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特許7512746インクジェット顔料捺染用処理液組成物、インクセット、及び記録方法
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  • 特許-インクジェット顔料捺染用処理液組成物、インクセット、及び記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】インクジェット顔料捺染用処理液組成物、インクセット、及び記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20240702BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20240702BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20240702BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41M5/00 100
B41M5/00 114
B41M5/00 120
C09D11/322
D06P5/30
D06P5/00 104
D06P5/00 103
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020130107
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026569
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 明子
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011528(JP,A)
【文献】特開2014-129617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00,5/50-5/52
C09D 11/322
D06P 5/30
D06P 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛に付着させて用いる処理液組成物であって、
ブロックイソシアネート化合物と、
ヒドロキシエチルセルロース類と、
カチオン性化合物と、
界面活性剤と、を含有し、
前記界面活性剤が、HLB値15~20である界面活性剤を含有する、
インクジェット顔料捺染用処理液組成物。
【請求項2】
前記布帛が、水酸基を有する繊維を含む、請求項1に記載のインクジェット顔料捺染用
処理液組成物。
【請求項3】
前記カチオン性化合物が、多価金属塩又はカチオン性ポリマーを含有する、請求項1又
は2に記載のインクジェット顔料捺染用処理液組成物。
【請求項4】
前記ブロックイソシアネート化合物が、ジメチルピラゾール又はメチルエチルケトンオ
キシムのいずれかでブロックされている、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジ
ェット顔料捺染用処理液組成物。
【請求項5】
前記ブロックイソシアネート化合物が、脂肪族ジイソシアネート化合物を含有する、請
求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェット顔料捺染用処理液組成物。
【請求項6】
前記ヒドロキシエチルセルロース類の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、0
.1~1.0質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェット顔料捺
染用処理液組成物。
【請求項7】
ノニオン性の樹脂粒子を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェッ
ト顔料捺染用処理液組成物。
【請求項8】
前記界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤を含有する、請求項1~7のい
ずれか一項に記載のインクジェット顔料捺染用処理液組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤の0.1質量%水溶液の表面張力が、40mN/m以上である、請求項
1~8のいずれか一項に記載のインクジェット顔料捺染用処理液組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のインクジェット顔料捺染用処理液組成物と、
顔料を含有するインク組成物と、
を含む、インクセット。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載のインクジェット顔料捺染用処理液組成物を布帛に
付着させる付着工程と、
前記付着工程で得られた布帛を加熱する加熱工程と、
を含む、
記録方法。
【請求項12】
前記加熱工程が、前記ブロックイソシアネート化合物の熱解離温度以上の温度で加熱す
る工程である、請求項11に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット顔料捺染用処理液組成物、インクセット、及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、より安定して高品質な記録物を得ることについて種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、分散染料に適用でき、布地の表面方向及び厚み方向へのインクの滲み、染色後の布地の手触り、及び、余剰分の染料及び前処理剤の除去容易性が総合的に優れた捺染用の前処理剤が開示されている。この前処理剤は、分散染料インクによる捺染用の前処理剤であって、ヒドロキシエチルセルロース類、プラスイオン電荷密度が2~9mEq/gのカチオン樹脂及び水を含有することが特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-206789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるような前処理液を用いて、布帛を含む記録媒体に対してインクジェット記録によって顔料捺染を行うと、顔料捺染インクが布帛の表面近傍に留まるようになることに起因して、得られる記録物の堅牢性、特に湿摩擦堅牢性に劣る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、布帛に付着させて用いる処理液組成物であって、ブロックイソシアネート化合物とヒドロキシエチルセルロース類とカチオン性化合物とを含有する、インクジェット顔料捺染用処理液組成物を用いることにより、優れた堅牢性の記録物を得ることができることを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、布帛に付着させて用いる処理液組成物であって、ブロックイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチルセルロース類と、カチオン性化合物と、を含有する、インクジェット顔料捺染用処理液組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の記録方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、本明細書において「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂及びそれに対応するメタクリル系樹脂の両方を意味する。
【0010】
本明細書において、「顔料捺染」とは、布帛を含む記録媒体上に、顔料を含有するインク組成物を記録(印刷)することをいい、単に「捺染」又は「印捺」ともいう。また、「インクジェット顔料捺染」とは、インクジェット方式を利用して布帛を含む記録媒体上に、顔料を含有するインク組成物を記録(印刷)することをいい、インクジェット記録の一種である。「記録物」とは、布帛を含む記録媒体上にインク組成物が記録されて画像が形成されたものをいう。
【0011】
処理液組成物
本実施形態の処理液組成物は、布帛に付着させて用い、ブロックイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチルセルロース類と、カチオン性化合物とを含有する。また、本実施形態の処理液組成物は、インクジェット顔料捺染に用いられるものであるが、顔料を含有するインク組成物と同じ布帛に付着させて用いられるものであればよく、インクジェット方式以外の方法、例えば後述するロールコーター等で塗布する方法で布帛に付着させるものであってもよい。また、本実施形態の処理液組成物は、布帛にインク組成物よりも前若しくは後、或いは同時に付着させることが可能であるが、インク組成物よりも前に付着させるものであることが好ましい。
【0012】
本実施形態の処理液組成物を用いることにより、優れた堅牢性の記録物を得ることができる要因は下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。すなわち、従来の処理液組成物を用いると、布帛を含む記録媒体に対してインクジェット記録によって顔料捺染を行う場合には、湿潤条件においては、布帛繊維からインク層が剥がれやすくなったり、また湿潤により繊維層が脆化し破壊されやすくなったりする。一方、本実施形態の処理液組成物を用いて、布帛を含む記録媒体に対してインクジェット記録によって顔料捺染を行うと、ブロックイソシアネート化合物のイソシアネート基がヒドロキシエチルセルロース類と反応し、架橋構造を形成することとによって、優れた堅牢性の記録物を得ることができると推察される。また、本実施形態の処理液組成物を用いることにより、優れた発色性の記録物を得ることも可能である。
【0013】
ブロックイソシアネート化合物
処理液組成物は、ブロックイソシアネート化合物を含有する。ブロックイソシアネート化合物は、イソシアネート基を2以上有することが好ましく、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基の少なくとも1つがブロックドイソシアネート基となっている。以下、ブロックイソシアネート化合物について、ブロックドイソシアネート基のブロック部以外の部分を説明する際には、イソシアネート化合物として説明する。ブロックイソシアネート化合物は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0014】
イソシアネート化合物としては、特に限定されないが、2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物、3つのイソシアネート基を有するトリイソシアネート化合物が挙げられる。また、イソシアネート基以外の部分は、例えば脂肪族性又は芳香族性を有する化合物であるが、好ましくは脂肪族性化合物であり、より好ましくは脂肪族ジイソシアネート化合物である。
【0015】
イソシアネート化合物は、直鎖状、分岐状又は環式状のいずれのであってもよく、かかる分子鎖を構成する結合は、飽和結合及び不飽和結合のいずれであってもよい。また、イソシアネート化合物は、置換基を有していてもよく、イソシアネート化合物が置換基を介して高分子量の化合物と連結されたものであってもよい。さらに、イソシアネート化合物は、炭化水素であってもよいし、水素以外に、酸素や窒素、硫黄及び塩素などのヘテロ原子が結合した炭素化合物であってもよい。これらのうち、2つのイソシアネート基を連結する部分は、酸素や窒素を含まないことが好ましく、炭化水素であることが好ましい。なかでも、発色性及び摩擦堅牢性の両者をより良好とする観点で、イソシアネート化合物は、炭化水素であることが好ましい。
【0016】
イソシアネート基は、反応性の高い基であり、水系媒体中では、水と反応しやすく、不安定である。しかし、イソシアネート基を保護基により保護されたブロックドイソシアネート基とすることで、水系媒体中でも安定して利用することができる。換言すると、ブロック剤により、反応性の高いイソシアネート基をマスキング(保護)することにより、ブロックドイソシアネート基として水系媒体中で安定に存在させることができる。
【0017】
そして加熱処理を行うことによりブロック剤を解離(脱保護)して、イソシアネート基が水系媒体中で再生することにより、ヒドロキシエチルセルロース類等の活性水素を有する物質に対して良好な反応性を示す。
【0018】
ブロックドイソシアネート基は、保護基により保護されたイソシアネート基である。ブロックイソシアネート化合物が、ブロックドイソシアネート基を有することにより、保護されていない場合に比べて、水中での安定性を高めることができる。これにより、処理液組成物中での安定性が高まり、処理液組成物の保存性を向上できる。
【0019】
ブロックドイソシアネート基を形成し得るブロック剤としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルピラゾール、ジエチルマロネート、メチルエチルケトキシム、ε-カプロラクタム、1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。これらの中では、ジメチルピラゾール及びメチルエチルケトキシムが好ましい。ブロック剤によって保護されたブロックドイソシアネート基がイソシアネート化合物に形成されることにより、水系媒体中で安定に存在させることができる。そして、加熱により、イソシアネート基が生じ、当該イソシアネート基が水酸基、アミノ基、その他と反応することができる。ブロック剤は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0020】
イソシアネート基は、ヒドロキシエチルセルロース類等の水酸基を有する物質と反応することができる。また、イソシアネート基は、水酸基以外の基とも反応することができ、これらの反応は、温度や濃度により制御することができる。処理系組成物が付着する布帛にセルロースが含まれる場合には、脂肪族ジイソシアネート化合物のイソシアネート基とセルロースの水酸基とが反応してウレタン結合を生じ、両者を化学的に結合することができる。また、加熱の程度や濃度の調節により、セルロース等との反応の程度を制御することができ、例えば、布帛に付着させた後、ブロックドイソシアネート基の一部又は全部を布帛上で反応させずに残すこともできる。
【0021】
イソシアネート基と水酸基とが反応することによりウレタン結合が生じる。しかし、イソシアネート基が反応する対象は、水酸基に限られず、対象に含まれる各種の化学構造に応じて反応の相手を変更してもよい。例えば、イソシアネート基とアミノ基とが反応するとウレア結合(尿素結合)が生じ、複数のイソシアネート結合と水とが反応することによりウレア結合が生じ、ウレア結合とイソシアネート基との反応によりビュレット結合が生じ、ウレタン結合とイソシアネート基との反応によりアルファネート結合が生じる。これらの結合は、反応温度等により積極的に生じさせたり、生じさせないようにしたりすることができるので、脂肪族ジイソシアネート化合物の付着対象に存在する化学構造に合わせて、結合を生じさせることもできる。
【0022】
ブロックイソシアネート化合物の含有量は、処理液組成物の総量に対して、固形分量で好ましくは0.01~30質量%であり、より好ましくは0.05~10質量%であり、さらに好ましくは0.1~5.0質量%である。ブロックイソシアネート化合物の含有量が上記範囲内であることにより、より優れた堅牢性の記録物を得ることができる傾向にある。
【0023】
ヒドロキシエチルセルロース類
処理液組成物は、ヒドロキシエチルセルロース類を含有する。ヒドロキシエチルセルロース類は、水溶性高分子化合物であることが好ましく、これらは、処理液組成物中に溶解した状態で存在していることが好ましい。ヒドロキシエチルセルロース類は、高分子鎖が布帛の繊維に絡まりやすくなることに加えて、処理液組成物の粘度を比較的に増大させる傾向がある。これにより、ヒドロキシエチルセルロース類は、処理液組成物が付着された場合に、処理液組成物を布帛の表面に保持されやすくする機能を有している。この機能により、処理液組成物を付着した布帛にインクジェット顔料捺染を施すと、顔料の裏抜けの発生を低減し、発色性を向上させることができる。本明細書において、「水溶性」とは、20℃のイオン交換水に対して、3質量%以上溶解することが可能な特性をいう。ヒドロキシエチルセルロース類は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0024】
ヒドロキシエチルセルロース類としては、ヒドロキシエチルセルロース類としては、市販品を用いてもよく、例えば、HECダイセル(登録商標)SP200、SP400、SP500、SP600、SP850、SP900、SE400、SE550、SE600、SE850、SE900、EE820(以上商品名、ダイセルファインケム社)、AL-15、AG-15F、AH-15F、AV-15F、AW-15F、AX-15、SW-25F、SZ-25F、CF-G、CF-V、CF-W、CF-X、CF-Y(以上商品名、住友精化社)が挙げられる。
【0025】
ヒドロキシエチルセルロース類の含有量は、処理液組成物の総量に対して、固形分量で好ましくは0.01~30質量%であり、より好ましくは0.05~10質量%であり、さらに好ましくは0.1~1.0質量%である。ヒドロキシエチルセルロース類の含有量が上記範囲内であることにより、より優れた堅牢性の記録物を得ることができる傾向にある。特に、ヒドロキシエチルセルロース類の含有量が30質量%以下であることにより、より優れた湿摩擦堅牢性の記録物を得ることができる傾向にある。
【0026】
カチオン性化合物
処理液組成物は、多価金属塩、カチオン性ポリマー、及びカチオン性界面活性剤のいずれかを含有してもよく、より優れた堅牢性の記録物を得る観点から、好ましくは多価金属塩又はカチオン性ポリマーを含有する。カチオン性化合物は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0027】
カチオン性ポリマーとしては、本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン及びポリアリルアミン等のポリアリルアミン樹脂、アルキルアミン重合物、特開昭59-20696号、同59-33176号、同59-33177号、同59-155088号、同60-11389号、同60-49990号、同60-83882号、同60-109894号、同62-198493号、同63-49478号、同63-115780号、同63-280681号、特開平1-40371号、同6-234268号、同7-125411号、同10-193776号公報等に記載された1~3級アミノ基、4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。同様の観点から、これらのカチオン性ポリマーの重量平均分子量は、5000以上が好ましく、更に5000~10万程度が好ましい。カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定される。
【0028】
カチオン性ポリマーのなかでも、アミン系樹脂が、画質が優れる点で好ましい。アミン系樹脂は、カチオン性の、ポリアリルアミン樹脂、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂等があげあげられる。ポリアリルアミン樹脂、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂は、それぞれポリマーの主骨格中に、ポリアリルアミン構造、ポリアミン構造、ポリアミド構造を有する樹脂である。カチオン樹脂は、樹脂粒子または水溶性のものであり、水溶性のものが好ましい。カチオン性の樹脂粒子は凝集剤として扱う。カチオン性ポリマーは、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0029】
多価金属塩としては、特に限定されないが、本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、無機酸の多価金属塩又は有機酸の多価金属塩が好ましい。このような多価金属塩としては、特に限定されないが、例えば、周期表の第2族のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13族からの土類金属(例えば、アルミニウム)、及びランタニド類(例えば、ネオジム)の塩が挙げられる。また、これら多価金属の塩としては、カルボン酸塩(例えば、蟻酸、酢酸、安息香酸塩)、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、多価金属塩としては、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩等)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硫酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩からなる群より選択される1種又は2種以上が好ましい。多価金属塩は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0030】
有機酸としては、特に限定されないが、カルボン酸であると好ましく、例えば、マレイン酸、酢酸、リン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、及びクエン酸が挙げられる。このなかでも、1価又は2価以上のカルボン酸が好ましい。このようなカルボン酸を含むことにより、ポリマー及びワックスの凝集効果がより向上し、ひいては発色性により優れる傾向にある。有機酸は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0031】
カチオン性化合物の含有量は、処理液組成物の総量に対して、固形分量で好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5~10質量%であり、さらに好ましくは1.0~5.0質量%である。カチオン性化合物の含有量が上記範囲内であることにより、より優れた堅牢性の記録物を得ることができる傾向にある。
【0032】
樹脂粒子
本実施形態の処理液組成物は、より優れた堅牢性の記録物を得る観点から、樹脂粒子を含有することが好ましい。樹脂粒子は、樹脂を含む粒子であり、「樹脂分散体」や「樹脂エマルジョン」ともいう。樹脂粒子は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0033】
本実施形態の樹脂粒子は、水に安定に分散させるために必要な親水成分が導入された自己分散型の樹脂粒子であってもよいし、外部乳化剤の使用により水分散性となる樹脂粒子であってもよい。ただし、記録媒体に含まれ得る多価金属化合物との反応を阻害しないという観点から、樹脂粒子が自己乳化型樹脂分散体であることが好ましい。
【0034】
本実施形態の樹脂粒子に含まれる樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン酢酸ビニル系樹脂が挙げられる。樹脂は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記樹脂は、アニオン性、カチオン性又はノニオン性のいずれであってもよいが、カチオン性の樹脂であることが好ましく、カチオン性のウレタン系樹脂であることがより好ましい。カチオン性のウレタン系樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、ハイドランCP-7010、CP-7020、CP-7030、CP-7040、CP-7050、CP-7060、CP-7610(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、スーパーフレックス600、610、620、630、640、650(商品名、第一工業製薬株式会社製)、ウレタンエマルジョンWBR-2120C、WBR-2122C
(商品名、大成ファインケミカル株式会社製)等を用いることができる。
【0036】
樹脂粒子の含有量は、処理液組成物の総量に対して、固形分量で好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5~10質量%であり、さらに好ましくは1.0~5.0質量%である。樹脂粒子の含有量が上記範囲内であることにより、より優れた風合い及び堅牢性の記録物を得ることができる傾向にある。
【0037】
界面活性剤
処理液組成物は、光沢性の観点から、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。界面活性剤を含有することにより、処理液組成物の布帛への浸透が調整され、優れた風合いの記録物を得ることができる傾向にある。界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0038】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される1種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製商品名)、サーフィノール104、465、485、61、DF110D(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製商品名)が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、及びパーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(以上商品名、旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(以上商品名、住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(以上商品名、Dupont社製);FT-250、251(以上商品名、株式会社ネオス製)が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサン系化合物、及びポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、SAG503A(商品名、日信化学工業社製)、BYK-028、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上商品名、ビックケミー社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学社製)等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
界面活性剤のHLB値は、好ましくは10以上であり、より好ましくは13以上であり、さらに好ましくは15~20である。界面活性剤のHLB値が上記範囲内であることにより、インクの布帛への過度な浸透が抑制され、より優れた風合いの記録物を得ることができる傾向にある。界面活性剤のHLB値は、グリフィン法等の公知の方法で求められる。
【0042】
界面活性剤の表面張力は、好ましくは40mN/m以上であり、より好ましくは45mN/m以上であり、さらに好ましくは50~100mN/mである。界面活性剤の表面張力が上記範囲内であることにより、インクの布帛への過度な浸透が抑制され、より優れた発色性の記録物を得ることができる傾向にある。界面活性剤の表面張力は、公知の方法で求められる。界面活性剤の表面張力は、0.1%水溶液について、23℃においてWilhelmy法によって測定することができる。測定装置としては、協和界面科学株式会社製の自動表面張力計「DY-300」等を用いることができる。
【0043】
界面活性剤の含有量は、処理液組成物の総量に対して、好ましくは0.01~3.0質量%であり、さらに好ましくは0.05~2.0質量%であり、特に好ましくは0.1~1.0質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、より優れた風合いの記録物を得られる傾向にある。
【0044】

処理液組成物は、水を含有してもよい。本実施形態の水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、凝集液を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができる。これにより貯蔵安定性がより向上する傾向にある。
【0045】
処理液組成物は、アルカリ剤及びヒドロトロピー剤の少なくとも一方を含有してもよい。これらの成分の処理液組成物中の含有量は、布帛の種類等に応じて適宜設定することができ、特に制限されるものではない。
【0046】
アルカリ剤は、染料を使用する場合に、染料の染着性を一層向上させるという点から好ましく使用される。アルカリ剤の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0047】
ヒドロトロピー剤は、記録される画像の発色性を向上させるという点から好ましく使用される。ヒドロトロピー剤としては、尿素類が挙げられる。
【0048】
処理液組成物は、糊剤を含有してもよい。糊剤としては、トウモロコシ、小麦等のデンプン物質;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース系物質;アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、タマリンド種子等の多糖類;ゼラチン、カゼイン等のタンパク質;タンニン、リグニン等の天然水溶性高分子;ポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系化合物、無水マレイン酸系化合物等の合成の水溶性高分子が挙げられる。
【0049】
処理液組成物には、滑剤、還元防止剤、プロキセルXL2(Arch Chemicals社製商品名)等の防腐剤・防かび剤、防黴剤、柔軟剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート化剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム:EDTA)、水酸化カリウム等のpH調整剤、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤等、捺染における処理液組成物に通常用いられる成分を含有してもよい。
【0050】
インクセット
本実施形態のインクセットは、本実施形態の処理液組成物と、インクジェット顔料捺染用のインク組成物とを含む。本実施形態のインク組成物は、顔料を含有し、インクジェット方式を利用して布帛を含む記録媒体上に記録(印刷)するためのインクである。
【0051】
本実施形態のインク組成物は、上述した処理液組成物にも含まれる成分である、樹脂粒子、界面活性剤、水等を適宜含有することが可能であり、いずれの成分の説明も、インク組成物の成分の説明として同様に適用される。
【0052】
顔料
本実施形態のインク組成物は、顔料を含有する。また、処理液組成物も、顔料を含有してもよい。顔料は、顔料を含む粒子として組成物に含有していてもよい。顔料としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0053】
インク組成物は、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク、ホワイトインク等として区別できる。
【0054】
シアンインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60、及びC.I.ダイレクトブルー 199が挙げられる。
【0055】
マゼンタインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48:2、48:5、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0056】
ブラックインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックの具体的な商品名しては、特に限定されないが、例えば、Bonjetblack CW-1(オリエント化学工業社製)、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)が挙げられる。
【0057】
イエローインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、EMACOL SF Yellow J701F(山陽色素社製商品名)、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0058】
ホワイトインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子が挙げられる。
【0059】
また、上記以外の顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0060】
顔料の含有量は、インク組成物又は処理液組成物の総量に対して、固形分量で好ましくは2.0質量%以上であり、より好ましくは2.0~10質量%であり、さらに好ましくは2.0~5.0質量%である。顔料の含有量が上記範囲内であることにより、より優れた発色の記録物を得ることができる傾向にある。
【0061】
インク組成物における顔料の含有量は、処理液組成物における顔料の含有量よりも多いことが好ましい。
【0062】
有機溶剤
本実施形態のインク組成物は、有機溶剤を含有することが好ましい。本実施形態の処理液組成物も、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は、水と共に用いることができる有機溶剤であれば、特に限定されない。
【0063】
有機溶剤の種類としては、特に限定されないが、例えば、環状窒素化合物、非プロトン性極性溶剤、モノアルコール、アルキルポリオール、及びグリコールエーテルが挙げられる。
【0064】
非プロトン性極性溶剤としては、特に限定されないが、例えば、環状ケトン化合物、鎖状ケトン化合物、及び鎖状窒素化合物が挙げられる。また、環状窒素化合物及び非プロトン性極性溶剤としては、ピロリドン類、イミダゾリジノン類、スルホキシド類、ラクトン類、アミドエーテル類及びイミダゾール類の溶剤が代表例として挙げられる。ピロリドン類としては、ピロリドン骨格を有するものであれば特に限定されないが、例えば、2-ピロリドン、N-アルキル-2-ピロリドン、及び1-アルキル-2-ピロリドンが挙げられる。イミダゾリジノン類としては、例えば1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホキシド類としては、例えばジメチルスルホキシド、ラクトン類としては、例えばγ-ブチロラクトン、イミダゾール類としては、例えば、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、及び1,2-ジメチルイミダゾールが挙げられる。
【0065】
モノアルコールとしては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノールが挙げられる。
【0066】
アルキルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、1,3-プロピレングリコール(1,3-プロパンジオール)、イソブチレングリコール(2-メチル-1,2-プロパンジオール)、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、及び1,8-オクタンジオールが挙げられる。これらの中でも、組成物における有機溶剤は、優れた保存安定性を得る観点から、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールのいずれかを含むことが好ましく、トリメチロールプロパンを含むことも好ましい。
【0067】
有機溶剤は水溶性のものが好ましい。水溶性とは、水と有機溶剤とを常温で1:1の質量比で混合して撹拌した後、分離したり、白濁した様子が確認できないものを意味する。
【0068】
グリコールエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、グリコールジエーテル類及びグリコールモノエーテル類が挙げられる。
【0069】
有機溶剤の含有量は、インク組成物又は処理液組成物の総量に対して、好ましくは0.1~50質量%であり、より好ましくは0.5~35質量%であり、さらに好ましくは1.0~20質量%である。有機溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、記録媒体に付着した組成物の乾燥性がより向上する傾向にあり、また、堅牢性により優れた記録物を得ることができる傾向にある。
【0070】
本実施形態の記録方法は、上述した処理液組成物を布帛に付着させる工程と、付着工程で得られた布帛を加熱する加熱工程とを含む。以下、本実施形態の記録方法について、処理液組成物をインク組成物よりも前に付着させる工程(前処理工程)を含む例を、工程毎に説明する(図1)。
【0071】
前処理工程(ST1)
本実施形態の記録方法は、布帛に処理液組成物を付着させる前処理工程を備える。処理液組成物を布帛に付与する方法としては、例えば、処理液組成物中に布帛を浸漬させる方法、処理液組成物をロールコーター等で塗布する方法、処理液組成物を噴射する方法(例えば、インクジェット法、スプレー法)等が挙げられ、いずれの方法も使用できる。処理液組成物の塗布をインクジェット法で行うと、布帛に対して処理液組成物を均一に付着させる制御が容易になる点で好ましい。また、処理液組成物を浸漬塗布やローラー塗布や
スプレー塗布で行うと布帛に対して処理液組成物の塗布を短時間で処理することができる点で好ましい。
【0072】
本実施形態の記録方法は、処理液組成物工程の後、布帛に付与された処理液組成物を乾燥する処理液組成物の乾燥工程を含むことが好ましい。処理液組成物の乾燥は、自然乾燥で行ってもよいが、乾燥速度の向上という観点から、加熱を伴う乾燥であることが好ましい。処理液組成物の乾燥工程において加熱を伴う場合に、その加熱方法は特に限定されるものではないが、例えば、対流熱乾燥法、輻射熱乾燥法、伝導熱乾燥法、及びこれらを組み合わせた乾燥法が挙げられる。また、加熱の熱源としては、以下に限定されないが、例えば可燃性ガスの燃焼バーナー、カーボンヒーター/セラミックヒーター/ハロゲンランプや赤外線ランプから発生する熱赤外線(ランプ)が挙げられる。
【0073】
ここで、上述した付着工程で得られた布帛を加熱する加熱工程は、上記の乾燥工程であってもよく、後述する熱処理工程であってもよく、乾燥工程及び熱処理工程を併せて、付着工程で得られた布帛を加熱する加熱工程としてもよい。
付着工程で得られた布帛を加熱する加熱工程は、上述したブロックイソシアネート化合物の熱解離温度以上の温度で加熱する工程であることが好ましい。これによって、ブロックイソシアネートとヒドロキシエチルセルロース類との反応が促進される。例えば、ブロックイソシアネート化合物がメチルエチルケトンオキシムである場合は、加熱温度を140℃以上とすることが好ましい。また、ブロックイソシアネート化合物がジメチルピラゾールである場合は、加熱温度を110℃以上とすることが好ましい。
【0074】
具体的に、乾燥工程における加熱温度は、特に限定されないが、例えば、80℃~180℃とすることが好ましい。加熱温度を180℃以下とすることによる加熱乾燥時に布帛が受ける熱ストレスによるダメージを抑制することができる。加熱温度を80℃以上とすることにより、処理液組成物に含まれる水分や溶剤等を効率良く蒸発させて処理布帛の乾燥を促すことができる。
【0075】
本実施形態の記録方法において使用する布帛を構成する素材としては、特に限定されず、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維;ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維;ポリ乳酸等の生分解性繊維等が挙げられ、これらの混紡繊維であってもよい。布帛としては、上記に挙げた繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。上記の布帛を構成する素材の中でも、水酸基を有する繊維を含む場合、例えば木綿の場合には、ブロックイソシアネート化合物のイソシアネート基が布帛の水酸基とも反応し、布帛の水酸基が不活性化されて耐水化されることによって、より優れた堅牢性(特に湿摩擦堅牢性)の記録物を得ることができる。また、染着性の観点から、セルロースを主成分とする繊維(綿、麻、レーヨン等)を含む布帛を使用することも好ましい。
【0076】
印捺工程(ST2)
本実施形態の記録方法は、上述したインク組成物を布帛に印捺する印捺工程を含む。具体的には、インクジェット記録方式により吐出されたインク滴を布帛に付着させて、布帛に画像を形成する。インクジェット記録方式としては、いずれの方式でもよく、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、オンデンマンド方式(ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式)等が挙げられる。これらのインクジェット記録方式の中でも、ピエゾ式のインクジェット記録装置を用いる方式が特に好ましい。
【0077】
熱処理工程(ST3)
本実施形態の記録方法は、上記のインク組成物が印捺された布帛を熱処理する熱処理工程を含む。熱処理工程を行うことにより、顔料が繊維に良好に染着する。熱処理工程は従来公知の方法を用いることができ、例えば、HT法(高温スチーミング法)、HP法(高圧スチーミング法)、サーモゾル法等が挙げられる。
【実施例
【0078】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。以下、「部」、「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0079】
[処理液組成物及びインク組成物用の材料]
下記の実施例及び比較例において使用した処理液組成物及びインク組成物用の主な材料は、以下の通りである。
架橋剤
トルエンジイソシアネート誘導体(明成化学工業社「メイカネートTP-10」、主成分:トルエンジイソシアネート誘導体、非イオン性、解離温度120~160℃、Methylethylketoxime(MEKO)ブロック剤)
ヘキサメチレンジイソシアネート誘導体1(明成化学工業社「NBP-211」、主成分:ヘキサメチレンジイソシアネート誘導体、非イオン性、解離温度120~160℃、MEKOブロック剤)
ヘキサメチレンジイソシアネート誘導体2(Baxenden社「AQUA BI220」、Dimethylpyrazole(DMP)ブロック剤)
増粘剤
ヒドロキシエチルセルロース(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社「レオガードMGP」)
カルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ社「CMCダイセル 1240」)
ポリビニルピロリドン(第一工業製薬社「ピッツコールK90-L」)
カチオン性化合物
塩化カルシウム2水和物(多価金属塩)
硝酸カルシウム4水和物(多価金属塩)
ポリアリルアミン重合体1(ニットボーメディカル社製「PAA-HCL-03」、カチオン性ポリマー)
ポリアリルアミン重合体2(ニットボーメディカル社製「PAA-03」、カチオン性ポリマー)
樹脂粒子
ウレタン系樹脂1(第一製薬工業社製「スーパーフレックス620」、カチオン性、表中「SF-620」と略記する)
ウレタン系樹脂2(三井化学社製「タケラックWS-6021」)
界面活性剤
アセチレングリコール1(日信化学工業社製「サーフィノール485」、HLB値17、表面張力51mN/m(カタログ値、表面張力は0.1%水溶液測定値))
アセチレングリコール2(日信化学工業社製「オルフィンE1010」、HLB値13~14、表面張力40mN/m(カタログ値、表面張力は0.1%水溶液測定値))
アセチレングリコール3(日信化学工業社製「サーフィノール104」、HLB値4)
防腐剤
プロキセルXL2(Arch Chemicals社製商品名)

純水
顔料
黒顔料分散体(カーボンブラック顔料)
有機溶剤
グリセリン
トリメチロールプロパン
トリエチレングリコール
水酸化カリウム(KOH)
エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA)
【0080】
処理液組成物及びインク組成物の調製
表1及び表2に示す組成で混合し、十分に撹拌し、処理液組成物及びインク組成物を得た。なお、下記の表1及び表2中、数値の単位は有機溶剤と水以外については固形分の質量%であり、有機溶剤の数値の単位は質量%であり、水は組成物の合計が100.0質量%となるように含有するものである。なお、表2における黒顔料分散体は、顔料65質量部を、表中に記載しないスチレンアクリル系分散樹脂のジョンクリル611(BASFジャパン株式会社製商品名)35質量部、水酸化カリウム1.70質量部、及びイオン交換法と逆浸透法により精製した超純水250質量部と混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて10時間分散を行い、ガラス繊維ろ紙GA-100(アドバンテック東洋社製商品名)で濾過して粗大粒子を除き、顔料濃度が10質量%となるようにして調製した。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
捺染物の作製
木綿100%の布帛に対して処理液組成物をA4サイズ当たり7gになるようにローラーを用いて均一に塗布した。塗布後輻射熱よるコンベア乾燥炉(M&R社製「Economax D」)で160℃、2分半加熱処理を行った。次に、インクジェットプリンタ(セイコーエプソン社製「PX-G930」)を用いたインクジェット法によりインク組成物を付着させた。記録条件としては、記録解像度を1440dpi×720dpiとし、印刷範囲は210mm×297mmとし、記録範囲はA4サイズとし、記録媒体である布帛に黒インク_100%Dutyのベタパターン画像が形成された(インクが捺染された)捺染物を製造した。製造した捺染物を輻射熱よるコンベア型連続乾燥機で160℃で5加熱処理し乾燥させた。
ここで、「ベタパターン画像」とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像を意味する。
【0084】
発色性
25℃下の捺染物について、蛍光分光濃度計(コニカミノルタ社製「FD-7」)を用いて光学濃度(以下、「OD値」ともいう)を測定し、下記評価基準により発色性を評価した。なお、OD値が大きい程、発色性優れることを表す。
評価基準
S:OD値が1.5以上。(特に良好)
A:OD値が1.4以上1.5未満。(良好)
B:OD値が1.25以上1.4未満。
C:OD値が1.25未満。
【0085】
堅牢性
捺染物について、ISO105-X12に準拠した試験方法で、移染及び変退色のそれぞれで、乾燥及び湿潤の摩擦強度を試験し、下記評価基準により堅牢性を評価した。なお、OD値差が小さい程、堅牢性に優れることを表す。
移染
乾燥摩擦強度
S:耐擦試験前後のOD値差が0.15未満である。
A:耐擦試験前後のOD値差が0.15以上、0.20未満である。
B:耐擦試験前後のOD値差が0.20以上、0.25未満である。
C:耐擦試験前後のOD値差が0.25以上である。
湿潤摩擦強度
S:耐擦試験前後のOD値差が0.20未満である。
A:耐擦試験前後のOD値差が0.20以上、0.25未満である。
B:耐擦試験前後のOD値差が0.25以上、0.30未満である。
C:耐擦試験前後のOD値差が0.30以上である。
変退色
乾燥摩擦強度
S:耐擦試験前後のOD値差が0.15未満である。(極めて良好)
A:耐擦試験前後のOD値差が0.15以上、0.20未満である。(良好)
B:耐擦試験前後のOD値差が0.20以上、0.25未満である。
C:耐擦試験前後のOD値差が0.25以上である。
湿潤摩擦強度
S:耐擦試験前後のOD値差が0.20未満である。(極めて良好)
A:耐擦試験前後のOD値差が0.20以上、0.25未満である。(良好)
B:耐擦試験前後のOD値差が0.25以上、0.30未満である。
C:耐擦試験前後のOD値差が0.30以上である。
【0086】
【表3】
【0087】
評価結果
本実施形態の処理液組成物を用いて作製した各実施例の捺染物は、いずれも、移染及び変退色のそれぞれで、乾燥及び湿潤の摩擦強度の評価結果が「B」以上、つまり「C」評価、「A」評価又は「S」評価であり、移染及び変退色のそれぞれで、乾燥及び湿潤の摩擦強度に優れることがわかった。
図1