間力が加わる場合の荷重(長期荷重)に対する許容応力である。長期許容応力は、面材2(ガラス)の品種によって異なる。ここで、本実施形態の面材2は前述したように倍強度ガラスである。本実施形態では、面材2の長期許容応力の値として、倍強度ガラスのエッジの長期許容応力である24.5N/mmを設定する。したがって、図7に示すグラフにおいて、24.5N/mm以下となるねじり比の範囲を所定許容範囲とする。
【0050】
そして、所定許容範囲内のねじり比の値に基づいて、面材2の寸法及び面材2の第4頂点V4の面外方向への移動量を決定する(S004)。
【0051】
設計者は、基本設計の段階で、コールドベントの手法を用いて設計可能なユニットカーテンウォール1の寸法や曲面の程度のおおよその値(おおよその適用範囲)を知っておきたいと考えている。そこで、設計者は自分が設計したいと思っている三次元曲面の可否の目安として、図7に示すグラフを早見表のごとく利用することができる。すなわち、設計者は、基本設計段階におけるユニットカーテンウォール1の寸法と強制変位量(第4頂点V4の面外方向への移動量M)より求まるねじり比から、図7に示すグラフを使って、面材2の最大主応力の値を見つけ、この値が、面材2の長期許容応力を下回っていることを容易に確認することができ、基本設計段階における外装スタディ作業がやりやすくなる利点がある。
【0052】
<ファサードの施工方法>
図8Aは、躯体5に引き込む前のユニットカーテンウォール1を示す図である。図8Bは、躯体5に引き込んだ後のユニットカーテンウォール1を示す図である。
【0053】
図8A及び図8Bでは、ユニットカーテンウォール1を躯体5に取り付ける様子を示している。本実施形態では、ユニットカーテンウォール1側には、カーテンウォール側金物4(以下、「第1の金物」と呼ぶことがある)が設けられている。また、躯体5側には、躯体側金物6(以下、「第2の金物」と呼ぶことがある)が設けられている。そして、カーテンウォール側金物4を躯体側金物6にかみ合わせることで、面材2の第4頂点V4を移動させてユニットカーテンウォール1を変形させる。これにより、コールドベントを適用するファサードを容易に実現することができる。なお、面材2の第4頂点V4の移動量Mは、前述のファサードの設計方法により決定した値である。
【符号の説明】
【0054】
1 ユニットカーテンウォール、2 面材、
2A ガラス、2B 中間膜、3 フレーム、
4 カーテンウォール側金物(第1の金物)、5 躯体、
6 躯体側金物(第2の金物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8