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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法、印刷装置及び印刷缶
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20240702BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20240702BHJP
   B05C 9/06 20060101ALI20240702BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20240702BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20240702BHJP
   B05D 1/38 20060101ALI20240702BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20240702BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240702BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240702BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B05C5/00 101
B05C9/06
B05C9/14
B05D1/26 Z
B05D1/38
B05D7/02
B05D7/14 P
B41J2/01 121
B41J2/01 123
B41J2/01 125
B41J2/01 129
B41J2/01 201
B41M5/00 100
B41M5/00 112
B41M5/00 116
B41M5/00 134
B41M5/52 100
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020063879
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160218
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 恵喜
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 由樹子
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸司
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-023980(JP,A)
【文献】特開2015-117030(JP,A)
【文献】特開2008-100501(JP,A)
【文献】特開2020-001189(JP,A)
【文献】特開2009-184206(JP,A)
【文献】特開2009-083267(JP,A)
【文献】特開2018-135448(JP,A)
【文献】特開2016-060049(JP,A)
【文献】特開2011-093146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00ー 5/52
B41J 2/01
B41J 2/165-2/215
B05C 5/00- 5/04
B05C 7/00-21/00
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製又は樹脂製の被印刷物にインクジェット印刷を施した印刷物の製造方法であって、
前記被印刷物の表面の少なくとも一部に、架橋性樹脂を含有する下地層を形成する下地層形成ステップ、
前記下地層を加熱することにより前記下地層に含まれる前記架橋性樹脂を下記イソプロピルアルコールラビング法による評価値が5回以上50回以下の半架橋状態にする半架橋ステップ、及び
前記半架橋ステップ後の前記下地層の表面の少なくとも一部にインクジェット印刷を行い、インクジェット印刷層を形成する印刷ステップ
を含む、印刷物の製造方法。
(イソプロピルアルコールラビング法による評価)
重さ1kgの柄付きハンマーの先端に被せたガーゼにイソプロピルアルコールを浸透させ、下地層の表面に前記ガーゼ部分が当たるように前記ハンマーを置き、前記ハンマーを1秒に1往復の速度で10cmの距離を往復させたときに、前記下地層が剥がれるまでの往復回数を評価する。
【請求項2】
少なくとも前記インクジェット印刷層の上にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成ステップをさらに含む、請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記架橋性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂及びアミノ樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂である、請求項1又は2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記下地層が、さらに酸化チタンを含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記被印刷物が、容器用金属板、金属容器、容器用樹脂フィルム又は樹脂容器である、請求項1~の何れか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記被印刷物が、シームレス飲料缶である、請求項1~4の何れか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項7】
金属製又は樹脂製の被印刷物にインクジェット印刷を施す印刷装置であって、
前記被印刷物を搬送する搬送装置と、
前記被印刷物の表面の少なくとも一部に架橋性樹脂を含有する下地層を形成する下地層形成装置と、
前記下地層形成装置の下流に設けられ、かつ、前記下地層を加熱することにより前記下地層に含まれる前記架橋性樹脂を下記イソプロピルアルコールラビング法による評価値が5回以上50回以下の半架橋状態にする硬化装置と、
前記硬化装置の下流に設けられ、かつ、前記下地層の表面の少なくとも一部にインクジェット印刷を行い、インクジェット印刷層を形成するインクジェット印刷ステーションとを備える印刷装置。
(イソプロピルアルコールラビング法による評価)
重さ1kgの柄付きハンマーの先端に被せたガーゼにイソプロピルアルコールを浸透させ、下地層の表面に前記ガーゼ部分が当たるように前記ハンマーを置き、前記ハンマーを1秒に1往復の速度で10cmの距離を往復させたときに、前記下地層が剥がれるまでの往復回数を評価する。
【請求項8】
前記インクジェット印刷層の上にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成装置を有する、請求項に記載の印刷装置。
【請求項9】
缶胴の表面の少なくとも一部に、下記イソプロピルアルコールラビング法による評価値が5回以上50回以下となる半架橋状態に半架橋された架橋性樹脂を含有する下地層を有する、下地層付き金属缶。
(イソプロピルアルコールラビング法による評価)
重さ1kgの柄付きハンマーの先端に被せたガーゼにイソプロピルアルコールを浸透させ、下地層の表面に前記ガーゼ部分が当たるように前記ハンマーを置き、前記ハンマーを1秒に1往復の速度で10cmの距離を往復させたときに、前記下地層が剥がれるまでの往復回数を評価する。
【請求項10】
前記熱架橋性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂及びアミノ樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂である、請求項9に記載の下地層付き金属缶。
【請求項11】
前記下地層が、さらに酸化チタンを含有する、請求項9又は10に記載の下地層付き金属缶。
【請求項12】
下地層付きシームレス飲料缶である、請求項9~11の何れか1項に記載の下地層付き金属缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法、印刷装置及び印刷缶に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷缶の製造工程においては、缶胴を形成する金属板に対して、或いは、缶胴と底とを一体成形した後に、缶胴に対して、模様や文字を印刷することが行われている。金属板、或いは缶胴への印刷は、版式印刷による場合とインクジェット印刷による場合があり、インクジェット印刷による場合には、製版のコストがかからず、また短期間に印刷デザインを変更できるというメリットを有する。
【0003】
インクジェット印刷を用いた印刷缶への印刷技術としては、例えば特許文献1の図5に、ホワイト(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各インキに対応するインクジェットヘッドから、順次各インキの液滴を噴射し、マンドレルに装着されたシームレス缶上に印刷画像を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-86870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット画像印刷の最小単位は、被印刷物に形成されたインクのドットであり、解像度の高い画像、例えば精細な画像が要求される写真画像や文字画像を印刷するためには、ドット径を小さくする必要がある。しかしながら、金属製又は樹脂製の被印刷物は、インクの吸収性が低いため、被印刷物に直接インクジェット印刷を行う場合、インクが被印刷物の表面で濡れ広がってドット径が大きくなってしまい、精細な画像が得ることができなかった。本発明は、インクの濡れ広がりを調整することで、金属製又は樹脂製の被印刷物に高精細なインクジェット画像を印刷することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、インクが濡れ広がることを抑制するために、被印刷物の表面に下地層を設けることが考えられた。そして、金属製又は樹脂製の被印刷物へのインクジェット印刷において、下地層に含まれる架橋性樹脂を半架橋しておくことによりインクの濡れ広がりが調整され、高精細な画像を印刷できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のものを含む
[1]
金属製又は樹脂製の被印刷物にインクジェット印刷を施した印刷物の製造方法であって、
前記被印刷物の表面の少なくとも一部に、架橋性樹脂を含有する下地層を形成する下地層形成ステップ、
前記下地層に含まれる前記架橋性樹脂を半架橋する半架橋ステップ、及び
前記半架橋ステップ後の前記下地層の表面の少なくとも一部にインクジェット印刷を行い、インクジェット印刷層を形成する印刷ステップ
を含む、印刷物の製造方法。
[2]
少なくとも前記インクジェット印刷層の上にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成ステップ
をさらに含む、[1]に記載の印刷物の製造方法。
[3]
前記架橋性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂及びアミノ樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂である、[1]又は[2]に記載の印刷物の製造方法。
[4]
前記下地層が、さらに酸化チタンを含有する、[1]~[3]の何れかに記載の印刷物の製造方法。
[5]
前記半架橋ステップは、下地層を加熱することより行われる、[1]~[4]の何れかに記載の印刷物の製造方法。
[6]
前記半架橋ステップは、下地層に活性エネルギー線を照射することより行われる、[1]~[4]の何れかに記載の印刷物の製造方法。
[7]
前記被印刷物が、容器用金属板、金属容器、容器用樹脂フィルム又は樹脂容器である、[1]~[6]の何れかに記載の印刷物の製造方法。
[8]
前記被印刷物が、シームレス飲料缶である、[7]に記載の印刷物の製造方法。
[9]
金属製又は樹脂製の被印刷物にインクジェット印刷を施す印刷装置であって、
前記被印刷物を搬送する搬送装置と、
前記被印刷物の表面の少なくとも一部に架橋性樹脂を含有する下地層を形成する下地層形成装置と、
前記塗布装置の下流に設けられ、かつ、前記下地層に含まれる前記架橋性樹脂を半架橋する硬化装置と、
前記硬化装置の下流に設けられ、かつ、前記下地層の表面の少なくとも一部にインクジェット印刷を行い、インクジェット印刷層を形成するインクジェット印刷ステーションとを備える印刷装置。
[10]
前記インクジェット印刷層の上にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成装置を有する、[9]に記載の印刷装置。
[11]
インクジェット印刷層及び下地層を有する印刷缶であって、
前記インクジェット印刷層は、前記下地層の表面の少なくとも一部に形成されており、
前記下地層は、缶胴の表面の少なくとも一部に形成されており、かつ、架橋された樹脂を含有する、印刷缶。
[12]
前記インクジェット印刷層は、印刷の解像度が300dpi以上である、[11]に記載の印刷缶。
[13]
缶胴の表面の少なくとも一部に、半架橋された架橋性樹脂を含有する下地層を有する、下地層付き金属缶。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクの濡れ広がりを調整することにより、金属製又は樹脂製の被印刷物に高精細なインクジェット画像を印刷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る印刷装置の構成の一例を示す概略図である。
図2】実験例1~6における半架橋条件とドット径との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.印刷物の製造方法)
本発明の第1の実施形態は、金属製又は樹脂製の被印刷物の表面の少なくとも一部に、架橋性樹脂を含有する下地層を形成する下地層形成ステップ;前記下地層に含まれる前記架橋性樹脂を半架橋する半架橋ステップ;及び前記半架橋ステップ後の前記下地層の表面の少なくとも一部にインクジェット印刷を行い、インクジェット印刷層を形成する印刷ステップ;を含む印刷物の製造方法である。
【0011】
(1-1.下地層形成ステップ)
下地層形成ステップは、金属製又は樹脂製の被印刷物の表面の少なくとも一部に、架橋性樹脂を含有する下地層を形成するステップである。
【0012】
被印刷物は、インクの濡れ広がりが生じやすい、金属製又は樹脂製である限り、特に限定されず、種々の物品を採用することができる。
金属製の被印刷物としては、側面に継ぎ目を有するスリーピース缶(溶接缶)、シームレス缶(ツーピース缶)等の金属容器;金属板、望ましくはスリーピース缶用の缶胴を構成するための金属板等;が挙げられる。これらのうち、金属製の被印刷物は、シームレス缶であることが好ましく、シームレス飲料缶であることがより好ましい。
樹脂製の被印刷物としては、パウチ等の容器用フィルム、ラベル用フィルム等の樹脂フィルム;PETボトル、多層プラスチック容器、チューブ状容器等の樹脂容器;等が挙げられる。
【0013】
下地層としては、架橋性樹脂を含有する層である限り特に限定されず、例えばアンカーコート層、ベースコート層、ホワイトコート層等であってよい。下地層がホワイトコート層である場合、顔料として酸化チタンを含有することが望ましい。
【0014】
下地層の形成方法は、特に限定されず、例えば架橋性樹脂を含む塗料を塗布することで形成してもよく、架橋性樹脂を含むフィルムをラミネートすることで形成してもよい。なお、下地層の厚みは特段限定されず、当業者が適宜設定できる。
【0015】
架橋性樹脂としては、特に限定されず、熱架橋性樹脂、活性エネルギー線架橋性樹脂等を採用することができる。なお、本実施形態において、活性エネルギー線とは、紫外線、電子線、α線、β線、γ線等の電離放射線を意味する。
【0016】
より具体的な架橋性樹脂としては、ポリアクリロニトリル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂;ポチエチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポチエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂;ジフェニルメタンジイソシアネート-ポリエチレングリコール共重合体等のウレタン樹脂;メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂;等を挙げることができる。これらの架橋性樹脂は、1種類に限られず、2種類以上をブレンドした混合樹脂とすることができる。
【0017】
架橋性樹脂は、後述するインクジェット印刷用のインク及び/又はオーバーコートの硬
化と同様の手段により架橋する樹脂から選択することが好ましい。これにより、インク及び/又はオーバーコートの硬化とともに、架橋性樹脂の架橋が進行し、架橋性樹脂を十分に架橋させるためのステップを別途行う必要がなくなるため、製造コストを低減することが可能となる。
【0018】
下地層は、その機能を阻害しない範囲で、必要に応じて架橋性樹脂以外の樹脂、架橋剤、架橋促進剤、各種添加剤等を含有してもよい。
【0019】
(1-2.半架橋ステップ)
半架橋ステップは、下地層形成ステップにより形成された下地層に含まれる架橋性樹脂を半架橋するステップである。下地層に含まれる架橋性樹脂を半架橋することで、後述するインクジェット印刷により下地層に着弾するインクの濡れ広がりが調整され、高精細な画像を印刷することができる。
なお、半架橋(半硬化、仮硬化などと称される場合もある。)とは、架橋性樹脂の架橋が進行しているものの、架橋反応が完全には終了していない状態を意味する。
【0020】
本実施形態において、架橋性樹脂の半架橋状態は、溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)を用いてのIPAラビング法により評価することができる。この評価値は、半架橋物をIPAで湿潤させた状態で行ったラビング回数により表示され、この評価値が大きいほど架橋が進行しており、この評価値が小さいほど架橋が進行していない状態にあることを示す。本実施形態においては、この評価値が5回以上50回以下の範囲にあることが好ましく、11回以上40回以下であることがより好ましい。この評価値が上記上限以下であれば、インクの過度な濡れ広がりを抑制して径の小さいドットを形成することができる。また、評価値が上記下限以上であることにより、下地層のベタつきが抑制され、例えば被印刷物の搬送時などにおいて、複数の被印刷物の下地層同士で粘着するなどの不都合を回避することができる。
【0021】
半架橋の方法は、架橋性樹脂に応じて適宜選択することができる。
例えば、架橋性樹脂が熱架橋性樹脂の場合、下地層の加熱により半架橋を行えばよい。目的の半架橋状態とするための加熱温度、加熱時間等の加熱条件は、使用する架橋性樹脂、インクジェットインクの種類、目的とするドット径等に応じて適宜変更すればよい。具体例としては、後述する実施例のように、架橋性樹脂としてポリエステル樹脂を含有する塗料により下地層を形成し、熱硬化性インク(TOMATEC社製、墨インク)を用いて、径が85μmのドットで解像度300dpiの画像を形成しようとする場合には、155℃で1分間の仮焼付けを行うことで、所望の架橋状態とすることができる。
【0022】
また、架橋性樹脂が活性エネルギー線架橋性樹脂の場合は、下地層に紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射することにより半架橋を行うことができる。目的の半架橋状態とするための照射条件は、使用する架橋性樹脂、架橋促進剤等の添加の有無、目的とするドット径等に応じて適宜変更すればよい。
【0023】
(1-3.印刷ステップ)
印刷ステップは、半架橋ステップ後の下地層の表面の少なくとも一部にインクジェット印刷を行い、インクジェット印刷層を形成するステップである。インクジェット印刷により印刷する画像は、特に限定されず、写真、模様、文字等の種々の画像であってよい。
【0024】
インクジェット印刷においては、例えば図1に示すように、ホワイト(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)等の各インクに対応するインクジェットヘッドから順次各インク滴を噴射してインクジェット印刷層を形成する。なお、各色のインクジェットヘッドの配置は、図1に示した例に限定されるものではなく、任意
の順序とすることができる。
【0025】
本実施形態におけるインクジェット印刷用インクとしては、本発明の効果を損ねない限り特に限定されず、従来金属製又は樹脂製の記録媒体へのインクジェット印刷に用いられていた、公知の熱乾燥型インク、熱硬化型インク、活性エネルギー線硬化型インク(例えば、紫外線硬化型インク、電子線硬化型インク等)等から適宜選択して使用することができる。
【0026】
インクの表面張力は、25mN/m以上30mN/m以下であることが好ましい。インクの表面張力を上記範囲内とすることにより、インクの濡れ広がりが抑制され、径の小さいドットの形成が容易となる。インクの表面張力を調整するためには、例えばインク中の染料、顔料の種類を適宜調整すること、シリコーン系などの界面活性剤を添加すること、溶剤の種類を適宜調整すること、などにより行うことができる。
【0027】
またインクの粘度は、インクジェットヘッドの種類等もよるが、8mPa・s以上15mPa・s以下であることが好ましい。インクの粘度を上記範囲内とすることにより、インクの濡れ広がりが抑制され、径の小さいドットの形成が容易となる。インクの粘度を調整するためには、例えばバインダーとしての樹脂の種類を適宜調整すること、インク中にシリカなどの無機微粒子を含有させること、増粘剤を添加すること、溶剤の種類を適宜調整すること、などにより行うことができる。
【0028】
本実施形態では、下地層に含まれる架橋性樹脂を半架橋した後に、下地層の上にインクジェット印刷を行うことにより、径の小さいドットを印刷することができ、高精細な画像を形成することが可能となる。本明細書において、高精細な画像とは、例えば解像度が300dpi以上、600dpi以上、720dpi以上又は1200dpi以上の画像をいう。解像度が300dpi、600dpi、720dpi又は1200dpiの画像を形成する場合には、それぞれ、ドット径が85μm程度、42μm程度、35μm程度又は21μm程度となるようインクの吐出を制御すればよい。
【0029】
なお、インクのドット径とは、記録媒体に着弾したインク滴の濡れ広がり後に形成されるドットの大きさを意味する。インクのドット径は、例えば光学顕微鏡観察により測定することができる。すなわち、本実施形態においては、半架橋ステップ後の下地層の表面にドットパターンを形成し、光学顕微鏡で観察されるドットパターンからドット複数個を任意に選択し、各ドットの長径と短径を測定してそれらの平均値をドット径として求めることができる。
【0030】
インクジェット印刷により形成したインクジェット印刷層は、オーバーコートを塗布する前に、仮焼付けを行い、インクを仮硬化させておくことが好ましい。これにより、インクの濡れ広がりをさらに抑制され、高精細な画像を形成することができる。
【0031】
(1-4.オーバーコート層形成ステップ)
オーバーコート層形成ステップは、少なくともインクジェット印刷層の上にオーバーコート層を形成するステップである。インクジェット印刷層の上にオーバーコート層を形成することにより、印刷物が、ネッキング加工、プレス加工、レトルト殺菌に供された場合等であっても、インクジェット印刷層の脱落を抑制することができるとともに、印刷物の耐擦傷性及び加飾性を向上させることができる。
【0032】
オーバーコート層を形成するためのオーバーコートとしては、印刷物用のトップコートとして用いられる公知の透明塗料を採用することができる。公知の透明塗料としては、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;アミノ樹脂、フ
ェノール樹脂、イソシアネート樹脂等の硬化剤;パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、シリコンワックス等の潤滑剤;等を含有する透明塗料が挙げられる。
【0033】
オーバーコート層の形成は、オーバーコート層の厚みが通常0.1~10μm、好ましくは0.5~5μmとなる量のオーバーコートをインクジェット印刷層の上に塗布し、170~230℃の温度で0.5~2分間加熱することにより行われる。
【0034】
(1-5.その他ステップ)
本実施形態に係る印刷物の製造方法は、上述したステップ以外にも任意のステップを含んでいてよい。例えば、下地層に含まれる架橋性樹脂の架橋手段とインク及び/又はオーバーコートの硬化手段が異なる場合には、本実施形態に係る印刷物の製造方法は、架橋性樹脂を十分に架橋する架橋ステップを含むことが好ましい。また、他の任意のステップとしては、版式印刷により印字、ベタ画像等を形成する版式印刷ステップ;層間接着性を高めるための接着層を形成する接着剤層形成ステップ;等を挙げることができる。
【0035】
(2.印刷装置)
本発明の第2の実施形態は、金属製又は樹脂製の被印刷物にインクジェット印刷を施す印刷装置であって、第1の実施形態に係る印刷物の製造方法を実施するための印刷装置である。本実施形態に係る印刷装置は、前記被印刷物を搬送する搬送装置;前記被印刷物の表面の少なくとも一部に架橋性樹脂を含有する下地層を形成する下地層形成装置;前記塗布装置の下流に設けられ、かつ、前記下地層に含まれる前記架橋性樹脂を半架橋する硬化装置;及び前記硬化装置の下流に設けられ、かつ、前記下地層の表面の少なくとも一部にインクジェット印刷を行い、インクジェット印刷層を形成するインクジェット印刷ステーション;を備える。
【0036】
本実施形態に係る印刷装置は、前記インクジェット印刷層の上にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成装置を有することが好ましい。
また、第2の実施形態に係る製造方法が、架橋ステップ、版式印刷ステップ、接着剤層形成ステップ等をさらに含む場合、本実施形態に係る印刷装置もまた、各ステップを行うためのユニットをさらに備える。
【0037】
以下、本実施形態に係る印刷装置の構成の一例を説明する。
図1は、印刷装置100の構成の一例を示す概略図である。
印刷装置100では、塗布装置(図示せず)により下地層用の塗料を缶の表面に塗布し、熱風乾燥することで、架橋性樹脂を含有する下地層を形成する。下地層が形成された缶11は、マンドレルホイール12に設置され、矢印に沿って搬送される。そして、下地層をオーブン13で加熱することにより、下地層に含まれる架橋性樹脂を半架橋する。次いで、各ホワイト(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の各色の熱硬化性インクを吐出する複数のインクジェットヘッド14を有するインクジェット印刷ステーションにおいて、下地層にインクジェット印刷を施し、インクジェット印刷層を形成する。なお、色の順番は特に限定されず、インクの色はこれらに限定されるものではない。そのため、インクはクリアインクでもよい。その後、仮焼付け装置15によりインクジェット印刷層の仮焼付けを行う。続いて、オーバーコート層形成装置16により缶11の表面全体にオーバーコートを塗布し、熱風乾燥する。最後に、オーバーコートをオーブン17で加熱硬化することにより、印刷缶が得られる。
【0038】
(3.印刷缶)
本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態に係る製造方法により製造される印刷缶であり、缶胴の表面の少なくとも一部に形成されており、かつ、架橋された樹脂を含有する下地層と、下地層の表面の少なくとも一部に形成されたインクジェット印刷層を有する。
本実施形態に係る印刷缶は、下地層、インクジェット印刷層以外にも、必要に応じてアンカーコート層、接着層等の任意の層を有していてもよい。
【0039】
インクジェット印刷層は、印刷画像の解像度が通常300dpi以上であり、好ましくは600dpi以上であり、より好ましくは720dpi以上であり、さらに好ましくは、1080dpi以上である。インクジェット印刷を行う領域に架橋性樹脂を含有する下地層を形成し、架橋性樹脂を半架橋した後に下地層の上にインクジェット印刷を行うことで、インクの濡れ広がりが抑制され、径の小さいドットを形成することができるため、このように高解像度の印刷を実現することができる。
【0040】
(4.下地層付き金属缶)
本発明の第4の実施形態は、本発明の第1の実施形態に係る製造方法において、被印刷物として金属缶を用い、かつ、半架橋ステップまでの工程を行うことで得られる金属缶である。本実施形態に係る下地層付き金属缶は、缶胴の表面の少なくとも一部に、半架橋された架橋性樹脂を含有する下地層を有する。本実施形態に係る下地層付き金属缶は、下地層以外にも、必要に応じてアンカーコート層、接着層等の任意の層を有していてもよい。
【実施例
【0041】
以下、本発明の完成までに行った具体的な実験について説明する。
なお、各実験例において、下地層中の架橋性樹脂の半架橋状態、インクジェット印刷により形成されるドットの径、及び印刷画像の評価は、以下の方法により行った。
【0042】
<半架橋状態の評価>
下地層に含まれる架橋性樹脂の半架橋状態を以下の通り評価した。重さ1kgの柄付きハンマーの先端にガーゼを被せ、イソプロピルアルコール(IPA)をガーゼに浸透させ、ハンマーを片手に持ち、半架橋ステップ後の下地層の表面に湿ったガーゼ部分を当て、一定の速度で10cmの距離を往復させた。速度は、1秒に1往復で行った。下地層が剥がれるまでの往復回数を数えて、ラビング回数とした。下地層剥がれの評価は目視で行った。1往復を1回とした。ラビング回数により、次のように評価される。
1~4回:架橋不十分
5~10回:やや良好な半架橋状態(許容範囲)
11~40回:良好な半架橋状態(最適範囲)
41~50回:やや良好な半架橋状態(許容範囲)
51回以上:架橋過剰
【0043】
<ドット径>
各実験例で得られた印刷物のドットパターン部分を光学顕微鏡で観察した。ドットパターンからドット10個を任意に選択し、ドットの長径と短径を測定し、平均値をドット径とした。
【0044】
<画像評価>
各実験例で得られた印刷物の印刷画像を、下記評価基準に基づいて目視により評価した。
○:印刷画像が非常に鮮明であった。
△:画像の輪郭部分位に若干不鮮明さがあったが、十分に画像を認識できた。
×:画像が不鮮明であった。
【0045】
(実験例1)
図1に示す印刷装置により、印刷缶を製造した。
シームレスアルミニウム缶に、架橋性樹脂であるポリエステル樹脂及び架橋剤であるア
ミノ樹脂を含有する塗料を塗布することで、缶胴の表面に下地層を形成した。形成された下地層を185℃で30秒間加熱(仮焼付け)することにより半架橋した。
【0046】
続いて、インクジェット画像の解像度を300dpi、吐出液滴を6plに設定し、インクジェットインク(TOMATEC社製、墨インク)を用いて下地層の上にインクジェット印刷によりドットパターン及び画像を形成し、印刷缶を得た。
【0047】
半架橋条件とドット径との関係をプロットしたグラフを図2に示す。また、下地層の半架橋状態、ドット径、印刷画像の評価結果を表1に示す。なお、解像度300dpiとしてときに設定されるドット径は85μmであり、評価は上記評価基準に従って行った。
【0048】
(実験例2~6)
下地層形成用の塗料に含まれる架橋性樹脂、半架橋方法、解像度、吐出液滴を表1に示す通り変更した以外は、実験例1と同様にして印刷缶を製造した。下地層の半架橋状態、ドット径、印刷画像の評価結果を表1に示す。また、半架橋条件とドット径との関係をプロットしたグラフを図2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
これらの結果より、下地層に含まれる架橋性樹脂を半架橋することにより、インクの濡れ広がりが抑制され、シームレス缶に高精細なインクジェット画像を印刷することができることが示された。
【符号の説明】
【0051】
100 印刷装置
11 缶
12 マンドレルホイール
13 オーブン
14 インクジェットヘッド
15 仮焼付装置
16 オーバーコート層形成装置
17 オーブン
図1
図2