(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240702BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240702BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20240702BHJP
【FI】
G08G1/16 A
B60T7/12 C
B60W30/09
(21)【出願番号】P 2020074223
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】大村 博志
(72)【発明者】
【氏名】中山 隆
(72)【発明者】
【氏名】片山 翔太
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-511505(JP,A)
【文献】特開2018-045385(JP,A)
【文献】特開2017-211973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向に存在する障害物との衝突を回避するための車両制御装置であって、
前記車両の現在のヨーレートから予測される進行方向に基づいて、前記車両が通過する幅を有する第1予測走行経路を算出し、
前記車両の現在の舵角から予測される進行方向に基づいて、前記車両が通過する前記幅を有する第2予測走行経路を算出し、
前記第1予測走行経路と前記第2予測走行経路との重複領域内に前記障害物が侵入している場合
であって、且つ、前記第1予測走行経路への前記障害物の幅方向の侵入率が第1閾値以上であり、且つ、前記第2予測走行経路への前記障害物の幅方向の侵入率が前記第1閾値とは異なる第2閾値以上である場合
、衝突回避処理の実行を許容する、車両制御装置。
【請求項2】
前記第1予測走行経路と前記第2予測走行経路との重複領域内に前記障害物が侵入している場合とは、前記重複領域への前記障害物の幅方向の侵入率が所定侵入閾値以上の場合
である、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記第2閾値は、前記第1閾値よりも小さく設定されている、請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記衝突回避処理は、報知装置による警報の発生、及び/又は、ブレーキ装置による前記車両への制動力の付与を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に係り、特に、車両と障害物との衝突を回避するための車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、障害物(例えば、他車両)との衝突を回避するための運転支援技術(すなわち、自動衝突回避制御)が知られている(例えば、特許文献1参照)。自動衝突回避制御では、車両の将来の予測位置と障害物の将来の予測位置との関係に基づいて、自動衝突回避操作(例えば、自動ブレーキ、自動操舵)の介入の要否が判定される。
【0003】
自動衝突回避制御では、自動衝突回避操作の不要な介入を防止することが課題となっている。このため、車両の将来の位置を精度よく予測することが要求される。この点について、特許文献1には、単に車両のヨーレート及び舵角等を用いて将来の予測位置が計算されることが記載されているだけであって、予測位置の精度改善については言及されていない。
【0004】
また、特許文献2には、車両の予測走行経路を2通りの算出方法によって算出することが記載されている。すなわち、車両の現在の舵角を用いる算出方法と、車両の現在のヨーレートを用いる算出方法である。特許文献2では、現在の舵角の大きさに応じて、いずれか一方の算出方法により得られた予測走行経路が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-86102号公報
【文献】特開平8-16998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のように舵角を用いて算出された予測走行経路とヨーレートを用いて算出された予測走行経路のうちどちらの位置精度が高いかは、舵角以外の要素(例えば、バンク角、路面摩擦係数μ)によっても異なる。よって、自動衝突回避制御において、依然として、衝突回避処理の不要な介入を防止するため、車両の将来の予測位置の精度を向上する必要性がある。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、車両と障害物との衝突を回避する衝突回避処理の不要な介入を抑制することが可能な車両制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両の進行方向に存在する障害物との衝突を回避するための車両制御装置であって、車両の現在のヨーレートから予測される進行方向に基づいて、車両が通過する幅を有する第1予測走行経路を算出し、車両の現在の舵角から予測される進行方向に基づいて、車両が通過する幅を有する第2予測走行経路を算出し、第1予測走行経路と第2予測走行経路との重複領域内に障害物が侵入している場合であって、且つ、第1予測走行経路への障害物の幅方向の侵入率が第1閾値以上であり、且つ、第2予測走行経路への障害物の幅方向の侵入率が第1閾値とは異なる第2閾値以上である場合、衝突回避処理の実行を許容することを特徴としている。
【0009】
このように構成された本発明によれば、第1予測走行経路と第2予測走行経路との重複領域は、車両が将来的に通過する領域としての位置精度が相当程度に高いが、重複領域の外側は、位置精度がそれほど高くないと考えられる。よって、このように構成された本発明によれば、位置精度が高い重複領域に障害物が侵入している場合に、衝突回避処理の実行を許容することにより、衝突回避処理の不要な介入を抑制することができる。また、このように構成された本発明によれば、各予測走行経路への侵入率に対して個別に閾値を設定することにより、衝突回避処理の自動介入の必要性をより的確に判定することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、車両制御装置は、重複領域への障害物の幅方向の侵入率が所定侵入閾値以上の場合に、衝突回避処理の実行を許容する。このように構成された本発明によれば、障害物の大きさを考慮して、車両の予測走行経路内の位置精度の高い領域(重複領域)内に位置するか否かを判定することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、第2閾値は、第1閾値よりも小さく設定されている。本発明において、舵角に基づく第2予測走行経路は、ステアリングホイールの構造的な遊びに起因して変動し易い。そこで、本発明では、第2予測走行経路に対する進入率が、第1予測走行経路に対する侵入率より小さい場合に衝突回避処理の実行を許容することにより、必要な衝突回避処理が誤判定により実行されないことを防止することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、衝突回避処理は、報知装置による警報の発生、及び/又は、ブレーキ装置による前記車両への制動力の付与を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両制御装置によれば、車両と障害物との衝突を回避する自動衝突回避操作の不要な介入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態による車両制御装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施形態による衝突判定の説明図である。
【
図3】本発明の実施形態による第1予測走行経路の説明図である。
【
図4】本発明の実施形態による第2予測走行経路の説明図である。
【
図5】本発明の実施形態による自動衝突回避制御の処理フローである。
【
図6】本発明の実施形態による自動衝突回避制御の閾値である。
【
図7A】本発明の実施形態による自動衝突回避制御の代替的な処理フローである。
【
図7B】本発明の実施形態による自動衝突回避制御の代替的な処理フローである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置について説明する。
まず、
図1を参照して、車両制御装置の構成について説明する。
図1は車両制御装置の構成図である。
【0018】
本実施形態の車両制御装置100は、これを搭載した車両1(
図2等参照)に対して自動衝突回避制御を実行するように構成されている。すなわち、車両1の進行方向前方に存在する障害物3(
図2等参照)との衝突が予想される場合、車両制御装置100は、運転者に対して警報を発し、液圧ブレーキ装置を作動させて車両1へ制動力を付与する。
【0019】
図1に示すように、車両制御装置100は、車両制御演算部(ECU)10と、複数のセンサと、複数の車両装置を備えている。複数のセンサには、車載カメラ21,レーダ22,車速センサ23,ヨーレートセンサ24,舵角センサ25が含まれる。また、複数の車両装置には、ブレーキ制御システム32,報知装置34が含まれる。
【0020】
ECU10は、プロセッサ,各種プログラムを記憶するメモリ,入出力装置等を備えたコンピュータにより構成される。ECU10は、複数のセンサから受け取った信号に基づき、ブレーキ制御システム32,報知装置34に対して、作動制御信号を出力可能に構成されている。
【0021】
車載カメラ21は、車両1の周囲を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて物標(例えば、車両、歩行者、区画線(車線境界線、白線、黄線)、障害物等)の属性を特定する。また、ECU10は、画像データに基づいて車両1と物標との間の距離,車両1に対する物標の横方向位置や相対速度等を算出する。なお、ECU10は、交通インフラや車々間通信等によって、車載通信機器を介して外部から物標の情報を取得してもよい。
【0022】
レーダ22は、物標の位置及び速度を測定するミリ波レーダ測定装置であり、車両1の前方へ向けて電波(送信波)を送信し、物標により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と物標との間の距離,車両1に対する物標の相対速度等を測定する。なお、本実施形態において、レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等を用いて物標との距離や相対速度を測定するように構成してもよい。
【0023】
車速センサ23は、車両1の絶対速度を検出する。
ヨーレートセンサ24は、車両1のヨーレートを検出する。
舵角センサ25は、車両1のステアリングホイールの回転角度(舵角)を検出する。
【0024】
ブレーキ制御システム32は、車両1の液圧ブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、車両1への制動力の発生を要求するブレーキ作動制御信号を出力する。
【0025】
報知装置34は、車両1の車室内に設けられたディスプレイ,表示灯,スピーカ等であり、視覚的及び聴覚的な警報(画像表示,警報光,警報音)を発生させることができる。ECU10は、障害物との衝突可能性がある場合に、報知装置34へ作動制御信号を出力し、報知装置34を作動させる。これにより、報知装置34は、障害物との衝突についての警報を運転者へ出力する。
【0026】
次に、
図2~
図4を参照して、本実施形態による車両制御装置における自動衝突回避制御の概要を説明する。
図2は衝突判定の説明図、
図3は第1予測走行経路の説明図、
図4は第2予測走行経路の説明図である。
【0027】
ECU10は、自動衝突回避制御において、車両1が通過する2つの予測走行経路を計算する。予測走行経路は、予測走行領域であり、すなわち、車両1が通過すると予測される帯状の領域である。第1予測走行経路R1は、車両1の現在のヨーレートφから予測される車両挙動に基づいて計算される。第2予測走行経路R2は、車両1の現在の舵角θから予測される車両挙動に基づいて計算される。第1予測走行経路R1及び第2予測走行経路R2は、いずれも車両1の現在の速度Vが維持されると仮定して算出される。
【0028】
まず、ECU10は、車両1の現在の車両の挙動又は車両運動(速度V,ヨーレートφ)に基づいて所定期間分(例えば、3~5秒)の第1予測走行経路R1を計算する。具体的には、第1予測走行経路R1は、車両1が現在の速度Vを維持し、且つ、現在のヨーレートφから予測される進行方向に車両1が走行するとの仮定に基づいており、旋回半径r1(=V/φ)で規定される円弧経路を定常円旋回したときに、車両1が通過する領域として計算される。よって、第1予測走行経路R1は、車両1の車幅に相当する幅Waを有する帯状の領域である。第1予測走行経路R1の進行方向における各位置での予測速度は現在の速度Vに設定され、各位置は円弧経路上を車両1が速度Vで走行した場合における通過位置に設定される。
【0029】
次に、ECU10は、車両1の現在の運転操作状態(速度V,舵角θ)に基づいて所定期間分の第2予測走行経路R2を計算する。具体的には、第2予測走行経路R2は、車両1が現在の速度Vを維持し、且つ、現在の舵角θから予測される進行方向に車両1が走行するとの仮定に基づいており、旋回半径r2で規定される円弧経路を定常円旋回したときに、車両1が通過する領域として計算される。よって、第2予測走行経路R2は、第1予測走行経路R1と同様に、車両1の車幅に相当する幅Waを有する帯状の領域である。旋回半径r2は、以下の式で表される。
r2=N・L・(1+K・V2)/θ
【0030】
ここで、Nはステアリングギアレシオ、Lはホイールベース(m)、Kはスタビリティファクタである。なお、スタビリティファクタは、車両1の曲がり易さの指標であり、路面の摩擦係数等に依存する。本実施形態では、スタビリティファクタは所定の値(固定値)に設定されるが、路面状況等によって変動する変動値としてもよい。
【0031】
運転操作状態(具体的には、舵角θ)に基づいて設定される第2予測走行経路R2は、ステアリングホイールの構造的な遊びに起因した微細な回転動作により時間的に変動し易い。一方、車両挙動(ヨーレートφ)に基づいて設定される第1予測走行経路R1は、車両挙動がステアリングホイールよりも時間的に変動し難いため、第2予測走行経路R2よりも時間的に変化し難い。そこで、本実施形態では、第1予測走行経路R1を主たる予測走行経路とし、第2予測走行経路R2を従たる予測走行経路として扱う。
【0032】
図2に示すように、第1予測走行経路R1と第2予測走行経路R2は、通常完全には一致せず、互いに重複する重複領域R0(オーバーラップ領域R0)を有する。
図2では、車両1の進行方向前方に障害物3(例えば、他車両)が検出されており、障害物3の一部が重複領域R0内に侵入している。本実施形態の自動衝突回避制御では、障害物3の少なくとも一部が重複領域R0に位置している場合、車両1と障害物3とが衝突する可能性があると判定される。
【0033】
ECU10は、
図2に示すように、重複領域R0に対する障害物3の幅方向におけるオーバーラップ率F0(侵入率)を算出する。そのため、ECU10は、車載カメラ21による画像データに基づいて、障害物3の幅Wbを算出すると共に、重複領域R0内に侵入している障害物3の侵入長さW0を算出する。ECU10は、取得したWb及びW0に基づいて、オーバーラップ率F0(=W0/Wb)を算出する。
【0034】
さらに、ECU10は、
図3に示すように、第1予測走行経路R1に対する障害物3の幅方向におけるオーバーラップ率F1(侵入率)を算出する。そのため、ECU10は、車載カメラ21による画像データに基づいて、第1予測走行経路R1内に侵入している障害物3の侵入長さW1を算出する。ECU10は、取得したWb及びW1に基づいて、オーバーラップ率F1(=W1/Wb)を算出する。
【0035】
また、ECU10は、
図4に示すように、第2予測走行経路R2に対する障害物3の幅方向におけるオーバーラップ率F2(侵入率)を判定する。そのため、ECU10は、車載カメラ21による画像データに基づいて、第2予測走行経路R2内に侵入している障害物3の侵入長さW2を算出する。ECU10は、取得したWb及びW2に基づいて、オーバーラップ率F2(=W2/Wb)を算出する。
【0036】
障害物3が重複領域R0に位置する場合、車両1が障害物3と衝突する可能性は高くなる。本実施形態では、障害物3が重複領域R0に位置するという条件下で、オーバーラップ率F1,F2が、それぞれ所定条件を満たすと、衝突回避処理の実行が許容状態(スタンバイ状態)となる。具体的には、オーバーラップ率F0,F1,F2が、それぞれ所定の閾値S0,S1,S2以上である場合に、衝突回避処理の実行が許容される。そして、本実施形態では、衝突回避処理の実行が許容されている状態において、衝突余裕時間TTCが所定の閾値時間(T1,T2)以下になると衝突回避処理が実行される。
【0037】
このように本実施形態では、異なる方法により計算された2つの予測走行経路の重複領域R0に障害物3が存在することを衝突回避処理の実行条件の一つとしている。これにより、本実施形態では、障害物3との衝突しないような状態において、自動衝突回避処理が誤って実行されることを防止することができる。
【0038】
本実施形態では、自動衝突回避制御において、複数の衝突回避処理(第1,第2及び第3衝突回避処理)が順次に実行されるように構成されている。複数の衝突回避処理は、報知装置34による警報の発生(警報処理),ブレーキ制御システム32による車両1への制動力の付与(緊急自動ブレーキ処理)を含む。緊急自動ブレーキ処理は、所定の減速度を与えるための1次ブレーキ処理と、1次ブレーキ処理よりも更に大きな減速度を与えるための2次ブレーキ処理を含む。例えば、1次ブレーキ処理の減速度は、1.6秒以内に車両1が停止するような大きさに設定され、2次ブレーキ処理の減速度は、1.0秒以内に車両1が停止するような大きさに設定される。
【0039】
第1衝突回避処理は、予備的警報処理のみであり、衝突余裕時間TTCが所定の閾値時間(例えば、2.4秒)に達すると実行される。予備的警報処理では、運転者に衝突のおそれがあることが報知される。第2衝突回避処理は、1次ブレーキ処理と1次警報処理であり、衝突余裕時間TTCが所定の閾値時間(例えば、1.6秒)に達すると実行される。1次警報処理では、衝突回避のための予備的なブレーキが印加されることが報知される。第3衝突回避処理は、2次ブレーキ処理と2次警報処理であり、衝突余裕時間TTCが所定の閾値時間(例えば、1.0秒)に達すると実行される。2次警報処理では、衝突回避のための最終的なブレーキが印加されることが報知される。
【0040】
これら複数の衝突回避処理は、上述のように、衝突余裕時間TTCに応じて実行される。各衝突回避処理に対して、TTCに関する閾値時間が異なるように設定されている。衝突余裕時間TTCは、車両1と物標(障害物3)との間の距離Dを、物標に対する車両1の相対速度Vrで除すことにより算出される(TTC=D/Vr)。
【0041】
なお、衝突回避処理として、1次ブレーキ処理,2次ブレーキ処理に加えて、又は、代えて、障害物3との衝突を回避するために、車両1において、ステリング処理を自動介入させてもよい。
【0042】
次に、
図5及び
図6を参照して、本実施形態の車両制御装置100における自動衝突回避制御の処理フローを説明する。
図5は自動衝突回避制御の処理フロー、
図6は自動衝突回避制御の閾値である。
【0043】
ECU10は、
図5の処理フローを所定時間(例えば、0.1秒)ごとに繰り返して実行している。まず、ECU10は、センサ情報取得処理を実行する(S101)。センサ情報取得処理において、ECU10は、車載カメラ21,レーダ22,車速センサ23,ヨーレートセンサ24,舵角センサ25等からセンサ情報を取得する。
【0044】
次に、ECU10は、センサ情報取得処理(S101)において取得した各種の情報を用いて車両情報取得処理を実行する(S102)。車両情報取得処理において、ECU10は、車両1の速度V,ヨーレートφ,舵角θ等を取得すると共に、車両1の周囲及び前方エリアに存在する物標に関する物標情報を取得する。物標情報は、物標の属性,位置(車両1に対する縦方向位置,横方向位置,離間距離),相対速度,寸法(特に、物標の幅)等を含む。また、ECU10は、その他のデータ(ステアリングギアレシオ、ホイールベース,スタビリティファクタ等)をメモリや他の制御装置から取得する。
【0045】
次に、ECU10は、取得した車両情報に基づいて、第1予測走行経路R1及び第2予測走行経路R2を算出し(S103)、第1予測走行経路R1と第2予測走行経路R2との重複領域R0を算出する(S104)。さらに、ECU10は、物標(
図2では障害物3)が重複領域R0内に存在する場合、オーバーラップ率F0を算出し、オーバーラップ率F0が所定の閾値S0以上か否かを判定する(S105)。本実施形態では、閾値S0は0.2(20%)である。
【0046】
オーバーラップ率F0が閾値S0未満の場合(S105:No,F0<S0)、ECU10は処理を終了する。よって、障害物3が検出されない場合、及び、障害物3は検出されているがオーバーラップ率F0が閾値S0よりも小さい場合、衝突可能性が低いので、ECU10は処理を終了する。なお、代替的に、閾値S0がほぼゼロの正の数であってもよい。すなわち、本処理フローは、ステップS105において物標の少なくとも一部が重複領域R0内に位置すれば(F0が正であれば)、ステップS106が行われるように構成してもよい。
【0047】
一方、オーバーラップ率F0が閾値S0以上の場合(S105:Yes,F0≧S0)、ECU10は、オーバーラップ率F1を算出し、オーバーラップ率F1が所定の閾値S1以上か否かを判定する(S106)。本実施形態では、閾値S1は0.34(34%)である。オーバーラップ率F1が閾値S1未満の場合(S106:No,F1<S1)、ECU10は処理を終了する。
【0048】
一方、オーバーラップ率F1が閾値S1以上の場合(S106:Yes,F1≧S1)、ECU10は、オーバーラップ率F2を算出し、算出されたオーバーラップ率F2に応じて、第1~第3衝突回避処理のいずれの処理を実行するかについて判定処理を実行する。
【0049】
まず、オーバーラップ率F2が閾値S2a以上の場合(S107:Yes,F2≧S2a)について説明する。本実施形態では、閾値S2aは0.30(30%)である。この場合、ECU10は、TTCに応じて、第1~第3衝突回避処理のいずれの処理を実行するかを決定する(S109,S113,S117)。すなわち、TTCが2次ブレーキ処理のための閾値T1a以下になると(S109:Yes、TTC≦T1a)、ECU10は、第3衝突回避処理を実行して(S110)、処理を終了する。第3衝突回避処理では、ECU10は、ブレーキ制御システム32へ2次ブレーキ処理を実行するためのブレーキ作動制御信号を出力し、報知装置34へ作動制御信号を出力して2次警報処理を実行させる。本実施形態では、閾値T1aは1.0(秒)である。
【0050】
また、TTCが閾値T1aより大きいが、1次ブレーキ処理のための閾値T1b以下になると(S113:Yes、T1a<TTC≦T1b)、ECU10は、第2衝突回避処理を実行して(S114)、処理を終了する。第2衝突回避処理では、ECU10は、ブレーキ制御システム32へ1次ブレーキ処理を実行するためのブレーキ作動制御信号を出力し、報知装置34へ作動制御信号を出力して1次警報処理を実行させる。本実施形態では、閾値T1bは1.6(秒)である。
【0051】
また、TTCが閾値T1bより大きいが、2次ブレーキ処理のための閾値T1c以下になると(S117:Yes、T1b<TTC≦T1c)、ECU10は、第1衝突回避処理を実行して(S118)、処理を終了する。第1衝突回避処理では、ECU10は、報知装置34へ作動制御信号を出力して予備的警報処理を実行させる。本実施形態では、閾値T1cは2.4(秒)である。
【0052】
また、TTCが閾値T1cより大きい場合(S117:No、T1c<TTC)、ECU10は処理を終了する。この場合、物標(障害物3)は、車両1から離れているので、衝突回避処理は実行されない。
【0053】
次に、オーバーラップ率F2が閾値S2b以上でS2a未満である場合(S107:No,S111:Yes、S2b≦F2<S2a)について説明する。本実施形態では、閾値S2bは0.20(20%)である。この場合、ECU10は、TTCに応じて、第1~第2衝突回避処理のいずれの処理を実行するかを決定する(S113,S117)。すなわち、物標(障害物3)は、第1予測走行経路R1に対して閾値S1以上の侵入率で重なっているので(S106:Yes)、衝突の可能性はあるが、第2予測走行経路R2に対して閾値S2b~S2aの範囲の侵入率でしか重なっていないので(S107:No)、第1及び第2衝突回避処理についてのみ実行するか否かの判断が行われる。
【0054】
上述のように舵角θは時間的に変動し易いので、第2予測走行経路R2も変動し易い。よって、障害物3がより遠方に位置するほど、オーバーラップ率F2が変動し易くなる。このため、本実施形態では、オーバーラップ率F2が閾値S2a未満であっても(S107:No)、閾値時間がより長い衝突回避処理(この場合、第1,第2衝突回避処理)の実行を許容することにより、必要な衝突回避処理が誤判定により実行されないことを防止することができる。
【0055】
具体的には、TTCが閾値T1b以下になると(S113:Yes、TTC≦T1b)、ECU10は、第2衝突回避処理を実行して(S114)、処理を終了する。一方、TTCが閾値T1bより大きいが、閾値T1c以下になると(S117:Yes、T1b<TTC≦T1c)、ECU10は、第1衝突回避処理を実行して(S118)、処理を終了する。また、TTCが閾値T1cより大きい場合(S117:No、T1c<TTC)、ECU10は処理を終了する。
【0056】
次に、オーバーラップ率F2が閾値S2c以上でS2b未満である場合(S107:No,S111:No,S115:Yes、S2c≦F2<S2b)について説明する。本実施形態では、閾値S2cは閾値S2bと同じ0.20(20%)である。しかしながら、代替的に、閾値S2cは閾値S2bよりも小さな値(例えば、0.15)であってもよい。この場合、ECU10は、TTCに応じて、第1衝突回避処理を実行するか否かを決定する(S117)。すなわち、物標(障害物3)は、第1予測走行経路R1に対して閾値S1以上の侵入率で重なっているので(S106:Yes)、衝突の可能性はあるが、第2予測走行経路R2に対して閾値S2c~S2bの範囲の侵入率でしか重なっていないので(S111:No)、第1衝突回避処理についてのみ実行するか否かの判断が行われる。
【0057】
本実施形態では、オーバーラップ率F2が閾値S2b未満であっても(S111:No)、閾値時間がより長い衝突回避処理(この場合、第1衝突回避処理)の実行を許容することにより、必要な衝突回避処理が誤判定により実行されないことを防止することができる。
【0058】
具体的には、TTCが閾値T1c以下になると(S117:Yes、TTC≦T1c)、ECU10は、第1衝突回避処理を実行して(S118)、処理を終了する。一方、TTCが閾値T1cより大きい場合(S117:No、T1c<TTC)、ECU10は処理を終了する。
【0059】
本実施形態では、車両1の現在の運転操作状態(舵角θ)に基づいて算出される第2予測走行経路R2の位置精度よりも、車両1の現在の車両挙動(ヨーレートφ)に基づいて算出される第1予測走行経路R1の位置精度の方が、高いことを前提としている。よって、障害物3が重複領域R0と重なっている条件下において、オーバーラップ率F1が高い場合(F1≧S1)にのみ、第1~第3衝突回避処理が実行される。そして、オーバーラップ率F2は、いずれの衝突回避処理を実行するかの判断に用いられる。具体的には、オーバーラップ率F2が高いほど、より高次の衝突回避処理が実行される。すなわち、オーバーラップ率F1及びF2が共に高い方が(又は、両者の差が小さい方が)、車両の将来の予測位置の精度(すなわち、第1及び第2予測走行経路の位置精度)が高いと判定される。これにより、本実施形態では、位置精度がより高いと判定される場合に、第1~第3衝突回避処理が実行されるので、自動衝突回避処理の不要な介入を抑制することができる。
【0060】
次に、
図7A,
図7B及び
図6を参照して、本実施形態の車両制御装置100における自動衝突回避制御の代替的な処理フローを説明する。
図7A及び
図7Bは自動衝突回避制御の代替的な処理フローである。車両制御装置100は、
図5の処理フローに代えて、
図7A及び
図7Bに示す代替的な処理フローを用いることができる。
【0061】
図5の処理フローでは、オーバーラップ率F1が閾値S1よりも小さい場合(S106:No)、いずれの衝突回避処理も実行されないように構成されていた。一方、代替的な処理フローでは、オーバーラップ率F1が閾値S1よりも小さい場合であっても(S206:No)、状況に応じて、いずれかの衝突回避処理が実行されるように構成されている。また、
図5の処理フローでは、オーバーラップ率F2が閾値S2cより小さい場合(S115:No)、処理が終了されていた。一方、代替的な処理フローでは、オーバーラップ率F2が閾値S2cより小さい場合であっても(S215:No)、状況に応じて、いずれかの衝突回避処理が実行されるように構成されている。なお、
図7Aに示すステップS201~S218は、
図5のステップS101~S118と同じであるので説明を省略する。
【0062】
ステップS206において、オーバーラップ率F1が閾値S1よりも小さい場合(S206:No)、ECU10は、オーバーラップ率F2を算出し、算出されたオーバーラップ率F2に応じて、第1~第3衝突回避処理のいずれの処理を実行するかについて判定処理を実行する。
【0063】
まず、オーバーラップ率F2が閾値S2a以上の場合(S219:Yes,F2≧S2a)について説明する。この場合、TTCに応じて、第1~第3衝突回避処理のいずれの処理を実行するかが決定される(S221,S225,S229)。すなわち、TTCが2次ブレーキ処理のための閾値T2a以下になると(S221:Yes、TTC≦T2a)、第3衝突回避処理が実行される(S222)。また、TTCが閾値T2aより大きいが、閾値T2b以下になると(S225:Yes、T2a<TTC≦T2b)、第2衝突回避処理が実行される(S226)。また、TTCが閾値T2bより大きいが、閾値T2c以下になると(S229:Yes、T2b<TTC≦T2c)、第1衝突回避処理が実行される(S230)。また、TTCが閾値T2cより大きいと(S229:No、T2c<TTC)、処理は終了される。
【0064】
なお、閾値T2aは、閾値T1aよりも小さい0.8(秒)に設定され、閾値T2bは閾値T1bよりも小さい1.4(秒)に設定され、閾値T2cは、閾値T1cよりも小さい2.2(秒)に設定されている。
【0065】
したがって、代替的な実施形態では、オーバーラップ率F1が低い場合には(S206:No)、オーバーラップ率F1が高い場合(S206:Yes)と比べて、遅いタイミングで第1~第3衝突回避処理が実行される。これにより、車両1の将来の位置精度が比較的低いと考えられる場合(S206:No)において、自動衝突処理の不要な介入を抑制することができる。
【0066】
次に、オーバーラップ率F2が閾値S2b以上でS2a未満である場合(S219:No,S223:Yes、S2b≦F2<S2a)について説明する。この場合、TTCに応じて、第1~第2衝突回避処理のいずれの処理を実行するかが決定される(S225,S229)。具体的には、TTCが閾値T2b以下になると(S225:Yes、TTC≦T2b)、第2衝突回避処理が実行される(S226)。一方、TTCが閾値T2bより大きいが、閾値T2c以下になると(S229:Yes、T2b<TTC≦T2c)、第1衝突回避処理が実行される(S230)。また、TTCが閾値T2cより大きいと(S229:No、T2c<TTC)、処理は終了される。
【0067】
次に、オーバーラップ率F2が閾値S2c以上でS2b未満である場合(S219:No,S223:No,S227:Yes、S2c≦F2<S2b)について説明する。この場合、TTCに応じて、第1衝突回避処理を実行するか否かが決定される(S229)。具体的には、TTCが閾値T2c以下になると(S229:Yes、TTC≦T2c)、第1衝突回避処理が実行される(S230)。一方、TTCが閾値T2cより大きいと(S229:No、T2c<TTC)、処理は終了される。
【0068】
図7A及び
図7Bに示す代替的な実施形態では、障害物3が重複領域R0と重なっている条件下において、信頼性がより高いと考えられる第1予測走行経路R1についてのオーバーラップ率F1が小さい場合であっても(S206:No)、作動タイミングを遅らせて第1~第3衝突回避処理が実行され得る。これにより、代替的な実施形態では、安全性を確保しつつ、自動衝突回避処理の不要な介入を抑制することができる。
【0069】
次に、本実施形態における車両制御装置100の作用について説明する。本実施形態において、車両1の進行方向に存在する障害物3との衝突を回避するための車両制御装置100は、車両1の現在のヨーレートφから予測される進行方向に基づいて、車両1が通過する幅Waを有する第1予測走行経路R1を算出し、車両1の現在の舵角θから予測される進行方向に基づいて、車両1が通過する幅Waを有する第2予測走行経路R2を算出し、第1予測走行経路R1と第2予測走行経路R2との重複領域R0内に障害物3が侵入している場合、衝突回避処理の実行を許容する。
【0070】
本実施形態において、第1予測走行経路R1と第2予測走行経路R2との重複領域R0は、車両1が将来的に通過する領域としての位置精度が相当程度に高いが、重複領域R0の外側は、位置精度がそれほど高くないと考えられる。よって、このように構成された本実施形態では、位置精度が高い重複領域R0に障害物3が侵入している場合に、衝突回避処理の実行を許容することにより、衝突回避処理の不要な介入を抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態では、車両制御装置100は、重複領域R0への障害物3の幅方向のオーバーラップ率F0が所定侵入閾値S0以上の場合に、衝突回避処理の実行を許容する。このように構成された本実施形態では、障害物3の大きさを考慮して、車両1の予測走行経路内の位置精度の高い領域(重複領域R0)内に位置するか否かを判定することができる。
【0072】
また、本実施形態では、車両制御装置100は、第1予測走行経路R1への障害物3の幅方向のオーバーラップ率F1が第1閾値S1以上であり、且つ、第2予測走行経路R2への障害物3の幅方向のオーバーラップ率F2が第1閾値S1とは異なる第2閾値S2(S2a-S2c)以上である場合、衝突回避処理の実行を許容する。このように構成された本実施形態では、各予測走行経路(R1,R2)へのオーバーラップ率(F1,F2)に対して個別に閾値を設定することにより、衝突回避処理の自動介入の必要性をより的確に判定することができる。
【0073】
また、本実施形態では、第2閾値S2(S2a-S2c)は、第1閾値S1よりも小さく設定されている。本実施形態において、舵角θに基づく第2予測走行経路R2は、ステアリングホイールの構造的な遊びに起因して変動し易い。そこで、本実施形態では、第2予測走行経路R2に対するオーバーラップ率F2が、第1予測走行経路R1に対するオーバーラップ率F1より小さい場合に衝突回避処理の実行を許容することにより、必要な衝突回避処理が誤判定により実行されないことを防止することができる。
【0074】
また、本実施形態では、衝突回避処理は、作動時期が異なる複数の衝突回避処理(第1~第3衝突回避処理)を含み、第2閾値S2(S2a-S2c)は、複数の衝突回避処理に対してそれぞれ設定されており、作動時期がより早い衝突回避処理は、第2閾値がより小さく設定されている。本実施形態において、変動し易い舵角θに起因して、車両1から遠方ほど第2予測走行経路R2の位置精度は低くなる。よって、遠方の障害物3についての第2予測走行経路R2へのオーバーラップ率F2の精度は、近くの障害物3についてのオーバーラップ率F2の精度よりも低くなる。よって、本実施形態では、作動時期が早い衝突回避処理については、第2予測走行経路R2へのオーバーラップ率F2が比較的小さくても実行を許容することにより、必要な衝突回避処理が誤判定により実行されないことを防止することができる。
【0075】
また、本実施形態では、衝突回避処理は、報知装置34による警報の発生、及び/又は、ブレーキ装置による車両1への制動力の付与を含む。
【符号の説明】
【0076】
1 車両
3 障害物
10 ECU
100 車両制御装置
R0 重複領域
R1 第1予測走行経路
R2 第2予測走行経路
Wa 幅
Wb 幅