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特許7512767センサ付き機械部品及びセンサ付き機械部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】センサ付き機械部品及びセンサ付き機械部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20240702BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01L5/00 K
F16C41/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020141363
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037304
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須増 寛
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 雅也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航也
(72)【発明者】
【氏名】内田 修弘
(72)【発明者】
【氏名】稗田 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】丹野 聡
(72)【発明者】
【氏名】上岡 力
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】林 裕二
(72)【発明者】
【氏名】松久 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】大原 寛司
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-518841(JP,A)
【文献】特開2017-096445(JP,A)
【文献】特表2013-545040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00-5/28
F16C 41/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の検出対象を含む機械部品と、
ひずみを検出するセンサと、
前記検出対象のひずみを前記センサへ伝達する金属板と、
を備え、
前記センサは、前記金属板側の面に金属製の接合部を有し、
前記金属板は、前記検出対象に溶接、固相接合又はろう材により固定された状態にあり、
前記接合部は、前記金属板に固相接合により固定された状態にあり、
前記金属板と前記接合部との固相接合可能温度は、前記検出対象と前記接合部とを固相接合する場合の固相接合可能温度よりも低い、
センサ付き機械部品。
【請求項2】
前記金属板と前記接合部との固相接合可能温度は、
前記金属板が前記検出対象に溶接されている場合には、前記金属板と前記検出対象との溶接可能温度よりも低く、
前記金属板が前記検出対象に固相接合されている場合には、前記金属板と前記検出対象との固相接合可能温度よりも低く、
前記金属板が前記検出対象に前記ろう材により固定されている場合には、前記ろう材の融点よりも低い、
請求項1に記載のセンサ付き機械部品。
【請求項3】
前記金属板と前記接合部との当接部分に形成されている反応層は、全率固溶型又は2相分離型である、
請求項1又は請求項2に記載のセンサ付き機械部品。
【請求項4】
前記センサは、不純物を拡散することにより所定面に複数の抵抗体が形成されている単結晶半導体の基板を有する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のセンサ付き機械部品。
【請求項5】
前記単結晶半導体は、シリコンであり、
前記所定面は、前記シリコンの(110)面であり、
複数の前記抵抗体は、それぞれ結晶方位<001>方向に離れた状態で、結晶方位<110>方向に延び、
前記センサは、前記結晶方位<110>方向を前記検出対象のひずみを検出する目的方向に向けている、
請求項4に記載のセンサ付き機械部品。
【請求項6】
前記単結晶半導体は、シリコンであり、
前記所定面は、前記シリコンの(110)面であり、
複数の前記抵抗体は、それぞれ結晶方位<110>方向に離れた状態で、前記結晶方位<110>方向に延び、
前記センサは、前記結晶方位<110>方向を前記検出対象のひずみを検出する目的方向に向けている、
請求項4に記載のセンサ付き機械部品。
【請求項7】
前記接合部は、前記所定面側から平面視すると、前記基板のうち複数の前記抵抗体を挟んで位置する少なくとも2箇所を前記金属板に固定し、
前記所定面の反対側のうち複数の前記抵抗体の反対側に対応する所定領域は、前記金属板と非固定の状態である、
請求項4から請求項6のいずれか1項に記載のセンサ付き機械部品。
【請求項8】
金属製の検出対象を含む金属部品に、ひずみを検出するセンサを取り付けるセンサ付き機械部品の製造方法であって、
前記センサの一方側の面に設けられている金属製の接合部と、前記検出対象のひずみを前記センサへ伝達する金属板と、を固相接合する工程と、
前記金属板と、前記検出対象と、を溶接、固相接合又はろう材により固定する工程と、
を備え、
前記金属板と前記接合部との固相接合可能温度は、前記検出対象と前記接合部とを固相接合する場合の固相接合可能温度よりも低い、
センサ付き機械部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ付き機械部品及びセンサ付き機械部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品(例えば、転がり軸受)にひずみセンサを取り付けて、機械部品の状態検知を行う技術が知られている。例えば、特許文献1には、転がり軸受の外輪に配設されるひずみゲージが開示されている。特許文献1のひずみゲージは、外輪の外周面に形成されている切欠きの底面に直接又は基材を介して接着することにより固定される。
【0003】
特許文献2には、車輪用軸受の外方部材に設けられるセンサユニットが開示されている。特許文献2のセンサユニットは、ひずみセンサとセンサ取付部材とを有する。ひずみセンサは、センサ取付部材に接着剤(段落0028)又は印刷及び焼成により貼り付けられている。センサ取付部材は、外方部材の外周に接着剤、ボルト又は溶接により取り付けられる。
【0004】
ひずみセンサとしては、例えば金属薄膜を利用するストレインゲージや、半導体(例えば、シリコン)に不純物をドーピングした半導体ひずみゲージが知られている。例えば、特許文献3には、半導体ひずみセンサーチップとベース板とを金属はんだにより接合し、ベース板と測定対象物とをスポット溶接又はボルトにより固着する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-145998号公報
【文献】特開2007-239848号公報
【文献】特開2009-264976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
センサにより機械部品に発生するひずみを検出する際、機械部品のひずみを感度良く検出するための方法として、機械部品のうち荷重が大きく掛かる部分(すなわち、応力が大きく発生する部分)にセンサを接合することが考えられる。しかしながら、このように構成すると機械部品とセンサとの接合領域に発生する応力も大きくなるため、当該接合領域には高い強度が要求される。
【0007】
ここで、従来のセンサと機械部品との接合法としては、接着剤による接着(例えば、特許文献1)、ボルトによる機械的な接合や、溶接(例えば、特許文献2)が挙げられる。しかしながら、接着剤による接着では接合強度が弱く、接着部分に大きな応力が発生すると短時間のうちに接着部分が変質したり、破損したりするおそれがある。機械部品に生じるひずみが一定でも、接着部分が変質すると、センサによる検出値が変化してしまうため、正確な検出の妨げとなる。
【0008】
また、機械的な接合ではボルトを挿入するためのスペースを確保する必要が生じ、センサ付きの機械部品が大型化及び重量化してしまう。また、ボルトを締める際にセンサに偏った圧力が加えられることで、センサが破損するおそれがある。より高い強度で接合するために、溶接はより好ましい接合方法ではあるが、溶接時に接合部分は機械部品を構成する金属の溶解温度以上となるため、センサが高温環境下で破損するおそれがある。
【0009】
そこで、発明者らは固相接合という接合法に着目した。固相接合法を用いれば、溶接とは異なり、機械部品を構成する金属の溶解温度未満の温度環境下で、センサと機械部品とを接合することができる。しかしながら、機械部品を構成する金属の溶解温度が比較的高い場合(例えば、炭素鋼、クロム鋼等の鋼鉄)、センサと機械部品との固相接合が可能な最低温度(固相接合可能温度)は依然として高温となるため、固相接合によってもセンサは破損するおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、センサの破損を防止しつつ、より高い強度でセンサと機械部品とが接合しているセンサ付き機械部品及びセンサ付き機械部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るセンサ付き機械部品は、金属製の検出対象を含む機械部品と、ひずみを検出するセンサと、前記検出対象のひずみを前記センサへ伝達する金属板と、を備え、前記センサは、前記金属板側の面に金属製の接合部を有し、前記金属板は、前記検出対象に溶接、固相接合又はろう材により固定された状態にあり、前記接合部は、前記金属板に固相接合された状態にあり、前記金属板と前記接合部との固相接合可能温度は、前記検出対象と前記接合部とを固相接合する場合の固相接合可能温度よりも低い、センサ付き機械部品である。
【0012】
このように構成することで、センサの破損を防止しつつ、より高い強度でセンサと検出対象とを間接的に接合することができる。
【0013】
(2)好ましくは、前記金属板と前記接合部との固相接合可能温度は、前記金属板が前記検出対象に溶接されている場合には、前記金属板と前記検出対象との溶接可能温度よりも低く、前記金属板が前記検出対象に固相接合されている場合には、前記金属板と前記検出対象との固相接合可能温度よりも低く、前記金属板が前記検出対象に前記ろう材により固定されている場合には、前記ろう材の融点よりも低い。
【0014】
このように構成することで、金属板と検出対象とをより接合強度の高い接合法(溶接、固相接合又は高融点ろう材によるろう接)により接合する場合であっても、センサが高温になることを防止することができるため、センサが破損することを防止することができる。
【0015】
(3)好ましくは、前記金属板と前記接合部との当接部分に形成されている反応層は、全率固溶型又は2相分離型である。このように構成することで、反応層に金属化合物が含まれることを防止することができ、金属板と接合部との接合強度をより高くすることができる。
【0016】
(4)好ましくは、前記センサは、不純物を拡散することにより所定面に複数の抵抗体が形成されている単結晶半導体の基板を有する。このようにセンサとして単結晶半導体拡散型のひずみセンサを採用することで、金属製のストレインゲージや、多結晶半導体製のひずみゲージを用いる場合と比べて、ひずみの検出感度を高くすることができる。一方で、センサは、ストレインゲージ等を用いる場合と比べて熱により破損しやすくなる課題がある。これに対し、本発明ではセンサと検出対象との間に金属板を介在させて接合することで、当該課題を解決することができる。
【0017】
(5)好ましくは、前記単結晶半導体は、シリコンであり、前記所定面は、前記シリコンの(110)面であり、複数の前記抵抗体は、それぞれ結晶方位<001>方向に離れた状態で、結晶方位<110>方向に延び、前記センサは、前記結晶方位<110>方向を前記検出対象のひずみを検出する目的方向に向けている。このように構成することで、目的方向のひずみをより感度よく検出することができる。
【0018】
(6)好ましくは、前記単結晶半導体は、シリコンであり、前記所定面は、前記シリコンの(110)面であり、複数の前記抵抗体は、それぞれ結晶方位<110>方向に離れた状態で、前記結晶方位<110>方向に延び、前記センサは、前記結晶方位<110>方向を前記検出対象のひずみを検出する目的方向に向けている。このように構成することで、目的方向のひずみをより感度よく検出することができる。
【0019】
(7)好ましくは、前記接合部は、前記所定面側から平面視すると、前記基板のうち複数の前記抵抗体を挟んで位置する少なくとも2箇所を前記金属板に固定し、前記所定面の反対側のうち複数の前記抵抗体の反対側に対応する所定領域は、前記金属板と非固定の状態である。このように構成することで、接合部の耐久寿命をより長くしつつ、検出対象から伝わるひずみを金属板を介して複数の抵抗体へ効率的に伝えることができる。
【0020】
(8)本発明に係るセンサ付き機械部品の製造方法は、金属製の検出対象を含む金属部品に、ひずみを検出するセンサを取り付けるセンサ付き機械部品の製造方法であって、前記センサの一方側の面に設けられている金属製の接合部と、前記検出対象のひずみを前記センサへ伝達する金属板と、を固相接合する工程と、前記金属板と、前記検出対象と、を溶接、固相接合又はろう材により固定する工程と、を備え、前記金属板と前記接合部との固相接合可能温度は、前記検出対象と前記接合部とを固相接合する場合の固相接合可能温度よりも低い、センサ付き機械部品の製造方法である。
【0021】
このように構成することで、センサの破損を防止しつつ、より高い強度でセンサと検出対象とを間接的に接合することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、センサの破損を防止しつつ、より高い強度でセンサと機械部品とが接合しているセンサ付き機械部品及びセンサ付き機械部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係るセンサ付き機械部品の側面図である。
図2図1の矢印IIから見たセンサ付き機械部品を部分的に示す平面図である。
図3図2の矢印IIIにより示す切断線により切断した断面を部分的に示す断面図である。
図4図2の矢印IVにより示す切断線により切断した断面を部分的に示す断面図である。
図5】実施形態に係るセンサユニットを製造する様子を示す説明図である。
図6】実施形態に係るセンサユニットを製造する様子を示す説明図である。
図7】変形例に係るセンサ付き機械部品の説明図である。
図8】変形例に係るセンサ付き機械部品の説明図である。
図9】変形例に係るセンサ付き機械部品の説明図である。
図10】変形例に係るセンサ付き機械部品の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態に係るセンサ付き機械部品を、図面を参照して説明する。また、図面にはXYZ座標系を適宜示す。本実施形態において、機械部品は転がり軸受である。なお、機械部品は、滑り軸受であってもよいし、リンク機構、ベルト機構、軸、ねじ、ばね、ギア等、各種の装置において機械的な動作を行うその他の部品であってもよい。
【0025】
<センサ付き機械部品の全体構成>
図1は、実施形態に係るセンサ付き機械部品1の側面図である。センサ付き機械部品1は、転がり軸受2と、センサユニット3とを備える。転がり軸受2は、外輪21と、内輪22と、複数の転動体23と、転動体23を保持する保持器(図示省略)を有する。
【0026】
本開示において、転がり軸受2の中心線C1(以下、「軸受中心線C1」と称する)に沿う方向が、転がり軸受2の軸方向であり、単に「軸方向」と称する。軸方向には、軸受中心線C1に平行な方向(X方向)も含まれる。軸受中心線C1に直交する方向が、転がり軸受2の径方向であり、単に「径方向」と称する。軸受中心線C1を中心として転がり軸受2(第1実施形態では内輪22)が回転する方向が、転がり軸受2の周方向であり、単に「周方向」と称する。
【0027】
外輪21は、軸受鋼により形成されている環状の固定輪である。本実施形態において、軸受鋼としては、高炭素クロム軸受鋼(例えば、JIS規格に定めるSUJ2又はSUJ3)を採用するが、その他の鋼であってもよい。例えば、浸炭軸受鋼、炭素鋼、クロム鋼、ステンレス鋼であってもよい。
【0028】
外輪21は、内周面21aと外周面21bとを有する。外輪21の内周面21aには、径方向外方に凹む外輪軌道が形成されている。外輪21の外周面21b側はハウジング(図示省略)に固定される。また、外輪21の外周面21bには、センサユニット3が取り付けられている。
【0029】
内輪22は、軸受鋼により形成されている環状の回転輪である。内輪22は、内周面22aと外周面22bとを有する。内輪22の内周面22a側は回転軸(図示省略)に固定される。内輪22の外周面22bには、径方向内方に凹む内輪軌道が形成されている。複数の転動体23は、軸受鋼により形成されている玉である。複数の転動体23は、外輪21の外輪軌道と、内輪22の内輪軌道とそれぞれ点接触している状態で、外輪軌道及び内輪軌道上を転動する。すなわち、外輪軌道及び内輪軌道は、複数の転動体23が転がる走路となる。
【0030】
なお、内輪22及び転動体23を形成する軸受鋼は、それぞれ外輪21と同じ鋼であってもよいし、外輪21と異なる鋼であってもよい。内輪22の形状は環状に限られず、例えば中実構造を有する内軸(例えば、ハブ軸)であってもよい。外輪21が回転輪であり、内輪22が固定輪であってもよい。複数の転動体23は、「ころ」であってもよい。本実施形態の転がり軸受2は、単列式であるが、複列式であってもよい。
【0031】
本実施形態に係るセンサユニット3は、金属製の検出対象に取り付けられ、当該検出対象のひずみを検出する。本実施形態において、金属製の検出対象は、軸受鋼製の外輪21である。より具体的には、センサユニット3は、外輪21の外周面21bに取り付けられている。なお、センサユニット3は、内輪22の内周面22aに取り付けられてもよい。この場合、金属製の検出対象は、軸受鋼製の内輪22となる。
【0032】
また、本実施形態では、外輪21の全体が軸受鋼により形成されているが、外輪21の一部が軸受鋼以外の材料(例えば、樹脂)により形成されていてもよい。外輪21のうちセンサユニット3が取り付けられる領域が、軸受鋼により形成されていればよく、当該領域を有する外輪21を本開示では「軸受鋼製の外輪21」と称する。
【0033】
<センサユニットの構成>
図2は、図1の矢印IIから見たセンサ付き機械部品1を部分的に示す平面図である。図3は、図2の矢印IIIにより示す切断線により切断した断面を部分的に示す断面図である。図4は、図2の矢印IVにより示す切断線により切断した断面を部分的に示す断面図である。図2から図4において、X方向が軸方向に対応し、Y方向が周方向に対応し、Z方向が径方向に対応する。センサユニット3は、ひずみを検出するセンサ4と、外輪21(検出対象)のひずみをセンサ4へ伝達する金属製の中間部材5と、を有する。
【0034】
図2を参照する。センサ4は、半導体のピエゾ抵抗効果を利用するひずみセンサである。センサ4は、単結晶半導体の基板41と、複数の接合部44と、を有する。本実施形態において、基板41を形成する単結晶半導体は、シリコンである。なお、単結晶半導体としては、ゲルマニウムであってもよいし、化合物半導体(例えば、ガリウム化合物、インジウム化合物)であってもよい。
【0035】
基板41は、シリコンの(110)面を表面41aとし、図3に示すように表面41aとは反対側の裏面41bを中間部材5に向けている。基板41の表面41aには、不純物を拡散することにより複数本の抵抗体42が形成されている。本実施形態の抵抗体42は、p型シリコンであるが、n型シリコンであってもよい。また、表面41aには、抵抗体42における抵抗値の変化を測定するための電極43が設けられている。電極43は、図示省略する配線と接続し、当該配線はセンサ付き機械部品1の外部の測定機器と接続している。これにより、抵抗体42における抵抗値の変化が外部の測定機器により検知される。
【0036】
複数本の抵抗体42は、それぞれ結晶方位<001>方向に離れた状態で、結晶方位<110>方向に延びている。ここで、シリコンの(110)面に形成されている抵抗体42は、<110>方向のピエゾ抵抗効果(ひずみ伝達感度)が極大となり、<110>方向に垂直な<100>方向のピエゾ抵抗効果が極小となる。このため、抵抗体42が延びる<110>方向と、ひずみを検出する目的方向とを一致させることで、より感度よく目的方向のひずみを検出することができる。
【0037】
本実施形態の基板41は、<110>方向を転がり軸受2の軸方向と一致させているため、転がり軸受2の軸方向のひずみをより感度よく検出することができる。なお、目的方向が例えば周方向である場合、基板41の<110>方向を転がり軸受2の周方向と一致させればよい。
【0038】
図3を参照する。基板41の裏面41bには、複数(例えば、4個)の接合部44が設けられている。接合部44は、スパッタにより基板41の裏面41bに形成された薄膜である。本実施形態の接合部44を構成する薄膜材料は、金属であり、より具体的には金である。なお、接合部44は、蒸着により基板41の裏面41bに形成されてもよいが、基板41と接合部44との接合力をより強くするために、スパッタにより形成されることが好ましい。
【0039】
接合部44は、中間部材5に固相接合されている。より具体的には、接合部44は、中間部材5に固相拡散接合により固定されている。接合部44と中間部材5との固相拡散接合については、後述する。
【0040】
接合部44は、図2のように径方向(すなわち、基板41を表面41aから裏面41bへ向かう方向)に平面視すると、抵抗体42及び電極43と重ならない位置に設けられている。このような構成により、中間部材5と固相接合する際に、抵抗体42及び電極43にダメージが与えられることを防止することができる。
【0041】
また、接合部44は、径方向に平面視すると、基板41のうち抵抗体42を挟んで位置する少なくとも2箇所(本実施形態では4箇所)を中間部材5に固定している。さらに、図3及び図4に示すように、基板41の裏面41bのうち抵抗体42の反対側に対応する所定領域R1は、中間部材5に対して非固定の状態となっている。
【0042】
ここで、「非固定の状態」とは、所定領域R1が接合部44により直接中間部材5に固定されていない状態を意味する。図3及び図4に示すように、所定領域R1と中間部材5とが径方向に隙間を空けている状態は、非固定の状態である。なお、接合部44が所定領域R1を避けた位置において基板41を中間部材5に固定していれば、所定領域R1は中間部材5に接していてもよい。この場合、外輪21が軸方向及び周方向の少なくとも一方にひずむと、中間部材5は、所定領域R1に摺接しながら伸張又は収縮する。このような状態も、所定領域R1は中間部材5に対して「非固定の状態」であると称する。すなわち、「非固定の状態」には、所定領域R1と中間部材5とが隙間を空けて離れている状態と、隙間を有さないものの所定領域R1と中間部材5とが接合されていない状態とを含む。本実施形態において、所定領域R1と中間部材5とは、隙間を空けて離れている。
【0043】
また、接合部44は、径方向に平面視すると、円形、楕円形、長円形、又は卵形を有する。換言すると、接合部44は、径方向に平面視すると、非多角形であり、角を有さない。このため、中間部材5がひずむ際に接合部44に生じる応力が一点(例えば、角)に集中することを防止することができる。これにより、接合部44が中間部材5から剥がれることを防止することができる。
【0044】
<中間部材の詳細>
中間部材5は、金属板51と、溶接ビード52とを有する。金属板51は、銅製の薄板であり、厚みは、例えば数百~数十um(マイクロメートル)である。金属板51のうち、径方向外側に向く面を表面51aとし、外周面21bに向く面を裏面51bとする。金属板51の表面51aには、センサ4の接合部44が固相接合により固定されている。
【0045】
金属板51の軸方向の側面51cは、外輪21の外周面21bに溶接(例えば、レーザー溶接)により固定されている。溶接の際、金属板51及び外輪21が溶融して溶接ビード52が形成され、溶接ビード52により金属板51と外輪21とが固定される。金属板51は、外周面21bと平行な方向(軸方向又は周方向)に弾性を有し、外輪21が軸方向や周方向にひずむと、それに伴って金属板51も外輪21と同様にひずむ。これにより、金属板51は、外輪21のひずみをセンサ4に伝達することができる。
【0046】
ここで、中間部材5は、2つの機能を有する。1つは、上記したように、外輪21のひずみをセンサ4に伝達する機能である。もう1つは、センサ4の破損を防止しつつ、センサ4を外輪21により高い強度で接合するためのバッファとしての機能である。センサ4は、検出対象のひずみを感度良く検出するために、検出対象のうち荷重が大きく掛かる部分に接合される場合がある。このように構成すると、検出対象とセンサ4との接合領域に発生する応力も大きくなるため、当該接合領域には高い強度が要求される。
【0047】
ここで、接合強度が比較的高い接合方法としては、溶接、固相接合又は高融点ろう材によるろう接が挙げられる。固相接合は、接合領域に圧力を印加しつつ加熱を行うことで、接合領域を固体状態のまま接合する接合方法であり、例えば、固相拡散接合、摩擦撹拌接合又は超音波圧接等が挙げられる。
【0048】
例えば、センサ4の接合部44を溶接により外輪21の外周面21bに接合するためには、外輪21を構成する軸受鋼が溶解する最低温度(溶接可能温度)以上の温度(例えば、摂氏1400度以上)で作業する必要があり、接合時にセンサ4が高温に耐えられずに破損するおそれがある。
【0049】
また、外輪21を構成する材料を、軸受鋼よりも溶接可能温度が低い金属材料(例えば、銅等)にすれば、接合時にセンサ4に与えられる熱も低くなるためセンサ4は破損しにくくなる。しかしながら、このように溶接可能温度が低い金属材料により外輪21を構成すると、外輪21自体の機械的強度が低くなり、転がり軸受2の性能が低下する。このため、転がり軸受2(機械部品)の性能を維持するには、外輪21(検出対象)を構成する金属材料は、溶接可能温度がある程度高い(例えば、摂氏1400度以上)金属材料とする必要がある。
【0050】
センサ4の接合部44をろう接により外輪21の外周面21bに接合する場合、ろう材の融点が高いと、接合強度を高くできる一方で、接合時にセンサ4が高温に耐えられずに破損するおそれがある。また、ろう材の融点が低いと(例えば、はんだ等)、接合時のセンサ4の破損は防止し得るが、接合強度が弱くなる。このため、ろう接では、接合強度を高くすることと、センサ4の破損を防止することの両立が困難である。また、低融点のろう材はヤング率が比較的低いため、外輪21のひずみに応じてろう材が変形することにより、外輪21のひずみがセンサ4の抵抗体42に伝わりにくくなり、センサ4の検出感度が低下するおそれがある。
【0051】
センサ4の接合部44を固相接合により外輪21の外周面21bに接合する場合、外輪21を構成する軸受鋼の溶解温度(溶接可能温度)の半分程度の温度で作業可能である。しかしながら、外輪21を構成する軸受鋼の溶解温度が高温であるため、接合部44と外周面21bとを固相接合するために必要な最低温度(固相接合可能温度)も依然として高温(例えば、摂氏700度以上)となり、接合時にセンサ4が破損するおそれがある。
【0052】
そこで、本実施形態に係るセンサユニット3は、センサ4と外輪21との間に、接合部44との固相接合可能温度が、外輪21(検出対象)と接合部44とを固相接合する場合の固相接合可能温度よりも低い金属板51を介在させる。そして、接合部44と金属板51とを固相接合し、金属板51と外輪21(検出対象)とを溶接する。これにより、センサ4の破損を防止しつつ、金属板51を介してセンサ4を外輪21により高い強度で接合することができる。
【0053】
換言すれば、接合部44の材料と、金属板51の材料との組み合わせは、接合部44を外輪21と固相接合する場合よりも、接合部44を金属板51と固相接合する場合の方が、固相接合可能温度を低くすることが可能となる特定の組み合わせとなる。
【0054】
本実施形態において、接合部44は金の薄膜であり、金属板51は銅板であり、接合部44と金属板51は固相拡散接合により接合される。この場合、接合部44と外輪21とを固相接合する場合の固相接合可能温度は摂氏700度程度であり、接合部44と金属板51との固相接合可能温度は摂氏200度程度である。このため、センサ4が高温により破損することを防止しつつ、接合強度の高い固相接合により接合部44と金属板51とを接合することができる。
【0055】
なお、接合部44及び金属板51をそれぞれ構成する材料の種類は、上記の組み合わせに限られない。金属板51と接合部44との固相接合可能温度が、外輪21と接合部44とを固相接合する場合の固相接合可能温度よりも低ければ、その他の組み合わせであってもよい。例えば、接合部44は、銀、銅、ニッケル、錫又はアルミニウムの薄膜であってもよい。また、金属板51は、金、銀、ニッケル、錫又はアルミニウムの板であってもよいし、銅板の表面にこれらのいずれかの金属をメッキ加工したものであってもよい。
【0056】
また、接合部44と金属板51は固相拡散接合以外の固相接合法により接合されてもよい。例えば、接合部44と金属板51は、摩擦撹拌接合により接合されてもよいし、超音波圧接により接合されてもよい。
【0057】
溶接ビード52には、金属板51及び外輪21以外に、溶接ビード52の母材となる金属材料が含まれていてもよい。例えば、溶接ビード52の母材となる金属材料を金属板51と外輪21との間に位置させている状態で、レーザの照射を行い、金属板51、外輪21及び母材を溶融させて溶接ビード52を形成するようにしてもよい。
【0058】
図2のように平面視すると、金属板51の軸方向(X方向)及び周方向(Y方向)の幅は、基板41の同方向の幅よりもそれぞれ大きい。そして、金属板51において、基板41を目的方向(本実施形態では、軸方向)に挟んで位置する少なくとも2箇所が、外輪21に固定されている。さらに、図3及び図4に示すように、金属板51の裏面51bのうち抵抗体42及び接合部44の反対側に対応する所定領域R2は、外輪21の外周面21bに対して非固定の状態となっている。
【0059】
ここで、所定領域R2は、外輪21のうちひずみがより強く生じる部分に対向させることで、金属板51をより大きくひずませることができる。しかしながら、当該部分にはより大きな応力が発生するため、溶接ビード52が当該部分に位置すると、中間部材5の耐久寿命が短くなるおそれがある。
【0060】
本実施形態では、溶接ビード52は、当該部分を避けて位置する。すなわち、所定領域R2は、外輪21の外周面21bと非固定の状態である。このため、溶接ビード52自体は、応力によりひずみにくくなり、中間部材5の耐久寿命をより長くすることができる。また、金属板51は、表面51a側から平面視すると、基板41を目的方向に挟んで位置する少なくとも2箇所が溶接ビード52により外周面21bに固定されている。このため、金属板51は、外輪21の目的方向のひずみをより好適に追従して変形し、外輪21の外周面21bから伝わるひずみをセンサ4へ効率的に伝えることができる。
【0061】
なお、本実施形態において、所定領域R2と外周面21bとの間に隙間はほとんど無いものの、溶接ビード52は所定領域R2を避けて形成されているため、所定領域R2と外周面21bとは直接接合されていない。
【0062】
<センサユニットの製造方法>
センサユニット3の製造方法の一例について、図5及び図6を参照して説明する。図5及び図6は、本実施形態に係るセンサユニット3を製造する様子を示す説明図である。図5(a)、(b)及び図6は、図4と同じ断面によりセンサ4及び金属板51を示している。
【0063】
はじめに、図5(a)に示すように、基板41の表面41aにp型不純物を拡散することにより抵抗体42を形成する。次に、基板41の裏面41bにスパッタリング法により金の薄膜(例えば、厚み数十~数百um(マイクロメートル))を成膜することで、接合部44を形成する。スパッタリング法では、材料粒子(本実施形態では、金)を基板41の裏面41bに高速・高エネルギーで衝突させることで、基板41の裏面41bをわずかに破壊して金が裏面41bに食い込む状態となる。このため、スパッタリング法によれば、高い密着力で接合部44を基板41の裏面41bに形成することができる。なお、所望の密着力が得られるのであれば、接合部44は、基板41の裏面41bにイオンプレーティング法により形成されてもよいし、蒸着法により形成されてもよい。
【0064】
続いて、図5(b)に示すように、接合部44と金属板51の表面51aとを当接させ、接合部44と金属板51の表面51aとの当接部分を加熱及び加圧する。これにより、接合部44と金属板51とを固相拡散接合(「熱圧着」ともいう。)により固定する。すなわち、接合部44と金属板51のそれぞれを構成する金属の融点よりも低い温度において、接合部44と金属板51との間における金属の拡散を生じさせることで、接合部44と金属板51とを接合する。
【0065】
図5(c)は、図5(b)における接合部44と金属板51の表面51aとの当接部分を含む領域R3の拡大図である。当該当接部分には、固相拡散接合により反応層6が形成されている。反応層6は、全率固溶型又は2相分離型の層である。すなわち、接合部44を構成する金属と、金属板51を構成する金属との間で、金属間化合物が形成されないか、形成されるとしてもわずかであり、反応層6の大半は全率固溶型又は2相分離型の層により形成されている。
【0066】
ここで、反応層6がどのような型の層となるかは、接合部44を構成する材料と、金属板51を構成する材料との組み合わせにより決まる。本実施形態では、接合部44は金であり、金属板51は銅であるため、金と銅とで金属間化合物が形成され難く、反応層6は全率固溶型又は2相分離型となる。金属間化合物は、金属の固溶体と比べて脆弱であるため、反応層6において金属間化合物が形成されると、反応層6が全率固溶型又は2相分離型となる場合と比べて、接合部44と金属板51との接合強度が低くなる。このため、接合部44及び金属板51を構成する金属において、反応層6に金属化合物が含まれることを防止するために、反応層6が全率固溶型又は2相分離型となる組み合わせを採用する。
【0067】
例えば、接合部44として金を用いる場合、金属板51としては、銅板、ニッケルによりめっきされた銅板、金板、ニッケル板を用いることができる。また、接合部44として銅を用いる場合、金属板51としては銅板、銅によりめっきされた金属板を用いることができる。また、接合部44としてニッケルを用いる場合、金属板51としては、ニッケル板、ニッケルによりめっきされた金属板を用いることができる。これらのいずれの組み合わせでも、反応層6は全率固溶型又は2相分離型となる。
【0068】
次に、接合部44と金属板51との固相接合の方法をより具体的に説明する。
図6は、固相接合装置7にセンサ4と金属板51とが格納されている様子を示している。固相接合装置7は、固相接合(より具体的には、固相拡散接合)を行うための装置である。固相接合装置7は、第1プレート71と、第2プレート72と、レーザ照射部73とを有する。
【0069】
第1プレート71と第2プレート72は、互いに隙間Gp1を空けて対向している。そして、第1プレート71に金属板51の裏面51bを当接させ、第2プレート72に基板41の表面41aを当接させている状態で、隙間Gp1にセンサ4及び金属板51が格納される。第2プレート72は固定盤(図示省略)に固定され、第1プレート71は第2プレート72に離接する方向に移動可能な可動盤(図示省略)に固定されている。固相接合装置7は、可動盤により第1プレート71を第2プレート72に近づける方向に押さえつけることで、隙間Gp1に格納されている接合部44と金属板51との当接部分を加圧することができる。
【0070】
レーザ照射部73は、加熱用のレーザL1を、隙間Gp1に向けて照射する。第1プレート71は、レーザL1の波長に対して透過性を有する(例えば、透過率90%以上)。このため、レーザ照射部73は、レーザL1を第1プレート71を介して金属板51に照射することができる。レーザL1は、金属板51に吸収されることで熱エネルギーに変換されるため、レーザL1の照射により金属板51を加熱することができる。そして、金属板51からの熱伝導により接合部44と金属板51との当接部分を加熱することができる。
【0071】
すなわち、固相接合装置7は、第1プレート71及び第2プレート72により接合部44と金属板51との当接部分を加圧している状態で、レーザ照射部73により当該当接部分を加熱することができる。当該当接部分は、固相接合装置7により加圧及び加熱されることで、固相拡散接合する。
【0072】
レーザL1の波長は、金属板51の吸収率の波長特性に応じて適宜選択される。例えば、レーザL1の波長は、近赤外領域(780nm以上2500nm)である。これにより、レーザL1が有する光エネルギーを効率よく金属板51に吸収させて、金属板51を加熱することができる。レーザL1の波長は、より具体的には1000nmである。
【0073】
金属板51の裏面51bは、レーザL1の波長に対する吸収率がより高い金属によりめっき加工することが好ましい。レーザL1の波長が1000nmの場合、金属板51は、裏面51bがニッケルによりめっきされた銅板であることが好ましい。このように構成することで、より効率的に金属板51を加熱することができる。さらに、ニッケルの融点(摂氏1455度)は、銅の融点(摂氏1085度)よりも軸受鋼の融点(摂氏1400度~1500度程度)に近いため、金属板51を全面(少なくとも、裏面51b及び側面51c)がニッケルによりめっきされた銅板とすることで、金属板51と外輪21との溶接による接合強度をより高くすることができる。
【0074】
ここで、基板41のうち接合部44が形成されている部分には、固相拡散接合の際に固相接合装置7から高い圧力が印加されるため、当該部分に複数の抵抗体42及び電極43等、センサ4の機能に寄与する構造(パターン)が形成されていると、当該構造にダメージが生じるおそれがある。本実施形態では、接合部44は、圧力の印加方向(すなわち、表面41aから裏面41bに向かう方向)に平面視すると、複数の抵抗体42及び電極43と重ならない位置に形成されている。このため、複数の抵抗体42及び電極43へのダメージを防止しつつ、接合部44と金属板51とを固相接合することができる。
【0075】
接合部44と金属板51とが固相拡散接合により固定された後、金属板51は外輪21の外周面21bに溶接により固定される。以上により、センサユニット3が製造される。
【0076】
<センサ付き機械部品の作用効果>
本実施形態に係るセンサ付き機械部品1は、軸受鋼製の外輪21(検出対象)を含む転がり軸受2(機械部品)と、ひずみを検出するセンサ4と、外輪21のひずみをセンサ4へ伝達する金属板51と、を備える。センサ4は、裏面41b(金属板51側の面)に金属製(本実施形態では、金)の接合部44を有する。金属板51は、外輪21に溶接され、接合部44は、金属板51に固相接合され、金属板51と接合部44との固相接合可能温度は、外輪21と接合部44とを固相接合する場合の固相接合可能温度よりも低い。
【0077】
金属板51をセンサ4と外輪21の間に介在させることで、センサ4の破損を防止しつつ、より高い強度でセンサ4と外輪21とを間接的に接合することができる。
【0078】
また、本実施形態において、金属板51と接合部44との固相接合可能温度は、金属板51と外輪21との溶接可能温度よりも低い。このように構成することで、金属板51と外輪21とをより接合強度の高い接合法(溶接)により接合する場合であっても、センサ4が高温になることを防止することができるため、センサ4が破損することを防止することができる。
【0079】
また、本実施形態において、金属板51と接合部44との当接部分に形成されている反応層6は、全率固溶型又は2相分離型である。このように構成することで、反応層6に金属化合物が含まれることを防止することができ、金属板51と接合部44との接合強度をより高くすることができる。
【0080】
また、本実施形態において、センサ4は、不純物を拡散することにより表面41a(所定面)に複数の抵抗体42が形成されている単結晶半導体の基板41を有する。このようにセンサ4として単結晶半導体拡散型のひずみセンサを採用することで、金属製のストレインゲージや、多結晶半導体製のひずみゲージを用いる場合と比べて、ひずみの検出感度を高くすることができる。一方で、センサ4は、ストレインゲージ等を用いる場合と比べて熱により破損しやすくなる課題がある。これに対し、本実施形態ではセンサ4と外輪21との間に金属板51を介在させて接合することで、当該課題を解決することができる。
【0081】
また、本実施形態において、単結晶半導体は、シリコンであり、表面41a(所定面)は、シリコンの(110)面であり、複数の抵抗体42は、それぞれ結晶方位<001>方向に離れた状態で、結晶方位<110>方向に延び、センサ4は、結晶方位<110>方向を外輪21のひずみを検出する目的方向(本実施形態では、軸方向)に向けている。このように構成することで、目的方向のひずみをより感度よく検出することができる。
【0082】
ここで、裏面41b(所定面の反対側)のうち複数の抵抗体42の反対側に対応する所定領域R1は、金属板51のうちひずみがより強く生じる部分に対向させることで、ひずみをより感度良く検出することができる。しかしながら、当該部分にはより大きな応力が発生するため、例えば接合部44を裏面41bの全面に設ける構成のように、接合部44が当該部分に位置すると、接合部44の耐久寿命が短くなるおそれがある。
【0083】
本実施形態では、接合部44は、当該部分を避けて位置する。すなわち、所定領域R1は、金属板51と非固定の状態である。このため、接合部44自体は、応力によりひずみにくくなり、接合部44の耐久寿命をより長くすることができる。また、接合部44は、表面41a(所定面)側から平面視すると、基板41のうち複数の抵抗体42を挟んで位置する少なくとも2箇所を金属板51に固定する。このため、外輪21の外周面21bから伝わるひずみを金属板51を介して複数の抵抗体42へ効率的に伝えることができる。
【0084】
<変形例>
以上、本発明の実施形態に係るセンサ付き機械部品1を説明した。しかしながら、本発明の実施に関してはこれに限られず、種々の変形を行うことができる。以下、本発明の実施形態に係る変形例について、説明する。なお、以下の説明において、実施形態から変更のない部分については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0085】
<金属板と外輪との接合法の変形例>
実施形態に係る金属板51は、溶接により外輪21の外周面21bに固定されている。しかしながら、金属板はその他の接合法により外周面に固定されてもよい。
【0086】
図7は、変形例に係るセンサ付き機械部品の説明図である。図7(a)及び図7(b)は、いずれも図4と同様の断面により、センサ付き機械部品を示している。図7(a)は、金属板53と外輪21とが固相接合されているセンサ付き機械部品1aを示している。図7(b)は、金属板55と外輪21とがろう接されているセンサ付き機械部品1bを示している。
【0087】
図7(a)を参照する。センサ付き機械部品1aは、転がり軸受2と、センサユニット3aとを備える。センサユニット3aは、センサ4と、中間部材5aと、を有する。中間部材5aは、外周面21b側の面に複数のパッド54を有する金属板53である。パッド54は、例えば金属板53の軸方向両外側に位置する辺部分に形成されている。金属板53は、銅製の薄板である。
【0088】
パッド54は、金属板53のうちパッド54以外の部分を削ることで、金属板53と継ぎ目なく一体的に形成されている。なお、パッド54は、金属板53に対しスパッタ等の薄膜形成法により形成されていてもよい。パッド54は、外輪21の外周面21bに固相接合(例えば、固相拡散接合、摩擦攪拌接合又は超音波圧接)により固定されている。金属板53(銅板)と外輪21(軸受鋼)との固相接合可能温度は、摂氏700度程度である。
【0089】
センサ付き機械部品1aにおいて、金属板53と接合部44との固相接合可能温度(例えば、摂氏200度程度)は、金属板53(具体的には、パッド54)と外輪21との固相接合可能温度(摂氏700度程度)よりも低い。このように構成することで、金属板53と外輪21とをより接合強度の高い接合法(固相接合)により接合する場合であっても、センサ4が高温になることを防止することができるため、センサ4が破損することを防止することができる。
【0090】
図7(b)を参照する。センサ付き機械部品1bは、転がり軸受2と、センサユニット3bとを備える。センサユニット3bは、センサ4と、中間部材5bと、を有する。中間部材5bは、金属板55と、ろう材56とを含む。金属板55のうち軸方向両外側に位置する2辺は、それぞれろう材56により外輪21の外周面21bにろう接されている。金属板55は、銅製の薄板である。
【0091】
ろう材56は、より高い強度で金属板55を外周面21bに固定するために、例えば、金ろう、銀ろう、銅ろう、アルミニウムろう等の高融点(例えば、融点が摂氏450度以上)のろう材を用いる。このため、金属板55と接合部44との固相接合可能温度(例えば、摂氏200度程度)は、ろう材56の融点よりも低い。このように構成することで、金属板55と外輪21とをより接合強度の高い接合法(高融点ろう接)により接合する場合であっても、センサ4が高温になることを防止することができるため、センサ4が破損することを防止することができる。
【0092】
<外輪の変形例>
図8は、変形例に係るセンサ付き機械部品1cの説明図である。図8は、図4と同様の断面により、センサ付き機械部品1cを示している。上記の実施形態では、センサユニット3は外周面21bの径方向外側に固定されている。これに対し、本変形例に係る転がり軸受2aは、外輪21の外周面21bに溝部24を設け、溝部24の底面にセンサユニット3を固定する。具体的には、溝部24の底面に、金属板51を溶接する。溝部24は、外周面21bの全周にわたって設けられていてもよいし、センサユニット3を固定する部分にのみ設けられていてもよい。
【0093】
センサユニット3は、溝部24内に完全に収容され、外周面21bよりも径方向外方へ突出しない。このような構成により、転がり軸受2aの外輪21を図示省略するハウジングに固定する際、センサユニット3がハウジングに干渉することを防止することができる。このため、センサユニット3が設けられていない転がり軸受と同程度の組付け性を確保することができる。
【0094】
<センサユニットの変形例>
図9は、変形例に係るセンサ付き機械部品1dの説明図である。図9は、図4と同様の断面により、センサ付き機械部品1dを示している。センサ付き機械部品1dは、転がり軸受2と、センサユニット3cと、を備える。センサユニット3cは、センサ4と、中間部材5cと、を有する。中間部材5cは、金属板51と、溶接ビード52aと、を有する。
【0095】
上記の実施形態では、金属板51の側面51cが外輪21の外周面21bに溶接され、溶接ビード52は金属板51の側面51cに形成されている。そして、金属板51の裏面51b(外輪21側の面)と、外周面21bとはほとんど隙間が無い状態で対向している。また、センサ4は金属板51の表面51a(径方向外側の面)に固定されている。すなわち、径方向外側から、センサ4、金属板51及び外輪21の順に並んでいる。
【0096】
これに対し、本変形例では、金属板51のうち外周面21bと対向する裏面51bが、外周面21bに溶接されており、溶接ビード52aは裏面51bと外周面21bの間に形成されている。そして裏面51bと外周面21bとの間には隙間Gp2が存在する。そして、センサ4は、金属板51の裏面51bに固定され、隙間Gp2に位置している。すなわち、径方向外側から、金属板51、センサ4及び外輪21の順に並んでいる。隙間Gp2の径方向の幅は、センサ4の厚みよりも大きい。このため、センサ4の基板41の表面41aは、外周面21bと隙間を空けて位置している。
【0097】
本変形例において、センサ4は金属板51と外周面21bとの隙間Gp2に位置するため、外周面21bよりも径方向外側が砂塵や鉄粉等の異物を含む空気にさらされる場合であっても、センサ4(特に、抵抗体42や電極43)には異物が付着しにくい。このため、異物の付着によりセンサ4の感度が変化したり、センサ4が破損したりすることを防止することができる。
【0098】
<センサユニットの変形例>
図10は、変形例に係るセンサ付き機械部品1eの説明図である。図10は、図2と同様の平面により、センサ付き機械部品1eを示している。センサ付き機械部品1eは、転がり軸受2と、センサユニット3dと、を備える。センサユニット3dは、センサ4aと、中間部材5と、を有する。センサ4aは、基板41と複数の接合部44とを有する。基板41の表面41aには、複数本の抵抗体42aと電極43とが形成されている。
【0099】
上記の実施形態では、図2に示すように複数本の抵抗体42がそれぞれ結晶方位<001>方向に離れた状態で、結晶方位<110>方向に延びている。これに対し、本変形例に係る複数本の抵抗体42aは、結晶方位<110>方向に離れた状態で、結晶方位<110>方向に延びている。このように構成する場合であっても、抵抗体42aが延びる<110>方向と、ひずみを検出する目的方向とを一致させることで、より感度よく目的方向のひずみを検出することができる。
【0100】
<その他>
なお、図1に示すように、本実施形態においてセンサ付き機械部品1は1個のセンサユニット3を備えるが、本発明の実施に関してはこれに限られず、1個の転がり軸受(機械部品)に複数のセンサユニット3が設けられてもよい。
【0101】
上記の実施形態において、転がり軸受2がラジアルコンタクトの玉軸受である場合について説明した。しかしながら、転がり軸受2は、アキシアルコンタクトの玉軸受、アンギュラコンタクトのラジアル玉軸受、又はアンギュラコンタクトのスラスト玉軸受であってもよい。
【0102】
以上のとおり開示した実施形態及び変形例はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明のセンサ付き機械部品は、図示する形態に限られず、本発明の範囲内において他の形態であってもよい。
【符号の説明】
【0103】
1、1a、1b、1c、1d、1e:センサ付き機械部品
2、2a:転がり軸受 21:外輪 21a:内周面
21b:外周面 22:内輪 22a:内周面
22b:外周面 23:転動体 24:溝部
3、3a、3b、3c、3d:センサユニット
4、4a:センサ 41:基板 41a:表面
41b:裏面 42、42a:抵抗体 43:電極
44:接合部 5、5a、5b:中間部材
51、53、55:金属板 51a:表面 51b:裏面
51c:側面 52、52a:溶接ビード 54:パッド
56:ろう材 6:反応層 7:固相接合装置
71:第1プレート 72:第2プレート 73:レーザ照射部
C1:中心線 R1:所定領域 R2:所定領域
R3:領域 Gp1:隙間 Gp2:隙間
L1:レーザ
図1
図2
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図7
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図9
図10