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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】空気調和機
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/41 20180101AFI20240702BHJP
   F24F 11/65 20180101ALI20240702BHJP
   F25B 47/02 20060101ALI20240702BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20240702BHJP
   F24F 110/12 20180101ALN20240702BHJP
【FI】
F24F11/41 114
F24F11/65
F25B47/02 550J
F25B47/02 570M
F25B47/02 570F
F25B47/02 570H
F25B1/00 331B
F24F110:12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020065170
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162251
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】桶田 純平
(72)【発明者】
【氏名】穀田 薫
(72)【発明者】
【氏名】土畠 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】兼井 一樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宏明
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-099529(JP,A)
【文献】特開2016-075402(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064441(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0251256(US,A1)
【文献】特開2019-173987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
F25B 47/02
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、室外熱交換器と、室内熱交換器と、前記室外熱交換器と前記室内熱交換器との間に配置された減圧器と、前記圧縮機から吐出される冷媒の流れ方向を切り替える流路切替器と、暖房運転時において前記室内熱交換器で凝縮された冷媒の一部を前記圧縮機へ流入させることが可能なインジェクション回路とを有する冷媒回路と、
前記室外熱交換器の温度を検出する室外熱交温度センサと、
前記インジェクション回路を使用しない第1の暖房運転モードと前記インジェクション回路を使用する第2の暖房運転モードとを選択的に実行し、暖房運転中の前記室外熱交換器の温度に基づいて、前記圧縮機から吐出される冷媒の流れ方向を前記室内熱交換器から前記室外熱交換器へ切り替える除霜運転を実行する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、前記第1の暖房運転モードの実行中では前記室外熱交換器の温度が第1の所定温度以下に低下したときに前記除霜運転に切り替える第1の除霜運転モードを実行し、前記第2の暖房運転モードの実行中では前記室外熱交換器の温度が前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度以下に低下したときに前記除霜運転に切り替える第2の除霜運転モードを実行し、
暖房時間と除霜時間の和に対する除霜時間の比率を除霜率としたとき、前記第2の所定温度は、前記第2の暖房運転モードから前記除霜運転を実行したときの除霜率が、前記第1の暖房運転モードから前記除霜運転を実行したときの除霜率と同程度となるように、前記制御装置に予め設定される
空気調和機。
【請求項2】
請求項1に記載の空気調和機であって、
前記制御装置は、1回の暖房運転の運転時間中に前記第2の暖房運転モードを実行したときは、前記除霜運転として前記第2の除霜運転モードを実行する
空気調和機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空気調和機であって、
外気の温度を検出する外気温度センサと、
前記圧縮機から吐出される冷媒の過熱度を検出する吐出過熱度検出手段と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記第1の暖房運転モードの実行中に、前記圧縮機の回転数が所定回転数以上のとき、前記外気の温度が所定温度以下のとき、および、前記圧縮機から吐出される冷媒の過熱度が所定温度以上のとき、のうち少なくとも前記圧縮機から吐出される冷媒の過熱度が所定温度以上のときは、前記第1の暖房運転モードから前記第2の暖房運転モードに切り替える
空気調和機。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1つに記載の空気調和機であって、
前記減圧器は、前記室外熱交換器と前記室内熱交換器との間に配置された第1膨張弁と、前記室外熱交換器と前記第1膨張弁との間に配置された第2膨張弁とを有し、
前記インジェクション回路は、暖房運転時に前記第1膨張弁で減圧された冷媒を前記圧縮機へ導くインジェクション配管と、前記インジェクション配管を流れる冷媒と前記第1膨張弁から前記第2膨張弁へ流れる冷媒との間で熱交換を行う冷媒間熱交換器とを有する
空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジェクション回路を有する空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
暖房能力を高め、圧縮機の温度が異常温度とならないようにすることを目的とした、インジェクション回路を有する空気調和機が知られている(例えば、特許文献1参照)。インジェクション回路は、凝縮器で凝縮された冷媒の一部を圧縮機の中間圧へ流入する回路であり、例えば外気温度が極度に低い条件下での暖房運転時に使用することで、圧縮機から吐出される冷媒の量を増加させ、冷媒回路の高圧(凝縮圧力)と低圧(蒸発圧力)の圧力差の増大による冷媒の吐出温度の上昇を抑える。
【0003】
インジェクション回路は、インジェクション配管と、このインジェクション配管に設けられたインジェクション膨張弁とを有する。インジェクション配管は、冷媒回路における減圧器として機能する第1膨張弁と、室外熱交換器と第1膨張弁との間に配置された第2膨張弁との間を接続する冷媒配管の途中から圧縮機に向かって分岐する配管である。暖房運転時において、第1膨張弁の開度は、室内熱交換器から流出する冷媒の過冷却度が所定の目標値となるように制御される。第2膨張弁の開度は、インジェクション回路を使用しない通常制御の暖房運転では、圧縮機から吐出される冷媒の温度が所定の目標値となるように制御され、インジェクション回路を使用するインジェクション制御の暖房運転では、圧縮機に吸入される冷媒の過熱度が所定の目標値となるように制御される。インジェクション膨張弁の開度は、インジェクション制御の暖房運転時において、圧縮機から吐出される冷媒の過熱度が所定の目標値となるように制御される。
【0004】
一方、空気調和機の暖房運転時において、外気温度が低いと、蒸発器として機能する室外熱交換器に霜が発生することがある。室外熱交換器に発生する霜の量が多いと、室外熱交換器による冷媒と外気の熱交換が妨げられ、室外熱交換器における熱交換能力が低下する。このため、空気調和機の暖房運転中には、室外熱交換器に発生した霜を融かすための除霜運転が行われる。
【0005】
除霜運転は、あらかじめ設定された除霜開始条件を満たしたときに実行される。典型的には、室外熱交換器に着霜が発生する温度として予め設定された温度以下にまで室外熱交換器の温度が低下したとき、除霜運転が開始される。除霜運転を行うときは、室外熱交換器が蒸発器として機能する状態から凝縮器として機能する状態に冷媒回路を切り替え、圧縮機から吐出される高温の冷媒を室外熱交換器に流入させて、室外熱交換器に発生した霜を融かす。そして、除霜運転時間が所定時間(例えば10分)または除霜運転中に室外熱交換器の温度が所定温度(例えば10℃以上)となれば、室外熱交換器に発生した霜が全て融けたと判断して除霜運転を終了し、暖房運転を再開する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-173987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インジェクション回路を有する空気調和機は、インジェクション回路を使用しない暖房運転(通常制御の暖房運転)では、圧縮機から吐出される冷媒の吐出温度から、圧縮機に吸入される冷媒の過熱度を推定して下流側膨張弁を制御する。これに対して、インジェクション回路を使用する暖房運転(インジェクション制御の暖房運転)では、圧縮機において冷媒が多段で圧縮されるため、冷媒の吐出温度から吸入冷媒の過熱度を推定することができない。このため、圧縮機の吸入管に設置された温度センサを用いて吸入冷媒の過熱度を直接検出しているが、温度センサの検出誤差、あるいは、圧縮機に吸入される冷媒を気液二相ではなく確実に気相にする必要があること等から、通常制御の暖房運転よりも下流側膨張弁の開度を絞り気味に制御する。その結果、インジェクション制御の暖房運転では、通常制御の暖房運転よりも、蒸発圧力が低下し、室外熱交換器の温度が低下しやすい。
【0008】
このように、インジェクション制御の暖房運転のときは、通常制御の暖房運転のときよりも室外熱交換器の温度が低くなりやすいため、通常制御の暖房運転よりも室外熱交換器の着霜スピードが速くなる。したがって、インジェクション制御の暖房運転のときは、通常制御の暖房運転のときよりも、除霜開始条件の温度に早く到達してしまう、あるいは、除霜開始条件を満たした時点で通常制御の暖房運転より室外熱交換器の着霜量が多い状態になる場合が多い。このため、1回あたりの除霜時間が長くなる結果、除霜率が悪くなるという問題がある。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、インジェクション制御の暖房運転において1回あたりの除霜時間が長くなるのを防止できる空気調和機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態に係る空気調和機は、冷媒回路と、室外熱交温度センサと、制御装置とを備える。
上記冷媒回路は、圧縮機と、室外熱交換器と、室内熱交換器と、上記室外熱交換器と上記室内熱交換器との間に配置された減圧器と、上記圧縮機から吐出される冷媒の流れ方向を切り替える流路切替器と、暖房運転時において上記室内熱交換器で凝縮された冷媒の一部を上記圧縮機へ流入させることが可能なインジェクション回路とを有する。
上記室外熱交温度センサは、上記室外熱交換器の温度を検出する。
上記制御装置は、上記インジェクション回路を使用しない第1の暖房運転モードと上記インジェクション回路を使用する第2の暖房運転モードとを選択的に実行し、暖房運転中の上記室外熱交換器の温度に基づいて、上記圧縮機から吐出される冷媒の流れ方向を上記室内熱交換器から上記室外熱交換器へ切り替える除霜運転を実行する。
上記制御装置は、上記第1の暖房運転モードの実行中では上記室外熱交換器の温度が第1の所定温度以下に低下したときに上記除霜運転に切り替える第1の除霜運転モードを実行し、上記第2の暖房運転モードの実行中では上記室外熱交換器の温度が上記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度以下に低下したときに上記除霜運転に切り替える第2の除霜運転モードを実行する。
【0011】
暖房時間と除霜時間の和に対する除霜時間の比率を除霜率としたとき、上記第2の所定温度は、上記第2の暖房運転モードから上記除霜運転を実行したときの除霜率が、上記第1の暖房運転モードから上記除霜運転を実行したときの除霜率と同程度となるように、上記制御装置に予め設定されてもよい。
【0012】
上記制御装置は、1回の暖房運転の運転時間中に上記第2の暖房運転モードを実行したときは、上記除霜運転として上記第2の除霜運転モードを実行する。
【0013】
上記空気調和機は、外気の温度を検出する外気温度センサと、上記圧縮機から吐出される冷媒の過熱度を検出する吐出過熱度検出手段と、をさらに備えてもよい。
上記制御装置は、上記第1の暖房運転モードの実行中に、上記圧縮機の回転数が所定回転数以上のとき、上記外気の温度が所定温度以下のとき、および、上記圧縮機から吐出される冷媒の過熱度が所定温度以上のとき、のうち少なくとも上記圧縮機から吐出される冷媒の過熱度が所定温度以上のときは、上記第1の暖房運転モードから上記第2の暖房運転モードに切り替えてもよい。
【0014】
上記減圧器は、上記室外熱交換器と上記室内熱交換器との間に配置された第1膨張弁と、上記室外熱交換器と上記第1膨張弁との間に配置された第2膨張弁とを有してもよい。この場合、上記インジェクション回路は、暖房運転時に上記第1膨張弁で減圧された冷媒を前記圧縮機へ導くインジェクション配管と、上記インジェクション配管を流れる冷媒と上記第1膨張弁から上記第2膨張弁へ流れる冷媒との間で熱交換を行う冷媒間熱交換器とを有する。
【0015】
上記冷媒回路は、上記第1膨張弁と上記冷媒間熱交換器との間に設けられた中圧レシーバをさらに有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インジェクション制御の暖房運転において除霜時間が長くなるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態の空気調和機を説明する図であって、(A)は冷媒回路図、(B)は室外機制御手段のブロック図である。
図2】基本的な冷媒回路を説明する図である。
図3図2の冷媒回路に係るモリエル線図(ph線図)である。
図4】インジェクション回路を有する冷媒回路を説明する図である。
図5図4の冷媒回路に係るモリエル線図(ph線図)である。
図6】本発明の実施形態の空気調和機において、中圧レシーバを備えた冷媒回路を説明する図である。
図7図6の冷媒回路に係るモリエル線図(ph線図)である。
図8】本発明の実施形態の空気調和機において、インジェクション回路及び中圧レシーバを有する冷媒回路を説明する図である。
図9図8の冷媒回路に係るモリエル線図(ph線図)である。
図10】通常制御の暖房運転時における除霜開始タイミングとインジェクション制御の暖房運転時における除霜開始タイミングとを比較して示す図である。
図11】第1の所定温度を-10℃、第2の所定温度を-7℃とした場合における通常制御の暖房運転サイクルとインジェクション制御の暖房運転サイクルとを示す図である。
図12】暖房運転時における室外機制御装置のCPU210が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
[空気調和機の冷媒回路]
まず、図1(A)を参照して、室外機2を含む空気調和機1の冷媒回路について説明する。図1(A)に示すように、本実施形態における空気調和機1は、屋外に設置される室外機2と、室内に設置され、室外機2に液管4及びガス管5で接続された室内機3を備えている。詳細には、室外機2の液側閉鎖弁25と室内機3の液管接続部33が液管4で接続されている。また、室外機2のガス側閉鎖弁26と室内機3のガス管接続部34がガス管5で接続されている。以上により、空気調和機1の冷媒回路10が形成される。
【0020】
(室外機の冷媒回路)
まずは、室外機2について説明する。室外機2は、圧縮機21と、四方弁22(流路切替器)と、室外熱交換器23と、液管4が接続された液側閉鎖弁25と、ガス管5が接続されたガス側閉鎖弁26と、室外ファン27と、暖房運転時において室内機3の上流側膨張弁35(減圧器)の下流側に位置する下流側膨張弁28(減圧器)と、インジェクション膨張弁29と、中圧レシーバ81と、冷媒間熱交換器82を備えている。そして、室外ファン27を除くこれら各装置が後述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路10の一部をなす室外機冷媒回路10aを形成している。
なお、圧縮機21の冷媒吸入側には、アキュムレータ(不図示)が設けられてもよい。また、上流側膨張弁35は室外機2(例えば、液側閉鎖弁25と中圧レシーバ81との間)に配置されてもよい。ここでは便宜上、室外機2の説明において上流側膨張弁35についても言及する。
【0021】
圧縮機21は、図示しないインバータにより回転数が制御されることで、運転容量を変えることができる容量可変型圧縮機である。圧縮機21の冷媒吐出側は、四方弁22のポートaと吐出管61で接続されている。また、圧縮機21の冷媒吸入側は、四方弁22のポートcと吸入管66で接続されている。
【0022】
中圧レシーバ81は、液側閉鎖弁25と室外熱交換器23との間の室外機液管63に、上流側膨張弁35と下流側膨張弁28に挟まれて設けられている。中圧レシーバ81は、大小様々な室内機3が接続されても、冷媒回路10を循環する冷媒を適切な冷媒量に調整するためのものである。中圧レシーバ81の下流側ではインジェクション配管65が分岐しており、インジェクション配管65は、インジェクション膨張弁29を介して圧縮機21内部の図示しないシリンダの中間部に接続されている。
【0023】
インジェクション配管65は、暖房運転時において室内熱交換器31で凝縮された冷媒の一部を圧縮機21へ流入させるインジェクション回路の一部であり、上流側膨張弁35で減圧された冷媒を圧縮機21へ導く冷媒配管である。インジェクション配管65は、凝縮器(暖房運転時には室内熱交換器31)の冷媒循環量を増やしたり、圧縮機21の吐出温度を下げたりするため、圧縮機21に冷媒をインジェクションするものである。インジェクション配管65の途中には、インジェクション配管65を流れる冷媒と室外機液管63を流れる冷媒(暖房運転時において上流側膨張弁35から下流側膨張弁28へ流れる冷媒)との間で熱交換を行う冷媒間熱交換器82が設けられている。
【0024】
インジェクション配管65、インジェクション膨張弁29を含む一連の回路をインジェクション回路という(なお、本明細書では、インジェクション配管65で代表させてインジェクション回路ということがある。また、ここで示すインジェクション回路は一例であって、他の態様であってもよい)。インジェクション膨張弁29は、インジェクション配管65の開閉手段、及び、インジェクション配管65における冷媒の流量調整手段として設けられる。
【0025】
四方弁22は、冷媒の流れる方向を切り替えるための弁であり、a、b、c、dの4つのポートを備えている。ポートaは、上述したように圧縮機21の冷媒吐出側と吐出管61で接続されている。ポートbは、室外熱交換器23の一方の冷媒出入口と冷媒配管62で接続されている。ポートcは、上述したように圧縮機21の冷媒吸入側と吸入管66で接続されている。そして、ポートdは、ガス側閉鎖弁26と室外機ガス管64で接続されている。
【0026】
室外熱交換器23は、冷媒と、後述する室外ファン27の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気を熱交換させるものである。室外熱交換器23の一方の冷媒出入口は、上述したように四方弁22のポートbと冷媒配管62で接続され、他方の冷媒出入口は液側閉鎖弁25と室外機液管63で接続されている。室外熱交換器23は、後述する四方弁22の切り替えによって、冷房時は凝縮器として機能し、暖房運転時は蒸発器として機能する。
【0027】
上流側膨張弁35及び下流側膨張弁28は、図示しないパルスモータにより駆動される電子膨張弁である。具体的には、パルスモータに加えられるパルス数によりその開度が調整される。上流側膨張弁35は、暖房運転時において冷媒の過冷却度(SC)が所定の目標値になるように、その開度が調整される。また、下流側膨張弁28は、暖房運転時において圧縮機21の吐出温度が所定の目標値となるように調整されるか、若しくは、圧縮機21に吸入される冷媒の吸入過熱度(吸入SH)が所定の目標値となるように調整される。なお、上流側膨張弁35は本発明における第1膨張弁に相当し、下流側膨張弁28は本発明における第2膨張弁に相当する。
【0028】
室外ファン27は樹脂材で形成されており、室外熱交換器23の近傍に配置されている。室外ファン27は、その中心部が図示しないファンモータの回転軸に接続されている。ファンモータが回転することで室外ファン27が回転する。室外ファン27の回転によって、室外機2の図示しない吸込口から室外機2の内部へ外気を取り込み、室外熱交換器23において冷媒と熱交換した外気を、室外機2の図示しない吹出口から室外機2外部へ放出する。
【0029】
以上説明した構成の他に、室外機2には各種のセンサが設けられている。図1(A)に示すように、吐出管61には、圧縮機21から吐出される冷媒の圧力を検出する吐出圧力センサ71と、圧縮機21から吐出される冷媒の温度(上述した吐出温度)を検出する吐出温度センサ73が設けられている。吸入管66には、圧縮機21に吸入される冷媒の圧力を検出する吸入圧力センサ72と、圧縮機21に吸入される冷媒の温度を検出する吸入温度センサ74が設けられ、室外機液管63には、冷房運転時に下流側膨張弁28に流入する冷媒の温度を検出する室外機液管温度センサ77cが設けられている。
【0030】
室外熱交換器23の図示しない冷媒パスの略中間部には、室外熱交換器23の温度である室外熱交温度を検出する室外熱交中間温度センサ75が設けられている。そして、室外機2の図示しない吸込口付近には、室外機2の内部に流入する外気の温度、すなわち外気温度を検出する外気温度センサ76が備えられている。
【0031】
また、室外機2には、室外機制御装置200が備えられている。室外機制御装置200は、室外機2の図示しない電装品箱に格納されている制御基板に搭載されている。図1(B)に示すように、室外機制御装置200は、CPU210と、記憶部220と、通信部230と、センサ入力部240を備えている。室外機制御装置200は、本発明における制御装置に相当する。
【0032】
記憶部220は、フラッシュメモリで構成されており、室外機2の制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値、圧縮機21や室外ファン27等の制御状態等を記憶している。また、図示は省略するが、記憶部220には室内機3から受信する要求能力に応じて圧縮機21の回転数を定めた回転数テーブルが予め記憶されている。
【0033】
通信部230は、室内機3との通信を行うインターフェイスである。センサ入力部240は、室外機2の各種センサでの検出結果を取り込んでCPU210に出力する。
【0034】
CPU210は、前述した室外機2の各センサでの検出結果を、センサ入力部240を介して取り込む。さらには、CPU210は、室内機3から送信される制御信号を、通信部230を介して取り込む。CPU210は、取り込んだ検出結果や制御信号等に基づいて、圧縮機21や室外ファン27の駆動制御を行う。また、CPU210は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、四方弁22の切り替え制御を行う。さらには、CPU210は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、上流側膨張弁35及び下流側膨張弁28の開度調整、インジェクション膨張弁29の開閉制御及び開度調整を行う。
【0035】
(室内機の冷媒回路)
次に、図1(A)を用いて、室内機3について説明する。室内機3は、室内熱交換器31と、室内ファン32と、液管4の他端が接続された液管接続部33と、ガス管5の他端が接続されたガス管接続部34と、室内熱交換器31と液管接続部33との間に配置された上流側膨張弁35を備えている。そして、室内ファン32を除くこれら各装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路10の一部をなす室内機冷媒回路10bを形成している。
【0036】
室内熱交換器31は、冷媒と後述する室内ファン32の回転により室内機3の図示しない吸込口から室内機3の内部に取り込まれた室内空気を熱交換させるものである。室内熱交換器31の一方の冷媒出入口は、液管接続部33と室内機液管67で接続されている。室内熱交換器31の他方の冷媒出入口は、ガス管接続部34と室内機ガス管68で接続されている。室内熱交換器31は、室内機3が冷房運転を行う場合は蒸発器として機能し、室内機3が暖房運転を行う場合は凝縮器として機能する。
【0037】
室内ファン32は樹脂材で形成されており、室内熱交換器31の近傍に配置されている。室内ファン32は、図示しないファンモータによって回転することで、室内機3の図示しない吸込口から室内機3の内部に室内空気を取り込み、室内熱交換器31において冷媒と熱交換した室内空気を室内機3の図示しない吹出口から室内へ吹き出す。
【0038】
以上説明した構成の他に、室内機3には各種のセンサが設けられている。室内熱交換器31内の流路の中間部には室内熱交換器31内の冷媒の温度を検出する室内熱交中間温度センサ77aが設けられている。室内機ガス管68には、暖房運転時に上流側膨張弁35へ流入する冷媒の温度を検出する室内機ガス管温度センサ77bと、室内熱交換器31から流出あるいは室内熱交換器31に流入する冷媒の温度を検出するガス側温度センサ78が設けられている。そして、室内機3の図示しない吸込口付近には、室内機3の内部に流入する室内空気の温度、すなわち室温を検出する室温センサ79が備えられている。
【0039】
[冷媒回路の動作の概要]
次に、本実施形態における空気調和機1の空調運転時の冷媒回路10における冷媒の流れや各部の動作について、より詳しくは図2から図9を用いて説明するが、図1(A)を用いてその概要をまず説明する。以下では、図中、実線で示した冷媒の流れに基づいて、室内機3が暖房運転を行う場合について説明する。なお、破線で示した冷媒の流れが冷房運転を示している。
【0040】
室内機3が暖房運転を行う場合、CPU210は、図1(A)に示すように四方弁22を実線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートdが連通するよう、また、ポートbとポートcが連通するよう、切り替える。これにより、冷媒回路10において実線矢印で示す方向に冷媒が循環し、室外熱交換器23が蒸発器として機能するとともに、室内熱交換器31が凝縮器として機能する暖房サイクルとなる。
【0041】
圧縮機21から吐出された高圧の冷媒は、吐出管61を流れて四方弁22に流入する。四方弁22のポートaに流入した冷媒は、四方弁22のポートdから室外機ガス管64を流れて、ガス側閉鎖弁26を介してガス管5に流入する。ガス管5を流れる冷媒は、ガス管接続部34を介して室内機3に流入する。
【0042】
室内機3に流入した冷媒は、室内機ガス管68を流れて室内熱交換器31に流入し、室内ファン32の回転により室内機3の内部に取り込まれた室内空気と熱交換を行って凝縮する。このように、室内熱交換器31が凝縮器として機能し、室内熱交換器31で冷媒と熱交換を行った室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることによって、室内機3が設置された室内の暖房が行われる。
【0043】
室内熱交換器31から流出した冷媒は、室内機液管67を流れ、上流側膨張弁35を通過する際に減圧され、液管接続部33を介して液管4に流入する。液管4を流れ、液側閉鎖弁25を介して室外機2に流入した冷媒は、室外機液管63を流れて、中圧レシーバ81、下流側膨張弁28を通過する際に減圧される。上述したように、暖房運転時において、上流側膨張弁35の開度は、室内熱交換器31流出後の冷媒の過冷却度(SC)が所定の目標値となるように調整され、下流側膨張弁28の開度は、圧縮機21の吐出温度が所定の目標値となるように調整されるか、若しくは、圧縮機21に吸入される冷媒の吸入過熱度(吸入SH)が所定の目標値となるように調整される。
【0044】
上流側膨張弁35、中圧レシーバ81、下流側膨張弁28を通過して室外熱交換器23に流入した冷媒は、室外ファン27の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気と熱交換を行って蒸発する。室外熱交換器23から冷媒配管62に流出した冷媒は、四方弁22のポートb及びポートc、吸入管66を流れ、圧縮機21に吸入されて再び圧縮される。
【0045】
[冷媒回路の動作の詳細]
次に、本実施形態における空気調和機1の空調運転時の冷媒回路10における冷媒の流れや各部の動作について、図2から図9を用いて詳しく説明する。説明にあたっては、基本的な冷媒回路11、インジェクション回路65を有する冷媒回路12、中圧レシーバ81を有する冷媒回路13、そして、本実施形態に係るインジェクション回路65及び中圧レシーバ81を有する冷媒回路10を順に説明する。
【0046】
(基本的な冷媒回路)
図2及び図3を用いて、基本的な冷媒回路11について説明する。なお、冷媒回路11は、図1の冷媒回路10においてインジェクション回路を使用しない通常制御の暖房運転時の冷媒回路に相当する。
【0047】
図2に示すように、冷媒回路11における基準点として、点Aは圧縮機21と凝縮器(暖房運転時の室内熱交換器31に対応。以下、凝縮器31と表記)の間、点Bは凝縮器31と膨張弁(暖房運転時の下流側膨張弁28に対応。以下、膨張弁28と表記)の間、点Cは膨張弁28と蒸発器(暖房運転時の室外熱交換器23に対応。以下、蒸発器23と表記)の間、点Dは蒸発器23と圧縮機21の間を指す(以下同様)。
【0048】
点Aから点D、又は各点間における冷媒の状態は、図3に示すように、以下のとおりとなる。
(1)圧縮機21での圧縮過程の冷媒(点D~A間)は、圧縮され、圧力(縦軸)・温度共に上昇して高温高圧の過熱蒸気となる(周囲空気との熱交換で凝縮しやすい状態になる)。
(2)圧縮機21から吐出された冷媒(点A)は、過熱状態の高圧気相冷媒である。
(3)凝縮器31での凝縮過程の冷媒(点A~B間)は、周囲空気と熱交換(放熱)することで、圧力が一定のまま、過熱蒸気、飽和蒸気、湿り蒸気、飽和液の各状態を経て高圧の過冷却液となる。
(4)凝縮器31から流出した冷媒(点B)は、過冷却状態の高圧液相冷媒である。
(5)膨張弁28での膨張過程の冷媒(点B~C間)は、膨張し、圧力(縦軸)・温度共に下降して湿り蒸気となる(周囲空気との熱交換で蒸発しやすい状態になる)。
(6)膨張弁28から流出した冷媒(点C)は、液リッチ(=液相比率が高い)状態の低圧二相冷媒である。
(7)蒸発器23での蒸発過程の冷媒(点C~D間)は、周囲空気と熱交換(吸熱)することで、圧力が一定のまま、湿り蒸気、飽和蒸気、の各状態を経て低圧の過熱蒸気となる。
(8)蒸発器23から流出した冷媒(点D)は、過熱状態の低圧気相冷媒である。
【0049】
この基本的な冷媒回路11における制御対象である圧縮機21、室内ファン32、膨張弁28及び室外ファン27の制御方法は、次のとおりである。
圧縮機21は、室内機3側の要求される能力に基づいて制御される(要求される能力:室内熱交換器31(暖房運転時:凝縮器、冷房運転時:蒸発器)の周囲温度(=室温)と目標温度の差に応じて設定)。
室内ファン32は、暖房運転時(凝縮器が室内熱交換器31の場合)、冷房運転時(凝縮器が室外熱交換器23の場合)ともに室温と設定温度の差に応じて制御、若しくはユーザーによって好みの風量となるように設定される。
膨張弁28は、点Aの温度(吐出温度)が目標値となるように制御(吐出温度制御)、および、圧縮機21の回転数の変化量に応じて予め定めた制御量(パルス)で膨張弁28の開度を調整する制御(回転数パルス制御)によって制御される。尚、吐出温度制御は、室内温度や外気温等の外乱が吐出温度の変化に現れてから開度調整を行うフィードバック制御であるのに対し、回転数パルス制御は、回転数の変化量から循環量の変化量を予測して予め膨張弁が適正な開度となるように調整を行うフィードフォワード制御である。
室外ファン27は、暖房運転時(蒸発器が熱源側の場合)、冷房運転時(蒸発器が利用側の場合)ともに圧縮機21の回転数に基づいて制御される。
【0050】
基本的な冷媒回路11における運転上の制約は、次のとおりである。
点Bでは冷媒が液相状態である(=過冷却が取れている)ことが求められる。なぜならば、膨張弁28に二相冷媒が流入すると、冷媒流動音の発生や、制御性の悪化などの不都合が生じるからである。
点Dでは冷媒が気相状態である(=過熱が取れている)ことが求められる。なぜならば、圧縮機21に液相冷媒が流入すると液圧縮(液相冷媒は非圧縮性であるため、圧縮機21が破損する。)し、信頼性が低下するからである。
【0051】
(インジェクション回路を有する冷媒回路)
図4及び図5を用いて、インジェクション回路65を有する冷媒回路12について説明する。
図4に示すように、インジェクション回路65を有する冷媒回路12では、凝縮器31からの流出後の冷媒の一部を圧縮機21の中間圧へ流入させる。インジェクション回路65には、圧縮機21へインジェクションする冷媒量を調整するインジェクション膨張弁29を備えるとともに、インジェクションする冷媒の乾き度を上げるため、冷媒間熱交換器82(SC熱交換器)を備える。
【0052】
図4に示すように、冷媒回路12の基準点としては、点A~Dのほかに点E~Gが加えられる。点Eは、冷媒間熱交換器82の室外機液管63側流路出口と膨張弁28の間、点Fは、インジェクション膨張弁29と冷媒間熱交換器82のインジェクション回路65側流路入口の間、点Gは、冷媒間熱交換器82のインジェクション回路65側流路出口と圧縮機21の間を指す(以下同様)。
【0053】
インジェクション回路65の目的は、凝縮器31の冷媒循環量を増やす(低外気(例えば、-20℃~-30℃)暖房運転時等、暖房能力を上昇させる)こと、また、圧縮機21の吐出温度を下げる(低外気暖房運転時等、蒸発温度を外気温度よりも低くすることで、高圧(凝縮圧力)と低圧(蒸発圧力)の圧力差が大きくなっても、圧縮機21の温度が異常温度とならないようにする)ことである。
【0054】
冷媒回路12における冷媒の状態は、図5に示すようになるが、冷媒回路11と異なる点は以下のとおりとなる。
(1)圧縮機21での圧縮過程の点D~A間において、インジェクション回路65を介して凝縮過程の冷媒の一部が二相状態で圧縮機21の中間圧に流入することにより、圧縮機21で圧縮される冷媒の温度が圧縮途中で低下し、インジェクション回路65に冷媒を循環させない場合と比較して点Aにおける吐出温度が下がる。
(2)冷媒は、凝縮過程の点A~B間を通過して液相状態になった後、点B~E間においてインジェクション回路65の点F~G間を流れる冷媒と冷媒間熱交換器82によって熱交換され過冷却される。
(3)点A~B間から分岐したインジェクション回路65に流入した冷媒は、点B~F間でインジェクション膨張弁29を介して圧力が下げられ、二相状態になり、その後、点F~G間において点B~E間を流れる冷媒と冷媒間熱交換器82によって熱交換されて乾き度が上昇し、点Gから圧縮過程の点D~A間にインジェクションされる。
【0055】
この冷媒回路12における特徴的な制御対象である膨張弁28及びインジェクション膨張弁29の制御方法は、次のとおりである。
膨張弁28は、インジェクションをしない場合は、点Aの温度(吐出温度)が目標値となるように制御(吐出温度制御)し、また、圧縮機21の回転数の変化量に応じて予め定めた制御量(パルス)で膨張弁28の開度を調整する制御(回転数パルス制御)をする。インジェクションを行う場合は、吸入SH(=点Dの温度-点Cの温度)が目標値となるように制御(吸入SH制御)し、圧縮機の回転数の変化量に応じて予め定めた制御量(パルス)で膨張弁28の開度を調整する制御(回転数パルス制御)をする。吸入SHの算出には、室外熱交中間温度センサ75の検出値と吸入温度センサ74の検出値が用いられる。
インジェクション膨張弁29は、インジェクションをしない場合は、閉じる。インジェクションを行う場合は、点Aの温度(吐出温度)又は吐出SHが目標値となるように制御(吐出温度制御又は吐出SH制御)する。
【0056】
(中圧レシーバを有する冷媒回路)
図6及び図7を用いて、中圧レシーバ81を有する冷媒回路13について説明する。図6に示すように、冷媒回路13の基準点は、基本的な冷媒回路11と同様に点A~Dである。
【0057】
中圧レシーバ81の目的は、接続される室内機3の大きさを問わず、冷媒回路10を循環する冷媒を適切な冷媒量に調整することである。これは、室内熱交換器31の大きさや、各所の配管の長さ(管内容積)によって冷媒回路13に必要な冷媒量が異なることに対応するものである。ここで、「必要な冷媒量が異なる」とは、効率の良い、信頼性的に問題ない運転(適性吸入SH、SC)を行うために必要な冷媒量は室内熱交換器大きさや接続配管長さといった容積差で異なることを意味しており、中圧レシーバ81内は、その内部の冷媒を冷媒回路13内に出入りさせることで調整する。
【0058】
中圧レシーバ81を有する冷媒回路13では、凝縮器31と蒸発器23の間に中圧レシーバ81を備えており、中圧レシーバ81の上流側と下流側にはそれぞれ、上流側膨張弁35と下流側膨張弁28が設けられている。冷媒回路13における冷媒の状態は、図7に示すように、基本的な冷媒回路11と実質的に同様である。
【0059】
この冷媒回路13における特徴的な制御対象である上流側膨張弁35及び下流側膨張弁28の制御方法は、次のとおりである。
上流側膨張弁35は、SC、すなわち、過冷却度(=点A~B間の二相域の温度-点Bの温度)が目標値となるように制御(SC制御)する。SCの算出には、室内熱交中間温度センサ77aの検出値と室内機ガス管温度センサ77bの検出値が用いられる。
下流側膨張弁28は、点Aの温度(吐出温度)が目標値となるように制御(吐出温度制御)する。
【0060】
(本実施形態に係るインジェクション回路及び中圧レシーバを有する冷媒回路)
本実施形態に係る冷媒回路10について、図8及び図9を用いて説明する。以下の説明は、インジェクション回路を使用するインジェクション制御の暖房運転に相当する。
【0061】
図1に示したように、冷媒回路10は、上記で説明したインジェクション回路65及び中圧レシーバ81の双方を備えている。図8は、図1を簡略化して冷媒回路10を図示したものであり、図4のインジェクション回路65を有する冷媒回路12において、インジェクション回路65が分岐する手前(上流側)に上流側膨張弁35と中圧レシーバ81を設けた態様となる。図4における膨張弁28は、下流側膨張弁28となる。図8に示すように、冷媒回路10の基準点としては、点A~D、点E~Gのほかに点Hが加えられ、点Hは上流側膨張弁35と中圧レシーバ81の間を指す。
【0062】
冷媒回路10における冷媒の状態は、図9に示すようになるが、冷媒回路12と異なる点は以下のとおりとなる。
(1)冷媒は、凝縮過程の点A~B間を経た後、点B~H間で上流側膨張弁35を介して圧力が下がり、その後、点H~E間においてインジェクション回路65の点F~G間と冷媒間熱交換器82によって熱交換される。
(2)点A~E間の点Hから分岐したインジェクション回路65に流入した冷媒は、点H~F間でインジェクション膨張弁29を介して圧力が下がり、その後、点F~G間において点B~E間と冷媒間熱交換器82によって熱交換されて乾き度が上昇し、点Gから圧縮過程の点D~A間にインジェクションされる。
【0063】
ところで、空気調和機1において、インジェクション回路65を使用しない通常制御の暖房運転では、圧縮機21から吐出される冷媒の吐出温度(吐出温度センサ73の検出値)から、圧縮機21に吸入される冷媒の過熱度を推定して下流側膨張弁28を制御する。
通常、冷媒の過熱度制御をするためには、過熱度を検出する必要がある。しかしながら、気液二相領域では、冷媒温度が一定なので、過熱度を検出するためには、一定以上の過熱度を取る必要がある。また、過熱度を直接取れる程度のガス領域を持たせたまま運転を行うと、冷凍サイクルの能力が発揮しにくくなる。したがって、吐出温度から過熱度を算出できる通常暖房運転であれば、吐出温度からガス飽和線上近傍の過熱度(直接過熱度を取れない領域の過熱度)を算出して冷凍サイクル制御を行うことができるので、より能力を発揮し易い状態で冷凍サイクルの運転が可能になる。
【0064】
これに対して、インジェクション回路65を使用するインジェクション制御の暖房運転では、圧縮機21において冷媒が多段で圧縮されるため(図5および図9参照)、冷媒の吐出温度から吸入冷媒の過熱度を推定することができない。このため、圧縮機21の吸入管66に設置された吸入温度センサ74を用いて吸入冷媒の過熱度を直接検出しているが、吸入温度センサ74の検出誤差、あるいは、圧縮機21に吸入される冷媒を気液二相ではなく確実に気相にする必要があること等から、通常制御の暖房運転よりも下流側膨張弁28の開度を絞り気味に制御する。その結果、インジェクション制御の暖房運転では、通常制御の暖房運転よりも、室外熱交換器23における冷媒の蒸発圧力が低下し、室外熱交換器23の温度が低下しやすい。
【0065】
一方、空気調和機1の暖房運転時において、外気温度が低いと、蒸発器として機能する室外熱交換器23に霜が発生することがある。室外熱交換器23に発生する霜の量が多いと、室外熱交換器による冷媒と外気の熱交換が妨げられ、室外熱交換器23における熱交換能力が低下する。このため、空気調和機1の暖房運転中には、室外熱交換器23に発生した霜を融かすための除霜運転が行われる。
【0066】
[除霜運転]
除霜運転は、あらかじめ設定された除霜開始条件を満たしたときに実行される。典型的には、室外熱交換器23に着霜が発生する温度として予め設定された温度以下にまで室外熱交換器23の温度が低下したとき、除霜運転が開始される。室外熱交換器23の温度は、室外熱交中間温度センサ75で検出される温度である。
【0067】
室外機2が除霜運転を行う場合、CPU210は、図1に示すように四方弁22を破線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートbとが連通するよう、また、ポートcとポートdとが連通するよう、切り替える。これにより、冷媒回路10は、室外熱交換器23が凝縮器として機能するとともに室内熱交換器31が蒸発器として機能する。このとき、上流側膨張弁35および下流側膨張弁28は全開とされ、インジェクション膨張弁29は全閉とされ、室外ファン27および室内ファン32の運転が停止される。
【0068】
除霜運転は、一定時間(例えば10分)経過後、あるいは、室外熱交換器23の温度が所定温度(例えば10℃以上)になった時点で終了し、上述した暖房運転が再開される。
【0069】
(除霜運転の開始条件)
上述のように、インジェクション制御の暖房運転では、通常制御の暖房運転よりも室外熱交換器23の温度が低いため、通常制御の暖房運転よりも室外熱交換器23の着霜スピードが速くなる。このため、インジェクション制御の暖房運転において通常制御の暖房運転と同一の除霜開始条件で除霜運転を行うと、通常制御の暖房運転よりも除霜に要する時間が長くなる。その結果、暖房運転の中断時間が長くなるため、室内の居住者の快適性を悪化させるおそれがあるという問題がある。
【0070】
図10は、通常制御の暖房運転時における除霜開始タイミングとインジェクション制御の暖房運転時における除霜開始タイミングとを比較して示す室外熱交温度の時間変化の一例である。同図に示すように、インジェクション制御の暖房運転時は、通常制御の暖房運転時よりも、室外熱交換器23の温度が低く、室外熱交換器23の着霜スピードが速い。このため、インジェクション制御の暖房運転では、通常制御の暖房運転よりも、除霜開始温度に早く到達するため、暖房時間が短くなる。
【0071】
さらに、室外熱交換器23の除霜運転では、除霜率は低いことが要求される。除霜率とは、暖房時間と除霜時間の和に対する除霜時間の割合、つまり、
除霜率=除霜時間/(暖房時間+除霜時間)
と定義される。
したがって、インジェクション制御の暖房運転では、通常制御の暖房運転よりも暖房時間が短いため、除霜開始条件および除霜時間が同じだとすると、運転時間全体において除霜時間が長くなるため、除霜率が高くなる。その結果、暖房運転の中断時間が長くなるため、室内温度が低下し、ユーザーの快適性が悪くなる。
【0072】
そこで、本実施形態では、除霜率が高くなるのを抑えるため、インジェクション制御の暖房運転中における除霜開始条件を、通常制御の暖房運転中における除霜開始条件と異ならせる。具体的には、CPU210が実行する通常制御の暖房運転を第1の暖房運転モードとし、CPU210が実行するインジェクション制御の暖房運転を第2の暖房運転モードとしたとき、CPU210は、第1の暖房運転モードの実行中では室外熱交換器23の温度が第1の所定温度Th1以下に低下したときに除霜運転に切り替える第1の除霜運転モードを実行する。一方、CPU210は、第2の暖房運転モードの実行中では室外熱交換器23の温度が第1の所定温度Th1よりも高い第2の所定温度Th2以下に低下したときに除霜運転に切り替える第2の除霜運転モードを実行する。
【0073】
第1の所定温度Th1は、通常制御の暖房運転において室外熱交換器23に着霜が発生する温度として予め設定された温度である。一方、第2の所定温度Th2は、第1の所定温度Th1よりも高い温度であれば特に限定されない。これら第1の所定温度Th1および第2の所定温度Th2は、記憶部220に格納される。
【0074】
このように、暖房運転中に除霜運転を実行する際に基準となる室外熱交換器23の温度を、通常制御の暖房運転のときよりもインジェクション制御の暖房運転のときの方を高く設定することにより、室外熱交換器23の着霜が過剰となる前に除霜運転を行うことが可能となるため、その分、除霜時間が短くなる。これにより、除霜率が低く抑えられ、ユーザーの快適性を維持することができる。
【0075】
第2の所定温度Th2は、第1の所定温度Th1よりも高いほど除霜運転の開始タイミングが早まるため除霜時間を短縮できるが、第2の所定温度Th2を過剰に高くすると、暖房時間も短くなるため、除霜率は高くなる。そこで、インジェクション制御の暖房運転(第2の暖房運転モード)から除霜運転を実行したときの除霜率が、通常制御の暖房運転(第1の暖房運転モード)から除霜運転を実行したときの除霜率と同程度となるように、第2の所定温度Th2を設定するのが好ましい。そこで本実施形態では、インジェクション制御と通常制御で除霜率が同程度となるように第2の所定温度Th2が予め記憶部220に設定される。これにより、暖房時間あたりの除霜時間を同程度にできるため暖房運転の中断時間が短くなり、室温の低下を抑制してユーザーの快適性を維持することができる。
【0076】
例えば、第1の所定時間Th1が-10℃の場合、第2の所定温度Th2を-7℃にすることで、通常制御の暖房運転とインジェクション制御の暖房運転とにおいて除霜率を互いに同程度とすることができる。同程度とは、通常制御の場合の除霜率とインジェクション制御の場合の除霜率との差が、例えば、±1%以下をいう。
【0077】
図11は、第1の所定温度Th1を-10℃、第2の所定温度Th2を-7℃とした場合における通常制御の暖房運転サイクルとインジェクション制御の暖房運転サイクルとを示す図である。暖房開始から除霜開始までの運転を1回の暖房運転とすると、同図に示すように、通常制御における暖房運転3回(除霜運転2回)のサイクルを、インジェクション制御では暖房運転4回(除霜運転3回)のサイクルで実現できる。このときの通常制御における暖房時間および除霜時間はそれぞれ57分および10分、インジェクション制御における暖房時間および除霜時間はそれぞれ45分および8分であった。除霜率については、通常制御の場合は14.9%、インジェクション制御の場合は15.1%であった。
【0078】
典型的には、第1の所定温度Th1を基準値として除霜運転を行う第1の除霜運転モードは、通常制御の暖房運転の継続時に実行される除霜運転モードであり、第2の所定温度Th2を基準値として除霜運転を行う第2の除霜運転モードは、インジェクション制御の暖房運転の継続時に実行される除霜運転モードである。このとき、1回の暖房運転の運転時間中にインジェクション制御の暖房運転が行われたときは、除霜運転として第2の除霜運転モードを実行するようにしてもよい。例えば、通常制御の暖房運転中にインジェクション制御開始条件が成立してインジェクション制御の暖房運転に切り替えられた場合は、第2の所定温度Th2を基準とする第2の除霜運転モードが採用される。これにより、例えば短時間でもインジェクション制御の暖房運転により室外熱交換器23の着霜スピードが変化した場合でも、着霜量が過剰になることを未然に防ぐことができる。
【0079】
(暖房運転時の処理手順の一例)
図12は、暖房運転時における室外機制御装置200のCPU210が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【0080】
CPU210は、暖房運転を開始すると、圧縮機21、上流側膨張弁35、下流側膨張弁28の起動制御を行う(ST101)。圧縮機21の起動制御は、圧縮機21からの吐油量を抑える目的で段階的に回転数を上昇させる制御である。上流側膨張弁35及び下流側膨張弁28の起動制御は、予め試験等で定められ、外気温に応じた初期パルスが記憶部220にそれぞれ記憶されており、当該初期パルスで開度を固定する制御である。次に、CPU210は、起動制御の終了条件が成立したか否かを判定し(ST102)、終了条件が成立していれば(ST102-YES)、圧縮機21、上流側膨張弁35、下流側膨張弁28を通常制御に切り換える(ST103)。終了条件が成立していなければ(ST102-NO)、ST102に戻る。通常制御では、圧縮機21は要求能力に対応する回転数に制御、上流側膨張弁35はSC制御、下流側膨張弁28は吸入SH制御とする。
【0081】
続いて、CPU210は、室外熱交中間温度センサ75の検出値に基づく室外熱交換器23の温度Teが第1の所定温度Th1(例えば、-10℃)以下であるか否かを判定する(ST104)、室外熱交換器23の温度Teが第1の所定値Th1以下の場合は(ST104-Yes)、除霜運転を開始する(ST110、第1の除霜運転モード)。一方、室外熱交換器23の温度Teが第1の所定値Th1より高い場合は(ST104-No)、インジェクション制御開始条件を満たすか否かを判定する(ST105)。
【0082】
CPU210は、通常制御の暖房運転を行っているときに、以下の(a)~(c)の条件のうち、少なくとも(c)を満たすとき、インジェクション制御開始条件を満たすと判定する。
(a)圧縮機21の回転数が所定回転数(例えば、50rps)以上のとき、
(b)外気温度が所定温度(例えば、2℃)以下のとき、
(c)圧縮機21から吐出される冷媒の過熱度である吐出SHが所定温度(例えば、30℃)以上のとき
【0083】
吐出SHは、吐出温度センサ73の検出値と室内熱交中間温度センサ77aの検出値が用いられる。なお、吐出温度センサ73および室内熱交中間温度センサ77aは、本発明における吐出過熱度検出手段に相当する。
【0084】
CPU210は、インジェクション制御開始条件を満たすと判定した場合は(ST105-Yes)、インジェクション制御の暖房運転を開始する(ST106)。具体的には、インジェクション膨張弁29による吐出温度制御を開始する。一方、CPU210は、インジェクション制御開始条件を満たさないと判定した場合は(ST105-No)、ST104の判定に戻る。
【0085】
続いて、CPU210は、室外熱交中間温度センサ75の検出値に基づく室外熱交換器23の温度Teが第2の所定温度Th2(例えば、-7℃)以下であるか否かを判定する(ST107)、室外熱交換器23の温度Teが第2の所定値Th2以下の場合は(ST107-Yes)、除霜運転を開始する(ST110、第2の除霜運転モード)。一方、室外熱交換器23の温度Teが第2の所定値Th2より高い場合は(ST107-No)、インジェクション制御終了条件を満たすか否かを判定する(ST108)。
【0086】
インジェクション終了条件は、例えば、室温制御による圧縮機21の停止時、運転停止指示による圧縮機21停止時、冷房暖房への切換時などであり、これらのうち1つでも成立していれば(ST108-YES)、CPU210は、インジェクション制御を終了する(ST109)。上記のインジェクション終了条件がいずれも成立していなければ(ST108-NO)、ST107の判定に戻る。
【0087】
インジェクション制御終了後は、通常制御の暖房運転に復帰する。この際、除霜開始条件は、第1の所定値Th1を基準とする通常制御の暖房運転における除霜開始条件(ST104)が用いられてもよいし、第2の所定値Th2を基準とするインジェクション制御の暖房運転における除霜開始条件(ST107)が用いられてもよい。インジェクション制御の暖房運転における除霜開始条件(ST107)が用いられる場合、この除霜開始条件は、その暖房運転が終了するまで継続して用いられる。
【0088】
CPU210は、上述のように、通常制御での暖房運転中に室外熱交換器23の温度Teが第1の所定温度Th1以下であると判定したとき(ST104-Yes)、あるいは、インジェクション制御での暖房運転中に室外熱交換器23の温度Teが第2の所定温度Th2以下である判定したとき(ST107-Yes)、除霜運転を開始する(ST110)。除霜運転の開始後、CPU210は、除霜運転終了条件を満たすか否かを判定する(ST111)。除霜運転終了条件は、例えば、除霜運転を開始してから所定時間(例えば10分)経過したとき、あるいは、除霜運転中に室外熱交換器23の温度が所定温度(例えば10℃以上)になったときである。除霜運転終了条件が成立していれば(ST111-Yes)、室外熱交換器23に発生した霜が全て融けたと判断して除霜運転を終了し、ST103に戻って通常制御の暖房運転を再開する。一方、除霜運転終了条件が成立していなければ(ST111-No)、除霜運転を継続する。
【符号の説明】
【0089】
1…空気調和機
10…冷媒回路
21…圧縮機
22…四方弁(流路切替器)
23…室外熱交換器
28…下流側膨張弁(第2膨張弁)
29…インジェクション膨張弁
31…室内熱交換器
35…上流側膨張弁(第1膨張弁)
65…インジェクション配管(インジェクション回路)
73…吐出温度センサ
75…室外熱交中間温度センサ
82…冷媒間熱交換器
200…室外機制御装置(制御装置)
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