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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】酵素センサー用電極及び酵素センサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20240702BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240702BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01N27/30 B
C12M1/34 E
G01N27/416 311K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020098659
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021192014
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八手又 彰彦
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/013138(WO,A1)
【文献】特開2020-009659(JP,A)
【文献】特開2019-038870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0322608(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/30,27/327,27/416,
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極と対極とを有する酵素センサーに用いられる酵素センサー用電極であって、
基材上に、炭素触媒を含む触媒層を有する作用極を備え、
前記作用極が、検出対象との反応により過酸化水素を生成する酵素を含み、
前記炭素触媒が、少なくとも炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなり、構成元素として1種以上のヘテロ元素を含み、当該ヘテロ元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされた構造を有する炭素触媒であり、
前記作用極の体積抵抗率が5Ω・cm以下であることを特徴とする酵素センサー用電極。
【請求項2】
前記触媒層が、炭素触媒以外にさらに導電性材料を含む、請求項1記載の酵素センサー用電極。
【請求項3】
作用極が炭素触媒を含まない導電層を有する、請求項1または2記載の酵素センサー用電極。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載の酵素センサー用電極を用いた酵素センサー。
【請求項5】
検出対象と酵素との反応で生成した過酸化水素を検出する、請求項に記載の酵素センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素センサー用電極及び酵素センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
血液や汗等の生体試料や食品等に含まれる特定成分を、簡便に計測する酵素センサーが実用化されている。例えば、血液中のグルコースを電気化学的な手段により検出、あるいは定量化する血糖値センサー等が挙げられる。血中に含まれるグルコースに対し、酵素の基質特異性により選択的に酸化する過程で過酸化水素を生成し、その過酸化水素が電極で酸化もしくは還元することで電流が発生、その電流値あるいは電荷量からグルコース濃度を定量することができる。
酵素センサーにおける電極反応部位は、白金やパラジウム等の貴金属を用いられることがある(例えば特許文献1)。しかし、その測定感度は未だ十分ではなく、金属を使用しないことは腐食やコストの観点からも好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-242335号報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、貴金属を使用せずに感度に優れた酵素センサーおよび酵素センサーを構成する炭素系触媒を含む電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、作用極と対極とを有する酵素センサーに用いられる酵素センサー用電極であって、基材上に、炭素触媒を含む触媒層を有する作用極を備え、前記炭素触媒が、少なくとも炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなり、構成元素として1種以上のヘテロ元素を含み、当該ヘテロ元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされた構造を有する炭素触媒であり、前記作用極の体積抵抗率が5Ω・cm以下であることを特徴とする酵素センサー用電極に関する。
【0006】
また、本発明は、前記触媒層が導電性材料を含む、前記酵素センサー用電極に関する。
【0007】
また、本発明は、作用極が炭素触媒を含まない導電層を有する、前記酵素センサー用電極に関する。
【0008】
また、本発明は、検出対象と酵素との反応で生成した過酸化水素を検出する前記酵素センサーに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、センシングの感度が良好な酵素センサーを提供することができる。更に、腐食に強く低コストで使い捨て可能な電極およびセンサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の酵素センサー用電極の一実施形態を示す図である。
図2】本発明の酵素センサー用電極の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の酵素センサー用電極は、少なくとも作用極と対極とを有し、必要に応じて参照極を有していてもよい。これらの電極のうち、少なくとも作用極において酵素センサー電極用炭素触媒を含む。本発明の酵素センサー用電極は、少なくとも酵素センサー電極用炭素触媒を含む作用極の体積抵抗率が5Ω・cm以下である。
【0012】
<炭素触媒>
炭素触媒は、6個の炭素元素が六角形状に共有結合した炭素六員環が同一平面上で複数結合した、炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなる。 本発明の電極用炭素触媒において、同一炭素六角網面内において、互いに隣り合う炭素元素は、化学的に結合(共有結合)し、化学的に相互作用する。互いに隣り合う炭素六角網面は、物理的に結合し、物理的に相互作用する。
炭素材料としては特に限定されないが、例えば、黒鉛、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン系炭素材料(グラフェン、グラフェンナノプレートレット)、多孔質炭素、ナノポーラスカーボン、カーボンナノホーン、フラーレン等、有機炭素系原料を熱処理して得られた炭素粒子等が挙げられる。
【0013】
また、炭素触媒は、構成元素として1種以上のヘテロ元素を含み、ヘテロ元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされた構造を有する。ヘテロ元素としては例えば、窒素(N)、ホウ素(B)、及びリン(P)等が挙げられる。本発明の電極用炭素触媒は、ヘテロ元素として窒素元素を含むことが更に好ましい。
【0014】
本発明の電極用炭素触媒は更に、構成元素として1種以上の卑金属元素を含むことが好ましい。「卑金属元素」とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、及び金)を除く金属元素である。本発明の正極用炭素触媒は、卑金属元素として、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、及びスズからなる群より選択される1種以上の元素を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の電極用炭素触媒は、好ましくはヘテロ元素を含み、更に好ましくは卑金属元素を含むことで、触媒活性点が形成され、特に過酸化水素への触媒活性を発現することができる。
触媒活性点としては例えば、炭素触媒の基本骨格を構成する炭素六角網面の末端の炭素元素を置換するようにドープされた窒素元素及びその近傍の炭素元素;触媒表面において卑金属元素を中心に4個の窒素元素が同じ平面上で結合した卑金属-N4構造を構成する窒素元素及び卑金属元素等が挙げられる。
【0016】
本発明の電極用炭素触媒は、比表面積が大きく、電子伝導性が高いほど、好ましい。触媒反応は触媒の表面で起こるため、触媒の比表面積が大きいほど、例えば過酸化水素との反応場が多くなり、触媒活性の向上に繋がりやすく、好ましい。また、触媒の電子伝導性が高いほど、過酸化水素の電極反応に関わる電子を効果的に伝達できるため、電流の増加に繋がりやすく、好ましい。
【0017】
触媒表面に存在するヘテロ元素、特に窒素元素の量が多いほど、表面の触媒活性点の数が多くなりやすいため、好ましい。特に、N1型窒素原子を主とした表面末端窒素原子の量が多いことが好ましい。
触媒を構成する全原子に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比、及び卑金属原子のモル比をそれぞれ、RC、RN、RMとする。RCに対するRNの割合が1~40%、RCに対するRMの割合が0.01~20%であると好ましい。より好ましくは、RCに対するRNの割合が1.5~20%、RCに対するRMの割合が0.05~10%である。
【0018】
RC及びRMが上記範囲内にあると、触媒活性点の形成段階において、卑金属元素が、炭素材料の結晶化促進、細孔の発達、及びエッジの生成等を促進する炭素化触媒として効果的に作用し、触媒活性点の数及び質の向上が期待できる。
更に、電極での触媒反応の段階においても、卑金属元素が、主に窒素元素由来の活性点で生成する過酸化水素への反応触媒として作用し、過酸化水素の酸化あるいは還元を促進させることが期待でき、好ましい。
【0019】
X線光電子分光分析(XPS)により得られるワイドスペクトルから求められる、触媒表面の全原子に対する窒素原子のモル比をNとし、XPSにより得られるN1sスペクトルのピーク分離から求められる、触媒表面の全窒素原子量に対する、N1型窒素原子量の割合[%]とN2型窒素原子量の割合[%]をそれぞれ、N1、N2としたとき、式:N×(N1+N2)で求められる表面末端窒素原子の割合が0.5~25%であることが好ましい。より好ましくは、1~18%である。
【0020】
例えば、触媒表面の全原子に対する窒素原子のモル比Nが0.1、触媒表面の全窒素原子量に対するN1型窒素原子量の割合N1[%]が30%、触媒表面の全窒素原子量に対するN2型窒素原子量の割合N2[%]が20%である酵素センサー電極用炭素触媒の場合は、下記計算式により表面末端窒素原子の割合は5%と求められる。
N×(N1+N2)=0.1×(30%+20%)=5%
【0021】
下記[化1]に示すように、炭素触媒中の窒素原子は様々な状態で炭素六角網面中の炭素原子を置換するように存在する。
本明細書において、N1型窒素原子とは、N1s電子の結合エネルギーが398.5±0.5eVであり、ピリジン類似の構造を形成している窒素原子である。N2型窒素原子とは、N1s電子の結合エネルギーが400±0.5eVであり、ピロール類似の構造を形成している窒素原子である。これらの窒素原子はそれぞれピリジンN、ピロールNと呼ばれ、本明細書ではこれらを合わせて末端窒素原子と呼称する。
これらの窒素原子のピークが重なっている場合には、各成分のピークがガウス関数となるように、各成分のピークについて、パラメーターであるピーク強度、ピーク位置、ピーク半値幅、及びピーク全幅が最適化するようにフィッティングを行って、ピーク分離を行う。ここで、ピリドン類似の構造を形成している窒素原子のピークはピーク分離が困難なため、便宜上、末端窒素原子に含めてよいものとする。
上記以外の窒素原子としては、N3型窒素原子(主に炭素環の内部に存在し、3つの炭素原子と結合している4級窒素原子)、及びN4型窒素原子(例えば酸化された状態で、酸素のような異種元素Xが結合した窒素原子)がある。
【0022】
【化1】

【0023】
上記末端窒素原子は、非共有電子対を有する。末端窒素原子は、周囲の炭素原子の電子状態に影響を及ぼし、隣接する炭素原子が活性サイトとして働くように作用することができる。末端窒素原子はまた、卑金属原子に窒素原子が配位した卑金属-N4構造の形成に有利に働くことができる。これら理由から、活性の高い触媒表面には末端窒素原子が多く存在していると考えられる。なお、式:N×(N1+N2)で求められる表面末端窒素原子の割合は、表面に存在する末端窒素原子の量を表す指標となる。
【0024】
本発明の電極用炭素触媒は、窒素ガスを吸着種としたBET比表面積(BETN)が、50~1200m/gであることが好ましい。BET比表面積が上記の範囲内にあると、反応場を多くでき、好ましい。より好ましくは100~1000m/gである。
【0025】
本明細書において、「比表面積」とは単位質量当たりの表面積であり、窒素吸着法によって求められる。解析法としてはBET法を用いる。相対圧(P(吸着平衡圧)/P0(飽和蒸気圧)=0.05~0.3)に対するガス吸着量のプロットにより得られる直線データの切片と勾配から、単分子吸着量を求め、BET比表面積を算出できる。
【0026】
本発明の電極用炭素触媒は、X線としてCuKα線を用いて得られるX線回折(XRD)パターンが、回折角2θが24.0~27.0°の範囲内にピークを有し、該ピークの半値幅が10°以下であることが好ましい。より好ましくは8°以下、特に好ましくは5°以下、最も好ましくは1°以下である。
【0027】
X線としてCuKα線を用いて得られる正極用炭素触媒のXRDパターンにおいては、24.0~27.0°付近に炭素の(002)面回折ピークが現れる。炭素の(002)回折ピーク位置は、炭素六角網面の面間距離によって変化する。このピーク位置が高角側であるほど、炭素六角網面の面間距離が近く、構造の黒鉛的規則性が高くなる傾向がある。また、上記ピークがシャープである(半値幅が小さい)ほど、結晶子サイズが大きく、結晶性が高いことを示す。
【0028】
上記ピークの半値幅が10°以下、好ましくは5°以下である場合、電極用炭素触媒の結晶性が高く、触媒表面の電子伝導性が高くなるため、活性点への電子伝達に有利である。これにより、還元反応に必要な電子を触媒表面の反応場に効果的に供給することができるため、電流の増加に繋がり、好ましい。
【0029】
本発明の電極用炭素触媒は、粉体の形態での体積抵抗率が1×10-1Ω・cm以下であることが好ましい。より好ましくは5×10-2Ω・cm以下である。
上記体積抵抗率が小さいほど、バルク粉体の電子伝導性が高いことを意味する。粉体の形態での体積抵抗率が1×10-1Ω・cm以下、好ましくは5×10-2Ω・cm以下であることで、電極の導電性が向上し効率的に電流を取り出すことができ、好ましい。
【0030】
より高い触媒活性が期待できることから、本発明の電極用炭素触媒は、卑金属元素として、コバルト(Co)、鉄(Fe)及び銅(Cu)からなる群より選択される1種以上の元素を含むことがより好ましい。
【0031】
[酵素センサー電極用炭素触媒の製造方法]
本発明の酵素センサー電極用炭素触媒の製造方法としては特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
例えば、炭素系原料と、ヘテロ元素を含む化合物と、卑金属元素を含む化合物とを混合した後、炭化させる方法;
炭素系原料と、ヘテロ元素を含む化合物とを混合した後、炭化させる方法;
ヘテロ元素を含む炭素系原料と、卑金属元素を含む化合物とを混合した後、炭化させる方法;
フタロシアニン及びポルフィリン等のヘテロ元素を含む大環状化合物と、卑金属元素を含む化合物とを混合した後、炭化させる方法;
炭素系原料と、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物とを混合した後、炭化させる方法;
炭素系原料と、卑金属元素を含む化合物とを混合した後、炭化させて得られた材料に対して、気相法によりヘテロ元素をドープする方法;
炭素系原料に対して気相法によりヘテロ元素をドープする方法等が挙げられる。
【0032】
好ましい製造方法としては、少なくとも、ヘテロ元素を含む炭素系原料と、卑金属元素を含む化合物とを混合した後、熱処理する方法;少なくとも、炭素系原料と、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物とを混合した後、熱処理する方法等が挙げられる。これらの方法において、熱処理後に得られた炭素触媒に対して、酸洗浄と乾燥、又は、酸洗浄と熱処理(再熱処理とも言う。)を実施してもよい。
【0033】
(炭素系原料)
本発明の炭素触媒の製造原料として用いられる炭素系原料としては、無機炭素系原料が好ましい。例えば、黒鉛、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン系炭素材料(グラフェン、グラフェンナノプレートレット)、多孔質炭素、ナノポーラスカーボン、カーボンナノホーン、フラーレン等が挙げられる。
無機炭素系原料の種類又はメーカーによって、炭素六角網面の大きさ及び積層構造は異なる。結晶性、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、及び導電性等の各種物性、並びにコストを考慮し、酵素センサーの用途及び要求性能に合わせて好適な材料を選択することができる。
【0034】
無機炭素系原料は、炭素以外に他の元素を含有していてもよい。無機炭素系原料は、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有していてもよい。なお、触媒活性点を形成するヘテロ元素及び/又は卑金属元素は、無機炭素系原料に予め含まれていてもよいし、後から無機炭素系原料に導入してもよい。
【0035】
市販の黒鉛としては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
【0036】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、デンカ社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0037】
市販の導電性炭素繊維としては、VGCF、VGCF-H、VGCF-X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ、名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0038】
市販のグラフェン系炭素材料としては、例えば、xGnP-C-750、xGnP-M-5等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット等が挙げられる。
【0039】
市販の多孔質炭素としては、クノーベルMHグレード、クノーベルP(2)010グレード、クノーベルP(3)010グレード、クノーベルP(4)050グレード等の東洋カーボン社製の多孔質炭素等が挙げられる。
【0040】
市販のナノポーラスカーボンとしては、Easy-N社製ナノポーラスカーボンが挙げられる。
【0041】
本発明の炭素触媒の製造原料として用いられる炭素系原料としては、無機炭素系原料だけでなく、熱処理により炭素粒子となる有機炭素系原料を使用することもできる。有機炭素系原料は、炭素元素以外に他の元素を含有していてもよい。触媒活性点を形成するヘテロ元素及び/又は卑金属元素は、有機炭素系原料に含まれていてもよいし、有機炭素系原料の熱処理後に得られる炭素粒子に導入してもよい。工程数低減等の観点から、ヘテロ元素を含む有機炭素系原料の使用が好ましい場合がある。
【0042】
有機炭素系原料としては例えば、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂系樹脂、ポリイミダゾール系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、メラミン系樹脂、ピッチ、褐炭、ポリカルボジイミド、バイオマス、タンパク質、フミン酸等、及びこれらの誘導体等が挙げられる。中でも、窒素及びホウ素等のヘテロ元素を含む有機材料が好ましい。具体的には、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、及びポリアニリン系樹脂等が、窒素元素を含むため、有機炭素系原料として好ましい。
【0043】
(ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含む化合物)
無機炭素系原料、又は有機炭素系原料の熱処理後に得られる炭素粒子に対して、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を導入する際に使用される原料としては、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含む化合物であれば、特に限定されない。例えば、色素及びポリマー等の有機化合物;金属単体、金属酸化物、及び金属塩等の無機化合物が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。
【0044】
上記したように、卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、及び金)を除く金属元素である。卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、及びスズからなる群より選択される1種以上の元素が好ましい。
【0045】
ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含む化合物は、好ましくは錯体又は塩である。中でも、炭素触媒中に効率的にヘテロ元素及び卑金属元素を導入しやすいため、卑金属元素を分子中に含むことが可能な窒素含有芳香族化合物が好ましい。具体的には、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、及びテトラアザアヌレン系化合物等の大環状化合物が挙げられる。
【0046】
上記芳香族化合物は、電子吸引性官能基及び/又は電子供与性官能基が導入されたものであってもよい。特に、フタロシアニン系化合物は、様々な卑金属元素を含んだ化合物が入手可能であり、コスト的に安価であるため、原料として好ましい。中でも、コバルトフタロシアニン系化合物、銅フタロシアニン系化合物、及び鉄フタロシアニン系化合物は、高い触媒活性を有する。これらの化合物を原料として使用した場合、安価で高い活性を有する炭素触媒を得ることができ、好ましい。
【0047】
(原料の組合せ)
本発明の炭素触媒は、炭素元素とヘテロ元素、好ましくは炭素元素とヘテロ元素と卑金属元素を含む。原料として用いられる炭素元素源、ヘテロ元素源、及び必要に応じて原料として用いられる卑金属元素源の例は、以下の通りである。
炭素元素源としては例えば、ヘテロ元素及び卑金属元素を含まない無機炭素系原料、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含む無機炭素系原料、ヘテロ元素及び卑金属元素を含まない有機炭素系原料、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含む有機炭素系原料、及びこれらの組合せ等が挙げられる。
ヘテロ元素源としては例えば、ヘテロ元素を含む無機炭素系原料、ヘテロ元素を含む有機炭素系原料、ヘテロ元素を含み卑金属元素を含まない化合物、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物、アンモニア等のヘテロ元素を含む反応性気体、及びこれらの組合せ等が挙げられる。
卑金属元素源としては例えば、卑金属元素を含む無機炭素系原料、卑金属元素を含む有機炭素系原料、ヘテロ元素を含まず卑金属元素を含む化合物、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物、及びこれらの組合せ等が挙げられる。
上記のように、1つの原料が、複数の元素源を兼ねる場合がある。最終的に得られる炭素触媒が、炭素元素とヘテロ元素、好ましくは炭素元素とヘテロ元素と卑金属元素を含むように、上記原料の中から、1種又は複数種の原料を選択すればよい。
【0048】
(炭素触媒の製造方法の一実施形態)
本発明に係る炭素触媒の製造方法の一実施形態は、
無機又は有機の炭素系原料と、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含む1種以上の化合物とを混合し、原料混合物を得る工程(混合工程)と、
上記原料混合物を熱処理する工程(熱処理工程)とを含む。
原料混合物が溶媒を含む場合、混合工程と熱処理工程との間に、乾燥工程を有してもよい。
【0049】
(混合工程)
無機又は有機の炭素系原料と、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含む1種以上の化合物との混合法は特に限定されず、複数種の原料が均一に混合される方法であればよい。混合法としては、乾式混合及び湿式混合が挙げられる。乾式混合装置及び湿式混合装置としては公知の装置を用いることができ、複数の装置を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
乾式混合装置としては例えば、2本ロールミル及び3本ロールミル等のロールミル;ヘンシェルミキサー及びスーパーミキサー等の高速攪拌機;マイクロナイザー及びジェットミル等の流体エネルギー粉砕機;アトライター;ホソカワミクロン社製の粒子複合化装置(「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」);奈良機械製作所社の製粉体表面改質装置(「ハイブリダイゼーションシステム」、「メカノマイクロス」、「ミラーロ」)等が挙げられる。
【0051】
乾式混合では、母体となる原料粉体に対して他の原料を粉体のまま直接添加し、混合する方法と、母体となる原料粉体に対して、他の原料を少量の溶媒に溶解又は分散させた液を添加し、混合する方法がある。より均一な混合物が得られることから、後者の方法が好ましく、母体となる原料粉体に対して、他の原料を少量の溶媒に溶解又は分散させた液を少しずつ添加し、凝集粒子を生成させながら混合する方法が好ましい。
混合は、常温下で行ってもよいし、処理効率を上げるために加温下で行ってもよい。ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含む化合物の中には、常温で固体であるが、融点、軟化点、又はガラス転移温度が100℃未満と低い材料がある。このような材料を用いる場合、常温で混合するより、加温下で溶融させて混合する方がより均一に混合できる場合がある。
【0052】
湿式混合装置としては例えば、ディスパー、ホモミキサー、及びプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」及びPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、及びコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、及びナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、及び奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機;ロールミル;ニーダー等が挙げられる。
【0053】
湿式混合装置としては、装置からの金属混入防止処理が施されたものを用いることが好ましい。
例えば、メディア型分散機の場合、アジテーター及びベッセルとして、セラミック製のもの、樹脂製のもの、又は金属本体の表面に対してタングステンカーバイド溶射及び樹脂コーティング等の表面処理が施されたものを用い、メディアとして、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、及びアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。
ロールミルの場合も同様に、ロールとしてセラミック製ロールを用いることが好ましい。
【0054】
溶媒に対する分散性の低い原料を含む複数種の原料を湿式混合する場合、各原料の溶媒への濡れ性又は分散性を向上させるために、公知の水系用分散剤又は溶剤系用分散剤を添加し、分散混合することができる。
【0055】
市販の水系用分散剤としては例えば、以下のものが挙げられる。
ビックケミー社製の分散剤としては、DISPERBYK-180、184、187、190、191、192、193、194、199、2010、2012、2015、2096等が挙げられる。
日本ルーブリゾール社製の分散剤としては、SOLSPERSE12000、20000、27000、41000、41090、43000、44000、45000等が挙げられる。
BASFジャパン社製の分散剤としては、JONCRYL67、678、586、611、680、682、683、690、60、61、62、63、HPD-96、Luvitec K17、K30、K60、K80、K85、K90、VA64等が挙げられる。
川研ファインケミカル社製の分散剤としては、ヒノアクトA-110、300、303、501等が挙げられる。
ニットーボーメディカル社製の分散剤としては、PAAシリーズ、PASシリーズ、両性シリーズPAS-410C、410SA、84、2451、2351等が挙げられる。
アイエスピー・ジャパン社製の分散剤としては、ポリビニルピロリドンPVP K-15、K-30、K-60、K-90、K-120等が挙げられる。
丸善石油化学社製の分散剤としては、ポリビニルイミダゾールPVI等が挙げられる。
【0056】
市販の溶剤系用分散剤としては例えば、以下のものが挙げられる。
ビックケミー社製の分散剤としては、Anti-Terra-U、U100、204、DISPERBYK-101、102、103、106、107、108、109、110、111、140、161、163、168、170、171等が挙げられる。
日本ルーブリゾール社製の分散剤としては、SOLSPERSE3000、5000、9000、13240、13650、13940、17000、18000、19000、21000、22000、24000SC、24000GR、26000、28000、31845、32000、32500、32600、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、53095が挙げられる。
味の素ファインテクノ社製の分散剤としては、アジスパーPB821、PB822、PN411、PA111が挙げられる。
川研ファインケミカル社製の分散剤としては、ヒノアクトKF-1000、1300M、1500、T-6000、8000、8000E、9100等が挙げられる。
BASFジャパン社製の分散剤としては、Luvicap等が挙げられる。
【0057】
(乾燥工程)
混合工程において湿式混合により原料混合物を調製する場合、混合工程の後に、必要に応じて、原料混合物に含まれる溶媒を乾燥除去する工程を実施してもよい。乾燥装置としては、棚式乾燥機、回転乾燥機、気流乾燥機、噴霧乾燥機撹拌乾燥機、及び凍結乾燥機等が挙げられる。
【0058】
(熱処理工程)
炭素系原料と、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含む1種以上の化合物とを含む原料混合物の熱処理は、公知方法にて行うことができる。
加熱温度は用いる原料によって異なり、500~1100℃が好ましく、600~1100℃がより好ましく、700~1000℃が特に好ましい。
ある程度高温で熱処理を行うことで、窒素元素等のヘテロ元素が、炭素六角網面の末端の炭素元素を置換するようにドープされ、活性点の構造が安定化し、実用的なデバイス運転条件に耐え得る触媒表面が得られることが多い。
加熱時間は特に限定されず、1~5時間が好ましい。
【0059】
熱処理工程では、原料をできるだけ不完全燃焼により炭化させ、ヘテロ元素及び必要に応じて卑金属元素を炭素触媒の表面に残存させる必要がある。このため、雰囲気としては、窒素及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気;窒素及びアルゴン等の不活性ガスに水素が混合された還元性ガス雰囲気が好ましい。また、熱処理時の炭素触媒中のヘテロ元素の低減を抑制するために、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気も好適である。
その他、炭素触媒の表面構造を制御するために、水蒸気雰囲気、二酸化炭素雰囲気、又は低酸素雰囲気も好適である。これらの雰囲気では、酸化が進んで金属元素が酸化物となり、粒子成分が凝集しやすくなる恐れがあるため、温度及び時間等を適切に選択する必要がある。
【0060】
熱処理工程では、一定の雰囲気及び温度下で、1段階で熱処理を行ってもよいし、雰囲気及び/又は温度を変えて複数段階で熱処理を行ってもよい。
例えば、1段階目で、不活性ガス雰囲気下、500℃程度の比較的低温で熱処理した後、2段階目で、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気下、又は賦活ガス雰囲気下で、1段階目を超える温度で熱処理してもよい。この方法では、触媒活性サイトを形成すると考えられているヘテロ元素及び必要に応じて卑金属元素を、より効率的且つ多量に残存させられることがある。
【0061】
(後工程)
上記熱処理工程後に得られた炭素触媒に対して、酸洗浄工程と乾燥工程を実施してもよい。
酸洗浄に用いる酸としては、上記熱処理工程後に得られた炭素触媒の表面に存在する、活性点として作用しない卑金属成分を溶出させることができるものであれば、特に限定されない。炭素触媒との反応性が低く卑金属成分の溶解力が強い、濃塩酸及び希硫酸等が好ましい。
具体的な洗浄方法は以下の通りである。ガラス容器内に酸と炭素触媒を入れ、撹拌分散を数時間続けた後、静置し、上澄みを除去する。これら一連の操作を、上澄みの着色が確認されなくなるまで繰り返し行う。最後に、濾過及び水洗により酸を除去し、公知方法にて乾燥する。
上記熱処理工程後に得られた炭素触媒に対して酸洗浄を行うことにより、表面の余分な卑金属成分を除去し、触媒活性を向上でき、好ましい。
【0062】
酸洗浄工程後に、乾燥工程の代わりに、熱処理工程を実施してもよい。酸洗浄工程後の熱処理工程は、原料混合物を熱処理して炭素触媒とする上記熱処理工程とは区別するため、再熱処理工程とも言う。
再熱処理工程における熱処理条件は、原料混合物を熱処理して炭素触媒とする上記熱処理工程の条件と同様でよい。加熱温度は500~1100℃が好ましく、600~1100℃がより好ましく、700~1000℃が特に好ましい。雰囲気としては、窒素及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気;不活性ガスに水素が混合された還元性ガス雰囲気;窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気等が好ましい。
【0063】
<酵素センサー電極用炭素触媒層>
炭素触媒層の形成方法は、特に限定はないが、例えば、少なくとも炭素触媒と溶剤を含む炭素触媒組成物を塗工あるいは印刷することによって形成される。また、炭素触媒組成物は、必要に応じてバインダー、分散剤、増粘剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤等を配合できる。また、炭素触媒の導電性を補うために導電性材料を含むことが好ましい。導電性材料としては、金属材料や非金属材料を用いることが好ましい。更には、2種類以上の導電性材料を併用してもよい。金属材料、非金属材料、溶剤、バインダー、分散剤等の割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。
【0064】
<導電性材料>
【0065】
<金属材料>
本発明の金属材料としては、導電性を有していれば特に限定はない。例えば金属系、金属酸化物系が挙げられ、金属系としては金、白金、銅、鉄、鉛、亜鉛、スズ、ニッケル、チタン、アルミニウム、タングステン等が、金属酸化物系としては酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等が例示できる。更に、これらの金属に化学的あるいは物理的な表面処理、表面修飾を施したものを用いてもよい。また、ステンレス鋼の様な合金やドーピングされた金属材料、金属材料を複数種併用してもよい。組成物として使用する場合、形態およびその大きさについても特に限定は無く、粒状、繊維状、フレーク状等が例示でき、更にこれらを熱等により融着させて用いてもよい。また、金属および金属酸化物を導電性担体や非導電性担体に被覆したものを用いてもよい。
【0066】
<非金属導電材料>
本発明における非金属導電材料としては、導電性炭素や導電性高分子等が挙げられる。導電性炭素としては、黒鉛、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン系炭素材料(グラフェン、グラフェンナノプレートレット)、多孔質炭素、ナノポーラスカーボン、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。組成物として使用する場合、導電性や耐腐食性やコスト等の観点から、炭素材料が使用されることが好ましい。更には、少なくとも黒鉛が含有されていることが好ましい。
【0067】
(黒鉛)
黒鉛としては、例えば人造黒鉛や天然黒鉛等を使用することが出来る。人造黒鉛は、無定形炭素の熱処理により、不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般的には石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として製造される。天然黒鉛としては、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等を使用することが出来る。また、鱗片状黒鉛を化学処理等した膨張黒鉛(膨張性黒鉛ともいう)や、膨張黒鉛を熱処理して膨張化させた後、微細化やプレスにより得られた膨張化黒鉛等を使用することも出来る。これらの黒鉛の中でも、導電膜に用いる場合は、導電性の観点で天然黒鉛が好ましい。
【0068】
これら黒鉛の表面は、表面処理、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、シランカップリング処理、および酸化処理等が施されていてもよい。
【0069】
また、用いる黒鉛の平均粒径は、100μm以下が好ましく、特に60μm以下が好ましい。
【0070】
黒鉛の平均粒径が2μm未満では、黒鉛粒子のアスペクト比が低下し、黒鉛粒子間の接触が、点接触になりやすくなるため、導電ネットワークを十分に形成できない可能性がある。一方で、黒鉛の平均粒径が100μm以上では、黒鉛粒子間の空隙が大きくなり、導電ネットワーク中の黒鉛以外の導電性支持体内で形成する導電パスの割合が多くなり、導電性の低下を引き起こす可能性がある。
【0071】
本発明でいう平均粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0072】
市販の黒鉛としては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
【0073】
また、本発明中の酵素センサー電極に占める黒鉛の含有率は、特に、非金属導電材料100質量%中、50質量%以上であることが好ましい。
【0074】
黒鉛の含有率が、非金属導電材料100質量%中50質量%未満の場合では、過剰量の黒鉛以外の非金属導電材料による黒鉛粒子の配向性の低下および導電ネットワークの大部分を黒鉛以外の非金属導電材料が占めることで、特異的な高い導電性が発現しなくなる可能性がある。一方で、黒鉛の含有率が非金属導電材料100質量%中99質量%を超える場合には、黒鉛粒子による平面方向の導電性が支配的となり、導電膜の導電性は頭打ちする可能性がある。
【0075】
黒鉛含有率が、非金属導電材料100質量%中、70~98質量%である場合、黒鉛粒子による平面方向の高い導電性に加え、適切な量の黒鉛以外の導電材料によって、黒鉛由来の平面方向の導電性を阻害せずに垂直方向の導電ネットワークが強化され、非常に高い導電性を発現できる。
【0076】
(黒鉛以外の導電性炭素)
黒鉛以外の導電性炭素としては、特に限定されるものではないが、粒径および比表面積の観点からカーボンブラックが好ましい。それ以外にも、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン系炭素材料、多孔質炭素、ナノポーラスカーボン、カーボンナノホーン、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することが出来る。
【0077】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0078】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0079】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m2/g以上、1500m2/g以下、好ましくは50m2/g以上、1500m2/g以下、更に好ましくは100m2/g以上、1500m2/g以下のものを使用することが望ましい。比表面積が20m2/gを下回るカーボンブラックを用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合があり、1500m2/gを超えるカーボンブラックは、市販材料での入手が困難となる場合がある。
【0080】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005~1μmが好ましく、特に、0.01~0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0081】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、デンカ社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0082】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートが環を巻いたナノスケールのチューブ状の構造を有しており、グラフェンシートの積層数によって、単層、多層に区別される。カーボンナノチューブは、原料や合成方法によって繊維径や長さ、結晶性、集合状態を制御することで、材料の比表面積、導電性等の諸物性を制御することが可能となる。グラフェン系炭素材料と同様、合成コストや取り扱いを考慮すると、単層カーボンナノチューブよりも多層カーボンナノチューブの方が好ましい場合がある。
市販のカーボンナノチューブとしては、VGCF、VGCF-H、VGCF-X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ、名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0083】
グラフェン系炭素材料としては、炭素原子が同一平面上に六角形に配置し、グラファイトを構成する単原子層であるグラフェンが、単層若しくは、多層構造を有している炭素材料であれば良い。単層及び多層グラフェンは、グラファイトを機械的、化学的に剥がしたり、炭化水素系ガスからCVD法でなどにより合成されるが、合成コストや取り扱いを考慮すると、単層グラフェンよりも十数~数十層積層された多層グラフェンが好ましい場合がある。
市販のグラフェン系炭素材料としては、例えば、xGnP-C-750、xGnP-M-5等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット等が挙げられる。
【0084】
多孔質炭素は、一般的に酢酸マグネシウムなどの鋳型材料と炭素原料を混合して焼成後、鋳型材料を除去することで得られる。鋳型材料の種類、粒径、規則性等を制御することで得られる多孔質炭素の物性を制御することが出来る。
市販の多孔質炭素としては、クノーベルMHグレード、クノーベルP(2)010グレード、クノーベルP(3)010グレード、クノーベルP(4)050グレード等の東洋カーボン社製の多孔質炭素等が挙げられる。
【0085】
ナノポーラスカーボンは、表面にメソポーラス構造を有し粒径20~50nm程度の球状粒子である。メソポーラス構造に由来する高い表面積、細孔容積により優れた吸着能を有している。
市販のナノポーラスカーボンとしては、Easy-N社製ナノポーラスカーボンが挙げられる。
【0086】
<溶剤>
本発明に使用する溶剤としては、特に限定せず使用することができる。必要に応じて、例えば、分散性や支持体への塗工性向上のために、複数の溶剤種を混ぜて使用しても良い。溶剤としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。
【0087】
<バインダー>
本発明におけるバインダーとは、炭素触媒や導電性材料などの異なる材料や材料同士を結着させるために使用されるものであり、それら粒子を溶媒中へ分散させる効果は小さいものである。
バインダーとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、スチレン-ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロカーボン及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0088】
また、水性液状媒体を使用する場合、一般的に水性エマルションとも呼ばれるバインダーも使用できる。水性エマルションとは、バインダー樹脂が水中で溶解せずに、微粒子の状態で分散されているものである。
【0089】
使用するエマルションは特に限定されないが、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(SBR(スチレンブタジエンゴム)など)、フッ素系エマルション(PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など)等が挙げられる。
【0090】
(分散剤)
本発明において使用する分散剤は、炭素触媒や導電性材料に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。分散剤は炭素触媒や導電性材料に対して凝集を緩和する効果が得られれば特に限定されるものではない。
【0091】
(分散機・混合機)
前記組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0092】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントシェーカー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0093】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0094】
<酵素センサー電極用導電層>
本発明の酵素センサー用電極には前記の炭素触媒を含む電極を形成する前後で、炭素触媒を含まない導電層を設置してもよい。
【0095】
(導電層の形成)
導電層は、導電性基材あるいは非導電性基材に金属あるいは非金属導電材料をスパッタリングして形成する方法や、導電性高分子や酵素センサー導電層用組成物を塗工・印刷し、必要に応じてプレス処理等を行って形成する方法が挙げられる。組成物を塗工・印刷する方法としては、特に制限はなく、例えばスクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター等の一般的な方法を適用できる。
【0096】
(酵素センサー電極用導電性組成物)
酵素センサー電極用導電性組成物は、少なくとも導電性材料と溶剤とバインダーを含み、必要に応じて分散剤、増粘剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤等を配合できる。これらの材料は、酵素センサー電極用炭素触媒組成物で記載したものを同様に使用できる。導電性材料及び溶剤とバインダー等の割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。
【0097】
<基材>
基材としては、非導電性基材と導電性基材が挙げられる。非導電性基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー等の樹脂フィルムが例示できる。また、樹脂フィルム以外にも紙や布等も挙げられる。
また、カーボンペーパーやカーボンクロス等の導電性基材も挙げられる。
【0098】
<酵素センサー>
酵素センサーは、少なくとも作用極及び対極、あるいは作用極、対極及び参照極で構成される。本発明の酵素センサーは、好ましくは試料中に含まれる検出対象の成分が酵素と反応して過酸化水素を生成し、この過酸化水素による電気化学反応が生じることで検出し、その電流から標的成分の濃度を算出できるものである。
酵素センサーに用いる複数の電極は、異なる基材上にそれぞれ形成することで作製する場合や、同一の非導電性基材上にそれぞれの電極を形成する場合や、同一の非導電性基材上に電極を設置した後に非導電部位を形成する場合が挙げられる。またいずれも予め、基材上に金属スパッタリングや酵素センサー導電層用組成物で導電層を形成した上に、各電極を形成して電極を作製してもよい。同一基材上に全ての電極を形成する場合は、非導電性基材を用いることが好ましい。
参照極を設置する場合は、例えば導電層の上部へ更に銀や塩化銀などを積層することによって作製される。
各電極のリード部は、金属スパッタリングや酵素センサー導電層用組成物で形成する方法、酵素センサー電極用炭素触媒組成物で形成される塗膜を延長して用いる方法、延長した塗膜の上部や下部に金属スパッタなどで金属層を更に形成する方法等、が例示できる。
酸化還元酵素を設置する方法としては、これらの電極上部、あるいは作用極の上部及びおよび/または内部に、酸化還元酵素を含ませる方法や、酸化還元酵素を加えた混合物層を形成させる方法等が挙げられる。酸化還元酵素を含む混合物層を形成する場合、親水性化合物および/または親水性樹脂を混合してもよい。
【0099】
酵素センサーは、前記の通り血液等の生体試料や食品等に含まれる特定成分を、酵素の基質特異性により選択的に反応する過程で生じた過酸化水素を検出し、その電流値等から定性あるいは定量するものである。酵素センサーの用途としては、例えば、各種有機物を対象とした有機物センサー、血液や汗、尿、便、涙、唾液、間質液、呼気などの生体試料中の有機物や体液を対象とした生体センサー、水分を対象にした水分センサー、果物や食品中の糖等を対象にした食品用センサー、IoTセンサー、大気や河川、土壌など環境中の有機物を対象にした環境センサー、動物や昆虫、植物を対象にした動植物センサー、細胞培養の培地成分をモニタリングする細胞培養センサー等が挙げられる。生体センサーとしては、例えば、血液中の糖をセンシングする血糖値センサーや、尿中の糖をセンシングする尿糖値センサー、汗中の乳酸値をセンシングする疲労度センサーや熱中症センサー、汗や尿中の水分をセンシングする発汗センサーや排尿センサー等が挙げられる。また、生体向けのウェアラブルセンサーとしての用途として、例えば、おむつ内にセンサーを仕込んだ排尿センサーや尿糖値センサー、経皮貼付型の発汗、熱中症センサー、穿刺型での間質液の糖センサー、などが挙げられる。
【0100】
<酸化還元酵素>
本発明における酵素としては、反応により過酸化水素を生成する酵素であれば特に制限はなく、検出対象に応じて適宜選択される。糖や有機酸などのオキシダーゼなどが利用できる。中でも、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを検出対象にできるグルコースオキシダーゼが好ましい場合がある。その他、乳酸を検出対象にできる乳酸オキシダーゼが好ましい場合がある。
用いられる酵素は1種類でも2種類以上であってもよい。また、センシング対象を加水分解等により酸化あるいは還元可能な状態にする酵素等の触媒と、酸化あるいは還元を促進する酵素との組み合わせであってもよい。
【0101】
<イオン伝導体>
本発明におけるイオン伝導体として電極の間でイオンの伝導を行うものを用いてもよい。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。イオン伝導体としては、液体に溶ける電解質や固体のポリマー電解質などを使用しても良い。
【0102】
<選択透過層>
本発明の電極には、過酸化水素以外の試料中に含まれる電極感応物質による影響を排除し、測定精度を向上させるために、過酸化水素の選択透過層を設けることもできる。選択透過層は、主に炭素触媒と過酸化水素を発生させる酵素との間に設置される。使用する材料に特に制限は無いが、ポリシロキサン等のシロキサン骨格を有する高分子、ナフィオン等のパーフルオロアルキルスルホン酸を有する高分子、酢酸セルロース等が例示できる。
【実施例
【0103】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、特に断らない限り、実施例および比較例における「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0104】
(酵素センサー電極用炭素触媒の製造)
[製造例1]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)と鉄フタロシアニンP-26(山陽色素社製)とを質量比1:0.5となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。この混合物をアルミナ製るつぼ内に入れ、電気炉にて窒素雰囲気下、900℃で3時間熱処理を行い、酵素センサー電極用炭素触媒(1)を得た。
【0105】
[製造例2]
ケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)と鉄フタロシアニン P-26(山陽色素社製)とを質量比1:0.7となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。この混合物をアルミナ製るつぼ内に入れ、電気炉にて窒素雰囲気下、900℃で2時間熱処理を行い、酵素センサー電極用炭素触媒(2)を得た。
【0106】
実施例で使用した、表1および2に記載の炭素材料を下記に示す。
(触媒組成物用:黒鉛)
・A-a1:球状化黒鉛 CGB-50(日本黒鉛社)
・A-a2:薄片状黒鉛 UP-20(日本黒鉛社)
(触媒組成物用:黒鉛以外)
・A-b1:アセチレンブラック HS-100(デンカ社)
・A-b2:ケッチェンブラック EC-200L(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社)
(導電性組成物用:黒鉛)
・B-a1:球状化黒鉛 CGB-50(日本黒鉛社)
・B-a1:薄片状黒鉛 UP-20(日本黒鉛社)
(導電性組成物用:黒鉛以外)
・B-b1:アセチレンブラック HS-100(デンカ社)
・B-b2:ケッチェンブラック EC-200L(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社)
【0107】
<実施例1>
(酵素センサー電極用炭素触媒組成物の調製)
酵素センサー電極用炭素触媒(1)2.4部と、導電性材料(球状化黒鉛 CGB-50(日本黒鉛社製))2.4部、液状媒体としてイオン交換水49.2部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分2%)とをミキサーに入れて撹拌混合した。更に、得られた混合物をサンドミルに入れて分散混合した。その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)6部(固形分50%)を加え、ミキサーで撹拌混合し、酵素センサー電極用炭素触媒組成物(1)を得た。
表1および表2に記載の組成で、酵素センサー電極用炭素触媒組成物(1)と同様にして酵素センサー電極用炭素触媒組成物(2)~(21)を調製した。
【0108】
(酵素センサー電極用導電性組成物の調製)
カルボキシメチルセルロース水溶液500質量部(固形分1%)に、導電性材料(A-a1:球状化黒鉛 CGB-50(日本黒鉛社製))72質量部と黒鉛以外の導電性材料(A-b1:ライオナイト EC-200L(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、比表面積380m/g)8質量部を添加しミキサーに入れて混合した。次いで、サンドミルにて分散を行った。
次にバインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)30部(固形分50%)を添加し、適宜イオン交換水を加えてミキサーで混合し、酵素センサー電極用導電性組成物(1)を得た。
表1および表2に記載の組成で、酵素センサー電極用導電性組成物(1)と同様にして酵素センサー電極用導電性組成物(2)~(5)を調製した。
【0109】
(酵素センサー用電極の作製)
基材として厚さ100μmのPET基材(ルミラー(東レ社製))上に、酵素センサー電極用導電性組成物(1)を2×30mmの開口部を2か所備えたメタルマスクを用いて塗布後、加熱乾燥した。続いて、酵素センサー電極用炭素触媒組成物(1)を2×30mmの開口部を1か所備えたメタルマスクを用いて塗布後、加熱乾燥し作用極を形成した。その後、絶縁性のレジストインキを塗膜パターンの下部にメタルマスクを用いて塗工、その後加熱乾燥した。更に、銀/塩化銀を分散したインキを絶縁性レジストで囲われた開口部内の作用極以外の電極1つに塗工し、加熱乾燥を経て、図1に示す酵素センサー用電極(1)を得た。
別途PET基材上にドクターブレードにて酵素センサー電極用炭素触媒組成物(1)を塗布後、加熱乾燥し、作用極となる塗膜を得て体積抵抗率を測定した。電極の体積抵抗率は、ロレスタGP(三菱化学アナリテック社製)を用いて4端子法で測定(JIS-K7194)し、以下の通り判定した。
〇:「体積抵抗率が1Ω・cm未満」
△:「体積抵抗率が1Ω・cm以上、5Ω・cm未満」
×:「体積抵抗率が5Ω・cm以上」
【0110】
[実施例2~5、10、比較例1]
酵素センサー電極用炭素触媒組成物を表1に記載の組成物に変更した以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例2~5、実施例10および比較例1の酵素センサー用電極を得た。
【0111】
[実施例6]
(導電層上に酵素センサー電極用炭素触媒を有する電極の作製)
基材として厚さ100μmのPET基材(ルミラー(東レ社製))上に、酵素センサー電極用導電性組成物(1)を2×30mmの開口部を3か所備えたメタルマスクを用いて塗布後、加熱乾燥した。続いて、酵素センサー電極用炭素触媒組成物(1)を2×30mmの開口部を1か所備えたメタルマスクを用いて塗布後、加熱乾燥することで、導電層上に炭素触媒を設置した作用極を形成した。更に、実施例1と同様に銀/塩化銀の参照極を形成し、図2に示す酵素センサー用電極(6)を得た。
別途PET基材上にドクターブレードにて酵素センサー電極用導電性組成物(1)を塗布後、加熱乾燥し、更に酵素センサー電極用炭素触媒組成物(1)を塗布後、加熱乾燥することで、作用極となる塗膜を得て体積抵抗率を測定した。
【0112】
[実施例7~9]
酵素センサー電極用炭素触媒組成物、酵素センサー電極用導電性組成物を表1に記載の組成物に変更した以外は、実施例6と同様の方法にて、表1に示す構成で実施例7~9の酵素センサー用電極を得た。
【0113】
[実施例11~15、20、比較例2]
実施例1と同様の方法にて、酵素センサー電極用炭素触媒(2)を用いて、表2に示す構成で実施例11~15、実施例20および比較例2の酵素センサー用電極を得た。
【0114】
[実施例16~19]
実施例6と同様の方法にて、酵素センサー電極用炭素触媒(2)を用いて、表2に示す構成で実施例17~19の酵素センサー用電極を得た。
【0115】
<電気化学評価>
前記作製した酵素センサー用電極の作用極のみを接続し、対極(白金コイル電極)、参照電極(銀/塩化銀電極)が取り付けられた電解槽に、5mM過酸化水素とした0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)を入れ、室温下で、Linear Sweep Voltammetry(LSV)を行い、0~0.9V(vsAg/AgCl)の範囲を掃引し、0.8Vでの電流値を獲得した。表1に示すように、比較例1における0.8Vでの電流値に対する、実施例1~10における同電流値の百分率(%)で比較し、また、表2に示すように、比較例2における0.8Vでの電流値に対する、実施例11~20における同電流値の百分率(%)で比較した。

〇:110%以上
△:100%以上110%未満
×:100%未満(比較例より悪い)
【0116】
更に、同条件にて別途0.5~-0.8V(vsAg/AgCl)の範囲を掃引し、-0.4Vでの電流値を獲得した。前記同様に、比較例2における-0.4Vでの電流値に対する、実施例1~10における同電流値の百分率(%)で比較し、また、表2に示すように、比較例2における-0.4Vでの電流値に対する、実施例11~20における同電流値の百分率(%)で比較し、それぞれ前記同様に判定した。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
いずれの実施例においても、比較例より過酸化水素の酸化および還元による電流値が高く得られた。本発明により高感度なセンサーとして利用できる。また、金属を含まないため腐食に強く、低コストであり、廃棄の際の分別も容易である。
【0120】
実施例1の酵素センサー用電極について、絶縁性レジストで囲われた開口部内に酵素であるグルコースオキシダーゼを0.1Mリン酸緩衝(pH7)で溶解した水溶液を滴下、自然乾燥させて酵素を担持し、酵素センサーを得た。炭素触媒を含む電極を作用極、銀/塩化銀が塗工された電極を参照極に、残りの電極を対極として接続した。5mM、10mM、20mMのグルコースを含む各0.1Mりん酸緩衝液を滴下、それぞれ0.8V(vsAg/AgCl)の電位を印加し応答電流値が安定したところを測定した結果、グルコース濃度と電流値に相関が見られた。基質濃度による電流値変化が得られるため、センサーとして活用可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 酵素センサー
2 基材
3 導電層
4 触媒層
5 絶縁性レジスト
6 開口部
7 参照極
図1
図2