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特許7512643眼科画像処理装置および眼科画像処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】眼科画像処理装置および眼科画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020059677
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021154047
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】柴 涼介
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-106652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0150954(US,A1)
【文献】特開2010-110393(JP,A)
【文献】特開2018-139717(JP,A)
【文献】特開平02-156387(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105939652(CN,A)
【文献】国際公開第2011/108231(WO,A1)
【文献】米国特許第8857988(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00- 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の組織の画像である眼科画像のデータを処理する眼科画像処理装置であって、
前記眼科画像は、
前記被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、前記組織からの光を時間的に連続して受光することで取得され、第1方向と、前記第1方向に交差する第2方向とに広がるスキャン画像であり、
前記眼科画像処理装置の制御部は、
同一の前記被検眼の組織における同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像を取得する画像取得ステップと、
前記第1眼科画像および前記第2眼科画像の各々について、前記第2方向の各位置の前記第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報であり、前記第2方向の各位置における、前記第1方向に関する位置ずれに不変な特徴を表現する中間情報を取得する中間情報取得ステップと、
前記第1眼科画像について取得された前記中間情報と、前記第2眼科画像について取得された前記中間情報を参照し、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の各々の画像内における前記第2方向の相対的な位置関係を保った状態で、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の前記第2方向に関する位置合わせを実行する第1位置合わせステップと、
前記第1位置合わせステップにおいて前記第2方向に関する位置合わせが実行された前記第1眼科画像と前記第2眼科画像について、前記第2方向における位置が共通する画素同士の前記第1方向に関する位置合わせを実行する第2位置合わせステップと、
を実行することを特徴とする眼科画像処理装置。
【請求項2】
被検眼の組織の画像である眼科画像のデータを処理する眼科画像処理装置であって、
前記眼科画像は、
前記被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、前記組織からの光を時間的に連続して受光することで取得され、第1方向と、前記第1方向に交差する第2方向とに広がるスキャン画像であり、
前記眼科画像処理装置の制御部は、
同一の前記被検眼の組織における同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像を取得する画像取得ステップと、
前記第1眼科画像および前記第2眼科画像の各々について、前記第2方向の各位置の前記第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報であり、前記第2方向の各位置における、前記第1方向に関する位置ずれに不変な特徴を表現する中間情報を取得する中間情報取得ステップと、
前記第1眼科画像について取得された前記中間情報と、前記第2眼科画像について取得された前記中間情報を参照し、前記第2方向の各位置毎に、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の前記第2方向に関する位置合わせを実行する第1位置合わせステップと、
前記第1位置合わせステップにおいて前記第2方向に関する位置合わせが実行された前記第1眼科画像と前記第2眼科画像について、前記第2方向における位置が共通する画素同士の前記第1方向に関する位置合わせを実行する第2位置合わせステップと、
を実行することを特徴とする眼科画像処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の眼科画像処理装置であって、
前記中間情報は、前記眼科画像に対して前記第1方向にフーリエ変換を行うことで得られるパワースペクトル画像の情報であることを特徴とする眼科画像処理装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれかに記載の眼科画像処理装置であって、
前記眼科画像を撮影する眼科画像撮影装置は、スポット状の測定光を組織上でスキャンすることで、組織の断層画像を撮影するOCT装置であって、
前記第1方向は、前記測定光の光軸に沿う前記組織の深さ方向であるAスキャン方向であり、
前記第2方向は、前記測定光が前記組織上でスキャンされるBスキャン方向であることを特徴とする眼科画像処理装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載の眼科画像処理装置であって、
前記眼科画像を撮影する眼科画像撮影装置は、主走査方向に沿うスキャンライン上でスポット状の光をスキャンすると共に、主走査方向に交差する副走査方向に前記スキャンラインを移動させることで、組織の画像を撮影する装置であって、
前記第1方向は前記主走査方向であり、
前記第2方向は前記副走査方向であることを特徴とする眼科画像処理装置。
【請求項6】
被検眼の組織の画像である眼科画像のデータを処理する眼科画像処理装置によって実行される眼科画像処理プログラムであって、
前記眼科画像は、
前記被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、前記組織からの光を時間的に連続して受光することで取得され、第1方向と、前記第1方向に交差する第2方向とに広がるスキャン画像であり、
前記眼科画像処理プログラムが前記眼科画像処理装置の制御部によって実行されることで、
同一の前記被検眼の組織における同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像を取得する画像取得ステップと、
前記第1眼科画像および前記第2眼科画像の各々について、前記第2方向の各位置の前記第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報であり、前記第2方向の各位置における、前記第1方向に関する位置ずれに不変な特徴を表現する中間情報を取得する中間情報取得ステップと、
前記第1眼科画像について取得された前記中間情報と、前記第2眼科画像について取得された前記中間情報を参照し、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の各々の画像内における前記第2方向の相対的な位置関係を保った状態で、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の前記第2方向に関する位置合わせを実行する第1位置合わせステップと、
前記第1位置合わせステップにおいて前記第2方向に関する位置合わせが実行された前記第1眼科画像と前記第2眼科画像について、前記第2方向における位置が共通する画素同士の前記第1方向に関する位置合わせを実行する第2位置合わせステップと、
を前記眼科画像処理装置に実行させることを特徴とする眼科画像処理プログラム。
【請求項7】
被検眼の組織の画像である眼科画像のデータを処理する眼科画像処理装置によって実行される眼科画像処理プログラムであって、
前記眼科画像は、
前記被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、前記組織からの光を時間的に連続して受光することで取得され、第1方向と、前記第1方向に交差する第2方向とに広がるスキャン画像であり、
前記眼科画像処理プログラムが前記眼科画像処理装置の制御部によって実行されることで、
同一の前記被検眼の組織における同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像を取得する画像取得ステップと、
前記第1眼科画像および前記第2眼科画像の各々について、前記第2方向の各位置の前記第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報であり、前記第2方向の各位置における、前記第1方向に関する位置ずれに不変な特徴を表現する中間情報を取得する中間情報取得ステップと、
前記第1眼科画像について取得された前記中間情報と、前記第2眼科画像について取得された前記中間情報を参照し、前記第2方向の各位置毎に、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の前記第2方向に関する位置合わせを実行する第1位置合わせステップと、
前記第1位置合わせステップにおいて前記第2方向に関する位置合わせが実行された前記第1眼科画像と前記第2眼科画像について、前記第2方向における位置が共通する画素同士の前記第1方向に関する位置合わせを実行する第2位置合わせステップと、
を前記眼科画像処理装置に実行させることを特徴とする眼科画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光をスキャンすることで取得される眼科画像のデータを処理する眼科画像処理装置、および、眼科画像処理装置において実行される眼科画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、組織からの光を連続して受光することで眼科画像を取得する技術が知られている。同一の被検眼の組織における同一部位を複数回撮影して複数の眼科画像を取得することで、例えば、複数の眼科画像を加算平均してノイズの影響の抑制を図る場合、または、組織における動きを示すモーションコントラスト画像を生成する場合等がある。また、取得時期が異なり、且つ同一部位を撮影した複数の眼科画像に基づいて、組織の経時変化を確認する場合等もある。これらの場合、複数の眼科画像の間の位置合わせが適切に実行されたうえで、その後の処理が実行されることが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、予め測定光の横断方向(XY方向)に関する位置合わせを行うことで、XY方向に関する画像データ間でのずれを補正した後、深さ方向における位置合わせを行うとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-38611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第1方向と、第1方向に交差する第2方向に広がる複数の眼科画像の位置合わせを行う場合には、第1方向に関する位置合わせと、第2方向に関する位置合わせを共に実行することが望ましい。しかし、複数の眼科画像の間に、第1方向に関する位置ずれと第2方向に関する位置ずれがともに生じている場合には、一方の方向に関する位置ずれが生じたまま他方の方向に関する位置合わせを精度良く実行することは、従来の技術では困難であった。例えば、同一部位を複数回撮影する場合であっても、眼科画像には被検眼の姿勢によって歪みが生じる場合が多い。特に、歪みがある状態の複数の眼科画像の位置合わせを行う場合等には、従来の技術では位置合わせの精度を向上させ難かった。
【0006】
本開示の典型的な目的は、同一の被検眼の組織における同一部位を撮影した複数の眼科画像の位置合わせを適切に実行することが可能な眼科画像処理装置および眼科画像処理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼科画像処理装置の第1態様は、被検眼の組織の画像である眼科画像のデータを処理する眼科画像処理装置であって、前記眼科画像は、前記被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、前記組織からの光を時間的に連続して受光することで取得され、第1方向と、前記第1方向に交差する第2方向とに広がるスキャン画像であり、前記眼科画像処理装置の制御部は、同一の前記被検眼の組織における同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像を取得する画像取得ステップと、前記第1眼科画像および前記第2眼科画像の各々について、前記第2方向の各位置の前記第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報であり、前記第2方向の各位置における、前記第1方向に関する位置ずれに不変な特徴を表現する中間情報を取得する中間情報取得ステップと、前記第1眼科画像について取得された前記中間情報と、前記第2眼科画像について取得された前記中間情報を参照し、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の各々の画像内における前記第2方向の相対的な位置関係を保った状態で、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の前記第2方向に関する位置合わせを実行する第1位置合わせステップと、前記第1位置合わせステップにおいて前記第2方向に関する位置合わせが実行された前記第1眼科画像と前記第2眼科画像について、前記第2方向における位置が共通する画素同士の前記第1方向に関する位置合わせを実行する第2位置合わせステップと、を実行する。
本開示における典型的な実施形態が提供する眼科画像処理装置の第2態様は、被検眼の組織の画像である眼科画像のデータを処理する眼科画像処理装置であって、前記眼科画像は、前記被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、前記組織からの光を時間的に連続して受光することで取得され、第1方向と、前記第1方向に交差する第2方向とに広がるスキャン画像であり、前記眼科画像処理装置の制御部は、同一の前記被検眼の組織における同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像を取得する画像取得ステップと、前記第1眼科画像および前記第2眼科画像の各々について、前記第2方向の各位置の前記第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報であり、前記第2方向の各位置における、前記第1方向に関する位置ずれに不変な特徴を表現する中間情報を取得する中間情報取得ステップと、前記第1眼科画像について取得された前記中間情報と、前記第2眼科画像について取得された前記中間情報を参照し、前記第2方向の各位置毎に、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の前記第2方向に関する位置合わせを実行する第1位置合わせステップと、前記第1位置合わせステップにおいて前記第2方向に関する位置合わせが実行された前記第1眼科画像と前記第2眼科画像について、前記第2方向における位置が共通する画素同士の前記第1方向に関する位置合わせを実行する第2位置合わせステップと、を実行する。
【0008】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼科画像処理プログラムの第1態様は、被検眼の組織の画像である眼科画像のデータを処理する眼科画像処理装置によって実行される眼科画像処理プログラムであって、前記眼科画像は、前記被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、前記組織からの光を時間的に連続して受光することで取得され、第1方向と、前記第1方向に交差する第2方向とに広がるスキャン画像であり、前記眼科画像処理プログラムが前記眼科画像処理装置の制御部によって実行されることで、同一の前記被検眼の組織における同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像を取得する画像取得ステップと、前記第1眼科画像および前記第2眼科画像の各々について、前記第2方向の各位置の前記第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報であり、前記第2方向の各位置における、前記第1方向に関する位置ずれに不変な特徴を表現する中間情報を取得する中間情報取得ステップと、前記第1眼科画像について取得された前記中間情報と、前記第2眼科画像について取得された前記中間情報を参照し、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の各々の画像内における前記第2方向の相対的な位置関係を保った状態で、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の前記第2方向に関する位置合わせを実行する第1位置合わせステップと、前記第1位置合わせステップにおいて前記第2方向に関する位置合わせが実行された前記第1眼科画像と前記第2眼科画像について、前記第2方向における位置が共通する画素同士の前記第1方向に関する位置合わせを実行する第2位置合わせステップと、を前記眼科画像処理装置に実行させる。
本開示における典型的な実施形態が提供する眼科画像処理プログラムの第2態様は、被検眼の組織の画像である眼科画像のデータを処理する眼科画像処理装置によって実行される眼科画像処理プログラムであって、前記眼科画像は、前記被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、前記組織からの光を時間的に連続して受光することで取得され、第1方向と、前記第1方向に交差する第2方向とに広がるスキャン画像であり、前記眼科画像処理プログラムが前記眼科画像処理装置の制御部によって実行されることで、同一の前記被検眼の組織における同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像を取得する画像取得ステップと、前記第1眼科画像および前記第2眼科画像の各々について、前記第2方向の各位置の前記第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報であり、前記第2方向の各位置における、前記第1方向に関する位置ずれに不変な特徴を表現する中間情報を取得する中間情報取得ステップと、前記第1眼科画像について取得された前記中間情報と、前記第2眼科画像について取得された前記中間情報を参照し、前記第2方向の各位置毎に、前記第1眼科画像と前記第2眼科画像の前記第2方向に関する位置合わせを実行する第1位置合わせステップと、前記第1位置合わせステップにおいて前記第2方向に関する位置合わせが実行された前記第1眼科画像と前記第2眼科画像について、前記第2方向における位置が共通する画素同士の前記第1方向に関する位置合わせを実行する第2位置合わせステップと、を前記眼科画像処理装置に実行させる。
【0009】
本開示に係る眼科画像処理装置および眼科画像処理プログラムによると、同一の被検眼の組織における同一部位を撮影した複数の眼科画像の位置合わせが適切に実行される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】眼科画像処理システム100の概略構成を示すブロック図である。
図2】眼科画像撮影装置1が被検眼の組織50の眼科画像を撮影する方法を説明するための説明図である。
図3】眼科画像撮影装置1によって撮影された眼科画像61の一例を示す図である。
図4】眼科画像処理装置40が実行する眼科画像処理の一例を示すフローチャートである。
図5】位置合わせが行われる前の第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの一例を示す図である。
図6】第1眼科画像61Aについて取得された第1中間情報71Aと、第2眼科画像61Bについて取得された第2中間情報71Bを示す図である。
図7】第2方向に関する位置合わせが行われた第1眼科画像61Aと第2眼科画像61BXの一例を示す図である。
図8】第1方向に関する位置合わせ処理の一例を説明するための説明図である。
図9】変容例の眼科画像撮影装置が被検眼の組織50の眼科画像を撮影する方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<概要>
本開示で例示する眼科画像処理装置は、被検眼の組織の画像である眼科画像のデータを処理する。眼科画像は、被検眼の組織上で光をスキャンしつつ、組織からの光(例えば反射光等)を時間的に連続して受光することで取得(撮影)され、第1方向と、第2方向に交差する第2方向とに広がるスキャン画像である。眼科画像処理装置の制御部は、画像取得ステップ、中間情報取得ステップ、第1位置合わせステップ、および第2位置合わせステップを実行する。画像取得ステップでは、制御部は、同一の被検眼の組織における同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像を取得する。中間情報取得ステップでは、制御部は、第1眼科画像および第2眼科画像の各々について、第2方向の各位置の第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報である中間情報を取得する。つまり、中間情報は、第2方向の各位置における、第1方向に関する位置ずれに不変な特徴を表現する。第1位置合わせステップでは、制御部は、第1眼科画像について取得された中間情報と、第2眼科画像について取得された中間情報に基づいて、第1眼科画像と第2眼科画像の第2方向に関する位置合わせを実行する。第2位置合わせステップでは、制御部は、第1位置合わせステップにおいて第2方向に関する位置合わせが実行された第1眼科画像と第2眼科画像について、第2方向における位置が共通する画素同士の第1方向に関する位置合わせを実行する。
【0012】
本開示に係る技術によると、まず、同一部位を撮影した第1眼科画像および第2眼科画像の各々について、第2方向の各位置の、第1方向に関する位置ずれの影響を除外した情報である中間情報が取得される。次いで、第1眼科画像の中間情報と、第2眼科画像の中間情報に基づいて、第1眼科画像と第2眼科画像の第2方向に関する位置合わせが実行される。従って、第1方向に関する位置ずれの影響が抑制された状態で、第1眼科画像と第2眼科画像の第2方向に関する位置合わせが精度良く実行される。その後、第2方向に関する位置合わせが実行された第1眼科画像と第2眼科画像について、第2方向における位置が共通する画素同士の第1方向に関する位置合わせが実行される。従って、第1方向に関する位置合わせも、第2方向に関する位置ずれの影響が抑制された状態で精度良く実行される。よって、複数の眼科画像の間に、第1方向に関する位置ずれと、第2方向に関する位置ずれが共に生じている場合でも、複数の眼科画像の位置合わせが適切に実行される。例えば、歪みがある状態の複数の眼科画像の位置合わせを実行する場合等でも、第1方向と第2方向の位置合わせが共に精度良く行われる。位置合わせに有効な特徴的な構造が眼科画像に写り込んでいない場合等でも、位置合わせの精度が向上する。
【0013】
なお、眼科画像は二次元画像であってもよい。この場合、第1方向と第2方向は、互いに交差する(例えば互いに直交する)一次元の方向であってもよい。また、眼科画像は三次元画像であってもよい。この場合、第1方向および第2方向の一方は二次元の方向(平面方向)であり、他方は一次元の方向であってもよい。
【0014】
中間情報は、眼科画像(第1眼科画像および第2眼科画像の各々)に対して第1方向にフーリエ変換を行うことで得られるパワースペクトル画像の情報であってもよい。この場合、パワースペクトル画像は、第2方向の各位置における各周波数の振幅の絶対値を示す。従って、取得されるパワースペクトル画像では、第1方向に関する位置ずれの影響が除外されている。よって、パワースペクトル画像の情報を中間情報として用いることで、第1方向に関する位置ずれの影響が抑制された状態で、第1眼科画像と第2眼科画像の第2方向に関する位置合わせが精度良く実行される。
【0015】
ただし、中間情報の内容を変更することも可能である。例えば、第2方向の各位置において、第1方向に並ぶ複数の画素の平均輝度、最大輝度、輝度値の標準偏差等の統計量、第1方向の輝度ヒストグラム、輝度値でソートしたデータ等の少なくともいずれかを示す情報が、中間情報として用いられてもよい。また、第2方向の各位置における複数の画素について、第2方向に沿って隣接する複数の画素との間の相関が高くなるように第1方向の位置を調整した画像情報が、中間情報として用いられてもよい。これらの場合でも、中間情報では、第2方向の各位置における第1方向の位置ずれの影響が除外される。
【0016】
制御部は、第1位置合わせステップにおいて、第1眼科画像と第2眼科画像の各々の画像内における第2方向の相対的な位置関係を保った状態で、第1眼科画像と第2眼科画像の第2方向に関する位置合わせを実行してもよい(全体位置合わせ)。この場合、第2方向の各位置における画像内の相対的な位置関係が全体で維持されたまま、第1眼科画像と第2眼科画像の第2方向における位置合わせが実行される。従って、第2方向における大まかな位置合わせが容易に実行される。
【0017】
全体位置合わせの具体的な方法は適宜選択できる。例えば、制御部は、第1眼科画像の中間情報と、第2眼科画像の中間情報を参照し、位相限定相関法(Phase Only Correlation)を用いて第2方向の位置合わせを実行してもよい。位相限定相関法では、画像情報に対してフーリエ変換を実行することで、振幅の情報と位相の情報に分解される。次いで、形状情報が含まれない振幅情報を使用せずに、位相情報のみを用いて画像同士の相関を取ることで、画像間の位置合わせが適切に実行される。
【0018】
なお、制御部は、第2位置合わせステップにおいて、第2方向における位置が共通する第1眼科画像と第2眼科画像の画素同士の第1方向に関する位置合わせ実行する際に、位相限定相関法を用いてもよい。この場合も、第2方向の各位置における第1方向の位置合わせが、位相情報によって適切に実行される。
【0019】
ただし、第2位置合わせステップの具体的な方法を変更することも可能である。例えば、制御部は、第2方向における位置が共通する第1眼科画像と第2眼科画像の画素同士の相関が高くなるように、一方の眼科画像の画素を第1方向に移動させることで、第1方向に関する位置合わせを実行してもよい。
【0020】
制御部は、第1位置合わせステップにおいて、第2方向の各位置毎に、第2方向に関する位置合わせを実行してもよい(個別位置合わせ)。この場合、第1眼科画像と第2眼科画像の間の第2方向における位置ずれ量が、第2方向の位置に応じて異なる場合でも、第1眼科画像と第2眼科画像の第2方向に関する位置合わせが精度良く実行される。
【0021】
個別位置合わせの具体的な方法も適宜選択できる。例えば、制御部は、動的計画法(Dynamic Programming)によるマッチング手法(所謂DPマッチング法/弾性マッチング法)を利用して、第2方向の各位置毎に画像間の位置合わせを実行してもよい。また、第2方向の各位置における、画像間の位置合わせのための第2方向の位置補正量を、関数で近似してもよい。
【0022】
眼科画像を撮影する眼科画像撮影装置は、スポット状の測定光を組織上でスキャンすることで組織の断層画像を撮影するOCT装置であってもよい。第1方向は、測定光の光軸に沿う組織の深さ方向であるAスキャン方向であってもよい。第2方向は、測定光が組織上でスキャンされる方向であるBスキャン方向であってもよい。この場合、眼科画像には、測定光をスキャンしている間に生じるBスキャン方向の位置ずれだけでなく、各Aスキャン画像のAスキャン方向に沿った位置ずれも生じ得る。特に、OCT装置によって撮影される眼科画像には歪みが生じる場合が多く、位置合わせの基準とし易い特徴的な構造も写り込みにくい。これに対し、本開示の眼科画像処理装置は、Aスキャン方向に関する位置ずれと、Bスキャン方向に関する位置ずれを共に解消し、複数の眼科画像の位置合わせを適切に実行することができる。
【0023】
眼科画像を撮影する眼科画像撮影装置は、主走査方向に沿うスキャンライン上でスポット状の光をスキャンすると共に、主走査方向に交差する副走査方向にスキャンラインを移動させることで、組織の画像を撮影する装置(例えば、走査型レーザ検眼鏡(SLO)等)であってもよい。第1方向は主走査方向であってもよく、第2方向は副走査方向であってもよい。この場合、眼科画像には、光を副走査方向にスキャンしている間に生じるスキャンライン同士の位置ずれだけでなく、各スキャンライン上で光を主走査方向にスキャンしている間の位置ずれも生じ得る。これに対し、本開示の眼科画像処理装置は、主走査方向に関する位置ずれと、副走査方向に関する位置ずれを共に解消し、複数の眼科画像の位置合わせを適切に実行することができる。
【0024】
ただし、眼科画像を撮影する眼科画像撮影装置は、前述した装置に限定されない。例えば、眼科画像撮影装置は、一次元方向に延びる光をスキャンして二次元の領域に照射することで眼科画像を撮影する装置(例えば、ラインスキャンSLO、または、ラインスキャンOCT等)であってもよい。この場合、第1方向は、照射される光が延びる一次元方向であってもよく、第2方向は、光がスキャンされるスキャン方向であってもよい。また、眼科画像撮影装置は、ローリングシャッター方式の撮影装置等であってもよい。眼科画像撮影装置は、組織によって反射された光の反射光を受光することで眼科画像のデータを生成してもよいし、光が照射された組織から発せられる光(例えば蛍光等)を受光することで眼科画像のデータを生成してもよい。
【0025】
また、前述した方法では、光が同時に照射される方向、または、光のスキャン速度が他方のスキャン速度よりも速い方向(OCTのAスキャン方向、主走査方向、またはラインスキャンにおいてスキャンラインが延びる方向)が第1方向とされ、第1方向に交差(垂直に交差)する方向(OCTのBスキャン方向、副走査方向、または、スキャンラインのスキャン方向)が第2方向とされる。しかし、第1方向と第2方向を逆にする場合でも、複数の眼科画像の位置合わせは適切に実行される。
【0026】
<実施形態>
以下、本開示に係る典型的な実施形態の1つについて説明する。本実施形態では、OCT装置によって撮影された、被検眼Eの眼底組織の眼科画像を処理する場合について例示する。しかし、処理対象とする眼科画像は、眼底組織以外の組織の画像であってもよい。例えば、処理対象とする眼科画像は、被検眼Eの眼底以外の組織(例えば前眼部等)の画像であってもよい。また、被検眼E以外の生体組織(例えば、皮膚、消化器、または脳等)の画像(つまり、眼科画像以外の画像)が処理対象とされてもよい。また、前述したように、画像を撮影する撮影装置はOCT装置に限定されない。
【0027】
図1を参照して、本実施形態の眼科画像処理システム100の概略構成について説明する。本実施形態の眼科画像処理システム100は、眼科画像撮影装置1と眼科画像処理装置40を備える。眼科画像撮影装置1は、生体の組織上で光をスキャンしつつ、組織からの光を時間的に連続して受光することで、第1方向と、第1方向に交差する第2方向に広がるスキャン画像を撮影する。眼科画像処理装置40は、眼科画像撮影装置1によって取得(撮影)された眼科画像のデータの処理(詳細には、同一部位を撮影した複数の眼科画像の位置合わせ処理)を実行する。本実施形態では、複数の二次元の眼科画像の位置合わせ処理を行う場合を例示する。
【0028】
本実施形態の眼科画像撮影装置1の構成について説明する。眼科画像撮影装置(OCT装置)1は、OCT部10と制御ユニット30を備える。OCT部10は、OCT光源11、カップラー(光分割器)12、測定光学系13、参照光学系20、および受光素子22を備える。
【0029】
OCT光源11は、眼科画像のデータを取得するための光(OCT光)を出射する。カップラー12は、OCT光源11から出射されたOCT光を、測定光と参照光に分割する。また、本実施形態のカップラー12は、組織(本実施形態では被検眼Eの眼底)によって反射された測定光と、参照光学系20によって生成された参照光を合波して干渉させる。つまり、本実施形態のカップラー12は、OCT光を測定光と参照光に分岐する分岐光学素子と、測定光の反射光と参照光を合波する合波光学素子を兼ねる。なお、分岐光学素子および合波光学素子の少なくともいずれかの構成を変更することも可能である。例えば、カップラー以外の素子(例えば、サーキュレータ、ビームスプリッタ等)が使用されてもよい。
【0030】
測定光学系13は、カップラー12によって分割された測定光を被検体に導くと共に、組織によって反射された測定光をカップラー12に戻す。測定光学系13は、走査部(スキャナ)14、照射光学系16、およびフォーカス調整部17を備える。走査部14は、駆動部15によって駆動されることで、測定光の光軸に交差する二次元方向に、スポット状の測定光をスキャン(走査)させることができる。本実施形態では、互いに異なる方向に測定光を偏向させることが可能な2つのガルバノミラーが、走査部14として用いられている。しかし、光を偏向させる別のデバイス(例えば、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、音響光学素子等の少なくともいずれか)が走査部14として用いられてもよい。照射光学系16は、走査部14よりも光路の下流側(つまり被検体側)に設けられており、測定光を組織に照射する。フォーカス調整部17は、照射光学系16が備える光学部材(例えばレンズ)を測定光の光軸に沿う方向に移動させることで、測定光のフォーカスを調整する。
【0031】
参照光学系20は、参照光を生成してカップラー12に戻す。本実施形態の参照光学系20は、カップラー12によって分割された参照光を反射光学系(例えば、参照ミラー)によって反射させることで、参照光を生成する。しかし、参照光学系20の構成も変更できる。例えば、参照光学系20は、カップラー12から入射した光を反射させずに透過させて、カップラー12に戻してもよい。参照光学系20は、測定光と参照光の光路長差を変更する光路長差調整部21を備える。本実施形態では、参照ミラーが光軸方向に移動されることで、光路長差が変更される。なお、光路長差を変更するための構成は、測定光学系13の光路中に設けられていてもよい。
【0032】
受光素子22は、カップラー12によって生成された測定光と参照光の干渉光を受光することで、干渉信号を検出する。本実施形態では、フーリエドメインOCTの原理が採用されている。フーリエドメインOCTでは、干渉光のスペクトル強度(スペクトル干渉信号)が受光素子22によって検出され、スペクトル強度データに対するフーリエ変換によって複素OCT信号が取得される。フーリエドメインOCTの一例として、Spectral-domain-OCT(SD-OCT)、Swept-source-OCT(SS-OCT)等を採用できる。また、例えば、Time-domain-OCT(TD-OCT)等を採用することも可能である。
【0033】
制御ユニット30は、眼科画像撮影装置1の各種制御を司る。制御ユニット30は、CPU31、RAM32、ROM33、および不揮発性メモリ(NVM)34を備える。CPU31は各種制御を行うコントローラである。RAM32は各種情報を一時的に記憶する。ROM33には、CPU31が実行するプログラム、および各種初期値等が記憶されている。NVM34は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。
【0034】
制御ユニット30には、モニタ37および操作部38が接続されている。モニタ37は、各種画像を表示する表示部の一例である。操作部38は、ユーザが各種操作指示を眼科画像撮影装置1に入力するために、ユーザによって操作される。操作部38には、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、フットスイッチ等の種々のデバイスを用いることができる。なお、マイクに音が入力されることで各種操作指示が眼科画像撮影装置1に入力されてもよい。
【0035】
眼科画像処理装置40の概略構成について説明する。本実施形態では、眼科画像処理装置40としてパーソナルコンピュータ(以下「PC」という)が用いられている。しかし、PC以外のデバイスが眼科画像処理装置として用いられてもよい。例えば、眼科画像撮影装置1自身が、複数の眼科画像の位置合わせ処理を行う眼科画像処理装置として機能してもよい。眼科画像処理装置40は、CPU41、RAM42、ROM43、およびNVM44を備える。CPU41は、各種制御を行うコントローラである。RAM42、ROM43、およびNVM44は、前述のように各種情報を記憶することができる。後述する眼科画像処理(図4参照)を実行するための眼科画像処理プログラムは、NVM44に記憶されていてもよい。また、眼科画像処理装置40には、モニタ47および操作部48が接続されている。モニタ47は、各種画像を表示する表示部の一例である。操作部48は、ユーザが各種操作指示を眼科画像処理装置40に入力するために、ユーザによって操作される。操作部48には、眼科画像撮影装置1の操作部38と同様に、マウス、キーボード、タッチパネル等の種々のデバイスを用いることができる。また、マイク46に音が入力されることで、各種操作指示が眼科画像処理装置40に入力されてもよい。
【0036】
眼科画像処理装置40は、眼科画像撮影装置1から各種データ(例えば、眼科画像撮影装置1によって撮影された眼科画像のデータ等)を取得することができる。各種データは、例えば、有線通信、無線通信、および着脱可能な記憶装置(例えばUSBメモリ)等の少なくともいずれかによって取得されればよい。
【0037】
図2および図3を参照して、本実施形態の眼科画像処理装置40が位置合わせ処理を行う対象とする眼科画像の撮影方法、および、眼科画像の構成の一例について説明する。図2に示すように、本実施形態の眼科画像撮影装置1は、生体の組織50(図2に示す例では、眼底組織)上で、スポット状の光(測定光)をスキャンする。詳細には、本実施形態の眼科画像撮影装置1は、組織50上で所定の方向に延びるスキャンライン52上で光をスキャンすることで、光の光軸に沿うZ方向と、Z方向に交差(本実施形態では垂直に交差)するX方向とに広がる二次元のスキャン画像(本実施形態では断層画像)61(図3参照)を撮影する。
【0038】
図3に示すように、本実施形態では、スポット状の測定光が組織上でスキャンされる方向(「Bスキャン方向」という)を、X方向とする。また、測定光の光軸に沿う組織50の深さ方向(つまり、X方向に垂直に交差する方向。「Aスキャン方向」という。)を、Z方向とする。図3に例示する眼科画像61には、測定光をスキャンしている間に生じるBスキャン方向(X方向)の位置ずれだけでなく、各Aスキャン画像(つまり、Bスキャン方向の各位置においてAスキャン方向に並ぶ複数の画素からなる画像)の、Aスキャン方向に沿った位置ずれも生じ得る。組織の姿勢によって眼科画像61に歪みが生じると、各方向における位置ずれはより複雑となる。本実施形態の眼科画像処理装置40は、Aスキャン方向に関する位置ずれと、Bスキャン方向に関する位置ずれを共に解消し、複数の眼科画像61の位置合わせを適切に実行する。なお、本実施形態では、Aスキャン方向(Z方向)を第1方向、Bスキャン方向(X方向)を第2方向として説明を行う。
【0039】
図4から図8を参照して、本実施形態における眼科画像処理について説明する。なお、本実施形態では、PCである眼科画像処理装置40が眼科画像撮影装置1から複数の眼科画像61のデータ(以下、単に「眼科画像61」という場合もある)を取得し、取得した複数の眼科画像61の位置合わせを実行する。しかし、前述したように、他のデバイスが眼科画像処理装置として機能してもよい。例えば、眼科画像撮影装置1自身が眼科画像処理を実行してもよい。また、複数の制御部(例えば、眼科画像撮影装置1のCPU31と、眼科画像処理装置40のCPU41)が協働して眼科画像処理を実行してもよい。眼科画像処理装置40のCPU41は、NVM44に記憶された眼科画像処理プログラムに従って、図4に示す眼科画像処理を実行する。
【0040】
まず、CPU41は、同一の被検眼の組織における同一部位を撮影した、複数の眼科画像61を取得する(S1)。図3および図5に例示するように、本実施形態の眼科画像61は、第1方向と第2方向に広がるスキャン画像(本実施形態では二次元の断層画像)である。
【0041】
次いで、CPU41は、S1で取得された複数の眼科画像61の少なくともいずれかを、複数の眼科画像61の位置合わせを実行する際の基準とする第1眼科画像(基準画像)61Aに設定する(S2)。以後説明する処理では、S1で取得された複数の眼科画像61のうち、第1眼科画像61A以外の第2眼科画像61Bを、基準画像である第1眼科画像61Aに対して位置合わせすることで、複数の眼科画像61の位置合わせが実行される。
【0042】
ここで、複数の眼科画像61のうち、良好に撮影されていない画像(例えば、位置ずれの程度が大きい画像等)が、基準画像である第1眼科画像61Aに設定されると、複数の眼科画像61の位置合わせが適切に実行され難い。また、以下説明する処理では画像間の局所的な位置合わせが実行されるため、画像全体に亘って特徴がある画像が、基準画像である第1眼科画像61Aに設定されることが好ましい。従って、本実施形態のS2では、CPU41は、S1で取得された複数の眼科画像61の少なくとも2つ以上を加算平均処理して加算平均画像を一旦生成し、生成した加算平均画像との間の類似度が最も高い(例えば、相関が最も大きい)眼科画像61を、第1眼科画像61Aに設定する。
【0043】
ただし、第1眼科画像61Aの設定方法を変更することも可能である。例えば、CPU41は、複数の眼科画像61のうち、画像品質(例えば、ノイズの低さ、またはエッジの鋭さ等)が最も高い眼科画像61を、第1眼科画像61Aに設定してもよい。また、CPU41は、複数の眼科画像61のいずれかをランダムに選択し、選択した画像を第1眼科画像61Aに設定してもよい。
【0044】
CPU41は、S1で取得した複数の眼科画像61のうち、第1眼科画像61A以外の眼科画像61の1つを、位置合わせを実行する対象とする第2眼科画像61Bとする。前述したように、各々の眼科画像61には、Aスキャン方向(第1方向であるX方向)に関する位置ずれと、Bスキャン方向(第2方向であるZ方向)に関する位置ずれが共に生じ得る。
【0045】
図5に示す例では、第1眼科画像61Aに写る第1特徴部位のX座標P1Aと、第2眼科画像61Bに写る第2特徴部位のX座標P1Bの間に、距離d1の位置ずれが生じている。また、第1眼科画像61Aに写る第2特徴部位のX座標P2Aと、第2眼科画像61Bに写る第2特徴部位のX座標P2Bの間に、距離d2の位置ずれが生じている。つまり、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの間には、X方向(第2方向)に関する位置ずれが生じている。また、詳細は後述するが、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの間には、各Aスキャン画像の、Z方向(第1方向)に関する位置ずれも生じている。
【0046】
図4の説明に戻る。CPU41は、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの各々について、第2方向(X方向)の各位置の第1方向(Z方向)に関する位置ずれの影響を除外した情報である中間情報を取得する(S4)。第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bに対し、第1方向に関する位置ずれが生じた状態のまま第2方向に関する位置合わせを精度良く実行することは困難である。従って、CPU41は、第1方向に関する位置ずれの影響を除外した中間情報を用いることで、第2方向に関する位置合わせの精度を向上させる。
【0047】
詳細には、本実施形態のS4では、CPU41は、眼科画像61(第1眼科画像61Aおよび第2眼科画像61Bの各々)に対して、第1方向(Z方向)にフーリエ変換を行うことで得られるパワースペクトル画像の情報を、中間情報として取得する。パワースペクトル画像は、第2方向(X方向)の各位置における各周波数の振幅の絶対値を示す。従って、取得されるパワースペクトル画像では、第1方向(Z方向)に関する位置ずれの影響が除外されている。
【0048】
図6は、第1眼科画像61Aについて取得された第1中間情報(第1パワースペクトル画像)71Aと、第2眼科画像61Bについて取得された第2中間情報(第2パワースペクトル画像)71Bを示す。図6に示すように、第1中間情報71Aと第2中間情報71Bには、第1方向に関する位置ずれの情報が含まれていないので、両画像間の第2方向に関する位置ずれが鮮明に表れる。よって、パワースペクトル画像の情報を中間情報71A,71Bとして用いることで、第1方向に関する位置ずれの影響が抑制された状態で、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの第2方向に関する位置合わせが精度良く実行される。
【0049】
図4の説明に戻る。CPU41は、第1眼科画像61Aについて取得された第1中間情報71Aと、第2眼科画像61Bについて取得された第2中間情報71Bに基づいて、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの第2方向(X方向)に関する位置合わせを実行する(S5,S6)。詳細には、本実施形態では、両画像の全体位置合わせ(S5)を実行した後に、個別位置合わせ(S7)を実行する。
【0050】
全体位置合わせ(S5)では、CPU41は、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの一方(本実施形態では第2眼科画像61B)の全体の位置を、纏めて第2方向に補正する(つまり、全体の位置を第2方向に平行移動させる)ことで、他方(本実施形態では第1眼科画像61A)の位置に合わせる。その結果、各々の眼科画像61内の第2方向の相対的な位置関係が全体で維持されたまま、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの第2方向に関する位置合わせが実行される。よって、第2方向における大まかな位置合わせが容易に実行される。
【0051】
一例として、本実施形態の全体位置合わせ(S5)では、CPU41は、第1中間情報71Aと第2中間情報71Bを参照し、位相限定相関法を用いて、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの第2方向の位置合わせを実行する。位相限定相関法では、画像情報(中間情報71A,71B)に対してフーリエ変換が実行されることで、振幅の情報と位相の情報に分解される。次いで、CPU41は、形状情報が含まれない振幅情報を使用せずに、位相情報のみを用いて、第1中間情報71Aと第2中間情報71Bの相関を取る。CPU41は、第1中間情報71Aと第2中間情報71Bの相関が最も高くなる際の、第2中間情報71BのX方向の移動方向および移動距離を、第1眼科画像61Aに対する第2眼科画像61BのX方向の移動方向および移動距離とする。その結果、全体位置合わせが適切に実行される。
【0052】
個別位置合わせ(S6)では、CPU41は、第1中間情報71Aと第2中間情報71Bに基づいて、第2方向(X方向)の各位置毎に、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの第2方向に関する位置合わせを実行する。その結果、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの間の第2方向における位置ずれ量が、第2方向の位置に応じて異なる場合でも、両画像の第2方向に関する位置合わせが精度良く実行される。
【0053】
一例として、本実施形態の個別位置合わせ(S6)では、CPU41は、第1中間情報71Aと第2中間情報71Bを参照し、動的計画法によるマッチング法(所謂DPマッチング法/弾性マッチング法)によって、第1眼科画像61Aに対する第2眼科画像61Bの第2方向における各位置の個別位置合わせを実行する。その結果、第2方向の位置に応じて、適切に第2方向の位置合わせが行われる。ただし、個別位置合わせの方法を変更することも可能である。例えば、CPU41は、第2方向の各位置における補正量(つまり、第2方向の移動量)を、Xを変数とする関数で近似してもよい。
【0054】
図7では、第1眼科画像61Aと、第1眼科画像61Aに対して第2方向に関する位置合わせ(S5,S6)が実行された第2眼科画像61BXを、Z方向に並べて示している。図7に示すように、第1方向(Z方向)に関する位置ずれの影響を除外した中間情報71A,71Bに基づいて、第2方向に関する両画像の位置合わせが実行されることで、第1特徴部位のX座標P1A,P1Bの位置ずれも、第2特徴部位のX座標P2A,P2Bの位置ずれも、共に精度良く解消されている。
【0055】
以上説明したように、本実施形態では、第1眼科画像61Aと第2眼科画像61Bの第2方向に関する全体位置合わせ(S5)と個別位置合わせ(S6)が、共に実行される。よって、第2方向に関する両画像の位置合わせが、より精度良く実行される。しかし、全体位置合わせ(S5)と個別位置合わせ(S6)の一方のみが実行される場合でも、第1方向(Z方向)に関する位置ずれの影響を除外した中間情報71A,71Bに基づいて第2方向の位置合わせが実行されることで、第2方向の位置合わせが適切に行われる。
【0056】
次いで、CPU41は、第2方向に関する位置合わせ(S5,S6)が実行された第1眼科画像61Aと第2眼科画像61BX(図7参照)について、第2方向(X方向)における位置が共通する画素同士の、第1方向(Z方向)に関する位置合わせを実行する(S7)。従って、両画像間の第1方向における位置合わせも、第2方向に関する位置ずれの影響が抑制された状態で精度良く実行される。
【0057】
一例として、本実施形態のS7では、CPU41は、第2方向における位置が共通する第1眼科画像61Aと第2眼科画像61BXの画素同士の、第1方向に関する位置合わせ(本実施形態では、第1眼科画像61Aの画素に対する第2眼科画像61BXの画素の位置合わせ)を、前述した位相限定相関法を用いて実行する。図8に示すように、第2方向における位置が共通する画素同時の相関が最も高くなるように、第1方向に関する移動方向および移動量ΔZを、第2方向における各位置について求める。その結果、第1方向に関する両画像間の位置合わせが適切に実行される。
【0058】
次いで、S1で取得された複数の眼科画像61の全てについて、位置合わせが未だ完了していなければ(S9:NO)、処理はS4へ戻り、未だ位置合わせが行われていない眼科画像61を第2眼科画像61Bとして、S4~S7の処理が繰り返される。全ての眼科画像61の位置合わせが完了すると(S9:YES)、位置合わせが行われた複数の眼科画像61に基づいて、加算平均画像またはモーションコントラスト画像が生成される(S10)。複数の眼科画像61の位置合わせが精度良く実行されているので、S10では、高品質の加算平均画像またはモーションコントラスト画像が生成される。
【0059】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。まず、上記実施形態の眼科画像処理装置40は、OCT装置である眼科画像撮影装置1によって撮影された複数の眼科画像61の位置合わせを実行する。しかし、位置合わせの対象となる眼科画像を撮影する眼科画像撮影装置は、OCT装置に限定されない。例えば、図9に示すように、眼科画像を撮影する眼科画像撮影装置は、主走査方向に沿うスキャンライン82上でスポット状の光をスキャンすると共に、主走査方向に交差(例えば垂直に交差)する副走査方向にスキャンライン82を移動させることで、組織50上の二次元の領域81の画像を撮影する装置(例えば、走査型レーザ検眼鏡(SLO)等)であってもよい。
【0060】
この場合、眼科画像には、スキャンライン82を副走査方向にスキャンしている間に生じるスキャンライン82同士の位置ずれだけでなく、各スキャンライン82上で光を主走査方向にスキャンしている間の位置ずれも生じ得る。これに対し、上記実施形態で例示したように、眼科画像処理装置は、主走査方向および副走査方向のうち、一方の第1方向に関する位置ずれの影響を除外した中間情報に基づいて、他方の第2方向に関する位置合わせを実行し、その後第1方向に関する位置合わせを実行することで、複数の眼科画像の位置合わせを適切に実行することが可能である。
【0061】
なお、第1方向は主走査方向であってもよく、第2方向は副走査方向であってもよい。この場合、主走査方向に高速で光をスキャンしている間に生じる細かい位置ずれの影響が除外されたうえで、大幅な位置ずれが生じやすい副走査方向に関する複数の眼科画像の位置合わせが実行される。よって、複数の眼科画像の位置合わせがより適切に実行される。
【0062】
ただし、第1方向を副走査方向とし、第2方向を主走査方向とする場合でも、複数の眼科画像の位置合わせは適切に実行される。同様に、上記実施形態における第1方向(Aスキャン方向)と第2方向(Bスキャン方向)を逆にする場合でも、複数の眼科画像の位置合わせは適切に実行される。
【0063】
また、位置合わせの対象となる眼科画像を撮影する眼科画像撮影装置は、一次元方向に延びる光をスキャンして二次元の領域に照射することで眼科画像を撮影する装置(例えば、ラインスキャンSLO、または、ラインスキャンOCT等)であってもよい。この場合、照射される光が延びる一次元方向を第1方向とし、光がスキャンされるスキャン方向を第2方向とすることで、第1方向に生じる細かい位置ずれの影響が除外されたうえで、第2方向に関する複数の眼科画像の位置合わせが実行される。ただし、前述したように、第1方向と第2方向を逆にすることも可能である。また、眼科画像撮影装置は、ローリングシャッター方式の撮影装置、または、二次元領域に照射される測定光をスキャンする撮影装置等であってもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、複数の眼科画像61の撮影が完了した後に位置合わせ処理が実行される。しかし、基準画像(第1眼科画像61A)に対する位置合わせを実行する対象となる第2眼科画像61Bが撮影される毎に、両画像の位置合わせが実行されてもよい。この場合、複数の眼科画像61のうち、最初に撮影された眼科画像61が、基準画像である第1眼科画像61Aに設定されてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、複数の二次元の眼科画像61の位置合わせが実行される場合を例示した。しかし、複数の三次元の眼科画像の位置合わせを実行する場合でも、上記実施形態で例示した技術の少なくとも一部を採用できる。この場合、第1方向および第2方向の一方は、二次元の方向(平面方向)であってもよい。
【0066】
なお、図4のS1で眼科画像を取得する処理は、「画像取得ステップ」の一例である。図4のS4で中間情報を取得する処理は、「中間情報取得ステップ」の一例である。図4のS5,S6で第2方向に関する位置合わせを実行する処理は、「第1位置合わせステップ」の一例である。図4のS7で第1方向に関する位置合わせを実行する処理は、「第2位置合わせステップ」の一例である。図4のS5で全体位置合わせを実行する処理は、「全体位置合わせステップ」の一例である。図4のS6で個別位置合わせを実行する処理は、「個別位置合わせステップ」の一例である。
【0067】
1 眼科画像撮影装置
40 眼科画像処理装置
41 CPU
44 NVM
61 眼科画像
61A 第1眼科画像
61B 第2眼科画像
71A 第1中間情報
71B 第2中間情報

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9