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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ボールねじ装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20240702BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020099508
(22)【出願日】2020-06-08
(65)【公開番号】P2021193308
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 悠介
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-086068(JP,A)
【文献】特開2013-155845(JP,A)
【文献】特開2019-086067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状の外周転動溝が形成されるねじ軸と、
内周面に前記外周転動溝と対向するように螺旋状の内周転動溝が形成される筒状のナットと、
前記外周転動溝と前記内周転動溝との間に形成される転動路に転動可能に配置される複数のボールと、
前記転動路における二点間を短絡し、前記転動路との間で前記ボールを無限循環させる還流路を形成する還流部材と、
を備える複数のボールねじ装置であって、
前記還流部材は、
前記ナットの周方向を長手方向とし、長手方向の一端において前記ナットの内周面側に開口するすくい開口部と、前記すくい開口部と連通して、前記ナットの外周面側に開口する接続部と、を備え、互いに点対称に配置される一対のすくい部と、
一対の前記すくい部の間に接合され、前記接続部間を接続する貫通孔を備える接続通路部と、
を備え、
複数の前記ボールねじ装置において、前記還流部材は、前記ナットの軸方向に対する長さが一定であり、
前記還流部材は、一の前記ボールねじ装置において、前記還流部材の周方向中央位置から前記すくい部の前記すくい開口部側の端部までの周方向長さ、前記還流部材の周方向中央位置から前記すくい部の前記すくい開口部の反対側の端部までの周方向長さ、前記接続通路部が周方向へ突出した突出部を備える場合において前記突出部の周方向長さ、前記接続通路部が前記突出部を備える場合において前記接続通路部の前記突出部の軸方向長さから選択される2つの取付寸法の内、一方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して大きく、他方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して小さい、ボールねじ装置。
【請求項2】
前記接続通路部は、前記突出部を備え、
前記還流部材は、一の前記ボールねじ装置において、前記還流部材の周方向中央位置から前記すくい部の前記すくい開口部の反対側の端部までの周方向長さ、及び、前記突出部の周方向長さ、の前記取付寸法の内、一方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して大きく、他方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して小さい、請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記接続通路部は、前記突出部を備え、
前記還流部材は、一の前記ボールねじ装置と他の前記ボールねじ装置とにおいて、前記突出部の周方向長さ及び前記突出部の軸方向長さの少なくとも1つが異なる、請求項に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
複数の前記ボールねじ装置において、前記還流路を転動する前記ボールの中心軌道は、前記ナットの径方向からの平面視が同一の軌道である、請求項1~3の何れか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
外周面に螺旋状の外周転動溝が形成されるねじ軸と、
内周面に前記外周転動溝と対向するように螺旋状の内周転動溝が形成され、外周と内周を径方向に貫通する一対の取付孔が形成され、外周面に軸方向に延びる還流溝が形成された筒状のナットと、
前記外周転動溝と前記内周転動溝との間に形成される転動路に転動可能に配置される複数のボールと、
前記転動路における二点間を短絡し、前記転動路との間で前記ボールを無限循環させる還流路を形成する一対の還流部材と、
を備える複数のボールねじ装置であって、
前記一対の還流部材はそれぞれ、
前記ナットの周方向を長手方向とし、長手方向の一端において前記ナットの内周面側に開口するすくい開口部と、前記すくい開口部と連通して、前記ナットの外周面側に開口する接続部と、を備え、前記ナットの前記取付孔の中に挿入されて互いに点対称に配置され、前記接続部は前記還流溝に接続され、
前記還流部材は、前記ナットの外周側において、前記ナットの周方向に突出した突出部と、を備え、
複数の前記ボールねじ装置において、前記還流部材は、前記ナットの軸方向に対する長さが一定であり、
前記還流部材は、一の前記ボールねじ装置において、前記すくい開口部側の前記突出部の周方向長さ、及び、前記すくい開口部の反対側の前記突出部の周方向長さ、の取付寸法の内、一方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して大きく、他方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して小さい、ボールねじ装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のボールねじ装置の製造方法であって、
生産ラインにおいて一の前記ボールねじ装置を製造する場合に、前記取付寸法を設定することにより、一の前記ボールねじ装置を構成する前記ナットに、他の前記ボールねじ装置を構成する前記還流部材を組み付けることを回避する、ボールねじ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータにより、ラックシャフトに対して軸方向推力を発生させ、ラックシャフトの作動を補助する自動車用のステアリング装置がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に示すステアリング装置では、電動モータの回転力を、ボールねじ装置を介して軸方向推力に変換しラックシャフトに伝達する。
【0003】
特許文献1のボールねじ装置は、デフレクタ方式のボールねじ装置である。このボールねじ装置は、外周面に螺旋状のボールねじ装置溝が形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状のボールねじ装置溝が形成されたナットと、を備える。ねじ軸及びナットの各ボールねじ溝は、対向して配置される。そして、各ボールねじ溝間によって、複数のボールが転動可能な転動路が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-132308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボールねじ装置は、ねじ軸の外径及びナットの内径を変化させることにより、所望の軸方向負荷を得ることができる。一方で、ステアリング装置の設計上の制約等から、ナットの外径に関してはあまり変化させないことが好ましい。これにより、外観上は大きな差異がないが、負荷規格の異なる複数のボールねじ装置を作り分ける場合が発生する。そして、これらの複数のボールねじ装置は、生産コストの観点から、同一の生産ラインによって製造される場合が多い。
【0006】
同一の生産ラインにおいて、複数規格のボールねじ装置を製造する場合、ナットにデフレクタを組み付ける際に、異なる規格のデフレクタを誤って組み付けてしまう懸念があった。
【0007】
本発明は、複数のボールねじ装置を製造する際に、誤組付けを容易に防止できるボールねじ装置及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
外周面に螺旋状の外周転動溝が形成されるねじ軸と、
内周面に前記外周転動溝と対向するように螺旋状の内周転動溝が形成される筒状のナットと、
前記外周転動溝と前記内周転動溝との間に形成される転動路に転動可能に配置される複数のボールと、
前記転動路における二点間を短絡し、前記転動路との間で前記ボールを無限循環させる還流路を形成する還流部材と、
を備える複数のボールねじ装置であって、
前記還流部材は、
前記ナットの周方向を長手方向とし、長手方向の一端において前記ナットの内周面側に開口するすくい開口部と、前記すくい開口部と連通して、前記ナットの外周面側に開口する接続部と、を備え、互いに点対称に配置される一対のすくい部と、
一対の前記すくい部の間に接合され、前記接続部間を接続する貫通孔を備える接続通路部と、
を備え、
複数の前記ボールねじ装置において、前記還流部材は、前記ナットの軸方向に対する長さが一定であり、
前記還流部材は、一の前記ボールねじ装置において、前記還流部材の周方向中央位置から前記すくい部の前記すくい開口部側の端部までの周方向長さ、前記還流部材の周方向中央位置から前記すくい部の前記すくい開口部の反対側の端部までの周方向長さ、前記接続通路部が周方向へ突出した突出部を備える場合において前記突出部の周方向長さ、前記接続通路部が前記突出部を備える場合において前記接続通路部の前記突出部の軸方向長さから選択される2つの取付寸法の内、一方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して大きく、他方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して小さい、ボールねじ装置にある。
【0009】
本発明の他の態様は、
外周面に螺旋状の外周転動溝が形成されるねじ軸と、
内周面に前記外周転動溝と対向するように螺旋状の内周転動溝が形成され、外周と内周を径方向に貫通する一対の取付孔が形成され、外周面に軸方向に延びる還流溝が形成された筒状のナットと、
前記外周転動溝と前記内周転動溝との間に形成される転動路に転動可能に配置される複数のボールと、
前記転動路における二点間を短絡し、前記転動路との間で前記ボールを無限循環させる還流路を形成する一対の還流部材と、
を備える複数のボールねじ装置であって、
前記一対の還流部材はそれぞれ、
前記ナットの周方向を長手方向とし、長手方向の一端において前記ナットの内周面側に開口するすくい開口部と、前記すくい開口部と連通して、前記ナットの外周面側に開口する接続部と、を備え、前記ナットの前記取付孔の中に挿入されて互いに点対称に配置され、前記接続部は前記還流溝に接続され、
前記還流部材は、前記ナットの外周側において、前記ナットの周方向に突出した突出部と、を備え、
複数の前記ボールねじ装置において、前記還流部材は、前記ナットの軸方向に対する長さが一定であり、
前記還流部材は、一の前記ボールねじ装置において、前記すくい開口部側の前記突出部の周方向長さ、及び、前記すくい開口部の反対側の前記突出部の周方向長さ、の取付寸法の内、一方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して大きく、他方が、前記ねじ軸の径の異なる他の前記ボールねじ装置に対して小さい、ボールねじ装置にある。
本発明の他の態様は、
前記ボールねじ装置の製造方法であって、
生産ラインにおいて一の前記ボールねじ装置を製造する場合に、前記取付寸法を設定することにより、一の前記ボールねじ装置を構成する前記ナットに、他の前記ボールねじ装置を構成する前記還流部材を組み付けることを回避する、ボールねじ装置の製造方法にる。
【0010】
還流部材は、ナットの周方向を長手方向とし、互いに点対称に配置される一対のすくい部と、すくい部の間に接合される接続通路部とを備える。本発明のボールねじ装置は、ねじ軸の径の異なる2以上のボールねじ装置を比較した場合に、取付寸法の内、少なくとも一箇所は他のボールねじ装置よりも大きく、少なくとも一箇所は他のボールねじ装置よりも小さい。
【0011】
還流部材は、ナットの外周面に形成され、還流部材の輪郭に対応した取付凹部に挿通することにより組付けられる。ねじ軸の径の異なるボールねじ装置A及びBにおいて、Aの還流部材は、Bの還流部材に対して、取付寸法の小さい箇所と大きい箇所を有する。換言すると、Bの還流部材も、Aの還流部材に対して、取付寸法の小さい箇所と大きい箇所を有することになる。例えば、Bのナットに設けられた取付凹部にAの還流部材を取り付けようとした場合、取付寸法の大きい箇所が取付凹部に干渉して還流部材を取り付けることができない。同様に、Aのナットに設けられた取付凹部にBの還流部材を取り付けようとした場合にも、取付寸法の大きい箇所が取付凹部に干渉して還流部材を取り付けることができない。これにより、複数のボールねじ装置を製造する際に、誤組付けを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一例に係るボールねじ装置を備える電動パワーステアリング装置を示す概略図である。
図2図1の操舵補助機構及びボールねじ装置の拡大断面図である。
図3】第一例に係る還流部材を示す斜視図である。
図4】第一例に係る還流部材が取り付けられた状態におけるナットの外観を示す図である。
図5図4のV-V断面図である。
図6図4のVI-VI断面図である。
図7】複数の還流部材における取付寸法を示す図である。
図8】第二例に係る還流部材を示す斜視図である。
図9】第二例に係る還流部材が取り付けられた状態におけるナットの外観を示す図である。
図10図9のX-X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第一例)
第一例に係るボールねじ装置40について、図1図2を参照して説明する。図1は、ボールねじ装置40が車両の電動パワーステアリング装置に適用された態様を例示する電動パワーステアリング装置の全体図である。なお、ボールねじ装置40は、電動パワーステアリング装置の他に、4輪操舵装置、後輪操舵装置、ステアバイワイヤ装置など、ボールねじ装置の適用が可能な様々な装置に適用できる。
【0014】
(1)パワーステアリング装置に構成
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」とも称する)は、操舵補助力によって操舵力を補助するステアリング装置である。
【0015】
電動パワーステアリング装置100は、車両の転舵輪に連結される転舵シャフト20を転舵シャフト20の軸方向と一致するA方向(図1の左右方向)に往復移動させることにより、転舵輪の向きを変える装置である。
【0016】
図1に示すように、ステアリング装置100は、ハウジング11と、ステアリングホイール12と、ステアリングシャフト13と、トルク検出装置14と、モータMと、前述の転舵シャフト20と、操舵補助機構30と、ボールねじ装置40とを備える。
【0017】
ハウジング11は、車両に固定される固定部材である。ハウジング11は、筒状に形成され、転舵シャフト20をA方向に相対移動可能に挿通する。ハウジング11は、第一ハウジング11aと、第一ハウジング11aのA方向一端側(図1中、左側)に固定された第二ハウジング11bとを備える。
【0018】
ステアリングホイール12は、ステアリングシャフト13の端部に固定され、車室内において回転可能に支持される。ステアリングシャフト13は、運転者の操作によってステアリングホイール12に加えられるトルクを転舵シャフト20に伝達する。
【0019】
ステアリングシャフト13の転舵シャフト20側の端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン13aが形成される。トルク検出装置14は、ステアリングシャフト13の捩れ量に基づいて、ステアリングシャフト13に加えられるトルクを検出する。
【0020】
転舵シャフト20は、A方向に延伸している。転舵シャフト20には、ラック22が形成される。ラック22は、ステアリングシャフト13のピニオン13aに噛合し、ピニオン13aとともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックアンドピニオン機構は、ステアリング装置100の用途等に基づいて、ステアリングシャフト13と転舵シャフト20との間で伝達可能な最大軸力が設定される。
【0021】
また、転舵シャフト20は、ラック22とは異なる位置にボールねじ部23が形成される。ボールねじ部23は、後述するナット21とともにボールねじ装置40を構成し、操舵補助機構30により操舵補助力を伝達される。転舵シャフト20の両端は、図略のタイロッドおよびナックルアーム等を介して左右の操舵車輪(図略)に連結され、転舵シャフト20のA方向への軸動によって操舵車輪が左右方向に操舵される。
【0022】
操舵補助機構30は、モータMを駆動源として転舵シャフト20に操舵補助力を付与する機構である。操舵補助機構30は、モータM、モータMを駆動する制御部ECU及び駆動力伝達機構32を備える。モータM、及びモータMを駆動するための制御部ECUは、ハウジング11の第一ハウジング11aに固定されるケース31に収容される。制御部ECUは、トルク検出装置14の出力信号に基づいて、操舵補助トルクを決定し、モータMの出力を制御する。
【0023】
図2に示すように、駆動力伝達機構32は、駆動プーリ36、従動プーリ34及び歯付きベルト35を備える。駆動プーリ36は、モータMの出力軸37に装着される。出力軸37は、転舵シャフト20の軸線と平行に配置される。従動プーリ34は、ナット21の外周側にナット21と一体回転可能に配置される。ナット21のA方向一端側(図2において左側)は、第二ハウジング11bの内周面11b1にボールベアリング33を介して回転可能に支持される。歯付きベルト35は、駆動プーリ36と従動プーリ34とに懸架される。駆動力伝達機構32は、駆動プーリ36と従動プーリ34との間で、モータMが発生させる回転駆動力を、歯付きベルト35を介して伝達する。
【0024】
(2)ボールねじ装置の全体構成
図2に示すように、ボールねじ装置40は、主に第二ハウジング11b内に収容される。ボールねじ装置40は、転舵シャフト20(ねじ軸に相当)のボールねじ部23、ナット21、複数の転動ボール24、及び還流部材50を備える。転舵シャフト20のボールねじ部23には、外周面に螺旋状に形成された外周転動溝201が形成される。外周転動溝201は、複数巻き巻回されて形成される。
【0025】
ナット21は、筒状に形成され、ボールねじ部23の外周側にボールねじ部23(転舵シャフト20)と同軸に配置される。ナット21の内周面は、螺旋状に形成された内周転動溝211を備える。内周転動溝211は、複数巻き巻回されて形成される。そして、ボールねじ部23の外周転動溝201とナット21の内周転動溝211とが対向して配置され、外周転動溝201と内周転動溝211との間で複数の転動ボール24が転動する転動路R1が形成される。複数の転動ボール24は、転動路R1内に転動可能に配列される。これにより、ボールねじ部23(転舵シャフト20)の外周転動溝201と、ナット21の内周転動溝211とが、複数の転動ボール24を介して螺合する。
【0026】
また、ナット21は、図4、5に示すように、外周面212に還流部材を収容する取付凹部213を備える。取付凹部213は、ナット21の外周面212と内周面との間を貫通する一対の取付孔41,42と、取付孔41,42の間を接続する接続溝43と、を備える。一対の取付孔41,42は、ナット21の内周転動溝211を複数列跨ぐように、A方向に離間して点対称に配置される。
【0027】
デフレクタである還流部材50は、ナット21の取付凹部213に収容され、転動路R1における二点間を短絡し、転動路R1との間でボール24を無限循環させる還流路R2を形成する。
【0028】
(3)還流部材の構造
還流部材50の構造について、図3図6を参照して説明する。還流部材50は、ナット21の周方向を長手方向とし、ナット21の取付孔41,42に収容される一対のすくい部51,52を備える。すくい部51,52は同一の構成であるため、すくい部51について説明する。すくい部51は、貫通孔を備え、貫通孔は、長手方向の一端においてナット21の内周面側に開口するすくい開口部54を備える。貫通孔の他端には、貫通孔を介してすくい部52のすくい開口部54と連通する接続部55を備える。
【0029】
すくい部51,52は、接続部55が互いに対向するように、ナット21の軸方向に離間して配置される。すくい部51,52間の距離は、ボールねじ装置40の規格によらず、一定間隔に保たれることが好ましい。つまり、ねじ軸の径の異なる複数のボールねじ装置おいても、ナット21の軸方向に対する還流部材50の長さおよびボールねじのリードが一定であることが好ましい。ナット21の軸方向に対する還流部材50の長さが一定であると、ナット21の内周転動溝211において、還流部材50が跨ぐ列数が同一となる。これにより、ナット21とボールねじ部23とが螺合する軸方向長さが一定に保たれる。また、ボールねじのリードを一定にし、さらにねじ軸とナットの転動溝201,211の断面形状、寸法、及び、ボール24の直径を一定とすることにより、ねじ軸の径の異なる複数のボールねじ装置おいて、ボール1個当たりに加わるボールねじの軸方向負荷が同じ大きさならば、ボールと転動溝の応力分布がほぼ同じとなる。一つのねじ軸の径、つまり一つのピッチ円径で設計・評価したボールねじの性能・耐久性の結果を流用してねじ軸の径の異なる他のボールねじを設計し、評価結果を予測できるため、ねじ軸の径の異なる複数のボールねじ装置に関して軸方向負荷をはじめとしたボールねじの性能・耐久性の設計が容易になる。
【0030】
すくい部51は、ナット21の取付孔41に収容され、ナット21に固定される。すくい部51の底部は、ナット21の内周面の円弧形状に沿うように形成される。すくい部51内の貫通孔は、ナット21の内周面側から外周面側へ向かって転動路R1のほぼ接線方向に延びた後にナットの周方向に傾斜し、転動路R1を転動するボール24を、すくい開口部からナット21の外周面側へとすくいあげる。
【0031】
対向して配置された一対のすくい部51,52の間には、接続通路部53が接合された状態で一体に形成されている。接続通路部53は、すくい部51,52の接続部55を接続する貫通孔である接続通路56を備える。これにより、一方のすくい開口部54から、接続部55、接続通路56を経て、他方の接続部55、すくい開口部54へと一連の貫通路が形成され、当該貫通路が還流路R2となる。
【0032】
接続通路部53は、ナット21の取付凹部に収容され、接続通路56が形成される本体部531と、ナット21の外周側において、ナット21の周方向両側へ突出した突出部532を備える。接続通路部53は、図6に示すように、ナット21の軸方向に直交する断面において、ナット21の外周側が突出した略T字状の形態である。突出部532は、還流路R2の形態にかかわらず、突出量(長さ)を任意に設定することができる。還流部材50は図4に示すように還流路R2の中心線にほぼ沿った線をナット径方向に平行移動して形成される曲面である分割面50Sによって2分割されており、還流路R2の形成を容易にしている。還流部材50の製造法および形状によっては、還流部材50全体をひとつの一体部品としてもよい。
【0033】
(4)ボールねじ装置の組付け
還流部材50は、ナット21の外周面212に形成された取付凹部213に挿通することにより、組付けられる。取付凹部213の形状は、還流部材50の輪郭に対応した形状であり、還流部材50の取付寸法により決定される。還流部材50の取付寸法は、すくい部51のすくい開口部54側部分514の周方向長さ、すくい部51のすくい開口部54の反対側部分515の周方向長さ、接続通路部53の周方向長さ、接続通路部53の軸方向長さから選択される。
【0034】
ねじ軸の径の異なる2以上のボールねじ装置40a,40bを比較した場合に、取付寸法の内、少なくとも一箇所は他のボールねじ装置よりも大きく、少なくとも一箇所は他のボールねじ装置よりも小さく設計される。例えば、図7に示すように、還流部材50aのすくい開口部54の反対側部分515の周方向長さを還流部材50bよりも大きくした場合、接続通路部53の突出部532の周方向長さを還流部材50bよりも小さくする。上記の周方向長さは例えば、還流部材50の周方向の中央に位置し、ナットの中心軸を通る中心面CPから各部の端部までの距離とする。このような構成とすると、ねじ軸の径の異なる2種類のボールねじ装置40a,40bにおいて、ボールねじ装置40aの還流部材50aは、ボールねじ装置40bのナット21bの取付凹部213bに対して干渉し、取り付けることができない。反対も同様に、還流部材50bは、ナット21aの取付凹部213aに干渉し、取り付けることができない。
【0035】
取付寸法として、すくい部51のすくい開口部54とは周方向における反対側の部位の周方向長さ、及び、接続通路部53の周方向長さを調節することが好ましい。すくい部51のすくい開口部54とは周方向における反対側の部位の周方向長さ、及び、接続通路部53の周方向長さは、ボール24の還流路R2の形状に影響しにくい箇所であり、これらの長さにより取付寸法を調節すると、調節した取付寸法に関係なく還流路R2を転動するボール24の中心軌道の調整が容易にできる。具体的には、還流部材50内にあるボール24の中心軌道の3次元的な曲率半径を、ねじ軸径に応じて極力大きく設定するのが望ましい。また、ナット21に取付凹部213を形成する際、作業性の向上等の観点から、接続通路部53に対応する凹部の軸方向長さに余裕を持たせることが好ましく、取付寸法として、上記の2箇所を調節すると製造性が向上する。また、還流部材50内にあるボール24の中心軌道をナット21の径方向から平面視した場合に、ねじ軸の径の異なる複数のボールねじ装置において、軌道が同一となるようにしても良い。この場合、ボール24の中心軌道の設計工数を削減できる。
【0036】
ねじ軸の径の異なる複数のボールねじ装置40において、取付寸法の内、2箇所の寸法を変化させる。還流部材50の取付寸法は、すくい部51のすくい開口部54側部分514の周方向長さ、すくい部51のすくい開口部54の反対側部分515の周方向長さ、接続通路部53の周方向長さ、接続通路部53の軸方向長さから選択される。取付寸法を変化させるとき、還流部材50の突出部532の周方向長さにより、取付寸法を調節することが好ましい。還流部材50の突出部は、還流路R2を形成する本体部から突出した箇所であり、還流路R2の形状に関与しない。そのため、還流路R2の形状を維持しつつ、取付寸法を調節することができる。
【0037】
還流部材を誤った規格のナットの取付凹部に取り付けられなくするには、取付寸法の何れかを大きくすればよい。しかし、ねじ軸の異なるボールねじ装置40a,40bの還流部材の取付寸法のうちひとつの寸法だけを大きくしてしまうと、他方の還流部材は、もう一方のボールねじ装置のナット21の取付凹部213内に隙間を生じつつも収容されてしまう。そこで、少なくとも2箇所の取付寸法の内、一の長さを大きくし、他の長さを小さくすることにより、ねじ軸の径の異なるボールねじ装置40a,40bにおいて、還流部材50は、規格の異なる他方のナット21の取付凹部213に対して、一の取付寸法か他の取付寸法の内、どちらか一方の部位において干渉し、取り付けることができなくなる。これにより、ねじ軸の径のことなる複数のボールねじ装置を同一の生産ラインで生産したとしても、誤組付けを防止することができる。
【0038】
(第二例)
第一例では、還流部材50が、一対のすくい部51,52と接続通路部53とが一体に形成された一体型の例を示した。第二例のボールねじ装置140は、図8図10に示すように、すくい部151,152のみが還流部材150として形成されている。
【0039】
すくい部151,152は、ナット121に設けられた取付凹部である取付孔に挿通され、固定される。ナット121の外周面には、取り付けられたすくい部151,152の接続部を接続するように、還流溝123が形成される。一方のすくい部によってすくいあげられたボール24は、還流溝123を通って他方にすくい部から転動路R1へ循環する。つまり、一方のすくい部のすくい開口部54から、接続部55、還流溝123を経て、他方のすくい部の接続部55、すくい開口部54までの経路が還流路R2となる。
【0040】
このとき、還流部材150は、ナット21の取付孔に収容され、還流路R2を形成する本体部511と、本体部511よりもナット21の外周側において、ナット21の周方向へ突出する突出部を備える。還流部材150は、すくい部51の長手方向のすくい開口部54側において突出する突出部512と、すくい開口部54の反対側において突出する突出部513を備え、すくい部51は、図10に示すように、ナット21の軸方向に直交する断面において、ナット21の外周側が突出した略T字状の形態である。還流部材150は、すくい部151のすくい開口部54側の突出部512の周方向長さ、及び、すくい部51のすくい開口部54の反対側の突出部513の周方向長さを取付寸法として調節する。具体的には、すくい部151のすくい開口部54の反対側の突出部513の周方向長さのうち、本体部511の側面から周方向に突出している長さL1を他のボールねじ装置よりも大きくした場合、すくい部151のすくい開口部54側の突出部512の周方向長さのうち、本体部511の側面から周方向に突出している長さL2を他のボールねじ装置よりも小さくする。このような構成とすることにより、本体部511の長さを一定に保ちつつ、取付凹部213との干渉箇所を作ることができる。また、変化させる取付寸法の一方を還流部材150の軸方向の寸法、例えば突出部512や513の軸方向長さとしても良い。還流部材150は、ナット121の軸方向に直交する断面から見た場合のT字状の左右の突出量を変化させ、誤組付けを防止することができる。
【0041】
本発明の第一例、第二例は閉断面の還流路を備えるデフレクタ型の還流部材がナットの外周から内周へと貫通する孔の中に挿入されてボールの循環路を形成するボールねじの実施例を述べたが、これに限らない。本発明はナット内周に向けて開口した還流路を備えるコマをナットの内周の凹部に取り付けるコマ型のボールねじや、ねじ軸の転動路からボールをすくい上げて循環させる還流部材をナットの軸方向の両端部に形成した凹部に取り付けるエンドデフレクタ型のボールねじに適用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
100:電動パワーステアリング装置(ステアリング装置)、 11:ハウジング、 11a:第一ハウジング、 11b:第二ハウジング、 12:ステアリングホイール、 13:ステアリングシャフト、 14:トルク検出装置、 20:転舵シャフト、 201:外周転動溝、 21、21a、21b:ナット、 211:内周転動溝、 212:外周面、 213:取付凹部、 23:ボールねじ部、 24:ボール、 30:操舵補助機構、 31:ケース、 32:駆動力伝達機構、 33:ボールベアリング、 34:従動プーリ、 35:ベルト、 36:駆動プーリ、 37:出力軸、 40、140:ボールねじ装置、 41、42:取付孔、 43:接続溝、 50、50a、50b:還流部材、 51、52:すくい部、 511:本体部、 512、513:突出部、 53:接続通路部、 531:本体部、 532:突出部、 54:すくい開口部、 55:接続部、 56:接続通路、 121:ナット、 123:還流溝、 150:還流部材、 151:すくい部
図1
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図10