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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】スガマデクス含有の液体製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/357 20060101AFI20240702BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K31/357
A61K9/08
A61P21/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020139171
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2022035087
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】吉田 美咲
(72)【発明者】
【氏名】鹿取 建志
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕之
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/231166(WO,A1)
【文献】特開2020-070269(JP,A)
【文献】特表2019-506407(JP,A)
【文献】特表2004-532262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
9/00-9/72
47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スガマデクス又はそのナトリウム塩を含有する液体製剤であって、
前記液体製剤中のマンガンの濃度が、前記液体製剤中のスガマデクスの全質量に対して0.11ppm未満である液体製剤。
【請求項2】
前記液体製剤が容器に収容されており、
該容器が、ガラス製容器である請求項1に記載の液体製剤。
【請求項3】
前記液体製剤が容器に収容されており、
該容器が、気体の半透過性容器である請求項1に記載の液体製剤。
【請求項4】
前記液体製剤がシリンジを用いたプレフィルドシリンジの形態である請求項1~3のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項5】
ブリスターパック又はピローパックに収納されている請求項2~4のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項6】
前記容器又はシリンジ内の前記液体製剤の表面に接触する気体は、不活性ガスにより酸素濃度が低減された気体である請求項2~5のいずれか1つに記載の液体製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スガマデクス含有の液体製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スガマデクスナトリウムは、ロクロニウム臭化物又はベクロニウム臭化物による筋弛緩状態からの回復のために、静脈内投与する製剤として市販されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】ブリディオン静注200mg、500mgの添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、無色透明の注射液剤が、保存中に、淡黄褐色から橙色に変化することがあり、スガマデクス又はそのナトリウム塩の分解又は類縁物質の発生が懸念されている。
本発明は、長期保存時においてスガマデクス又はそのナトリウム塩の安定した物性を維持することができるスガマデクス含有の液体製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、スガマデクス又はそのナトリウム塩を含有する液体製剤に関して、製造原料、製造条件又は製造方法、保存条件等の種々のスガマデクス又はそのナトリウム塩の分解及び類縁物質の発生を引き起こす原因について鋭意検討した結果、製造原料として用いるスガマデクス又はそのナトリウム塩に微量成分として金属が含有されるものがあること、また、種々の金属の中から、特にマンガンの存在が、スガマデクス又はそのナトリウム塩の分解及び/又は類縁物質の発生に大きく影響することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本願は以下の発明を含む。
(1)スガマデクス又はそのナトリウム塩を含有する液体製剤であって、
前記液体製剤中のマンガンの濃度が、前記液体製剤中のスガマデクスの全質量に対して0.12ppm以下である液体製剤。
(2)前記液体製剤が容器に収容されており、該容器が、ガラス製容器である上記に記載の液体製剤。
(3)前記液体製剤が容器に収容されており、該容器が、気体の半透過性容器である上記に記載の液体製剤。
(4)前記液体製剤がシリンジを用いたプレフィルドシリンジの形態である上記に記載の液体製剤。
(5)ブリスターパック又はピローパックに収納されている上記に記載の液体製剤。
(6)前記容器又はシリンジ内の前記液体製剤の表面に接触する気体は、不活性ガスにより酸素濃度が低減された気体である上記に記載の液体製剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、長期にわたって安定した特性を維持することができるスガマデクス含有の液体製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の液体製剤を含む種々の液体製剤における苛酷試験でのRRT0.67の類縁物質の量を示すグラフである。
図1B】本発明の液体製剤を含む種々の液体製剤における苛酷試験でのRRT0.78の類縁物質の量を示すグラフである。
図2A】4種類のスガマデクスナトリウム含有液体製剤における苛酷試験でのRRT0.67の類縁物質の量を示すグラフである。
図2B】4種類のスガマデクスナトリウム含有液体製剤における苛酷試験でのRRT0.78の類縁物質の量を示すグラフである。
図3】4種類のスガマデクスナトリウム含有液体製剤における苛酷試験での保存容器の空間部の酸素濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願のスガマデクス含有の液体製剤は、スガマデクス又はそのナトリウム塩を含有する製剤である。スガマデクスナトリウムは、化学名がCyclooctakis-(1→4)-{6-S-[2-(sodium carboxylato)ethyl] -6-thio-α-D-glucopyranosyl}である、以下の構造を有する化合物である。

スガマデクス又はそのナトリウム塩を含有する製剤は、通常、スガマデクスとしての投与量が2mg/kg~16mg/kgの範囲となるように処方されている。ただし、スガマデクスナトリウムの一回投与量は、年齢、性別、体重、麻酔深度、つまり筋弛緩状態等によって、適宜変更することができる。スガマデクス又はそのナトリウム塩は、液体製剤の全質量を基準に、スガマデクスとして0.1質量/容量%~20質量/容量%含有することができ、1質量/容量%~10質量/容量%含有するものが好ましい。また、スガマデクス又はそのナトリウム塩は、スガマデクスとして、100mg/ml含有するものが好ましい。例えば、液体製剤2ml中、200mg含有されるか、5ml中、500mg含有されることがより好ましい。
本願のスガマデクス含有の液体製剤は、液体製剤中のマンガンの濃度が、例えば、液体製剤中のスガマデクスの全質量に対して、0.12ppm以下、0.11ppm以下又は0.11ppm未満等が挙げられる。このように、液体製剤中のマンガンの濃度を抑えることにより、スガマデクス含有の液体製剤の保存によって発生し得る類縁物質を低減することができ、液体製剤の長期にわたる安定性を確保することができる。
【0009】
本願のスガマデクス含有の液体製剤は、通常、容器に収容されている。液体製剤を収容する容器としては、バイアル、シリンジ、アンプル、バッグ等が挙げられる。これらの容器は、ガラス製又はプラスチック製のいずれでもよく、気体の半透過性を有するものでもよい。好ましくは、ガラス製又はオレフィン系のプラスチックが挙げられる。プラスチックとしては、特に、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい。シリンジは、シリンジバレルと、封止キャップと、プランジャと、ガスケットとからなるものが挙げられる。
【0010】
スガマデクス又はそのナトリウム塩は、白色の粒又は粉末であり、水に極めて溶けやすいことから、本発明のスガマデクス又はそのナトリウム塩を含有する液体製剤は、スガマデクス又はそのナトリウム塩を水に溶解することによって調製することができる。ここで用いる水は、日本薬局方に従う常水(水道水・井戸水)、精製水、滅菌精製水、注射用水等のいずれでもよい。なかでも、注射用水を用いることが好ましい。
ここでの水溶液の濃度は、上述した割合でスガマデクス又はそのナトリウム塩を含有し得る濃度とすることが好ましい。このような濃度とすることにより、医療現場で製剤を開封した後に、希釈等の調剤作業を行なうことなく、患者に直接投与することができる。
液体製剤は、pH7~8に調整されていることが好ましい。pHは、pH調整剤として、塩酸等の酸又は水酸化ナトリウム等のアルカリ、薬学的に許容し得る緩衝液等を用いて調整することができる。
液体製剤には、注射剤に通常含有される添加物、例えば、等張化剤、緩衝剤、保存剤/防腐剤等、当該分野で公知の添加剤が含有されていてもよい。
例えば、注射剤の添加剤として、単糖類、二糖類、アミノ酸、キシリトール、ポリオール、糖アルコール、多価アルコール、塩化ナトリウム等の等張化剤が挙げられる。また、リン酸、リン酸塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム等)、クエン酸、クエン酸塩(クエン酸ナトリウム等)、酢酸、酢酸塩(酢酸ナトリウム等)、酒石酸及び酒石酸塩(酒石酸ナトリウム等)等の緩衝剤を添加してもよい。保存剤/防腐剤としては、例えば、クレゾール、ベンジルアルコール、フェノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、チメロサール、硝酸及び酢酸フェニル水銀等が挙げられる。その添加量は、当該分野で通常使用される量とすることができる。
【0011】
液体製剤は、上述したように、容器に収容されるが、その前後に滅菌されていることが好ましい。滅菌は、例えば、ろ過滅菌として行なうことができる。
ろ過滅菌は、例えば、フィルタを用いて行なうことができる。フィルタは、例えば、ポリフッ化ビニリデン製、ポリエーテルスルホン製等のカートリッジフィルタを用いることができる。フィルタの孔径は、例えば、孔径0.22μmの精密濾過として微生物を除去し得るものが挙げられ、孔径20nm~50nmのさらに小孔径のナノフィルタを用いてもよい。ろ過滅菌は、液体中に含有される伝染性作用物質(真菌、細菌、ウイルス、胞子形態等)を含むすべての微生物生命形態を除去するか又は死滅させる、任意のプロセスを包含する。フィルタは異なる孔径を有するものを2種以上用いてもよい。
【0012】
ろ過滅菌は、フィルタでの濾過の前後、好ましくは後に、熱、化学物質、放射線照射、高圧、高圧蒸気等を利用した滅菌と組み合わせてもよい。
滅菌は、熱を利用したものが好ましく、乾熱及び湿熱のいずれで行なってもよい。乾熱法としては、高熱空気を用いた乾熱滅菌が挙げられる。湿熱法としては、蒸気を用いた方法が挙げられ、例えば、高圧蒸気滅菌が挙げられる。なかでも、高圧蒸気滅菌が好ましい。
高圧蒸気滅菌は、液体製剤をろ過滅菌した後、容器に収容し、密封した状態で行なうことが好ましい。密封は、例えば、バイアル等の場合には、施栓して行なうことが好ましい。栓は、ゴム製等、種々の材料のものが挙げられる。栓をした後、さらに、アルミニウム製などのキャップによって、巻締めすることが好ましい。また、シリンジ等の場合には、トップキャップを装着し、ガスケットによって施栓した状態で行なうことが好ましい。容器を施栓する場合、容器内に残存する気体、つまり、液体製剤表面に接触する気体の酸素濃度を低減することが好ましい。そのために、後述するように、この液体製剤が収容された容器空間部に、不活性ガス(例えば、窒素等)を封入してもよい。酸素濃度を低減すれば、保存によって発生し得る類縁物質を効果的に低減することができる。
熱を利用した滅菌は、上述したように、気体の半透過性容器を用いた場合、重力加圧脱気式高圧蒸気滅菌器及び真空脱気プリバキューム式高圧蒸気滅菌器等の市販の高圧蒸気滅菌器を利用することができる。このような滅菌器を用いる場合、例えば、滅菌庫内の気体を窒素置換してもよい。これによって、上述したように、スガマデクス又はそのナトリウム塩の酸素に起因する分解又は類縁物質の発生の防止に寄与し得る。
【0013】
なお、液体製剤を収容する容器は、液体製剤の収容の前に、容器自体が滅菌されたものであることが好ましい。容器の滅菌は、当該分野で公知の熱、化学物質、放射線照射、高圧、高圧蒸気等を利用した滅菌と組み合わせてもよい。なかでも、熱を利用したものが好ましく、乾熱及び湿熱のいずれで行なってもよい。乾熱法としては、高熱空気を用いた乾熱滅菌が挙げられる。湿熱法としては、蒸気を用いた方法が挙げられ、例えば、高圧蒸気滅菌が挙げられる。その条件は、当該分野で公知の条件を採用することができる。その後、容器を密閉することが好ましい。
【0014】
容器に収容された液体製剤は、容器に収容された状態で、ブリスターパック、ピローパック等の包装体に包囲された状態で保存することが好ましい。バイアル、シリンジ等の容器の外側かつ包装体内には、脱酸素剤を備えることが好ましい。プレフィルドシリンジの容器の場合、包装体の材質は水蒸気及び/又は酸素の透過性が低いものが好ましい。例えば、酸素透過性が1mL/m・日・atm以下及び/又は水蒸気透過速度が1g/m・日以下であるものがより好ましい。このような包装体は、例えば、樹脂製の袋、樹脂製シートの接合体、樹脂製シートの表面に金属膜が設けられたもの等が挙げられる。
また、容器に収容された液体製剤がブリスターパック、ピローパック等の包装体に包囲される場合、ブリスターパック又はピローパック内の酸素濃度が、例えば、15v/v%以下とすることが挙げられる。包装体内の酸素濃度を低減することにより、容器内の液体製剤の酸素濃度も低減でき、低酸素濃度の状態を維持することができる。
【0015】
本願のスガマデクス又はそのナトリウム塩含有の液体製剤は、上述したように、Mn濃度を抑えているため、長期保存によっても、スガマデクス又はそのナトリウム塩の安定した物性を維持することができる。
ここでの安定した物性とは、苛酷試験(60℃、75%RH)での保存10日後及び/又は20日後等においても、有効成分に起因する分解物、不純物等の発生を極力抑制することができることを意味する。また、黄変等を抑制することもできる。このような安定化を図ることにより、スガマデクスを含有する製剤を、長期にわたって安定に保存することができる。
本願のスガマデクス又はそのナトリウム塩含有の液体製剤は、苛酷試験(60℃、75%RH)での保存10日後及び/又は20日後においても、類縁物質等の量の増加を効果的に抑制することができる。ここで、類縁物質としては、例えば、酸化体が挙げられる。酸化体は、例えば、スガマデクス含有液体製剤の液体クロマトグラフィーでのスガマデクスの保持時間を1.00とした場合、約0.67及び約0.78の保持時間におけるピークで表される類縁物質が挙げられる。これらの酸化体の含有量が、例えば、液体製剤におけるスガマデクスの重量に対して、苛酷試験(60℃、75%RH)での保存10日後において、それぞれ0.70%以下、さらに0.50%以下が挙げられ、保存20日後において、それぞれ0.90%以下、さらに0.70%以下が挙げられる。
【実施例
【0016】
以下に、実施例、比較例及び試験例により、本発明をより具体的に説明する。
試験例1
スガマデクスナトリウムを、スガマデクスとして100mg/mlの最終濃度となるように注射用水に溶解した。pH調整剤として、必要に応じて塩酸又は水酸化ナトリウムを用いて、pH7.5に調整した後、ろ過した。
得られた液体製剤に、塩化マンガン水溶液を、スガマデクスの質量に対して、それぞれ、0.05ppm、0.1ppm及び0.2ppmのマンガン添加量となるように添加した。
得られた液体製剤を、無色のほう珪酸ガラスをファイアブラスト(登録商標)加工した、16mm(胴外形)×全長35mm(2mL)のバイアルに収容し、大気下にて、塩素化ブチルゴムのラミネート無の直径13mmのゴム栓で施栓し、アルミニウム製キャップ(ポリプロピレン製のフリップオフキャップ)によって巻締めして、液体製剤を得た。
その後、各液体製剤を、市販の高圧蒸気滅菌装置(日阪製作所製、高圧蒸気滅菌装置、GPS-120/20SPXF)を用いて、121℃にて20分間の条件で、高圧蒸気滅菌に付して、各液体製剤b、c、dを得た。なお、塩化マンガンを添加しない以外、同様の処理を行って得られた水溶液を、液体製剤aとした。
参考例として、市販のブリディオン静注200mg製剤(製造後12ヶ月)を準備した。
上記で得られた液体製剤a、b、c、d及び市販の製剤を、それぞれ、苛酷試験(60℃、75%RH)に付した。苛酷試験開始時(0日目)、10日目及び20日目に、液体製剤a、b、c、dのpH及び保存容器の空間部の酸素濃度(%)を測定した。
その結果を表1に示す。
【表1】
表1中、Mn濃度:スガマデクスの質量に対するMnの測定質量の割合を示す(単位:ppm)(以下同じ)。
なお、マンガンの濃度は、測定波長を257.610nm、測定モードをアキシャルモードとして、ICP発光分光分析装置 (Agilent Technologies製、Agilent 5100 ICP-OES)を用いて測定、換算した。マンガン標準液(Mn 1000)(JCSS化学分析用、関東化学製)を用いて、適度に希釈し、該当濃度の検量線を作成した。作成した検量線を用いて製剤中のマンガン量を求め、換算した。
保存容器の空間部の酸素濃度は、ガスタイトシリンジにより保存容器空間部の気体200μLをとり、市販のガスクロマトグラフ(GLサイエンス製、GC323)で測定した。
表1の結果から、液体製剤中のMnの濃度が高いほど、保存容器の空間部の酸素濃度がより低下する傾向が認められた。
【0017】
試験例2
苛酷試験(60℃、75%RH)に付した上記の液体製剤a、b、c、d並びに市販の製剤について、苛酷試験開始時(0日目)、10日目及び20日目に、各液体製剤中の類縁物質の量(質量%)を、以下に示すように、液体クロマトグラフィーで測定した。
その結果を表2、図1A及び1Bに示す。なお、表2中、RRT0.67及びRRT0.78とは、それぞれ、液体クロマトグラフィーにおいて、試料溶液中のスガマデクスの保持時間を1.00とした場合の、約0.67及び約0.78の保持時間におけるピークで表される類縁物質を意味する。
【表2】
表2中、各類縁物質の量は、スガマデクスに対する質量%を示す(単位:質量%)(以下同じ)。
表2、図1A及び1Bの結果から、液体製剤中のMn濃度が低い場合に、特定の類縁物質の発生の増加が抑えられることが確認された。
また、図1Aにおいて、市販製品は、少なくとも苛酷試験20日目までは、RRT0.67の類縁物質の質量は、全液体製剤において最も多かったが、その傾きは0.0220であることから、その傾きと同程度(±10%程度の変動は許容)又はそれ以下の傾きとなるMn濃度、例えば、0.12ppm以下であることが好ましい。
【0018】
液体製剤0.1mLを量り、移動相Aを加えて5mLとし、試料溶液とした。この液1mLを正確に量り、移動相Aを加えて正確に100mLとし、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、液体クロマトグラフィーにより試験を行い、それぞれの液の各々のピーク面積を自動積分法により測定した。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:200nm)
カラム:内径4.6mm、長さ250mmのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:移動相A-リン酸二水素ナトリウム二水和物3.9gを水1000mLに溶かし、リン酸を加えてpH3.0に調整した(リン酸塩緩衝液)。この液900mLにアセトニトリル100mLを加えた。
移動相B-アセトニトリル/リン酸塩緩衝液混液(4:1)
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表3に示すように変えて濃度勾配制御した。
流量:毎分1.0mL
注入量:10μL
【表3】
【0019】
RRT0.67及びRRT0.78は、それぞれ、以下の式により求めた。RRT(相対保持時間)1.00は、試料溶液中のスガマデクスの保持時間を示す。
RRT=試料溶液中の類縁物質の保持時間/試料溶液中のスガマデクスの保持時間
また、類縁物質の量は、以下の式により求めた。
個々の類縁物質量(%)=試料溶液中の個々の類縁物質のピーク面積/標準溶液中のスガマデクスのピーク面積
【0020】
試験例3
各種供給元から入手した4種類のスガマデクスナトリウムを、スガマデクスとして100mg/mlの最終濃度となるように注射用水に溶解した。pH調整剤として、必要に応じて塩酸又は水酸化ナトリウムを用いて、pH7.5に調整し、得られた液体製剤を、ろ過した。
得られた液体製剤を、無色のほう珪酸ガラスをファイアブラスト(登録商標)加工した、16mm(胴外形)×全長35mm(2mL)のバイアルに収容し、大気下にて、塩素化ブチルゴムのラミネート無の直径13mmのゴム栓で施栓し、アルミニウム製キャップ(ポリプロピレン製のフリップオフキャップ)によって巻締めして、液体製剤を得た。
その後、各液体製剤を、市販の高圧蒸気滅菌装置(日阪製作所製、高圧蒸気滅菌装置、GPS-120/20SPXF)を用いて、121℃にて20分間の条件で、高圧蒸気滅菌に付して、各液体製剤A、X、Y、Zを得た。なお、各供給元から入手した4種類のスガマデクスナトリウムを用いて製した液体製剤は、予め上述した方法により、Mn濃度を測定した。
上記で得られた液体製剤A、X、Y、Zを、それぞれ、苛酷試験(60℃、75%RH)に付した。苛酷試験開始時(0日目)、10日目及び20日目に、各液体製剤中の類縁物質の量(質量%)を、以下に示すように、液体クロマトグラフィーで測定した。
その結果を表4及び図2A、2Bに示す。
【表4】

上記結果から、類縁物質であるRRT0.67及びRRT0.78は、いずれも、液体製剤中のMn濃度の低下に従って、増加率が低減することが確認された。
また、上記4種類の液体製剤について、試験例1と同様に、液体製剤のpH及び保存容器の空間部の酸素濃度(%)をそれぞれ測定した。
その結果を表5及び図3に示す。
【表5】

表5及び図3の結果から、液体製剤中のMnの濃度が高いほど、保存容器の空間部の酸素濃度がより低下する傾向が認められた。また、pHも、マンガン濃度が高いほど低下する傾向が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によれば、長期保存時においても安定した物性を維持することができるスガマデクス又はそのナトリウム塩含有の液体製剤を提供することができる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3