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特許7512672圧電素子、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】圧電素子、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20240702BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240702BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20240702BHJP
   H10N 30/06 20230101ALI20240702BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/87
H10N30/06
B41J2/14 611
B41J2/14 613
B41J2/14 301
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020088038
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021182602
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北田 和也
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-037932(JP,A)
【文献】国際公開第2016/020395(WO,A1)
【文献】特開平09-052763(JP,A)
【文献】特開2014-170784(JP,A)
【文献】特開2016-220892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/20
H10N 30/87
H10N 30/06
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第1電極とシード層と圧電体層と第2電極とがこの順で積層された圧電素子であって、
前記圧電体層は、鉛、ジルコニウムおよびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成され、
前記シード層は、鉛、鉄およびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成され
前記シード層に含まれる複合酸化物は、下記式(1)で表され、
Pb Fe Ti (1-y) (1)
0.20≦y≦0.80の関係を満たす、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
1.00≦x<2.00の関係を満たす、
ことを特徴とする請求項に記載の圧電素子。
【請求項3】
1.3≦(x/y)<13.0の関係を満たす、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電素子。
【請求項4】
z=3.00の関係を満たす、
ことを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項5】
基板上に、第1電極とシード層と圧電体層と第2電極とがこの順で積層された圧電素子であって、
前記圧電体層は、鉛、ジルコニウムおよびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成され、
前記シード層は、鉛、鉄およびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成され、
前記シード層に含まれる複合酸化物は、下記式(1)で表され、
Pb Fe Ti (1-y) (1)
1.00≦x<2.00の関係を満たす、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項6】
基板上に、第1電極とシード層と圧電体層と第2電極とがこの順で積層された圧電素子であって、
前記圧電体層は、鉛、ジルコニウムおよびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成され、
前記シード層は、鉛、鉄およびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成され、
前記シード層に含まれる複合酸化物は、下記式(1)で表され、
Pb Fe Ti (1-y) (1)
1.3≦(x/y)<13.0の関係を満たす、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項7】
基板上に、第1電極とシード層と圧電体層と第2電極とがこの順で積層された圧電素子であって、
前記圧電体層は、鉛、ジルコニウムおよびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成され、
前記シード層は、鉛、鉄およびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成され、
前記シード層に含まれる複合酸化物は、下記式(1)で表され、
Pb Fe Ti (1-y) (1)
z=3.00の関係を満たす、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項8】
前記第1電極は、白金を含む、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項9】
前記基板は、酸化ジルコニウムを含む、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項10】
前記シード層の厚さは、前記圧電体層の厚さよりも薄い、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項11】
前記シード層の厚さは、20nm以上200nm以下の範囲内にある、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項12】
前記シード層の比誘電率は、100F・m-1以上である、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項13】
X線回折法により前記圧電体層を解析したとき、(100)配向度が(110)配向度よりも高い、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の圧電素子と、
前記圧電素子を駆動する駆動回路と、を有する、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記圧電素子は、配列される複数の圧電素子を含んでおり、
前記第1電極は、前記複数の圧電素子に個別に設けられ、
前記第2電極は、前記複数の圧電素子に共通に設けられる、
ことを特徴とする請求項14に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記圧電素子は、配列される複数の圧電素子を含んでおり、
前記第1電極は、前記複数の圧電素子に共通に設けられ、
前記第2電極は、前記複数の圧電素子に個別に設けられる、
ことを特徴とする請求項14に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項17】
請求項14から16のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドの動作を制御する制御部と、を有する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ方式のインクジェットプリンター等に用いられ、成膜により形成される積層構造を有する圧電素子が知られている。例えば、特許文献1に記載の圧電素子では、下電極膜と圧電体層と上電極膜とがこの順で積層される。特許文献1では、下電極膜の圧電体層側の全面がニッケル酸ランタンからなる配向制御層で構成される。配向制御層の結晶面方位は、(100)に優先配向する。圧電体層の結晶面方位は、成膜の際に配向制御層の面方位の影響を受けて、(100)に配向する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-66600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の圧電素子では、圧電素子の使用等に伴って経時的に、配向制御層中のランタンまたはニッケルが圧電体層に拡散し、この結果、圧電特性を低下させるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る圧電素子の一態様は、基板上に、第1電極とシード層と圧電体層と第2電極とがこの順で積層された圧電素子であって、前記圧電体層は、鉛、ジルコニウムおよびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成され、前記シード層は、鉛、鉄およびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成される。
【0006】
本発明に係る液体吐出ヘッドの一態様は、前述の態様の圧電素子と、前記圧電素子を駆動する駆動回路と、を有する。
【0007】
本発明に係る液体吐出装置の一態様は、前述の態様の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドの動作を制御する制御部と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る液体吐出装置を模式的に示す構成図である。
図2】実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
図3図2中のIII-III線断面図である。
図4】実施形態に係る圧電素子を示す平面図である。
図5図4中のV-V線断面図である。
図6】実施例1における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図7】実施例2における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図8】実施例3における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図9】実施例4における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図10】実施例5における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図11】実施例6における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図12】実施例7における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図13】実施例8における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図14】実施例9における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図15】実施例10における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図16】実施例11における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図17】比較例1における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図18】比較例2における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図19】比較例3における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
図20】比較例4における圧電体層のX線回折法による測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法または縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0010】
なお、以下の説明は、互いに交差するX軸、Y軸およびZ軸を適宜に用いて行う。また、X軸に沿う一方向をX1方向といい、X1方向と反対の方向をX2方向という。同様に、Y軸に沿って互いに反対の方向をY1方向およびY2方向という。また、Z軸に沿って互いに反対の方向をZ1方向およびZ2方向という。また、Z軸に沿う方向でみることを「平面視」という。
【0011】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、Z2方向が鉛直方向での下方向に相当する。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよい。また、X軸、Y軸およびZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80°以上100°以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0012】
1.実施形態
1-1.液体吐出装置の全体構成
図1は、実施形態に係る液体吐出装置100を模式的に示す構成図である。液体吐出装置100は、液体の一例であるインクを液滴として媒体12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙である。なお、媒体12は、印刷用紙に限定されず、例えば、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象でもよい。
【0013】
図1に示すように、液体吐出装置100には、インクを貯留する液体容器14が装着される。液体容器14の具体的な態様としては、例えば、液体吐出装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、および、インクを補充可能なインクタンクが挙げられる。なお、液体容器14に貯留されるインクの種類は任意である。
【0014】
液体吐出装置100は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と液体吐出ヘッド26とを有する。制御ユニット20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、液体吐出装置100の各要素の動作を制御する。ここで、制御ユニット20は、「制御部」の一例であり、液体吐出ヘッド26の動作を制御する。
【0015】
搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで、媒体12をY2方向に搬送する。移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで、液体吐出ヘッド26をX1方向とX2方向とに往復させる。図1に示す例では、移動機構24は、液体吐出ヘッド26を収容するキャリッジと称される略箱型の搬送体242と、搬送体242が固定される搬送ベルト244と、を有する。なお、搬送体242に搭載される液体吐出ヘッド26の数は、1個に限定されず、複数個でもよい。また、搬送体242には、液体吐出ヘッド26のほかに、前述の液体容器14が搭載されてもよい。
【0016】
液体吐出ヘッド26は、制御ユニット20による制御のもとで、液体容器14から供給されるインクを複数のノズルのそれぞれからZ2方向に媒体12に吐出する。この吐出が搬送機構22による媒体12の搬送と移動機構24による液体吐出ヘッド26の往復移動とに並行して行われることにより、媒体12の表面にインクによる画像が形成される。
【0017】
1-2.液体吐出ヘッドの全体構成
図2は、実施形態に係る液体吐出ヘッド26の分解斜視図である。図3は、図2中のIII-III線断面図である。図2に示すように、液体吐出ヘッド26は、Y軸に沿う方向に配列される複数のノズルNを有する。図2に示す例では、複数のノズルNは、X軸に沿う方向に互いに間隔をあけて並ぶ第1列L1と第2列L2とに区分される。第1列L1および第2列L2のそれぞれは、Y軸に沿う方向に直線状に配列される複数のノズルNの集合である。ここで、液体吐出ヘッド26における第1列L1の各ノズルNに関連する要素と第2列L2の各ノズルNに関連する要素とがX軸に沿う方向で互いに略対称な構成である。
【0018】
ただし、第1列L1における複数のノズルNと第2列L2における複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致してもよいし異なってもよい。また、第1列L1および第2列L2のうちの一方の各ノズルNに関連する要素が省略されてもよい。以下では、第1列L1における複数のノズルNと第2列L2における複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致する構成が例示される。
【0019】
図2および図3に示すように、液体吐出ヘッド26は、流路構造体30とノズル板62と吸振体64と振動板36と配線基板46と筐体部48と駆動回路50とを有する。
【0020】
流路構造体30は、複数のノズルNにインクを供給するための流路を形成する構造体である。本実施形態の流路構造体30は、流路基板32と圧力室基板34とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。流路基板32および圧力室基板34のそれぞれは、Y軸に沿う方向に長尺な板状部材である。流路基板32および圧力室基板34は、例えば接着剤により、互いに接合される。
【0021】
流路構造体30よりもZ1方向に位置する領域には、振動板36と配線基板46と筐体部48と駆動回路50とが設置される。他方、流路構造体30よりもZ2方向に位置する領域には、ノズル板62と吸振体64とが設置される。液体吐出ヘッド26の各要素は、概略的には流路基板32および圧力室基板34と同様にY軸に沿う方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤により、互いに接合される。
【0022】
ノズル板62は、複数のノズルNが形成された板状部材である。複数のノズルNのそれぞれは、インクを通過させる円形状の貫通孔である。ノズル板62は、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチング等の加工技術を用いる半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、ノズル板62の製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0023】
流路基板32には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、空間Raと複数の供給流路322と複数の連通流路324と供給液室326とが形成される。空間Raは、Z軸に沿う方向でみた平面視で、Y軸に沿う方向に延びる長尺状の開口である。供給流路322および連通流路324のそれぞれは、ノズルNごとに形成された貫通孔である。供給液室326は、複数のノズルNにわたりY軸に沿う方向に延びる長尺状の空間であり、空間Raと複数の供給流路322とを互いに連通させる。複数の連通流路324のそれぞれは、当該連通流路324に対応する1個のノズルNに平面視で重なる。
【0024】
圧力室基板34は、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、キャビティと称される複数の圧力室Cが形成された板状部材である。複数の圧力室Cは、Y軸に沿う方向に配列される。各圧力室Cは、ノズルNごとに形成され、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状の空間である。流路基板32および圧力室基板34それぞれは、前述のノズル板62と同様に、例えば、半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、流路基板32および圧力室基板34のそれぞれの製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0025】
圧力室Cは、流路基板32と振動板36との間に位置する空間である。第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、複数の圧力室CがY軸に沿う方向に配列される。また、圧力室Cは、連通流路324および供給流路322のそれぞれに連通する。したがって、圧力室Cは、連通流路324を介してノズルNに連通し、かつ、供給流路322と供給液室326とを介して空間Raに連通する。
【0026】
圧力室基板34のZ2方向を向く面には、振動板36が配置される。振動板36は、弾性的に振動可能な板状部材である。ここで、振動板36および圧力室基板34からなる積層体31は、「基板」の一例である。なお、振動板36を「基板」として捉えてもよい。振動板36については、後に詳述する。
【0027】
振動板36のZ1方向を向く面には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、互いにノズルNに対応する複数の圧電素子44が配置される。各圧電素子44は、駆動信号の供給により変形する受動素子である。各圧電素子44は、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状をなす。複数の圧電素子44は、複数の圧力室Cに対応するようにY軸に沿う方向に配列される。圧電素子44の変形に連動して振動板36が振動すると、圧力室C内の圧力が変動することで、インクがノズルNから吐出される。圧電素子44については、後に詳述する。
【0028】
筐体部48は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するためのケースである。図3に示すように、本実施形態の筐体部48には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、空間Rbが形成される。筐体部48の空間Rbと流路基板32の空間Raとは、互いに連通する。空間Raと空間Rbとで構成される空間は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留する液体貯留室(リザーバー)Rとして機能する。液体貯留室Rには、筐体部48に形成された導入口482を介してインクが供給される。液体貯留室R内のインクは、供給液室326と各供給流路322とを介して圧力室Cに供給される。吸振体64は、液体貯留室Rの壁面を構成する可撓性のフィルム(コンプライアンス基板)であり、液体貯留室R内のインクの圧力変動を吸収する。
【0029】
配線基板46は、駆動回路50と複数の圧電素子44とを電気的に接続するための配線が形成された板状部材である。配線基板46のZ2方向を向く面は、振動板36に導電性の複数のバンプBを介して接合される。一方、配線基板46のZ1方向を向く面には、駆動回路50が実装される。駆動回路50は、各圧電素子44を駆動するための駆動信号および基準電圧を出力するIC(Integrated Circuit)チップである。
【0030】
配線基板46のZ1方向を向く面には、外部配線52の端部が接合される。外部配線52は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuits)またはFFC(Flexible Flat Cable)等の接続部品で構成される。ここで、配線基板46には、図2に示すように、外部配線52と駆動回路50とを電気的に接続する複数の配線461と、駆動回路50から出力される駆動信号および基準電圧が供給される複数の配線462とが形成される。
【0031】
1-3.振動板および圧電素子の詳細
図4は、実施形態に係る圧電素子44を示す平面図である。図5は、図4中のV-V線断面図である。液体吐出ヘッド26では、図5に示すように、圧力室基板34、振動板36および複数の圧電素子44がこの順でZ1方向に積層される。
【0032】
図5に示すように、圧力室基板34には、圧力室Cを構成する孔341が設けられる。これに伴い、圧力室基板34には、互いに隣り合う2つの孔341の間に、X軸に沿う方向に延びる壁状の隔壁部342が設けられる。図4では、孔341の平面視形状が破線で示される。圧力室基板34は、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより形成される。当該異方性エッチングのエッチング液には、例えば、水酸化カリウム水溶液(KOH)等が用いられる。また、当該異方性エッチングでは、後述の第1層361がエッチング停止層として用いられる。
【0033】
なお、図4では、孔341の平面視形状が矩形であるが、これに限定されず、任意である。例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成した場合の孔341の平面視形状は、平行四辺形をなす。
【0034】
図5に示すように、振動板36は、第1層361と第2層362とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。第1層361は、例えば、酸化シリコン(SiO)で構成される弾性膜である。当該弾性膜は、例えば、シリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより形成される。第2層362は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)で構成される絶縁膜である。当該絶縁膜は、例えば、スパッタ法によりジルコニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することにより形成される。
【0035】
ここで、前述のように、振動板36の第2層362が酸化ジルコニウムで構成されており、積層体31は、酸化ジルコニウムを含む。酸化ジルコニウムは、優れた電気絶縁性、機械的強度および靭性を有する。このため、酸化ジルコニウムを含む第2層362を振動板36に用いることにより、振動板36の特性を高めることができる。また、後述の圧電体層443が後述のシード層444上にない部分を有していても、当該部分が第2層362上に配置されることにより、圧電体層443を形成する際、当該部分を(100)方向に優先配向させやすくなるとも考えられる。
【0036】
なお、第1層361と第2層362との間には、金属酸化物等の他の層が介在してもよい。また、振動板36の一部または全部は、圧力室基板34と同一材料で一体に構成されてもよい。また、振動板36は、単一材料の層で構成されてもよい。
【0037】
図4に示すように、圧電素子44は、平面視で圧力室Cに重なる。図5に示すように、圧電素子44は、第1電極441とシード層444と圧電体層443と第2電極442とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。したがって、圧電素子44は、基板の一例である積層体31上に、第1電極441とシード層444と圧電体層443と第2電極442とがこの順で積層される。なお、圧電素子44の層間、または圧電素子44と振動板36との間には、密着性を高めるための層等の他の層が適宜介在してもよい。
【0038】
第1電極441は、圧電素子44ごとに互いに離間して配置される個別電極である。具体的には、X軸に沿う方向に延びる複数の第1電極441が、互いに間隔をあけてY軸に沿う方向に配列される。各圧電素子44の第1電極441には、当該圧電素子44に対応するノズルNからインクを吐出するための駆動信号が駆動回路50を介して印加される。
【0039】
第1電極441は、例えば、白金(Pt)で構成される層である。白金は、電極材料として優れた特性を有する。さらに、第1電極441が白金を含むことにより、高配向度で(100)方向に優先配向したペロブスカイト構造を有するシード層444を形成しやすくなっていると推定される。第1電極441は、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。
【0040】
なお、第1電極441の構成材料は、白金に限定されず、例えば、イリジウム(Ir)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銅(Cu)等の金属材料でもよい。また、第1電極441は、これらの金属材料のうち、1種を単独で用いて構成されてもよいし、2種以上を積層または合金等の形態で組み合わせて用いて構成されてもよい。
【0041】
一方、第2電極442は、複数の圧電素子44にわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状の共通電極である。第2電極442には、所定の基準電圧が印加される。
【0042】
第2電極442は、例えば、イリジウム(Ir)で構成される層である。第2電極442は、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。
【0043】
なお、第2電極442の構成材料は、イリジウムに限定されず、例えば、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)または銅(Cu)等の金属材料でもよい。また、第2電極442は、これらの金属材料のうち、1種を単独で用いて構成されてもよいし、2種以上を積層または合金等の形態で組み合わせて用いて構成されてもよい。
【0044】
圧電体層443は、第1電極441と第2電極442との間に配置される。図4に示すように、圧電体層443は、複数の圧電素子44にわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状をなす。図4に示す例では、圧電体層443には、互いに隣り合う各圧力室Cの間隙に平面視で対応する領域に、圧電体層443を貫通する貫通孔443aがX軸に沿う方向に延びて設けられる。なお、圧電体層443は、複数の圧電素子44に個別に設けられてもよい。
【0045】
圧電体層443は、鉛、ジルコニウムおよびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成される。当該複合酸化物としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)、ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O)、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等が挙げられる。中でも、圧電体層443の構成材料には、チタン酸ジルコン酸鉛が好適に用いられる。なお、圧電体層443には、不純物等の他の元素が少量含まれてもよい。
【0046】
圧電体層443は、例えば、ゾルゲル法またはMOD(metal organic decomposition)法により圧電体の前駆体層を形成し、その前駆体層を焼成して結晶化することにより形成される。
【0047】
シード層444は、第1電極441と圧電体層443との間に配置される。図4に示すように、シード層444は、平面視で圧電体層443と同じ領域にわたり設けられる。なお、シード層444は、第1電極441と圧電体層443との間に配置されていればよく、平面視で圧電体層443と異なる領域に設けられてもよい。
【0048】
シード層444は、鉛、鉄およびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成される。このようなシード層444の上に前述の圧電体層443が設けられることにより、圧電体層443を構成する複合酸化物を(100)方向に優先配向させることができる。
【0049】
ここで、特許文献1に記載の配向制御層の構成元素に比べてシード層444の構成元素が圧電体層443の構成元素に近い。このため、シード層444の構成元素が圧電体層443に拡散しても、その影響が少ない。この結果、圧電素子44の特性の低下を低減することができる。
【0050】
また、シード層444を構成する複合酸化物の比誘電率がチタン等の金属単体に比べて高いので、チタン等の金属単体で構成される低い比誘電率の層が第1電極441と第2電極442との間に存在することによる圧電素子44の変位効率の悪化を防止することもできる。
【0051】
シード層444に含まれる複合酸化物は、例えば、PbFeOとPbTiOとの固溶体であり、Pb(Fe,Ti)Oで表される。より具体的には、当該複合酸化物は、下記式(1)で表される。
PbFeTi(1-y) (1)
【0052】
ここで、式(1)中のxは、1.00≦x<2.00の関係を満たせばよいが、シード層444によって圧電体層443の配向度を高める効果を好適に得る観点から、1.00≦x<1.50の関係を満たすことが好ましく、1.10≦x<1.40の関係を満たすことがより好ましい。
【0053】
式(1)中のyは、0.10≦y≦0.90の関係を満たせばよいが、シード層444によって圧電体層443の配向度を高める効果を好適に得る観点から、0.20≦y≦0.80の関係を満たすことが好ましく、0.40≦y≦0.60の関係を満たすことがより好ましい。
【0054】
式(1)中のzは、典型的には、z=3.00の関係を満たす。ただし、zが当該関係を満たさなくてもよい。
【0055】
また、シード層444によって圧電体層443の(100)配向度を高める効果を好適に得る観点から、式(1)中のxおよびyは、1.3≦(x/y)<13.0の関係を満たすことが好ましく、1.5≦(x/y)<6.5の関係を満たすことがより好ましく、1.6≦(x/y)<3.5の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0056】
なお、シード層444の構成材料は、鉛、鉄およびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物であればよく、前述の式(1)で表される複合酸化物に限定されず、鉛、鉄およびチタン以外の元素が構成元素として含まれてもよい。また、シード層444には、不純物等の他の元素が少量含まれてもよい。
【0057】
このようなシード層444の比誘電率は、100F・m-1以上である。このため、上述のとおり、優れた変位効率の圧電素子44を実現することができる。
【0058】
また、このような圧電体層443をX線回折法により解析したとき、(100)に対応するピーク強度が(110)に対応するピーク強度よりも高い。すなわち、(100)配向度が(110)配向度よりも高い。このため、優れた変位効率の圧電素子44を実現することができる。
【0059】
シード層444の厚さT1は、圧電体層443の(100)方向の配向度を高めることができればよく、特に限定されないが、圧電体層443の厚さT2よりも薄いことが好ましい。この場合、シード層444の厚さT1が圧電体層443の厚さT2よりも厚い構成に比べて、圧電素子44の変位効率を高めることができる。
【0060】
また、シード層444の厚さT1は、20nm以上200nm以下の範囲内にあることが好ましく、50nm以上150nm以下の範囲内にあることがより好ましく、70nm以上130nm以下の範囲内にあることがさらに好ましい。シード層444の厚さT1がこの範囲内にあることにより、圧電素子44の変位効率を高めつつ、シード層444を用いて、圧電体層443を構成する複合酸化物を(100)方向に優先配向させることができる。
【0061】
これに対し、シード層444の厚さT1が薄すぎると、シード層444によって圧電体層443の配向度を高める効果が低下する傾向を示す。一方、シード層444の厚さT1が厚すぎると、シード層444によって圧電体層443の(100)配向度を高める効果の向上が望めないばかりか、圧電体層443の厚さT2によっては、圧電素子44の変位効率が低下する傾向を示す。
【0062】
2.変形例
以上の例示における各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。なお、以下の例示から任意に選択される2以上の態様は、互いに矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0063】
2-1.変形例1
前述の形態では、圧電素子44と、圧電素子44を駆動する駆動回路50と、を有する液体吐出ヘッド26が例示される。圧電素子44を搭載する機器等は、液体吐出ヘッドに限定されず、例えば、圧電素子を有する圧電アクチュエーター等の他の駆動デバイスでもよく、圧電素子を有する圧力センサー等の検出デバイス等でもよい。
【0064】
2-2.変形例2
前述の形態では、液体吐出ヘッド26は、配列される複数の圧電素子44を有する。ここで、当該複数の圧電素子44は、当該複数の圧電素子に個別に設けられる複数の第1電極441と、当該複数の圧電素子44に共通に設けられる第2電極442と、を有する。複数の第1電極441は、圧電体層443と振動板36との間に配置される。
【0065】
このように、前述の形態では、第1電極441が個別電極であり第2電極442が共通電極である構成を例示するが、第1電極441を、複数の圧電素子44にわたり連続する共通電極とし、第2電極442を圧電素子44ごとに個別の個別電極としてもよい。また、第1電極441および第2電極442の双方を個別電極としてもよい。
【0066】
2-3.変形例3
前述の各形態では、液体吐出ヘッド26を搭載する搬送体242を往復させるシリアル方式の液体吐出装置100を例示するが、複数のノズルNが媒体12の全幅にわたり分布するライン方式の液体吐出装置にも本発明を適用することが可能である。
【0067】
2-4.変形例4
前述の各形態で例示する液体吐出装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。
【実施例
【0068】
以下、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0069】
A.圧電体層の製造
A-1.実施例1
まず、面方位(110)のシリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより、振動板の第1層として、厚さ1460nmの二酸化シリコン膜を形成した。
【0070】
次に、当該二酸化シリコン膜上に、スパッタ法によりジルコニウム膜を成膜し、当該ジルコニウム膜を900℃で熱酸化することにより、振動板の第2層として、厚さ400nmの酸化ジルコニウム膜を形成した。
【0071】
当該酸化ジルコニウム膜上に、450℃の加熱環境下で、スパッタ法により白金を成膜することにより、厚さ50nmの第1電極を形成した。
【0072】
その後、鉛、鉄およびチタンのそれぞれのMOD溶液を用いてPb:Fe:Tiが1.3:0.1:0.9となるように調合したMOD溶液をスピンコート法により第1電極上に塗布し、その後、380℃で乾燥および脱脂を行った後、RTA(rapid thermal annealing)により750℃で3分間にわたり加熱処理を行うことにより、Pb1.3Fe0.1Ti0.9で構成される厚さ50nmのシード層を形成した。よって、x=1.3、y=0.1、x/y=13.0となる。
【0073】
続いて、Pb:Zr:Tiが1.18:0.52:0.48となるように調合したMOD溶液をスピンコート法によりシード層上に塗布し、その後、180℃での乾燥および440℃での脱脂を行った後、RTA(rapid thermal annealing)により750℃で5分間にわたり加熱処理を行うことにより、PZTで構成される厚さ1000nmの圧電体層を形成した。
【0074】
A-2.実施例2
Pb:Fe:Tiが1.3:0.2:0.8となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例2の圧電体層を製造した。よって、x=1.3、y=0.2、x/y=6.5となる。
【0075】
A-3.実施例3
Pb:Fe:Tiが1.3:0.3:0.7となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例3の圧電体層を製造した。よって、x=1.3、y=0.3、x/y=4.3となる。
【0076】
A-4.実施例4
Pb:Fe:Tiが1.3:0.4:0.6となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例4の圧電体層を製造した。よって、x=1.3、y=0.4、x/y=3.3となる。
【0077】
A-5.実施例5
Pb:Fe:Tiが1.3:0.5:0.5となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例5の圧電体層を製造した。よって、x=1.3、y=0.5、x/y=2.6となる。
【0078】
A-6.実施例6
Pb:Fe:Tiが1.3:0.6:0.4となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例6の圧電体層を製造した。よって、x=1.3、y=0.6、x/y=2.2となる。
【0079】
A-7.実施例7
Pb:Fe:Tiが1.3:0.8:0.2となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例7の圧電体層を製造した。よって、x=1.3、y=0.8、x/y=1.6となる。
【0080】
A-8.実施例8
Pb:Fe:Tiが1.3:0.9:0.1となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例8の圧電体層を製造した。よって、x=1.3、y=0.9、x/y=1.4となる。
【0081】
A-9.実施例9
Pb:Fe:Tiが1.1:0.3:0.7となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例9の圧電体層を製造した。よって、x=1.1、y=0.3、x/y=3.7となる。
【0082】
A-10.実施例10
Pb:Fe:Tiが1.1:0.4:0.6となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例10の圧電体層を製造した。よって、x=1.1、y=0.4、x/y=2.8となる。
【0083】
A-11.実施例11
Pb:Fe:Tiが1.1:0.6:0.4となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例11の圧電体層を製造した。よって、x=1.1、y=0.6、x/y=1.8となる。
【0084】
A-12.実施例12
シード層の厚さを20nmとした以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例12の圧電体層を製造した。
【0085】
A-13.実施例13
シード層の厚さを200nmとした以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例13の圧電体層を製造した。
【0086】
A-13.比較例1
鉛およびチタンのそれぞれのMOD溶液を用いてPb:Tiが1.3:1.0となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、比較例1の圧電体層を製造した。
【0087】
A-14.比較例2
鉛および鉄のそれぞれのMOD溶液を用いてPb:Feが1.3:1.0となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、比較例2の圧電体層を製造した。
【0088】
A-15.比較例3
Pb:Fe:Tiが1.1:0.1:0.9となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、比較例3の圧電体層を製造した。
【0089】
A-16.比較例4
鉛、コバルトおよびチタンのそれぞれのMOD溶液を用いてPb:Co:Tiが1.3:0.4:0.6となるように調合したMOD溶液を用いてシード層を形成した以外は、前述の実施例1と同様にして、比較例4の圧電体層を製造した。
【0090】
B.評価
前述の各実施例および各比較例について、X線回折装置(Bruker社製 DISCOVER with GADDS)を用いて、圧電体層の配向状態を調べた。
【0091】
ここで、X線回折装置を用いた測定は、管電圧:50kV、管電流:100mA、検出器距離:15cm、コリメーター径:0.1mm、測定時間:180秒、ψ=0°の条件で行った。この測定により得られた2次元データを、2θ範囲:20°~40°、χ範囲:-95°~-85°。ステップ幅:0.02°、強度規格化法:Bin normalizedで、X線回折強度曲線に変換した。その結果を図6図20に示す。なお、実施例12および13については、図示しないが、実施例1と同様の結果が得られることが発明者による他の実験により確認されている。
【0092】
図6図16に示すように、各実施例では、32°付近にPZTの(110)ピーク、38°付近にPZTの(111)ピークがそれぞれわずかに現れるものの、22°付近に現れるPZTの(100)ピークが極めて大きい。このような結果となるのは、圧電体層の形成の際に圧電体層の結晶配向がシード層の結晶配向の影響を受けることによると推察される。
【0093】
これに対し、図17図20に示すように、各比較例では、PZTの(100)ピークがほとんど現れないか非常に小さく、また、PZTの(110)ピークや(111)ピークが各実施例に比べて大きい。ここで、各比較例のPZTの(100)ピークが非常に小さいのは、シード層の(100)配向が弱いためにその影響を受けず、且つ、PZTが形成し易い(110)配向や、第1電極441に含まれるPt等の(111)配向の影響を受けてPZTにおいても形成された(111)配向の寄与が大きくなっているためと推察される。
【0094】
以上の結果をA、B、CおよびDの4段階で評価した結果を表1にまとめて示す。なお、A、B、CおよびDは、この順で、Aが最もよい評価であることを示す。
【表1】
【符号の説明】
【0095】
20…制御ユニット(制御部)、26…液体吐出ヘッド、31…積層体(基板)、34…圧力室基板、44…圧電素子、50…駆動回路、100…液体吐出装置、441…第1電極、442…第2電極、443…圧電体層、444…シード層、T1…厚さ、T2…厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20